平成12(ネ)521 本訴債務不存在確認等・反訴損害賠償各請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成14年3月13日 広島高等裁判所
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判決文本文14,847 文字)

主文 1 原判決主文一項2を次のとおり変更する。 (1) 控訴人は,被控訴人に対し,20万5800円及びこれに対する平成8年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。 2 控訴人のその余の控訴を棄却する。 3 訴訟費用は第1,2審とも控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 申立 1 控訴の趣旨(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人の請求を棄却する。 (3) 被控訴人は,控訴人に対し,金4960万0815円及びこれに対する平成7年3月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (控訴人は,当審において,上記のとおり請求を減縮した。)(4) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 (5) 仮執行宣言 2 控訴の趣旨に対する答弁(1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2 事案の概要被控訴人は,本訴として,控訴人に対し,後記1(1)の交通事故(以下「本件事故」という。)に関し,損害賠償義務を負担しないことの確認及び民法709条に基づき同事故により被った車両損害の賠償を求め,控訴人は,反訴として,被控訴人に対し,自賠法3条又は民法709条に基づき同事故により被った人身損害の賠償を求めた。 原審は,本件事故は双方の過失により発生したものであるが,控訴人の被った損害は既払によりてん補されていると判断し,被控訴人の請求(車両損害の賠償を含む。)を認容し,反訴請求を棄却したので,過失相殺割合,損害額の認定等を不服として控訴人が控訴した。 1 前提事実(1) 本件事故の発生被控訴人は,平成7年3月4日午後 害の賠償を含む。)を認容し,反訴請求を棄却したので,過失相殺割合,損害額の認定等を不服として控訴人が控訴した。 1 前提事実(1) 本件事故の発生被控訴人は,平成7年3月4日午後9時42分ころ,父親が所有する普通乗用自動車(以下「被控訴人車」という。)を運転し,庄原市A町B番C所在のD前の交差点(以下「本件交差点」という。)において国道183号と交差する道路(最高速度時速50キロメートルの速度規制がある。)を北から南に向かい進行中に,同交差点内において,同道路を南から進行し同交差点を右折していた控訴人が運転する普通乗用自動車(以下「控訴人車」という。)と衝突した。 (2) 控訴人は,本件事故により傷害を負い,E病院等において通院冶療を受けた。 (3) 控訴人は,本件事故に関し,被控訴人車について契約されていた自賠責保険及び任意保険から,平成10年2月13日までに合計356万9405円の支払を受けた。 2 争点(1) 本件事故は被控訴人の過失のみにより発生したものか。そうでないとすると,控訴人の過失割合はいくらか。 (控訴人の主張)控訴人は,信号機により交通整理の行われている本件交差点の手前で信号が青に変わるのを待って右折すべく待機し,その際,控訴人車の前には右折のために停止していたパトカー1台及び軽4輪車1台がいた。控訴人は,対面信号が青に変わったため,前2台の車に続いて交差点内に進入し,直進車を確認するため一時停止したところ,被控訴人車を前方70メートルの距離に確認したので,安全に右折できると判断して右折した。ところが,被控訴人車が時速約120キロメートルの高速度で進行して来て,控訴人車との衝突を避けるため左にハンドルを切ったため,控訴人車の左側面前部に被控訴人車の右前部が衝突した。 して右折した。ところが,被控訴人車が時速約120キロメートルの高速度で進行して来て,控訴人車との衝突を避けるため左にハンドルを切ったため,控訴人車の左側面前部に被控訴人車の右前部が衝突した。 被控訴人車の速度が時速約120キロメートルであったことは次の事実によって裏付けられる。 すなわち,本件事故後作成された実況見分調書(以下「本件実況見分調書」という。)によれば,控訴人が本件交差点内で対向車線を確認した地点からその際の被控訴人車の地点までの距離は70メートルであること,同地点から衝突地点までの距離は9.5メートルであることが認められ,控訴人は,この距離を時速10ないし20キロメートルで進行したから,仮に,この間の平均時速を15キロメートルとすると衝突地点までに要した時間は2.27秒となる。そうすると,被控訴人車は,2.27秒で70メートルの距離を移動したことになるから,被控訴人車の速度は,時速約111キロメートルとなる。 このように,本件事故は,制限速度内でかつ安全な速度て進行すべき義務を怠り,かつ,事故を避けるためハンドルを右に切る義務があったのにこれを怠った被控訴人の一方的過失により発生したものであるから,控訴人は本件事故の発生につき責任を負わない。 (被控訴人の主張)本件交差点内に進入した際の被控訴人車の速度が約120キロメートルであったことは否認する。被控訴人が控訴人車を発見したのは前方34メートルの地点であり,その後28メートル進行して,発見時の地点から6メートル移動した控訴人車と衝突しており,この間の控訴人車の時速を10キロメートルとすると,被控訴人車の速度は時速約47キロメートルとなること,本件事故による控訴人車及び被控訴人車の破損程度が軽微なこと等からすると,被控訴人車の速度は時速5 の間の控訴人車の時速を10キロメートルとすると,被控訴人車の速度は時速約47キロメートルとなること,本件事故による控訴人車及び被控訴人車の破損程度が軽微なこと等からすると,被控訴人車の速度は時速50ないし60キロメートルである。 本件事故は,青信号で進行した直進車両(被控訴人車)と右折車両(控訴人車)の双方の過失により発生したものであり,過失割合は被控訴人が30パーセント,控訴人が70パーセントとするのが相当である。 (2) 本件事故による被控訴人の損害額はいくらか。 (被控訴人の主張)本件事故により,被控訴人車は破損し,その修理に38万6826円を要したので,過失相殺の割合を考慮して,このうち,24万6778円を請求する。 被控訴人は,本件事故当時,被控訴人車の所有者である父Fから同車を使用貸借しており,貸主である父に対し,善管注意義務違反による損害賠償義務を負担しているから,上記額は被控訴人の損害となる。 (控訴人の認否)被控訴人車の修理代は不知であり,同修理代が被控訴人の損害になるとの主張は争う。 (3) 本件事故における控訴人の損害額はいくらか。 (控訴人の主張)① 治療費 228万5515円控訴人は,平成7年3月15日から平成11年4月19日までの間,E病院において治療を受けた。この間の治療費は,平成8年11月までが109万3825円,それ以後症状固定日である平成11年4月19日までが119万1690円である。 なお,控訴人のE病院における主治医であったG(以下「G医師」という。)は,原審の証人尋問(平成10年4月16日実施)において,控訴人の症状固定時期につき,「平成8年5月10日以後症状改善が少なくなって ,控訴人のE病院における主治医であったG(以下「G医師」という。)は,原審の証人尋問(平成10年4月16日実施)において,控訴人の症状固定時期につき,「平成8年5月10日以後症状改善が少なくなっていたと考えられ,平成9年1月24日が頚部痛の症状の変化がなくなった時期と考えられるから,症状固定はこの間と考えられる。」旨供述するが,G医師は,この尋問の後である平成11年4月19日付け診断書において,症状固定日を同日と診断していることからすると,控訴人の症状固定日が同日であることは明らかである。 ② 通院慰謝料 220万円控訴人は,本件事故により,平成7年3月15日から平成11年4月19日までの4年1か月にわたりE病院等に通院して冶療を受けた。 その精神的苦痛に対する慰謝料は220万円が相当である。 ③ 通院費 34万0920円E病院に通院するための交通費(バス代)は180円であり,実通院日数は947日であるから,通院費は34万0920円(=180円×2×947)となる。 ④ 休業損害 759万6192円控訴人は,本件事故前株式会社Hに勤務して月額15万8254円の収入を得ていたが,本件事故により退職を余儀なくされ,その後就業していない。したがって,本件事故日から症状固定日である平成11年4月19日までの4年間(48か月)分の休業損害は,759万6192円(=15万8254円×48)となる。 ⑤ 後遺症による逸失利益 3034万7593円控訴人は,精神科医であるI病院のJ医師(以下「J医師」という。)の診断によっても明らかなとおり,本件事故により心的外傷後ストレス障害(以下 よる逸失利益 3034万7593円控訴人は,精神科医であるI病院のJ医師(以下「J医師」という。)の診断によっても明らかなとおり,本件事故により心的外傷後ストレス障害(以下「PTSD」という。)を負い,外に出る気力も他人と接触する気力も失せてしまっている。この後遺症状は,後遺障害等級9級10号に該当し,労働能力喪失率は35パーセントである。したがって,逸失利益は,3034万7593円(=529万5400円(賃金センサス平成9年度産業男子労働者学歴計30ないし34歳年収)×16.3741(35年のライプニッツ係数)×0.35(労働能力喪失率)。円未満切り捨て)となる。 ⑥ 後遺障害慰謝料 640万円⑤の後遺症による精神的苦痛に対する慰謝料は640万円が相当である。 ⑦ 弁護士費用 400万円控訴人は,本件訴訟の提起,追行を訴訟代理人に依頼した。本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は400万円である。 ①ないし⑦の合計額5317万0220円から既に支払を受けた356万9405円を控除した残額である4960万0815円が控訴人の損害となる。 (被控訴人の認否)① 控訴人の主張①ないし③について同①ないし③の主張は争う。 控訴人の治療内容は,平成7年10月ころからさしたる変更もなく,治療効果も認められないのであるから,控訴人の症状は遅くても平成8年9月ころには固定したと判断すべきである。したがって,それ以降の冶療費,交通費,通院慰謝料につき被控訴人に支払義務はない。 ② 控訴人の主張④について控訴人が株式会社Hを退職したことは認めるが,本件事故と退職との間には相当因果関係がなく,また,症状固定 通費,通院慰謝料につき被控訴人に支払義務はない。 ② 控訴人の主張④について控訴人が株式会社Hを退職したことは認めるが,本件事故と退職との間には相当因果関係がなく,また,症状固定日は①のとおりであるから,控訴人主張の日まで休業損害が生じたとの主張は争う。 ③ 控訴人の主張⑤,⑥について控訴人が本件事故によりPTSDの後遺障害を負ったことは否認する。 控訴人の後遺障害は14級であり,その残存期間は2年程度である。 ④ 控訴人の主張⑦は争う。 第3 証拠原審及び当審各記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから,これを引用する。 第4 争点に対する判断 1 争点(1)について(1) 被控訴人車の速度につき判断する。 ①ア控訴人は,被控訴人車の速度が時速約120キロメートルであった旨主張し,その根拠として,(ア)甲1(実況見分調書)によれば,控訴人が本件交差点内で対向車線を確認した地点からその際に被控訴人車が存在した地点までの距離は70メートルであり,同地点から衝突地点までの距離は9.5メートルであること,(イ)控訴人は,この距離を時速10ないし20キロメートルで進行したから,仮に,この間の平均時速を15キロメートルとすると衝突地点までに要した時間は2.27秒となること,(ウ)そうすると,被控訴人車は,2.27秒で70メートルの距離を移動したことになるから,その速度は,時速約111キロメートルとなることを挙げる。 イ本件実況見分調書(甲1)には,控訴人の指示説明として(ア)の記載がある。しかし,控訴人は,原審における本人尋問において,一旦停止後発進した後の控訴人車の速度は時速10キロメートルである旨供述しており,甲1によると,被控訴人車が上記確認された地点から衝突地 記載がある。しかし,控訴人は,原審における本人尋問において,一旦停止後発進した後の控訴人車の速度は時速10キロメートルである旨供述しており,甲1によると,被控訴人車が上記確認された地点から衝突地点までの距離は61メートルであることが認められる。この事実からすると,控訴人車が衝突地点まで9.5メートルを進行するために要する時間は,停止状態から発進加速して(市街地交通の通常の加速度とされる0.2Gとする。)時速10キロメートルに到達するまでに要する時間が1.4秒,そのための距離が約2メートルであり,残り7.5メートルを時速10キロメートルで進行するのに要する時間が2.7秒であることから合計4.1秒となり,この4.1秒の間に61メートルの距離を進行した被控訴人車の速度は時速約53.6キロメートルとなる。従って控訴人本人の指示説明や供述を前提としても,控訴人のアの主張は採用できない。 ②ア被控訴人は,被控訴人車の速度が50ないし60キロメートルであった旨主張し,その根拠として,(ア)被控訴人が控訴人車を発見したのは前方34メートルの地点であり,その後28メートル進行して,同地点から6メートル移動した控訴人車と衝突しており,この間の控訴人車の時速を10キロメートルとすると,被控訴人車の速度は時速約47キロメートルとなること,(イ)本件事故による控訴人車及び被控訴人車の破損程度が軽微なことを挙げる。 イ本件実況見分調書(甲1)には,被控訴人の指示説明として(ア)の記載があり,控訴人が発進後の速度を時速10キロメートルと供述していることは①イのとおりであることからすると,被控訴人車の速度は46.6キロメートル(=10×28÷6。速度比による。)となる。また,甲4の1,2,甲5によれば,本件事故により,被控訴人車は右ヘッドランプ及び イのとおりであることからすると,被控訴人車の速度は46.6キロメートル(=10×28÷6。速度比による。)となる。また,甲4の1,2,甲5によれば,本件事故により,被控訴人車は右ヘッドランプ及びフロントグリルが損傷し,ボンネットが少し浮き上がった程度であり,控訴人車も,左側面前部のフェンダー部分がつぶれ,バンパーが歪み,ボンネットが曲がっただけであることが認められる。 ③ ①,②のとおり,実況見分調書に記載された控訴人,被控訴人双方の相手車の位置に関する指示説明を前提に計算しても,被控訴人車の速度は,時速約50キロメートル前後であったことになる。この結果は,衝突による破損が②イの程度にとどまり,被控訴人が,被控訴人車の修理代金として38万6826円を要したとしか主張していないこと,本件直後,控訴人車に先行していたパトカーが戻って来て事故処理に当たったが,控訴人被控訴人双方とも目に見える外傷は負っておらず,当日は物損事故として処理されたこと(原審被控訴人本人尋問の結果)からも支持される。 (2) (1)で認定した被控訴人車の速度と甲1,控訴人,被控訴人各本人尋問の結果(原審)を総合すれば,本件事故の態様につき次の事実が認められる。 ① 控訴人は,本件交差点手前で,赤信号のため,パトカー及び軽4車両の後に停車し,これら2台の車両が,信号が青に変わったため本件交差点を右折したのに引き続き,右折するため本件交差点内に入り一旦停止し,被控訴人車を確認した後,右折を開始した。 ② 被控訴人は,交差点に接近中に信号待ちのため停車していたパトカーを含む2台の車両が青信号に従って右折したのを確認した後,控訴人車が一旦停止したのを見て,被控訴人車が通り過ぎるまで停止してくれるであろうと考え,直進を続けたが,本件交差点に進入した直後に控 トカーを含む2台の車両が青信号に従って右折したのを確認した後,控訴人車が一旦停止したのを見て,被控訴人車が通り過ぎるまで停止してくれるであろうと考え,直進を続けたが,本件交差点に進入した直後に控訴人車が右折を開始するのを見て危険を感じ,あわててハンドルを左に切り,ブレーキをかけたが間に合わず,被控訴人車の右前部と控訴人車の左側面前方が衝突した。 (3) (2)で認定した事実によれば,本件事故は,控訴人が,運転者の基本的注意義務である道路交通法37条(車両等は,交差点で右折する場合において,当該交差点において直進し,又は左折しようとする車両等があるときは,当該車両の進行妨害をしてはないらない。)が規定する義務に違反し,被控訴人車が直進してくるのを認めながら,被控訴人車が接近した時点で右折を開始した過失(なお,控訴人は,本人尋問において,一旦停止して対向車線を確認したが被控訴人車は見えなかった旨供述するが,甲1に照らして信用できない。)と被控訴人が,本件交差点を通過するに際し,右折のため停止している控訴人車を認めながら,同車の動静を注視することなく,前記速度で進行した過失とが競合して発生したものであり,その過失割合は,控訴人が70パーセント,被控訴人が30パーセントと認めるのが相当である。 2 争点(2)について甲8の8ないし18,甲10の1ないし6,被控訴人本人尋問の結果(原審)によれば,本件事故による被控訴人車の損害額(修理代)は,29万4000円であったことが認められる。これに前記の控訴人の過失割合70パーセントを乗じると,控訴人の賠償すべき額は20万5800円となる。 なお,被控訴人車の所有者は被控訴人の父親であることが認められるが,上記各証拠によれば,被控訴人は被控訴人車の使用者として所有者である父親に修理代 訴人の賠償すべき額は20万5800円となる。 なお,被控訴人車の所有者は被控訴人の父親であることが認められるが,上記各証拠によれば,被控訴人は被控訴人車の使用者として所有者である父親に修理代を弁償すべき地位にあり,現に修理代は被控訴人自身が支払ったことが認められるから,同修理代相当額は被控訴人本人の損害というべきである。 3 争点(3)について(1) 控訴人の症状固定時期について① 甲6,7,8の1ないし7,乙12,25,証人G医師の証言(原審)及び原審における調査嘱託の結果(平成10年9月14日被控訴人申出)によれば,次の事実が認められる。 ア控訴人の症状の推移(ア) 控訴人は,本件事故の11日後である平成7年3月15日になってE病院で受診した。初診時の自覚症状は,首筋の後ろの痛み,嘔吐,頚部が堅く十分曲げ伸ばしができないというものであった。他覚的所見としては,頚椎の棘突起部分の圧痛,首筋の筋肉の両側の圧痛があったが,上下肢には症状はなく,腱反射には異常がなく,知覚検査と上下肢の運動検査にも異常がなく,握力は右50キログラム,左45キログラムで,手指の細かい動きに異常はなく,頚椎のレントゲン検査の結果も異常がなかった。 (イ) 平成7年秋ころの症状は,自覚症状として,頭痛,項部痛を持続的に訴え,時々右肘及び右膝痛を訴えるというものであり,平成7年3月終わりころから訴えていた右手のしびれ感は軽快した。このころから,控訴人は自転車でも通院するようになった。 (ウ) 平成8年春ころの症状は,自覚症状として,頭部,項部痛を持続的に訴えるというものであり,他覚的所見としては,首筋の筋肉の圧痛は残っているが,頚椎の症状は軽快した。 (エ) 平成8年秋ころの症状は,自覚症状として, 自覚症状として,頭部,項部痛を持続的に訴えるというものであり,他覚的所見としては,首筋の筋肉の圧痛は残っているが,頚椎の症状は軽快した。 (エ) 平成8年秋ころの症状は,自覚症状として,頭痛,項部痛,上背部痛であり,不眠の日があることを訴えていた。 (オ) 平成9年春ころの症状は,自覚症状として,頭痛,項部痛を持続的に訴え,時々両股関節部痛を訴えるというものであり,同年秋ころの症状は,自覚症状として頭痛,上背部痛であり,平成10年春ころの症状は,自覚症状として,頭痛,右肘痛,不眠(1週間のうち3ないし4日)であった。 イ E病院の治療,検査(ア) 初診時の投薬は筋肉の緊張を和らげる薬,鎮静剤,湿布薬である。 (イ) 平成7年3月20日から同年6月17日までは頚部にマイクロ波,同月19日から右膝と右肘にマイクロ波の投与が行われ,平成8年2月から平成9年2月14日までは,控訴人の求めに応じてこれに加えて頚椎の牽引を行った。その後も,理学療法を続けた。 (ウ) 平成8年5月29日,控訴人の症状が改善しないので,頚椎の椎間板や脊髄を調べるため,MRIを行ったが,異常所見はなく,同日のレントゲン検査の結果でも異常は見つからなかった。 ウ控訴人の回顧による症状の変化(ア) 控訴人は,平成10年2月13日,G医師に対し,自らの症状の推移につき,次のように述べた。 <ア> 本件事故後6か月経過ころは,事故直後より症状が悪化した。 頭痛が主な症状であり,夜間不眠の日もあり,毎日,鎮痛剤が必要であった。 <イ> 本件事故後1年経過ころは,項部痛がやや軽快した。気候が暖かくなったのも一因かもしれない。 <ウ> 本件事故後1年6か月経過ころから症状に変化 ,鎮痛剤が必要であった。 <イ> 本件事故後1年経過ころは,項部痛がやや軽快した。気候が暖かくなったのも一因かもしれない。 <ウ> 本件事故後1年6か月経過ころから症状に変化はなくなった。 (イ) また,控訴人は,平成10年3月13日には,G医師に対し,「この1年間の治療で特に良くなった点はない。」旨を述べた。 エ G医師の症状固定に関する意見(ア) 原審における証人尋問平成8年5月10日以降症状改善が少なくなったと考えられること,平成9年1月24日が項部痛の症状の変化がなくなった時期と考えられることから,この間に症状が固定したと考えられる。 (イ) 調査嘱託の結果(平成10年9月14日被控訴人申出)控訴人の主な症状は,頭痛,項部痛(上背部痛)であると判断するが,これらの疼痛は,他覚的所見ではとらえ難く,控訴人自身からの訴えでその程度を判断することになる。そして,①ウ(ア)<ウ>のとおり控訴人自身が本件事故後1年6か月以降は症状に大きな変化はなくなったと述べていることから,平成8年9月ころが症状固定の時期ではないかと推察する。 (ウ) 乙12(G医師作成の平成11年4月19日作成の後遺障害診断書)<ア>(あ) 自覚症状としては,頭痛(鈍器で打たれたような頭痛),項部痛,右上肢痛,頭痛の強いときは,めまい,嘔吐出現,テレビは1時間から1時間30分で頭痛などのために見ていられなくなる。 (い) 他覚所見としては,右前腕より末梢にしびれ感あり。反射及び筋力は正常(握力右42㎏,左48㎏)(う) 症状固定日平成11年4月19日<イ> 上記後遺障害診断書作成の事情(あ) 控 梢にしびれ感あり。反射及び筋力は正常(握力右42㎏,左48㎏)(う) 症状固定日平成11年4月19日<イ> 上記後遺障害診断書作成の事情(あ) 控訴人及び同人の父は,平成11年4月8日,G医師に裁判所に提出するための後遺障害診断書の作成を依頼した。G医師は,外来診療録からの推察では,平成8年秋ころを症状固定の時期と考えたが,控訴人が同意できる時期ということで,一旦,症状固定日を平成10年6月11日とする後遺障害診断書を作成し,同日は,控訴人の父もこれを納得した。 (い) 控訴人の父は,平成11年4月9日,G医師に,<ア>で作成した後遺障害診断書に対し異議を申し立て,強引にG医師に対し,症状固定日を平成11年4月12日にするよう迫った。G医師は,やむを得ず,これに応ずることにしたが,控訴人の父に対し,症状固定日は同日とするが,これは控訴人の父が納得できる症状固定日であって裁判所がこの日付をどう判断するかは不明である旨を述べた。 (う) 控訴人の父は,平成11年4月12日に来院せず,同月14日,同月19日に控訴人が通院するので,その日を症状固定日とするよう申し入れ,G医師はこれに応じ,同日,<ア>で作成した後遺障害診断書の症状固定日欄を「平成10年6月11日」から「平成11年4月19日」に,他覚所見欄を,「正常」から「右前腕より末梢にしびれ感あり。」にそれぞれ変更し,平成11年4月19日作成の後遺障害診断書を作成した。 ② ①で認定した控訴人の症状の推移,E病院での治療経過,控訴人の症状の回顧及びG医師の意見によれば,控訴人の症状固定時期は,平成8年9月末であったと認めるのが相当である。 控訴人は,G医師作成の後遺障害診断書(乙12)を根拠として の治療経過,控訴人の症状の回顧及びG医師の意見によれば,控訴人の症状固定時期は,平成8年9月末であったと認めるのが相当である。 控訴人は,G医師作成の後遺障害診断書(乙12)を根拠として,症状固定日を平成11年4月19日と主張するが,同診断書が作成された経緯は①エ(ウ)<イ>で認定したとおりであり,同診断書に記載された症状固定日は控訴人及び同人の父の納得のために記載されたもので,それがG医師が考察する症状固定日と異なることは明らかであるから,控訴人の上記主張は採用できない。 (2) 控訴人の後遺症の内容について① 前記(1)①で認定した控訴人の自覚症状及び他覚所見によれば,控訴人の症状は頸椎捻挫にともなう頭痛,項部痛等の神経症状であり,その障害の程度は後遺障害等級14級10号の局部に神経症状を残すものに該当するものというべきであり,また,上記認定の症状経過からすると,その残存期間も症状固定日から10年を超えるものではないというべきである。 ② 控訴人は,控訴人が本件事故の後遺症としてPTSDの状態になったと主張し,乙23(J医師作成の平成13年2月13日付け診断書),24(同医師作成の平成13年4月27日付け診断書)には,控訴人の症状がPTSDである旨の記載がある。 そこで,この点につき検討する。 ア J医師の診断根拠甲20,乙22,29,30,証人J医師の証言(当審)によれば,次の事実が認められる。 (ア) J医師は,精神科医であり,I病院において,平成12年12月22日から,控訴人を診察している。 (イ) PTSDの診断基準としては,アメリカ精神医学界が作成した診断基準であるDSM-Ⅳと国際保険機構が作成したICD-10がある。 (ウ) J医師は,控訴 訴人を診察している。 (イ) PTSDの診断基準としては,アメリカ精神医学界が作成した診断基準であるDSM-Ⅳと国際保険機構が作成したICD-10がある。 (ウ) J医師は,控訴人の症状の訴えと同人からの本件事故の態様についての聴き取りに基づき,DSM-Ⅳの基準を用いて,控訴人の症状をPTSDと診断した。その際に,同症状が,本件事故後,相当期間を経過して発現したことについては,控訴人が本件事故後,半年程度経過したころから,車に轢かれる夢を見るようになったり,何をしてもおもしろくないような状態に陥っていると言っていることから,実際にはこれ以前からその症状が現われていることもあり得るので,診断が遅いことはPTSDを否定する理由にはならない(なおJ医師は,当審における証人尋問においては,「DSM-Ⅳの基準では,症状は原因となる出来事の数か月とか数年後に発現してもおかしくないと付記されている。」旨証言する。)と判断し,また,本件事故が同基準にいう「実際にまたは危うく死ぬないし重傷を負うような,あるいは自分または他人の身体的保全がおびやかされるような,一つまたは複数の出来事をその人が体験したり,目撃したり,直面した。患者の反応は,強い恐怖,無力感と戦慄を伴った。」との要件に該当するか否かについては,控訴人から聞いた事故態様からすると本件事故がこれに該当すると判断した。 イしかし,アを考慮しても,次の理由で,控訴人の症状がPTSDとは認められない。 (ア) 乙30,証人J医師の証言(当審)によれば,J医師は,控訴人の症状がPTSDであると判断している一方で,<ア>控訴人から聴き取りした本件事故の態様によっても,ICD-10の基準の一つである「患者は,例外的に脅威的なあるいは破滅的な性質をもったストレスの多い出 症状がPTSDであると判断している一方で,<ア>控訴人から聴き取りした本件事故の態様によっても,ICD-10の基準の一つである「患者は,例外的に脅威的なあるいは破滅的な性質をもったストレスの多い出来事あるいは情況(短期間あるいは長期間持続するもの)にさらされたに違いない,そして,そのような出来事や情況はほとんど誰にでもつきまとうような抑うつ状態を引き起こす可能性がある。」との要件に該当するとは考え難いので,その場合には,控訴人の症状は,個人の脆弱性による適応障害ではないかと考えており,また,<イ> 控訴人につき,「控訴人は,本件事故前においても社会的適応レベル(社会的,対人的)はかなり低く,回避的あるいは依存性人格障害といった診断があてはまるかもしれず,本件事故前における脆弱性はかなり強い。」,「裁判を起こしていることも病気の経過に少なからぬ影響を与えている。」,「就労意欲は全く欠如している。精神症状によるものだけではなく,疾病利得的な要素もあるのではないか。」等と述べ,控訴人が,父以外の友人とか親戚とも交流がなく,周囲の人から疎遠となっていたり,感情の抑揚がなく,仕事のこと等将来について全く考えることができない等の症状が,PTSDであることとは矛盾する診断を下していることが認められる。 (イ) また,前記1で認定した本件事故の態様と同3(1)①で認定した控訴人の治療経過と症状によれば,本件事故が「実際にまたは危うく死ぬないし重傷を負うような,あるいは自分または他人の身体的保全がおびやかされるような,一つまたは複数の出来事をその人が体験したり,目撃したり,直面した。患者の反応は,強い恐怖,無力感と戦慄を伴った。」ものとは認め難いから,この点に関するDSM-Ⅳの基準を満たすとはいえない。 (ウ) 甲20,乙22によれ 体験したり,目撃したり,直面した。患者の反応は,強い恐怖,無力感と戦慄を伴った。」ものとは認め難いから,この点に関するDSM-Ⅳの基準を満たすとはいえない。 (ウ) 甲20,乙22によれば,DSM-Ⅳの基準によれば,PTSDの症状は,原因となる出来事から半年以内に発現し,その後に発現した場合には,その症状を特定しなければならないとされていることが認められる。ところが,控訴人の症状の推移は,3(1)①アで認定したとおりであり,本件事故後半年経過前からPTSDの症状が発現していたとは認められない。 (エ) 乙14によれば,KクリニックのK医師は,平成10年12月2日付け診断書において,控訴人の診断名を「賠償神経症の疑い」とし,「精神機能に重大な障害は認められない。」旨を記載していることが認められる。 したがって,控訴人の同人の後遺症がPTSDである旨の主張は理由がない。 (3) 控訴人の損害について① 治療費 98万6390円乙1,2によれば,控訴人の初診から平成8年9月末までの実通院日数は399日であり,その治療費合計は98万6390円(=4万4530円+4万7310円+4万6035円+5万2005円+5万1540円+4万8990円+4万8990円+5万7585円+4万8150円+4万6440円+4万7715円+4万8910円+5万9160円+4万5990円+9万3390円+5万1930円+5万2860円+5万2230円+4万2630円)であると認められる。 ② 通院費 20万円控訴人本人尋問の結果(原審)によれば,控訴人は,自宅からE病院までのバスの便はないこと,本件事故後,3,4か月位は,タクシーで通院し,その代金は20万円であったこと 20万円控訴人本人尋問の結果(原審)によれば,控訴人は,自宅からE病院までのバスの便はないこと,本件事故後,3,4か月位は,タクシーで通院し,その代金は20万円であったこと,後は自転車で通院し,その後はリハビリテーションを兼ねて徒歩で通院したこと(なお,控訴人は,平成12年3月13日の尋問の時点でタクシーで通院している旨供述しているが,これがいつからのことであるかを認めるに足る証拠はない。)が認められるから,控訴人の通院費は20万円と認めるのが相当である。 ③ 体業損害 300万6826円乙3,4,控訴人本人尋問の結果(原審)によれば,控訴人は本件事故前警備員として平均月額15万8254円の収入を得ていたこと,勤務していた会社の倒産により平成7年3月分の日割給与も支給されていないことが認められるから,控訴人の休業損害は,300万6826円(=15万8254円×19か月)となる。 ④ 逸失利益 73万3193円控訴人の平均月額収入が15万8254円であり,前記(2)の認定のとおりの後遺障害等級からして労働能力喪失率は5パーセント,労働能力喪失期間は10年とするのが相当であるから,控訴人の逸失利益の現価は,73万3193円(=15万8254円×12×0.05×7.7217。円未満切り捨て。)となる。 ⑤ 慰謝料 250万円ア通院慰謝料控訴人の症状固定日までの通院期間が399日であることからすると,通院により被った精神的苦痛に対する慰謝料は150万円と認めるのが相当である。 イ後遺症慰謝料前記認定の控訴人の後遺障害の程度,内容からすると,控訴人がこれにより被った精神的苦痛に対する慰謝料は100 に対する慰謝料は150万円と認めるのが相当である。 イ後遺症慰謝料前記認定の控訴人の後遺障害の程度,内容からすると,控訴人がこれにより被った精神的苦痛に対する慰謝料は100万円と認めるのが相当である。 以上の合計は,742万6409円(=98万6390円+20万円+300万6826円+73万3193円+250万円)となる。 4 以上のとおり,控訴人の本件事故による損害額(弁護士費用を除く。)は合計742万6409円であり,これに前記1で認定した被控訴人の過失割合30パーセントを乗じると,被控訴人の負担すべき損害額は222万7922円(=742万6409円×0.3。円未満切り捨て)となるが,これは本件事故に関して控訴人が既にてん補を受けた額(306万9405円)を超えないから,被控訴人にはもはや控訴人に対する損害賠償義務はないことになる(したがって,本件において控訴人が支出した弁護士費用も相当因果関係を有する費用とは認められない。)。 第5 結論以上によれば,被控訴人の本訴請求のうち,控訴人に対し,20万5800円及びこれに対する平成8年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分並びに本件事故による損害賠償の支払債務を負担しないことの確認を求める部分は理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,控訴人の反訴請求は理由がないから棄却すべきである。 よって,本訴の判断につきこれと異なる原判決を一部変更し,その余の控訴は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき,民訴法67条2項,61条,64条ただし書を適用して,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第3部裁判長裁判官下司正明裁判官野々上友之 項,61条,64条ただし書を適用して,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第3部裁判長裁判官下司正明裁判官野々上友之裁判官檜皮高弘

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