平成10(オ)1046 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成14年9月24日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 仙台高等裁判所 秋田支部 平成8(ネ)37
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判決文本文9,378 文字)

主     文        本件上告を棄却する。        上告費用は上告人の負担とする。             理     由  上告代理人内藤徹の上告理由について  1 本件は,がんにより死亡したD(大正2年10月5日生)の相続人である被 上告人らが,上告人が開設し運営する病院の医師がDを末期がんであると診断しな がらその旨を同人又はその妻子である被上告人らに説明しなかったことにより,D 及び被上告人らが精神的苦痛を被ったなどと主張して,慰謝料を請求する事案であ る。原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。  (1) 上告人は,主に成人病に関する諸疾患の調査研究及び診断・治療を行うこ とを目的とする財団法人であり,秋田市内においてA医療センター(以下「本件病 院」という。)を開設し運営している。  平成2,3年当時,Dは,秋田市内において,妻であるB1と2人暮らしであり ,Dの成人した子であるB2,同B3及び同B4は,Dと別居していた。被上告人 B4は,Dの自宅の近所に居住し,同人と日常頻繁な行き来があり,被上告人B2 もDと同じ秋田市内に居住しており,同人が末期がんである旨の後記告知を受ける ことにつき,両被上告人らに格別障害となるべき事情はなかった。Dは,昭和60 年11月ころから,本件病院循環器外来に1,2週間に1度の割合で通院し,虚血 性心疾患,期外収縮及び脳動脈硬化症等の治療を受けていた。  (2) 本件病院において,平成2年10月26日,Dに対する上記疾患等の治療 効果を確認するため,同人の胸部レントゲン撮影がされたところ,肺にコイン様陰 影が認められた。このため,心臓病の担当医は,同年11月9日,当時,E大学医 学部第二内科(循環器系,呼吸器系)講師で,毎週土曜日に本件病院の外来診察を - 1 - 担当していたF医師に,同レントゲ 陰 影が認められた。このため,心臓病の担当医は,同年11月9日,当時,E大学医 学部第二内科(循環器系,呼吸器系)講師で,毎週土曜日に本件病院の外来診察を - 1 - 担当していたF医師に,同レントゲン写真の解読等を依頼した。F医師は,同レン トゲン写真等から,右肺野に小結節,左下肺野にそれよりも小さな結節が数個認め られ,横隔膜角が鈍化し,胸水の貯留(腫瘍性のしん出液がたまるものと理解され ている状態)が考えられたことから,原発巣が別臓器にあるか肺内転移であるか不 明であるが,肺臓における多発性転移巣あるいは転移性の病変があると診断した。  なお,その後の各検査結果等も総合すると,Dは,既に同年10月26日時点で ,病期Ⅳに相当する進行性末期がんにり患しており,救命,延命のための有効な治 療方法はなく,とう痛等に対する対症療法を行うしかない状況にあった。  (3) F医師は,平成2年11月17日,初めてDを診察し,転移性,多発性の がんであって,手術によって治療することは不可能で化学療法も有用とは考えられ ないと判断し,同人の余命は長くて1年程度と予測した。  F医師は,同年12月8日,同月29日及び同3年1月19日にもDを診察して 上記診断内容を確認するなどし,同2年12月29日及び同3年1月19日の診察 時には,前胸部の痛みを訴える同人に対し内服鎮痛剤を投与した。  (4) F医師は,平成2年12月29日のDのカルテに末期がんであろうと記載 した。また,同医師は,同3年1月19日の診察の際,Dから肺の病気はどうかと の質問を受けたが,D本人に末期がんであると告知するのは適当でないと考えてい たことから,前からある胸部の病気が進行している旨を答えた。同医師は,Dの病 状について家族に説明する必要があると考えていたが,本件病院における診察の担 当から外れる見込みがあったこ 当でないと考えてい たことから,前からある胸部の病気が進行している旨を答えた。同医師は,Dの病 状について家族に説明する必要があると考えていたが,本件病院における診察の担 当から外れる見込みがあったことから,同日のカルテに,転移病変につき患者の家 族に何らかの説明が必要である旨の記載をした。  F医師は,Dの家族へ同人の病状を説明するために,上記診察の期間中に,1人 で通院していたDに対し,入院して内視鏡検査を受けるように1度勧めたことがあ ったが,同人は病身の妻と2人暮らしであることを理由にこれを拒んでいた。また - 2 - ,F医師は,Dに対し,診察に家族を同伴するように1度勧めたことがあったが, その家族関係について具体的に尋ねることはなかった。  (5) その後,F医師が本件病院における診察の担当から外れたため,平成3年 2月9日及び同年3月2日,Dは,本件病院で他の医師の診察を受けたが,同医師 は,とう痛対策のための処方を施すだけであった。結果として,F医師を含む本件 病院の医師らは,Dに対して同人が末期がんあるいは末期的疾患である旨の説明を することはなく,また,同人の家族に対して連絡を取るなどして接触することもな かった。  (6) Dは,本件病院に通院し,担当医に胸部の痛みを訴えて治療を受けても, 胸部の痛みが治まらなかったため,平成3年3月5日,被上告人B1が付き添って ,E大学医学部附属病院整形外科を受診し,同科の紹介により,同月12日,同病 院第二内科を受診した結果,末期がんと診断された。同月19日,同科の担当医は ,被上告人B2らを同病院に呼び,同被上告人に対し,Dが末期がんである旨の説 明をした。  (7) Dは,E大学医学部附属病院の紹介により,平成3年3月23日,G病院 に入院し,その後,入退院を繰り返したが,同年10月4日,入院先の同病院にお 人に対し,Dが末期がんである旨の説 明をした。  (7) Dは,E大学医学部附属病院の紹介により,平成3年3月23日,G病院 に入院し,その後,入退院を繰り返したが,同年10月4日,入院先の同病院にお いて,左じん臓がん,骨転移を原因とする肺転移,肺炎により死亡した。Dは,死 亡に至るまで自己が末期がんである旨の説明を受けていなかった。  (8) 本件病院の医師らは,カルテに記載の範囲内でDの家族関係等を把握する ことができた(Dのカルテには,同人の自宅の電話番号や同人が利用していた健康 保険の被保険者である被上告人B2の氏名及びDが同被上告人の父であることなど が記載されていたことは記録上明らかである。)。しかし,Dの家族関係の詳細や 同人の治療に対する家族の協力の見込みは不明であった。もっとも,F医師も,前 記(4)以上には,これらの事実を把握するための措置を講じなかった。 - 3 -  (9) 被上告人らは,本件病院の医師らからDが末期がんにり患している旨の告 知を受けることができていたならば,より多くの時間を同人と過ごすなど,同人の 余命がより充実したものとなるようにできる限りの手厚い配慮をすることができた と考えている。  2 原審は,上記事実関係に基づき,本件病院の医師らは,Dが末期がんである ことにほぼ確信を抱いていたものの,医師の合理的裁量によってD本人にがんであ る旨告知すべきではないと判断していたのであるから,同人にがんである旨を告知 しなかったことをもって債務不履行及び不法行為があったということはできないが ,D本人にがんである旨告知すべきでないと判断した以上,末期がんの患者を担当 する医師として,Dの家族に対する告知の適否について速やかに検討すべき義務が あり,そのためには,Dの家族に関する情報を収集し,必要であればDの家族と直 接接触するなどして, 以上,末期がんの患者を担当 する医師として,Dの家族に対する告知の適否について速やかに検討すべき義務が あり,そのためには,Dの家族に関する情報を収集し,必要であればDの家族と直 接接触するなどして,その適否を判断する義務があったにもかかわらず,これを怠 ったとして,Dに対する債務不履行又は不法行為による慰謝料として合計120万 円の限度で被上告人らの請求を認容した。  論旨は,原審の上記判断を不服とするものである。  3 上記1の事実関係によれば,F医師は,初めてDを診察した平成2年11月 17日に同人が治癒・延命可能性のない末期がんであると判断し,余命は長くて1 年程度であると予測し,その後の診察でその旨を確認したが,D本人にがんである 旨を告知すべきでないと判断したことから,同人にがんであることを察知されない ようにしながら家族へ病状の説明をすべきであると考え,1人で通院していたDに 対し,診察に家族を同伴するように1度勧め,また,Dに対し,内視鏡検査のため として入院を1度勧めたものの,同人が病身の妻と2人暮らしであることを理由に 入院を拒んだことから,それ以上に,家族の同伴を再度強く勧めたり,自ら又は非 常勤である自らに代わる本件病院の適当な補助者を通じて,Dの家族への連絡を試 - 4 - みるなどして,Dの家族と接触しようと努めることもなく,F医師によるDの最後 の診察となった同3年1月19日の時点まで漫然と時日を経過させた上,その後も ,同人の家族に末期がんである旨の説明をしようと試みなかったものである。さら に,F医師が本件病院における診察の担当から外れた後の同年2月9日及び同年3 月2日にDを診察した本件病院の他の医師らも,F医師がDのカルテに転移病変に つき患者の家族に何らかの説明が必要である旨の記載をしていたにもかかわらず, その診察時以降もなお,Dの 年2月9日及び同年3 月2日にDを診察した本件病院の他の医師らも,F医師がDのカルテに転移病変に つき患者の家族に何らかの説明が必要である旨の記載をしていたにもかかわらず, その診察時以降もなお,Dの家族への連絡を試みることもなく,Dの家族に末期が んあるいは末期的疾患である旨の説明をしようとしなかったものである。  ところで,医師は,診療契約上の義務として,患者に対し診断結果,治療方針等 の説明義務を負担する。そして,患者が末期的疾患にり患し余命が限られている旨 の診断をした医師が患者本人にはその旨を告知すべきではないと判断した場合には ,患者本人やその家族にとってのその診断結果の重大性に照らすと,当該医師は, 診療契約に付随する義務として,少なくとも,患者の家族等のうち連絡が容易な者 に対しては接触し,同人又は同人を介して更に接触できた家族等に対する告知の適 否を検討し,告知が適当であると判断できたときには,その診断結果等を説明すべ き義務を負うものといわなければならない。なぜならば,このようにして告知を受 けた家族等の側では,医師側の治療方針を理解した上で,物心両面において患者の 治療を支え,また,患者の余命がより安らかで充実したものとなるように家族等と してのできる限りの手厚い配慮をすることができることになり,適時の告知によっ て行われるであろうこのような家族等の協力と配慮は,患者本人にとって法的保護 に値する利益であるというべきであるからである。  【要旨】これを本件についてみるに,Dの診察をしたF医師は,前記のとおり, 一応はDの家族との接触を図るため,Dに対し,入院を1度勧め,家族を同伴して の来診を1度勧め,あるいはカルテに患者の家族に対する説明が必要である旨を記 - 5 - 載したものの,カルテにおけるDの家族関係の記載を確認することや診察時に定期 的に持 院を1度勧め,家族を同伴して の来診を1度勧め,あるいはカルテに患者の家族に対する説明が必要である旨を記 - 5 - 載したものの,カルテにおけるDの家族関係の記載を確認することや診察時に定期 的に持参される保険証の内容を本件病院の受付担当者に確認させることなどによっ て判明するDの家族に容易に連絡を取ることができたにもかかわらず,その旨の措 置を講ずることなどもせず,また,本件病院の他の医師らは,F医師の残したカル テの記載にもかかわらず,Dの家族等に対する告知の適否を検討するためにDの家 族らに連絡を取るなどして接触しようとはしなかったものである。このようにして ,本件病院の医師らは,Dの家族等と連絡を取らず,Dの家族等への告知の適否を 検討しなかったものであるところ,被上告人B2及び同B4については告知を受け ることにつき格別障害となるべき事情はなかったものであるから,本件病院の医師 らは,連絡の容易な家族として,又は連絡の容易な家族を介して,少なくとも同被 上告人らと接触し,同被上告人らに対する告知の適否を検討すれば,同被上告人ら が告知に適する者であることが判断でき,同被上告人らに対してDの病状等につい て告知することができたものということができる。そうすると,本件病院の医師ら の上記のような対応は,余命が限られていると診断された末期がんにり患している 患者に対するものとして不十分なものであり,同医師らには,患者の家族等と連絡 を取るなどして接触を図り,告知するに適した家族等に対して患者の病状等を告知 すべき義務の違反があったといわざるを得ない。その結果,被上告人らは,平成3 年3月19日にE大学医学部附属病院における告知がされるまでの間,Dが末期が んにり患していることを知り得なかったために,Dがその希望に沿った生活を送れ るようにし,また,被上告人らがより多く ,平成3 年3月19日にE大学医学部附属病院における告知がされるまでの間,Dが末期が んにり患していることを知り得なかったために,Dがその希望に沿った生活を送れ るようにし,また,被上告人らがより多くの時間をDと過ごすなど,同人の余命が より充実したものとなるようにできる限りの手厚い配慮をすることができなかった ものであり,Dは,上告人に対して慰謝料請求権を有するものということができる。  被上告人らの請求を一部認容した原審の判断は,以上と同旨をいうものとして是 認することができる。論旨は,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を - 6 - 非難するか,又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず,採用するこ とができない。  よって,裁判官上田豊三の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文 のとおり判決する。 裁判官上田豊三の反対意見は,次のとおりである。  私は,原判決を破棄し,本件を原審に差し戻すべきであると考える。その理由は 次のとおりである。 本件においては,救命,延命のための有効な治療方法のない,病期Ⅳに相当する進 行性末期がんの患者あるいはその家族に対する末期がんの告知について,診療契約 上,医療機関側はどのような債務を負うのか,あるいは医療機関側にはどのような 注意義務が課されているのかが問題となるのである。そして,上記債務あるいは注 意義務の具体的内容を定めるに当たっては,本件診療契約に基づく診療が行われて いた平成2,3年当時における医療水準に照らして判断すべきである。  本件において提出されている乙第8号証によれば,厚生省は,末期医療のケアに 関する現状,問題点を総括し,末期医療における患者あるいはその家族の要望にこ たえるため,昭和62年7月に末期医療に関するケアの在り方の検討会を設置し, 同検討会は平成元年6月に報告書 末期医療のケアに 関する現状,問題点を総括し,末期医療における患者あるいはその家族の要望にこ たえるため,昭和62年7月に末期医療に関するケアの在り方の検討会を設置し, 同検討会は平成元年6月に報告書をまとめた,同報告書においては,がんによる末 期状態を中心に,告知の在り方,望ましい末期医療のケアの在り方等について提言 を行っている,同報告書の趣旨に沿い,第一線の医療従事者ががん患者の末期医療 を行うに当たっての手引きとなることを目的として,「プライマリ・ケアにおける がん末期医療のケアの在り方研究班」により「がん末期医療に関するケアのマニュ アル」が作成され,厚生省・日本医師会から発行された,というのである。  そして,上記「がん末期医療に関するケアのマニュアル」には,告知について, - 7 - 「患者に末期状態であることを告げると,生きる希望を失ったり,強いショックを 受け精神的に不安定になることなどから,告知の問題は従前より敬遠されてきた。 しかし,告知しないことによる不信を防ぎ,末期患者へのよりよいケアのために, 医師はこの問題を避けず,正面から取り組まねばならない。告知については,一律 にすべての末期患者に行うことが適当なわけではないが,末期状態であることを告 げることの利点は大きく,告げることの得失の評価を適正に行い告知に努力するこ とも重要である。その際,患者の年齢,性別,性格や考え方,家族との関係,社会 的な地位,経験,末期医療に対する患者の意思等個々の状況を十分考慮して対応す べきである。また,表現や告知の時期等にも配慮が必要であり,告知の方法として 直接表現するのでなく『それとなく告げる』,間接的に告げることも一つの表現方 法であろう。」とし,末期状態の告知の際,十分考慮すべき状況として,次の4つ を挙げている。すなわち,第1に,告知の目的がはっきりして するのでなく『それとなく告げる』,間接的に告げることも一つの表現方 法であろう。」とし,末期状態の告知の際,十分考慮すべき状況として,次の4つ を挙げている。すなわち,第1に,告知の目的がはっきりしていること(患者が病 名を知りたいという強い希望のある場合や,告知しないと,仕事や財産,家族のこ となどで問題が生ずる場合,治療を行う上で告げることが必要な場合,患者の精神 的な動揺が強く,告げた方がよいと考えられる場合など,必要性が高い場合には告 知を行う強い要因となる。しかし,告知を望まない患者もあるので,患者とのコミ ュニケーションにより,そうした患者の心理を十分にくみ取ることが必要である。) ,第2に,患者・家族に受容能力があること(不利な状態でも,そのことを冷静に 受けとめ,処理できる理性的な性格や,自分の運命を素直に受容できる性格の場合 は告知を受け入れやすい。心の中に強いかっとうや深い悩みがある状態では,告知 によりかえって混乱を招く。近親者の死を受け入れることができたかどうかも参考 になる。さらに確固たる信仰・思想・死生観を持つ人は,一般的に告知を受け入れ やすい。受容能力があるかどうかを判断する場合には,医師だけでなく,医療チー ムとして検討することが重要である。),第3に,医師及びその他の医療従事者と - 8 - 患者・家族との関係が良いこと(告げる際には,医師及びその他の医療従事者と患 者・家族との間に信頼関係があることが必要である。医師が患者の心理状態を理解 し,患者も医師を信頼する関係が損なわれている状況では,軽々しく告げることは ,患者の不安を強め,精神的な混乱を引き起こし,かえって苦しめることになる。) ,第4に,告知後の患者の精神的ケア,支援ができること(告知に当たっては,医 療従事者及び家族が,告知後の患者の精神的な動揺を支え,患者の悩みや相談に な混乱を引き起こし,かえって苦しめることになる。) ,第4に,告知後の患者の精神的ケア,支援ができること(告知に当たっては,医 療従事者及び家族が,告知後の患者の精神的な動揺を支え,患者の悩みや相談に対 応できることが必すの要件である。無責任に告げることは,告げないことよりさら に悪い結果を招くことにつながる。告知後の患者の精神面でのケアのために,医療 従事者は患者,家族との精神的対応についての話合いが重要である。患者が告知後 の混乱から立ち直り,残された人生を有意義に過ごすための精神面での援助に医師 は率先して努めなければならない。)を挙げている。  また,乙第7号証によれば,日本医師会生命倫理懇談会は,平成2年1月9日, 日本医師会長あてに,「説明と同意」についての報告をまとめて答申しているが, そこには「厚生省・日本医師会は『がん末期医療に関するケアのマニュアル』を発 行し,日本医師会会員に配布した。その中でも,がんの告知の在り方について詳細 に述べている。いずれの提言も重要なものである。がんの告知の際に,その前提条 件として十分考慮すべきことは,次のとおりである。①告知の目的がはっきりして いること,②患者・家族に受容能力があること,③医師及びその他の医療従事者と 患者・家族との関係が良いこと,④告知後の患者の精神的ケア,支援ができること ,これらの前提条件が整っている場合に限り,『がん告知』を行うべきことを,十 分に知るべきである。」と記載している,というのである。  平成2,3年当時における末期がんの告知に関する医療水準がどのようなもので あったかを検討するに当たっては,上記の「がん末期医療に関するケアのマニュア ル」を十分にしんしゃくすべきである(なお,この場合,医療機関側において,末 - 9 - 期がんの告知につき患者の家族に受容能力があるかどうか,医師及び ては,上記の「がん末期医療に関するケアのマニュア ル」を十分にしんしゃくすべきである(なお,この場合,医療機関側において,末 - 9 - 期がんの告知につき患者の家族に受容能力があるかどうか,医師及びその他の医療 従事者と患者の家族との関係が良いかどうかを判断するに当たっては,家族の状況 等を承知する必要があるわけであるが,そのためには患者側において家族を医療機 関へ同道するなど医療機関に対し協力することが必要となると解すべきである。)。  しかるに,原審はこの点に関する検討が不十分であるため,平成2,3年当時に おける末期がんの告知に関する医療水準を明らかにし,これに照らして,末期がん の告知につき,診療契約上,医療機関側がどのような債務を負うのか,あるいは医 療機関側にどのような注意義務が課せられるのかを明らかにしていないが,これは ,重要な法律問題についての解釈を誤ったものといわざるを得ない。  そこで,原判決を破棄し,上記の点を明らかにした上,上告人に診療契約に基づ く債務不履行があるのかどうか,また注意義務に違反する点があるのかどうかを審 理判断させるため,本件を原審に差し戻すべきである。 (裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田 豊三) - 10 -

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