令和7(行ケ)2 人口比例選挙請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年11月21日 福岡高等裁判所 宮崎支部
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判決文本文32,276 文字)

- 1 -主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求 令和7年7月20日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の宮崎県選挙区及び鹿児島県選挙区における各選挙をいずれも無効とする。 第2 事案の概要 1 本件は、令和7年7月20日施行の参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」といい、参議院議員通常選挙のことを単に「通常選挙」という。)について、 宮崎県選挙区及び鹿児島県選挙区の各選挙人である原告らが、公職選挙法14条、別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下、数次の改正の前後を通じ、平成6年法律第2号による改正前の別表2を含め「定数配分規定」という。)は憲法に違反し無効であるから、これに基づいて行われた本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して、公職選挙法2 04条に基づき、上記各選挙区における選挙を無効とすることを求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告ら 原告Aは宮崎県選挙区の、原告Bは鹿児島県選挙区の各選挙人である。 (2) 本件選挙施行日において、参議院議員の総定数は248人であり、そのうち148人が選挙区選出議員、100人が比例代表選出議員であった。 (3) 本件選挙は、平成30年法律第75号(以下「平成30年改正法」という。)による改正(以下「平成30年改正」という。)後の公職選挙法14 条1項、別表第3の選挙区及び議員定数の定め(以下「本件定数配分規定」- 2 -という。)に従って施行された。 (4) 本件選挙において、選挙当日の選挙区間における1議 の公職選挙法14 条1項、別表第3の選挙区及び議員定数の定め(以下「本件定数配分規定」- 2 -という。)に従って施行された。 (4) 本件選挙において、選挙当日の選挙区間における1議員当たりの選挙人数の最大較差(以下、各選挙当時の「選挙区間の最大較差」というときは、この選挙人数の最大較差をいう。)は、選出される議員1人当たりの選挙人数が最小の福井県選挙区を1とした場合、最多の神奈川県選挙区は、3.12 7倍(以下、較差に関する数値は、全て概数である。)であった(乙1)。 3 争点本件定数配分規定の合憲性 4 争点に関する当事者の主張(原告らの主張) (1) 平成25年以降、参議院の選挙制度改革協議会では、合区制又は11ブロック制の2択で議論が続いていた。令和3年5月から令和4年6月に行われた参議院改革協議会では、参議院の在り方、参議院選挙制度、議員の身分保障等に関する検討が行われたが、参議院議員選挙制度改革についての意見集約はできず、投票価値の不均衡を縮小させることに関する具体的な方向性が 示されることはなかった。令和4年5月及び同年6月開催の参議院憲法審査会においても、参議院議員選挙制度改革について具体的な方向性は示されなかった。令和5年2月から令和6年6月までの間、参議院改革協議会では、参議院選挙制度について検討が行われたが、本件選挙までに改正法は成立しなかった。 その結果、本件選挙は、平成30年改正法による最大較差3倍を伴う定数配分規定の下で行われた3回目の選挙となり、当該較差3倍の3選挙区の有権者数は、約2120万人、全有権者数約1億0416万人のうちの約20%を占めた。本件選挙は、今後も不断に人口変動が見込まれる中で、更なる較差の是正を図るとともに、これ 、当該較差3倍の3選挙区の有権者数は、約2120万人、全有権者数約1億0416万人のうちの約20%を占めた。本件選挙は、今後も不断に人口変動が見込まれる中で、更なる較差の是正を図るとともに、これを再び拡大させずに持続していくために 必要となる方策等について議論し、取組を進めることが求められるとした最- 3 -高裁平成29年(行ツ)第47号同年9月27日大法廷判決・民集71巻7号1139頁(以下「平成29年大法廷判決」という。)、最高裁令和2年(行ツ)第78号同年11月18日大法廷判決・民集74巻8号2111頁(以下「令和2年大法廷判決」という。)、最高裁令和5年(行ツ)第54号同年10月18日大法廷判決・民集77巻7号1654頁(以下「令和5 年大法廷判決」という。)の趣旨に沿わない立法状況のまま施行された。 したがって、本件選挙は、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態の下で施行されたものである。 (2) 憲法前文第1段第2文は、そもそも国政は国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、 その福利は国民がこれを享受するとしており、同文は、少なくとも憲法47条の解釈基準である。受託者の忠実義務を定める信託法30条及び受託者の利益享受の禁止を定める信託法8条の趣旨を踏まえると、選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量を認めることは、憲法前文第1段第2文に基づき、国民(委託者)によって国政を信託された国民の代表者(受託者) が、受益者(国民)に対して負担する忠実義務に反して憲法47条を解釈、適用するものであるから、憲法47条、前文第1段第2文に違反する。また、最高裁平成25年(行ツ)第209号、第210号、同第211号同年11月20 に対して負担する忠実義務に反して憲法47条を解釈、適用するものであるから、憲法47条、前文第1段第2文に違反する。また、最高裁平成25年(行ツ)第209号、第210号、同第211号同年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁(以下「平成25年大法廷判決」という。)は、国政たる選挙区割規定の立法は、議員の身分にもかか わる事柄であると指摘しているところ、国民の代表者が、国民の利益より自らの利益を優先させて自らの利益のために当該選挙区割規定の立法をした場合には、国民の代表者は、国政の受託者として、国政の受託者に対する忠実義務に矛盾して憲法47条を適用するものであるから、憲法前文第1段第2文に基づいて解釈、適用されるべき憲法47条に違反する。 (3) 全世界のGDPの中の日本のシェアは、1995年に17.6%であった- 4 -ところ、2023年に4.0%に激減しており、その減少は、将来に向かって更に進行中である。 米、英、独、仏、韓、日の6か国の中で、米、英、独、仏、韓の5か国は、人口比例選挙又は概ね人口比例選挙を行っている。すなわち、人口比例選挙又は概ね人口比例選挙により過半数の投票で行政権の執行者を決定し、もし くは人口比例選挙又は概ね人口比例選挙で過半数の議席を獲得した政党が国会で、国会議員の過半数の投票で行政権の執行者を決定している。他方、日本では、非人口比例選挙を行っており、1992年から2020年までの29年間中、25年間、過半数未満の得票をしたに過ぎない自民又は自民・公明の議員が、得票数に比例しない議席数を獲得し、国会で議員の過半数決で 首相を指名した。 1992年から2020年までの間、米、英、独、仏、韓の5か国は、いずれも、人口比例選挙又は概ね人口比例選挙であるため、投票人 い議席数を獲得し、国会で議員の過半数決で 首相を指名した。 1992年から2020年までの間、米、英、独、仏、韓の5か国は、いずれも、人口比例選挙又は概ね人口比例選挙であるため、投票人の過半数又は概ね過半数の投票により政権交代し、右肩上がりで国民一人当たりの平均賃金が増加しているのに対し、日本の国民一人あたりの平均賃金額は、20 20年の時点で、米、英、独、仏、韓の5か国のいずれにも劣後している。 我が国において、国政選挙の投票率が米、英、独、仏、韓の5か国と比べて圧倒的に低いのは、日本の国政選挙が、総投票人からの過半数得票によっても政権交代を生じないことがその理由と考えられる。 (4) 日本では、明治憲法は天皇主権であり、ポツダム宣言の受諾により主権は 天皇から国民に移動したはずであるのに、国会が非人口比例選挙を採用したため、主権を行使する権利は、天皇から国会議員に移動した。そのため、日本は、憲法制定時から今日まで、国民主権国家であったことがなく、実質、国会議員主権国家のままである。 令和5年衆議院議員選挙の結果をみると、自民・公明の得票率は、小選挙 区と比例代表を合わせて37.67%しかないのに、自民・公明の獲得議席- 5 -は、小選挙区と比例代表の合計で46.2%であり、令和4年7月10日に行われた通常選挙(以下「令和4年選挙」という。)の結果をみると、自民・公明の得票率は、選挙区と比例代表の合計で46.09%でしかないのに、自民・公明の獲得議席は、選挙区と比例代表の合計で60.8%となっており、日本が国民主権国家でないことが証明されている。 非人口比例選挙は、憲法1条及び憲法前文第1段第1文後段に違反するものであり、人口比例選挙では、出席議員の過半数に投票した主権 ており、日本が国民主権国家でないことが証明されている。 非人口比例選挙は、憲法1条及び憲法前文第1段第1文後段に違反するものであり、人口比例選挙では、出席議員の過半数に投票した主権を有する有効投票者が、人口比例選挙で選出された国会議員を通じて、出席議員の過半数決で内閣総理大臣を指名することになるから、憲法1条、前文第1段第1文前段、56条2項、前文第1段第1文前段、43条1項に適合する。 (5) 憲法56条2項は、両議院の議事について、出席議員の過半数でこれを決する旨定めているところ、これが正しく機能するためには、各議員は、全員、同じ人数の主権を有する有権者から選出されることが求められるというべきである。なぜなら、各議員は、議員の資格で主権を有していないので、議員の資格自体を理由として出席議員の過半数によって両議院の議事が決定され ることを正当化し得ず、各議員が同じ人数の主権を有する有権者から選出されることによって初めて、出席議員の過半数決によって両議院の議事が決定されることを正当化し得るためである。 諸外国をみても、米国フロリダ州、ペンシルバニア州は、最大人口較差はわずか1人であり、ニューメキシコ州は、最大人口較差は0人である。英国 は、650選挙区で、各小選挙区の有権者数は、全国の選挙区平均有権者数の±5%以下という厳格な基準が設けられており、最大有権者数差は7338人である。ドイツでは、全630議席は、選挙人が各政党宛に投票する第2票の得票によって、完全人口比例により各政党への配分が決定されるから、人口差は0である。他方、本件選挙では、議員1人当たりの有権者をみると、 最大選挙区で96万5883人、最小選挙区で31万1339人であり、有- 6 -権者数の差は65万45 されるから、人口差は0である。他方、本件選挙では、議員1人当たりの有権者をみると、 最大選挙区で96万5883人、最小選挙区で31万1339人であり、有- 6 -権者数の差は65万4544人である。 (6) 最高裁平成26年(行ツ)第155号、第156号同年11月26日大法廷判決・民集68巻9号1363頁(以下「平成26年大法廷判決」という。)は、参議院議員選挙における投票価値の較差の問題について、最高裁判所大法廷が、これまで、①当該定数配分規定の下での選挙区間における投 票価値の不均衡が、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否か、②上記の状態に至っている場合に、当該選挙までの期間内に是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かといった判断の枠組みを前提として審査を行ってきている旨判示する。②の段階の審査における判断基準について みると、当該選挙の違法判断の基準時たる選挙投票日の時点で、選挙の区割規定が憲法の平等の要求に反する状態である場合、憲法98条1項の定めにより、当該選挙は違憲無効であるのに、②の段階の審査において、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態の選挙又は区割規定について、憲法違反とはいえない旨判断するものであるから、憲法98条1項の明文に抵触する。 よって、②の段階の判断基準は、無効である。 (7) 最高裁平成23年(行ツ)第51号同24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下「平成24年大法廷判決」という。)及び平成26年大法廷判決は、「さきに述べたような憲法の趣旨、参議院の役割等に照らすと、参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を 国政に反映する責務を負ってい 廷判決」という。)及び平成26年大法廷判決は、「さきに述べたような憲法の趣旨、参議院の役割等に照らすと、参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を 国政に反映する責務を負っていることは明らかであり、参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。」と判示した。他方、平成29年大法廷判決は、「もとより、参議院議員の選挙について、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く、参議院についても更に適切に民意が 反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求めら- 7 -れるものの、上記のような憲法の趣旨、参議院の役割等に照らすと、参議院議員の選挙における投票価値の平等は、憲法上3年ごとに議員の半数を改選することとされていることなど、議員定数の配分に当たり考慮を要する固有の要素があることを踏まえつつ、二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に実現されるべきであることに変わりはないというべきである。」と判示 し、令和2年大法廷判決は、「国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、参議院議員選挙について、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く、」の直後に、「前記(2)で述べた憲法の趣旨等との調和の下に投票価値の平等が実現されるべきことは平成29年大法廷判決等でも指摘されているのであるから、立法府におい ては、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれる中で、較差の更なる是正を図るとともに、これを再び拡大させずに持続していくために必要となる方策等について議論し、取組を進めることが求められているところ、上記のような平成30年改正において、こうした取組が大きな進展を見せ 正を図るとともに、これを再び拡大させずに持続していくために必要となる方策等について議論し、取組を進めることが求められているところ、上記のような平成30年改正において、こうした取組が大きな進展を見せているとはいえない。」と判示しているところ、いずれの判決についても、憲法の 趣旨等と、参議院議員の選挙についての投票価値の平等の要請を調和させるべきであるとの判示の趣旨は明らかでない。 令和5年大法廷判決は、「二院制に係る憲法の趣旨や、半数改選などの参議院の議員定数配分に当たり考慮を要する固有の要素を勘案しても、参議院議員選挙について直ちに投票価値の平等の要請が後退してもよいと解すべき 理由は見いだし難い。」と判示し、その後の文章に、同判示を修正、変更する文言が全くないから、同大法廷判決は、平成29年大法廷判決及び令和2年大法廷判決の揺らぎにも関わらず、平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の判示に復帰したといえる。 そして、本件選挙における最大較差は1対3.13であり、令和元年選挙 時の1対3.00と比較して、後退しているのであるから、本件選挙は、令- 8 -和5年大法廷判決の上記説示に照らして、違憲である。 (8) 被告らは、較差の更なる是正のために考え得る方策には、慎重に検討すべき課題や大きな制約があり、そうした課題や制約への対処が容易なものではない以上、国会が較差の更なる是正のために採るべき立法措置の検討等に相応に長期の期間を要したとしても、それはやむを得ないものというべきであ ると主張するが、令和5年大法廷判決が、これまで人口の都市部への集中が生じており、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれるところ、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる選挙制度が民主政治の基 するが、令和5年大法廷判決が、これまで人口の都市部への集中が生じており、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれるところ、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であること等を考慮すると、較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題というべきである、立法府において 議論されてきた種々の方策に課題や制約があり、事柄の性質上慎重な考慮を要するにせよ、立法府においては、より適切な民意の反映が可能となるよう、社会の情勢の変化や上記課題等をも踏まえながら、現行の選挙制度の仕組みの抜本的な見直しも含め、較差の更なる是正等の方策について具体的に検討した上で、広く国民の理解も得られるような立法的措置を講じていくことが 求められると判示しているのであるから、被告らの主張は採用されるべきではない。 被告らは、本件選挙時において、選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度に著しい不均衡状態にあったとはいえないと主張するが、令和5年大法廷判決が、較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題と いうべきであると判示して令和4年選挙の較差1対3.03の更なる是正を求めたことに照らすと、最大較差1対3.13となった本件選挙は違憲というべきである。 被告らは、全ての会派が本件選挙後にも選挙制度の改革に関する議論を継続することを表明し、複数の会派が令和10年通常選挙に向けた制度改正を 明示するなどしていることを主張するが、国会は、令和10年通常選挙実施- 9 -の1年前以前には、較差是正のための立法措置を採ることを予定していないということであり、国会は、本件選挙について、令和4年選挙の最大較差1対3.03を著しく超過する1対3.13の選挙区割 9 -の1年前以前には、較差是正のための立法措置を採ることを予定していないということであり、国会は、本件選挙について、令和4年選挙の最大較差1対3.03を著しく超過する1対3.13の選挙区割りの維持を敢えて選択したのであるから、国会が本件選挙までの間に本件定数配分規定を改正しなかったことは、国会の立法裁量権の限界を超えるというべきである。 (被告らの主張)(1) 本件訴訟の判断枠組み憲法は投票価値の平等を要請しているが、他方で、憲法は、選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の広範な裁量に委ねているのであって、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるも のではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ、国会が具体的に定めた選挙制度がその裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、憲法に違反しない。 憲法が二院制を採用した趣旨は、立法を始めとする多くの事項について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ、参議院議員の任期をより長期とすること等によって、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ、衆議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性及び継続性を確保しようとするところにある。また、憲法が二院制を採用した以上、両議院がそ の構成を異なるものとし、それぞれが特色を持った議院として機能することは憲法が当然に予定しているところであるから、そのように機能させるために衆議院と参議院とで選挙区の構成等を異にすることも憲法上想定されているというべきである。憲法は、参議院については、衆議院が多数決原理に基づいて 定しているところであるから、そのように機能させるために衆議院と参議院とで選挙区の構成等を異にすることも憲法上想定されているというべきである。憲法は、参議院については、衆議院が多数決原理に基づいて国政の在り方を決定する際の行き過ぎを抑制する「良識の府」、「再考 の府」として機能させることを想定しているから、そのような参議院の選挙- 10 -制度については、人口を基準とするのみでは適切に反映されない国民の意見を公正かつ効果的に国政に反映させるため、投票価値の平等の要請のみならず、それ以外の諸要素についても十分に考慮することを求めているものと解される。 そうすると、国会の定めた定数配分規定が憲法14条1項等の規定に違反 して違憲と評価されるのは、参議院の独自性のほか、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由を考慮しても、投票価値の平等の見地からみて違憲の問題が生ずる程度の著しい不均衡状態が生じており、かつ、当該選挙までの期間内にこれを是正する措置を講じなかったことが国会の裁量権の限界を超える場合に限られる。 (2) 本件選挙時において、選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとはいえないこと都道府県が有する歴史、都道府県が我が国において果たしてきた政治的、社会的な役割、機能や、各国民が有する都道府県に対する帰属意識等に鑑みれば、都道府県につき、長年にわたる歴史を通じて、一つの行政単位として の歴史的、政治的、経済的、社会的、文化的な一体感が醸成されているといえるのであって、選挙制度の決定に際し、国会が考慮することのできる基本的な要素の一つである。 衆議院においては市町村の単位を基本とする小選挙区制度が採用されているのに対し、参議院においては都 といえるのであって、選挙制度の決定に際し、国会が考慮することのできる基本的な要素の一つである。 衆議院においては市町村の単位を基本とする小選挙区制度が採用されているのに対し、参議院においては都道府県を選挙区の基本的な単位とする選挙 制度が維持されていることによって、両議院の選挙制度全体として、我が国における地方公共団体の種類及び各地方公共団体の特色を踏まえた多角的な民意の反映が可能になっているといえ、参議院の選挙区選出議員選挙の選挙区を基本的に都道府県単位とすることは憲法が二院制を採用した趣旨に沿うものである。 加えて、過疎化による地方の疲弊が進行し、都市と地方の較差が顕著なも- 11 -のとなった今日の社会的状況下においては、人口の多い都市部に居住する多数派の国民のみならず、山間部などのいわゆる過疎地域を含む地方に住む少数派の国民の意見も十分に国政に届くような定数配分規定を定めることの重要性が増してきている。したがって、参議院の選挙区選出議員選挙の選挙区について、都道府県を基本的な単位とすることは、少数派の国民の意見を含 む地域ごとの意見を国政に効果的に反映させることが期待できるという点においても合理性を有するものであり、選挙制度の構築に当たり、国会が正当に考慮することができる人口比例以外の政策的目的ないし理由として十分に考慮されるべきである。 国会は、選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題を生ずる程度の 著しい不平等状態に至っていた旨判断した平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿い、一部の選挙区について、合区を創設することなどを内容とする平成27年法律第60号(以下「平成27年改正法」という。)による改正(以下「平成27年改正」という。)を行った。これにより、国政調査の結 、一部の選挙区について、合区を創設することなどを内容とする平成27年法律第60号(以下「平成27年改正法」という。)による改正(以下「平成27年改正」という。)を行った。これにより、国政調査の結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は2.97倍と なり、前記不平等状態は解消された。 同改正後の定数配分規定の合憲性が争われた平成29年大法廷判決においても、最大較差が3.08倍であった平成28年選挙時、投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず、平成27年改正後の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということ はできない旨判示された。 現在の選挙区割りを定める平成30年改正法は、平成27年改正による選挙区割りを維持しつつ、埼玉県選挙区の定数を2人増員したものであり、国政調査の結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は、2.99倍にまで縮小した。平成30年改正法は、国会が正当に考慮することのできる人口比 例以外の政策的目的ないし理由を考慮しながら、投票価値の平等の要請との- 12 -調和を実現したものといえ、国会に委ねられた裁量権の合理的行使として許される。 令和元年7月21日に行われた通常選挙(以下「令和元年選挙」という。)に係る令和2年大法廷判決は、平成27年改正が数十年にわたって5倍前後で推移してきた最大較差を約3倍にまで縮小させたものであり、平成30年 改正法が、選挙制度の改革について、容易に成案が得られない状況下において、合区の解消を強く望む意見も存在する中で、合区を維持して僅かに較差を是正しており、平成27年改正における方向性を維持するよう配慮したものと評し、令和元年選挙時、投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえ 区を維持して僅かに較差を是正しており、平成27年改正における方向性を維持するよう配慮したものと評し、令和元年選挙時、投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえない旨判示した。令和4年選挙に係 る令和5年大法廷判決も、平成27年改正から令和4年選挙までの約7年間、合区が維持され、これにより、数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差が3倍程度で推移しており、有意な拡大傾向にあるともいえないなどと指摘し、平成30年改正後の本件定数配分規定について、令和4年選挙時も、投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平 等状態にあったものとはいえない旨判示した。 令和元年選挙時、最大較差は3.00倍であり、最も選挙人数が少なかった選挙区と比べて較差が3倍以上となった選挙区は一つであった。それ以降も、合区の解消を望む意見が存在する中でも合区を維持し続け、その結果、本件選挙時においても最大較差は3.13倍と令和元年選挙時と比較しても 僅かな変化にとどまっている。本件選挙においても、較差が有意な拡大傾向にあるとはいえず、較差が3倍以上となった選挙区も令和4年選挙と同じ三つであって、平成27年改正及び平成30年改正により実現した状態が維持されているから、本件定数配分規定の合憲性は、本件選挙時においても維持されていたといえる。 参議院は、憲法上、3年ごとに議員の半数が改選されるため、選挙区選出- 13 -議員の選挙区ごとの定数を偶数配分する必要があるほか、選挙区選出議員の定数が衆議院の小選挙区選出議員よりも少なく、大幅に定数を増員することも困難であるなど、衆議院と比して、投票価値の平等の要請に配慮して全国の各選挙区に定数を配分するのに制約が存在する。そうした中でも 定数が衆議院の小選挙区選出議員よりも少なく、大幅に定数を増員することも困難であるなど、衆議院と比して、投票価値の平等の要請に配慮して全国の各選挙区に定数を配分するのに制約が存在する。そうした中でも、国会は、平成27年改正により合区を導入するなどした結果、投票価値の不均衡が是 正されるに至った。しかし、合区については、合区の対象となった県相互間における課題、利害等が一致するとは限らず、当該合区から選出された参議院議員が、各県の意見を集約して国政に反映させることは事実上困難であるなどの問題が指摘されているほか、実際にも、令和元年選挙や令和4年選挙においては、合区の対象となった県の多くで投票率の低下が見られるなど、 合区を導入したことによる弊害が指摘されており、合区に対する反対意見は根強く存在する。 このように、参議院の選挙制度の改革には様々な困難が伴う中、国会は、平成27年改正法に、選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得るものとする旨の附則を置いたり、参議院政治倫理の確立及 び選挙制度に関する特別委員会において、平成30年改正後も選挙制度の改革に向けた検討を継続していく決意を表明したりするなどしていた。 また、令和2年大法廷判決及び令和5年大法廷判決において、令和元年選挙及び令和4年選挙における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえない旨判示されたが、これらの判決 後も、国会は、参議院改革協議会等を設置し、参議院の在り方や選挙制度の改革等について議論を継続しており、現時点で成案が得られていないものの、全ての会派が本件選挙後にも選挙制度の改革に関する議論を継続することを表明し、複数の会派が令和10年通常選挙に向けた制度改正を明示するなどしている。この ており、現時点で成案が得られていないものの、全ての会派が本件選挙後にも選挙制度の改革に関する議論を継続することを表明し、複数の会派が令和10年通常選挙に向けた制度改正を明示するなどしている。このように、国会は、累次の最高裁大法廷判決の判示するところ を真摯に受け止め、選挙制度の在り方の検討を継続し、過去にあったような- 14 -大きな較差を再び生じさせることのないよう適切に配慮している。 そして、合区を創設した平成27年改正後、合区対象県において、投票率の低下等の弊害がみられており、その合区による弊害は、本件選挙時においても有意な改善がみられないまま継続して生じており、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる観点からいえば、都道府県単位を基本と する選挙区を見直すことには慎重に検討すべき課題が依然として存在するといえ、国会が較差の是正のための検討等に時間を要したとしてもやむを得ないものであって、国会の取組が不適切であるとはいえない。 以上の諸点に照らせば、本件選挙時、本件定数配分規定の下での選挙区間の投票価値の不均衡は、投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ない程 度になっているとはいえず、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとはいえない。 (3) 本件選挙までの期間内に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえないこと選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不 平等状態にあった場合において、当該選挙までの期間内に当該定数配分規定の是正をしなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては、単に期間の長短のみならず、是正のために採るべき措置の内容、そのために検討を要する事項、実際に必 定数配分規定の是正をしなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては、単に期間の長短のみならず、是正のために採るべき措置の内容、そのために検討を要する事項、実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して、国会における是正の実現に向けた取組が司法の 判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきである。 そして、当該選挙までの期間内にその是正をしなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かは、裁判所において当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい 不平等状態にあるとの判断が示されるなど、国会が、違憲の問題が生ずる程- 15 -度の著しい不平等状態となったことを認識し得た時期を基準(始期)として、上記諸般の事情を総合考慮して判断されるべきである。 本件では、平成27年改正により、都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを一部改め、投票価値の較差を大幅に縮小させ、投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態を解消し、そのような状態か ら更に最大較差を縮小させるため、平成30年改正により現在の本件定数配分規定を定めたところ、以後、その下で、令和元年選挙及び令和4年選挙が行われ、令和2年大法廷判決では当該定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないと判示され、その結論は、令和5年大法廷判決でも維持された。 本件選挙は、当該定数配分規定に基づいて行われたものであるが、本件選挙時の最大較差は1対3.13であり、最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁(以下「平 選挙は、当該定数配分規定に基づいて行われたものであるが、本件選挙時の最大較差は1対3.13であり、最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁(以下「平成21年大法廷判決」という。)までの累次の最高裁判所判決の事案において合憲とされた最大較差を大幅に下回り、令和元年選挙時及び令和4年選挙時 の最大較差と大きく異なるとはいえないものであったのであるから、投票価値の不均衡についての違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあるとは考え難い状況であった。 したがって、万一、本件選挙当時、投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあると判断されるとしても、国会におい て、本件選挙までの間に、本件定数配分規定に基づく選挙区間における投票価値の不均衡が前記状態にまで至っていたことを認識し得たとはいえないから、本件選挙当時、国会が、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態となったことを認識し得たとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実- 16 -前記前提事実、証拠(各項掲記のもの)、当裁判所に顕著な事実及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。 (1) 参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は、参議院議員の選挙について、参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し、全国選出議員については、全都道府県の区域を通じて選出され るものとする一方、地方選出議員については、その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め、都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして、選挙区ごとの議員定数については、憲法が参議院議員につき3年ごとにその半数を改選すると定めていること(46 ける議員定数を別表で定め、都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして、選挙区ごとの議員定数については、憲法が参議院議員につき3年ごとにその半数を改選すると定めていること(46条)に応じて、各選挙区においてその選出議員の半数が改選されることとなるよう、定 数を偶数として最小2人を配分する方針の下に、各選挙区の人口に比例する形で、2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。 昭和25年に制定された公職選挙法の定数配分規定は、上記の参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり、その後に沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは、平成6年法律第47号による 公職選挙法の改正(以下「平成6年改正」という。)まで、上記定数配分規定に変更はなかった。なお、昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により、参議院議員252人は各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが、この選挙区選出議員は、 従来の地方選出議員の名称が変更されたものである。 その後、平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下「平成12年改正」という。)により、参議院議員の総定数が242人とされ、比例代表選出議員96人及び選挙区選出議員146人とされた。 (乙9、10) (2) 参議院議員選挙法制定当時、選挙区間における議員1人当たりの人口の最- 17 -大較差(以下、各立法当時の「選挙区間の最大較差」というときは、この人口の最大較差をいう。)は2.62倍であったが、人口変動により次第に拡大を続け、平成4年に行われた通常選挙当時、選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が6 最大較差」というときは、この人口の最大較差をいう。)は2.62倍であったが、人口変動により次第に拡大を続け、平成4年に行われた通常選挙当時、選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が6.59倍に達した後、平成6年改正における7選挙区の定数を8増8減とする措置により、平成2年10月実施の国勢調 査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は4.81倍に縮小した。その後、平成12年改正における3選挙区の定数を6減とする措置及び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正における4選挙区の定数を4増4減とする措置の前後を通じて、平成7年から平成19年までに行われた各通常選挙当時の選挙区間の最大較差は5倍前後で推移した。 そうしたところ、最高裁判所大法廷は、定数配分規定の合憲性に関し、平成4年に行われた通常選挙について、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示したが(最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁)、平成6年改正後の定数配分規定の下で行われた2回の通常選挙については、上記の不 平等状態に至っていたとはいえない旨判示した(最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁、最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁)。その後、平成12年改正後の定数配分規定の下で行われた2回の通常選挙及び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正後の定 数配分規定の下で平成19年に行われた通常選挙のいずれについても、最高裁判所大法廷は、結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月 9年に行われた通常選挙のいずれについても、最高裁判所大法廷は、結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁、最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号269 6頁、平成21年大法廷判決)。もっとも、上記最高裁平成18年10月4- 18 -日大法廷判決においては、投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正について国会における不断の努力が望まれる旨の、平成21年大法廷判決においては、当時の較差が投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって、最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がそれぞれされ るなど、選挙区間の最大較差が5倍前後で常態化する中で、較差の状況について投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになっていた。 (乙3、9、10)(3) 平成22年7月11日、選挙区間の最大較差が5.00倍の状況において 行われた通常選挙(以下「平成22年選挙」という。)につき、平成24年大法廷判決は、結論において同選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの、長年にわたる制度及び社会状況の変化として、①参議院議員の選挙制度と衆議院議員の選挙制度が同質的なものとなってきているとともに、急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い 任期を背景に国政の運営における参議院の役割はこれまでにも増して大きくなってきていること、②衆議院については、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口の較差が2倍未満となることを基 を背景に国政の運営における参議院の役割はこれまでにも増して大きくなってきていること、②衆議院については、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口の較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていること等を挙げた上で、参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解す べき理由は見いだし難く、都道府県が政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ること等の事情は数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっており、都道府県間の人口較差の拡大が続き、総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で、都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票 価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っている- 19 -などとし、上記通常選挙当時の選挙区間の最大較差が示す投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ、できるだけ速やかに上記の不平等状態を解消する必要がある 旨を指摘した。(乙3、9)(4) 平成24年大法廷判決の言渡し後、平成24年11月16日に公職選挙法の一部を改正する法律(同年法律第94号。以下「平成24年改正法」という。)が成立し、同月26日に施行された。同法は、選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減とすることを内容とするものであった。(乙9、 10)(5) 平成25年7月21日、平成24年改正法による改正後の定数配分規定の下での通常選挙(以下「平成25年 て4選挙区で定数を4増4減とすることを内容とするものであった。(乙9、 10)(5) 平成25年7月21日、平成24年改正法による改正後の定数配分規定の下での通常選挙(以下「平成25年選挙」という。)が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は4.77倍であった。 平成26年大法廷判決は、結論において平成25年選挙当時の定数配分規 定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの、平成24年大法廷判決の判断に沿って、平成24年改正法による上記4増4減の措置は、都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり、現に選挙区間の最大較差については上記の改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから、同法によ る上記措置を経た後も、選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ、できるだけ速やかに、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって上記の 不平等状態が解消される必要がある旨を指摘した。 - 20 -(甲5、乙3、9、11の1)(6) 平成27年7月28日、平成27年改正法が成立し、同年11月5日に施行された。平成27年改正の結果、平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は2.97倍となった。平成27年改正法は、選挙区選出議員の選挙区及び定数について、鳥取県及び島根県、徳 島県及び高知県をそれぞれ合区して定数2人の選挙区とするとともに、3選挙区の定数を2人ずつ減員し、5選挙区の定数を2人ずつ増員す は、選挙区選出議員の選挙区及び定数について、鳥取県及び島根県、徳 島県及び高知県をそれぞれ合区して定数2人の選挙区とするとともに、3選挙区の定数を2人ずつ減員し、5選挙区の定数を2人ずつ増員することなどを内容とするものであり、その附則7条には、平成31年に行われる通常選挙に向けて、参議院の在り方を踏まえて、選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き 続き検討を行い、必ず結論を得るものとするとの規定が置かれていた。(乙3、11の1・2)(7) 平成28年7月10日、平成27年改正後の定数配分規定の下での通常選挙(以下「平成28年選挙」という。)が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は3.08倍であった(乙3、11の3)。 平成29年大法廷判決は、平成27年改正法につき、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、参議院創設以来初めての合区を行うことにより、長期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因となっていた都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とするものであり、これによって、数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選 挙区間の最大較差は2.97倍(選挙当時は3.08倍)まで縮小するに至ったのであるから、平成24年大法廷判決等の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができるとし、また、その附則において上記(6)のとおり規定され、今後における較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに、再び大きな較差を生じさせることのないよう配慮さ れているものということができるなどとして、平成28年選挙当時の定数配- 21 -分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ず な較差を生じさせることのないよう配慮さ れているものということができるなどとして、平成28年選挙当時の定数配- 21 -分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえないとした。 (8) 平成28年選挙において、合区の対象となった4県のうち島根県を除く3県では、投票率が低下して当時における過去最低の投票率となったほか、無効投票率が全国平均を上回り、高知県での無効投票率は全国最高となった (乙11の4~6)。 全国知事会は、平成28年7月29日、平成28年選挙において投票率の著しい低下等の様々な弊害が顕在化したなどとして、合区の早急な解消を求める決議を行った。また、全国都道府県議会議長会や全国市長会等においても、合区の早急な解消に向けた決議等が行われた。(乙30の2、乙31の 1、乙32の1)平成29年2月、参議院の各会派代表による参議院改革協議会が設置され、同年4月、同協議会の下に参議院選挙制度改革について集中的に調査を行う「選挙制度に関する専門委員会」が設けられた。同委員会は、参議院選挙制度改革に対する考え方について、一票の較差、選挙制度の枠組みとそれに基 づく議員定数の在り方、選挙区の枠組み等について協議を行った上で、選挙区選出議員について、全ての都道府県から少なくとも1人の議員が選出される都道府県を単位とする選挙区とすること、一部合区を含む都道府県を単位とする選挙区とすること、又は選挙区の単位を都道府県に代えてより広域のものとすることの各案について検討を行ったほか、選挙区選出議員及び比例 代表選出議員の二本立てとしない場合を含めた選挙制度の在り方等についても議論を行った。しかしながら、これらの議論を経た上で各会派から示され 各案について検討を行ったほか、選挙区選出議員及び比例 代表選出議員の二本立てとしない場合を含めた選挙制度の在り方等についても議論を行った。しかしながら、これらの議論を経た上で各会派から示された選挙制度改革の具体的な方向性についての意見の内容は、選挙区の単位、合区の存廃、議員定数の増減等の点において大きな隔たりがある状況であった。(乙12~16、17の1・2、乙22、23) 平成30年6月、参議院改革協議会において、自由民主党から、選挙区の- 22 -単位を都道府県とすること及び平成27年改正による4県2合区は維持した上で、選挙区選出議員の定数を2人増員して埼玉県選挙区に配分するとともに、比例代表選出議員の定数を4人増員し、政党等が優先的に当選人となるべき候補者を定めることができる特定枠制度を導入するとの案が示された。 その後、協議が行われるなどしたものの、各会派間に意見の隔たりがある状 況であったため、各会派が参議院に法律案を提出し、参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会において議論が進められることとなり、上記の自由民主党の提案内容に沿った法律案のほか、現在の選挙区選出議員の選挙及び比例代表選出議員の選挙に代えてより広域の選挙区による選挙を導入することを内容とする法律案等が提出された。同年7月11日、上記特別 委員会において、上記の自由民主党の提案内容に沿った公職選挙法の一部を改正する法律案が可決すべきものとされ、その際、「今後の参議院選挙制度改革については、憲法の趣旨にのっとり、参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うこと」との附帯決議がされた。(乙19の1~4、乙20~23) 平成30年7月18日、平成30年改正法が成立し、同年10月25日に施行された。平成30年改正 方を踏まえ引き続き検討を行うこと」との附帯決議がされた。(乙19の1~4、乙20~23) 平成30年7月18日、平成30年改正法が成立し、同年10月25日に施行された。平成30年改正の結果、平成27年10月実施の国勢調査結果による日本国民人口に基づく選挙区間の最大較差は2.99倍となった。 (乙3、19の5~7、乙20、22、23)(9) 令和元年7月21日、本件定数配分規定の下での初めての通常選挙(令和 元年選挙)が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は3.00倍であった(乙3、5の1)。 令和2年大法廷判決は、立法府においては、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれる中で、較差の更なる是正を図るとともに、これを再び拡大させずに持続していくために必要となる方策等について議論し、取組を進 めることが求められているところ、平成30年改正において、こうした取組- 23 -が大きな進展を見せているとはいえないとしながらも、平成30年改正法につき、数十年間にわたって5倍前後で推移してきた最大較差を3倍程度まで縮小させた平成27年改正法における方向性を維持するよう配慮したものであるということができ、また、参議院選挙制度の改革に際しては、事柄の性質上慎重な考慮を要することに鑑み、その実現は漸進的にならざるを得ない 面があることからすると、立法府の検討過程において較差の是正を指向する姿勢が失われるに至ったと断ずることはできないなどとして、令和元年選挙当時の本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえないとした。 (10) 令和元年選挙において、合区の対象となった徳島県での投票率は全国最 低となり、鳥取県及び島根県の投票率 は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえないとした。 (10) 令和元年選挙において、合区の対象となった徳島県での投票率は全国最 低となり、鳥取県及び島根県の投票率もそれぞれ過去最低となった。また、合区の対象となった4県での無効投票率はいずれも全国平均を上回り、徳島県では全国最高となった。(乙5の2・3、乙40の6・9~11)令和元年選挙の後も、全国知事会等において、合区の解消を求める決議等が行われている(乙30の7、33の7、35の5、37の2・143)。 令和3年5月、参議院の各会派代表による参議院改革協議会が改めて設置され、参議院の組織及び運営の改革に関する検討項目の一つとして、較差の是正を含む選挙制度改革についての議論がされた。合区については、何らかの形で解消することを目指す意見が多かったものの、都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持するか、選挙区の単位を都道府県に代え てより広域のものとするか、議員の総定数を増やすか等の点について意見の隔たりがあり、最終的に、参議院選挙制度改革の具体的な方向性についての各会派の意見が一致するには至らなかった。令和4年5月及び同年6月に開かれた参議院憲法審査会における参議院選挙制度改革をめぐる議論の状況も、上記と同様であった。(乙24、25の1・2) (11) 令和4年7月10日、本件定数配分規定の下での2回目の通常選挙(令- 24 -和4年選挙)が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は3.03倍であった(乙3、6の1)。 令和5年大法廷判決は、立法府においては、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれる中で、較差の更なる是正を図るとともに、これを再び拡大させずに持続していくために必要となる方策等について議 )。 令和5年大法廷判決は、立法府においては、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれる中で、較差の更なる是正を図るとともに、これを再び拡大させずに持続していくために必要となる方策等について議論し、取組を進 めることが求められているところ、令和4年選挙までの間、較差の更なる是正の実現に向けた具体的な検討が進展しているとも言い難いとしながらも、平成27年改正により、数十年間にもわたって5倍前後で推移してきた最大較差は3倍程度まで縮小し、同改正がされてから令和4年選挙までの約7年間、選挙区間の最大較差は3倍程度で推移しており、有意な拡大傾向にある ともいえない中で、都道府県を各選挙区の単位とする現行の選挙制度の仕組みを更に見直すことや参議院の議員定数の見直しなどの方策についても慎重に検討すべき課題や制約が想定され、立法府が較差の是正に向けた取組を進め、合理的な成案に達するにはなお一定の時間を要することが見込まれるなどとして、令和4年選挙当時の本件定数配分規定の下での選挙区間における 投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえないとした。その上で、令和5年大法廷判決は、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれるところ、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であること等を考慮すると、較差の更なる是正を図ること等 は喫緊の課題というべきであるとし、種々の方策に課題や制約があり、事柄の性質上慎重な考慮を要するにせよ、立法府においては、より適切な民意の反映が可能となるよう、現行の選挙制度の仕組みの抜本的な見直しも含め、較差の更なる是正等の方策について具体的に検討した上で、広く国民の理解も得られるような立法的措 立法府においては、より適切な民意の反映が可能となるよう、現行の選挙制度の仕組みの抜本的な見直しも含め、較差の更なる是正等の方策について具体的に検討した上で、広く国民の理解も得られるような立法的措置を講じていくことが求められるとした。(甲9) (12) 令和4年選挙において、合区の対象となった鳥取県での投票率は、令和元- 25 -年選挙時を更に下回って過去最低を更新し、また、徳島県での投票率は、令和元年選挙時より上昇したものの、なお全国最低であった。合区の対象となった4県での無効投票率は、いずれも全国平均を上回った。(乙6の2・3)令和4年11月、参議院の各会派代表による参議院改革協議会が改めて設置され、同年12月、同協議会の下に「選挙制度に関する専門委員会」が設 けられた。同委員会において意見を求められた鳥取県及び高知県の各知事は、合区制度により、県民が民主政治に対する信頼を失いかけていることや、合区により県民の選挙への関心が低下し、失望していることといった問題点を指摘した。その後、各委員の間で選挙制度の在り方やその改革に関する具体的な論点や方向性についての意見表明がされ、意見交換が行われた。意見交 換においては、投票率の低下等の弊害のある合区を解消すべきとの意見が大勢であったものの、具体的な選挙制度の枠組みについては、選挙区選出議員選挙及び比例代表選出議員選挙の二本立てを維持すべきとの意見とブロック制を導入すべきとの意見に分かれたままで終わった。上記協議会での協議結果を取りまとめた報告書には、令和10年通常選挙に向けて、本件選挙後、 協議の場を速やかに設け、行程案を共有しつつ、具体的な参議院改革について結論を出し、選挙制度改革の方向性を見いだすべく協議が引き継いでいかれることを切望すると記載された 向けて、本件選挙後、 協議の場を速やかに設け、行程案を共有しつつ、具体的な参議院改革について結論を出し、選挙制度改革の方向性を見いだすべく協議が引き継いでいかれることを切望すると記載された。(乙26)令和4年12月から令和5年12月にかけて、参議院憲法審査会においても参議院の在り方や一票の較差及び合区が主たる議題として取り上げられ、 合区対象となった県の知事や副知事から意見聴取をするなどされたが、参議院議員の具体的な選挙制度の枠組みに関しては、意見が分かれたままで終わった(乙27の1~6)。 (13) 令和7年7月20日、本件定数配分規定の下での3回目の本件選挙が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は3.13倍であった。(乙1、 3)- 26 -本件選挙において、合区の対象となった4県のうち、鳥取県を除く3県は全国平均の投票率を下回り、徳島県は全国で最も低い投票率であった。合区の対象となった4県での無効投票率は、高知県を除いて全国平均を上回り、徳島県が全国で最も高い無効投票率であった。(乙2) 2 争点に対する判断 (1) 投票価値の較差の問題に関する定数配分規定の合憲性については、以下の見地から検討するのが相当である(令和5年大法廷判決参照)。 ア憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を要求していると解される。他方、憲法は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に 反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであって、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由と な制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであって、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使 として合理性を有するものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、憲法に違反するとはいえない。 憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は、それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることに よって、国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。前記1(1)においてみた参議院議員の選挙制度の仕組みは、このような観点から、参議院議員について、全国選出議員(昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に分け、前者については全 国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし、後者については都道- 27 -府県を各選挙区の単位としたものである。昭和22年の参議院議員選挙法及び昭和25年の公職選挙法の制定当時において、このような選挙制度の仕組みを定めたことが、国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果、上記の仕組みの下 で投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解 不平等状態が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。 イ憲法は、二院制の下で、一定の事項について衆議院の優越を認める反面、 参議院議員につき任期を6年の長期とし、解散もなく、選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている(46条等)。その趣旨は、立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ、参議院議員の任期をより長期とすること等によって、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ、衆議院との権限の抑制、均衡を図り、 国政の運営の安定性、継続性を確保しようとしたものと解される。そして、いかなる具体的な選挙制度によって、上記の憲法の趣旨を実現し、投票価値の平等の要請と調和させていくかは、二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け、これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め、国会の合理的な裁量に委 ねられており、参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し、国民各層の多様な意見を反映させて、参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも、選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものと考えられる。 また、具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり、一定の地域の住 民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から、- 28 -政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえず、投票価値の平等の要請 機能を加味する観点から、- 28 -政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえず、投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて、このような要素を踏まえた選挙制度を構築することが直ちに国会の合理的な裁量を超えるものとは解されない。 ウ参議院議員の選挙制度と衆議院議員の選挙制度は、選出方法等に係るこれまでの変遷を経て同質的なものとなってきているところ、衆議院議員選挙については、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口の較差が2倍未満となるようにする旨の区割りの基準が定められ、少なくとも長期間にわたり2倍以上の較差が放置されることはないよ うな措置が講じられている(衆議院議員選挙区画定審議会設置法3条、4条参照)。また、急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い任期を背景に、国政の運営における参議院の役割は大きなものとなってきている。 そうすると、二院制に係る憲法の趣旨や、半数改選などの参議院の議員定数配分に当たり考慮を要する固有の要素を勘案しても、参議院議員選挙 について直ちに投票価値の平等の要請が後退してもよいと解すべき理由は見いだし難い。したがって、立法府においては、不断に人口変動が生ずることが見込まれる中で、較差の更なる是正を図るとともに、これを再び拡大させずに持続していくために必要となる方策等について議論し、取組を進めることが引き続き求められているというべきである。 (2) そこで、本件選挙当時の選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったか否かについて検討する。 ア平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決が、平成22年選挙及び平成 件選挙当時の選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったか否かについて検討する。 ア平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決が、平成22年選挙及び平成25年選挙当時の投票価値の不均衡はそれぞれ違憲の問題を生ずる程度の著しい不平等状態にあったと判断し、これを解消するためには都道 府県を単位とする方式を改めるなどの選挙制度の仕組み自体の見直しが必- 29 -要である旨を明確に判示したことを受けて、平成27年改正法は、4県2合区という新たな措置の導入等により選挙区間の最大較差を5倍前後の水準から3.08倍(平成28年選挙当時)へと縮小した。しかし、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることに鑑みれば、最大較差が3倍を超えているとい う不均衡は軽視できず、上記縮小後の水準の較差にもなお大きな問題があって、さらなる選挙制度の見直しが必要な状況であった。平成27年改正法附則7条は、平成31年に行われる通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を規定したところ、これは、立法府自身が、上記縮小後の水準の較差にもなお憲法上大きな問 題が存在し、その較差の更なる是正のために引き続き選挙制度の抜本的な見直しの検討が必要であるとの認識を示した上、同問題について検討して必ず結論を得る旨の決意を示したものといえる。 そして、平成27年改正後に行われた平成28年選挙についての平成29年大法廷判決は、平成27年改正法における上記最大較差の縮小と いう事情に併せて、附則に示された較差の更なる是正を志向する立法府の姿勢を積極的に評価し、平成28年選挙当時の投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい 法における上記最大較差の縮小と いう事情に併せて、附則に示された較差の更なる是正を志向する立法府の姿勢を積極的に評価し、平成28年選挙当時の投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとはいえない旨判断した。 イところが、平成30年改正法は、1選挙区の定数を2増する措置を講 じたにとどまり、附則に平成27年改正法と同様の規定を設けることもなかったのであって、平成30年改正時点の立法府における投票価値の較差の更なる是正を指向する姿勢は、平成27年改正時点よりも弱まっていたといわざるをえず、令和2年大法廷判決も、平成30年改正法について、上記較差の更なる是正のために必要な取組が大きな進展を見せ ているとはいえないと判示した(もっとも、同判決は、平成30年改正- 30 -法により、選挙区間の最大較差を3.08倍(平成28年選挙当時)から3.00倍(令和元年選挙当時)へと僅かではあるが縮小させたこと、立法府において、平成30年改正までに、参議院議員の選挙制度について、成案には至らなかったものの具体的な提案を踏まえた様々な議論や検討がされていたこと、参議院議員の選挙制度の改革に際しては、二院 制の下で参議院が果たすべき役割等を踏まえる必要があるなど事柄の性質上慎重な考慮を要し、その実現は漸進的にならざるを得ないこと等を指摘して、令和元年選挙当時の投票価値の不均衡が違憲状態にあったとはいえない旨判断した)。その後、参議院改革協議会や参議院憲法審査会において議論が行われたものの、都道府県を各選挙区の単位とする選 挙制度の仕組みを維持するか、選挙区の単位を都道府県に代えてより広域のものとするか、議員の総定数を増やすか等の具体的な方向性について意見の隔たりがあり、成案に至らないまま、令和4 位とする選 挙制度の仕組みを維持するか、選挙区の単位を都道府県に代えてより広域のものとするか、議員の総定数を増やすか等の具体的な方向性について意見の隔たりがあり、成案に至らないまま、令和4年選挙を迎えた。 ウ令和5年大法廷判決は、選挙区間の最大較差は3倍程度で推移しており、有意な拡大傾向にあるとはいえないこと、合区の解消を求める意見 も強い中、合区を維持して本件定数配分規定を維持したことなどを考慮して、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたとはいえない旨判断した。そして、合区の導入により合区対象県の投票率の低下や無効投票率の上昇がみられること等を勘案すると、有権者において、都道府県ごとに地域の実情に通じた国会議員を選出するとの考え方がなお強 く、これが選挙に対する関心や投票行動に影響を与えていることがうかがわれる点は、選挙制度の仕組みの見直しにあたり、代表民主制の下で国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる観点から慎重に検討すべき課題があることを示唆するものであるとして、立法府が較差の更なる是正に向けた取組を進め、合理的な成案に達するにはなお一定 の時間を要することが見込まれると相応の理解を示しつつも、これまで- 31 -人口の都市部への集中が生じており、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれるところ、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であること等を考慮すると、較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題であると述べたほか、立法府に対し、より適切な民意の反映が可 能となるよう、現行の選挙制度の仕組みの抜本的な見直しも含め、較差の更なる是正等の方策について具体的に検討した上で、広く国民の理解も得られるよ べたほか、立法府に対し、より適切な民意の反映が可 能となるよう、現行の選挙制度の仕組みの抜本的な見直しも含め、較差の更なる是正等の方策について具体的に検討した上で、広く国民の理解も得られるような立法的措置を講じていくことが求められると判示した。 令和4年選挙後の立法府における投票価値の較差の是正に向けた取組をみると、令和4年選挙後に設置された参議院改革協議会及び選挙制度に 関する専門委員会において議論が行われたものの、法改正はおろか、選挙制度の仕組みの見直しについて、具体的な方向性すら示されないまま本件選挙に至り、選挙区間の最大較差は、3.03倍(令和4年選挙時)から3.13倍(本件選挙時)へとわずかではあるが拡大した。立法府における議論の具体的な中身をみても、都道府県単位の選挙区制度を維 持しながら較差の是正を図るのか、ブロック制等の都道府県単位から離れた選挙制度を導入するのかなど、議論の状況は令和4年選挙前の状況からほぼ進展がなく、基本的な方向性も定まっておらず、令和10年通常選挙に向けた議論の継続を明示するにとどまっていることからすると、選挙区間の較差の是正のための取組としては、具体性の乏しいものにと どまっていたといわざるを得ない。 エ以上によれば、本件選挙当時、憲法上大きな問題のある水準の選挙区間の最大較差があり、令和4年選挙時と比較しても最大較差は拡大し、約3倍の最大較差が約10年間継続しているのであって、これが自然に解消あるいは大きく縮小することは考え難いところ、立法府における較差の是正 を指向する姿勢は平成27年改正時のものと比べて著しく、平成30年改- 32 -正時のものと比べても明らかに弱まったまま、7年間以上にわたって選挙制度の見直しがなされず、選挙区間の較差の解消に向けた議 する姿勢は平成27年改正時のものと比べて著しく、平成30年改- 32 -正時のものと比べても明らかに弱まったまま、7年間以上にわたって選挙制度の見直しがなされず、選挙区間の較差の解消に向けた議論もほぼ進展がない状態が継続しているのであって、かかる状態における本件選挙時の選挙区間における投票価値の不均衡が、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にはないというのであれば、選挙制度の見直しについての議論 は膠着状態のまま、このような較差の存在が継続して、常態化することも強く懸念されるところである。 これらの諸点に照らせば、本件選挙当時の選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったというべきである。 (3) 次に、本件選挙までの期間内に、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態の是正がされなかったことが、国会の裁量権の限界を超えるか否かについて検討する。 平成29年大法廷判決、令和2年大法廷判決及び令和5年大法廷判決は、平成27年改正後又は平成30年改正後の定数配分規定の下での選挙区間に おける投票価値の不均衡が違憲状態にあったものとはいえず、各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないと判断した。令和5年大法廷判決は、いわゆる付言において、これまで人口の都市部への集中が生じており、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれるところ、国民の利害や意見を公正かつ効果的に反映させる選挙制度が民主政治の基盤であ り、投票価値の平等が憲法上の要請であること等を考慮すると、較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題である旨を判示したが、較差の是正については、合理的な成案に達するにはなお一定の時間を要することに理解を示す判示もしており、このような平成 と等を考慮すると、較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題である旨を判示したが、較差の是正については、合理的な成案に達するにはなお一定の時間を要することに理解を示す判示もしており、このような平成29年大法廷判決、令和2年大法廷判決及び令和5年大法廷判決の判断及び判示を考慮すれば、国会において、本件選 挙までの間に、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均- 33 -衡が、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったことを具体的に認識することができたとまではいえない。また、国会が具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり、都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体は否定されないところ、平成27年改正により導入された合区につき、その解消を求める意見も根強く存在しており、投票価値の平等を 実現するための具体的な方策を策定し、合意を形成するにはなお時間を要することが見込まれる。 そうすると、本件選挙までの期間内に、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態の是正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたというこ とはできない。 (4) これに対し、原告らは、参議院議員選挙における投票価値の較差の問題について、①当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否か、②上記の状態に至っている場合に、当該選挙までの期間内にその是正がされなかった ことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かという判断枠組みを採ってきた判例について、憲法前文第1段第2文、信託法30条、8条の趣旨に照らし、国会議員が国民 が国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かという判断枠組みを採ってきた判例について、憲法前文第1段第2文、信託法30条、8条の趣旨に照らし、国会議員が国民の信託を受けた受託者であることにより負う義務を踏まえると、国会に裁量はなく、上記①が肯定されれば、憲法98条1項により、当該定数配分規定は違 憲無効とされるべきであり、上記②の判断を要するとした点は不当であると主張する。 しかしながら、憲法は、投票価値の平等を要求していると同時に、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのようにするかの決定を国会の裁量にゆだねているのであり、国会が裁量の合理的 な行使として定めた選挙制度の下で投票価値の著しい不平等が生じ、かつ、- 34 -それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが国会の裁量権の限界を超えると判断される場合に、当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解されることは、前記2(1)アのとおりであり、このような解釈が憲法前文等の趣旨と抵触するものではないし、投票価値の著しい不平等状態の是正措置が講じられなかったことが国会の裁量権の 限界を超えない場合に定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということができないと解することが、憲法の最高法規性を定める憲法98条1項に抵触するものともいえないから、原告らの上記主張は採用することができない。原告らのその他の主張についても、既に判示したところと異なる主張は、いずれも採用することができない。また、被告らは、本件選挙は違憲の問題 が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態に至っていたとはいえない旨を主張するが、その限度において採用することができない。 第4 結 することができない。また、被告らは、本件選挙は違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態に至っていたとはいえない旨を主張するが、その限度において採用することができない。 第4 結論 よって、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所宮崎支部 裁判長裁判官 小田島靖人 裁判官 俣木泰治 裁判官 鈴木麻奈美

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