令和5(ネ)10107 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和7年4月16日 知的財産高等裁判所 3部 判決 控訴棄却 東京地方裁判所 令和2(ワ)8642
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判決文本文64,114 文字)

令和7年4月16日判決言渡 令和5年(ネ)第10107号損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和2年(ワ)第8642号) 口頭弁論終結日令和7年1月29日判決 控訴人アムジエン・インコーポレーテッド 同訴訟代理人弁護士大野聖二 同山口裕司 同多田宏文 同盛田真智子 同補佐人弁理士森田裕 同大栗由美 被控訴人サノフィ株式会社 同訴訟代理人弁護士三村量一 同東崎賢治 同中島慧 同安部智貴 同訴訟代理人弁理士南条雅裕 同補佐人弁理士瀬田あや子 同伊波興一朗 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 事実 及び理由 以下、略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。また、原判決中の「原告」、「被告」はそれぞれ「控訴人」、「被控訴人」に読み替える。 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、10億円及びこれに対する令和2年6月23日から支払済みまで 被告」はそれぞれ「控訴人」、「被控訴人」に読み替える。 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、10億円及びこれに対する令和2年6月23日 から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、いずれも発明の名称を「プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質」とする特許第5705288号の特許(「本件特許1」)及び特許第5906333号の特許 (「本件特許2」。本件特許1と併せて「本件特許」)に係る特許権(「本件特許権」)を有する控訴人(一審原告)が、被控訴人(一審被告)の販売等に係る原判決別紙1物件目録記載の製品(「プラルエント®(英語名:Praluent®)」。「被控訴人製品」)は本件特許に係る発明の技術的範囲に属するから、その販売等は本件特許権をいずれも侵害する行為であると主張して、被控訴人に対し、不法 行為に基づく損害賠償請求として、損害の一部である10億円及びこれに対する令和2年6月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である(令和2年3月31日訴え提起)。 原判決(令和5年9月28日判決言渡)は、①「15個のPCSK9のコア 残基の大部分を認識する結合中和抗体」を意味するものと解される「EGFaミミック抗体」は、本件特許の発明に含まれるが、本件特許の明細書には、EGFaミミック抗体及びその具体的な作製方法が記載されておらず、当業者において、本件特許の明細書の記載及び本件特許出願当時の技術常識によっては、これを作製できないから、本件特許は、サポート要件及び実施可能要件に違反 し、 的な作製方法が記載されておらず、当業者において、本件特許の明細書の記載及び本件特許出願当時の技術常識によっては、これを作製できないから、本件特許は、サポート要件及び実施可能要件に違反 し、特許無効審判により無効にされるべきものであって(特許法123条1項 4号)、控訴人は、被控訴人に対し、本件特許権を行使することができない、②控訴人が訂正の再抗弁において主張する訂正によっては、上記①のサポート要件違反及び実施可能要件違反の無効理由は解消しないから、訂正の再抗弁は成り立たないとして、控訴人は、被控訴人に対し、本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないと判断し、控訴人の請求を棄却した。控訴人 が、原判決を不服として控訴した。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記した証拠(枝番の記載を省略したものは枝番を含む。以下同じ。)又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者控訴人は、医薬品等の製造、販売及び輸出等を業とし、米国法に準拠して 設立された法人である。 被控訴人は、医薬品等の製造、販売、輸入等を業とする株式会社である。 ⑵ 本件特許権控訴人は、以下の特許(本件特許)に係る特許権(本件特許権)を有する。 ア本件特許1 特許番号特許第5705288号登録日平成27年3月6日出願番号特願2013-195240号出願日平成25年9月20日(特願2010-522084号の分割)原出願日平成20年8月22日 優先日平成19年8月23日、同年12月21日、平成20年1月9日、同年8月4日(各日を併せて「本件優先日」)発明の名称プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質イ本件 2月21日、平成20年1月9日、同年8月4日(各日を併せて「本件優先日」)発明の名称プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質イ本件特許2 特許番号特許第5906333号 登録日平成28年3月25日出願番号特願2015-33054号出願日平成27年2月23日(特願2013-195240号の分割)原出願日平成20年8月22日優先日本件優先日 発明の名称プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質ウ本件明細書本件特許1に係る願書添付の明細書及び図面(併せて「本件明細書1」)及び本件特許2に係る願書添付の明細書及び図面(併せて「本件明細書2」。 本件明細書1及び2を併せて「本件明細書」。段落番号は、本件明細書1及び2において同一である。)には、原判決別紙2及び本判決別紙1のとおりの記載がある(甲2、4)。 ⑶ 第一次各無効審判及び本件訂正ア被控訴人の親会社であるフランス法人サノフィ社は、本件特許それぞれ について特許無効審判(本件特許1につき無効2016-800004号、本件特許2につき無効2016-800066号。以下、これらを併せて「第一次各無効審判」という。)を請求した。 控訴人は、第一次各無効審判請求事件において、いずれも平成29年5月8日付け訂正請求書(甲11)により、本件特許に係る特許請求の範囲 の訂正を請求した(「本件訂正」)。本件訂正後の本件特許1及び本件特許2の特許請求の範囲は、それぞれ、以下のとおりである(本件訂正により、本件特許1の請求項2ないし請求項8は削除され、本件特許2の請求項2ないし請求項4も削除された。 件訂正後の本件特許1及び本件特許2の特許請求の範囲は、それぞれ、以下のとおりである(本件訂正により、本件特許1の請求項2ないし請求項8は削除され、本件特許2の請求項2ないし請求項4も削除された。)。 (ア) 本件特許1 【請求項1】 PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和すること ができ、PCSK9との結合に関して、配列番号49のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号23のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する、単離されたモノクローナル抗体。 (「配列番号49のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配 列番号23のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」は「21B12抗体」)【請求項9】 請求項1に記載の単離されたモノクローナル抗体を含む、医薬組成物。 (請求項9に記載の発明は「本件発明1」)。 (イ) 本件特許2【請求項1】 PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、PCSK9との結合に関して、配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する、単離されたモノク ローナル抗体。 (「配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」は「31H4抗体」。「21B12抗体」と「31H4抗体」を併せて「参照抗体」) 【請求項5】 請求項1に記載の単離されたモノクローナル抗体を含む、医薬組成物。 (請求項5に記載の発明は「本件発明2」。本件発明1及び2を併せて「本件発明」)。 イ特許庁は、平成29年8月2日、第一次各無効審判請 に記載の単離されたモノクローナル抗体を含む、医薬組成物。 (請求項5に記載の発明は「本件発明2」。本件発明1及び2を併せて「本件発明」)。 イ特許庁は、平成29年8月2日、第一次各無効審判請求事件につき、い ずれも本件訂正を認めた上で、本件特許1に関しては「請求項1、9に係 る発明についての審判請求は成り立たない。」などとする審決を(無効2016-800004号)、本件特許2に関しては「請求項1、5に係る発明についての審判請求は成り立たない。」などとする審決を(無効2016-800066号)、それぞれ行った(甲12)。 ⑷ 第1回各審決取消訴訟 サノフィ社は、第一次各無効審判請求事件の各審決につき、それぞれ、審判請求は成り立たないとした部分の取消しを求める訴訟(本件特許1につき、知的財産高等裁判所(以下「知財高裁」という。)平成29年(行ケ)第10225号審決取消請求事件。本件特許2につき、同第10226号審決取消請求事件。以下、これらを併せて「第1回各審決取消訴訟」という。原判決 でいう「別件審決取消訴訟」)を提起したが、知財高裁は、各事件について、平成30年10月10日、口頭弁論を終結し、同年12月27日、サノフィ社の請求を棄却する判決を言い渡した(甲13)。 サノフィ社は、同判決を不服として上告受理申立てをしたが、最高裁判所(以下「最高裁」という。)は、令和2年4月24日、上告不受理決定をし、 同判決は確定した(甲17)。 ⑸ 構成要件の分説本件発明を構成要件に分説すると、以下のとおりである。 ア本件発明1(前記⑶ア(ア)【請求項9】)APCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、 BPCSK9との結合に関して、21B12抗体と競合する、C 単離された ア本件発明1(前記⑶ア(ア)【請求項9】)APCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、 BPCSK9との結合に関して、21B12抗体と競合する、C 単離されたモノクローナル抗体D を含む、医薬組成物。 イ本件発明2(前記⑶ア(イ) 【請求項5】)APCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、 B’ PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する、 C 単離されたモノクローナル抗体D を含む、医薬組成物。 ⑹ 被控訴人製品ア製造販売承認の取得等被控訴人は、被控訴人製品について、平成28年7月4日付けで厚生労 働大臣から医薬品製造販売承認を得、同年8月31日付けで薬価基準収載された被控訴人製品を、遅くとも同年9月5日より輸入し、販売し、販売の申出をした(ただし、被控訴人による被控訴人製品の製造の有無及び現在までの輸入、販売、販売の申出の継続の有無については当事者間に争いがある。)。 イ構成被控訴人製品の構成は、以下のとおりである(被控訴人製品に含まれる抗体は「アリロクマブ」又は「316P抗体」という。)。 APCSK9とLDLRタンパク質の結合を阻害し、BPCSK9との結合に関して、21B12抗体と競合し、 B’ PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する、C 単離されたモノクローナル抗体D を含む、医薬組成物。 ⑺ 差止訴訟控訴人は、平成29年に、被控訴人に対し、本件特許権に基づき被控訴人 製品の譲渡等の差止め等を求める訴訟(東京地方裁判所(以下「東京地裁」という。)平成29年(ワ)第16468号特許権侵害差止請求事件。以下「差止訴訟」という。原判決でいう「前訴」)を提起した。これにつ 品の譲渡等の差止め等を求める訴訟(東京地方裁判所(以下「東京地裁」という。)平成29年(ワ)第16468号特許権侵害差止請求事件。以下「差止訴訟」という。原判決でいう「前訴」)を提起した。これについて、東京地裁は、平成31年1月17日、被控訴人に対し、被控訴人製品の譲渡等の差止め等を命じる判決を言い渡した(甲14)。 これに対して被控訴人が控訴したところ(知財高裁平成31年(ネ)第1 0014号特許権侵害差止請求控訴事件)、知財高裁は、令和元年7月3日に控訴審の口頭弁論を終結し、同年10月30日、被控訴人の控訴を棄却する判決を言い渡した(甲15)。 これに対する被控訴人の上告受理申立事件につき、令和2年4月24日、最高裁が上告不受理決定をした(甲16)ことにより、東京地裁の上記判決 は確定した。 ⑻ 第二次各無効審判及び第2回各審決取消訴訟リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド(以下「リジェネロン」という。)は、令和2年2月12日、本件特許について特許無効審判(本件特許1につき無効2020-800011号、本件特許2に つき無効2020-800012号。以下、これらを併せて「第二次各無効審判」という。)を請求した。特許庁は、令和3年4月7日、第二次各無効審判請求事件につき、いずれも無効審判請求は成り立たない旨の審決をした(甲22)。 これに対し、リジェネロンは、令和3年8月13日、上記各審決の取消し を求める訴訟(本件特許1につき、知財高裁令和3年(行ケ)第10093号審決取消請求事件。本件特許2につき、同第10094号審決取消請求事件。以下、これらを併せて「第2回各審決取消訴訟」という。)を提起した。 第2回各審決取消訴訟について、知財高裁は、令和4年11月7日、口頭弁輪を 件。本件特許2につき、同第10094号審決取消請求事件。以下、これらを併せて「第2回各審決取消訴訟」という。)を提起した。 第2回各審決取消訴訟について、知財高裁は、令和4年11月7日、口頭弁輪を終結し、令和5年1月26日、本件特許の特許請求の範囲の記載はいず れもサポート要件に適合するものとは認められないとして、上記各審決をそれぞれ取り消す旨の判決を言い渡した(乙51の1・2)。 控訴人は、これらの判決に対して上告及び上告受理申立てをしたが、最高裁において、令和5年9月14日、上告棄却及び上告不受理決定がされ(乙65の1・2)、上記判決は確定し、第二次各無効審判に係る審判手続が再開 した。 控訴人は、再開した第二次各無効審判手続において、令和5年10月23日付けで、本件特許1及び2の特許請求の範囲、本件明細書に関し、本件訴訟で主張する訂正の再抗弁における訂正の内容と同内容の訂正請求(本件訴訟で主張する訂正の再抗弁における訂正及びこの訂正請求に係る訂正は「本件再訂正」)をした(甲66)。 再開した第二次各無効審判手続について、特許庁の審決は出されていない。 ⑼ 本件再訂正ア本件再訂正の内容は、次のとおりである。 (ア) 本件特許1についてa 特許請求の範囲の記載 各請求項に下線部を追加し、請求項9を独立項とする。 【請求項1】PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、PCSK9との結合に関して、配列番号49のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号23のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む参照抗体と競合する、単離さ れたモノクローナル抗体。 (本件再訂正後の本件特許1の請求項1に記載された発明は「本件再訂正発明1-1」)【請求項9】 らなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む参照抗体と競合する、単離さ れたモノクローナル抗体。 (本件再訂正後の本件特許1の請求項1に記載された発明は「本件再訂正発明1-1」)【請求項9】PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、PCSK9との結合に関して、配列番号49のアミノ酸配列 からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号23のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む参照抗体と競合する、単離されたモノクローナル抗体であって、前記モノクローナル抗体のFab断片がPCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、かつ、前記モノクローナル抗 体のFab断片が、PCSK9との結合に関して、上記参照抗体のF ab断片と競合することができる、単離されたモノクローナル抗体を含む、医薬組成物。 (本件再訂正後の本件特許1の請求項9に記載された発明は「本件再訂正発明1-2」。「本件再訂正発明1-1」と「本件再訂正発明1-2」を併せて「本件再訂正発明1」) b 本件明細書1の記載(a) 本件明細書1の段落【0138】について、以下のとおり、取消線部分を削除し、本件再訂正後の本件特許1の請求項1及び請求項9記載の発明の「中和」の意義を限定する。 「『中和抗原結合タンパク質』又は『中和抗体』という用語は、リガ ンドに結合し、そのリガンドの生物学的効果を妨げ、又は低下させる、それぞれ、抗原結合タンパク質又は抗体を表す。これは、例えば、リガンド上の結合部位を直接封鎖することによって、又はリガンドに結合し、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー的変化など)を通じて、リガンドの結合能を変化させることによっ て行うことができる。」(b) 本件明細書1の段落【0 、又はリガンドに結合し、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー的変化など)を通じて、リガンドの結合能を変化させることによっ て行うことができる。」(b) 本件明細書1の段落【0140】について、以下のとおり、取消線部分を削除し、本件再訂正後の本件特許1の請求項1及び請求項9記載の発明の「競合」の意義を限定する。 「通常、検査抗原結合タンパク質は過剰に存在する。競合アッセイ によって同定される抗原結合タンパク質(競合抗原結合タンパク質)には、基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質及び立体的妨害が生じるのに、基準抗原結合タンパク質によって結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質が含まれる。競合結合を測定する ための方法に関するさらなる詳細は、本明細書中の実施例に提供さ れている。通常、競合抗原結合タンパク質が過剰に存在する場合には、少なくとも40から45%、45から50%、50から55%、55から60%、60から65%、65から70%、70から75%又は75%又はそれ以上、共通の抗原への基準抗原結合タンパク質の特異的結合を阻害する(例えば、低下させる)。」 (イ) 本件特許2についてa 特許請求の範囲の記載各請求項に下線部を追加し、請求項5を独立項とする。 【請求項1】PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、PCSK9との結合に関して、配列番号67のアミノ酸配列 からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む参照抗体と競合する、単離されたモノクローナル抗体であって、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するPCSK9の374位のアスパラギン酸(D 号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む参照抗体と競合する、単離されたモノクローナル抗体であって、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するPCSK9の374位のアスパラギン酸(D)がチロシン(Y)に置換した変異体(PCSK9のD374Y変異体)とLDLRタン パク質との結合を中和することができ、かつ、前記モノクローナル抗体のFab断片が、PCSK9との結合に関して、前記参照抗体のFab断片と競合することができる、抗体。 (本件再訂正後の本件特許2の請求項1に記載された発明は「本件再訂正発明2-1」) 【請求項5】PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、PCSK9との結合に関して、配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む参照抗体と競合する、単離されたモノクローナル抗体であって、競合の程度が80%以上であり、 かつ、前記モノクローナル抗体のFab断片がPCSK9とLDLR タンパク質の結合を中和することができる、単離されたモノクローナル抗体を含む、医薬組成物。 (本件再訂正後の本件特許2の請求項5に記載された発明は「本件再訂正発明2-2」。「本件再訂正発明2-1」と「本件再訂正発明2-2」を併せて「本件再訂正発明2」。以下、「本件再訂正発明1」と「本 件再訂正発明2」を併せて「本件再訂正発明」という。)b 本件明細書2の記載(a) 本件明細書2の段落【0138】について、前記(ア)b(a)と同一の部分を削除し、本件再訂正後の本件特許2の請求項1記載及び請求項5記載の発明の「中和」の意義を限定する。 (b) 本件明細書2の段落【0140】について、前記(ア)b(b)と同一 )と同一の部分を削除し、本件再訂正後の本件特許2の請求項1記載及び請求項5記載の発明の「中和」の意義を限定する。 (b) 本件明細書2の段落【0140】について、前記(ア)b(b)と同一の部分を削除し、本件再訂正後の本件特許2の請求項1及び請求項5記載の発明の「競合」の意義を限定する。 イ本件再訂正の適否に関する当事者の主張の前提として、本件再訂正に含まれる訂正事項を列挙すると、次のとおりである。 (ア) 本件明細書の段落【0140】について、前記ア(ア)b(b)、(イ)b(b)のとおりの記載の削除をすること(以下「訂正事項1」という。)(イ) 本件明細書の段落【0138】について、前記ア(ア)b(a)、(イ)b(a)のとおりの記載の削除をすること(以下「訂正事項2」という。)(ウ) 本件特許1の請求項9に係る発明(本件発明1)及び本件特許2の請 求項5に係る発明(本件発明2)について、「中和」の要件に関し、「前記モノクローナル抗体のFab断片がPCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができる」との発明特定事項を追加すること(以下「訂正事項3」という。)(エ) 本件発明1及び本件特許2の特許請求の範囲の請求項1に係る発明 について、「競合」の要件に関し、「前記モノクローナル抗体のFab断 片が、PCSK9との結合に関して、上記参照抗体のFab断片と競合することができる」との発明特定事項を追加すること(以下「訂正事項4」という。)(オ) 本件特許2の特許請求の範囲の請求項1に係る発明について、「中和」の要件に関し、D374Y変異体PCSK9とLDLRタンパク質との 結合を中和することができるとの発明特定事項を追加すること(カ) 本件発明2について、「競合」の要件に関し について、「中和」の要件に関し、D374Y変異体PCSK9とLDLRタンパク質との 結合を中和することができるとの発明特定事項を追加すること(カ) 本件発明2について、「競合」の要件に関し、「競合の程度が80%以上」であるとの発明特定事項を追加すること(キ) 本件特許に係る発明について、参照されている抗体について、「参照抗体である」との発明特定事項を追加すること (ク) 本件特許1の特許請求の範囲の請求項9及び本件特許2の特許請求の範囲の請求項5を、それぞれ独立の請求項とすること⑽ 本件特許に係る発明の発明者の一人が送信したメール及び控訴人が作成したプレゼンテーション資料乙4の1、2によれば、本件特許に係る発明の発明者の一人が送信したメ ール及び控訴人が作成したプレゼンテーション資料について、次の事実が認められる。 本件特許に係る発明の発明者の一人は、本件特許の優先日から約5年後、出願日から約4年後の2012年(平成24年)の電子メール(「本件メール」)に、「我々は、現在、EGFaミミック抗体を取得できていない、しかし、フ ァイザーは有しているから、それは可能なはずである〔(RN316)〕…EGFaミミック抗体は、我々が現在有する抗体の二つの一部重複するエピトープのちょうど中間に位置することから、EGFaミミック抗体を見つけることは一筋縄ではいかないだろう。」と記載していた。 また、控訴人が2012年(平成24年)に作成した資料には、別紙2記 載の「ConceptualEpitopeSpace(概念的なエピトープスペース)」と題する 図(「本件プレゼンテーション資料」)が含まれていた。これには、21B12抗体及び31H4抗体を示す各楕円形の中間に「MissingEpitope… (概念的なエピトープスペース)」と題する 図(「本件プレゼンテーション資料」)が含まれていた。これには、21B12抗体及び31H4抗体を示す各楕円形の中間に「MissingEpitope…」(見つからないエピトープ)との記載があった。 3 争点争点は、次のとおり補正するほか、原判決第2の3(原判決7頁15行目か ら26行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 原判決7頁25行目を次のとおり改める。 「カ被控訴人によるサポート要件違反及び実施可能要件違反の主張が許されないものであるか否か(争点2-6)」 4 争点に関する当事者の主張 争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記5のとおり控訴人の補充主張を付加し、後記6のとおり被控訴人の補充主張を付加するほかは、原判決第2の4(原判決8頁1行目から45頁18行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決42頁12行目の「本件出願日」を「本件特許の出願日(以下「本 件出願日」という。)に改める。 ⑵ 原判決43頁24行目を次のとおり改める。 「⑻ 被控訴人によるサポート要件違反及び実施可能要件違反の主張が許されないものであるか否か(争点2-6)について」⑶ 原判決44頁4行目、12行目、20行目、44頁26行目から45頁1 行目にかけての「別件審決取消訴訟」を「第1回各審決取消訴訟」と読み替える。 ⑷ 原判決8頁20行目、44頁7行目、23行目、45頁1行目の「前訴」を「差止訴訟」と読み替える。 5 控訴人の補充主張 ⑴ 争点2-1-1(サポート要件違反の有無)及び争点2-2(実施可能要 件違反)のうち、「EGFaミミック」に関する点についてア原判決及び被控訴人がいう「EGFaミミ 補充主張 ⑴ 争点2-1-1(サポート要件違反の有無)及び争点2-2(実施可能要 件違反)のうち、「EGFaミミック」に関する点についてア原判決及び被控訴人がいう「EGFaミミック」は、本件明細書に開示の15個のコア残基の内の「大部分」を認識するとの特殊なパラメータを課した抗体であるが、本件特許に係る発明は、「中和」と「競合」により規定した発明であり、認識するコア残基の数など規定していない。この点は、 本件再訂正発明も同様である。したがって、本件明細書において、コア残基を15個中、例えば13個以上認識する具体的な抗体が記載されていないとしても、そのことをもってサポート要件及び実施可能要件を満たさなくなるものではない。 しかも、本件において、15個のコア残基の内のいくつを認識するかと いう点は、本件特許に係る発明の課題の解決において、技術的意義を有するものではない。むしろ、認識アミノ酸数の増加が発明の効果と逆相関することさえ示唆されており(甲69)、上記の点は、技術的意義を有しないパラメータである。 また、原判決は、認識するコア残基の数という技術的意義を有しないパ ラメータの中で、さらに、技術的意義を有しない恣意的な個数の境界を設け、それを満たすものを「EGFaミミック」として殊更に取り上げ、それが記載されていないから、本件発明及び本件再訂正発明は記載要件に反するとしているが、このような恣意的な個数の境界を設ける根拠はない。 イコア残基の大半を認識するという「EGFaミミック」の定義は、被控 訴人による独自のパラメータにすぎず、技術常識に沿うものでない。 (ア) EGFaをミミックするという表現が用いられたのは、メルク社が開発した「1D05」と呼ばれる抗体に対してであるが、ここでは、当業 人による独自のパラメータにすぎず、技術常識に沿うものでない。 (ア) EGFaをミミックするという表現が用いられたのは、メルク社が開発した「1D05」と呼ばれる抗体に対してであるが、ここでは、当業者は、「EGFaミミック」という用語を、単に構造的な模倣を意味するものとして用いているにすぎない。すなわち、当業者は、「EGFaミミ ック」の用語を、EGFaドメインを「構造的にミミック(模倣)する」 という意味で用いている(甲55)。 (イ) 「EGFaミミック」という語や概念は、本件優先日当時、当業者に知られたものではなかった。 また、甲70の論文では、コア残基の15個中9個を認識する短鎖ペプチドである「PeP2-8」が「EGFaミミック」と呼ばれている。 そうすると、被控訴人が主張し、原判決が採用した、15個のコア残基の大部分を認識しなければならないという定義は、当業者に受け入れられていたものでなく、被控訴人により、訴訟のために極めて限定的に設定されたものである。 原判決は、本件明細書に開示されている、コア残基を15個中8個認 識する「1A12抗体」は、EGFaミミック抗体といえないと判断したが、コア残基を9個認識するものが当業者にとってEGFaミミックであるのに対し、コア残基を8個認識するものがEGFaミミックに該当しないとする根拠はない。 (ウ) 被控訴人がEGFaミミックであると主張する、被控訴人製品の抗体 であるアリロクマブ(316P抗体)、並びに原判決が採用した定義によればEGFaミミックに該当する1D05抗体及びAX132について、本件明細書で開示され、本件特許に係る発明における参照抗体である21B12抗体及び31H4抗体と対比すると、PCSK9の作用(LDLの細胞への取り込み抑制作用) 1D05抗体及びAX132について、本件明細書で開示され、本件特許に係る発明における参照抗体である21B12抗体及び31H4抗体と対比すると、PCSK9の作用(LDLの細胞への取り込み抑制作用)を50%阻害する抗体の濃度 (IC50。低い濃度で50%阻害する方が抗体の作用が強いことを意味するので、IC50は値が小さいほど優れている。)において、EGFaミミックに該当する上記各抗体は、参照抗体である21B12抗体及び31H4抗体より大きな値を示しており、抗体としての作用が劣っている。 したがって、コア残基の大部分を認識することや、より多くのコア残基 を認識することに、本件特許に係る発明の課題との関係で、技術的意義 は認められない。このように技術的意義を有しない恣意的なパラメータを設定し、これに殊更に着目した上で、それを満たすものが記載されていないから記載要件に違反するとの判断手法は誤りである。 ウサポート要件及び実施可能要件は、基礎出願の出願時において、基礎出願の明細書の内容及び基礎出願時の技術常識に基づいて判断されるもの であり、判断基準時の後に生じた他人の発明や、判断基準時の後に確立された技術常識を考慮して判断されるものではない。 本件特許に係る発明については、判断基準時である出願時において、「EGFaミミック」という特定の抗体を取得するという課題自体が存在しないし、そのような抗体の取得の困難性を当業者が認識し得たともいえない。 このような、当業者が認識し得ない課題が解決されているかどうかは、本件特許に係る発明のサポート要件と関係がない。 エ本件メール及び本件プレゼンテーション資料は、記載要件において考慮されるべき特許明細書でも技術常識でもなく、記載要件の判断においてこれに依拠することは誤りであ 発明のサポート要件と関係がない。 エ本件メール及び本件プレゼンテーション資料は、記載要件において考慮されるべき特許明細書でも技術常識でもなく、記載要件の判断においてこれに依拠することは誤りである。 しかも、原判決は、本件メール及び本件プレゼンテーション資料の評価を誤っている。 本件メールについて、EGFaミミック抗体が取得困難な抗体であったと原判決が認定した点は、本件メールは、J16抗体がファイザー社により取得できていることから、EGFaミミック抗体を取得することが可能 なはずであるという技術的見解を述べるものであって、取得可能であることを前提とした、相対的な取得容易性を論じたものにすぎない。また、EGFaミミック抗体に該当する抗体が複数取得されていたというのが、本件メールが送信された2012年(平成24年)当時の技術水準であり、本件メールに用いられた「tricky」の語は、上記の状況を前提に、「手際を 要する」、「油断ならない」と述べたものにすぎず、「困難である」の意味で 捉えることは妥当でない。 本件プレゼンテーション資料は、被控訴人によって、資料の一部が都合よく切り取られたものにすぎず、これに基づいて「MissingEpitope」に結合する抗体が本件明細書に開示されていないとの結論を導くことは誤りである。 オ仮に、被控訴人の定義による「EGFaミミック」を取得できるように本件明細書が発明を開示していたか否かが問題になるとしても、本件明細書の記載及び技術常識に基づいて、当業者は、本件優先日当時、「EGFaミミック」を取得し得たと理解することができる。 動物を用いた抗体の作製では、運任せの要素が含まれること自体が技術 常識であるから(甲69)、運に支配されることを理由に、特定の 時、「EGFaミミック」を取得し得たと理解することができる。 動物を用いた抗体の作製では、運任せの要素が含まれること自体が技術 常識であるから(甲69)、運に支配されることを理由に、特定の位置に結合する抗体を作製する方法が出願時の技術常識であったことが認められないとして、EGFaミミック抗体の取得には当業者の期待を超える程度の過度の試行錯誤を要すると認定するのは誤りである。PCSK9を注射された動物の体内でランダムに産生された抗体には、一定の確率で再現性 をもってEGFaミミック抗体が含まれる以上、本件明細書に基づいて産生された抗体をスクリーニングすることにより、EGFaミミックが取得されることは当然である。 また、被控訴人が提出した乙43(A教授の第2鑑定書)は、EGFaミミックを産生するために「競合他社が適用したのは、これらの標準的な 方法や技術の、それぞれなりのやり方である。」と述べており、これによれば、EGFaミミックは、標準的な方法や技術で動物の体内で産生されることになり、316P抗体や、ファイザー社のJ16抗体は、当業者にとっての技術常識により、動物体内で産生されたものである。1D05抗体は、本件優先日当時に抗体産生に最も広く用いられていたファージディス プレイライブラリを用いて産生させ、取得されたものである(甲27、6 9)。本件明細書には、ファージディスプレイライブラリを用いてヒト抗体を得ることができると記載されており、当業者であれば、適宜このライブラリを用いて、得られた抗体群からEGFaミミック抗体を得ることができた。 このように、当業者が本件明細書の開示及び技術常識に基づいてEGF aミミック抗体を取得できた以上、EGFaミミック自体が本件明細書に記載されている必要はない ミック抗体を得ることができた。 このように、当業者が本件明細書の開示及び技術常識に基づいてEGF aミミック抗体を取得できた以上、EGFaミミック自体が本件明細書に記載されている必要はない。 ⑵ 争点2-1-1(サポート要件違反の有無)及び2-2(実施可能要件違反)のうち、「EGFaミミック」以外の事項に関する点についてア本件特許に係る発明(本件再訂正前)について 本件特許に係る発明(本件再訂正前)及び本件再訂正発明はいずれも、構成要件として、(構成i)PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができるという構成と、(構成ii)PCSK9との結合に関して参照抗体と競合するという構成を規定する。 PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができるとい う構成要件(構成i)を満たす抗体は、本件明細書の実施例3に記載されているように、PCSK9に結合する抗体を選別し(段落【0326】~【0328】参照)、その後、実施例3及び11に記載されているように、PCSK9とLDLRとの結合を遮断する抗体を選別すること(段落【0332】~【0334】、及び段落【0377】~【0379】参照)によ り取得することができる。このように、(構成i)は、参照抗体との競合を確認しなくても、別の方法で達成することができる構成である。 (構成ii)は、参照抗体と競合するという構成であるが、この構成を満たす抗体は、本件明細書の実施例10に記載されるように、参照抗体(本件特許1では、21B12抗体であり、本件特許2では31H4抗体であ る。)を用いた競合ELISAの手法により取得することができる。 このように、(構成i)を満たす抗体と(構成ii)を満たす抗体とは、異なる方法で取得することができるから、( 抗体であ る。)を用いた競合ELISAの手法により取得することができる。 このように、(構成i)を満たす抗体と(構成ii)を満たす抗体とは、異なる方法で取得することができるから、(構成i)と(構成ii)は、製造プロセス上、独立した構成要件として取り扱うことができる。そして、本件特許に係る発明(本件再訂正前)は、(構成i)と(構成ii)の両方を満たす抗体であるから、(構成i)を満たす抗体群から(構成ii)を満 たす抗体群を取得すること、又は(構成ii)を満たす抗体群から(構成i)を満たす抗体群を取得することにより、本件特許に係る発明(本件再訂正前)の抗体が得られるのであって、(構成ii)を満たす抗体が(構成i)を満たす必要はない。本件明細書の実施例では、(構成i)を満たす抗体群から(構成ii)を満たす抗体群が取得されている。 (構成i)及び(構成ii)を満たす抗体が、PCSK9とLDLRとの相互作用を中和し、対象中のコレステロールレベルを低下させることを、当業者は本件明細書及び本件優先日当時の技術常識に基づいて理解することができるから、本件特許に係る発明(本件再訂正前)は、サポート要件を満たす。 また、当業者は、本件明細書及び技術常識に基づいて、(構成i)及び(構成ii)を満たす抗体を適宜取得できたから、本件特許1及び2は、実施可能要件を充足する。 イ本件再訂正発明1及び2について(ア) 本件再訂正発明1-1(前記第2の2⑼ア(ア)a【請求項1】)は、前 記アの(構成i)及び(構成ii)を備えており、前記アと同様、サポート要件及び実施可能要件を満たす。 (イ) 本件再訂正発明1-2(前記第2の2⑼ア(ア)a【請求項9】)は、(構成i)及び(構成ii)に加えて、「前記モノクローナル抗体 ており、前記アと同様、サポート要件及び実施可能要件を満たす。 (イ) 本件再訂正発明1-2(前記第2の2⑼ア(ア)a【請求項9】)は、(構成i)及び(構成ii)に加えて、「前記モノクローナル抗体のFab断片がPCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」る との構成(構成iii)と、「前記モノクローナル抗体のFab断片が、 PCSK9との結合に関して、上記参照抗体のFab断片と競合することができる」との構成(構成iv)を備えるものである。 本件明細書の図20Aには、PCSK9の触媒ドメインに31H4のFab断片及び21B12抗体のFab断片が結合し、これらのFab断片の結合により、LDLRのEGFaドメインがPCSK9の触媒ド メインに結合できなくなる様子が示されている。このように、上記の二つのFab断片が、PCSK9とLDLRのEGFaドメインの相互作用を遮断するメカニズムが本件明細書の図20Aに示されており、本件明細書によれば、Fab断片が、PCSK9とLDLRのEGFaドメインの相互作用を中和することを理解できる。また、中和アッセイの方 式についても詳述されており、当業者であれば、本件明細書の記載と本件優先日当時の技術常識を考慮して、(構成iii)を備えた抗体を得ることができる。 また、本件明細書によれば、31H4抗体のFab断片及び21B12抗体のFab断片と、そのFab断片が競合する抗体を取得すること もでき、競合アッセイの方式についても詳述されているから、当業者であれば、本件明細書の記載と本件優先日当時の技術常識を考慮して、(構成iv)を備えた抗体を得ることができる。 そして、(構成iii)及び(構成iv)を備える場合でも、上記から、対象中の血中コレステロールレベルを低下さ 記載と本件優先日当時の技術常識を考慮して、(構成iv)を備えた抗体を得ることができる。 そして、(構成iii)及び(構成iv)を備える場合でも、上記から、対象中の血中コレステロールレベルを低下させる方法及び同方法に適す る抗体を提供できると理解できるのであり、これを取得することもできるから、このような構成を有する抗体を規定した本件再訂正発明1-2は実施可能要件及びサポート要件を満たす。 (ウ) 本件再訂正発明2-1(前記第2の2⑼ア(イ)a【請求項1】)は、上記(構成i)及び(構成ii)に加えて、「配列番号3に記載のアミノ酸 配列を有するPCSK9の374位のアスパラギン酸(D)がチロシン (Y)に置換した変異体(PCSK9のD374Y変異体)とLDLRタンパク質との結合を中和することができ」るとの構成(構成v)、及び「前記モノクローナル抗体のFab断片が、PCSK9との結合に関して、前記参照抗体のFab断片と競合することができる」との構成(構成vi)を備えるものである。 「配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するPCSK9の374位のアスパラギン酸(D)がチロシン(Y)に置換した変異体(PCSK9のD374Y変異体)とLDLRタンパク質との結合を中和することができ」る抗体は、本件明細書の記載、特に実施例3についての開示に基づいて取得することができる。そして、(構成v)を充足する抗体は、適 用された抗原結合タンパク質が、PCSK9のD374Y変異体の効果を低下させ、野生型PCSK9の効果も遮断することを理解できる(段落【0381】参照)。 したがって、このような構成を有する抗体は、PCSK9の効果を低下させるとともに、PCSK9のD374Y変異体の効果を低下させる ことにも用いることができる きる(段落【0381】参照)。 したがって、このような構成を有する抗体は、PCSK9の効果を低下させるとともに、PCSK9のD374Y変異体の効果を低下させる ことにも用いることができることを当業者であれば理解することができる。 (構成vi)は、(構成iv)と同一であり、当業者であれば、本件明細書の記載と本件優先日当時の技術常識を考慮して、(構成vi)を備えた抗体を得ることができる。 以上によれば、(構成i)及び(構成ii)に加えて(構成v)及び(構成vi)を備えた抗体は、当業者であれば、本件明細書の記載と本件優先日当時の技術常識に基づき取得することができる。また、本件明細書の記載と本件優先日当時の技術常識に基づくと、このような構成を備えた抗体であれば、対象中の血清コレステロールレベルを低下させると理 解できる。したがって、このような構成を有する抗体を規定した本件再 訂正発明2-1は、実施可能要件及びサポート要件を満たす。 (エ) 本件再訂正発明2-2(前記第2の2⑼ア(イ)a【請求項5】)は、上記(構成i)及び(構成ii)に加えて、「競合の程度が80%以上であ」るとの構成(構成vii)及び「前記モノクローナル抗体のFab断片がPCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができる」と の構成(構成viii)を備える。 (構成vii)については、本件明細書の段落【0140】には、競合の程度に関して、「通常、競合抗原結合タンパク質が過剰に存在する場合には、少なくとも40から45%、45から50%、50から55%、55から60%、60から65%、65から70%、70から75%又 は75%又はそれ以上、共通の抗原への基準抗原結合タンパク質の特異的結合を阻害する(例えば、低下させる)。」との から55%、55から60%、60から65%、65から70%、70から75%又 は75%又はそれ以上、共通の抗原への基準抗原結合タンパク質の特異的結合を阻害する(例えば、低下させる)。」との記載があり、本件明細書の記載と本件優先日当時の技術常識に基づいて、当業者であれば、80%以上、PCSK9への参照抗体の結合を阻害する抗体を得ることができる。 (構成viii)は、(構成iii)と同一であり、(構成iii)と同様、当業者であれば、本件明細書の記載と本件優先日当時の技術常識を考慮して、(構成viii)を備えた抗体を得ることができる。 したがって、(構成i)及び(構成ii)に加えて、(構成vii)及び(構成viii)を備えた抗体は、当業者であれば、本件明細書の記 載及び本件優先日当時の技術常識を考慮して取得することができる。また、本件明細書の記載と本件優先日当時の技術常識に基づくと、このような構成を備えた抗体であれば、対象中の血清コレステロールレベルを低下させると理解できる。したがって、このような構成を有する本件再訂正発明2-2は、実施可能要件及びサポート要件を満たす。 ⑶ 争点2-6(被控訴人によるサポート要件違反及び実施可能要件違反の主 張が許されないものであるか否か)について(控訴人は、原審においては、被控訴人によるサポート要件違反及び実施可能要件違反の主張は訴訟上の信義則に反して許されないと主張していたが(原判決第2の4⑻〔控訴人の主張〕)、当審においては、それに加え、以下のとおり、一事不再理効(特許法167条)及び訴訟上の信義則に反して許されないと主張している。) ア被控訴人の完全親会社であるサノフィ社は、本件特許に対して第一次各無効審判を請求し、請求不成立の審決がされた後、第1回 法167条)及び訴訟上の信義則に反して許されないと主張している。) ア被控訴人の完全親会社であるサノフィ社は、本件特許に対して第一次各無効審判を請求し、請求不成立の審決がされた後、第1回各審決取消訴訟を提起し、その中で、サポート要件違反及び実施可能要件違反の無効理由を主張したが、第1回各審決取消訴訟において、これらの無効理由は認められないとの判決がされ、本件特許を維持する審決が確定している。被控 訴人は、サノフィ社の完全子会社であり、その支配の下で行動しているにすぎず、両者は実質的に一体である。 加えて、控訴人が被控訴人に対して提起した差止訴訟においても、被控訴人が、本件訴訟の原審でなされたのと同一のEGFaミミックに関する主張をしたものの、サポート要件違反及び実施可能要件違反に係る無効の 抗弁はいずれも排斥され、控訴人による差止請求を認容する判決が確定した。 このように、被控訴人は、既に、二つの訴訟手続において、サポート要件違反及び実施可能要件違反に係る主張を行う機会を十二分に与えられており、控訴人は、これに対して本件特許を防御する負担を負ってきた。 しかるに、この期に及んで、再度、サポート要件違反及び実施可能要件違反の主張を行うことは、明らかに訴訟上の信義則に反する紛争の蒸し返しであって、特許法167条(一事不再理)又は民事訴訟法2条(訴訟上の信義則)に反し、許されない。仮に、このような主張が許されるとすれば、特許訴訟における紛争の一回的解決機能が損なわれるばかりでなく、特許 の安定性も著しく損なわれることになる。 イサポート要件及び実施可能要件に係る「同一の事実及び同一の証拠」(特許法167条)の範囲については、これを新規性や進歩性の場合と同様に考えることはできない。 新規性 れることになる。 イサポート要件及び実施可能要件に係る「同一の事実及び同一の証拠」(特許法167条)の範囲については、これを新規性や進歩性の場合と同様に考えることはできない。 新規性や進歩性は、主引例や副引例に基づいて、特定の公知事実を認定して、これと特許請求の範囲の記載を比較することにより判断がなされる ため、主引例や副引例といった「証拠」が変更された場合には、審理の対象である「事実」自体が実質的に変更されることになり得る。 これに対して、サポート要件及び実施可能要件は、新規性や進歩性とは全く異なり、「特許請求の範囲の記載」と「明細書の発明の詳細な説明の記載」を比較して、独占権付与の代償としての開示が適切になされているか どうかを判断するものである。したがって、サポート要件及び実施可能要件における主要な証拠は、開示を担う「特許明細書」自体であって、それ以外の証拠は、副次的なものにすぎず、そのような証拠を追加したところで、「同一の事実及び同一の証拠」の範囲から外れることにはならない。 ウ原判決は、本件訴訟において、被控訴人が、EGFaミミック抗体に係 るサポート要件違反及び実施可能要件違反の無効理由の主張に当たり、差止訴訟及び第1回各審決取消訴訟で提出されなかった「本件メール及び本件プレゼンテーション資料」(乙4の1・2)に主に依拠していることを根拠に、被控訴人の主張が信義則に反して許されないとはいえないと判断しており、「本件メール及び本件プレゼンテーション資料」が新証拠に該当す るものと判断した。 しかし、本件プレゼンテーション資料(乙4の2)を含む資料(甲72)の他の箇所には、本件プレゼンテーション資料で「MissingEpitope」とされた部位に結合する抗体が控訴人において多数取得で しかし、本件プレゼンテーション資料(乙4の2)を含む資料(甲72)の他の箇所には、本件プレゼンテーション資料で「MissingEpitope」とされた部位に結合する抗体が控訴人において多数取得できていたことが示されており、「EGFaミミック」は「MissingEpitope」に結合する抗体 であるから、「EGFaミミック」は取得されていたのであって、本件メー ル及び本件プレゼンテーション資料をもって、控訴人が「EGFaミミック」を取得できていなかったとの被控訴人の主張は、事実として明らかな誤りであり、原審裁判所を誤導したものである。 また、サポート要件及び実施可能要件の無効理由に関して、本件メール及び本件プレゼンテーション資料のような副次的な証拠を追加したとこ ろで、「同一の事実及び同一の証拠」の範囲から外れるものではない。特に、本件メール及び本件プレゼンテーション資料のように、本件特許の出願後に作成された社内資料は、出願時の「技術常識」でもないのであるから、このような証拠を追加することによって「同一の事実及び同一の証拠」の範囲から逃れられるものではない。 さらに、差止訴訟において、EGFaミミックに関して、本件と同一の主張がなされた上で、これが排斥されており、原判決が依拠する「本件メール及び本件プレゼンテーション資料」は、既になされたのと同一の主張について、単にその立証を補足するものとして提出されたものにすぎない。 このように、同一の事実を補足する証拠を追加したところで、「同一の事実 及び同一の証拠」の範囲から外れるものではないことは一層明白である。 エ差止訴訟と本訴とは、訴訟物は異なるものの、損害に係る争点以外の争点は全て共通するものであり、訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)により、差止訴訟 範囲から外れるものではないことは一層明白である。 エ差止訴訟と本訴とは、訴訟物は異なるものの、損害に係る争点以外の争点は全て共通するものであり、訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)により、差止訴訟に反する判断は許されない。この点からしても、原判決の判断は誤りである。 オ仮に、原判決を前提としても、原判決は、「EGFaミミック抗体に係るサポート要件及び実施可能要件違反の無効理由の主張」について、「本件メール及び本件プレゼンテーション資料」を理由として、「信義則に反して許されないとまではいえない」と判示しているのであるから、EGFaミミック以外のサポート要件及び実施可能要件違反の主張は、なお、一事不再 理効及び訴訟上の信義則に反し、認められない。 ⑷ 争点2-1-2(訂正の再抗弁の成否)について被控訴人は、後記6⑷のとおり、訂正の再抗弁による訂正(本件再訂正)が訂正要件を満たさないと主張するが、以下のとおり、本件再訂正は訂正要件を満たしている。 ア訂正事項1(本件明細書の段落【0140】の記載の削除)について 本件再訂正には、本件明細書の段落【0140】に関する訂正事項1が含まれる。本件特許に係る発明は、参照抗体との「競合」を規定する。訂正事項1は、その「競合」の意義に関する定義ないし説明の記載を変更するものであり、その結果、「競合」の意義が遡及的に変更され、特許請求の範囲が減縮されるから、訂正要件を充足する。 出願人ないし特許権者が、明細書中で、用語の意味を定義ないし説明した場合には、これに従った解釈をしなければならない。 本件明細書の段落【0140】は、段落【0068】から始まる「定義及び実施形態」の章の中にある。そして、前後の段落も、用語の意味を定義する内容となっている。そして、訂正 解釈をしなければならない。 本件明細書の段落【0140】は、段落【0068】から始まる「定義及び実施形態」の章の中にある。そして、前後の段落も、用語の意味を定義する内容となっている。そして、訂正事項1は、段落【0140】に記 載された競合の態様である「基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質」と「立体的妨害が生じるのに、基準抗原結合タンパク質によって結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質」のうち、後者の態様を削除するものである。すなわち、訂正後は「競合」の意義を、前者の態様(同じエピ トープに結合する態様)に特定し、限定したものである。 第2回各審決取消訴訟の知財高裁判決(乙51の1・2)も、段落【0140】を「競合」の意義を記載したものと理解し、判決の根拠としているが、本件再訂正後の段落【0140】は、上記判決が依拠した記載が削除されるから、同判決によれば「競合」の解釈が変わることとなる。 最高裁平成3年3月19日判決・民集45巻3号209頁は、明細書中 の実施例の記載の削除についてすら、これにより特許請求の範囲の解釈が変わるとして、特許請求の範囲の減縮に該当し得ると判示している。訂正事項1は、用語の意味を定義ないし説明した記載を一部削除するものであり、上記判決が解釈の根拠とした部分が変更されるのであるから、解釈が直接変わるものであり、上記最高裁の事案に比しても、特許請求の範囲が 減縮されることは明らかである。 したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮(特許法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものである。 イ訂正事項2(本件明細書の段落【0138】の記載の削除)について本件再訂正には、本件明細書の段落【0138 許請求の範囲の減縮(特許法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものである。 イ訂正事項2(本件明細書の段落【0138】の記載の削除)について本件再訂正には、本件明細書の段落【0138】に関する訂正事項2が 含まれる。本件特許に係る発明は、PCSK9とLDLRとの結合を「中和」することを規定する。訂正事項2は、その「中和」の意義に関する定義ないし説明の記載を変更するものであり、その結果、「中和」の意義が遡及的に変更され、特許請求の範囲が減縮される。 本件明細書の段落【0138】も、段落【0068】から始まる「定義 及び実施形態」の章の中にあり、段落【0138】の前後の段落も、用語の意味を定義する内容となっている。段落【0138】自体の記載も、「という用語は、・・・を表す。」、「この用語は、・・・表し得る。」と書かれており、「中和」の定義規定であることが明示されている。訂正事項2は、段落【0138】における中和から、「リガンドに結合し、間接的な手段(リガンド 中の構造的又はエネルギー的変化など)を通じて、リガンドの結合能を変化させることによって」なされる中和を削除するものである。 訂正事項2により、「例えば」との記載も削除され、段落【0138】が科学的事実について例示したものではなく、中和の定義規定であることもより明確になった。そして、訂正後は、「中和」の意義が直接封鎖する態様 に限定され、間接的な手段による態様が「中和」の意義から除かれたこと が、いっそう明らかになった。 第2回各審決取消訴訟の知財高裁判決(乙51の1・2)も、段落【0138】を「中和」を定義付けるものとして理解し、判決の根拠としているが、本件再訂正後の段落【0138】は、上記判決が依拠した記載が削除されるから、同判決に 財高裁判決(乙51の1・2)も、段落【0138】を「中和」を定義付けるものとして理解し、判決の根拠としているが、本件再訂正後の段落【0138】は、上記判決が依拠した記載が削除されるから、同判決によれば「中和」の解釈が変わることとなる。 したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮(特許法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものである。 ウ訂正事項3について本件再訂正には、本件特許1の特許請求の範囲の請求項9に係る発明(本件発明1)及び本件特許2の特許請求の範囲の請求項5に係る発明 (本件発明2)について、「中和」の要件に関し、「前記モノクローナル抗体のFab断片がPCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができる」との発明特定事項を追加すること(訂正事項3)が含まれる。 PCSK9とLDLRとの相互作用に対して完全長抗体での中和に加えてFab断片での中和を規定するのが訂正事項3である。 本件明細書の図20Aには、PCSK9の触媒ドメインに31H4のFab断片及び21B12抗体のFab断片が結合すること、及び、これらのFab断片が存在するために、PCSK9の触媒ドメインとLDLRのEGFaドメインとの結合が阻害される(すなわち、中和される)ことが開示されている。すなわち、Fab断片によりPCSK9とLDLRとの 相互作用が中和されることが、図20Aの立体構造解析からも説明されていて、21B12抗体及び31H4抗体は、いずれも完全長抗体でもFab断片でもPCSK9とLDLRとの相互作用を中和することが示されている。このように、完全長抗体でPCSK9とLDLRとの相互作用を中和する抗体の中和メカニズムが、Fab断片がPCSK9とLDLRと の相互作用を中和するモデルを用いて、本件明 ことが示されている。このように、完全長抗体でPCSK9とLDLRとの相互作用を中和する抗体の中和メカニズムが、Fab断片がPCSK9とLDLRと の相互作用を中和するモデルを用いて、本件明細書で詳細に論じられてお り、当業者は、Fab断片での中和を読み取ることができる。したがって、完全長抗体でPCSK9とLDLRとの相互作用を中和でき、かつFab断片でPCSK9とLDLRとの相互作用を中和できる抗体が開示されており、訂正事項3は、新しい技術事項を追加する訂正ではない。 また、本件明細書の段落【0454】には、「完全抗体など、抗原結合分 子が十分に大きければ、PCSK9へのEGFaの結合を妨害するために、抗原結合分子はEGFa結合部位に直接結合する必要はない。」と記載されている。逆に、完全抗体の一部分にすぎず完全抗体より小さいFab断片でPCSK9へのEGFaの結合を妨害するには、Fab断片はEGFa結合部位に直接結合する必要がある。また、いずれにせよ、Fab断片 は完全抗体よりも小さいため、完全抗体では結合を妨害できるが、Fab断片では結合を妨害できない場合が生じる。したがって、Fab断片での相互作用の中和による発明の限定は、減縮を目的とするものである。 エ訂正事項4について本件再訂正には、本件特許1の特許請求の範囲の請求項9に係る発明 (本件発明1)及び本件特許2の特許請求の範囲の請求項1に係る発明について、「競合」の要件に関し、「前記モノクローナル抗体のFab断片が、PCSK9との結合に関して、上記参照抗体のFab断片と競合することができる」との発明特定事項を追加すること(訂正事項4)が含まれる。 完全長抗体での競合に加え、Fab断片同士の競合により発明を減縮する のが訂正事項4であ 記参照抗体のFab断片と競合することができる」との発明特定事項を追加すること(訂正事項4)が含まれる。 完全長抗体での競合に加え、Fab断片同士の競合により発明を減縮する のが訂正事項4である。 本件明細書の実施例30は、31H4及び21B12のFab断片に結合されたPCSK9ProCat(配列番号3の31から449)の結晶構造を示すものである(段落【0439】参照)。図19A及び19Bに図示されているこの結晶構造は、31H4及び21B12がPCSK9上に 異なる結合部位を有すること、両抗原結合タンパク質はPCSK9に同時 に結合できることを示す(段落【0439】参照)。 図19Aでは、PCSK9の触媒ドメインに31H4のFab断片及び21B12抗体のFab断片が結合することが示されている。 このように、21B12抗体のFab断片は31H4抗体のFab断片と同時にPCSK9に結合し、PCSK9への結合に関して競合しないこ とが明確に示されており、全長において競合アッセイをした21B12抗体と31H4抗体のFab断片同士でも競合の有無が確認されている。 本件明細書の段落【0269】には、本件明細書中に記載されているエピトープに結合する例示された抗体又は機能的断片の一つと競合する抗原結合タンパク質が提供されることが記載され、段落【0014】には抗 原結合タンパク質としてFab断片が例示されている。このように、PCSK9との結合に関して完全長抗体で競合を確認し、Fab断片同士で競合を確認することは、本件明細書に記載されている。したがって、訂正事項4は新しい技術事項を追加したものではない。 また、段落【0454】に示されるように、完全抗体など、抗原結合分 子が大きい場合には立体障害を生じるので、より多く れている。したがって、訂正事項4は新しい技術事項を追加したものではない。 また、段落【0454】に示されるように、完全抗体など、抗原結合分 子が大きい場合には立体障害を生じるので、より多くの抗体と競合し得ることが本件明細書に記載されている。Fab断片は50kDaの分子量であると言われ、抗体は150kDaであり、二つのFabとFcを有する。 したがって、Fab断片は抗体の概ね3分の1の大きさである。小さい分立体障害が小さくなり、競合アッセイの参照抗体もFab断片とするなら ば、さらに立体障害が小さくなる。そうすると、Fab断片同士は完全抗体よりも競合しにくくなる。したがって、Fab断片同士の競合を規定する訂正事項4は、発明を減縮するものである。 6 被控訴人の補充主張⑴ 争点2-1-1(サポート要件違反の有無)及び争点2-2(実施可能要 件違反)のうち、「EGFaミミック」に関する点について ア 「EGFaミミック抗体」という概念を訴訟向けに被控訴人が作出したかのような控訴人の主張は誤りである。そもそも、本件において重要であるのは、「EGFaミミック抗体」の厳密な定義や、「EGFaミミック抗体」という用語自体ではなく、本件特許に係る発明には、明細書に開示された内容を遥かに超えて、明細書においてサポートされているとはいえず、 かつ、実施可能に記載されているとはいえない抗体が含まれていることである。そのひとつとして、「EGFaドメインが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認識する抗体」が挙げられ、これが「EGFaミミック抗体」と呼び得るものである、ということにすぎない。 イ原判決も正しく認定するとおり、「15個のPCSK9のコア残基を多 く認識し結合する抗体の方が、完全適合に近くなり、PCS Faミミック抗体」と呼び得るものである、ということにすぎない。 イ原判決も正しく認定するとおり、「15個のPCSK9のコア残基を多 く認識し結合する抗体の方が、完全適合に近くなり、PCSK9のLDLR結合部位を広く覆う形で結合することになるものといえ、・・・PCSK9のLDLRタンパク質の結合を中和する能力が高くなることが期待できる。このように、抗体と抗原の関係を論理的にみて、EGFaミミック抗体は、PCSK9とLDLRタンパク質との結合中和活性において、よ り有利であると考えられる」(原判決60頁14~22行)。控訴人は、EGFaミミック抗体を参照抗体(21B12抗体及び31H4抗体)と比較するが、本件特許に係る発明には極めて多種多様な抗体が含まれており、本件特許に係る発明に含まれる抗体全てが参照抗体と同等の作用効果を有するわけではないから、EGFaミミック抗体を参照抗体と比較して、 EGFaミミック抗体の技術的意義を論じることは誤りである。 ウ控訴人は、前記5⑴ウのとおり、本件特許に係る発明については、判断基準時である出願時において、「EGFaミミック」という特定の抗体を取得するという課題自体が存在しないし、そのような抗体の取得の困難性を当業者が認識し得たともいえないと主張する。 しかし、「EGFaミミック抗体」と呼ぶかどうかは別としても、PCS K9のリガンドであるLDLRがPCSK9へ結合する際に認識されるPCSK9上のアミノ酸の大部分をエピトープとして認識する抗体、という概念を出願日当時の当業者は当然に理解し得るものである。そしてそのような抗体に原判決が認定するとおりの技術的意義があることも当然に理解し得るものであるから、控訴人の上記主張は理由がない。 エ明細書の記載につい 業者は当然に理解し得るものである。そしてそのような抗体に原判決が認定するとおりの技術的意義があることも当然に理解し得るものであるから、控訴人の上記主張は理由がない。 エ明細書の記載について、事後的にサポート要件及び実施可能要件の充足性を検証するために、明細書以外の外部証拠によって立証をすることは当然に許容されるから、本件メール及び本件プレゼンテーション資料を証拠から排除すべきとはいえない。そして、本件メール及び本件プレゼンテーション資料に関する原判決の評価に誤りはない。 オ本件メールが送信された当時において、EGFaミミック抗体に該当する抗体が複数取得されていたと認めるに足りる証拠はない。 カ不連続なアミノ酸により構成される特定の立体構造的エピトープ(LDLR結合部位)のアミノ酸の大部分を認識する抗体を取得するための方法論が存在しないことについて、控訴人は原審、当審を通じて何ら争ってい ない。このように、特定の立体構造的エピトープに結合する抗体を取得する方法論自体が存在しないということは、EGFaミミック抗体を取得するためには、全く新たに抗体を多数作製し、スクリーニングアッセイを行い、クレームされた性質を有する抗体を選択しなければならない、ということであり、そのような一連の抗体作製・スクリーニング工程を行うこと は、当業者に過度の実験や過度の試行錯誤を要するものである。 また、本件明細書においても、3000個もの結合中和抗体を取得してさえも、似かよったごく一部の抗体群しか取得することができておらず、EGFaミミック抗体を一つも取得できていない。さらに、本件優先日から約5年を経過した2012年(平成24年)においてさえも、控訴人は EGFaミミック抗体を取得できておらず、「見つからないエピトー aミミック抗体を一つも取得できていない。さらに、本件優先日から約5年を経過した2012年(平成24年)においてさえも、控訴人は EGFaミミック抗体を取得できておらず、「見つからないエピトープ」の 抗体とされていたのは、本件明細書において控訴人が開示した抗体の取得方法に技術的な限界があったといえるのであって、本件優先日当時、本件明細書及び技術常識に基づいて、過度の実験や過度の試行錯誤を強いられることなく、EGFaミミック抗体を取得できたとはいえない。 控訴人は、控訴理由において、単に「動物免疫法における抗体の取得が 本質的に運任せである」という理由で、「EGFaミミック抗体は、優先日当時、本件明細書の記載及び技術常識に基づいて、(過度の実験や過度の試行錯誤を強いられることなく、)取得できた」旨主張しているといえるが、開き直った主張であり、科学的・技術的にいってあり得ない。 ⑵ 争点2-1-1(サポート要件違反の有無)及び2-2(実施可能要件違 反)のうち、「EGFaミミック」以外の事項に関する点についてサポート要件違反の理由のうち、「『参照抗体と競合する抗体であれば、高い蓋然性をもってPCSK9とLDLRとの結合を中和する抗体である』などとはいえないことから、本件発明は、発明の詳細な説明において『発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲』を超え るものである」との理由(原判決第2の4⑵〔被控訴人の主張〕アにおいて「理由1」とされている理由。以下「理由1」という。)については、第2回各審決取消訴訟の知財高裁判決において、この理由1の無効理由が存在すると判断され、同判決は既に確定している。 すなわち、上記知財高裁判決は、「参照抗体と競合する抗体であれば、参照 抗体と同様 各審決取消訴訟の知財高裁判決において、この理由1の無効理由が存在すると判断され、同判決は既に確定している。 すなわち、上記知財高裁判決は、「参照抗体と競合する抗体であれば、参照 抗体と同様のメカニズムにより、結合中和抗体としての機能的特性を有する」点に発明の技術的意義が認められなければならないとした上で、「参照抗体と同様のメカニズムにより、結合中和抗体としての機能的特性を有する」とはいえないとして、サポート要件違反の理由として、理由1があると判断した。 控訴人の主張は、上記知財高裁判決が示した理由中の判断を覆すだけの具 体的な理由を提示しておらず、同判決において排斥された独自の主張を繰り返しているにすぎない。 低競合抗体について、「中和する抗体の提供という課題を解決できると当業者が認識することができない」ことについて、控訴人は、「中和するかどうかは、中和アッセイで決まることであり、競合とは関係がなく、中和につい ての要件があるから問題がない」旨主張しているが(控訴人第1準備書面48頁8~14行)、これは「参照抗体と競合する」ことに技術的意義がないことを自認しているといえる。 また、例えば、控訴人は、「『中和』についての要件と『競合』についての要件を満たす抗体について、血清コレステロールレベルを低下させる」と主 張するが、その根拠として、LDLRとのPCSK9との相互作用を中和する物質は血清コレステロールレベルを低下させることを掲げる(控訴人第1準備書面48頁下から2行~49頁下から5行)。これは「競合」についての要件とは無関係に、中和できる抗体であれば血清コレステロールレベルを低下させることができると主張しているにすぎず、やはり「『参照抗体と競合す る』ことに技術的意義がない」ことを自認して いての要件とは無関係に、中和できる抗体であれば血清コレステロールレベルを低下させることができると主張しているにすぎず、やはり「『参照抗体と競合す る』ことに技術的意義がない」ことを自認しているといえる。 ⑶ 争点2-6(被控訴人によるサポート要件違反及び実施可能要件違反の主張が許されないものであるか否か)についてア EGFaミミックに関連する本件特許の無効主張に関し、控訴人は、一事不再理効(特許法167条)ないし訴訟上の信義則(民事訴訟法2条) に反すると主張する。 上記主張は、サポート要件及び実施可能要件に関しては「同一の事実及び同一の証拠」(特許法167条)の範囲を法条単位で考えるべきであるとする法条単位説に基づくものである。 しかし、法条単位説は、一回的解決を過度に強調するものであって、通 説ではなく、実務でも採用されていない。サポート要件等についても、新 規性や進歩性と同様に、サポート要件等の違反を基礎付ける具体的な理由ごとに「同一の事実及び同一の証拠」を判断する方が、当事者間の公平に資する。 イ本件におけるEGFaミミックに関連する無効理由は、差止訴訟において提出されておらず、検討もされていない新たな重要な証拠に基づくもの であるから、「同一の事実及び同一の証拠」に基づく主張ではない。サポート要件違反については、差止訴訟においてEGFaミミックに関連する主張はされていない。 EGFaミミック抗体に関する新たな証拠(本件メール及び本件プレゼンテーション資料)は、本件優先日から約5年経過後の時点において、控 訴人がEGFaミミック抗体の取得を検討しながら取得できていなかったという、同時点における技術水準・技術常識を示すものであるから、当業者にとって、本件優先日において、本件明細書 において、控 訴人がEGFaミミック抗体の取得を検討しながら取得できていなかったという、同時点における技術水準・技術常識を示すものであるから、当業者にとって、本件優先日において、本件明細書を参照してEGFaミミック抗体を取得することはなおさら困難であったと考えられる。したがって、上記証拠は、本件特許に係る発明のサポート要件及び実施可能要件に 関し、その基準時における技術常識、技術水準及び当業者の理解に関する新たな具体的事実を示す極めて重要な証拠であり、単なる副次的・補足的な証拠ではない。 差止訴訟において、被控訴人は、控訴人が課した秘密保持義務によって、これらの新証拠を提出することが妨げられており、その後秘密保持義務が 米国裁判所によって解除されるに至ったものであるから、被控訴人が、本件訴訟において、上記各証拠を提出し、これらの証拠に基づく主張立証をしたことに帰責性があるとはいえない以上、被控訴人に信義則違反があるとはいえない。 ウサポート要件違反の理由のうち、理由1は、B博士の供述書⑴(201 9年(令和元年)12月13日付け)(乙2の1)に記載された実証実験の 結果や同実証実験を踏まえたC博士の供述書⑴(2019年(令和元年)12月16日付け)(乙2の2)の記載に基づくものであるが、B博士及びC博士の各供述書(乙2の1・2)は、EGFaミミック抗体に関する本件メール及び本件プレゼンテーション資料と同様に極めて重要な新証拠である。 第2回各審決取消訴訟の知財高裁判決は、B博士及びC博士の各供述書(乙2の1・2)に基づいて、本件特許に係る発明が少なくともサポート要件違反の理由1により無効であると判断し、第二次各無効審判の請求不成立審決を取り消した。同判決は、サノフィ社による第1回各審決取 (乙2の1・2)に基づいて、本件特許に係る発明が少なくともサポート要件違反の理由1により無効であると判断し、第二次各無効審判の請求不成立審決を取り消した。同判決は、サノフィ社による第1回各審決取消訴訟においてサポート要件違反に関する主張が退けられていることについ て、「当時の主張や立証の状況に鑑み、参照抗体と競合する抗体は、参照抗体とほぼ同一のPCSK9上の位置に結合し参照抗体と同様の機能を有するものであることを当然の前提としたことによるもの」であると理解することができ、これに対し、B博士の供述書(乙2の1〔第2回各審決取消訴訟における甲2の1〕)、C博士の供述書(乙2の2〔第2回各審決取 消訴訟における甲2の2〕)、EGFaミミック抗体に係る関係書証(本件メール及び本件プレゼンテーション資料を示す乙4の1・2〔第2回各審決取消訴訟の甲4の1・2〕)等の「新証拠による新主張」により、上記前提に疑義が生じており、上記前提を支える判断材料がない以上、第1回各審決取消訴訟の結論と、第2回各審決取消訴訟の判決の判断が異なること には相応の理由があると判断している。 したがって、実証実験に関する証拠であるB博士及びC博士の各供述書(乙2の1・2)は、極めて重要な新証拠であり、第1回各審決取消訴訟との関係において「同一の事実及び同一の証拠」の範ちゅうにはないから、理由1が一事不再理効や訴訟上の信義則違反により遮断されることはな い。 ⑷ 争点2-1-2(訂正の再抗弁の成否)についてア本件再訂正は訂正要件に違反しており、訂正の再抗弁が成立する余地がない。 (ア) 訂正事項1によって削除された記載が含まれる、本件明細書の段落【0140】の1文は、単に「競合アッセイ」という科学実験によって 同定される ており、訂正の再抗弁が成立する余地がない。 (ア) 訂正事項1によって削除された記載が含まれる、本件明細書の段落【0140】の1文は、単に「競合アッセイ」という科学実験によって 同定される抗原結合タンパク質(例えば抗体)についての科学的な事実を述べているにすぎない。すなわち、「競合アッセイ」という科学実験によって同定される抗原結合タンパク質の例示として、①「基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質」もあれば、②「立体的妨害が生じるのに、基準抗原結合タンパク質によって結合さ れるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質」もある、という科学的事実を述べているにすぎない。 したがって、訂正事項1によって、本件明細書の段落【0140】の1文から上記②を削除したところで、「競合アッセイ」という科学実験によって同定される抗原結合に①も②も含まれるという事実には何らの影 響も与えず、特許請求の範囲における「競合」の意義に何らの影響も与えない。 以上のとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲を何ら減縮するものではなく、その目的は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法134条の2第1項ただし書1号)に該当せず、その他の目的(同項ただし書2号から 4号まで)にも該当しないから、訂正目的要件(同項)に反する。訂正事項1が訂正目的要件に違反する以上、本件再訂正発明1-1、1-2、2-1及び2-2のいずれについても、訂正の再抗弁は成立し得ない。 (イ) 控訴人が訂正事項2により改変しようとする、本件明細書の段落【0138】の1文は、単に、「中和抗原結合タンパク質」又は「中和抗体」 が、「リガンドに結合し、そのリガンドの生物学的効果を妨げ、又は低下 させる」態様をいくつか例 、本件明細書の段落【0138】の1文は、単に、「中和抗原結合タンパク質」又は「中和抗体」 が、「リガンドに結合し、そのリガンドの生物学的効果を妨げ、又は低下 させる」態様をいくつか例示しているにすぎない。すなわち、その前の1文において、「中和抗原結合タンパク質」又は「中和抗体」という用語について、「リガンドに結合し、そのリガンドの生物学的効果を妨げ、又は低下させる」ものであるとして、その意義を明確にした上で、控訴人が訂正事項2により改変しようとする1文では、「リガンドに結合し、そ のリガンドの生物学的効果を妨げ、又は低下させる」態様のいくつかの例示として、「例えば」として、①「リガンド上の結合部位を直接封鎖することによる」場合もあれば、②「リガンドに結合し、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー的変化など)を通じて、リガンドの結合能を変化させることによる」場合もある、という科学的事実を述べて いるにすぎない。 本件明細書には、上記①及び②の態様以外にも、競合・中和の態様として、種々の態様が記載されており、本件再訂正後の発明にも多種多様な抗体が含まれる。 したがって、例示を記載するにすぎない、本件明細書の段落【013 8】の上記1文において、上記②を削除したところで、「リガンドに結合し、そのリガンドの生物学的効果を妨げ、又は低下させる」態様に①も②も含まれるという事実に対しては、何らの影響も与えない。「中和」の意義はその前の1文で明確にされており、訂正事項2は、特許請求の範囲における「中和」の意義に何らの影響も与えない。 以上のとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲を何ら減縮するものではなく、その目的は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法134条の2第1項ただし書1号)に該当せず、その他 らの影響も与えない。 以上のとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲を何ら減縮するものではなく、その目的は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法134条の2第1項ただし書1号)に該当せず、その他の目的(同項ただし書2号から4号まで)にも該当しないから、訂正目的要件(同項)に反する。訂正事項2が訂正目的要件に違反する以上、本件再訂正発明1-1、1-2、 2-1及び2-2のいずれについても、訂正の再抗弁は成立し得ない。 (ウ) 本件再訂正前の発明に含まれる抗体(LDLRとPCSK9との結合を中和する抗体であって、参照抗体と競合する抗体)を、「Fab断片による中和」(訂正事項3)あるいは「Fab断片同士による競合」(訂正事項4)によって、さらに限定することは、本件明細書に何ら記載されていない。すなわち、本件明細書には、「抗原結合タンパク質」の例示と して、「抗体」と「その断片」が並列的に記載されているにすぎないのであって、「抗体」について、さらに、そのFab断片のみを問題として、「Fab断片による中和」あるいは「Fab断片同士による競合」によって特定することは、本件明細書に記載されていない。 本件明細書の実施例においては、中和アッセイや競合アッセイは全て 「抗体」を用いて行われており、得られた抗体について、さらに、抗体の断片のみを構築して、「Fab断片による中和」あるいは「Fab断片同士による競合」に対応する実験は行われていない。「Fab断片による中和」あるいは「Fab断片同士による競合」という追加の発明特定事項によって特定される抗体を得るためには、抗PCSK9モノクローナ ル抗体を取得した上で、そのような抗体が、結合中和できることを試験し、参照抗体と競合することを試験するのみならず、追加の試験が必要と て特定される抗体を得るためには、抗PCSK9モノクローナ ル抗体を取得した上で、そのような抗体が、結合中和できることを試験し、参照抗体と競合することを試験するのみならず、追加の試験が必要となるが、そのような追加の試験を行うべきことについて本件明細書に記載されているわけではなく、追加の試験を行うことにより優れた抗体を同定したという実施例が記載されていることもなく、そのような追加 の試験をして特定される抗体にいかなる技術的意義があるのかも記載されていない。 以上によれば、訂正事項3及び4は、新規事項追加禁止要件(特許法134条の2第9項が準用する同法126条5項)に違反する。訂正事項3及び4が新規事項追加禁止要件に違反する以上、本件再訂正発明1 -2、2-1及び2-2について、訂正の再抗弁は成立し得ない。 (エ) 本件明細書において、段落【0138】には、「直接封鎖」と「間接的な手段による阻害」が記載され、後者の例示として、リガンド中の構造的変化を惹起させること、及びリガンド中のエネルギー変化を惹起させることが記載されている。また、段落【0269】には、競合について、同じエピトープに結合することに加え、重複するエピトープに結合する ことによる阻害についても記載されており、これらは上記「直接封鎖」に該当する。さらに、段落【0140】には、競合について、基準抗原結合タンパク質(リガンド又は参照抗体)と立体的妨害を生じさせる位置(隣接するエピトープ)に結合し立体的妨害により阻害することが記載されている。 このように、本件明細書には、競合又は中和について、様々な態様が記載されているところ、上記各態様による阻害のいずれも、抗体のFab部分が抗原に結合することによってもたらされるものにすぎない。 したが のように、本件明細書には、競合又は中和について、様々な態様が記載されているところ、上記各態様による阻害のいずれも、抗体のFab部分が抗原に結合することによってもたらされるものにすぎない。 したがって、訂正事項3又は4によって特定したところで、上記のような様々な態様のうち、何一つ含まれなくなる態様が想定されていると はいえない。すなわち、上記各態様について、抗体では上記態様の競合・中和が生じるが、Fab断片ではそのような態様の競合・中和が生じない場合があることは想定されていない。 よって、抗体として「中和・競合」し、これに加え、Fab断片のみでも「中和する」(訂正事項3)あるいは「競合する」(訂正事項4)と の発明特定事項を追加したところで、そのような限定によって本件明細書に明示された中和又は競合の種々の態様から除かれるべきものが本件明細書において特段想定されているとはいえず、本件再訂正前の発明の抗体には含まれていたものが、本件再訂正発明の抗体には含まれなくなったということが想定されているとはいえない。 以上のとおり、訂正事項3及び4は、これが特許請求の範囲を減縮す るものであるとは本件明細書から理解し得るものではなく、「特許請求の範囲の減縮」(特許法134条の2第1項ただし書1号)に該当せず、その他の目的(同項ただし書2号から4号まで)にも該当しないから、訂正目的要件(同項)に反する。訂正事項3及び4が訂正目的要件に違反する以上、本件再訂正発明1-2、2-1及び2-2について、訂正の 再抗弁は成立し得ない。 (オ) 上記(ア)ないし(エ)のとおり、訂正事項1ないし4はいずれも訂正要件に違反する。これらは別個の訂正事項であり、いずれかが訂正要件違反であれば、その訂正事項が関係する請求項についての訂 。 (オ) 上記(ア)ないし(エ)のとおり、訂正事項1ないし4はいずれも訂正要件に違反する。これらは別個の訂正事項であり、いずれかが訂正要件違反であれば、その訂正事項が関係する請求項についての訂正は認められない。 したがって、本件再訂正発明1-1、1-2、2-1及び2-2のいずれについても、訂正の再抗弁は成立し得ない。 イ本件再訂正によっても、サポート要件違反の理由1は解消されておらず、本件再訂正発明には、依然としてサポート要件違反の理由1の無効理由があるため、訂正の再抗弁が成立する余地がない。 (ア) 第2回各審決取消訴訟の知財高裁判決は、特許請求の範囲には多種多様な抗体が含まれていることの単なる一例として、「参照抗体の結合部位とは異なり、かつ、LDLRの結合部位とは異なる部位に結合し、参照抗体に軽微な立体的障害をもたらして、参照抗体の結合を妨げる抗体」に言及したにすぎない。上記判決は、そのような抗体さえ含まれなけれ ばサポート要件違反の理由1が解消することになると理解し得るものではない。 (イ) 第2回各審決取消訴訟の上記判決は、本件特許に係る発明の技術的意義は、「参照抗体と競合する抗体であれば、参照抗体と同様のメカニズムにより、結合中和抗体としての機能的特性を有する」点に求められなけ ればならず、参照抗体と競合する抗体に結合中和性がないものが含まれ るとするとその技術的意義の前提が崩れることが明らかである、とする。 本件再訂正には、「参照抗体との競合」に関し、「Fab断片同士による競合」という発明特定事項や、「参照抗体と80%以上の競合」という発明特定事項がある。 しかし、参照抗体である31H4抗体や21B12抗体は、PCSK 9とLDLRの結合部位の端部(エッジ)に結合する抗 う発明特定事項や、「参照抗体と80%以上の競合」という発明特定事項がある。 しかし、参照抗体である31H4抗体や21B12抗体は、PCSK 9とLDLRの結合部位の端部(エッジ)に結合する抗体である。そして、ある抗体が参照抗体と競合する場合において、LDLRとPCSK9との結合部位とは反対側で参照抗体と競合する位置においてPCSK9と結合することもあり得る。このような位置関係からして、参照抗体と80%以上競合する抗体であるからといって、LDLRとPCSK9 との結合を中和することができる位置において、PCSK9に結合するとはいえない。 また、前記ア(エ)のとおり、そもそもある抗体が参照抗体と競合する場合には、およそ当該抗体のFab断片は参照抗体のFab断片と競合することが想定されているのであるから、訂正事項4の「Fab断片同士 による競合」という発明特定事項を加えたところで、およそ特許請求の範囲が減縮されるとはいえない。そのため、ある抗体が参照抗体と競合することに加えて、当該抗体のFab断片が参照抗体のFab断片と競合するという発明特定事項を加えたところで、当該抗体がLDLRとPCSK9との結合を中和することができる位置において、PCSK9に 結合するとはいえない。 したがって、ある参照抗体と競合する抗体が参照抗体と80%以上競合するからといって、あるいは、ある参照抗体と競合する抗体のFab断片が参照抗体のFab断片と競合するからといって、当該参照抗体と競合する抗体には、「参照抗体の結合部位とは異なり、かつ、LDLRの 結合部位とは異なる部位に結合し、参照抗体に『軽微ではない』あるい は『軽微な』立体的障害をもたらして、参照抗体の結合を妨げる抗体も含まれ得る」ことには変わりがない。そして、こ LRの 結合部位とは異なる部位に結合し、参照抗体に『軽微ではない』あるい は『軽微な』立体的障害をもたらして、参照抗体の結合を妨げる抗体も含まれ得る」ことには変わりがない。そして、このような抗体は、「参照抗体のエピトープと同じ又は重複するエピトープに結合することにより参照抗体と同様のメカニズムによってLDLRとPCSK9との結合を阻害するという機能的特性を有する抗体である」とはいえず、「LDLR とPCSK9との結合を中和する抗体である」ともいえない。 したがって、本件再訂正発明には、依然として、サポート要件違反の理由1の無効理由がある。 (ウ) 第2回各審決取消訴訟の知財高裁判決における本件特許に係る発明に関する判断が示すとおり、本件再訂正発明には、極めて多種多様な抗 体が含まれており、様々な態様によって中和や競合をする抗体が含まれている。このような多種多様な抗体について、本件明細書に記載されているとはいえず、出願時においてこのような抗体を取得する方法が技術常識であったともいえない。この点からも、本件再訂正発明にはサポート要件違反の理由1の無効理由がある。 第3 当裁判所の判断当裁判所は、訂正の再抗弁は理由がなく、本件特許(本件特許1及び2)は、いずれもサポート要件を充足せず、特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから、特許権者である控訴人は、被控訴人に対し本件特許権を行使することができず、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、 以下のとおりである。 1 本件特許に係る発明の概要等について⑴ 本件明細書の記載本件明細書には、原判決別紙2「本件明細書の記載」及び本判決別紙1「本件明細書の記載(原判決別紙2に記載のないもの)」のとおりの記載があり、 る発明の概要等について⑴ 本件明細書の記載本件明細書には、原判決別紙2「本件明細書の記載」及び本判決別紙1「本件明細書の記載(原判決別紙2に記載のないもの)」のとおりの記載があり、 これらの記載によれば、本件特許に係る発明に関し、次の事項が開示されて いる。 ア本件特許に係る発明は、PCSK9(プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型)に結合する抗原結合タンパク質等に関するものである。PCSK9は、低密度リポタンパク質受容体(LDLR)タンパク質のレベルの制御に関与するセリンプロテアーゼであり、LDLRタン パク質と直接相互作用し、LDLRと共に肝臓の細胞内に取り込まれ、肝臓中のLDLRタンパク質のレベルを減少させ、さらには、細胞表面(細胞外)でLDLへの結合に利用可能なLDLRタンパク質の量を減少させることにより、対象中のLDLの量を増加させる。(【0002】、【0003】、【0008】、【0014】、【0071】) イ 21B12抗体及び31H4抗体(参照抗体)は、PCSK9とLDLRタンパク質との結合を強く遮断する中和抗体である(【0138】、【0377】~【0379】(実施例11))。参照抗体は、結晶構造上、LDLRのEGFaドメインの位置と部分的に重複し、PCSK9へのその結合を立体的に妨害する(【0444】(実施例31)、図20A)。 ウ LDLRのEGFaドメインは、PCSK9の触媒ドメインに結合する。 結晶構造上、EGFaドメインの5オングストローム以内に存在するPCSK9残基は、LDLRのEGFaドメインとの相互作用界面の特異的コアPCSK9アミノ酸残基(コア残基)である。また、EGFaドメインの5オングストロームから8オングストロームに存在するPCSK9残 9残基は、LDLRのEGFaドメインとの相互作用界面の特異的コアPCSK9アミノ酸残基(コア残基)である。また、EGFaドメインの5オングストロームから8オングストロームに存在するPCSK9残 基は、LDLRのEGFaドメインとの相互作用界面の境界PCSK9アミノ酸残基である。これらのアミノ酸残基のいずれかと相互作用し、又は遮断する抗体は、PCSK9とLDLRのEGFaドメイン(及び/又はLDLR一般)との間の相互作用を阻害する抗体として有用であり得る。 (【0428】~【0432】(実施例28)、図17)。 図19Aに図示されるように、参照抗体は、PCSK9の触媒ドメイン に結合する。21B12抗体と31H4抗体とは異なる結合部位を有し、両者は同時にPCSK9に結合することができる。結晶構造上、21B12抗体及び31H4抗体の5オングストローム以内に存在するPCSK9のアミノ酸残基は、それぞれ、21B12抗体及び31H4との相互作用界面の特異的コアPCSK9アミノ酸残基(コア残基)である。LDL RのEGFaドメインとの相互作用界面の特異的コアPCSK9アミノ酸残基(コア残基)又はLDLRのEGFaドメインとの相互作用界面の境界PCSK9アミノ酸残基のいずれかの残基と相互作用し、又は遮断する抗体は、PCSK9/LDLR相互作用の阻害のために有用であり得る(【0433】、【0434】、【0437】(以上、実施例29)、【0438】 ~【0440】、【0443】(以上、実施例30)、図19A)。 また、実施例30から得られた三次複合体(PCSK9/31H4/21B12、図19A)の構造をPCSK9/EGFaドメイン構造(実施例28、図17)上に重ね合わせた結果が図20Aである。同図が示すように、21B1 から得られた三次複合体(PCSK9/31H4/21B12、図19A)の構造をPCSK9/EGFaドメイン構造(実施例28、図17)上に重ね合わせた結果が図20Aである。同図が示すように、21B12抗体及び31H4抗体のいずれも、LDLRのEGFa ドメインの位置と部分的に重複し、PCSK9へのその結合を立体的に妨害する(【0444】(実施例31)、図20A)。 エ参照抗体と「競合」するモノクローナル抗体は、PCSK9への参照抗体の結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)抗体である(【0138】、【0140】、【0261】、【0262】、【0269】)。 オ PCSK9に対する中和ABP(抗体)は、PCSK9とLDLRとの結合を中和し、LDLRの量を増加させることにより、対象中のLDLの量を低下させ、対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し、また、この効果により、高コレステロール血症等の上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し、又は予防し、疾患のリスクを低減する ことができるので、治療的に有用であり得る(【0155】、【0270】、 【0271】、【0276】)。 ⑵ 本件特許に係る発明の概要本件明細書の上記開示事項によれば、本件特許に係る発明は、LDLRタンパク質の量を増加させることにより、対象中のLDLの量を低下させ、対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し、また、この効果に より、高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し、又は予防し、疾患のリスクを低減すること、そのために、LDLRタンパク質と結合することにより、対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの量を増加させるPCSK9とLDLRタンパク質との結合を は予防し、疾患のリスクを低減すること、そのために、LDLRタンパク質と結合することにより、対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの量を増加させるPCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗体又はこれを含む医薬組成物を提供することを課題とし た上で、PCSK9は、LDLRのEGFaドメインに結合すること、及び、参照抗体は、結晶構造上、LDLRのEGFaドメインの位置と部分的に重複する位置でPCSK9とLDLRタンパク質の結合を立体的に妨害し、その結合を強く遮断する中和抗体であり、参照抗体と「競合」するモノクローナル抗体は、PCSK9への参照抗体の結合を妨げ、又は阻害する(例えば、 低下させる)抗体であることを明らかにするものである。 ⑶ 「中和」の意味ア本件特許に係る発明における「中和」の意味について、本件明細書には、以下の記載がある。 (ア) 「『中和抗原結合タンパク質』又は『中和抗体』という用語は、リガン ドに結合し、そのリガンドの生物学的効果を妨げ、又は低下させる、それぞれ、抗原結合タンパク質又は抗体を表す。これは、例えば、リガンド上の結合部位を直接封鎖することによって、又はリガンドに結合し、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー的変化など)を通じて、リガンドの結合能を変化させることによって行うことができる。」 (【0138】) (イ) 「本明細書中に提供されている抗原結合タンパク質は、PCSK9とLDLR間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節することができる。このような抗原結合タンパク質は、『中和』と表される。・・・中和ABPは、PCSK9がLDLRに結合するのを妨げる位置及び/又は様式で、PCSK9に結合する。このようなABPは、『競合的に中 このような抗原結合タンパク質は、『中和』と表される。・・・中和ABPは、PCSK9がLDLRに結合するのを妨げる位置及び/又は様式で、PCSK9に結合する。このようなABPは、『競合的に中 和する』ABPと特に記載することができる。」(【0155】)イ上記アの各記載によれば、本件特許に係る発明における「中和」とは、PCSK9のLDLRタンパク質結合部位を直接封鎖することによって、又は、PCSK9に結合し、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー的変化等)を通じてLDLRタンパク質に対するPCSK9の結合 能を変化させることによって、PCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節することを意味するものと解される。 ⑷ 「競合」の意味ア本件特許に係る発明における「競合」の意味について、本件明細書には、 以下の記載がある。 (ア) 「同じエピトープに対して競合する抗原タンパク質(例えば・・・中和抗体)という文脈において使用される場合の『競合する』という用語は、検査されている抗原結合タンパク質(例えば、抗体又は免疫学的に機能的なその断片)が共通の抗原(例えば、PCSK9又はその断片) への参照抗原結合タンパク質(例えば、リガンド又は参照抗体)の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)アッセイによって測定された抗原結合タンパク質間の競合を意味する。・・・競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質(競合抗原結合タンパク質)には、基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タン パク質及び立体的妨害が生じるのに、基準抗原結合タンパク質によって 結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質が含まれ トープに結合する抗原結合タン パク質及び立体的妨害が生じるのに、基準抗原結合タンパク質によって 結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質が含まれる。」(【0140】)(イ) 「競合する抗原結合タンパク質・・・PCSK9への特異的結合に関して、本明細書中に記載されているエピトープに結合する例示された抗体又は機能的断片の1つと競合する抗原結合タンパク質が提供される。 このような抗原結合タンパク質は、本明細書中に例示されている抗原結合タンパク質の1つと同じエピトープ又は重複するエピトープにも結合し得る。」(【0269】)イ上記アの各記載によれば、本件特許に係る発明における参照抗体との「競合」とは、参照抗体がPCSK9と結合する部位と同一の又は重複するP CSK9上の部位に結合して、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)ことや、参照抗体がPCSK9と結合する部位に近接した部位に結合し、参照抗体とPCSK9との結合を立体的に妨害して、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)ことを意味するものと解される。したがって、抗体がPCSK9への参照 抗体の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)ことがアッセイにより測定されれば抗体間の「競合」と評価されるものであり、本件特許に係る発明では「競合」の程度は特定されていない。 そうすると、参照抗体と競合する、本件特許に係る発明のモノクローナル抗体は、様々な程度で、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例 えば、低下させる)ものであって、必ずしも参照抗体がPCSK9と結合する同一のPCSK9上の部位に結合し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻害(例えば、低下させる) を妨げ、又は阻害する(例 えば、低下させる)ものであって、必ずしも参照抗体がPCSK9と結合する同一のPCSK9上の部位に結合し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻害(例えば、低下させる)する特性を有するモノクローナル抗体に限らず、参照抗体がPCSK9と結合するPCSK9上の部位と重複する部位に結合し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻害(例えば、低下さ せる)する特性を有するモノクローナル抗体や、参照抗体とPCSK9と の結合を立体的に妨害する態様でPCSK9に結合し、参照抗体のPCSK9への特異的結合を妨げ、又は阻害(例えば、低下させる)する特性を有するモノクローナル抗体を含むものであると認められる。 2 争点2-1-1(サポート要件違反の有無)について事案に鑑み、まず争点2-1-1(サポート要件違反の有無)について検討 する。 ⑴ 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである か否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。 ⑵ 本件特許に係る特許請求の範囲についてみると、本件特許1の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の2⑶ア(ア)【請求項1】)及び本件特許2の特許 請求の範囲の請求項1(前記第2の2⑶ア(イ)【請求項1】)(いずれも本件再訂正前のもの)は、いずれも、①「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」、②P 本件特許2の特許 請求の範囲の請求項1(前記第2の2⑶ア(イ)【請求項1】)(いずれも本件再訂正前のもの)は、いずれも、①「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」、②PCSK9との結合に関して、21B12抗体(本件特許1の特許請求の範囲の請求項1の場合)又は31H4抗体(本件特許2の特許請求の範囲の請求項1の場合)(参照抗体)と「競合する」、③ 「単離されたモノクローナル抗体」との発明特定事項を有するものであり、①と②の発明特定事項は、③のモノクローナル抗体の性質を決定するものと解される。 ⑶ 前記1⑵のとおり、本件明細書の開示事項によれば、本件特許に係る発明は、LDLRタンパク質の量を増加させることにより、対象中のLDLの量 を低下させ、対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し、ま た、この効果により、高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し、又は予防し、疾患のリスクを低減すること、そのために、LDLRタンパク質と結合することにより、対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの量を増加させるPCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗体又はこれを含む医薬組成物を提供するこ とを課題とするものであり、PCSK9とLDLRタンパク質との結合を強く遮断する中和抗体である参照抗体と競合する抗体は、PCSK9への参照抗体の結合を妨げ、又は阻害する単離されたモノクローナル抗体であることを明らかにするものであると理解される。 そして、前記1⑶のとおり、本件特許に係る発明における「中和」とは、 タンパク質結合部位を直接封鎖してPCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節する以外に、間接的な手段 のとおり、本件特許に係る発明における「中和」とは、 タンパク質結合部位を直接封鎖してPCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節する以外に、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー変化等)を通じてLDLRタンパク質に対するPCSK9の結合能を変化させる態様を含むものである。 しかし、参照抗体自体が、結晶構造上、LDLRのEGFaドメインの位 置と部分的に重複する位置でPCSK9とLDLRタンパク質の結合を立体的に妨害し、その結合を強く遮断する中和抗体である(前記1⑵)。そして、LDLRのEGFaドメインは、PCSK9の触媒ドメインに結合するものであり、EGFaドメインが結合する領域内に存在するPCSK9残基のいずれかと相互作用し、又は遮断する抗体は、PCSK9とLDLRとの間の 相互作用を阻害する抗体として有用であり得るとされる(前記1⑴ウ)。 これらの点に鑑みれば、本件特許に係る発明における「PCSK9との結合に関して、21B12抗体と競合する」及び「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する」との発明特定事項も、参照抗体と競合する抗体であれば、参照抗体と同様のメカニズムにより、LDLRタンパク質の結 合部位を直接封鎖して(具体的には、結晶構造上、抗体がLDLRのEGF aドメインの位置と重複する位置でPCSK9に結合して)、PCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節することを明らかにする点に技術的意義があるものというべきである。 ⑷ア前記1⑴ウのとおり、本件明細書の記載から、21B12抗体及び31H4抗体のいずれも、結晶構造上、LDLRのEGFaドメインの位置と 部分的に重複し、PCSK9へのその結合を立 である。 ⑷ア前記1⑴ウのとおり、本件明細書の記載から、21B12抗体及び31H4抗体のいずれも、結晶構造上、LDLRのEGFaドメインの位置と 部分的に重複し、PCSK9へのその結合を立体的に妨害するものであると認められ、当業者はこのことを理解することができるといえる。 イ他方、本件明細書の記載においては、エピトープビニングを行った結果、参照抗体の21B12抗体又は31H4抗体と競合するものとして同定された抗体であるが、当該参照抗体と同一性が高いとはいえないアミノ酸 配列を有するものが開示されている(段落【0373】、【0374】、実施例37、【0489】~【0495】、【表17】(表37.1)、図23A~D、【0138】)。 本件明細書には、上記競合する抗体として同定された抗体の中で中和活性を有すると記載される抗体がPCSK9上へ結合する位置についての 具体的な記載はなされておらず、参照抗体と同一性が高いとはいえないアミノ酸配列が異なるグループの抗体については、エピトープビニングのようなアッセイで競合すると評価されたことをもって、抗体がPCSK9上に結合する位置が明らかになるといった技術常識は認められない以上、PCSK9上で結合する位置が明らかとはいえない。 また、本件特許に係る発明の「PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する」との性質を有する抗体には、本件明細書の発明の詳細な説明に具体的に記載される数グループの抗体以外に非常に多種、多様な抗体が包含されるといえる上、前記1⑷イのとおり、このような抗体には、参照抗体がPCSK9と結合するPCSK9上の部位と重複する部位に結合 し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる) 抗体にとどまらず、参照抗体とPCSK 体には、参照抗体がPCSK9と結合するPCSK9上の部位と重複する部位に結合 し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる) 抗体にとどまらず、参照抗体とPCSK9との結合を立体的に妨害する態様でPCSK9に結合し、様々な程度で参照抗体のPCSK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)抗体をも包含するものである。そうすると、その中には、例えば、参照抗体がPCSK9と結合する部位と異なり、かつ、結晶構造上、抗体がLDLRのEGFaドメイ ンの位置とも異なる部位に結合し、参照抗体に軽微な立体的障害をもたらして、参照抗体のPCSK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)もの等も含まれ得るところ、このような抗体がPCSK9に結合する部位は、結晶構造上、LDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置ではないのであるから、LDLRタンパク質の結合部位を直 接封鎖して、PCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節するものとはいえない。 前記⑶のとおり、本件特許に係る発明の技術的意義は、参照抗体と競合する抗体であれば、参照抗体と同様のメカニズムにより、PCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗体としての特性を有することを 特定する点にあるというべきところ、前記1⑷イのとおり、参照抗体と競合する抗体であれば、LDLRのEGFaドメインと相互作用する部位(本件明細書の記載(前記1⑴ウ)からは、EGFaドメインの5オングストローム以内に存在するPCSK9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相互作用界面の特異的コアPCSK9アミノ酸残 基(コア残基)、又はEGFaドメインの5オングストロームから8オングス 内に存在するPCSK9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相互作用界面の特異的コアPCSK9アミノ酸残 基(コア残基)、又はEGFaドメインの5オングストロームから8オングストロームに存在するPCSK9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相互作用界面の境界PCSK9アミノ酸残基と理解され得る。)に結合してPCSK9とLDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖するとはいえず、他には、参照抗体と競合する抗体であれば、どのよ うなものであっても、PCSK9とLDLRのEGFaドメイン(及び/ 又はLDLR一般)との間の相互作用(結合)を阻害する抗体となる、とするメカニズムについての開示がない以上、当業者において、参照抗体と競合する抗体が結合中和抗体であるとの理解に至ることは困難というほかない。 ウ以上のとおり、「PCSK9との結合に関して、21B12抗体と競合す る抗体」、あるいは「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する抗体」であれば、参照抗体である21B12抗体又は31H4抗体と同様に、LDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して(具体的には、結晶構造上、抗体がLDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置でPCSK9に結合して)、PCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を 妨害し、遮断し、低下させ、又は調節するものであるとはいえないから、「PCSK9との結合に関して、21B12抗体と競合する抗体」あるいは「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する抗体」であれば、結合中和抗体としての機能的特性を有すると認めることもできない。 なお、前記1⑶のとおり、本件特許に係る発明における「中和」とは、 PCSK9とLDLRタンパク質結合部位を直接封鎖するものに限 結合中和抗体としての機能的特性を有すると認めることもできない。 なお、前記1⑶のとおり、本件特許に係る発明における「中和」とは、 PCSK9とLDLRタンパク質結合部位を直接封鎖するものに限らず、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー変化等)を通じてLDLRタンパク質に対するPCSK9の結合能を変化させる態様を含むものではあるが、「PCSK9との結合に関して、21B12抗体と競合する抗体」、あるいは「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する 抗体」であれば、上記間接的な手段を通じてLDLRタンパク質に対するPCSK9の結合能を変化させる抗体となることが、本件出願時の技術常識であったとはいえないし、本件明細書の発明の詳細な説明に開示されていたということもできない。 エ以上の点は、B博士の供述書⑴(乙2の1)に記載された実証実験の結 果及び同実証実験を踏まえたC博士の供述書⑴(乙2の2)からも裏付け られる。 上記実証実験は、リジェネロンから提供された63の抗体について参照抗体との競合及び結合中和性を実験したものであるが、競合に関して50%の閾値を用いた結果、21B12抗体については13の抗体が、31H4抗体については34の抗体が、それぞれ参照抗体と競合するが、前者 についてはこのうち10の抗体(約80%)が、後者についてはこのうち28の抗体(80%を超える)が、結合中和性を有しないことが確認されており、参照抗体と競合する抗体であれば結合中和性を有するものとはいえないことが具体的な実験結果として示されている(乙2の1の訳文6~9頁、資料B1、乙2の2の訳文6頁の表1)。 そして、C博士は、「本件特許によれば、21B12抗体の結合部位はhPCSK9上のLDLRの結合部位と部分的 て示されている(乙2の1の訳文6~9頁、資料B1、乙2の2の訳文6頁の表1)。 そして、C博士は、「本件特許によれば、21B12抗体の結合部位はhPCSK9上のLDLRの結合部位と部分的にしか重複しないから・・別の抗体の結合部位は、LDLRの結合部位と重複することなく21B12結合部位と重複し得るのであり、このようにして、別の抗体は、hPCSK9-LDLRの結合部位と重複することなく21B12結合部位と重 複し得」ると述べ、31H4抗体についても同様の指摘をした上で、参照抗体と競合する抗体がLDLRに対する結合を中和するだろうというのは科学的に誤りである旨の意見を述べている(乙2の2の訳文6、7頁)。 オ前記⑶のとおり、参照抗体と競合する抗体であれば、参照抗体と同様のメカニズムにより、PCSK9とLDLRタンパク質との結合中和抗体と しての機能的特性を有することを特定した点に本件特許に係る発明の技術的意義があるというべきであって、参照抗体と競合する抗体に結合中和性がないものが含まれるとすると、その技術的意義の前提が崩れることは明らかである。本件のような事例において、結合中和性のないものを文言上除けば足りると解すれば、抗体がPCSK9と結合する位置について、 例えば、PCSK9の大部分などといった極めて広範な指定を行うことも 許されることになり、特許請求の範囲を正当な根拠なく広範なものとすることを認めることになるから、相当でない。 なお、仮に、本件特許1の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の2⑶ア(ア)【請求項1】)及び本件特許2の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の2⑶ア(イ)【請求項1】)は、PCSK9との結合に関して、参照抗体 と競合する抗体のうち、「PCSK9とLDLRタンパク質の結合 請求項1】)及び本件特許2の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の2⑶ア(イ)【請求項1】)は、PCSK9との結合に関して、参照抗体 と競合する抗体のうち、「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」る抗体のみを対象としたものであると解したとしても、本件特許に係る発明のPCSK9との競合に関して、参照抗体と競合するとの発明特定事項は、参照抗体が結合する位置と同一又は重複する位置に結合する抗体にとどまるものではなく、PCSK9とLDLRタンパク質 の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体をも含むものである(前記1⑷イ)から、このような抗体についても結合中和抗体であることがサポートされる必要があるところ、参照抗体が結合する位置と同一又は重複する位置に結合する抗体の場合とは異なり、PCSK9とLDLRタンパク質との結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様 式で競合する抗体が結合を中和するメカニズムについては本件明細書には何らの記載はなく、また、ビニングによる実験結果(前記イ)に基づく結合中和抗体について、これらが立体的に妨害する抗体であることを示唆する記載はない。そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、参照抗体と競合する抗体のうちPCSK9とLDLRタンパク質との結合に 立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体が結合中和活性を有することについて何らの開示がないというほかなく、この点からも、本件特許はサポート要件を満たさない。 ⑸ 以上によれば、EGFaミミックに関する主張(原判決第2の4⑵ウ〔控訴人の主張〕(原判決18頁3行目から20頁8行目まで)、前記第2の5⑴) の当否を検討するまでもなく、本件特許1の特許請求の範囲の請求項1(前 記第2の2⑶ア( 判決第2の4⑵ウ〔控訴人の主張〕(原判決18頁3行目から20頁8行目まで)、前記第2の5⑴) の当否を検討するまでもなく、本件特許1の特許請求の範囲の請求項1(前 記第2の2⑶ア(ア)【請求項1】)及び本件特許2の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の2⑶ア(イ)【請求項1】)(いずれも本件再訂正前のもの)は、いずれもサポート要件を満たすとは認められない。 そして、本件発明1に係る請求項(前記第2の2⑶ア(ア)【請求項9】)は、「請求項1に記載の単離されたモノクローナル抗体を含む、医薬組成物。」 (ここでいう「請求項1」は、本件特許1の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の2⑶ア(ア)【請求項1】)を指す。)であり、本件発明2に係る請求項(前記第2の2⑶ア(イ)【請求項5】)は、「請求項1に記載の単離されたモノクローナル抗体を含む、医薬組成物。」(ここでいう「請求項1」は、本件特許2の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の2⑶ア(イ)【請求項1】)を指 す。)であるから、本件発明1及び2に係る請求項の記載も、同様にサポート要件を満たすとは認められない。 そうすると、本件特許(本件特許1及び本件特許2)の請求項(本件再訂正前のもの)の記載は、いずれもサポート要件に適合しないものである。 ⑹ 控訴人の補充主張について検討すると、控訴人は、前記第2の5⑵のとお り、「PCSK9との結合に関して参照抗体と競合する」という構成(構成ii)を満たす抗体が「PCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和することができる」という構成(構成i)を満たす必要はないなどと主張する。 しかし、前記⑶のとおり、本件特許に係る発明における「中和」とは、タンパク質結合部位を直接封鎖してPCSK9とLDLRタンパク質の間の相 互作用 (構成i)を満たす必要はないなどと主張する。 しかし、前記⑶のとおり、本件特許に係る発明における「中和」とは、タンパク質結合部位を直接封鎖してPCSK9とLDLRタンパク質の間の相 互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節する以外に、間接的な手段を通じてLDLRタンパク質に対するPCSK9の結合能を変化させる態様を含むものであるけれども、参照抗体自体が、結晶構造上、LDLRのEGFaドメインの位置と部分的に重複する位置でPCSK9とLDLRタンパク質の結合を立体的に妨害し、その結合を強く遮断する中和抗体であると認め られることを踏まえると、本件特許に係る発明は、参照抗体と競合する抗体 であれば、参照抗体と同様のメカニズムにより、LDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して(具体的には、結晶構造上、抗体がLDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置でPCSK9に結合して)、PCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節することを明らかにする点に技術的意義があるものと解されるのであって、控 訴人の上記主張を考慮しても、この判断は左右されない。 その他、控訴人の前記第2の5⑵における主張を考慮しても、前記⑴ないし⑸の判断を不当とすべき根拠となる事情は認められない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 3 争点2-6(被控訴人によるサポート要件違反及び実施可能要件違反の主張 が許されないものであるか否か)について⑴ア控訴人は、当審において、前記第2の5⑶のとおり、被控訴人によるサポート要件違反及び実施可能要件違反の主張は、一事不再理効(特許法167条)及び訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)に反して許されないと主張するので、以下、検討する。 イ り、被控訴人によるサポート要件違反及び実施可能要件違反の主張は、一事不再理効(特許法167条)及び訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)に反して許されないと主張するので、以下、検討する。 イ特許法167条は、特許無効審判又は延長登録無効審判の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができないことを定める規定であり、特許無効審判等の当事者が、侵害訴訟において同法104条の3第1項の無効の抗弁を主張することができないことを規定したものではない。しかし、特許法1 67条の趣旨は、先の審判の当事者及び参加人は、先の審判で主張立証を尽くすことができたにもかかわらず、審決が確定した後に同一の事実及び同一の証拠に基づいて紛争の蒸し返しをできるとすることが不合理であるため、同一の当事者及び参加人による再度の無効審判請求を制限することにより、紛争の蒸し返しを防止し、紛争の一回的解決を実現させること にあると解される。そして、このような紛争の蒸し返しの防止及び紛争の 一回的解決の要請は、無効審判手続においてのみ妥当するものではないから、無効審判請求の請求不成立の審決が確定した場合に、この審判請求をしたのと同一の当事者が、侵害訴訟において、同一の事実及び同一の証拠に基づいて、無効の抗弁を主張することが、特許法167条の趣旨に照らし、訴訟上の信義則に反して許されない場合はあり得ると解される。 ウ控訴人は、平成29年、被控訴人に対し、本件特許権に基づき、被控訴人製品の譲渡等の差止め等を求める差止訴訟を提起したが、差止訴訟では損害賠償請求をしなかった(甲14、15)。その後控訴人は、令和2年3月31日、本件特許権に基づく損害賠償を求める本件訴訟を提起したが、このように 差止め等を求める差止訴訟を提起したが、差止訴訟では損害賠償請求をしなかった(甲14、15)。その後控訴人は、令和2年3月31日、本件特許権に基づく損害賠償を求める本件訴訟を提起したが、このように差止め等を求める訴訟と損害賠償を求める訴訟を分けて提起 したのは、控訴人の意向によるものであって、被控訴人は、控訴人による本件訴訟の提起によって再び防御のための主張立証をすべき立場に置かれたものである。 差止訴訟においては、平成31年1月17日、東京地裁が、差止を認容する判決を言い渡し、被控訴人が控訴したが、知財高裁は、令和元年7月 3日に控訴審の口頭弁論を終結し、同年10月30日、被控訴人の控訴を棄却する判決を言い渡し、令和2年4月24日、最高裁が上告不受理決定をしたことにより、東京地裁の上記判決は確定した(前記第2の2⑺)。 他方、控訴人による本件訴訟提起(令和2年3月31日)の前である令和2年2月12日、リジェネロンが、本件特許について第二次各無効審判 を請求し、これに対して請求不成立の審決を受けた後、令和3年8月13日、第2回各審決取消訴訟を提起し、差止訴訟や第1回各審決取消訴訟で提出されていなかった新証拠を提出し、本件訴訟の原判決言渡(令和5年9月28日)前である令和5年1月26日、第2回各審決取消訴訟において、知財高裁が上記審決を取り消す判決を言い渡した。この知財高裁判決 は、本件訴訟において被控訴人がサポート要件違反の理由の一つとして主 張している理由1が認められるとして、本件特許に係る発明がサポート要件に適合しないと判断した(前記2と同旨の判断である。乙51の1・2)。 同知財高裁判決は、令和5年9月14日、最高裁が上告棄却及び上告不受理の決定をしたことにより確定し(前記第2の2⑻)、その後第二 件に適合しないと判断した(前記2と同旨の判断である。乙51の1・2)。 同知財高裁判決は、令和5年9月14日、最高裁が上告棄却及び上告不受理の決定をしたことにより確定し(前記第2の2⑻)、その後第二次各無効審判の手続が再開した。 以上のとおり、控訴人は、その意向により、同じ特許権に基づき、侵害訴訟として差止め等を求める訴訟(差止訴訟)と損害賠償を求める訴訟(本件訴訟)を分けて提起し、被控訴人は本件訴訟において二度目の防御のための主張立証活動が必要となったものであるところ、本件訴訟の事実審口頭弁論終結時(令和7年1月29日)までには、差止訴訟の事実審口頭弁 論終結時(令和元年7月3日)までには生じていなかった事情、すなわち、リジェネロンによる第二次各無効審判請求(令和2年2月12日)とそれに対する請求不成立審決、第2回各審決取消訴訟の提起(令和3年8月13日)、第2回各審決取消訴訟における新証拠の提出と、上記請求不成立審決を取り消す知財高裁の判決の言渡し(令和5年1月26日)、最高裁によ る上告棄却及び上告不受理決定による同判決の確定(令和5年9月14日)、第二次各無効審判の再開という事情が生じたものである。これらの事実を総合すれば、被控訴人が差止訴訟において理由1(前記第2の6⑵)に相当するサポート要件違反の理由の主張をしたが、この理由が採用されず、差止訴訟においてサポート要件違反が認められなかったとしても、本 件訴訟において、被控訴人が、理由1を含め、本件特許に係る発明がサポート要件違反であると主張することは、何ら蒸し返しに当たらず、この主張をすることが訴訟上の信義則に反するとは解されないし、特許法167条の趣旨に反するとも解されない。 エまた、本件訴訟で被控訴人が証拠として提出した、B博士及びC博士の 蒸し返しに当たらず、この主張をすることが訴訟上の信義則に反するとは解されないし、特許法167条の趣旨に反するとも解されない。 エまた、本件訴訟で被控訴人が証拠として提出した、B博士及びC博士の 各供述書(乙2の1・2)は、第2回各審決取消訴訟で提出されたが(同 訴訟の甲2の1・2)、差止訴訟、第1回各審決取消訴訟では提出されていなかったものである(弁論の全趣旨)。B博士の供述書⑴(乙2の1)は2019年(令和元年)12月13日付け、C博士の供述書⑴(乙2の2)は同月16日付けで、いずれも、差止訴訟の事実審の口頭弁論終結時(令和元年7月3日)及び第1回各審決取消訴訟の事実審の口頭弁論終結時 (平成30年10月10日)の後の作成日付であり、被控訴人又はサノフィ社において、これらの証拠又はこれらと同趣旨の証拠を差止訴訟の事実審の口頭弁論終結時又は第1回各審決取消訴訟の事実審の口頭弁論終結時以前に提出できたことをうかがわせる具体的な事情はない。 そして、上記各供述書は、本件特許1の特許請求の範囲の請求項1(前 記第2の2⑶ア(ア)【請求項1】)及び請求項9(同【請求項9】)(本件発明1の請求項)、本件特許2の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の2⑶ア(イ)【請求項1】)及び請求項5(同【請求項5】)(本件発明2の請求項)がサポート要件違反であることを根拠づけるものとして、重要な意味合いをもつものである(前記2⑷エ)。この点は、第2回各審決取消訴訟の知財 高裁判決(乙51の1・2)が、第1回各審決取消訴訟においてはサノフィ社によるサポート要件違反に関する主張は退けられているが、これは、当時の主張や立証の状況に鑑み、参照抗体と競合する抗体は、参照抗体とほぼ同一のPCSK9上の位置に結合し参照抗体と同様の機能を有 フィ社によるサポート要件違反に関する主張は退けられているが、これは、当時の主張や立証の状況に鑑み、参照抗体と競合する抗体は、参照抗体とほぼ同一のPCSK9上の位置に結合し参照抗体と同様の機能を有するものであることを当然の前提としたことによるものと理解することも可 能であり、第2回各審決取消訴訟においては新証拠に基づく新主張により上記前提に疑義が生じた旨指摘しており(乙51の1(80頁)、乙51の2(80頁))、この「新証拠」としてB博士及びC博士の各供述書も挙げていることにも示されているといえる。 以上の事情によれば、本件訴訟における被控訴人のサポート要件違反の 主張は、差止訴訟と同一証拠に基づく主張であるとはいえず、この点にお いても、本件訴訟における被控訴人のサポート要件違反の主張が、特許法167条の趣旨に反するとか、訴訟上の信義則に反すると解することはできない。 オ上記イないしエによれば、被控訴人によるサポート要件違反の主張が、一事不再理効に反する又は特許法167条の趣旨に反するとは認められ ず、訴訟上の信義則に反するとも認められない。 この点に関する控訴人の主張(前記第2の5⑶)は、上記イないしエの説示の内容に照らし、採用することができない。 また、控訴人は、その主張に沿う意見書(甲67)を提出するが、この意見書は、第2回各審決取消訴訟において、本件特許に係る発明がサポー ト要件に反すると判断した知財高裁判決が確定したことを考慮しておらず、考慮すべき事情を考慮していないといえるから、その結論を採用することができない。 ⑵ 控訴人は、原審においては、被控訴人によるサポート要件違反及び実施可能要件違反の主張は訴訟上の信義則に反して許されないと主張していたが (原判決第2の4⑻〔控訴人 することができない。 ⑵ 控訴人は、原審においては、被控訴人によるサポート要件違反及び実施可能要件違反の主張は訴訟上の信義則に反して許されないと主張していたが (原判決第2の4⑻〔控訴人の主張〕)、その主張内容は、当審における主張(被控訴人によるサポート要件違反及び実施可能要件違反の主張が一事不再理効及び訴訟上の信義則に反して許されないとの主張)と実質的に同旨であり、原審における主張も、上記⑴イないしオの説示の内容に照らし、採用することができない。 4 争点2-1-2(訂正の再抗弁の成否)について⑴ 訂正事項1について訂正事項1は、本件明細書の段落【0140】に含まれる記載の一部を削除するものであるが、この削除により、同段落に含まれる文章のうち、「競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質(競合抗原結合タンパク質) には、基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパ ク質及び立体的妨害が生じるのに、基準抗原結合タンパク質によって結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質が含まれる。」が「競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質(競合抗原結合タンパク質)には、基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質が含まれる。」に改められた。 この点、「競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質」に、「基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質」及び「立体的妨害が生じるのに、基準抗原結合タンパク質によって結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質」が含まれることは、一般的に知られている技術的事項であるといえる。本件 明細書の段落【0140】その 質によって結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質」が含まれることは、一般的に知られている技術的事項であるといえる。本件 明細書の段落【0140】その他の段落において、これを新たに発見した旨の記載がなく、根拠となる実験結果等が示されていないことからも、これが、本件特許に係る発明によって初めて見出された技術的事項ではなく、「競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質」に関して一般的に知られている技術的事項であることが裏付けられる。 また、訂正事項1により一部が削除された上記文章は、「含まれる」としており、「競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質」が「基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質」及び「立体的妨害が生じるのに、基準抗原結合タンパク質によって結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質」のみ からなると述べるものではない。 以上によれば、訂正事項1による訂正により、「競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質」に「基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質」が含まれることは、引き続き本件明細書に記載されている一方、「立体的妨害が生じるのに、基準抗原結合タンパク質に よって結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗 原結合タンパク質」が含まれないことについては、何らの説明も記載されておらず、「立体的妨害が生じるのに、基準抗原結合タンパク質によって結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質」が「競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質」に含まれることは、一般的に知られている技術的事項であるか って結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質」が「競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質」に含まれることは、一般的に知られている技術的事項であるから、これが訂正事項1 による訂正によって変わるものではない。 したがって、訂正事項1による訂正によって、本件再訂正後の本件特許1の請求項1及び請求項9、本件再訂正後の本件特許2の請求項1及び請求項5の「競合」の意義が「基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質」に限定されることにはならず、「競合」の意義が限定 されるものでないから、訂正事項1は、特許法134条の2第1項ただし書1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当しない。また、訂正事項1は、同項ただし書の2号から4号までに掲げる事項を目的とするものにも該当しない。 ⑵ 訂正事項2について 訂正事項2は、本件明細書の段落【0138】に含まれる記載の一部を削除するものであるが、この削除により、同段落に含まれる文章のうち、「これは、例えば、リガンド上の結合部位を直接封鎖することによって、又はリガンドに結合し、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー的変化など)を通じて、リガンドの結合能を変化させることによって行うことができ る。」が「これは、リガンド上の結合部位を直接封鎖することによって行うことができる。」に改められた。 訂正事項2による訂正前の本件明細書の段落【0138】は、リガンドに結合し、そのリガンドの生物学的効果を妨げ、又は低下させるものである中和抗原結合タンパク質又は中和抗体が、どのような作用機序に基づいて中和 の機能を発揮するのかについて、「直接封鎖」や「間接的な手段」を挙げて説 明するものであるが 低下させるものである中和抗原結合タンパク質又は中和抗体が、どのような作用機序に基づいて中和 の機能を発揮するのかについて、「直接封鎖」や「間接的な手段」を挙げて説 明するものであるが、「例えば」とあるとおり、これらは例示であることが記載されている。このように例示された「直接封鎖」や「間接的な手段」の作用機序は、一般的に知られている技術的事項であるといえる。本件明細書の段落【0138】その他の段落において、これを新たに発見した旨の記載がなく、根拠となる実験結果等が示されていないことからも、これが、本件特 許に係る発明によって初めて見出された技術的事項ではなく、抗原結合タンパク質又は抗体による「中和」に関して一般的に知られている技術的事項であることが裏付けられる。 訂正事項2による訂正後の段落【0138】は、中和抗原結合タンパク質又は中和抗体による「中和」が、「リガンド上の結合部位を直接封鎖すること によって行うことができる。」ことが記載されており、「例えば」の語句は削除されている。 しかし、本件明細書の段落【0138】以外の段落には、抗原結合タンパク質又は抗体による「中和」について、「リガンド上の結合部位を直接封鎖すること」以外の機序によるものが記載されている。 例えば、本件明細書の段落【0155】には、抗原結合タンパク質(ABP)について、「例えば、幾つかの実施形態において、ABPは、PCSK9上のLDLR結合部位を封鎖することなく、LDLRに対するPCSK9の悪影響を妨げ、又は低下させる。従って、幾つかの実施形態において、ABPは、PCSK9とLDLR間の結合相互作用を抑制する必要なしに、LD LRの分解をもたらすPCSK9の能力を調節し、又は変化させる。このようなABPは、『非競合的に 実施形態において、ABPは、PCSK9とLDLR間の結合相互作用を抑制する必要なしに、LD LRの分解をもたらすPCSK9の能力を調節し、又は変化させる。このようなABPは、『非競合的に中和する』ABPと特に記載することができる。」との記載があり、段落【0155】は、PCSK9上のLDLR結合部位を封鎖することなく、PCSK9とLDLR間の結合相互作用を抑制する必要なしに、LDLRの分解をもたらすPCSK9の能力を調節し、又は変化さ せるものである「非競合的に中和する」ABPも、中和能を有するABPで あるものと説明されている。この段落【0155】は、本件再訂正による訂正の対象とはなっていない。 また、訂正事項3に関する主張(前記第2の5⑷ウ)及び訂正事項4に関する主張(前記第2の5⑷エ)において控訴人が挙げる本件明細書の段落【0454】には、「幾つかの実施形態において、PCSK9の触媒ドメインの第 一及び/又は第二の辺に結合する抗原結合分子は、PCSK9へのEGFaの結合を直接又は立体的に妨害することができるので、中和抗体として有用であり得る。当業者によって理解されるように、完全抗体など、抗原結合分子が十分に大きければ、PCSK9へのEGFaの結合を妨害するために、抗原結合分子はEGFa結合部位に直接結合する必要はない。」との記載が あり、段落【0454】には、抗原結合分子である抗体による「中和」には、PCSK9へのEGFa(LDLRのEGFaドメイン)の結合を、抗体の分子の大きさに基づいて、「立体的に妨害すること」も含まれると説明されている。この段落【0454】も、本件再訂正による訂正の対象とはなっていない。 これらの段落の記載内容も考慮すると、訂正事項2による訂正によって、本件再訂正 すること」も含まれると説明されている。この段落【0454】も、本件再訂正による訂正の対象とはなっていない。 これらの段落の記載内容も考慮すると、訂正事項2による訂正によって、本件再訂正後の段落【0138】の記載が前記のとおりとなったことをもって、中和抗原結合タンパク質又は中和抗体による「中和」が、「リガンドに結合し、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー的変化など)を通じて、リガンドの結合能を変化させることによって」行うものではないこと が、本件再訂正後の本件明細書に記載されていることにはならない。 したがって、訂正事項2により、本件再訂正後の本件特許1の請求項1及び請求項9、本件再訂正後の本件特許2の請求項1及び請求項5における「中和」の意義が直接封鎖する態様に限定され、間接的な手段による態様が「中和」の意義から除かれたと解することはできず、「中和」の意義が限定される ものでないから、訂正事項2は、特許法134条の2第1項ただし書1号の 「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当しない。また、訂正事項2は、同項ただし書の2号から4号までに掲げる事項を目的とするものにも該当しない。 ⑶ 訂正の再抗弁の成否以上によれば、訂正の再抗弁による本件再訂正のうち、訂正事項1及び2 は、特許法134条の2第1項ただし書1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当せず、同項ただし書の2号から4号までに掲げる事項を目的とするものにも該当しないから、同項ただし書の要件を充足しない。 そして、訂正事項1及び2は、本件特許の請求項の全て(本件特許1の特許請求の範囲の請求項1及び9並びに本件特許2の特許請求の範囲の請求項 1及び5)に関する訂正事項である。 控訴人は、第2次各無効審判に係る審 及び2は、本件特許の請求項の全て(本件特許1の特許請求の範囲の請求項1及び9並びに本件特許2の特許請求の範囲の請求項 1及び5)に関する訂正事項である。 控訴人は、第2次各無効審判に係る審判手続において、本件訴訟における訂正の再抗弁による本件再訂正と同内容の訂正請求をしているが、上記説示によれば、本件特許の請求項の全て(本件特許1の特許請求の範囲の請求項1及び9並びに本件特許2の特許請求の範囲の請求項1及び5)に関する訂 正事項である訂正事項1及び2は、訂正の要件を充足しないから、上記訂正請求による訂正(本件再訂正)は認められないものというべきであり、その余の訂正事項について判断するまでもなく、控訴人による訂正の再抗弁は、理由がない。 したがって、本件特許はサポート要件に適合せず(前記2)、特許無効審判 により無効にされるべきもの(特許法104条の3第1項)である。 5 その他、控訴人が縷々主張する内容を検討しても、当審における上記認定判断(原判決引用部分を含む。)は左右されない。 6 結論以上によれば、訂正の再抗弁は理由がなく、本件特許はサポート要件に適合 せず、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであって、その余 の争点について判断するまでもなく、控訴人の被控訴人に対する請求は理由がないから棄却すべきである。そうすると、控訴人の請求を棄却した原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がない。 よって、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 中平健 裁判官 裁判長裁判官 中平健 裁判官今井弘晃 裁判官水野正則 別紙1本件明細書の記載(原判決別紙2に記載のないもの) 【0008】幾つかの実施形態において、本発明は、PCSK9に対する抗原結合タンパク質 を含む。 【0014】幾つかの実施形態において、抗原結合タンパク質は、本明細書中に開示されている抗原結合タンパク質の少なくとも1つによって結合されるエピトープに特異的に結合する。幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、74、 85、71、72、67、87、58、52、51、53、48、54、55、56、49、57、50、91、64、62、89、65、79、80、76、77、78、83、69、81、60及びこれらの幾つかの組み合わせからなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖をさらに含む。幾つかの実施形態において、ABPのアミノ酸配列は、配列番号12、35、23及びこれらの幾つかの組み合わ せからなる群から選択される。幾つかの実施形態において、ABPの重鎖は、配列番号67のCDRH3、配列番号67のCDRH2及び配列番号67のCDRH1を含み、並びに前記軽鎖は配列番号12のCDRL3、配列番号12のCDRL2及び配列番号12のCDRL1を含む。幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒ ト抗体、ヒト化抗体 番号12のCDRL2及び配列番号12のCDRL1を含む。幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒ ト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、多重特異的抗体又はこれらの抗体断片である。 幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、ダイアボディ又は一本鎖抗体分子である。 幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、ヒト抗体である。 幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、モノクローナル抗 体である。幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、IgG 1、IgG2、IgG3又はIgG4型である。幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、IgG4又はIgG2型である。幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、標識基に結合される。幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、PCSK9への結合に関して、本明細書中に記載されている抗原結合タンパク質と競合する。幾つかの実施形態に おいて、単離された抗原結合タンパク質は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、多重特異的抗体又はこれらの抗体断片である。幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、ダイアボディ又は一本鎖抗体分子である。幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク 質は、標識基に結合される。幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、LDLRへのPCSK9の結合を低下させる。幾つかの実施形態において、単離された 離された抗原結合タンパク 質は、標識基に結合される。幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、LDLRへのPCSK9の結合を低下させる。幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、対象に投与されたときに、対象中に存在するLDLの量を減少させる。幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、対象に投与されたときに、対象中に存在する血清コレステロールの量を 減少させる。幾つかの実施形態において、単離された抗原結合タンパク質は、対象に投与されたときに、対象中に存在するLDLRの量を増加させる。 【0140】同じエピトープに対して競合する抗原結合タンパク質(例えば、中和抗原結合タンパク質又は中和抗体)という文脈において使用される場合の「競合する」という 用語は、検査されている抗原結合タンパク質(例えば、抗体又は免疫学的に機能的なその断片)が共通の抗原(例えば、PCSK9又はその断片)への参照抗原結合タンパク質(例えば、リガンド又は参照抗体)の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)アッセイによって測定された抗原結合タンパク質間の競合を意味する。ある抗原結合タンパク質が別の抗原結合タンパク質と競合するかどう かを決定するために、競合的結合アッセイの多数の種類、例えば、固相直接又は間 接ラジオイムノアッセイ(RIA)、固相直接又は間接酵素イムノアッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(例えば、Stahlietal、 1983、 MethodsinEnzymology 9:242-253参照);固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えば、Kirklandetal、 1986、J.Immunol.137:3614-3619参照)、…固相直接ビオチン mology 9:242-253参照);固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えば、Kirklandetal、 1986、J.Immunol.137:3614-3619参照)、…固相直接ビオチン-ア ビジンEIA(例えば、Cheung、 etal.、1990、 Virology 176:546-552参照)…を使用することができる。典型的には、このようなアッセイは、これらの何れかを有する固体表面又はセルに結合された精製抗原、標識されていない検査抗原結合タンパク質及び標識された基準抗原結合タンパク質を使用することを含む。競合的阻害は、検査抗原結合タンパク質の存在下で、 固体表面又はセルに結合された標識の量を測定することによって測定される。通常、検査抗原結合タンパク質は過剰に存在する。競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質(競合抗原結合タンパク質)には、基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質及び立体的妨害が生じるのに、基準抗原結合タンパク質に結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合す る抗原結合タンパク質が含まれる。競合結合を測定するための方法に関するさらなる詳細は、本明細書中の実施例に提供されている。通常、競合抗原結合タンパク質が過剰に存在する場合には、少なくとも40から45%、45から50%、50から55%、55から60%、60から65%、65から70%、70から75%又は75%又はそれ以上、共通の抗原への基準抗原結合タンパク質の特異的結合を阻 害する(例えば、低下させる)。幾つかの事例において、少なくとも80から85%、85から90%、90から95%、95から97%又は97%又はそれ以上、結合が阻害される。 【0454】幾つかの実施形態において、 下させる)。幾つかの事例において、少なくとも80から85%、85から90%、90から95%、95から97%又は97%又はそれ以上、結合が阻害される。 【0454】幾つかの実施形態において、PCSK9の触媒ドメインの構造は、一般に、(図1 9Aに示されているように)三角状として記載することができる。三角の第一の辺 は、31H4によって結合されているものとして示されている。三角の第二の辺は、21B12によって結合されているものとして示されており、三角の第三の辺は、ページの下方向、「図19A」という表示のすぐ上に位置している。幾つかの実施形態において、PCSK9の触媒ドメインの第一及び/又は第二の辺に結合する抗原結合分子は、PCSK9へのEGFaの結合を直接又は立体的に妨害することがで きるので、中和抗体として有用であり得る。当業者によって理解されるように、完全抗体など、抗原結合分子が十分に大きければ、PCSK9へのEGFaの結合を妨害するために、抗原結合分子はEGFa結合部位に直接結合する必要はない。 【図23A】 【図23B】 【図23C】 【図23D】 別紙2本件プレゼンテーション資料

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