主文 被告人を懲役20年に処する。 未決勾留日数中500日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,第1 平成15年4月7日午後11時ころ,当時の山梨県中巨摩郡a1町b1c1番地所在のA方において,同人方家屋西側軒下に広告紙を入れたビニール袋を置き,これに所携のライターで点火し,その火を同人所有に係る植木等4点(時価合計約2万2000円相当)に燃え移らせて焼損し,もって,他人の器物を損壊した第2 同月30日午後10時ころ,同県西八代郡a2町b2c2番地d2所在のB所有に係る木造トタン葺平家建物置小屋(床面積合計約19.44平方メートル)において,同所の内部を見るため,所携のライターに着火したところ,その火が同所に置かれた藁に引火し,これを放置すれば同物置小屋に延焼する危険があったのであるから,直ちにこれを消火する義務があり,かつ,容易に消火することができたにもかかわらず,あえて藁に燃え移った火を消し止めることなく同所から立ち去り,その火を同所の梁,柱等に燃え移らせ,よって,同物置小屋を全焼させ,もって,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない建造物を焼損させた第3 同県甲府市a3町b3番地のc3所在のC所有に係る鉄骨造2階建倉庫(床面積合計約115.1平方メートル)に放火しようと企て,同年5月13日午前1時25分ころ,同所において,同倉庫東側壁面に密着した状態で積まれた段ボールに所携のライターで点火して火を放ち,その火を同倉庫の壁板,柱等に燃え移らせ,よって,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない同倉庫の一部(約27.68平方メートル)を焼損させた第4 同市a4町b4番地のc4所在のD方鉄骨 放ち,その火を同倉庫の壁板,柱等に燃え移らせ,よって,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない同倉庫の一部(約27.68平方メートル)を焼損させた第4 同市a4町b4番地のc4所在のD方鉄骨スレート葺平家建車庫(床面積約34.7平方メートル)に放火しようと企て,同月21日午前零時15分ころ,同所において,同車庫壁面に密着して置かれたビニール製土嚢袋等に所携のライターで点火して火を放ち,その火を同車庫の塩化ビニール製波板壁等に燃え移らせ,よって,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない同車庫の一部(約4平方メートル)を焼損させた第5 同市a5町b5番地のc5所在のE方鉄骨モルタル平家建車庫(床面積合計42.66平方メートル)に放火しようと企て,同日午後11時5分ころ,同所において,同車庫内に置かれた段ボール箱に所携のライターで点火して火を放ち,その火を同車庫天井部分に燃え移らせ,よって,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない同車庫の一部(約2.04平方メートル)を焼損させた第6 同月22日午前1時30分ころ,同市a6町b6番c6号F荘敷地内東側駐輪場において,G所有に係る自転車カバー(時価約300円相当)に所携のライターで点火してこれを焼損し,もって,他人の器物を損壊した第7 H(当時75歳)が居住する同市a7b7丁目c7番d7号所在の木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建店舗兼住宅(床面積合計約239.23平方メートル)に放火しようと企て,同日午前1時50分ころ,同所において,同建物南側壁面に密着した状態で積まれた段ボールに所携のライターで点火して火を放ち,その火を同建物の軒桁,野地板等に燃え移らせ,よって,同建物を全焼させ,もって,現に人が住居に使用している建造物を焼損させた第8 同県中巨摩郡a8町b8c8番地d8所在のIら ーで点火して火を放ち,その火を同建物の軒桁,野地板等に燃え移らせ,よって,同建物を全焼させ,もって,現に人が住居に使用している建造物を焼損させた第8 同県中巨摩郡a8町b8c8番地d8所在のIらが現に住居に使用している木造セメント瓦葺平家建家屋(床面積合計約45.14平方メートル)に放火しようと企て,同月24日午前1時ころ,同所において,藁束に所携のライターで点火し,これを同所先道路から同家屋西側軒下に放り投げて火を放ち,その火を同家屋の床柱,床板等に順次燃え移らせ,よって,現に人が住居に使用している同家屋の一部(約2.64平方メートル)を焼損させた第9 同郡a9町b9c9番地d9所在のJ所有に係る現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建貸店舗(床面積約135平方メートル)に放火しようと企て,同月24日午後11時25分ころ,同所において,同建物北側通路上に置かれていた葦簀2枚を同建物北側壁面に立て掛けた上,同葦簀を束ねていた紐に洋傘を吊し,これに所携のライターで点火し,その火を同葦簀に燃え移らせて火を放ち,さらに同建物に燃え移らせて焼損しようとしたが,隣家住人が直ちに発見消火したため,同建物の窓ガラス及び塩化ビニール製雨樋を焼損したにとどまり,その目的を遂げなかった第10 同県a10市b10c10番地d10所在のK所有に係る現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない鉄骨造スレート葺2階建店舗兼作業場(床面積合計約255.61平方メートル)に放火しようと企て,同月27日午後10時ころ,同建物南側壁面沿いに設置されたプロパンガスボンベ2本の上に,多数の段ボール片をビニール袋に入れて置き,これに所携のライターで点火して火を放ち,同ガスボンベに接続している高圧ガスホースを焼損させ漏出したプロパンガスに引火 置されたプロパンガスボンベ2本の上に,多数の段ボール片をビニール袋に入れて置き,これに所携のライターで点火して火を放ち,同ガスボンベに接続している高圧ガスホースを焼損させ漏出したプロパンガスに引火させ,その火を同建物に燃え移らせて焼損しようとしたが,前記段ボール片の一部が同ガスボンベ上から落下するなどしたため,同所に設置されたプロパンガス自動切替調整器及び前記高圧ガスホースの一部を焼損したにとどまり,その目的を遂げなかった第11 Lらが現に住居に使用している同県中巨摩郡a11町b11c11番地所在の鉄骨造陸屋根2階建店舗兼住宅(床面積合計約279.98平方メートル)に放火しようと企て,同年6月2日午後11時30分ころ,同所において,同建物北側壁面に密着した状態で積まれた段ボールに所携のライターで点火して火を放ち,その火を同建物に燃え移らせて焼損しようとしたが,家人らが発見消火したため,同建物の窓ガラス及び塩化ビニール製雨樋を焼損したにとどまり,その目的を遂げなかった第12 Mらが現に住居に使用している同県南巨摩郡a12町b12c12番地のd12所在の木造瓦葺2階建店舗兼住宅(床面積合計約160.33平方メートル)に放火しようと企て,同月3日午前1時25分ころ,同所において,同建物南側物置部屋内に積まれた段ボールに所携のライターで点火して火を放ち,その火を同建物に燃え移らせて焼損しようとしたが,直ちに通行人らが発見消火したため,同建物のアルミサッシ戸等を焼損したにとどまり,その目的を遂げなかった第13 同月4日午後9時52分ころ,同県甲府市a13b13丁目c13番d13号所在のパチンコ店N店景品交換カウンター西側フロアにおいて,同所に灯油を染み込ませた広告紙72枚をビニール袋に入れて置き,これに所携のライターで点火して火を放ち,そ a13b13丁目c13番d13号所在のパチンコ店N店景品交換カウンター西側フロアにおいて,同所に灯油を染み込ませた広告紙72枚をビニール袋に入れて置き,これに所携のライターで点火して火を放ち,その火を有限会社e13所有に係る幟旗1枚及び台座付きポール1本に燃え移らせて焼損し,そのまま放置すれば,同所に近接して置かれていた段ボール箱等を焼損させて,その火を同店店舗建物に燃え移らせるなどのおそれのある危険な状態を発生させ,もって公共の危険を生じさせた第14 同県中巨摩郡a14町b14c14番地d14所在のOらが現に住居に使用している木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建家屋(床面積約95.34平方メートル)に放火しようと企て,同日午後10時30分ころ,同所東側軒下に置かれた広告紙等在中の紙袋に所携のライターで点火し,これを同家屋東側壁面に密着した状態で置かれた木製茶箪笥の上に置いて火を放ち,その火を同家屋に燃え移らせて焼損しようとしたが,家人が直ちに発見消火したため,その目的を遂げなかった第15 同郡a15町b15c15番地d15所在のP所有に係る木造瓦葺2階建家屋(床面積合計約201.69平方メートル)に放火しようと企て,同日午後11時40分ころ,同所において,同家屋玄関先に灯油を染み込ませた広告紙82枚をビニール袋に入れて置き,これに所携のライターで点火して火を放ち,その火を上記玄関引き戸袖部分に燃え移らせ,よって,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない同家屋の一部(約0.54平方メートル)を焼損させた第16 同県a16市b16c16番地所在のQ所有に係る鉄骨トタン葺平家建倉庫(床面積約34.4平方メートル)に放火しようと企て,同月19日午後10時ころ,同所において,同倉庫内に置かれた木製テーブルの上に灯油を染み込ませた広告紙をビニール 所有に係る鉄骨トタン葺平家建倉庫(床面積約34.4平方メートル)に放火しようと企て,同月19日午後10時ころ,同所において,同倉庫内に置かれた木製テーブルの上に灯油を染み込ませた広告紙をビニール袋に入れて置き,これに所携のライターで点火して火を放ち,その火を同倉庫床板等に燃え移らせ,よって,同倉庫を全焼させ,もって,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない建造物を焼損させたものである。 (争点に対する判断)第1 弁護人の主張 1 弁護人は,判示第1(A方における器物損壊),判示第6(F荘駐輪場における器物損壊),判示第9(J所有の貸店舗に対する放火),判示第16(Q所有の倉庫に対する放火)の各事実については,いずれも事実を認め,被告人もこれと同様の認否をしている。 2 弁護人は,判示第2の事実(B所有の物置小屋に対する放火)のうち,主位的訴因(作為による放火)については,被告人が物置入口付近でライターに点火した事実は認めるものの,これは物置内部に何が入っているかを確認するためであり,その際に点火した火が偶々物置に燃え移ってしまったにすぎないから,このような行為を放火罪の実行行為ととらえることはできず,点火の際に建物に火をつける意思(放火罪の故意)があったということもできないと主張し,被告人も当公判廷において,これに沿う供述をしている。また,弁護人は,予備的訴因(不作為による放火)については,点火した火が物置に燃え移ってしまった時点で既にその火を消し止めることが不可能な状況になっており,作為義務の前提となる結果回避の容易性・可能性が認められないから,被告人が全く消火活動をしていないとしても,そのことの故に不作為による放火罪の実行行為の存在を肯定することはできないし,仮に実行行為の存在が肯定されるとしても,確実に焼損の結果を回 められないから,被告人が全く消火活動をしていないとしても,そのことの故に不作為による放火罪の実行行為の存在を肯定することはできないし,仮に実行行為の存在が肯定されるとしても,確実に焼損の結果を回避できたとは認められない以上,焼損の結果との間に因果関係を肯定することはできず,未遂の罪責を負うにとどまると主張し,被告人も当公判廷において,これに沿う供述をしている。 3 弁護人は,判示第3(C所有の倉庫に対する放火),判示第4(D方の車庫に対する放火),判示第5(E方の車庫に対する放火),判示第8(I方に対する放火),判示第10(K方に対する放火),判示第11(L方に対する放火),判示第14(O方に対する放火),判示第15(P方に対する放火)の各事実につき,いずれも被告人が建物のすぐ近くで物を燃やした事実は認めるものの,そのとき被告人には建物まで燃やす意思はなかったから,放火罪の故意がないと主張し,被告人も当公判廷において,これに沿う供述をしている。 4 弁護人は,判示第7(H方に対する放火),判示第12(M方に対する放火)の各事実につき,被告人が建物壁面に密着した状態で積まれていた段ボール(判示第7)や建物内部に積まれていた段ボール(判示第12)に火をつけた事実は認めるものの,そのとき被告人には建物まで燃やす意思はなく,その建物に人が住んでいるとか人が住んでいるかもしれないとは思っていなかったから,現住建造物等放火罪の故意がないと主張し,被告人も当公判廷において,これに沿う供述をしている。 5 弁護人は,判示第13の事実(パチンコ店N店における放火)につき,被告人がパチンコ店内で,持参した広告紙入りのビニール袋に火をつけた事実は認めるものの,被告人にはパチンコ店内の物まで燃やす意思はなかったから,建造物等以外放火罪の故意がないと主張 る放火)につき,被告人がパチンコ店内で,持参した広告紙入りのビニール袋に火をつけた事実は認めるものの,被告人にはパチンコ店内の物まで燃やす意思はなかったから,建造物等以外放火罪の故意がないと主張し,被告人も当公判廷において,これに沿う供述をしている。 6 また,弁護人は,本件各犯行の当時,被告人は,内科医からうつ病の薬を処方されており,また,アダルト・チルドレン特有の「行為への嗜癖」に支配されていたから,自分の放火行為を止めることが著しく困難な状況にあったといえ,本件各犯行につきいずれも限定責任能力(心神耗弱)であると主張している。 第2 故意の有無等に関する主張に対する判断 1 判示第3(C所有の倉庫に対する放火),判示第4(D方の車庫に対する放火),判示第5(E方の車庫に対する放火),判示第11(L方に対する放火),判示第14(O方に対する放火)の各事実について・関係証拠によれば,これら事件で被告人が火をつけたのは,いずれも建物壁面に密着した状態でおかれていた可燃物であったこと,そして,このこと自体は,深夜の時間帯であったことを考慮しても,何人も容易に認識できる状態であったこと,にもかかわらず,これらの事件の際,被告人が火をつけた後,建物に火が燃え移らないようにするための措置を何ら講ずることなく,直ちに現場を離れたこと,以上の事実が明らかに認められ,これらの事実によれば,被告人は,これらの事件の際,建物に火が燃え移ることを認識・認容していたもの,すなわち,放火罪の故意があったものと推認することができる。 ・この点につき,被告人も捜査段階においては,上記のいずれの事件についても,建物に放火する意思があったことを認めているところであって,その供述内容は,詳細かつ具体的である上,不自然なところもなく,客観的状況ともよく符合 人も捜査段階においては,上記のいずれの事件についても,建物に放火する意思があったことを認めているところであって,その供述内容は,詳細かつ具体的である上,不自然なところもなく,客観的状況ともよく符合するものであるから,十分に信用することができる。これに対して,被告人は,当公判廷において,上記のいずれの事件についても,「建物に燃え移るかもしれないとか,燃え移ってもかまわないという気持ちはなかった。」などと供述して,放火罪の故意を否認する趣旨の供述をしているが,客観的状況に照らして不合理極まりないものであって,採用するに由ないものというほかはない。被告人の公判供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 2 判示第8(I方に対する放火)の事実について・関係証拠によれば,被告人は,火のついた多量の藁束を道路からフェンス越しに建物軒下に放り投げたものである上,その藁束の一部が建物の床下に落下して,その藁束から50センチメートルくらいの炎が立ち上り,そのまま放置すれば建物に燃え移ることが明らかな状態になったにもかかわらず,建物に火が燃え移らないようにするための措置を何ら講ずることなく,直ちに現場を離れたこと,以上の事実が明らかに認められ,これらの事実によれば,被告人は,建物に火が燃え移ることを認識・認容していたもの,すなわち,放火罪の故意があったものと推認することができる。 ・この点につき,被告人も捜査段階においては,建物に放火する意思があったことを認めているところであって,その供述内容は,詳細かつ具体的である上,不自然なところもなく,客観的状況ともよく符合するものであるから,十分に信用することができる。これに対して,被告人は,当公判廷において,「そのまま藁を放置しておけば,建物に燃え移るとかそういうことは感じませんでした なく,客観的状況ともよく符合するものであるから,十分に信用することができる。これに対して,被告人は,当公判廷において,「そのまま藁を放置しておけば,建物に燃え移るとかそういうことは感じませんでしたか。」と問われて,「そこから離れたときには,やっぱり頭からまた消えていました。」と答えるなど,放火罪の故意を否認する趣旨の供述をしているが,客観的状況に照らして不合理極まりないものであって,採用するに由ないものというほかはない。被告人の公判供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 3 判示第10(K方に対する放火)の事実について・関係証拠によれば,被告人が燃焼物である段ボール片の入ったビニール袋を置いた場所は,建物の壁際に設置されたプロパンガスボンベに接続された高圧ガスホースの上であったと認められ,このような場所で点火すれば,ガスボンベのホースが熱で融解し,噴出したプロパンガスに引火して爆発的に燃焼し,その火炎が建物に燃え移る高度の危険があることは,何人も容易に認識できるところであるから,このような場所で点火したこと自体で,被告人には放火罪の故意があったものと優に推認することができる。 ・この点につき,被告人も捜査段階においては,建物に放火する意思があったことを認めているところであって,その供述内容は,詳細かつ具体的である上,不自然なところもなく,客観的状況ともよく符合するものであるから,十分に信用することができる。これに対して,被告人は,当公判廷において,「置くときというのは,それがガスボンベだという認識はなかったんですか。」と問われて,「思いませんでした。」と答えるなど,放火罪の故意を否認する趣旨の供述をしているが,客観的状況に照らして不合理極まりないものであって,採用するに由ないものというほかはない。被告人の 。」と問われて,「思いませんでした。」と答えるなど,放火罪の故意を否認する趣旨の供述をしているが,客観的状況に照らして不合理極まりないものであって,採用するに由ないものというほかはない。被告人の公判供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 4 判示第13の事実(パチンコ店N店における放火)について・関係証拠によれば,被告人が灯油を染みこませたチラシを入れたビニール袋に点火した場所は,パチンコ店内において,景品の入った段ボール箱,ポリエステル製のジャージなどの可燃物が多量に集積されている場所であり,そのまま放置すれば火が周囲の可燃物に燃え移る高度の危険があることは,何人も容易に認識できる状況であったこと,にもかかわらず,被告人は,周囲の可燃物に火が燃え移らないようにするための措置を何ら講ずることなく,直ちに現場を離れたこと,以上の事実が明らかに認められ,これらの事実によれば,被告人は,周囲の可燃物に火が燃え移ることを認識・認容していたもの,すなわち,建造物等以外放火罪の故意があったものと推認することができる。 ・この点につき,被告人も捜査段階においては,パチンコ店の建物や周囲の景品に放火する意思があったことを認めているところであって,その供述内容は,詳細かつ具体的である上,不自然なところもなく,客観的状況ともよく符合するものであるから,十分に信用することができる。これに対して,被告人は,当公判廷において,「景品交換所なので,いろんなものがあることは分かっていたが,火をつけたとき,周囲の物に火が燃え移るかどうかを考えている余裕はなく,建物を燃やそうとか段ボールなり景品なりを燃やそうという気持ちはなかった。」などと供述して,放火罪の故意を否認する趣旨の供述をしているが,客観的状況に照らして不合理極まりないもので いる余裕はなく,建物を燃やそうとか段ボールなり景品なりを燃やそうという気持ちはなかった。」などと供述して,放火罪の故意を否認する趣旨の供述をしているが,客観的状況に照らして不合理極まりないものであって,採用するに由ないものというほかはない。被告人の公判供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 5 判示第15の事実(P方に対する放火)について・関係証拠によれば,被告人は,灯油を染みこませたチラシを入れたビニール袋を持参して本件家屋に到着し,ビニール袋を立て掛けられる場所を探して本件家屋の周囲を廻り,実際に火をつけた玄関先引き戸袖部分であればビニール袋を立て掛けることができたことから,この場所にビニール袋を立て掛けてこれに点火したものである上,点火した直後,あまりの火勢の強さにのけぞるほど驚いたものの,本件家屋に火が燃え移らないようにするための措置を何ら講ずることなく,直ちに現場を離れたものであることが認められ,これらの事実によれば,被告人は,本件家屋に対する放火罪の故意を有していたものと優に推認することができる。 ・この点につき,被告人も捜査段階においては,本件家屋に放火する意思があったことを認めているところであって,その供述内容は,詳細かつ具体的である上,不自然なところもなく,客観的状況ともよく符合するものであるから,十分に信用することができる。これに対して,被告人は,当公判廷において,「そのまま立ち去れば,玄関とか家に燃え移るということは思いませんでしたか。」と問われて,「そこまでは考えていません。」と答えるなど,放火罪の故意を否認する趣旨の供述をしているが,客観的状況に照らして不合理極まりないものであって,採用するに由ないものというほかはない。被告人の公判供述を前提とする弁護人の主張も採用することがで ,放火罪の故意を否認する趣旨の供述をしているが,客観的状況に照らして不合理極まりないものであって,採用するに由ないものというほかはない。被告人の公判供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 6 判示第7の事実(H方に対する放火)について・現住性の認識についてア関係証拠によれば,本件建物はS酒店と称する店舗兼住宅であって,その外観は,昔ながらの個人商店であり,1階部分を店舗として利用し,2階部分に経営者の家族などが居住する構造となっていることが容易に認識できる状況であったこと,そして,このこと自体は,深夜の時間帯であったことを考慮しても,何人も容易に認識できる状態であったこと,以上のとおりの事実が明らかに認められ,このような事実に照らすと,被告人においても,本件建物に人が住んでいることを容易に認識できることは明らかである。 イこれに対して,被告人は,当公判廷において,「本件建物が2階部分のある酒屋さんであることは分かったけれども,誰か人が住んでいる建物ではないかということまでは考えられなかった。」などと供述して,人が住んでいることの認識があったことを否定する趣旨の供述をしているけれども,前認定の客観的状況に照らして不自然といわざるを得ない上,被告人が捜査段階において,「建物は,今時の酒屋とは違って,少し古い感じの酒屋だし,夕方に店の前を通りかかったときに店の前で働いていた奥さんと思われる女性達を見たことから,そういう人たちが住んでいる可能性があることは分かりました。」などと供述していたことも考慮すると,被告人の公判供述は,採用することができない。被告人の公判供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 ・建物への放火の故意についてア関係証拠によれば,被告人が 告人の公判供述は,採用することができない。被告人の公判供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 ・建物への放火の故意についてア関係証拠によれば,被告人が火をつけたのは,建物壁面に密着した状態で積み上げられていた段ボールであったこと,そして,このこと自体は,深夜の時間帯であったことを考慮しても,何人も容易に認識できる状態であったこと,にもかかわらず,被告人は,火をつけた後,建物に火が燃え移らないようにするための措置を何ら講ずることなく,直ちに現場を離れたこと,以上の事実が明らかに認められ,これらの事実によれば,被告人は,建物に火が燃え移ることを認識・認容していたもの,すなわち,放火罪の故意があったものと推認することができる。 イこの点につき,被告人も捜査段階においては,建物に放火する意思があったことを認めているところであって,その供述内容は,詳細かつ具体的である上,不自然なところもなく,客観的状況ともよく符合するものであるから,十分に信用することができる。これに対して,被告人は,当公判廷において,「自分が火をつけたものが建物壁面の近くに積まれていた段ボールであることは分かったけれども,建物に火が燃え移るんじゃないかということまでは考えられなかった。」などと供述して,放火罪の故意を否認する趣旨の供述をしているが,客観的状況に照らして不合理極まりないものであって,採用するに由ないものというほかはない。 被告人の公判供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 7 判示第12の事実(M方に対する放火)について・現住性の認識についてア関係証拠によれば,本件建物はT牛乳店と称する店舗兼住宅であって,その外観は,町道に面して牛乳販売店が設けられ,同店の西側に母屋が連なってい る放火)について・現住性の認識についてア関係証拠によれば,本件建物はT牛乳店と称する店舗兼住宅であって,その外観は,町道に面して牛乳販売店が設けられ,同店の西側に母屋が連なっている構造であり,被告人が放火した同店南側物置からは,西側に連なっている母屋が視界に入ること,当該物置内には段ボールのほか,箒,デッキブラシ,バケツなどの生活用品や生ゴミが収納されていたこと,そして,これらのことは,深夜の時間帯であったことを考慮しても,何人も容易に認識できたこと,以上のとおりの事実が明らかに認められ,このような事実に照らすと,被告人においても,本件建物(物置に連なる母屋)に人が住んでいることを容易に認識できることは明らかである。 イこれに対して,被告人は,当公判廷において,「事件のときは,火をつけた建物が独立した建物なのか,どこかにつながっている建物なのか,そこまでは見ていなかった。」,「この建物に人が住んでいるとかそういったことを考える余裕はなかった。」などと供述して,人が住んでいることの認識があったことを否定する趣旨の供述をしているけれども,前認定の客観的状況に照らして不自然といわざるを得ない上,被告人が捜査段階において,「道路に面した表は店舗のようになっていて,住宅とつながり,その通りよりの一角に私が見つけた段ボールをしまった部屋がありました。段ボールが置いてあったところをよく見ると,段ボール以外にも竹箒などが置いてあったのでその部屋がそのお宅で物置として使っている部屋なのだと思いました。」などと供述していたことも考慮すると,被告人の公判供述は採用することができない。被告人の公判供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 ・建物への放火の故意についてア関係証拠によれば,被告人が火をつけたの と,被告人の公判供述は採用することができない。被告人の公判供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 ・建物への放火の故意についてア関係証拠によれば,被告人が火をつけたのは,建物内部に置かれていた段ボールであったこと,そして,このこと自体は,深夜の時間帯であったことを考慮しても,何人も容易に認識できる状態であったこと,にもかかわらず,被告人は,火をつけた後,建物に火が燃え移らないようにするための措置を何ら講ずることなく,直ちに現場を離れたこと,以上の事実が明らかに認められ,これらの事実によれば,被告人は,建物に火が燃え移ることを認識・認容していたもの,すなわち,放火罪の故意があったものと推認することができる。 イこの点につき,被告人も捜査段階においては,建物に放火する意思があったことを認めているところであって,その供述内容は,詳細かつ具体的である上,不自然なところもなく,客観的状況ともよく符合するものであるから,十分に信用することができる。これに対して,被告人は,当公判廷において,「建物の中の段ボールに火をつければ,建物に燃え移るかもしれないと考えるのが普通だと思うんですけども。」と問われて,「今はそう思います。」と答え,さらに「そのとき,あなたは,建物に火が燃え移るかもしれないとか,建物を燃やしてしまうとか,そういったことは考えなかったんですか。」と問われて,「そのときに考えられていれば,火をつけていなかった自分がいたと思います。」と答えるなど,放火罪の故意を否認する趣旨の供述をしているが,客観的状況に照らして不合理極まりないものであって,採用するに由ないものというほかはない。被告人の公判供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 8 判示第2の事実(B所有の物置小屋に対する放火)につ して不合理極まりないものであって,採用するに由ないものというほかはない。被告人の公判供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 8 判示第2の事実(B所有の物置小屋に対する放火)について・関係証拠によれば,被告人が本件物置の入口付近でライターを点火したところ,高さ約1.4メートルの梁から垂れ下がっていた藁に火がついたこと,その火を放置しておけば本件物置自体を焼損するおそれがあることは,深夜の時間帯であったことを考慮しても,何人も容易に認識できる状態であったこと,にもかかわらず,被告人は,本件物置に火が燃え移らないようにするための措置を何ら講ずることなく,直ちに現場を離れたこと,以上の事実が認められる。 なお,実況見分調書(甲269)中には,「本件物置内で最も焼損の激しい箇所は,本件物置内部の中央付近であるから,同所付近から出火したものと推測される。」旨の上記認定に齟齬するかに見える記載があるけれども,①前認定のとおり本件物置の入口付近から出火したものとしても,本件物置の中央付近に可燃物が多く集積されていて同所で本件物置内の他の場所よりも長時間燃焼が続いたとするならば,同所の焼損が最も激しくなる筋合いであるから,実況見分調書の上記記載部分が前認定と絶対的に矛盾するとまではいえない上,②被告人は,捜査の当初から公判段階に至るまで一貫して,「本件物置の入口付近でライターに点火したところ,その火が入口付近に吊されていた藁に燃え移ってしまった。」と供述しているところ,他の事件に関する被告人の捜査段階における供述が具体的かつ詳細で,客観的状況ともよく符合しており,基本的に信用することができることは既に説示したとおりであり,被告人が捜査段階において,この事件に限ってあえて虚偽を述べたと見るべき十分な理由は見出し難いから 細で,客観的状況ともよく符合しており,基本的に信用することができることは既に説示したとおりであり,被告人が捜査段階において,この事件に限ってあえて虚偽を述べたと見るべき十分な理由は見出し難いから,被告人の一貫した供述に依拠して,本件物置の入口付近から出火したものと認定することとした。 ・上記・に認定した事実によれば,被告人にとって,藁に火がついて本件物置自体を焼損するおそれが生じたことは,必ずしも予想外の事態ではなかったものと推認することができ,したがって,ライターを点火したとき本件物置に放火する意思があったものと見るのが最も自然かつ合理的といえる。 この点につき,被告人も捜査段階においては,「前夫の相続問題を巡って前夫の親族らに強い憤懣の情を抱いており,前夫の実家に放火しようと考えたこともあったが,実家に住む姪達に危害が及ぶことを恐れて,実家に放火することは思いとどまっていた。本件犯行の当日,夜中に前夫の墓参りに出かけ,その際,前夫の親族らに対する憤懣の情を晴らすため,持参した広告紙入りのビニール袋にライターで火をつけて,前夫の実家の近くの山中に投げ入れた。その後,帰宅しようとした際,たまたま本件物置を発見し,前夫の実家の近くであったことから,本件物置は前夫の実家が造ったものであるという考えが浮かんだ。すると,それまでの前夫の親族らに対する憤懣の情が思い出され,これまで前夫の実家に火をつけることはできないと諦めていたけれど,この小屋なら火をつけることができるかもしれないと思ってしまい,本件物置に近づいた。」と供述して,本件物置に火をつけるつもりで本件物置に近づいたことを認めていたところであって,その供述内容は,相当に詳細かつ具体的で,客観的状況と明らかに齟齬するところもなく,供述されている心情の推移も自然であるから, に火をつけるつもりで本件物置に近づいたことを認めていたところであって,その供述内容は,相当に詳細かつ具体的で,客観的状況と明らかに齟齬するところもなく,供述されている心情の推移も自然であるから,その信用性は高いものといえる。これに対して,被告人は,当公判廷においては,「お墓の近くに小屋があったので,興味本位で中をのぞこうとした。」と供述して,本件物置に近づいたときに本件物置に火をつけるつもりであったことを否定する趣旨の供述をしているけれども,その内容自体が前後の行動に照らしていかにも唐突な感じを否定できず,捜査段階の供述とも対比して検討したとき,被告人の公判供述は信用性に乏しいといわざるを得ない。 ・以上を前提に,主位的訴因(作為による放火)について検討するに,被告人は,本件物置の入口付近でライターを点火した理由について,捜査段階から公判段階に至るまで一貫して,「本件物置の入口に近づき,中に何があるんだろうと思い,中をのぞき込もうとした。すると,おでこの辺りの髪の毛に何かが触れたことからびっくりして,後ずさりした。本件物置の中は真っ暗であったことから,おでこに触った小屋の中の物は何だろうと思い,右手に持っていたライターの火を点けて確認しようとした。そして,右手を少し前に差し出すようにして本件物置の中に入れてからライターの火を点けたところ,おでこに触れた物が本件物置に吊されていた藁だと分かった。しかし,この時,藁のすぐ近くでライターを点火していたので,その火が藁に燃え移ってしまった。」と弁解しているところ,被告人の弁解内容にいささか不自然なところがあることは否定できないものの,その内容自体がおよそあり得ないほどに不自然・不合理とまでいうことはできない上,被告人が捜査段階において,この事件に限ってあえて虚偽を述べたと見るべき十分 然なところがあることは否定できないものの,その内容自体がおよそあり得ないほどに不自然・不合理とまでいうことはできない上,被告人が捜査段階において,この事件に限ってあえて虚偽を述べたと見るべき十分な理由も見出し難いから,被告人の上記弁解を虚偽であるとまで断ずることはできない。被告人の上記弁解を虚偽であるとして排斥することができない以上,本件物置に放火する目的でライターに点火したものとまで認定することはできないから,ライターを点火したとき本件物置に放火する意思があったのだとしても,ライターを点火した行為を作為による放火の実行行為ととらえることはできない。したがって,主位的訴因は失当といわざるを得ない。 ・そこで,予備的訴因(不作為による放火)について検討するに,関係証拠によれば,被告人が暗がりの中で不用意にライターを点火した行為により頭上の藁に引火したものであって,本件の出火は被告人の所為に基づくものであること,本件物置は,民家が建ち並ぶ県道から山道を約100メートル登った山間の斜面に開けた空地に建てられており,周囲は畑や竹林に囲まれていて,出火した火を消し止めることのできる者は被告人以外にはいなかったこと,引火した直後であれば直ちに藁を引き抜くなどの適宜の措置をとれば容易に消火することが可能であったこと,にもかかわらず,被告人は,もともと本件物置に火をつけるつもりであったことから,本件物置に火が燃え移らないようにするための措置を何ら講ずることなく,直ちに現場を離れたこと,以上のとおりの事実が認められ,これらの事実によれば,被告人について,不作為による放火罪が成立することは明らかである。 これに対して,被告人は,当公判廷において,火勢が強く目の前を突き進むように燃え広がったから,消火することは不可能であったなどと供述してい ,不作為による放火罪が成立することは明らかである。 これに対して,被告人は,当公判廷において,火勢が強く目の前を突き進むように燃え広がったから,消火することは不可能であったなどと供述しているが,いかに藁とはいえ,引火した直後であれば容易に消火することが可能であることは,一般の経験則に照らして明らかであって,この点に関する被告人の供述には誇張が含まれていると見ざるを得ず,これを全面的に信用することはできない。被告人の供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 第3 責任能力に関する主張に対する判断 1 被告人の本件各犯行当時の精神状態については,鑑定人R作成の「○○(被告人名:掲載者注)鑑定書」及び前記Rの公判供述(以下まとめて「R鑑定」という。)が得られているところ,R鑑定の骨子は,次のとおりである。 すなわち,被告人にはうつ病による通院歴があるものの,本件各犯行当時の抑うつ状態は軽症であり,責任能力に影響を及ぼすものではない。本件各犯行当時の記憶について見ても,すべての放火を自らが行ったものと認め,重要な犯行の詳細も想起できていることから,意識障害が事件当時にあったとはいえない。一部,思い出すまでに時間がかかったり,時には思い出せなかったりするものもあるが,否認あるいは解離性の健忘によるものと考えられる。その他,心理テストによっても思考障害や認知のゆがみは認められず,精神病圏を示す所見は認められない。しかし,被告人は,その生育歴をたどると,実父からの暴力による虐待と実母からの陰性の虐待(ネグレクト)を受けていたことが認められ,親との関係で情緒的な傷(トラウマ)を負いながら大人になった,いわゆるアダルト・チルドレンである。アダルト・チルドレンの性格的特徴としては,不安や攻撃性(怒り)を調整する能力に欠けている 認められ,親との関係で情緒的な傷(トラウマ)を負いながら大人になった,いわゆるアダルト・チルドレンである。アダルト・チルドレンの性格的特徴としては,不安や攻撃性(怒り)を調整する能力に欠けていること,自己評価が低く絶えず他人の言動の背後に悪意を読み取ろうとする傾向があること,このようにして自己や他者への憎しみを抱きやすいが,そのすり替えとしての嗜癖行動がしばしば見られることが指摘されている。被告人についても,全く同様の性格傾向を認めることができ,被告人の放火は,他者への憎しみのすり替えとして生じた放火への渇望により行われたもの(嗜癖行動としての放火)と考えられる。このような嗜癖行動については,アルコール依存症者に典型的に見られるように,好んで自ら始めた行動を自分の意志では制御できなくなるまでエスカレートさせてしまう傾向があるといわれているところ,被告人の一連の放火の経過を見ても,はじめは藁や段ボールなど現地にあったものに着火していたが,次にチラシ紙や新聞紙を用意してそれに灯油を含ませるようになり,最終的にはガスボンベへの放火と,次第に行動をエスカレートさせていったことが認められ,放火という行為への嗜癖が完全に成立し,放火への渇望を抑える能力が乏しくなっていった経過がうかがわれる。ICD-10によって診断をつけるならば,精神障害の一種である「病的放火」と診断される。したがって,被告人は,「病的放火」であり,犯行時,自分の行為に対する善悪の弁別能力は有していたが,その弁別結果に従って行動する能力が減弱していた。その減弱の程度については,逮捕された時点では「著しく減弱していた」と評価しても差し支えない程度に達していたと思われる。以上のとおりである。 2 このようなR鑑定によれば,①被告人には,病的放火を除いては,他に責任能力に影響を れた時点では「著しく減弱していた」と評価しても差し支えない程度に達していたと思われる。以上のとおりである。 2 このようなR鑑定によれば,①被告人には,病的放火を除いては,他に責任能力に影響を及ぼすような精神疾患は存在していなかったこと(本件各犯行当時に見られた抑うつ状態も軽症であり,責任能力に影響を及ぼすものでなかった。),②被告人に思考障害や認知障害は存在せず,自分の行為に対する善悪の弁別能力は全く損なわれていなかったこと,③「病的放火」といっても,被告人に関する限り,精神病圏の異常を背景としたものではなく,両親に虐待されて育ったこと(アダルト・チルドレン)を背景に生じた性格の偏りにすぎないこと,以上のとおりと認められ,被告人には,責任能力に影響を及ぼすような精神疾患は存在していなかったものと認められる。「病的放火」が責任能力の判定に当たって考慮されるべき精神疾患である旨をいう弁護人の主張は,採用することができない。 3 なお,所論にかんがみ,本件の犯行状況を仔細に見ても,判示第6の事件(F荘駐輪場における器物損壊)の直前,F荘自体に火をつけようと思って,F荘の様子をうかがった際,黒塗りの外車が止められているのを見て,暴力団関係者がいるのではないかと考え,報復を恐れてF荘に火をつけるのを断念しており,また,判示第13の事件(パチンコ店N店における放火)においても,はじめは通路のところで放火できそうな場所を探していたが,通路のベンチに腰掛けている人がいたので,通路のところで放火するのを断念し,判示第16の事件(Q所有の倉庫に対する放火)においても,不倫相手に対する思いを断ち切るために同人と過ごしたホテルの近くで火をつけたものであるが,ホテルには人がいるのでホテル自体には火をつけない方がいいと考えて,その付近の適当な場所を探し )においても,不倫相手に対する思いを断ち切るために同人と過ごしたホテルの近くで火をつけたものであるが,ホテルには人がいるのでホテル自体には火をつけない方がいいと考えて,その付近の適当な場所を探したことが明らかであり,状況次第では放火を思いとどまることができていたことが認められる。また,判示第8の事件(I方に対する放火)の直前,藁束を持って歩行中に,車の接近を認めてとっさに藁束を近くの畑に投げ入れて素知らぬ振りをしており,また,判示第10の事件(K方に対する放火)においても,本件建物の周囲を廻って火をつけるのに適当な場所を探したり,判示第15の事件(P方に対する放火)においても,本件家屋の周囲を廻って火をつけるのに適当な場所を探したり,火をつけた直後,物陰に隠れて通行中の車をやりすごしたことが明らかであり,状況に即応した合目的的行動がとられていたことが認められる。このように,本件の犯行状況を仔細に見ても,被告人が衝動に駆られるまま盲目的に行動したものでないことが明らかである。 もっとも,被告人がさしたる動機もないのに放火という大罪を反復累行したばかりか,回を重ねる毎に放火の手段をエスカレートさせていったことは明らかであり,このことが被告人の責任能力に問題があることを示唆しているという見方もあり得るであろうから,この点について付言するに,まず,さしたる動機も認められないという点についてであるが,R鑑定を含む関係証拠によれば,被告人は他者への憎しみ,憤懣を放火によって解消しようとしていたものと認められるところ,鬱憤晴らしという動機自体は,放火犯の心理として一般的な,十分に了解可能なものであって,それ自体は何ら異常なものではない。また,放火という大罪を反復累行し,態様を次第にエスカレートさせていったという点についても,本件の一連の経 火犯の心理として一般的な,十分に了解可能なものであって,それ自体は何ら異常なものではない。また,放火という大罪を反復累行し,態様を次第にエスカレートさせていったという点についても,本件の一連の経過を通覧すれば,被告人は,うっ積した不満や不快感を抱えながら毎日を過ごしていたが,前夫の不倫相手と邪推していた女性に対する怒りを抑えきれなくなり,同女の住む家のすぐ近くで火をつけたところ(判示第1の犯行),放火によって驚くほど自らの不満,不快感を解消できることを経験し,以後,不満や不快感を解消するために犯行を重ねるうちに,放火に対する抵抗感,罪悪感が次第に減退し,次第に大胆な行動に出るようになっていったものと理解できるのであって,それなりに了解可能なものであるから,被告人の一連の行動を質的に異常なものと見ることはできない。 4 以上の次第で,被告人については,責任無能力の状態になかったことはもとより,限定責任能力の状態にもなかったと認めることができる。この点に関する弁護人の主張は,採用することができない。 (法令の適用)被告人の判示第1及び第6の各所為はいずれも刑法261条に,判示第2ないし第5,第15,第16の各所為はいずれも同法109条1項(刑の長期は,行為時においては平成16年法律第156号(刑法等の一部を改正する法律)による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)に,判示第7及び第8の各所為はいずれも刑法108条(有期懲役刑の長期は,行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においては上記改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があっ 為はいずれも刑法108条(有期懲役刑の長期は,行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においては上記改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)に,判示第9及び第10の各所為はいずれも刑法112条,109条1項(刑の長期は,行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においては上記改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)に,判示第11,第12,第14の所為はいずれも同法112条,108条(有期懲役刑の長期は,行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においては上記改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)に,判示第13の所為は刑法110条1項にそれぞれ該当するところ,所定刑中判示第1及び第6の各罪については懲役刑を,判示第7,第8,第11,第12及び第14の各罪については有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第7の罪の刑に法定の加重をすることとするが,行為時においては上記改正前の刑法14条の制限内で,裁判時においては上記改正後の刑法14条2項の制限内で法定の加重をすべきところ,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから,刑法6条,10条により軽い行為時法の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役20年に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中500日をその刑に算入し,訴訟費用につい たときに当たるから,刑法6条,10条により軽い行為時法の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役20年に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中500日をその刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 本件は,被告人が,自己の不快感を解消するため,約3か月間のうちに,現住建造物等放火2件,同未遂3件,非現住建造物等放火6件,同未遂2件,建造物等以外放火1件,器物損壊2件の合計16件もの放火を連続して敢行し,そのうち1件については,居住者を焼死させたという悪質極まりない重大事案である。 2 被告人は,これまで一方的な思い込みで鬱憤を蓄積させ,些細なことで不快感を感じるようになると,それを解消したいという身勝手な欲求から放火という危険極まりない手段を選択したものであって,あまりに独善的な犯行というほかない。 そこには,自らの欲求を満たすためには無関係の人間に被害を及ぼすことを厭わないという被告人の人間性の乏しさ,視野の狭さ,規範意識の乏しさが顕著に見て取れる。不遇な生育歴からかかる人格が形成されてきたとしても,被告人の不満や鬱憤を第三者が甘受しなければならない理由は皆無であり,その短絡的かつ甚だ身勝手な動機には一片の酌量の余地もない。 犯行態様を見ても,深夜の時間帯の犯行であること,犯行場所の状況は多種多様であり,住宅街であったり山林であったり,木造を含む建物や店舗であったり車庫であったり,まさに欲求の赴くままに火を放っていること,放火場所も求めて徘徊・物色しており,また,媒介物としてわざわざ裁断した段ボールを準備したり,灯油を染みこませた広告紙を利用するなど,放火の犯意はそのほとんどは強固なものであり,放火の手口も卑劣で周到な手口であること,さ 物色しており,また,媒介物としてわざわざ裁断した段ボールを準備したり,灯油を染みこませた広告紙を利用するなど,放火の犯意はそのほとんどは強固なものであり,放火の手口も卑劣で周到な手口であること,さらに,一歩間違えば,当該建物が全焼するばかりかその現住者らに危害の及ぶ危険性が高かったのはもとより,自然鎮火せず,あるいは消火活動が遅れれば,思わぬ大火となり多大な人的損害が生じかねず,特にガスボンベに媒介物を置くなどあわや火の海となる大惨事を招く蓋然性も高かったことなどからすれば,極めて危険かつ悪質な犯行である。また,短期間のうちに立て続けに放火を実行しているところ,被告人の供述によれば,本件各犯行以外にも全部で約30件の放火を敢行していたというのであり,なかには1日に5件も放火したこともあるなど,その常習性は顕著であり再犯のおそれも高い。 結果もあまりにも重大である。本件における財産的損害は約4000万円強にものぼり誠に甚大であるほか,更に店の営業に関する経済的損害を含めれば,その被害は計り知れないものがあり,各被害者の処罰感情は一様に厳しい。のみならず,判示第7の犯行においては,就寝中の女性の尊い命が失われるという極めて悲惨な結果が発生しているのであって,焼死した被害者の苦しみや無念はもとより,突如家族を失った遺族の悲しみや怒りは察するに余りある。遺族の処罰感情が強いのは至極当然である。 本件各犯行が多数の地域住民に与えた恐怖や衝撃も大きく,付近住民らに与えた恐怖や不安は深刻かつ重大である。本件における一連の犯行により,甲府市やその周辺市町において毎日のように警察や消防等による警戒活動が実施されるとともに,市民らは長らく放火による被害に遭うことを恐れ,不安な日々を送っていたものであって,まさに本件は地域社会を震撼させた重大事件で 市町において毎日のように警察や消防等による警戒活動が実施されるとともに,市民らは長らく放火による被害に遭うことを恐れ,不安な日々を送っていたものであって,まさに本件は地域社会を震撼させた重大事件である。 しかも,被告人は,人命の犠牲が出た後も,自己の犯した罪から目を背け,日中は何食わぬ顔で生活しながら,不快感の解消を求めて放火の欲求の赴くまま,深夜の時間帯に犯行を繰り返していたというのであって,人倫に悖る到底許し難い所業であるといわざるを得ない。また,被告人は,公判において,一部不合理な弁解に終始するなど,反省の態度が必ずしも真摯であるとは言い難い。 3 他方,家族の生活の基盤である私財をなげうつなどして金銭を捻出し被害弁償に努め,判示第7の犯行における被害者の遺族に対しては1252万7500円を支払っていること,さらに,判示第15の犯行における被害者に対しては75万円を支払って金銭面での和解が成立していること,被告人は,当公判廷において一部不合理な弁解をするものの自己の犯した罪の重大性を自覚し,被告人なりに反省の態度と被害者に対する謝罪の気持ちを示し,放火によって死亡した被害者に対して冥福を祈る旨述べていること,被告人には前科前歴はないこと,その他被告人の年齢や生育歴など,被告人にとって酌むべき事情も存在する。 4 そこで,当裁判所は,以上のような諸事情を総合考慮し,主文のとおりの刑を量定した次第である。 (検察官佐藤方生,私選弁護人八巻力也各出席)(求刑懲役20年)平成17年4月21日甲府地方裁判所刑事部裁判長裁判官川島利夫裁判官肥田薫裁判官柴田誠は,転補のため署名押印できない。 裁判長裁判官川 裁判長 裁判官川島利夫 裁判官肥田薫 裁判官柴田誠は,転補のため署名押印できない。 裁判長裁判官川島利夫
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