令和5年6月8日宣告令和3年(わ)第3号 主文 被告人Aを禁錮3年に、被告人Bを禁錮4年に処する。 訴訟費用は、その2分の1ずつを各被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人Aは、東京都羽村市(以下住所省略)にバス事業部本社営業所を置き、平成26年4月18日に関東運輸局長の許可を受け、同年5月から一般貸切旅客自動車運送事業等を営む株式会社Cの代表取締役として、同 社の経営及び業務全般を統括管理するとともに、道路運送法に基づき、運行管理者に対する運行管理業務の適確な実行及び同社運行管理規程の遵守について適切な指導監督を行い、同社安全管理規程に基づき、安全統括管理者に対する安全管理業務の適確な実行についても適切な指導監督を行うなどして、同社における旅客輸送の安全を確保するなどの業務に従事 していたもの、被告人Bは、同社バス事業部本社営業所長として、被告人Aの下で、同社バス事業部の業務全般を統括するとともに、道路運送法に基づき、被告人Aが選任した安全統括管理者及び運行管理者(以下併せて「運行管理者等」ということがある。)として、同社安全管理規程及び運行管理規程を遵守し、同社において事業用自動車の運行の安全を確保する ための事業の運営方針、その実施並びに安全管理体制及び運行管理等に関する業務を統括管理し、同社における事業用自動車の運行の安全確保に関する業務に従事していたものであるが 1 被告人Bは、平成27年12月29日に同社が大型バスの運転者として雇用したD1について、大型バスの運転には高度の運転技量(車両の特 性の理解及び操縦運転の技術)が必要であり、特に長野県北志賀(以下「北 志賀」という。)方面への夜行日帰りのスキーツアーの場合は、 について、大型バスの運転には高度の運転技量(車両の特25性の理解及び操縦運転の技術)が必要であり、特に長野県北志賀(以下「北2 志賀」という。)方面への夜行日帰りのスキーツアーの場合は、運行区間にカーブが連続する急な下り勾配道路を含む峠道等の難所が存在し、冬季の夜間に長時間運転することになり、かつ、採用面接時には、D1らから、ここ約5年間は大型バスの運転に従事していないと聞き、大型バスの運転に慣れていないと認識していたことなどから、大型バスの運転技量が不十5分なままD1が運転すれば死傷事故を起こす可能性があることを予見でき、同人を大型バスによるスキーツアーの運行に従事させるに当たっては、適性診断結果等を基に客を乗せていない大型バスを実際に運転させて実技試験を行うなどして同人の大型バスの運転技量の程度を把握するとともに、必要に応じて運転訓練を実施するなどして大型バスの運転に必要な10運転技量を習得させ、これが十分に備わっていることを確認してから客を乗せた大型バスの運行に従事させるとともに、実際にこれらを把握、確認しないまま大型バスの運行に従事させる場合には、その際の運転状況についても事後点呼その他の方法で情報を収集してD1の運転技量を把握し、同人に大型バスの運転に必要な運転技量が十分に備わっていることを確15認してから、その後の客を乗せた大型バスの運行に従事させ、もって死傷事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、適性診断結果等に基づく前記実技試験等によってD1の運転技量を的確に把握せず、必要な運転訓練等も実施せず、かつ、同人が実際に大型バスの運行に従事した際の運転状況について事後点呼その他の方法で情報を20十分に収集せず、同人に大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要 な運転訓練等も実施せず、かつ、同人が実際に大型バスの運行に従事した際の運転状況について事後点呼その他の方法で情報を20十分に収集せず、同人に大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要な運転技量が十分に備わっていることを確認しないまま、漫然、同人をして、平成28年1月14日午後10時50分頃、東京都内を出発して北志賀方面に向かう大型バスによる夜行日帰りのスキーツアー(以下このツアーを「本件スキーツアー」、このバスを「本件バス」という。)の運25転業務に従事させた3 2 被告人Aは、平成27年12月29日に同社が大型バスの運転者として雇用したD1について、大型バスの運転には高度の運転技量(車両の特性の理解及び操縦運転の技術)が必要であり、特に北志賀方面への夜行日帰りのスキーツアーの場合は、運行区間に前記のような峠道等の難所が存在し、冬季の夜間に長時間運転することになり、かつ、遅くとも平成285年1月5日までには、被告人Bから、D1について直前の勤務先では大型バスを運転しておらず、慣れさせるためにベテラン運転者とペアを組ませて大型バスによるスキーツアーの運行に従事させている旨の報告を受け、D1の大型バスの運転経験が少ないと認識していたことなどから、大型バスの運転技量が不十分なままD1が運転すれば死傷事故を起こす可能性10があることを予見でき、しかも、平成27年2月に実施された関東運輸局による一般監査の結果、被告人Bが運行管理者として運転者に対する指導監督や点呼等を適切に実施しておらず、同社においては法令に違背した運行管理が常態化していることを認識していたのであるから、D1を引き続き大型バスによるスキーツアーの運行に従事させるに当たっては、代表取15締役として、自ら又は運行管理者等である被告人Bを指導 運行管理が常態化していることを認識していたのであるから、D1を引き続き大型バスによるスキーツアーの運行に従事させるに当たっては、代表取15締役として、自ら又は運行管理者等である被告人Bを指導監督し、適性診断結果等を基に前記実技試験を行うなどしてD1の大型バスの運転技量の程度を把握するとともに、必要に応じて運転訓練を実施するなどして大型バスの運転に必要な運転技量を習得させ、これが十分に備わっていることを確認してから客を乗せた大型バスの運行に従事させるとともに、実際20にこれらを把握、確認しないまま大型バスの運行に従事させる場合には、その際の運転状況についても事後点呼その他の方法で情報を収集してD1の運転技量を把握し、同人に大型バスの運転に必要な運転技量が十分に備わっていることを確認してから、その後の客を乗せた大型バスの運行に従事させ、もって死傷事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務が25あるのに、これを怠り、適性診断結果等に基づく前記実技試験等によって4 D1の運転技量を的確に把握せず、必要な運転訓練等も実施せず、かつ、同人が実際に大型バスの運行に従事した際の運転状況について事後点呼その他の方法で情報を十分に収集せず、同人に大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要な運転技量が十分に備わっていることを確認せず、さらに、被告人Bに対して、D1の運転技量を的確に把握して、5大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要な運転技量が十分に備わっていることを確認するよう指導監督もせず、漫然、同人をして、平成28年1月14日午後10時50分頃、本件スキーツアーの運転業務に従事させたそれぞれの過失の競合により、D1が、同月15日午前1時52分頃、長10野県北佐久郡軽井沢町内の国道18号碓氷バイパ 28年1月14日午後10時50分頃、本件スキーツアーの運転業務に従事させたそれぞれの過失の競合により、D1が、同月15日午前1時52分頃、長10野県北佐久郡軽井沢町内の国道18号碓氷バイパスのカーブが連続する急な下り勾配道路において、大型バスの運転技量が不十分であることに起因して、ギア操作及びブレーキ操作等を的確に行うことができず、同バイパスの高崎起点44.65キロポスト(以下「kp」と表記する。)付近左カーブ(以下「第43号カーブ」という。)において、本件バスを限界旋回15速度を超えた時速約96kmまで加速させて制御不能の状態に陥らせ、同バスを同カーブ右側の路外崖下に転落させ、よって、別紙1<※省略>「死亡被害者一覧表」のとおり乗客13名及び交替運転者D2を頸椎損傷等によりそれぞれ死亡させ、別紙2<※省略>「負傷被害者一覧表」のとおり、乗客26名に脳挫傷等の傷害をそれぞれ負わせたものである。 20(事実認定の補足説明)第1 本件事案の概要本件は、平成28年1月15日深夜、長野県北佐久郡軽井沢町内の国道18号碓氷バイパスにおいて、北志賀方面へのスキーツアーを運行中の本件バスが、下り坂で加速し続けカーブを曲がり切れずに路外崖下に転落し、25乗客39名及び乗員が死傷した事故(以下「本件事故」という。)につい5 て、バスを運行していた株式会社Cの代表取締役である被告人A及び運行管理者であった被告人Bが業務上過失致死傷罪に問われている事案である。 第2 争点及び当事者の主張1 本件の争点5本件の争点は、①被告人両名が、D1の運転技量(車両の特性の理解及び操縦運転の技術を指す。以下同じ。)の程度を把握し、必要な運転訓練等を実施するなどして大型バスの運転に必要な運転技量が十分に備わっていることを確 ①被告人両名が、D1の運転技量(車両の特性の理解及び操縦運転の技術を指す。以下同じ。)の程度を把握し、必要な運転訓練等を実施するなどして大型バスの運転に必要な運転技量が十分に備わっていることを確認してから本件スキーツアーの運行業務に従事させるべき注意義務があったのにこれに違反したか、②同注意義務違反が認められ10た場合、その注意義務違反と本件事故の発生に因果関係が認められるかである。そして、①に関して、⒜本件バスが第43号カーブに限界旋回速度を超えて進入することとなった原因、すなわち、本件事故直前の本件バスの挙動及び運転者の運転操作がどのようなもので、前記原因がD1の大型バスの運転技量不足に基づくものかどうかにつき争いがあり、⒝前記⒜を15前提として、被告人両名の本件事故に関する予見可能性の有無にも争いがある。 2 当事者の主張の要旨⑴ 検察官の主張の要旨本件バスが第43号カーブに限界旋回速度を超えて進入することとな20ったのは、D1が、碓氷バイパスの下り坂を走行時、本件バスのフィンガーシフト式のギアの操作を誤り、勾配に応じた適切なギアに変速できず、ニュートラル状態に陥らせてエンジンブレーキや補助ブレーキによる減速が行えない状態に至らせた上、フットブレーキ操作を適切に行って減速調整せずに、同カーブの限界旋回速度を超えた速度まで本件バスを加速さ25せたためであり、このような操作ミスを招いたのは、D1の大型バスの運6 転に必要な運転技量が不十分であったことに起因している(争点①⒜)。 そして、被告人両名は、道路運送法等で規定された一般旅客自動車運送事業者(以下「事業者」という。)及び運行管理者という立場やその業務内容等から、同事業の運転者(以下「運転者」という。)について、その運転技量の程度を把握し、必要 法等で規定された一般旅客自動車運送事業者(以下「事業者」という。)及び運行管理者という立場やその業務内容等から、同事業の運転者(以下「運転者」という。)について、その運転技量の程度を把握し、必要に応じて運転訓練等を実施し、大型バスの運転技5量が十分に備わっていることを確認した上で運転業務に従事させるべき義務を有していたのであるから、被告人両名が当時認識していた事実、あるいは被告人両名の当時置かれていた客観的状況等から、標準的な事業者又は運行管理者であれば当然に認識すべきであった事実等からすれば、本件スキーツアーにD1を従事させた場合、運転技量が不十分であることに10起因して死傷事故を惹起する危険があることは予見可能であった(争点①⒝)。そして、そのような予見可能性があることからすると、本件スキーツアーにD1を従事させた場合、死傷事故を惹起する危険を回避するための措置をとる義務があり、それは事業者及び運行管理者であれば容易に実行できたものであったが、それにもかかわらず、被告人両名が当該措置を15とることを怠ったのであるから、注意義務違反が認められ(争点①)、同注意義務違反により、その危険が現実化して本件事故を惹起したのであるから、被告人両名の注意義務違反と本件事故との間に因果関係も認められる(争点②)。 ⑵ 被告人Bの弁護人の主張の要旨20そもそも、D1の運転技量は未熟ではなく、本件事故はD1の運転技量に起因するものではない(争点①⒜)。そして、道路運送法等の規定や条理から、運行管理者である被告人Bに、刑法上の義務として、運転者の運転技量を把握、確認する義務を認めることは類推適用であって許されず、仮に同義務を認めた場合、義務の内容や限界が不明確で明確性の原則にも25反する。交通事犯における理論の発展の経緯等 、運転者の運転技量を把握、確認する義務を認めることは類推適用であって許されず、仮に同義務を認めた場合、義務の内容や限界が不明確で明確性の原則にも25反する。交通事犯における理論の発展の経緯等からしても、被告人Bに刑7 法上の運転者の運転技量把握義務は観念できない。また、被告人Bは、株式会社Cの他の運転者にD1の運転技量の確認を委ねていた。そして、それらの運転者から被告人Bに対しD1の運転技量につき否定的な内容は報告されていないから、被告人Bが免許を有しているD1を信頼して大型バスの運転を委ねたことは相当であり、D1がフットブレーキを踏むべき5ときに踏まないで本件事故を起こすことは予見できなかった(争点①⒝)。 これらからすれば、結果回避義務も認められず、注意義務違反はない(争点①)。バス運行業務に関しては、信頼の原則に基づく分業がなされており、運転業務がD1に委ねられている以上、被告人Bの不作為とD1の不注意との間には因果関係も存在しない(争点②)。したがって、被告人B10は無罪である。 ⑶ 被告人Aの弁護人の主張の要旨本件事故は、検察官が主張するような態様で起きたものではなく、単にD1がフットブレーキを踏むという基本的かつ初歩的な運転操作を行って本件バスを停止させるかその速度を落とせば防げたものである(争点①15⒜)。D1は大型バスを運転するために最低限必要な運転技量を有していたのであり、D1がそのような基本的かつ初歩的な運転操作をしない運転者であることを被告人Aには予見できなかった(争点①⒝)。そして、そもそも被告人Aは運行管理者である被告人Bを信頼して運行管理を任せており、被告人Bが運行管理をできていないとは思っておらず、事業者と20して自らができることは現に行っていたのであるから注意義務違反も も被告人Aは運行管理者である被告人Bを信頼して運行管理を任せており、被告人Bが運行管理をできていないとは思っておらず、事業者と して自らができることは現に行っていたのであるから注意義務違反もないし(争点①)、D1がフットブレーキを踏むべきときに踏まない運転者であるということは、実技試験や運転訓練をしたとしても見抜くことは不可能であり、注意義務違反と本件事故との因果関係もないから(争点②)、被告人Aは無罪である。 第3 本件事故はどのようにして起こったのか 1 大型バスである本件バスの特性等について関係証拠(甲45~47、49)及び証人E1証言のうち争いのない部分によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 本件バスは、G1株式会社が製造する「H」と呼ばれる大型バスである。車体の全長約11.99m、全幅約2.49m、全高約3.64m、 車両重量約13230kg、乗車定員54名で、従来の大型バスよりも乗客座席が高い位置に設置されており、重心位置が高いため、車体が不安定との特性がある。 ⑵ 大型バスは、構造上の特性として、オーバーハング部分(車軸から車両先端・後端までの距離)が長く、交差点等で右左折のためハンドル操 作をする際、車両先端が早く方向転換して、曲がろうとする方向に巻き込みの危険が生じることから、通常よりハンドルを切るタイミングを遅くして、出来るだけ車両を前方にせり出した状態でハンドルを切る必要がある。 ⑶ また、エアサスペンションを採用しており、そうではない中型・小型バスに比べて、旋回時に車体が旋回方向とは逆に傾くいわゆるロールが 大きくなる上、特に本件バスは重心が高いため、急ハンドルを切ると転倒の危険性が大きくなるので、慎重なハンドル操作が必要であり、ハンドルを切っているときに 旋回方向とは逆に傾くいわゆるロールが15大きくなる上、特に本件バスは重心が高いため、急ハンドルを切ると転倒の危険性が大きくなるので、慎重なハンドル操作が必要であり、ハンドルを切っているときには弱いブレーキにするなどの注意が必要であった。また、急ブレーキをかけると車両前方が大きく沈み込むような動きをするため、乗客に重力がかかって不快な思いをさせたり、場合によっては怪我を20負わせたりする危険もあった。 ⑷ さらに、大型バスには主ブレーキであるフットブレーキ以外に、補助ブレーキがあり、いわゆるエンジンブレーキのほか、排気ブレーキ(エキゾーストブレーキ)と、排気ブレーキが効いているときに更にブレーキ効果を強めるパワータードブレーキがある。いずれも排気抵抗を増やすな25どしてエンジンの回転抵抗を増やしブレーキ効果を高めるものであるた9 め、ギアがニュートラルの状態では作動せず、ギアが入っていることが作動条件となる。 ⑸ 加えて、本件バスのギアは、フィンガーコントロールトランスミッション(以下「FCTM」という。)と呼ばれる電子制御式の6速マニュアル変速ギアであった。従来のワイヤー等を介して変速するロッド式のギア5システムと異なり、FCTMには作動機構上、圧縮空気による作動等も含まれているため、ギアチェンジの操作を開始してから実際にギアが入るまでに若干のタイムラグがある。操作感覚として、FCTMのギアチェンジをする場合、ギアのシフトレバーをチェンジ先のギアに入れて1、2秒ほど押し込み続ける必要があり、ギアチェンジの完了前にシフトレバーの押10し込みをやめてしまうと電気信号が断たれてギアが入らず、シフトレバーはバネの力でニュートラルの位置に戻り、ギアがニュートラル状態となる。 また、FCTMにはオーバーラン防止機能 フトレバーの押10し込みをやめてしまうと電気信号が断たれてギアが入らず、シフトレバーはバネの力でニュートラルの位置に戻り、ギアがニュートラル状態となる。 また、FCTMにはオーバーラン防止機能があり、走行速度が各ギアの設定速度を超えているときは、コンピュータ制御により当該ギアにシフトダウンできず、ギアがニュートラル状態のままとなるとの特性があった。 152 本件バスの走行経路本件バスは、平成28年1月14日午後10時50分頃、運転者2名及び客39名が乗車して、スキーツアーの集合場所であったJ1を出発し、K1インターチェンジから関越自動車道に流入して上里サービスエリアで休憩を取った。以後の区間はD1が運転を担当していたと認められ、藤20岡インターチェンジで関越自動車道から流出して国道18号に入り、碓氷バイパスの入山峠に差し掛かった。(甲21~24、45、166)3 入山峠から事故現場までの道路状況入山峠から事故現場までの道路(以下「事故直前区間」ということがある。)状況は、別紙3<※省略>(甲2添付見取図第3図)のとおりである。 25すなわち、入山峠頂上から事故現場までは平均6.4%の下り勾配の道路10 であり、約1.1kmの間に第43号カーブを含む5つのカーブが連続して存在し(以下、この5つのカーブについては、「第43号カーブ」のように号数で表記する。)、街路灯は、入山峠付近に2本、軽井沢橋と第42号カーブの間に1本あるのみであった。事故当時、事故現場路面は乾燥状態で、著しい凹凸や段差はなかった。(甲2、45)54 事故直前区間の本件バスの走行状況⑴ 速度の変化タコグラフチャートの分析結果(甲35、45)等によると、本件バスは、入山峠頂上付近(43.5kp)を時速約51kmで通過し、左 4 事故直前区間の本件バスの走行状況⑴ 速度の変化タコグラフチャートの分析結果(甲35、45)等によると、本件バスは、入山峠頂上付近(43.5kp)を時速約51kmで通過し、左曲がりの第39号カーブの途中(43.7kp)で時速約59km、右曲がり の第40号カーブ直前(44.0kp)で時速約72km、同カーブ途中(44.1kp)で時速約77km、左曲がりの第41号カーブの途中(44.3kp)で時速約86km、軽井沢橋上(44.4kp)で時速約90km、右曲がりの第42号カーブ入口付近(44.5kp)で時速約94km、左曲がりの第43号カーブ入口付近(44.6kp)で限界旋回 速度である時速約91.6kmを上回る時速約95km、事故現場(44. 65kp)では時速約96kmで走行していた。入山峠頂上付近を通過後、本件事故を起こすまで、約1分間の出来事であった。 ⑵ 事故直前区間における本件バスのタイヤ痕等実況見分の結果(甲2)、監視カメラの映像(甲26、27)その他関係 証拠(甲3、42~45)並びにこれらを踏まえた証人E2証言のうち争いのない部分及び後述のとおり信用できる証人E3証言によると、本件バスは、第40号カーブの途中(44.01kpと44.05kp)で2回制動灯が点灯したが、その付近の路面にタイヤ痕はなかった。また、第41号カーブの途中(44.3kp)や軽井沢橋上の路面(44.4kp) に、本件バスの右側タイヤのものとみられる制動力がかかっていない横滑 り痕が、対向車線にややはみ出した位置に印象されており、軽井沢橋通過時には制動灯は点灯していなかった。その後、本件バスは、第42号カーブを通過する際に制動灯が点灯し、アンチロックブレーキシステム(以下「ABS」という。 はみ出した位置に印象されており、軽井沢橋通過時には制動灯は点灯していなかった。その後、本件バスは、第42号カーブを通過する際に制動灯が点灯し、アンチロックブレーキシステム(以下「ABS」という。)による強い制動力が働いたと認められるタイヤ痕を印象し、車体左後方を道路左側のガードレールに接触させた。そして、第543号カーブ入口付近で反対車線に進出し、転落直前にハンドルを左に360度切ったと認められる転動横滑り痕を印象し、そのままカーブを曲がり切れずにガードレールを突き破って崖下に転落した。 5 本件バスの走行性能に関わる不具合の有無事故後の検証結果(甲6、8)、エレクトロニック・コントロール・ユニ10ット(以下「ECU」という。)の解析結果(甲12~14)、その他関係証拠(甲45)等によれば、本件バスのタイヤはパンクもなく空気圧は正常範囲内であり、操舵装置も動作に異常は認められず、懸架(緩衝)装置の機能も問題なかった。制動装置についても、ブレーキペダルは正常に作動し、主ブレーキ及び駐車ブレーキの作動状況も問題がなかった。エアコ15ンプレッサーの故障及びエア漏れ、凝水の凍結によるブレーキ故障の可能性はなく、前輪後輪ともにブレーキ回路の故障はなく、ブレーキの制動力が低下する要因もなかった。また、ECUに記録されたエラーコードのうち、後述するフィンガーコントロールトランスミッションECUのエラーコードを除き、運転や機能・性能の不具合を示す異常は認められず、事故20につながるような本件バスの走行性能の不具合は認められなかった。 6 事故直前の本件バスのギア位置⑴ 事故現場において、転落後の本件バスのシフトレバーの位置はニュートラルであったことが確認された。また、検証時にトランスミッションを分解したところ、トランス 6 事故直前の本件バスのギア位置⑴ 事故現場において、転落後の本件バスのシフトレバーの位置はニュートラルであったことが確認された。また、検証時にトランスミッションを分解したところ、トランスミッションと繋がっているアウトプットシャ25フトが容易に回転しエンジンと繋がっていない状態であったことから、ト12 ランスミッション内部もニュートラル状態であったことが確認された。 (第3回公判証人E1証言調書P2~3、第3公判証人E3証言調書P16、甲2、6、8、45)⑵ さらに、ギアシフトユニットの分解検査によると、同ユニット内部のシフトロッドには、溝から30mmの位置に傷が付いており、ギアがニ5ュートラルにある場合のリングの位置と一致し、相当頑丈なシフトロッドがたわむような形で曲がっていたことからすると、本件バスが転落した際にリングがシフトロッドを傷つけたと認められる。そして、ギアシフトユニットの破損後には、シフトロッドが移動することはないので、シフトロッドに傷をつけたリングの位置は、本件事故直前のギア位置を示すものと10いうことになり、事故直前の本件バスのギア位置は、ニュートラルであったと認められる。(第3回公判証人E1証言調書P6~9、第3回公判証人E3証言調書P17、甲17)⑶ そして、本件バスのフィンガーコントロールトランスミッションECUには、本件事故発生時刻と一致する1月15日午前1時52分に、「3156-C0」というエラーコード(以下「問題のエラーコード」という。)が発生したと記録されている。この「問題のエラーコード」は、ニュートラルで走行中にシフトレバーがN3からN4へ移動したことを示すものである(なお、「問題のエラーコード」が発生した「年」の記録はないものの、日時の一致に加え、本件バスが 題のエラーコード」は、ニュートラルで走行中にシフトレバーがN3からN4へ移動したことを示すものである(なお、「問題のエラーコード」が発生した「年」の記録はないものの、日時の一致に加え、本件バスがギアをニュートラルにしたまま右側を 下に転落し、上部となるN3から下部となるN4にシフトレバーが移動したと考えられることからして、「問題のエラーコード」は本件事故の際に発生したものと認められる。)。(第3回公判証人E1証言調書P10~11、第3回公判証人E3証言調書P17~19、甲12、13、45) 7 走行実験と理論値から算出した加速度 ⑴ 走行実験の概要 本件捜査において実施された走行実験の概要は、次のとおりである。①G1株式会社で大型バスの開発に携わっている証人E1を運転者とする、②本件バスと同型のバスで、事件当時の推定総重量を揃えた車両を使用する、③本件バスと同様、43.8kp通過時に出来るだけ時速約62kmになるようにし、その後は可能な限りアクセルやフットブレーキを踏むこ となく、一定のギアで走行させて速度変化を見る、④走行条件は、5速・エンジンブレーキ、5速・排気ブレーキ、5速・パワータードブレーキ、6速・エンジンブレーキ、6速・排気ブレーキ、6速・パワータードブレーキ、ニュートラル、4速・補助ブレーキ適宜使用(試走。 なお、4速であれば事故を起こさずに走行できることは争いがない。)、と いうものであった。 (第3回公判証人E1証言調書P21~23、甲32、38)⑵ 走行実験結果とタコグラフチャートの分析結果との対比第3回及び第4回公判の証人E3証言のうち甲45の表18、20、22を基に走行実験結果の数値を指摘して証言した部分によれば、実験結果 と本件バスの 果とタコグラフチャートの分析結果との対比第3回及び第4回公判の証人E3証言のうち甲45の表18、20、22を基に走行実験結果の数値を指摘して証言した部分によれば、実験結果15と本件バスのタコグラフチャートの分析結果とを対比すると、43.8kpから43.9kpの間(以下「①区間」という。)は、5速・排気ブレーキで走行した場合の加速度(0.25)が本件バスの加速度(0.22)と最も近似する。同様に、43.9kpから44.0kpの間(以下「②区間」という。)は、5速・エンジンブレーキの加速度(0.19)及び206速・排気ブレーキの加速度(0.20)が本件バスの加速度(0.22)に近似する。また、44.0kpから44.1kpの間(以下「③区間」という。)では、本件バスの加速度が44.03kpを境に0.22から0.30に変化しているところ(以下「問題の変化点」という。)、変化後の加速度に近いのは、6速・エンジンブレーキの加速度(0.24)25とニュートラルの加速度(0.35)である。 14 ⑶ 加速度理論値とタコグラフチャートの分析結果との対比第4回公判の証人E3証言のうち甲45の表19、21、23~25を基に加速度理論値について数値を指摘して証言した部分によれば、各種ブレーキの吸収馬力特性等に事故直前区間の傾斜加速度を加味して、4速ないし6速又はニュートラルでそれぞれ3つの補助ブレーキを用いた場合5の前記①区間ないし③区間及び44.4kpから44.5kp(以下「I区間」という。)の加速度理論値を算出したところ、①区間の本件バスの加速度(0.22)に近い理論値は5速・排気ブレーキのもの(0.24~0.32)であり、②区間の本件バスの加速度(0.22)に近い理論値は6速・排気ブレーキのもの(0.23~0 、①区間の本件バスの加速度(0.22)に近い理論値は5速・排気ブレーキのもの(0.24~0.32)であり、②区間の本件バスの加速度(0.22)に近い理論値は6速・排気ブレーキのもの(0.23~0.27)と5速・エンジン10ブレーキのもの(0.28~0.31)である。また、③区間の本件バスの加速度(44.3kp以前は0.22、以後が0.30)に近い理論値は6速・排気ブレーキのもの(0.23~0.28)であり、理論値が現実の加速度を上回る可能性が高いことを考慮すると、5速・エンジンブレーキのもの(0.30~0.33)、6速・エンジンブレーキのもの(0. 1537~0.39)及びニュートラルのもの(0.48~0.49)も該当し得る。さらに、I区間の加速度(0.28)に近い理論値は6速・エンジンブレーキのもの(0.27)であり、前記③区間と同様、ニュートラルのもの(0.38)も該当し得る。 8 事故直前区間における本件バスの挙動とD1の運転状況20⑴ 証人E1証言の概要本件バスを製造したG1株式会社で開発担当部長を務める証人E1は、前記走行実験等に基づいて推測する本件バスの挙動について、概要次のとおり証言する。すなわち、「本件バスは、入山峠頂上付近で4速から5速にギアを上げ、走行実験結果からみて、第39号カーブを5速のまま補助25ブレーキを使いながら下りたと考えられる。第40号カーブの手前である15 ②区間で時速70kmを超えていたため、4速にギアをシフトダウンしようとしたと考えられるが、『問題の変化点』があることからすると、そこでニュートラルになってしまったと考えられる。そこから第41号カーブまでの100~150mほどの直線がブレーキをかける最後のチャンスだったが、実際にはかけていない。第41号カーブはブレ すると、そこでニュートラルになってしまったと考えられる。そこから第41号カーブまでの100~150mほどの直線がブレーキをかける最後のチャンスだったが、実際にはかけていない。第41号カーブはブレーキをかけずに5何とか抜け、第42号カーブも大したカーブではないため抜けられたが、第43号カーブは曲がり切れなかった。捜査段階では、②区間で5速から6速に上げた可能性も指摘したが、第39号及び第40号カーブはかなり急勾配の下り坂であり、6速にギアをシフトチェンジすることはドライバー心理としてあり得ないと思う。事故直前区間の適切な走行方法は、4速10で補助ブレーキとフットブレーキを使いながら、時速60km前後で車線をはみ出さずに走行することであると考えている。カーブでギアがニュートラルになってしまった場合、ブレーキを踏みながらハンドルを回し、かつ、クラッチを踏んで4速にギアチェンジするということを同時か順番にやる必要があるが、D1は、運転技術が未熟で落ち着いて対応できなかっ15たのではないか。カーブでブレーキを踏まなかったのは、乗客に重力がかかると思ったか、ハンドルを回しながらブレーキをかけるのは危険だと思ったのではないか。直線部分でブレーキを踏めなかったのも、重力が発生して乗客に負担がかかると考えたのかもしれない。」というのである。 ⑵ 証人E3証言の概要20交通鑑識官として本件事故現場に臨場し、その後の捜査全般に関与した証人E3は、前記捜査結果等に基づいて推測する本件バスの挙動について、概要次のとおり証言する。すなわち、「入山峠頂上付近で4速から5速に変速し、第39号カーブを下り始め、①区間では5速・排気ブレーキで速度調整して下って行った。②区間は、目前に第40号カーブが迫り、時速25も約72kmまで加速してい 山峠頂上付近で4速から5速に変速し、第39号カーブを下り始め、①区間では5速・排気ブレーキで速度調整して下って行った。②区間は、目前に第40号カーブが迫り、時速25も約72kmまで加速していた状況からして、ギアチェンジを試み、クラ16 ッチを踏んで補助ブレーキの作動条件が解除されたと考えられる。②区間の理論値や走行実験結果は、5速・排気ブレーキよりも6速・排気ブレーキの方が実際の値に近いが、事故時に発生したと考えられる『問題のエラーコード』がN3からN4へのシフトレバーの移動を示しているところ、6速からニュートラルになるとN4にシフトレバーが止まるので、5速で5あったと判断する。そして、『問題の変化点』からして、44.0kp付近で5速からシフトダウンしようとしてニュートラルに陥ったと考えられる。44.2kpから第41号カーブに差し掛かるが、この間の路面に対向車線にはみ出すタイヤ痕があるので、既にハンドル操作が遅れていたと考えられる。軽井沢橋通過時も、対向車線へのはみ出しがタイヤ痕によっ10て確認され、映像からも本件バスが大きく傾いていたことが認められ、ここでもハンドル操作の遅れがあった。第42号カーブ進入時には、制動灯の点灯やタイヤ痕からブレーキ制動があったと認められるが、ハンドル操作の遅れと速度が増していたことで、車体が大きく傾いてガードレールに接触し、車両左後方部を損傷させ、第43号カーブで限界旋回速度を超え15て崖下に転落した。FCTMは、クラッチを踏む時間やシフトレバーを押さえつける時間等のこつを要するものであるが、ミスをしていることから、D1は、FCTMのギアシフトに関する熟練度が未熟であったと考えられる。また、重心位置が高く車両重量も重いといった本件バスの特性を十分理解していれば、ブレーキを踏む あるが、ミスをしていることから、D1は、FCTMのギアシフトに関する熟練度が未熟であったと考えられる。また、重心位置が高く車両重量も重いといった本件バスの特性を十分理解していれば、ブレーキを踏むタイミングや強さを判断することができ20るが、D1は、車両重量が重いことだけを捉えてしまい、横転の危険性を考えて、強いブレーキを踏めなかったのではないかと考えられ、知識や経験が不足していたと考えられる。」というのである。 ⑶ 信用性判断証人E1は、本件バスを製造したG1株式会社において、証言当時、同25社開発本部実験統括部機能性能実験部の部長を務めており、長年にわたり、17 大型バス等の開発業務やテスト走行等に従事してきたエンジニアで、本件バスと同じHの開発にも携わっていた。その証言内容は、長年にわたり大型バスの開発業務等に携わった豊富な専門的知識や運転経験等に基づき、事故後の本件バスの調査や走行実験結果等の客観的事実を分析した結果を述べるものであって、説得力に富み、特段、不合理な点も見当たらず、5基本的に信用できるというべきである。 また、証人E3は、交通事故捜査に約25年間関わってきたキャリアを有しており、多数の交通事故分析等を行ってきた警察官で、本件事故捜査においては、交通鑑識官として現場に臨場し、証言当時は、長野県警察本部交通指導課課長補佐を務めていた。その証言内容は、長年にわたり交通10事故捜査に携わってきた豊富な知識や経験等に基づき、捜査によって得られた客観的事実を分析し説明するもので、全体として説得力に富み、特段不合理な点も見当たらず、証人E1の証言内容の核心部分、とりわけ、「問題の変化点」において、本件バスのギアがニュートラルに入ってしまったと推測される点や、事故直前区間において、6速にギアチェ 、特段不合理な点も見当たらず、証人E1の証言内容の核心部分、とりわけ、「問題の変化点」において、本件バスのギアがニュートラルに入ってしまったと推測される点や、事故直前区間において、6速にギアチェンジしたとは15考え難いといった点について、証人E1の証言内容と一致し、相互にその信用性を補強し合っていて、基本的に信用できるというべきである。 ⑷ 事故直前区間における本件バスの挙動とD1の運転状況以上の事実関係や証言内容等からすると、事故直前区間における本件バスの挙動とD1の運転状況は、次のとおりであったと認められる。 20ア 入山峠頂上付近から本件事故現場までの約1.1kmの事故直前区間は、平均6.4%の下り勾配で、5つのカーブが連続して存在するところ、本件バスの速度は、前記4⑴のとおり、同区間を走行したおよそ約1分間に、時速約51kmから約96kmまで加速した。 イ 本件バスは、入山峠頂上付近から①区間及び②区間を含む第40号25カーブ手前の44.0kp付近までの間は、前記7⑵及び⑶の走行実験結18 果と理論値等からみて、証人E1及び証人E3が一致して証言するとおり、ギアを5速に入れて問題なく走行していた。 ウ 第40号カーブ手前の③区間では、時速が70kmを超えてきており、前記4⑵のとおり監視カメラ映像に2回制動灯が点灯している状況が映っていることに加え、証人E1と証人E3の一致した証言からすると、5運転者であるD1は、同カーブに備えてギアチェンジして減速するために、2回ブレーキを軽く踏んだものと認められるが、同じ頃、44.03kp付近で「問題の変化点」が生じ、本件バスが加速し続け、その後、ギアがニュートラルの状態で本件バスが転落して、その際、「問題のエラーコード」によればギアのシフトレバーがN3から 同じ頃、44.03kp付近で「問題の変化点」が生じ、本件バスが加速し続け、その後、ギアがニュートラルの状態で本件バスが転落して、その際、「問題のエラーコード」によればギアのシフトレバーがN3からN4に移動したと認められる10ことからすると、D1は、同カーブに備えて5速から4速へのギアチェンジを試みたが、これに失敗してギアがニュートラルになり、③区間では平均6%というかなり急な下り勾配が続く中で補助ブレーキが効かなくなったため、「問題の変化点」が生じて本件バスが加速を続けたものと認められる。 15エ 「問題の変化点」が生じてから数秒後、本件バスは、時速80kmを超える速度で第41号カーブに進入した。同カーブ手前には100m以上の直線が続いていたが、本件バスは、8%前後という相当急な下り勾配が続く中で加速を続けており、D1は、同直線において、減速に必要な程度のフットブレーキはかけなかったと認められる。そして、第41号カー20ブ及び同カーブを抜けた軽井沢橋上には、センターラインを若干はみ出した部分に、自動車工学の専門家である証人E2の分析によると制動力のかかっていない本件バスのタイヤの横滑り痕が印象されており、44.4kp付近にある軽井沢橋カメラの映像によると、左カーブである第41号カーブを抜けた本件バスは、車体を大きく右に傾ける状態で走行していた状25況が映っている。この点、③区間では、D1が減速のためにブレーキを踏19 み、ギアのシフトダウンを試みていたと認められることからすると、そのギアチェンジに失敗して補助ブレーキが効かなくなり加速が続いていた状況においても、D1は、本件バスを減速しようとしていたと考えるのが自然である。にもかかわらず、D1が第41号カーブ手前の直線で強くブレーキを踏むなどして減速せず、 キが効かなくなり加速が続いていた状況においても、D1は、本件バスを減速しようとしていたと考えるのが自然である。にもかかわらず、D1が第41号カーブ手前の直線で強くブレーキを踏むなどして減速せず、時速80km超という高速度で同カーブ5に進入した際も、ブレーキを踏むなどして制動力のある形で本件バスの減速を図らずに、同カーブを抜けた後に車体を大きく右に傾けながら走行したのは、証人E1及び証人E3が一致して証言するとおり、急ブレーキをかけることで、深夜で就寝していた可能性が高い乗客に怪我をさせるとか、場合によっては本件バスを横転させることをおそれて、強いブレーキを踏10まずに第41号カーブを何とか曲がり切ろうと判断したものと考えるのが合理的である。 そして、第41号カーブ及び同カーブを抜けた軽井沢橋上のセンターラインを若干はみ出した部分に本件バスのタイヤの横滑り痕が印象されていた上、同橋上で本件バスが車体を大きく右に傾けて走行している状況で15あったことからすると、D1は、高速度で同カーブを曲がり切るために、本件バスを反対車線に進出させるのではなく、証人E3が証言するとおり、対向車があるかもしれないと考え、衝突を避けるために、本件バスを自車線内にとどめたまま同カーブを曲がり切ろうとしていたが、深夜で街灯もなく視界が狭かったために道路状況が十分に把握できずにハンドル操作20が遅れていたため、本件バスを自車線内で維持できず対向車線にはみ出させ、強い遠心力により車体を大きく傾かせてしまったものと考えられる。 オ その間も本件バスは加速を続け、数秒後には時速90km超という非常な高速度で第42号カーブに差し掛かった。前記4⑵のとおり、同カーブには、証人E2の分析によるとABSの制動が効いたタイヤ痕が印象25されており、軽井 を続け、数秒後には時速90km超という非常な高速度で第42号カーブに差し掛かった。前記4⑵のとおり、同カーブには、証人E2の分析によるとABSの制動が効いたタイヤ痕が印象25されており、軽井沢橋カメラの映像で本件バスの制動灯が点灯していたと20 確認できることからすると、D1は、減速するためにABSが作動するほどの強さでブレーキをかけたと認められる。しかし、本件バスの車体の左後方を道路左側に設置されていたガードレールに接触させたことからすると、証人E3が証言するとおり、ブレーキ操作によっても本件バスは減速せず、ハンドル操作も遅れていたことから、遠心力により本件バスの車5体が大きく左に傾き、ガードレールに車体が接触したものと認められる。 カ それから約数秒後に本件バスは転落したが、それまでの間も加速を続け、時速約95kmで第43号カーブに進入した。前記4⑴及び⑵のとおり、本件バスの同カーブにおける限界旋回速度が時速約91.6kmであり、対向車線上には転落地点に至るまで、証人E2によって転動横滑り10痕と分析されているタイヤの痕跡が印象されていて、その痕跡によると転落直前に本件バスのハンドルが1回転していたと認められることからすると、D1は、第43号カーブに進入する際、減速するために強いブレーキをかけ、同カーブを曲がり切ろうとしてハンドルを大きく切ったが、ハンドル操作もブレーキ操作も遅きに失したため、本件バスは右斜め前方に15横滑りして対向車線に進出していき、さらにD1が急ハンドルを切り続けたものの制御不能となり、本件バスは、道路右側のガードレールを突き破って崖下に転落したものと認められる。 キ 以上で見てきた本件バスの挙動やD1の運転状況、とりわけ、前記ウのとおり、44.03kp付近で生じた「問題の変化点」が スは、道路右側のガードレールを突き破って崖下に転落したものと認められる。 キ 以上で見てきた本件バスの挙動やD1の運転状況、とりわけ、前記ウのとおり、44.03kp付近で生じた「問題の変化点」がD1のギア20チェンジミスによって本件バスのギアがニュートラルになったことに起因するものであり、しかも、前記6のとおり、その後に発生した本件事故直前の本件バスのギア位置もニュートラルであったことからすると、この間、D1は、ギアをニュートラルにしたまま走行しようとしたか、ギアを入れ直そうとしたが、「問題の変化点」以後、第41号カーブまではブレ25ーキを踏めなかったためギアを入れることができず、同カーブを抜けた後21 は、ハンドル操作にまで遅れが出ていることからして、次々と続くカーブをどうにか曲がるためのハンドル及びブレーキ操作を行うことに精一杯で、ギアを入れ直すことができなかったものと認められる。 9 本件事故が起きた要因以上の検討に加え、前記5のとおり、事故後の検証結果等から、本件バ5スの走行機能には本件事故に繋がるような不具合はなかった旨が判明していることを併せ考えると、本件事故が起きた要因は、①急な下り勾配でカーブが連続する事故直前区間において、本件バスの時速が70kmを超えた44.0kp付近でD1が減速のためのギアチェンジに失敗し、ギアがニュートラルになって補助ブレーキが効かない状態となり、本件バスを10更に加速させ、②第40号カーブを抜けた後の直線区間で本件バスの時速が80kmを超え、目前に第41号カーブが迫っていたのに、D1が同カーブ手前では急ブレーキをかけることで、深夜で就寝していた可能性が高い乗客に怪我をさせることをおそれ、同カーブでは本件バスを横転させることをおそれてフットブレーキを強くかけず、速 たのに、D1が同カーブ手前では急ブレーキをかけることで、深夜で就寝していた可能性が高い乗客に怪我をさせることをおそれ、同カーブでは本件バスを横転させることをおそれてフットブレーキを強くかけず、速度の出過ぎと暗くて視界15が狭く道路状況の把握も十分できずに、ハンドル操作の遅れから本件バスを対向車線にはみ出させ、同カーブを抜けた軽井沢橋上では本件バスの車体を大きく傾かせて走行しながら、本件バスを更に加速させ、③数秒後には、時速90km超という非常な高速度で、第42号カーブに差し掛かり、D1が急ブレーキをかけたが本件バスは減速せず、速度の出過ぎとハンド20ル操作の遅れから車体を大きく傾けさせて道路左側のガードレールに車体左後方を接触させ、それでも本件バスを更に加速させ、④その数秒後、限界旋回速度を超える時速約95kmで第43号カーブに進入し、D1が急ブレーキをかけ急ハンドルを切ったが、本件バスが制御不能に陥り崖下に転落し、⑤この間、D1がギアを入れ直して補助ブレーキを効かせるこ25とができなかったこと、これらD1の一連の運転状況が本件事故発生の要22 因であったと認められる。 10 弁護人の主張⑴ 被告人Aの弁護人は、本件バスの車両挙動について、検察官が主張する以外の可能性も考えられるとして、走行実験結果等の数値からすると、①区間で本件バスが6速・パワータードブレーキであった可能性を排5除することはできず、②区間で本件バスの加速度(0.22)に最も近似するのは、6速・排気ブレーキの数値であって、解剖結果によるとD1の膀胱内には多量の尿が存在していたことも併せ考えると、D1が強烈な尿意もあって合計3車線の道幅の広い道路であったことから先を急ぐために、①区間及び②区間で5速から6速にギアをシフトアップした可能性 膀胱内には多量の尿が存在していたことも併せ考えると、D1が強烈な尿意もあって合計3車線の道幅の広い道路であったことから先を急ぐために、①区間及び②区間で5速から6速にギアをシフトアップした可能性が10あり、だからこそ③区間における本件バスの平均加速度(0.28~0. 29)に6速・エンジンブレーキの加速度(0.24)が近似し、Ⅰ区間における本件バスの加速度(0.28)も計算上のニュートラルの加速度(0.38)とは乖離している一方、6速・エンジンブレーキの加速度(0. 27~0.29)が近似している、クラッチペダルを僅かでも踏んでい15た場合、シフトレバーの動きのみでギアがニュートラルになり得るので、第41号カーブ以降のカーブ等でD1の体が振られた際や転落中にD1の手足等がシフトレバーに触れるなどして、ニュートラルになった可能性がある、シフトロッドの傷について、14~15mmや45mm付近にも傷痕のようなものが見える、「問題のエラーコード」についても、120年以上前のものである可能性がある、「問題の変化点」については、主として道路勾配が急になっていることに起因するもので、ギアがニュートラルになったことを裏付ける証拠にはならない、志賀高原での走行実験をみると、むしろギアがニュートラルになっただけではタコグラフに変化点は現れなかったのであるから、本件バスが44.03kp以降にニュー25トラルになった可能性を否定できないなどと指摘する。【被告人A弁論P23 35~53】また、被告人Bの弁護人は、走行実験について、3車線を使って行われている点で再現性に問題があり、5速・エンジンブレーキのデータ保存に失敗した点は致命的である上、データの回復を図る努力をしなかった証人E1の証言を採用することは疑問であり、 3車線を使って行われている点で再現性に問題があり、5速・エンジンブレーキのデータ保存に失敗した点は致命的である上、データの回復を図る努力をしなかった証人E1の証言を採用することは疑問であり、証人E3もデータの復元5を行わなかった点で致命的であって、D1がギアチェンジを誤ってニュートラルで走行したという点は立証されておらず、本件バスが横転した際にニュートラルになった可能性も否定できない、D1が強い尿意を自覚していたと推認される点は、被告人Aの弁護人の主張するとおりであり、トイレに行くため、あるいは、深夜であるから眠気のためにブレーキ操作10を怠った可能性があるなどと指摘する。【被告人B弁論P25~26、48~49】⑵ そこで、まず、被告人Aの弁護人の主張について検討すると、解剖結果(甲20)によれば、D1の膀胱内に多量の尿が存在しており、同人がかなりの尿意を感じていた可能性があることは、被告人Aの弁護人指摘15のとおりである。しかしながら、急な下り勾配である①区間及び②区間において、既に本件バスの時速が70kmを超えてきており、目前に第40号カーブも迫っている中で、あえてD1が5速から6速にギアをシフトアップしたというのは、仮に強い尿意があったとしても、証人E1が証言するとおり、ドライバー心理として考え難いものである。この点、被告人A20の弁護人は、証人E1の証言が一般論ないし推測に過ぎず、証人E1が検察官に迎合しようとして不合理な供述をしているなどと指摘し、その信用性を弾劾しようとする。しかしながら、証人E1は、前記7の走行実験では安全確保の観点から対向車線にはみ出して走行したため、裁判に出廷するに当たり、自ら、本件バスの挙動に合わせて対向車線にはみ出さない形25での走行実験を10回近く行って、5 、前記7の走行実験では安全確保の観点から対向車線にはみ出して走行したため、裁判に出廷するに当たり、自ら、本件バスの挙動に合わせて対向車線にはみ出さない形 での走行実験を10回近く行って、5速から6速にギアをシフトアップし て加速することは現実的ではないとの結論に至ったとのことであり、具体的な根拠に基づいた説得力のある推測というべきである。不合理な供述と指摘されている部分も、数年前に実施された走行実験の細部に関する記憶の混同によるものと認められ、そもそも証人E1が検察官に迎合する必要など全くないのであるから、証人E1証言に関する被告人Aの弁護人の指 摘は採用できない。 また、転落直前の本件バスのギアはニュートラルであったと認められ、タコグラフチャートの分析結果や証拠から認定できる走行状況等からして、「問題の変化点」以降、ギアチェンジがなされた形跡が存在しないところ、仮に①区間又は②区間で6速にギアが入っていたとすると、ニュー トラルになればシフトレバーがN4となるが、「問題のエラーコード」によると、転落時にシフトレバーがN3からN4に移動したと認められ、6速にギアが入っていたことと相反する。なお、「問題のエラーコード」が本件事故の際に発生したものと認められることは、既述のとおりである。 ②区間における加速度についても、走行実験の結果による速度の差は、5 速・エンジンブレーキと6速・排気ブレーキでわずか0.01しかなく、5速であったことを排斥する結果ではないし、Ⅰ区間における加速度の理論値が本件バスの実際の加速度より大きいことも、本件バスが極力対向車線にはみ出さないように走行したため旋回抵抗による影響を受けたものと考えられる。①区間及び②区間で6速にギアが入っていたとする被告人 Aの弁護人の仮説 度より大きいことも、本件バスが極力対向車線にはみ出さないように走行したため旋回抵抗による影響を受けたものと考えられる。①区間及び②区間で6速にギアが入っていたとする被告人20Aの弁護人の仮説は、採用できない。 さらに、道路勾配が急になったために「問題の変化点」が生じたとの指摘については、確かに、44.0kpから44.1kpにかけて下り勾配が急になっており、この時点での本件バスの加速にその影響があったことは否定できない。しかしながら、検察官が指摘するとおり、44.0kp25付近の道路形状はなだらかな傾斜勾配である上、走行実験の結果を見ると、25 ②区間よりも下り勾配が急な③区間や44.03kpから44.15kp付近までの区間の方が加速度が減少しており、道路勾配の影響のみで44. 03kpを境に加速度が大きく変化したとみるよりも、その影響に別の要因も加わって生じた変化が「問題の変化点」として現れたとみるのが合理的である。そして、既にみたとおり、本件バスの転落直前にはギアがニュ5ートラルであったと認められるところ、「問題の変化点」以降、ギアチェンジがなされた形跡がないことからすると、その別の要因とは、ギアがニュートラルとなり補助ブレーキが効かなくなったことと考えるのが、客観的な事実関係と整合する見方というべきである。被告人Aの弁護人は、走行実験に関する前記分析について、速度が上昇すると加速度が減少するこ10とを検察官が考慮していないとするが、同弁護人の指摘からすると、むしろ速度を上げ続けていた本件バスの加速度が下り勾配の影響のみで増加したことの説明がつかない。また、志賀高原での実験に関する指摘は、証人E3によると、本件バスの挙動に合わせてフットブレーキを2回踏んでギアをニュートラルにした場合は、明確な変化点が認めら のみで増加したことの説明がつかない。また、志賀高原での実験に関する指摘は、証人E3によると、本件バスの挙動に合わせてフットブレーキを2回踏んでギアをニュートラルにした場合は、明確な変化点が認められたというので あるから(第3回公判証人E3証言調書P12~15)、「問題の変化点」でギアがニュートラルになったことを否定する根拠とはならない。 そして、第41号カーブ以降、体を振られたD1の手足等がシフトレバーに接触してギアがニュートラルとなったとの指摘については、①シフトレバーがD1の着席位置の左前方に位置しており、②証拠から認められる 本件バスの挙動、具体的には、第41号カーブを抜けたところでは右側に体が振られており、③第42号カーブと第43号カーブでいずれも急ハンドルを切っていることから、D1がハンドルを両手で握っていたと考えられること、さらに、④本件バスが右側面を下に転落したことからすると、D1の手がシフトレバーに当たり、偶々ニュートラルになったという可能 性は乏しく、その他足等が当たったという可能性も皆無というべきである。 シフトロッドに別の傷跡があるとの指摘も、被告人Aの弁護人が指摘する傷跡は、前記6⑵の傷とは色及び形状からして明らかに異なるものである。 一方、被告人Bの弁護人の主張をみると、まず、走行実験が事故防止の観点から3車線を使って行われた点は、同弁護人指摘のとおりであるが、証人E1と証人E3は、その公判証言によると、本件バスの挙動と走行実 験の条件の違いを考慮に入れた分析、検討を行っていると考えられ、同弁護人が指摘する点が直ちに走行実験全体の再現性に問題を生ぜしめるものとはいえない。また、走行実験において一部データ保存に失敗した点やそのデータの復元を行わなかったとする指摘については、 えられ、同弁護人が指摘する点が直ちに走行実験全体の再現性に問題を生ぜしめるものとはいえない。また、走行実験において一部データ保存に失敗した点やそのデータの復元を行わなかったとする指摘については、指摘されている諸点が事実であるとしても、そのことが走行実験全体の信頼性や証人E110や証人E3の公判証言の信用性を減殺する理由が不明である。さらに、本件バスが転落横転した際にギアがニュートラルになった可能性が非常に乏しいこと、強い尿意があって先を急いでいたからといって、限界旋回速度を超えるまで敢えてブレーキ操作を怠ったというのは考え難いことは既に検討したとおりであるし、本件バスの走行状況等からして、ブレーキ15操作が困難となるほどの眠気があったとも考えられない。 その他両被告人の弁護人が縷々指摘する点も含めて検討しても、本件事故が発生した要因に関する当裁判所の判断は揺るがない。 第4 D1の大型バスの運転技量等について1 D1の経歴等20D1は、昭和25年に出生し、大学を卒業して和菓子の製造に従事するなどした後、平成12年5月有限会社G2に入社し、程なく大型自動車第二種運転免許(以下「大型二種免許」という。)を取得して、平成22年9月まで約10年間、大型バス等の運転に従事していた。その後、平成23年6月から平成27年12月までの間、有限会社G3で勤務していたが、25同月29日、証人E4の紹介で株式会社Cに入社した。(甲54~56)27 2 D1が有限会社G3で運転していたバスの形状等D1は、後述のとおり、有限会社G3においては大型バスの運転には従事しておらず、小型バスとマイクロバスを運転していたと認められる。同社が所有していた小型バスは、全長約6.99m、全幅約2.30m、全高約3.26m おり、有限会社G3においては大型バスの運転には従事しておらず、小型バスとマイクロバスを運転していたと認められる。同社が所有していた小型バスは、全長約6.99m、全幅約2.30m、全高約3.26m、車両重量約6540kg、乗車定員26名のもの、マイ クロバスは、全長約6.99m、全幅約2.01m、全高約2.62m、車両重量約4040kg、乗車定員29名のもので、いずれもFCTMではなくロッド式のギアであった。(甲46~48) 3 大型バスによる夜行日帰りのスキーツアー運行業務の特性株式会社Cにおける夜行日帰りのスキーツアー運行業務は、運行する大 型バスが夜に東京都内を出発して翌朝長野県内や新潟県内のスキー場等に到着し、同日午後に同スキー場等を出発し、同日夜に東京都内に戻るというものであった。スキーツアーの経路には、道路の幅員が広く走行車線が複数ある高速道路や平坦な幹線道路もある一方で、道路の幅員が狭く、カーブも多い勾配差の激しい上り坂や下り坂が続く峠道も存在する。こう した峠道を大型バスで運行する場合、特に下り勾配でカーブが連続する区間においては、対向車の存在に注意しつつ、車体の大きさやオーバーハングの長さも踏まえたハンドル操作を行う必要があり、また、乗客も多く車重が重いためブレーキ操作にも注意が必要であり、勾配に合わせてギアチェンジを行う頻度も増えるなど、運転操作自体が多くなり、集中力を維持 しながら慎重に運転する必要がある。さらに、冬季の長野県の峠道等は、気象条件の変化、標高の高低、残雪や日照の有無によって路面条件も刻々と変化することから、大型バスの運転に当たっては、事前に情報収集をし、場所に応じて変化を認知し、危険の予測をして、危険回避の判断と運転操作をする必要があるが、夜間は昼間に比べて視認性が 面条件も刻々と変化することから、大型バスの運転に当たっては、事前に情報収集をし、場所に応じて変化を認知し、危険の予測をして、危険回避の判断と運転操作をする必要があるが、夜間は昼間に比べて視認性が悪くなり、道路状況25の変化を認識するのが遅れたり、速度感覚の麻痺により速度超過を引き起28 こしやすくなったりすることに注意する必要があった。(第4回公判証人E3証言調書P56~57、甲50)4 入社から本件事故までのD1の乗務等株式会社C入社後から本件事故までの間、D1は、①平成27年12月30日、証人E4とともに東京都羽村市内にある同社車庫から北志賀5までのスキーツアーの片迎え運行の往路と復路の運行に乗務し(以下「1回目の乗務」という。)、②翌年1月3日から4日にかけて、証人E4とともに前記車庫から北志賀までの往復スキーツアーの運行に乗務し(以下「2回目の乗務」という。)、③同月8日から10日にかけて、証人E5とともに前記車庫から新潟県J2までの往復スキーツアーの運行10に乗務した(以下「3回目の乗務」という。)。1回目の乗務及び2回目の乗務は、本件スキーツアーと同様に北志賀方面への運行であったが、証人E4証言の争いのない部分によれば、D1は両乗務とも碓氷バイパスを含む区間の運転を担当しなかった。これらのツアーで使用したバスは、本件バスと同様の大型バスであり、いずれもギアは、FCTMであ15った。株式会社Cでは、入社から本件事故までの間に、D1を前記3回の乗務に就けただけで、その他に何らの研修や運転訓練も実施しなかった。(甲46、90、92、94、334、335等)5 D1の適性診断⑴ ナスバで実施した適性診断結果20D1は、有限会社G3に入社直後の平成23年6月7日、独立行政法人 なかった。(甲46、90、92、94、334、335等)5 D1の適性診断⑴ ナスバで実施した適性診断結果20D1は、有限会社G3に入社直後の平成23年6月7日、独立行政法人自動車事故対策機構(通称「NASVA」。以下「ナスバ」という。)が実施している適性診断(初任診断)を受け、運転時に注意すべき点として、以下の3点の指摘を受けていた。すなわち、①危険感受性に欠ける場合があるとして、「交通状況をよく見ようとする積極的な姿勢が不十分で、先25を急ぐ傾向がかなり強く、状況判断も甘く、運転に慎重さが足りない点が29 見受けられる」、②注意の配分に欠ける場合があるとして、「注意が一点に集中しがちで、状況変化を素早く正しく捉えられないことがある、注意が右に偏る癖があり、左側への注意が不足することが考えられる」、③判断・動作のタイミングが早いとして、「自分では確認したつもりでも、実際にはよく確かめもせずに、反射的に手足が先に動いてしまう、動作が先で確5認が後回しになりがちである。動作に入る前に一呼吸間を置くようにしてください」との指摘がなされた。(甲72)⑵ G4株式会社で実施した適性診断結果D1は、平成27年12月10日、G4株式会社が実施している適性診断を受けた(なお、この適性診断は、国土交通大臣の認定を受けたもので10はなく、運転者が任意に受診するものである〔甲78〕。)。その結果をみると、複雑な交通情報や多くの刺激・変化に対して常に正しく素早い処置ができるかを判断する重複作業反応検査について、「誤りの反応が多くあった。突発的な出来事に対する処置を間違いやすい傾向がある。反応が遅れがちである。」との指摘がなされて「特に注意」と評価され、総合判断で15も「特に注意」と評価された。この総合 りの反応が多くあった。突発的な出来事に対する処置を間違いやすい傾向がある。反応が遅れがちである。」との指摘がなされて「特に注意」と評価され、総合判断で15も「特に注意」と評価された。この総合判断における「特に注意」との評価は、5段階評価の最下位であり、全体数の下位3%に位置するものであった。(甲75~77)6 D1の運転技量に関する証言等⑴ 証人E4証言の概要20証人E4は、有限会社G2におけるD1の同僚で、株式会社CにD1を紹介し、1回目と2回目の乗務に同乗した人物である。その公判供述は、次のとおりである。すなわち、「D1は、有限会社G2で大型ダンプの運転をメインにしており、観光バスの運転には手伝いの形でサブドライバーとして入っていた。平成15年夏頃、一緒に2、3回尾瀬の観光ツアーバ25スを運転した際、D1は桧枝岐を運転した。この時のバスは、FCTMで30 はなかった。平成27年12月27日、有限会社G3にいたD1から生活に困っていると相談を受け、自分が勤めていた株式会社Cに紹介した。D1からは『5年ほど大型バスに乗っておらず慣れていない』と聞いていたが、乗客からのクレームをおそれる旨の発言と判断し、何とかなると考えた。D2との間では、D1の採用後、研修を兼ねて3人くらいが同乗して5運転技術を確認しようなどと話していた。同月29日、被告人Bから、翌30日の北志賀へのスキーツアーの片迎え運行(1回目の乗務)でD1の面倒を見るよう頼まれた。当日、D1は、本件バスと同様の大型バスを運転し、羽村の車庫から下道で藤岡インターまで行き、そこから高速でK2サービスエリアまでの区間を運転した。D1の運転は、ブレーキが早過ぎ10る癖があり、滑らかさに欠ける部分があったが、脱輪や信号の見落としはなく、スピ 道で藤岡インターまで行き、そこから高速でK2サービスエリアまでの区間を運転した。D1の運転は、ブレーキが早過ぎ る癖があり、滑らかさに欠ける部分があったが、脱輪や信号の見落としはなく、スピードを出す方でもなかったので、客を乗せて運転することが問題となるレベルではなかった。ギア操作については、ロッド式ギアの癖がついており、FCTMに慣れておらず、ギアが滑らかに入らずに『ギャ』という音がしたことが3回ほどあったので、ニュートラルで一呼吸置くよ う指示した。有限会社G3でFCTMのバスを運転していなければ、D1にFCTMの操作経験はなかったと思う。その他、ブレーキのタイミング、アクセルの踏み方、ミラーを使って内輪差を意識せずに曲がる方法等について助言した。復路は、J3からJ4までと、K3サービスエリアから羽村の車庫までの区間をD1が運転したが、往路より運転が安定していた。 平成28年1月3日から4日、北志賀へのスキーツアーでD1とツーマン運行をした(2回目の乗務)。D1は、往路のうち羽村の車庫から上里サービスエリアまでとJ5からJ4までの区間、復路のうちJ3からJ4までとK3サービスエリアから羽村の車庫までの区間を運転した。1回目の乗務と比べて、運転の滑らかさが向上していた。」というのである。 ⑵ 証人E5証言の概要 証人E5は、株式会社Cの運転者であり、本件事故前、D1の最後の乗務であった3回目の乗務でペアを組んだ人物である。その公判供述は、次のとおりである。すなわち、「平成28年1月8日から10日、D1と一緒にJ2までの夜行1泊のスキーツアーの運行に乗務した。事前に、証人E4から色々と面倒見て教えてやってくれと頼まれており、D2からは以 前の勤務先の名前を聞き、中型バスしか乗っていなかっ 1と一緒にJ2までの夜行1泊のスキーツアーの運行に乗務した。事前に、証人E4から色々と面倒見て教えてやってくれと頼まれており、D2からは以5前の勤務先の名前を聞き、中型バスしか乗っていなかったと聞いていた。 往路は、まずD1に運転させて羽村の車庫からJ6に向かったが、あるまじき運転ミスを3回したので、運転技量がないと判断して途中で交替した。 具体的には、交差道路を左折する際、対向車に気を取られてハンドル操作を誤り、内輪差を無視してハンドルを切り過ぎたため、左の後輪を縁石に10擦ったこと(1回目のミス)、同じく対向車に気を取られてシフトダウンに失敗しニュートラルになったこと(2回目のミス)、上り坂でエンジンの回転数が下がったため、シフトダウンしようとしてクラッチを踏んだが、慌ててニュートラルになったこと(3回目のミス)である。往路の乗務終了後、D2に電話を掛け、D1について、『運転させるのはちょっと疑問15だぞ。』と伝えた。D2は、『分かった。分かった。』と言っていた。復路は、K4サービスエリアからJ7まで運転させたが、関越自動車道では車線変更がぎこちなく、一般道に降りた後も、左側から車線変更してきたトラックに気を取られ、右側車線を走行していた自動車と接触しそうになったり、左折時に前方の右折車に気を取られて歩行者を巻き込みそうになったり20するなど、一点に集中すると別の動作ができない人で、大型バスを運転するには未熟であると思った。その後、日時は曖昧だが、再度D2に対し、D1について『危ないぞ。』と伝えたが、D2は、電話の際と同じように『分かった。』と言っていた。被告人BからD1の運転について確認されたことはない。」というのである。 25⑶ 前記各証言の信用性について32 ア まず、D1の大型バスの運転 ように『分かった。』と言っていた。被告人BからD1の運転について確認されたことはない。」というのである。 25⑶ 前記各証言の信用性について32 ア まず、D1の大型バスの運転経験に関する両名の証言について検討する。この点、証人E4は、「D1から大型バスに5年ほど乗っておらず慣れていないと聞いていた」と証言している。一方、証人E5もD2から、「D1が以前の勤務先では中型バスしか乗っていなかったと聞いた」旨の証言をしている。さらに、後記のとおり、D1の採用面接を行った被告人5Bも、捜査段階から公判まで一貫して、D2又は証人E4及びD1本人から、「有限会社G3では大型バスに乗っていなかった」旨聞いていたと供述している。そうすると、両名の証言及び被告人Bの供述は、D1が株式会社C入社前に勤務していた有限会社G3においては、大型バスには乗務していなかったという認識であったという点で一致しており、相互にこの10点の信用性を補強し合っているというべきである。そして、そのような認識であったからこそ、証人E4は被告人Bから、証人E5は証人E4からそれぞれ頼まれて、スキーツアーでD1とペアを組んで、その運転技量を確認しようとしていたのであって、物事の流れとしても自然で納得のいくものである。しかも、D1の有限会社G3在籍期間が約4年半であり数字15的に符合することも踏まえると、証人E4及び証人E5の前記各証言は信用でき、証人E4がD1から聞いたとおり、D1は、株式会社C入社前の約5年間大型バスには乗っていなかったものと認められる。そして、有限会社G3が所有していた大型バス以外のバス(小型バスとマイクロバス)は、ギアがロッド式であったことからすると、D1は、株式会社C入社前20の約5年間、FCTMのバスを運転したこと 。そして、有限会社G3が所有していた大型バス以外のバス(小型バスとマイクロバス)は、ギアがロッド式であったことからすると、D1は、株式会社C入社前20の約5年間、FCTMのバスを運転したことはなかったと認められる上、証人E4が有限会社G2在籍時代にD1と大型バスの運転をした際、そのバスのギアもロッド式であったと述べていることなどからすると、証人E4証言のとおり、そもそもD1は、FCTMのギア操作を行ったことがなかった可能性が高いと認められる。 25なお、当裁判所は、前記判断に当たり、刑訴法321条1項3号に基づ33 き請求され、いったん証拠採用したF1の警察官に対する供述調書(甲57、59ないし61のうち令和4年9月8日付け検察官作成の上申書で特定された部分。以下、両被告人の弁護人が同意した部分も含めて「F1の3号書面」という。)は刑訴規則207条により証拠排除し、認定の用に供さなかった。この点、検察官は、D1の前の勤務先である有限会社G35の代表取締役兼運行管理者であるF1の3号書面は、犯罪事実の存否の証明に欠くことができない重要なものであると主張する。F1の3号書面は、同人が把握していた有限会社G3勤務時のD1の大型バスの運転技量及び運転経験等を立証しようとするものであるところ、前記のとおり、証人E4及び証人E5の各証言等によれば、D1が有限会社G3では大型バス10の運行に従事しておらず、株式会社C入社時点では、大型バスの運転に慣れていなかったと認定することができる。そうするとF1の3号書面は、同意部分も含めて「その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」との要件を充足せず、証拠排除するのが相当であると判断した。 イ 次に、株式会社Cに入社後のD1の1回目から3回目の乗務の状況15に関 て「その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」との要件を充足せず、証拠排除するのが相当であると判断した。 イ 次に、株式会社Cに入社後のD1の1回目から3回目の乗務の状況15に関する証人E4及び証人E5の証言を検討する。この点、両名は、いずれも長年にわたって観光バスの運転業務に従事してきた経験豊富なドライバーである。そして、両名は、既にみたとおり、D1がここ5年間ほどは大型バスの運転経験がないという共通認識に基づき、スキーツアーでD1とペアを組んでその運転技術を確認しようとしていたのであって、いず20れも内容的に特段不自然な部分は見当たらない。その中で、「D1がFCTMのギア操作に慣れていなかった」という点については、実際にD1がギアチェンジに失敗したかどうかに差はあるものの、両名の証言が一致しており、しかもこの点は、前記アで記したD1の運転経験とも整合していて、その信用性が補強されている。 25また、証人E5証言のうち、3回目の乗務の往路でD1がミスをしたた34 め運転を交替したという点については、証人E4が、当日D1から電話で、証人E5との乗務の際に、理由は分からないが往路の途中で運転を交替させられたとの話を聞いたと証言していることに裏付けられている。証人E4がD1からこのような内容の電話を受けたというエピソード自体、印象的なもので記憶違いの可能性は乏しく、しかも、D1と一緒に乗務した証5人E5と、D1から報告を受けた証人E4という立場の異なる者の証言が一致していることからすると、D1が証人E4に対しそのような電話をしたこと、その際の報告内容である3回目の乗務の往路途中で証人E5に運転を交替させられたことは、いずれも事実であったと認められる。その上で、証人E5は、D1が運転ミスをした地点、運 そのような電話をしたこと、その際の報告内容である3回目の乗務の往路途中で証人E5に運転を交替させられたことは、いずれも事実であったと認められる。その上で、証人E5は、D1が運転ミスをした地点、運転ミスの態様及びその原10因等を具体的に供述しており、その供述内容は、D1と運転を交替し、以後往路では運転させなかった際の心境も含め体験した者でなければ語れない迫真性を持っている。 一方で、証人E5は、捜査機関に対して、当初、「3回目の乗務の際、往路は全て自分が運転した。」旨述べ、D1の運転ミスについて供述せず、15D1の運転ぶりからすれば碓氷バイパスの下り線程度であれば、問題なく大型バスを運転できると思ったなどと、前記公判証言とは相反する供述をしていた(弁15、22)。しかしながら、証人E5は、当初株式会社Cの仲間を庇う気持ちや業界を敵に回すことはしたくなかったとの心境等から往路でのD1の運転ミスについて話さなかったが、その後、証人E4の20紹介で入社した会社で散々な目に遭って同人を庇う気持ちがなくなり、バス業界に見切りをつけて足を洗おうと考えるに至るなどしたため、本当のことを話したと述べており、供述内容を大きく変更した理由について当時の心境をありのままに話していると認められる上、納得のできる内容であると評価できる。しかも、既にみたとおり、3回目の乗務の往路でD1が25運転を交替させられたことは事実であったと認められ、この事実からすれ35 ば、往路は全て証人E5が運転したという前記捜査段階供述は信用できない一方で、運転を交替しなければならないほどの事情、すなわち、証人E5が述べるD1の運転ミスがあったからこそ、証人E5がD1と運転を交替したと考えるのが、物事の流れとして自然というべきである。 ウ そして、大型バス 替しなければならないほどの事情、すなわち、証人E5が述べるD1の運転ミスがあったからこそ、証人E5がD1と運転を交替したと考えるのが、物事の流れとして自然というべきである。 ウ そして、大型バスの運転者としてのD1の運転技量については、証5人E4と証人E5でその評価に相違がある。この点、検察官は、証人E5は、当時、D1と面識もなく、中立的に適正な判断をすることができる立場であったとする一方で、D1の運転技量に問題はなかったとする証人E4の証言について、証人E4は、D1を経済的困窮から抜け出させるために、D1の運転技量の問題を被告人BやD2に報告しなかったであるとか、10本件事故を起こしたD1を株式会社Cに紹介した自己の体面を保つために、D1の運転技量に問題がなかったと公判で証言したなどと主張する。 そこで検討すると、証人E4は、本件事故直後の取調べでは(甲344)、2回目の乗務において、大型バスの運転に慣れていないD1に碓氷バイパスを運転させるわけにはいかないと考えたなどと供述しており、一方公判15においては、碓氷峠越えが危険かどうかと問われれば危険であるが、D1の運転技量が足りているかどうかの話ではないと述べていて、両者が食い違っているのは、検察官指摘のとおりである。しかし、このような供述の相違があるからといって、D1が証人E4と乗務している際に運転ミスをしていて、それを証人E4が覆い隠そうとしていたことまで推認できるわ20けではない。実際にも、証人E4は、公判において、D1の運転について、ロッド式ギアの癖がついておりFCTMのギアチェンジに慣れていない様子であったと述べ、送りハンドルの問題点も指摘しており、証人E4に検察官が指摘するような心情があったことは否定し切れないが、両被告人の弁護人が弁論で指摘するとお CTMのギアチェンジに慣れていない様子であったと述べ、送りハンドルの問題点も指摘しており、証人E4に検察官が指摘するような心情があったことは否定し切れないが、両被告人の弁護人が弁論で指摘するとおり、D1の運転技量の問題を糊塗しようと25殊更虚偽の証言をしたとは認められない。証人E4自身、株式会社CにD36 1を紹介した自分以外の運転者にもD1の運転技量を見て欲しいとD2に述べていたのであり、それを受けてD2から依頼された証人E5がD1の運転状況を確認したところ、旧知の証人E4の前ではミスをしなかったD1が、初対面の証人E5の前では運転ミスを多発させたという可能性も十分にある。そうすると、証人E4と証人E5は、それぞれが確認したD51の運転技量について、率直にその評価を述べているとみるべきであって、両者の評価が相対立するという関係にあるとまでは認められない。 ⑷ D1の大型バスの運転技量等について以上の検討によれば、D1は、①株式会社C入社前の約5年間、大型バスの運転に従事しておらず、②その約5年間に加え、それ以前もFCTM10のギア操作を行った経験が殆どなかった可能性が高く、FCTMの大型バスで夜行日帰りのスキーツアーの運行に乗務した経験は皆無であったか、殆どなかった可能性が高かった上、③株式会社C入社後、本件事故までの1回目から3回目の乗務の結果、証人E4と証人E5というベテラン運転者から一致してFCTMの操作に慣れていないと評価された上、④証人E154と乗務した際には、大きな運転ミスはなかったものの、⑤本件事故の約1週間前に証人E5と乗務した際には、ハンドル操作を誤ったり、FCTMのギアチェンジに失敗してニュートラルになったりするなどしたため、証人E5に運転を交替させられたことがあったと認められ、 事故の約1週間前に証人E5と乗務した際には、ハンドル操作を誤ったり、FCTMのギアチェンジに失敗してニュートラルになったりするなどしたため、証人E5に運転を交替させられたことがあったと認められ、証人E5は、D1に大型バスを運転させることについて疑問である旨をD2に伝えて20いる。加えて、⑥適性診断結果を見ると、危険感受性に欠ける、注意が一点に集中しがちで状況変化を素早く捉えられない、よく確かめずに反射的に手足が先に動いてしまう、突発的な出来事に対する処置を間違いやすい傾向があるなどといった運転特性等が指摘され、総合判断で「特に注意」と評価されていた。そして、⑦前記第3の8で検討したとおり、D1は、25大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事した際、急な下り37 勾配が続きカーブが連続する区間で、減速のためのギアチェンジをミスしてニュートラル状態に陥り、乗客の怪我やバスの横転をおそれるなどしてブレーキを的確に踏めずに本件バスを更に加速させ、最終的に本件バスを制御不能の状態に陥らせ、本件事故を起こしたのである。そうすると、D1は、FCTMの大型バスの車両特性の理解及び操縦運転の技術が不十分5であり、大型バスを運転して前記3のような特性を有する夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事し、万が一にも死傷事故を起こさず乗客を安全に輸送するために必要な運転技量が十分に備わっていたとはいえないというべきである。 ⑸ 各証言に関する弁護人の主張10ア 両被告人の弁護人は、①証人E4は、大型バスの乗務経験が豊富なベテラン運転者であり、両被告人との間の利害関係もなく、中立的な立場から述べられた1回目及び2回目の乗務に関する証言内容は十分に信用でき、信用性を弾劾する検察官の指摘は失当である、②他方、検察官が主張の根拠 転者であり、両被告人との間の利害関係もなく、中立的な立場から述べられた1回目及び2回目の乗務に関する証言内容は十分に信用でき、信用性を弾劾する検察官の指摘は失当である、②他方、検察官が主張の根拠とする証人E5の3回目の乗務に関する証言は、捜査段階当初の15供述内容と大きく変遷しており、捜査段階の途中で供述を変遷させた理由も納得のできるものではない上、D1のギアチェンジミスを供述し始めた以降の供述調書と公判証言を比較しても、ミスをした場所、ミスの回数、その状況や原因等について内容が矛盾しており、検察官に迎合した供述と評価すべきであるし、証人E5は証人E4を逆恨みしており敵意から公判20供述に及んだものであり、信用できないなどと主張する。【被告人A弁論P58~76、被告人B弁論31~47、49~53】イ そこで検討すると、まず、既に述べたとおり、証人E4の証言については、当裁判所も基本的にはその信用性を認めている。しかしながら、D1の「5年ほど大型バスに乗っておらず慣れていない」との発言につい25て、乗客のクレームをおそれたからであると判断したという点は、証人E38 4がそう判断したこと自体はともかく、D1がそのような趣旨で発言したかどうかについては、検察官が指摘するとおり、D1とのやりとりに関する証人E4の証言を踏まえても定かではない。また、証人E4がD1の運転技量について、「客を乗せて運転することに問題はなく、FCTMの操作技量についても指導したら改善した」と証言する点も、既にみたとおり、51回目及び2回目の乗務ではD1が大きなミスをしなかった可能性はある一方で、証人E4自身、別の人物にD1の運転技量を確認してもらいたいとも考えていたというのであって、証人E4が前記評価をしたこと自体が信用できるとしても、 はD1が大きなミスをしなかった可能性はある一方で、証人E4自身、別の人物にD1の運転技量を確認してもらいたいとも考えていたというのであって、証人E4が前記評価をしたこと自体が信用できるとしても、それはあくまで2度の乗務でD1の運転技量を見た範囲にとどまるものという限度で理解すべきである。実際、D1がギア10チェンジをミスしたことをきっかけに、ブレーキを的確に踏めずに本件事故を引き起こしたことからすると、証人E4の前記評価は甘かったと言わざるを得ない。 ウ 次に、証人E5の証言について検討すると、まず、3回目の乗務の往路でD1が運転ミスをしたかどうかについて、両被告人の弁護人が指摘15する変遷があることは確かであるが、証人E5が変遷の合理的な理由を述べている上、3回目の乗務の往路でD1が運転を交替させられたことは事実であると認められることから、証人E5が公判で述べるようなD1の運転操作ミスがあったと考えられることは、既に検討したとおりである。両被告人の弁護人は、証人E5が捜査段階でD1の運転操作ミスについて供20述しなかった理由として、「取調官から聞かれなかった」などと述べている点について、取調官がこの点を聞かないはずはなく不自然極まりないなどと指摘するところ、確かにやや不自然ではあるが、証人E5が当初「往路は全て自分が運転した」と述べていたことから、取調官がこの嘘を見破れず、だからこそD1の運転操作ミスについて聞きようがなかったとする25検察官の指摘は、もっともである。また、その他に証人E5が述べる理由、39 すなわち、株式会社Cの仲間を守り業界から締め出されないよう捜査段階ではD1のミスを話さなかったが、証人E4に紹介された会社の対応等に嫌気がさして、バス業界から足を洗おうと思い本当のことを話すことにし わち、株式会社Cの仲間を守り業界から締め出されないよう捜査段階ではD1のミスを話さなかったが、証人E4に紹介された会社の対応等に嫌気がさして、バス業界から足を洗おうと思い本当のことを話すことにしたという供述経過は、前記のとおり一部やや不自然な点があることを踏まえても信用できるものであり、両被告人の弁護人が指摘するように飛躍が5あって不合理なものともいえない。 また、両被告人の弁護人は、平成30年10月26日に実施された起訴前の証人尋問において、証人E5がD1による脱輪やギアチェンジミスの場所を問われたのに対し、「記憶にない」と証言していたのに(弁16、23)、同年11月6日の検察官の取調べの際には、具体的な場所を記憶喚10起して述べ(弁17、24)、公判証言に至ったとする点について、3回目の乗務から2年10か月経過後の記憶喚起は信用性に乏しく、捜査官の誘導か捜査官への迎合によるものと指摘する。しかしながら、証人E5の供述内容は、前記起訴前の証人尋問時から、3回目の乗務の往路において、D1が脱輪やギアチェンジミスをしたという点では一貫しており、地図も15示されなかった起訴前の証人尋問時にはミスを起こした場所を記憶喚起できなかったが、その後、前記取調べで地図を示され、引当て見分において実際の道路状況を確認しながら記憶喚起がなされたとする検察官の主張は、記憶喚起の過程として特段不自然なものではなく納得のできるものである。 20さらに、両被告人の弁護人は、D1が2回目にギアチェンジをミスした際の証人E5の供述について、捜査段階では「十分に減速しないうちにギアをシフトダウンしようとした」と述べていたのに(弁17、24)、公判では「速度が遅すぎてシフトダウンに失敗した」と証言しており(第5回公判証人E5証言調書P26)、両 は「十分に減速しないうちにギアをシフトダウンしようとした」と述べていたのに(弁17、24)、公判では「速度が遅すぎてシフトダウンに失敗した」と証言しており(第5回公判証人E5証言調書P26)、両者は矛盾していると指摘する。しかし、25証人E5の公判証言を全体的にみると、証人E5は減速が不十分でギアチ40 ェンジできなかったと述べているものと評価でき、検察官が主張するとおり、弁護人が指摘する部分は言い間違えの可能性が高い。 加えて、両被告人の弁護人は、D1の大型バスの運転経験について、証人E5は、起訴前の証人尋問において、証人E4から「大型バスの運転経験があるが、最近、中型バスを専門にやっていると聞いていた」と供述す5る(弁16、23)一方、公判においては、D1の運転経歴についてはD2からしか聞いておらず、証人E4からは聞いていない旨供述しており(第5回公判証人E5証言調書P14~15)、矛盾することは明らかであると指摘する。そこで検討すると、確かに、両被告人の弁護人が指摘する食い違いがあるものの、この点に関する証人E5の供述を全体的に見る10と、検察官指摘のとおり、当時、証人E5は、D1が大型バスに不慣れなので自分が指導する必要があることに関心の主眼を置いていたと考えられるのであって、誰からD1に関する運転経歴を聞いていたかについては、証人E5にとってさしたる意味を持っていなかったと考えられる。そうすると、両被告人の弁護人の指摘は、証人E5の証言全体の信用性に影響を15与えるものではない。 その他両被告人の弁護人が縷々指摘する点を考慮しても、既に検討したとおり、証人E5の証言は、信用することができる。 7 D1の大型バスの運転技量と本件事故の原因との関係⑴ そこで、D1の大型バスの運転技量と本件事故 縷々指摘する点を考慮しても、既に検討したとおり、証人E5の証言は、信用することができる。 7 D1の大型バスの運転技量と本件事故の原因との関係⑴ そこで、D1の大型バスの運転技量と本件事故の原因とがどのよう20に関係するのかについて、以下検討する。 ア まず、本件事故が起きた要因のうち、最初のきっかけとなったのは、急な下り坂でカーブが連続する事故直前区間において、本件バスの時速が70kmを超えた際に、44.0kp付近でD1が減速のためのギアチェンジに失敗して、ギアが補助ブレーキの効かないニュートラル状態となり、25本件バスを更に加速させたことである。この点、D1は、株式会社C入社41 前の約5年間、大型バスに乗っておらず、その約5年間に加え、それ以前もFCTMの操作経験が全くなかった可能性が高く、特に、FCTMの大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事した経験は皆無であったか、殆どなかった可能性が高かった上、株式会社C入社後の乗務においても、2名のベテラン運転者からFCTMの操作に慣れていないとの5評価がなされており、実際にも、本件事故の際と同様、ギアチェンジに失敗してギアがニュートラル状態になったことがあったというのである。そうすると、D1は、大型バスのFCTMの操作経験が乏しく、十分に習熟していなかったことから、本件事故のきっかけとなった前記ギアチェンジの失敗を犯したものと考えられる。 10イ 次に、本件事故の原因としては、第41号カーブ手前の直線区間で、本件バスの時速が80kmを超えたにもかかわらず、同直線や同カーブにおいて、D1が強くフットブレーキをかけず、本件バスを減速させなかったことが挙げられる。 この点、本件バスの開発に携わり本件事故に関する走行実験も行った証15人E1 わらず、同直線や同カーブにおいて、D1が強くフットブレーキをかけず、本件バスを減速させなかったことが挙げられる。 この点、本件バスの開発に携わり本件事故に関する走行実験も行った証 人E1の証言によれば、事故直前区間において本件バスのギアがニュートラルになっても、適切なブレーキ操作等を行えば、事故を起こすことなく走行できたというのである。この証人E1証言によれば、D1が、重心位置の高さや車両重量といった本件バスの特性を理解した上で、適切なタイミングと強さでフットブレーキを踏めば、ギアがニュートラルのままでも 本件事故を起こすことなく走行できたと考えられる。 にもかかわらず、D1が強くブレーキを踏まなかった理由は、既に検討したとおり、乗客の怪我や本件バスの横転をおそれ、強いブレーキを踏まずに第41号カーブを曲がり切ろうと判断したものと考えられる。そして、D1がそのような判断をした要因は、D1が株式会社C入社前の約5年間 大型バスを運転しておらず、証人E4に対し「大型バスの運転に慣れてい ない」と述べ、被告人BもD1が大型バスの運転に慣れていないと認識していたのに、入社後も3回しか大型バスを運転していなかった状況の中で、本件バスが急な下り勾配で時速80kmを超えて加速するという突発的な事態に直面した際、重心位置の高さ等本件バスの特性を十分に理解しておらず、適切なタイミングと強さでブレーキをかけて本件バスを安全に運 行するための知識も経験も有していなかったので、強いブレーキを適切にかける自信がなかったことから、そのような判断をしたとみるのが、D1の大型バスの運転経歴やドライバーの心理等からして、自然かつ合理的である。 そうすると、D1は、株式会社C入社前後の大型バスの運転経験の乏し さや、それに のような判断をしたとみるのが、D1の大型バスの運転経歴やドライバーの心理等からして、自然かつ合理的である。 そうすると、D1は、株式会社C入社前後の大型バスの運転経験の乏し10さや、それに伴う本件バスの特性に関する理解の不十分さから、第41号カーブ手前の直線及び同カーブにおいて、強いブレーキを踏めなかったものと考えられる。 ウ さらに、本件事故の原因として、その後の本件バスの挙動とD1の運転状況をみると、D1は、第41号カーブで本件バスを対向車線にはみ15出させ、同カーブを抜けた軽井沢橋上では車体を大きく傾けさせ、その数秒後には、時速90km超という非常な高速度で第42号カーブに差し掛かり、急ブレーキをかけたが減速せず、ここでも車体を大きく傾けさせて道路左側のガードレールに車体左後方を接触させ、それでも本件バスの加速を止められず、更にその数秒後、限界旋回速度を超える時速約95km20で第43号カーブに進入し、急ブレーキをかけ急ハンドルを切ったが、制御不能に陥り本件バスを崖下に転落させたのである。 そこで検討すると、既にみたとおり、D1は、第41号カーブ手前の直線や同カーブにおいて、乗客の怪我や本件バスの横転をおそれて、強いブレーキを踏まずに同カーブを曲がり切ろうと判断したものと考えられる25ところ、その後、本件バスを更に加速させ、車体をガードレールに接触さ43 せるほど大きく傾けさせて走行する危険な状況に陥り、急ブレーキを踏んで急ハンドルを切ったが、結局制御不能となって崖下に転落するに至ったのであり、D1の前記判断は、結果的にみて、避けようとした危険より大きな危険を招いて、その危険を現実化させた点で、極めて甘いものであったと言わざるを得ない。D1が前記判断に及んだ要因は、前記のとおり、5大型バスの運 断は、結果的にみて、避けようとした危険より大きな危険を招いて、その危険を現実化させた点で、極めて甘いものであったと言わざるを得ない。D1が前記判断に及んだ要因は、前記のとおり、5大型バスの運転経験の乏しさや大型バスの特性等の理解の不十分さから、輸送の安全を確保して強いブレーキを適切に踏む操縦運転の技術や自信がなかったことと考えられるが、加速し続ける本件バスの速度が既に時速約80kmに達しており、第41号カーブを抜けたとしても、その先も急な下り勾配とカーブが連続していて、ギアがニュートラル状態で補助ブレ10ーキが効かず本件バスが加速し続けていたのであるから、このままフットブレーキを踏むなどして本件バスを減速させなければ危険な走行状況に陥る可能性があることをD1も十分予期できたはずであり、第41号カーブ手前の直線で強いブレーキを踏むなどして本件バスを減速させるべきであった。にもかかわらず、D1は、前記判断から第41号カーブ手前で15は強いブレーキをかけず、第42号及び第43号カーブでは急ブレーキをかけたが手遅れとなったのであって、これは前記のようなD1の大型バスの運転経験の乏しさや大型バスの特性等の理解の不十分さに加えて、第41号カーブの先の道路状況を的確に把握しておらず、前記5⑴及び⑵のとおり、2回の適性診断結果で指摘されていたD1の危険感受性の乏しさ、20注意が一点に集中しがちで状況変化を正しく捉えられず突発的な出来事に対する処置を間違いやすいとの傾向が強く影響したものと考えられる。 このような見方は、証人E5が3回目の乗務の際のD1の運転状況を見て、具体的なエピソードを挙げながら、一点に集中すると別の動作ができない人だと思ったなどと述べていることにも裏付けられているといえる。 25しかも、第41号カーブに進入 の際のD1の運転状況を見て、具体的なエピソードを挙げながら、一点に集中すると別の動作ができない人だと思ったなどと述べていることにも裏付けられているといえる。 しかも、第41号カーブに進入して以降は、本件バスが印象したタイヤ 痕の位置や映像から見て取れる車体の傾き、第42号カーブでのガードレールへの接触等の各種痕跡から、証人E3が証言するとおり、D1のハンドル操作にも遅れがあったと認められる。大型二種免許を有するD1が、運転動作における基本中の基本であるハンドル操作について、本件バスを大きく傾かせてガードレールに車体を接触させるほどに遅れを生じさせ ていたことからすると、本件バスが車体を大きく傾かせる中で時速が約90kmに到達し、目前に第42号カーブが迫ったため、同カーブを曲がり切れない危険があると感じて急ブレーキをかけてハンドル操作も行ったが、事前の認識不足や周囲の暗さによる視界不良等から道路状況を十分把握できず、本件バスの速度や車体の傾きに適時適切に対応するハンドル操 作が困難になっていたものと考えざるを得ない。このことには、D1の大型バスの運転経験、特に、急な下り坂が続く中でカーブが連続する峠道が運行区間に含まれる夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事した経験が乏しく、大型バスの特性等の理解も不十分であったことに加え、適性診断結果で指摘された注意が一点に集中しがちで状況変化を正しく捉えられ ない傾向と、突発的な出来事に対して反応が遅れがちな特性が強く影響したものと考えられる。 エ加えて、本件事故の原因としては、この間、D1がギアを入れ直して補助ブレーキを効かせることができなかったことも挙げられる。この点、44.03kp付近でギアがニュートラルになって以降、D1がニュート ラルのまま走 因としては、この間、D1がギアを入れ直して補助ブレーキを効かせることができなかったことも挙げられる。この点、44.03kp付近でギアがニュートラルになって以降、D1がニュート20ラルのまま走行しようとしたか、ギアを入れ直そうとしたが入れられなかったかは定かではない。しかしながら、いずれの場合であっても、ギアがニュートラルのままであったのは、D1が大型バスのFCTMの操作に慣れていなかったことが主たる要因であり、証人E5の評価や適性診断結果でいうところの一点に集中すると他の動作ができないという特性も影響25して、ハンドル操作及びブレーキ操作を行うことに手一杯で、ギア操作に45 まで手が回らなかったからであると考えられる。 オ 以上の検討を踏まえて、本件事故に至るまでのD1の運転を全体的にみると、D1は、株式会社C入社前の約5年間、大型バスに乗っておらず、とりわけ、FCTMの操作経験は全く有していなかった可能性が高く、FCTMの大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事した5経験は皆無であったか、殆どなかった可能性が高い中で、入社後に3回FCTMの大型バスに乗務しただけで本件スキーツアーバスに乗務したところ、①急な下り勾配でカーブが連続する事故直前区間において、FCTMの操作に不慣れであったためにギアチェンジに失敗し、本件バスが補助ブレーキの効かないニュートラル状態となって急加速し、②大型バスの運10転経験の乏しさと大型バスの特性等に関する理解の不十分さから、第41号カーブ手前の直線区間で強いブレーキを踏んで本件バスを減速させることができず、かつ、危険感受性の乏しさと突発的な出来事に対する対処を間違いやすい傾向も影響して、ノーブレーキで第41号カーブを曲がり切ろうと判断し、③その結果、本件バスが更に加速 バスを減速させることができず、かつ、危険感受性の乏しさと突発的な出来事に対する対処を間違いやすい傾向も影響して、ノーブレーキで第41号カーブを曲がり切ろうと判断し、③その結果、本件バスが更に加速し、暗さ等から道路状15況の把握が十分できないことに伴いハンドル操作も遅れ、遠心力で車体が大きく傾く危険な状況に陥り、第42号カーブ手前で急ブレーキをかけハンドルも切ったが、注意が一点に集中すると状況変化を捉えられず、突発的出来事に対する反応が遅れがちであるという運転特性も影響して、急ブレーキをかけることに注意が向き、状況の変化に適時適切に対応するハン20ドル操作が困難となって、本件バスの車体をガードレールに接触させ、④その後も本件バスを減速することができず、限界旋回速度を超える速度で第43号カーブに進入し、急ブレーキをかけ急ハンドルを切ったが手遅れとなり、本件バスを崖下に転落させ、⑤この間、FCTMの操作に慣れていなかったことや、一点に注意が向くと他の動作が出来なくなるという運25転特性もあって、ブレーキやハンドル操作に精一杯でギア操作にまで手が46 回らず、ギアをニュートラル状態にしたままで補助ブレーキを効かせることができなかったものと認められる。そうすると、D1は、FCTMの大型バスで夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事した経験が極めて乏しく、大型バスの特性等の理解が不十分であったことに加え、前記D1の運転特性等と相俟って、夜間、暗さから視野が狭まる中で、下り急勾配とカ5ーブが連続する峠道等の区間を多数の客を乗せた大型バスで走行し、時々刻々と変化する道路状況を的確に捉えて、大型バスの特性等を踏まえた適切なハンドル操作、ブレーキ操作及びギア操作を行う操縦運転の技術が不十分であり、こうしたD1の大型バスの運転技量の スで走行し、時々刻々と変化する道路状況を的確に捉えて、大型バスの特性等を踏まえた適切なハンドル操作、ブレーキ操作及びギア操作を行う操縦運転の技術が不十分であり、こうしたD1の大型バスの運転技量の不十分さが本件事故の原因と直結したものと評価できる。 10⑵ これに対し、両被告人の弁護人は、D1は、10年以上の大型バスの運転経験があるベテラン運転者であり、碓氷バイパスより難易度が高いと証人E4や証人E5も認める桧枝岐の峠道(弁12)を、ロッド式ギアの大型バスでダブルクラッチを踏んで問題なく運行していたのであり、大型バスを運転しない期間があっても、一度習得した運転技量を容易く忘れ15るはずがないし、FCTMはコツを掴むのに長時間かかるような複雑困難な操作ではなく、仮にミスをしてギアがニュートラルになっても、改めてやり直すか、フットブレーキを踏んで減速、停止すればよく、D1の運転技量が未熟であるとする証人E5の公判供述によっても、D1は多数回FCTMのギアチェンジを行えていたのであるし、証人E4の公判供述も踏20まえると、D1の運転技量は、大型バスに客を乗せての運転を禁じるほど未熟で不十分なものではなかった、転落直前までD1がフットブレーキをかけなかった理由は不明であるなどと主張する。【被告人A弁論P54~58、被告人B弁論P26~29】そこで検討すると、D1が10年以上の大型バスの運転経験があること25は、両被告人の弁護人が指摘するとおりである。しかし、それはロッド式47 のギアである大型バスの運転経験であり、本件事故との関係で着目すべきなのは、検察官が指摘するとおり、FCTMの大型バスの運転経験が乏しかったという点である。この点、そもそもD1は、株式会社C入社前、約5年間大型バスの運転に従事していなかったの との関係で着目すべきなのは、検察官が指摘するとおり、FCTMの大型バスの運転経験が乏しかったという点である。この点、そもそもD1は、株式会社C入社前、約5年間大型バスの運転に従事していなかったのであるから、運転感覚を取り戻すために十分な訓練をする必要があったと考えられるし、しかも、入5社後は、それまで運転経験がなかったと思われるFCTMの大型バスを運転しなければならなかったのであるから、尚更訓練する必要性が高かったというべきである。にもかかわらず、D1は、本件事故前に3回しかFCTMの大型バスを運転せず、D1の運転技量を見極めようと同乗していたベテラン運転者2名がいずれもFCTMの操作に慣れていなかったと判10断し、うち1回の運転では実際にギアチェンジをミスしていたのであり、既に検討したとおり、本件事故の際も、ギアチェンジをミスしてギアがニュートラルになり、本件バスが転落するまでギアを入れ直せなかったとみられるのであって、D1がFCTMの大型バスについて十分な運転経験がなく、FCTMの操作についても慣れておらず十分な技量を有していなか15ったことは明らかである。FCTMの操作は難しいものではないとの指摘も、ギア操作に慣れるまでに要する時間は、人それぞれである。 また、両被告人の弁護人は、D1がフットブレーキを踏まなかった理由は不明であるとも指摘する。しかしながら、既に検討したとおり、D1は、第40号カーブ、第42号カーブ及び第43号カーブの手前で、いずれも20フットブレーキを踏んでいたと認められる。問題は、第41号カーブ手前の直線区間で減速に必要なほど強くフットブレーキをかけなかった理由であるが、この点も既に検討したとおり、D1が本件バスの特性等を十分理解していなかったために、深夜で就寝していた可能性が高い乗客に 前の直線区間で減速に必要なほど強くフットブレーキをかけなかった理由であるが、この点も既に検討したとおり、D1が本件バスの特性等を十分理解していなかったために、深夜で就寝していた可能性が高い乗客に怪我をさせたり、本件バスを横転させたりすることをおそれて、強いブレーキ25を踏まずに第41号カーブを曲がり切ろうと判断したものと考えられる48 のであって、両被告人の弁護人の前記指摘は採用できない。さらに、証人E4の証言に基づき、D1の運転技量は客を乗せての乗務を禁ずるほどのものではなかったとする点も、既に検討したとおり、証人E4の評価は証人E4が見たD1の2回の運転状況に基づく評価という限度にとどまるものであって、証人E5が見たD1の運転状況やD1の適性診断の結果等5を考慮に入れたものではなく、総合的な評価とはいえないものである。 第5 被告人両名の注意義務違反について1 関係証拠から認められる事実関係証拠によれば、以下の各事実が認められる。 ⑴ 株式会社Cの概要10本件バスを運行した株式会社Cは、平成20年7月に設立され、被告人Aが代表取締役に就任し、当初は、警備業を営んでいた。平成25年春頃、取引先から火葬場までの送迎を打診されたことを契機に、株式会社C営業部長F2が知人の被告人Bに相談したところ、被告人Bがバス事業への参入を積極的に勧めたので、被告人Aは、株式会社Cでバス事業を行うこと15を決断し、同社は、平成26年4月、一般貸切旅客自動車運送事業の許可を受けた。(甲81、乙5、35〔共通同意部分〕、56~58、60〔共通同意部分〕、82〔共通同意部分〕等)株式会社Cは、当初、マイクロバス3台でバス事業を開始した。その後、同年8月に中型バスを導入し、大型バスについては、同年10月末に1 、56~58、60〔共通同意部分〕、82〔共通同意部分〕等)株式会社Cは、当初、マイクロバス3台でバス事業を開始した。その後、同年8月に中型バスを導入し、大型バスについては、同年10月末に1台20稼働させ、翌27年1月に2台、同年5月に4台それぞれ増車し、その後も増減車して、本件事故当時は7台稼働させていた。(甲81、乙8〔共通同意部分〕、15、56、58、59〔共通同意部分〕、60〔共通同意部分〕等)株式会社Cの組織は、代表取締役の被告人Aを筆頭とし、その下に執行25役員営業部長のF2がいたが専ら警備事業を任されており、バス事業部は49 安全統括管理者兼運行管理者兼営業所長の被告人Bを中心として業務が運営されていた。被告人Bより下の従業員については、特に序列はなく、本件事故当時、バス事業部に在籍していた運転者は、代表取締役社長である被告人Aや運行管理者の被告人Bも含め18名であった。(甲80、82、91、乙60〔共通同意部分〕等)5⑵ 被告人Aの経歴等被告人Aは、昭和56年5月株式会社G5に入社後、平成20年2月に同社代表取締役に就任し、同年7月に株式会社Cを設立して同社の代表取締役にも就任した。その後、株式会社Cでバス事業を行うに当たり、被告人Aは、平成26年2月、バス事業者の法令試験を受験して合格し、バス10事業に関して被告人Bに業務運営を任せる一方で、売上の管理や出入金の管理は自ら行い、契約関係や金銭の支出等が伴う事項については、被告人Bの進言により最終的な決定をしており、新たに運転者を雇用する際も、被告人Bから報告を受けていた。被告人Aは、平成27年8月に運行管理者試験を受けたが不合格となり、その後、運行管理補助者を務め何度か点15呼業務を担当した。また、被告人Aは、自身も大 する際も、被告人Bから報告を受けていた。被告人Aは、平成27年8月に運行管理者試験を受けたが不合格となり、その後、運行管理補助者を務め何度か点15呼業務を担当した。また、被告人Aは、自身も大型二種免許を有しており、葬儀場への送迎等の運転業務に従事するなどしていたが、平成27年2月と3月には、証人E6やD2とペアを組み、大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行業務にも従事したことがあり、運行区間に前記峠道等があり、高度な運転技量が必要であることを認識していた。(第10回公20判被告人A供述調書P69、第11回公判被告人B供述調書P48、第12回公判被告人A供述調書P7~8、甲53、81、137、乙56等。 【なお、被告人Aの認識部分は、被告人Aとの関係のみで乙69、82から認定。】)⑶ 被告人Bの経歴等25被告人Bは、平成元年1月に株式会社G6に就職してバス業務に従事し50 始め、平成10年6月には運行管理者資格を取得して、同社の運行管理者に選任された。しかし、平成15年1月、同社の新人運転者であったD2が、熱海においてブレーキの使い過ぎでバスを横転させて多数の負傷者を出す事故を起こしたことで、運行管理者の資格を失った。その後、平成16年に父親から譲り受ける形で株式会社G7の代表取締役社長に就任し、5平成17年には運行管理者資格を再取得して運行管理者を務めるようになった。しかし、平成25年春頃、株式会社G7は倒産し、被告人Bは、平成25年6月頃から、別の観光バス会社で勤務していた。 その後、被告人Bは、株式会社CのF2から相談を受けるなどし、同社のバス事業の立上げに関わるようになり、平成26年4月、同社のバス事10業開始に当たり、同社に入社した。被告人Bは、バス事業の経験や知識が豊富であっ 株式会社CのF2から相談を受けるなどし、同社のバス事業の立上げに関わるようになり、平成26年4月、同社のバス事10業開始に当たり、同社に入社した。被告人Bは、バス事業の経験や知識が豊富であったことから、運行管理者等として選任され、バス事業部本社営業所長の肩書を与えられ営業活動も行いながら、同事業部の運営業務において中心的な役割を担うようになり、大型バス等の運転者としても稼働していた。(第11回公判被告人B供述調書P37~42、45~47、甲1581、130、141、乙5、6〔共通同意部分〕、27〔共通同意部分〕、33、35〔共通同意部分〕等)⑷ 道路運送関係法令等の規定本件事故当時、事業者及び運行管理者等の義務について、道路運送法(以下「法」ということがある。)及び旅客自動車運送事業運輸規則(以下「運20輸規則」又は「規則」ということがある。)においては、次のとおり規定されていた。(甲98~101)ア 事業者の義務等 道路運送法では、輸送の安全の確保が第一の目的として掲げられ(法1条)、「事業者は、輸送の安全の確保が最も重要であることを自覚し、25絶えず輸送の安全性の向上に努めなければならない」と規定されていた51 (法22条)。また、事業者は、輸送の安全の確保のため、運転者に対して適切な指導監督を行う義務を負うとされ(法27条3項)、具体的には、運転者について、「主として運行する路線又は営業区域内の状態及びこれに対処することができる運転技術並びに法令に定める自動車の運転に関する事項について適切な指導監督をしなければならない」とされていた5(規則38条1項)。 そして、運輸規則38条1項及び2項の規定に基づき、事業者が運転者に対して行うべき一般的な指導監督の内容については、「旅 切な指導監督をしなければならない」とされていた5(規則38条1項)。 そして、運輸規則38条1項及び2項の規定に基づき、事業者が運転者に対して行うべき一般的な指導監督の内容については、「旅客自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」と題する国土交通省の告示(以下「指導監督指針」という。)に記されてい10た。 その中では、まず、「運転者は、多様な地理的、気象的状況の下で旅客を運送すること、また、一般貸切旅客自動車運送事業等の運転者は大型の自動車を運転することが多いことから、経路、路線又は営業区域における道路の状況その他の運行の状況に関する判断及びその状況における運転に15おいて、高度な能力が要求される」ため、「事業者は、その運転者に対して継続的かつ計画的に指導及び監督を行」う必要があるとし、「事業用自動車の運行の安全及び旅客の安全を確保するために必要な運転に関する技能及び知識を習得させることを目的とする」旨規定されていた。(指導監督指針第1章1)20さらに、その指導及び監督の内容として、事業用自動車の運行の安全及び旅客の安全を確保するために遵守すべき基本的事項や、事業用自動車の構造上の特性等を10項目挙げ、その具体的な指導監督方法を規定し、例えば、項目7「危険の予測及び回避」では、「事業用自動車の運転に関して生ずる様々な危険について、危険予知訓練の手法等を用いて理解させると25ともに、必要な技能を習得させる」旨規定し、項目8「運転者の運転適性52 に応じた安全運転」では、「適性診断の結果に基づき、個々の運転者に自らの運転行動の特性を自覚させるように努める」と規定されていた。(指導監督指針第1章2)加えて、指導及び監督の実施に当たって配慮すべき事項として、「事業者は、 断の結果に基づき、個々の運転者に自らの運転行動の特性を自覚させるように努める」と規定されていた。(指導監督指針第1章2)加えて、指導及び監督の実施に当たって配慮すべき事項として、「事業者は、事業用自動車の運行の安全及び旅客の安全を確保するために必要な5運転に関する技能及び知識を運転者に習得させることについて、重要な役割を果たす責務を有していることを理解する必要がある」とした上で、「運転者の指導及び監督を継続的、計画的に実施するための基本的な計画を作成し、計画的かつ体系的に指導及び監督を実施することが必要」であり、「常に運転者の習得の程度を把握しながら指導及び監督を進めるように10配慮することが必要」などと規定されていた。(指導監督指針第1章3)また、事故惹起運転者、初任運転者及び高齢運転者といった特定の運転者に対しては、交通事故の未然防止を図るためのよりきめ細やかな指導として、特別な指導を行うことが義務付けられていた(規則38条2項及び指導監督指針第2章)。このうち、初任運転者とは、運転者として新15たに雇い入れた者であって、雇い入れの日の前の3年間に他の旅客自動車運送事業者において当該旅客自動車運送事業者と同一の種類の事業の事業用自動車の運転者として選任されたことがない者などをいい、初任運転者に対しては、運転者に選任する前に、①事業用自動車の安全な運転に関する基本的事項、②事業用自動車の構造上の特性と日常点検の方法、③交20通事故を防止するために留意すべき事項、④危険の予測及び回避についての指導を合計6時間以上実施し、⑤安全運転の実技も可能な限り実施することとされていた。また、高齢運転者に対しては、適齢診断の結果を踏まえ、個々の運転者の加齢に伴う身体機能の変化の程度に応じた事業用自動車の安全な運転方法 実施し、⑤安全運転の実技も可能な限り実施することとされていた。また、高齢運転者に対しては、適齢診断の結果を踏まえ、個々の運転者の加齢に伴う身体機能の変化の程度に応じた事業用自動車の安全な運転方法等について運転者が自ら考えるよう指導することと されていた(指導監督指針第2章2⑵及び⑶並びに3)。 さらに、事業者は、運転者として新たに雇い入れた者で雇い入れの日の前の3年間に初任診断(初任運転者のための適性診断として国土交通大臣が認定したもの)を受診したことがない者については、運転者として選任する前に初任診断を、高齢運転者(65歳以上の者)については65歳に達した日以後1年以内に適齢診断を受診させることが義務付けられてい た(規則38条2項2号及び3号並びに指導監督指針第2章4⑵及び⑶)。 なお、運転者として新たに雇い入れた者が65歳以上である場合には、適齢診断を受診させたことをもって、初任診断を受診させたものとみなして差し支えないとされていた(旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について)。 事業者が行う点呼についても規定されており、点呼は、「乗務しようとする運転者に対して対面により行う」こととされ、「事業用自動車の運行の安全を確保するために必要な指示を与えなければならない」旨規定し、「乗務を終了した運転者に対して対面により点呼を行い、当該乗務に係る事業用自動車、道路及び運行状況について報告を求め」なければなら ないと規定されていた(規則24条1項及び2項)。 そして、事業者は、「事業用自動車の運行の安全の確保に関する業務を行わせるため、(中略)運行管理者資格者証の交付を受けている者のうちから、運行管理者を選任しなければならない」と規定され(法23条1項)、運行管理者に対し、運輸規則48条 の安全の確保に関する業務を行わせるため、(中略)運行管理者資格者証の交付を受けている者のうちから、運行管理者を選任しなければならない」と規定され(法23条1項)、運行管理者に対し、運輸規則48条各号に掲げる業務の適確な実20行及び運行管理規程の遵守について適切な指導監督をすることが義務付けられていた(規則48条の3)。 イ 運行管理者の義務等 運行管理者は、前記のとおり、国家資格である運行管理者資格者証の交付を受けている者の中から、事業者によって事業用自動車の運行の安25全の確保に関する業務を行う者として選任され(法23条)、その業務を54 誠実に行わなければならないとされていた(同条の5第1項)。 そして、運輸規則48条では、そうした運行管理者の業務として、運転者に対する点呼の実施(同条6号)、運行指示書の作成と同指示書による運転者に対する適切な指示等(同条12号の2)、運転者等の乗務員に対する規則38条の指導、監督(規則48条16号)及び運転者に規則385条2項の適性診断を受けさせること(規則48条16号の2)等が規定されていた。 また、運行管理者は、前記業務の遂行に必要な権限を事業者から与えられる上(法23条の5第2項)、事業者は、運行管理者がその業務として行う助言を尊重しなければならず、運転者やその他の従業員は、運行10管理者がその業務として行う指導に従わなければならないと規定されていた(同条3項)。 ウ 安全統括管理者事業者は、輸送の安全を確保するために遵守すべき事業の運営方針や管理体制等必要な内容を定めた安全管理規程を定め、同遵守事項に関する業15務を統括管理させるため、安全統括管理者の選任が義務付けられていた(法22条の2第1項、第2項及び第4項。なお、被告人Bの弁 理体制等必要な内容を定めた安全管理規程を定め、同遵守事項に関する業15務を統括管理させるため、安全統括管理者の選任が義務付けられていた(法22条の2第1項、第2項及び第4項。なお、被告人Bの弁護人は、安全管理規程の設定等の義務を負う事業者は、事業用車両300両以上を有する事業者であり、株式会社Cは同義務を負わないと指摘するが、株式会社Cが該当する一般貸切旅客自動車運送事業者は、保有車両台数にかか20わらず同義務を負うとされている〔規則47条の2〕。)。安全統括管理者として選任するには、事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にあり、かつ、運行管理者や整備管理者等輸送の安全の確保に関する業務の実務経験を通算3年以上有する者に該当することが要件とされていた(法22条の2第2項、規則47条の5等)。 25エ バス事業者用のマニュアル55 国土交通省は、法や規則に基づき指導監督指針で明示された内容について、バス事業者向けに運転者に対する指導及び監督を具体的に記載したマニュアルを作成していた。(甲100添付資料)オ 小括事業主は、条理上、事業活動に伴い生じる死傷等の結果を防止すべき一5般的な注意義務(安全業務遂行義務)を負っているものと解される。そして、事業者、特に一般貸切旅客自動車運送事業においては、運転者が大型の自動車を運転することが多く、運転者に対し、多様な地理的、気象的状況の下で、刻々と変化する運行経路の道路状況等に関する判断、その判断に応じて、多数の客を乗せた事業用自動車の特性を踏まえた慎重かつ高度10な運転能力を要求されることから、運転者の状況判断や運転技術、体調及び疲労度合い等様々な原因に基づく運転ミスによって、多数の乗客の死傷を伴う自動車事故を発生させる危険が常に存在しているとい 10な運転能力を要求されることから、運転者の状況判断や運転技術、体調及び疲労度合い等様々な原因に基づく運転ミスによって、多数の乗客の死傷を伴う自動車事故を発生させる危険が常に存在しているというべきであり、しかも、一度、運転者が旅客運送事業に出発すると、目的地までの乗客等の輸送の安全の確保は、当該運転者に委ねられる。だからこそ、道路15運送法、運輸規則、同規則に基づく指導監督指針等(以下これらをまとめて「道路運送法等の関係法令」ということがある。)は、前記のとおり、事業者に条理上の一般的な注意義務があることを前提にした上で、事業者に対し、輸送の安全を確保するために、運行路線等の状態及びこれに対処することができる運転技術等について運転者を適切に指導監督し、事業用自20動車の運行及び旅客の安全を確保するために必要な技能や知識を習得させなければならないと規定したものと考えられる。 そして、そうした指導監督を適切に行うためには、運転者毎に異なるそれぞれの運転経験、運転特性、車両特性に関する理解や運転技術の程度等を把握することが必要不可欠となるところ、道路運送法等の関係法令は、25事業者に対し、運転者を雇い入れる際に一定の運転経験を有する者を除き56 原則適性診断の受診を義務付け、同人の運転特性等を把握させ、雇い入れ後には、乗務終了後の事後点呼により、運転者から運行状況等を報告させることなどを義務付け、実際の乗務車両や運行路線の状況を踏まえた運転者の車両特性の理解や運転技術の程度を把握させようとしたものと解される。その上で、そのようにして得た情報等から、事業者は、常に運転者5の習得の程度を把握しながら継続的かつ計画的に指導監督を実施し、乗務させようとしている運行経路を道路状況や車両特性等も踏まえて事業用自動車を安 のようにして得た情報等から、事業者は、常に運転者5の習得の程度を把握しながら継続的かつ計画的に指導監督を実施し、乗務させようとしている運行経路を道路状況や車両特性等も踏まえて事業用自動車を安全に運転するために必要な運転技量を運転者に習得させる義務を負い、運転者にそのような運転技量が備わっていない場合や事故につながる運転特性等がある場合には、運転訓練等により必要な技能や知識を10習得させなければならないと義務付けられていると解される。 そうすると、事業者は、道路運送法等の関係法令に基づき、運転者の運転経験、運転特性、車両特性等に関する理解や運転技量の程度等を把握し、運転者の習得の程度に応じて継続的かつ計画的に指導監督を行い、乗務させようとしている運行経路を道路状況や車両特性等も踏まえて安全に運15転するために必要な運転技量を運転訓練等により習得させ、これが十分に備わっていることを確認してから、当該乗務に従事させなければならず、その上で、乗務前の対面点呼において運転者の体調等を確認し、適確な運行指示を行った上で、最終的に運転者を出発させるかどうかの判断を行い、運転者が当該運行から帰着した際も、対面点呼を行い、運転者から実際の20運行状況等を聴取して把握し、その後の運行に運転者をどのように従事させていくかを適切に判断しなければならないといういわば「輸送の安全確保のためのサイクル」を規定し、万が一にも多数の乗客らの死傷を生じるような事故が引き起こされないよう多角的かつ重層的に具体的な義務を負わせているものといえる。 25そして、このような事業者としての義務を一次的に負うのは、会社の代57 表取締役等の業務執行権限を有する者であるところ、実際の会社では、他の業務と同様、輸送の安全確保のための運行管理業務についても て、このような事業者としての義務を一次的に負うのは、会社の代57 表取締役等の業務執行権限を有する者であるところ、実際の会社では、他の業務と同様、輸送の安全確保のための運行管理業務についても、組織機構に基づき業務の権限と責任が代表取締役から順次他の役職員に委任、命令され、それらの担当者が遂行することになる。この点、会社において誰が責任をもって運行管理上の注意義務の履行に当たるかは、本来会社内部5の職務命令等により独自に決定できる事柄であるが、これを会社の自治に任せておくと適切な担当者が定められず、運行管理に遺漏を生じることがあり得る。そこで、道路運送法等の関係法令は、事業者に運行管理上の注意義務を負わせた上で、その有効かつ確実な履行を期すため、事業者に対し、法定の資格を有する運行管理者を選任して、業務遂行に必要な権限を10与えて適切に運行管理業務を行わせ、事業者も運行管理者の業務上の助言を尊重しなければならないとする一方で、運行管理業務の適確な実行と運行管理規程の遵守について運行管理者を適切に指導監督することを義務付け、運行管理者に対しては、事業用自動車の運行の安全の確保に関する運輸規則48条各号に定められた業務を誠実に行う義務を負わせ、運行管15理者の業務として行う指導に運転者やその他の従業員が従わなければならないとして、運行管理業務が適確に実行されるよう、事業者、運行管理者、運転者及びその他の従業員それぞれの義務を規定したものと解される。 さらに、このような適確な運行管理を組織全体として実行するための安全管理体制を構築するために、事業者に対し、事業運営上の重要な決定に参20画する管理的地位にあり、かつ、一定期間の運行管理者や整備管理者等の実務経験を有する者を安全統括管理者として選任し、安全管理規程において するために、事業者に対し、事業運営上の重要な決定に参20画する管理的地位にあり、かつ、一定期間の運行管理者や整備管理者等の実務経験を有する者を安全統括管理者として選任し、安全管理規程においてその責務及び権限を具体的に定めることとしたものと考えられる。 そうすると、道路運送法等の関係法令は、輸送の安全を確保するため、事業者に実際の運行管理業務を委ねる者として専門的知見を有する運行25管理者を選任させ、強い権限を与えてその業務に当たらせ、事業者にもそ58 の助言を尊重させるとともに、運行管理者に同業務を任せ切りにさせることなく、事業者として運行管理者を適切に指導監督する義務を負わせ、両者に輸送の安全を確保するための運行管理業務を一体となって遂行させる義務を負わせたものと解される。また、事業者においてトップから現場まで一丸となった安全管理体制を構築するために、事業者内で一定の地位5にあり、運行管理業務等の実務経験を一定期間有する安全統括管理者を選任させ、安全管理規程でその責務及び権限を定めた上で、前記安全管理体制構築に向けた業務に当たらせることとし、安全統括管理者が事業運営上の重要な決定に参画する中で、事業者と一体となって、前記安全管理体制を構築させる義務を負わせたものと解される。 10⑸ 運行管理者講習の内容ア 輸送の安全確保に関する道路運送法等の関係法令の内容、とりわけ、運行管理業務の目的や内容等については、基礎講習、一般講習及び特別講習が実施されていた(規則47条の9第3項、48条の4第1項、48条の5第1項、48条の12第2項)。この点、被告人Bは、平成10年に基15礎講習を受講後、13年連続で一般講習を受講し、本件事故前は、平成26年11月12日に一般講習を受講していた。また、被告人Aも、平成 、48条の12第2項)。この点、被告人Bは、平成10年に基15礎講習を受講後、13年連続で一般講習を受講し、本件事故前は、平成26年11月12日に一般講習を受講していた。また、被告人Aも、平成27年7月22日から同月24日までの間、基礎講習を受講していた。(甲106)イ 一般講習は、既に運行管理者として選任されている者が2年に一度20受けなければならない講習である。内容としては、自動車運送事業や道路交通に関する法令の講習、運行管理業務における必要事項や事故防止対策等について説明がなされており、運行管理者は輸送の安全の要であり、交通事故を防止する使命と責任が課せられていることを自覚させるための講義がなされていた。 25平成26年に被告人Bが受講した一般講習においても、講師から、平成59 24年4月の関越自動車道における事故や平成26年3月の北陸自動車道における事故等の事例を紹介するなどした上で、事故防止策として、確実な点呼の実施、適切な運行計画と運行指示が重要であり、日頃から乗務員に対して安全運転等に関する指導監督を行い、運行経路の事前把握や、速度を出しやすい下り坂における減速方法等の運転技術の指導等を徹底5することなどが説明された。また、適性診断結果を活用した助言指導についても講習があり、講師からは、適性診断の趣旨について、運転者の運転の可否を示すものではなく、その特性や癖を客観的に表して運転者に自覚してもらい、事業者も運転者の運転特性等を把握し、事故につながるような運転特性等があれば指導し、事故を未然に防止することがその目的であ10るとの説明がなされていた。 (甲106、109~112)ウ 基礎講習は、運行管理を行うために必要な法令の内容及び運行管理業務等に関する必要な基礎知識の習得を目的 ることがその目的であ るとの説明がなされていた。 (甲106、109~112)ウ基礎講習は、運行管理を行うために必要な法令の内容及び運行管理業務等に関する必要な基礎知識の習得を目的とする者を対象とする講習である。内容としては、自動車運送事業及び道路交通に関する法令、最新 の情報に基づく運行管理業務の在り方、事故防止に向けた労務管理や運転者の指導監督等、事業者や運行管理者の義務について、具体的に説明されていた。 平成27年に被告人Aが受講した基礎講習においても、講師から、旅客自動車運送事業で最も重要なことは旅客の輸送の安全の確保であり、その 安全運行ができるのが運行管理者であって、運行管理者には旅客自動車運送事業の安全の確保に関する業務を行う権限が与えられるとともに、その業務を誠実に行う義務があること、運輸規則48条各号に規定されている運行管理者が行うべき義務の内容等が説明されていた。中でも特に点呼については十分な時間を割いて説明がなされ、運行管理者は運転者を観るこ とが大切であり、点呼は対面で相手の反応を見ながら行うもので、早朝や 深夜でも必ず運転者と顔を合わせて行う必要があり、絶対に点呼を疎かにしないよう繰り返し説明されていた。また、運行指示についても時間を割いて講義され、特に大事なのは輸送の経路であり、経路が安全かどうか運行管理者が見極めること、杜撰な運行指示書を出していると、運転者が勝手にルートを変更したりすること、運行指示書に基づき、点呼等で運転者 に対し生きた言葉で注意を促してほしいなどと説明されていた。さらに、運転者の指導監督についても、与えられた運行業務に対処できるだけの運転技術や法令に関する事項について運転者を適切に指導監督することの重要性に加え、運転者の技量や性格 いなどと説明されていた。さらに、運転者の指導監督についても、与えられた運行業務に対処できるだけの運転技術や法令に関する事項について運転者を適切に指導監督することの重要性に加え、運転者の技量や性格を見極めた上で運行業務に就けるかどうかを判断すべきこと、外見からは判断できない癖や性格を洗い出してく10れる適性診断を受診させることの必要性、技術の進歩によりバスも各種の自動化が進むなどしているため、運行管理者がそれらを勉強した上で、運転者を指導し操作方法や特性を理解させること、予算に余裕がなくてもできる限り運転訓練等を実施して欲しく、運転技量を見極めてから乗務させることが大切であることなどといった点が説明されていた。 15(甲106、108)⑹ 株式会社Cにおける安全管理規程と運行管理規程株式会社Cにおいては、道路運送法等の関係法令に基づき、次のとおり安全管理規程(甲83)及び運行管理規程(甲84)が定められていた。 ア 安全管理規程20社長は、「輸送の安全の確保が事業経営の根幹であることを深く認識し、社内において輸送の安全の確保に主導的な役割を果た」し(株式会社C安全管理規程3条1項前段)、「輸送の安全の確保に関する最終的な責任を有する」とされていた(同7条1項)。また、経営トップの責務としては、①「輸送の安全の確保に関し、予算の確保、体制の構築等必要な措置を講じ25る」、②「輸送の安全の確保に関し、安全統括管理者の意見を尊重する」、61 ③「輸送の安全を確保するための業務の実施及び管理の状況が適切かどうかを常に確認し、必要な改善を行う」ことなどが規定されていた(同7条2項~4項)。 一方、安全統括管理者は、輸送の安全の確保について責任ある体制を構築するため、取締役のうち、一定の要件を満たす かを常に確認し、必要な改善を行う」ことなどが規定されていた(同7条2項~4項)。 一方、安全統括管理者は、輸送の安全の確保について責任ある体制を構築するため、取締役のうち、一定の要件を満たす者の中から選任するもの とされていた(同8条1項、9条1項)。その責務としては、①全社員に対して関係法令等の遵守と輸送の安全の確保が最も重要であるという意識の徹底、②輸送の安全の確保の実施及び管理体制の確立、維持、③輸送の安全に関する方針、重点施策、目標及び計画の誠実な実施、④輸送の安全に関する報告連絡体制の構築及び社員に対する周知、⑤輸送の安全の確保 の状況についての内部監査の実施及び経営トップへの報告、⑥運行管理者及び整備管理者の統括管理、⑦輸送の安全確保のための社員に対する必要な教育や研修の実施等が規定されていた(同10条)。また、関係法令等の違反又は輸送の安全の確保の状況に関する確認を怠る等により、安全統括管理者がその職務を引き続き行うことが輸送の安全の確保に支障を及 ぼすおそれがあると認められるときには、安全統括管理者を解任すると規定されていた(同9条2項3号)。 イ運行管理規程事業者又は運行管理担当役員は、株式会社Cの「事業用自動車の輸送の安全及び旅客の利便に関する業務全般を統括する」ものとされていた(株 式会社C運行管理規程4条1項)。同役員は、運行管理者に対し、「道路運送法等関係法令及び本規程に定める運行管理業務の的確な執行について適切な指導監督を行う」(同条4項)とされる一方で、運行管理者からの職務遂行上必要な事項の助言を尊重しなければならないとされていた(同6条2項)。 一方、運行管理者は、「運行管理業務に関する指揮命令権など必要な権 限」を与えられ(同条1項)、「 務遂行上必要な事項の助言を尊重しなければならないとされていた(同6条2項)。 25一方、運行管理者は、「運行管理業務に関する指揮命令権など必要な権62 限」を与えられ(同条1項)、「職務遂行上、役員に対して必要な事項を助言し又は意見を述べることができる」とされていた(同条2項)。そして、その業務としては、①乗務しようとする運転者に対して対面点呼を実施すること(同8条1項8号)、②乗務を終了した運転者に対して対面点呼を実施すること(同項9号)、③運行指示書を作成し、運転者に適切な指示5を行うこと(同項17号)、④運転者に対して、主として運行する営業区域の状態及びこれに対処することができる運転技術等について、指導監督指針に従い指導監督を行うこと(同項20号)等が定められ、その具体的な実施方法等の詳細も規定されていた(同9条以下)。 ウ 株式会社Cの組織体制10既にみたとおり、株式会社Cの代表取締役は被告人Aであり、その下に執行役員営業部長のF2がいたが、F2は専ら警備事業を任されており、バス事業部は、取締役ではなかったものの被告人Bが一般貸切旅客自動車運送事業における安全統括管理者とされ、本社営業所内における運行管理者兼整備管理者としても選任され、輸送の安全の確保に向けた運行管理業15務を取り仕切っていた。一方、株式会社C運行管理規程4条で規定されている運行管理担当役員は、証拠上、明示的に定められていた形跡がないが、被告人両名、証人E5及び証人E4の供述等からすると、実質的には被告人Aがその役割を担っていたと認められる。そうすると、株式会社Cにおいては、代表取締役である被告人Aが、被告人Bを運行管理者等として選20任し、輸送の安全の確保に向けた運行管理業務を被告人Bの一手に委ねる一方で、そうした重 められる。そうすると、株式会社Cにおいては、代表取締役である被告人Aが、被告人Bを運行管理者等として選20任し、輸送の安全の確保に向けた運行管理業務を被告人Bの一手に委ねる一方で、そうした重責を担う被告人Bの意見を尊重しつつ、与えられた役割を適確に果たすよう被告人Bを指導監督する唯一の責任者として、両名が一体となって株式会社Cにおける輸送の安全を確保する責任を負った組織体制であったと認められる。 25⑺ 株式会社Cにおける運行管理の実態等63 ア 事業開始から平成27年2月の一般監査までの状況株式会社Cでは、平成26年5月にバス事業を開始した当初は、葬儀会社から請け負ったマイクロバスによる送迎業務を行っていた。運転者は、被告人Bのほか、被告人Bが被告人Aに対して報告して承諾を得ながら、以前の職場の同僚であった運転者に声掛けをして集めていた。 5その後、株式会社Cは、被告人Bの進言を被告人Aが承諾しながら、事業規模を拡大し、中型バスに続き大型バスも数台導入され、同年12月頃には、被告人Bの営業活動により、スキーツアーの仕事も請け負うようになった。同月から平成27年3月までのスキーシーズンにおいては、在籍する運転者だけでは請け負った仕事を回せなくなったため、アルバイトや10臨時で運転者を雇用するなどしていた。 株式会社Cでは、主に被告人BやD2らの声掛けで運転者を雇用しており、運転者の運転技量を把握するための採用前の実技試験はなく、採用後客を乗せた運行に就かせる前の運転訓練や教育等も殆ど行われず、採用直後から、客を乗せた運転業務に従事させていた。また、新たに雇用した運15転者に対して運輸規則で定められた初任運転者教育を行っておらず、適性診断や健康診断についても会社として組織的に運転者に対して受診 ら、客を乗せた運転業務に従事させていた。また、新たに雇用した運15転者に対して運輸規則で定められた初任運転者教育を行っておらず、適性診断や健康診断についても会社として組織的に運転者に対して受診させてはいなかった上、指導監督指針に基づく運転者に対する指導監督は、全く行われていなかった。また、バス事業開始当初は、被告人Bが配車計画を立てていたが、平成26年10月頃からは、主にD2が配車計画を立て20て手書きの配車表を作成するようになり、被告人Bは、D2が作成した配車表を見て乗務の重複等がないかを確認し、必要に応じてD2と配車について話し合ったりする程度であった。さらに、点呼についても殆ど行われておらず、特に、早朝や夜間に出発あるいは到着する運転者は、無人の事務所に赴き、自分で飲酒検知を行い、運行管理者である被告人Bの点呼を25全く受けずに乗務に就きあるいは乗務を終えるということが常態化して64 いたが、被告人Bは、あたかも点呼を実施したかのように装うため、予め運行管理者の判子を押印した点呼簿を作成するなどしていた。加えて、運行指示も殆どなされておらず、目的地の地図が添付されただけの運行指示書が作成されることはあったが、実際にどのようなルートで運行するかは運転者の自由裁量に委ねられており、運行管理者である被告人Bから運転5者に対し、運行経路等について具体的な指示がなされることはなかった。 (第10回公判被告人A供述調書P69~73、第11回公判被告人B供述調書P47~51、甲81、130、乙8〔共通同意部分〕、35〔共通同意部分〕、36〔共通同意部分〕、60〔共通同意部分〕、74、82〔共通同意部分〕等)10イ 株式会社Cが受けた一般監査について株式会社Cは、平成27年2月20日、関東運輸局東京運輸支 意部分〕、36〔共通同意部分〕、60〔共通同意部分〕、74、82〔共通同意部分〕等) イ株式会社Cが受けた一般監査について株式会社Cは、平成27年2月20日、関東運輸局東京運輸支局から、旅客自動車運輸事業に関する一般監査を受けた(以下「本件一般監査」ということがある。)。同監査により、株式会社Cは、運行管理について、①運転者の健康状態の把握が不適切であったこと、②点呼の実施及び実施結 果の記録が不適切であったこと、③運転者に対する指導監督指針が定める特別な指導(初任)が不適切であったこと、④運転者に対し、指導監督指針が定める適性診断(初任)を受けさせていなかったことの合計4つの法令違反を指摘された。被告人A及び被告人Bは、同監査に立ち会い、監査官から前記各法令違反の指摘を受けるとともに、指導監督指針に関する資 料を示されるなどしながら、運転者に対して行うべき指導監督や教育内容等について、具体的に改善指導等を受けた。その際、被告人Aは、前記指摘事項を自筆で記載し、それらの事実を認める旨の書類に署名押印している。また、被告人A及び被告人Bは、監査官から「輸送の安全確保と事故防止」と題する国土交通省作成の書類を示され、事業者が運転者に対して 行うべき指導監督内容について指導された。(第10回公判被告人A供述 調書P73~77、第11回公判被告人B供述調書P53~56、甲152~154、乙14、35〔共通同意部分〕、61、81等)ウ本件一般監査後の状況等本件一般監査以降も、株式会社Cは、新たな仕事を受注するなど事業を拡大し、大型バスを増車するなどしたが、運行管理体制は改善されなかっ た。具体的には、運転者にアルコールチェッカーを常時携行させるとか、バス事業に関する書類作成システ な仕事を受注するなど事業を拡大し、大型バスを増車するなどしたが、運行管理体制は改善されなかっ5た。具体的には、運転者にアルコールチェッカーを常時携行させるとか、バス事業に関する書類作成システムを導入して運行指示書を作成し易くし、パソコン入力のできる証人E6に運行指示書の作成業務を担当させるといった簡易な改善は図られたものの、輸送の安全の確保のために重要であるとされており、かつ、監査でも指摘された乗務前後の対面点呼の実施10については一向に改善されなかった。同様に指導監督指針に基づく運転者教育や運転訓練も、監査後に新たに採用した運転者について、採用前の技量確認、採用後の運転訓練や教育等は殆ど行われていなかった。また、初任診断や適齢診断の受診が必要な運転者の大半が、これらの適性診断を受けていなかった。被告人Aは、自らが運行管理者資格を取得する必要があ15ると考え、株式会社C警備事業部課長であったF3とともに、平成27年7月の基礎講習を受講し、運行管理者試験を受験したが不合格であった。 (第10回公判被告人A供述調書P83~84、第11回公判被告人B供述調書P56~58、61、甲156、159等)そうした状況の中、被告人Bは、本件一般監査の結果による処分の軽減20を図るため、監査において指摘された事項に関し、同年10月27日、関東運輸局長宛に、①運転者の健康状態の把握が不適切であったことについては、事務所内に健康診断受診報告書があるにもかかわらず、管理の不手際で所在確認ができず提出できなかった、②点呼の実施等が不適切であったことについて、点呼システムを新しくし、点呼管理業務の充実を図り完25全な点呼を実施している、③特別な指導(初任)が不適切であったことに66 ついては、初任者研修を行ったが教育記録簿の記載を とについて、点呼システムを新しくし、点呼管理業務の充実を図り完25全な点呼を実施している、③特別な指導(初任)が不適切であったことに66 ついては、初任者研修を行ったが教育記録簿の記載を徹底しておらず、再度初任者に対する特別な指導を行った、④適性診断(初任)が不適切であったことについては、従前の勤務会社で適性診断を受診していたが受診票がなかったため、その後取り寄せたなどと、いずれも虚偽の内容を記載した弁明書を作成し、被告人Aが押印して提出した。(第10回公判被告人5A供述調書P87~89、第11回公判被告人B供述調書P62~64、甲152等)点呼については、同年12月中下旬頃、車庫にトイレが欲しいとの運転者らからの要望を受けて、車庫にプレハブが設置され、点呼場を株式会社Cの本社営業所から同プレハブに移動することとなり、運転者は、本社営10業所に立ち寄らず、直接車庫に出勤し、同プレハブにおいて飲酒検知等を行い同所で運行指示書を自ら取って乗務に就くこととなり、早朝や夜間のみならず、昼間の運行であっても点呼は一切行われなくなった。被告人Aは、被告人Bに対し、点呼係として、運行管理者資格を有し運行管理補助者であったF4を車庫のプレハブに常時配置することを提案したが、被告15人Bは、F4をマイクロバスの乗務に就かせなければ仕事が回らず、点呼係とする余裕はないと考え、同提案は実現しなかった。(第10回公判被告人A供述調書P79~80、93、第11回公判被告人B供述調書P35~36、甲133、乙13〔共通同意部分〕等)このような運行管理体制に危機感を持っていた株式会社C従業員であ20る証人E6やF5らは、被告人Bに対し、点呼や健康診断及び適性診断等を行っていないことについて、再三注意していた。また、被告人Aは、同 うな運行管理体制に危機感を持っていた株式会社C従業員であ20る証人E6やF5らは、被告人Bに対し、点呼や健康診断及び適性診断等を行っていないことについて、再三注意していた。また、被告人Aは、同年11月、被告人Bに対し、運転手全員に健康診断を受けさせるよう指示したが、一人も受診しなかった。(第11回公判被告人A供述調書P9~11、甲133、乙66〔共通同意部分〕、83〔共通同意部分〕等)25その後、株式会社Cは、平成28年1月13日、本件一般監査における67 指摘事項のうち、3つの違反事実を認定され、事業用自動車1台を20日車運行停止にする行政処分を受けた。特別な指導(初任)が不適切であったことについては、前記弁明書の申立てが採用され、違反事項から除外された。(甲152、153)エ 小括5以上のとおり、株式会社Cにおいては、輸送の安全の確保に向けて道路運送法等の関係法令及び社内規程で定められた運行管理業務は、殆ど行われておらず、安全管理体制も全く構築されていなかった。そして、被告人Bは、このような株式会社Cの状況を当然認識しており、また、代表取締役である被告人Aも、少なくとも本件一般監査以降は、自社の状況を具体10的に認識したと認められるが、同監査以降も改善は全くと言ってよいほどみられず、むしろ点呼については、より一層杜撰な状況になっていたというべきである。このことは、本件事故を受けて関東運輸局が実施した特別監査において、本件一般監査で指摘された項目を含め33項目もの法令違反があったことが判明したこと(甲156)にも強く裏付けられている。 15⑻ 他社における運行管理等ア 信用性に争いのない証人E7の公判証言によれば、株式会社Cの同業他社であるG8においては、運転者を採用する際、採用前の 56)にも強く裏付けられている。 15⑻ 他社における運行管理等ア 信用性に争いのない証人E7の公判証言によれば、株式会社Cの同業他社であるG8においては、運転者を採用する際、採用前の実技試験は実施する場合としない場合があったが、採用後は、運転経験にかかわらず、健康診断を受診させ、実地試験を行って技術の確認をした後、11日間の20日程で学科研修や技能研修等を行い、その間にナスバの適性診断を受診させていた。その後、配属先においても2週間から1か月程度の訓練期間があり、回送バスによる運行試験を行い、営業所長や統括運行管理者が全ての項目をクリアしたと認めないと客を乗せた業務には就かせず、クリアして業務に就いて以降も、必ず乗務前後の対面点呼を実施し、運転者の運転25技量や健康状態等を把握していた。 68 イ F5の警察官調書(甲133、134)によれば、株式会社C入社前に勤務していた株式会社G10では、大型バスを運転するに当たり、指導員が付いて回送の大型バスを使って、1週間くらいの運転訓練を行った、出勤時に必ず運行管理者から点呼を受け、出発前には運行指示書に記載された具体的な指示を受けて勤務に当たり、ルート変更があれば逐一運行管5理者に報告していたとのことである。また、当該部分の信用性は特段争われていない証人E5の証言(第5回公判証人E5証言調書P5~7、59~62、第6回公判証人E5証言調書P23~25)によると、証人E5が大型バスの運転手としてのキャリアをスタートさせたG9では、研修期間が設けられ、運行管理者や指導運転者が同乗した運転訓練があった、同10社に加えその後在籍したG11や前記株式会社G10でも、採用に当たり実技試験での運転技量の見極めがあったとのことであるし、いずれの会社でも点呼は欠か 指導運転者が同乗した運転訓練があった、同10社に加えその後在籍したG11や前記株式会社G10でも、採用に当たり実技試験での運転技量の見極めがあったとのことであるし、いずれの会社でも点呼は欠かさず、行きも帰りも対面で実施しており、早朝や深夜、忙しい運行開始時間帯でも、人手不足で点呼を端折ることはなかったとのことである。さらに、F4の検察官調書(甲132)によれば、以前勤務し15ていたG12では、運転者は、入社後3か月間、見習いとして指導員による研修を受け、点呼の際は、運行管理者が道路状況等について注意事項を伝えるなどしていたとのことである。 ウ F6の検察官調書(甲141、142)及び被告人Bの公判供述(第11回公判被告人B供述調書P24~25、42~44)によれば、被告20人B自身が社長兼運行管理者を務めていた株式会社G7では、運転者を採用する場合、面接に加え、回送バスを運転させて運転技量を見極め、被告人Bが最終的な採否を判断し、採用後も、法令で定められた時間以上の座学による運転者教養を実施し、回送バスを運転させ、被告人Bらが運転技能を確認して、合格の判断が出なければ客を乗せた運転業務に就かせず、25法令で適性診断が必要となる運転者には必ずナスバの適性診断を受診さ69 せ、実際の運転業務に就かせる前にその内容を確認し、診断結果を踏まえた助言をしたり、診断結果が悪い運転者には、改めて回送バスを運転させて運転技量を見極めたりしていたとのことであり、また、夜間や早朝にバスが出庫する場合にも、必ず点呼を行うために事務所に人がいるように徹底しており、対面点呼を疎かにすることはなかった、形式的な点呼ではな5く、当日の運行経路や道路状況等を踏まえた運行指示を行うなどの中身が伴ったものであったとのことであった。 がいるように徹底しており、対面点呼を疎かにすることはなかった、形式的な点呼ではな5く、当日の運行経路や道路状況等を踏まえた運行指示を行うなどの中身が伴ったものであったとのことであった。 ⑼ 北志賀方面へのスキーツアーの経路株式会社Cが運行していた北志賀方面へのスキーツアーは、株式会社G13が企画し、旅行会社である株式会社G14を通じて株式会社Cにバス10の運行を依頼していたもので、その経路は、株式会社G13と株式会社G14とで話し合って決めており、株式会社G14から株式会社Cに行程表を送付していた。その行程表によると、J9を出発してK1インターチェンジで関越自動車道に乗り、K5インターチェンジで降りて国道18号を走行し、松井田妙義インターチェンジで上信越自動車道に乗り、K6イン15ターチェンジで降りて一般道で北志賀方面に向かうとされており、株式会社Cでは、この行程表をそのまま運行指示書に添付していた。株式会社G13においては、株式会社Cの運行管理者や運転者から合理的な理由の下に、行程変更の申出があれば承諾することもあり、平成26年から平成27年にかけてのシーズンにおいて、D2から「K5インターチェンジまで20のサービスエリアは混雑のため休憩を取れないことがあるので、上里サービスエリアで休憩を取り、藤岡インターチェンジで降りたい」との申出があった際は承諾したが、その他に株式会社Cから行程変更の申出がなされたことはなかったため、株式会社G13としては行程表どおりの経路を運行しているものと認識していた。しかし、実際には、J9を出発してK125インターチェンジで関越自動車道に乗り、藤岡インターチェンジで降りて、70 その後は、北志賀方面まで碓氷バイパスを含む国道18号等の一般道を走行するという本件バスと同 9を出発してK125インターチェンジで関越自動車道に乗り、藤岡インターチェンジで降りて、70 その後は、北志賀方面まで碓氷バイパスを含む国道18号等の一般道を走行するという本件バスと同じ経路での運行が、株式会社G13の許可を得ることなく運転者の判断により多用され、運行管理者である被告人Bもそうした状態を黙認していた。平成27年12月から平成28年1月14日までの間の北志賀方面へのスキーツアー運行(27回)をみると、運行指5示書どおりの経路による運行は3分の1(9回)しかなく、3分の2(18回)は本件バスと同じ経路を運行しており、D2及び証人E4は、自身が正運転手を務めるときはいずれも本件バスと同じ経路を運行し、被告人Bも副運転手として3回従事した際いずれも本件バスと同じ経路を運行していた。(甲25、96、97、127、乙29等)10⑽ D1の採用時及び採用後の状況等ア D1の採用経緯等被告人Bは、平成27年12月下旬、D2又は証人E4から、証人E4の知り合いであるD1が株式会社Cで働きたいとの希望を有していること、当時勤務していた有限会社G3では、大型バスは運転していなかった15ことを聞いた上で、同月29日、D1の採用面接を実施した。その際、被告人Bは、履歴書(甲55)を確認し、同履歴書上、有限会社G3に在籍していたとされる期間が約5年間であり(実際には約4年半の間であったが、D1は履歴書上、約5年間在籍した旨記載していた。)、D1からも「大型バスの運転に従事していなかったブランクの期間がある」旨を聞き、D201に対し「慣れてもらわなきゃね。」などと発言するなどして、D1が大型バスの運転に慣れていないことを認識した。その上で、D1の大型バスの運転技量に関する実技試験を行うことなく、D1に適性 D201に対し「慣れてもらわなきゃね。」などと発言するなどして、D1が大型バスの運転に慣れていないことを認識した。その上で、D1の大型バスの運転技量に関する実技試験を行うことなく、D1に適性診断を受診させたり、有限会社G3在籍時にD1が受診した適性診断結果を取り寄せて確認したりもせず、直ちにD1を運転者として採用することとした。そして、25D1に大型バスの運転に慣れてもらう必要があると考え、翌30日にD171 を紹介してきた証人E4の乗務で、北志賀方面への片迎え運行が予定されていたので、証人E4とペアを組ませてD1を1回目の乗務に従事させることとし、証人E4に対しその旨を電話で伝え、D1の面倒を見るよう依頼した。なお、被告人Bは、D1に対し指導監督指針に基づく運転者教育を実施しなかったのに、同月20日にD1に対する初任運転者教育を行っ5た旨の虚偽の記録を作成した。(第9回公判証人E4証言調書P86、第11回公判被告人B供述調書P13~17、乙23、37、39等)イ 1回目の乗務について被告人Bとの面接翌日である同月30日、D1は、証人E4とペアを組んで1回目の乗務に従事した。被告人Bは、この1回目の乗務の際、運行10管理者として、乗務前後の対面点呼は全く行っておらず、運行指示書に基づく運行指示も行わなかったが、点呼簿には点呼がなされた旨の虚偽の記載がなされていた。D1は、1回目の乗務の際、客を乗せていない回送の往路のみならず、客を乗せていた復路の乗務にも従事したが、その後、被告人Bは、証人E4からあるいは証人E4から報告を受けたD2を通じて、15D1の1回目の乗務について、「特に問題はなかった」という程度のことを聞いただけで、D1の運転状況や運転技量に関する具体的な内容についての報告は受けなかっ E4から報告を受けたD2を通じて、15D1の1回目の乗務について、「特に問題はなかった」という程度のことを聞いただけで、D1の運転状況や運転技量に関する具体的な内容についての報告は受けなかった。(第9回公判証人E4証言調書P15、25、86、106~107、乙39、45、弁9等)ウ 2回目の乗務と3回目の乗務について20被告人Bは、D2が作成した配車表に基づいて、D1について、平成28年1月3日から同月4日にかけて、証人E4とペアを組ませて2回目の乗務に従事させ、同月8日から同月10日にかけて、証人E5とペアを組ませて3回目の乗務に従事させた。D1をこれら2回の運行業務に従事させるに当たって、被告人BとD2の間でどのようなやり取りがなされたか25は証拠上明らかでないが、D2が株式会社Cの配車を担当していたことや、72 証人E4が「研修を兼ねて3人くらいが同乗してD1の運転技術を確認しようなどとD2と話していた」などと証言していることなどからすれば、被告人Bと同様にD2も、D1をベテラン運転者と組ませて慣れさせる必要があるという認識の下、2回目の乗務以降のD1の乗務について配車計画を立てたものと認められる。そして、被告人Bは、2回目及び3回目の5乗務の際、運行管理者として、乗務前後の対面点呼は全く行わず、運行指示書に基づく運行指示も実施しなかったが、点呼簿には点呼がなされた旨の虚偽の記載がなされていた。その後、被告人Bは、D1がどの区間の運行に従事したのか報告を受けておらず、さらに、D1の運転状況や運転技量に関する具体的な内容等についても報告を受けておらず、また、報告を10求めることもしなかった。(第5回公判証人E5証言調書P19、49、50、第9回公判証人E4証言調書P15、28、39、40、106 る具体的な内容等についても報告を受けておらず、また、報告を10求めることもしなかった。(第5回公判証人E5証言調書P19、49、50、第9回公判証人E4証言調書P15、28、39、40、106、107、第11回公判被告人B供述調書P83~88、乙39、45等)エ 被告人Aに対するD1の採用報告被告人Bは、D1の採用後、遅くとも平成28年1月5日までの間に、15被告人Aに対し、D1を運転者として採用したことを報告し、前の勤務先の有限会社G3では大型バスの運転には従事していなかったが、慣れさせれば大丈夫と考えており、慣れさせるために証人E4とペアを組ませてスキーツアーの仕事に行ってもらっていることを伝え、金が無いようなので、当面の間、給料を日払いにしてあげて欲しいと依頼した。被告人Aは、D201が前の勤務先で大型バスの運転に従事しておらず、大型バスの運転経験が少ないと理解し、一抹の不安を感じたが、「まあ、大丈夫なんだろう」と考え【なお、この被告人Aの内心部分は、被告人Aとの関係のみで乙52、54、67、75から認定。】、「あぁ、そうなんだ。」などと返事をして、被告人Bの話を了承した。(甲92、乙41、45等)25オ 本件スキーツアーへのD1の乗務について73 被告人Bは、D1について、同年1月14日、D2とペアを組ませて、本件スキーツアーの運転業務に従事させた。D2が当初作成した配車表では、被告人BがD1とペアで本件スキーツアーを担当することとなっていたが、被告人Bは同月15日に予定があり乗務できなかったため、D2がD1とペアで乗務してD1の運転を見ることとなった。被告人Bは、本件5スキーツアーの乗務に関し、運行管理者として、乗務前の点呼を行わなかったが、点呼簿には乗務前の点呼を行った旨の虚偽の 、D2がD1とペアで乗務してD1の運転を見ることとなった。被告人Bは、本件5スキーツアーの乗務に関し、運行管理者として、乗務前の点呼を行わなかったが、点呼簿には乗務前の点呼を行った旨の虚偽の記載がなされていたほか、事故を起こした本件バスが無事に帰着し、乗務後の点呼を行った旨の記載までなされていた。また、被告人Bは、形ばかりの運行指示書は証人E6に作成させたが、D1及びD2に対して、具体的な運行指示は全く10行わなかった(なお、被告人Bは、同月13日から14日の北志賀方面へのスキーツアーの運転業務で使用していた本件バスをD1及びD2に引き継ぐ際に、道中の気象状況や本件バスに異常がないことなどを伝えた可能性はあるが、仮にそうした事実があったとしても、運行指示に当たらないことは明らかである。)。(第11回公判被告人B供述調書P78、甲11515、134、乙37等)また、運行管理補助者でもあった被告人Aも、大型バスの運転経験が少ないと聞いていたD1に直接会ってどんな人かを確認しようと考え、点呼も兼ねて車庫に出向いたが、既にD1は出発しており会うことはできなかった。(乙68、75)20本件スキーツアーの運行経路は、株式会社G13が作成した行程表を引用するのみで、運行管理者である被告人Bが全く検討を行っていない形ばかりの前記運行指示書によると、J9を出発してK1インターチェンジで関越自動車道に乗り、K5インターチェンジで降りて国道18号を走行し、松井田妙義インターチェンジで上信越自動車道に乗るとされ、碓氷バイパ25スは通らないこととされていたが、本件バスは、運行指示書記載のルート74 と異なり、藤岡インターチェンジで高速道路を降りて、国道18号を走行するルートを取り、碓氷バイパスを走行して、本件事故現場に至 らないこととされていたが、本件バスは、運行指示書記載のルート74 と異なり、藤岡インターチェンジで高速道路を降りて、国道18号を走行するルートを取り、碓氷バイパスを走行して、本件事故現場に至った。 2 証拠の信用性に関する検討前記1の事実関係について、検察官の主張や両被告人の公判供述の内容と異なる認定をした部分について、その認定理由等を記すこととする。 5⑴ 面接時の被告人BとD1のやり取りについて検察官は、①平成28年11月25日付けの被告人Bの警察官調書(乙20)には、「面接の際、D1が『いきなり大型バスは不安がある』と述べていた」との記載があり、②弁護人が特段信用性を争っていない平成30年7月11日付けの被告人Bの検察官調書(弁9)にも、同様の記載があ10る上、不安の意味内容について、「乗客にクレームを付けられるのではないかとの不安」と受け取ったとの被告人B独自の考えが録取されており、③令和2年1月7日付けの被告人Bの検察官調書(乙39)にも、前記警察官調書を示されて内容を確認し、「調書にそう書かれているのであれば、間違いない」などと供述していると主張し、面接の際、D1が『いきなり15大型バスは不安がある』と発言し、被告人Bはそのことを認識したと主張する。他方、被告人Bは、公判において、「面接時にD1から大型バスの運転に不安があるとは聞いていない。」などと供述する。 そこで検討すると、この点に関して被告人両名に共通する証拠である被告人Bの検察官調書(乙39)の内容をみると、被告人BがD1に大型バ20スの運転についてブランクがあると聞いているとして、「大型バスに慣れてもらわなきゃね。」と言うと、D1が「何度か乗れば大丈夫だと思う。いきなり大型バスは不安がある。」と発言し、被告人Bが「感覚を取 スの運転についてブランクがあると聞いているとして、「大型バスに慣れてもらわなきゃね。」と言うと、D1が「何度か乗れば大丈夫だと思う。いきなり大型バスは不安がある。」と発言し、被告人Bが「感覚を取り戻すことが必要だよね。」と発言し、翌日の片迎え運行に従事させたというものとなっている。ここでは、D1の大型バスの運転経験や運転技量に関す る被告人Bの認識が問題となっているところ、被告人Bは、D1が有限会 社G3に在籍した約5年間、大型バスの運転に従事していなかったことを認識していたことは公判でも認めており、面接翌日の片迎え運行にD1を従事させたのも事実であり、それはD1に大型バスの運転に慣れてもらうためであったと考えられるから、被告人BがD1との面接時に、D1が大型バスの運転に慣れておらず、慣れさせる必要があると認識していたこと は、間違いなく認められ、そのような認識に沿ったやり取りがD1との間であったという限度では、前記検察官調書は信用できる。 一方、「D1が不安を口にした」という点については、その不安の意味について、長年バス事業に携わる被告人Bなりの解釈がそのまま録取されたと考えられる迫真性を有しているものの、そもそも面接時のD1とのや り取りについては、本件事故から約4年後に供述調書が作成された時点で、「今ははっきりとした記憶はないが、警察官調書に記載されているならそうだと思う」と録取されており、前記のとおり、被告人Bが公判でも認めているとか、客観的な事実に裏付けられているのであればともかく、そうした裏付けが全くない「不安」の点について、前記検察官調書から直接認 定することはできない。また、検察官が指摘する弁9についても、本件事故から約2年半後に作成されたもので、被告人Bの記憶が減退し乙39作成 くない「不安」の点について、前記検察官調書から直接認 定することはできない。また、検察官が指摘する弁9についても、本件事故から約2年半後に作成されたもので、被告人Bの記憶が減退し乙39作成の際と同様の録取状況であった可能性がある上、そもそも両被告人の弁護人が請求した証拠とはいえ、被告人Bが公判で否認している事柄を立証するために弁護人が証拠請求したとは解されないので、弁9で前記「不安」 を認定することには躊躇がある。さらに、この点に関する被告人Bの警察官調書(乙20)について検討すると、検察官が指摘するとおり、D1の「不安」を聞いた際の被告人Bの心境を交えた自然かつ具体的な内容となっており、録取された時期も本件事故から比較的近いものであることからすると、証拠として採用されている被告人Bとの関係でいえば、面接の際、 D1が不安を口にしたことを認定することは可能である。しかしながら、 本件においては、被告人Bと被告人Aの過失の競合が問題となっており、被告人Aについてはその立場上、被告人Bに対する指導監督責任も問われていることを踏まえると、被告人Bのみの関係で証拠とされ、被告人Aとの関係では証拠採用されていない乙20を根拠として、検察官が被告人Bの注意義務発生の根拠として主張する事実を認定することは相当ではな い(このような観点から、乙20と同様に、被告人Bの捜査段階供述のうち被告人Aとの関係では証拠採用されていないもの、すなわち、乙2~4、9~12、16、18、19、22、25、31、34、40、42の全部と、乙6、8、13、27、35、36、38、43のうち被告人Bとの関係で刑訴法322条1項に基づき採用した部分については、認定の用 に供さなかった。)。また、乙20に記載された面接時のD1とのやり 6、8、13、27、35、36、38、43のうち被告人Bとの関係で刑訴法322条1項に基づき採用した部分については、認定の用10に供さなかった。)。また、乙20に記載された面接時のD1とのやり取りの内容は、乙39と同様のものであるが、そのポイントは、D1には大型バスの運転にブランクがあり、大型バスの運転に慣れさせる必要があると認識していたことであり、D1が「不安」を口にしたという点はその根拠の一つであって、既にみたとおり、被告人Bに同認識があったという限度15では乙39の信用性が認められるので、「不安」の点を敢えて乙20で認定する必要性も乏しいというべきである。以上から、前記1⑽アで記載したとおりのやり取りが被告人BとD1との間であったと認定した。 ⑵ D1の採用に関し被告人Bが被告人Aに報告した内容等被告人Aは、公判供述及び一部の捜査段階供述(乙84)において、「被20告人Bから、D1の大型バスの運転経験が少ないとは聞いていない。D1が大型バスの運転に慣れていないとも聞いていない。被告人Bは、D1が最近は中型バスに乗っていると言っていたが、最近というのはここ2、3か月だと思った。前の勤務先でも大型バスに乗っていたという理解だった。 D1が事故を起こすかもしれないという具体的な不安を持つことはなか25った。」などと供述する。 77 しかし、本件事故の10日後である平成28年1月25日に作成された被告人Aの警察官調書(乙52)には、「被告人Bから、報告というより普段の会話の中で、D1について、『証人E4の紹介で、新しい運転手を雇った。前の会社の待遇が悪く、アパート代も払えないで困っているということなので、現金払いで給料を支給してやりたい。D1にはスキーバスの5運転をやってもらう。大型の経験は少ないが 新しい運転手を雇った。前の会社の待遇が悪く、アパート代も払えないで困っているということなので、現金払いで給料を支給してやりたい。D1にはスキーバスの5運転をやってもらう。大型の経験は少ないが、9メートルの中型には乗っていたようなので、慣れれば何とかなりますよ。』という感じで教えてくれた。大型の経験が少ないという話から、一抹の不安を抱えていたが、(中略)『まぁ大丈夫なんだろう』ぐらいの感覚で、D1の運転技量に関心を持たないまま、D1をバスツアーの業務に就かせることを黙認していた。」10などと記載されている。その後、同年4月25日に被告人Aが被疑者として黙秘権を告げられた上で作成された警察官調書(乙54)、同年9月28日付けの警察官調書(乙67)及び同年12月15日付けの警察官調書(乙75)にも、D1の大型バスの運転経験が少ないと聞いて一抹の不安を覚えたという点では乙52の前記記載とほぼ同じ趣旨の記載がなされ15ている。 そこで検討すると、被告人Aの捜査段階における前記供述(乙52、54、67、75)は、本件事故から10日後、被告人BからD1の採用について聞いたとされる時点からでも1か月以内という、記憶が鮮明であったと考えられる時期から前記の点で一貫しており、D1の実際の運転経歴20や日払いで給与を支払った点といった客観的事実関係とも整合している上、被告人AのD1に対する不安の中身が取調べを重ねる毎に詳細な内容となっている点は、取調官の誘導があった可能性があるものの、D1の大型バスの運転経験の少なさに不安を覚えたとする前記の点の限度では、自然で納得のできるものである。また、この点に関する被告人Bの供述状況25を見ると、被告人Bは、公判においては、被告人Aに対しD1の運転経歴78 等をどこまで伝えたかにつ の点の限度では、自然で納得のできるものである。また、この点に関する被告人Bの供述状況25を見ると、被告人Bは、公判においては、被告人Aに対しD1の運転経歴78 等をどこまで伝えたかについて曖昧な供述に終始しているが、被告人Bの検察官調書(乙41、45)には、「被告人Aに対し、『D1は、かつて有限会社G2という会社で大型バスの運転に従事していたが、最近勤務していた有限会社G3では、中型や小型バスを運転しており、大型バスには乗っていなかった。大型バスの運転に従事させて慣れさせれば大丈夫。』と5いう趣旨の報告をしたはずである」旨記載されている。そうすると、この点に関する被告人Aの捜査段階供述と被告人Bの捜査段階供述は、話の大筋で一致しており相互にその信用性を高めていると評価できる上、一方で、D1の大型バスの運転経験について、被告人Bが有限会社G3では大型バスに乗務していなかったと報告したとし、被告人Aは大型バスの運転経験10が少ないと聞いたとして食い違いが生じている点や、D1が有限会社G3で乗務していたバスの種類についても供述内容に差異が見られる点は、取調官が無理に供述内容を整合させようとせず、被告人Aと被告人Bが述べる内容をそのまま録取した証左といえる。 以上から、被告人A及び被告人Bの前記各捜査段階供述は信用でき、こ15れに反する被告人Aの前記公判供述及び乙84の内容は信用できないと判断し、前記1⑽エのとおり認定した(この点、乙52、54、67、75は、被告人Aとの関係のみで採用されている証拠であるが、被告人Bが被告人Aを指導監督する義務を負っているわけではなく、被告人Aとの関係で採用されていない証拠で被告人Bの注意義務違反の発生根拠となる20事実を認定する場合の前記不都合が生じるものではないと判断し、認 人Aを指導監督する義務を負っているわけではなく、被告人Aとの関係で採用されていない証拠で被告人Bの注意義務違反の発生根拠となる20事実を認定する場合の前記不都合が生じるものではないと判断し、認定の用に供することとした。)。 なお、被告人Bが被告人Aに対しD1の採用や運転経験等について報告した時期については、証拠上、様々な可能性が存在しており、具体的な日時を確定できないが、平成28年1月5日にD1に対し1回目と2回目の25乗務の給与が支払われており、この点に関する決定権限を有していたのが79 被告人Aであり、事前に被告人Bから被告人Aにこの点の承諾を求めた事実は間違いないと認められるから、遅くとも同日までには報告があったと認定した。 ⑶ 本件事故前日に点呼場に赴いた際の被告人Aの心境について被告人Aは、公判において、「本件前日に車庫に行ったのは、D1に給5料体系を確認するためである。できるだけ早く雇用形態を確定させて、社会保険等の説明をして、D1の承諾を得て雇用契約書にサインをもらう必要があった。ついでに、D1とは一度も会ったことがなかったため、この機会にコミュニケーションをとりながら点呼をしようと思った。D1のことが不安で、面前点呼をする必要性を感じたからではない。」などと供述10し(第10回公判被告人A供述調書P15~17、99~101、第11回公判被告人A供述調書P8~9)、令和2年2月17日付けの検察官調書(乙84)においても同趣旨のことを述べている。 しかし、平成28年9月28日付け(乙68)及び同年12月15日付け(乙75)の被告人Aの警察官調書においては、「営業所のホワイトボ15ードに本件スキーツアーの運転者としてD1の名前があるのを見て、被告人Bから前勤務先では中型バスばかり運転してい 月15日付け(乙75)の被告人Aの警察官調書においては、「営業所のホワイトボ15ードに本件スキーツアーの運転者としてD1の名前があるのを見て、被告人Bから前勤務先では中型バスばかり運転していた人と聞いたことから、大型バスをちゃんと運転できる人なのか不安な気持ちがふと沸き上がり、直接会ってどんな人くらいかは確かめておきたいという思いに駆られて、点呼も兼ねて車庫に赴いた。」などと記載されている。 20そこで検討すると、被告人Aができるだけ早くD1の雇用形態を確定させたいと考えていたのであれば、被告人AはD1を採用したことを遅くとも平成28年1月5日までには被告人Bから聞いて知っていたのであるから、それ以降、D1を営業所に呼び出すなどして給与体系を確認して雇用形態を確定する機会が十分にあり、D1とコミュニケーションをとるこ25とも可能であった。それにもかかわらず行っていなかったことからすれば、80 いずれ雇用形態を確定する必要があったとしても、D1との事前の約束もなしに社長自ら車庫に赴くほどの緊急性があったとは考え難く、点呼場を車庫に移設してから点呼がなされていない状況の中で、被告人Aが、自ら点呼も兼ねて車庫に行こうと考えるほどの動機とはいえない。他方で、前記⑵でみたように、被告人Aは、被告人BからD1の採用の報告を受けた5際にD1の大型バスの運転経験が少ないことに不安を感じていたのであるから、D1が本件スキーツアーの運行業務に従事する予定であると知り、乗務前に一度直接会ってどのような人物か確認しておきたいと考えることは自然な心境であるといえる。 以上より、被告人Aの当初の捜査段階供述(乙68、75)の方が信用10できると判断し、被告人Aの心境は、前記1⑽オで記載したとおりであったと認定した。 ⑷ 前記⑴ 自然な心境であるといえる。 以上より、被告人Aの当初の捜査段階供述(乙68、75)の方が信用10できると判断し、被告人Aの心境は、前記1⑽オで記載したとおりであったと認定した。 ⑷ 前記⑴ないし⑶に関する弁護人の主張ア これに対し、被告人Aの弁護人は、被告人Aの前記公判供述について、その内容は、自然で、合理的かつ具体的であって、公判供述の前提と15なる弁4~6とともに十分信用できるとした上で、それ以外の被告人Aの捜査段階供述については、①道義的責任を感じていた被告人Aが警察官から自己の認識と異なる質問をされた際、それを否定すると道義的責任を否定していることになると言わんばかりの追及をされ、刑事責任との区別を理解できないまま道義的責任まで否定できないとして警察官に迎合した、20②その中で、被告人Aは、D1が前の勤務先に監査が入った都合で大型バスが運転できなかったのだと思っており、その旨を捜査官に伝えたところ、「監査なんかない」と追及されて、記憶と異なる平成28年1月25日付けの供述調書に署名した、③本件事故前日に、被告人AがD1に会いに点呼場である車庫のプレハブに行ったことは、取調官が知り得ない事実であ25ったが、その時の心情は、取調官が本件事故と結び付けて誘導ないし作文81 することが可能である、④被告人Bから「大型の経験が少ない」と聞いて、「大丈夫なの」と思ったことについて、検察官は、問答体で録取されていることを信用性の根拠とするが、どこをどう問答体で録取するかは捜査官が自由に決められ、法律の素人が取調官の意図を見抜いて異議を申し立てたり署名を拒否したりすることは不可能であるから、前提となる発言その5ものが自発的とは認められない、⑤「(前勤務先で)中型ばかり運転していた」との記載も、中型以外のバス を見抜いて異議を申し立てたり署名を拒否したりすることは不可能であるから、前提となる発言その5ものが自発的とは認められない、⑤「(前勤務先で)中型ばかり運転していた」との記載も、中型以外のバスを全く運転していなかった趣旨か否かが不明な表現となっており、取調官の作文であることを否定できないなどと指摘し、前記⑵及び⑶で信用できると判断した被告人Aの捜査段階供述の信用性を争う。【被告人A弁論P81、82、88~89、92~96】10イ また、被告人Aの弁護人は、被告人Bの捜査段階供述について、本件事故の予見可能性を否定する部分(弁7、8)は、被告人Aの公判供述及び捜査段階供述(弁9~11)に沿う限度で合理的で信用できるが、その他の事実関係に関する供述については、信用性が認められないとする。 すなわち、①被告人Bは、公判において、捜査段階の調書の内容自体や確15認して署名したかどうかについて記憶がない旨を述べており、②調書自体にも、D1との面接時のやりとり自体について、そもそも記憶がなく、「警察官調書に書いてあるならそうだと思う」などと述べて録取された旨の記載(乙37、39)がある上、③被告人Bは、公判において、警察官調書について、「事情聴取に赴いたら文章ができていて、自分の表現と違うこ20とが書かれていると思ったが、帰れなくなると思って署名した」などと述べており、④前記検察官調書(乙41、45)にはD1に関する被告人Aとのやり取りについて断定調の記載がなされているが、そもそもD1とのやりとり自体記憶にない被告人Bの警察官調書に基づく前記記載は信用できないなどと指摘する。【被告人A弁論P96~99】25ウ そこで検討すると、まず、被告人Aの前記公判供述が正しいとすれ82 ば、本件事故のわずか10日後に作成された く前記記載は信用できないなどと指摘する。【被告人A弁論P96~99】25ウ そこで検討すると、まず、被告人Aの前記公判供述が正しいとすれ82 ば、本件事故のわずか10日後に作成された乙52に前記のような記載が存在することと全く整合しない。その上で、被告人Aは、相応の社会的地位に就いており、その地位ゆえに本件事故の様々な責任を負うべき立場にあったことを十分理解していたはずであるのに、刑事責任と道義的責任の区別がつかなかったというのも俄かに信じ難い話である。この点、本件事5故から約1か月少し後の平成28年2月23日に株式会社Cで開かれた会議の議事録(甲347)には、警察による被告人A及び被告人Bに対する刑事責任の追及見込みについて話題となり、社長である被告人Aが負う可能性がある民事及び刑事責任についてフローチャートを用いて協議された旨の記載が存在する。被告人Aの弁護人は、同議事録の記載について、10発言の記載なのか作成者の認識の記載なのか全く分からないなどと指摘するが、当時の被告人Aが置かれた状況等からして、記載内容の大筋を被告人Aも認識していたことは間違いない。そうすると、道義的責任を否定することになるとの理由で刑事責任を認めることになりかねない内容の供述調書に署名したというのは、非常に不自然な話というべきである。 15エ また、被告人Aが有限会社G3に監査が入ったと認識していたことは、被告人Aの弁護人指摘のとおり、被告人Bや証人E4のメモ(甲337資料3枚目、甲339別添8)で裏付けられているが、前記のとおり、D1の運転経歴に関する被告人Aの警察官調書が最初に作成されたのは、本件事故の10日後であって、この時点では捜査機関による有限会社G320に対する捜査は進捗しておらず(甲341、342)、取調官か 1の運転経歴に関する被告人Aの警察官調書が最初に作成されたのは、本件事故の10日後であって、この時点では捜査機関による有限会社G320に対する捜査は進捗しておらず(甲341、342)、取調官から「(有限会社G3への)監査なんかない」と言われ、記憶と異なるが「D1の大型バスの運転経験が少ないと聞いていた」旨の供述調書に署名したというストーリーは、成立し得ないものである。被告人Aの弁護人は、正式な照会回答書の到着前でも、事実上の聞き込み等で監査の有無を容易に調べられ25るなどと指摘するが、推測に過ぎないし、被告人Aは、公判において道義83 的責任から署名に応じたなどと述べるが、その点が不自然なことは既に検討したとおりである。 オ さらに、被告人Aが本件事故前日に点呼場に赴いた際の心境についても、取調官が誘導ないし作文したとの根拠はなく、社長である被告人Aがわざわざ会いに行った理由としては、公判供述の内容が不合理であり得5ないわけではないとする被告人Aの弁護人の指摘を考慮しても、捜査段階供述の方が説得的である。 カ そして、「慣れれば何とかなる」と被告人Bから聞いたことや「一抹の不安があった」との記載についても、前記のとおり、本件事故の10日後に作成された乙52に既に記載されており、その後の調書にも一貫し10て記載されている上、既にみたとおり、被告人Bの捜査段階供述とも一致していることからして、被告人Aの言葉ではなく取調官の作文であるとの被告人Aの弁護人の主張は採用できない。加えて、「中型ばかり運転していた」との記載に関する被告人Aの弁護人の指摘は、取調官が作文したとするなら、あえて多義的な記載にしたことになりむしろ不自然であって、15採用できない。 キ また、被告人Bの捜査段階供述については、検察官の令和 する被告人Aの弁護人の指摘は、取調官が作文したとするなら、あえて多義的な記載にしたことになりむしろ不自然であって、15採用できない。 キ また、被告人Bの捜査段階供述については、検察官の令和4年8月25日付け証拠調請求書や同年9月20日付けの被告人Aの弁護人作成の証拠意見書では、D1の採用に関して被告人Aに報告した際のやり取りについては、平成30年12月19日及び令和2年1月7日の取調べの際20に笹村検察官から警察官調書を示され、被告人Bが「じゃあそれが合ってます。」などと述べた部分があると記載されている。しかし、被告人Bは、公判において、その際の取調べ検察官は、「自分の話をちゃんと聞いてくれた。」と述べており、仮に示された警察官調書が自分の記憶と異なるものであったのであれば、検察官に対しその旨を申し出ればよかったはずで25ある。にもかかわらず、被告人Bは、検察官に対しそのような申し出を行84 っていない。しかも、既にみたとおり、被告人Bの前記検察官調書の内容は、本件事故からわずか10日後に作成された被告人Aの警察官調書の内容と大筋で整合しているのであり、被告人Aの弁護人の指摘を踏まえても、その信用性は揺るがない。 ⑸ 1回目の乗務の際の被告人Bから証人E4に対する指示の有無5被告人Bは、公判において、証人E4に対し1回目の乗務の際、D1には客を乗せない片迎え運行の往路を運転させるよう指示した旨供述する。 他方、証人E4は、公判において、1回目の乗務及び2回目の乗務の際、被告人Bからどの区間をD1に運転させるかについて具体的な指示はなかったと証言する。この点、1回目の乗務の際、D1が客を乗せた復路で10も運転に従事した事実が認められることからすれば、証人E4が証言するとおり、被告人Bは、D1が運転 について具体的な指示はなかったと証言する。この点、1回目の乗務の際、D1が客を乗せた復路で10も運転に従事した事実が認められることからすれば、証人E4が証言するとおり、被告人Bは、D1が運転する区間を指示していなかったか、仮に何らかの形で指示めいた発言をしていたとしても、証人E4がその指示を遵守するような内容でなかったことは明らかである。 ⑹ 1回目の乗務後の証人E4から被告人Bに対する報告の有無等15被告人Bと証人E4は、公判において、「1回目の乗務の後、証人E4が被告人Bに対し、電話で、『D1の運転は大丈夫。』と伝えた」旨一致して供述ないし証言している。 他方、弾劾証拠として採用した令和2年3月19日付けの証人E4の検察官調書(甲346)には、1回目の乗務におけるD1の運転について被20告人Bに報告した明確な記憶はない旨の記載がある上、証人E4が令和3年1月22日にブログに投稿した記載をみると(なお、検察官は、論告で同ブログの掲載日時を平成28年1月22日と記載しているが誤りである。)、「D1の技量は大丈夫だとD2に報告し、D2が運行管理者に報告していたはず」などと記されている一方、令和4年5月20日にブログに25投稿した記載では、「私は被告人B被告に技量は大丈夫だと報告していま85 す。」と記している(甲337)。また、この点に関する被告人Bの捜査段階供述をみると、平成30年7月11日付けの被告人Bの検察官調書(弁9)では、「1回目の乗務後、D1が下道の一般道や高速を走り、特に問題なかったとの報告を証人E4から受けている。」と記載されている一方、令和2年1月7日及び同年3月18日付けの被告人Bの検察官調書(乙359、45)では、「1回目の乗務について、証人E4に問い合わせたり直接報告を受け E4から受けている。」と記載されている一方、令和2年1月7日及び同年3月18日付けの被告人Bの検察官調書(乙359、45)では、「1回目の乗務について、証人E4に問い合わせたり直接報告を受けたりした記憶はない」旨の記載がなされている。 そこで検討すると、前記のような二転三転する証人E4と被告人Bの供述経過及び供述内容からすると、この点に関する両名の記憶は、捜査段階において既に曖昧ではっきりしないものであったと認められ、そうした曖10昧で不明確な記憶が公判で明瞭になった合理的理由が示されていないことからすると、両名の前記公判供述及び公判証言をそのまま鵜吞みにすることはできない。証人E4から被告人Bへの報告のタイミングについての被告人Bの公判供述及び証人E4証言をみても、被告人Bは、1回目の乗務後だが日時は覚えていないと述べ、やはりこの点に関する記憶が曖昧か15つ不明確であるし、証人E4は、平成27年12月31日か平成28年1月1日であったと述べるが、1回目の乗務以降の関係者間の通話履歴(甲336)によると、被告人Bと証人E4がそれぞれの携帯電話で通話した最初の履歴は平成28年1月7日であり、証人E4が携帯電話で株式会社Cの事務所の固定電話に掛けた最初の履歴も同月10日である上、同固定20電話から証人E4の携帯電話に掛けた最初の履歴も同月4日午後4時24分頃で、既に2回目の乗務の復路であったと認められ、こうした客観的事実関係と証人E4の前記公判証言が整合しない。 以上からすると、前記ブログの記載の力点は本件バスに問題があったことを重視したものであるとか、証人E4の前記検察官調書(甲346)で25は被告人Bに報告したことを明確に否定していないといった両被告人の86 弁護人の指摘【被告人B弁論P46、被告人A弁 とを重視したものであるとか、証人E4の前記検察官調書(甲346)で は被告人Bに報告したことを明確に否定していないといった両被告人の 弁護人の指摘【被告人B弁論P46、被告人A弁論P62】を考慮しても、被告人B及び証人E4の前記公判供述及び公判証言をそのまま信用することはできない。証人E4は、D1の1回目の乗務の状況について、被告人BではなくD2に対して報告し、D2から被告人Bに報告がなされた可能性もあり、被告人Bが証人E4とD2のどちらから報告を受けたのかは 確定できないが、いずれにせよ、報告を受けた内容としては、D1の運転について「特に問題はなかった」(弁9)という程度であり、D1の運転状況や運転技量について具体的な内容の報告は受けなかったことは間違いなく、前記1⑽イのとおり認定した。 なお、証人E4は、公判において、「2回目の乗務後、被告人Bに対し、 D1の運転の報告を多分していると思う。」などと証言するが(第9回公判証人E4証言調書P106)、弾劾証拠として採用した令和2年1月16日付けの証人E4の検察官調書(甲345)では、2回目の乗務後の被告人Bへの報告は明確に否定されている上、被告人Bも公判において、「2回目及び3回目の乗務におけるD1の運転状況については報告を受けて いない」旨供述しており(第11回公判被告人B供述調書P83~88)、前記証人E4証言は、信用できないと判断した。 ⑺ 本件スキーツアーにおける運行区間の指示について被告人Bは、公判において、「J7で本件バスを交替したときに、D2に対し、山道の運転はD2がするように言ったつもりである。」旨供述す る。しかし、被告人Bの上記公判供述は「言ったつもり」という程度の曖昧なものである上、被告人Bは、捜査段階においては 、D2に対し、山道の運転はD2がするように言ったつもりである。」旨供述す20る。しかし、被告人Bの上記公判供述は「言ったつもり」という程度の曖昧なものである上、被告人Bは、捜査段階においては、「D2に対して『頼むよ』などと言ったが、D1の運転区間や運転を注意して見てほしい部分など詳しい指示はしなかった」と述べていた(乙37)。また、平成28年1月13日から14日にかけての北志賀方面へのスキーツアーの運行業25務に被告人Bとペアで従事したF5も、「引継ぎの際、被告人Bは、D287 やD1に対して、点呼や体調の確認、安全運行に関する指示を全くしていない。被告人Bが運行前に点呼や指示等をしていれば、とても珍しいことなので絶対に記憶に残る。」旨述べている(甲134)。そして、実際にもD1が碓氷バイパスを運転していた。以上からすれば、被告人Bは、本件バスの引継時にD2に対して山道の運転はD2がするように指示してい5なかったと判断し、上記1⑽オのとおり認定した。 ⑻ その他被告人Aの公判供述について被告人Aは、公判において、大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に高度な運転技量が必要かどうかという点や、本件事故当時の株式会社Cにおける運転者不足の状況等について、前記認定とは異なる旨の供10述をしている。この点、これらの点に関する前記認定は、被告人A以外の関係者の供述内容等から明白であるところ、刑訴法322条で証拠採用した被告人Aの捜査段階調書の内容も前記認定に沿ったものとなっており、これらの被告人Aの調書は信用でき、これらに反する被告人Aの公判供述の内容は信用できないと判断した。 153 被告人Bの注意義務違反について⑴ 被告人Bは、株式会社Cの代表取締役であった被告人Aから、道路運送法等の関 、これらに反する被告人Aの公判供述の内容は信用できないと判断した。 3 被告人Bの注意義務違反について⑴ 被告人Bは、株式会社Cの代表取締役であった被告人Aから、道路運送法等の関係法令で規定されていた運行管理者等に選任され、社内組織的にも同社バス事業部本社営業所長に任じられており、被告人Aの指揮監督の下、バス事業部における実質的な業務運営責任者として、業務全般に わたりその事務を掌理し、同社における事業用自動車の輸送の安全を確保するための業務を行うべき権限と職責を有していた。 したがって、被告人Bは、道路運送法等の関係法令で事業者を実施主体とし、運行管理者や安全統括管理者に委ねられていた輸送の安全を確保するための各種義務、すなわち、高度な能力が要求される一般貸切旅客自動 車運送事業の運転者に対し、①運行路線の状態並びにこれに対処し事業用 自動車の運行及び旅客の安全を確保するために必要な運転に関する技能及び知識の習得を目的とした継続的かつ計画的な指導監督の実施、②その前提として適性診断結果や実技試験等に基づく運転者の運転特性や運転技量等の把握、③乗務前後の対面点呼の実施、④乗務前の点呼における運行の安全を確保するための必要な運行指示等を行い、かつ、株式会社Cの 安全管理規程で定められた各種義務、すなわち、⑤輸送の安全確保に向けた管理体制の確立や維持、輸送の安全に関する方針等の誠実な実施、社内への安全意識の徹底、経営トップへの状況報告等の義務を果たすべき立場にあった。 ⑵ この点、被告人Bは、平成10年6月に運行管理者資格を取得し、 株式会社G6や株式会社G7において長らく運行管理者を務めていたのである。その経験の中で、株式会社G6時代には、当時、同社の新人運転者であったD2が坂 成10年6月に運行管理者資格を取得し、10株式会社G6や株式会社G7において長らく運行管理者を務めていたのである。その経験の中で、株式会社G6時代には、当時、同社の新人運転者であったD2が坂道でブレーキの使い過ぎで多数の負傷者を出した横転事故を起こし、被告人Bは、運行管理者資格を失ったこともあった。また、被告人Bは、株式会社Cにおける唯一の運行管理者であり、かつ、安15全統括管理者にも選任されていたのであり、そうした立場にあった被告人Bが本件事故前の平成26年11月に受けた一般講習においては、実際の事故の事例が紹介され、事故防止策として、確実な点呼の実施、適切な運行計画・運行指示、過労運転の防止が重要であり、そのために日頃から運転者に対して安全運転等に関する指導監督を行い、運行経路の事前把握、20速度の出やすい下り坂における減速方法等の運転技術に対する指導等を徹底することなどが講義されていた。 しかも、株式会社Cは、平成27年2月には、関東運輸局東京運輸支局による本件一般監査を受け、点呼の実施、運転者に対する指導及び適性診断の実施等が不適切であるといった法令違反を指摘され、具体的に改善指25導等を受けていたのである。 89 以上からすると、被告人Bは、運行管理者として果たすべき道路運送法等の関係法令で規定された義務が、事業用自動車の輸送の安全の確保のために課された義務であることに加え、安全統括管理者としても、組織内に安全管理体制を構築すべき義務を負っており、これらの義務を適切に果たさなければ、輸送の安全を確保することができず、自社のバス等が事故を5起こし、多数の乗客に死傷の結果を発生させるおそれがあることを、知識としても経験としても、十分に理解していたと認められる。 ⑶ その上で、本件事故前の株式会社 とができず、自社のバス等が事故を5起こし、多数の乗客に死傷の結果を発生させるおそれがあることを、知識としても経験としても、十分に理解していたと認められる。 ⑶ その上で、本件事故前の株式会社Cのバス事業部の運行管理状況等をみると、本件一般監査においても一部指摘されたとおり、運転者を雇う際に、実技試験等の実施や適性診断の受診等によってその運転技術を確認10することをせず、雇い入れ後も、乗務前後の対面点呼を行わず、乗務前の運行指示も実施せず、運転者は、目的地までの運行ルートを自分で自由に決められる状態にあった。被告人Bは、同監査による指摘後も、運行管理業務や安全管理体制の不備を改めず、一方で、被告人Aの承諾を得ながら、バス事業の拡大を図り、大型バスを増車し、前年から参入していたツーマ15ン運行が必要なスキーツアーに加え買い物ツアーにも参入するなどしたため、恒常的な運転者不足に陥り、臨時日雇いで運転者を雇うこともあった上、被告人B自身がスキーツアーの運転業務に携わり、代表取締役社長であった被告人Aも送迎業務に従事しなければならない状況となっており、同監査で指摘された乗務前後の対面点呼の実施等については、点呼場20が被告人Bの普段在席していた本社から車庫に設けられたプレハブに移るなどして益々疎かになっていた。 ⑷ このように、本件事故までの間、被告人Bが運行管理者や安全統括管理者としての義務を殆ど果たさない状況であったにもかかわらず、株式会社Cが運行するスキーツアー等において死傷の結果が生じるようなバ25ス事故が起きなかった理由については、被告人Bとは旧知であったD2、90 証人E5及び証人E4といった大型バスのベテラン運転者が主軸として運行を担い、新たに運転者を雇い入れる際も、同人らが大型バスの乗務経験が豊 理由については、被告人Bとは旧知であったD2、90 証人E5及び証人E4といった大型バスのベテラン運転者が主軸として運行を担い、新たに運転者を雇い入れる際も、同人らが大型バスの乗務経験が豊富で運転技量が十分に備わっている元同僚等に声を掛けていたことによるところが大きかったと考えられる。当時の株式会社Cにおいて、被告人Bは、D2、証人E5及び証人E4といった大型バスのベテラン運5転者らに頼り、事実上、彼らに運転者の運転技量の把握を含め運行管理を委ねてしまっていたが、同人らとて完璧ではなく、実際小規模ではあるが自損事故を起こすなどした旨の事故報告書が作成されていたのである(甲349)。そうすると、株式会社Cにおいては、同人らに過労や体調不良等の問題があった場合や同人らの声掛けによって雇い入れた運転者に運10転技量や健康上の問題があった場合等について、被告人Bが、死傷の結果を伴うバス事故を未然に防止するための前記義務を何ら果たしていなかったのであるから、そのようなバス事故がいつ起きてもおかしくない状況にあったと認められる。 ⑸ そうした状況の中、株式会社Cでは、スキーツアーの運転者として15D1を雇うことになった。被告人Bは、証人E4からの情報や採用面接等によって、D1は、以前大型バスの運転に従事していたが、直近の勤務先では約5年間大型バスの乗務をしていなかったことを把握しており、大型バスの運転に慣れていないことを認識していたのである。この点、被告人Bは、旧知であり大型バスの運転経験や運転技量を把握していたD2、証20人E4及び証人E5とは異なり、D1については、運転者として採用した時点で前記程度の情報しかなく、大型バスの運転経験がどの程度あるのか、大型バスで夜行日帰りのスキーツアーバスに乗務した経験があるのか 人E4及び証人E5とは異なり、D1については、運転者として採用した時点で前記程度の情報しかなく、大型バスの運転経験がどの程度あるのか、大型バスで夜行日帰りのスキーツアーバスに乗務した経験があるのか、約5年間大型バスの運転に従事していなかったD1の大型バスの運転技量がどの程度のもので、大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に25必要な運転技量を有しているのか、健康上の問題はないのかといった点に91 ついて、D1の状況を全く把握できていなかったと認められる。そして、被告人Bは、証人E4に対し、D1の面倒を見るように依頼し、証人E4とペアを組ませて採用翌日の片迎え運行にD1を従事させたが、その後、その際のD1の運転について、証人E4か同人から報告を受けたD2を通じて「特に問題はなかった」と聞いた程度で、D1の大型バスの運転状況5や運転技量に関する具体的な内容については報告を受けず、それらを把握しないままD1を客を乗せた大型バスの運行に乗務させ、2回目及び3回目の乗務についても同様に証人E4や証人E5らから何の報告も受けず、D1が大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要な運転技量を十分に備えているのかを確認しないまま、D1を本件スキーツアーの10運行に従事させた。 ⑹ 以上を前提として、被告人Bに予見可能性があったかどうかを検討する。本件では、直接行為者であるD1が過失を犯して本件事故を発生させたことに対する監督過失が問題となっているところ、運行管理者である被告人Bが、事故発生の危険があることを前提として法令上義務付けられ15た輸送の安全を確保するための運行管理業務等について、自社の不備を認識し、監督官庁からもその不備の改善を指摘されながら、虚偽の弁明書を提出するなどして対策を怠っていたという事情に 務付けられ15た輸送の安全を確保するための運行管理業務等について、自社の不備を認識し、監督官庁からもその不備の改善を指摘されながら、虚偽の弁明書を提出するなどして対策を怠っていたという事情に鑑みると、予見の対象は、内容の特定しない一般的・抽象的な危惧感ないし不安感を抱く程度では足りないが、直接行為者であるD1の大型バスの運転技量を信頼することが20できず、運転技量不足に基づく過失行為により死傷事故の結果を発生させる危険のある状況を認識していたといえれば、D1が発生させるかもしれない結果についても予見でき、当然これを予防するための措置をとることができるのであるから、予見可能性があったと評価できるというべきであり、D1が犯す具体的な過失行為や発生させる具体的な事故内容等現実の25結果発生に至る因果の経過を逐一具体的に予見することまでは必要ない92 と解される。 このような解釈を前提に検討を進めると、まず、被告人Bは、株式会社Cにおける運行管理者等として、輸送の安全確保の責任と権限を有しており、道路運送法等の関係法令が多数の死傷者を生じるような事故を防止するために事業者及び運行管理者に多角的かつ重層的な義務を負わせた趣5旨を十分に理解していた。一方、既にみたとおり、大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーについては、運行区間に下り勾配で道幅の狭いカーブが連続する峠道等があり、運転者が、ハンドル操作、ブレーキ操作及びギア操作において、刻々と変化する道路状況に大型バスの特性等を踏まえて的確に対応し慎重に運転する運転技量が必要となること、株式会社Cにお10いては、形ばかりの運行指示書が作成されるだけで、乗務前の点呼やその際の運行指示もなされておらず、運行経路の選択は、事実上、運転者に任されている状況であったこと、北 なること、株式会社Cにお10いては、形ばかりの運行指示書が作成されるだけで、乗務前の点呼やその際の運行指示もなされておらず、運行経路の選択は、事実上、運転者に任されている状況であったこと、北志賀方面へのスキーツアーでは前記のような峠道等がある碓氷バイパスを運行するルートを運転者が選択することが多かったことを認識していた。そして、被告人Bは、D1が直近の勤15務先では約5年間大型バスの運転に従事しておらず、大型バスの運転に慣れていないと認識していたのであるから、運行管理者として道路運送法等の関係法令で規定された義務を果たさず、D1に大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要な運転技量が十分に備わっているかを確認しないまま同スキーツアーの運行業務に従事させた場合、D1が事故を20起こすことなく適切な運転を行えると信頼できる状況にはなく、前記峠道等を運行する際、運転技量の不足から運転ミスを犯して重大な事故を引き起こすおそれがあり、ひいては乗客等の生命や身体に危険を及ぼす可能性があることは、被告人Bが運行管理者として道路運送法等の関係法令を遵守しようとしていれば、十分に予見できたと認められる。このような予見25可能性があったことは、被告人Bが他の運転者とは異なり、D1について93 は、証人E4に対し、「面倒を見てやってくれ」などと依頼し、採用翌日の片迎え運行にD1を従事させ、D1の大型バスの運転技量を証人E4に確認させようとしたと認められることからも裏付けられるというべきである。 ⑺ 被告人Bに前記のような予見可能性があったことからすると、被告5人Bは、運行管理者として、D1を大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事させるに当たり、万が一にも、D1が運転技量の不足から前記峠道等で運転ミスを犯 性があったことからすると、被告5人Bは、運行管理者として、D1を大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事させるに当たり、万が一にも、D1が運転技量の不足から前記峠道等で運転ミスを犯し、重大な事故を引き起こして乗客等が死傷することを回避するために、道路運送法等の関係法令に従い、適性診断の結果等からD1の運転特性等を把握するとともに、乗務する大型バスの特10性や運行区間の道路状況等について同人に理解させ、大型バスの運転に関する実技試験等を行うなどして同人の大型バスの運転技量の程度を把握し、その結果に応じて必要な運転訓練を行うなどの指導教育を行って大型バスの運転に必要な運転技量を習得させ、D1に大型バスによる夜行日帰りスキーツアーの運行に必要な運転技量が十分に備わっていることを確15認してから、客を乗せた同スキーツアーの運行に従事させるべき刑法上の注意義務を負っていたというべきである。そして、前記1回目から3回目の乗務のように、そうした運転技量を把握、確認をしないまま大型バスの運行に従事させた場合には、その際の運転状況について事後点呼その他の方法で情報を収集してD1の運転技量を把握し、同人に大型バスによる夜20行日帰りスキーツアーの運行に必要な運転技量が十分に備わっていることを確認してから、その後の客を乗せた同スキーツアーの運行に従事させるべき刑法上の注意義務があったというべきである。 ⑻ しかしながら、被告人Bは、前記のとおり、採用面接の際、D1が前の勤務先では約5年間大型バスの運行に従事しておらず、大型バスの運25転に慣れていないと認識していたにもかかわらず、運行管理者等として、94 D1に対し、大型バスの運転経験がどの程度あるのか、特に、大型バスで夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事した経験が 転に慣れていないと認識していたにもかかわらず、運行管理者等として、 D1に対し、大型バスの運転経験がどの程度あるのか、特に、大型バスで夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事した経験があるのかといった点について一切確認しなかった上、実技試験等を行うなどして大型バスの運転技量の程度を把握することもなく、適性診断を受診させたり、有限会社G3でD1が受診していた適性診断結果を取り寄せたりして運転特性等 を把握せず、大型バスの運転に必要な運転技量を習得させるための運転訓練等も実施せず、D1に大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要な運転技量を有しているのか確認せずに、同スキーツアーの運転者としてD1を採用することとした。そして、当時、株式会社Cにおいては、形だけの運行指示書が作成されるだけで、乗務前後の点呼等も行われない など、輸送の安全確保に向けた運行管理業務や安全管理体制が杜撰な状況の中で、被告人Bは、採用翌日に予定されていた北志賀方面への片迎え運行に証人E4とペアを組ませてD1を乗務させることとしたが、採用面接当日、証人E4に電話してD1の面倒を見るよう依頼したのみで、D1の運転技量の程度の把握と把握した内容に基づく運転技量習得のための指 導を、証人E4にいわば「丸投げ」し、その後、D1の1回目から3回目の乗務について、乗務後の対面点呼等を行わず、証人E4や同じくD1とペアを組んだ証人E5からD1の運転状況や運転技量等に関する具体的な内容について報告も受けず、この間、D1の適性診断結果による運転特性等の確認やその他大型バスの特性等の理解や操縦運転の技術を習得さ せるための運転訓練を行うなどといった指導教育等もせず、D1に大型バスによる夜行日帰りスキーツアーの運転に必要な運転技量が十分に備わ 確認やその他大型バスの特性等の理解や操縦運転の技術を習得さ20せるための運転訓練を行うなどといった指導教育等もせず、D1に大型バスによる夜行日帰りスキーツアーの運転に必要な運転技量が十分に備わっているかを確認しないまま、本件スキーツアーの運転業務にD1を従事させたのである。 そうすると、被告人Bは、D1を大型バスによる夜行日帰りスキーツア25ーであった本件スキーツアーの運行に従事させるに当たり、前記刑法上の95 注意義務を怠っていたことは明らかである。 ⑼ そこで、被告人BがD1を本件スキーツアーの運行に従事させるに当たり、運行管理者として、前記刑法上の注意義務を果たすため、道路運送法等の関係法令に規定されていた各種措置等を講じていた場合に、本件事故を防ぐことができたかどうかについて検討する。まず、被告人Bが、5採用面接の際、D1の大型バスの運転技量や運転特性等を把握するために、同人が乗務する予定の大型バスの特性や運行経路等を説明した上で、同人の大型バスの運転経験等について具体的に聴取すれば、D1が以前大型バスの運転に従事していたことがあったが、有限会社G3で勤務していた約5年間は大型バスの運転をしておらずブランクがあったことに加え、FC10TMの大型バスを運転した経験の有無や大型バスの夜行日帰りのスキーツアーに従事した経験の有無等について把握できた。この点、既にみたとおり、証人E4は、有限会社G2時代に、D1が桧枝岐で観光ツアーバスを運転した際の大型バスはロッド式であり、有限会社G3でFCTMのバスを運転していなければ、D1にはFCTMの経験はなかったと思うと供15述し、証拠上、有限会社G3でD1が運転していたバスは、いずれも大型バスではなくFCTMでもなかったことからすると、D1がFCTMの大型バ ければ、D1にはFCTMの経験はなかったと思うと供15述し、証拠上、有限会社G3でD1が運転していたバスは、いずれも大型バスではなくFCTMでもなかったことからすると、D1がFCTMの大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事した経験はなかった可能性が高く、経験があったとしても非常に少なかったことは間違いなく、このようなD1の大型バスの運転経験の乏しさは、D1から聴取すれ20ば把握可能であった。 次に、被告人Bは、道路運送法等の関係法令上、D1の運転特性等を把握するために、同人に適性診断を受診させなければならない義務があったし、D1は、有限会社G3に在籍中、少なくとも2回適性診断を受診しており、これらの診断結果を有限会社G3あるいはD1本人から入手するこ25ともできた。この2回の適性診断では、前記第4の5のとおり、いずれも96 D1の運転特性等について注意を要する旨の結果が出ており、被告人Bがこの2回の適性診断結果を入手すれば、このようなD1の注意すべき運転特性等を把握することができたし、改めて適性診断を受診させていた場合でも、前記の2回の適性診断と同様の結果、特に受診したばかりであったものに近い診断結果が出ていた可能性が高く、いずれにせよ被告人Bは、5D1には前記のような注意を要する運転特性等があることを把握できたと考えられる。 さらに、被告人BがD1に大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要な運転技量が十分に備わっているかどうかを確認するために、株式会社Cの大型バスの特性や夜行日帰りのスキーツアーの運行区間の10道路状況等について理解させ、運行管理者である被告人Bの監督の下、客を乗せていない大型バスでの実技試験や運転訓練を行うなどしていれば、実際のD1の大型バスの運転技量の程度を アーの運行区間の10道路状況等について理解させ、運行管理者である被告人Bの監督の下、客を乗せていない大型バスでの実技試験や運転訓練を行うなどしていれば、実際のD1の大型バスの運転技量の程度を把握できたと考えられる。この点、既に検討したとおり信用できる証人E5の公判供述によれば、D1は、3回目の乗務の際、いずれも対向車に気を取られてハンドル操作を誤って15後輪を縁石に擦ったり、FCTMのギアチェンジをミスしてニュートラル状態になったりしたため、運転を交替したことがあったというのである。 被告人Bが前記のような実技試験や運転訓練を十分に行うなどしていれば、そうした実際のD1の大型バスの運転技量の程度を把握することができたし、あるいは、3回目の乗務後に事後点呼を実施するなどして、D120の運転状況やD1を大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーに従事させることへの証人E5の疑問等について、証人E5からその詳細を聴取していれば、同様の情報を把握することができ、採用面接の際に把握できたはずのD1の大型バスの運転経験の乏しさや大型バスの特性の理解の不十分さ、適性診断結果から把握できたと考えられるD1の注意すべき運転25特性等、特に重複作業を行う際に間違いが多く反応が遅れがちであるとか、97 注意が一点に集中しがちであるといった特性等が、実際の大型バスの操縦運転においても如実に表れていたことを認識できたと考えられる。 そして、被告人BがD1の大型バスの運転技量について前記の全ての情報を把握していればもちろんのこと、その一部でも把握していれば、D1が大型バスによる夜行日帰りスキーツアーの運行に必要な運転技量を十5分に備えているとまでは確認できず、同スキーツアーの運行に従事させるには引き続き指導や訓練等を行い大型バスの運転技 いれば、D1が大型バスによる夜行日帰りスキーツアーの運行に必要な運転技量を十5分に備えているとまでは確認できず、同スキーツアーの運行に従事させるには引き続き指導や訓練等を行い大型バスの運転技量を習得させることが必要な状況にあると認識でき、被告人Bが運行管理者として道路運送法等の関係法令を遵守しようとしていれば、D1を本件スキーツアーに乗務させなかったと認められる。そうすれば、本件事故は起きなかった。 10⑽ 以上から、被告人BがD1を本件スキーツアーの運行に従事させるに当たり、道路運送法等の関係法令に従い、運行管理者として、前記刑法上の注意義務を果たすための前記措置を講じていれば、本件事故は、十分に防ぐことができたと認められる。そして、被告人Bが運行管理者として、前記措置を講じることが困難であった事情は特段見当たらない。この点、15前記1⑻のとおり、同業他社は、それぞれの実情等に応じて具体的方策に違いはあるものの、いずれも回送バスを運転させるなどの実技試験や運転訓練等を行うなどして運転者の運転技量を把握し、必要な運転技量を習得したと認めてはじめて客を乗せた運行に運転者を従事させており、業務に就かせて以降も、必ず乗務前後の対面点呼を実施し、運転者の運転技量や20健康状態等を把握していたというのである。また、被告人B自身、社長兼運行管理者を務めていた株式会社G7において、前記同業他社と同様、客を乗せた運行に就ける前に運転者の運転技量の把握や確認を十分に行い、点呼や運行指示も疎かにすることはなかったというのである。その被告人Bが株式会社Cにおいて同様の措置を実践できなかった理由は何ら見当25たらず、前記義務を果たすことは十分可能であった。 98 したがって、被告人Bには、判示のとおりの刑法上の注意義務違反があ が株式会社Cにおいて同様の措置を実践できなかった理由は何ら見当 たらず、前記義務を果たすことは十分可能であった。 したがって、被告人Bには、判示のとおりの刑法上の注意義務違反があったと認められる。 4 被告人Aの注意義務違反について⑴ 被告人Aは、株式会社Cの代表取締役として同社の業務執行権限を有していたところ、被告人Bを道路運送法等の関係法令で定められていた 運行管理者等として選任するとともに、同社バス事業部本社営業所長に任命し、自身の指揮監督の下、被告人Bにバス事業部における実質的な業務運営責任者として業務全般の事務を掌理させ、同社における事業用自動車の輸送の安全を確保するための業務を行うべき権限と職責を与えていた。 既にみたとおり、道路運送法等の関係法令は、輸送の安全を確保するた めの種々の義務主体を事業者と規定した上で、事業者に専門的知見を有する運行管理者を選任させ、強い権限を与えてその義務履行のための実際の業務に当たらせ、事業者にもその助言を尊重させるとともに、運行管理者に任せ切りにすることなく、事業者として運行管理者を適切に指導監督する義務を負わせ、事業者と運行管理者が一体となって輸送の安全を確保す るための運行管理業務を遂行する義務を負わせたものと解される。また、社内における安全管理体制の構築についても、事業者に一定の地位にある者を安全統括管理者として選任させ、安全管理規程で責任及び権限を定め、事業者と一体となり安全管理体制を構築させる義務を負わせたものと解される。 したがって、株式会社Cの代表取締役であり業務執行権限を有する被告人Aは、道路運送法等の関係法令上、事業者として輸送の安全を確保するための種々の義務を一次的に負い、運行管理者等として選任した被告人Bとともに 、株式会社Cの代表取締役であり業務執行権限を有する被告人Aは、道路運送法等の関係法令上、事業者として輸送の安全を確保するための種々の義務を一次的に負い、運行管理者等として選任した被告人Bとともに、社内に安全管理体制を構築し、輸送の安全を確保するための運行管理業務を遂行する義務を負っており、運行管理者等として被告人Bが25適切に業務を行うよう指導監督すべき立場にあった唯一の人物であり、被99 告人Bが運行管理者等として適切に業務を行わない場合には、一次的な義務主体である事業者として、輸送の安全を確保する最終的な責任を負っていたと認められる。 ⑵ この点、被告人Aは、平成26年2月、バス事業者の法令試験に合格し、以後、一般貸切旅客自動車運送事業を営む株式会社Cの代表取締役5を務めていたのであり、平成27年7月には、運行管理者資格試験を受験するため基礎講習を受講していた。そして、同講習においては、①旅客自動車運送事業で最も重要なことは旅客の輸送の安全の確保であり、その安全運行ができるのが運行管理者であること、②運行管理者は、特に運転者を観ることが大切で、点呼は対面で相手の反応を見ながら行うのが原則で10あり、早朝や深夜でも必ず運転者と顔を合わせて点呼し、絶対に点呼を疎かにしないこと、③運転者の指導監督について、運転者が与えられた運行業務に対処できるだけの運転技術、法令に関する事項について適切な指導監督をすることの重要性や適性診断を受診させることの必要性、具体的な指導訓練の方法として、運転訓練を決して怠らないこと、バスも各箇所の15自動化が進んでおり、運行管理者が運転者に指導して操作方法や特性を理解させること、運転訓練等を実施してしっかりと運転技量を見極めてから乗務させることが大切であること、④運転者の健康状態の把 15自動化が進んでおり、運行管理者が運転者に指導して操作方法や特性を理解させること、運転訓練等を実施してしっかりと運転技量を見極めてから乗務させることが大切であること、④運転者の健康状態の把握に努めない運行管理者は、その時点で不適者であることなどが説明されていたのである(甲108)。 20しかも、株式会社Cは、平成27年2月には、関東運輸局東京運輸支局による本件一般監査を受け、点呼の実施、運転者に対する指導及び適性診断の実施等が不適切であるといった法令違反を指摘され、被告人Aは被告人Bとともに具体的に改善指導等を受けていた。 以上からすると、被告人Aは、自らが果たすべき事業者としての義務が25定められた趣旨、すなわち、事業者として一次的に負うとされ、運行管理100 者等を選任後も、同人らを指導監督して一体となって果たすべきと解される道路運送法等の関係法令で規定された義務が、事業用自動車の輸送の安全を確保するための運行管理業務を行い、組織内に安全管理体制を構築するために課された義務であり、これらの義務を適切に果たさなければ、輸送の安全を確保することができず、自社のバス等が事故を起こし、多数の5乗客に死傷の結果を発生させるおそれがあることを、十分に理解していたと認められる。 ⑶ その上で、本件事故前の株式会社Cのバス事業部の運行管理状況等を見ると、前記3⑶のとおり、雇い入れの際の運転者の運転技量の確認や、雇い入れ後の乗務前後の対面点呼、乗務前の運行指示等輸送の安全の確保10に向けた運行管理業務は殆ど実施されておらず、社内の安全管理体制も全く構築されていない状況にあり、本件一般監査による指摘後も、被告人Bが運行管理業務や安全管理体制の不備を一向に改めず、一方で、バス部門の事業拡大が図られたため、恒常的な運 ず、社内の安全管理体制も全く構築されていない状況にあり、本件一般監査による指摘後も、被告人Bが運行管理業務や安全管理体制の不備を一向に改めず、一方で、バス部門の事業拡大が図られたため、恒常的な運転者不足に陥り、運行管理者であった被告人B自身がスキーツアーの運転業務に携わり、代表取締役である15被告人Aもその他の送迎業務に従事しなければならない状況になっており、対面点呼の実施については点呼場が本社から車庫のプレハブに移るなどして、益々疎かになっていた。 ⑷ 被告人Aは、被告人Bが運行管理者等として課された義務を殆ど果たさず、D2、証人E5及び証人E4といった大型バスのベテラン運転者20らに頼り切り、事実上、運行管理や安全管理を丸投げしてしまっていた状況を把握していたか、容易に把握可能であったのであり、遅くとも本件一般監査で改善指導等を受けた時点では、そのような自社の運行管理業務等の状況が、道路運送法等の関係法令に違反していることを認識したと認められる。しかし、その後も被告人Bが運行管理業務や安全管理体制の不備25を全く改めなかったことから、被告人Aが自ら運行管理者資格を取得しよ101 うと考え、平成27年8月に運行管理者試験を受験したが不合格であった。 そして、同年10月には、被告人Bが監督官庁に対し運行管理業務や安全管理体制を整えたとする内容虚偽の弁明書を作成し、被告人Aに押印を求めてきたのである。被告人Aは、遅くともこの時点で、被告人Bが運行管理者等としての役割を全く果たそうとしておらず、およそ不適格であり、5自社の運転者らに運転技量不足、過労や体調不良等の問題があった場合、いつ死傷の結果を伴うバス事故が起きてもおかしくない状況であって、被告人Aが事業者である代表取締役として、自ら又は運行管理者等である被 社の運転者らに運転技量不足、過労や体調不良等の問題があった場合、いつ死傷の結果を伴うバス事故が起きてもおかしくない状況であって、被告人Aが事業者である代表取締役として、自ら又は運行管理者等である被告人Bを指導監督するなどして、輸送の安全を確保するための運行管理業務と安全管理体制の構築を実現しなければならない必要性を認識したも10のと考えられる。だからこそ、被告人Aは、前記のとおり、自ら運行管理者資格を取得しようとしたし、被告人Bに対し、同年11月、運転者全員の健康診断受診を指示したが、結果として誰一人として受診せず、同年12月中下旬頃に点呼場が本社から車庫に移転した際には、点呼係の常駐を提案したが、被告人Bは、繁忙を理由にこの提案を実現せず、結局、株式15会社Cにおける運行管理業務と安全管理体制が杜撰な状況は改められなかった。被告人Aは、バス事業の拡大により自らも運転者業務に従事しなければならない恒常的な運転者不足の状況の中で、前記のような問題意識を持ちつつも、結果として目先の仕事をこなして利益を確保することを優先し、ベテラン運転者らの運転経験等に寄りかかった被告人Bの杜撰な運20行管理や社内の安全意識の欠如を黙認していたと認められる。 ⑸ そうした状況の中、株式会社Cでは、スキーツアーバスの運転者としてD1を雇うことになった。そして、被告人Aは、遅くとも平成28年1月5日までの間に、被告人BからD1を運転者として採用したことの報告を受け、その際、D1について、以前は大型バスの運転に従事していた25が、前の勤務先では大型バスの運転に従事していなかったこと、慣れさせ102 れば大丈夫と考えており、証人E4とペアを組ませてスキーツアーバスの仕事に行ってもらっていることなどを聞き、D1の大型バスの運転経験が少なく スの運転に従事していなかったこと、慣れさせ102 れば大丈夫と考えており、証人E4とペアを組ませてスキーツアーバスの仕事に行ってもらっていることなどを聞き、D1の大型バスの運転経験が少なく慣れさせる必要があると認識したのである。この点、既にみたとおり、被告人Aは、遅くとも平成27年10月に虚偽の弁明書を関東運輸局に提出した頃には、被告人Bが運行管理者等としての役割を全く果たそう5とせず、およそ不適格であり、株式会社Cにおいては杜撰な運行管理業務が行われ、社内の安全管理体制も構築されていない状況であったことを認識していたのである。そうすると、被告人Aにおいて、被告人Bが運行管理者等としての義務を履行していると信頼すべき基盤は失われていたというべきであるから、D1をスキーツアーバスの運転者として稼働させる10に当たっては、代表取締役である被告人Aが、一次的義務者である事業者として、自ら又は運行管理者等である被告人Bを指導監督して、輸送の安全を確保した上でD1を運行に従事させる責任を負う状況にあったと認められる。 その上で、被告人Aは、既にみたとおり、スキーツアーの運転に従事し15た経験があり、大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーについては、運行区間に下り勾配で道幅の狭いカーブが連続する峠道等があり、運転者が、ハンドル操作、ブレーキ操作及びギア操作において、刻々と変化する道路状況に大型バスの特性等も踏まえて的確に対応し慎重に運転する運転技量が必要となることを理解していたと認められる。そのような被告人Aが、20大型バスについて豊富な運転経験があると認識していたD2、証人E5及び証人E4らベテラン運転者らとは異なり、D1については、被告人Bから採用の報告を受けた時点で前記程度の情報しか聞いておらず、大型バスの運転 ついて豊富な運転経験があると認識していたD2、証人E5及び証人E4らベテラン運転者らとは異なり、D1については、被告人Bから採用の報告を受けた時点で前記程度の情報しか聞いておらず、大型バスの運転経験がどの程度あるのか、大型バスで夜行日帰りのスキーツアーに乗務した経験があるのか、前の勤務先で大型バスの運転に従事していなか25った期間がどの程度なのか、大型バスの運転技量がどの程度のもので、大103 型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要な運転技量を有しているのか、被告人Bが「慣れさせれば大丈夫」と判断した具体的根拠は何なのか、健康上の問題はないのかといった点について、D1の状況を全く把握できていなかった。そして、被告人Bからは、「慣れさせれば大丈夫」とするD1を、ベテラン運転者である証人E4とペアを組ませて客を5乗せたスキーツアーの運行に従事させている旨の報告を受けたが、被告人Aは、その後、D1の運転状況や運転技量に関する具体的な内容について報告を受けず、それらを把握しないままD1を客を乗せた大型バスの運行に従事させ、D1が大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要な運転技量を十分に備えているのか確認せず、被告人Bに対しても、そ10れらの把握、確認をするよう指導監督しないまま、D1を本件スキーツアーの運転業務に従事させた。 ⑹ 以上を前提として、被告人Aに予見可能性があったかどうか検討する。この点、本件では、直接行為者であるD1が過失を犯して本件事故を発生させたことに対する監督過失が問題となっているところ、事業者であ15る被告人Aが、事故発生の危険があることを前提として法令上義務付けられた輸送の安全を確保するための運行管理業務等について、自社の不備を認識し、監督官庁からもその不備の改善を指摘さ 事業者であ15る被告人Aが、事故発生の危険があることを前提として法令上義務付けられた輸送の安全を確保するための運行管理業務等について、自社の不備を認識し、監督官庁からもその不備の改善を指摘されながら、虚偽の弁明書を提出するなどして対策を怠っていたという事情に鑑みると、予見の対象は、被告人Bと同様、直接行為者であるD1の大型バスの運転技量を信頼20することができず、運転技量不足に基づく過失行為により死傷事故の結果を発生させる危険のある状況を認識していたといえれば、D1が発生させるかもしれない結果についても予見でき、当然これを予防するための措置をとることができるのであるから、予見可能性があったと評価できるというべきである。 25このような解釈を前提に検討を進めると、まず、被告人Aは、株式会社104 Cの代表取締役として輸送の安全確保に関し最終的な責任を負っており、前記のとおり、道路運送法等の関係法令が多数の死傷者を生じるような事故を防止するために事業者及び運行管理者に多角的かつ重層的な義務を負わせた趣旨を十分に理解していた。一方、既にみたとおり、大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーについては、運行区間に下り勾配で道幅の5狭いカーブが連続する峠道等があり、運転者が、ハンドル操作、ブレーキ操作及びギア操作において、刻々と変化する道路状況に大型バスの特性等を踏まえて的確に対応し慎重に運転する運転技量が必要となること、本件一般監査で指摘されたとおり、被告人Bが運転者に対する指導監督や点呼等を適切に実施しておらず、その運行管理業務が杜撰であり、監督官庁に10対する虚偽の弁明書を作成するなど、運行管理者等として適切に注意義務を履行していると信頼できる状況におよそないことを認識しており、被告人Bから報告を受けたD1の 業務が杜撰であり、監督官庁に10対する虚偽の弁明書を作成するなど、運行管理者等として適切に注意義務を履行していると信頼できる状況におよそないことを認識しており、被告人Bから報告を受けたD1の証人E4との乗務についても、輸送の安全確保のための適確な運行指示を行っているのかどうかを全く把握していなかった。そして、被告人Aは、新しく運転者として雇ったD1が直近の勤15務先では大型バスを運転しておらず、大型バスの運転経験が少なく慣れされる必要があると認識していたのであるから、事業者として自ら又は運行管理者等である被告人Bを指導監督するなどして、道路運送法等の関係法令で規定された義務を果たさず、D1に大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要な運転技量が十分に備わっているかを確認しない20まま同スキーツアーの運行業務に従事させた場合、D1が事故を起こすことなく適切な運転を行えると信頼できる状況にはなく、前記峠道等を運行する際、運転技量の不足から運転ミスを犯して重大な事故を引き起こすおそれがあり、ひいては乗客等の生命や身体に重大な危険を及ぼす可能性があることは、被告人Aが事業者として道路運送法等の関係法令を遵守しよ25うとしていれば、十分に予見できたと認められる。このような予見可能性105 があったことは、被告人Aがわざわざ点呼場に赴き、本件スキーツアーの出発前に運転経験が少ないと聞いていたD1に会って、どんな人物かを確かめようとしたと認められることからも裏付けられるというべきである。 ⑺ 被告人Aに前記のような予見可能性があったことからすると、被告人Aは、事業者として自ら又は運行管理者等である被告人Bを指導監督し5て、D1を大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事させるに当たり、万が一にも、D1 性があったことからすると、被告人Aは、事業者として自ら又は運行管理者等である被告人Bを指導監督し て、D1を大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事させるに当たり、万が一にも、D1が運転技量の不足から前記峠道等で運転ミスを犯し、重大な事故を引き起こして乗客等が死傷することを回避するために、道路運送法等の関係法令に従い、適性診断の結果等からD1の運転特性等を把握するとともに、乗務する大型バスの特性や運行区間の道路状況 等について同人に理解させ、大型バスの運転に関する実技試験等を行うなどして同人の大型バスの運転技量の程度を把握し、その結果に応じて必要な運転訓練を行うなどの指導教育を行って大型バスの運転に必要な運転技量を習得させ、D1に大型バスによる夜行日帰りスキーツアーの運行に必要な運転技量が十分に備わっていることを確認してから、客を乗せた同 スキーツアーの運行に従事させるべき刑法上の注意義務を負っていたというべきである。そして、前記1回目から3回目の乗務のように、そうした運転技量を把握、確認しないまま大型バスの運行に従事させた場合には、その際の運転状況について事後点呼その他の方法で情報を収集してD1の運転技量を把握し、同人に大型バスによる夜行日帰りスキーツアーの運 行に必要な大型バスの運転技量が十分に備わっていることを確認してから、その後の客を乗せた同スキーツアーの運行に従事させるべき刑法上の注意義務があったというべきである。 ⑻ しかしながら、被告人Aは、前記のとおり、D1をスキーツアーの運転者として採用したことに関し、被告人Bから、D1が前の勤務先では 大型バスの運転に従事しておらず、「慣れさせれば大丈夫」と言われ、そ のためにベテラン運転者とペアを組ませてスキーツアーの運行に したことに関し、被告人Bから、D1が前の勤務先では25大型バスの運転に従事しておらず、「慣れさせれば大丈夫」と言われ、そ106 のためにベテラン運転者とペアを組ませてスキーツアーの運行に従事させている旨の報告を受け、D1の大型バスの運転経験が少なく大型バスの運転に慣れさせる必要があると認識したのであり、しかも、被告人Bに対しては、運行管理者等として信頼する基盤を失っていたにもかかわらず、事業者として自ら又は運行管理者等である被告人Bを指導監督して、実技5試験等を行うなどしてD1の大型バスの運転技量の程度を把握することもなく、D1とペアを組んだベテラン運転者らからD1の大型バスの運転状況や運転技量等に関する具体的な内容等について何らの報告も受けず、この間、D1に適性診断を受診させたり、有限会社G3で同人が受診していた適性診断結果を取り寄せたりして運転特性等を把握せず、その他大型10バスの特性の理解や操縦運転の技術を習得させるための運転訓練を行うなどといった指導教育等もせず、D1に大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要な運転技量が十分に備わっているかを確認しないまま、本件スキーツアーの運転業務にD1を従事させたのである。 そうすると、被告人Aは、D1を大型バスによる夜行日帰りのスキーツ15アーであった本件スキーツアーの運行に従事させるに当たり、前記刑法上の注意義務を怠っていたことは明らかである。 ⑼ そこで、被告人AがD1を本件スキーツアーの運行に従事させるに当たり、事業者として前記刑法上の注意義務を果たすため、道路運送法等の関係法令に規定されていた各種措置等を講じていた場合に、本件事故を20防ぐことができたかどうかについて検討する。まず、被告人Aが被告人BからD1を運転者として採用した旨の報告 め、道路運送法等の関係法令に規定されていた各種措置等を講じていた場合に、本件事故を20防ぐことができたかどうかについて検討する。まず、被告人Aが被告人BからD1を運転者として採用した旨の報告を受けた際、被告人BがD1の大型バスの運転経験や運転技量等について把握しているかを聴取すれば、大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要な運転技量を十分に備えているかを確認するための情報を被告人Bが把握できていない25ことが認識できたと考えられる。そこで、事業者として被告人A自身が、107 又は被告人Aが運行管理者等である被告人Bを指導監督して、D1に対し同人が乗務する予定の大型バスの特性や運行経路等を説明し、同人の大型バスの運転経験等について具体的に聴取すれば、D1が以前大型バスの運転に従事していたことがあったが、有限会社G3で勤務していた約5年間は大型バスの運転をしておらずブランクがあったことに加え、D1は、F5CTMの大型バスの運転経験に乏しく、FCTMの大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事した経験は皆無か、あったとしても非常に少なかったことを把握可能であった。 次に、被告人Aは、道路運送法等の関係法令上、自ら又は運行管理者等である被告人Bを指導監督して、D1の運転特性等を把握するために、同10人に適性診断を受診させなければならない義務があったし、同人が有限会社G3在籍中に受診した2回の適性診断結果を入手することもできた。そして、被告人Aがこの2回の適性診断結果を入手すれば、前記第4の5で記したとおり、D1には注意を要する運転特性等があり、具体的には、①危険感受性に欠ける場合があり、状況判断が甘く運転に慎重さが足りない、15②注意の配分に欠ける場合があり、注意が一点に集中しがちである、③動 、D1には注意を要する運転特性等があり、具体的には、①危険感受性に欠ける場合があり、状況判断が甘く運転に慎重さが足りない、15②注意の配分に欠ける場合があり、注意が一点に集中しがちである、③動作が先で確認が後回しになりがちといった指摘がなされていたことや、④複雑な交通情報や多くの刺激・変化に対して常に正しく素早い処置ができるかを判断する重複作業反応検査について、「誤りの反応が多くあった。 突発的な出来事に対する処置を間違いやすい傾向がある。反応が遅れがち20である。」との指摘がなされ「特に注意」と評価されて、総合判断でも最下位である「特に注意」の評価がされていたことを把握することができたし、改めて適性診断を受診させていた場合でも、前記の2回の適性診断と同様の結果、特に受診したばかりであった前記④の結果に近い診断結果が出ていた可能性が高く、いずれにせよ被告人Aは、D1には前記のような注意25を要する運転特性等があることを把握できたと考えられる。 108 さらに、被告人Aが事業者として自ら又は運行管理者等である被告人Bを指導監督して、D1に大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要な運転技量が十分備わっているかどうかを確認するために、株式会社Cの大型バスの特性や夜行日帰りのスキーツアーの運行区間の道路状況等について理解させ、被告人A自身又は被告人Bの監督の下、客を乗せ5ていない大型バスでの実技試験や運転訓練を行うなどしていれば、実際のD1の大型バスの運転技量の程度を把握できたと考えられる。そして、既に検討したとおり、前記のような実技試験や運転訓練を十分に行うなどしていれば、3回目の乗務の際と同様、実際のD1の大型バスの運転技量の程度を把握することができたし、あるいは、3回目の乗務後に事後点呼を10実施 、前記のような実技試験や運転訓練を十分に行うなどしていれば、3回目の乗務の際と同様、実際のD1の大型バスの運転技量の程度を把握することができたし、あるいは、3回目の乗務後に事後点呼を 実施するなどして、D1の運転状況やD1を大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーに従事させることへの証人E5の疑問等について、証人E5からその詳細を聴取していれば、同様の情報を把握することができ、D1の大型バスの運転経験の乏しさや、適性診断結果から把握できたと考えられる前記D1の注意すべき運転特性等が実際の大型バスの運転にも如実 に表れていたことを認識できたと考えられる。 そして、被告人AがD1の大型バスの運転技量について前記の全ての情報を把握していればもちろんのこと、その一部でも把握していれば、D1が大型バスによる夜行日帰りスキーツアーの運行に必要な運転技量を十分に備えているとまでは確認できず、同スキーツアーの運行に従事させる には引き続き指導や訓練等を行い大型バスの運転技量を習得させることが必要な状況にあると認識でき、被告人Aが事業者として道路運送法等の関係法令を遵守しようとしていれば、D1を本件スキーツアーに乗務させなかったと認められる。そうすれば、本件事故は起きなかった。 ⑽ 以上から、被告人AがD1を本件スキーツアーの運行に従事させる に当たり、事業者として自ら又は運行管理者等である被告人Bを指導監督 して、道路運送法等の関係法令に従い、事業者として前記刑法上の注意義務を果たすための措置を講じていれば、本件事故は、十分に防ぐことができたと認められる。そして、被告人Aが事業者として、前記措置を講じることが困難であった事情は特段見当たらない。この点、前記1⑻のとおり、同業他社は、それぞれの実情等に応じて具体的 十分に防ぐことができたと認められる。そして、被告人Aが事業者として、前記措置を講じることが困難であった事情は特段見当たらない。この点、前記1⑻のとおり、同業他社は、それぞれの実情等に応じて具体的方策に違いはあるものの、5いずれも回送バスを運転させるなどの実技試験や運転訓練等を行うなどして運転者の運転技量を把握し、必要な運転技量を習得したと認めてはじめて客を乗せた運行に運転者を従事させており、業務に就かせて以降も、必ず乗務前後の対面点呼を実施し、運転者の運転技量や健康状態等を把握していたというのである。また、株式会社Cの運行管理者等であった被告10人B自身、以前経営していた株式会社G7において、前記同業他社と同様、客を乗せた運行に就ける前に運転者の運転技量の把握や確認を十分に行い、点呼や運行指示も疎かにすることはなかったというのであって、被告人Aが被告人Bを指導監督して、株式会社G7で実施していたのと同様の措置を実践させることができなかった理由は何ら見当たらず、仮に被告人15Bが実践できなかったとしても、事業者である被告人Aが自ら実践できなかった理由は何ら見当たらず、前記注意義務を果たすことは十分可能であった。 したがって、被告人Aには、判示のとおりの刑法上の注意義務違反があったと認められる。 205 被告人両名の注意義務違反と本件事故との因果関係⑴ 既に検討したとおり、D1は、大型バスで夜行日帰りのスキーツアーに従事した経験が極めて乏しく、大型バスの特性の理解が不十分であったことに加え、危険感受性が低く、注意が一点に集中すると状況変化を的確に捉えられず、突発的出来事への対応を間違い、反応が遅れがちである25などといった運転特性を有していたため、夜間、暗さから視界が狭まる中110 で、下り急勾配とカ 集中すると状況変化を的確に捉えられず、突発的出来事への対応を間違い、反応が遅れがちである25などといった運転特性を有していたため、夜間、暗さから視界が狭まる中110 で、下り急勾配とカーブが連続する峠道等の区間を多数の客を乗せた大型バスで走行し、時々刻々と変化する道路状況を的確に捉えて、大型バスの特性等を踏まえた適切なハンドル操作、ブレーキ操作及びギア操作を行う運転技量が不十分であり、こうしたD1の運転技量の不十分さが前記のようなD1の運転特性等と相俟って、本件事故の原因と直結したものと評価5できる。 ⑵ そして、既に検討したとおり、事業者である被告人Aと運行管理者等であった被告人Bは、D1を大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事させるに当たっては、道路運送法等の関係法令に従い、輸送の安全を確保するために、D1に同スキーツアーの運行に必要な運転技量10が十分に備わっていることを確認してから、同人を同スキーツアーの運行に従事させなければならない刑法上の注意義務を負っていた。そして、このような刑法上の注意義務を負っていた被告人Aと被告人Bが、D1の大型バスの運転技量を把握、確認するための前記措置を講じていれば、D1に大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に必要な運転技量が15十分に備わっているとまで確認できず、同スキーツアーの運行に従事させるには引き続き指導や訓練等を行い大型バスの運転技量を習得させることが必要な状況にあると認識でき、輸送の安全を確保するため、D1を本件スキーツアーに乗務させてはならず、そうしておけば本件事故は確実に防げた。にもかかわらず、被告人A及び被告人Bは、本件スキーツアーの20輸送の安全を確保するための前記刑法上の注意義務を果たさず、D1の大型バスの運転技量不足に 、そうしておけば本件事故は確実に防げた。にもかかわらず、被告人A及び被告人Bは、本件スキーツアーの20輸送の安全を確保するための前記刑法上の注意義務を果たさず、D1の大型バスの運転技量不足によって本件事故が生じたのであるから、まさに被告人A及び被告人Bの注意義務違反による過失が競合し、それらの過失の危険性が本件事故の発生に結び付いたと評価でき、本件においては因果関係が明らかに認められる。 256 両被告人の弁護人の主張についての検討111 ⑴ 被告人Bの弁護人の主張被告人Bの弁護人は、被告人Bの公判供述に沿って、弁論において、概要、次のとおり主張する。 ア 本件は不真正不作為犯の事案であるが、通説は、不作為による構成要件的結果惹起が作為によるものと同視できる場合(同価値性の原則)に5処罰可能であると解し、保障人的地位に基づく作為義務及び作為可能性があることを成立要件とし、法律、契約・事務管理、条理が作為義務を基礎付ける事情と解される。この点、検察官は、被告人両名がD1の運転技量を的確に把握し、運行に必要な運転技量が備わっていることを確認する指導監督(以下「本件義務」という。)をせずに運転に従事させたとの不作為10を論じるが、①道路運送法等から本件義務を導いており、無制限の類推解釈を認めるに等しく、明確性の原則にも違反する、②被告人Bは、D1が以前大型バスを運転していたのを見ており、D1と乗務した証人E4や証人E5からも否定的な報告がなく、D1の運転技量に不安を持っていなかったのであり、仮に被告人BがD1の運転を実際に見ていないから、D115の運転技量の習熟の程度を把握していないとするなら青天の霹靂であり、業務の分業を否定することにもなる、③ナスバの講習の意義についても、刑法上の処罰判断において 転を実際に見ていないから、D1 の運転技量の習熟の程度を把握していないとするなら青天の霹靂であり、業務の分業を否定することにもなる、③ナスバの講習の意義についても、刑法上の処罰判断においてどの要件に関するものなのか不明であるし、G8の運行管理体制についてもバス業界全体の基準ではなく、規制緩和により参入が認められた株式会社Cのような小規模事業者については、そこま での運行管理をしなければならない義務は存在せず、そもそもいかなる程度に達すれば運行管理体制が整ったといえるのか不明確である、④検察官は、本件義務を条理上も必要かつ相当とするが、条理は刑法の処罰根拠足り得ない不明確な概念であるし、行為準則やコンプライアンス意識等の文言を用いて処罰の是非を論じている点で罪刑法定主義違反である、⑤検察 官は、法令上の安全義務違反と刑法上の注意義務違反を別個のものとしつ つ、火災事故の裁判例を引用して本件義務を導き出しているが、処罰範囲を適正な範囲に設定する必要がある交通事犯では妥当な引用ではない、⑥D1が存命して処罰されていれば起訴されていないはずの事業者及び運行管理者について、本件義務を解釈から導いて処罰することは、過失犯の成立範囲を適正に設定しようとしてきた交通事犯の歴史的な理論の発展 と逆行し、どこまでの義務を果たせばよいか不明で明確性の原則や罪刑法定主義に反し、立法化すべき問題である、といった諸点からすると、被告人両名に保障人的地位に基づく作為義務は認められない。 イ運転免許制度を採用している我が国においては、運転を禁止するか否かについては一律に免許の有無で判断すべきであり、D1は、有効な運 転免許を有していた上、違反歴や事故歴も存在せず、信用性はともかく証人E5供述の内容も被告人両名が聞知し 、運転を禁止するか否かについては一律に免許の有無で判断すべきであり、D1は、有効な運 転免許を有していた上、違反歴や事故歴も存在せず、信用性はともかく証人E5供述の内容も被告人両名が聞知していない以上、運転を禁止する事情を認識しておらず、それ以上運転技量に関して調査する義務は存在しない。 ウ過失犯の成立範囲について、平成29年9月20日東京高裁判決は、 天竜川における旅客船が岸壁に衝突して乗客と船頭が溺死し、船頭の上位者が業務上過失致死罪に問われた事案で、予見可能性について現実的な危険性の認識を問題とすべきと判示し、予見可能性を否定する例として、「自動車の運転に例えていえば、道路前方がカーブしているにもかかわらず、運転者が運転中にハンドルやブレーキなどから手足を離し、走行するまま にしておくという事態をも予見しておく義務があるというに等しいといえなくもない」と説示しており、本件においても、予見可能性について、現実的な危険性の認識を要求すべきであるし、D1は、前方にカーブがあるのに、制限速度を大幅に上回る速度で本件バスを走行させ、ブレーキをかけなかったのであるから、前記例示と同等の行為を行ったといえる。 エ監督者の過失は、被監督者の過失に対する予見可能性が議論されな ければならず、本件義務が認められないとすると、予見可能性の対象は、D1がブレーキを踏まないこと(直近過失論)か、カーブする道路でニュートラル状態になった後にブレーキを踏まないこと(過失並存論)となるが、運転免許を取得した者がカーブでブレーキを踏まないことを予見することはおよそ不可能である。仮に本件義務を肯定したとしても、既に述べ たとおり、D1の運転技量は未熟ではないので、やはり被告人Bには予見可能性はない。 オ仮 ブレーキを踏まないことを予見することはおよそ不可能である。仮に本件義務を肯定したとしても、既に述べ5たとおり、D1の運転技量は未熟ではないので、やはり被告人Bには予見可能性はない。 オ 仮に本件義務を観念したとして、結果回避義務について、検察官は、D1の運転技量を把握して教育すべきなどと主張するが、誰がどのような基準でD1の運転技量を把握し、教育内容は誰がどのように行うのか、ど10うすれば義務を尽くしたといえるのか不明確に過ぎ、結果回避義務自体、観念できない。 カ 被告人Bは、D1について大型二種免許を取得し、ブランクがあったにせよ証人E4が肯定的な評価を与えた運転者との認識でいたのであり、「信頼の原則」が適用され、危険を察知した際にブレーキを踏むこと15を信頼できないとは到底言えず、刑事責任を追及されるべきではない。 キ 本件において、被告人の不作為と結果との間には因果関係もない。 【被告人B弁論P5~25、29~31、55~56】⑵ 被告人Aの弁護人の主張被告人Aの弁護人は、平成29年6月12日最高裁決定等を引用し、予20見可能性の対象としては、結果の発生だけではなくそこに至るプロセスが予見可能でなければならないと指摘する。そして、本件事故において、D1の過失内容は、フットブレーキをかけて減速又は停止しなかったことだけであり、検察官が主張する「ギア操作の不的確さ」は、予備的段階の一事情に過ぎないと指摘し、被告人Aの予見可能性の対象は、本件事故の具25体的・客観的な状況に照らし、「降雪・積雪などない峠道の下り坂におい114 て、カーブが連続するなどして路外逸脱等の危険があるのにフットブレーキを使用しないという運転をすること」を現実的に認識できたかどうかであるとした上で、被告人Aの公判供述が信 り坂におい て、カーブが連続するなどして路外逸脱等の危険があるのにフットブレーキを使用しないという運転をすること」を現実的に認識できたかどうかであるとした上で、被告人Aの公判供述が信用できるとして、その内容に沿って、概要、次のとおり指摘する。 アフットブレーキ操作は、ブレーキペダルを足で踏むという単純かつ 容易な操作であり、危険が迫り減速又は停止する必要が生じれば反射的に行うことができ、大型バスの特性やD1の運転技量にかかわらないもので「高度な技量」が必要とはいえないし、D1が横転やフェード現象をおそれてフットブレーキを満足に踏めなかったのではないかとの証言はあるが推測に過ぎない。目前に路外逸脱の危険が迫っているのに、前記のおそ れの現実化のリスク回避を優先してフットブレーキによる減速操作さえしないというのは、一般人から見てあり得ない異常な運転であって、被告人Aには予見できず、因果関係の基本的部分を認識できなかった。 イギア操作についても、特段高度な運転技量が必要とは認め難く、FCTMは、ギア操作を簡単にするためのもので、証人E1も「人によって は1時間で慣れる」と証言している。仮に3回目の乗務において、証人E5が供述するとおり、D1がギアチェンジミスをしたとしても、その後は問題なく進行したのであり、百歩譲って本件事故現場でギアチェンジミスがあったと考えても、ギアを入れ直したりフットブレーキを踏んで速度調節しなかった理由は不明であるから、本件において、D1がギア操作をミ スしてニュートラル状態に陥ることを被告人Aが現実的に認識できたかは疑わしいし、仮に認識し得たとしても、そのミスから事故発生の具体的危険性を認識することはできない。 ウ D1は、大型二種免許を取得して久しく、事故歴もなく、大 ことを被告人Aが現実的に認識できたかは疑わしいし、仮に認識し得たとしても、そのミスから事故発生の具体的危険性を認識することはできない。 ウ D1は、大型二種免許を取得して久しく、事故歴もなく、大型バスの運転経験もあり、桧枝岐という碓氷バイパスより格段に運転困難な箇所 を問題なく運転できたドライバーであり、その後、ブランクがあったとし ても大型バスの運転技量を忘れるはずはなく、仮に忘れたとしても、株式会社C入社後本件事故までに、3回ベテラン運転者と大型バスに乗務しており、被告人Aは、その運転手や被告人Bから、D1の運転技量が不十分だとか、必要な時にフットブレーキを踏まない傾向があるなどとの報告は受けていなかったことなどからして、被告人AにD1が本件事故を起こす ことに関する予見可能性はない。 エ前記平成29年9月20日東京高裁判決では、予見可能性に関し、通過に注意を要する流域において「操船中に船の向きが逆になるまで二人の船頭が何もせずに放置しておくことを予見できるといえるのかは疑問」とし、そのような事態がどの程度ありえるのかを十分吟味せず予見可能性 を認めた原判決の判断は不合理とした。この点、本件では、事故直前区間をみると直線部分も長く、車線の幅も十分にあり、特に危険な道路ではなく、桧枝岐等と比べて難易度が低く走り易い道路であり、危険な速度になって以降もフットブレーキを踏めば事故を容易に回避でき、少なくとも第41号カーブ手前の直線部分ではフットブレーキをかける機会は十分に あったのに、D1がフットブレーキをかけなかった理由は、全く解明されていない。仮にD1の運転技量が不十分で適性診断結果のような運転特性等があったとしても、同結果中には「ブレーキを踏むべき時に踏まない」特性があるなどとは記載され キをかけなかった理由は、全く解明されていない。仮にD1の運転技量が不十分で適性診断結果のような運転特性等があったとしても、同結果中には「ブレーキを踏むべき時に踏まない」特性があるなどとは記載されておらず、むしろフットブレーキに当てはめると踏むタイミングが早いとの結果になる記載もあり、危険が迫れば横転20等の危険を顧みずフットブレーキを踏むと考えるのが自然であって、前記適性診断結果を把握したとしても、D1がフットブレーキを踏まずに事故を起こすことなど、被告人Aに予見することはできない。そもそも適性診断の信頼性、正確性にも限界がある。 オ 運転技量が不十分なことによる事故かそうでない事故かの線引き25は極めて曖昧であり、運転者を運転に従事させれば事故を起こす可能性は116 殆ど常に存在するから、その予見義務があるとすれば、管理監督者の責任は結果責任に等しくなる。このことは、「夜行日帰りスキーツアーの運転業務に従事させた場合」としても同様で、予見義務の内容を特定することはできず、検察官の設定する注意義務は、その範囲が広すぎて限界が確定できず、罪刑法定主義に反する。そもそも夜行スキーツアーバスの運転に5ついては、必要な視界はヘッドライトにより保たれ、日中より余計な情報は目に入らず運転に集中できるし、交通量も日中より少ないのが普通であって、通常は日中より走行しやすく、夜行日帰りだからといって特段高度な運転技量が必要ともいえない。 カ 以上のとおり、被告人Aには本件事故に関する予見可能性が認めら10れない以上、結果回避義務が発生する余地はないが、仮に結果回避義務があったとしても、結果回避は不可能であり、同義務と本件事故との間に因果関係もない点について念のため論じると、①運転者の運転技量把握・確認義務や指導監督義務につ 生する余地はないが、仮に結果回避義務があったとしても、結果回避は不可能であり、同義務と本件事故との間に因果関係もない点について念のため論じると、①運転者の運転技量把握・確認義務や指導監督義務については、法令上の義務ではあるが、直ちに業務上過失致死傷罪にいう注意義務とはいえず、例えば、点呼義務に反して運15転者が事故を起こした場合、いかなる事故でも管理監督過失を問われかねず、G8で実施されている運行管理体制が基準となり得るのか、バス事業業界全体としての一般的基準も明らかでない、②本件事故の予見対象であるフットブレーキを踏むべき時に踏むという技量は、大型二種免許所持者には当然備わっており把握指導する以前の問題であって、運転訓練時に緊20急事態が発生するなど特殊な条件下でないと、証人E4や証人E5でもD1に前記技量が備わっていないなどと見抜くことはできず、被告人Aにもそのような報告はされていなかったのであって、被告人AがD1の異常運転を予見し、回避措置をとることなどできなかった、③被告人Aは、株式会社Cのほかにも2社の代表取締役を務めており、株式会社Cのバス事業25部における運行管理や運転者の指導監督等は被告人Bに任せ、自身は金銭117 管理を行っていたが、バス事業の経験が長い被告人Bを信頼しており、本件一般監査の指摘で若干信頼が揺らいだものの、運転技量の確認等が出来ていないとは思っていなかった、④被告人Aは、バス事業の経験の差から被告人Bに対し遠慮があったが、売上より安全を重視するよう指示し、本件一般監査後は運行管理者基礎講習を受けてその内容を被告人Bに伝え、5同人からは「そういうことは中小企業ではできないから任せてくれ」と言われたが、運転者教育の提案やバス事故に関する資料を手交し、F4を点呼係とする提案や運転 習を受けてその内容を被告人Bに伝え、5同人からは「そういうことは中小企業ではできないから任せてくれ」と言われたが、運転者教育の提案やバス事故に関する資料を手交し、F4を点呼係とする提案や運転者の健康診断実施の指示等を行い、本件事故当日には社内で改善会議を予定していた、⑤被告人Bから営業に忙しく運行管理に手が回らないなどという報告はなく、本件事故当時、運転者不足してい10る状況にもなかった。 【被告人A弁論P6~33、77~90】⑶ 検討ア 両被告人の弁護人は、被告人B及び被告人Aの予見可能性について、判例や裁判例を引用するなどして、被告人Aの弁護人が弁論で明示すると15おり「降雪・積雪などない峠道の下り坂において、カーブが連続するなどして路外逸脱等の危険があるのにフットブレーキを使用しないという運転をすること」を現実的に認識できたかどうかであると主張する(被告人Bの弁護人は、明示的に前記括弧内の文言を主張しているわけではないが、被告人Aの弁護人と同趣旨の主張であると解される。)。 20しかしながら、既に検討したとおり、本件で注意義務発生の根拠として求められる被告人A及び被告人Bの予見の対象は、本件スキーツアーの運行に従事させるに当たり、D1の大型バスの運転技量を信頼することができず、運転技量不足に基づく過失行為により死傷事故の結果を発生させる危険のある状況であることを認識していれば足りるというべきである。両25被告人の弁護人は、平成29年6月12日最高裁決定や同年9月20日東118 京高裁判決を引用するなどして、前記のとおり具体的な過失の内容と事故態様を現実的に認識することが必要であると主張するが、最高裁決定の事案は、公訴事実において注意義務違反とされた内容について、法令上の義務規定が存在せず、 どして、前記のとおり具体的な過失の内容と事故態様を現実的に認識することが必要であると主張するが、最高裁決定の事案は、公訴事実において注意義務違反とされた内容について、法令上の義務規定が存在せず、同業者間でも一般的な対策として講じられていなかった点等を重視して予見可能性を判断したものであり、道路運送法等の関係5法令によって課された義務を怠った事案である本件とは、予見可能性以外に注意義務発生の基礎となる事情が存在したかどうかという点で決定的に異なるものである。また、前記東京高裁判決の事案は、組織内における被告人の立場や職務内容等からして、運航の安全に関する責任者たる立場にあったとはいえず、直接行為者に対する実質的な監督権限を有していな10かったという点で、本件における被告人B及び被告人Aの立場や権限、法令上負っている義務等とその前提が全く異なるものである。両被告人の弁護人が引用する前記最高裁決定の補足意見で記されているとおり、「どの程度の予見可能性があれば過失が認められるかは、個々の具体的な事実関係に応じ、問われている注意義務ないし結果回避義務との関係で相対的に15判断されるべきもの」であり、特に、本件のように監督責任を問う場合には、監督義務を発生させる根拠やその内容について具体的に検討することが出発点となる。このような考え方を前提に、当裁判所は、株式会社Cにおける被告人A及び被告人Bの職責や実質的権限、両名が道路運送法等の関係法令上負っていた義務の内容とその履行状況、同社における運行管理20状況の実態、D1の大型バスの運転技量に関する両名の認識等の具体的な事実関係に基づき、刑法上の注意義務の有無を検討したのであって、無制限の類推解釈であるとか明確性の原則に反するといった被告人Bの弁護人の指摘は採用できない。 また 量に関する両名の認識等の具体的な事実関係に基づき、刑法上の注意義務の有無を検討したのであって、無制限の類推解釈であるとか明確性の原則に反するといった被告人Bの弁護人の指摘は採用できない。 また、両被告人の弁護人は、検察官が火災事故の判例を引用して、交通25事犯である本件において被告人両名の注意義務を導き出している点を批119 判するが、検察官は、火災事故の判例だけでなく、両被告人の弁護人が引用する前記判例・裁判例も十分に踏まえた検討を行っており、前記批判は失当である。また、被告人Bの弁護人は、検察官が条理、行為準則、コンプライアンス意識等の観点から検討を行っていることについても批判を展開しているが、既に検討したとおり、道路運送法等の関係法令は、事業5主が条理上負うべき義務を明確にしたものと解され、不明確な概念などとする被告人Bの弁護人の批判は当たらないし、行為準則等の文言についても、検察官は、そこから直ちに刑法上の注意義務が導き出されると主張しているわけではない。D1が存命であれば被告人両名は起訴されなかったはずだとする点も、根拠のない推測である。被告人Aの弁護人は、本件に10おいて被告人両名に予見義務を認めると、管理監督者の責任は結果責任に等しくなり、予見の範囲が広すぎるなどと指摘するが、本件では具体的事実関係の下で、被告人両名の注意義務を検討しているのであって、予見の範囲が広すぎるとの指摘は当たらず、また、被告人Bの弁護人が主張するように過失犯の成立範囲を不当に拡大するものとも認められず、明確性の15原則や罪刑法定主義との関係で問題はなく、立法論であるとの指摘もおよそ採用できない。 イ 両被告人の弁護人は、D1が目前に路外逸脱の危険が迫っていたのに、免許保有者であれば誰でも可能であるフットブレーキによ 法定主義との関係で問題はなく、立法論であるとの指摘もおよそ採用できない。 イ両被告人の弁護人は、D1が目前に路外逸脱の危険が迫っていたのに、免許保有者であれば誰でも可能であるフットブレーキによる減速操作をしなかった理由は全く不明であり、D1がこのような異常運転をするこ とを、被告人Bも被告人Aも予見しようがなかったと主張する。 しかしながら、前記のとおり、そもそも被告人Aと被告人Bの予見の対象としては、D1が犯す具体的な過失行為や発生させる事故内容等現実の結果発生に至る経過を具体的に予見することは不要である。その上で、本件事故直前のD1の運転状況が「異常」であったかどうかについてみてお くと、前記のとおり、D1は、第40号カーブの手前で2回フットブレー キを踏み、第42号及び第43号カーブの手前でも強くフットブレーキを踏んでいるから、弁護人が問題視しているのは、第41号カーブ手前の直線部分でフットブレーキをかけなかった理由が不明という点ということになるが(被告人Aの弁護人はそのように明示しており、被告人Bの弁護人の主張も同様と理解される。)、前記直線区間においては、道路状況や当 時の本件バスの速度等からみて、本件バスが路外に逸脱する危険が目前に迫っていたとはいえず、路外逸脱の危険が目前に迫ったといえるのは、第42号及び第43号カーブにおいてであり、これらのカーブ手前では、D1はフットブレーキを強く踏んで急ブレーキをかけているのである。そうすると、前記直線区間でD1が強くフットブレーキを踏まなかったのは、 既に検討したとおり、信用できる証人E1及び証人E3の証言内容等からして、急ブレーキをかけて乗客に怪我をさせるリスクを避けたものと考えるのが合理的である。被告人Aの弁護人は、これらの証言について 既に検討したとおり、信用できる証人E1及び証人E3の証言内容等からして、急ブレーキをかけて乗客に怪我をさせるリスクを避けたものと考えるのが合理的である。被告人Aの弁護人は、これらの証言について推測に過ぎないと指摘するが、両証人の推測は、客観的痕跡等から各証人の豊富な経験を踏まえて導き出したものあり、納得のできる説得力のあるもので ある。また、両被告人の弁護人は、フットブレーキを踏むことに高度な技量は必要ないとも指摘するが、この場面で問題となっているのは、乗客への影響をおそれて強いフットブレーキをかけられなかったという「判断」であり、フットブレーキを踏む「技量」の有無の問題ではない。本件事故の結果から遡ってみれば、前記のようなD1の判断が大型バスの運転者と して的確なものでなかったことは間違いないが、それはまさにD1の危険感受性の乏しさを示すものである。そうすると、D1が第41号カーブ手前の直線部分でフットブレーキを踏まなかった理由が不明であるとの両被告人の弁護人の主張は採用できず、「異常な運転」との主張は根拠がないと言わざるを得ない。被告人Bの弁護人は、前記東京高裁判決で示され た例示と同様の行為をD1が行ったと主張するが、本件事故の際のD1の 運転状況と前記例示が異なることは明らかである。適性診断の正確性等に限界があるとの被告人Aの弁護人の指摘も、D1が受診した2回の適性診断の結果が3回目の乗務の際のD1の運転状況等に如実に表れていたといえることは、既に記したとおりである。この点に関する両被告人の弁護人の主張は、採用できない。 ウ両被告人の弁護人は、D1は、大型二種免許を取得しており、大型バスの運転者として稼働していた経験もあり、事故歴等もなく、株式会社C入社後もベテラン運転者と組ませ の主張は、採用できない。 5ウ 両被告人の弁護人は、D1は、大型二種免許を取得しており、大型バスの運転者として稼働していた経験もあり、事故歴等もなく、株式会社C入社後もベテラン運転者と組ませて運行に従事させ、問題があるとの報告はなかったのであるから、被告人A及び被告人Bに予見可能性はなかったと主張する。 10しかしながら、大型バスによる旅客運送事業に従事する運転者は、全て大型二種免許を取得している。それでもなお、道路運送法等の関係法令が、事業者及び運行管理者に対し、運転者の運転技量等を把握させた上で適切な運行管理を行うよう具体的義務を負わせているのは、大型バスによる一般貸切旅客運送事業を営む事業者においては、運転者の運転技量等の様々15な原因に基づく運転ミスによって、多数の乗客の死傷を伴う自動車事故を発生させる危険が常に存在しており、万が一にもそうした事故が引き起こされないよう輸送の安全を確保するためである。そのような趣旨で規定された道路運送法等の関係法令上の義務を果たさずとも、大型二種免許の取得、大型バスの運転経験の有無といった形式的事柄のみ把握しておけば足20りるとするかのような弁護人の主張は、前記法の趣旨を蔑ろにするものでおよそ採用できない。また、D1と同乗したベテラン運転者らからD1に問題があるとの報告がなかったとする点も、被告人B及び被告人Aが、D1の運転技量等について大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーを安全に運行できると信頼するに足る状況になかったことについては、既に検25討したとおりである。被告人Bが証人E4に対してD1の運転技量等の把122 握や把握した情報に基づく指導を入念に指示していたというなら格別、被告人Bは証人E4にいわば「丸投げ」した挙句、その後、D1の大型バスの運転技量 が証人E4に対してD1の運転技量等の把 握や把握した情報に基づく指導を入念に指示していたというなら格別、被告人Bは証人E4にいわば「丸投げ」した挙句、その後、D1の大型バスの運転技量に関する具体的な情報収集も全く行っておらず、少なくとも証人E5にD1の運転技量等について聴取すれば、大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーに従事させることは疑問であるとの評価を把握できた のであるから、青天の霹靂であるとか分業の否定などとする被告人Bの弁護人の主張は、説得力を持つものではない。被告人Aについても、運行管理者等としての信頼の基盤が失われていた被告人Bから、D1について前の勤務先で大型バスを運転しておらず、慣れさせる必要があると聞いていたのであるから、ペアを組んだベテラン運転者らからD1の大型バスの運 転技量等について、事業者として自ら又は運行管理者等である被告人Bを指導監督するなどして聴取すべきであったことは、既に検討したとおりである。 仮に、被告人Bが証人E4の「特に問題なかった」との評価を、被告人Aが被告人Bの「慣れさせれば大丈夫」との報告をそれぞれ信頼して、D 1を本件スキーツアーの運行に従事させても大丈夫であると判断したのだとしても、これまでみてきたとおり、それは運行管理者又は事業者として、具体的な根拠のない空疎な信頼に基づく軽率かつ無責任な判断であると言わざるを得ない。両名は、D1の大型バスの運転経験から同人を大型バスの運転に慣れさせる必要があると認識していたのであり、入社から約 2週間しか経っておらず、わずか4回目の運行であった本件スキーツアーの運行に従事させるのであれば(運行に従事させてはならなかったことは、前記のとおりであるが)、運行管理者又は事業者として、輸送の安全を確保するために、 ず、わずか4回目の運行であった本件スキーツアーの運行に従事させるのであれば(運行に従事させてはならなかったことは、前記のとおりであるが)、運行管理者又は事業者として、輸送の安全を確保するために、D1とペアを組ませたベテラン運転者に対し、D1の運転状況を注視するよう伝え、D1の運行担当区間から前記峠道等の難所を除25くなど、D1の運転ミスによる事故が万が一にも発生しないよう万全の運123 行指示を事前の対面点呼の際に行った上で、D1を乗務させるべきであった。にもかかわらず、被告人B及び被告人Aは、運行管理者又は事業者として最も重要な輸送の安全の確保に向けた措置を全く講じずに、D1を本件スキーツアーの運行に従事させたのであり、両名が道路運送法等の関係法令を軽んじていたことは明らかであって、こうした法軽視の意識が前記5のような軽率かつ無責任な判断を生んだと認められ、予見可能性はなかったとする両被告人の弁護人の主張は、到底採用できない。 エ 両被告人の弁護人は、道路運送法等の関係法令で規定されている輸送の安全確保のための各種義務について、どの程度の措置を講じれば注意義務を尽くしたといえるか不明確であり、G8における運行管理体制が基10準となるのか、バス事業業界全体の一般的基準も明らかでないなどと主張する。 しかしながら、既にみたとおり、株式会社Cにおいては輸送の安全確保に向けた運行管理業務が全くといってよいほど行われておらず、被告人Bと被告人Aは、そのことを監督官庁からの本件一般監査によって指摘され15具体的な指導を受けていたのに、その状況を全く改めようとせず、虚偽の弁明書まで提出していたというのである。このような株式会社Cにおける杜撰な運行管理業務について、関係法令の基準等が明確でなかったからなどという弁解が通 いたのに、その状況を全く改めようとせず、虚偽の弁明書まで提出していたというのである。このような株式会社Cにおける杜撰な運行管理業務について、関係法令の基準等が明確でなかったからなどという弁解が通るはずはない。G8と同様の体制を取るかどうかはともかく、道路運送法等の関係法令が規定する各種義務が、事業者に対して不20当に重い義務を課したものとは認められず、既に記したとおり、被告人B自身、以前経営していたバス会社においては、それらの義務を履践して輸送の安全を確保した運行管理業務を実施していたというのである。そのことを被告人Aも認識可能であったというべきであり、株式会社Cにおいて、それらの義務を履践して輸送の安全を確保した運行管理業務を行うこと25ができなかった特段の事情も見当たらず、単に繁忙を理由として義務の履124 行を怠っただけであると認められるから、両被告人の弁護人の前記主張は、失当である。 被告人Bの弁護人は、誰がどのようにD1の運転技量等を把握すべきであったのかなどと疑問を呈するが、それはまさに運行管理者である被告人Bの責務であったと認められ、前記のとおり、以前の会社で運行管理業務5を適確に行っていた被告人Bが、株式会社Cにおいては履行の基準等が分からなかったから義務を果たせなかったというのは、およそ納得のできる話ではない。 被告人Aの弁護人は、被告人Aは別の会社も経営しており、運行管理者としての被告人Bを信頼していて、その信頼が本件一般監査の指摘で若干10揺らいだものの、事業者としてできることはしていたなどと主張するが、被告人Aは、被告人Bが運行管理者等としての義務を果たしていなかったことを認識しており、監督官庁への虚偽の弁明書を作成した被告人Bに対する信頼が若干しか揺らがなかったというのは、それが 主張するが、被告人Aは、被告人Bが運行管理者等としての義務を果たしていなかったことを認識しており、監督官庁への虚偽の弁明書を作成した被告人Bに対する信頼が若干しか揺らがなかったというのは、それが事実であれば、事業者として誠に無責任な態度というべきであるし、事業者として行ったと15する内容が、道路運送法等の関係法令で規定された各種義務の履行として不十分であることも、明らかである。被告人Aは、株式会社Cの代表取締役として被告人Bを唯一指導監督すべき立場にあり、その被告人Bが輸送の安全を蔑ろにした運行管理業務を行っていたのであるから、被告人Aは事業主としての責任を果たすべきであった。他の会社の経営があったとい20うのは言い訳にならない。 オ 被告人Aの予見可能性や回避可能性について、被告人Aの弁護人が主張する点も、被告人Aの予見の対象としては、D1の犯したミスの内容や本件事故の態様は要求されず、大型バスによる夜行日帰りのスキーツアーの運行に従事させるに当たり、D1の運転技量を信頼できる状況になか25ったことであることは、既に検討したとおりである。日中より夜間の方が125 走行しやすいとする指摘も、人それぞれであって、そうした点も含めてD1の運転特性等を把握した上で、本件スキーツアーの運行に必要な運転技量が十分に備わっていたかどうかを確認する必要があったというべきである。 カ その他両被告人の弁護人が縷々指摘する諸点を踏まえて検討して5も、当裁判所の前記判断は揺るがない。 第6 結論以上から、当裁判所は、被告人両名につき業務上過失致死傷罪が成立すると判断した。 (法令の適用)10被告人両名についてそれぞれ1 罰条被害者ごとにいずれも刑法211条前段2 科刑上一罪の処理刑法54条1項前 につき業務上過失致死傷罪が成立すると判断した。 (法令の適用) 被告人両名についてそれぞれ 1 罰条被害者ごとにいずれも刑法211条前段 2 科刑上一罪の処理刑法54条1項前段、10条(1個の行為が40個の罪名に触れる場 合であるところ、一罪として犯情の最も重い業務上過失致死罪〔ただし、死亡者14名に対する14個の同罪の犯情に軽重は認められないから、いずれかを特定しない〕の刑で処断) 3 刑種の選択禁錮刑を選択 4 訴訟費用の負担刑訴法181条1項本文(量刑の理由) 1 本件は、一般貸切旅客自動車運送事業等を営む株式会社Cの代表取締役である被告人Aと同社バス事業部本社営業所長である被告人Bが、新た に運転者として雇い入れたD1の大型バスの運転技量を把握、確認しない まま、同人を本件スキーツアーの運行に従事させ、同人が碓氷バイパスの下り坂において運転技量不足による運転ミスを犯し、本件バスを急加速させたため、カーブを曲がり切れずに路外崖下に転落させて、乗客13名及び交替運転者1名を死亡させ、乗客26名を負傷させるという大事故を引き起こした業務上過失致死傷の事案である。 2 本件事故により、14名という多数の尊い命が奪われ、その余の乗客26名も全員が重軽傷を負ったのであって、非常に重大で悲惨な結果が生じたのである。被告人両名は、多数の乗客の命を預かる大型バス事業に従事し、業務上、道路運送法等の関係法令を遵守し、万が一にも死傷事故を起こすことのないよう、輸送の安全の確保という最も重要で基本的な義務 を誠実に果たすべき責任ある立場にあった。にもかかわらず、被告人両名は、法令を遵守して同義務を果たさず、監督官庁による法令違反の指摘を受けてもなお、虚偽の弁明 保という最も重要で基本的な義務10を誠実に果たすべき責任ある立場にあった。にもかかわらず、被告人両名は、法令を遵守して同義務を果たさず、監督官庁による法令違反の指摘を受けてもなお、虚偽の弁明書を提出するなどして、杜撰な運行管理業務及び安全管理体制を改めようとせず、利益の確保を優先し、輸送の安全の確保を軽視し続けた結果、本件事故を引き起こしたのであり、その刑事責任15はそれぞれの立場や役割に応じて重いというべきである。 ⑴ 被告人Bは、株式会社Cにおけるバス事業の立ち上げに当たり主導的役割を果たし、事業開始後も営業所長、安全統括管理者及び運行管理者といったバス事業部の主要な役職を一手に担い、代表取締役である被告人Aと一体となって輸送の安全を確保する責任を負っていたのであり、バス20事業部の中心的存在として、被告人Aの監督の下、運転者を直接統括管理する現場責任者として運行管理業務を担っていた。長年バス事業に携わってきた被告人Bは、運行管理者講習を多数回受講し、これまでのバス事故の教訓から、輸送の安全確保には適確な運行管理業務が必要であることを繰り返し説明されていた上、以前の勤務先では、経験に乏しい運転者が負25傷者を多数出したバスの横転事故を起こしたため運行管理者の資格を失127 った経験もあり、輸送の安全の確保の重要性、そのために適確な運行管理が必要不可欠であること等について十分に認識していたはずである。 それにもかかわらず、被告人Bは、株式会社Cでのバス事業開始当初から利益追求に執心し、営業活動や事業拡大に力を注ぐ一方、輸送の安全確保のための運行管理業務については、事実上ベテラン運転者の経験や技量5に頼り切りで、運行管理者等としての職務を全く果たしていなかった。監督官庁による一般監査で複数の法令違反の指 方、輸送の安全確保のための運行管理業務については、事実上ベテラン運転者の経験や技量5に頼り切りで、運行管理者等としての職務を全く果たしていなかった。監督官庁による一般監査で複数の法令違反の指摘を受けた後も、その安全軽視の姿勢は変わらず、改善を図った旨の虚偽の弁明書を作成する始末で、杜撰な運行管理業務の実態を誤魔化し、一部運転者らの忠告にも耳を傾けず、乗務前後の点呼も運行指示も全くしないまま、客を乗せたバスを走ら10せ続けていたものである。株式会社Cのバス事業開始以降のこのような経緯等からすれば、その杜撰な運行管理業務とそれを許容する株式会社Cの組織体質は、被告人Bを中心に形成されたものといえ、その帰結として、運転技量が不十分なD1を大型バスのスキーツアーの運転者として雇用し、その運転技量を把握、確認せずに本件スキーツアーの運転者として従15事させ、本件事故を発生させたという点で、被告人Bは、厳しく非難されるべきである。そして、被告人Bが、法令を遵守した適確な運行管理業務を行おうとする意識を持ちその責任を果たしてさえいれば、自ら面接して採用したD1について、運転訓練等を実施して必要な運転技量を習得させるなどしてから乗務に就かせることは、その立場や経験からして容易であ20り、本件事故を未然に防ぐことが間違いなくできたといえる。以上からすると、被告人Bの過失は、悪質かつ非常に重大であり、D1に対する監督過失とはいえ、本件の結果に対する寄与度が相当大きかったというべきである。 この点、被告人Bは、仕事が忙しくて運行管理業務に手が回らなかった25などと述べるが、営業活動を行って運行業務を増やしていたのは被告人B128 本人である上、既にみたとおり、監督官庁に対する虚偽の弁明書まで作成していたことなどからして、そ 回らなかった25などと述べるが、営業活動を行って運行業務を増やしていたのは被告人B128 本人である上、既にみたとおり、監督官庁に対する虚偽の弁明書まで作成していたことなどからして、そもそも被告人Bの輸送の安全確保に対する意識が欠落していたことは明白であり、多忙との前記弁解は言い訳に過ぎない。 ⑵ 被告人Aは、一般貸切旅客自動車運送事業を営む株式会社Cの代表5取締役として、被告人Bと一体となって、輸送の安全を確保する義務を負い、その最終的な責任を負う立場にあった。しかし、バス事業に精通していなかった被告人Aは、事業開始当初から、バス事業の経験が豊富な被告人Bに同事業を任せきりであったが、監督官庁の一般監査により、運行管理業務における複数の法令違反を指摘され、監査官から直接指導を受けて10も、弥縫策を取ろうとするだけで、被告人Bに対し輸送の安全を確保するため適確な運行管理業務を行うよう十分な指導監督を尽くすことなく、それどころか監督官庁に対する虚偽の弁明書を作成してきた被告人Bをたしなめることもなく、そのまま押印して提出するなど、安全を軽視する株式会社Cの組織体質を抜本的に改善しようとはしなかった。結局、被告人15Aは、被告人Bが監督官庁からの指摘を受けてもなお、運行管理者等としての役割を果たしていないことを認識しながら、事業者として道路運送法等の関係法令で規定された義務を尽くそうとせず、目先の利益を優先して、輸送の安全を確保するための措置が全く講じられていない杜撰な運行管理業務を漫然と放置し続けていたものである。その帰結として、被告人B20が運転技量の不十分なD1を大型バスのスキーツアーの運転者として雇用し、同人の大型バスの運転経験が少ないと認識していたのに、その運転技量を自ら確認し又は被告人Bに確認 の帰結として、被告人B20が運転技量の不十分なD1を大型バスのスキーツアーの運転者として雇用し、同人の大型バスの運転経験が少ないと認識していたのに、その運転技量を自ら確認し又は被告人Bに確認させず、D1を本件スキーツアーの運転者として従事させ、本件事故を発生させたという点で、被告人Aは、被告人Bを直接指導、監督する唯一の責任者であり、株式会社Cのバス運25行における輸送の安全確保の最終的責任を負う事業者として、厳しく非難129 されるべきである。そして、被告人Aが、事業者として法令を遵守し輸送の安全を確保しようとする意識を持ちその責任を果たしてさえいれば、杜撰な運行管理業務を継続する被告人Bに任せ切りになどせず、自ら又は運行管理者等である被告人Bを指導監督して、運転訓練等を実施してD1に必要な運転技量を習得させるなどしてから本件スキーツアーバスの乗務5に就かせることは、株式会社Cに加え関連会社の代表取締役も務めるなどグループ企業を束ねていた被告人Aの強力な立場や、正規の運転者が20名弱という中小規模のバス事業部を被告人Bと一体となって統括管理する組織体制にあったことからして、バス事業に関する精通度合い等から被告人Bへの遠慮があったとしても、十分に可能であり、本件事故を未然に10防止できたといえる。以上からすると、被告人Aの過失は、相当に重く、D1と直接の関わりはなかったものの、被告人Bの杜撰な運行管理を改めるべき唯一の責任者であったことも踏まえると、結果に対する寄与度も大きいものであったというべきである。 この点、被告人Aは、バス事業は被告人Bに任せていたし、被告人Bに15対して改善を指示した事項もあるなどと述べる。しかし、そもそも、運行管理者等に対する指導監督を行って輸送の安全を確保することが代表取 被告人Aは、バス事業は被告人Bに任せていたし、被告人Bに15対して改善を指示した事項もあるなどと述べる。しかし、そもそも、運行管理者等に対する指導監督を行って輸送の安全を確保することが代表取締役である被告人Aの義務である。遅くとも本件一般監査後には運行管理者等としての職責を適切に果たしていないことが明らかとなっていた被告人Bについて、散発的な指示をするだけで後は漫然と運行管理業務を任20せることでは足りないし、現に運行管理業務が一向に改善されなかった以上、被告人Aの被告人Bに対する指示や指導は不十分であったと言わざるを得ず、被告人Aが事業者としての義務を果たしたとは到底評価できない。 被告人Aの輸送の安全の確保に対する意識の希薄さ、輸送の安全の確保の本来的責任者であるという自覚の欠如が、株式会社Cバス事業部の安全軽25視の組織体質を助長したものといえ、強い非難に値することは疑いない。 130 ⑶ なお、本件事故の直接的な原因は、本件バスを運転していたD1の運転ミスにある。既に検討したとおり、D1の大型バスの運転技量には問題があったのであり、そのことを自覚できていたはずのD1に、本件事故の責任があることは、間違いない。しかし、D1の運転技量不足だけで本件事故は発生せず、D1を大型バスの運転者として本件スキーツアーに従5事させたことが本件事故発生の起点となっており、出発後、ペアを組んだD2の指導下にあったとみられるD1に、自ら運転を中止したり、ルート変更を申し出たりすることを期待するのは甚だ困難であり、被告人両名からD2に対し、何らの運行指示もD1に関する注意もなされていなかったことなどからすると、これまで検討してきた被告人両名の責任が、D1の10責任によって大きく減じられるものとはいえない。 3 その上で、 対し、何らの運行指示もD1に関する注意もなされていなかったことなどからすると、これまで検討してきた被告人両名の責任が、D1の10責任によって大きく減じられるものとはいえない。 3 その上で、改めて本件事故の被害の大きさに目を向けると、本件事故で命を奪われた乗客13名は、いずれも19歳から22歳の大学生であり、将来の夢や目標を持って勉学や課外活動に励み、家族はもちろん、多くの友人や先輩後輩に愛され慕われながら、充実した学生生活を送っていた。 15中には、卒業と就職を目前に控えていた者もおり、まさに社会に羽ばたく直前の時期であった。そのような中で、大学のゼミやサークルの仲間、長年にわたる親友達と参加したスキーツアーにおいて、予想だにしない大事故に巻き込まれ、無限に広がる未来を一瞬にして閉ざされたのであって、その無念さは、察するに余りある。 20死亡した乗客の親らは、ある日突然、安全意識の欠如した会社が起こしたバス事故により、大切に育ててきた最愛の我が子を亡くし、我が子が社会で活躍し幸せな人生を送って欲しいという親としての切実な願いを奪われたのであって、「体の一部をもぎ取られたようだ」、「自分の命までも奪われたようだ」などと述べるその苦しみや悲しみ、絶望感は、計り知れ25ない。そうした親らの多くが、何の落ち度もない大切な我が子を本件事故131 で奪われたことについて、「殺された」と表現するなどして強い怒りを覚えているのも、我が子に先立たれた親の悲痛な叫びとして当然の心境と理解できる。かけがえのない存在であった家族を亡くした遺族の中には、これまでの幸せな日常を奪われ、「心の底から笑えなくなった」、「生きていく希望を失った」などと感じ、精神的ショックから体調を崩したり休職を5余儀なくされたりした者も多く、本件事故の 族の中には、これまでの幸せな日常を奪われ、「心の底から笑えなくなった」、「生きていく希望を失った」などと感じ、精神的ショックから体調を崩したり休職を5余儀なくされたりした者も多く、本件事故の影響により遺族の人生までもが大きく狂わされたのである。被害者参加した遺族らは、今もなお、亡くした家族との思い出に触れたり、同年代や背格好が似た人を見かけたりするたびに辛い気持ちになるなど、果てしない喪失感の中で苦しみ続けている心情を率直に法廷で吐露している。 10また、本件バスの交替運転手も本件事故で命を落としたのであって、その遺族も、株式会社Cが杜撰な運行管理をしていなければ、事故を防ぐことができたのではないかとの思いを抱いている。 さらに、一命を取り留めた被害者の多くも、骨折や臓器損傷等の重傷を負い、入院や多数回の手術、リハビリ等の長期治療を余儀なくされた上、15後遺症が残る者もいるなど、多大な肉体的及び精神的苦痛を受けたのである。そして、長期の休学や休職を余儀なくされた者も多く、時間的、経済的損失も大きいものであった。さらに、大切な友人の理不尽な死に突然直面し、自らが助かったことに自責の念を感じた者もおり、その苦しみは簡単に癒されるものではない。 204 一方、被告人両名についてみると、被告人Bは、自身が杜撰な運行管理業務を行っていたこと自体は認めているが、本件事故後の説明会に欠席したことや、本件事故に対する弁解内容、遺族や傷害を負った被害者らに対する謝罪の言葉等からは、その場しのぎで表面的に取り繕おうとする様子が見受けられ、自身の犯した刑事責任の重さを十分理解しているとはい25えない。 132 また、被告人Aは、日々亡くなった乗客の氏名を芳名帳に書いて祈り、会社として定期的に献花及び黙とうを行うなどして 自身の犯した刑事責任の重さを十分理解しているとはい えない。 また、被告人Aは、日々亡くなった乗客の氏名を芳名帳に書いて祈り、会社として定期的に献花及び黙とうを行うなどして本件事故を風化させないようにし、公判廷において、遺族や傷害を負った被害者らに対して謝罪の言葉を述べている一方で、バス事業は被告人Bに任せていたと強調し、株式会社Cのバス事業部の組織体制について知らぬ存ぜぬの供述を繰り 返すなど、自らが輸送の安全を確保すべき最終的な責任を負う立場にあったことへの認識が未だに不足しており、本件の刑事責任から目を背け十分に向き合っているとはいい難い。 5 そして、本件事故により亡くなった乗客の遺族やけがを負った被害者らの多くは、捜査段階において、筆舌に尽くしがたい苦痛や悲しみを受け たことに対する怒りや、再び悲惨な事故が起きないよう再発防止を切に願う気持ちから、被告人両名が事故を起こした責任を明らかにし、その重い責任に見合った厳重な処罰を望んでいた。また、我が子を失った現実を受け入れられず、処罰感情など考えられないという者もいた。そうした中で、被害者参加をした遺族らが、裁判で明らかになった株式会社Cの杜撰な運 行管理業務や、公判廷における被告人両名の責任逃れの供述等を目の当たりにして、更に峻烈な処罰感情を抱いたのも当然のことである。裁判所としても、このような遺族や被害者の心情については、量刑に当たり真摯に受け止めて判断すべきであると思料する。 また、本件事故によって観光バス業界に対する社会的信頼は大きく揺ら いだのであって、社会に与えた衝撃や不安も大きかった。 6 他方で、株式会社Cが、亡くなった15名(D1を含む)全員を含む36名の被害者に対し総額22億円以上の損害賠償を行い、残る5 く揺ら20いだのであって、社会に与えた衝撃や不安も大きかった。 6 他方で、株式会社Cが、亡くなった15名(D1を含む)全員を含む36名の被害者に対し総額22億円以上の損害賠償を行い、残る5名についても示談等を進めていること、被告人両名に本件当時前科がなかったことなどは、被告人両名の量刑上考慮すべき事情であるといえる。 257 以上の諸事情を考慮すると、本件における過失及び被害結果の重大さ133 に鑑みれば、被告人両名の刑事責任は重く、本件の責任が監督過失によるものであることや前記損害賠償等の事情を考慮しても、実刑に処すべき事案であると思料する。そして、被告人両名の過失は重いが、監督過失の内容等からして、禁錮刑を選択した上で、その刑期は、被告人両名の立場等から導かれる過失の重さ、内容及び非難の程度に加え、これまでに監督過5失による刑事責任が問われた事案の量刑等も考慮して、それぞれ主文のとおりとするのが相当と判断した。 (被告人両名につき 検察官の求刑 禁錮5年 被害者参加人の意見は懲役5年のものと禁錮5年のものがあった)令和5年6月16日10長野地方裁判所刑事部 裁判長裁判官 大 野 洋 15 裁判官 荒 井 智 也 20裁判官 横 山 真 優
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