令和6(ヨ)30028 仮処分命令申立事件

裁判年月日・裁判所
令和6年12月16日 東京地方裁判所
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判決文本文15,114 文字)

令和6年(ヨ)第30028号仮処分命令申立事件決定 債権者サムスンバイオエピスカンパニーリミテッド 同代理人弁護士大野聖二 多田宏文 盛田真智子 同補佐人弁理士大木信人 佐藤眞紀 債務者リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド 同代理人弁護士阿部隆徳 落合馨 浦井久蔵 同補佐人弁理士松井仁志 主文 1 本件申立てを却下する。 2 申立費用は債権者の負担とする。 3 この決定に対する即時抗告のための付加期間を30日と定める。 理由 の要旨 第1 申立ての趣旨 債務者は、厚生労働省及び独立行政法人医薬品医療機器総合機構に対し、債権者の製造販売承認申請に係る医薬品であるアフリベルセプトBS硝子体内注射液40mg/mL「GRP」の製造販売行為が特許第6855480号及び同第7233754号を侵害する旨を告知してはならない。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨 本件は、別紙特許権目録記載の各特許権(以下、番号に従って「本件特許権1」及び「本件特許権2」といい、これらを併せて「本件特許権」という。また、本件特許権1に係る特許を「本件特許1」と、本件特許権2に係る特許を「本件特許2」といい、本件特許1及び2を併せて「本件特許」という。)を有する債務者が、厚生労働省(以下「厚労省」という。)及び独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)に対し、債権者が別紙債務者製品目録記載の製品(以下「債務者製品」という。)の る債務者が、厚生労働省(以下「厚労省」という。)及び独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)に対し、債権者が別紙債務者製 品目録記載の製品(以下「債務者製品」という。)のバイオ後続品(先行バイオ医薬品と同等、同質の品質、安全性、有効性を有する医薬品として、異なる製造販売業者により開発される医薬品であり、バイオシミラーと呼ばれたり、BSと略記されたりすることがある。)である別紙債権者製品目録記載の製品(以下「債権者製品」という。)をその添付文書に「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う 加齢黄斑変性」を適応症と記載して製造販売する行為は本件特許権を侵害する旨の告知をしたことが、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項21号所定の不正競争に当たると主張して、同法3条1項に基づき、債権者が厚労省及びPMDAに対して債権者製品の製造販売行為が本件特許権を侵害する旨の告知をすることを差し止める仮処分を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実並びに後掲各疎明資料(以下、疎明資料番号は特記しない限り枝番を含む。)及び審尋の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者ア債権者は、製薬事業を行う韓国法人である。 イ債務者は、製薬事業を行う米国法人である。 (2) 本件特許権ア本件特許権1債務者は、平成28年12月1日、本件特許1に係る特許出願(優先権主張日は、平成27年12月3日及び平成28年2月4日)をし、令和3年3月19日、本件特許権1の設定登録(請求項の数9)を受けた(疎甲 2の1)。 イ本件特許権2債務者は、令和3年3月17日、本件特許2に係る特許出願(優先権主張日は、平成27年12月3日及び平成28年2月4日。なお、この出願は、本件特許 2の1)。 イ本件特許権2債務者は、令和3年3月17日、本件特許2に係る特許出願(優先権主張日は、平成27年12月3日及び平成28年2月4日。なお、この出願は、本件特許1に係る特許出願の一部を分割して新たな特許出願としたものである。)をし、令和5年2月27日、本件特許権2の設定登録(請求項 の数8)を受けた(疎甲2の2)。 (3) 本件特許の特許請求の範囲ア本件特許1本件特許1の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以下、同請求項に係る発明を「本件発明1」という。)。 「黄斑変性症患者の処置のための薬剤の製造における血管内皮成長因子(VEGF)阻害剤の使用であって、前記患者は、以前にVEGF阻害剤を約1年間投与されており、前記患者から得られるDNA試料で遺伝子型アッセイを行うか行ったことにより決定される1つ以上の遺伝子変異型を前記患者が有しており、前記1つ以上の遺伝子変異型は、rs20566 88、rs5962084、rs5962087、rs5915722、rs5962095、rs2106124、rs1879796、rs12148845、rs12148100、rs17482885及びrs17629019から構成される群から選択される一塩基多型である、前記使用。」 なお、請求項2ないし9は、いずれも請求項1の従属項である。 イ本件特許2本件特許2の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以下、同請求項に係る発明を「本件発明2」という。)。 「黄斑変性症患者の処置のための薬剤の製造におけるアフリベルセプト の使用であって、前記患者は、以前にアフリベルセプトを約1年間投与さ れており、前記患者は、rs2056688、rs5962 症患者の処置のための薬剤の製造におけるアフリベルセプト の使用であって、前記患者は、以前にアフリベルセプトを約1年間投与さ れており、前記患者は、rs2056688、rs5962084、rs5962087、rs5915722、rs5962095、rs2106124、rs1879796、rs12148845、rs12148100、rs17482885及びrs17629019から構成される群から選択される1つ以上の一塩基多型を有する、前記使用。」 なお、請求項2ないし8は、いずれも請求項1の従属項である。 (4) 構成要件の分説ア本件発明1本件発明1は、次の構成要件に分説することができる(以下、各構成要件につき、頭書の数字及び英文字に従って「構成要件1A」などという。)。 1A 黄斑変性症患者の処置のための薬剤の製造における血管内皮成長因子(VEGF)阻害剤の使用であって、1B 前記患者は、以前にVEGF阻害剤を約1年間投与されており、1C 前記患者から得られるDNA試料で遺伝子型アッセイを行うか行ったことにより決定される1つ以上の遺伝子変異型を前記患者が有 しており、前記1つ以上の遺伝子変異型は、rs2056688、rs5962084、rs5962087、rs5915722、rs5962095、rs2106124、rs1879796、rs12148845、rs12148100、rs17482885及びrs17629019から構成される群から選択される一 塩基多型である、1D 前記使用。 イ本件発明2本件発明2は、次の構成要件に分説することができる(以下、各構成要件につき、頭書の数字及び英文字に従って「構成要件2A」などという。)。 2A 黄斑変性症患者の処 使用。 イ本件発明2本件発明2は、次の構成要件に分説することができる(以下、各構成要件につき、頭書の数字及び英文字に従って「構成要件2A」などという。)。 2A 黄斑変性症患者の処置のための薬剤の製造におけるアフリベルセ プトの使用であって、2B 前記患者は、以前にアフリベルセプトを約1年間投与されており、2C 前記患者は、rs2056688、rs5962084、rs5962087、rs5915722、rs5962095、rs2106124、rs1879796、rs12148845、rs 12148100、rs17482885及びrs17629019から構成される群から選択される1つ以上の一塩基多型を有する、2D 前記使用。 (5) 債務者製品の製造販売等債務者製品の製造販売業者であるバイエル薬品株式会社(以下「バイエル 薬品」という。)は、平成24年11月、「アイリーア硝子体内注射液40mg/mL」の販売を開始した。 債務者製品の添付文書には、別紙債務者製品目録記載の各記載がある。なお、効能又は効果のうち、中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性については同年9月28日に承認され、その余の網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑 浮腫については平成25年11月22日に、病的近視における脈絡膜新生血管については平成26年9月19日に、糖尿病黄斑浮腫については同年11月18日に、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫については平成27年6月26日に、血管新生緑内障については令和2年3月25日に、未熟児網膜症については令和4年9月に、それぞれ追加承認された(疎甲3、疎乙75、84)。 (6) 債権者製品の製造販売承認申請債権者は、債務者製品のバイオ後続品である「アフリベルセプトBS硝子体内 ついては令和4年9月に、それぞれ追加承認された(疎甲3、疎乙75、84)。 (6) 債権者製品の製造販売承認申請債権者は、債務者製品のバイオ後続品である「アフリベルセプトBS硝子体内注射液40mg/mL「GRP」」を開発した(審尋の全趣旨)。 債権者の製造販売承認申請代行者であり、債権者製品の製造販売業者であるグローバルレギュラトリーパートナーズ合同会社(以下「GRP」という。) は、令和5年5月31日、厚生労働大臣に対し、債権者製品について、用法 及び用量並びに効能又は効果は別紙債権者製品目録の「用法及び用量」及び「効能又は効果」欄各記載のとおりとして、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」という。)所定の製造販売承認申請をした(疎甲4、11ないし13)。 ●(省略)● 債権者は、●(省略)●効能又は効果から「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性」を除外し、令和6年6月24日、「網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫」、「病的近視における脈絡膜新生血管」及び「糖尿病黄斑浮腫」の三つの効能又は効果について製造販売の承認を得た(疎甲16、疎乙43)。 3 争点 (1) 本件申立ての適法性(争点1)ア本件申立てが権利の濫用に当たるか(争点1-1)イ本件申立ての審理対象が債権者製品の薬機法上の承認の可否という「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法44条)に当たらないか(争点1-2) ウ本件申立てに係る紛争は行政事件訴訟法が適用されるべき公法上の法律関係に係るものに当たらないか(争点1-3)エ本件申立てに申立ての利益があるか(争点1-4)(2) 被保全権利の有無(争点2)ア 「競争関係にある他人」(不競法 適用されるべき公法上の法律関係に係るものに当たらないか(争点1-3)エ本件申立てに申立ての利益があるか(争点1-4)(2) 被保全権利の有無(争点2)ア 「競争関係にある他人」(不競法2条1項21号)が特定されているか (争点2-1)イ債権者製品をその添付文書に「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性」を適応症と記載して製造販売する行為は本件特許権を侵害するとの事実が「営業上の信用を害する虚偽の事実」(不競法2条1項21号)に当たるか(争点2-2) ウ債務者による厚労省等への情報提供が「告知」(不競法2条1項21号) に当たるか(争点2-3)エパテントリンケージ制度の下で先発医薬品に係る特許権者が厚労省等に対して後発医薬品(バイオ後続品を含む。以下同じ。)の製造販売等が特許権を侵害する旨の情報提供を行うことが正当な行為として違法性が阻却されるか(争点2-4) オ 「不正競争によって営業上の利益を…侵害されるおそれ」(不競法3条1項)があるか(争点2-5)(3) 保全の必要性の有無(争点3) 4 争点についての当事者の主張債権者及び債務者の各主張書面に記載のとおりであるから、これらを引用す る。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(1) パテントリンケージ制度の概要(疎甲8、疎乙6ないし8。別紙関係法令等の定め参照) アパテントリンケージ制度とは、後発医薬品の製造販売承認手続に関連して、後発医薬品の製造販売が先発医薬品に係る特許権を侵害するものであった場合に、先発医薬品に係る特許権者が後発医薬品の製造販売の開始を迅速に阻止できる仕組みをいう。 イ平成30年3月に署名され、同年12月に発効した「環太平洋パートナ ーシップに関する包括的 た場合に、先発医薬品に係る特許権者が後発医薬品の製造販売の開始を迅速に阻止できる仕組みをいう。 イ平成30年3月に署名され、同年12月に発効した「環太平洋パートナ ーシップに関する包括的及び先進的な協定」(TPP11協定)は、締約国にパテントリンケージ制度を採用する義務を課している。 日本が採用しているパテントリンケージ制度は、薬機法等に設けられた明文の規定によるものではなく、厚労省の裁量に基づき、「承認審査に係る医薬品特許情報の取扱いについて」(平成6年10月4日薬審第762 号厚生省薬務局審査課長通知。以下「平成6年通知」という。)及び「医 療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて」(平成21年6月5日医政経発第0605001号、薬食審査発第0605014号厚生労働省医政局経済課長・厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知。以下「平成21年通知」という。)を根拠として行われている運用上の取扱いである。 ウ平成6年通知及び平成21年通知は、既承認の医療用医薬品の有効成分に係る物質特許又は用途特許(特許期間が満了しているものを除く。)の特許権者等に対し、医薬品特許情報報告票に必要事項を記入し、独立行政法人医薬品医療機器総合機構一般薬等審査部あてに提出することを求めている。ただし、特許権者等による医薬品特許情報報告票の提出は任意であり、 一般に公開しないものとされている。 そして、平成21年通知は、先発医薬品の一部の効能・効果、用法・用量(以下「効能・効果等」という。)に特許が存在し、その他の効能・効果等を標ぼうする医薬品の製造が可能である場合については、後発医薬品を承認できることとするものの、特許が存在する効能・効果等については 承認しない方針であ 。)に特許が存在し、その他の効能・効果等を標ぼうする医薬品の製造が可能である場合については、後発医薬品を承認できることとするものの、特許が存在する効能・効果等については 承認しない方針であるとしている。 (2) バイエル薬品と厚労省との間のやり取り●(省略)●債務者は、バイエル薬品を通じて、本件特許に関し、厚労省及びPMDAとの間で次のやり取りをした。 アバイエル薬品は、PMDAに対し、●(省略)●債務者製品及び本件特 許1に係る医薬品特許情報報告票を提出した。 さらに、バイエル薬品は、PMDAに対し、●(省略)●医薬品特許情報報告票に記載された債務者製品と本件特許1の関係についての追加説明書を提出した。 当該追加説明書には、●(省略)●アイリーアBSがwAMDの用途に ついて承認されると、本件特許権1の侵害が生じる懸念がある旨が記載さ れている。 イ厚労省とバイエル薬品との間で、●(省略)●メールにより、●(省略)●についての質疑応答がされた。 厚労省は、●(省略)●バイエル薬品に対し、●(省略)●との質問をした。 バイエル薬品は、●(省略)●厚労省に対し、●(省略)●旨を回答した。 ウバイエル薬品は、本件特許権2が設定登録されたことを踏まえ、PMDAに対し、●(省略)●債務者製品及び本件特許2に係る医薬品特許情報報告票を提出した。 さらに、バイエル薬品は、厚労省に対し、●(省略)●医薬品特許情報報告票に記載された債務者製品と本件特許の関係についての追加説明書を提出した●(省略)●当該追加説明書には、●(省略)●特許の用途に使用される蓋然性は極めて高く、本件特許権2を侵害することになるのは明らかであるとの記載 がある。 エ厚労省は、●(省略)●バイエル 省略)●当該追加説明書には、●(省略)●特許の用途に使用される蓋然性は極めて高く、本件特許権2を侵害することになるのは明らかであるとの記載 がある。 エ厚労省は、●(省略)●バイエル薬品に対し、●(省略)●との質問をした。厚労省は、上記質問に当たり、●(省略)●これに対し、バイエル薬品は、●(省略)●厚労省に対し、●(省略)●と回答した。 2 争点2-4(パテントリンケージ制度の下で先発医薬品に係る特許権者が厚労省等に対して後発医薬品の製造販売等が特許権を侵害する旨の情報提供を行うことが正当な行為として違法性が阻却されるか)について事案にかんがみ、争点2-4から検討する。 (1) 判断枠組みについて ア薬機法14条1項は、医薬品の製造販売をしようとする者は、その製造 販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならないと規定しているところ、同大臣は、行政上の高度の専門的裁量に基づいて承認の可否を判断しているものと解されている。そして、前記1(1)イ及びウの平成6年通知及び平成21年通知は、後発医薬品が上市された後に特許権侵害訴訟が提起され、製品が回収されるなどして医療現場や患者に影響が生じるの を回避するため、医薬品の安定供給を確保する観点から、承認の可否の判断に当たり、その内容を公開しないことを前提として特許権者による医薬品特許情報報告票の提出を求め、当該報告票記載の情報に基づき、先発医薬品と後発医薬品との特許抵触の有無について確認しようとするものである。上記医薬品特許情報報告票のひな型には、後発医薬品の製造販売等が 特許権者の特許権を侵害するものであるか否かの意見を求める欄が明示的に設けられていないものの(疎乙8)、その内容を公開しないことを前提として医薬品特許 のひな型には、後発医薬品の製造販売等が 特許権者の特許権を侵害するものであるか否かの意見を求める欄が明示的に設けられていないものの(疎乙8)、その内容を公開しないことを前提として医薬品特許情報報告票の提出が求められているのは、厚生労働大臣が承認の可否に係る判断権限を適切に行使するために多面的な意見を聴取するという目的によるものであると考えられることから、特許権者が、医 薬品特許情報報告票を提出する際に、又は、これを受けた厚労省からの照会に対して、後発医薬品の製造販売等が特許権者の有する特許権を侵害することになるか否かについての意見を述べることも期待されていると解される。このことは、前記1(2)エのとおり、厚労省が、債務者に対し、●(省略)●によっても、裏付けられているといえる。 このように、パテントリンケージ制度においては、特許権者が後発医薬品の製造販売等が特許権者の有する特許権を侵害することになるか否かに関する意見を述べることも期待されていると認められるものの、特許権者が述べる意見は、必ずしも司法上の判断を経た確定的なものではないから、実際には後発医薬品の製造販売等が特許権者の有する特許権を侵害しない にもかかわらず、結果として当該製造販売が当該特許権を侵害するとの真 実に反する意見を述べることとなる可能性がある。しかし、上記のとおり、パテントリンケージ制度に基づく医薬品特許情報の提供は、厚生労働大臣が承認の可否に係る判断権限を適切に行使するために多面的な意見を聴取することを目的として求められているものであるから、司法上の判断を経た確定的なものでないとしても、特許権者から、後発医薬品の製造販売等 が特許権者の有する特許権を侵害することになるか否かの点を含め、種々の意見をある程度自由に るものであるから、司法上の判断を経た確定的なものでないとしても、特許権者から、後発医薬品の製造販売等 が特許権者の有する特許権を侵害することになるか否かの点を含め、種々の意見をある程度自由に述べる機会を確保する必要がある。その一方で、特許権者が、パテントリンケージ制度に基づく医薬品特許情報の提供等の手続に仮託し、市場において優位に立つことを目的として、後発医薬品の製造販売業者の信用を害する事実を告知したような場合や、正確性を欠い たり、過度に誇張したりなど、情報提供の内容や態様が社会通念上必要な範囲を越えて不適切であるような場合においても、パテントリンケージ制度に基づく医薬品特許情報の提供等の一環としてされたとの一事により、不競法2条1項21号所定の不正競争行為該当性を否定することは、事業者間の公正な競争を確保し、もって国民経済の健全な発展に寄与すること を目的とするとの不競法の趣旨に反する結果をもたらすものというべきである。 イ以上のパテントリンケージ制度に基づく医薬品特許情報提供手続の意義や不競法の趣旨にかんがみると、競合他社による後発医薬品の製造販売が特許権者の有する特許権を侵害しないにもかかわらず、特許権者が、パテントリ ンケージ制度に基づく医薬品特許情報の提供等において、競合他社による後発医薬品の製造販売が特許権を侵害する旨の意見を述べ、それが形式的には不競法2条1項21号所定の「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」に当たり得るような場合であったとしても、それがパテントリンケージ制度に基づく医薬品特許情報提供の趣 旨に照らして相当性を有するものと認められるときには、パテントリンケー ジ制度が予定する正当な行為として、違法性を欠くという パテントリンケージ制度に基づく医薬品特許情報提供の趣 旨に照らして相当性を有するものと認められるときには、パテントリンケー ジ制度が予定する正当な行為として、違法性を欠くというべきである。そして、上記の相当性の判断に当たっては、特許権者が、競合他社による後発医薬品の製造販売が特許権を侵害しないことを知りながら、又は容易にそのことを知り得たといえるのにあえて侵害する旨の意見を述べたり、医薬品特許情報の提供等の手続に仮託し、殊更に競合他社の信用を害する事実を述べた りしたものではないこと、医薬品特許情報の提供等の内容や態様が社会通念上必要かつ適切な範囲内であったこと、特許権者が医薬品特許情報の提供等に至った経緯などの事情が考慮されるべきである。 (2) 本件におけるあてはめア前記1(2)ア、ウ及びエのとおり、債務者は、①バイエル薬品を通じてP MDAに提出した●(省略)●追加説明書に、アイリーアBSがwAMDの用途について承認されると、本件特許権1の侵害が生じる懸念がある旨を記載したこと、②バイエル薬品を通じてPMDAに提出した●(省略)●追加説明書に、アイリーアのバイオ後続品がwAMDの効能・効果について承認された場合、本件特許権2を侵害することになるのは明らかであ る旨を記載したこと、③●(省略)●バイエル薬品を通じて、厚労省に対し、大要、アイリーアと同じ添付文書が用いられた後発医薬品の販売が本件特許権を侵害するとの趣旨の回答をしたことがそれぞれ認められる。そして、前記1(2)において認定した経過にかんがみれば、これらの追加説明書の提出及び回答が、パテントリンケージ制度に基づく本件特許に関する 医薬品特許情報の提供手続の一環として行われたものであると認められる。 イそして、前記1( かんがみれば、これらの追加説明書の提出及び回答が、パテントリンケージ制度に基づく本件特許に関する 医薬品特許情報の提供手続の一環として行われたものであると認められる。 イそして、前記1(2)イないしエのとおり、債務者は、前記アの見解を示すのに当たり、●(省略)●について、●(省略)●具体的に説明するなどしていることからすると、当該見解が事実的、法律的に根拠があるか否かを具体的に検討していたと認められる。また、債務者が、●(省略)●バ イエル薬品を通じて、厚労省に対し、大要、アイリーアと同じ添付文書が 用いられた後発医薬品の販売が本件特許権を侵害するとの趣旨の回答をしたのは、厚労省から、同省の●(省略)●質問に関し、●(省略)●との意向を踏まえたものであったことが認められる。 他方で、本件全疎明資料によっても、債務者が、債権者による債権者製品の製造販売が本件特許権を侵害しないことを知りながら、又は容易にそ のことを知り得たといえるのにあえて侵害する旨の意見を述べたこと、医薬品特許情報の提供等の手続に仮託して、殊更に債権者の信用を害する事実を述べたこと、医薬品特許情報の提供等の内容や態様が社会通念上不必要又は不適切なものであったこと、医薬品特許情報の提供等に至った経緯が不合理なものであったことなど、相当性を否定すべき事情は何らうかが われない。 したがって、債務者による前記アの本件特許に関する情報提供は、パテントリンケージ制度に基づく医薬品特許情報提供の趣旨に照らして相当性を有するものと認めることができる。 (3) まとめ 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、債務者の行為は正当な行為として違法性が阻却されるから、不競法所定の不正競争に当たるとはいえない。 3 争点2 る。 (3) まとめ 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、債務者の行為は正当な行為として違法性が阻却されるから、不競法所定の不正競争に当たるとはいえない。 3 争点2-5(「不正競争によって営業上の利益を…侵害されるおそれ」(不競法3条1項)があるか)及び争点3(保全の必要性があるか)について 前記2において説示したとおり、債務者が厚労省及びPMDAに対してアイリーアと同じ添付文書が用いられた後発医薬品の販売が本件特許権を侵害するとの趣旨の記載がある追加説明書を提出した行為等は、正当な行為として違法性が阻却されるところ、他に債務者の不正競争によって債権者の営業上の利益を侵害されるおそれがあることについての疎明がされているとはいえない。 したがって、債務者の不正競争によって債権者の営業上の利益を侵害される おそれがあるとはいえないし、保全の必要性があるともいえない。 第4 結論よって、その余の点について判断するまでもなく、本件申立ては理由がないから、これを却下することとして、主文のとおり決定する。 令和6年12月16日 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官國分隆文 裁判官間明宏充 裁判官木村洋一 (別紙)特許権目録 1 特許番号特許第6855480号発明の名称抗VEGFで処置された加齢黄斑変性症に罹患している患者 の臨床転帰に遺伝変異型を関連付ける方法登録日令和3(2021)年3月19日出願日平成28(2016)年12月1日出願番号特願2018-528667号優先権 の臨床転帰に遺伝変異型を関連付ける方法登録日令和3(2021)年3月19日出願日平成28(2016)年12月1日出願番号特願2018-528667号優先権主張日平成27(2015)年12月3日及び平成28(2016) 年2月4日 2 特許番号特許第7233754号発明の名称抗VEGFで処置された加齢黄斑変性症に罹患している患者の臨床転帰に遺伝変異型を関連付ける方法登録日令和5(2023)年2月27日 出願日令和3(2021)年3月17日出願番号特願2021-43218号(特願2018-528667号の分割)優先権主張日平成27(2015)年12月3日及び平成28(2016)年2月4日 以上 (別紙)債務者製品目録 販売名アイリーア硝子体内注射液40mg/mL有効成分 1回の投与量(0.05mL又は0.01mL)中アフリベルセプ ト(遺伝子組換え)※ 2mg又は0.4mg1バイアル(0.278mL)中アフリベルセプト(遺伝子組換え)※ 11.12mg※:チャイニーズハムスター卵巣細胞を用いて製造される。 効能又は効果 ○中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性 ○網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫○病的近視における脈絡膜新生血管○糖尿病黄斑浮腫○血管新生緑内障○未熟児網膜症 用法及び用量 <中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性>アフリベルセプト(遺伝子組換え)として2mg(0.05mL)を1ヵ月ごとに1回、連続3回(導入期)硝子体内投与する。その後の維持期においては、通常、2ヵ月ごとに1回、硝子体内投与する。なお、 アフリベルセプト(遺伝子組換え)として2mg(0.05mL)を1ヵ月ごとに1回、連続3回(導入期)硝子体内投与する。その後の維持期においては、通常、2ヵ月ごとに1回、硝子体内投与する。なお、症状により投与間隔を適宜調節するが、1ヵ月以上あけ ること。 (以下省略)以上 (別紙)債権者製品目録 販売名アフリベルセプトBS硝子体内注射液40mg/mL「GRP」有効成分 1回の投与量(0.05mL)中アフリベルセプト(遺伝子組換え) [アフリベルセプト後続1] ※2mg1バイアル(0.278mL)中アフリベルセプト(遺伝子組換え)[アフリベルセプト後続1] ※11.12mg※:チャイニーズハムスター卵巣細胞を用いて製造される。 効能又は効果 ○中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性 ○網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫○病的近視における脈絡膜新生血管○糖尿病黄斑浮腫用法及び用量・中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性アフリベルセプト(遺伝子組換え)として2mg(0.05mL) を1ヵ月ごとに1回,連続3回(導入期)硝子体内投与する.その後の維持期においては,通常,2ヵ月ごとに1回,硝子体内投与する.なお,症状により投与間隔を適宜調節するが,1ヵ月以上あけること。 (以下省略) 以上 (別紙)関係法令等の定め 第1 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)1条1項により組み込まれた環太平洋パートナーシップ協定 第十八・五十三条特定の医薬品の販売に関する措置 1 締約国は、医薬品の販売を承認する条件として、安全性及び有効性に関する情報を最初に提出した者以外の れた環太平洋パートナーシップ協定 第十八・五十三条特定の医薬品の販売に関する措置 1 締約国は、医薬品の販売を承認する条件として、安全性及び有効性に関する情報を最初に提出した者以外の者が、以前に承認された製品の安全性又は有効性に関する証拠又は情報(例えば、先行する販売承認であって、当該締 約国によるもの又は他の国若しくは地域の領域におけるもの)に依拠することを認める場合には、次のものを定める。 (a) 当該最初に提出した者以外の者が当該承認された製品又はその承認された使用の方法が請求の範囲に記載されている適用される特許の期間中に当該医薬品を販売しようとしていることについて、当該医薬品が販売される 前に、特許権者に通知し、又は特許権者が通知を受けられるようにする制度(b) 特許権者が、侵害しているとされる製品の販売前に、(c)に規定する利用可能な救済手段を求めるための十分な期間及び機会(c) 承認された医薬品又はその承認された使用の方法が請求の範囲に記載さ れている適用される特許の有効性又は侵害に関する紛争を適時に解決するための手続(司法上又は行政上の手続等)及び迅速な救済措置(予備的差止命令又はこれと同等の効果的な暫定措置等) 2 締約国は、1の規定の実施に代えて、特許権者若しくは販売承認の申請者により販売承認を行う当局に提出された特許に関連する情報に基づき又は販 売承認を行う当局と特許官庁との間の直接の調整に基づき、当該特許権者の 承諾又は黙認を得ない限り、請求の範囲に記載されている特許の対象である医薬品を販売しようとする第三者に販売承認を与えない司法上の手続以外の制度を採用し、又は維持する。 第2 承認審査に係る医薬品特許情報の取扱いについて(平成6年10月4日薬審 る特許の対象である医薬品を販売しようとする第三者に販売承認を与えない司法上の手続以外の制度を採用し、又は維持する。 第2 承認審査に係る医薬品特許情報の取扱いについて(平成6年10月4日薬審 第762号厚生省薬務局審査課長通知) 医薬品の承認審査段階における特許情報の考慮については、平成5年5月「21世紀の医薬品のあり方に関する懇談会」報告において提言があったところであるが、医薬品の安定供給を確保する観点から先発品と後発品との特許抵触の有無 について確認するため、本年11月1日より下記により医療用医薬品に係る特許情報の収集等を行うこととしたので貴管下関係業者に対する指導方御配慮願いたい。 記 1 収集する特許情報の対象については、当面、既承認の医療用医薬品(体外診 断用医薬品を除く。以下同じ。)の有効成分に係る物質特許(ただし、特許期間が満了しているものを除く。)についての情報とすること。 2 上記1に係る特許権者(特許出願人)又は当該特許に係る成分を有効成分として医薬品の承認を取得している者は、再審査の調査期間終了前(既に再審査の調査期間が終了しているものであっても特許期間が満了していない場合には 本年12月末日まで)に、別紙の医薬品特許情報報告票に必要事項を記入し、当課あて直接提出すること。ただし、提出は任意とし、一般には公開しないものとする。 3 新有効成分含有医薬品の再審査の調査期間終了後に同一有効成分の医療用医薬品の製造(輸入)承認中請を行う者は、当該有効成分に係る物質特許の有無 及び物質特許がある場合には承認後速やかに製造又は輸入販売できることを示 す資料を添付すること。 第3 医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについ 質特許がある場合には承認後速やかに製造又は輸入販売できることを示 す資料を添付すること。 第3 医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて(平成21年6月5日医政経発第0605001号、薬食審査発第0605014号厚生労働省医政局経済課長・厚生労働省医薬食品局審査管 理課長通知) 医療用後発医薬品(以下、「後発医薬品」という。)の薬事法上の承認審査に係る特許情報については、平成6年10月4日付け薬審第762号審査課長通知「承認審査に係る医薬品特許情報の取扱いについて」に示したとおり、医薬品の 安定供給を図る観点から、承認審査の中で、先発医薬品と後発医薬品との特許抵触の有無について確認を行っているところである。 今般、後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて、下記のとおり定めたので、貴管下関係事業者に対し指導方、よろしくお願いいたしたい。 また、併せて、平成6年10月4日付け薬審第762号審査課長通知「承認審査に係る医薬品特許情報の取扱いについて」の一部改正を行うこととする。 記1.後発医薬品の薬事法上の承認審査にあたっては次のとおり取り扱うこと。なお、以下について、特許の存否は承認予定日で判断するものであること。 (1) 先発医薬品の有効成分に特許が存在することによって、当該有効成分の製造そのものができない場合には、後発医薬品を承認しないこと。 (2) 先発医薬品の一部の効能・効果、用法・用量(以下、「効能・効果等」という。)に特許が存在し、その他の効能・効果等を標ぼうする医薬品の製造が可能である場合については、後発医薬品を承認できることとすること。この場 合、特許が存在する効能・効果等については 等」という。)に特許が存在し、その他の効能・効果等を標ぼうする医薬品の製造が可能である場合については、後発医薬品を承認できることとすること。この場 合、特許が存在する効能・効果等については承認しない方針であるので、後 発医薬品の申請者は事前に十分確認を行うこと。 (3) …2.…3.その他(1) … (2) 平成6年10月4日付け薬審第762号審査課長通知「承認審査に係る医薬品特許情報の取扱いについて」は以下のアからコのとおり改正する。 ア記の1及び3中の「物質特許」を「物質特許又は用途特許」とする。 イ記の2の「本年12月末日まで」、「当課あて直接」をそれぞれ「特許期間満了まで」、「独立行政法人医薬品医療機器総合機構一般薬等審査部あて に」とする。 (以下省略)以上

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