令和4(わ)354 逮捕監禁、保護責任者遺棄致死

裁判年月日・裁判所
令和6年2月16日 大阪地方裁判所 堺支部
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判決文本文5,753 文字)

主文 被告人を懲役9年に処する。 未決勾留日数中460日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、Aと内縁関係にあり、大阪府富田林市(住所省略)被告人方において、前記Aと共に、孫であるB(令和▲年▲月▲日生、当時2歳)と同居し、同人を養育していたものであるが、Aと共謀の上第1 被告人及びAの外出中にBが同所で自由に行動できないよう、同人を逮捕監禁しようと考え 1 令和4年6月24日午後7時17分頃から同月25日午後0時13分頃までの間、同人を、同所寝室に設置した、四方の側面を板張りにし、上面に開閉式の板の蓋を付けたベビーサークル内に閉じ込め 2 同日午後3時17分頃から同月26日午後0時22分頃までの間、同人を前記ベビーサークル内に閉じ込め 3 同日午後4時56分頃から同月27日午後0時14分頃までの間、同人を前記ベビーサークル内に閉じ込め 4 同日午後6時33分頃から同日午後8時3分頃までの間に、同人の両腕及び両足を粘着テープで緊縛した上、その頃から同月29日までの間、同人を前記ベビーサークル内に閉じ込めもって同人を不法に逮捕監禁し第2 被告人及びAの両名とも、Bの養育者として、同人の生存に必要な保護を行うべき責任があるのに、同月27日午後8時3分頃、同人を前記ベビーサークル内に置き去りにして遺棄するとともに、その頃から同月29日までの間、同人を同ベビーサークル内に放置して、同人に十分な水分や食事を与えることも、同ベビーサークル内の気温を適切に管理することもないまま、同人の生存に必要な保護をせず、 よって、同日、同ベビーサークル内において、同人を熱中症により死亡させたものである。 えることも、同ベビーサークル内の気温を適切に管理することもないまま、同人の生存に必要な保護をせず、 よって、同日、同ベビーサークル内において、同人を熱中症により死亡させたものである。 (証拠の標目)[括弧内の番号は、証拠等関係カード記載の証拠番号を示す。]省略(争点に対する判断)第1 本件の争点本件の争点は、①被告人が令和4年6月27日にBの両腕及び両足を粘着テープで緊縛したか、②判示記載のベビーサークルの上面に本件各犯行の時点で開閉式の板の蓋(以下「本件蓋」という。)が付いていたかである。なお、以下の月日は、断わりのない限り、令和4年を指す。 第2 争点に対する判断 1 争点①被告人は6月27日にBの両腕及び両足を粘着テープで緊縛したか⑴ 被告人の四男であり、被告人らと同居していた当時15歳の高校生Cは、この点について、検察官調書において、要旨以下のように供述する。 6月28日、帰宅した際に、Bがベビーサークルにいるのを発見した。ベビーサークルの二つ折りの蓋は、半分に折りたたまれた状態で、半分が開いた状態だった。Bは、手首の部分にガムテープが巻きつけられて、両腕が縛られており、Bの両足にも足首のあたりにガムテープが巻きつけられて、両足が縛られていた。 被告人に電話で「ママ、Bに水とかご飯、あげといた方がいいかな」と尋ねると、被告人から「いや、出るときにご飯あげたから、いいよ。水だけは絶対あげといて。」と言われたため、Bに水を飲ませた。その際に、Bの両腕のガムテープをいったん剥がしてから再度縛り直した。6月29日午後4時頃、高校から帰宅した際に、Bがベビーサークルの中で、両腕両足をガムテープで縛られた状態のまま、ぐったりとして横たわっており、口からは血のようなものを出しているのを発見した。被告人に電話をか 後4時頃、高校から帰宅した際に、Bがベビーサークルの中で、両腕両足をガムテープで縛られた状態のまま、ぐったりとして横たわっており、口からは血のようなものを出しているのを発見した。被告人に電話をかけ、その指示により、Bを風呂場に連れていって身体に水をかけたり、Bの両腕両足を縛っていたガムテープをはさみで切って捨てたり した。 ⑵ Cの前記供述は、被告人や自己に不利な内容を多く含んでいるところ、C自身、当公判廷において、母である被告人を尊敬しており、一番大切な人である旨述べていることからしても、あえて被告人や自己に不利になるような虚偽の供述をするとは考えにくい。 また、Cの前記供述は、6月30日に被告人方のごみ箱内から、濡れた状態のガムテープ16片の塊が発見され、そのうちの1片にはB単独のDNA型と矛盾しない人血や微物が付着していたこと、一部のガムテープ片には先端部をはさみで切ったと思料されるものがあったことに加え、司法解剖の結果、Bの左右手首には、紐状の物あるいはテープ等の縁による圧迫で生じたと考えられる左右対称の損傷が認められたこととも整合する。 以上より、Cの前記供述は、あえて虚偽供述をするような動機も見当たらない上、重要な部分において客観的な証拠と整合するから信用できる。 ⑶ これに対し、弁護人は、Cは取調べ当時、被告人が逮捕されたことや報道の過熱によって強い不安や緊張、ストレスに晒されていたところ、ガムテープで緊縛されていたに違いないなどの予断を持った警察官の取調べを受けたことで過去の出来事の記憶と混同するなどして記憶が変容させられた可能性があると主張する。しかしながら、Cの前記供述は、Bが死亡した前後の状況というCにとって印象的な体験に係るものであり、過去の出来事との混同が容易に生じるものとは考えがたい。これ 変容させられた可能性があると主張する。しかしながら、Cの前記供述は、Bが死亡した前後の状況というCにとって印象的な体験に係るものであり、過去の出来事との混同が容易に生じるものとは考えがたい。これに加えて、Cは、警察官の取調べ後に行われた検察官の取調べにおいて、検察官の誘導にのるような様子もなく、上記供述の重要な部分において自ら詳細かつ具体的に話をしていることや、従前の警察官に対する供述を含む自らの供述の訂正や調書の修正を求めるなどしていたことからしても、前記検察官調書における供述が、変容させられた記憶に基づくものである可能性は低いと考えられる。 以上より、弁護人の主張を踏まえても、Cの前記供述の信用性は揺らがないと いうべきである。 ⑷ 結論前記のとおり信用できるC供述その他関係証拠を踏まえれば、被告人は、6月27日に被告人方を出発するまでの間に、Bの両腕及び両足を粘着テープで緊縛したと認められ、これに反するA及び被告人の当公判廷における供述は採用できない。 2 争点②判示記載のベビーサークルの上面に本件蓋が付いていたか前記のとおり信用できるC供述等の関係証拠を踏まえれば、判示のとおり、本件当時、ベビーサークル上面には本件蓋が付いた状態であったことが認められ、これに反するA及び被告人の当公判廷における供述は採用できない。 なお、弁護人は、6月23日付けのベビーサークルの写真において、本件蓋及びその影が写っていないことからすれば、同日時点においては被告人等が述べるように既に本件蓋はベビーサークルから取り外されていた旨主張するが、関係証拠上、本件蓋が設置されていた場合に同写真の撮影が不可能であることを示す具体的事情はうかがわれないから、同写真の存在は、前記の認定を左右するものではない。 (法令の適用)省略( るが、関係証拠上、本件蓋が設置されていた場合に同写真の撮影が不可能であることを示す具体的事情はうかがわれないから、同写真の存在は、前記の認定を左右するものではない。 (法令の適用)省略(量刑の理由)被告人らは、幼いBをベビーサークル内に長時間閉じ込めて外出、外泊するという行為を繰り返した上、Bの両腕両足を緊縛して約35時間にもわたって閉じ込めて置き去りにして外出、外泊し、十分な水分や食事を与えることも適切な温度管理をすることもせずに放置した。このベビーサークルは、被告人及びAがベビーベッドを改造して作成したものであるが、Bの身長よりも高いベニヤ板で四方を囲まれ、上部に蓋が取り付けられた1立方メートルにも満たない狭い空間であり、視界が遮られて熱がこもりやすく風通しの悪い劣悪な環境であった。これらのことからすれば、逮捕監禁行為が悪質であるのはもとより、遺棄不保護行為は、Bを衰弱させ、 熱中症によって死亡させる危険性の高い行為であった。この点、弁護人は、Bが死亡するに至ったのは、6月29日の最高気温が高かったことや、Cが同日Bに水分や食事を与えるのを怠ったという被告人の想定しえなかった事情が影響しており、本件は特段悪質な部類とはいえないと主張する。しかし、被告人の供述を前提としても、被告人も本件当時気温が高く暑かったことは認識していた上、信用できるC供述等の関係証拠によれば、被告人は、6月27日に2泊3日の外泊のために自宅を出発するに当たり、Cに対してその旨及びBを自宅に置いていく旨を伝えていないこと、6月28日、Cに対し、Bには前日に食事を与えたから食事を与える必要はない旨述べていること、本件以前にも、Bの食事について「今日の朝あげたからいいよ」などと食事は1 日に1 回でよいとの趣旨の発言をしていることを踏まえる Bには前日に食事を与えたから食事を与える必要はない旨述べていること、本件以前にも、Bの食事について「今日の朝あげたからいいよ」などと食事は1 日に1 回でよいとの趣旨の発言をしていることを踏まえると、そもそもCにおいてBに食事等を与えることを期待していたか疑問があるから、弁護人が主張する点を踏まえても、上記判断は揺るがない。 Bはわずか2歳11か月でその尊い命を奪われており、結果が重大であることはいうまでもない。さらに、Bはこのような劣悪な状況に一人取り残され、空腹と脱水状態の中で、時間をかけて死亡に至っており、その過程で味わったであろう苦痛や絶望感は察するに余りある。Bの実母が法廷において悲痛な被害感情を表しているのも当然である。 Bの遺体を司法解剖した医師の供述によれば、司法解剖時点で、Bの身長体重はともに標準の下位数パーセントであり、Bは栄養不良状態にあったと認められる。 これに加え、前記のとおり、被告人は、本件以前にも、Bの食事は1 日に1 回でよいとの趣旨の発言をしており、Bは日頃から十分な食事を与えられていなかったものとうかがわれる。また、Bは本件以前から、少なくとも被告人らが長時間目を離す際には緊縛されてベビーサークルに閉じ込められることがあったことや、保育園を退園させられるなどして健全な発達の機会を奪われていたことなどからすれば、本件は、日常的な虐待行為の末の犯行であったというべきである。 被告人は、日頃からBの世話を十分に行うことなく、ベビーサークルにBを入れ て外泊することが常態化する中で、Bに煩わされることなく、AやAとの子である五男とともにテーマパーク等で遊興する時間を楽しみたいという身勝手な目的で本件犯行に及んでいる。被告人は、Bをベビーサークルに入れ、緊縛を行い始めた理由には、Bがおむつを脱い く、AやAとの子である五男とともにテーマパーク等で遊興する時間を楽しみたいという身勝手な目的で本件犯行に及んでいる。被告人は、Bをベビーサークルに入れ、緊縛を行い始めた理由には、Bがおむつを脱いで汚物を散らかしたり、陰部を床にこすりつけたりするなどの行動を防ぎたいという思いがあったと述べるが、被告人には、これらの行動について公的機関に相談するなど、より適切な選択肢を真摯に検討した形跡は認められない。弁護人は、被告人がBを緊縛するようになったのは、自身が過去に性的被害等を受けた経験からBの自慰行為を受け入れることができなかったことが影響している旨や、本件において、公的機関が責任を果たさなかったことが犯行につながった旨主張する。しかし、被告人は、Bの前記行動について公的機関に相談するなどしていなかったことは前記のとおりであるところ、被告人の性的被害等の経験についての弁護人の指摘を踏まえても、少なくとも汚物を散らかす行為については公的機関に相談するに当たって特段の支障は認め難い。弁護人は、被告人が境界知能で本件当時うつ症状下にあったため、思考や判断などの認知機能が低下していたと主張するが、被告人の精神鑑定を行った医師の鑑定によっても、認知機能の低下は限定的であり、本件犯行に与えた影響は間接的なものにとどまると認められる上、被告人は、本件当時も実子であるCや五男の生活は十分気に掛けることができており、年少者の養育を行うについて特段能力的な支障があったとはうかがわれない。 そうすると、弁護人の主張を踏まえても、本件犯行の動機や経緯に酌むべき事情は乏しいというべきである。 被告人は、自らが中心となってBの養育等を行う立場にあったのだから、Bの生命身体の安全は被告人に最も依存していた。にもかかわらず、被告人は、本件においてBをベビーサークルに閉じ 主文 というべきである。被告人は、自らが中心となってBの養育等を行う立場にあったのだから、Bの生命身体の安全は被告人に最も依存していた。にもかかわらず、被告人は、本件においてBをベビーサークルに閉じ込めることや緊縛を自ら行い、置き去りも主導しているから、その果たした役割や関与の程度はAよりも大きい。以上の犯情等に照らすと、本件は、動機が児童虐待である保護責任者遺棄致死の同種事案の中では、中程度の中でもやや重い部類に位置付けるのが相当である。 理由 その上で、被告人が本件後直ちに119番通報をしなかったことなどの犯情以外の事情も考慮し、その刑事責任に見合う量刑として、主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑・懲役9年、弁護人の科刑意見・懲役5年6月)令和6年2月19日大阪地方裁判所堺支部第1刑事部 裁判長裁判官藤原美弥子 裁判官河本薫 裁判官吉田怜

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