主文 被告人両名をそれぞれ懲役2年6月に処する。 未決勾留日数中,被告人Aに対しては120日を,被告人Bに対しては60日を,それぞれその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人両名は,神戸市a区b町cd番地e所在の家屋(木造スレート葺2階建,床面積合計121.73平方メートル)に居住していたものであるが,同家屋等を競売により落札したCから,これを700万円で購入する旨契約したものの,その金策ができず,平成16年1月27日に同人に同家屋等を明け渡さなければならなくなっていたところ,かねてより確執のあった被告人Aの義姉に対し被告人Bにおいて同家屋玄関前にフェンスを再設置することを止めるよう要望したが拒絶されたことを契機に,生きていくことに絶望し,二人で焼身自殺をするために同家屋に放火しようと企て,共謀の上,同月11日午後8時20分ころ,同家屋1階仏間において,被告人Bが,丸めた新聞紙等に灯油約0.8リットルを散布するなどした上,被告人Aが,同間に設置してある仏壇内の院号法名掛軸にライターで点火して放火し,その火を柱及び天井等に燃え移らせ,よって,前記Cが所有し,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない同家屋を全焼させて焼損したものである。 (証拠の標目)―括弧内の甲,乙に続く数字は検察官請求証拠番号―省略(補足説明) 1 弁護人は,判示家屋(以下「本件家屋」という。)については,Cと被告人Bとの間の売買契約締結により,その所有権は被告人Bに移転していたのであり,また,被告人両名は,本件家屋に火災保険契約が締結されていたことを知らなかったから,本件において,被告人両名には,いずれも自己の所有する非現住建造物に対する放火罪(刑法109条2項) いたのであり,また,被告人両名は,本件家屋に火災保険契約が締結されていたことを知らなかったから,本件において,被告人両名には,いずれも自己の所有する非現住建造物に対する放火罪(刑法109条2項)が成立するにすぎない旨主張する。しかしながら,前掲関係各証拠によれば,弁護人主張の売買契約により本件家屋の所有権は被告人Bに移転していないと優に認められるから,判示のとおり,被告人両名には,他人の所有する非現住建造物に対する放火罪(同法109条1項)が成立するものと認められる。以下その理由につき補足して説明する。 2 関係各証拠によれば,本件家屋は,被告人Bが平成5年12月ころ新築した同人所有の建物であったが,被告人両名の共有であったその敷地とともに競売に付され,Cが297万円で落札して代金を納付し,平成15年9月24日その所有権を取得したこと,同年10月には,同女が,本件家屋について,D生活協同組合の火災保険(保障限度額2660万円)に加入したこと,被告人AがCと交渉した結果,本件家屋とその敷地を被告人BがCから代金700万円で買い戻すこととなり,同月16日にCと被告人Bの代理人被告人Aが公証役場に出向き,その旨の不動産売買契約公正証書を作成したこと,同証書においては,所有権移転時期についての定めは特にないが,代金の支払に関しては,頭金や中間金の定めはなく,平成16年1月27日に代金700万円を一括して支払うというものであり,その際,所有権移転登記手続を行う旨の定めであったこと,被告人両名は,代金支払期限までに金策できず,売買代金の700万円を支払うことができないことが確実となったことなどから,同月11日,本件家屋への放火行為に及んだことが認められる。 3 以上の事実によれば,被告人BとCとの間の本件家屋等の売買契約は,前記の代金支払期日まで ことができないことが確実となったことなどから,同月11日,本件家屋への放火行為に及んだことが認められる。 3 以上の事実によれば,被告人BとCとの間の本件家屋等の売買契約は,前記の代金支払期日までは本件家屋等の明渡しを猶予し,同期日までに代金が支払われた場合には,所有権を被告人Bに移転する趣旨で締結されたものと認めるのが相当であって,このことは,Cとの間で買主代理人として契約締結交渉に当たった被告人Aが,捜査段階においては,代金の支払によって所有権が被告人Bに移転する契約内容であると考えていた旨を自認していることからも明らかというべきである。 そして,本件放火時までに代金は一切支払われていなかったことは前認定のとおりであるから,当時,本件家屋の所有権は被告人Bには移転しておらず,Cがこれを所有していたものと認められる。弁護人の主張は理由がない。 (法令の適用)被告人両名の判示所為は,いずれも刑法60条,109条1項に該当するので,それぞれその所定刑期の範囲内で被告人両名をそれぞれ懲役2年6月に処し,同法21条を各適用して未決勾留日数中,被告人Aに対しては120日を,被告人Bに対しては60日をそれぞれその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を各適用して被告人両名に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人両名が共謀の上,本件家屋に放火してこれを全焼させたという非現住建造物等放火の事案であるところ,その動機は,被告人両名の供述によれば,居住していた本件家屋を競落人に明け渡さなければならなかったことなどから,生きていくことに絶望し,加えて,犯行当日,かねてよりいさかいの絶えなかった被告人Aの義姉から電話で判示のフェンスに関する要望を拒絶されたことを契機に,焼身自殺を企て,その約40分後に本件家屋 ら,生きていくことに絶望し,加えて,犯行当日,かねてよりいさかいの絶えなかった被告人Aの義姉から電話で判示のフェンスに関する要望を拒絶されたことを契機に,焼身自殺を企て,その約40分後に本件家屋に放火したというのであるが,自殺を企図するに至った経緯はともかくも,その手段として本件放火行為に及んだ点は,他人の生命,身体,財産の安全に対する配慮の欠けた自己中心的かつ短絡的な犯行といわざるを得ず,もとより,前記犯行の動機ないし犯行に至る経緯は本件犯行をいささかも正当化するものではない。犯行態様をみると,その詳細は必ずしも明らかではないが,木造家屋である本件家屋の1階仏間において,灯油を撒いた上,仏壇内の掛軸にライターで火を放ったもので,危険であり犯情は良くない。しかも,付近は農家等の点在する田園地区ではあるが,その東側は民家が隣接しており,幸いにして早期の発見と消火活動により延焼は免れたものの,被害がより拡大した可能性も否定できず,近隣住民に与えた恐怖感には軽視し難いものがあった。以上のとおり,被告人両名の刑事責任は相当に重いというべきである。 したがって,本件犯行は,前記の経過で被告人両名が自殺を企図して行った犯行であるところ,その間,被告人Aが極めて精神不安定な状態にあり,被告人Bがこれを支えてきた経過が認められること,本件家屋の所有者には相当額の火災保険金が支払われたものと考えられ,その財産的被害はさほどないと窺われること,被告人Bにはさしたる前科はなく,被告人Aには前科がないこと,被告人Aの心身の状況,被告人両名の反省の情その他弁護人が主張する諸事情を十分に考慮しても,本件は被告人両名ともにその刑の執行を猶予するのが相当な事案とは認められず,なお,刑期の点において,前記被告人両名のために斟酌すべき諸情状を十分に考慮した上,それぞ 張する諸事情を十分に考慮しても,本件は被告人両名ともにその刑の執行を猶予するのが相当な事案とは認められず,なお,刑期の点において,前記被告人両名のために斟酌すべき諸情状を十分に考慮した上,それぞれ,主文のとおり量定した次第である。 よって,主文のとおり判決する。 平成16年8月31日神戸地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官杉森研二裁判官小倉哲浩裁判官沖敦子
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