【DRY-RUN】主 文 原決定を取り消す。 本件を千葉家庭裁判所に差し戻す。 理 由 本件抗告の趣意は、申立人ら連名の抗告申立書に記載されているとおりであるか ら、
主文 原決定を取り消す。 本件を千葉家庭裁判所に差し戻す。 理由 本件抗告の趣意は、申立人ら連名の抗告申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。 第一原審審判手続及び原決定に関する法令違反の主張について一抗告申立書の所論は、原審の審判手続又は原決定には、(ア)裁判官が附添人に対し記録の閲覧、謄写(以下、「記録閲覧等」という。)を十分に行う機会を与えなかった違法、(イ)家庭裁判所調査官による調査結果を非行事実を積極的に認定する資料とした違法、(ウ)捜査機関からの、Yが捨てたと述べる場所から凶器が発見されなかったことや事件現場の状況等に関する捜査記録の送付が遅滞していたのに、これを放置した違法、(エ)原審裁判官が原決定言渡しの際に少年に対し非行事実及び要保護性の各認定理由を少年が十分理解し得るように説示しなかった違法があり、これらの法令違反は、いずれも原決定に影響を及ぼすものであるというのである。 二よって記録を調査して検討すると、以下のとおりである。 (1) 所論主張(ア)について本件の関係資料は相当大部の量に及ぶものであるが、原審は、少年に対し観護措置をとった上、五期日にわたって審判を開き、うち四回の審判において少年をはじめ証人(三名)、参考人(二名)、保護者らの陳述を聴取しているところ、附添人らは、常に審判に立ち会い、右陳述聴取においても詳細な質問を行い、さらに事実面、法律面及び処遇面にわたる綿密な意見を記載した書面(計六通)を原審に提出しており、なお、原決定言渡しまでの間に三回にわたって記録の閲覧等の許可申請をして、いずれも認められているのであって、記録上窺われるこのような附添人らの活動から見て、附添人らとしては与えられた記録閲覧等の時機や時間等が意 言渡しまでの間に三回にわたって記録の閲覧等の許可申請をして、いずれも認められているのであって、記録上窺われるこのような附添人らの活動から見て、附添人らとしては与えられた記録閲覧等の時機や時間等が意に満たないものであったにしても、原審における附添人に対する記録閲覧等の機会の付与について決定に影響を及ぼす法令の違反に当たるような事情があったものとは認められない。 (2) 所論主張(イ)について原決定が、同判示非行事実第三に関して、少年の防衛行為がやむを得ない行為であったかどうかを判断するに当たり、「少年は、捜査段階以来、このことに関して、殴られたり、蹴られたりして恐ろしかったけれども、生命までは奪われる不安はなかった旨述べており、このことは当庁の調査官にも同趣旨のことを述べていること」を挙げて、少年の家庭裁判所調査官に対する供述を、防衛行為がやむを得ない範囲を超えたもので、過剰防衛であると判断することの一資料としていることは、所論の指摘するとおりである。 しかし、原決定が少年の家庭裁判所調査官に対する供述を右のような判断の資料としたことがかりに違法であるとしても、少年が「甲会」の者らにより暴行を受け、追跡された当時生命を奪われるとまでは思わなかったことは、少年の家庭裁判所調査官に対する供述を除いても、原決定も挙げている少年の捜査官に対する供述その他によってこれを認めることができるから、その違法は原決定に影響を及ぼすものとは認められない。 (3) 所論主張(ウ)について少年保護事件が家庭裁判所に送致されて係属した後に関係捜査機関が追加的に捜査結果の資料を作成した場合には、同機関は、可及的速やかにこれを家庭裁判所に送付すべきであることは当然であるが、記録によれば、本件の関係捜査機関がことさらに関係資料の追加送付を遅滞させたものとは 捜査結果の資料を作成した場合には、同機関は、可及的速やかにこれを家庭裁判所に送付すべきであることは当然であるが、記録によれば、本件の関係捜査機関がことさらに関係資料の追加送付を遅滞させたものとは認められないほか、その送付の時期について原決定に影響を及ぼす法令の違反に当たる事情があったものとも認められない。 (4) 所論主張(エ)について記録によると、原審裁判官は、原決定を適法に言い渡したことが認められ、原決定の言渡しについて、決定に影響を及ぼす法令の違反に当たる事情があったものとは認められない。 第二殺意の不存在及び正当防衛の主張について一つぎに、所論は、原決定判示の非行事実第三について、少年には、被害者Y及び同Zに対しいずれも殺意がなかったから、少年のYに対する行為は傷害罪の、またZに対する行為は傷害致死罪の各構成要件に当たるにすぎず、しかも、これらの各行為は、いずれも少年が自己の生命、身体を守るためにした正当防衛として違法性が阻却されると認めるべきであるから、原決定には重大な事実誤認及び決定に影響を及ぼす法令の違反があるというのである。 二よって検討すると、まず、原決定が判示する非行事実第三は、おおむね、次のとおりである。 「(本件に至る経緯)少年は、平成元年四月ごろから千葉県浦安市内のA方に止宿し、A、B、C、Dらの中国帰国者子弟の少年らを中心とする暴走族を結成し、名称を「乙会」と名づけ、Aを一応リーダーにし、自動二輪車と原動機付自転車に乗り、遊びで知り合った女子高校生などを後部座席に乗車させて葛西、浦安方面を走行していた際、同じく同所付近を走行している暴走族「丙会」及び「丁会」の構成員らを知るようになった。ところで、「丙会」と「丁会」の両暴走族は、市川、松戸周辺を根拠地とする暴走族「甲会」との仲が悪く、たび ていた際、同じく同所付近を走行している暴走族「丙会」及び「丁会」の構成員らを知るようになった。ところで、「丙会」と「丁会」の両暴走族は、市川、松戸周辺を根拠地とする暴走族「甲会」との仲が悪く、たびたび抗争を繰り返していたが、ついに平成元年五月二七日、「甲会」の構成員から「丁会」の集結地である浦安市〇〇×丁目××番××号所在の通称△△ボウル駐車場に屯する「丙会」、「丁会」の構成員に攻撃を仕掛ける旨の挑戦を受けた。少年の属する「乙会」は、「丁会」の構成員から助勢を頼まれたが、「乙会」の中で意見がまとまらず、結局、抗争を見るために、Aは自己の自動二輪車を、他の者は他で窃取した自動二輪車三台を使用することにし、A運転の車にE、B運転の車にF、C運転の車にGの各女性が、D運転の車に少年が後部に同乗し、Bを除く少年らは、他から窃取した刃体の長さ一〇・七センチメートルの万能ナイフ一丁を各自携帯し(少年は同ナイフを右腰に吊り下げた。)、A方を出発して、同月二八日午前零時過ぎごろ前記△△ボウル駐車場付近道路に到着した。しかし、そのころには、同駐車場に集結した「丙会」、「丁会」の構成員らは、鉄パイプ、木刀等で武装した五十余名の「甲会」の構成員らにより急襲されてすでに離散していて、同所は「甲会」の構成員らにより占拠されるところとなっていたが、このことを知る由もない少年らは、角材、鉄パイプ、木刀、野球バット、物干竿などを所持していた十数名の「甲会」の者らに取り囲まれて誰何され、「乙会」若しくは「○△」と応答したところ、女性を除く五名の者が暴行を受けるに至った。少年は、眉間に頭突きを受け、後部から羽交締めにされ、腰部付近を鉄パイプで殴られ、口唇付近を野球バットの根元で突かれるなどの暴行を受けたものの、その隙を狙って同所から逃げ出した。現場付近にいた「甲会」の 、眉間に頭突きを受け、後部から羽交締めにされ、腰部付近を鉄パイプで殴られ、口唇付近を野球バットの根元で突かれるなどの暴行を受けたものの、その隙を狙って同所から逃げ出した。現場付近にいた「甲会」の数名の者は、おのおの角材、鉄パイプなどを携え、そのうちZにおいては鉄パイプ様のものを携行し、また、現場からやや離れた地点で事態を知ったYは素手で、それぞれ少年を追尾した。」「(罪となる事実)少年は、逃走して浦安市□□×丁目××番先△×マンション前駐車場付近に至ったが、一同日午前零時三〇分ごろ、右△×マンション前駐車場において、Y(当二一歳)に追いつかれ、両肩を掴まれた際、同駐車場の奥は金網で囲まれた垣根であることから、その場から逃れるためには所携のナイフを使用し、同人を突き刺してひるんだ隙に同所から逃走しようと考え、その際に、同人が場合によっては死亡することもやむを得ないものと認容して、振り向きざまに右手に持った前記ナイフで同人の左側腹部を突き刺し、同人に加療約一箇月を要する左側腹部刺創、左腎裂傷、結腸破裂の傷害を負わせ、殺害の目的を遂げず、二ついで、同時刻ごろ、前記Yに次いで少年の後方に追いつき所携の鉄パイプ様のもので少年の頭部付近を殴打したZ(当時一七歳)に対し、前記同様、所携の前記ナイフを使用し、同人を突き刺してひるんだ隙に同所から逃走しようと考え、その際同人が場合によつては死亡することもやむを得ないものと認容し、振り向きざま右手に持った前記ナイフで同人の左上腹部を突き刺し、同人を、心房に達する左上肺部刺切創による失血に基づき死亡するに至らせて殺害したものであるが、少年の以上の各行為は、自己の身体及び自由に対する急迫不正の侵害に対し、自己の権利を防衛するためにしたもので、防衛の程度を超えたものである。」三つぎに、原決 るに至らせて殺害したものであるが、少年の以上の各行為は、自己の身体及び自由に対する急迫不正の侵害に対し、自己の権利を防衛するためにしたもので、防衛の程度を超えたものである。」三つぎに、原決定が判示する右非行事実第三について、記録中の関係証拠により認められるその他の事実を補足すれば、つぎのとおりである。 (一) 少年及びAら四名が、うち四名において万能ナイフを携え、女性三名を連れて自動二輪車に分乗して△△ボウル駐車場に赴いたについては、「丁会」及び「丙会」と「甲会」との抗争に当たり前者に加勢する意図があったとは認められず、抗争の模様を見るとともに、もし抗争が終って前者の者らが現場に残っているような場合には、その者らに、ナイフを腰に吊り、女性を連れているという恰好の良いところを見せたいという意図であったものと認められる。そして、少年らは、当時右駐車場に集っていた「甲会」の者らを誤って「丁会」や「丙会」の者らと思い込んで同駐車場に近づき、その近くに停車したものである。少年らがA方を出発する際に右駐車場付近に到着した後抗争の成り行き如何によっては抗争に巻き込まれ、「甲会」と争うことになる可能性について考えなかったかどうかであるが、その点については、少年らは、女性を連れて行ったことから窺われるように、あまり深く考えていなかったと認められる。なお、原決定には判示されていないが、少年らがA方を出発した時刻は、五月二八日午前零時過ぎごろで、約五分程度で現場に到着したものである。 (二) 少年らは、県道浦安停車場線(通称やなぎ通り)を東京方向から来て△△ボウル駐車場角近くの交差点の角に停車したが、停車するや、原決定の前記判示のとおり、手に手に鉄パイプ等を持ち、殺気立った「甲会」の者ら十数名に取り囲まれ、「お前らどこだ」と尋ねられ、Aが「乙会だ △ボウル駐車場角近くの交差点の角に停車したが、停車するや、原決定の前記判示のとおり、手に手に鉄パイプ等を持ち、殺気立った「甲会」の者ら十数名に取り囲まれ、「お前らどこだ」と尋ねられ、Aが「乙会だ」と言うと、「甲会」の者らは「知らない」と言うので、Cが「○△だ」と答えたところ、少年ら五名は、たちまち「甲会」の者らに自動二輪車から降ろされて暴行を加えられたのであって、その状況は、次のとおりである。 (イ) 少年は、着ていたティーシャツを引張って破られ、後方から羽交締めにされ、腰部付近を鉄パイプで殴られ、口唇付近を野球バットの根元で突かれる等された。 (ロ) Bを除くAら三名は、いずれも鉄パイプ様の棒などで、頭部その他身体を滅多打ちされ、Cは意識がうすれて頭を抱えてうずくまり、Dはその場に倒れる有様であった。Bは辛くも逃げることができた。 (三) 少年は、隙を見て全力疾走で逃走を図り、車道(片側二車線の広い道路であった。)を斜めに横断して(途中右足の腿を野球バットで一回殴られた。)、反対側の歩道に出た。Yは、少年らが暴行を受けた場所から約五〇メートル離れた地点(車道の縁)で少年の逃走を認め、車道を渡って追いかけ、反対側歩道で少年に近づき、足蹴を加えたが(その地点までの少年の逃走距離約五〇メートル余)、功を奏せず、少年は歩道上を二十数メートル走ったところ、左側に幅約六メートルの道が見えたので、その道の方が逃げやすいと咄嗟に思って左折したが、その道は、通り抜けられる道ではなく、奥の駐車場に通ずる入口であった。少年は、自分よりも体格の大きそうな男(Y)が追いかけて来て、次第に近づいて来るのに気づいていたが、自分を追いかけて来るのはその男一人だけでなく、数名、あるいはそれ以上の者が手に鉄パイプなどを持って追いかけて来るものと推察して、気持の上 Y)が追いかけて来て、次第に近づいて来るのに気づいていたが、自分を追いかけて来るのはその男一人だけでなく、数名、あるいはそれ以上の者が手に鉄パイプなどを持って追いかけて来るものと推察して、気持の上でも追い詰められ、この上は、このまま彼等に追いつかれて滅多打ちにされるよりは、所携の万能ナイフ(以下、「本件ナイフ」という。)で近づく者を刺し、そのひるむ隙にできるだけ逃げようと考え、腰に吊した本件ナイフをはずして右手で握り、同所道路上ないし駐車場(道路入口より十数メートルないし二、三十メートルの地点)において、原決定判示のとおりY及びZを突き刺し、Yを死亡させるに至らなかったが、Zを死亡させたものである。 (四) 少年は、Zを刺した後、さらに十数メートルほど奥に逃げたが、追跡して来た一〇名近い者らに追いつかれ、スコップを頭に投げつけられてその場に倒れ、さらに角材、鉄パイプ等で滅多打ちにされて意識を失ってしまった(その後意識を回復し、駐車場奥の金網を乗り超えてA方に帰り着いた)。 (五) 少年は、「甲会」の者らによる右当初からの暴行の結果、頭部外傷、両大腿打撲、顔面・左上腕・左肩・背部挫傷、左手挫傷、左第五指基節骨骨折の傷害(全治まで約三週間を要するもの)を受けた。 以上のような事実が認められる。 四所論は、少年にはY及びZに対する殺意がなかった旨主張する。 しかし、少年が使用した本件ナイフは、原決定が「附添人の主張について」の項の中の「殺意について」と題する箇所で判示しているとおり、屈強のものであって、これを手にする者は、誰でも、もしこれで腹部より上の人体を強く突き刺せば、臓器の損傷や多量の出血により死亡の結果を招く可能性の高いものであることは、直ちに了解するはずである。 そして、記録中の証拠によれば、少年は、捜査官に対し、本件行為 部より上の人体を強く突き刺せば、臓器の損傷や多量の出血により死亡の結果を招く可能性の高いものであることは、直ちに了解するはずである。 そして、記録中の証拠によれば、少年は、捜査官に対し、本件行為の前後の状況及び行為の状況につき具体的かつ詳細な供述をしているものであって、同供述は、関係者の供述や関係証拠により認められる現場の状況とも符号し、大筋においてその信用性を肯認し得るところ、同供述において、少年は、Y及びZの各腹部めがけてナイフを力一杯突き刺した旨を自供しており、同日少年がA方に帰着した後に仲間の女性三名らに対し、「相手の腹を刺した」旨を述べていることをも併せて考えると、少年が当時Y及びZに対しいずれもその左腹部を刺すものであることを認識しながら、相当強い力でナイフを突き刺したことが認められる。 もっとも、この点について、少年は、原審審判廷において、「振り向きながら、ナイフを前に出すと、突っ込んで来た男(Y)に刺さってしまった。」、「さらに、逃げたところ、後ろから殴られたので、振り向いて、下を向いたままナイフを前に出して構えたら、相手に半分刺さった。」などと供述しているが、それ自体その場の状況にそぐわない行動を述べるものである上に、前記少年の捜査官に対する供述とも対比して、たやすく信用することができないものである。 以上のほか、原決定が「殺意について」と題する箇所で判示している被害者両名の各創傷の部位と程度、少年の行為の状況等をも併せて考察すれば、少年は、当時、前記のとおり追い詰められた気持にあったとはいえ、なお、本件ナイフで突き刺した結果相手方のY、Zが場合により死亡するに至るかも知れないが、それもやむを得ないとの認容の意思、すなわち未必の故意の下に両名をそれぞれ突き刺したものと認められる。 以上のとおりであって、この点の た結果相手方のY、Zが場合により死亡するに至るかも知れないが、それもやむを得ないとの認容の意思、すなわち未必の故意の下に両名をそれぞれ突き刺したものと認められる。 以上のとおりであって、この点の所論は失当である。 <要旨第一>五さらに、所論は、少年がY及びZをそれぞれ突き刺した各行為は、いずれも正当防衛である旨主張す</要旨第一>る。 (1) まず、少年らが自動二輪車四台に分乗して△△ボウル駐車場角付近に乗り込んだ行為は、不用意なことではあったが、暴走族「甲会」に対する闘争を挑発する意図をもってなされたものでないこと、また、乗り込んだ状況も闘争を挑発する態様のものでなかったことは、前記認定事実から明らかなところである。実際、「甲会」の者らが少年らに暴行を加えたのは、少年らが乗り込んで来たこと自体や少年らの携帯していた本件ナイフに刺戟されたからではなく、少年らが「○△だ」と答えたため自分らの敵対関係にあるグループだと考えたことによるものである。 そして、「甲会」の者らは、彼我の人数の差からしても到底自分らに闘争を挑むとは認められない少年らに対し、多人数でいきなり手にした鉄パイプ等を振って暴行を開始したものであり、それらの暴行は、その後のY及びZの各行為をも含めて、少年の身体に対する急迫不正の侵害であったと認められる。 (2) つぎに、少年が所携の本件ナイフでY及びZの身体を突き刺した各行為がいずれも自己の身体を防衛するためのものであったことも、前記認定事実のとおりである。 (3) さらに、少年の右各行為がやむことを得ないものであったかどうかについて検討すると、まず、正当防衛の法理として、防衛行為が「已ムコトヲ得サルニ出テタ」(刑法三六条一項)かどうかを判断するに当たっては、軽微な権利を防衛するために侵害者の重大な法益に反撃すること について検討すると、まず、正当防衛の法理として、防衛行為が「已ムコトヲ得サルニ出テタ」(刑法三六条一項)かどうかを判断するに当たっては、軽微な権利を防衛するために侵害者の重大な法益に反撃することは許されないこと等を要請する、いわゆる行為の相当性が考慮されなければならないが、このことは、彼我の法益侵害の権衡を強調するあまりに、防衛者にその置かれた具体的状況上実行困難なことを強いるものではないとともに、防衛行為が相当性のあるものである以上、その結果が重大であっても、正当防衛であることを妨げるものではないと解されるのである。 ところで、少年は、△△ボウル駐車場角の交差点角付近に到着するや、たちまち「甲会」の者らから一方的に前記三(二)(イ)において示したような手荒い暴行を加えられ(なお、少年には、同(ロ)において示した仲間のAら三名が受けた暴行の状況の一部も当然目に入ったはずである。)、必死に全力で逃走したが、車道を渡り終った歩道上で自己より体格の大きそうな男(Y)に足蹴を試みられ、さらに逃走を続け、咄嗟の判断で通り抜けられると思って左折した道が、駐車場に通ずるもので、通り抜けられそうにないと感じ、背後からはその男が刻々迫って来ており、さらにその後方から多数の者が鉄パイプ等を持って追いかけて来ると推察され、このままそれらの者に掴まれば、いわゆる滅多打ち、袋叩きにされて徹底的に痛めつけられることが確実に予期される状況となり、しかも、この暴行は、客観的には、△△ボウル駐車場角近くの交差点角付近における少年ら四名が受けた暴行の状況、追跡者らの人数、その所持する兇器等から見て、兇器の当たり所によっては致命傷を生じさせかねないようなすさまじいものであることが予想されたのであって、このような危機的状況下においては、その際少年の意識の中に滅多打ちされ の所持する兇器等から見て、兇器の当たり所によっては致命傷を生じさせかねないようなすさまじいものであることが予想されたのであって、このような危機的状況下においては、その際少年の意識の中に滅多打ちされた結果殺されてしまうということまでは浮かばなかったにしても、少年が自己の身体を防衛し、血路を開いて少しでも逃げ延びようと考えて、携えていた唯一の道具である本件ナイフを使用して抵抗することを、そのナイフの殺傷力が大きいからとして許さないとすることは、少年に無抵抗を強いるに等しく、できないことといわなければならない。 さらに進んで、少年が当時防衛のために本件ナイフを使用することが許されたとしても、少年として、相手方の腹部のような枢要部ではなく、手や足のようなそれ以外の部位を対象として相手方の攻撃を一時頓挫させる方法をとるべきであったかどうか等について考察すると、当時少年の置かれていた危機的状況は前記のとおりであり、かつ、少年の恐怖、興奮はいやが上にも高まっていたと考えられ、追跡者らに刻々に迫られているという焦燥感も加わり、Yの場合は追いつかれて肩に手をかけられ、さらにZの場合は後方から鉄パイプ様のもので頭部を殴打されたのであって、当時の少年は、まさに心身ともに追い詰められたというべく、本件ナイフで相手を突き刺すにしても、その腹部ではなく、手足など枢要部以外の部位を狙うようにし、また、かりに腹部を刺すにしても手加減をして刺すようにするというような余裕はなかったか、又は少なくともそのようにすることは著しく困難であったと認めざるを得ないのである。 また、少年は、Y及びZを突き刺した際、前記のとおり、未必の故意を有していたにとどまり、両名を殺害する確定的故意を有していたものではない。 以上の事実関係を前記法理に照らして考えるとき、少年の各行為は、やむ 年は、Y及びZを突き刺した際、前記のとおり、未必の故意を有していたにとどまり、両名を殺害する確定的故意を有していたものではない。 以上の事実関係を前記法理に照らして考えるとき、少年の各行為は、やむを得ないものであって防衛の程度を超えたものではないと認められるのである。 (4) この点について、原決定は、少年が「被害者らから執拗ともいえる暴行を受け、そのため少年が恐怖、興奮などの混乱した心理状況の中で、逃走したものであることは認められるが、少年は捜査段階以来、このことに関して、殴られたり蹴られたりして恐ろしかったけれども、生命までは奪われる不安はなかった旨述べており、このことは当庁の調査官にも同趣旨のことを述べていること、更には弁護士である附添人が四名も選任され、度々、少年と接見したのちにも、その供述内容を変えることがなかったことなどに徴すると、この段階では少年の生命に対する急迫の侵害が存在したとまでは到底考え難く、ただ、少年の身体及び自由に対する侵害が認められるに過ぎないというべきであり、そうであれば、上記状況下にある少年としては、逃走経路にある営業中の弁当屋及び周辺の住民に救助を求めるか、大声を出してナイフの存在をちらつかせ、あるいは、振り回して威嚇するとか、万一、ナイフを使用しても、身体の枢要部以外の部位を対象とするなど、相手方の攻撃を一時頓挫せしめる方法をとるべきであるのに、事ここに出でず、二名を刺突し、一名死亡、一名重傷の結果を負わせたというが如き行為の態様、結果の重大性に徴すれば、少年の本件所為は、前後を通じて全体としてみれば、社会通念上、防衛行為として、已むを得ないといえる範囲を逸脱して、防衛の程度を超えたものと認めざるを得ない。」と判示し、正当防衛の成立を認めず、過剰防衛と認めている。 しかし、当時、少年は全力疾走で 通念上、防衛行為として、已むを得ないといえる範囲を逸脱して、防衛の程度を超えたものと認めざるを得ない。」と判示し、正当防衛の成立を認めず、過剰防衛と認めている。 しかし、当時、少年は全力疾走で逃走しているのに相手方はすぐ背後に追いついて来ており、少年には、「逃走経路にある営業中の弁当屋及び周辺の住民に救助を求める」ような余裕はなかったと認められ、かりに救助を求める大声を出したところで、効果があったとも認められない。また、追跡して来る相手方は大勢であり、もし少年が「大声を出してナイフの存在をちらつかせ、あるいは、振り回して威嚇」しても、一瞬相手方をひるますことはできても、かえって相手方の闘争心を煽り、結局ナイフも叩き落されて、一層手ひどい暴行を受けることになったものと考えられる。さらに、たしかに当時少年の意識には相手方から殺されてしまうということまでは浮かばなかったと認められるが、であるからといって、少年の置かれた当時の状況上「ナイフを使用しても、身体の枢要部以外の部位を対象とするなど相手方の攻撃を一時頓挫せしめる方法をとる」余裕はなかったか、又はそのような方法をとることは著しく困難であったと認められることは、前記のとおりである。なお、防衛行為が相当性を有する以上、結果が重大であるからといって正当防衛であることを妨げられないことも、前記のとおりである。 以上のとおりであって、原決定のこの点の判断は、首肯することができないものである。 六以上に考察した結果を総合すれば、原決定判示の非行事実第三の各行為は、過剰防衛ではなく、正当防衛の範囲内にある行為として、刑法三六条一項により罪とならないといわなければならない。従って、各行為が過剰防衛であって殺人未遂及び殺人の各罪が成立するとした原決定には、事実誤認又は法令の違反があるといわざる にある行為として、刑法三六条一項により罪とならないといわなければならない。従って、各行為が過剰防衛であって殺人未遂及び殺人の各罪が成立するとした原決定には、事実誤認又は法令の違反があるといわざるを得ない。 第三結論<要旨第二>原決定の理由には、なお、同判示非行事実第一(窃盗)及び第二(銃砲刀剣類所持等取締法違反)があるの</要旨第二>であるが、原決定が認定した非行事実の中で優越して重要性のある第三の事実が罪とならない以上、原裁判所においてあらためて少年に対する処遇を検討することが必要である。すなわち、原決定の前記事実の誤認又は法令の違反は、原決定主文に影響のあるものとして、重大な事実の誤認又は決定に影響を及ぼす法令の違反であるといわなければならない。本件抗告は理由がある。 よって、抗告申立の理由中処分の不当を主張する論旨に対する判断を省略し、少年法三三条二項により、原決定を取り消し、本件を原裁判所である千葉家庭裁判所に差し戻すことにして、主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官大久保太郎裁判官坂井智裁判官生島三則)別紙原審の認定した非行事実少年は第一 1 A、B、C、Dの四名と共謀のうえ、平成元年五月二一日午後八時ころ東京都江東区○○×丁目×番、○○団地二号棟一階自転車置場において、V所有にかかわる自動二輪車一台(時価二〇万円相当)を窃取した。 2 前記A、C、Dの三名と共謀のうえ、平成元年五月二四日午前零時ころ市川市○○×丁目××番×号○○ハイツ前路上において、W所有にかかわる自動二輪車一台(時価一〇万円相当)を窃取した。 3 前記A、B、C、D、Hの五名と共謀のうえ、平成元年五月二四日午後七時ころ東京都江東区□□×丁目×番×号△△ハイツ一階駐輪場において、×所有にかかわる自動二輪車一台(時価五 相当)を窃取した。 3 前記A、B、C、D、Hの五名と共謀のうえ、平成元年五月二四日午後七時ころ東京都江東区□□×丁目×番×号△△ハイツ一階駐輪場において、×所有にかかわる自動二輪車一台(時価五万円相当)を窃取した。 4 前記A、D、Cと共謀のうえ、平成元年五月二七日午後五時ころ東京都江戸川区○○×丁目××番×号所在△△株式会社○○店内において、同社所有にかかわる万能ナイフ四丁ほか二点(時価六一〇〇円相当)を窃取した。 第二業務その他正当な理由による場合でないのに、平成元年五月二八日午前零時二五分ころ浦安市○○×丁目××番××号先路上において、刃体の長さ一〇・七センチメートルの万能ナイフ一丁を携帯した。 第三 (本件に至る経緯)少年は本年四月ころから前記A方に止宿し、他の数名の者と中国帰国者の子弟を中心とする暴走族を結成し、名称を「乙会」と名付け、Aを一応リーダーに据え、自動二輪車及び原動機付自転車に乗車し、遊びで知り合った女子高校生などを後部座席に同乗させて葛西、浦安方面を走行していた際、同じく同所付近を走行している暴走族丙会及び丁会の構成員を知るようになった。ところで、丙会及び丁会の両暴走族は、市川、松戸周辺を根拠地とする暴走族甲会との仲が悪く、度々抗争を繰り返していたが、ついに平成元年五月二七日当日、甲会の構成員から丁会の集結地である浦安市○○×丁目××番××号△△ボール駐車場に屯する丙会・丁会の構成員に攻撃を仕掛ける旨の挑戦をうけたため、少年らは丁会の構成員から助勢を頼まれていたところ、乙会の中で意見が纏まらず、結局、抗争を見るため、Aは自車を、他の者は前記窃取にかかる自動二輪車を使用しA運転の自動二輪車にE、B運転にはF、C運転にはGの各女性が後部に同乗し、D運転には少年が同乗し、Bを除く少年らは前記窃取にかかる万 るため、Aは自車を、他の者は前記窃取にかかる自動二輪車を使用しA運転の自動二輪車にE、B運転にはF、C運転にはGの各女性が後部に同乗し、D運転には少年が同乗し、Bを除く少年らは前記窃取にかかる万能ナイフを携帯し、少年は同ナイフを右腰に吊り下げて、前記駐車場に向けて出発した。少年らが同所に到着した同年五月二八日午前零時すぎころには、同所に集結していた丙会、丁会に所属している少年らは鉄パイプ、木刀等で武装した五〇余名の甲会の構成員によって急襲されて離散し、同所は甲会の構成員らによって占拠されるところとなっていたところで、その事実を知るよしもない少年らは、前記日時ころ、同所付近道路に到着したが、その際、同駐車場に蝸集していて角材、鉄パイプ、木刀、野球バット、物干竿などを所持していた十数名の者に取り囲まれて、誰何され、乙会若しくは○△と応答したところ、女性を除く五名の者が暴行を受け、少年は眉間に頭突きを受け、後部から羽交締めにされ、腰部付近を鉄パイプで殴ぐられ、口唇付近を野球バットの根元付近で突かれるなどの暴行を受けたものの、その隙を狙い同所から逃走した。一方、現場付近にいて少年の逃走を知った数名の者は、各々前記角材鉄パイプなどを携行し、Zにおいても鉄パイプようなものを携行し、先頭部分を走り、また、現場から離れた場所で事態を知ったYは素手で、それぞれ少年を追尾した。 (罪となる事実)少年は逃走のすえ、浦安市口口×丁目××番先△×マンション前駐車場付近に至ったが、平成元年五月二八日午前零時三〇分ころ、 1 前同所において、前記Yに追いつかれ、両肩を掴まれた際、前記駐車場の奥は金網で囲まれた垣根であることから、その場から脱れるためには所携のナイフを使用し、同人を突き刺して怯んだ隙に、同所から逃走しようと考え、その際、同人が場合によっては死 を掴まれた際、前記駐車場の奥は金網で囲まれた垣根であることから、その場から脱れるためには所携のナイフを使用し、同人を突き刺して怯んだ隙に、同所から逃走しようと考え、その際、同人が場合によっては死亡することもやむをえないものと認容して、振り向きざまに右手に持った前記ナイフで同人の左側腹部を突き刺し、同人に対し加療約一箇月を要する左側腹部刺創、左腎裂傷、結腸破裂の傷害を負わせ、殺害の目的を遂げなかった 2 ついで、同時刻ころ、前同所付近において、前記Yについで少年の後方に追いつき所携の鉄パイプ様のもので少年の頭部付近を殴打した前記Zに対し、前記同様、所携の前記ナイフを使用し、同人を突き刺して怯んだ隙に、同所から逃走しようと考え、その際、同人が場合によっては死亡するもやむをえないものと認容し、振り向きざまに右手に持った前記ナイフで同人の左上腹部を突き刺し、同人に対し、心房に達する左上肺部刺切創による失血により死亡するに至らしめて殺害したものであるが、少年の以上の行為は、自己の身体及び自由に対する急迫不正の侵害に対し、自己の権利を防衛するためになしたもので、防衛の程度を超えたものである。
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