令和4(行ウ)529 不認定処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年5月30日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-93909.txt

判決文本文16,238 文字)

令和6年5月30日判決言渡令和4年(行ウ)第529号不認定処分取消請求事件 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求厚生労働大臣が令和3年6月15日付けで原告に対してした、ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律による補償金の支給の権利を認定しないこととする旨の処分を取り消す。 第2 事案の概要等本件は、ハンセン病元患者の孫である原告が、厚生労働大臣に対し、ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律(以下「補償法」という。)に基づく補償金の支給を請求したが、同大臣から補償金の支給の権利を認定しないこととする旨の処分を受けたため、同処分の取消しを求める事案である。 1 補償法の定め別紙1「補償法の定め」に記載のとおりである(なお、同別紙中で定義した略称等は、以下の本文においても同様に用いるものとする。)。 補償法2条2項柱書き及び同項5号によれば、ハンセン病元患者の二親等の血族(兄弟姉妹を除く。)が「ハンセン病元患者家族」に当たるためには、ハン セン病元患者がハンセン病を発病した時かららい予防法が廃止された平成8年3月31日までの間に、「当該ハンセン病元患者と同居しているもの」という要件(以下「同居要件」ということがある。)に該当したことがあることを要する。 2 前提事実当事者間に争いがない事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めら れる事実並びに当裁判所に顕著な事実は、次のとおりである。 ⑴ 補償法の制定経緯アハンセン病家族訴訟判決熊本地方裁判所は、令和元年6月28日、ハンセン病元患者の家族らが被告に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償等を求 である。 ⑴ 補償法の制定経緯アハンセン病家族訴訟判決熊本地方裁判所は、令和元年6月28日、ハンセン病元患者の家族らが被告に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償等を求めた訴訟(以下「ハンセン病家族訴訟」という。)について、概要次のとおりの判決(同裁 判所平成28年(ワ)第109号ほか令和元年6月28日判決・判例時報2439号4頁。以下「ハンセン病家族訴訟判決」という。)を言い渡した。 すなわち、ハンセン病家族訴訟判決は、①厚生大臣(平成13年1月16日以降は厚生労働大臣)は、昭和35年(沖縄にあっては昭和47年)から平成8年まで、ハンセン病隔離政策等を廃止する義務を負い、昭和3 5年(沖縄にあっては昭和47年)から平成13年末まで、ハンセン病患者家族に対する偏見差別を除去する義務を負っていたにもかかわらず、これを怠った、②法務大臣は、平成8年から平成13年末まで、ハンセン病患者家族に対する偏見差別を除去する義務の一内容である人権啓発活動を実施すべき義務を負い、文部大臣(平成13年1月16日以降は文部科 学大臣)は、平成8年から平成13年末まで、普通教育を担当する教員に対して適切な指導をし、普通教育を実施する学校教育において、児童生徒に対する人権啓発教育が実施されるよう適切な措置を行う義務を負っていたにもかかわらず、これを怠った、③国会議員については、昭和40年(沖縄にあっては昭和47年)から平成8年までらい予防法の隔離規定を 廃止しなかった立法不作為は国家賠償法上違法であったとして、それぞれ同法上の責任を認めた。その上で、各原告に発生した権利侵害及び損害について個別の主張立証を尽くさせると、膨大な時間を要し、被害者救済の観点からも訴訟運営上も明らかに相当でないことから、 て、それぞれ同法上の責任を認めた。その上で、各原告に発生した権利侵害及び損害について個別の主張立証を尽くさせると、膨大な時間を要し、被害者救済の観点からも訴訟運営上も明らかに相当でないことから、原告らが主張する被害の中から、可能な範囲で共通性を見いだせるものを包括して慰謝料と して賠償の対象とすることとし、個々の原告間の被害の程度の差異につい ては、より被害の小さい事例を念頭において控え目に賠償額を算定することは許されるとした上で、①平成13年末までに、周囲にハンセン病患者家族であることを知られていた原告らや、自身がハンセン病患者家族であること及びハンセン病患者家族が差別の対象となることを認識していた原告らについては、差別を受ける地位に置かれたことへの慰謝料として3 0万円を認め、②家族であるハンセン病患者が入所したことにより同人との家族関係の形成を阻害されることによって生じた損害については、昭和35年以降に、入所者が親子及び配偶者であった原告らについては慰謝料として100万円を、入所者に親子又は配偶者がおらず兄弟姉妹のみであった原告らについては慰謝料として20万円をそれぞれ認めた(そのほか、 弁護士費用分の賠償も認めた。)。 イ内閣総理大臣談話及び政府声明政府は、令和元年7月12日、ハンセン病家族訴訟判決を受け、「ハンセン病家族国家賠償請求訴訟の判決受入れに当たっての内閣総理大臣談話」(別紙2⑴。以下、単に「内閣総理大臣談話」という。)及び政府声明(別 紙2⑵)を発表した(甲1、乙8)。 ウ立法過程における審議(乙7)(ア) 骨子案の取りまとめ内閣総理大臣談話及び政府声明を踏まえ、厚生労働省とハンセン病家族訴訟の原告団及び弁護団との間で、ハンセン病元患者家族に対する補 過程における審議(乙7)(ア) 骨子案の取りまとめ内閣総理大臣談話及び政府声明を踏まえ、厚生労働省とハンセン病家族訴訟の原告団及び弁護団との間で、ハンセン病元患者家族に対する補 償措置についての実務者協議が行われるとともに、厚生労働省、法務省及び文部科学省と同原告団及び弁護団との間で、偏見、差別解消に向けた協議が行われた。 国会においても、令和元年10月2日、「ハンセン病対策議員懇談会」及び「ハンセン病問題の最終解決を進める国会議員懇談会」(いずれも超 党派の議員懇談会)の下に、「ハンセン病対策議員懇談会及びハンセン病 問題の最終解決を進める国会議員懇談会合同ワーキングチーム」(以下「ワーキングチーム」という。)が設置された。ワーキングチームは、「ハンセン病元患者の家族に対する補償等に関する基本方針(骨子案)」(乙9。以下「骨子案」という。)を取りまとめ、骨子案は、同月24日、上記各議員懇談会の合同会議において了承された。 骨子案のうち、本件に関係のある箇所は以下のとおりである。 「対象者平成8年3月31日までの間(らい予防法が廃止されるまでの間)にハンセン病の発病歴のあるもの(以下「元患者」という。)と次に掲げる親族関係にあった者であって、この法律の施行の日において生存 しているもの① 配偶者(事実婚を含む。)② 血族である親・子③ 1親等の姻族(子の配偶者・養子でない連れ子等)であって、元患者と同居していたもの ④ 血族である兄弟姉妹⑤ 2親等の姻族(配偶者の兄弟姉妹・兄弟姉妹の配偶者・孫の配偶者等)であって、元患者と同居していたもの⑥ 3親等内の血族(孫・おい・めい等)であって、元患者と同居していたもの」 2親等の姻族(配偶者の兄弟姉妹・兄弟姉妹の配偶者・孫の配偶者等)であって、元患者と同居していたもの⑥ 3親等内の血族(孫・おい・めい等)であって、元患者と同居していたもの」 (イ) 国会における審議(乙10~13)各党・各会派における手続を経て、令和元年11月8日に衆議院厚生労働委員会において補償法の法律案が起草され、同月12日に衆議院本会議にて可決された。続いて、同月14日に参議院厚生労働委員会、翌15日に参議院本会議にて可決され、補償法は、同月22日に公布及び 施行された。 国会における審議の過程では、衆議院厚生労働委員会において、A委員が、補償金の支給対象について、原告団と厚生労働省の実務者協議では、ハンセン病元患者の配偶者、親子、兄弟姉妹のほか、同居を要件として孫、おい、めい等としていたが、ワーキングチームで検討した結果、同居を要件とした上で、その範囲を事実婚の配偶者の連れ子や孫の配偶 者まで拡大することとなった旨を質疑で述べたほか、同居の認定基準や立証方法に関する質疑があったものの、これら以外に、同居要件に関する審議が行われたことはなかった(乙10、12)。 エ孫等について同居要件が設けられた趣旨に関する説明(甲2、乙7)衆議院法制局の担当者及び厚生労働省は、孫等について同居要件が設け られた趣旨について、次のように説明している。すなわち、①親、子、配偶者及び兄弟姉妹については、一般的に同居している蓋然性が高く、また、同居していなくとも偏見差別による精神的苦痛を受けた可能性が高いことから、同居していたかどうかにかかわらず、補償金の支給対象となるが、②孫やおい・めい等は、上記親族と比較して、ハンセン病元患者との関係 が遠いものの、ハンセン病元患者と同居していた場 高いことから、同居していたかどうかにかかわらず、補償金の支給対象となるが、②孫やおい・めい等は、上記親族と比較して、ハンセン病元患者との関係 が遠いものの、ハンセン病元患者と同居していた場合には、同じく偏見差別による精神的苦痛を受けた可能性が高いと考えられることから、同居要件を充足する場合に補償金の支給対象となる。 ⑵ 原告の家族関係等ア原告は、ハンセン病元患者である■■■■■(明治■■■■■■■■生。 以下「■■■」という。)の孫である。 イ ■■■は、妻である■■■■との間に■■■■(大正■■■■■■■生。 以下「■■」という。)をもうけ、■■は、昭和■■■■■■■■に■■■■(以下「■■」という。)と婚姻した。 ■■■は、昭和21年■■■■■以降、■■と同居していた(甲3~5)。 ■■■は、遅くとも昭和23年■■■頃までにハンセン病を発病し(甲6)、 昭和■■■■■■■■、ハンセン病療養所であるBに入所した。 原告は、■■■がBに入所した十日後である昭和■■■■■■■■、■■と■■との間の子として出生した。 ⑶ 本件訴訟に至る経緯ア原告は、令和2年9月18日付けで、厚生労働大臣に対し、補償法9条 1項に基づき、補償金の支給を請求した(乙2)。 イ厚生労働大臣は、令和3年6月15日、原告の上記アの請求について、補償法2条2項の要件に該当するとは認められないとして、補償金の支給の権利を認定しないこととする旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。 ウ原告は、本件処分を不服として、令和3年9月16日付けで、厚生労働大臣に対して審査請求をした。 エ厚生労働大臣は、令和4年5月31日、原告の上記ウの審査請求を棄却する旨の裁決をした。 オ原告は、令和4 を不服として、令和3年9月16日付けで、厚生労働大臣に対して審査請求をした。 エ厚生労働大臣は、令和4年5月31日、原告の上記ウの審査請求を棄却する旨の裁決をした。 オ原告は、令和4年11月30日、本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著 な事実)。 3 争点及び当事者の主張本件の争点は、原告(■■■がBに入所した当時、同人と同居していた■■の胎内にあり、同入所の十日後に出生)が、補償法2条2項5号にいう「当該ハンセン病元患者と同居しているもの」に該当したことがあるといえるかであ る。 (原告の主張)⑴ 民法721条及び最高裁平成18年判決ア補償法は、ハンセン病家族訴訟判決が被告に対する損害賠償請求を認めたことを受け、内閣総理大臣において、同判決に対して控訴をせず、確定 判決に基づく賠償を履行するとともに、訴訟の参加・不参加を問わず、家 族に対する新たな補償を講ずる旨の内閣総理大臣談話を示したことから、厚生労働省と原告団及び弁護団との協議や、ワーキングチームによる骨子案の取りまとめを経て制定されたものである。このように、補償法は、ハンセン病家族訴訟判決の認定した国会及び政府の賠償責任を前提とするものである。 さらに、補償法は、補償金について、ハンセン病元患者家族がこれまでに被った精神的苦痛を慰謝するもの、すなわち慰謝料である旨を定め(前文)、国が補償金を支給したときは、同一の事由については、その価額の限度で国家賠償法による損害賠償の責任を免れる旨を定めている(8条2項)。 したがって、補償法による補償金の支給は、ハンセン病元患者家族の受けた損害に対する賠償としての性質を有するものというべきである。 イ民法721条は、胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたもの って、補償法による補償金の支給は、ハンセン病元患者家族の受けた損害に対する賠償としての性質を有するものというべきである。 イ民法721条は、胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす旨を定めているところ、最高裁平成17年(受)第1751号同18年3月28日第三小法廷判決・民集60巻3号875頁(以下「最 高裁平成18年判決」という。)は、自家用自動車総合保険契約の記名被保険者の子が、胎児であった時に発生した交通事故により出生後に傷害を生じ、その結果、後遺障害が残存した場合には、当該子又はその父母は、当該傷害及び後遺障害によってそれぞれが被った損害について、同契約の無保険車傷害条項が被保険者として定める「記名被保険者の同居の親族」に 生じた傷害及び後遺障害による損害に準ずるものとして、同条項に基づく保険金の請求をすることができる旨判示している。最高裁平成18年判決は、無保険車傷害条項による保険金は、法律上損害賠償の請求権があるが、相手方自動車が無保険自動車であって、十分な損害のてん補を受けることができないおそれがある場合に支払われるものであって、賠償義務者に代 わって損害をてん補するという性格(責任保険的な性格)を有しているこ とを理由に、当事者の合理的意思解釈として、賠償義務者が賠償義務を負う損害は全て保険金によるてん補の対象となるという結論を導いたものである。 そして、上記アのとおり、補償法による補償金は損害賠償としての性質を有するところ、補償法の立法者は、国が賠償義務を負う損害については 全て補償法による補償金の対象となるという意思を有していたものというべきであるから、民法721条の法意及び最高裁平成18年判決の論旨によれば、胎児はハンセン病元患者と「同居」していたものとして、補 全て補償法による補償金の対象となるという意思を有していたものというべきであるから、民法721条の法意及び最高裁平成18年判決の論旨によれば、胎児はハンセン病元患者と「同居」していたものとして、補償金の支給対象となるというべきである。 ⑵ 同居要件が設けられた趣旨と、原告の同居要件充足 補償法が孫について同居要件を設けた趣旨は、孫は、ハンセン病元患者との関係が遠いものの、ハンセン病元患者と同居していた場合には、親、子、配偶者及び兄弟姉妹と同じく、偏見差別による精神的苦痛を受けた可能性が高いと考えられるからであるとされている。本件において、原告を懐胎していた■■は、原告が出生する十日前までハンセン病元患者である■■■と同 居していたのであるから、■■■の直系卑属である原告は、偏見差別の対象となり得たものといえる。したがって、同居要件が設けられた趣旨からすれば、■■■がBに入所した当時原告が胎児であったからといって、同居要件を欠くと評価すべきではなく、原告は同居要件を充足するものというべきである。 (被告の主張)⑴ 民法721条及び最高裁平成18年判決について補償法が、あくまで「補償金」と規定していること(1条)、補償金の支給を受ける権利の認定に当たっては、補償金の支給を受けようとする者の請求に基づき、ハンセン病元患者家族に該当するかどうかの確認又は審査を経て、 当該支給を受ける権利の認定をするものとしており、当該請求者に損害賠償 請求権があることを前提とするものではないこと、補償金の支給を受ける権利を相続や差押えの対象としておらず、一身専属性を有することを前提とした規定を設けていること(2条2項、10条1項、17条)からすると、補償法による補償金の支給は、単なる損害賠償ではなく、特別な政策的考 相続や差押えの対象としておらず、一身専属性を有することを前提とした規定を設けていること(2条2項、10条1項、17条)からすると、補償法による補償金の支給は、単なる損害賠償ではなく、特別な政策的考慮に基づいて特別な補償を行うものと解するべきである。 そして、最高裁平成18年判決は、交通事故の時点で胎児であった被害者が、民法721条により、加害者に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることができる場合において、自家用自動車総合保険契約の無保険車傷害条項に基づく保険金請求をすることができるか否かについて判示したものであるところ、上記のとおり、補償法による補償金の支給は、単なる損害賠償 ではなく、特別な政策的考慮に基づいて行われる特別な補償であること、最高裁平成18年判決の判示は保険契約一般に妥当するものでもなく、その射程は限定的なものと解すべきことからすると、最高裁平成18年判決の射程は本件に及ばないというべきである。 以上によれば、民法721条及び最高裁平成18年判決を根拠として、胎 児がハンセン病元患者と「同居」していたということはできない。 ⑵ 原告の同居要件不充足胎児は、原則として権利能力の主体となることができず、限られた局面において、特則によりその権利能力の主体となることが認められているにすぎないところ、補償法は、胎児の権利能力に関する特則を規定しておらず、補 償法制定時の国会審議等において、胎児を権利能力の主体として認めるような立法者意思が示されたこともないことからすると、胎児について、補償金の支給を受ける権利の主体となることができると解することはできない。 したがって、原告は、■■■がBに入所した当時胎児であった以上、同居要件を充足するということはできない。 第3 当裁判所 受ける権利の主体となることができると解することはできない。 したがって、原告は、■■■がBに入所した当時胎児であった以上、同居要件を充足するということはできない。 第3 当裁判所の判断 1 ハンセン病元患者と同居していた妊婦の胎内にあった胎児と同居要件⑴ 前提事実⑴のとおり、補償法は、ハンセン病家族訴訟判決がハンセン病元患者家族らの損害賠償請求を認めたことを受けて、当時の内閣総理大臣が、同判決に対して控訴を行わず、補償の措置を講ずる旨の内閣総理大臣談話を 発表したことから、厚生労働省と原告団及び弁護団との間の実務家協議、ワーキングチームによる骨子案の取りまとめ並びに国会での審議を経て、公布及び施行されたものである。補償法のこのような制定経緯に加え、補償法に、国会及び政府において深くおわびする旨の表明(前文)や、補償金はハンセン病元患者家族がこれまでに被った精神的苦痛を慰謝するためのものである 旨の定め(前文、1条)、既に損害賠償等がされた場合にはその価額の限度で補償金は支給されない旨の定め(8条)があることなどからすると、政府がハンセン病家族訴訟判決には国家賠償法及び民法の解釈の根幹に関わる法律上の問題点がある旨を指摘する政府声明を発表していることを考慮しても、補償法による補償金は、損害賠償金としての性質を含むものといえる。 しかし、補償法は、①ハンセン病元患者がハンセン病を発病した時かららい予防法が廃止されるまでの間に補償法2条2項各号のいずれかに該当したことがあり、補償法の施行日(令和元年11月22日)において生存している者のみが「ハンセン病元患者家族」に当たるものとして、補償金の支給対象とする(補償法3条)、②補償法4条各号に掲げるハンセン病元患者家族の 区分に応じ、定額の補償金を 日)において生存している者のみが「ハンセン病元患者家族」に当たるものとして、補償金の支給対象とする(補償法3条)、②補償法4条各号に掲げるハンセン病元患者家族の 区分に応じ、定額の補償金を支給する、③補償金の支給を受けようとする者の請求に基づき、厚生労働大臣が当該支給を受ける権利を認定した者に対して補償金を支給するものとし(補償法9条1項)、この請求は、補償法の施行日から起算して5年を経過したときは、することができないものとする(同条2項)など、補償金の支給対象、補償金の額、補償金の支給に係る手続等 を法定している。そして、補償金の支給対象に係る上記の定めによれば、補 償法は、補償法2条2項各号のいずれかに該当したことがある者が補償法の施行日に死亡していた場合、その者の相続人が補償金の支給を受ける権利を相続することにはしていないものと解され、また、補償法には、同項各号のいずれかに該当したことがある者が、補償法の施行日以後、補償金の支給を請求せずに死亡した場合、その遺族において補償金の支給を請求することは できないことを前提とした規定(補償法10条)もある。補償法の以上のような各規定を踏まえると、補償法による補償金は、上記のとおり損害賠償としての性質を含むものではあるが、ハンセン病元患者家族に関する政策的考慮に基づいて行われる特別な補償であると解するのが相当である。 ⑵ 上記⑴第2段落で掲げた補償法の各規定からすると、立法者は、一定の基 準に基づき、定額の補償金の支給対象となる者の外延を明確化することとして、補償法を制定したものと解するのが相当であるところ、補償法には、胎児の権利能力を認める旨の民法721条のような規定や、ハンセン病元患者と同居していた妊婦の胎内にあった胎児を補償金の支給対象とする旨の規定 法を制定したものと解するのが相当であるところ、補償法には、胎児の権利能力を認める旨の民法721条のような規定や、ハンセン病元患者と同居していた妊婦の胎内にあった胎児を補償金の支給対象とする旨の規定は設けられていない。そして、補償法の制定経緯(前提事実⑴)をみても、 ハンセン病元患者と同居する妊婦がいる場合に、その胎内にあった胎児を補償金の支給対象とすべきである旨の議論がされた形跡はない。そうすると、補償法の立法者において、ハンセン病元患者と同居する妊婦の胎内にあった胎児について、同居要件を充足するものとして補償金の支給対象とする旨の意思を有していたものとは認められない。 ⑶ 原告がその主張の根拠として掲げる最高裁平成18年判決は、無保険車傷害条項に基づいて支払われる保険金は、法律上損害賠償の請求権があるが、相手自動車が無保険自動車であって、十分な損害のてん補を受けることができないおそれがある場合に支払われるものであって、賠償義務者に代わって損害をてん補するという性格を有するものというべきであるから、無保険車 傷害条項を約款に含む保険契約は、賠償義務者が賠償義務を負う損害は全て 保険金によるてん補の対象となるとの意思で締結されたものと解するのが相当である旨判示している。同判示によれば、最高裁平成18年判決は、無保険車傷害条項をその内容とする保険契約を締結した当事者の意思を合理的に解釈してその結論を導いたというべきものであって、補償法の立法者の意思が問題となる本件とは、事案を異にするものといわざるを得ない。また、 上記⑴第2段落で掲げた補償法の各規定及び補償法の制定経緯(前提事実⑴)に照らすと、補償法の立法者が、国が賠償義務を負う損害については全て補償法による補償金の対象となるという意思を有していたと認め 上記⑴第2段落で掲げた補償法の各規定及び補償法の制定経緯(前提事実⑴)に照らすと、補償法の立法者が、国が賠償義務を負う損害については全て補償法による補償金の対象となるという意思を有していたと認めることもできない。 ⑷ 以上によれば、ハンセン病元患者と同居していた妊婦の胎内にあった胎児 について、当該ハンセン病元患者と「同居」していたということはできない。 2 同居要件が設けられた趣旨に基づく原告の主張について⑴ 原告は、同居要件が設けられた趣旨からすれば、原告は同居要件を充足する旨主張する。 ⑵ 前提事実⑴エによれば、補償法が孫等について同居要件を設けた趣旨は、 孫等は、配偶者、親、子及び兄弟姉妹と比較して、ハンセン病元患者との関係は遠いものの、ハンセン病元患者と同居していた場合には、偏見差別による精神的苦痛を受けた可能性が高いと考えられることにあるものと解される。 原告の陳述書(甲6)によれば、①■■■がBに入所した際、■■■夫婦と原告の両親及び兄が居住していた自宅は徹底的に消毒され、当時原告を懐 胎していた■■は、近隣住民から原告を堕胎してはどうかと言われたこと、②■■■がハンセン病を発病したことが近隣に知れ渡ったため、原告一家は転居を余儀なくされたこと、③原告一家を養っていた■■■が入所したため、原告一家は経済的に困窮し、そのために原告は養子に出され、両親及び兄から引き離されることになったこと、④原告は■■■に会ったことがなく、■ ■■が亡くなった後になって、■■■がハンセン病を発病したことを聞かさ れたこと、以上の各事実が認められる。そして、■■■がハンセン病を発病したことを知っていたのが限られた親族のみであったことから、■■■の入所の十日後に出生した原告が、ハンセン病元患者家族として れたこと、以上の各事実が認められる。そして、■■■がハンセン病を発病したことを知っていたのが限られた親族のみであったことから、■■■の入所の十日後に出生した原告が、ハンセン病元患者家族として実際に差別を受けたことはなかったものであるが、このことを踏まえても、原告は、ハンセン病元患者家族として差別を受ける地位に置かれ得たものといえる。 しかし、上記1⑵で説示したとおり、補償法の立法者は、一定の基準に基づき、定額の補償金の支給対象となる者の外延を明確化したものと解されるのであり、また、補償法の立法者が、ハンセン病元患者と同居する妊婦の胎内にあった胎児について、同居要件を充足するものとして補償金の支給対象とする旨の意思を有していたものとは認められない。上記1⑴第2段落で掲 げた補償法の各規定に加え、このような立法者の意思を前提にすれば、補償金の支給を請求した個々人について、当該請求人を支給対象とする旨の明文の規定が補償法に置かれていないにもかかわらず、差別を受ける地位に置かれ得たか否かを個別に判断して、その支給の可否を判定するという事態は、補償法の想定しないところといわざるを得ない。 ⑶ したがって、同居要件が設けられた趣旨から、原告が同居要件を充足すると認めるべきである旨をいう原告の主張は、採用することができない。 3 まとめ以上のとおり、ハンセン病元患者と同居していた妊婦の胎内にあった胎児について、当該ハンセン病元患者と「同居」していたということはできない。 そして、原告は、■■■がBに入所した十日後に出生したものであり、■■■と同居したことはないのであるから、補償法2条2項5号にいう「当該ハンセン病元患者と同居しているもの」に該当したことがあるとはいえない。 したがって、原告による補 十日後に出生したものであり、■■■と同居したことはないのであるから、補償法2条2項5号にいう「当該ハンセン病元患者と同居しているもの」に該当したことがあるとはいえない。 したがって、原告による補償金の支給の請求について、補償法2条2項の要件に該当するとは認められないとした本件処分は、適法である。 第4 結論以上によれば、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官品田幸男 裁判官片瀬亮及び裁判官彦田まり恵は、差支えのため、いずれも署名押印することができない。 裁判長裁判官品田幸男 (別紙1)補償法の定め 1 前文「らい予防法」を中心とする国の隔離政策により、ハンセン病元患者は、これまで、偏見と差別の中で多大の苦痛と苦難を強いられてきた。その精神的苦痛に 対する慰謝と補償の問題の解決等を図るため、平成13年に「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」が制定され、さらに、残された問題に対応し、その療養等の保障、福祉の増進及び名誉の回復等を図るため、平成20年に「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」が制定された。 しかるに、ハンセン病元患者家族等も、偏見と差別の中で、ハンセン病元患者 との間で望んでいた家族関係を形成することが困難になる等長年にわたり多大の苦痛と苦難を強いられてきたにもかかわらず、その問題の重大性が認識されず、国会及び政府においてこれに対する取組がなされてこなかった。 国会及び政府は、その悲惨な事実を悔悟と反省の念を込めて深刻に受け止め、深くおわびするとともに、ハンセン病元患者家族等に 性が認識されず、国会及び政府においてこれに対する取組がなされてこなかった。 国会及び政府は、その悲惨な事実を悔悟と反省の念を込めて深刻に受け止め、深くおわびするとともに、ハンセン病元患者家族等に対するいわれのない偏見と 差別を国民と共に根絶する決意を新たにするものである。 ここに、国会及び政府が責任を持ってこの問題に誠実に対応していく立場にあることを深く自覚し、ハンセン病元患者家族等の癒し難い心の傷痕の回復と今後の生活の平穏に資することを希求して、ハンセン病元患者家族がこれまでに被った精神的苦痛を慰謝するとともに、ハンセン病元患者家族等の名誉の回復及び福 祉の増進を図るため、この法律を制定する。 2 1条(趣旨)この法律は、ハンセン病元患者家族の被った精神的苦痛を慰謝するための補償金(以下、単に「補償金」という。)の支給に関し必要な事項を定めるとともに、ハンセン病元患者家族等の名誉の回復等について定めるものとする。 3 2条(定義)2項 この法律において、「ハンセン病元患者家族」とは、ハンセン病元患者がハンセン病を発病した時かららい予防法の廃止に関する法律によりらい予防法が廃止されるまでの間に、次の各号のいずれかに該当したことがある者であって、この法律の施行の日において生存しているものをいう。 1号ハンセン病元患者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関 係と同様の事情にある者を含む。)2号ハンセン病元患者の一親等の血族3号ハンセン病元患者の一親等の姻族その他これに準ずる者として厚生労働省令で定める者であって、当該ハンセン病元患者と同居しているもの4号ハンセン病元患者の二親等の血族(兄弟姉妹に限る。) 5号ハンセン病元患者の二親等の血族(兄弟姉妹を除く。)であ 労働省令で定める者であって、当該ハンセン病元患者と同居しているもの4号ハンセン病元患者の二親等の血族(兄弟姉妹に限る。) 5号ハンセン病元患者の二親等の血族(兄弟姉妹を除く。)であって、当該ハンセン病元患者と同居しているもの6号ハンセン病元患者の二親等の姻族その他これに準ずる者として厚生労働省令で定める者であって、当該ハンセン病元患者と同居しているもの7号ハンセン病元患者の三親等の血族であって、当該ハンセン病元患者と同 居しているもの 4 3条(補償金の支給)国は、この法律の定めるところにより、ハンセン病元患者家族に対し、補償金を支給する。 5 4条(補償金の額) 補償金の額は、次の各号に掲げるハンセン病元患者家族の区分に応じ、当該各号に定める額とする。 1号 2条2項1号から3号までのいずれかに該当する者 180万円2号 2条2項4号から7号までのいずれかに該当する者 130万円 6 8条(損害賠償等がされた場合の調整) ⑴ 1項 補償金の支給を受けるべき者が同一の事由について国から国家賠償法による損害賠償その他の損害の填補を受けたときは、国は、その価額の限度で、補償金を支給する義務を免れる。 ⑵ 2項国は、補償金を支給したときは、同一の事由については、その価額の限度で、 国家賠償法による損害賠償の責任を免れる。 7 9条(補償金に係る認定等)⑴ 1項厚生労働大臣は、補償金の支給を受けようとする者の請求に基づき、当該支給を受ける権利の認定を行い、当該認定を受けた者に対し、補償金を支給する。 ⑵ 2項前項の補償金の支給の請求は、施行日から起算して5年を経過したときは、することができない。 8 10条(支払未済の補償金)⑴ 1項 定を受けた者に対し、補償金を支給する。 ⑵ 2項前項の補償金の支給の請求は、施行日から起算して5年を経過したときは、することができない。 8 10条(支払未済の補償金)⑴ 1項 ハンセン病元患者家族が請求をした後に死亡した場合において、その者が支給を受けるべき補償金でその支払を受けなかったものがあるときは、これをその者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたもの(以下「遺族」という。)に支給し、支給すべき遺族がないときは、当該死亡した者の相続人に支給する。 ⑵ 2項前項の規定による補償金を受けるべき遺族の順位は、同項に規定する順序による。 ⑶ 3項1項の規定による補償金を受けるべき同順位者が二人以上あるときは、その 全額をその一人に支給することができるものとし、この場合において、その一 人にした支給は、全員に対してしたものとみなす。 9 17条(譲渡等の禁止)補償金の支給を受ける権利は、譲渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。 以上 (別紙2⑴)内閣総理大臣談話本年6月28日の熊本地方裁判所におけるハンセン病家族国家賠償請求訴訟判決について、私は、ハンセン病対策の歴史と、筆舌に尽くしがたい経験をされた患者・元患者の家族の皆様の御労苦に思いを致し、極めて異例の判断ではありますが、敢 えて控訴を行わない旨の決定をいたしました。 この問題について、私は、内閣総理大臣として、どのように責任を果たしていくべきか、どのような対応をとっていくべきか、真剣に検討を進めてまいりました。 ハンセン病対策については、かつて採られた施設入所政策の下で、患者・元患者の皆様のみなら して、どのように責任を果たしていくべきか、どのような対応をとっていくべきか、真剣に検討を進めてまいりました。 ハンセン病対策については、かつて採られた施設入所政策の下で、患者・元患者の皆様のみならず、家族の方々に対しても、社会において極めて厳しい偏見、差別が 存在したことは厳然たる事実であります。この事実を深刻に受け止め、患者・元患者とその家族の方々が強いられてきた苦痛と苦難に対し、政府として改めて深く反省し、心からお詫び申し上げます。私も、家族の皆様と直接お会いしてこの気持ちをお伝えしたいと考えています。 今回の判決では、いくつかの重大な法律上の問題点がありますが、これまで幾多 の苦痛と苦難を経験された家族の方々の御労苦をこれ以上長引かせるわけにはいきません。できる限り早期に解決を図るため、政府としては、本判決の法律上の問題点について政府の立場を明らかにする政府声明を発表し、本判決についての控訴は行わないこととしました。その上で、確定判決に基づく賠償を速やかに履行するとともに、訴訟への参加・不参加を問わず、家族を対象とした新たな補償の措置を講 ずることとし、このための検討を早急に開始します。さらに、関係省庁が連携・協力し、患者・元患者やその家族がおかれていた境遇を踏まえた人権啓発、人権教育などの普及啓発活動の強化に取り組みます。 家族の皆様の声に耳を傾けながら、寄り添った支援を進め、この問題の解決に全力で取り組んでまいります。そして、家族の方々が地域で安心して暮らすことがで きる社会を実現してまいります。 以上 (別紙2⑵)政府声明政府は、令和元年6月28日の熊本地方裁判所におけるハンセン病家族国家賠償請求訴訟判決(以下「本判決」という。)に対しては、控 以上 (別紙2⑵)政府声明政府は、令和元年6月28日の熊本地方裁判所におけるハンセン病家族国家賠償請求訴訟判決(以下「本判決」という。)に対しては、控訴しないという異例の判断をしましたが、この際、本判決には、次のような国家賠償法、民法の解釈の根幹 に関わる法律上の問題点があることを当事者である政府の立場として明らかにするものです。 1 厚生大臣(厚生労働大臣)、法務大臣及び文部大臣(文部科学大臣)の責任について⑴ 熊本地方裁判所平成13年5月11日判決は、厚生大臣の偏見差別を除去す る措置を講じる等の義務違反の違法は、平成8年のらい予防法廃止時をもって終了すると判示しており、本判決の各大臣に偏見差別を除去する措置を講じる義務があるとした時期は、これと齟齬しているため、受け入れることができません。 ⑵ 偏見差別除去のためにいかなる方策を採るかについては、患者・元患者やそ の家族の実情に応じて柔軟に対応すべきものであることから、行政庁に政策的裁量が認められていますが、それを極端に狭く捉えており、適切な行政の執行に支障を来すことになります。また、人権啓発及び教育については、公益上の見地に立って行われるものであり、個々人との関係で国家賠償法の法的義務を負うものではありません。 2 国会議員の責任について国会議員の立法不作為が国家賠償法上違法となるのは、法律の規定又は立法不作為が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制限するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などに限 られています(最高裁判所平成27年12月16日大法廷判決等)。本判決は するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などに限 られています(最高裁判所平成27年12月16日大法廷判決等)。本判決は、 前記判例に該当するとまではいえないにもかかわらず、らい予防法の隔離規定を廃止しなかった国会議員の立法不作為を違法としております。このような判断は、前記判例に反し、司法が法令の違憲審査権を超えて国会議員の活動を過度に制約することとなり、国家賠償法の解釈として認めることができません。 3 消滅時効について 民法第724条前段は、損害賠償請求権の消滅時効の起算点を、被害者が損害及び加害者を知った時としていますが、本判決では、特定の判決があった後に弁護士から指摘を受けて初めて、消滅時効の進行が開始するとしております。かかる解釈は、民法の消滅時効制度の趣旨及び判例(最高裁判所昭和57年10月15日第二小法廷判決等)に反するものであり、国民の権利・義務関係への影響が 余りに大きく、法律論としてはこれをゆるがせにすることができません。 以上

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る