主文 被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,知人のAから家業のための事業資金を借りていたところ,約定の期限が到来しても返済することができなかったことから,借入金の返済を一時的に逃れるため,第1同女らが居住する家屋に放火しようと決意し,平成14年3月19日午前1時40分ころ岡山県B郡C町大字D番地所在の同女方木造瓦葺2階建家屋床,(面積合計約154.25平方メートル)に,2階ベランダの無施錠の出入口から侵入し,同女ら夫婦が就寝中の2階寝室前において,タッパーウエア内に注入した灯油に浸したペーパーウエスに所携のマッチで点火して放火した上,これを同寝室入り口の柱に接近した廊下床板上に置いて炎上させ,その炎を同寝室前廊下の床板及び前記柱等に燃え移らせ,よって,同女及びその家族が現に住居に使用している同家屋の前記床板及び前記柱等床面積合計約0.37平方メートルを焼損し,第2同女の使用する普通乗用自動車に火を点けて損壊しようと決意し,同日午後2時10分ころ,同町大字E番地所在のF町営駐車場において,同女所有の普通乗用自動車(時価約80万円相当)の後部ハッチドアを開け,トランク内の小物入れの上に置いてあったタオルに,ガソリン1リットルが入った所携のオイル缶からガソリンを振りかけた上,これに所携のマッチで点火して炎上させた上,ガソリンが残留している前記オイル缶をトランク内に放置し,同車の後部座席の背もたれ,天井等を燃やして同車を使用不能にし,もって他人の器物を損壊し,第3同女らが居住する家屋に放火しようと決意し,同月18日午前2時ころ,前記第1記載の同女方に,1階台所の無施錠の出入口から侵入し,同家屋台所において,出窓の棚に置かれたプラスチック製調味料入れにタオ 同女らが居住する家屋に放火しようと決意し,同月18日午前2時ころ,前記第1記載の同女方に,1階台所の無施錠の出入口から侵入し,同家屋台所において,出窓の棚に置かれたプラスチック製調味料入れにタオル地様の布巾をかぶせ,その上にガスコンロの火で着火させた所携のペーパーウエスを置いて,,,放火し前記布巾やその下の調味料入れを燃え上がらせた上出窓上部の横木天井等に燃え移らせて同女及びその家族が現に住居に使用している同家屋を焼損しようとしたが,同女がこれに気付いて消火したため,その目的を遂げなかったものである。 (証拠の標目)省略(法令の適用)被告人の判示第1の所為のうち,住居侵入の点は刑法130条前段に,現住建造物等放火の点は同法108条に,判示第2の所為は同法261条に,判示第3の所為のうち住居侵入の点は同法130条前段に,現住建造物等放火未遂の点は同法112条,108条にそれぞれ該当するが,判示第1の住居侵入と現住建造物等放火及び判示第3の住居侵入と現住建造物等放火未遂との間にはいずれも手段結果の関係があるので,それぞれ同法54条1項後段,10条により1罪として重い,判示第1の罪については現住建造物等放火罪の刑で,判示第3の罪については現住建造物等放火未遂罪の刑でそれぞれ処断することとし,各所定刑中判示第1及び判示第3の各罪についてはいずれも有期懲役刑を,判示第2の罪については懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役5年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中150日をその刑に算入することとする。 (量刑の理由)本件は,住居侵入2件,現住建造物等放火1件,同未遂1件,火 加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役5年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中150日をその刑に算入することとする。 (量刑の理由)本件は,住居侵入2件,現住建造物等放火1件,同未遂1件,火力による自動車の器物損壊1件の事案である。 犯行全体について検討するに,いずれの犯行も,同一被害者の身辺を狙った3回にわたる連続した犯行であること,犯行が順次被害者に近接したところで行われるようになっていること,犯行の動機は,単に知人であるということだけで合計980万円もの金を貸してくれた恩義ある被害者に対し,格別激しい取り立てを受けたわけでもなく,また過去には返済の繰り延べを了承してもらったこともあるにもかかわらず,借金の返済を一時的に免れるため,重大な危険性を顧みず犯行に及び,いわば恩を仇で返したこと,建物の被害金額は1058万円余りに及ぶが,現段階では十分な被害弁償もなく,当面は困難であること,被害感情が厳しいこと等が認められる。 また,判示第1及び第3の各犯行について検討するに,犯行現場は,G港に沿って建ち並ぶ旧来からの住宅密集地の奥まった場所にあり,北側隣屋との距離は30センチメートル,南側隣屋との距離は1.35メートル,東側には幅員1.9メートルの町道を隔てて一般住宅が建ち並び,西側は1.3ないし1.4メートルの余地を残して高さ3.3メートルのブロック壁(上部はブロック塀)がそびえて高台となり,路地を隔て民家が建ち並ぶ場所に位置するところ,被告人は,被害者らが寝静まった深夜に,わざわざ被害者方に侵入して内部から火を放ったものであり,一歩間違えば被害者ら一家はもちろんのこと,近隣にも延焼して死傷者が出る可能,。 ,性は高かったといえ被害者ら及び地域住民らに及ぼした危険性は大きいことに判示第1の犯行では,被害者らが寝ている寝室の前 違えば被害者ら一家はもちろんのこと,近隣にも延焼して死傷者が出る可能,。 ,性は高かったといえ被害者ら及び地域住民らに及ぼした危険性は大きいことに判示第1の犯行では,被害者らが寝ている寝室の前で火を放ったこと,灯油を使用したことが危険性を高めており,また,判示第3の犯行でも,ガス管のすぐそばで火を点けたことからすると重大な結果を生ずる危険性は少なくなかったこと等が認められる。 判示第2の犯行についても,被害者が現に乗車している自動車を損壊したものであること,消火活動の際,被害者は両手指熱傷(2度)により通院加療約14日間を要する負傷をしたこと,ガソリンタンクのそばで,ガソリンを使用して火を放ったこと,被害金額は約80万円にのぼること等が認められる。 ,,,以上の事実及び関係各証拠からすれば各行為の危険性は明らかで犯情は悪く被告人の刑責は軽視できない。 しかしながら,判示第1の焼損被害面積は小さく,判示第3の犯行は未遂に終わったこと,判示第2の犯行の際には,乗車中の被害者に車から火が出たことを犯行直後に告げ,被害者が直ちに降車しており,被害者に直接危害を加える意図を有していたとまでは認められないこと,家族が被害弁償の努力をしており,合計120万円を被害者らに提供していること,ともかくも反省する旨述べており,家族も更生への協力を約束していること,本件犯行の遠因は,夫と共に営んでいた漁船のエンジン取り付け,修理等をする鉄工所の不振等から金策に窮するに至ったものであって,そのこと自体は被告人一人の責任とはいえず,被告人は,一人で事業の資金繰りを担当し,夫にも相談できず,他の相談相手もないまま悩み,心理的に追いつめられるに至ったもので,そのこと自体は同情の余地がないではないこと,被告人には前科がないこと,家族らの努力により多数の嘆願書が を担当し,夫にも相談できず,他の相談相手もないまま悩み,心理的に追いつめられるに至ったもので,そのこと自体は同情の余地がないではないこと,被告人には前科がないこと,家族らの努力により多数の嘆願書が作成されたこと等被告人に有利に斟酌すべき事実も認められる。 そこで,諸般の事情を総合考慮した上,主文の刑が相当であると判断した。 平成14年10月23日岡山地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官榎本巧裁判官中川綾子裁判官足立堅太
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