平成21(行ウ)17 懲戒免職処分取消等請求事件(通称 岐阜県職員懲戒免職)

裁判年月日・裁判所
平成23年2月24日 岐阜地方裁判所 その他
ファイル
hanrei-pdf-81203.txt

判決文本文31,299 文字)

- 1 -平成23年2月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成21年(行ウ)第17号懲戒免職処分取消等請求事件 主文 1 岐阜県知事が平成18年9月28日付けで原告に対してした懲戒免職処分を取り消す。 2 被告は,原告に対し,5884万4632円及びこれに対する平成22年1月23日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用はこれを3分し,その1を原告の,その余を被告の各負担とする。 5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 主文第1項と同旨 2 被告は,原告に対し,9112万9095円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成22年1月23日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,岐阜県職員であった原告が,岐阜県知事が原告に対して平成18年9月28日付けで行った懲戒免職処分(以下「本件処分」という。)は,裁量権の逸脱又は濫用によるものであり違法であると主張して,その取消を求めるとともに,違法な本件処分により給与,退職手当等の逸失利益,精神的苦痛- 2 -等の損害を被ったと主張して,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として9112万9095円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年1月23日から支払済みまで民法所定年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実又は後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)(1) 岐阜県に 月23日から支払済みまで民法所定年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実又は後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)(1) 岐阜県における裏金の状況等ア裏金作りが行われた背景等岐阜県では,予算は年度内に使い切るべきものとする意識が強かったことから,予算を余らさないための方策として,また,同時に,正規の予算には計上できないが,各課室等(以下「各所属」ともいう。)の業務を遂行していく上で必要と考えられていた費用を捻出するための方策として,いつころからかは不明であるが,相当昔から,各所属が架空の出張旅費や食糧費等を計上するなどして形成した金員を,予算外の公金(以下「裏金」という。「不正資金」,「プール資金」ということもある。)として保管・管理していた。平成6年度当時,裏金作りをしていた所属は,知事部局では,出先機関を含めて7割以上に上った。 こうした裏金は,国の所轄省庁等との懇談会の経費や土産代,会議等の参加負担金,ミニコミ誌等の購入費,来客用の茶・菓子代,平成7年1月以前の職員残業弁当代など,業務に関連する経費に使用されることもあったが,職員間の会議費,職員の懇親会等への補助,職員関係の慶弔費,退職者餞別金など業務に関連しない経費に使用されることもあった。 (甲5)イ裏金作りを行った担当者ないし裏金の管理・執行方法等裏金作りは,各所属の庶務係等を中心に行われてきた。各所属の庶務係に配属された職員は,やむを得ず職務として前任者から裏金作りを引き継- 3 -いでいた。庶務係長(総務係長)ないし,庶務係長のいない所属においては庶務主任(通称)が裏金を管理することが多く,裏金作り自体は,庶務係長や庶務主任自ら行う(人数の少ない部署)こともあれば 3 -いでいた。庶務係長(総務係長)ないし,庶務係長のいない所属においては庶務主任(通称)が裏金を管理することが多く,裏金作り自体は,庶務係長や庶務主任自ら行う(人数の少ない部署)こともあれば,庶務係長や庶務主任の命を受けて,実際の担当者(旅費請求の担当者,食糧費の担当者等)が行うこともあった。 裏金の管理方法は,庶務係長ないし庶務主任が,現金又は預金で管理していた。また,裏金の執行方法は,総括課長補佐(本庁)や総務課長(出先機関)の承認を得て,庶務係長ないし庶務主任が執行していた。 平成4年度から同6年度までに作られた裏金の総額は,同年度当時の経理担当職員約850人(教育委員会を含む。)へのアンケート調査の結果から,約13億9800万円と推計されている。 (甲5,弁論の全趣旨)ウ平成7年度以降の裏金作りの状況平成7年ころから全国的に官官接待などが問題になったため,岐阜県では,平成7年5月に,予算の適正かつ効率的な執行を図るため,予算執行検討委員会が設置され,また,岐阜県対外交流予算管理委員会が設置されて対外交流費の執行基準が設けられた。さらに,上記両委員会は,連携して平成7年4月から同年9月までの食糧費を対象に総点検を行い,同年11月,問題とされる接待とみなされる支出は皆無であったとの報告を公表した。なお,抜き取り調査はその後平成10年まで毎年実施された。さらに,平成9年3月の「弔事対応基準」等の策定,同年6月の旅費の支給方法の口座振替への変更など,裏金作り及び裏金の使用に対する規制が働く仕組みへの改善がされた。こうして,岐阜県の相当数の所属では,平成7年度の夏以降に裏金作りをやめるようになり,同9年末頃にはほぼ行われなくなったが,若干の例外がないではなく,それでも平成7年度の1年間で総額 改善がされた。こうして,岐阜県の相当数の所属では,平成7年度の夏以降に裏金作りをやめるようになり,同9年末頃にはほぼ行われなくなったが,若干の例外がないではなく,それでも平成7年度の1年間で総額約2億0437万8000円の裏金が作られていたのに対し,平成- 4 -8年度から同15年度までの間には合計9484万3000円へと減少した。 (甲5,乙5)エ知事らによる平成7年度から同9年度ころの裏金への対応平成7年度以降,岐阜県が行った上記総点検は,同年4月以降の対外交流経費に関する支出の点検に止まり,それ以前の裏金作りの実態にまで踏み込むことはしなかった。 平成7年12月の岐阜県議会定例会において,「旅費による裏金作りが行われていないかとの疑問が寄せられている。」との質問に対して,当時のa総務部長(以下,役職名はすべて当時のものである。)は,「ご指摘のような問題のある出張はないと考えております。」と答弁した。 しかし,平成8年中に他県で不正経理が表面化したため,b知事は,岐阜県でも総点検を行うべきとの考えを持つに至った。ところが,平成8年3月に自治省から着任したc副知事は,裏金問題が表面化する前に知事がイニシアティブをとって総点検すれば,知事のために苦労してきた職員から批判が起きたり職員の動揺や相互不信などが生じて県庁全体が混乱したりすると考え,b知事に対して,知事の出張旅費の一部にも裏金が使われているとの一例を挙げて庁内事情を説明し,事態の推移を見守ることを進言したところ,b知事もこれを了承し,裏金の徹底的な調査を見送ることとした。また,b知事は,平成9年3月の岐阜県議会定例会において,同8年2月に8所属,同9年2月に14所属について旅費の抜取り検査を実施したが不正な事例はなかった旨答弁した(この答弁と前記a ることとした。また,b知事は,平成9年3月の岐阜県議会定例会において,同8年2月に8所属,同9年2月に14所属について旅費の抜取り検査を実施したが不正な事例はなかった旨答弁した(この答弁と前記a総務部長の議会答弁と併せて,以下「知事らの議会答弁」という。)。しかし,この抜取り検査の結果は,各所属に不正経理に対する規制が働くようになっていたためであり,裏金作りに関する過去の実態を精査したものではなかった。そのため,これまで裏金作りがされてきた事実や,これによって各所- 5 -属で保管・管理されている裏金については,調査さえ行われることなく放置されることとなった。 (甲5)オ h職員組合への集約(ア) 平成10年度末の集約岐阜県では,平成11年度から,かつてない大規模な県本庁組織の再編(部の分割・再編,局の新設)を行うこととなり,その準備が同10年度から進められていた。組織再編の見直しが職員に明らかになったころから,裏金を管理する庶務係長らに再編後の裏金管理に対する不安が広がり,また,その頃,c副知事は,1億円に上る裏金が各所属に残存していることを聞き知った。 (甲5,11)そこで,c副知事は,d知事公室長に対し,各部に裏金が残っているらしいことを伝え,職員による私的流用などの不祥事が起きないように,これを集約することを指示した。c副知事から指示を受けたd知事公室長は,指示された業務が本来総務の仕事であると考えてe総務部長に相談したが,妙案が浮かばなかったため,f出納長に相談することとした。f出納長は,g代表監査委員とも相談したうえ,h職員組合(以下「職員組合」という。)の口座に集めさせることをd知事公室長に提案し,受入用口座の開設を職員組合の書記次長に指示した。書記次長は,平成11年1月11 g代表監査委員とも相談したうえ,h職員組合(以下「職員組合」という。)の口座に集めさせることをd知事公室長に提案し,受入用口座の開設を職員組合の書記次長に指示した。書記次長は,平成11年1月11日,i銀行j支店に職員組合の普通預金口座(口座名「中央執行委員長 k」)を設けた。 (甲5,乙5)平成11年1月19日午後4時ころ,f出納長は,k職員組合委員長及びe総務部長の代理のl総務部次長を出納長室に呼び,k職員組合委員長に対して,各所属が作った裏金を職員組合で受け入れてほしい旨要- 6 -望した。後任に引き継ぐこともできずノイローゼになっている庶務担当者がおり,自殺者も出かねないとの話を聞いたk職員組合委員長は,組合員のためならとの思いでその要請を受けることとした。そして,f出納長は,l総務部次長に対し,「この件について,関係者の間で確認するために,今晩料亭Uに集まるように。(e総務部長にも出席するよう伝えるように。)」と指示した。 (甲5,11)平成11年1月19日午後7時ころ,指定された料亭に,d知事公室長,e総務部長,l総務部次長,f出納長及びk職員組合委員長の5名が集まり,不正資金の職員組合への集約について確認がされた。具体的には,「①裏金を保管している庶務担当者の精神的な負担を解消し,また裏金が行方不明になったり,個人的に流用されたりしてしまうような,新組織への引継ぎに当たっての混乱を防止するため,とりあえず,各課で保管されている裏金を職員組合に集約する。②裏金の集約は,現金の持込みでなく,職員組合名義の銀行口座に振り込む方法とする。口座番号は,後日職員組合から連絡する。③職員組合への振込みは,2月中にするよう各課に伝える。④各課への連絡は,知事公室長の指示のもと,総務部次長及び知事公室次長が相談して 座に振り込む方法とする。口座番号は,後日職員組合から連絡する。③職員組合への振込みは,2月中にするよう各課に伝える。④各課への連絡は,知事公室長の指示のもと,総務部次長及び知事公室次長が相談して行う。」旨が確認された(以下,職員組合へ裏金を集約するというこの決定を「本件集約決定」という。)。 (甲5,11)平成11年1月20日,d知事公室長は,l総務部次長及び知事公室次長であった原告を知事公室長室に呼び,本庁各課に裏金が存在しているかもしれないと説明し,同年1月中に,教育委員会,警察及び現地機関を除く本庁各課の総括課長補佐等に対し,口頭で,「裏金がある場合には(あるのか,ないのかは問わない。なければ結構なこと。),一つ- 7 -の方策として組合(訴訟費用のカンパ等の基金)への寄付ということも考えられているので,振込先の口座番号をお知らせする(ただし,他に方策をとったり,考えておられれば結構なこと。)。あくまで各課の判断,責任で処理されたい。」という内容で,示唆的に連絡することを指示した(以下「本件指示」という。)。このとき,d知事公室長は,「これは裏金があるかどうかを調べるのではなく,もし裏金が残っていて困っている場合の一方策をお知らせするものであること」及び「あくまで各課の責任と判断でやってもらうこと」を原告及びl総務部次長に対して特に念押しした。本件指示を受け,原告及びl総務部次長は,庶務係(会計)のない課を除外して連絡をする対象とする課(61課)を特定したうえで,全体のほぼ半数ずつの課への連絡を手分けして分担することとし,同年1月中又は遅くとも同年2月初めころまでに,それぞれ各課の総括課長補佐に対し,本件指示の内容につき口頭で連絡を行った(以下「本件伝達行為」という。本件集約決定,本件指示及び本件伝 ることとし,同年1月中又は遅くとも同年2月初めころまでに,それぞれ各課の総括課長補佐に対し,本件指示の内容につき口頭で連絡を行った(以下「本件伝達行為」という。本件集約決定,本件指示及び本件伝達行為に基づいて,平成10年度中に職員組合へ裏金が移転・集約されたことを,以下「本件集約」という。)。 d知事公室長は,そのころ,裏金を職員組合に集約することとしたことをc副知事に報告した。 (甲5,11,12,乙8,原告本人)平成10年度中に,5639万7723円の裏金が,主に口座振込みの方法によって,集約用口座として開設された「中央執行委員長 k」名義の口座に振り込まれることにより職員組合に集約された。各課総括課長補佐等への連絡内容が指示ではなく示唆的であったことや,対応すると不正資金の存在を認めたことになるなどの理由により,多くの所属が静観して他の所属の様子を窺う態度に出たため,本件集約に応じたのは一部の所属にとどまった。 - 8 -(甲5,乙5)(イ) 平成11年度以降の集約平成11年度以降も,裏金の扱いに困った各所属が噂で職員組合への裏金の集約の話を聞いたり,同13年3月に発表された中山間地事件(同7年度から同11年度の高冷地農業試験場及び中山間地農業試験場において,試験研究の過程で収穫された農産物の売払い代金を過少に調定して一部を県に入金しないで資金を捻出し,正規の会計手続をとれば支出可能な費用のほか,懇親会経費など県費でも対応できない流用や支出確認がとれないものへの支出があったというもので,停職6か月の4人を含む合計39人が処分を受けた事件)の発生や,その後会計事務特別検査の一環として出納課が抜き打ち検査を開始したことなどが契機となり,職員組合への裏金の集約が進んだ。 また,平成13年度には,金 人を含む合計39人が処分を受けた事件)の発生や,その後会計事務特別検査の一環として出納課が抜き打ち検査を開始したことなどが契機となり,職員組合への裏金の集約が進んだ。 また,平成13年度には,金融機関がペイオフ準備の一環として県の口座の名寄せを実施する際に,各所属毎に預金として保有していた裏金の存在が表面化するおそれがあったことから,副出納長がこれを避けるため,同年10月ないし11月頃,自らの判断で主管課の管理調整担当の責任者を集めた説明会を開催し,「ペイオフ準備の一環として金融機関では名寄せが行われる。不明な口座が出て,金融機関から照会されたら適正に対応してほしい。」旨を説明した。その後,副出納長のもとにいくつかの所属から裏金の処理に関する相談があったことから,副出納長は,裏金の職員組合への集約を10件程度仲介した。 平成11年度から同17年度までの間に,約2億6930万円の裏金が職員組合に集約された。このうち,平成13年度が最多であり,約1億4565万円が集約された。平成11年度以降の裏金の職員組合への集約は,すべて現金授受の方法により行われた。職員組合は,受け取った裏金を金庫に現金のまま保管したり,預金口座に入金したりするなど- 9 -していた。 (甲5,乙5)(ウ) 職員組合に集約された裏金の使途等職員組合に集約された裏金のうち,約1億4000万円余りが,職員組合において費消され又は正規会計へ繰り入れられた。その内訳は,約5800万円から6800万円が職員組合の行事費や他の労働組合などとの交流経費等として,約200万円が県や報道機関が主催する各種イベントの協賛金として,約900万円が県や民間企業が主催する事業のチケット購入代として,約3970万円から4980万円が職員への貸付その他の支援等(県の ,約200万円が県や報道機関が主催する各種イベントの協賛金として,約900万円が県や民間企業が主催する事業のチケット購入代として,約3970万円から4980万円が職員への貸付その他の支援等(県の不正経理に協力して倒産に追い込まれたと主張した企業への助成として2000万から3000万円,懲戒処分を受けた職員に対する生活資金の貸付及び助成として1450万円,多重債務職員に対する貸付として450万円等)としての費消である。また,約2158万円が職員組合の正規会計へ繰り入れられた。これらのほか,1000万円及び665万円がそれぞれ職員組合の役員によって横領されていた。平成18年の時点で,約1億4601万円が預金残高として残存していた。 (甲5,乙5,19)カ職員組合に集約されなかった裏金平成18年の時点において,職員組合の口座に集約されなかった裏金のうち約1050万円が各課で保管されていたほか,約1億4824万円が職員個人(OBを含む。)により保管されており,また,約585万円が焼却又は廃棄され(真偽は定かでない。),約1663万円が私的に流用されていた。 (甲5)キ裏金発覚の経緯等- 10 -岐阜県における裏金問題は,「県,億単位の裏金」と題する平成18年7月5日付けm新聞朝刊の記事により,平成10年度に出納当局の指示により職員組合の口座に裏金が集約されたとする事実があるとして報道がされ,以後,新聞各紙やテレビ報道等により大きく取り上げられることになった。(乙14~21)これを受けて,平成18年7月5日,n副知事をリーダーとする資金調査チームが設置されて裏金に関する調査が開始され,同年8月3日,その結果が報告された(乙5)。また,第三者の立場からさらに調査が進められる必要があるとして,同年7月24日 知事をリーダーとする資金調査チームが設置されて裏金に関する調査が開始され,同年8月3日,その結果が報告された(乙5)。また,第三者の立場からさらに調査が進められる必要があるとして,同年7月24日,弁護士3名からなるプール資金問題検討委員会が設置され,同年9月1日,その調査結果が報告された(甲5)。 (2) 原告の経歴等ア原告は,昭和45年3月に「岐阜県職員採用選考上級統計」に合格し,同年4月に岐阜県職員となって以来,本件処分を受けるまでの経歴は以下のとおりである。 昭和45年 4月企画開発部統計課主事同47年 4月企画部統計課主事同51年 4月企画部企画調整課主事同53年 4月企画部企画調整課主任同56年 4月総務部財政課主任同57年 4月総務部財政課主査同63年 4月総務部秘書課主査平成元年 4月総務部秘書課課長補佐同 4年 4月総務部秘書課総括課長補佐同 5年 4月総務部総合政策課総括課長補佐兼庶務係長同 6年 4月総務部人事課総括課長補佐- 11 -兼総務部総合政策課課長補佐同 7年 4月総務部人事課管理監兼総括課長補佐兼総務部総合政策課管理監同 8年 4月総務部秘書課長同10年 4月知事公室次長同11年 4月知事公室参事同12年 4月知事公室参事兼経営管理部参事同13年 4月農林商工部商工局長同16年 4月理事兼農林商工部農林水産局長同17年10月理事兼岐阜振興局長同18年 4月理事兼 部参事同13年 4月農林商工部商工局長同16年 4月理事兼農林商工部農林水産局長同17年10月理事兼岐阜振興局長同18年 4月理事兼岐阜振興局長・地域危機管理監イ平成10年度当時における岐阜県の本庁組織は,総務部,企画部,民生部,衛生環境部,商工労働部,農政部,林政部及び土木部の8部に加え,総合的な政策形成機能の強化を図るという観点から,部外の知事直轄の組織として,総合政策課,ウエルカム21推進室,秘書課,広報課の4課室が置かれていた。そして,これらの課室の出先機関として,18の試験研究機関,東京・大阪・名古屋の3事務所が置かれており,これらを合わせた25所属を統括させるために知事公室長と知事公室次長が置かれていた。知事公室は,政策部門における知事の直近の部署であり,重要な施策について知事から特に相談を受け,企画・立案する役割を担っていた。 (甲9,原告本人)(3) 本件処分の経緯等ア被告は,平成18年9月28日,原告に対し,地方公務員法29条1項1号に基づく免職処分(本件処分)をした。 本件処分の事由は,下記のとおりである。(甲2)記- 12 -平成10年度知事公室次長の職にあった際,全庁的に不正経理により捻出されてきたプール資金の処理について,平成11年1月末頃に県幹部の一部によりその不正資金をh職員組合に集約する決定がなされ,その内容を総務部次長と分担して,本庁61課の総括課長補佐等に口頭で数日をかけて示唆的に連絡がなされている。当時全庁的に不正資金が捻出されている可能性が非常に高いことを知りながら,これを公にせず職員組合へ集約することに加担したことは,不正資金の隠ぺいに深く関わったこととなる。この隠ぺい工作により, る。当時全庁的に不正資金が捻出されている可能性が非常に高いことを知りながら,これを公にせず職員組合へ集約することに加担したことは,不正資金の隠ぺいに深く関わったこととなる。この隠ぺい工作により,長期間当該事件が発覚せず,その間に公金の費消等が拡大する結果となった。県の中心的役職を担っていた者が,例え上司の指示があったとはいえ,このような不正を隠ぺいするという更なる不正を重ね,事件の発覚を遅らせた責任は重大であり,県民の県政に対する信用を根底から覆す結果となったことは,地方公務員法第33条に違反し極めて遺憾である。 イ原告は,平成18年11月20日,岐阜県人事委員会に対し,本件処分の審査請求を申し立てた。(甲3)岐阜県人事委員会は,平成21年11月12日,原告による上記審査請求を棄却した。 原告は,平成21年12月25日,本件処分の取消し等を求めて本訴を提起した。 2 争点(1) 本件処分が全く事実上の根拠に基づかないと認められるか(2) 本件処分は社会通念上著しく妥当を欠くか(3) 本件処分の手続的相当性(4) 損害額 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(本件処分が全く事実上の根拠に基づかないと認められるか)に- 13 -ついて(原告の主張)ア本件処分事由によると,「平成11年1月末頃に県幹部の一部によりその不正資金をh職員組合に集約する決定がなされ」とあるが,同集約決定(本件集約決定)は,岐阜県としての政策方針であった。 本件集約決定は,①悪しき慣習(残存するかもしれない裏金)をなくし,②特定多数の職員の計り知れない精神的負担を解消するため,③各課にあるかも知れない裏金をとりあえず集約し,④その後に適切に処理するためのものであるから,県の政策方針 するかもしれない裏金)をなくし,②特定多数の職員の計り知れない精神的負担を解消するため,③各課にあるかも知れない裏金をとりあえず集約し,④その後に適切に処理するためのものであるから,県の政策方針として十分ありうるものである。 イ被告は,本件処分事由の内容として,原告が,c副知事その他数名の県幹部職員により本件集約決定がなされたことをd知事公室長から伝達されながら,裏金の存在を公にせず,指示どおりに各課に連絡を行ったものであると主張する。 しかし,原告は,d知事公室長から,本件集約決定に至る経緯及び本件集約決定の存在自体,すなわち,本件処分事由のうち「平成11年1月頃,過去において全庁的に不正経理により捻出されてきた不正資金について,c副知事他数名の県幹部職員により,それを職員組合に集約する旨の決定がなされた」との事実を知らされていなかった。 ウ本件処分事由によると,「(原告は,)当時全庁的に不正資金が捻出されている可能性が非常に高いことを知りながら,これを公にせず職員組合へ集約することに加担したことは」とあるが,本件集約決定に基づく指示を上司から受けた平成10年度当時,原告は,知事らの議会答弁により,岐阜県においては,既に過去において存在した不正経理はなくなったものと考えていた。原告はd知事公室長から,「裏金があるかも知れない」という漠然とした内容のみを聞いており,これを聞いた後においても裏金は存在しないとの認識に変化はなかった。 - 14 -エ本件集約決定の過程で,代表監査委員が裏金情報を認識していたため,その時点で既に裏金の存在は公になっていた。既に公になってしまった情報につき,原告に「公にしなければならない義務」を課した本件処分事由は論理矛盾も甚だしい。 オ本件処分事由によると,「不正資金の隠ぺいに深く に裏金の存在は公になっていた。既に公になってしまった情報につき,原告に「公にしなければならない義務」を課した本件処分事由は論理矛盾も甚だしい。 オ本件処分事由によると,「不正資金の隠ぺいに深く関わったこととなる。」とあるが,職員組合に裏金を集約すること自体が隠ぺいであると結論付けることはできない。 また,原告の認識では,原告が本件指示によって命を受けた職務の内容は,もし本庁各課に裏金が分散して存在している場合には裏金を個人的な管理から引き離すことを目的に,本庁各課の担当(庶務関係者)に口頭で伝達する業務であり,隠ぺいに関わるなどという認識は皆無であった。 カ本件処分事由によると,「(原告は,本件集約決定に基づく連絡を)示唆的に連絡」したとされているが,原告は連絡の方法についても上司の指示を受けておりその指示に忠実に従ったものであるため,原告が意図的に「示唆的に」連絡したとされているのであれば事実誤認である。 キよって,本件処分事由には重大な事実誤認があり,裁量権の逸脱又は濫用によるものであるから,取り消されるべきである。 (被告の主張)ア本件集約決定は,当時の一部の県幹部職員によってなされたもので,岐阜県の政策方針であったものではない。 イ原告は,本件集約決定の内容を示唆的に連絡する行為を自ら行ったのであるから,その時点で裏金が存在する可能性が高いことを認識し,職員組合に裏金が集約されてもかまわないという意図があったことは否定できない。 また,裏金は,平成18年7月5日にその存在が明らかにされるまで,公になっていないというべきである。もっとも,本件処分事由で問題とし- 15 -ているのは,「公にしなければならない義務(を課した)」ではなく,職員組合へ裏金を集約することに加担した行為である。 公になっていないというべきである。もっとも,本件処分事由で問題とし- 15 -ているのは,「公にしなければならない義務(を課した)」ではなく,職員組合へ裏金を集約することに加担した行為である。 ウ職員組合とは,県自身の管理はもとより,県の外部からも監査の及ばない県とは全く別の組織であり,そのような組織に県の正規の会計に組み入れる措置を講ずることなく巨額な裏金を集約すること自体,裏金の隠ぺい工作というほかない。 エよって,本件処分事由には事実誤認はなく,本件処分は裁量権の逸脱又は濫用にはあたらない。 (2) 争点(2)(本件処分は社会通念上著しく妥当を欠くか)について(原告の主張)ア本件処分の対象となった原告の行為は,悪しき習慣(残存するかもしれない裏金)をなくし,特定多数の職員の計り知れない精神的負担を解消し,裏金の個人的な費消や焼却・廃棄などの非行を防止する行為であり,上司の指示命令に忠実に従って行われたものにすぎない。 イ原告は,本件指示が上司であるd知事公室長からの指示である以上,職員組合に裏金を集約することは当然に岐阜県としての方針であると認識していた。 原告が,上司の指示を独自の判断で公にすること自体,地方公務員法34条の守秘義務に反する違法な行為である。また,原告には地方公務員法32条に基づき,上司の「権限と責任」においてなされる指示命令を忠実に実行すべき責務を負う。そのため,「これを公にせず職員組合へ集約することに加担した」とあるのは,まさに原告に違法行為を求めるものであって,理不尽な要求である。 ウ本件処分事由には,本件集約決定の実施により,「長期間当該事件が発覚せず,その間に公金の費消等が拡大する結果となった」とあるが,原告にはそのような結果を予測し難かった。 - 16 -現に,本件 本件処分事由には,本件集約決定の実施により,「長期間当該事件が発覚せず,その間に公金の費消等が拡大する結果となった」とあるが,原告にはそのような結果を予測し難かった。 - 16 -現に,本件伝達行為により集約された裏金の総額は5639万7723円であるところ,その全額が,個人で隠匿保管したり,費消したり,寄付・焼却・廃棄をしたりする行為から免れたのである。裏金問題発覚以降,6名にものぼる自殺者,自殺未遂者が生じているところであり,原告による本件伝達行為により,「特定多数の職員の計り知れない精神的負担の解消」を実現でき,何人かの貴重な関係職員の人命を保護できたことは想像に難くない。 エ原告は,本件処分以外の懲戒処分を受けたことはない。懲戒免職処分はいわば使用者による一方的な解約権の行使であって,特別の不利益を伴うものである。しかも,懲戒処分を理由とする離職の場合,その社会的信用の格別の失墜と相まって再就職が著しく困難となる。 オよって,本件処分は社会通念上著しく妥当を欠き,裁量権を逸脱又は濫用したものと認められるから,取り消されるべきである。 (被告の主張)ア原告は,本件処分事由は守秘義務ないし忠実義務に抵触すると主張するが,まず,地方公務員法34条に規定する「秘密」とは,非公知の事項であって,実質的に秘密として保護に値すると認められるものをいうところ,職員組合への裏金の集約は,裏金の隠ぺいに他ならないから,全体の奉仕者として県民の利益のためにその職務を遂行すべき職員の服務の根本基準に一見して明らかに違反し,「秘密」として保護するに値しない。また,同様に原告になされた上司の指示命令には重大明白な瑕疵があり,拘束力がないから,上司の指示を忠実に実行したことを理由に,その違法性が阻却される らかに違反し,「秘密」として保護するに値しない。また,同様に原告になされた上司の指示命令には重大明白な瑕疵があり,拘束力がないから,上司の指示を忠実に実行したことを理由に,その違法性が阻却されるものではない。 さらに,地方公共団体は法令に違反してその事務を処理してはならないものであり,県が本件集約決定を政策方針とすることはあり得ない。 イ本件伝達行為の伝達内容には,裏金の集約の趣旨・目的,集約された後- 17 -の職員組合における管理方法,県への返還時期や方法といった点が含まれていないから,これに従う者が現れれば,本来,県に返還されるべき公金が返還されず,県の損害が回復されない結果になり得ることは原告にも充分予見可能であったにもかかわらず,漫然と本件伝達行為を行ったのであるから,原告の責任は重大である。 ウ原告が,本件処分以外に懲戒処分を受けたことがない点を考慮しても,裏金を職員組合に集約するという他県には例を見ない方法により,長期間にわたり裏金が隠ぺいされることになり,かかる県政又は県職員に対する信用,信頼を著しく失墜させるという結果が生じたことを考慮すると,本件伝達行為を行った原告の責任は重大である。 エ原告は,裏金が集約された平成11年1月以降も,県幹部職員としての要職を務めており,裏金の実態を明らかにする機会は十分に存在していた。さらに,原告は,職員組合へ集約した裏金について,自ら加担し,その存在を承知しながらも,その後どうなったのか,適切に処理されたのかなどの確認を何らすることなく,職員組合に隠ぺいされたままの状態で放置し続けた。 オ本件処分の処分量定の決定に当たっては,「懲戒処分の指針」(乙12)に基づき,県民の視点からも意見を聞いて公平,公正に行うため,平成 組合に隠ぺいされたままの状態で放置し続けた。 オ本件処分の処分量定の決定に当たっては,「懲戒処分の指針」(乙12)に基づき,県民の視点からも意見を聞いて公平,公正に行うため,平成18年9月25日,岐阜県公平審査会議の意見を聴取した。その結果,本件処分量定は妥当である旨の意見を得ている。 カ原告よりも高い職位にあったc副知事,f出納長,g代表監査委員,e総務部長,d知事公室長は,原告やl総務部次長よりも責任が重いともいえるが,それらの者は,本件処分時には既に退職しており,懲戒処分を行うことができなかった。 キよって,本件処分は,社会通念上著しく妥当を欠くとはいえず,裁量権を逸脱又は濫用したものとは認められない。 - 18 -(3) 争点(3)(本件処分の手続的相当性)について(原告の主張)憲法31条の適正手続条項は,本件のような行政処分にも適用されなければならないところ,被告は原告の弁明に基づく事実の確定を一切なさなかった。 被告は,原告に対する資金調査チームによる2回,プール資金問題検討委員会による1回,県総務部人事課による1回の聴取り等により,原告の弁明は十分に可能であったと主張するが,これらの聴取りは,そのいずれもが聴取り側からの事実確認のみであり,告知聴聞手続とは評し得ないものであったから,到底適正手続を履践したとみなすことはできない。 よって,本件処分は適正手続を欠き違法であるから,取り消されるべきである。 (被告の主張)行政処分の相手方に事前の告知,弁解,防御の機会を与えるかどうかは,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合考量して 行政処分の相手方に事前の告知,弁解,防御の機会を与えるかどうかは,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合考量して決定されるべきものであって,常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではない(最高裁平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁)。そして,その合理的裁量の基準の一つとして,処分の対象とされた事実認定に争いがなく,事実認定に関連して処分内容に影響を及ぼす虞がない場合には,そのような機会を与えることなくされた懲戒処分であっても違法にはならない。 公務員に対する懲戒処分については,行政手続法3条1項9号の規定により,同法の不利益処分に関する各規定は,弁明の機会の付与に関する規定も含めて適用が除外されている。また,岐阜県における懲戒処分の手続については,地方公務員法29条4項の規定に基づき,職員の懲戒の手続及び効果- 19 -に関する条例(昭和26年岐阜県条例第24号)及び職員の懲戒の手続及び効果に関する条例の施行に関する規則(昭和29年人事委員会規則第5号)に定められているところであるが,いずれも弁明の機会に関する規定はない。 よって,本件処分には適正手続違反はない。 (4) 争点(4)(損害額)について(原告の主張)原告は,違法な本件処分により,以下の損害を被った。 ア退職手当相当額 3516万5328円(計算式)54万2600円(行政職給料表9級41号)×59.28(支給割合)=3216万5328円5万円×60月=300万円(退職手当調整額)3216万5328円+300万円=3516万5328円イ定年退職時までの給与相当額 1767万9304円(計算式) 万5328円5万円×60月=300万円(退職手当調整額)3216万5328円+300万円=3516万5328円イ定年退職時までの給与相当額 1767万9304円(計算式)(57万1100円(給料月額)+14万2775円(管理職手当)+7138円(地域手当))×18月(本件処分時から定年退職する平成20年3月31日まで)=1297万8234円{57万1100円+7138円+(57万1100円+7138円)×20/100(役職加算)}×6.775月=470万1070円(平成18年12月,同19年6月及び同年12月分期末勤勉手当)1297万8234円+470万1070円=1767万9304円ウ慰謝料 3000万円原告は,数々の事実誤認があり,考慮すべき事実も考慮しない本件処分を受け,多大な精神的苦痛を受けた。 エ弁護士費用 828万4463円原告は,違法な本件処分の取消し及び損害賠償を得るため,弁護士に委- 20 -任して訴えを提起しなければならなかった。 (被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 本件伝達行為をした際における原告の認識及び本件伝達行為の評価に係る事実として,前記前提事実並びに証拠(甲5,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 裏金の存在に関する原告の認識原告は,本件指示を受けた平成11年1月20日ころ,各所属に裏金が残存していることについて明確な認識を有していなかったが,残存している可能性があるとの認識は有していた。 この点について,原告本人は,知事らの議会答弁があったことから,本件指示を受けたころ,岐阜県にはもはや裏金は存在しないという認識であった旨主張し,供述・陳述する。 しかし,前示のとお た。 この点について,原告本人は,知事らの議会答弁があったことから,本件指示を受けたころ,岐阜県にはもはや裏金は存在しないという認識であった旨主張し,供述・陳述する。 しかし,前示のとおり,裏金作りは岐阜県の多くの所属において相当昔から行われており,裏金は各所属の活動各般にわたって使用されていたのであるから,裏金が少なくとも過去に存在したことは,県職員の間ではいわば公知の事実であったと推認されること,そのころまでに裏金にまつわる問題は,多くの県などで深刻な政治問題となっていたのであるから(乙13の1ないし12),当時,知事公室次長という立場にあった原告が,この問題に無関心であったはずもないこと及び予算執行適正化対策等により過去に形成された裏金の使途は制限されていたことなどからすると,原告が,本件指示を受けた当時,知事らの議会答弁があったことをもって,過去に作られたものも含め,岐阜県に裏金は残存しないと認識していたとは到底考えることはできない。 けれども,他方,裏金は,文字通り,各所属が裏で形成・保管・管理して- 21 -いたものであること,また,平成7年夏以降,相当数の所属が裏金作りをやめる一方,これを継続する所属も一部にあったことなどからすれば,県幹部職員は,裏金作りについて対内的には一貫した方針を示さず,むしろ,裏金が残存している可能性を考慮して,その実体をことさら把握しない方針としていたことが窺われるというべきであり,原告もまた,裏金の残存している可能性を認識しつつ,その具体的な状況については明確な認識を有していなかったと考えられる。 以上のとおりであるから,原告は,裏金が残存していることについて明確な認識を有していなかったけれども,残存している可能性があるとの認識を有していたと認めるのが相当であり,上記原告本 と考えられる。 以上のとおりであるから,原告は,裏金が残存していることについて明確な認識を有していなかったけれども,残存している可能性があるとの認識を有していたと認めるのが相当であり,上記原告本人の供述等は採用できない。 (2) 本件集約の目的についての原告の認識原告は,本件指示及び本件伝達行為は,各所属で裏金を管理する者の精神的負担を軽減することや裏金の私的費消など不当な処理を防止することが主たる目的であると認識・理解していた。 この点,被告は,本件集約の目的が裏金管理担当者の負担軽減等にあったのではなく,裏金の存在の隠ぺい工作であった旨主張するので,以下に検討する。 前示のとおり,平成7年から同9年にかけて知事らの議会答弁が行われ,また,その間である平成8年ころ,b知事は,c副知事の進言を受け,過去に形成された裏金の総点検を見送ったのであるが,これらのことからすると,そのころ,知事,副知事及び総務部長らの県幹部職員は,岐阜県においては,裏金は,過去を含めて一切存在しないと対外的に説明する方針を採用したものと解される(以下「知事らの方針」という。)。しかし,県幹部職員は,対内的には裏金作りに対して一貫した方針を示さなかったため,県職員の間でも,裏金の存在が許容されるべきものであるか否かについての認識- 22 -・対応がばらばらな状態となっていたと推測され,また,前示のとおり裏金の使途が制限されるようになっていたことからすると,裏金は保管・管理責任を負うだけの邪魔な存在であるという認識が強まっていたことも推測される。そうすると,人事異動に伴う事務引継ぎにおいて,裏金の管理の引継ぎに混乱が予想されたことは想像に難くなく,あたかも平成11年度に予定されていた県本庁の組織再編は,部の分割・再編,局の新設等か れる。そうすると,人事異動に伴う事務引継ぎにおいて,裏金の管理の引継ぎに混乱が予想されたことは想像に難くなく,あたかも平成11年度に予定されていた県本庁の組織再編は,部の分割・再編,局の新設等かつてない規模によるものであったのであるから,これによって多くの所属が裏金の引継ぎに苦慮することが予想されていたのである。 そして,前示のとおり,c副知事は,裏金の処理に困った担当者らが私的流用等の不祥事を起こさないようにと考えてその集約を指示したこと,また,k職員組合委員長は,後任に引き継ぐこともできずノイローゼになっている庶務担当者がおり,自殺者も出かねないとの話を聞いて,最終的に職員組合による受入れを決意したこと,さらに,本件集約決定が確認された平成11年1月19日夜の会合では,「裏金を保管している庶務担当者の精神的負担を解消し,また,裏金が行方不明になったり,個人的に流用されたりしてしまうような,新組織への引継ぎに当たっての混乱を防止するため,各課で保管されている裏金を職員組合に集約する」ことが出席者であるd知事公室長,e総務部長,l総務部次長,f出納長及びk職員組合委員長の間で確認されたことなどからすると,本件集約決定は,裏金の管理担当者の精神的負担軽減及び裏金の不当な費消の防止を主たる目的としてされたものと認められる。 そして,原告本人は,d知事公室長から本件指示を受けるに際して,本件集約の目的について,裏金の管理担当者の精神的負担軽減と裏金の不当な費消の防止にある旨説明を受けたと述べており,以上の事実及び証拠状況からすれば,本件集約の目的を裏金の管理担当者の精神的負担軽減と裏金の不当な費消の防止にあると認識していた旨の原告の主張には,合理的な裏付けが- 23 -あるというべきである。 これに対し,上記のとおり の目的を裏金の管理担当者の精神的負担軽減と裏金の不当な費消の防止にあると認識していた旨の原告の主張には,合理的な裏付けが- 23 -あるというべきである。 これに対し,上記のとおり,被告は,本件集約は裏金の隠ぺい工作であった旨主張するのであるが,本件指示及び本件伝達行為の内容は,各所属に対し,裏金の処理に困っている場合には職員組合の口座に集約する方法もある旨示唆するというものであり,各所属が裏金の保管・管理を継続することも選択し得るとするものであったこと,原告は,その後,どのくらいの数の所属がその示唆に応じて裏金を職員組合の口座に入金したかという本件集約の履行状況を確認していないこと(確認したとする証拠はない。)からすると,少なくとも原告の認識として,本件集約が裏金の隠ぺい工作であると認識していたと認めることはできない。仮に,これが隠ぺい工作であったとすれば,各所属に対し,裏金が残存しないよう,より積極的な指示が行われるはずであるし,本件集約の履行状況に無関心であることも考えにくいことだからである。そして,実際に,本件伝達行為に応じて職員組合の口座に裏金を入金した所属が一部にとどまったことは,本件伝達行為が積極的な隠ぺい工作として行われたものではないことを窺わせるというべきである。以上によれば,被告の上記主張を採用することはできない。 また,被告は,職員組合に集約された裏金を管理するのも職員組合所属の県職員であり,その精神的負担は大きいはずである旨主張するが,県庁の各所属は,制度上,独立して管理する公金を保有しないはずであるのに対し,職員組合は,独立の団体として預貯金等の資産を保有しうるのであるから,各所属の裏金として管理する場合と職員組合の資産として管理する場合とで,前者の方が後者よりも管理する担当者の精神 であるのに対し,職員組合は,独立の団体として預貯金等の資産を保有しうるのであるから,各所属の裏金として管理する場合と職員組合の資産として管理する場合とで,前者の方が後者よりも管理する担当者の精神的負担が大きいことは想像に難くないというべきであり,被告の上記主張は採用できない。 (3) 本件集約の隠ぺいの効果に関する原告の認識原告は,裏金を職員組合に集約することは,これを隠ぺいする効果があるかもしれないとの未必的な認識を有していたが,それは確定的な認識ではな- 24 -かった。 この点,原告は,本件集約には裏金を隠ぺいする効果はなかった旨主張する。 しかし,本件集約によって,各所属において様々な方法で保管・管理されていた裏金を職員組合の口座に集約することは,その結果,裏金の保管・管理に関与する者の数が減少し,預金通帳や現金などの証拠物も集約化されること,また,裏金に職員組合の(簿外)資産としての名目が与えられることから,裏金の存在は各所属で保管・管理されている状態よりも発覚しにくくなるのではないかと考えられ,したがって,本件集約には,ある程度の隠ぺいの効果が予想されたと考えられる。けれども,他方,各所属における裏金の保管・管理を担当する者の精神的負担が重いということは,とりもなおさず,これらの者が裏金を公金にほかならないものとして保管・管理し,かつ,その存在を秘匿しなければならないという責任意識が強いことを意味すること,また,職員組合が出所不明の多額の現預金を保有することは,簿外資産として保有する場合であっても不自然性が眼に付くおそれが高いということも考えられる。以上を総合すると,本件集約による裏金の隠ぺいの効果は,各所属で保管・管理されたままに置かれている状態よりも特に高いことが予想されたと考えることはできない。 付くおそれが高いということも考えられる。以上を総合すると,本件集約による裏金の隠ぺいの効果は,各所属で保管・管理されたままに置かれている状態よりも特に高いことが予想されたと考えることはできない。実際,前示のとおり,岐阜県の裏金問題を最初に報道したのは,職員組合に裏金が集約されている旨を報じたm新聞の記事であったこと,当時も各所属(OB等の個人を含む。)で保管・管理されていた裏金の存在は,この新聞記事を契機とする岐阜県の調査によって明らかにされたことが窺われるのであるから,結果的に見れば,職員組合への裏金の集約は,隠ぺいの効果に乏しかったと考えられるのである。 そうすると,本件集約に裏金を隠ぺいする効果があると予想されたとしても,その程度は極めて限定的なものであったと考えるべきである。 ところで,原告本人は,本件集約は,一時的な措置であり,その後に適正- 25 -な処理がされるものと思っていた旨供述・陳述するが,前示のとおり,本件伝達行為は,本件集約が裏金を職員組合に寄付するものとして行われたと認められ,このことはl総務部次長作成のメモ(乙8)からも裏付けられるから,上記原告本人の供述・陳述を採用することはできない。l総務部次長は,本件集約決定にも関与しており,このメモがどのような機会に作成されたものであるかが明確でないことから,このメモは,原告が本件集約をもって裏金を寄付するものであるとの認識を有していたことを直接裏付ける証拠であるとは言えないが,裏金の担当者等にとって,本件集約が裏金を職員組合の口座に一時的に預けるものであるか,職員組合に対する寄付として行うものであるかは重要な関心事であるはずであり,各所属に対して本件伝達行為をする上で話題になる可能性がある事柄であるから,d知事公室長が原告及びl総務部次長に対し本件指示を与 合に対する寄付として行うものであるかは重要な関心事であるはずであり,各所属に対して本件伝達行為をする上で話題になる可能性がある事柄であるから,d知事公室長が原告及びl総務部次長に対し本件指示を与えるに当たり,また,原告とl総務部次長とで本件伝達行為を分担する上で,本件伝達行為の内容としてどのような説明をするかについて互いに意思疎通を図ったはずであることからすると,このメモの存在と相まって,原告が本件集約を職員組合に対する寄付として行うものであるとの認識があったものと認めるのが相当である。そして,仮に,職員組合が寄付された裏金を費消し得るものとされていたのであれば,本件集約の裏金の存在を隠ぺいする効果はさらに高まることが予想されたと考えられる。 しかしながら,裏金が職員組合に寄付された場合に,これが,いつ,どのように使用されることとなるかについては,「訴訟費用のカンパ等の基金」という説明がされていたことが窺われるのみで,原告がこの点について具体的な認識を有していたとする証拠は認められないのであり,「基金」というからには,元本として使用されるものであって,費消されることまでは容認していないという理解も可能であることから,原告が本件集約について裏金の費消による隠ぺいの効果があるとの確定的な認識を有していたと認めるの- 26 -は相当でない。本件集約決定でも,職員組合に集約された裏金の使用方法について具体的な協議がされたとする証拠はなく(ただし,乙18の11枚目の新聞記事には,「裏金を組合の訴訟費用貸付制度に使う方針はこの場(本件集約決定の席)で確認された。」とする記載がある。),ただ,前示のようなその後の職員組合における裏金の処理を見る限り,裏金の使用方法は職員組合の判断に任されていたのではないかとも考えられるが,少なくとも,本件 )で確認された。」とする記載がある。),ただ,前示のようなその後の職員組合における裏金の処理を見る限り,裏金の使用方法は職員組合の判断に任されていたのではないかとも考えられるが,少なくとも,本件集約決定に全く関与していない原告が,そのことを知っていたと認めることはできないのである。 以上の認定及び証拠状況からすれば,原告は,本件集約に裏金を隠ぺいする効果があるかもしれないとの未必的な認識を有していたと考えられるが,その確定的な認識を有していたとは考えられず,また,本件集約が職員組合に裏金を寄付するものであるとの認識は有していたが,どのように使用されるか,費消されるものであるか否か等についての具体的な認識はなかったというべきである。 (4) 本件集約の評価(原告の立場から)原告の立場から見れば,本件集約が違法であり許されないとの認識があったとしても,他に適切な行動を期待することは著しく困難であった。 このことについて以下に説示する。 本件集約は,公金である裏金を職員組合に寄付するという点において既に違法の評価を免れないものであり,また,原告にその認識があったものと認められることは前示のとおりである。 ところで,裏金作りが行われていたのは岐阜県に限らないことであり,岐阜県の職員も,かつては,予算消化と予算外経費を賄うための必要悪という認識のもとに,違法の意識に乏しいまま,職務上やむを得ないものとしてこれを継続してきたことが窺われるが,情報公開と法令遵守に関する社会の意識の変化に伴い,これが他県などで問題とされていた平成7,8年ころ,県- 27 -がこれを自ら公表・是正する必要があったというべきであり,その義務は,知事,副知事のほか,他の一般の県職員一人一人も同様に負っていたものというべきである。しかしながら,これを行う意思 - 27 -がこれを自ら公表・是正する必要があったというべきであり,その義務は,知事,副知事のほか,他の一般の県職員一人一人も同様に負っていたものというべきである。しかしながら,これを行う意思決定は,予測される影響の重大性等に鑑みれば,個々の一般職員に期待することは困難であったというべきであり,知事がその最終決断を行う以外の選択肢はなかったものというべきである。 ところが,b知事は,前示のとおり,c副知事の進言を受け入れ,過去を含めて裏金は存在しないものと対外的に説明する方針を採用したのである。 岐阜県における裏金問題が平成18年まで尾を引き,その間に不当な費消を生じさせる結果となったそもそもの原因は,このような知事らの方針にあったと考えざるを得ない(甲5のプール資金問題検討委員会の報告書も同旨の指摘をしている。)。県として裏金の存在を認めることは,その形成・使用に関与した多数の県職員の責任問題を避け難いこと,その大多数は,職務としてやむを得ず行っていたという認識であることから,知事らが裏金の調査・公表を躊躇したのも理解できないではないが,現存する裏金の存在まで否定した結果がどのような事態を招来するか思い及ばなかったとすれば,それは実に遺憾なことというほかない。知事らの方針は,現存する裏金は「存在しない」ものとすることを暗に期待するに等しいというべきであり,裏金を適正に「存在しない」ものとする方法は,裏金が公金である以上,また,予算執行適正化対策等により従来の使途が制限された以上,県会計に返戻する以外にはなく,そうするためには公表が不可避となり,知事らの方針に反することとなるのであるから,同方針に従いつつ裏金を「存在しない」ものとする行為は,すべて不適正な行為とならざるを得ないのである(言うまでもないが,私的費消は論外である。 避となり,知事らの方針に反することとなるのであるから,同方針に従いつつ裏金を「存在しない」ものとする行為は,すべて不適正な行為とならざるを得ないのである(言うまでもないが,私的費消は論外である。)。心ある県職員は,このようなジレンマに苦しんだはずであり,本件集約は,そのジレンマから担当者を解放する手段として,裏金を比較的公共性があると考えられた職員組合の資金として提- 28 -供することが案出されたものと解される。 当時,知事公室次長という地位にあった原告も,知事らの方針が前示のようなものであることを知り得たと考えられ,県政の最高責任者である知事らの方針が裏金についての調査・公表はしないというものであるからには,原告一人がこれに反する行動を取ることは著しく困難であったことは想像に難くなく,こうした原告の立場から見れば,本件集約は,許されないことには違いないが,知事らの方針に従いつつ担当者をジレンマから解放する手段として他に適当なものがないという意味で,やむを得ない選択と判断したとしても無理からぬ状況にあったというべきである。 2 争点(1)(本件処分が全く事実上の根拠に基づかないと認められるか)について(1) 原告は,本件処分事由には重大な事実誤認があるため,取り消されるべきである旨主張する。 (2) 公務員に対する懲戒処分については,懲戒権者が懲戒処分を発動するかどうか,懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決定することは,その処分が全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合であるか,もしくは社会通念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き,懲戒権者の裁量に任されているものと解されるところ(最高裁昭和32年5月10日第二小法廷判決・民集11巻5号699頁参照),事実誤認に 権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き,懲戒権者の裁量に任されているものと解されるところ(最高裁昭和32年5月10日第二小法廷判決・民集11巻5号699頁参照),事実誤認により,本件処分が全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合には,本件処分は裁量権の逸脱又は濫用によるものであり取り消されるべきである。 (3) 本件についてこれを見れば,前示のとおり,原告は,l総務部次長とともに,d知事公室長から,本件指示として,各所属に対し,職員組合へ訴訟費用等支援の基金として寄付する方法もある旨示唆することについて指示を受け,原告とl総務部次長は,分担して各所属に対しその旨示唆するという- 29 -本件伝達行為をしたのであるが,裏金が公金である以上,これを職員組合へ寄付すること自体,その使途として不適正であることは明らかであるし,前示のとおり,本件集約は,その結果,裏金が職員組合の資産の一部となることなどにより,ある程度の隠ぺいの効果が存すると考えられたことも否定できず,原告はそのことについて未必的な認識を有していたと考えられるから,本件伝達行為は,公務員として違法な行為というべきであり,また,これが上司の指示によるものであるからといってその責任を免れることはできないから,これをもって被告が懲戒処分の対象としたことには根拠があるというべきである。 (4) その他,本件処分事由のうち,原告が事実誤認として主張する事由は,いずれも事実誤認によって処分が全く事実上の根拠を欠くこととなるような重要な事実であるとまでは認められない。 (5) そうすると,本件処分が事実上の根拠を欠くものとして違法である旨の上記原告の主張を採用することはできない。 3 争点(2)(本件処分は社会通念上著しく妥当を欠くか)について ない。 (5) そうすると,本件処分が事実上の根拠を欠くものとして違法である旨の上記原告の主張を採用することはできない。 3 争点(2)(本件処分は社会通念上著しく妥当を欠くか)について本件処分は,原告が,裏金の存在を公にせず,本件伝達行為を行うことで裏金を職員組合へ集約することに加担したことによって,裏金の「隠ぺいに深く関わ」り,この隠ぺい工作により,「長期間当該事件が発覚せず」,「その間に公金の費消等が拡大する結果となった」ことを処分の理由としている。これに対し,原告は,本件処分は社会通念上著しく妥当を欠き,裁量権を逸脱又は濫用したものであると主張する。 地方公務員につき地方公務員法所定の懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか,懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは,平素から庁内の事情に通暁し,職員の指揮監督の衝にあたる懲戒権者の裁量に任されており,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の右行為の前後における態度,懲戒処分- 30 -等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を総合的に考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを,その裁量的判断によって決定することができるものと解すべきである。したがって,裁判所が懲戒処分の適否を審査するにあたっては,懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し,その結果と当該懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく,懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が,社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り,違法と判断す と当該懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく,懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が,社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り,違法と判断すべきものである(最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。 そこで,前記前提事実及び前記認定事実から,本件処分が,社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したものと認められるかどうか,次に検討する。 (1) 本件処分は,本件集約が裏金の隠ぺい工作としてされたものであること及び原告にそのことの認識があったことを前提としていると解される。 しかし,前示のとおり,裏金は,文字通り「裏」の存在として,昔から隠ぺいされた存在であり,ただ,これが公表・是正されるべき時期を迎えながら,知事らの方針によって,現に保管・管理されていた裏金も含めて存在しないものとされ,組織的に隠ぺいすべきものとされていたのであり,即ち,裏金は,各所属で保管・管理された状態で既に隠ぺいされていたということができる。そして,これを職員組合に移転・集約することによる新たな隠ぺいの効果は,あったとしても相当に限定的なものであったと考えられることも前示のとおりである。 そして,原告の立場から見れば,本件集約は,知事らの方針により裏金が存在しないものとされる一方,予算執行適正化対策等により裏金の使途が制- 31 -限された結果,宙に浮いた裏金の処理に困った担当者らを救済する手段として他に適当なものがないという意味で,やむを得ない選択と判断したとしても無理からぬ状況にあったというべきである。 さらに,原告は,本件集約の目的を,裏金を保管・管理する者の精神的負担の軽減及び私的費消等不当行為の防止にあると やむを得ない選択と判断したとしても無理からぬ状況にあったというべきである。 さらに,原告は,本件集約の目的を,裏金を保管・管理する者の精神的負担の軽減及び私的費消等不当行為の防止にあると認識していたのであり,本件集約に裏金を隠ぺいする効果があるかも知れないとの未必的な認識があったとしても,それは確たる認識ではなく,少なくとも隠ぺいを積極的に意図するものと認識していたと認めることはできない。 そうすると,本件集約が裏金の隠ぺい工作としてされ,原告にはその旨の認識があったという本件処分の前提認識については,事実誤認とまでは言えないとしても,相当に一面的な見方というべきであり,妥当性を欠くというべきである。 (2) 次に,本件処分は,原告が本件集約に深く関わったことを前提としていると解されるところ,原告は,本件伝達行為として本件集約決定の内容を各所属へ伝達することで本件集約の実施に関与したことは,争いのない事実である。 しかし,前示のとおり,原告は,本件集約決定の意思形成ないし意思決定には全く関与しておらず,ただ,知事公室長からの本件指示を受けて,その指示のままに,いわば機械的に本件伝達行為を行ったのみである。唯一自らの判断を介在させたのは,総務部次長との間で伝達先を決め,これを分担し合ったに過ぎない。つまり,原告は,本件集約決定に基づく本件指示を上司から受けて,従属的,機械的に本件伝達行為を行い,本件集約決定の実施を容易にしたに過ぎない。即ち,原告が果たした役割には代替性があり,仮に原告が本件伝達行為を行わなかったとしても,既に決定された本件集約決定は,別の職員によって実施されていたことは明白である。 以上のとおり,原告の本件集約における役割は,従属的,機械的かつ代替- 32 -的なものであり,原告 ても,既に決定された本件集約決定は,別の職員によって実施されていたことは明白である。 以上のとおり,原告の本件集約における役割は,従属的,機械的かつ代替- 32 -的なものであり,原告が知事公室次長という県の中枢に近い地位にあったからといって,その役割の意味が変わるものではない。 そうすると,原告が本件集約に「深く」関わったという本件処分の前提認識についても,事実誤認とまでは言えないとしても,相当に一面的な見方というべきであり,妥当性を欠くというべきである。 (3) また,本件処分は,本件集約の結果,「長期間当該事件が発覚せず」,「その間に公金の費消等が拡大する結果となった」としているのであるが,原告の本件伝達行為をした際における当該行為の意味の認識については既に認定・判断したとおりであり,本件処分の理由としての原告の責任を量定する上ではこれをもって足り,本件集約の結果についてまで論じる必要性は乏しいと考えるが,念のために付言する。 前示のとおり,本件伝達行為の結果,本件集約として,平成10年度中に5639万7723円の裏金が職員組合の口座に振り込まれ,その後も,平成11年度から同17年度までの間に約2億6930万円の裏金が現金授受の方法によって職員組合に持ち込まれ,全体として3億円を超える裏金が職員組合に移転されたのであるが,本件集約は,その中で先例としての位置付けを有するという意味において,その後の集約に対しても関連性があるというべきである。しかし,平成11年度以降に集約された裏金は,現金授受の方法によるもので,本件伝達行為で示唆された方法(口座振込み)によるものとは異なる上,本件集約の期限とされた平成11年2月末日を経過した後に集約されたものであること,また,平成13年度には,前示のとおり,副 るもので,本件伝達行為で示唆された方法(口座振込み)によるものとは異なる上,本件集約の期限とされた平成11年2月末日を経過した後に集約されたものであること,また,平成13年度には,前示のとおり,副出納長による説明会などが契機となって裏金の職員組合への集約が促進されたことが認められる。そうすると,原告の本件伝達行為は,平成11年度以降の集約に対しては,必ずしも直接的な因果関係を有すると認めることはできない。 また,岐阜県の裏金問題が発覚したのは,前示のとおり,職員組合が保管- 33 -している裏金の存在が契機となったもののようであり,当時,各所属で保管・管理されていた裏金も存在しながら,それは発覚の契機とはならなかったらしいことからすると,職員組合への裏金の集約は,結果的には隠ぺいの効果に乏しかったこととなるのであり,仮に,職員組合への裏金の集約がされなかった場合に,より早く裏金の存在が発覚したであろうとは必ずしも認めることはできない。前示のとおり,裏金は,各所属で保管・管理された状態で,既に隠ぺいされていたのである。そうすると,本件集約の結果,「長期間当該事件が発覚」しなかったとする本件処分の理由は,本件集約と裏金問題の発覚遅延との間に因果関係があることを言うものであるとすれば,これをもって必ずしも正当な評価であると認めることはできない。 また,「その間に公金の費消等が拡大する結果となった」とする点についても,前示のとおり,職員組合に集約されず各所属で保管・管理されていた裏金で,焼却,廃棄又は私的費消されたものもあるとされていることからすると,本件集約により「公金の費消等が拡大する結果となった」という評価は一面的というべきであるし,職員組合に集約された裏金の保管・管理についてまで原告が注視すべきであったというのは,現実的な判断 すると,本件集約により「公金の費消等が拡大する結果となった」という評価は一面的というべきであるし,職員組合に集約された裏金の保管・管理についてまで原告が注視すべきであったというのは,現実的な判断として言い得ないことは後記に説示するとおりである。そして,知事らの方針により,存在しないこととされた裏金は,暗に「存在しない」ものとすることが望まれていたとも言うことができ,裏金は,不当な費消による以外には「存在しない」ものとすることはできなかったのであるから,裏金の不当な費消が行われたことは(私的費消は論外であるが),知事らの方針の必然的結果というべきであり,これをもって本件集約の結果と見るのは,問題の全体像を正解したものということはできない。なお,原告が,本件伝達行為をした際,集約された裏金が職員組合において費消されるものであるのか否かについて確たる認識を有していたとは認められないことは前示のとおりである。 (4) 原告が裏金の存在を公にしなかった不作為等- 34 -本件処分の事由中には,本件指示を受けた当時,原告が裏金の存在を公にしなかった不作為を問題としていると解される部分があり,被告は,この点は本件処分の事由としているものではない旨主張するが,念のため付言するに,原告が本件指示を契機として裏金の存在を公にしなかった不作為又は公にすることを進言しなかった不作為は,性質的には,裏金の存在を知る県職員一人一人が負っていた裏金の存在を公にする義務の懈怠と同様のものであると評価すべきである。もっとも,原告が知事公室次長という高い地位にあったことからすれば,各所属の庶務担当者らよりも,原告の義務の程度は高かったと言わざるを得ない。しかしながら,県政の最高責任者である知事によって,対外的には裏金が存在しないこととする方針が採られてい ったことからすれば,各所属の庶務担当者らよりも,原告の義務の程度は高かったと言わざるを得ない。しかしながら,県政の最高責任者である知事によって,対外的には裏金が存在しないこととする方針が採られている状況下において,一人これに反する行為を取ることが困難であったことは想像するに難くなく,これを行わなかったからといって公務員として最高程度の非違行為であると評することは酷であると言わざるを得ない。 次に,被告は,原告が本件集約に加担しながら,また,本件集約後は商工局長等の要職にありながら,職員組合に集約された裏金が適切に処理されたか否かについて確認せず,その結果,本件集約以降も平成17年度まで裏金が職員組合に集約され続け,職員組合でこれが不当に支出され続ける結果となった旨主張するので,この点についても検討するに,前示のとおり,原告は,本件集約決定に全く関与しておらず,ただ,上司から受けた本件指示のままに本件伝達行為をしたのみであること,したがって,また,原告には職員組合に集約された裏金の使用方法についての具体的な取決めの有無・内容について確たる認識があったとは認められないことからすると,本件集約後に原告が自らの役割として職員組合へ集約された裏金について不当な支出がされないよう注視すべき義務を負っていたと認めることはできないのであり,結局のところ,原告の義務としては,上記に説示したような県職員として一般的に負っていた義務の程度を特に超えるものであったと認めることは- 35 -困難である。 (5) まとめ以上のとおり,原告がした本件伝達行為は,上司からの指示により本件集約決定の趣旨を各所属に伝達するという機械的,従属的かつ代替的な行為であったこと,原告は,本件集約の目的は裏金を保管・管理する者の精神的負担軽減及び私的費消等不当行為 は,上司からの指示により本件集約決定の趣旨を各所属に伝達するという機械的,従属的かつ代替的な行為であったこと,原告は,本件集約の目的は裏金を保管・管理する者の精神的負担軽減及び私的費消等不当行為の防止にあると認識し,裏金を隠ぺいするという意図目的によるものと認識していたとは認められないこと,本件集約に裏金の存在を隠ぺいする効果があったとしても,その効果は相当に限定的であり,原告にはその効果について確定的な認識があったとは認められないこと,また,本件集約後職員組合に集約された裏金が費消されるものか否かについても原告に確定的な認識があったとは認められないこと,そして,原告の立場から見れば,本件集約は,知事らの方針により存在しないものとされてしまった裏金の処理として許されることではないけれどもやむを得ないことであると判断したとしても無理からぬ状況にあったこと等が認められ,以上の認定判断に照らせば,原告が本件伝達行為により裏金の隠ぺい工作に深く関与し,裏金問題の発覚を遅延させ,裏金の不当な費消を増大させたとする本件処分事由は,事実の誤認とまでは言えないとしても,著しく一面的な認定というべきである。 以上に加え,原告は,昭和45年4月に岐阜県職員として採用されてから本件処分までの間に懲戒処分を受けたことがないこと,裏金問題を契機として懲戒免職処分を受けた他の県職員は,裏金を多額に費消し又は私的に費消した職員であること等を併せ考えれば,本件集約決定に関与した他の県職員らは既に退職していて懲戒免職の対象とはなし得なかったこと,岐阜県における裏金問題が他県のそれと比較してより重大な県政に対する信用の失墜をもたらしたこと等の被告主張の事実を踏まえても,本件伝達行為を理由として原告を懲戒免職としたことは,社会通念上著しく妥当を欠くと言わざるを- 他県のそれと比較してより重大な県政に対する信用の失墜をもたらしたこと等の被告主張の事実を踏まえても,本件伝達行為を理由として原告を懲戒免職としたことは,社会通念上著しく妥当を欠くと言わざるを- 36 -得ない。 (6) 結論以上の次第で,本件伝達行為は,地方公務員法33条及び同法29条1項1号の懲戒事由に該当するとしても,これを理由とする本件処分は,懲戒処分として免職処分を選択している点において重きに過ぎ,社会通念上著しく妥当を欠き,裁量権を逸脱・濫用したものというべきであるから,その余の点について判断するまでもなく取り消されるべきである。 4 争点(4)(損害額)原告は,違法な本件処分により,以下の5884万4632円の損害を被ったと認められる。 (1) 退職手当相当額 3516万5328円弁論の全趣旨により認められる。 (2) 定年退職時までの給与相当額 1767万9304円弁論の全趣旨により認められる。 (3) 慰謝料 100万円原告は,本件処分が取り消され,また,上記(1),(2)の財産的損害が填補されることにより,その精神的苦痛は,相当程度,緩和・回復されると考えられるが,違法な本件処分の日から本判決日までの間,4年以上が経過していること等に鑑みると,これらによっても償われることのない精神的苦痛を被ったものと解すべきであるから,その精神的苦痛を慰謝するために,被告は原告に対し100万円を支払うべきものと認める。 (4) 弁護士費用 500万円本件事案の性質及び本件の審理の経過に鑑み,500万円をもって相当と認める。 5 結論以上の次第で,原告の請求は,本件処分の取消し並びに5884万4632- 37 -円及びこれに対する平成22年1月23日から支払済みまで 経過に鑑み,500万円をもって相当と認める。 5 結論以上の次第で,原告の請求は,本件処分の取消し並びに5884万4632- 37 -円及びこれに対する平成22年1月23日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用につき民訴法64条本文,同法61条,仮執行宣言につき同法259条をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 岐阜地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官針塚遵 裁判官村上未来子 裁判官笹邉綾子

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る