平成24(ワ)15613 特許権侵害差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年6月24日 東京地方裁判所
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判決文本文13,726 文字)

- 1 -平成26年6月24日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成24年(ワ)第15613号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成26年4月10日判決東京都千代田区<以下略>原告JX日鉱日石金属株式会社 同訴訟代理人弁護士高橋雄一郎同訴訟代理人弁理士望月尚子相模原市<以下略>被告三菱電機メテックス株式会社同訴訟代理人弁護士近藤惠嗣重入正希前田将貴同補佐人弁理士加藤恒松井重明永井豊 主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告製品目録記載の各製品(以下「被告各製品」と総称する。)を生産し,使用し,譲渡し,又は譲渡の申出をしてはならない。 2 被告は,原告に対し,1080万円及びこれに対する平成24年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要- 2 -本件は,発明の名称を「曲げ加工性が優れたCu-Ni-Si系銅合金条」とする特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が,被告による被告各製品の製造販売等が本件特許権の侵害に当たると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告各製品の生産,使用等の差止め並びに特許権侵害の不法行為(民法709条及び特許法102条3項)に基づく損害賠償 販売等が本件特許権の侵害に当たると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告各製品の生産,使用等の差止め並びに特許権侵害の不法行為(民法709条及び特許法102条3項)に基づく損害賠償金の一部である1080万円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達日の翌日)である平成24年6月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告及び被告は,いずれも銅合金の製造及び販売等を行う株式会社である。 (2) 原告は,次の特許権(本件特許権)を有している。本件特許権については,平成23年12月28日に訂正審判が請求され,平成24年2月15日付け審決により訂正が認められ,同月23日にこれが確定している。 特許番号第4166196号発明の名称曲げ加工性が優れたCu-Ni-Si系銅合金条出願日平成16年6月28日出願番号特願2004-189347号登録日平成20年8月8日(3) 本件特許権の特許請求の範囲の請求項2の記載(訂正後のもの)は,次のとおりである(以下,この発明を「本件発明」といい,本件発明に係る特許を「本件特許」という。また,本件特許の特許出願の願書に添付された明細書及び図面(訂正後のもの)を「本件明細書」という。)。 「Niを1.0~4.5質量%(以下%とする),Siを0.25~1.5%を含有し,更にZn,Sn,及びMgのうち1種類以上を含有し,Mg- 3 -を含有する場合は0.05~0.3%とし,Zn及び/又はSnを含有する場合は総量で0.005~2.0%とし,残部がCuおよび不可避的不純物より n,及びMgのうち1種類以上を含有し,Mg- 3 -を含有する場合は0.05~0.3%とし,Zn及び/又はSnを含有する場合は総量で0.005~2.0%とし,残部がCuおよび不可避的不純物よりなる銅基合金の圧延面においてX線回折を用いて測定した3つの(hkl)面のX線回折強度が,(I(111)+I(311))/I(220)≦2.0を満足し,圧延面においてX線回折を用いて測定した(220)面のX線回折強度をI(220),および純銅粉末標準試料においてX線回折を用いて測定した(220)面のX線回折強度をI0(220)としたときの,I(220)/I0(220)が,2.28≦I(220)/I0(220)≦3.0を満足し,圧延方向に直角な断面における結晶粒の幅方向の平均長さをa,厚み方向の平均長さをbとしたときに,0.5≦b/a≦0.92μm≦a≦20μmであることを特徴とする高強度および高曲げ加工性を両立させたCu-Ni-Si系銅合金条。」(4) 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件A」などという。)。 ANiを1.0~4.5質量%(以下%とする),BSiを0.25~1.5%を含有し,C 更にZn,Sn,及びMgのうち1種類以上を含有し,Mgを含有する場合は0.05~0.3%とし,Zn及び/又はSnを含有する場合は総量で0.005~2.0%とし,D 残部がCuおよび不可避的不純物よりなる銅基合金のE 圧延面においてX線回折を用いて測定した3つの(hkl)面のX- 4 -線回折強度が,(I(111)+I(311))/I(220)≦2.0を満足し,F 圧延面においてX線回折を用いて測定した(220)面のX線回折強度をI(220),および純銅粉 - 4 -線回折強度が,(I(111)+I(311))/I(220)≦2.0を満足し,F 圧延面においてX線回折を用いて測定した(220)面のX線回折強度をI(220),および純銅粉末標準試料においてX線回折を用いて測定した(220)面のX線回折強度をI0(220)としたときの,I(220)/I0(220)が,2.28≦I(220)/I0(220)≦3.0を満足し,G 圧延方向に直角な断面における結晶粒の幅方向の平均長さをa,厚み方向の平均長さをbとしたときに,0.5≦b/a≦0.92μm≦a≦20μmであることを特徴とするH 高強度および高曲げ加工性を両立させたCu-Ni-Si系銅合金条。 (5)ア銅合金条とは,銅合金を平らな形状にし,コイル状に巻いたものをいう。 イ銅合金条の製造工程には,熱間圧延,溶体化処理,冷間圧延等の工程があり,これらの工程は各方位の集積度に影響を及ぼす。本件発明は,銅合金条について,組成等の数値限定のほか,X線回折によって測定した3つの(hkl)面のX線回折強度を用い,構成要件Eにおいて(I(111)+I(311))/I(220)(以下「板面方位指数」という。)の値を,構成要件FにおいてI(220)/I0(220)(以下「(220)面集積度」という。)の値を限定したものである。(甲2,3)ウ X線回折強度の測定方法には,得られたX線回折波形を積分した値(積分値,積分強度)を測定する方法(以下「積分強度法」という。)と,X- 5 -線回折波形の測定範囲中の最大強度の絶対値(ピーク値,ピーク強度)を測定する方法(以下「ピーク強度法」という。)がある。(甲11~17,乙10~12,32,弁論の全趣旨)(6) 被告は,遅くとも平成22年11月9日以降,型番をM70 値(ピーク値,ピーク強度)を測定する方法(以下「ピーク強度法」という。)がある。(甲11~17,乙10~12,32,弁論の全趣旨)(6) 被告は,遅くとも平成22年11月9日以降,型番をM702S又はM702Uとする銅合金条(以下,それぞれを「M702S」,「M702U」という。)を製造し,販売の申出及び販売を行っている。 2 争点及びこれに関する当事者の主張原告は,M702S及びM702Uのうち,別紙被告製品目録のとおりZn及びSnの総量並びに(220)面集積度の数値を限定したものを被告各製品として特定し,被告がこれらを製造販売して本件特許権を侵害している旨主張している。本件の争点は,(1) 被告各製品の特定の当否,(2) 構成要件E及びFの数値限定を満たすM702S及びM702Uの製造販売の有無(なお,構成要件A~C,G及びHの充足性については争われておらず,また,構成要件Dについても争点としないものとされた。),(3) 本件特許の無効理由の有無,(4) 損害額であり,争点に関する当事者の主張は次のとおりである。 (1) 争点(1)(被告各製品の特定の当否)について(原告の主張)合金の組成や集積度は測定装置を用いて容易に測定可能であるから,被告各製品の特定に欠けるところはなく,被告の後記主張は失当である。 (被告の主張)特許権侵害を主張して製品の製造販売等の差止めを求めるためには,その製品が社会通念上差止めの対象として他と区別できる程度に特定されなければならない。ところが,M702S及びM702Uのうち,別紙被告製品目録記載の数値限定の範囲内にあるものとないものを社会通念上区別することはできないから,本件特許権を侵害する物件を原告主張のように- 6 -特定することは不適法である。 (2) 争点(2)(構成 目録記載の数値限定の範囲内にあるものとないものを社会通念上区別することはできないから,本件特許権を侵害する物件を原告主張のように- 6 -特定することは不適法である。 (2) 争点(2)(構成要件E及びFを充足するM702S及びM702Uの製造販売の有無)について(原告の主張)ア構成要件E及びFの解釈(ア) 製品のどの部分が数値限定の範囲内にある必要があるかある銅合金条が本件発明の構成要件E及びFの数値限定の範囲内にあるかどうかは,当該銅合金条の全体ではなく,測定を行った特定の部分が上記範囲内にあれば足りると解すべきである。 仮にそこまではいえないとしても,本件発明の銅合金条は電子部品の製造に使用されるものであるから,銅合金条のうち,電子部品の部分として使用される部分,すなわち,条の両端を除いた大半の部分が上記範囲に入っていれば足りる。 (イ) X線回折強度の測定方法X線回折波形のピーク値の絶対値を用いる方法は,強度の一要素である波形の広がりが捨象されてしまうので,複雑な加工履歴を受けることによりX線回折波形がばらついてしまう銅合金条の強度を示すものとしては不適当である。したがって,本件特許にいうX線回折強度が積分強度を意味し,その測定方法が積分強度法を意味することは明らかである。 イ被告が製造販売するM702S又はM702Uに構成要件E及びFの数値限定を充足するものが存在することM702S及びM702Uの板面方位指数の積分強度が2.0以下であることは被告も認めているところであり,ピーク強度が2.0を超えることはあり得ないから,被告各製品は構成要件Eを充足する。 また,一つの銅合金条についてみれば,同一の冷間圧延及び熱処理の- 7 -工程を経るため,原理的にばらつきはほとんど存在しないはずである。 とはあり得ないから,被告各製品は構成要件Eを充足する。 また,一つの銅合金条についてみれば,同一の冷間圧延及び熱処理の- 7 -工程を経るため,原理的にばらつきはほとんど存在しないはずである。 原告の実験及び第三者機関による実験において特定の部位を測定した結果(甲4,5,8,34,39,45,46)によれば,被告各製品の(220)面集積度は,積分強度法であるかピーク強度法であるかを問わず,製品として使用されるべき領域の全てにわたって2.28以上3. 0以下の範囲にあり,構成要件Fの数値限定を満たしている。 (被告の主張)ア構成要件E及びFの解釈(ア) 製品のどの部分が数値限定の範囲内にある必要があるかM702S及びM702Uが本件特許権を侵害しているというためには,対象となる銅合金条全体が構成要件E及びFの数値限定の範囲内にあることが必要である。 (イ) X線回折強度の測定方法X線回折強度の測定方法としてはピーク強度法と積分強度法が慣用されているが,本件明細書の記載からは,いずれの測定方法を用いるべきかは不明である。したがって,M702S及びM702Uがいずれの測定方法によっても構成要件E及びFを充足することの立証が必要である。 イ被告が製造販売するM702S又はM702Uに構成要件E及びFの数値限定を充足するものが存在しないことM702S及びM702Uは,ピーク強度法でも,積分強度法でも,構成要件Fの数値限定の範囲内に収まっていない部分がある。したがって,M702S及びM702Uは構成要件E及びFを充足しない。 (3) 争点(3)(本件特許の無効理由の有無)について(被告の主張)本件特許には以下のとおりの無効理由があるから,原告による権利行使- 8 -は制限されるべきである。 ア公然実施による新 3) 争点(3)(本件特許の無効理由の有無)について(被告の主張)本件特許には以下のとおりの無効理由があるから,原告による権利行使- 8 -は制限されるべきである。 ア公然実施による新規性欠如被告は,遅くとも,本件特許の出願日より前の日である平成15年4月に,銅合金条M702S-1/2HTの製造及び販売をしていた。M702SとM702S-1/2HTは,化学成分及び物理的性質が一致しており,機械的性質もほぼ一致している。そして,被告が保存していたM702S-1/2HTを測定したところによれば,同製品は構成要件Eの数値限定を充足していたし,構成要件Fについては,数値限定(2.28~3.0)の範囲外の3.18であったが,測定場所によっては上記範囲内の数値が出ることが十分に考えられる。 以上のことからすれば,仮にM702S及びM702Uのうちに構成要件E及びFを充足するものが存在するのであれば,本件発明は出願日前に公然実施された発明と同一であることになるから,本件特許は特許法29条1項2号に反している。 イ進歩性欠如M702Sと上記アのとおり公然実施されたのM702S-1/2HTとは,カタログの記載のとおり,同一の作用効果を有する。仮にM702-1/2HTが構成要件Fの数値限定を満たすものではなく,他方においてM702Sには満たすものがあるというのであれば,構成要件Fの充足性によって何の効果ももたらされないことになる。したがって,構成要件Fは一定の範囲で変動する任意の数値を恣意的に定めたものとして進歩性が認められず,本件特許は特許法29条2項に反している。 ウサポート要件違反本件明細書の【表2】の記載によれば,構成要件Fの数値限定の範囲内のものは上記数値限定の範囲外のものと比べて0.2%耐力がわずかに高くなっ は特許法29条2項に反している。 ウサポート要件違反本件明細書の【表2】の記載によれば,構成要件Fの数値限定の範囲内のものは上記数値限定の範囲外のものと比べて0.2%耐力がわずかに高くなっている一方,曲げ加工性は(220)面集積度が2.28以- 9 -上になると急激に悪化している。そうすると,当業者が本件明細書の【表2】を見ても(220)面集積度を2.28~3.0とすれば高強度と優れた曲げ加工性を両立できると認識することはないから,本件明細書は特許請求の範囲に記載された発明を記載していないものであり,本件特許は特許法36条6項1号に反している。 エ明確性要件違反X線回折強度の測定方法はピーク強度法と積分強度法が慣用されているのに,本件明細書の記載からはいずれの方法で測定するのかが明らかでなく,その権利範囲が不明である。したがって,本件発明は特許法36条6項2号に反している。 (原告の主張)ア公然実施による新規性欠如について被告は,M702S-1/2HTという型番の下で製品の特性改善を繰り返してきたから,工番が異なれば全てその特性は異なることになる。 被告が公然と譲渡されたとするM702S-1/2HTは工番66063-3のサンプル又は製品であるが,その(220)面集積度は構成要件Fの数値限定の範囲内にない。 しかも,上記工番のサンプル又は製品は,被告から被告の代理店又はその倉庫に向けて出荷された可能性があるだけで,販売先にまで届けられたかは分からない。被告の代理店が受け入れ,その倉庫に移動したからといって公然と実施されたことにはならないし,販売先についても被告との関係で契約上あるいは信義則上の秘密保持義務を負っていたというべきであるから,M702S-1/2HTが公然と譲渡されたと認めることはできない。 イ れたことにはならないし,販売先についても被告との関係で契約上あるいは信義則上の秘密保持義務を負っていたというべきであるから,M702S-1/2HTが公然と譲渡されたと認めることはできない。 イ進歩性欠如について本件特許において(220)面集積度を限定した理由は曲げ加工性を- 10 -向上するためであり,(220)面集積度が3.0以下だと曲げ加工性が良好であるのに対し,3.0を超えると曲げ加工性が極端に悪くなるから,(220)面集積度が3.0であることには臨界的意義がある。 そして,Cu-Ni-Si系銅合金条において(220)面集積度を一定の範囲にすることによって曲げ加工性を向上させることができるという技術的思想自体が知られていなかったのであるから,上記M702S-1/2HTに基づいて本件発明に想到することは困難である。 ウサポート要件違反について本件明細書には,本件発明の実施例が比較例との関係において高強度と高曲げ加工性を両立することが示されているから,本件特許が特許法36条6項1号に反することはない。 エ明確性要件違反について構成要件E及びFの数値限定は,支配的な配向面のX線強度を定量的に測定するという性質上,積分強度法によって測定すべきことが明らかであるから,本件特許が特許法36条6項2号に反することはない。 (4) 争点(4)(損害額)について(原告の主張)平成22年11月9日から平成24年5月31日までのM702S及びM702Uの売上げは3億3672万円を下らず,本件特許の実施料率は5%を下らない。したがって,原告が被告から受けるべき金銭の額は少なくとも1683万6160円となるので,原告はその一部として1080万円を請求する。 (被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(2) って,原告が被告から受けるべき金銭の額は少なくとも1683万6160円となるので,原告はその一部として1080万円を請求する。 (被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(2)(構成要件E及びFを充足するM702S及びM702Uの製造販- 11 -売の有無)について原告は,被告が製造販売する銅合金条M702SとM702Uのうち,Zn及びSnの総量並びに(220)面集積度が別紙被告製品目録記載の数値限定の範囲内にあるもの,すなわち,特許請求の範囲に記載されたものを本件訴訟の対象として特定し,差止め及び損害賠償を求めている。このような特定が許されるかについては疑問の余地があるが,結局のところ,被告がそのような範囲に属するM702S等を製造販売していると認められなければ原告の請求を棄却すべきものとなる。そこで,争点(1)についてはさておき,争点(2)についてまず判断することとする。そして,原告と被告は,専ら,被告が現に製造販売したM702S等が上記目録記載の範囲(殊に,構成要件Fを充足する範囲)にあるか,その前提として,X線回折強度はM702S等のどの部分をどのような方法で測定すべきかを争っているので,以下,これらの点を検討する。 (1) X線回折強度の測定箇所についてア証拠(甲2,3,38,45,46,乙8,9)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明は銅合金条という物に係る発明であり,電子部品の高密度実装性,高信頼性が要求される中,構成要件E及びFの数値限定を含む本件発明の構成要件を充足することにより,高強度及び優れた曲げ加工性を両立させた電子材料用の銅合金条を提供することを目的とするものであること,銅合金条は顧客がこれを適宜裁断してリードフレーム,電子機器の各種端子,コネクタ等に用いるものであること,銅合金 曲げ加工性を両立させた電子材料用の銅合金条を提供することを目的とするものであること,銅合金条は顧客がこれを適宜裁断してリードフレーム,電子機器の各種端子,コネクタ等に用いるものであること,銅合金条の長さや幅は様々であり,例えば,長さは247m,2440mmのもの,幅は436mm,620mmのものがあることが認められる。 このことからすると,本件発明に係る銅合金条は,顧客がどの部位を裁断しても電子材料として高強度及び優れた曲げ加工性を両立させる性質を有している必要があるから,被告各製品が本件発明の技術的範囲に- 12 -属するというためには,被告各製品の全ての部位において本件発明の構成要件を充足しなければならないと解すべきである。そうすると,板面方位指数及び(220)面集積度を求めるためのX線回折強度は,銅合金条の任意の1点(甲4,5参照)又は端末寄りの数点(甲8,39参照)だけでは足りず,銅合金条の全体にわたって測定すべきものということができる。 イこれに対し,原告は,現に測定した特定の部位又は両端部を除く部分において構成要件E及びFの数値限定の範囲にあれば足りる旨主張するが,以上に説示したことに照らし,これを採用することはできない。 (2) X線回折強度の測定方法についてア前記前提事実のとおり,X線回折強度を測定する方法には積分強度法とピーク強度法がある。本件発明の構成要件Eの板面方位指数及び構成要件Fの(220)面集積度を求めるに当たり,X線回折強度をいずれの方法で測定するかについては特許請求の範囲にも,本件明細書の発明の詳細な説明欄にも記載されていないが(実施例に関して,測定に使用する機器の名称と,管球の種類,管電圧及び管電流が記載されているにとどまる。段落【0019】参照),原告は,銅合金条に係る本件発明に の詳細な説明欄にも記載されていないが(実施例に関して,測定に使用する機器の名称と,管球の種類,管電圧及び管電流が記載されているにとどまる。段落【0019】参照),原告は,銅合金条に係る本件発明においては積分強度法によるべきことは明らかである旨主張する。 イそこで判断するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア) X線回折強度の測定においては,X線管球の種類(Cu管球かCo管球か),管電圧,管電流,ゴニオメーターの条件(取り出し角,発散スリット,受光スリット,走査速度,走査範囲),計数系の条件(記録速度,スケールレンジ,時定数)等の諸条件が測定結果に影響する。したがって,X線回折強度について適切な数値を測定するためには,- 13 -測定者がこれらの条件を適宜選択する必要がある。(甲14~17,41)(イ) 銅合金ないし圧延銅箔に関する発明についての公開特許公報には,X線回折強度の測定方法につき,① 本件特許より前の特許出願に係るものとして,特許請求の範囲には記載がないが発明の詳細な説明欄において圧延面ないし断面の積分強度であることを明示あるいは例示するもの(甲11~甲13),特許請求の範囲において圧延面のピーク強度であることを明示するもの(乙32)があり,また,② 本件特許より後の特許出願に係るものとして,特許請求の範囲において圧延面のピーク強度であることを明示するもの(乙10,12),特許請求の範囲には記載がないが発明の詳細な説明欄においてピーク強度である旨記載されたもの(乙11)がある。 ウ上記認定事実によれば,本件特許の特許出願時において,圧延等の工程を経た銅又は銅合金の性質を特定するための圧延面等のX線回折強度の測定方法として積分強度法とピーク強度法のいずれを採用するかについて 上記認定事実によれば,本件特許の特許出願時において,圧延等の工程を経た銅又は銅合金の性質を特定するための圧延面等のX線回折強度の測定方法として積分強度法とピーク強度法のいずれを採用するかについては,発明ごとに出願人が選定することが多いといえるのであって,本件発明に接した当事者が本件発明の技術的内容や本件明細書の記載から積分強度法が採用されていると認識すると認めるべき証拠はない。そうすると,原告の上記主張を採用することはできず,本件発明の構成要件E及びFにおける圧延面のX線回折強度については,積分強度法とピーク強度法のいずれにおいてもその数値限定の範囲内にある必要があるものと解するのが相当である(もっとも,後記(3)で説示するところによれば,積分値のみを測定すれば足りるとの原告の主張によるとしても,本件特許権の侵害を認めることはできない。)。 (3) 被告が製造販売するM702S又はM702Uの構成要件E及びFの充足性について- 14 -以上を踏まえて,本件発明の構成要件E及びFの数値限定を充足するM702S又はM702Uを被告が製造販売していると認められるかどうかについて検討する。 アまず,原告は,被告製品1に当たると主張するM702Sにつき,自ら(甲4)又は第三者機関に委託して(甲34)行った測定結果の報告書を提出し,これらによれば構成要件E及びFの数値限定が充足されている旨主張する。しかし,これらはいずれも試料(なお,後者における試料がM702Sであるかは報告書の記載上明らかでない。)の内の任意の1点を計測したものにとどまり,これらによって銅合金条全体が構成要件E及びFの数値限定の範囲内にあると認めることができないことは前記(1)で判断したとおりである。 イ次に,原告は,被告製品2に当たると主張するM702Uにつ ,これらによって銅合金条全体が構成要件E及びFの数値限定の範囲内にあると認めることができないことは前記(1)で判断したとおりである。 イ次に,原告は,被告製品2に当たると主張するM702Uにつき,自ら行った実験結果の報告書として,1点のみを測定したもの(甲5),8点を測定したもの(甲8,39)及び50点ないし46点を測定したもの(甲45,46,以下,各実験を書証番号により「甲5実験」などという。)を提出している。これらはいずれも積分強度法を採用したものである。 このうち,甲5実験に証拠価値を認め難いことは上記アと同様である。 他方,甲8実験,甲39実験,甲45実験及び甲46実験については,証拠(甲8,39,45,46)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる)。 (ア) 甲8実験及び甲45実験において試料として用いられたのは同一のM702Uであり,その長さは247mである。 甲8実験は,試料としたM702Uのうち,条の外側と芯側の各末端からそれぞれ100mm及び200mmの地点の外面と内面の合計8点- 15 -を測定したものであり,(220)面集積度は外面が2.46~2. 90(端数は四捨五入。以下同じ。),内面が2.51~3.0の範囲にあった。 甲45実験は,試料の外側端部から1mの点及び10mから240mまでの10m間隔の各地点の外面と内面の各25点(合計50点)を測定したものであり,その(220)面集積度は外面が2.69~3.0,内面が2.55~3.0の範囲にあった。 (イ) 甲39実験及び甲46実験において試料として用いられたのは同一のM702Uであり,その長さは2440mmである。 甲39実験は,甲8実験と同様に合計8点を測定したものであり,その(220)面集積度は外面が2.41~2.86,内面が2 として用いられたのは同一のM702Uであり,その長さは2440mmである。 甲39実験は,甲8実験と同様に合計8点を測定したものであり,その(220)面集積度は外面が2.41~2.86,内面が2. 54~2.90の範囲にあった。 甲46実験は,試料の外側端部から100mm間隔で外面と内面の各23点(合計46点)を測定したものであり,その(220)面集積度は外面が2.28~2.82,内面が2.29~2.74の範囲にあった。 ウ以上によれば,甲45実験及び甲46実験は,被告の製造販売する2本のM702Uの全体にわたってX線回折強度を測定し,(220)面集積度が構成要件E及びFを充足する旨を示したものであるが,原告による実験に対しては次のような疑問点を指摘することができる。 (ア) 甲39実験と甲46実験は同一のM702Uを同一の間隔で測定したものであるが,(220)面集積度の分布状況については,外面及び内面とも下限において0.1以上のずれが生じている。また,特定の部位についてみても,外側端末から200mmという同一距離の内面(ただし,幅方向の位置は明らかでない。)を測定した数値が甲39実験では2.73であるのに対し,甲46実験では2.61であり,- 16 -0.12の相違がある。さらに,芯側端末に近い外面の測定部位をみると,甲39実験では芯側から100mmの点が2.81,200mmの点が2.86であるのに対し,甲46実験では芯側端末から140mm(外側末端から2300mm)の点が2.28であり,0.5以上の差が生じている。 (イ) 甲8実験と甲45実験は同一のM702Uを測定したものであるが,(220)面集積度の分布状況については,外面において上限及び下限とも0.1以上のずれがある上,測定箇所の少ない甲8実験の方が甲45実 甲8実験と甲45実験は同一のM702Uを測定したものであるが,(220)面集積度の分布状況については,外面において上限及び下限とも0.1以上のずれがある上,測定箇所の少ない甲8実験の方が甲45実験より分布の幅が広くなっている。 (ウ) 甲8実験及び甲39実験は本件訴訟における技術説明会の前に,甲45実験及び甲46実験はその後に行われたものであるが,板面方位指数及び(220)面集積度を算出する基となるX線回折強度の数値は大きく異なっている。これは前2者と後2者で実験条件が相違することによるものと推測されるが,各書証に実験条件の詳細は記載されていない。 エ上記ウ(ア)及び(イ)によれば,原告が行った各実験は同一の試料であってもその都度異なる測定結果が生じるというのであり,仮に各実験が正確であるとしても,わずかな測定部位等の違いにより(220)面集積度の分布状況に0.1~0.5以上のずれが生じる可能性があることになる。そして,原告の上記実験結果において,(220)面集積度の分布範囲が構成要件Fの数値限定の上限3.0と同じ(甲8実験,甲45実験)であり,又は下限2.28と同じ(甲46実験)若しくはこれに近接した数値(甲39実験)となっていることに照らすと,別の実験をしたり,異なる部位を測定したりすることによって構成要件Fの数値限定の上限又は下限を超える可能性が高いということができる。そうすると,上記の各証拠は,被告製品2に関し- 17 -て,構成要件E及びFを充足するM702Uを被告が製造販売していたと認めるには足りないと解すべきものとなる。 オしたがって,本件の関係各証拠を総合しても,被告が構成要件E及びFを充足する銅合金条を製造販売していたと認めることはできない。 なお,銅合金条の全体にわたってX線回折強度を測定し,その全 る。 オしたがって,本件の関係各証拠を総合しても,被告が構成要件E及びFを充足する銅合金条を製造販売していたと認めることはできない。 なお,銅合金条の全体にわたってX線回折強度を測定し,その全てにおいて構成要件E及びFの範囲内にあることの立証を要求することは,特許権者に対して酷な面がないではない。しかし,原告は,X線回折強度により計算される板面方位指数及び(220)面集積度が所定の範囲にあることにより顕著な効果を奏するとして,銅合金条に係る本件特許権を取得したものである。これに加え,被告のカタログ(甲6,7)に(220)面集積度等に関する記載はなく,被告において(220)面集積度等を制御して銅合金条の製造を行っている(したがって,顧客においてこの点を製品選択の考慮要素としている)とはうかがわれないこと,本件明細書にも(220)面集積度等を特許請求の範囲に記載された数値限定の範囲内に制御するための具体的な製造方法等は記載されていないこと,(220)面集積度等が本件明細書に記載された本件発明の効果に結びつくとする知見や,それを制御する方法に関する文献等が本件の証拠上に現れていないことに鑑みると,(220)面集積度等が所定の範囲内にあることの技術的意義は定かでないというほかない。本件におけるこのような事情からすれば,原告においては被告の製造販売する銅合金条の全体につきX線回折強度を測定し,これが構成要件E及びFを充足することを客観的な証拠をもって明確に立証しない限り本件特許権を行使することができないと解しても不合理ではないと考えられる。 2 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 - 18 -第4 結論よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 第4 結論 よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 長谷川浩二 裁判官 髙橋彩 裁判官 植田裕紀久 (別紙省略)

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