- 1 -令和4年5月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年(ワ)第2098号負担金交付請求事件口頭弁論終結日令和4年2月25日判決主文 1 被告は、原告に対し、3380万2000円及びこれに対する令和元年10月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は、仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求主文第1項に同旨第2 事案の概要本件は、原告が開催し運営する芸術祭である「あいちトリエンナーレ2019」について、地方公共団体である被告が、原告に対する負担金を交付する旨 の決定をしたにもかかわらず、その後、事情の変更により特別の必要が生じたとして一方的に負担金額を減額変更し、当初の決定に係る金額との差額分の支払を拒んでいるとして、原告が、被告に対し、負担金交付請求権に基づき、上記差額分である3380万2000円及びこれに対する支払期限の翌日である令和元年10月19日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による 改正前の法)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認めることができる事実)⑴ 当事者ア原告 原告は、あいちトリエンナーレの準備及び開催運営等を行う団体であり、 - 2 -権利能力なき社団である。その目的は、あいちトリエンナーレの準備及び開催運営等を行うことにより、新たな芸術の創造・発信により世界の文化芸術の発展に貢献すること、現代芸術等の普及・教育により文化芸術の日常生活への浸透を図ること、文化芸術活動の活発化により地域の魅力の向上 営等を行うことにより、新たな芸術の創造・発信により世界の文化芸術の発展に貢献すること、現代芸術等の普及・教育により文化芸術の日常生活への浸透を図ること、文化芸術活動の活発化により地域の魅力の向上を図ることとしている。 原告は、その規約である「あいちトリエンナーレ実行委員会規約」(甲1。以下「本件規約」という。)において、委員(5条)のほか、役員を置き(6条1項)、代表者会長には愛知県知事を、会長代行には名古屋市長を充てる旨定めている(6条2、3項)。原告の組織構成の概要は、以下のとおりである。 原告の芸術部門には、「芸術監督」、「企画アドバイザー」、「キュレーター」及び「コンサルタント」が置かれている。 「芸術監督」は、本件芸術祭の学芸業務の最高責任者であり、本件芸術祭のテーマ、コンセプトの決定、企画推進体制の決定、現代美術展に関する作家の選定等の企画内容の決定、本件芸術祭全体の方向性 や展開イメージに関する助言等を行う(甲8・146頁)。なお、あいちトリエンナーレでは、毎回異なる芸術監督を選任しており、2010年開催時には国立国際美術館館長を、2013年開催時には都市・建築学を専門とする大学教授を、2016年開催時には写真家・著述家兼映像人類学を専門とする大学教授を選任した(甲8・128 頁、乙1・91頁)。 「キュレーター」(本件当時は国際展のキュレーター歴任者や美術館学芸員などを含む8名。甲11・8頁)は、芸術監督の指揮に基づいて学芸業務を行う。チーフ・キュレーターは芸術監督を補佐し、現代美術等の全般的な調整、キュレーターミーティングの開催、作品や展示のプ ランの調整等のキュレーション業務(キュレーションとは、プレゼンテ - 3 -ーション等により、鑑賞者の作品に対 代美術等の全般的な調整、キュレーターミーティングの開催、作品や展示のプ ランの調整等のキュレーション業務(キュレーションとは、プレゼンテ - 3 -ーション等により、鑑賞者の作品に対する理解を促したり、思想に対する批評や提案を行ったりすることである。甲8・158頁参照)、広報を含む学芸部門全体についての検討・進行管理並びに芸術監督、キュレーター及び原告間の調整等の業務を行う(甲8・146頁)。 「運営会議」は、原告の意思決定機関であり、芸術監督の選任、本件 芸術祭のテーマ、コンセプトの決定、事業計画の決定、予算の決定等を行う。運営会議は、会長(愛知県知事)、会長代行(名古屋市長)、副会長2名及び委員20名の合計24名で構成される。本件当時の委員には、愛知県内だけでなく、東北から中国地方までの各地に所在する者が含まれている。 原告の組織上の役職については、愛知県知事が原告の会長を、愛知県民文化局長が原告運営会議の委員を、愛知県県民文化局文化部長が原告幹事会の幹事を、愛知県芸術文化センター長が原告事務局長を、愛知県美術館長が原告参与を、愛知県トリエンナーレ推進室長が原告事務局次長を兼務するなど、愛知県の職員が原告の主要な役職を兼務している。 (以上~につき甲8・159、161頁)イ被告被告は地方公共団体であり、後記のとおり、原告に対する負担金を交付する旨の決定をした。 ウ原告代表者等 原告代表者会長A(以下「原告会長」という。)は、本件当時の愛知県知事である。 B(以下「原告事務局次長」という。)は、本件で問題となっている「あいちトリエンナーレ2019」(以下「本件芸術祭」という。)の事務全般を愛知県において統括する愛知県県民文化局文化部文化芸術課あい 以下「原告事務局次長」という。)は、本件で問題となっている「あいちトリエンナーレ2019」(以下「本件芸術祭」という。)の事務全般を愛知県において統括する愛知県県民文化局文化部文化芸術課あい ちトリエンナーレ推進室の室長であり、当時の原告の事務局次長として、 - 4 -原告における事務の処理にも当たっていた者である(甲27)。 エ被告代表者等被告代表者市長C(以下「被告市長」という。)は、本件当時の名古屋市長であり、原告の会長代行である。 D(以下「被告室長」という。)は、本件当時の、被告の担当部署であ る名古屋市観光文化交流局文化歴史まちづくり部文化振興室(以下「被告の文化振興室」という。)の室長であり、被告において本件芸術祭に関係する事務全般に携わっていた者である。また、被告室長の上司は、文化歴史まちづくり部長、観光文化交流局長及び被告市長である。(乙31)⑵ あいちトリエンナーレの概要(甲11、甲22資料2・右下に「3」とあ る画面。以下、同資料についてはこの数字を頁数として記載する。)アあいちトリエンナーレ「あいちトリエンナーレ」は、愛知県が、2005年の愛知万博の理念と財産を継承し、国内外に対し、県の経済、産業、文化及び芸術の成果を広く発信する目的で、2010年から3年ごとに開催されている国内最大 規模の国際芸術祭であり、新たな芸術の創造・発信により世界の文化芸術の発展に貢献すること、現代芸術等の普及・教育により文化芸術の日常生活への浸透を図ること、文化芸術活動の活発化により地域の魅力の向上を図ることを目的としている。また、毎回、100組程度のアーティストが参加しており、うち約半数は海外アーティストである。あいちトリエンナ ーレは、他の地域で開催されているトリ 地域の魅力の向上を図ることを目的としている。また、毎回、100組程度のアーティストが参加しており、うち約半数は海外アーティストである。あいちトリエンナ ーレは、他の地域で開催されているトリエンナーレに比べ、芸術監督が強いテーマ性をもって作家や作品を選定することにより、先端的なアートを世界に発信し、現代社会への問題提起や都市の魅力を再発見する場としての役割を果たしてきた。 イ本件で問題となっているあいちトリエンナーレ2019 4回目の開催である「あいちトリエンナーレ2019」(本件芸術祭) - 5 -は、令和元年8月1日から同年10月14日までの間、愛知県立美術館を含む愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市内の街中(四間道、円頓寺)、豊田市美術館及び豊田市駅周辺を主な会場として、国内外のアーティストによる展示やパフォーマンスを行う企画であり、予算規模は約12億円で、計93組のアーティストが参加した(甲22資料2・8、1 0、11頁)。企画数は計106で(甲8・93頁)、その内容は、現代美術(国際現代美術展、映像プログラム)、舞台(パフォーミングアーツ、音楽プログラム)、ラーニング(来場者参加型の創作活動や、アーティストを愛知県内の学校に派遣する企画等)、連携事業など多岐にわたる。本件芸術祭は、過去3回の成功実績の上に、政治・ジャーナリズムとアート の融合という先端領域に挑戦するものとして企画され、芸術監督に、ジャーナリストのE(以下、「芸術監督」というときは同人を指す。)を選出した(甲7・86頁)。 この中で国際現代美術展は、本件芸術祭の大きな企画の一つであり、国内外の60組程度のアーティスト・団体の作品を展示し、最先端の現代美 術を紹介する美術展である。この美術展では、愛知県 頁)。 この中で国際現代美術展は、本件芸術祭の大きな企画の一つであり、国内外の60組程度のアーティスト・団体の作品を展示し、最先端の現代美 術を紹介する美術展である。この美術展では、愛知県美術館を含む愛知県芸術文化センターを中心に、名古屋市美術館、名古屋市内の街中、豊田市で広域に作品が展示された。 ウ本件芸術祭の収支令和元年度の収支計算書(乙15の3)によれば、原告の本件芸術祭の 事業収入のうち、予算段階ではその76%、決算段階では65%を、愛知県及び名古屋市(被告)の負担金が占めている。 また、2010年、2013年、2016年のあいちトリエンナーレ開催時においては、事業収入のうち約70%から80%を愛知県及び名古屋市(被告)の負担金が占めており、このうち約80%を愛知県が、約2 0%を名古屋市(被告)が負担していた(乙1・91頁参照)。 - 6 -⑶ 「表現の不自由展・その後」の概要(甲8・65、132頁)ア本件で問題となっている「表現の不自由展・その後」「表現の不自由展・その後」(以下「本件不自由展」という。)は、本件芸術祭における国際現代美術展の企画の一つであり、愛知県美術館ギャラリー展示室で行われた(甲7・9頁)。平成27年(2015年)に東 京都練馬区の民間ギャラリーFで開催された「表現の不自由展消されたものたち」(日本における「言論と表現の自由」が脅かされているのではないかという危機意識から、慰安婦問題、天皇と戦争、植民地支配、憲法9条、政権批判などをテーマとした作品で、近年、公共の施設で展示することが不許可となった作品を集め、展示不許可となった理由とともにこれ らを展示した展覧会。なお、15日間で2700人が来場した。以下「2015年の不自由展 た作品で、近年、公共の施設で展示することが不許可となった作品を集め、展示不許可となった理由とともにこれ らを展示した展覧会。なお、15日間で2700人が来場した。以下「2015年の不自由展」という。)の「その後」と位置付け、そこで扱われた作品の「その後」に加え、平成27年以降、新たに公立美術館等で展示不許可になった作品を、その不許可になった理由とともに展示する企画である。本件不自由展では、計23作品が展示され、2015年の不自由展 よりも大規模な展示会となった。もっとも、公立美術館等で展示が禁止されたことがないものや、新作が数点含まれていた。 イ本件不自由展の予算や展示面積本件不自由展の予算は420万円で(実際に要した経費は約2300万円であった。乙28・10頁)、これは本件芸術祭のうちの国際現代美術 展の事業費の0.57%(本件芸術祭の総事業費の0.3%)、展示面積の0.83%を占めるにすぎないものであった(甲8・51、74、155頁)。 ⑷ 表現の不自由展実行委員会本件不自由展は、本件芸術祭の多くの展示とは異なり、原告が、5名の委 員から成る「表現の不自由展実行委員会」(以下「不自由展実行委員会」と - 7 -いう。)に対して出展を委託する展覧会内展覧会である(原告と個々の作家との間に直接の契約関係は存在しない。)。不自由展実行委員会の委員は、G、H、I、J及びKの5名であり、いずれも2015年の不自由展を開催した団体のメンバーである。不自由展実行委員会による展示は、表現の自由をめぐる状況に思いを馳せ、議論のきっかけとすることを目的とするものと されている。本件では、芸術監督が、2015年の不自由展を評価して本件芸術祭の企画の一つとすることを発案し、不自由展実行委員会のメン 状況に思いを馳せ、議論のきっかけとすることを目的とするものと されている。本件では、芸術監督が、2015年の不自由展を評価して本件芸術祭の企画の一つとすることを発案し、不自由展実行委員会のメンバーに話を持ち掛けたことによって、開催することが決定した。 原告は、令和元年7月1日、不自由展実行委員会と、契約金額を225万7000円として、本件不自由展に関する業務委託契約を締結した。 (以上につき、甲7・85頁、甲8・23、64、65頁、甲10)⑸ 事実経過の概要原告は、被告に対して、平成31年4月1日、本件芸術祭に係る経費の執行のために、1億7102万4000円の負担金(以下「本件負担金」という。)の交付申請を行った(甲2)。 被告は、同月16日、上記金額の負担金を計3回に分けて交付する旨を決定し(以下「本件負担金交付決定」という。)、原告に書面でその旨通知した(甲3。以下「本件交付決定通知書」という。)。本件交付決定通知書には、交付の条件として、「負担金の交付決定後、事情の変更により特別の必要が生じたとき」は、負担金の全部又は一部を取り消すことができる旨の定 めがある。 被告は、本件芸術祭が開幕するまでに、原告に対し、負担金決定額のうち平成31年4月26日に6524万6000円、令和元年7月19日に7197万6000円と、合計1億3722万2000円を交付した。 令和元年8月1日、本件芸術祭及び本件不自由展が開幕した。原告事務局 及び県庁には、本件不自由展に展示された作品に対する多数の抗議電話、メ - 8 -ール、FAX 文書が殺到し、中には、ガソリンを用いたテロを実行することなどの犯罪を予告するものもあった。原告会長は、このままでは来場者の安全等を確保することが困難で 抗議電話、メ - 8 -ール、FAX 文書が殺到し、中には、ガソリンを用いたテロを実行することなどの犯罪を予告するものもあった。原告会長は、このままでは来場者の安全等を確保することが困難であると判断し、同月3日、本件不自由展の展示を中止したが、その後、アーティストらからの抗議活動が相次いだことや、県が設置した検証委員会(以下「県の検証委員会」という。)による検討結果 等を踏まえ、本件芸術祭の閉幕(同年10月14日)直前である同年10月8日、本件不自由展の展示を再開した。原告会長は、本件不自由展の中止及び再開を決定するに当たり、運営会議を開催しなかった。 被告は、「負担金の交付決定後、事情の変更により特別の必要が生じたとき」に該当する事由があるため、負担金額を1億3722万2000円に減 額する旨決定したとして、原告に対し、令和2年3月27日付で、その旨通知し(甲5)、当初の交付決定額との差額である3380万2000円の支払を拒んだ。 原告会長は、同年4月20日、運営会議の各委員に対し、同月30日を回答の期限として、原告が、被告に対し、被告が支払を拒んでいる上記差額分 の支払を求める訴えを提起することを議案として、書面表決の依頼を行った(丙1・1、2丁)。 原告は、書面表決により上記議案が可決した(以下「本件書面表決」という。)として、同年5月21日、被告に対し、上記差額分の支払を求めて本件訴訟を提起した。 ⑹ 抗議が殺到した作品の概要本件不自由展においては、以下の三つの作品に抗議が殺到した。 ア 「平和の少女像」(L外1名作) L及びM(以下「N夫妻」という。)の作品である「平和の少女像」(以下「O作品」という。)は、いわゆる従軍慰安婦像のレプリカであ した。 ア 「平和の少女像」(L外1名作) L及びM(以下「N夫妻」という。)の作品である「平和の少女像」(以下「O作品」という。)は、いわゆる従軍慰安婦像のレプリカであ る。N夫妻は、戦争のない、女性と子供が搾取されない平和な世界を - 9 -テーマにした作品を制作する作家であり、例えばベトナム戦争時の韓国軍の民間人虐殺をテーマにした作品等を制作している。 本件不自由展において展示された作品は、ブロンズ製のミニチュア像及び繊維強化プラスチック製の等身大像の計2点であり、2015年の不自由展において展示されたものと同一の作品である。各像の隣に は空席の椅子が設置されている(乙1・69頁参照)。ミニチュア像は、2012年に、東京都美術館において、政治的表現であり同美術館運営規定に抵触するとして展示中止とされたことを理由に、また、等身大像は、ソウルの日本大使館前に設置されているものと同型で、日本政府が撤去を要求していることを理由に、本件不自由展の出品対 象作品とされた。本件不自由展では、等身大像の足元に設置された碑文及び展示室壁面に設置された英字キャプションの計2か所に、「JapaneseMilitarySexualSlavery」との記述がある(なお、同記述は、不自由展実行委員会が和文原稿を執筆し、原告がその英訳を翻訳家に依頼し、その後、不自由展実行委員会が校正作業を行ったものであ る。)。 いわゆる従軍慰安婦像は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、中国、ドイツ、台湾及び香港の計12か所に設置されており(さらに今後設置が計画されているものもある。)、フェミニズムや人権運動の象徴とされている。また、韓国では、各地に設置され、いわゆる民衆美術 として 、台湾及び香港の計12か所に設置されており(さらに今後設置が計画されているものもある。)、フェミニズムや人権運動の象徴とされている。また、韓国では、各地に設置され、いわゆる民衆美術 として、また、民族統合のシンボルとして広く親しまれている。一方で、反日的な政治団体が反日の象徴として利用しているとも指摘されており、2017年12月、フィリピン歴史委員会がマニラに設置した像が日本政府の抗議により、また、2018年12月、フィリピンのサンペドロ市に設置された像が日本大使館の抗議により、それぞれ 撤去されている。また、ドイツのベルリンでは、韓国系の市民団体が - 10 -地元当局の許可を得た上で2019年に公有地に像を設置したのに対し、日本政府が撤去を求めていたところ、地元当局は、2020年10月、国家間の歴史的な問題について一方の側の立場に立つことは避けるべきであるとして、設置の許可を取り消した。 (以上につき甲8・59、61、69、136~138頁、乙14) イ 「遠近を抱えて PartⅡ」(P作) Pの作品である「遠近を抱えて PartⅡ」(以下「Q映像作品」という。)は、同作家の版画作品である「遠近を抱えて」とともに、その関連資料との位置づけで展示された計20分の新作の映像作品である。 版画作品である「遠近を抱えて」は、昭和天皇の写真と裸婦像などを コラージュさせた版画作品である。もともとは14組の版画作品であり、2015年の不自由展では、うち1作品が展示された。本件不自由展では、4作品が展示される予定であった(なお、展示スペースの関係上、2作品ずつ2回に分けて展示される予定であった。)。「遠近を抱えて」は、かつて富山県立近代美術館(当時)が所蔵し、同美 術館の は、4作品が展示される予定であった(なお、展示スペースの関係上、2作品ずつ2回に分けて展示される予定であった。)。「遠近を抱えて」は、かつて富山県立近代美術館(当時)が所蔵し、同美 術館の展覧会において展示されたものの、2名の県議会議員から不快であるなどと糾弾されたことをきっかけに、右翼団体が大規模かつ組織的な抗議運動を展開した。同美術館は、直ちに同作品を非公開とし、7年後に館外に売却し、展覧会の図録を焼却したため、同非公開処分や図録の焼却処分等をめぐって、Pらが同美術館を相手取って訴訟を 提起した。また、「遠近を抱えて」は、その後、沖縄の県立美術館でも展示が拒否されている。(甲8・63、132頁、甲20・15頁) Q映像作品は、当初はその存在自体が知られていなかったが、令和元年5月8日、Pが新作の映像作品を本件不自由展に出品する意向であることが明らかになり、最終的に、版画作品の関連資料との位置づけ で出品されることとなった(なお、新作であるため、それまで公立美 - 11 -術館等で展示不許可とされたことはない。)。その内容は、約20分の映像のうち、多くの部分は、いわゆる従軍看護婦として戦場に赴くこととなった女性の心境の描写や、イメージ映像等であるが、一部に複数回にわたって挿入される形で、昭和天皇の写真を用いたP作成の版画作品(前記)をバーナーで焼却し、残った灰を足で踏む映像が 含まれている。上記従軍看護婦に関する描写やイメージ映像は、P作成の過去の映画作品から抜き出したものであり、昭和天皇の写真を用いた版画作品をバーナーで燃やしたり灰を足で踏んだりする映像も、翌年公開予定の新作の映画作品から抜き出したものであった。(甲8・12、57、70、71頁) ウ 「時代の肖像―絶 を用いた版画作品をバーナーで燃やしたり灰を足で踏んだりする映像も、翌年公開予定の新作の映画作品から抜き出したものであった。(甲8・12、57、70、71頁) ウ 「時代の肖像―絶滅危惧種 idiotJAPONICA 円墳―」(R作) 彫刻家であるRの作品である「時代の肖像―絶滅危惧種 idiotJAPONICA 円墳―」(以下「S作品」という。)は、かまくらのような形をした竹細工で、全面に新聞記事等が貼付されている。貼付された新聞記事等の主な内容は、靖国神社参拝や憲法9条改憲を批判す るもので、作品の外側上部には寄せ書きが施された日章旗が、内部の底面には星条旗が貼り付けられている。 S作品は、2015年の不自由展においても、資料展示という形で展示された作品である。平成26年(2014年)に東京都美術館で開催された現代日本彫刻作家展において、美術館側から、政治的な宣伝 になりかねない作品であり、特定の政党、宗教について支持又は反対するものに施設の使用を認めない旨規定する同美術館の運営要綱に反するものとして、撤去を求められたが、作家と美術展の協議の結果、作品中の表現の一部を削除した上で展示された。 (以上につき甲8・133頁、甲15、18) 2 争点 - 12 -⑴ 本件書面表決は、本件規約13条8項の「会長が必要と認める場合」の要件を満たすか(本案前の争点)⑵ 本件書面表決は定足数要件を満たすか(本案前の争点)⑶ 被告は「事情の変更により特別の必要が生じたとき」に該当するとして本件負担金の支払を拒むことができるか(本案の争点) 3 争点についての当事者の主張⑴ 争点⑴(本件書面表決は、本件規約13条8項の「会長が必要と認める場合」の要件 に該当するとして本件負担金の支払を拒むことができるか(本案の争点) 3 争点についての当事者の主張⑴ 争点⑴(本件書面表決は、本件規約13条8項の「会長が必要と認める場合」の要件を満たすか・本案前の争点)について(被告の主張)本件訴訟提起は、本件書面表決に基づいてなされているところ、本件規約 13条8項は、「会長が必要と認める場合」に運営会議に代わる書面表決を認めている。もっとも、会議体による意思決定は、熟議を通じた意思形成が行われることによって正統性が付与されるところ、書面表決は、会合を開催せず、十分な審理、討議を省略して最終的な意思決定を行うものである。したがって、原告の重要事項に関する団体意思を形成するに当たっては、運営 会議の決議による意思決定が原則であり、書面表決は例外的な手続として、討議等の省略を正当化するに足りる合理的な根拠がある場合に限られるべきであり、その必要性については、厳格に限定解釈されるべきである。 原告の収支は、本件訴訟において請求されている負担金の支払がなかった場合でも、約4600万円の黒字が見込まれているから(丙3・2丁参 照。)、早期に本件訴訟を提起してまでその支払を受けなければ、資金不足を生じて第三者への債務の弁済に窮する等の事態が生じる状況ではない。したがって、原告会長が本件書面表決を行うとした令和2年4月20日時点においては、本件負担金の支払について、運営会議の開催及び審議等の手続の省略を正当化するに足りる必要性、緊急性などは全くなかったのであるから、 原告は、運営会議を開催して、本件負担金不払の理由について被告に説明さ - 13 -せる機会を設けたうえで、十分な議論を行うべきであった。 これに対し、原告は、新型コロナウイルス 、 原告は、運営会議を開催して、本件負担金不払の理由について被告に説明さ - 13 -せる機会を設けたうえで、十分な議論を行うべきであった。 これに対し、原告は、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、会議を開催することができなかった旨主張する。しかし、本件訴訟を提起するか否かは、原告において慎重な審議が求められる重要事項であるところ、上記のとおり、緊急に判断しなければならない必要性はなかった。新型コロナウイ ルスに伴う緊急事態が落ち着いた後、感染拡大防止措置を講じながら運営会議を開催することは十分に可能であった。したがって、原告が主張する事情は、被告市長が運営会議の場で説明する機会を奪う正当な理由になり得ない。 以上より、本件書面表決は、「会長が必要と認める場合」の要件を欠いており、本件訴えは、必要な授権を欠き不適法であるから、却下されるべきで ある。 (原告の主張)本件規約を一見すれば明らかなとおり、13条8項は、会長の判断に相当な裁量を認めており、その判断が社会通念上著しく妥当性を欠き裁量の逸脱、濫用と認められない限り、書面決議を行ったことは違法とはならない。 本件では、適正な手続を経て決定された本件負担金が支払われないという不当かつ不公正な状態を本来あるべき姿に是正し、正常な決算を行うために本件訴訟を速やかに提起する必要があった。 また、原告会長が本件書面表決を行うとした令和2年4月20日の時点における新型コロナウイルスに関する状況として、感染者が日々増加し、国が 7都道府県に緊急事態宣言を発し、愛知県も同月10日に独自の緊急事態宣言を発出するなど、外出や移動を自粛することが強く要請されている状況であった。運営会議の構成員は、愛知県内だけではなく関東に所在する者 道府県に緊急事態宣言を発し、愛知県も同月10日に独自の緊急事態宣言を発出するなど、外出や移動を自粛することが強く要請されている状況であった。運営会議の構成員は、愛知県内だけではなく関東に所在する者も相当数おり、仮に運営会議を開催する場合には、県をまたぐ移動が必要であった。原告会長は、そのような中、本件書面表決を行うことが必要であると認 めたのであって、その判断が社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量を逸脱、 - 14 -濫用したといえないことは明らかである。 被告は、原告の決算が黒字になることが見込まれていたから、早期に本件訴訟を提起する必要はないと主張するが、本件規約13条8項は、会長が必要と認める場合に書面表決を行うことができる旨を定めており、被告が主張するような緊急性は要件ではない。また、法人税、法人県民税、法人市民税 の納付期限は事業年度終了日の翌日から起算して2か月以内であるところ、原告は3月末が事業年度の終了日であるから(甲1・19条)、5月末が申告、納付の期限である。しかし、令和2年3月27日付けで、被告から負担金の支払を拒む旨の通知を受領したため、原告が適切に申告、納付を行うためには、早期に決算を確定させる必要があり、本件訴訟を提起することによ って、債権であることを早期に確定させておく必要があった。 ⑵ 争点⑵(本件書面表決は定足数要件を満たすか・本案前の争点)について(被告の主張)書面表決は運営会議に代わるものであるから、その定足数要件も運営会議に準じて考えるべきである。本件規約13条5項によれば、運営会議は構成 員の3分の2以上の出席をもって成立するとされており、原告の運営会議は24名で構成されているから、書面決議における議決に必要な定足数は16票である。本件書 13条5項によれば、運営会議は構成 員の3分の2以上の出席をもって成立するとされており、原告の運営会議は24名で構成されているから、書面決議における議決に必要な定足数は16票である。本件書面表決の結果は、賛成14票、反対0票、棄権7票、未回答3票であるところ、棄権票と未回答票は表決に参加したとはいえないから、本件書面表決に参加したのは14票であり、定足数を満たさない。 原告は、上記棄権票をいずれも参加に含めて理解し、定足数要件を充足している旨主張する。しかし、本件の負担金不払については、本件芸術祭の主催者の中核を担う地方自治体同士の意見が対立しており、被告に対する提訴についても慎重な議論が求められることからすれば、棄権票を投じた委員の合理的意思解釈としては、審議を経ることなしには賛成票にも反対票にも投 じたくない、つまり表決自体に参加しない旨の意見を表明したものと解する - 15 -べきである。原告の会長が愛知県知事であることからすれば、棄権と記載した上で儀礼的に表決書を返送することも十分考えられるから、表決書が返送されたことのみをもって、表決に参加する意思を有していたとはいえない。 そもそも、本件の表決書には、議案について賛否の意思表示がない場合は賛成として扱う旨の記載(いわゆる「みなし記載」)がある。このような棄権 の自由(表決に参加しない自由)を侵害する(丙8の神戸地裁尼崎支部昭和50年12月26日の裁判例を参照)表決書に、あえて棄権する旨記載して返送した委員の意思を合理的に解釈すれば、表決に参加することを拒否する意思を表明したものと解するべきである。 したがって、本件の書面表決に参加した委員の数は、賛成票を投じた14 票にとどまり、定足数である16票に満たないから、本件書面表決は定足数 を拒否する意思を表明したものと解するべきである。 したがって、本件の書面表決に参加した委員の数は、賛成票を投じた14 票にとどまり、定足数である16票に満たないから、本件書面表決は定足数要件を欠き、無効である。したがって、原告代表者(原告会長)は、訴訟を追行するための授権を得ておらず、本件訴えは不適法である。 (原告の主張)棄権票は、表決に参加していると解するべきであるから、本件書面表決は、 定足数である16名(票)を超える委員が参加しており、有効である。 被告は、棄権票を投じた7名の委員を参加者に含めるべきでないと主張する。しかし、同委員らは表決書を返送しなかったのではなく、棄権する旨の自らの意思を表決書に明記した上で原告に返送しているのだから、表決に参加しつつ、自らの賛否の意思を表明することを棄権した者に該当することが 明らかである。したがって、棄権票は参加に含めるべきであり、本件書面表決は定足数を満たすから有効であって、本件訴訟提起も適法である。 ⑶ 争点⑶(被告は「事情の変更により特別の必要が生じたとき」に該当するとして本負担金の支払を拒むことができるか・本案の争点)について(被告の主張) ア主張の概要 - 16 -本件負担金交付決定では、「負担金の交付決定後、事情の変更により特別の必要が生じたとき」に、交付決定額を変更することができる旨が留保されている(本件交付決定通知書「3 交付の条件」⑷)。これは、契約締結時の前提となった事情がその後大きく変化したことにより、当初の契約どおりに履行させることが当事者間の公平に反する結果となる 場合に、契約の解除又はその改定を認める法理である信義則の表れである。したがって、上記文言の解釈に当たっては、同じく信 より、当初の契約どおりに履行させることが当事者間の公平に反する結果となる 場合に、契約の解除又はその改定を認める法理である信義則の表れである。したがって、上記文言の解釈に当たっては、同じく信義則の法理である事情変更の原則の要件を類推して考えるべきである。そして、本件負担金の交付条件は、公益適合性、合目的性の観点から規定されたものであるから、その判断は市長の合理的な裁量に委ねられるべきである。 本件は、以下に述べるとおり、契約締結時の前提となった事情がその後大きく変化し、当初の契約どおりに履行させることが当事者間の公平に反するから、「負担金の交付決定後、事情の変更により特別の必要が生じたとき」に該当するとした被告市長の判断は、合理的な根拠があり、広汎な裁量の範囲内のものである。 なお、本件訴訟の形式的な争点は以上のようなものであるが、実質的には、公金支出の責任者である地方公共団体の長(被告市長)が、公共事業として著しく不適切と評価した本件芸術祭に対して公金を支出することの適正さについて、名古屋市民に説明することができず、支給決定の維持が不適切・不合理であると判断したことの適否である。 そして、本件負担金については、一定の公益適合性・合目的性の観点から規定された交付条件(甲3参照)や、被告が定めた名古屋市芸術文化団体活動助成補助金交付要綱(乙3の1)及び運用方針(乙3の2)の趣旨を充足することを条件として支給されるものであるところ、このような公益適合性・合目的性の評価・判断は、本来的に市長の合理的な 裁量に委ねられるべき性質の評価・判断である。それゆえ、公益適合 - 17 -性・合目的性の評価・判断の当否については、裁量権の逸脱・濫用が認められない限りは、被告市長の判断が最大限に尊重される 量に委ねられるべき性質の評価・判断である。それゆえ、公益適合 - 17 -性・合目的性の評価・判断の当否については、裁量権の逸脱・濫用が認められない限りは、被告市長の判断が最大限に尊重されるべきである。 その上で、争点⑶に関しては、①本件芸術祭が公共事業か、②本件不自由展のハラスメント性、③本件不自由展の政治的中立性、④報告義務懈怠の有無、⑤運営会議開催義務懈怠の有無が重要な問題となる。被告 が本件負担金の額の変更決定を行った理由は、地方自治体の長である被告市長が、公共事業不適合性の観点からのハラスメント性と政治的偏向の問題があると評価し、かつ、手続的にも、事前に本件不自由展の問題性に関して情報提供がなかったこと、再三にわたる運営会議開催の要請にもかかわらず、原告会長がこれに応じず、すべて独善・独断で決定し たことが重大な規約違反に該当すると評価したからである。これらの各理由は総合的に評価されるべきであり、換言すれば、これらの諸事情が重畳的・累積的に認められたことで、本件負担金の不支給決定の正当性を強固なものにしているというべきである。各理由の個別的な程度評価の如何が直ちに本件負担金の額の変更決定の適法性に係る結論を左右す るものではない。 イ本件芸術祭の公共事業性本件芸術祭は、原告が主催者とされているものの、その実態は、地方公共団体である愛知県と名古屋市(被告)の共催であり、愛知県の公共事業として実施されたものである。このことは、①愛知県が年間数億円規 模の原告の負担金収入を確保していること、②あいちトリエンナーレは、平成17年に開催された公共事業である愛知万博を継承する趣旨で、3年ごとに国際芸術祭を開催するものであり、原告は、その開催運営を目的として設立されたものであること、③原 、②あいちトリエンナーレは、平成17年に開催された公共事業である愛知万博を継承する趣旨で、3年ごとに国際芸術祭を開催するものであり、原告は、その開催運営を目的として設立されたものであること、③原告の事務局は愛知県の県民文化局の中に設置されており(本件規約4条1号、17条2項)、本件芸 術祭の準備、運営に多くの県職員が主体的、中心的に携わっていること - 18 -などから明らかである。加えて、④原告の会長は愛知県知事が、会長代行には名古屋市長(被告市長)が充てられ、原告の要職を愛知県職員が独占している。さらに、⑤本件芸術祭の準備が主要な業務となる平成30年度の原告の収支予算によれば、事業費、維持費の収入はいずれも愛知県及び名古屋市の公金によって賄われており(乙1・27~29頁)、 欠損金が出た場合も地方公共団体である愛知県が負担することが議論されていた(乙18・13頁)。これらの事情からすれば、本件芸術祭が、実質的には愛知県の事業として実施された公共事業であることは明らかである。 ウ展示作品がハラスメントに該当すること 本件不自由展で展示された作品の中には、愛知県民、名古屋市民に限らず、多くの鑑賞者に甚だしい不快感や嫌悪の情を催させるという意味で、「県民が親しみやすい祝祭的な展開を図る」、「多くの人々に親しまれる」という本件芸術祭の理念に正面から反する、いわばハラスメント(他者に対する発言、行動等が、本人の意図には関係なく、 相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたりすること。乙20の1・2)ともいうべき作品が少なからず展示されていた。 たとえば、Q映像作品は、昭和天皇の肖像写真をバーナーで執拗に燃やし、その灰を靴で踏みつける場景を含む作品である。天皇は、いうまでもなく ともいうべき作品が少なからず展示されていた。 たとえば、Q映像作品は、昭和天皇の肖像写真をバーナーで執拗に燃やし、その灰を靴で踏みつける場景を含む作品である。天皇は、いうまでもなく日本及び日本国民統合の象徴であるところ、上記のような 描写は、日本の象徴に対する激しい憎悪に満ちた攻撃、暴力、破壊をモチーフとし、人間の尊厳をも冒すものである。したがって、たとえその芸術性について作者がいかなる弁明をしようとも、また、いかなるキュレーションが施されようとも、公共事業における展示物として著しく適正さを欠いている。また、公共事業の一環として県立美術館 の中で展示することは、主催者である愛知県及び名古屋市が、その表 - 19 -現に含まれる政治的主張を後押ししているかのような印象を与える。 本作品を見た圧倒的多数の国民及び名古屋市民が、その政治的立場の如何に関わらず、その忌まわしさに激しい不快感、嫌悪感を覚え、心が深く傷つけられることは自明の理であり、この意味で、本作品を展示すること自体がハラスメントに該当することは明らかである。 また、O作品についていえば、いわゆる従軍慰安婦問題は、新聞社が、捏造した虚報を全世界に向けて大々的に、何度も繰り返し発信し続けたことにより、韓国をはじめとする全世界の人々に、あたかも慰安婦の強制連行が歴史的事実であるかのように誤解され、信じ込まれてしまったものである。これによって、日本及び日本国民は著しい国辱を 受けた。このような歴史的背景の下、いわゆる従軍慰安婦像は、今日においても、特に韓国国民が旧日本軍による戦争被害を訴える際の象徴的存在として、反日感情をかきたてる目的で作成され続け、ソウルの日本大使館前や、プサンの日本総領事館前などに設置されていることは 日においても、特に韓国国民が旧日本軍による戦争被害を訴える際の象徴的存在として、反日感情をかきたてる目的で作成され続け、ソウルの日本大使館前や、プサンの日本総領事館前などに設置されていることは周知の事実である。N夫妻が、偏向した歴史認識の下に、政治的 主張を込めてO作品を作成したことは、O作品の足元に設置された碑文及び壁面の英字キャプションに、「JapaneseMilitarySexualSlavery(日本の性奴隷)」との記述があることからも明らかである。以上からすれば、O作品は、日本国及び日本国民を侮辱するものであり、著しく不快な思いを抱かせるから、特に愛知県民にとっては、県民税を用 いて県立美術館で展示されること自体がハラスメントに該当する。また、このような作品の是非をめぐって世論が分断されてしまうといった社会的弊害も懸念される。 S作品については、この作品を見た多くの日本国民及び名古屋市民は、先の戦争で、神風特別攻撃隊として犠牲になった方々を含む旧日本軍 兵士への侮辱、愚弄の意味を含む作品であると認識する。また、底面 - 20 -には、尻に敷かれるようにして星条旗が置かれているから、アメリカの国民からは、国旗(星条旗)に対する侮辱であると受け取られる可能性もある。このような意味で、S作品は、その制作、展示自体が、外国国章汚損罪(刑法92条)、同幇助罪(同62条)に該当する疑いもあり、公立美術館での展示物として、甚だ不適切である。 以上のとおり、これらの作品は、相手の尊厳を傷つけたり、不快にしたり、精神的苦痛を与えたりするものであり、ハラスメント作品に該当する。このことは、現に、O作品の展示が写真入りで報道された令和元年7月31日以降、原告事務局及び被告事務局に を傷つけたり、不快にしたり、精神的苦痛を与えたりするものであり、ハラスメント作品に該当する。このことは、現に、O作品の展示が写真入りで報道された令和元年7月31日以降、原告事務局及び被告事務局に抗議が殺到し、通常の業務を行うことができなくなったことからも明白である。 そして、公衆に嫌悪の情を催させるような行為が軽犯罪法1条20号で処罰されていることに照らせば、公立美術館において、嫌悪の情を公衆に催させる作品を展示することが違法であることは明らかである。 また、上記の作品は、愛知県芸術文化センター条例の委任立法と考えられる愛知県美術館ギャラリー展示室利用受付許可要領が、展示を許 可しないものと定める「鑑賞者に著しく不快感を与えるなど、公安、衛生法規に触れるおそれのある作品」にも該当し、展示が禁止される作品である。そうすると、地方公共団体である被告が、このような展示を負担金の支出によって助成することは、地方財政法2条、4条、地方自治法1条の2等の法令に違反することになる。 エ政治的中立性を欠き、公共事業に不適合であること 地方公共団体が主催者として実施する事業に政治的中立性が求められることは、憲法15条2項に基づく基本原則である。そして、公共事業として公金を用いて実施される本件芸術祭にもこの原則が妥当する。 このことは、地方公務員法36条、29条が政治的行為を制限し、名 古屋市芸術文化団体活動助成補助金交付要綱(乙3の1)が、その運 - 21 -用指針(乙3の2)において、「政治的団体」を補助の対象から除外し、補助対象事業の要件の一つに「政治的意図のないもの」を含んでいることに照らしても、当然である。 また、本件芸術祭が公共事業であることからすれば、公共機関が、政治 的団体」を補助の対象から除外し、補助対象事業の要件の一つに「政治的意図のないもの」を含んでいることに照らしても、当然である。 また、本件芸術祭が公共事業であることからすれば、公共機関が、政治的に偏向した表現活動を容認することで、これを後押しする政治 的効果や機能が生じることとなり、いわゆる裏書効果が生じる。このことは、被告が設置した検証委員会のT委員も指摘するとおりである(乙27・15頁)。もとより、言論に対する制限の場合と異なり、言論に対する援助の場合は、表現の自由は妥当しない。 被告が特に問題視するQ映像作品、O作品及びS作品の3作品は、い ずれも、共通して、反日ヘイトないし反日プロパガンダと理解される作品であり、そのような意味で、一方向に偏向した政治的意図が含まれていることは明らかである。また、本件不自由展では、上記3作品のほかにも、これらと同一方向に偏向しているとみられる作品が展示され、展示スペースの大半が、これらの反日ヘイト、反日プロパガン ダであると統一的に理解される作品群で占められていた。配置の方向等も鑑賞者の目に留まりやすいものであった。このような展示が不適切であることは、本件不自由展開幕当初から、原告事務局、愛知県庁及び被告の文化振興室が激烈な抗議にさらされ、「芸術の名を借りた政治(あるいは反日)プロパガンダ」、「展示が政治的に偏向」して いる、「本件不自由展はヘイトそのものだ」などと批判されたこと、県の検証委員会の副座長であるU大学教授が、自身のツイッターで、本件不自由展について、政治的プロパガンダや左翼的企画とみられるリスクがあることが明らかであった旨を指摘していること(甲8・455頁)、また、県の検証委員会の中間報告書(甲7・60頁)や被 告が設置した検証委員 、政治的プロパガンダや左翼的企画とみられるリスクがあることが明らかであった旨を指摘していること(甲8・455頁)、また、県の検証委員会の中間報告書(甲7・60頁)や被 告が設置した検証委員会での議論(乙27・7頁)において、政治的 - 22 -に偏向していた旨が指摘されていることからしても、明らかである。 なお、原告は、本件不自由展の総事業費や展示面積に占める割合が小さいものであることを強調し、本件不自由展は本件芸術祭の目玉ではないと主張する。しかし、マスメディアの扱いは本件不自由展一辺倒であり(乙9、10)、芸術監督自身が、通常ではありえない判断と譲歩 (甲7・9頁)と評される思い入れと熱意をもって本件不自由展の企画、実現に尽力していた。また、本件不自由展開幕後は、多数の鑑賞者からの批判や抗議が殺到し、中止後は海外アーティストのボイコットの動きが生じるなど、その社会的反響は絶大であった。したがって、本件不自由展こそが、本件芸術祭における中核的な企画(目玉)であったことは 明らかである。 そして、不自由展実行委員会の構成員5名は、いずれも、美術の専門家ではなく、いわゆる左翼系メディアに登場するジャーナリストないし左翼系活動家として知られている。特に、Kは、昭和天皇を、強姦等の人道に対する罪を含む多数の戦争犯罪で断罪し、屈辱的なさらし 者にすることを企図した民衆法廷を取材し、政治的に著しく偏向した報道番組を放映させようとしたことで物議を醸した著名人である。また、Jは、反天皇制活動家として知られる人物である。これらの諸事情については、原告事務局の責任者も、本件不自由展の開催当時、既に知っていたことを認めている(原告事務局次長・20頁)。そして、 アートの専門家でもない芸術監督においては である。これらの諸事情については、原告事務局の責任者も、本件不自由展の開催当時、既に知っていたことを認めている(原告事務局次長・20頁)。そして、 アートの専門家でもない芸術監督においては、本件不自由展を企画するに当たって、真っ先にKに連絡を取っていたし、明らかに混乱をもたらすと予見できるQ映像作品について、不自由展実行委員会及び作家だけとの間で話を進め、キュレーターチーム、原告事務局及び原告会長に対しては、事前に通報や相談を一切しなかったのだから、一種 の確信犯的にQ映像作品を使って社会騒動を惹起したことが明らかで - 23 -ある。 したがって、このような展示に負担金を支出することは、被告の政治的中立性を害するものであって、到底許されない。 オ原告が被告に対する事前の報告義務を懈怠したこと 本件交付決定通知書(甲3)は、「本件芸術祭の遂行が困難」となっ た場合は、速やかに被告市長に報告するとともに、その指示を受ける義務がある旨を定めている(「3 交付の条件」⑶)。この規定の趣旨は、その事業遂行の困難が部分的なものであっても、負担金交付の趣旨(芸術活動の支援)に照らし、当然に報告義務を課すものである。 また、本件芸術祭の理念に反する作品展示が行われようとしていると き、それが直ちに上記の交付条件に該当しなくても、本件芸術祭の公共事業性に鑑みれば、被告及び愛知県(共同主催者)と原告との関係は、実質的にみて準委任的な関係にあるといえるから(デザイン博に関する判例等である最高裁平成12年(行ヒ)第96号、同第97号同16年7月13日第三小法廷判決・民集58巻5号1368頁(乙17の1) 及び名古屋高裁平成17年10月26日判決(乙17の2)を参照)、原告には準委任 成12年(行ヒ)第96号、同第97号同16年7月13日第三小法廷判決・民集58巻5号1368頁(乙17の1) 及び名古屋高裁平成17年10月26日判決(乙17の2)を参照)、原告には準委任契約に基づく善管注意義務の一環としての報告義務があるといえる。 したがって、原告会長及び原告事務局は、公共事業として不適合、不適切な内容の展示がされることを覚知したときは、共同主催者である被 告に対し、上記交付条件又は準委任契約上の善管注意義務に基づき、その実情ないし公益不適合性の程度を、被告が理解できるように報告する義務を負う。しかし、本件不自由展は、前記のとおり、強烈なハラスメント効果を有する作品を含み、かつ、展示全体が反日の方向に著しく偏っていて政治的中立性に反し、公共事業として適合性、適格性を欠いて いたのに、被告市長にはこのことが全く知らされていなかった。 - 24 - 仮に原告から情報提供を受けていれば、被告としては、不自由展そのものが本件芸術祭の理念に根本的に反することを理由に、運営会議を通じて、最初から中止を強く働きかけるか、少なくともQ映像作品、O作品及びS作品等のハラスメント性、政治性の強い作品については、本件芸術祭から排除するよう、原告会長に強く働きかけたはずである。 原告は、事前に、被告に対し、プレスリリース(甲11。平成31年3月27日交付)や展示予定作品一覧(乙1・35~37頁。令和元年7月22日交付)を提示したことをもって、上記報告義務の懈怠がないと主張する。しかしながら、プレスリリースは、本件不自由展の概略を数行で抽象的に紹介するに過ぎず、このような紹介記事だけで は、上記ハラスメント性等は全く想定することができない。また、上記展示予定作品一覧について ら、プレスリリースは、本件不自由展の概略を数行で抽象的に紹介するに過ぎず、このような紹介記事だけで は、上記ハラスメント性等は全く想定することができない。また、上記展示予定作品一覧についても、これを見ただけでは上記ハラスメント性や政治的中立性を害することを認識、理解することは困難であるし、そもそもQ映像作品については、上記作品リストから意図的に除外されていた。 この点、O作品の実物展示については、開催直前ではあったものの、原告から、被告の事務局に対し、事前に報告があったのは事実である。 しかしながら、被告の事務局としては、原告会長がO作品の実物展示にこだわっており、既に愛知県の方針として決定している旨の報告を受けていたことに加え、原告会長の意向については外部に秘匿してほ しいとの申出も受けたことから、その情報提供を非公式なものと理解せざるを得ず、被告市長に報告することができなかった。そもそも原告会長は、O作品の展示の是非や方法を、芸術監督との間でのみ相談し、また、本件不自由展開幕後に生じた混乱についても、運営会議の開催をかたくなに拒み続け、共同主催者である被告市長との交渉や協 議を全面的に拒み、芸術監督の意向だけを確認し、独断で中止を決定 - 25 -した。このような原告会長の態度からすれば、被告や名古屋市民の代表者である被告市長の意向は端から眼中になかったといわざるを得ない。原告会長には、会場警備について警察と相談せざるを得ないレベルの危機管理上の問題を有する作品群が展示されることについて、原告や運営会議の委員に対して事前に報告し、その了解を取り付けてお こうという危機管理の意識が欠如している。民主主義的な協調性も欠落していたことは明らかである。加えて、原告担当者においては、O作品の背景 会議の委員に対して事前に報告し、その了解を取り付けてお こうという危機管理の意識が欠如している。民主主義的な協調性も欠落していたことは明らかである。加えて、原告担当者においては、O作品の背景にある歴史的事実や、被告が特に問題視する3作品について、証人尋問においても「分かりません」とか、「別に問題がないと思った」などと述べており、報告義務の前提となる問題意識がおよそ 欠落していたといわざるを得ない。 以上のように、O作品についても、原告による誠実な報告があったとはいえず、また、正式な報告があったともいえない。 被告の担当者としては、本件不自由展の展示においては、専門のキュレーターが就いて、それ相応のキュレーションが当然に施されるものと 理解していたのに、現実には、キュレーターと原告事務局は本件不自由展の準備にほとんど参加せず、芸術監督と不自由展実行委員会だけで準備を行っていた。したがって、原告担当者による上記の報告では、本件不自由展の公共事業としての不適格性が正しく被告側に伝達されたとはいえない。不十分なキュレーションが行われたことにより、共同主催者 である被告の合理的期待は著しく裏切られた。原告会長も、テレビ報道等で、不自由展実行委員会による展示が「契約違反」である旨を公言し、自認している(乙30別紙2)。原告会長が述べるように本件不自由展の内容が「契約違反」であるならば、共同主催者である被告との関係でも「契約違反」というべきであって、本件負担金の支払を拒む正当な理 由になることは明らかである。 - 26 - 以上のとおり、原告会長や原告事務局は、危機管理上の重大な事実をあらかじめ覚知していながら、これを共同主催者である被告に事前に報告せず、被告の関与を事実上排除、排斥したもので 26 - 以上のとおり、原告会長や原告事務局は、危機管理上の重大な事実をあらかじめ覚知していながら、これを共同主催者である被告に事前に報告せず、被告の関与を事実上排除、排斥したものである。このような事情は、被告が原告に対する本件負担金の支払を拒む上で、十分に合理的で、正当な根拠であるというべきである。 カ原告が運営会議を開催する義務を懈怠したこと 本件規約13条は、原告の運営に関する重要な事項については、原告会長が運営会議を召集し、審議と決議を行うべき旨を規定している。 ところが、原告会長は、O作品等について、あらかじめ危機管理上の重大な事態の発生が想定されたにもかかわらず、被告市長に知らせず、 運営会議を開催しなかった。また、本件不自由展を中止するに当たっても、原告会長は事前に被告市長にこれを知らせず、また、運営会議も開催しないまま、その独断で中止を決定した。さらに、中止した本件不自由展を再開するに当たっても、被告市長からの再三にわたる運営会議開催の要請にもかかわらず、原告会長はこれを無視し続け、運 営会議を開催しないまま、その独断で再開を決定した。これらにみられる原告会長の独善的な運営は、本件規約を完全に無視するものであり、極めて重大かつ背信的な本件規約違反である。特に、本件不自由展の再開に当たって被告市長の申入れを無視し続けた点は、共同主催者である被告を本件芸術祭の運営から排除、排斥した行為であって、 法治主義の基本原則を踏みにじる暴挙である。 被告市長は、本件芸術祭が開幕した翌日に、原告会長に対し、本件不自由展の作品が日本国民の心を踏みにじるものであり、行政の立場を超えた展示が行われている旨を厳重に抗議した。その上で、被告市長は、以後、再三にわたって運営会議の開 した翌日に、原告会長に対し、本件不自由展の作品が日本国民の心を踏みにじるものであり、行政の立場を超えた展示が行われている旨を厳重に抗議した。その上で、被告市長は、以後、再三にわたって運営会議の開催を要求したのであり、原 告会長は、これに応じて運営会議を召集する義務があったというべき - 27 -である。そして、仮に原告会長が運営会議を開催していれば、本件不自由展が公共事業としての適合性を欠くことを理由に、本件不自由展全体の中止又は一部の作品の排除をすることができたはずである。 原告は、運営会議を開催しなかった理由として、県の検証委員会による調査、報告が必要であったと主張する。しかし、運営会議の構成員 には、各界の良識ある名士や芸術に関する学識経験者が多く含まれており(乙1・14頁)、公益の代表性や専門性が十分に確保されているから、そこで検証を行うことは可能である。したがって、原告会長としては、本件規約どおり運営会議を召集し、審議すべきは当然の職責であって、検証委員会のような規約外の審議機関を組織しなければ ならない理由はない。本件不自由展については、開幕当初から激しい抗議が殺到して、原告会長の責任を問う声も出ていた(甲8・38、39頁)。その一方で、中止に対しては、本件不自由展のみならず、本件芸術祭全体の出展作家からの反対意見の表明や、ボイコットの動きまで出てきて、海外メディア等からも批判されていたから(甲7・ 24~26頁)、原告会長は、両者からの板挟みの状態であった。このように進退窮まった状況に追い込まれていたことに加え、被告市長からの批判に対して検閲に該当するなどと誤った憲法解釈に基づく発言をしていた手前、原告会長は、本件不自由展の再開を強行することで事態を打開しようとしていたので に追い込まれていたことに加え、被告市長からの批判に対して検閲に該当するなどと誤った憲法解釈に基づく発言をしていた手前、原告会長は、本件不自由展の再開を強行することで事態を打開しようとしていたのであり、その方針を正当化させる方 便として県の検証委員会を設立したことは明白である。実際、県の検証委員会の中間報告では、「条件が整い次第、すみやかに(本件不自由展を)再開すべきである」などと勧告されているが、その根拠は全く不明である。 したがって、このような県の検証委員会の調査、審理が、運営会議 を召集することの妨げになり得ないことは明らかである。 - 28 -キその他の事情本件不自由展の作品のうちでも、最もハラスメント性が強いのはQ映像作品であり、本件芸術祭の理念及び標語である「県民が親しみやすい祝祭的な展開」、「地域の文化芸術の活性化」及び「地域の魅力向上」に著しく反している。ところが、芸術監督は、このような作品が展示されること を知悉していながら、これを主催者側に秘匿して、一種の確信犯的な判断をもって展示を敢行した。このことは、本件芸術祭の開幕以前に報道されたインターネット番組(乙12・5頁以下)で、芸術監督が「おそらくみんな全然気づいてないけど、これが一番やばい企画なんですよ。おそらく、政治的に。」などと発言していることから明白である。このような重大な 背信的行為については、県の検証委員会の報告書においても痛烈に批判、糾弾されている(甲7・62、63頁)。こうした芸術監督の行為は補助金詐欺ともいうべきものであり、被告の補助金交付要綱16条3号に定める「偽りその他不正な手段」(乙3の1)に相当する行為である。したがって、原告においては、本件負担金の全部又は一部の取消しや返還を受忍 いうべきものであり、被告の補助金交付要綱16条3号に定める「偽りその他不正な手段」(乙3の1)に相当する行為である。したがって、原告においては、本件負担金の全部又は一部の取消しや返還を受忍 すべき立場にあるというべきである。 ク小括以上のとおり、本件不自由展は、内容面においてハラスメント性が強く、政治的中立性を欠いており、公共事業としての適合性に著しく反していた。 また、手続面においても、原告から被告に対し、危機管理上の重大な事実 が事前に知らされず、また、原告会長が、被告の意向を全く無視して独断で運営を行った。さらに、芸術監督においても、確信犯的な背信的行為が認められる。 これらの事情を総合すれば、様々な重要問題が重畳的、累積的に存在する本件芸術祭に対して公金を支出することについて、市民の理解が得られ るとは到底考えられない。したがって、本件負担金の支出が著しく不適切 - 29 -であるとの評価の下、不支給条件である「事情の変更により特別の必要が生じたとき」に該当するとした被告市長の判断に不合理な点はない。 よって、被告市長による本件負担金の減額変更は適法であるから、本件負担金のうち、原告の請求に係る部分の支払義務は消滅した。原告の請求には理由がない。 (原告の主張)以下に述べるとおり、被告の主張する抗弁が成立しないことは明らかである。 ア事情変更の原則の考え方まず、事情変更の原則の基本的な考え方について述べると、同原則は、 契約の拘束力という私法上の大原則の例外に位置付けられるものであるから、急激な社会変革や災害等により事業遂行・目的達成が不可能となったというような事情変更等、極めて例外的な場合にのみ適用が問題となり得るものである。そのため、最高裁が 外に位置付けられるものであるから、急激な社会変革や災害等により事業遂行・目的達成が不可能となったというような事情変更等、極めて例外的な場合にのみ適用が問題となり得るものである。そのため、最高裁が事情変更の原則の適用を認めた事案は、これまで一つも存在していない。このことは、地方公共団体 が当事者となっている事案においても変わるところがない。 上記の考え方を踏まえ、被告が本件において掲げる事情変更の原則の各要件、すなわち、①事情の変更、②予見可能性の不存在、③帰責事由の不存在の各要件についての考え方を、以下で述べる。 まず、事情の変更の要件については、判例上、契約の基礎となった客 観的な事情に関する変更が必要とされており、個人的な事情の変更では足りないとされている。一般的には、戦争の勃発、大災害の発生、ハイパーインフレの進行等が想定されているところ、本件における以下の事情を踏まえれば、そもそも被告が本件負担金交付決定をする基礎となった客観的な事情は何ら変更していない。 ① 本件負担金は、本件不自由展に対するものではなく、本件芸術祭全 - 30 -体に対するものである。そして、本件不自由展の予算等が本件芸術祭全体の総事業費に占める割合、本件芸術祭のうちの国際現代美術展全体の事業費及び展示面積に占める割合は、いずれも極めて小さいものである。 ② 本件芸術祭については、本件不自由展の中止等があったものの、総 数で67万人もの来場者(前回を10%以上も上回る。)を集め、本件芸術祭全体については大きな問題なく開催され、好評のうちに終了しており、総じて成功したとされている(甲8)。 ③ 本件不自由展においては、2015年の不自由展で展示されたものと同一のもの、類似のもの、発展させたものが展示されることが事前 、好評のうちに終了しており、総じて成功したとされている(甲8)。 ③ 本件不自由展においては、2015年の不自由展で展示されたものと同一のもの、類似のもの、発展させたものが展示されることが事前 に決まっており(甲11)、実際にこれらのものが展示された。 ④ 本件不自由展の趣旨、現代アート・現代美術の特性からすれば、展示の内容に対して政治部門が介入(口出し)すべきではない。 ⑤ 本件規約においては原告会長の専決処分が規定されており、原告会長は、本件規約に従って本件不自由展の中止、再開について専決処分 を行っている。 次に、事情の変更についての予見可能性に関しては、判例上、厳格に判断されている。本件についていえば、大前提として、そもそも芸術と政治は切り離すことができない。しかも、被告は、本件負担金交付決定をする段階で、プレスリリース(甲11)や新聞報道を確認しており、 本件不自由展において、2015年の不自由展で展示されたものと類似のものあるいは発展させたもの、若しくは政治的主張(特に慰安婦問題、天皇と戦争問題、憲法9条問題)が含まれる作品が展示されることを明確に認識していた。仮に被告が個別具体的な作品の内容、形状等を子細に把握していなかったとしても、予見可能性に欠けるところはない。 帰責事由の不存在については、戦争、大災害、著しいインフレ、法令 - 31 -の変更等が具体例として挙げられるが、本件においてはこれらの事情は存在しない。 事情変更の原則が認められる根拠にいう契約への拘束の著しい不当とは、同原則が信義則の適用場面であることに鑑みて、当初の契約内容に当事者を拘束することが信義則上著しく不当であると認められることが 必要である。本件の場合、前記及び等の事情がある以上、本件負担 、同原則が信義則の適用場面であることに鑑みて、当初の契約内容に当事者を拘束することが信義則上著しく不当であると認められることが 必要である。本件の場合、前記及び等の事情がある以上、本件負担金交付決定に従って負担金を交付することが、被告にとって信義則上著しく不当であるとは認められないことは明らかである。 なお、被告は、事情変更の原則の適用の判断においても被告が地方公共団体であることに由来する広範な裁量が妥当し、同原則の適用の判断 が緩められるかのような主張もしているが、失当である。契約の一方当事者が地方公共団体であることや、公共性があることは、事情変更の原則の適用において考慮されるべきことではないというのが最高裁の確立した立場であり、被告が名古屋市という地方公共団体であるからといって、事情変更の原則の適用の判断が緩められることはあり得ない。 仮に被告が主張するように被告の判断に広範な裁量が認められるとしても、やはり本件で事情変更の原則の適用が認められる余地はない。前記のとおり、本件ではそもそも前提となる客観的な基礎事情は変更されていないし、若干の変更があったとの評価が妥当するとしても、その変更は軽微なものにとどまっており、被告が予見可能であったといえるか ら、裁量論を云々するまでもなく、事情変更の原則の適用を肯定する前提を欠いているからである。 イ本件芸術祭が公共事業であるとの主張について被告は、本件芸術祭が公共事業であることを主張する。しかし、本件芸術祭の主催者は原告であって、愛知県や名古屋市(被告)ではない。原 告は権利能力なき社団であって、地方公共団体ではない。したがって、 - 32 -本件芸術祭が公共事業でないことは明らかである。確かに、愛知県や名古屋市が本件芸 屋市(被告)ではない。原 告は権利能力なき社団であって、地方公共団体ではない。したがって、 - 32 -本件芸術祭が公共事業でないことは明らかである。確かに、愛知県や名古屋市が本件芸術祭に金銭を支出していることは事実であるし、原告会長が愛知県知事、会長代行が名古屋市長であることも事実である。また、原告事務局が愛知県の県民文化局内に置かれていたことも事実である。 そのため、原告としても、そのような意味において本件芸術祭に一定の 公共性があることは否定しないが、そのことから当然に本件芸術祭が公共事業に該当するものではない。 いずれにしても、被告の公共事業該当性に関する主張は、本件の争点、すなわち、被告が、いったんは交付することを決定した負担金について交付決定額を減額変更したことが許容されるか否かとの関係では、何の 意味もない主張であって、結論を左右しないから、失当である。 ウ展示作品がハラスメントに該当するとの主張について被告は、本件不自由展で展示された作品がハラスメントに該当する旨主張する。しかし、Q映像作品は、人間の尊厳を冒すような内容ではないし、昭和天皇の名誉や社会的評価を低下させるものでもない。O作品に ついても、多様な解釈を生み出す可能性を見出して芸術性を肯定する有力な憲法学者の見解もある(甲14)。S作品についても、2014年に東京都美術館で開催された現代日本彫刻作家展において撤去が求められたことについて、有力な憲法学者による強烈な批判が加えられている(甲15)。この批評では、S作品の「芸術性」が認められることが前提 となっている。したがって、これらの作品が被告のいうハラスメントであるとか、多くの日本国人にとって強烈な不快感、嫌悪の情を催し、その心を傷つけるような作 品の「芸術性」が認められることが前提 となっている。したがって、これらの作品が被告のいうハラスメントであるとか、多くの日本国人にとって強烈な不快感、嫌悪の情を催し、その心を傷つけるような作品であるとはいえない。 加えて、これらの作品が展示されることは、事情変更を基礎づける理由にはならない。本件不自由展の趣旨は、過去に公立美術館等において 展示不許可や展示中止となった作品を展示するという点にあり、そのよ - 33 -うな作品が展示されることは当初から予定されていた。本件で展示されたQ映像作品は新作であるが、過去に同一制作者の版画作品が問題となった事実はある。O作品やS作品も、過去に公立美術館等において展示不許可となったり、展示中止となったりした作品であるから、当初から予定されていた範疇のものである。 また、芸術と政治は切り離すことができないが、特に現代アートや現代美術においては、現代社会に潜む問題や、多様な価値観を観客に突きつけることや、革新的な表現方法を用いることが多いことから、芸術と政治を切り離すことができないという特性がより顕著になる。そして、本件不自由展は現代美術の展示会であるから、家族で楽しく観賞するよ うな作品ばかりにならないことは当初から当然の前提とされ、合意されている事項である(甲17)。 被告は、Q映像作品、O作品、S作品の問題性を指摘するが、被告は、本件不自由展の具体的なコンセプトやテーマが記載されているプレスリリース(甲11)を受け取っており、Q映像作品、O作品、S作品又は それらに類似・相当する作品若しくは同様のテーマの作品が展示されることを知悉し・認識した上で、本件負担金交付決定をしているのである。 よって、これらの作品が展示されることは、当初から十分に想定するこ それらに類似・相当する作品若しくは同様のテーマの作品が展示されることを知悉し・認識した上で、本件負担金交付決定をしているのである。 よって、これらの作品が展示されることは、当初から十分に想定することができた範囲内の事柄にすぎないのであり、負担金の交付を拒否するための事情変更を基礎づけるものには到底なり得ない。 エ政治的中立性を欠くとの主張について被告は、不自由展で展示された作品には強い政治的主張が含まれており、これに負担金を交付することは公共事業として不適切であるなどと主張する。 しかし、前記のとおり、芸術と政治は切り離すことができない性質の ものであり、多数派の道徳観や常識に反するという意味でショックを与 - 34 -えるという理由で表現の自由を制限することは、表現の自由の基本的な考え方に反する(甲17)。被告の主張が失当であることは、著明な憲法学者によって酷評されているとおりである(甲18)。被告は、政治的中立性を害するというが、自らの主観的な価値観にそぐわないことを理由に作品を否定しているにすぎない。そもそも権力が介入することな く芸術作品を発表する機会を保障すること自体が重要なのである(甲13)。特に現代アートや現代美術に公的資金を投入することは、複雑化した社会の多様な価値観や、大量に氾濫する情報の中に埋もれてしまいがちな価値への気づきといったものをアーティストがえぐりだし、社会に突きつけ、議論を起こす機会を与えるという点で大きな価値がある。 まさに文化芸術基本法の趣旨にかなうものである。 もとより、本件負担金は、本件芸術祭に対して交付するものでしかないのであって、被告が個々の作品に着目して交付するものではないし、本件不自由展に対して交付するものでもない。したがって ものである。 もとより、本件負担金は、本件芸術祭に対して交付するものでしかないのであって、被告が個々の作品に着目して交付するものではないし、本件不自由展に対して交付するものでもない。したがって、本件負担金の交付が、政治的中立性を害するものではあり得ない。この点でも、事 情変更を基礎づける余地はない。 オ事前の報告義務を懈怠したとの主張について 被告は、本件交付決定通知書(甲3)にいう本件芸術祭の遂行が困難となった場合に当たるとして、被告市長に対する報告義務がある旨を主張する。しかし、前記のとおり、被告に交付されたプレスリリース (甲11)でも明示されているように、もともと本件不自由展のコンセプトやテーマは天皇と戦争、慰安婦問題、憲法9条などであり、被告はこのようなテーマを扱った作品が展示されることを知悉し、認識した上で本件負担金交付決定をしている。したがって、Q映像作品、O作品、S作品等の作品が展示されることが、被告が報告義務の根拠と している本件芸術祭の遂行が困難となった場合に該当しないことは明 - 35 -らかである。 また、被告が報告義務の根拠として主張する「実質的にみて準委任的な関係」についても、被告と原告の関係は、被告が指摘する乙17号証の判例や裁判例における被告と財団法人世界デザイン博覧会協会との関係と同一とみることはできない。仮にそのような関係があるとしても、 このことから被告と原告の間に準委任契約が成立するわけでもないから、本件において原告の報告義務が導かれるわけでもない。 原告は、以下に述べるとおり、被告に対して本件不自由展に関する情報提供を行っているから、この点からも被告が主張する報告義務違反はない。 原告は、平成31年3月27日開 い。 原告は、以下に述べるとおり、被告に対して本件不自由展に関する情報提供を行っているから、この点からも被告が主張する報告義務違反はない。 原告は、平成31年3月27日開催の運営会議において、プレスリリース(甲11)を配布した。同プレスリリースには、慰安婦問題、天皇と戦争、植民地支配、憲法9条などの具体的なコンセプトやテーマが記載されていたのであるから、本件不自由展において、前回の不自由展の展示作品に類するもの、あるいはそれを発展させたものが展 示されることは容易に認識することができた。被告は、同運営会議に副市長を代理人として出席させており、同運営会議の後に負担金交付決定をしている。したがって、負担金交付決定を受けたことが著しく信義に反するという被告の主張は、理由がない。 また、原告は、令和元年7月22日、被告の事務局に対し、展示予 定作品一覧(乙1・35~37頁)を提示している。この一覧の中に本件不自由展において展示されたQ映像作品そのものの記載はなかったが、O作品、Pの過去の作品、S作品等の内容は写真付きで掲載されていたから、本件不自由展の展示内容、趣旨、テーマを十分に把握することができた。 他方、被告は、原告に対し、本件不自由展の展示内容を教えてほし - 36 -いなどとして情報提供を求めたことはない。上記展示予定作品一覧を交付した後、更に問い合わせを行うようなこともしなかった。 したがって、原告は、被告に対し、本件不自由展に関する情報提供を行っており、報告義務違反はないから、「事情の変更により特別の必要が生じたとき」に該当しないことは明らかである。 被告は、仮に原告から被告主張に係る情報提供を受けていれば、Q映像作品等について本件不自由展から排 ら、「事情の変更により特別の必要が生じたとき」に該当しないことは明らかである。 被告は、仮に原告から被告主張に係る情報提供を受けていれば、Q映像作品等について本件不自由展から排除するよう原告会長に強く働きかけたはずであるとも主張する。しかし、Q映像作品は新作であり、それまで発表されたことがないのだから、行政権の主体である被告が、作品の内容ゆえにその発表を禁止することになれば、検閲に該当し、 又は少なくとも検閲禁止の趣旨には抵触し得ると考えられる。また、Q映像作品、O作品、S作品は、前記のとおりハラスメント作品ではないし、公金の支出が違法となるような政治的中立性を害するものでもないのだから、これらの作品を市長が排除することは到底是認できるものではない。被告の主張は失当である。 カ運営会議を開催する義務を懈怠したとの主張について 被告は、危機管理上重大な事態の発生をあらかじめ想定することができたにもかかわらず、会長代行に知らせなかったことや、運営会議が開催されなかったことを問題視する。 しかし、原告は、本件不自由展について抗議活動が行われることを 想定し、警察に相談したり、警備の実施や抗議電話等の対策をしたりしてはいたものの、運営会議の開催が必要とされるような危機管理上重大な事態の発生を具体的にあらかじめ認識していたわけではない。 また、前記のとおり、原告は、被告に対し、平成31年3月27日にプレスリリースを、令和元年7月22日に展示予定作品一覧を交付し て情報提供していた。 - 37 -したがって、被告の上記主張は理由がない。 被告は、原告会長が本件不自由展を中止する際に、事前に被告市長にその旨知らせず、運営会議も開催しなかったことから、独断 - 37 -したがって、被告の上記主張は理由がない。 被告は、原告会長が本件不自由展を中止する際に、事前に被告市長にその旨知らせず、運営会議も開催しなかったことから、独断で中止の決定をしたなどと非難する。 しかし、本件規約16条は、運営会議の議決事項について、緊急を 要するときは、原告会長の判断で専決処分をすることができるとしているのであり、その規定ぶりからしても、原告会長に相当の裁量を認めている。したがって、その判断が社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量を逸脱濫用したと認められない限り、違法の問題は生じ得ないことは明らかである。本件不自由展については、O作品が展示されるこ とが開催前日の朝に新聞報道されてから、原告の想定や事前の対策をはるかに超える抗議電話等が続き、さらには、約2週間前に起こったばかりの放火殺人事件を想起させるような脅迫を内容とするFAX 文書が届いた。そのため、このまま展示を継続すれば、来場者や職員等の生命、身体への危険が生じ得ることが具体的に想定されたため、来場 者等の安全を確保するべく、やむなく開催後3日で中止する必要があった。かかる状況下で、本件不自由展の展示を中止することについて運営会議を開催する時間的余裕はなく、当時の状況が専決処分をするために必要な本件規約16条1項の「緊急を要するとき」に該当することは明らかであった。 したがって、原告会長が本件不自由展の展示を中止したことは、裁量の逸脱ではなく、同項に基づく専決処分として適法である。なお、本件不自由展の展示を中止したことについては、令和元年12月26日開催の運営会議において、経緯も含めて事後的に報告しており、被告市長を除き、反対意見は出されていない(甲22)。 また、原告会長による の展示を中止したことについては、令和元年12月26日開催の運営会議において、経緯も含めて事後的に報告しており、被告市長を除き、反対意見は出されていない(甲22)。 また、原告会長による専決処分は、本件規約16条においてもとも - 38 -と定められているものだから、運営会議が開催されないからといって、事情変更に該当しないことは明らかである。 被告は、原告会長が本件不自由展を再開するに当たり、事前に被告市長に知らせず、運営会議を開催しなかったことも問題とする。 しかし、令和元年9月13日以降、不自由展実行委員会から展示の 再開を求める保全処分の申立てがされたり、本件芸術祭に参加する複数のアーティストが自身の展示を中止し、本件不自由展の再開を求めたりしていた。そのため、本件不自由展の再開やその判断を先延ばしにすれば、更に多くのアーティストが展示の中止等に及ぶなどして、本件芸術祭全体の開催が危ぶまれる状況に陥る可能性があったから、 本件不自由展の展示を再開することについて、運営会議を開催する時間的余裕はなかった。 したがって、当時の状況が本件規約16条1項の「緊急を要するとき」に該当することは明らかであるから、原告会長が、専決処分により本件不自由展の展示の再開を決定したことは、本件規約16条に基 づくものとして適法である。 また、原告は、原告会長が展示再開の決定(令和元年10月8日)をするに先立ち、各委員宛に、令和元年10月4日付けで、「「表現の不自由展・その後」展示再開に向けての表現の不自由展実行委員会への協議の呼びかけについて」と題する書面(甲16)を発出し、被 告に対しても、原告事務局員が被告の文化振興室に持参して交付している。したがって、原告は、被告に対し、展示再開に 由展実行委員会への協議の呼びかけについて」と題する書面(甲16)を発出し、被 告に対しても、原告事務局員が被告の文化振興室に持参して交付している。したがって、原告は、被告に対し、展示再開に向けた不自由展実行委員会との協議の状況や、再開想定日等を報告している。そして、令和元年12月26日に開催された運営会議において、本件不自由展の展示が再開された経緯についても報告しており、被告市長を除き、 反対意見はなかった。 - 39 -以上から明らかなとおり、本件不自由展の展示を再開する旨の原告会長の判断は、社会通念上著しく妥当を欠くものではなく、裁量の範囲内のものとして本件規約16条に基づき適法であるから、被告の主張には理由がない。 また、前記のとおり、原告会長による専決処分はもともと本件規約 に定められているから、原告会長が運営会議を開催せず、その裁量の範囲内で専決処分を行ったことが、被告による負担金の不払を正当化する事情変更に当たり得ないことは明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 開幕までの経過ア平成29年5月1日及び同年6月4日、芸術文化の専門家や学識経験者等7名で構成される「あいちトリエンナーレ芸術監督選考委員会」(甲2 2資料2・37頁、乙1・23頁)は、候補者の選考を行い、多数決により、ジャーナリスト(メディア・アクティビスト)のEを芸術監督として選出した。Eは、同年7月18日の原告運営会議による選任を経て、同年8月1日に芸術監督に就任した。推薦の理由としては、Eは、日々の取材を通じて社会問題に関する情報を発信し続けており、世界が大きく変動す る時代において、社 の原告運営会議による選任を経て、同年8月1日に芸術監督に就任した。推薦の理由としては、Eは、日々の取材を通じて社会問題に関する情報を発信し続けており、世界が大きく変動す る時代において、社会情勢を踏まえた明確なコンセプトを打ち出す新しいタイプの芸術監督像を期待することができることや、エッジの効いたワクワク感のあるものを創り上げ、国内外にアピールすることができることなどが挙げられた。(以上につき甲8・27、89、90頁、乙1・21~23頁) イ原告は、平成29年10月20日、運営会議を開催し、本件芸術祭のテ - 40 -ーマおよびコンセプトを「情の時代」とすることを決定した。芸術監督は、同日夕方、記者会見を行い、上記テーマおよびコンセプトを発表した。 (甲8・27頁)ウ芸術監督は、平成30年5月10日、キュレーター会議において、本件芸術祭の企画の一つとして本件不自由展を開催することを提案した。その 後、芸術監督は、同年6月10日、2015年の不自由展のメンバーであるKに連絡を取った。(甲8・28頁)。 エ原告は、平成30年8月22日、愛知県美術館に対し、ギャラリー展示室の利用許可申請を行った。愛知県美術館長は、同年11月20日、愛知県芸術文化センター条例5条に基づき、原告会長に対し、利用を許可する 旨決定した。(甲8・29、52頁)オ芸術監督は、本件芸術祭全体の在り方について、一つのテーマに強くこだわり、そのテーマに合致する作品を集めた国際芸術祭を実施したいと強く思っていた。他方、キュレーターチームの中には、キュレーター自身がテーマを独自に解釈し、その個性を発揮した展覧会にすべきであるとの意 見もあり、芸術監督との間に意見のずれが生じた。(甲8・67、92頁) 。他方、キュレーターチームの中には、キュレーター自身がテーマを独自に解釈し、その個性を発揮した展覧会にすべきであるとの意 見もあり、芸術監督との間に意見のずれが生じた。(甲8・67、92頁)カ芸術監督は、平成31年1月17日のキュレーター会議において、不自由展実行委員会が行うキュレーションには極力介入しないようにしたいという意向を明らかにした(甲8・29、91頁)。 キ原告は、平成31年3月27日、運営会議を開催し、被告を含む各委員 に対し、本件芸術祭のプレスリリース(甲11)を交付した(原告事務局次長1、2頁、被告市長18、19頁)。被告市長は、同日の運営会議には参加しなかったが、被告の副市長を代理人として出席させた。被告市長は、同プレスリリースに目を通したが、内容の詳細は把握しなかった(被告市長18頁)。 同プレスリリースには、本件芸術祭のテーマ及びコンセプトが「情の時 - 41 -代」であることや、「政治は可能性の芸術である」とのビスマルクの言葉を引用しながら、政治と芸術は根が同じであり、歴史的に深く関連していること、本件芸術祭が、現代社会において見失われがちな価値観を取り戻す舞台となることなどの芸術監督の言葉が記されている。また、本件芸術祭の各企画を紹介したページでは、本件不自由展の紹介文として、201 5年の不自由展のロゴの写真とともに、「「表現の不自由展」は、日本における「言論と表現の自由」が脅かされているのではないかという強い危機意識から、組織的検閲や忖度によって表現の機会を奪われてしまった作品を集め、2015年に開催された展覧会。「慰安婦」問題、天皇と戦争、植民地支配、憲法9条、政権批判など、近年公共の文化施設で「タブー」 とされがちなテーマの作品が、当時い 奪われてしまった作品を集め、2015年に開催された展覧会。「慰安婦」問題、天皇と戦争、植民地支配、憲法9条、政権批判など、近年公共の文化施設で「タブー」 とされがちなテーマの作品が、当時いかにして「排除」されたのか、実際に展示不許可になった理由とともに展示した。今回は、「表現の不自由展」で扱った作品の「その後」に加え、2015年以降、新たに公立美術館などで展示不許可になった作品を、同様に不許可になった理由とともに展示する。」と記載されている。もっとも、同プレスリリースには、個々の具 体的な展示作品の記載はない。(甲8・77頁、甲11・3、6、7、10頁、原告事務局次長3頁)被告の担当部署である文化振興室の室長(被告室長)は、同プレスリリースの記載から、本件不自由展において政治的主張を含む作品が展示されることを知ったが、展示方法等の具体的内容が明らかでない段階であり、 2015年の不自由展と同様の内容で実施されるか不明であったことから、当該不自由展の状況等を調査することをしなかった(被告室長17頁)。 ク芸術監督は、上記同日の平成31年3月27日、愛知県芸術文化センターにおいて企画発表会を行い、本件不自由展を開催することを発表した。 本件不自由展が開催されることは、翌日以降、新聞によっても報道された。 (甲8・28、34頁、被告室長18、19頁) - 42 -ケ原告は、平成31年4月1日、被告に対し、本件芸術祭開催に係る経費の執行のためとして、1億7102万4000円の負担金の交付を求める旨の申請をした(前提事実⑸)。 コ原告事務局の学芸担当者は、平成31年4月4日、芸術監督から、本件不自由展の出品候補作品リストを知らされた。同リストには、計33組の 作家が掲載されて 旨の申請をした(前提事実⑸)。 コ原告事務局の学芸担当者は、平成31年4月4日、芸術監督から、本件不自由展の出品候補作品リストを知らされた。同リストには、計33組の 作家が掲載されており、このうち、V、P、N夫妻、R、Wの5組は、2015年の不自由展にも出品した作家であった。また、この出品候補作品リストには、Pの版画作品「遠近を抱えて」4点及びO作品(ミニチュア像及び等身大像)が掲載されていたが、Q映像作品については、掲載がなかった(Pが同映像作品の出品の意向を表明したのは、後記セのとおり5 月8日のことである。)。なお、同リストには、実際には本件不自由展で展示されなかった作家や作品も複数含まれている。また、不自由展実行委員会は、協議の当初から、本件不自由展全体の中心的作品として、O作品2点(ミニチュア像及び等身大像)を出品したいとの意向を表明していた。 (甲8・29、68、69頁、甲24、原告事務局次長4、5頁) サキュレーターチームは、平成31年4月11日、上記コの出品候補作品リストを受領し、同日のキュレーター会議において、Pの作品(Q映像作品を除く。)及びO作品の展示等について議論した。その際、チーフ・キュレーター及びアシスタント・キュレーター(作品の受入れ等の具体的な実務の担当者)は、O作品について、安全上の観点から、実物ではなくパ ネル展示の方法によるべきである旨の意見を述べた。しかし、同会議では、展示内容の選定権限を有する者及び責任主体は不自由展実行委員会であることが確認され、不自由展実行委員会に対してパネル展示による方法を求めることはできなかった。また、今後、本件芸術祭のキュレーターチームは、本件不自由展の作品の選定に関与しないこと、本件不自由展には担当 キュレーターを置 委員会に対してパネル展示による方法を求めることはできなかった。また、今後、本件芸術祭のキュレーターチームは、本件不自由展の作品の選定に関与しないこと、本件不自由展には担当 キュレーターを置かず、実務を行うアシスタント・キュレーターのみを置 - 43 -くこと、本件不自由展の準備は芸術監督が不自由展実行委員会や作家と直接やりとりをして行うこととなった。その結果、本件不自由展の作品の選定は、芸術監督及び不自由展実行委員会によって行われることとなった。 (甲8・30、67、69頁)シ被告は、平成31年4月16日、原告の負担金申請(前記ケ)に対し、 以下の内容の負担金を交付する旨の決定をし(本件負担金交付決定)、原告に対し、書面で通知した(本件交付決定通知書。前提事実⑸)。 交付決定額 1億7102万4000円 交付年月日及び交付金額① 平成31年4月26日 6524万6000円 ② 令和元年7月19日 7197万6000円③ 令和元年10月18日 3380万2000円 交付の条件本件交付決定通知書には、交付の条件の一つとして、「市長は、負担金の交付決定後、事情の変更により特別の必要が生じたときは、負担 金の交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、またはその決定の内容若しくはこれに附した条件を変更する場合があります。」との記載がある。 ス被告は、平成31年4月26日、原告に対し、上記の本件負担金交付決定に基づき、6524万6000円(上記シ①)を交付した。 セ芸術監督、不自由展実行委員会及び原告事務局は、令和元年5月8日、初めて共にミーティングを行った。原告事務局は、不自由展実行委員会 、6524万6000円(上記シ①)を交付した。 セ芸術監督、不自由展実行委員会及び原告事務局は、令和元年5月8日、初めて共にミーティングを行った。原告事務局は、不自由展実行委員会に対し、本件不自由展における展示が政治的に偏ったものになると、街宣活動等の抗議が予想されるとの懸念を伝えるとともに、偏りのない展示を行ってほしい旨や、法令に違反する展示は控えてほしい旨の希望を伝え、2 015年の不自由展を開催した時の警備状況等を聴取した。(甲8・35 - 44 -頁、原告事務局次長35、36、53頁)また、同ミーティングにおいて、不自由展実行委員会は、Pが新作の映像作品を作成しており、これも出品したい旨の意向を有していることを明らかにした(甲8・30、70頁)。 ソ原告事務局は、令和元年5月22日、本件不自由展の警備体制等につい て管轄警察署に相談し、その結果を芸術監督と共有した(甲8・35頁)。 他方、原告は、警察と相談を行ったことについて、被告に情報提供しなかった。(原告事務局次長36頁、被告室長5頁)原告事務局は、同月25日頃、警察からのアドバイスに基づき、本件不自由展の展示会場に警備員を配置する具体的な検討を開始した(甲8・3 5頁)。 タ芸術監督は、令和元年5月27日、不自由展実行委員会及びPとミーティングを行い、Q映像作品を、版画作品の関連資料という位置づけで、本件不自由展に出品することを決定した。 なお、前記のとおり同月8日のミーティング(前記セ)において、Q映 像作品の出品の意向が明らかにされたことについては、不自由展実行委員会のメンバーの1人が、同月21日、Pに対し、新作映像は本件不自由展のコンセプトである検閲にそぐわない旨を指摘した。Pは、同指摘 像作品の出品の意向が明らかにされたことについては、不自由展実行委員会のメンバーの1人が、同月21日、Pに対し、新作映像は本件不自由展のコンセプトである検閲にそぐわない旨を指摘した。Pは、同指摘を受けて、いったん出品の辞退を申し出たものの、芸術監督は、同月24日、Pから上記新作映像のDVD を受領し、同月27日の上記ミーティングにお いて、出品することを決定した。 しかし、芸術監督は、Q映像作品の展示が決まった後も、これを本件不自由展の作品リストに掲載せず、また、原告事務局、キュレーターチーム及び原告会長に対し、Q映像作品の存在を知らせなかった。 (以上につき甲8・30、70、86頁) チ原告会長は、令和元年6月12日、原告事務局から、本件不自由展の全 - 45 -体の展示案の提示を受け、O作品やS作品を含む展示作品を知った。もっとも、Q映像作品については展示案に記載がなかったため、原告会長は、Q映像作品の存在を認識できなかった。(甲8・31頁)アシスタント・キュレーター(愛知県美術館学芸員)は、同日、Q映像作品のテスト映写用のDVD を受領して、その内容を把握した。もっとも、 当該アシスタント・キュレーターは、Q映像作品の内容について特に報告する必要性があるとは考えなかったため、原告事務局にQ映像作品の内容を報告しなかった。そのため、原告事務局は、後記内覧会の前日である同年7月30日まで、Q映像作品の存在を把握できなかった。(甲8・70頁) ツ原告会長は、令和元年6月20日、芸術監督と面談し、「少女像(O作品)は何とかならないのか、やめてくれないか」、「少女像は、実物ではなくパネルにならないのか」、「写真撮影は禁止にできないか」などと述べ、O作品が実物で展示されることや 監督と面談し、「少女像(O作品)は何とかならないのか、やめてくれないか」、「少女像は、実物ではなくパネルにならないのか」、「写真撮影は禁止にできないか」などと述べ、O作品が実物で展示されることや、写真撮影を許可することに対する懸念を表明し、展示方法の変更を求めた。(甲7・12頁、甲8・31、 79頁)テ原告会長は、令和元年7月8日、原告事務局を通じ、O作品の展示について、芸術監督及び不自由展実行委員会の協議の結果の報告を受けた。それによれば、不自由展実行委員会は、O作品の実物を展示する意向が強く、実物展示と写真撮影許可のいずれも行う意向であるとのことであった。 (甲7・12頁、甲8・31頁)ト原告会長は、令和元年7月11日、不自由展実行委員会に対し、O作品の展示の中止及び写真撮影、SNS への投稿を禁止することを再度提案した。 しかし、芸術監督と不自由展実行委員会が協議したところ、同委員会の意向は固く、O作品の実物展示と写真撮影はセットで行うべきであり、仮に これが認められないのであれば、本件不自由展全体の開催を取りやめると - 46 -まで述べた。原告会長は、同月12日、原告事務局から、同協議の結果の報告を受けた。(甲7・12頁、甲8・31頁、原告事務局次長44頁)ナ芸術監督は、令和元年7月19日、不自由展実行委員会との間で、鑑賞者に対し、写真撮影は禁止しないが、撮影した写真をSNS に投稿することを禁止すること、そして、その旨を芸術監督、原告及び不自由展実行委 員会の3者連名で会場に掲示することを合意した(甲7・12頁、甲8・31、79頁)。しかし、本件不自由展の出品作家であるXは、芸術監督に掛け合い、作品をSNS に投稿することにつき「作家発ならよい」旨の承諾を得た。その 掲示することを合意した(甲7・12頁、甲8・31、79頁)。しかし、本件不自由展の出品作家であるXは、芸術監督に掛け合い、作品をSNS に投稿することにつき「作家発ならよい」旨の承諾を得た。その後、Xは、鑑賞者へのメッセージとして「SNS 推奨」のマークを自身の作品のキャプションに貼付した。これを見て、V及びN夫 妻も、同様のマークを自身の作品のキャプションに貼付した。(甲8・63、420頁)ニ被告は、令和元年7月19日、原告に対し、本件負担金交付決定に基づき、7197万6000円(前記シ②)を交付した。 ヌ原告は、令和元年7月22日、被告に対し、本件不自由展の展示予定作 品が写真付きで記載された展示予定作品一覧(乙1・35~37頁)を交付し、展示内容を説明した。この一覧には、本件不自由展において展示する予定の作品について、作家名、作品名、形態(写真、立体、版画等の別)、内容(作品のテーマ)、2015年の不自由展における展示の有無、展示不許可等とした施設等の名称、規制の理由及び結果が、表 形式で記載されていた。 上記一覧の中で、O作品については写真が掲載され、作品名欄に「平和の少女像」、内容欄に「慰安婦(+資料展示)」、2015年展示欄に「◎」(2015年の不自由展において展示されたことを示す。以下に同じ。)と記載されていた。また、O作品2点のうちのミニチュア像 については、展示不許可等とした施設等の名称として「東京都美術館」、 - 47 -規制の理由欄に「政治的表現であり同美術館運営規定に抵触」、結果欄に「展示されたが撤去」と記載されていた。 Pの作品については版画作品の写真が掲載され、作品名欄に「遠近を抱えて」、形態欄に「コラージュ」、内容欄に「天皇制(+資料展示)」 規定に抵触」、結果欄に「展示されたが撤去」と記載されていた。 Pの作品については版画作品の写真が掲載され、作品名欄に「遠近を抱えて」、形態欄に「コラージュ」、内容欄に「天皇制(+資料展示)」、2015年展示欄に「◎」、展示不許可等とした施設等の名称 として「富山県議会、右翼団体」、規制の理由欄に「天皇に対する不敬」、結果欄に「展覧会終了後の批判により、富山県美術館は図録の在庫焼却、作品を非公開、その後売却。作家が提訴するも、敗訴」と記載されている。他方、Q映像作品については、原告事務局が同日時点でその存在を把握していなかったため、上記一覧には記載されていなかった。 (甲8・72頁、被告室長5頁)S作品については写真が掲載され、作品名欄に「時代の肖像」、内容欄に「憲法9条、靖国問題、政権批判(+資料展示)」、2015年展示欄に「◎」、展示不許可等とした施設等の名称として「東京都美術館」、規制の理由欄に「作品を覆うメッセージの中に政治・宗教活動に あたるものがある」、結果欄に「一部のメッセージを削除」と記載されている。上記写真によって、S作品が多数の紙片が貼付されたかまくら状の造形物であることや、頭頂部に日章旗が、底部に星条旗が敷かれていることなどの外観を認識することはできるものの、日章旗に寄せ書きが施されていることや、貼付された新聞記事等の内容までは了知するこ とができなかった。 原告側の担当者は、上記同日である令和元年7月22日、被告側の担当者に対し、O作品が実物展示予定と分かり、議論を呼ぶ作品であるためパネル展示にすることを求めたが、実物展示を取りやめることにはならなかったこと、この展示を行うことは決定しており、被告の意見を聞きたいと いうことではないこと、話は知事(原告会長)まで上が めパネル展示にすることを求めたが、実物展示を取りやめることにはならなかったこと、この展示を行うことは決定しており、被告の意見を聞きたいと いうことではないこと、話は知事(原告会長)まで上がっており、知事は - 48 -金は出すが口は出さない方針であること、知事の見解であることを外に出すなと言われているので、原告事務局の見解としてほしいことなどを説明した。また、原告は、被告に対し、本件不自由展開催後の電話対応の一環として、想定問答集(甲26・4丁)を作成して交付した。(乙2・3頁、乙5、31、原告事務局次長6、7頁、被告室長2~4頁) ネ被告室長は、令和元年7月23日、部下から前記ヌ記載の展示予定作品一覧を前日22日に受領したことなどの報告を受け、O作品が実物で展示されることを知り、この時点で初めて、本件不自由展に問題があるのではないかと認識した。他方、被告室長は、部下から、O作品を実物で展示することは知事(原告会長)の意向に基づく決定事項であり、原告は被告の 意見を聞く立場にないと原告担当者が説明していた旨の報告を受け(乙5)、本件芸術祭は実質的には県の事業であるとの認識を有していたため、県の意向を尊重しようと考えた。被告室長は、県において十分なキュレーションを実施し、混乱を避ける努力をするはずであると考え、部下を通じて原告に対し、知事の意向を再度問い合わせた(甲26・3丁)ものの、 O作品の実物展示を取りやめるように申し入れることまではしなかった。 そして、被告室長は、知事の意向は非公式なものとして扱ってほしいと原告担当者が説明していたとの報告を受けたことから、O作品の展示について被告市長に報告する段階ではないと考え、上司に報告するにとどめた。 しかし、被告室長は、その後も、O作品が実物で展示 ってほしいと原告担当者が説明していたとの報告を受けたことから、O作品の展示について被告市長に報告する段階ではないと考え、上司に報告するにとどめた。 しかし、被告室長は、その後も、O作品が実物で展示されることについて、 被告市長に報告しなかった。(被告室長2~4、19、20頁)(なお、被告室長は、上記の報告を受けた日の翌日24日に、部下を通じて、原告に対し、O作品を別の方法で展示することを求めた旨述べる(被告室長21頁)。しかし、同供述も具体的な連絡状況まで述べるものではなく、これを直接裏付ける証拠もない。他方、原告事務局次長は、原告か らの情報提供に対して被告が疑義を述べたことはなかったという趣旨の供 - 49 -述をしているから(原告事務局次長6頁)、被告室長の上記供述は採用することができない。)ノ原告及び不自由展実行委員会は、令和元年7月29日、同月1日付けで本件不自由展の業務委託契約を締結した(甲8・32頁)。 ハ原告事務局次長は、令和元年7月30日、Q映像作品を視聴し、その内 容を把握した。もっとも、原告事務局次長は、Q映像作品の内容が激しい抗議活動を受けるようなものであるとは認識せず、特に報告する必要があるとは考えなかったため、Q映像作品の内容を原告会長に報告しなかった。 また、内容を把握したのが本件芸術祭の開催の直前であったこともあり、原告事務局次長は、被告側にも特段の情報提供をしなかった。(原告事務 局次長22、23、45頁)ヒ令和元年7月31日朝、本件不自由展において平和の少女像を含む作品が展示されることが、O作品の写真付き記事によって新聞報道され、同日中から、原告事務局に抗議電話が殺到した(甲8・36、38頁、乙9、10)。 被告室長は、同日午 平和の少女像を含む作品が展示されることが、O作品の写真付き記事によって新聞報道され、同日中から、原告事務局に抗議電話が殺到した(甲8・36、38頁、乙9、10)。 被告室長は、同日午後1時頃、本件不自由展の内覧会に参加し、展示状況を確認した。被告室長は、O作品やS作品が鑑賞者の目につきやすいところに展示されていたことから、鑑賞者がこれらの作品に不快感を覚え、抗議が殺到するのではないかとの懸念を抱いた。他方、Q映像作品については、視察時間の都合上、その全部を視聴することができず、問題のある 作品であるとは認識しなかった。なお、同内覧会には、地元の政財界関係者、協賛企業関係者、文化関係有識者、美術館関係者等の約1200名が来場した。(甲8・71頁、乙31・4頁)被告市長は、同日午後、本件芸術祭のオープニング・レセプションに参加したところ、市議会議員から、本件不自由展においていわゆる従軍慰安 婦像が展示されている旨の指摘を受けた。被告市長が、本件不自由展にお - 50 -いてO作品が展示されることを知ったのは、このときが初めてであった。 (乙30・1、2頁、乙31・4頁、被告市長20、21頁)⑵ 開幕後から中止に至るまでの経過ア令和元年8月1日、本件芸術祭が開幕した。本件不自由展の展示室内ではそれほど大きな混乱がみられなかったものの、展示室の外では、抗議に 訪れた人々が集まり、職員が制止する場面があった。また、原告事務局及び愛知県庁には、SNS 上に投稿された作品の写真等を見た者による抗議の電話、メール及びFAX が殺到し、他業務を行うことができない状況に陥った。翌2日には、県美術館でガソリンテロを実行する旨を予告するFAX 文書が届いたため、原告事務局が警察に通報した。(甲7・17 電話、メール及びFAX が殺到し、他業務を行うことができない状況に陥った。翌2日には、県美術館でガソリンテロを実行する旨を予告するFAX 文書が届いたため、原告事務局が警察に通報した。(甲7・17、 19頁、甲8・9、36、37頁)イ被告市長は、令和元年8月2日、本件不自由展を視察し、展示された作品を見て、その政治色の強さに不快感や嫌悪感を抱き、原告会長に対し、抗議文書である「あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」について」と題する書面(乙1・87頁)を発出した。この中で、被 告市長は、行政の立場を超えた展示が行われているとして厳重に抗議するとともに、天皇や従軍慰安婦問題などに関する展示の中止を含めた適切な対応を求めた。また、参議院議員、大阪市長、県外の市議会議員などの政治家からも批判が相次いだ。(甲7・19頁、甲8・38頁、乙30)ウ原告会長は、令和元年8月2日、芸術監督と面談し、抗議電話や脅迫メ ールのみならず、ガソリン缶を携行してのテロの予告まであり、このままでは安心や安全を確保することができないことから、翌3日の午前11時に記者会見を開いて本件不自由展を終了させることを提案し、原告会長の意向を至急、不自由展実行委員会に伝えるよう依頼した(甲7・21、22頁、甲8・40頁)。 芸術監督は、同月2日夕方、記者会見を行い、展示の変更を含めた対処 - 51 -を行う旨発表した。また、芸術監督は、同日午後11時30分頃、不自由展実行委員会に対し、原告会長が本件不自由展を中止させたい意向であることを伝えた。芸術監督及び不自由展実行委員会は、協議の結果、原告会長に対し、翌3日の状況をみてから判断してほしい旨を申し入れることとした。(甲8・41頁) エ 中止させたい意向であることを伝えた。芸術監督及び不自由展実行委員会は、協議の結果、原告会長に対し、翌3日の状況をみてから判断してほしい旨を申し入れることとした。(甲8・41頁) エ芸術監督は、令和元年8月3日午前9時頃、原告会長に対し、中止の判断を再検討するよう申し入れるとともに、同日午前11時に予定されていた記者会見を延期し、状況を総合的に判断して今後の対応を検討することとした。しかし、同日中も抗議電話や来場者の混乱が続いたため、原告会長及び芸術監督は、同日午後3時30分頃、電話で再度相談し、このまま では来場者等の安全を確保することができないため、同日をもって本件不自由展の展示を中止することとした。原告会長は、同日午後5時頃、記者会見を行い、本件不自由展の中止を発表した。(甲7・21頁、甲8・40頁)⑶ 本件不自由展の展示状況等 ア本件不自由展で展示された計23作品のうち、約3割が天皇制や戦前の日本に関するものであり、また、約2割が日韓関係に関するものであった(なお、日本の政党等を直接批判又は礼讃する内容のものはない。)。また、過去に公立美術館等で展示中止とされたものを集めるというコンセプトであるにもかかわらず、わいせつ性を理由に展示することを禁止された 作品等は展示されなかった。他方、Y作成の「ラッピング電車の第5号案(ターザン)など」(電車をモチーフとした作品)のように、政治性のない作品も展示されていた。(甲8・12、56頁)イ本件不自由展の展示スペースは、美術館の奥まった場所であり、館内の他の展示を順次観賞する来場者の動線からは外れたところに設置されてい た。本件不自由展の入場口付近のスペースには、原告及び不自由展実行委 - 52 -員会による計5枚の 所であり、館内の他の展示を順次観賞する来場者の動線からは外れたところに設置されてい た。本件不自由展の入場口付近のスペースには、原告及び不自由展実行委 - 52 -員会による計5枚のパネルが設置され、「ご覧になる際は、作家がなぜそのような表現をするに至ったのか、その作品はなぜ展示を取りやめるに至ったのかを考えながら鑑賞ください」等の記載により、本件不自由展の趣旨や注意事項について観客に対する呼びかけが行われた(もっとも、県の検証委員会の報告書(甲8)では、同パネル上、観客に対する注意事項を 記載した箇所が分散していたことや、パネルの字があまり大きくなかったことなどから、来場者の中には、展示の趣旨について十分に理解しないまま、展示室の作品を見て驚き、批判した者が一定数いた旨指摘されている。)。上記パネルが設置されたスペースを左に曲がると、カーテンが設置されており、カーテンの奥は、展示室に通じる通路で、Q映像作品を含 む6組の作家の作品が展示されていた。同通路の突き当たりを右に曲がると展示室内になり、展示室入口から見て右手にはS作品が、正面奥の壁付近にはO作品が展示されていた。(甲8・62、141、142頁)⑷ 抗議・強迫の状況ア原告事務局及び県庁に対しては、開幕当日である令和元年8月1日に約 700件、同月2日に約1200件、同月3日に約1100件の抗議が寄せられた。同月中に寄せられた抗議の件数は合計1万0379件(電話3936件、メール6050件、FAX393件)に上り、中には、テロ予告、脅迫、恫喝等に及ぶ内容のものもあった。これを踏まえ、原告は、同月2日に警察に通報し、以後警察と対応を協議し、同月6日に警察に被害 届を提出した。(甲8・46、48、122頁、甲27)イ 、恫喝等に及ぶ内容のものもあった。これを踏まえ、原告は、同月2日に警察に通報し、以後警察と対応を協議し、同月6日に警察に被害 届を提出した。(甲8・46、48、122頁、甲27)イ抗議は主にO作品、Q映像作品及びS作品に集中しており、「芸術の名を借りた政治(あるいは反日)プロパガンダ」、「展示が政治的に偏向している」、「昭和天皇や特攻隊員への侮辱である」、「公金、公的施設の使い方としておかしい」などの内容が多かった。なお、本件不自由展では、 上記作品以外にも、いわゆる従軍慰安婦問題や天皇制を扱った作品等が展 - 53 -示されていたが、これらに対する抗議はほとんどみられなかった。(甲8・10頁)ウ脅迫の主な内容は、①愛知県美術館にガソリン携行缶を持っていく、②愛知県芸術文化センターに放火する、③愛知県内の小中学校等にガソリンを散布して着火する、④愛知県庁等にサリンをまき散らす、⑤高性能な爆 弾を仕掛けた、⑥愛知県職員らを射殺する等であった。なお、上記①については、令和元年8月7日に被疑者が逮捕され、その後、威力業務妨害の罪で懲役1年6か月(執行猶予3年)の判決がされた。(甲8・36、37、46頁)エ原告事務局は、事前に、不自由展実行委員会から、抗議活動への対応方 法について、専門家の紹介を受けたり、問合せ窓口の一本化、自動音声案内・通話録音システムの導入、想定問答集・マニュアルの作成、警察との密な連携が有用である旨の情報を聴取したりした。原告事務局は、令和元年7月10日、音声案内装置を導入し、苦情電話と通常の電話の振り分けをすることができる体制を整え、また、録音機能を追加したり苦情専用電 話を設置したりして準備を行った。しかし、開幕日である同年8月1日から想定を超 装置を導入し、苦情電話と通常の電話の振り分けをすることができる体制を整え、また、録音機能を追加したり苦情専用電 話を設置したりして準備を行った。しかし、開幕日である同年8月1日から想定を超える大量の苦情電話が殺到し、設置していた25台の電話が全てふさがる状態が続いた。(甲8・47頁)また、警備体制については、原告事務局は、同年5月以降、打合せを行って、県庁や警察と情報共有を行い、抗議団体の来訪や街宣車等に対する 物理的な妨害行為への対策を講じた(甲8・48頁、原告事務局次長5頁)。 オ被告は、人員面や設備面について平時と同様の体制で臨んだところ、開幕当初から猛烈な抗議にさらされ、通常使用している2本の電話回線が常時ふさがる状態となって、通常業務に大いに支障が生じた。被告の文化振 興室が受けた抗議は、令和元年8月中の合計だけで1260件に上る。 - 54 -(乙2・4頁)カこのほか、本件芸術祭に協賛、協力する63の企業及び団体に対しても抗議が寄せられた(甲8・37頁)。 ⑸ 再開及び閉幕までの経過ア本件不自由展の中止が発表された令和元年8月3日、不自由展実行委員 会は、記者会見で、本件不自由展の一方的な中止に抗議した。また、同月4日以降、N夫妻、P及びRを含む本件不自由展の参加アーティストらが、本件不自由展の中止に反対する旨の意見を新聞記事上で表明したり、ステートメントを発表したりした。(甲8・42、43、165頁)また、同月6日、本件芸術祭に参加するアーティスト72組がステート メント(甲8・166頁)を公表し、来場者の安全を確保した上で本件不自由展を再開することを求めた。同日以降、本件芸術祭の参加アーティストの一部が、自身の展示室を閉鎖したり、展示内 がステート メント(甲8・166頁)を公表し、来場者の安全を確保した上で本件不自由展を再開することを求めた。同日以降、本件芸術祭の参加アーティストの一部が、自身の展示室を閉鎖したり、展示内容を変更したりするようになった。(甲8・44、167、171頁、甲27・7頁)さらに、アーティスト・芸術業界、メディア、弁護士会等の計40の団 体から抗議が寄せられた(甲8・168頁)。また、国内外のキュレーターやアーティストから、海外のアーティストは展示の中止を検閲と同様にとらえること、本件不自由展が再開されないままであれば、今後のあいちトリエンナーレはもちろん、他の国内の芸術祭や国公立美術館での現代美術の活動に海外アーティストが参加しなくなる事態が生じ得ることなどが 指摘された(甲8・170頁)。 イ被告市長は、原告会長に対し、令和元年8月16日、同年9月14日、同月27日と再三にわたり、運営会議の開催を求めた。原告会長は、事実関係を整理し、今後の対応について検討し、運営会議の場に提供する情報を整理したり、事務局の考えを整理したりするため、まずは第三者委員会 による検討が必要であると考え、運営会議を開催しなかった。(乙1・6 - 55 -5頁、乙4の1~3、原告事務局次長52頁、被告室長9頁)ウ原告会長は、令和元年8月9日、本件芸術祭について、県及び原告等の関係団体における企画、準備、実行の体制、公金を使った芸術作品の展示、芸術活動への支援、開催時の危機管理体制、対外コミュニケーション等の在り方について客観的、専門的見地から総合的に検証するため、愛知県知 事の立場で、令和元年8月9日、「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」(県の検証委員会。その後「あいちトリエンナーレのあり方検討委 ついて客観的、専門的見地から総合的に検証するため、愛知県知 事の立場で、令和元年8月9日、「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」(県の検証委員会。その後「あいちトリエンナーレのあり方検討委員会」と名称を変更したが、以下では、名称変更後のものも含めて「県の検証委員会」という。)を設置した(甲8・254頁)。 エ原告会長は、令和元年8月20日、本件芸術祭の参加アーティストらに 対し、本件不自由展の中止を詫びる旨の文書や、同年9月及び10月に表現の自由に関するフォーラムを開催する予定であること等を説明する文書を送付した(甲8・42頁)。 オ不自由展実行委員会は、令和元年9月13日、名古屋地方裁判所に対し、自身を債権者、原告を債務者として、本件不自由展の展示再開を求める旨 の保全処分を申し立てた。この保全処分の第1回審尋期日は同月20日に、第2回審尋期日は同月27日に、第3回審尋期日は同月30日(後記ケ)にそれぞれ行われた。(甲22・4丁裏、甲27・6、7頁)カ県の検証委員会は、令和元年9月21日、国内フォーラムを開催し、原告会長参加の下、本件不自由展の開催意図及び展示内容の説明、県の検証 委員会がこれまでに作業した内容の報告、出展作家との同フォーラム参加者との意見交換等を行った(甲8・254~259頁)。 キ県の検証委員会は、令和元年9月25日の第3回会議において、中間報告(甲7)を発表した。同中間報告では、脅迫や抗議電話への対応策を十分に講じ、展示方法や解説プログラムを改善することなどの条件が整い次 第、すみやかに本件不自由展を再開すべきである旨が提言されている。 - 56 -(甲7・96、254頁)ク令和元年9月25日時点で、前記アのステートメントに どの条件が整い次 第、すみやかに本件不自由展を再開すべきである旨が提言されている。 - 56 -(甲7・96、254頁)ク令和元年9月25日時点で、前記アのステートメントに賛同するアーティストは、本件芸術祭に参加する93組中、88組になった(甲8・44頁)。 また、同月27日時点で、本件不自由展以外の参加アーティストで、自 身の展示を中止したり展示内容を変更したりしているアーティストは、15組になった(甲8・167頁)。このうち13組のアーティストは、同日付けで、原告会長及び原告に対し、同年10月5日までに本件不自由展の展示を再開することを求め、仮に再開しない場合には、本件芸術祭の会期終了まで自身らの展示中止を継続する旨を表明する文書(甲21)を提 出した。(甲8・23、44頁)ケ原告は、令和元年9月30日、前記オ記載の保全事件の第3回審尋期日において、不自由展実行委員会との間で、「同年10月6日から同月8日の再開を前提として、お互い、誠実に協議する」旨の和解を成立させたことにより、前記オの保全事件は終了した(甲22・4丁裏、甲27・7 頁)。 原告会長は、上記同日である同年9月30日、本件不自由展を再開する旨の判断をした。原告会長は、前記のとおり、第三者委員会(実際には県の検証委員会)の検討結果を考慮して対応を検討することとしたが、県の検証委員会が本件不自由展を再開すべきであるとの中間報告を発表したの が同月25日であり、他方、本件芸術祭の参加アーティストらからは、同年10月5日までの再開を求められていたことから、運営会議を開催する時間的余裕はないと考え、本件不自由展の再開について運営会議を開催しなかった。(原告事務局次長11頁)原告は、同年9 年10月5日までの再開を求められていたことから、運営会議を開催する時間的余裕はないと考え、本件不自由展の再開について運営会議を開催しなかった。(原告事務局次長11頁)原告は、同年9月30日付けで、被告に対し、未払分の負担金(前記⑴ シ③)の支払を請求した(甲4の3)。また、原告は、同年10月1日、 - 57 -被告に対し、上記保全事件の和解の経緯を説明した(甲27・7、8頁)。 これに対し、被告は、本件交付決定通知書記載の支払期限である同年10月18日までに同負担金を交付しなかった。 コ原告は、原告会長名で、令和元年10月4日、原告の各委員宛に、「「表現の不自由展・その後」の展示再開に向けての表現の不自由展実行 委員会への協議の呼びかけについて」と題する書面(甲16)を発出し、被告には同月7日にこれを交付した。同文書では、前記保全事件の同年9月30日の審尋期日に際し、県の検証委員会の中間報告を踏まえ、原告から、不自由展実行委員会に対し、本件不自由展の再開に向けた協議を始めることを呼び掛けたこと、再開の時期は同年10月6日から8日までを想 定していること、再開に向けては四つの条件、すなわち、①犯罪や混乱を誘発しないように原告と不自由展実行委員会の双方が協力すること、②安全維持のために事前予約制の整理券を発券する方式とすること、③開会時のキュレーションと一貫性を保持し、必要に応じて観覧者に対するエデュケーションプログラム等を別途実施すること、④県庁は、来場者に対し、 県の検証委員会の中間報告の内容をあらかじめ伝えることの四つを条件としている旨が記載されている。 サ原告及び県の検証委員会は、令和元年10月5日及び6日、国際フォーラムを開催し、原告会長出席の下、状況報告、表現の の内容をあらかじめ伝えることの四つを条件としている旨が記載されている。 サ原告及び県の検証委員会は、令和元年10月5日及び6日、国際フォーラムを開催し、原告会長出席の下、状況報告、表現の自由に関する有識者によるプレゼンテーション、芸術監督・キュレーター・参加アーティスト らによるディスカッション等を実施した(甲8・254、255、260~265頁)。 シ原告会長は、令和元年10月7日、臨時会見を開き、翌8日から本件不自由展の展示を再開すること及び展示を中止等している本件芸術祭の参加アーティストらについても全員が展示を再開する旨を発表した(甲22資 料1-1、甲27・8頁)。 - 58 -ス令和元年10月8日、原告会長の決定に基づき、本件不自由展の展示が再開された(甲8・280~310頁)。 セ令和元年10月14日、本件芸術祭は閉幕した(甲22資料1-3・1頁)。 本件不自由展に関連する抗議は再開後もみられ、不審な郵便物が芸術文 化センター宛てに届いたり、県内6市宛に、市内の学校等に放火する旨のメールが届いたりした(甲22資料1-1)。もっとも、電話、メール又はFAX で寄せられた抗議の件数についてみれば、開幕当初と比較すると落ち着きがみられた。(甲8・255参照)ソ本件芸術祭は、東京や大阪と比べると、交通や人口の点から不利な条件 下であり、また、いわゆるビッグネームのアーティストに頼らなかったにもかかわらず、前回を10%以上も上回る総数67万人以上の来場者を集め、1日当たりの来場者数においても2019年に開催された国内の美術展中で最大規模となり、チケット収入は前回の1.5倍で、予想値を7000万円上回った(甲8・4頁)。なお、上記の総来場者数は、世界的 め、1日当たりの来場者数においても2019年に開催された国内の美術展中で最大規模となり、チケット収入は前回の1.5倍で、予想値を7000万円上回った(甲8・4頁)。なお、上記の総来場者数は、世界的に 有名な展覧会であるヴェネツィア・ビエンナーレに並ぶものであるところ、ヴェネツィア・ビエンナーレは開催期間が長期にわたることから、1日当たりの来場者数でみると、本件芸術祭はヴェネツィア・ビエンナーレの約3倍に上る(甲22資料2・9頁、乙28・10頁)。 ⑹ 閉幕後の経過 ア被告は、再三の申し入れにもかかわらず、原告が運営会議の開催について明確な応答をせず、十分な説明をしないことから、令和元年10月18日までに支払う予定であった負担金3380万2000円の支払を留保することとし、同日、原告に対し、その旨の通知した(乙1・52頁、乙31・6頁、被告室長22~24頁)。 また、被告市長は、本件不自由展を中核とした本件芸術祭に、公金を支 - 59 -出することの妥当性について慎重に検討する必要があると考え、第三者委員会を設置することとし、被告が負担することが適切な費用の範囲及び次年度以降の被告のあいちトリエンナーレへの関わり方を検討することを目的として、「あいちトリエンナーレ名古屋市あり方・負担金検証委員会」(以下「市の検証委員会」という。)を設置した。市の検証委員会は、令 和元年12月19日、令和2年2月14日、同年3月27日に会合を開催した。(乙1、乙2・2頁、乙27~29、乙31・6、7頁)イ令和元年12月26日、原告の運営会議が開催され、県の検討委員会による調査報告書(同月18日付け。甲8)及び今後の運営体制に対する提言(甲22資料2)が提出された。また、本件不自由展の中止及び再 イ令和元年12月26日、原告の運営会議が開催され、県の検討委員会による調査報告書(同月18日付け。甲8)及び今後の運営体制に対する提言(甲22資料2)が提出された。また、本件不自由展の中止及び再開の 経緯についても報告されたところ、出席していた被告市長は、展示作品の内容や、原告会長が運営会議を開催しなかったこと等の問題性を指摘して、抗議の意思を表明した。(乙2・2頁、乙13、原告事務局次長12頁)ウ市の検証委員会は、前記ア記載の会合が行われた令和2年3月27日、報告書(乙2)を公表した。市の検証委員会は、同報告書において、結論 として、被告が支払を拒んでいる3380万2000円について、支払義務は存在しないとし、その理由として次のように述べている。 まず、本件負担金交付決定は、被告が原告に対して支払意思を一方的に通知したにすぎず、仮に原告において何らかの財産上の期待が生じていた事実があるとしても、本件交付決定通知書において負担金の交付の決定や 内容の変更等が留保されていたことからすれば、原告に無条件の期待権が発生する余地はなく、したがって、被告が負担金支払義務を負うか否かは、専ら、その留保の条件である「事情の変更により特別の必要が生じたとき」の解釈の問題に帰結する。そして、本件不自由展の開催に当たっては、原告会長ないし原告事務局は、芸術監督に対し、O作品の展示方法の変更を 求めたり、警察に相談したうえで警備体制の打ち合わせを行ったりしてお - 60 -り、本件不自由展の作品の展示により、危機管理上の重大な事態が発生することをあらかじめ想定していたにもかかわらず、運営会議を開催しなかったことにより、衆智を集めた適切な対応をとる機会を逸し、被告との関係では、被告は原告に対し、早い段階から展示内 重大な事態が発生することをあらかじめ想定していたにもかかわらず、運営会議を開催しなかったことにより、衆智を集めた適切な対応をとる機会を逸し、被告との関係では、被告は原告に対し、早い段階から展示内容を明らかにするよう催促していたにもかかわらず、原告は、展示開始のわずか1週間前に、しか も極めて不十分な内容の展示作品一覧を交付したにとどまったため、被告は十分な体制を整えられないまま本件不自由展の開幕を迎え、抗議の嵐ともいえる緊急事態によって通常業務に大いに支障をきたすこととなった。 また、原告会長は、本件不自由展の中止及び再開に当たり、運営会議を開催せず、被告市長を始めとする他の委員との意思の疎通を図ることなく、 独断的に決定した。被告市長としては、原告会長が本件規約を順守した運営を当然に行うものと考えて本件負担金交付決定を行ったのに、原告会長は3度にわたって本件規約を完全に無視したものであり、これは、本件負担金交付決定当時に基礎とされていた事情がその後大きく変更したことを意味する。このような事情変更は、被告市長において予見することができ ず、また、被告市長の責めに帰することのできない事情により生じたものである。本来であれば、特に本件不自由展の再開の判断は、本件規約13条に基づき、運営会議を開催して他の委員の意見を聴き、その結果に基づいて慎重に判断すべきところ、原告会長が同条の規定を無視したことは、規約の存在意義を失わせる重大な違反であり、被告市長は、本件規約に基 づき意見を述べる機会を不当に奪われた。原告会長によるこのような不当な運営に対して、3回目の負担金の不交付という形で被告が抗議の意思を表明するということは、必ずしも不適当ではなく、ほかに手段がない以上、負担金を不交付とする必要性があるといえる。他方、本件 うな不当な運営に対して、3回目の負担金の不交付という形で被告が抗議の意思を表明するということは、必ずしも不適当ではなく、ほかに手段がない以上、負担金を不交付とする必要性があるといえる。他方、本件芸術祭全体をみると、本件不自由展以外の100を超える展示等は、おおむね好評の下に 終わっているから、すでに交付した1億4000万円弱の返還を求めるこ - 61 -とは適切ではない。 エ被告は、令和2年3月27日付けで、本件不自由展において政治的偏向の強い作品が展示されることについて、原告からあらかじめ知らされていなかったなどとして、本件交付決定通知書の「3 交付の条件⑷」に定める負担金の交付決定後、事情の変更により特別の必要が生じたときに該当 すると判断したとの理由により、交付決定額を1億3722万2000円(原告に支払済である前記⑴シ①及び②の合計額)に減額する旨決定し、原告にその旨通知した(甲5)。被告は、現在も残額3380万2000円(前記⑴シ③)の支払を拒んでいる。 オ原告会長は、令和2年4月20日、運営会議の各委員に対し、同月30 日を回答の期限として書面表決を行う旨の通知をした(前提事実⑸)。同通知には、1号議案として、原告が、被告に対し、負担金交付請求権に基づき、未払である3380万2000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴えを提起する旨の記載がある(丙1)。また、訴状案、被告作成の変更決定通知、本件規約が添付されている。原告会長は、本件書面 表決に先立ち、運営会議を開催せず、被告が上記エの変更通知を行うに至った経緯や理由について、被告に説明の機会を与えなかった。 カ被告は、令和2年4月21日、原告に対し、書面表決の撤回を申し入れた。また、被告は、同月22日 、被告が上記エの変更通知を行うに至った経緯や理由について、被告に説明の機会を与えなかった。 カ被告は、令和2年4月21日、原告に対し、書面表決の撤回を申し入れた。また、被告は、同月22日、原告各委員及び愛知県県民文化局長に対し、「令和2年4月20日付あいちトリエンナーレ実行委員会運営会議開 催に代わる書面表決依頼にかかる対応について(要望)」と題する書面(甲23)を送付した。被告市長は、同書面において、新型コロナウイルスの感染状況が深刻化しており、感染対策に全力を尽くすべき非常事態のもと、愛知県(知事)主導の原告と被告との間で裁判及びその準備をしている場合ではなく、本件書面表決は、このような非常事態に、愛知県と被 告との対立を持ち込むものであって、発案自体が不謹慎かつ非常識なもの - 62 -であること、被告としては、事案の性質上、会議の場で各委員に対し、負担金の不払を決定するに至った経緯や理由について説明する機会を設けることを希望すること、適正な審議手続を経た上での評決であれば甘んじてその決定に従うが、本件書面表決の通知書には、紛争の背景等に関する具体的な事情の説明が全くなく、被告に説明の機会も与えられず、賛否を求 める内容であって、不適当であり、各委員において反対票を投じてほしい旨などが記載されている。また、上記書面の添付資料として、被告の原告に対する本件書面表決の「撤回申入書」、市の検証委員会の報告書、令和元年10月9日に県の検討委員会のヒアリングの場で被告市長が述べた意見陳述の要旨等が添付されている。同意見陳述の要旨等においては、被告 の見解として、Q映像作品がハラスメント作品であること、本件不自由展の各展示作品について、展示を許可しないとしても検閲には該当せず、むしろ、財政民主主義の 同意見陳述の要旨等においては、被告 の見解として、Q映像作品がハラスメント作品であること、本件不自由展の各展示作品について、展示を許可しないとしても検閲には該当せず、むしろ、財政民主主義の観点からすれば地方公共団体が展示作品に口を出すことは当然であることなどが具体的に記載されている。 キ原告は、書面表決により上記議案が可決した(本件書面表決)として、 令和2年5月21日、被告に対し、上記差額分の支払を求めて本件訴訟を提起した。 本件書面表決については、原告の運営会議の委員24名のうち21名が表決書を提出し、賛成14票、反対0票、棄権7票であった。残る3名については、原告会長に表決書を返送しなかった。棄権票を提出した7名は、 表決書の賛成や反対の欄には何ら記載せず、「棄権します」(2票)、「棄権させていただきます」(2票)、「棄権」(3票)と記載した。 (甲6の1~21、丙6) 2 争点⑴(本件書面表決は、本件規約13条8項の「会長が必要と認める場合」の要件を満たすか・本案前の争点)について ⑴ 被告の主張 - 63 -被告は、書面表決は、会合による十分な審理や討議をすることなく最終的な意思決定を行うものであるから、原告の意思を形成するに当たっては、運営会議の方法によることが原則であり、書面表決は例外的な手続として、討議等の省略を正当化する合理的な根拠がある場合に限られるから、その必要性については、厳格な限定解釈を行うべきであると主張する。 ⑵ 本件規約の定めそこで検討するに、本件規約は、13条2項において、「運営会議は、次の事項を議決する。」と定めた上、議決事項として、事業計画及び収支予算、事業報告及び収支決算、その他実行委員会の運営に関する重要な事項を定めている。他 件規約は、13条2項において、「運営会議は、次の事項を議決する。」と定めた上、議決事項として、事業計画及び収支予算、事業報告及び収支決算、その他実行委員会の運営に関する重要な事項を定めている。他方、同条8項は「会長が必要と認める場合、あらかじめ通知した 事項に対する構成員による書面表決をもって、運営会議の議決に代えることができる。」と定めている。このように、本件規約が運営会議による議決を先に掲げ、書面表決を運営会議の議決に代えることができるものであるという位置付けにとどめていることからすると、本件規約は、原告の意思決定のあり方について、運営会議の方法によることを原則とし、書面表決の方法に よることは例外的な場合と位置付けていると解される。 他方で、本件規約13条8項は、書面表決を行うことができる場合について、「会長が必要と認める場合」と規定し、書面表決の方法によるべき必要性の判断を会長に委ねている。そして、本件規約上は、当該必要性の判断についての考慮要素や制約を何ら定めていない。また、同項は、その文言上、 当該必要性のほかに、被告が主張するような緊急性は求めていない。かえって、本件規約は、16条1項において、「会長は、運営会議の議決事項について、緊急を要するときは、これを専決処分することができる」旨定めているから、上記のような緊急性が認められる場合には、運営会議も書面表決も行うことなく、会長が専決処分を行うことができることとなる。 以上によれば、本件規約は、書面表決を行うべき必要性の認定判断につい - 64 -て、会長に広い裁量を認めていると解するのが相当である。したがって、会長が書面表決の方法による必要があると判断したときは、その判断が明らかに合理性を欠くなどの特段の事情が認められない限り、「 -て、会長に広い裁量を認めていると解するのが相当である。したがって、会長が書面表決の方法による必要があると判断したときは、その判断が明らかに合理性を欠くなどの特段の事情が認められない限り、「会長が必要と認める場合」に該当するものと解するべきである。これと異なり、同要件を厳格に限定解釈すべきであるとする被告の主張は、採用することができない。 ⑶ 原告会長による必要性の判断ア本件では、原告会長は、令和元年10月18日に予定されていた3380万2000円の負担金の交付がされなかったことを受け、原告の被告に対する負担金支払請求訴訟(本訴)を提起することにつき、書面表決の方法により決定する必要があると判断したところ、この判断が明らかに合理 性を欠いているなどの特段の事情が認められるかについて検討する。 イ前記認定事実によれば、被告は、本件芸術祭開催前である平成31年4月16日、原告に対し、本件負担金を3回に分けて交付する旨の決定を行い(本件負担金交付決定。前提事実⑸。認定事実⑴シ)、うち2回を交付したものの(前提事実⑸、認定事実⑴ス、ニ)、本件芸術祭閉幕後 である令和元年10月18日(支払期限。認定事実⑴シ③)に至って、原告会長が運営会議を開催しないことを理由に支払を留保し、さらに、令和2年3月27日、本件不自由展において政治的偏向の強い作品が展示されることをあらかじめ知らされなかったなどとして、本件負担金の額を減額変更する旨の決定をしている(認定事実⑹エ)。また、市の検 証委員会も、その報告書(乙2)において、原告会長又は原告事務局が、被告に対して本件不自由展の展示内容等について必要な情報を提供しなかったことや、原告会長が運営会議を開催することなく本件不自由展の中止及び再開を決定したことは )において、原告会長又は原告事務局が、被告に対して本件不自由展の展示内容等について必要な情報を提供しなかったことや、原告会長が運営会議を開催することなく本件不自由展の中止及び再開を決定したことは重大な規約違反であるとした上で、本件負担金のうち被告が支払を拒んでいる3回目の負担金交付部分について、 不交付とする必要があると結論付けている(認定事実⑹ウ)。 - 65 -このような経過からすれば、本件負担金の未交付部分について、被告による任意の支払を期待することができない状況であったといえるから、原告としては、被告に対し、負担金の支払を求めて訴えを提起することについて、意思決定を行う合理的必要性があったと認められる。 ウまた、原告会長が書面表決を行う旨を通知した令和2年4月20日当時 は、新型コロナウイルスの感染者数が日々増加し、国が7都道府県に緊急事態宣言を発し、愛知県も4月10日に独自の緊急事態宣言を発出するなど、感染状況が深刻化していた時期でもある。そして、新型コロナウイルスの集団感染を防ぐために、いわゆる三つの密(密閉、密集、密接)を避けて行動することが繰り返し要請されていたほか、不要不急の 外出や県をまたいだ移動を自粛することが要請されていたことも顕著な事実である。他方、会議は、一般的に、一つの部屋に大人数が集まり、長時間にわたる議論を行うなどの点で、上記三つの密が発生する状況になりやすく、また、原告の運営会議の委員は、愛知県内だけでなく、東北から中国地方までの各地に所在する者が含まれているから(前提事実 ⑴ア)、運営会議を開催するとなると、これらの者に都府県をまたいだ移動を求めることになり、外出や県をまたいだ移動の自粛要請にも反することになる。 エそうすると、原告会長が、 事実 ⑴ア)、運営会議を開催するとなると、これらの者に都府県をまたいだ移動を求めることになり、外出や県をまたいだ移動の自粛要請にも反することになる。 エそうすると、原告会長が、被告に対する訴えを提起することにつき、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、運営会議の方法によらず、書面 表決の方法により意思決定を行う必要があるとした原告会長の判断は、合理性を有するものといえる。 ⑷ 被告の反論アこれに対し、被告は、本件負担金の未交付部分の支払を受けなくとも、本件芸術祭に係る原告の収支は黒字であったから、直ちに訴訟提起する必 要性、緊急性はなかった旨主張する。 - 66 -しかし、本件規約上、書面表決を行うに当たって緊急性が要件とされていないことは前記のとおりである。また、原告の財政状況(収支の黒字)は、被告に対する訴えを提起する必要性の判断、すなわち本件書面表決の議案に対する賛否を表明する際の考慮要素とはなり得るものの、原告の意思決定の方法として書面表決を選択すること自体の合理性を否定するに足 りない。 イまた、被告は、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いた後、感染拡大防止措置を講じながら運営会議を開催することが可能であったとも主張する。 しかしながら、令和2年4月当時の感染状況は前記のとおりであり、急 速な感染拡大による社会への多大な影響の可能性が指摘され、三つの密を避けるなどの感染防止対策をとる必要性が強く意識される一方、感染が終息に向かうとの具体的な見通しも持ち得ない状況であった。そして、原告の事業年度終了日は3月31日であり(甲1。本件規約19条)、法人税等の納付期限が事業年度終了日の翌日から2か月以内であることを考慮す ると、早期に決算を確定させる 状況であった。そして、原告の事業年度終了日は3月31日であり(甲1。本件規約19条)、法人税等の納付期限が事業年度終了日の翌日から2か月以内であることを考慮す ると、早期に決算を確定させる必要があることも否めない。こうした状況を踏まえると、感染状況が落ち着くのを待たなかったからといって、本件書面表決を行うとの原告の意思決定が不合理であるともいえない。 ウさらに、被告は、本件訴えの提起に当たり、原告会長が、被告市長に対し、説明や弁明の機会を付与しなかったことや、被告市長が書面表決に よることを撤回し運営会議を開催するよう求めたのに、原告会長がこれに応じなかったことなどを問題として指摘する。被告市長も、原告会長が書面表決を行う旨を各委員に通知した日の直後である令和2年4月22日、運営会議の各委員に対し、「令和2年4月20日付あいちトリエンナーレ実行委員会運営会議開催に代わる書面表決依頼にかかる対応に ついて(要望)」と題する書面(甲23)を送付しており、この中で、 - 67 -本件書面表決は新型コロナウイルスによる非常事態時に愛知県と被告の対立を持ち込むものであって、発案自体が不謹慎かつ非常識なものであり、また、被告が負担金の不払を決定するに至った経緯や理由について説明する機会を設けることを希望しているにもかかわらず、原告会長は被告に会議の場で各委員に説明する機会を与えることもしていないから、 本件書面表決は不当であると述べている(認定事実⑹カ)。 しかしながら、本件規約上、書面表決を行うに当たり、被告が運営会議の場で説明を行うことや、被告の求めに応じて運営会議を開催すべきことが、手続上予定されているとはいえない。もちろん、書面表決に当たっても、これが運営会議の方法によることの例外として位置づけ 運営会議の場で説明を行うことや、被告の求めに応じて運営会議を開催すべきことが、手続上予定されているとはいえない。もちろん、書面表決に当たっても、これが運営会議の方法によることの例外として位置づけられ る以上、各委員の見解が事前に分かっていることも望ましいことではある。もっとも、本件では、上記のとおり、被告が、4月22日に各委員に送付した書面の中で、Q映像作品がハラスメント作品であることなどの被告の意見を具体的に説明していることからすれば、各委員は、被告が本件負担金の支払を拒否した理由や背景事情を踏まえた上で表決を行 ったものと推認することができる。このような事情に加え、そもそも上記のように本件規約上、書面表決を行うに際して各委員の見解を周知することが求められているものでもないことを踏まえると、本件書面表決を不当であるとまですることはできない。そうすると、被告が指摘する上記の観点を踏まえても、書面表決を行う必要性があるとした原告会長 の判断が明らかに合理性を欠くものであるとは認められない。 ⑸ 小括以上によれば、書面表決の必要があると認めた原告会長の判断は合理的なものと認められ、本件において同判断が明らかに合理性を欠いているなどの特段の事情は認められない。 したがって、本件書面表決は、本件規約13条8項の「原告会長が必要と - 68 -認める場合」の要件を満たすから、同条項違反を理由として本件訴えが不適法であるとする被告の主張は、採用することができない。 3 争点⑵(本件書面表決は定足数要件を満たすか・本案前の争点)⑴ 被告の主張被告は、本件書面表決の結果(賛成14票、反対0票、棄権7票、未回答 3票)中、棄権の7票について、これを投じた7名の委員の意思を合理的に解釈すれば、 ・本案前の争点)⑴ 被告の主張被告は、本件書面表決の結果(賛成14票、反対0票、棄権7票、未回答 3票)中、棄権の7票について、これを投じた7名の委員の意思を合理的に解釈すれば、本件書面表決に参加すること自体を拒否したものとみるべきであるとして、その結果、本件書面表決に参加した委員の数(14票)が定足数である16(票)に満たない旨を主張する。 ⑵ 本件規約の定めと棄権票の扱い アそこで検討するに、本件規約13条8項は、書面表決の方法について「会長が必要と認める場合、あらかじめ通知した事項に対する構成員による書面表決をもって、運営会議の議決に代えることができる」と定めるのみであり、表決書を返送しない場合や棄権があった場合の取扱については定めていない。もっとも、前記2⑵記載のとおり、本件規約は、原告の意 思決定について運営会議の方法によることを原則としているところ、運営会議については「構成員の3分の2以上の出席をもって成立する」(13条5項)と規定しているから、書面表決についても、参加した委員の数が運営会議を行った場合の定足数に満たないときは、書面表決自体が不成立となり得ると解される。原告の運営会議の委員は24名であるから、運営 会議の定足数はその3分の2に当たる16名である。そして、本件書面表決の結果、賛成を表明した委員は14名であり(反対票はない。)、残る10名のうち7名は棄権する旨を表明し、3名は表決書を返送していない(認定事実⑹キ)。 イそこで、本件書面表決に際して棄権した者の扱いについて検討する。 まず、上記のとおり、本件書面表決においては、3名の者が表決書を返 - 69 -送していない。このように書面表決において表決書を返送しなかった場合は、何らの意思も表 ついて検討する。 まず、上記のとおり、本件書面表決においては、3名の者が表決書を返 - 69 -送していない。このように書面表決において表決書を返送しなかった場合は、何らの意思も表明していないという点で、会議における欠席と同視することができるから、書面表決に参加しなかったものと解するのが相当である。 これに対して、棄権する旨を記載して表決書を返送した者は、少なくと も議案に対する賛成票を投じないという意思を表明していると解され、何らの意思も表明していないとはいえないから、会議における欠席と同視することは相当でない。また、棄権票を行使する際に、ある議案については棄権し、他の議案については賛否のいずれか一方の意思を表示する(表決する)という方法で権利行使がされることもあり得るといえる。このよう な棄権票の性格及び行使の実情からすると、棄権票を投じた者の意思としては、個々具体的な議案について可否のいずれであるかの意思を表示する権利を捨てて、あえてその意思を明確にしない旨を表明したものと解するのが合理的であり、これを超えて、会議そのものに参加しない旨を表明したものとまでは直ちに解し難い。これと異なり、仮に棄権したことのみか ら会議そのものに参加しなかったと解するとすれば、議案が複数ある場合に、議案によって定足数を満たしたり満たさなかったりすることになり、議案ごとに会議の成立又は不成立がまちまちとなる事態が生じることとなるが、棄権票を投じた者が、このような事態まで招来させることを期待して棄権票を投じているとも解し難い。 ウそうすると、棄権票は、特段の事情がない限り、会議(書面表決)には参加しつつ、個々の議案について可否のいずれであるかを明らかにしない旨の意思を表明したものといえるから、書面 い。 ウそうすると、棄権票は、特段の事情がない限り、会議(書面表決)には参加しつつ、個々の議案について可否のいずれであるかを明らかにしない旨の意思を表明したものといえるから、書面表決に参加したものと解するのが相当である。 ⑶ 被告の反論 以上に対し、被告は、本件における棄権票の表記によっては、不参加の表 - 70 -明になり得ることを指摘する。しかし、本件では、棄権とされた7票は、いずれも、表決書に、「棄権」、「棄権します」、「棄権させていただきます」などと棄権する旨の記載があるのみであり(認定事実⑹キ)、このほかに会議に参加しない意思を特に表明したことをうかがわせる記載はない。 また、被告は、本件の表決書中の、議案について賛否の意思表示がない場 合は賛成として扱う旨の記載(いわゆる「みなし記載」)は、棄権の自由の侵害であるとか、本件は中核となる自治体同士が対立している案件であり、各委員が、知事である原告会長に対し、不参加表明の趣旨で儀礼的に表決書を返送したにすぎない可能性があるとか主張する。しかし、前者については、被告の独自の見解であるといわざるを得ず、採用することができないし、後 者についても、可能性の指摘にとどまるものであって、上記⑵ウ記載の棄権票の意思表明とは別異に解すべき特段の事情ということもできない。 さらに、被告は、地方自治法116条1項の「出席議員」(定足数)と棄権者の関係に関する裁判を参考に、棄権を予測することができない状況で表決がされた場合には、棄権者を定足数に含めるべきではなく、本件でもみな し記載があり、賛否以外の意思を表示し得ない以上、棄権という表決行為が予測され得なかったなどと主張する。しかし、本件書面表決は地方公共団体の議会における表決ではなく きではなく、本件でもみな し記載があり、賛否以外の意思を表示し得ない以上、棄権という表決行為が予測され得なかったなどと主張する。しかし、本件書面表決は地方公共団体の議会における表決ではなく、しかも、表決において棄権を予測することができないからといって、棄権者を定足数に含めるべきでないと直ちに解することもできない。 したがって、本件書面表決は、賛成票を投じた14名及び棄権票を投じた7名の計21名の委員が参加したと認められ、運営会議の場合と同様の定足数16(票)を満たしているといえるから、有効に成立したと認められる。 ⑷ 小括以上より、争点⑵(本案前の争点)に関する被告の主張は採用することが できず、前記2⑸における結論も踏まえると、本件訴えの提起は適法である。 - 71 - 4 争点⑶(被告は「事情の変更により特別の必要が生じたとき」に該当するとして本件負担金の支払を拒むことができるか・本案の争点)について⑴ 「事情の変更により特別の必要が生じたとき」の解釈ア被告は、本件不自由展の展示内容が、公共事業という本件芸術祭の性格等に照らして著しく不適切であり、また、本件不自由展の運営についても 手続上の問題があるとして、本件負担金を減額変更することができる要件である「負担金の交付決定後、事情の変更により特別の必要が生じたとき」に該当するとして、本件負担金のうち、原告の請求に係る未交付部分は、被告市長の減額変更により消滅した旨主張する。 イこの点、本件交付決定通知書は、交付の条件の一つに、「市長は、負担 金の交付決定後、事情の変更により特別の必要が生じたときは、負担金の交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、またはその決定の内容若しくはこれに附した条件を変更する場合がありま 「市長は、負担 金の交付決定後、事情の変更により特別の必要が生じたときは、負担金の交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、またはその決定の内容若しくはこれに附した条件を変更する場合があります。」(認定事実⑴シ)として、交付決定後に負担金を減額する必要が生じた場合に減額変更することができる旨定め、かつ、その必要性判断を被告市長が行うも のとしている。これは、負担金が公金を用いるものであり、地方公共団体の予算や地域の実情等を踏まえた公金支出の適正の確保の観点から、事後的に負担金を減額変更し得る旨を定めたものと解される。 ウもっとも、本件交付決定通知書が、交付の条件として「事情の変更により特別の必要が生じたとき」と定めていることからすれば、その文言の 素直な解釈からしても、被告市長が負担金額を変更することができるのは、その必要性が特に大きい場合(「特別の必要」)に限られ、かつ、その必要性は事情の変更によって生じたものであることを要する。 また、事情の変更による負担金の減額変更は、交付の主体である被告が一たび交付の意思を明示した後に、交付時には存在しなかった事由に より交付決定の取消し等をするものであるから、交付の相手方である原 - 72 -告の期待権を一定程度侵害し得る。さらに、事情の変更や交付決定の取消しの必要性は多義的な概念であり、その背景となる公金支出の適正性についての考え方も個別の事案や価値観等によって分かれ得る。そうすると、原告としては、被告が後に主張する事由を根拠に比較的自由に負担金が減額変更されるとすれば、そのことを事前に予測することは困難 であるといわざるを得ない。 そして、原告が指摘するように、民法の解釈上一般に、事情変更の原則が認められるのは、急激な社会変革や災害等に 更されるとすれば、そのことを事前に予測することは困難 であるといわざるを得ない。 そして、原告が指摘するように、民法の解釈上一般に、事情変更の原則が認められるのは、急激な社会変革や災害等により事業遂行等が不可能になったなどの極めて例外的な場合に限られるとの議論がされている。 エ以上によれば、「負担金の交付決定後、事情の変更により特別の必要が 生じたとき」とは、負担金交付決定時に想定された事情及びその後に生じた事情等に加え、減額変更によって交付の相手方である原告に生じ得る不利益の内容及び程度等をも考慮した上で、なお事情の変更により負担金を減額変更する必要性が特に高いと認められる場合をいうものと解するべきである。上記の「事情の変更により特別の必要が生じたとき」 の認定に関し、被告市長の広汎な裁量をいう被告の主張は、採用することができない。 ⑵ 本件での各事情の検討前記認定事実のとおり、本件負担金の交付対象となる本件芸術祭は、本件不自由展の中止及び再開の点を除き、当初の予定どおり開催され、終了して いる。したがって、この点では、本件において、本件芸術祭の開催自体に関する事情の変更は認められない。 もっとも、被告は、本件不自由展の内容面や開催に係る手続面において、本件芸術祭に対する公金支出を許容し難い事態が生じたとして、事情の変更があると主張する。そこで、以下では、前記前提事実及び認定事実を踏まえ、 被告が主張する各事情(ハラスメント、政治的中立性を欠くこと、報告義務 - 73 -違反、運営会議の不開催)について、本件負担金を減額変更する必要性の内容及び程度を上記⑴エの観点から検討し(後記⑶~⑹)、更にその他の事情として、本件負担金の減額変更によって原告に生じ得る不利益の内容及び程度 議の不開催)について、本件負担金を減額変更する必要性の内容及び程度を上記⑴エの観点から検討し(後記⑶~⑹)、更にその他の事情として、本件負担金の減額変更によって原告に生じ得る不利益の内容及び程度をも検討した上で(後記⑺)、これらを踏まえて事情変更により本件負担金を減額変更する必要性が特に高いといえるかについて判断する(後記⑻)。 ⑶ 公共事業性とハラスメントについてア被告は、本件不自由展の作品のうち、特にQ映像作品、O作品及びS作品は、愛知県民、名古屋市民に限らず、多くの鑑賞者にはなはだしい不快感や嫌悪の情を催させるハラスメントともいうべき作品であり、その違法性が明らかである上、本件芸術祭が実質的には愛知県及び名古屋市(被告) の共催によるものであるという点で公共事業に該当することからすれば、このような作品の展示を公金で援助することは、県民感情に反し許されない旨主張する。そして、被告市長も、その本人尋問において同旨の供述をする(被告市長1、3頁)。 そこで、かかる事情に基づき本件負担金を減額変更する必要性について 検討する。 イまず、被告は、本件芸術祭が公共事業に該当すると主張する。この点、本件芸術祭は、愛知万博を継承する目的で始まった展覧会であり(前提事実⑵ア)、会長職を始めとして、原告の複数の役職を愛知県庁職員が兼務しており(同⑴ア)、事業収入のおおむね70%前後を愛知県及び被告 が支出する負担金が占めている(同⑵ウ)。しかも、愛知県は、あいちトリエンナーレを継続的に開催するためなどとして、文化庁に対し、本件芸術祭開催年度である平成31年度における文化資源活用事業費補助金の交付申請もしている(乙21)。したがって、地方公共団体である愛知県及び被告は、本件芸術祭について人的、経済的に大き 庁に対し、本件芸術祭開催年度である平成31年度における文化資源活用事業費補助金の交付申請もしている(乙21)。したがって、地方公共団体である愛知県及び被告は、本件芸術祭について人的、経済的に大きく寄与しているといえ、 このような意味で、本件芸術祭が公的な側面を有する催物であることを否 - 74 -定することはできない。 しかしながら、本件芸術祭は、あくまで原告によって準備及び開催運営が行われているのであり、原告は権利能力なき社団であって、地方公共団体ではないから(前提事実⑴ア)、本件芸術祭を地方公共団体が行うような公共事業であるということはできない。被告は、本件芸術祭が実質的に 愛知県及び名古屋市(被告)の共催によるものであるという点から公共事業に該当するなどと主張するが、独自の見解を述べるものであり、採用することができない。 よって、本件芸術祭が公的な側面を有する催物であるという限度で、被告の前記主張の当否を更に判断する。 ウ被告は、本件不自由展の作品中、特にQ映像作品、O作品及びS作品が、ハラスメントともいうべき作品であり、違法性が明らかであるなどと主張する。 この点、本件不自由展については、上記3作品に批判が集中し、「昭和天皇や特攻隊員への侮辱である」、「公金、公的施設の使い方として おかしい」などの批判が多数寄せられた(認定事実⑷イ)。Q映像作品には、昭和天皇の肖像をバーナーで焼却し、その灰を足で踏む場面が含まれており(前提事実⑹イ)、作者の説明によれば、天皇を侮辱する目的ではなく、作者の内なる天皇を従軍看護婦に託して祈りを捧げる目的の作品であるとするものの、上記場面がSNS 上で流通し、天皇の侮 辱を目的とする作品ではないかと批判されることとなった。また、O作品は 、作者の内なる天皇を従軍看護婦に託して祈りを捧げる目的の作品であるとするものの、上記場面がSNS 上で流通し、天皇の侮 辱を目的とする作品ではないかと批判されることとなった。また、O作品は、いわゆる従軍慰安婦像のレプリカであり、作者の説明によれば平和を祈るための作品であるとされるが(前提事実⑹ア)、ソウルの日本大使館前の像のように、反日の象徴として使用されている現実があることから(同⑹ア)、反感を覚える人々から批判を浴びた。さらに、 S作品は、作者の説明によれば、作品頭頂部に設置された寄せ書きが施 - 75 -された日章旗は、特攻隊とは無関係のものであるとされるが、鑑賞者から、同作品が特攻隊に関連したものとの誤解を招き、特攻隊を侮辱したものとして批判されることとなった。(甲7・37、38、88頁、甲8・13、57、58、134、140頁)他方、本件交付決定を行った当時、本件不自由展に関して被告が情報 提供を受けたのは、平成31年3月27日に交付されたプレスリリースのみであるところ、同プレスリリースには、展示される個々の作品の具体的内容の記載がなかったことから(認定事実⑴キ)、被告は、本件負担金の交付決定時には、上記3作品が展示されることになることを認識することができなかった。また、被告は、本件交付決定後である令和元 年7月22日、本件不自由展の展示予定作品が写真付きで掲載された一覧表(展示予定作品一覧)を受領し、O作品やS作品が展示されることを知ったものの、S作品については、日章旗に寄せ書きが施されていることや、貼付された新聞記事等の内容までは了知することができなかった(同ヌ)。さらに、Q映像作品については、上記一覧表に記載がなか ったため、同日時点でその存在を認識することができず、その ることや、貼付された新聞記事等の内容までは了知することができなかった(同ヌ)。さらに、Q映像作品については、上記一覧表に記載がなか ったため、同日時点でその存在を認識することができず、その後も原告から特段の情報提供がなく、開幕前日である同月31日に至って、被告室長が一部を視聴したにとどまった(同ヒ)。 そして、原告事務局は、本件不自由展に対して相当程度の抗議が寄せられることを想定し、苦情処理専用電話を含む25台の電話を設置する などの体制を整えて臨んだものの、想定をはるかに超える件数の抗議が殺到した。また、被告は、設備面、人員面において原告のような体制を整えずに本件芸術祭の開幕を迎えたところ、猛烈な抗議にさらされ、中には放火等の脅迫にわたる内容のものまであり、通常の業務に大いに支障が生じた。(認定事実⑵ア、⑷ア、エ、オ、原告事務局次長44頁) このような経過からすれば、上記3作品を中心とする本件不自由展の - 76 -展示作品について多数の人々が、不快感や嫌悪感を抱き、本件不自由展に批判が多く寄せられたこと、被告としては、展示作品の具体的内容を事前に把握していなかったことなどから、激しい抗議が行われることを予測しないまま開幕を迎え、猛烈な抗議にさらされたことが認められる。 エしかしながら、住民が多様な価値観を持ちながら共存している以上、本件不自由展に限らず、何らかの表現活動を行うことに対して、反対意見が存在することは避けることができない。なかでも芸術活動は、多様な解釈が可能である上、ときには斬新な手法を用いることから、鑑賞者に不快感や嫌悪感を生じさせる場合があるのもある程度やむを 得ない。このような芸術活動の性質に鑑みれば、鑑賞者に不快感や嫌悪感を生じさせるという 上、ときには斬新な手法を用いることから、鑑賞者に不快感や嫌悪感を生じさせる場合があるのもある程度やむを 得ない。このような芸術活動の性質に鑑みれば、鑑賞者に不快感や嫌悪感を生じさせるという理由で、いわゆるハラスメントなどとしてその芸術活動を違法であると軽々しく断言できるものでもない。 この点、被告は、軽犯罪法1条20号を引用し、上記3作品の内容が違法な程度に達している旨を主張する。しかし、同号は、「公衆の 目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出」する行為を処罰するものであり、上記3作品がいずれもこのようなものに該当しないことは明らかであり、違法と直ちに断言できるものではない。また、被告は、S作品が外国国章汚損罪(刑法92条)等に該当する疑いがあるとも 主張するが、そのような事実を認めるに足りる的確な証拠はない。さらに、被告は、愛知県美術館ギャラリー展示室利用受付許可要領が、「鑑賞者に著しく不快感を与えるなど、公安、衛生法規に触れるおそれのある作品」について展示を許可しないと定めていることも指摘するが、上記3作品が公安、衛生法規に違反するようなものであると認め るに足りる証拠もない。結局、被告の上記主張は、いずれも採用する - 77 -ことができない。 加えて、被告市長が平成31年3月27日に受領した本件芸術祭のプレスリリースには、本件不自由展が、2015年の不自由展と同様のコンセプトに基づく企画であり、慰安婦問題、天皇と戦争、植民地支配、憲法9条、政権批判など、近年公共の文化施設でタブーとされがちなテ ーマの作品を扱うことや、実際に公立美術館などで展示不許可になった作品を扱うことが記載されていた(認定事実⑴キ)。これによれば、被 法9条、政権批判など、近年公共の文化施設でタブーとされがちなテ ーマの作品を扱うことや、実際に公立美術館などで展示不許可になった作品を扱うことが記載されていた(認定事実⑴キ)。これによれば、被告市長は、同日時点で、本件不自由展が、過去に展示することに否定的な判断がされている作品をあえて展示する企画であり、また、展示が否定される程に強い政治性を伴う作品を扱う可能性があり、そうである以 上、鑑賞者等から相当程度の反発を招くことも想定し得たといえる。そうすると、たとえ被告に寄せられた非難が想定した程度を超えていたとしても、本件負担金の交付決定当時に想定し得た事態と実際に起きた混乱状況が本質的に異なるとまで直ちにいえるものでもない。 オ以上によれば、被告が指摘するQ映像作品、O作品及びS作品の3作品 の内容や実際に起きた混乱状況は、本件負担金を減額変更する上で必要とされる事情の変更として特に重視することはできない。 ⑷ 政治的中立性についてア次に、被告は、本件芸術祭が公共事業に当たることを前提に、上記の3作品を中心に、本件不自由展は政治的に一方の立場のみに偏向した展示で あるから、本件負担金を交付すれば、主催者である愛知県及び被告が、これらの作品の表現に含まれる政治的主張を後押ししているかのような印象を与える(いわゆる裏書効果)として、地方公共団体である被告に求められる政治的中立性や公金使用のあるべき姿に反し、許されないとも主張する。 イそこで検討すると、まず、O作品は、同型の作品である従軍慰安婦像が、 - 78 -特に韓国国内において、反日活動の象徴として用いられている実態がある(前提事実⑹ア)。Q映像作品は、いわゆる従軍看護婦をテーマにした作品であり、昭和天皇の写真を用いた過去の同 - 78 -特に韓国国内において、反日活動の象徴として用いられている実態がある(前提事実⑹ア)。Q映像作品は、いわゆる従軍看護婦をテーマにした作品であり、昭和天皇の写真を用いた過去の同作家の版画作品をバーナーで燃やしたり灰を足で踏んだりする映像を含んだ作品である(同イ)。 そして、S作品についても、作品名に「idiotJAPONICA」との表現が含ま れており、靖国参拝や憲法9条改憲を批判する内容の新聞記事等が多数貼付されている(同ウ)。このように、これらの3作品は、いずれも天皇制や旧日本軍、日韓関係等の観点から、日本を批判する政治的なメッセージを含む作品であると解釈される可能性を多分に含んでいるといえる。また、本件不自由展は、計23作品のうち、約3割が天皇制や戦前の日本に 関するものであり、約2割が日韓関係に関するものであった(認定事実⑶ア)。その上、公立美術館等で展示不許可等となった作品を集めるというコンセプトであったにもかかわらず、わいせつ性を理由に展示が禁止された作品を含んでいなかった(同ア)。そうすると、政治性のない作品が一部含まれていること(同ア)を踏まえても、本件不自由展は、全体的に強 い政治性を帯びた展示内容であったと認められる。そして、現に、「芸術の名を借りた政治(あるいは反日)プロパガンダ」、「展示が政治的に偏向している」、「公金、公的施設の使い方としておかしい」などの批判が寄せられたことは、前記(認定事実⑷イ)のとおりである。 そして、本件芸術祭が公的な側面を有する催物であることは否定するこ とができないことも、前記⑶イのとおりである。 ウしかしながら、本件負担金は、本件芸術祭の主催者である原告に交付されるものであって、本件不自由展自体や個々の作家に対して交付され 定するこ とができないことも、前記⑶イのとおりである。 ウしかしながら、本件負担金は、本件芸術祭の主催者である原告に交付されるものであって、本件不自由展自体や個々の作家に対して交付されるものではない。また、本件芸術祭において本件不自由展を開催することや、どのような作品を展示するかということは、芸術監督及び不自由 展実行委員会が自律的に決定しているものであり、被告の当不当の判断 - 79 -に基づいて決められたものではない。したがって、上記の批判が一部にあるからといって、本件負担金の交付によって、被告が、本件不自由展の参加アーティストや、作品から解釈し得る思想信条に対して何らかの見解(肯定や裏書き)を与えることになると一義的にいえるものでもない。もとより、公立美術館等の公の施設は、住民の福祉を増進する目的 をもってその利用に供するためのものであり、地方公共団体は正当な理由がない限りその利用を拒んではならないのであって(地方自治法244条参照)、設置した地方公共団体の見解を表明する場ではない。 しかも、本件不自由展の予算は420万円であり(ただし、実際に要した経費は約2300万円であった。)、これは本件芸術祭のうちの国 際現代美術展の事業費の0.57%(本件芸術祭の総事業費の0. 3%)、展示面積の0.83%を占めるにすぎないものであった(前提事実⑶イ)。こうした予算割合や展示面積割合からすれば、本件不自由展は本件芸術祭の一部を占めるにすぎない催物であるといわざるを得ず、被告が本件芸術祭に対して本件負担金を交付しても、それによって被告 が、その主張するところの政治的に偏向した作品(本件不自由展に出品された作品)の政治的主張を後押ししていると一義的に評価されることになるものでもない。 この点 付しても、それによって被告 が、その主張するところの政治的に偏向した作品(本件不自由展に出品された作品)の政治的主張を後押ししていると一義的に評価されることになるものでもない。 この点、被告は、マスメディアの扱いが本件不自由展一辺倒であったこと、芸術監督が実現に尽力していたこと、そして開催や中止による社 会的反響が絶大であったことを挙げ、本件不自由展が本件芸術祭の中核的な企画(目玉)であると主張する。あるいは、被告は、原告の収支計算書(乙15の1~3)において企画ごとに会計が区分されていないことを指摘して、本件芸術祭に対して本件負担金を交付すれば、当然その一企画展である本件不自由展にも負担金を支出したことになると主張す る。被告市長も、その本人尋問において、当時のマスコミ報道等からし - 80 -ても、本件芸術祭の中核が本件不自由展であった旨供述する(被告市長4、22~24頁)。 しかしながら、上記の主張ないし供述を踏まえても、予算割合や展示面積割合からすれば、本件不自由展は本件芸術祭の一部を占めるにすぎないものであるという事実が否定されるものでもない。本件不自由展に 関する社会的反響が大きかったことは前記認定のとおりであるが、この点だけを捉えて、被告が本件負担金を交付することによって本件不自由展に出品された作品の政治的主張を後押ししていることになると断定できるものでもない。現に、被告も、既に交付済みの負担金については返還を求めておらず、市の検証委員会も返還を求めることは適切でないと している(認定事実⑹ウ)。 したがって、本件芸術祭ないし本件不自由展において政治的に偏向した内容の展示が行われ、被告が本件芸術祭に本件負担金を交付したからといって、被告がその政治的主張を後押ししている旨の 定事実⑹ウ)。 したがって、本件芸術祭ないし本件不自由展において政治的に偏向した内容の展示が行われ、被告が本件芸術祭に本件負担金を交付したからといって、被告がその政治的主張を後押ししている旨のメッセージを発信しているということはできない。まして、被告が、公務員の政治的中 立性を求める各法令に違反すると法的に評価されるものでもない。 エ以上のとおり、被告が指摘する前記ア記載の政治的中立性に関する主張も、採用することができない。 ⑸ 報告義務違反の有無ア被告は、原告会長ないし原告事務局が、本件不自由展において、前記の とおりハラスメントともいうべき作品を展示し、政治的中立性を害する内容の展示を行うこと及びこれによって生じる深刻かつ重大な危機管理上の非常事態が発生することをあらかじめ予測することができたにもかかわらず、被告に直ちに報告しなかったことは、原告の被告に対する報告義務に違反しており、著しく正義に反する旨主張する。 イ前記認定事実によれば、本件不自由展の展示に係る事実経過の概要は、 - 81 -次のとおりである。 まず、O作品については、不自由展実行委員会は、当初から、本件不自由展全体の中心的作品としてO作品を出品したいとの意向を表明していた(認定事実⑴コ)。これに対し、平成31年4月11日、チーフ・キュレーター及びアシスタント・キュレーターが、安全上の観点 から、実物ではなくパネル展示の方法によるべきである旨の意見を述べたものの、キュレーター会議では、結局、展示内容の決定権は不自由展実行委員会にあるとして、パネル展示を求めるには至らなかった(同サ)。その後、原告会長は、令和元年6月12日、本件不自由展にO作品が展示されることを知り、同月20日及び同年7月11日 定権は不自由展実行委員会にあるとして、パネル展示を求めるには至らなかった(同サ)。その後、原告会長は、令和元年6月12日、本件不自由展にO作品が展示されることを知り、同月20日及び同年7月11日、芸 術監督を通じて不自由展実行委員会に対し、安全上の観点から、実物展示をやめてパネル展示にすることや、鑑賞者による写真撮影を禁止することなどを求めたが(同チ、ツ、ト)、不自由展実行委員会は、これらの要求をいずれも拒否したため(同テ、ト)、O作品は実物で展示されることとなり、また、鑑賞者の写真撮影を許可することとな った。その後、原告、芸術監督及び不自由展実行委員会は、鑑賞者が撮影した写真等をSNS に投稿することを禁止する旨を合意したものの、結果的に、N夫妻は、「SNS 推奨」のマークをO作品のキャプションに貼付し(同ナ)、SNS 上で拡散する結果となってしまった。 他方、被告は、同月22日、原告から展示予定作品の写真付きの一 覧表を受領して、O作品が展示されることを初めて知った。被告室長は、O作品が展示されることに対して懸念を抱いたものの、原告の意向を尊重することとし、被告市長に対して、O作品が展示されることを報告しなかった(以上につき認定事実⑴ヌ、ネ)。被告市長は、開幕前日である同月31日午後、本件芸術祭のオープニング・レセプシ ョンで、市議会議員から指摘を受けたことにより、この時初めてO作 - 82 -品が展示されることを知った(同ヒ)。 Q映像作品について、原告は、令和元年5月8日、新作の映像作品が出品される見込みであることを知った(認定事実⑴セ)。また、芸術監督は、同月27日にQ映像作品の出品が決まった後も、本件不自由展の作品リストにこれを掲載せず、原告事務局にもその存在を知らせ 作品が出品される見込みであることを知った(認定事実⑴セ)。また、芸術監督は、同月27日にQ映像作品の出品が決まった後も、本件不自由展の作品リストにこれを掲載せず、原告事務局にもその存在を知らせ なかった(同タ)。そして、愛知県美術館の学芸員であるアシスタント・キュレーターは、同年6月12日、テスト映写用のDVD を受領してQ映像作品の内容を知ったが、報告する必要性があるとは考えなかったため、原告事務局に作品内容を報告しなかった(同チ)。原告事務局次長も、同年7月30日、Q映像作品の内容を知ったが、激しい 抗議の対象になるとは考えなかったため、作品内容を原告会長や被告に報告しなかった(同ハ)。 他方、被告は、Q映像作品について、原告から特段の情報提供を受けなかった(令和元年7月22日に原告から被告に交付された一覧表にQ映像作品は記載されていない。同ヌ)。被告室長は、同月31日、 内覧会においてQ映像作品の一部を視聴したものの、特に問題のある作品であるとは考えなかった(同ヒ)。 S作品について、原告会長は、令和元年6月12日、本件不自由展にS作品が展示されることを知った(認定事実⑴チ)。 被告は、同年7月22日、原告から、展示予定作品の写真付き一覧 表を受領してS作品が展示されることを知ったが、同書面をみても、日章旗に寄せ書きが施されていることや、作品に貼付された紙片の記載内容までは認識することができなかった(同ヌ)。 原告は、本件不自由展の開催によって抗議活動が行われ得ることを想定し、令和元年5月8日、芸術監督及び不自由展実行委員会とミーテ ィングを行い、政治的に偏った展示を行うと街宣車による抗議等が予 - 83 -想される旨の懸念を表明し、2015年の不自由展開催 令和元年5月8日、芸術監督及び不自由展実行委員会とミーテ ィングを行い、政治的に偏った展示を行うと街宣車による抗議等が予 - 83 -想される旨の懸念を表明し、2015年の不自由展開催時の警備状況等について聴取した(認定事実⑴セ)。また、同月22日以降、本件不自由展の警備体制等について警察に相談し、警備員を配置するなど警備に関する具体的検討を行った(同ソ、⑷エ)。他方、原告は、被告に対し、これらの経過について報告しなかった(認定事実⑴ソ)。 原告は、さらに、不自由展実行委員会からのアドバイスに基づき、問合せ窓口の一本化、自動音声案内・通話録音システムの導入、想定問答集・マニュアルの作成等を行い、被告に対しては、令和元年7月22日になって、抗議電話への対応策として原告が作成した想定問答集を提供した(認定事実⑴ヌ、⑷エ)。被告は、人員面や設備面につい て平時と同様の体制で臨んだところ、猛烈な抗議にさらされ、通常の業務に大いに支障が生じることとなった(認定事実⑷オ)。抗議の中には放火、サリンのまき散らし、爆弾、射殺といった内容の脅迫まであり、逮捕者もでることとなった(同ウ)。 ウ以上を前提に、原告の被告に対する上記のような情報提供の態様を理由 として、本件負担金を減額変更する必要性(事情の変更)について検討する。 この点、被告は、本件交付決定通知書中の交付条件に、「当該事業の遂行が困難となった場合においては、速やかに市長に報告するとともに、その指示を受けていただきます」との記載があることを根拠に、また、 原告が共同主催者である愛知県及び被告と実質的にみて準委任的な関係にあるなどとして、被告に準委任契約に基づく報告義務があることを根拠に、原告の報告義務違反を主張する。 しかしなが また、 原告が共同主催者である愛知県及び被告と実質的にみて準委任的な関係にあるなどとして、被告に準委任契約に基づく報告義務があることを根拠に、原告の報告義務違反を主張する。 しかしながら、本件負担金の対象となる「事業」とは、本件芸術祭であるから、「当該事業の遂行が困難となった場合」とは、本件芸術祭を 遂行することが困難となった場合をいうと解するべきである。そして、 - 84 -本件芸術祭は、企画内容も会場も多岐にわたるから(前提事実⑵イ)、本件不自由展を遂行することが困難になったとしても、本件芸術祭を遂行することが困難になるとは直ちに認められない。現に、本件不自由展が開催期間の大部分において展示を中止していたにもかかわらず、本件芸術祭自体は予定どおり開催され、終了しており(前記⑵)、来場者数 やチケット収入において前回を上回る成果を残している(認定事実⑸ソ)。被告は、本件負担金交付の趣旨からして、事業遂行の困難が部分的なものであるとしても「当該事業の遂行が困難となった場合」に該当し、原告は報告義務を負うとも主張するが、上記の交付条件の文言に反し、独自の見解であって、採用することができない。 また、被告は、原告が被告に対して準委任契約に基づく報告義務を負うとも主張する。この点、前記のとおり、愛知県が、人的及び経済的に原告に大きく寄与していることからすれば、愛知県を本件芸術祭の実質的な主催者であるとし、被告を実質的な共同主催者であると解する余地があること自体は否定することができない。しかし、そのことから直ち に法律上も原告と愛知県の間に準委任契約が成立していると認めることもできず、まして、原告と被告の間に準委任契約の存在を認めることもできない。 したがって、本件不自由展の展示内容等につい に法律上も原告と愛知県の間に準委任契約が成立していると認めることもできず、まして、原告と被告の間に準委任契約の存在を認めることもできない。 したがって、本件不自由展の展示内容等について、原告が被告に対して法的な報告義務に違反したとは認められない。 エもっとも、本件負担金の減額変更の要件である「事情の変更により特別の必要が生じたとき」に当たるかについては、必ずしも原告が法律上の報告義務に反したことまでが必要となるものでもない。被告は、原告から適切な情報提供を受けていれば、本件不自由展そのものや、前記3作品の展示をさせないための対応を取ることができたのに、原告会長ないし原告事 務局によってその機会を不当に奪われた旨を主張する。前記イのとおり、 - 85 -実際になされた抗議が苛烈なものであったことも踏まえれば、作品が展示されることにより来場者等の生命、身体に危険が生じ得ることを具体的に予見することができる場合には、作品を展示させない等の対応を取る合理的理由もあるといえる。 そこで、以下では、本件不自由展開幕前の事情に照らし、このような危 険が生じ得ることを具体的に予見することができたといえるか、そして、原告の情報提供の態様が、被告の準備の機会を不当に奪うものであったかについて検討する。 オまず、被告は、Q映像作品の内容からすれば、深刻かつ重大な危機管理上の非常事態が発生することを明らかに予測することができたと主張 する。そして、前記イのとおり、Q映像作品については、被告はもとより、原告会長に対しても、開幕までその存在が知らされることはなく、被告室長がこれを視聴したのも開幕前日(令和元年7月31日)であった。 そこで検討するに、Q映像作品は、約20分の映像のうちの多くの部 会長に対しても、開幕までその存在が知らされることはなく、被告室長がこれを視聴したのも開幕前日(令和元年7月31日)であった。 そこで検討するに、Q映像作品は、約20分の映像のうちの多くの部 分がいわゆる従軍看護婦として戦場に赴くことになった女性の心境の描写となっており(前提事実⑹イ)、この部分については昭和天皇に対する憎悪や侮辱を直接表明したものではない。 もっとも、Q映像作品には、その一部に複数回にわたって挿入される形で(その時間は合計で約5分30秒である。乙8)、昭和天皇の写真 を用いたPの過去の版画作品をバーナーで焼却し、残った灰を足で踏むという映像が含まれている(同イ)。このような映像は、この部分だけを捉えてみれば、天皇制に対する否定的な評価をするものと捉えられて物議を生じさせる可能性があることは否定することができない。しかも、証拠(甲7・43頁、甲8・63頁、乙8)及び弁論の全趣旨によ れば、Q映像作品は、全体としてやや暗めの画質による映像が用いられ - 86 -ており、燃やされているのがPの過去の版画作品であると明確に認識しにくいこと、Q映像作品は、約20分の全体を鑑賞しない限り作家の意図を認識しにくく、しかも、会場入口の通路の壁に設置された小さなモニターで映されたため、立ち止まってその全てを鑑賞しづらく、映像の一部のみを見て立ち去る人が多かったことが認められる。 そうすると、あくまで振り返ってみれば、Q映像作品の展示には、上記のような批判等を受ける要素があったといわざるを得ない。 しかしながら、上記の焼却等の映像も、Q映像作品の全体からいえばその一部に挿入されたものにとどまるのであり、多くの部分はいわゆる従軍看護婦として戦場に赴くことになった女性の心境の描写であるから、 しかしながら、上記の焼却等の映像も、Q映像作品の全体からいえばその一部に挿入されたものにとどまるのであり、多くの部分はいわゆる従軍看護婦として戦場に赴くことになった女性の心境の描写であるから、 Q映像作品全体が、もっぱら天皇に対する憎悪や侮辱の念を表明することのみを目的とした作品であると一義的に解されるとはいい難い。実際、芸術専門職である愛知県美術館の学芸員は、令和元年6月12日にQ映像作品の内容を認識しても、取り立てて報告する必要性があるとは考えなかったため、原告事務局に作品内容を報告していない(認定事実⑴ チ)。原告事務局次長も、令和元年7月30日にQ映像作品の内容を知ったが、激しい抗議の対象になるとは考えなかった(同ハ)。被告室長でさえも、同月31日にQ映像作品を視聴し、その全部を見たわけではないものの、猛烈な抗議の対象となるような問題のある作品であるとは認識していない(同ヒ)。 また、Pの版画作品(前提事実⑹イ)自体は、昭和天皇の写真と裸婦像などをコラージュさせたものではあるが、本件証拠上、過去に公立美術館や2015年の不自由展において展示された際、鑑賞者や来場者の生命、身体に具体的な危険が生じたことまでを認めるに足りる証拠もない。 もちろん、版画作品自体と、これを焼却し、残った灰を足で踏むとい - 87 -う映像作品とは、その内容及び視聴者の受け止めの点で異なるものであり、後者においてより大きな物議を生じさせる可能性を否定することはできない。しかし、上記における関係者の捉え方にも鑑みれば、やはり、Q映像作品の展示によってこれに憤慨した者による鑑賞者や来場者の生命、身体に対する具体的な危険が生じるとまで直ちに予見すること ができたといえるものでもない。 そうすると、Q れば、やはり、Q映像作品の展示によってこれに憤慨した者による鑑賞者や来場者の生命、身体に対する具体的な危険が生じるとまで直ちに予見すること ができたといえるものでもない。 そうすると、Q映像作品は、これを展示することによって、犯罪などの暴力的行為に及ぶ者が現れるなどして、来場者等の生命、身体に危険が生じ得ることを具体的に予見することができるものであったとは認められない。 なお、原告が令和元年7月22日に被告に交付した本件不自由展の展示予定作品の一覧表には、Q映像作品は記載されておらず(認定事実⑴ヌ)、原告がQ映像作品を知ったのは同月30日であり(同ハ)、翌日(同月31日)に内覧会(同ヒ)、翌々日(同年8月1日)に本件芸術祭の開幕をひかえた時点であった。そうすると、当時の原告事務局の危 機意識が高いとまではいえないものの、前記で指摘した学芸員、原告事務局次長及び被告室長のQ映像作品に対する認識も踏まえると、本件芸術祭の開幕直前であるとして同作品について被告に情報提供しなかった原告事務局次長の判断(同ハ)が著しく不当であるということもできない。 この点、被告は、原告が、令和元年7月22日に交付した上記展示予定作品の一覧表からQ映像作品を意図的に除外したと主張するが、本件証拠上、同主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。前記認定事実⑴ヌのとおり、原告事務局は、同日時点でQ映像作品の存在を知らなかったと認められるから、被告の主張は採用することができない。 以上によると、原告担当者が、Q映像作品について特段の報告を要し - 88 -ないと考え、被告に事前に情報提供をしなかったことが、被告の準備の機会を不当に奪うものであったとまではいえず、したがって、このような事情を本件負担金の減額 ついて特段の報告を要し - 88 -ないと考え、被告に事前に情報提供をしなかったことが、被告の準備の機会を不当に奪うものであったとまではいえず、したがって、このような事情を本件負担金の減額変更を必要とする事情として重視することはできない。 カ次に、被告は、O作品及びS作品についても、深刻かつ重大な危機管 理上の非常事態が発生することをあらかじめ予測し得た旨を主張する。 この点、O作品については、前記イのとおり、不自由展実行委員会が当初から本件不自由展の中心的作品としたいとの意向を表明しており、原告会長も令和元年6月12日にO作品の展示を知ったにもかかわらず、実際に被告に情報提供したのは同年7月22日(展示予定作品の一覧表 の交付による。)であったといえる。そして、同型の像が世界各地に設置され、反日の象徴として用いられることによって、日本の外交問題にも発展していることが広く知られていること(前提事実⑹ア)からすれば、展示に対して相当程度の抗議が行われることが想定されるということができ、また、場合によっては抗議活動が行われることにより展示 会場の平穏が害される可能性も想定し得るといえる。現に、キュレーターや原告会長も、安全上の理由から実物展示に反対している。 そうすると、そのような抗議が予想されるO作品の展示について、本件負担金を交付することになる被告に対し、早期の情報提供を行うことも考えられるところであったといえる。 また、S作品についても、被告に令和元年7月22日に交付された展示予定作品一覧では、その外観の詳細までは分からなかったのであるから(前記イ)、原告としては、本件負担金を交付する被告に対してその詳細を情報提供することも可能であったといえる。 もっとも、O作品は2015年 では、その外観の詳細までは分からなかったのであるから(前記イ)、原告としては、本件負担金を交付する被告に対してその詳細を情報提供することも可能であったといえる。 もっとも、O作品は2015年の不自由展においても展示された経緯 があるところ、その際、会場に大きな混乱が生じた様子はない。そうす - 89 -ると、本件不自由展が公的側面を有する本件芸術祭の一部として行われたからといって、抗議活動等によって会場の平穏が害されるなどの事態を超え、本件不自由展開幕後に実際に起こったように、犯罪などの暴力的行為に及ぶ者が現れるなどして、来場者等の生命、身体に危険が生じ得ることを具体的に予見することができたとまではいい難い。 このことは、2015年の不自由展に資料展示されたS作品についても同様である。 そうすると、原告が、O作品やS作品について、本件不自由展開幕後に起こったような深刻かつ重大な危機管理上の非常事態が発生することを、あらかじめ予測し得たと直ちに断言することは難しい。 そして、被告が平成31年3月27日に受け取った本件芸術祭のプレスリリース(甲11)には、2015年の不自由展で扱った作品も展示することが記されており(認定事実⑴キ)、その話題性の高さ(前提事実⑹ア)からすれば、本件不自由展においてもO作品が実物で展示されることは、可能性の一つとして想定することができたといえる。 そうすると、上記のような予測の困難さにも鑑みれば、実際に原告が被告に対して写真付きの展示予定作品の一覧表を交付してO作品及びS作品について情報提供したのが開幕約10日前の令和元年7月22日になったからといって、原告が報告義務に違反したとか、被告の準備の機会を不当に奪ったとかとまでいうことはできない。 及びS作品について情報提供したのが開幕約10日前の令和元年7月22日になったからといって、原告が報告義務に違反したとか、被告の準備の機会を不当に奪ったとかとまでいうことはできない。 また、被告は、原告が警備に関する警察との打合わせ状況を報告しなかったことを問題とする。実際、原告は、被告に対して警備に関する検討状況を伝えず、令和元年7月22日になってようやく、展示予定作品の一覧表とともに、抗議電話の対応策として想定問答集を交付したにすぎなかったことは、前記イのとおりである。また、市の検証委員会の 報告書(乙2・4頁)には、上記展示予定作品の一覧表の交付が開幕の - 90 -約10日前であったことについて、被告が抗議電話等への対策を整える期間として不十分である旨を指摘する趣旨と解される記載がある(認定事実⑹ウ参照)。これらの点に鑑みれば、原告としては、より慎重かつ丁寧な対応をとるべく、本件負担金を拠出する地方公共団体である被告も同様に抗議等を受け、混乱することのないよう、警備状況等について も被告に情報提供をすることは考えられたところである。 しかしながら、原告においても、O作品やS作品について、深刻かつ重大な危機管理上の非常事態が発生することをあらかじめ予測し得なかったことは、前記記載のとおりである。 加えて、前記認定事実(⑴ネ)によれば、被告室長は、令和元年7月 23日に部下から前日の原告との協議結果について報告を受け、O作品が実物で展示されることを知ったにもかかわらず、被告室長は、原告に対して知事の意向を問い合わせただけで、被告市長に報告したり、人員面や設備面において特段の体制を整えたりすることもないまま、本件不自由展の開幕を迎えている。そして、被告室長によれば、その理由は、 知事の意向を問い合わせただけで、被告市長に報告したり、人員面や設備面において特段の体制を整えたりすることもないまま、本件不自由展の開幕を迎えている。そして、被告室長によれば、その理由は、 原告の意向を尊重しようと思ったことや、愛知県が適切な体制を整えて混乱を避ける努力をするはずだと考えたことであるというのだから(同ネ、乙31・4頁、被告室長3頁)、被告としては、本件不自由展から生じ得る混乱への対処を、愛知県に委ねていたと認められる。そうすると、警察との打ち合わせの状況について令和元年7月22日以前に情報 提供されていたとしても、被告が本件で実際に行った以上の準備を行い、想定される困難に備えたかは不明といわざるを得ない。結局、警備状況の情報提供がなかったことをもって、その後の被告の対応が困難になったと即断することもできない。 以上によると、原告が、被告に対して、警備状況等を伝えていなかっ たことを殊更に問題視して、事情の変更があったということも難しい。 - 91 -よって、原告のO作品及びS作品に関する情報提供の態様が、報告義務に違反したとか、被告の準備の機会を不当に奪ったとかは認められない。 キ以上により、原告による事前の情報提供の態様に係る事情は、本件負担金の減額変更をする上で必要とされる事情の変更として重視することはで きない。報告義務違反をいう被告の主張は、採用することができない。 ⑹ 運営会議の不開催ア被告は、原告会長が、本件不自由展についての危機管理上の重大な事態に関する事前の報告、本件不自由展の中止及び再開に関して、運営会議を開催して議論を行わなかったことを問題として主張するので、この点につ いて検討する。 イまず、被告は、原告会長が本件不自由展について危 、本件不自由展の中止及び再開に関して、運営会議を開催して議論を行わなかったことを問題として主張するので、この点につ いて検討する。 イまず、被告は、原告会長が本件不自由展について危機管理上の重大な事態が発生することをあらかじめ想定することができたことを前提とした上で、本件芸術祭開幕前に運営会議を開催してその旨を報告しなかったことを問題とする。そして、市の検証委員会も、その報告書(乙2・3、 4頁)において、同様に問題視する(認定事実⑹ウ)。 しかしながら、前記⑸オ、カにおいて述べたとおり、本件の具体的な事情からすれば、来場者の生命、身体に危険が生じることをあらかじめ具体的に想定することができたとはいえない。したがって、被告の主張は、その前提を欠くから、採用することができない。 ウ次に、被告は、原告会長が本件不自由展の中止を判断するに当たり、運営会議を開催すべきであったと主張するので、この点について検討する。 本件規約は、13条2項において、「運営会議は、次の事項を議決する」と定めた上、議決事項として、「事業計画及び収支予算」、「事 業報告及び収支決算」、「その他実行委員会の運営に関する重要な事 - 92 -項」と定める一方、16条1項において、「会長は、運営会議の議決事項について、緊急を要するときは、これを専決処分することができる」と定め、また、2項において、「会長は、前項の規定により専決処分をしたときは、これを次の運営会議において報告しなければならない」と定めている。そして、本件規約は、専決処分をすることがで きる「緊急を要するとき」について、具体的にどのような場合がこれに当たるのかについて定めておらず、また、専決処分を行うに当たっての手続についても、上記 して、本件規約は、専決処分をすることがで きる「緊急を要するとき」について、具体的にどのような場合がこれに当たるのかについて定めておらず、また、専決処分を行うに当たっての手続についても、上記の運営会議への事後報告のほかに、何らの定めを置いていない。これは、原告の意思決定のあり方について、運営会議の方法によることを原則としつつも、一定の場合には会長の判 断のみによって意思決定を行うことができる旨を定めるとともに、専決処分を行う緊急性の認定判断について会長の広い裁量に委ねる趣旨と解される。 そこで、本件不自由展の中止に関する原告会長の判断についてみるに、前記認定事実によれば、原告会長が本件不自由展の中止を決定した令 和元年8月3日当時は、O作品の展示が新聞報道されたことをきっかけとして、開幕日の前日である同年7月31日から、原告事務局や県庁等に抗議が殺到し、開幕後は、作品を撮影した動画等がSNS 上で流通するなどしたことにより、開幕当日である同月1日は約700件、翌2日は約1200件と抗議件数が激増し、被告市長を始めとする国 内の政治家からも批判が寄せられ、更には、会場でガソリンテロを実行する旨を予告する内容のFAX 文書まで届く事態となり(以上、認定事実⑴ヒ、⑵ア、イ、⑷ア、ウ)、本件不自由展の開催をめぐって大きな混乱が生じ、容易に収束することも想定し難い状況であった。このような状況に鑑みれば、本件不自由展の展示を継続することによっ て、抗議活動がさらにエスカレートし、暴力的な手段を実行する者が - 93 -現れる現実的な可能性が十分にあったといえるから、来場者等の生命、身体の危険が具体的に予見される状況であったといえる。したがって、このような危険を回避する観点からすれば、本件不自由 - 93 -現れる現実的な可能性が十分にあったといえるから、来場者等の生命、身体の危険が具体的に予見される状況であったといえる。したがって、このような危険を回避する観点からすれば、本件不自由展を速やかに中止することも合理的な選択肢の一つとして考え得る状況であった。 他方、本件当時の運営会議の委員は、合計24名と多数である上、 愛知県内だけでなく、東北から中国地方までの各地に所在する者が含まれていたこと(前提事実⑴ア)からすれば、中止を決定するに当たり、運営会議を直ちに開催して議論を尽くす時間的余裕があったとは認め難い。 そうすると、原告会長が、本件規約16条1項の「緊急を要すると き」に該当すると判断して、専決処分により本件不自由展の中止を決定したことは、裁量の範囲内のものとして合理性を有するということができる。 また、被告は、原告会長が専決処分を行った後、令和元年12月26日に至るまで、本件不自由展の中止の経緯等について運営会議を開催し て報告しなかったことも問題とする。 しかし、本件規約16条2項は、専決処分後の運営会議への事後報告について「次の運営会議」において報告することを定めるのみであり、運営会議の開催時期につき特段の定めを置いていない。そうすると、原告会長が専決処分後に上記同日まで運営会議への事後報告を行わなかっ たからといって、これが本件規約の定めに違反するものでもない。 もちろん、本件不自由展の中止という事態の重大性に鑑みれば、市の検証委員会がその報告書で指摘するように(認定事実⑹ウ、乙2・4頁)、原告会長としてはすみやかに運営会議を開催し、中止に至る経緯等について報告して審議に諮ることも考えられるところではある。しか しながら、原告会長は、愛知県知事の立場で、令 ⑹ウ、乙2・4頁)、原告会長としてはすみやかに運営会議を開催し、中止に至る経緯等について報告して審議に諮ることも考えられるところではある。しか しながら、原告会長は、愛知県知事の立場で、令和元年8月9日に県の - 94 -検証委員会を設置し、県の検証委員会は、同年12月26日の運営会議における最終報告までの間、同年9月21日に国内フォーラムを、同年10月5日及び6日に国際フォーラムを開催して、中止に至った経緯についての情報を適宜公表するとともに、本件不自由展をめぐる議論に関して検討を重ねている(認定事実⑸ウ、カ、サ、⑹イ)。以上の経緯の 他に、本件において、原告会長による最終報告が同年12月26日となったことが遅きに失するといえる具体的な事情もない。 以上によれば、原告会長が、本件不自由展を中止するに当たり運営会議を開催しなかったこと等は、本件負担金を減額変更する上で必要とされる事情の変更として重視することはできない。 エさらに、被告は、原告会長が、いったん中止した本件不自由展を再開する旨を判断するに当たっても、運営会議を開催すべきであったと主張するので、この点について検討する。 前記認定事実(⑵エ、⑸イ、ケ)によれば、本件不自由展が令和元年8月3日に中止された後、同年9月30日に再開の判断がされるまで、 約2か月の期間があったこと、その間、被告市長は、原告会長に対し、再三に渡って運営会議の開催を求めていたこと、ところが、原告会長は、まずは第三者委員会(実際は県の検証委員会)による検討が必要であると考えて、運営会議を開催しなかったことが認められる。そして、市の検証委員会は、その報告書において、再開の判断については 特に運営会議を開催する必要性が高く、原告会長 )による検討が必要であると考えて、運営会議を開催しなかったことが認められる。そして、市の検証委員会は、その報告書において、再開の判断については 特に運営会議を開催する必要性が高く、原告会長が運営会議を開催しなかったことは、本件規約の存在意義を失わせる重大な違反であると指摘する(認定事実⑹ウ)。 他方、前記認定事実(⑸ア、オ、ク)によれば、本件不自由展の中止が決定されると、その直後から、本件不自由展参加アーティストらが 抗議声明を公表したり、本件芸術祭に参加するアーティスト72組が、 - 95 -本件不自由展の再開を求めるステートメントを公表したりし、自らの展示室を閉鎖する等の行為に及ぶアーティストも現れた。また、アーティスト・芸術業界、メディア、弁護士会等の計40の団体から、本件不自由展を中止したことに対する抗議が寄せられ、国内外のキュレーターやアーティストらからは、海外のアーティストは展示の中止を 検閲と同様にとらえることや、本件不自由展が再開されない場合は、今後のあいちトリエンナーレのみならず、他の国内の芸術祭等に海外アーティストが参加しなくなる可能性が指摘された。さらには、令和元年9月には、不自由展実行委員会が、本件不自由展の再開を求める保全処分の申立てを行った。また、本件芸術祭に参加する合計93組 のアーティストのうち、本件不自由展の再開を求める上記ステートメントに賛同するアーティストが88組にまで増加し、展示を中止したアーティストは15組に上った。 このような経過からすれば、本件不自由展の中止後は、中止したことに対する激しい抗議が多方面から寄せられ、本件不自由展以外の参加 アーティストの反発も生じており、中止を継続することで、本件不自由展以外の本件芸術祭の展 、本件不自由展の中止後は、中止したことに対する激しい抗議が多方面から寄せられ、本件不自由展以外の参加 アーティストの反発も生じており、中止を継続することで、本件不自由展以外の本件芸術祭の展示も十分に行われない事態が継続し、今後その事態が拡大するおそれもあったといえるから、本件芸術祭自体の開催が危ぶまれる状況であったといえる。また、本件芸術祭は、参加アーティストの約半数が海外アーティストであること(前提事実⑵ア) を踏まえると、海外のアーティストの理解が得られない状況が継続することにより、今後のあいちトリエンナーレのみならず、日本国内で行われる芸術祭の開催が危ぶまれる事態に発展する可能性もあったといえる。そうすると、本件不自由展の中止を継続することで、文化芸術活動の活発化等という本件芸術祭の目的(同ア)に逆行する事態が 生じ得る状況であったといえるから、本件不自由展を再開する必要性 - 96 -は高かったといえる。 他方、本件不自由展については、開幕前から多数の抗議が寄せられたように、開催することに否定的な意見も根強かったことからすれば、開幕当初と同様の体制で臨むことでは来場者等の安全性を確保することができないから、再開に当たっては、安全性の確保とともに、作品 に対する理解を促進するための体制を整える必要があり、また、その前提として、事実関係の調査や、混乱が生じた原因の分析等を行う必要性は高かったといえる。この点からすると、原告会長が、愛知県知事の立場として県の検証委員会を立ち上げ、原告としても、その報告を待ってから運営会議を開催することとした判断も、不合理であると いえるものではない。 そして、本件不自由展の再開という事態の重大性に鑑みれば、原告としても、愛知県が設置した県の検証委員会に 待ってから運営会議を開催することとした判断も、不合理であると いえるものではない。 そして、本件不自由展の再開という事態の重大性に鑑みれば、原告としても、愛知県が設置した県の検証委員会による報告後に直ちに運営委員会を開催することも考えられるところではある。しかし、県の検証委員会による中間報告が発表されたのは、令和元年9月25日の ことであり(認定事実⑸キ)、この時点では、本件芸術祭の閉幕(同年10月14日。前提事実⑵イ、認定事実⑸セ)が約3週間後に迫っていたこと、本件不自由展以外の参加アーティストで、本件芸術祭における自身の展示を中止するなどした13組のアーティストが、本件不自由展を同年10月5日までに再開することを求めていたこと(認 定事実⑸ク)、そして、前記ウで述べたように、本件当時の運営会議の委員は、計24名であり、愛知県内だけでなく東北から中国地方までの各地に所在する者が含まれていたことからすると、原告会長が、運営会議を至急開催する時間的余裕がないと判断したことも合理性に欠けるとはいえない。 以上を勘案すれば、原告会長が、本件規約16条1項の「緊急を要 - 97 -するとき」に当たると判断して、専決処分により本件不自由展の再開を決定したことも、裁量の範囲内のものとして合理性を有するということができる。 なお、被告は、原告会長が愛知県知事として設置した県の検証委員会が、附属機関条例主義(地方自治法138条の4第3項)に反して違 法であるなどと主張する。しかし、本件で問題となるのは、事情の変更による特別の必要性を判断する上で必要となる原告会長による専決処分の相当性であり、これはあくまで原告会長が原告の代表者としてなした処分に関するものであるから、県の検証委員会の設置に のは、事情の変更による特別の必要性を判断する上で必要となる原告会長による専決処分の相当性であり、これはあくまで原告会長が原告の代表者としてなした処分に関するものであるから、県の検証委員会の設置に関する違法性如何が当該相当性の判断に直ちに影響するものでもない。被告 の上記主張は採用することができない。 オ以上に対し、被告は、被告市長が運営会議の開催を求めている以上、これを開催する義務があるとして、原告会長が運営会議を開催しなかったことを、独断による決定であると非難する。また、原告会長が愛知県知事の立場で設置した県の検証委員会についても、運営会議での審議を回 避し、原告会長の意向を正当化するための方便であると主張する。 しかしながら、これまでに述べたとおり、原告会長の専決処分は、本件規約で認められた範囲内の権限の行使であり、原告会長による独断の決定などと論難できるものではない。そして、本件証拠上、県の検証委員会が、原告の運営会議での審議を回避し、原告会長の意向を正当化す るための方便であることを認めるに足りる的確な証拠もない。 さらに、被告は、運営会議こそが本件規約で予定されている審議機関であり、その構成員に良識ある者、芸術に関する学識経験者が多数含まれていることから、県の検証委員会によらず、運営会議を開催すべきであったとも主張する。しかし、運営会議がそのような会議であるとしても、この ことだけをもって、原告会長が愛知県知事の立場で設置した県の検証委員 - 98 -会における検討が不当であるとか、原告が同検討を待つこととして、運営会議を開催しなかったことが不当であるとかと直ちにいうこともできない。 したがって、被告市長の求めに応じて運営会議を開催しなかったことが、法的にみて不当であるとは認 が同検討を待つこととして、運営会議を開催しなかったことが不当であるとかと直ちにいうこともできない。 したがって、被告市長の求めに応じて運営会議を開催しなかったことが、法的にみて不当であるとは認められない。 カ以上によれば、運営会議を開催しなかったことを、本件負担金を減額変 更する上で必要とされる事情の変更として重視することはできない。この点に関する被告の主張はいずれも採用することができない。 ⑺ その他の事情(原告に生じる不利益)最後に、本件に現れた事情から、本件負担金の減額変更によって原告に生じる不利益の内容及び程度についても検討する。 この点、原告の収支計算書(乙15の3)によれば、本件芸術祭の総事業費が約12億円であるのに対し、本件負担金の額は1億7102万4000円(前提事実⑵イ、認定事実⑴シ)であるから、本件芸術祭の総事業費全体に対する本件負担金の占める割合は小さいものとはいえない。また、被告が支払を拒んでいる3380万2000円の負担金部分についても、本件負 担金全額の約5分の1を占めるものであり、本件不自由展に実際に要した経費が約2300万円であったこと(前提事実⑶イ)からしても、少額であるとはいえない。 そうすると、本件負担金の減額変更によって原告に生じる不利益も小さいとはいえない。 ⑻ 事情の変更による特別の必要性の判断ア以上によれば、前記⑶から⑹までに述べたとおり、被告が主張する事由は、いずれも、本件負担金を減額変更する上で必要となる事情の変更として重視することができず、他方、上記⑺のとおり、本件負担金の減額変更によって原告に生じる不利益は小さいものとはいえない。 そうすると、本件具体的事情の下では、本件負担金の減額変更をするた - ことができず、他方、上記⑺のとおり、本件負担金の減額変更によって原告に生じる不利益は小さいものとはいえない。 そうすると、本件具体的事情の下では、本件負担金の減額変更をするた - 99 -めの事情の変更による特別の必要性は認められないというべきである。 イ被告は、本件不自由展で展示された作品が、県民が親しみやすい祝祭的な展開等の本件芸術祭の理念に根本的に反するものであり、その旨を知悉していた芸術監督が、あえてこれを秘し、確信犯的に社会騒動を惹起するという補助金詐欺ともいうべき事態が生じているから、被告は被害者であ り、かつ、本件芸術祭の目玉というべき本件不自由展でこのような事態が生じたことからすれば、本件負担金を交付することは許容することができない旨も主張する。 しかしながら、本件証拠上、芸術監督が、被告の上記主張に係るような補助金詐欺ともいうべき事態を生じさせたことを認めるに足りる的確な証 拠もない。そして、前記説示のとおり、本件負担金は原告に対して本件芸術祭全体のために交付されるものであり、本件不自由展開催のみのために交付されるものでもない。この点は、被告が主張するように、仮に本件不自由展が本件芸術祭の中心的な催物であったとしても、何ら変わるところはない。 ウなお、被告は、文化庁が、来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような事態への懸念が想定されたにもかかわらず、これを申告しなかったとして、愛知県からの減額変更の申請に基づいて、当該減額後の補助金を交付したこと(乙26)との均衡から、原告は、被告からの本件負担金の減額変更を受忍すべきであるとも主張する。 しかし、文化庁が、愛知県自身の減額申請に基づいて減額した補助金を交付したからといって、そのことから直ちに被告 から、原告は、被告からの本件負担金の減額変更を受忍すべきであるとも主張する。 しかし、文化庁が、愛知県自身の減額申請に基づいて減額した補助金を交付したからといって、そのことから直ちに被告による本件負担金も減額変更されることが許容されるものでもない。被告の上記主張は採用することができない。 ⑼ 総括 以上によれば、本件交付決定通知書が定める「事情の変更により特別の必 - 100 -要が生じたとき」については、本件負担金の交付決定時に想定された事情及びその後に生じた事情等に加え、減額変更によって交付の相手方である原告に生じ得る不利益の内容及び程度等をも考慮した上で、なお事情の変更により負担金を減額変更する必要性が特に高いと認められる場合をいうものと解するべきであるところ(前記⑴)、本件芸術祭は公的側面を有する催物では あるものの、あくまで権利能力なき社団である原告が開催運営するものであり、公共事業とはいえず、Q映像作品、O作品及びS作品については、激しい抗議にさらされたものの、その作品内容に鑑みれば、被告が主張するようにハラスメントともいうべき作品であるとか、違法なものであるとかまで断定することはできず(前記⑶)、本件負担金が本件芸術祭全体の主催者であ る原告に交付されるものであることからすると、本件芸術祭において本件不自由展が大きな反響を呼んでいたとしても、本件負担金を交付する被告自体が偏向した作品を後押しするかのような印象を与えかねない(裏書効果)ともいえず(前記⑷)、さらに、本件の具体的な事実関係の下では、原告において被告に対する早期かつ丁寧な情報提供をすることは考えられたものの、 これをもって原告が法的にも事実上も被告に対する報告義務に違反したとまでいうことはできず(前記⑸)、原告会 では、原告において被告に対する早期かつ丁寧な情報提供をすることは考えられたものの、 これをもって原告が法的にも事実上も被告に対する報告義務に違反したとまでいうことはできず(前記⑸)、原告会長が本件不自由展開催前、中止の際及び再開の際に運営会議を開かず、専決処分をしたことも本件規約で認められた裁量の範囲内のものであるといえ(前記⑹)、本件負担金の残余部分が交付されないことによる原告の不利益も小さくないといえる(前記⑺)。 そうすると、本件は「事情の変更により特別の必要が生じたとき」に該当するとは認められず、これが認められるとする被告の主張は、採用することができない。結局、被告が、同要件の充足を理由に、未交付部分の本件負担金の支払を拒むことはできない。 第4 結論 よって、本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり - 101 -判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部 裁判長裁判官岩井直幸 裁判官松田敦子及び和賀千紘は、填補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官岩井直幸
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