平成14(わ)2403 殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年11月7日 さいたま地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-6063.txt

判決文本文15,762 文字)

【主文】被告人を懲役13年に処する。 未決勾留日数中30日をその刑に算入する。 【理由】(犯行に至る経緯等) 1 被告人と事件関係者らとの関係被告人は,a省出身の中国人であるが,平成10年ころ本邦に密入国し,平成11年11月ころ,パチンコ台に不正なロム(以下「裏ロム」という。)を取り付ける目的でパチンコ店に侵入した建造物侵入罪により,平成12年1月31日,b地方裁判所で懲役1年,執行猶予3年の判決を受け,同年2月ころ中国に強制送還された。しかし,同年6月下旬ころ,再び本邦に密入国し,Cら中国人の仲間とともにパチンコ台に裏ロムを取り付けるなどの違法行為を行って報酬を得て生活していたが,同年11月ころ,同人を介して同郷の中国人のBと知り合い,親交を重ねるようになった。Bも,被告人と同じように裏ロムの取付けなどの違法行為を行っていたが,被告人は,同人を介して,中国人のAやEと知り合い,その後,中国人のD,F及びGらとも知り合いとなった。AとBは,同郷の出身で,中国にいたときから互いの妻を通じて知り合いの間柄であった。被告人は,平成13年8月ころから,岡山県内などで,中国人のHやIらとともに,裏ロムの取付けなどの違法行為を行い,報酬として得た金銭で生活していたが,やがて同年11月に上京し,その後は,東京都内や埼玉県内の友人方を転々として生活していた。 一方,被害者は,a省出身の中国人であるが,平成10年ころ本邦に密入国し,いったん帰国した後,平成13年7月ころ再び本邦に密入国し,同年8月ころから,中国人のKを店長として,埼玉県c市所在のdビル4階で「e麻雀館」を経営し,客にトランプ賭博をさせるなどして違法に金銭を稼いでいたが,それだけにとどまらず,裏ロム工作グループとも関わりをもつなど,違法行為を行っていた中国 埼玉県c市所在のdビル4階で「e麻雀館」を経営し,客にトランプ賭博をさせるなどして違法に金銭を稼いでいたが,それだけにとどまらず,裏ロム工作グループとも関わりをもつなど,違法行為を行っていた中国人グループと深い関係を有していた。「e麻雀館」は不法入国した中国人らのたまり場になっており,Bも,ここを訪れて被害者と一緒に賭博をしたことがあり,被告人も,Bに連れられてこの店を訪れたことがあり,被害者の顔を知っていた。 同年12月20日ころ,被害者は,Bの友人のC,D及びEらとトランプ賭博をしてこの3名を大敗させ,それぞれに数百万円以上の借金を負わせて,CやDに借用書を書かせるなどしていた。そして,翌平成14年1月2日ころにも,被害者は,Eらを再びトランプ賭博に誘うなどし,同人らに対する借金の取立てを同人らの友人であるBに任せるとともに,Cから借金のかたとして高級腕時計を取り上げていた。一方,賭博で負けて借金を負わされたCらは,その金額があまりにも多額であったためこれを支払うことができず,被害者に取り上げられた高級腕時計だけでも返して欲しいと友人のBに依頼していた。 2 被害者の殺害を共謀した状況ところで,被告人は,平成14年1月4日夜,AやBら友人や,Jら他の中国人とともに,東京都f区にある中華料理店「g」で飲食し,その後店を換え,Fも合流してチャイナパブ「h」で飲酒をし,更に翌5日午前1時前ころ,埼玉県c市所在のiビル6階にあるスナック「j」に場所を換えて飲酒していたところ,同日午前1時30分ころ,途中,一人別行動を取って「麻雀館」へ出掛けて行ったBが現れて,憤激した表情で,「被害者に侮辱された。被害者はおれに大変失礼なことを言った。被害者は,おれに『おまえが連れてきた友人は,みんな貧乏人ばかりだ。 金のないやつばかりだ。おまえの友人 行ったBが現れて,憤激した表情で,「被害者に侮辱された。被害者はおれに大変失礼なことを言った。被害者は,おれに『おまえが連れてきた友人は,みんな貧乏人ばかりだ。 金のないやつばかりだ。おまえの友人は,いい加減なやつばかりだ』などと言った。被害者は,おれの知らない間に,おれの同意を得ずに,Eの金をだまし取った。Eは1000万円くらい金をだまし取られた。被害者は,CやDからも大金をだまし取った。Cを連れ出して,腕時計を奪ったりもした」などと言い,さらに,被害者をやっつけるとか,仕返しをするなどという意味の言葉を口にしたことから,これを聞いた被告人とAも,憤慨し,口々に「やろう,やろう」「おれも手伝いますよ」などと言ってこれに同調した。そして,被告人は,「私の家に物があるから,物を取ってくる」などと言って,けん銃を持ってくることを提案するとともに,被害者には配下の者が何人もいることから,人数をそろえたほうがいいと思い,仲間のHに電話をかけて加勢を求めたが,断られたため,結局,3人で被害者に仕返しをすることにした。 被告人は,その場で,Bからけん銃を持ってくるように指示されたため,いったん「j」を出て,紙袋に入った適合実包の装てんされた口径7.62ミリメートルの中国製54式自動装てん式けん銃1丁(本件けん銃)を用意して戻ってきたが,店の前で,このけん銃をBに手渡そうかどうしようかためらっていたものの,Bから「けん銃はまだか」などと電話で催促されたため,店内に入り,このけん銃が被害者を殺害するのに使用されることがあることを予見しながら,紙袋に入ったけん銃をBに手渡し,ここに,被告人,A及びBは,このけん銃を用いて,被害者を殺害する共謀を遂げた。 その後,被告人は,B及び本件けん銃をズボンのベルトに挟んで所持したAとともに,同日午前3時30 ん銃をBに手渡し,ここに,被告人,A及びBは,このけん銃を用いて,被害者を殺害する共謀を遂げた。 その後,被告人は,B及び本件けん銃をズボンのベルトに挟んで所持したAとともに,同日午前3時30分ころ,3人で「j」を出て,dビル4階の「e麻雀館」に向かった。Aは,Bの指示で,被害者を店外に誘い出し,階段を上って同ビル6階エレベーター前の階段踊り場へ連れ出したが,Aが,被害者に対し,「同じa省の仲間なのに,なんでギャンブルによって相手をだますのか」などと詰問していたところ,階段を駆け上がってきたBが,「ばかやろう」などとののしって,右手に持ったビール瓶でいきなり被害者の頭部を殴打したので,被害者とBの間でつかみ合いが始まり,二人はその場に倒れ込み,Bは被害者に押さえ込まれた。Aは,本件けん銃を取り出して右手に持って準備していたが,被害者に押さえ付けられたBが,Aに向かって「早く,撃て,撃て」と命じたことから,Aは,Bに当たらないようにするために左手にけん銃を持ち替えて,被害者の後頭部に銃口を向けてねらいを定めた。 (罪となるべき事実)被告人は,以上のような経緯で,被害者に愚ろうされたとして憤激したBに同調し,被害者を射殺することになることを予見しながら適合実包の装てんされた本件けん銃を用意し,被害者をけん銃で射殺しようと企てたB及びAと共謀の上,第1 平成14年1月5日午前3時40分ころ,埼玉県c市所在のdビル6階エレベーター前の階段踊り場において,被害者(当時32歳)に対し,Aが,殺意をもって,法定の除外事由がないのに,所携の本件けん銃を被害者の頭部に向けて弾丸1発を発射し,左側後頭部に命中させて左眉毛内端部を貫通させ,よって,同日午前8時20分ころ,同市所在のc市立医療センターにおいて,同人を頭部の貫通銃創による頭蓋内損傷 銃を被害者の頭部に向けて弾丸1発を発射し,左側後頭部に命中させて左眉毛内端部を貫通させ,よって,同日午前8時20分ころ,同市所在のc市立医療センターにおいて,同人を頭部の貫通銃創による頭蓋内損傷により死亡させ,もって,不特定又は多数の者の用に供される場所においてけん銃を発射して同人を殺害し,第2 法定の除外事由がないのに,同日午前3時40分ころ,前記dビル6階エレベーター前の階段踊り場において,前記けん銃1丁をこれに適合する実包2発と共に携帯して所持したものである。 (事実認定の補足説明)被告人は,本件公訴事実第1の事実について,被害者を殺害することを共犯者らと共謀したことはなく,同第2の事実についても,けん銃を所持したことはないと述べて弁解し,弁護人も,被告人の弁解供述に依拠して,公訴事実第1及び第2のいずれの事実についても,被告人が共犯者らと共謀した事実はないから,被告人は無罪であると主張するので,以下,当裁判所が判示事実を認定した理由を補足して説明する。 1 関係証拠によれば,動かし難い事実として以下の事実が認められる。 (1) 被告人,A及びJらが,平成14年1月5日午前1時ころから「j」で飲酒していたところ,午前1時30分ころ,Bが同店に現れ,憤激した表情で,被害者から愚ろうされたことや,被害者がC,D,Eの3名から金をだまし取ったことなどを被告人らに話したこと,(2) その際,Bは,「被害者に対して『算帳』(スワンツァン)する」というa語を使い,その言葉には,客観的には「勘定をする」「決算する」という意味のほかに,「仕返しをする」「方を付ける」という意味があること,(3) 被告人は,Bに対して,他人に行かせようと言って,裏ロムグループの仲間であったHに電話をかけて,同人やその仲間に来てもらおうとしたが,断 「仕返しをする」「方を付ける」という意味があること,(3) 被告人は,Bに対して,他人に行かせようと言って,裏ロムグループの仲間であったHに電話をかけて,同人やその仲間に来てもらおうとしたが,断られたこと,(4) 被告人は,Bから,けん銃を持ってくるように言われて,「j」を出て,本件けん銃を用意したが,本件けん銃は,口径7.62ミリメートルの中国製54式自動装てん式けん銃であり,本件犯行に供されて,現実に発砲されるまでの間に,更に実包が装てんされたり,逆に装てんが解除されたことはなく,被告人は,店の前で,直ちにBにけん銃を手渡すことをためらったものの,同人から何回も電話で催促されたため,意を決して,店内に入り,同人にけん銃を手渡したが,同人とAがけん銃の取り合いをして,最終的にはAがこれを携えて,被告人ら3名は同店を出て,順次,「e麻雀館」のあるdビルに向かったこと,「j」の店内では,被告人やA,Bとの間で役割分担に関する話は出ていなかったこと,(5) dビル6階の階段踊り場で,Aは,被害者の後頭部にねらいを定め,けん銃を1発発射したが,その直後に,Bから,「もう1発やってやれ」などと言われたものの,Aは「もう死んでる。もうやらなくていいよ」などと答えたこと,(6) AとBは,エレベーターで6階から下りて被告人と合流し,タクシーで逃走したが,Bは,被害者について「必ず死なせないといけない。家来はいっぱいいるから,もし,死ななかったら,その部下たちを使って我々に仕返しをしてくると困る」などと言っていたこと,また,事件後,被告人は,Aに対し,「自分にも責任がある」と言ったことがあり,中国に帰国したBは,他人を介して,Aの妻に500万円を手渡し,更に200万円を支払う約束をしていたこと。 2 以上の事実を前提にして,関係人の供述 対し,「自分にも責任がある」と言ったことがあり,中国に帰国したBは,他人を介して,Aの妻に500万円を手渡し,更に200万円を支払う約束をしていたこと。 2 以上の事実を前提にして,関係人の供述を検討する。 (1) 実行犯であるAは,当公判廷において,要旨,以下のとおり供述している。 すなわち,平成14年1月5日午前1時か2時ころ,「j」にBが来て,被告人のそばに座った,店内にホステスはいたが,しばらくするといなくなり,Bの声ははっきり聞こえた,Bは,酒を飲み,被告人と話をしていたが,そのうち,友人が,被害者の店でインチキなことをされて数千万円のお金をだまし取られた,時計も奪われた,友人のために時計を返してもらおうと頼んだが応じてくれず,メンツを潰されたとか,友人が被害者に殴られたとか,本当に悪いやつだなどと怒り出し,「ばかやろう」とののしり,a語で「做了」(ツォール)と言った,この言葉は,白黒はっきりさせるとか,必ず痛い目に遭わせるという意味で,一番重く考えるならば,殺すという意味も含む,Bは「殺す」とはっきり言ったわけではないが,Bの口調や様子から,多分,相手を殺すという気持ちをもっていたと思う,Bは,「算帳」(スワンツァン)という,はっきりさせるとかケリをつけるという意味の言葉も使っていたが,事情を聞きに行こうとか,人を使おうという言葉は使わなかった,報酬の約束の話はなかったが,自分も,被害者が本当に悪い人間で,Bがメンツを潰されたことに怒っていたので,Bに対して「おれも手伝ってやるよ」と言った,自分は被害者を殺そうという気持ちになっていなかったが,Bが本当にやっつけに行くのであれば,殺すことも含め,どんな手伝いでもしようと考えていた,被告人も怒っており,「可以」(エーサイ)という「いいよ,それやろう」という意味の言葉を使い, いなかったが,Bが本当にやっつけに行くのであれば,殺すことも含め,どんな手伝いでもしようと考えていた,被告人も怒っており,「可以」(エーサイ)という「いいよ,それやろう」という意味の言葉を使い,さらに,他の人を使って被害者を痛い目に遭わせる,というニュアンスのことも言っていた,人を使って事情を聞こうとは言っていない,Bが,Eに電話をかけて話を聞いていたことは,自分にははっきり聞こえなかった,いったん自分がトイレに立って,戻ってみると,被告人は店内にいなかった,Bが被告人に「けん銃を持ってこい」と言ったと思うが,自分は聞いていない,Bに聞くと,「用があって離れました」と言っていた,被告人が戻ってくるまで,電話で,被告人に「兄弟であればけん銃を持ってこいよ」などと言った記憶はない,Bはあちこちに電話をかけていたが,被告人に対して「早くけん銃を持ってこい」と催促していた印象はない,30分くらいしてから,被告人が紙袋を提げて店内に戻り,中から新聞紙に包まれたけん銃を取り出して,Bに見せた,Bが,手を伸ばしてけん銃を取ろうとすると,被告人が手を引っ込めてけん銃を引き寄せ,被告人とBがけん銃を取り合うような場面になったことが一,二回あり,その際,二人とも「我来」(ウォーリー)という「私のところに置いたほうがいい」という意味の言葉を使っていた,結局,Bがけん銃を取って,それを自分が受け取り,服に差し込んだ,店を出る直前,自分とBはけん銃の取り合いをした,けん銃で被害者を脅そうとか,被害者の仲間を牽制しようなどと,はっきり考えてはいなかった,その後,Bとともにdビルに行き,Bと一緒に「e麻雀館」のある4階までエレベーターで上がったが,その途中で,被害者を店外に呼び出すという話をした,その場に被告人がいたかどうかは覚えていない,被害者を呼び出して話を もにdビルに行き,Bと一緒に「e麻雀館」のある4階までエレベーターで上がったが,その途中で,被害者を店外に呼び出すという話をした,その場に被告人がいたかどうかは覚えていない,被害者を呼び出して話をしたが,自分としては,被害者を問い詰めようとしただけで,殺害する気持ちはなかった,しかし,予想外に,Bがビール瓶で被害者を殴りつけて,殴り合いになったので,Bから言われるまま,被害者に向けて発砲した。 (2) また,「j」に居合わせたJは,当公判廷において,要旨,以下のとおり供述している。すなわち,自分が同店に入って1時間くらいしてから,Bが「j」に現れたが,かなり怒っており,Aと被告人に,「今晩,aのボスをやっつける」「私にメンツをくれなかった」などと福清語で言っていた,やっつけるという言葉は「做」(ゾーニィ)で,意味は広いが,「殺す」という意味に使われ,もし,自分が言われたら,殺されるのかと思う,当時店内はうるさくなく,Bの話を聞いて,みんなびっくりして,静かになった,「aのボス」の名前や,Bが怒っていた理由は分からない,被告人は,「やろう,やろう。私の家に物があるから,物を取ってくる」と言って,Bに賛成していた,「やっつける」という言葉から,「物」とは,けんかに使う凶器で,ナイフかけん銃だと思った,被告人が「人を使ってやりましょうよ」と言った記憶はない,被告人が店内で誰かに電話をかけているのは気付かなかった,Aも怒っている様子で,友人に電話をして,「おまえ,一体どれくらい負けたの。だまされたことを知らないの。今晩,おまえのためにケリをつけにいく。おまえに代わって恨みを晴らしてやる」などと言っていたが,話の内容は分からない,被告人やA,Bは大きな声で話していたわけではないので,自分は聞こえなかった,Bが,被告人に「けん銃を持ってこい にいく。おまえに代わって恨みを晴らしてやる」などと言っていたが,話の内容は分からない,被告人やA,Bは大きな声で話していたわけではないので,自分は聞こえなかった,Bが,被告人に「けん銃を持ってこい」と言ったことは分からなかった,30分くらいしてから,被告人が店を出て行った,その後,Aから「帰っていいよ」と言われたので,帰宅した。 (3) A及びJの当公判廷における供述の要旨は,以上のとおりであるところ,Aは,当時,本件事件について公判係属中であって,被告人を巻き込んで,自己の刑責を転嫁する可能性も否定できないから,同人の供述の信用性は慎重に検討する必要があると考えられる。しかしながら,Jは,同人自身が供述するとおり,事件に関係しておらず,自己の刑責を軽減する動機等は存在しないから,その供述の信用性は基本的に高いと考えてよい。以上を前提に両名の供述の信用性を検討するに,両名は,本件犯行が行われる直前に「j」店内で交わされた被告人や共犯者間でのやり取りや,その内容について,自らが抱いた感想を含めて,いずれも具体的かつ詳細に供述しており,Bが被害者に対して怒っていた状況などは,前記1で認定した事実にそうものであり,不自然な点はない。そして,殺すという意味も含む「做」という言葉を用いて被害者をやっつける旨を述べたこと,被告人が「やろう,やろう」などと賛成する意思を表したことなど,供述の主要部分が一致しており,弁護人の反対尋問に対しても全く動揺していない。これらの点からすると,A及びJの各供述は,裏付けの乏しい,被告人とBが「我来」(ウォーリー)と言ってけん銃を奪い合っていたとする部分を除いて,いずれも信用できるといえる。 弁護人は,Aは,「j」の店内でBからやっつけるという言葉を聞いたときや,自分自身がけん銃を持っていくことになったと 言ってけん銃を奪い合っていたとする部分を除いて,いずれも信用できるといえる。 弁護人は,Aは,「j」の店内でBからやっつけるという言葉を聞いたときや,自分自身がけん銃を持っていくことになったとき,さらに,「麻雀館」に着いて被害者を問い詰めていたときにも,被害者に対する殺意を有していなかったと主張し,Aの公判供述中にもこれにそう部分が存在する。しかしながら,その一方で,Bからやっつけるという話を聞いて,被害者を殺すことも含めて,どんな手伝いでもしようと思ったとも述べているのであって,これらの供述を総合すると,Aは,同人自身としては,被害者を殺害する積極的な動機や利害関係はなかったものの,Bから言われて,同人のために,その後の展開次第で被害者を殺害することもやむを得ないと考えていたと認めるのが相当である。したがって,所論の供述があるからといって,Aが,「j」の店内で,被害者に対して殺意を有していなかったとはいえない。 3(1) そこで,1で認定した事実に,信用できる前記証人両名の供述を併せて検討すると,被害者は,中国人非合法組織とも深い関わりを有していた者であり,Cらに対してトランプ賭博により数百万円単位の借金を負わせ,その借金の取立てをBにさせていたこと,Bは,Cのために,同人が被害者から取り上げられた高級腕時計を返してもらおうとしたが,被害者から断られたため,被害者に対する強い憤りの気持ちを抱き,被告人やAのいる「j」を訪れ,被害者に対する憤まんを吐露した上,「殺す」という意味のある言葉を用いて,被害者をやっつける旨述べたこと,Bと同郷で,親しく交際していた被告人とAは,Bの話を聞いて,いずれもこれに同調したこと,被告人は,ほかの人を使って被害者に痛い目に遭わせるという提案をし,かつて一緒に裏ロムの工作をしたことがあるHに電話を で,親しく交際していた被告人とAは,Bの話を聞いて,いずれもこれに同調したこと,被告人は,ほかの人を使って被害者に痛い目に遭わせるという提案をし,かつて一緒に裏ロムの工作をしたことがあるHに電話をかけて助力を求めたこと,また,被告人は,「私の家に物があるから,物を取ってくる」などと言って,けん銃を準備できる旨話し,Bから「けん銃を持ってこい」と言われると,同店を出て,実包の装てんされたけん銃1丁を携えて戻ってきて,このままけん銃を同人に手渡すかどうかいったんちゅうちょしたものの,これをBに手渡していること,最終的にはAがけん銃を持っていたが,被告人とBも「麻雀館」のあるdビルに向かっていること,Aと被害者が同ビル6階の階段の踊り場で話している際,Bがいきなり被害者の頭部をビール瓶で殴打したため,両名がつかみ合いを始め,被害者から押さえ込まれたBから「早く,撃て,撃て」と言われたことから,Aが発砲して被害者を射殺したこと,Bは,Aに対して,更に発砲するよう指示していること,その後,被告人は両名と合流して逃走し,一緒に友人宅等を転々と渡り歩き,Aを自己の費用で同居させていたこと,以上の事実が認められる。 (2) 以上の事実を前提に検討すると,被害者は,中国人非合法組織とも深い関わりを有する人物であって,同人に仕返しをしても,死亡するに至らなかった場合には,配下の者らによる相当の報復が見込まれるところ,Bは,これを承知の上で,被害者に対する怒りから,同人をやっつける旨「j」店内で発言していたこと,Bは,被告人にけん銃を持ってくるように指示し,被告人が持ってきたけん銃を受け取り,最終的には,それをAに持たせたとはいえ,一緒に被害者のところに行き,被害者に対して,いきなりビール瓶で殴打するなど先制攻撃を加えていること,Aが被害者に対して発砲し が持ってきたけん銃を受け取り,最終的には,それをAに持たせたとはいえ,一緒に被害者のところに行き,被害者に対して,いきなりビール瓶で殴打するなど先制攻撃を加えていること,Aが被害者に対して発砲した後,更に同人に対して発砲するように指示していることなどからすると,Bが当初から被害者に対する殺意を抱いていたことは明らかである。そして,被告人は,Bとは同郷で親しい間柄であり,「j」店内で同人が被害者から侮辱されたなどと言って憤っている様子を目の当たりにするとともに,「やっつける」という言葉を間近に聞き,面と向かって,「けん銃を持ってこい」と指示されたのであるから,Bが被害者に対して殺意を抱いていたことは十分に認識していたと認められる。また,被告人は,Bから「やっつける」と言われた際にも「やろう,やろう」などと賛意を示し,他人に助力を求めることを提案したり,けん銃を準備できることを示唆したりしていることからしても,同郷で親しい友人である同人が侮辱されたことで,同人に同調し,被害者に対して憤りを抱いて,被害者を殺害することを認容していたと認められる。その上で,被告人は,Bの指示に従って,けん銃を用意して,これを同人に手渡しているのであるから,けん銃が,人の殺傷を目的とする以外の何物でもない本来的な凶器であることに照らしてみると,同人がそのけん銃を用いて被害者を射殺しようとしていたことを十分に認識した上で,B及びAと意思を相通じて,Bが侮辱された意趣返しをするために,同人らの行為を利用して,一体となって本件犯行を遂行したということができる。被告人がこうした認識・認容を有していたことは,けん銃を用意した被告人が,「j」の店内に戻るに際し,Bに対して,このままけん銃を渡すかどうかちゅうちょしていた事実や,犯行後,被告人がBら共犯者と一緒になって逃げ した認識・認容を有していたことは,けん銃を用意した被告人が,「j」の店内に戻るに際し,Bに対して,このままけん銃を渡すかどうかちゅうちょしていた事実や,犯行後,被告人がBら共犯者と一緒になって逃げ隠れしている事実によっても裏付けられているといえる。 (3) 弁護人は,「j」において,①Bは,感傷的に「侮辱された」「メンツをつぶされた」と怒っていただけであり,中国人非合法組織のボスである被害者を殺害するような動機としては不十分であり,被告人やAが共感できるような状況ではなかった,②誰1人として,「殺す」という言葉を発していない,③被告人も,知人のHに助力を求めたものの,その際,何ら報酬の約束をしていない,④その後,3人の間で何らの役割分担や段取りの話をしていない,⑤被告人は,BとAがけん銃を取り合っているのをなだめていたのであるから,同店内で被害者を殺害しようという共謀が成立したとみるのは早計であるなどと主張する。 しかしながら,まず,①の点についてみるに,「e麻雀館」に出入りしていたGの検察官調書謄本によれば,Bは,被害者と組んでいかさま賭博をし,Cらに借金を負わせ,その回収を任されていたが,被害者を殺すことによって,Bがその金員を独り占めすることができるので,その金目当てに殺したのかも知れない,との供述記載が存するところ,犯行後,同人が,Aの妻に500万円もの大金を渡していることに照らしてみると,Bにそのような意図が存在していたこともうかがわれるのであり,被告人やAがBのそのような意図を認識していたとは認められないものの,Bに殺意があったことは動かない。そして,Bは,被害者がCら3人から大金をだまし取った,とも言っているのであり,被告人がこの3名とはいずれも知り合いであり(殊に,Cは,Bと知り合う前からの知り合いで,一緒に裏ロム たことは動かない。そして,Bは,被害者がCら3人から大金をだまし取った,とも言っているのであり,被告人がこの3名とはいずれも知り合いであり(殊に,Cは,Bと知り合う前からの知り合いで,一緒に裏ロムの仕事をしていた間柄である。また,Aにとっても,だまされた1人であるEは,Bと知り合った当時,同居していた間柄である。),何より,被告人やAにとって,Bは相当親しい友人であったのであるから,被告人とAが,上記3人が被害者からだまされたとか,Bが被害者から愚ろうされた旨をBから聞いて,同人に同調し,被害者に対する憤りを抱いたとしても不自然であるとはいえない。次に,②の点についてみると,先にみたとおり,Bが「做」という言葉を用いて,被害者をやっつける旨言ったこと,その言葉には,「殺す」という意味もあることが認められる。そして,関係証拠によれば,Bが,「j」の店内でその言葉を発した際,Bと直接の友人関係になかったJほか数名がおり,また,店内にはママとホステスが少なくとも1名残っていたことが認められ,Jの供述によれば,Bがやっつけるという言葉を発したところ,みんな,びっくりして静かになったというのであるから,a語に「殺す」という意味を指す言葉が上記言葉とは別に存在するとしても,Bはあえてその言葉を重ねて使わなかったとも考えられるから,不自然であるとはいえない。 ③の点についてみるに,被告人がHに電話をしたことは認められるものの,被告人の供述によれば,同人からは,女友達と同せいしている東京都k市の自宅におり,この時間にc市まで行くことはできないという理由で断られたというのであり,報酬の話が出なかったとしても何ら不自然であるとはいえない。④の点についてみると,確かに,被告人らは「j」の店内で役割分担を決めておらず,AとBがdビルのエレベーター内で,被害者 たというのであり,報酬の話が出なかったとしても何ら不自然であるとはいえない。④の点についてみると,確かに,被告人らは「j」の店内で役割分担を決めておらず,AとBがdビルのエレベーター内で,被害者を「e麻雀館」の外に呼び出すことを決めたことは先にみたとおりであるが,被告人がけん銃を調達し,それを取り合った末,最終的には軍隊経験のあるAがそのけん銃を携えて「麻雀館」に向かい,Bと被告人もついて行っているのであるから,Aが殺傷能力の高いけん銃を携帯して行ったことに照らすと,詳細な役割分担が決められていなかったとしても不自然であるとはいえない。⑤の点についてみると,「j」のママの検察官調書謄本によると,AとBの二人がけん銃を取り合い,暴発しそうであったというのであるから,とりあえず,取り合いをしている二人を被告人がなだめたともみられるから,この事実をもって被告人に殺意がなく,共謀がなかったとはいえない。以上のとおりであって,所論に照らして検討してみても,被告人が,共犯者らと「j」の店内で被害者殺害の共謀をした事実は動かない。 4 最後に,被告人の弁解について検討する。被告人は,当公判廷で,要旨,以下のとおり供述している。すなわち,Bは,「j」に来てから,「做」(ゾーニィ)という言葉は使っておらず,「算帳」(スワンツァン)という言葉を使っていたが,それは,トラブルを精算するとか,ケリを付けるという意味であって,仕返しをするという意味はない,自分は「行かない」と断り,被害者とHが親しかったので,同人に話し合いに行ってもらおうと思ったが断られた,その後,Bから「けん銃2丁取ってこい」と言われたが,同人が,けん銃で被害者を射殺するとは思わなかった,Iからけん銃を受け取った後,「j」に持って行こうか行くまいかちゅうちょしたが,Bから催促されて,同店 Bから「けん銃2丁取ってこい」と言われたが,同人が,けん銃で被害者を射殺するとは思わなかった,Iからけん銃を受け取った後,「j」に持って行こうか行くまいかちゅうちょしたが,Bから催促されて,同店に戻り,Bにけん銃を手渡した,自分は,同人やAと一緒に「e麻雀館」に行っておらず,dビルの下でBに会い,同人を引っ張って止めようとしたが,結局,同人の後について階段を上り,「e麻雀館」に入った,同ビル内ではAとは会っていない。 被告人の当公判廷における供述の要旨は,以上のとおりであるが,Bが「做」(ゾーニィ)という言葉を言っていないとする点や,被害者に仕返しに行くことを被告人が断ったとする点,また,AやBと一緒に「e麻雀館」に行っていないとする点は,先に認定した事実に反し,信用できない。「算帳」(スワンツァン)という言葉には仕返しをするという意味はないとする点も,捜査段階で辞書を見た上での供述に反しており,信用できない。そして,先に認定した事実,殊に,Bが,怒りながら「やっつける」という言葉を使っていたことからすると,同人が被害者を射殺する可能性が高いことを十分に認識・認容し,共犯者らと意思を相通じていたと認められるのであって,捜査段階において,検察官に対し,「私は,けん銃を用意したのは,ひどいことをする被害者と話をしてけじめをつけさせるためであり,被害者には何人もの手下がいるので,万が一けんかになれば,場合によっては,被害者を殺すことに使うことになるというのは分かっていました」,「私は,けん銃をBに渡せば,このけん銃で人を撃ち,大変危険なことになると分かっていました」などと供述していることに照らしてみると,被告人の上記弁解は信用できない。 5 以上みてきたとおり,被告人は,Bが,被害者に侮辱された,被害者をやっつけるなどと言っているの ると分かっていました」などと供述していることに照らしてみると,被告人の上記弁解は信用できない。 5 以上みてきたとおり,被告人は,Bが,被害者に侮辱された,被害者をやっつけるなどと言っているのを聞いて,Aとともにこれに同調し,自らけん銃を用意してBに手渡した上,同人及びけん銃を携えたAとともに「e麻雀館」に赴いているのであるから,Bが被害者を殺害する可能性の高いことをAとともに十分に認識・認容していたと認められる。したがって,本件各公訴事実について,被告人と共犯者らとの間で共謀が成立していたということができるから,犯罪の証明は十分であり,弁護人の主張は採用できない。 (確定裁判)被告人は,平成14年8月29日l地方裁判所で建造物侵入,出入国管理及び難民認定法違反罪により懲役2年に処せられ,その裁判は平成15年3月31日確定したものであって,この事実は検察事務官作成の平成15年4月7日付け別事件通知書によって認める。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為のうち,殺人の点は刑法60条,199条に,けん銃発射の点は刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条,3条の13に,判示第2の所為は刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項,1項,3条1項にそれぞれ該当するが,判示第1の殺人とけん銃発射は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により重い殺人罪の刑で処断することとし,判示第1の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,以上の各罪と前記確定裁判があった各罪とは同法45条後段により併合罪の関係にあるから,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示各罪について更に処断することとし,なお,判示各罪もまた同法45条前段の併合罪の関係にあるから,同法47条本文,10条により犯情の重い判示第1の罪の刑 ,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示各罪について更に処断することとし,なお,判示各罪もまた同法45条前段の併合罪の関係にあるから,同法47条本文,10条により犯情の重い判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役13年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中30日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,本邦に不法入国した中国人である被告人が,同郷の中国人2名と共謀して,そのうちの1名とトラブルのあった中国人の被害者に対し,別の共犯者が,雑居ビルの階段の踊り場でけん銃を発射して被害者を殺害した殺人及び公共の場所でのけん銃発射(判示第1の事実)と,けん銃1丁を適合実包とともに携帯して所持した(判示第2の事実)事案である。 被告人は,同郷出身の中国人で,本邦で知り合って親しく交際を重ねていた共犯者Bが,トランプ賭博で被告人との共通の友人が負わされた借金をめぐって被害者と交渉した際に,被害者から侮辱されたと聞いて自らも憤激し,Bから被害者を殺害する意図を明らかにされると,別の共犯者のAとともにBに同調し,自ら実包の装てんされたけん銃を用意し,これをBに手渡して犯行に加担したというもので,犯行の動機や経緯は余りにも短絡的であり,酌量すべき余地はない。犯行の態様も,被告人は,Bの指示に従い,実包の装てんされたけん銃を準備して,これをBに手渡して共犯者らと謀議を遂げ,被害者の経営する麻雀店のある雑居ビルに行き,Aが被害者を店外に連れ出すと,人目に付かないビルの階段の踊り場で被害者を詰問し,いきなりBがビール瓶で被害者の頭部を殴打し,被害者とBがつかみ合いを始めてその場に倒れ込むと,Bに命じられたAが,被害者 被害者を店外に連れ出すと,人目に付かないビルの階段の踊り場で被害者を詰問し,いきなりBがビール瓶で被害者の頭部を殴打し,被害者とBがつかみ合いを始めてその場に倒れ込むと,Bに命じられたAが,被害者の後頭部にねらいを定め,至近距離からけん銃を発射して,一撃のもとに被害者を殺害しているのであって,残忍で冷酷非情な犯行といわざるを得ない。被害者は,中国人の非合法社会とも深い関わりを有し,本件犯行の発端となったトラブルに深く関与していたという事情はあるが,生命まで奪われなければならない理由はなく,犯行の結果は重大である。被告人からは慰謝の措置は何も講じられておらず,今後その見込みもない。遺族の処罰感情が厳しいのも当然である。 本件は,不法滞在中の中国人同士のトラブルに端を発し,JRの駅付近の繁華街にある雑居ビルで,けん銃を発射して被害者を射殺した事案であり,一般市民にも危害を及ぼしかねない危険な犯行であって,地域社会に与えた恐怖や不安も軽視できない。加えて,被告人は,建造物侵入罪により執行猶予付きの懲役刑に処せられ,退去強制処分を受けたにもかかわらず,再び本邦に密入国し,パチンコ台に裏ロム工作をするなど違法行為を繰り返していたもので,法無視の態度も甚だしい。 被告人は,被害者を殺害する現場にはいなかったというものの,自らけん銃を準備するなど,本件犯行を遂行する上で不可欠な役割を果たしている。ところが,被告人は,事実を否定し,不合理な弁解に終始しており,反省の情も乏しい。これらの点からすると,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 そうすると,被告人が,けん銃を用意したこと自体は認めていること,本件犯行の首謀者は共犯者Bであると認められること,その他,共犯者との処分の権衡や本件が確定裁判前の余罪に当たることなど,被告人のためにしん酌し得 被告人が,けん銃を用意したこと自体は認めていること,本件犯行の首謀者は共犯者Bであると認められること,その他,共犯者との処分の権衡や本件が確定裁判前の余罪に当たることなど,被告人のためにしん酌し得る事情を十分に考慮してみても,主文掲記の科刑は免れない。 (求刑懲役15年)【さいたま地方裁判所第三刑事部裁判長裁判官川上拓一,裁判官森浩史,裁判官片岡理知】

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る