主文 1 被告は,原告に対し,1959万8577円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを20分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,3億8647万8000円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,原告が,平成23年3月11日の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)の原発事故により,訴外A株式会社(以下「A」という。)の避難指示区域内に存する工場の操業が停止し,Aが製品を製造,販売できなくなったところ,これにより,Aとの間で独占販売契約を締結し,Aの製品を購入して,これを他社に転売するという業態で事業を行ってきた原告が,上記原発事故により,少なくとも平成28年11月30日までの逸失利益3億5147万8000円及び弁護士費用3500万円の合計3億8647万8000円の損害を被ったなどと主張し,原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)3条1項本文に基づき,被告に対し,上記損害金の賠償及びこれに対する上記原発事故の日である平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 これに対し,被告は,原告主張の損害と上記原発事故との間には相当因果関 係がないから,被告は損害賠償責任を負わないなどと主張している。 による遅延損害金の支払を求める事案である。 これに対し,被告は,原告主張の損害と上記原発事故との間には相当因果関 係がないから,被告は損害賠償責任を負わないなどと主張している。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後記各書証及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実。なお,書証番号は,特記のない限り,枝番号を含む〔以下同じ。〕。)(1) Aは,昭和21年に設立された,高純度化学薬品の製造販売等を目的とする株式会社であり,資本金の額は,1億5150万円である。 原告は,昭和45年に設立された,試薬,高純度特殊薬品の販売等を目的とする株式会社であり,資本金の額は,1080万円である。 被告は,電気事業等を目的とする株式会社であり,福島第一原発の発電用原子炉を設置する原子力事業者である。(甲1,3)(2) Aは,高純度化学薬品(リチウム電池用薬品,コンデンサ〔キャパシターともいう。以下同じ。〕用薬品,試薬及び原子力産業用薬品等)を生産し,部品メーカー等に販売する薬品メーカーである。部品メーカーは,薬品メーカー等から購入した高純度化学薬品等を用いてリチウム電池やコンデンサ等を生産し,これを自動車や電子機器等の応用製品を生産する応用製品メーカー等に販売する。この薬品メーカー,部品メーカー,応用製品メーカー等による製品とその生産の流れは,「サプライチェーン」と呼ばれる。 また,Aの製品のうち,リチウム電池用薬品やコンデンサ用薬品等は,部品メーカーとの間で事前に合意した厳密な規格に基づき生産されており,その規格については,Aと部品メーカー等との間で秘密保持契約を締結することもある。これらの製品は,「留め型製品」と呼ばれる。 原告は,A等から製品を購入し,同製品を,部品メーカーや取次商社に対して販売(転売)することを 品メーカー等との間で秘密保持契約を締結することもある。これらの製品は,「留め型製品」と呼ばれる。 原告は,A等から製品を購入し,同製品を,部品メーカーや取次商社に対して販売(転売)することを業としていた。Aから原告を介して部品メーカーに販売される留め型製品について,秘密保持契約が締結される場合には,原告も同契約の当事者となった。(甲44,45)(3) 原告は,平成5年2月23日,Aとの間で,Aが,原告に対し,Aの製品 の関西地区(名古屋以西を指し,中国・四国・九州地方を含む。以下同じ。)における独占販売権を付与すること,原告が,Aの製品と同種の製品を,A以外の者から調達し,販売しない義務を負うこと等を確認した。(甲7)(4) 平成23年3月11日,東北地方太平洋沖地震が発生し,同日,同地震に伴う津波等によって原子炉の冷却機能を喪失したことにより,福島第一原発の原子炉から大量の放射線物質が大気中に放出される事故(以下「本件原発事故」という。)が発生した。本件原発事故は,原賠法2条1項の原子炉の運転等の際に生じた事故である。 政府は,同日,本件原発事故の発生を受け,福島第一原発1号機の半径3km圏内の住民に避難命令を発したため,Aは,同日以降,避難命令区域内のB工場の操業を停止せざるを得なくなった。(甲11,33)(5) 原告は,平成23年6月,Aとの間で,原告とAとの独占販売契約を,同月末日をもって解約する旨合意した(以下「本件合意解約」という。)。(甲14)(6) Aは,平成24年4月23日,B工場に代わるC工場の操業を開始した。 (7) 原賠法18条1項に基づき設置された原子力損害賠償紛争審査会は,平成23年8月5日,同条2項2号の指針として,「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害 を開始した。 (7) 原賠法18条1項に基づき設置された原子力損害賠償紛争審査会は,平成23年8月5日,同条2項2号の指針として,「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下「中間指針」という。)を定めた。中間指針には,次のア,イのような定めがある。 ア営業損害従来,対象区域(避難区域,屋内退避区域,計画的避難区域等。以下同じ。)内で事業の全部又は一部を営んでいた者又は現に営んでいる者において,避難指示等に伴い,営業が不能になる又は取引が減少する等,その事業に支障が生じた場合,現実の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。 上記減収分は,原則として,本件原発事故がなければ得られたであろう収益と実際に得られた収益との差額から,本件原発事故がなければ負担していたであろう費用と実際に負担した費用との差額(本件原発事故により負担を免れた費用)を控除した額とする。 イ間接被害(ア) 「間接被害」とは,本件原発事故により上記アなどで賠償の対象と認められる損害(以下「第一次被害」という。)が生じたことにより,第一次被害を受けた者(以下「第一次被害者」という。)と一定の経済的関係にあった第三者に生じた被害を指す。間接被害を受けた者(以下「間接被害者」という。)の事業等の性格上,第一次被害者との取引に代替性がない場合には,間接被害は,本件原発事故と相当因果関係のある損害と認められる。相当因果関係のある間接被害の具体例としては,次のようなものがある。 a 事業の性質上,販売先又は調達先が地域的に限られている事業者の被害であって,販売先又は調達先である第一次被害者の避難,事業休止等に伴って必然的に生じたもの。 b 原材料やサービスの がある。 a 事業の性質上,販売先又は調達先が地域的に限られている事業者の被害であって,販売先又は調達先である第一次被害者の避難,事業休止等に伴って必然的に生じたもの。 b 原材料やサービスの性質上,その調達先が限られている事業者の被害であって,調達先である第一次被害者の避難,事業休止等に伴って必然的に生じたもの。 (イ) 中間指針は,上記(ア)bの類型について,事業者には,一般に,取引におけるリスクを分散する仕組みをあらかじめ講じておくことが期待されるため,「原材料やサービスの性質上,その調達先が限られている」場合とは,そのような事前のリスク分散が不可能又は著しく困難な場合,例えば,ある製品に不可欠な原材料が特殊な製法等を用いて第一次被害者で生産されているため,同種の原材料を他の事業者から調達することが不可能又は著しく困難な場合などが考えられる。この場合でも,一定 の時間が経過すれば,材料,サービスの変更をするなどして,被害の回復を図ることが可能であると考えられるため,賠償対象となるべき期間には限度があるとする。 3 争点及び争点に関する当事者の主張(1) 相当因果関係の有無(原告の主張)ア第一次被害者原告の前身である個人企業は,昭和26年にAの製品の関西地区における独占販売を目的として設立された企業であり,それ以来,昭和45年に法人化した後も,現在まで,関西地区でA製品の独占販売業務を続けてきた。このような設立の経緯及び独占販売の実態等に照らすと,原告はAの関西地区の販売部門であり,原告とAは,実質的には1つの企業体にほかならない。したがって,原告は,実質的には,本件原発事故により,直接,原子力損害を被った者(第一次被害者)であり,本件原発事故と原告の被った損害との間には,当然に相当因果関 的には1つの企業体にほかならない。したがって,原告は,実質的には,本件原発事故により,直接,原子力損害を被った者(第一次被害者)であり,本件原発事故と原告の被った損害との間には,当然に相当因果関係がある。 また,被告は,本件原発事故により,原告とAとの独占販売契約を長期にわたり履行不能とした。この行為は,積極的債権侵害であって,この点からみても,原告は,第一次被害者と同様に理解される。 イ間接被害者(ア) 判断の枠組み仮に,原告が,本件原発事故により直接原子力損害を被った者とはいえないとしても,原告は,AのB工場の操業不能によりAとの間の独占販売契約による業務ができなくなるとの損害を被った,間接被害者である。第一次被害者であるAと間接被害者である原告との間の取引に代替性がないのであれば,本件原発事故と原告が被った損害との間には相当因果関係が認められるというべきである。 ・民集22巻12号2614頁(以下「最高裁昭和43年判決」という。)が挙げた経済的一体性の要素は,交通事故による人身傷害事案において,会社幹部被害者と会社との企業内部関係を表現するために案出されたものであり,本件のような独占販売契約の取引関係に適用することは合理性を欠く。被告の主張に沿う他の裁判例も,本件に適切でない。 また,被告が,原発の安全性に関し,原発事故はあり得ないと虚偽の言動を行って,国民や原告を誤信させていたことなどからは,原告が事前に原発被害を予測して保険などのリスク回避的行動をとることは,不可能であった。 (イ) 取引の代替性の有無留め型製品であるというAの製品の性質,原告とAとの長年の独占販売関係,業界における薬品メーカーと商社等とのつながりという系列の存在等を考慮すると,原告とAとの間の取引には 替性の有無留め型製品であるというAの製品の性質,原告とAとの長年の独占販売関係,業界における薬品メーカーと商社等とのつながりという系列の存在等を考慮すると,原告とAとの間の取引には代替性がないから,本件原発事故と原告の被った損害との間には相当因果関係がある。 (ウ) 原告又はAの行為の介在原告又はAの行為の介在により相当因果関係が否定されるとの主張は争う。 特に,本件合意解約について,本件原発事故により,遅くとも平成23年3月末時点で原告の顧客の大部分が他の薬品メーカー等と取引を開始して新たなサプライチェーンを構築し,その後にAが新たな工場を操業しても,Aの競合他社に対する優位性は失われており,原告の顧客との間で,後日取引を再開する目処は全く立たない状況であった。したがって,同月末頃には,原告がAとの間で締結した独占販売契約に基づく業務を維持することは,事実上不可能となっていた。 Aは,原告の顧客と直接に協議して前記の新たなサプライチェーンを 構築し,原告には協議の結果すら伝えないことがほとんどであったから,原告において将来の見通しを持つことが,極めて困難であった。Aは,原告に対し,新工場の建設計画等の情報を,一切提供しなかった。 以上により,原告とAが締結していた独占販売契約は,Aの履行不能により完全に形骸化していた。 しかも,Aは,原告に対し,売掛金を約定どおり支払うよう請求した。 従前であれば,原告の顧客に対する売掛金債権を回収して容易に返済できる額であったが,原告は,本件原発事故によりB工場が操業を停止したため今後の売上げを見込めなくなり,Aに対する支払に窮し,Aに差し入れていた保証金と相殺せざるを得なくなった。 原告 きる額であったが,原告は,本件原発事故によりB工場が操業を停止したため今後の売上げを見込めなくなり,Aに対する支払に窮し,Aに差し入れていた保証金と相殺せざるを得なくなった。 原告は,以上の状況に直面し,本件合意解約を余儀なくされた。 本件原発事故による原告の損害は,独占販売契約に基づく業務の維持が困難になったことであり,これは,遅くとも,前記新たなサプライチェーンが構築された平成23年3月末頃までには,確定的に発生した。 本件合意解約が損害を拡大させたのではない。 (被告の主張)ア第一次被害者否認し争う。 原告は,Aとは形式的にも実質的にも別個の法人であり,直接原子力損害を被った者に当たらない。 イ間接被害者否認し争う。 (ア) 判断の枠組み本件における相当因果関係の有無は,第一次被害者と間接被害者との間の取引に代替性があるか否かという判断基準ではなく,最高裁昭和43年判決等の法理により,判断されるべきである。すなわち,最高裁昭 和43年判決等は,間接損害の賠償一般につき,賠償を広く認めると,損害賠償の範囲が無限に広がってしまい,加害者の予測を超えた著しく酷な結果となることを考慮し,第一次被害者と間接被害者の経済的一体性やリスク軽減措置の有無を基準として,極めて限定的に解した判決であるところ,その法理は,本件にも妥当する。 (イ) 経済的一体性及びリスク軽減措置の有無そこで,本件に最高裁昭和43年判決等をあてはめると,原告とAは,別個の法人として,それぞれの代表者や意思決定機関が別個独立に事業を行っており,親子関係や連結決算等の事情もなく,経営成績が完全に同一歩調で推移しているといった事情もない上,Aが,本件原発事故後,原告を意図的に排除 それぞれの代表者や意思決定機関が別個独立に事業を行っており,親子関係や連結決算等の事情もなく,経営成績が完全に同一歩調で推移しているといった事情もない上,Aが,本件原発事故後,原告を意図的に排除したとみられること,本件合意解約の存在等も考慮すると,両者に経済的一体性がないことは,明らかである。また,原告は,損害保険契約を締結する等,Aが不時の災害を受けても原告の事業に支障が生じないようにするためのリスク分散措置をとっていなかった。これらの事情を考慮すると,本件原発事故と原告主張の損害との間の相当因果関係は,認められない。 (ウ) 取引の代替性の有無仮に,第一次被害者と間接被害者との間の取引に代替性がなければ間接損害の賠償が認められるとしても,次のa~cのとおり,原告とAとの間の取引には代替性がある。 aAの製品は留め型製品であるが,原告は,B工場が操業を停止しても,AがD工場で代替生産したり,原告又はAが同種製品を仕入れたりすることにより,従前の取引を維持することができた。Aは,本件原発事故後,現にこうした対応をとっている。Aが製品を供給できないのであれば,原告がAのみから製品を仕入れるという独占販売契約は,無効であるから,原告は,他の業者から製品を仕入れることがで きたはずである。 b 原告がAと独占販売契約を締結したことは,リスクを分散させないという原告の経営判断である。原告は,自らの経営判断に伴うリスクによって生じた損害を甘受すべきである。 c 原告の主張する業界における系列は,どの業界にも存在し,取引の代替性を否定する要素にならない。 (エ) 原告又はAの行為の介在による相当因果関係の否定原告が主張する損害は,次のa~cの原告又はAの行為により発生 の業界にも存在し,取引の代替性を否定する要素にならない。 (エ) 原告又はAの行為の介在による相当因果関係の否定原告が主張する損害は,次のa~cの原告又はAの行為により発生したのであり,本件原発事故と原告主張の損害との間の相当因果関係は,認められない。 a 原告自身,自らの経営判断として,本件合意解約をした。 bAが,A以外のメーカーの製品を,原告を通さず,直接に原告の納入先に納入したという,独占販売契約上の債務不履行行為が介在している。 c 原告は,上記bのようなAの違法行為を認識しながら,その経営判断により,これを黙認した。 (2) 相当因果関係の範囲(原告の主張)ア主位的主張原告は,本件原発事故がなければ,少なくとも平成28年11月30日まで,約5年9か月間,本件原発事故以前と同様の収入が得られた蓋然性が高い。したがって,同日までの間に得られるはずであった利益(逸失利益)全額について,相当因果関係が認められる。 前記(1)(原告の主張)イ(ウ)のとおり,この損害は,平成23年3月末までに確定的に発生しており,本件合意解約は,損害を拡大させていない。 原告は,Aの製品を顧客に販売し,あるいは新たな顧客を獲得する営業 活動を行うことのみを業務とする会社であり,Aの製品の供給を受けることが不可能となって廃業した以上,原告が新たに転業することは観念できないから,相当因果関係の範囲を,転業できるときまでの逸失利益とするのは,相当でない。 イ予備的主張仮に,本件合意解約によって,原告の損害が拡大したとしても,本件原発事故により原告に通常生じると想定される損害,すなわち本件合意解約がなかったとしても でない。 イ予備的主張仮に,本件合意解約によって,原告の損害が拡大したとしても,本件原発事故により原告に通常生じると想定される損害,すなわち本件合意解約がなかったとしても原告に生じたと考えられる損害と本件原発事故との間には,相当因果関係が認められる。 原告は,本件原発事故により,①B工場の操業停止に伴う販売機会の喪失(以下「損害①」という。)及び②部品メーカーがサプライチェーンを維持するために,薬品メーカーをAから別の薬品メーカーに変更したことによる販売機会の喪失(以下「損害②」という。)の各損害を被った。 損害①については,本件合意解約がなければ,C工場において生産能力を一応回復すれば,原告の販売機会の喪失も一応回復したといいうるから,平成23年3月11日からB工場に代わるC工場が従前の生産能力を一応回復した時期(平成24年4月30日)まで損害が発生する。 損害②については,Aが従前の生産能力を回復したとしても,一旦他の薬品メーカーと新たなサプライチェーンを構築した従前の取引先が,原告との取引を直ちに再開するとは考えられないことから,少なくとも平成24年5月1日から平成28年11月30日までの間(55か月間),損害が発生する。そして,損害②は,Aのシェア低下と売上げ喪失に連動するところ,Aの平成22年11月期の売上高と平成25年11月期の売上高を比較すると,売上高の減少率は57%に達しており,原告にも同様の割合で減収が生じたと考えられる上,粗利も売上高に比例して減少したものと考えられる。 ウ損害軽減等義務について争う。 被告は,原発事故はあり得ないとして原子力発電所の運転をしてきたのであり,一定の確率で生じる交通事故とは異なり,危険回避を求め得る立場にないから 害軽減等義務について争う。 被告は,原発事故はあり得ないとして原子力発電所の運転をしてきたのであり,一定の確率で生じる交通事故とは異なり,危険回避を求め得る立場にないから,本件の原告は,信義則上,損害軽減義務ないし損害拡大防止義務(以下「損害軽減等義務」という。)を負わない。 最高裁平成19年(受)第102号同21年1月19日第二小法廷判決・民集63巻1号97頁は,対等当事者の契約法理には妥当しても,経済的不法行為には妥当しない。 本件合意解約については前記(1)(原告の主張)イ(ウ)のとおりであるし,原告が新たな事業を行うことは,困難である。 (被告の主張)主位的主張及び予備的主張のいずれも否認し争う。 仮に,本件原発事故と原告の被った損害との間に相当因果関係が認められるとしても,これが認められる期間は,本件原発事故後長くても数ヶ月間に限られる。 すなわち,原告は,信義則上,損害軽減等義務を負うところ,次のア~ウの事情を考慮すると,原告が,損害を回避又は減少させる措置を執ることができなかった時期は,本件原発事故後長くても数ヶ月間である。 ア原告は,本件原発事故後,自らの経営判断に基づき本件合意解約をした。 しかし,Aの製品の仕様全てが競合メーカーに開示されたわけではなく,一旦商流が変更されても,Aが生産能力を回復すれば,バージョンアップ等の機会に,原告にはAの製品に関し取引再開や取引拡大の可能性があったこと,原告がAに差し入れた5000万円の保証金のうち3600万円は売掛金と相殺されずに原告に返還されたこと等からは,原告が本件合意解約をしなければ,原告主張の損害の拡大は防止できた蓋然性が高い。 イ Aは,原告に対し,関西地区における独占販売権を与 売掛金と相殺されずに原告に返還されたこと等からは,原告が本件合意解約をしなければ,原告主張の損害の拡大は防止できた蓋然性が高い。 イ Aは,原告に対し,関西地区における独占販売権を与えていたにもかかわらず,本件原発事故後,原告の取引先に対し,他の薬品メーカーの製品を,原告を介さずに販売し,原告の独占販売権を侵害した。これにつき,原告は,Aに厳重に抗議するどころか,これを許容し,損害の拡大を招いた。 ウ原告は,平成23年12月以降,事業を放棄して休眠状態となり,損害の拡大を招いた。 (3) 損害額の算定(原告の主張)ア逸失利益逸失利益は,得られるはずであった売上高から支出を免れた変動費を控除して算定される。 仕入業者である原告の変動費は売上原価(仕入高)のみであるから,原告の被った逸失利益は,売上高から仕入高を控除した粗利益である。 (ア) 主位的主張逸失利益は,次のa及びbの合計3億5147万8000円である。 a 平成23年3月11日から同年11月30日まで原告の平成23年11月期(「期」は,前年の12月1日から当年の11月30日までの期間を指す。以下同じ。)の粗利益(2268万8000円)と,過去3年間(平成20年~平成22年の各11月期)の平均粗利益(年額6236万1000円)の差額合計3967万3000円6236万1000円-2268万8000円=3967万3000円b 平成23年12月1日から平成28年11月30日まで過去3年間(平成20年~平成22年の各11月期)の平均粗利益(年額6236万1000円)の5年分 6236万1000円×5年=合計3億1180万5000円(イ) 予備的主張逸失利益は,次のa及びbの合 年~平成22年の各11月期)の平均粗利益(年額6236万1000円)の5年分 6236万1000円×5年=合計3億1180万5000円(イ) 予備的主張逸失利益は,次のa及びbの合計2億2857万5000円である。 a 損害①の額平成23年3月11日から同年11月30日までの間に被った3967万3000円と,同年12月1日から平成24年4月30日までの間に被った2598万4000円(≒年額6236万1000円×5/12)の合計6565万7000円b 損害②の額1億6291万8000円(≒年額6236万1000円×0.57×55/12)イ弁護士費用3500万円(被告の主張)主位的主張及び予備的主張のいずれも否認し争う。 損害の算定にあたっては,売上高から変動費を控除すべきであり,この変動費は,売上げ減少に伴い自動的に削減されるべきもののほか,削減の必要があるか,削減が想定される費用も含むというべきである。 原告の平成23年11月期における役員及び従業員給与の支払額,退職金,減価償却費,地代家賃及びリース料のみが固定費であり,売上原価,役員及び従業員給与の差額分,退職共済掛金,福利厚生費,旅費交通費,通信費,交際費,保険料,水道光熱費,消耗品費,租税公課,支払手数料,会費会議費及び雑費は,いずれも変動費である。保険料については,原告役員を被保険者とする生命保険契約を解約し,その返戻金を取引先への支払に充当したのであれば,固定費としてよい。 原告は,平成21年11月期及び平成22年11月期に相当額の営業損失 を計上したから,通常に営業したとしても,粗利益相当額が原告の手元に残るとは,到底考えられない。 (4) 過失相殺の可否(被告 1年11月期及び平成22年11月期に相当額の営業損失 を計上したから,通常に営業したとしても,粗利益相当額が原告の手元に残るとは,到底考えられない。 (4) 過失相殺の可否(被告の主張)仮に,本件原発事故と原告の被った損害との間に相当因果関係があるとしても,原告の損害軽減等義務違反の事情等を斟酌して,過失相殺されるべきである。 (原告の主張)否認し争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実証拠(甲44,45のほか後記各書証,証人E,原告代表者F。ただし,後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 原告の設立経緯等Aは,昭和21年,Gが東京で設立した,高純度化学薬品等の生産販売を目的とする株式会社である。 H商会(個人企業)は,昭和26年,Aの当時の代表取締役であったGが,化学薬品を扱う会社で取締役を務めていたI(Eの義父)に対し,Aの製品の関西地区における営業,販売を依頼したことをきっかけとして,Iが,同年6月,Aの製品を関西地区において独占的に販売することを目的として設立した商会である。その後,Iは,昭和45年4月1日,H商会を法人化して原告を設立し,自ら代表取締役に就任した。原告の設立後も,Aの製品を関西地区において独占的に取り扱うという業務実態に変化はなかった。(甲1,3,6,34)(2) 平成5年2月23日における覚書の作成 Iは,平成4年,原告の代表取締役を退任し,Eが代表取締役に就任した。 このとき,原告が,Iに支払った役員退職金6900万円を損金計上したため,原告の同年11月期の決算が赤字となり,債務超過となった。Aは,これを非常に問題視し,原告に対し,経営の合理化と黒字転換を要求した。原告は,Aと協議を重ね 役員退職金6900万円を損金計上したため,原告の同年11月期の決算が赤字となり,債務超過となった。Aは,これを非常に問題視し,原告に対し,経営の合理化と黒字転換を要求した。原告は,Aと協議を重ね,平成5年2月23日,両者の関係を明確化するとともに,原告が財務状況の改善を約する趣旨で,覚書(甲7,以下「本件覚書」という。)を作成した。その内容の要旨は,下記のとおりである。そして,原告は,Aに対し,本件覚書5条2項に基づき,売掛金債務の担保として,保証金5000万円を差し入れた。 記1条 Aは,原告に対し,Aの製品の関西地区における独占販売権を従前どおり付与し,原告は,Aの製品と同種の製品を,A以外のメーカーから仕入れて販売しない。 2条 A及び原告は,Aの製品の販売拡大のため,相互に協力し,常に一体感の精神で支援し合う。また,Aの製造する特殊薬品の販売を業務とする原告は,将来に向けて原告自身に所属するセールスエンジニア及びスタッフの充実に努力する。 4条原告は,取得利益をもって社内留保の強化に努め,資金力の増加によってAに資金依存する体質から脱却するよう努力する。 金利負担の平等の見地から,代価が回収できてからAに決済するという,資金運用体質の改善によって,Aの複雑な財務管理を簡素化できるよう協力する(具体的には,本件覚書上,J〔K株式会社(以下「K」という。)〕につき,納品20日締切り,翌月20日現金回収後,直ちにAの口座に現金で振り込むこと,L株式会社(以下「L」という。)につき,納品20日締切り,翌月15日現金回収後,直ちにAの口座に現金で振り込むこととされ,その他,原告からの納入先が振り出した約束手形に原告が裏書し てAに譲渡する納入先や,原告がAに対して毎月の締め日から約半年後を 翌月15日現金回収後,直ちにAの口座に現金で振り込むこととされ,その他,原告からの納入先が振り出した約束手形に原告が裏書し てAに譲渡する納入先や,原告がAに対して毎月の締め日から約半年後を支払期日として仕入代金相当額の約束手形を振り出すとされた納入先もある。)。 原告は,企業体の健全化に経営方針を傾斜させ,節税に主眼を置く方針から転換するよう励むものとする。 5条原告は,黒字転換するまでの特別措置として,次の措置を実施する。 1項 Aの原告に対する売掛金債権を担保するために,原告代表者の個人所有の土地及び建物に対し,限度額5000万円の担保権を設定する。 2項原告は,Aに対し,同社に対する売掛金債務の担保として,保証金5000万円を差し入れる。この担保は,原告の黒字転換後も継続する。 なお,この保証金について生じた利息は,原告に帰属する。 4項原告は,平成5年度の給与総額につき,従業員のベアによる増加を除き,3240万円以下とするよう努力する。 5項原告は,Aに対し,年1回の決算書のほか,中間決算書を提供する。 6条 A及び原告は,原告がAの製品販売から得られる利益で成り立っており,原告のAに対する依存度は極めて高く,Aと原告を一体のものと認識する。また,それゆえ,A及び原告の取締役の年収,月報酬及び役員報酬の合計金額は,整合性を保つ必要があり,整合性の喪失は,一体感の喪失につながるものと認識する。(甲7)(3) 原告とAとの間の役員,株式の関係等原告の設立以来,Aの代表取締役は原告の取締役を兼任することが慣例となっており,歴代のAの代表取締役であるG及びMは,本件原発事故以前,原告の取締役に就任していた。もっとも,原告の本件原発事故当時の取締役は,E,F(Eの子 締役は原告の取締役を兼任することが慣例となっており,歴代のAの代表取締役であるG及びMは,本件原発事故以前,原告の取締役に就任していた。もっとも,原告の本件原発事故当時の取締役は,E,F(Eの子),N(Eの妻),P(Fの妻),Mの5名であり,そのうち実際に原告の業務を行っていたのは,E及びFのみであった。 また,Aは,本件原発事故当時,原告の発行済株式の約6.7%にあたる 1440株を,原告は,本件原発事故当時,Aの発行済株式のうち3万株以上を,それぞれ保有していた。(甲1,3,33,46)(4) A及び原告の本件原発事故当時の業務内容ア Aは,世界でも有数の高純度化学薬品メーカーであり,高い技術力を有し,国内での競業他社が限られる。Aは,本件原発事故当時,生産設備並びに薬品の検査及び解析設備として,福島県にB工場を,埼玉県にD工場を,それぞれ有していた。本件原発事故当時,主たる生産拠点はB工場であり,D工場には原子力,触媒,半導体分野の生産設備の一部と研究開発部門が置かれていた。(甲4,5,9,27~30,33,34,37)イ原告は,設立以来,自前の生産設備も薬品の検査及び解析設備も有しておらず,Aをはじめとする薬品メーカーの製品を,商社を介し又は介さずに,関西地区の部品メーカー等に販売することを業としており,Aの会社案内(甲4)や製品カタログ(甲5)には,Aの本社工場や事業部門の記載と並んで「関西地区販売会社」として原告の名称が記載されていた。なお,その他の地域への販売は,原告を介さず,A自身が担当していた。(甲4,5)(5) リチウム電池用薬品についてアリチウム電池電解液は,リチウム電池の生産に用いられる薬品である。 リチウム電池は,ノートパソコンや携帯電話,液晶ディスプレイ,電 ていた。(甲4,5)(5) リチウム電池用薬品についてアリチウム電池電解液は,リチウム電池の生産に用いられる薬品である。 リチウム電池は,ノートパソコンや携帯電話,液晶ディスプレイ,電気自動車等に幅広く利用されるものである。なお,リチウム一次電池は,充電不可能な電池であり,同二次電池は,充電可能な電池である。 Aは,1970年代からリチウム一次電池電解液の研究開発を始め,開発に成功し,平成2年には,リチウム二次電池電解液の開発に世界で初めて成功した。 Aは,本件原発事故によるB工場の操業停止まで,リチウム電池電解液の全てをB工場で生産していた。 ある調査は,Aを,リチウム二次電池電解液に関し,平成21年の生産量でみれば,国内第3位,世界第4位(シェア率15.4%)の大手メーカーと位置づけている。この調査は,幅広く情報を収集し,Aの売上高の推移等,B工場の停止やC工場の操業等の事実に符合しており,数字をそのまま採用できない部分はあるとしても,業界の動向を概ね正しく表しているといえる。 リチウム二次電池電解液業界は,本件原発事故当時,大幅な拡大傾向にあった。Aも,平成22年11月までにリチウム電池電解液の増産を目的としたB工場の設備工事を完了し,平成23年度は生産量及び売上高の前年度比の増加を見込んでいた。電解液は,発火の可能性などの弱点も有し,改善のためのバージョンアップもされる。もっとも,本件原発事故当時,リチウム電池電解液の旺盛な需要を見越した他業界からの新規参入も盛んとなり,中国等外国のメーカーが売り上げを伸ばすなど,国内外のメーカーによる競争は,熾烈さを増していた。(甲4,5,33,37~39)イ原告の本件原発事故当時のリチウム電池電解液の主要な販売先は,L,株式会社Q(以下「Q」という。 すなど,国内外のメーカーによる競争は,熾烈さを増していた。(甲4,5,33,37~39)イ原告の本件原発事故当時のリチウム電池電解液の主要な販売先は,L,株式会社Q(以下「Q」という。)及びR株式会社(R’株式会社に対する取引を含む。以下「R」という。)であり,平成22年11月期における上記三社へのリチウム電池電解液の売上高(4億8104万1765円=3億8112万8240円+3545万2150円+6446万1375円)が全売上高に占める割合は,52.7%(=4億8104万1765円÷9億1314万4933円。小数第2位を四捨五入。)に上っていた。 原告は,平成13~17年に,上記三社との間で秘密情報を第三者に開示,漏洩しないこと等を内容とする取引基本契約をそれぞれ締結しており,本件原発事故当時も,その効力を失わせるような措置は,執られていなかった。そのため,本件原発事故当時の原告は,本件原発事故によりAから リチウム電池電解液の製品供給を受けられなくなったとの一事から,直ちに他のメーカー等による代替品の供給を受けることは,困難な状況にあった。(甲9,27~30)ウ Aは,本件原発事故によりB工場の操業ができなくなり,かつ,D工場にはリチウム電池電解液の生産設備がなかったため,本件原発事故後,リチウム電池電解液を生産できなくなった。 原告は,Lとの間においては,リチウム一次電池電解液について,本件原発事故以前には,毎月1000万円程度の売上げがあったものの,本件原発事故後には,少数の他社製品をAから購入して転売することができたにとどまり,売上額も毎月100万円~200万円程度にとどまった。また,L向けのリチウム二次電池電解液について,本件原発事故以前は,多い月で約3000万円程度もの売上げが 入して転売することができたにとどまり,売上額も毎月100万円~200万円程度にとどまった。また,L向けのリチウム二次電池電解液について,本件原発事故以前は,多い月で約3000万円程度もの売上げがあったものの,本件原発事故後は,Aの担当者が,原告を介さず直接連絡を取った結果,他の薬品メーカーの製品を供給することとなり,原告の介在する取引は,なくなった。 原告とQ及びRとの間においては,本件原発事故以前は,リチウム二次電池電解液を継続的に販売していたものの,本件原発事故後は,一部について他社製品を転売することができたにとどまり,その他の製品の取引は,なくなった。(甲26)(6) コンデンサ用薬品についてアコンデンサ用薬品は,コンデンサの電気特性を左右する高純度電解質である。コンデンサは,家電製品から航空機に至るまで,あらゆるエレクトロニクス製品に用いられる部品である。Aは,国内屈指の電解質メーカーとして,コンデンサ用の高純度電解質を生産していた。 本件原発事故当時の原告のコンデンサ用薬品の主要な販売先は,K,S及びTであった。平成22年11月期においては,上記三社へのコンデンサ用薬品の売上高は,約1億5000万円であり,総売上高約9億131 4万円の約16%を占めていた。うち,Kに対するA製品の売上げは,1億円近く,その8割以上は,B工場で生産される製品であった。(甲2,4,5,26,33)イ本件原発事故によるB工場の操業停止により,原告と前記三社との間の取引のうち,B工場で製造していた製品の売買がなくなり,D工場の製品の売買が若干継続したにとどまったが,Kは,一部のD工場製品についてもAとの取引をやめた。前記三社とも,B工場で製造していた製品については,A以外のメーカーの製品を仕入れる がなくなり,D工場の製品の売買が若干継続したにとどまったが,Kは,一部のD工場製品についてもAとの取引をやめた。前記三社とも,B工場で製造していた製品については,A以外のメーカーの製品を仕入れるようになり,Kは,Aが他社製品を仕入れて転売しようとした製品についても,A及び原告に発注しなくなった。原告もまた,そのような転売では利益が得られないから取引を続ける意味は乏しいと考えた。なお,A自身の取引先に対するコンデンサ用薬品の供給については,D工場での代替生産を直ちに開始し,かつ,休日返上で最大限の対応を行った結果,全ての取引先に対し,約定期日に約定の製品が供給され,取引先の工場の操業停止を免れた。(甲26,33)(7) 原子力産業用薬品についてア原告は,Aが製造する原子力産業用薬品を販売しており,その半分程度は,B工場で生産していた原子力発電所の原子炉用高純度ホウ酸(以下「Uホウ酸」という。)である。 Uホウ酸は,本件原発事故当時,国内の多くの加圧水型原子炉で使用されており,原告は,関西地区で加圧水型原子炉を有する全電力会社(U1株式会社,U2株式会社,U3株式会社及びU4株式会社)に対し,商社を介するなどして,長年にわたり,Uホウ酸を販売していた。各電力会社では,厳格な品位基準を設けており,それらの基準に適合しうるホウ酸を生産していたのは,A以外には世界的にも2社(イタリアの会社及びフランスの会社。以下,両社の製品をそれぞれ「イタリア社製品」,「フランス社製品」という。)のみであった。そして,U4株式会社は,平成19年に 原子炉用ホウ酸の代替品の調査を行い,その際に品位基準を満たしたイタリア社製品(原告以外の商社が取り扱っていた。)を,Uホウ酸の代替品としてリストアップしていた。 原告におけるUホウ酸の 原子炉用ホウ酸の代替品の調査を行い,その際に品位基準を満たしたイタリア社製品(原告以外の商社が取り扱っていた。)を,Uホウ酸の代替品としてリストアップしていた。 原告におけるUホウ酸の売上高は,平成22年11月期で合計3466万9220円であった。(甲17,26)イ原告は,本件原発事故後,B工場でUホウ酸を生産,出荷できず,D工場での生産もできないため,多大の労力を費やし,代替品としてフランス社製品を輸入して供給したが,やがて,U1株式会社がフランス社製品につき品位基準を満たさないと判断したことなどから,他の商社が輸入するイタリア社製品が優勢となり,平成23年7月以降,Uホウ酸及びその代替品の取引は,なくなった。(甲17,26)(8) 試薬等その他の原告の販売品についてア試薬は,医薬品及び新素材の開発及び実験に不可欠な薬品である。Aは,日本工業規格で標準物質(化学反応の基準となる薬品のこと)と定められた11品目のうち3品目を製造していた(なお,原告がV1及びV2向けに納入していたとする試薬が,Aの独占製品であったことを認めるに足りる的確な証拠はない。)。原告は,本件原発事故以前,原告の販売先に対し,B工場製の試薬等を,継続的に販売してきたものの,それらの取引は,本件原発事故後にはなくなった。(甲4,5,7,26)イ原告が販売する製品には,Aが製造する前記(5)~(7)及び(8)ア以外の製品並びにA以外の業者から仕入れた製品があったが,業者の中には,原告がAとの取引をやめたことから,原告の信用に不安を感じ,原告に製品を卸さなくなったものもあった。(甲26)(9) 本件合意解約の経緯及びその後の状況等ア Aは,遅くとも本件合意解約時までには,B工場に代わる新工場の建設計画を立てていた。 を感じ,原告に製品を卸さなくなったものもあった。(甲26)(9) 本件合意解約の経緯及びその後の状況等ア Aは,遅くとも本件合意解約時までには,B工場に代わる新工場の建設計画を立てていた。原告は,本件合意解約以前に,Aに対し,B工場に代 わる新工場の建設計画の有無,計画内容等について,再三再四問い合わせたものの,Aは,原告に対し,計画の有無すら明確に回答しなかった。 また,平成23年3月末時点において,原告のAに対する買掛金債務は,約束手形による支払を含めて約1億8500万円に上っており,原告は,債務超過ではないが,取引先に対する納入済の商品に関する売掛金の回収のみでは前記買掛金債務を支払えない状況にあった。原告は,Aに対し,前記買掛金債務の支払猶予を嘆願したものの,Aは,原告に対し,約定どおりの履行を求めた。(甲2,33)イ平成23年6月頃,原告は,将来の収益見通しが立たないことやAに対する買掛金債務の履行が困難となっていること等を踏まえ,Aとの独占販売関係の解約を決めた。 原告は,同月,Aとの間で,原告とAとの独占販売契約を同月末日の経過をもって解約する旨合意し(本件合意解約),原告の同年7月以降のA製品に関する受注分はAにほぼ引き継ぎ,原告がAに差し入れた保証金及びその利息(前記(2)参照)は前記買掛金債務と対当額で相殺し,原告の事業を終了させることとした。(甲14)ウ原告は,平成23年7月頃,Aとの取引を終えた。 その後,原告は,平成24年6月頃まで,A以外の会社との間で,A以外の製品に関し,従前からの取引をわずかに続けたのみで,新たな取引や事業を開始することはなかった。 原告は,平成23年6月及び同年9月に,2名いた事務担当従業員をそれぞれ1名ずつ解雇した。また,Eは,同年12月15日,原 の取引をわずかに続けたのみで,新たな取引や事業を開始することはなかった。 原告は,平成23年6月及び同年9月に,2名いた事務担当従業員をそれぞれ1名ずつ解雇した。また,Eは,同年12月15日,原告の代表取締役を退任した。 原告は,販売先からの売掛金の回収,役員を被保険者とする生命保険の解約や役員からの借入等により資金をねん出し,Aに対し,買掛金債務の相当部分を支払った。Aは,平成24年1月下旬頃になって,ようやく, 原告から受領していた保証金及びその利息の合計約5300万円と原告に対する売掛金債権(原告からみれば,前記買掛金債務)等とを対当額で相殺し,原告に対し,残額約3600万円を返還した。 原告とAの株式の相互持合い関係は,弁護士に委任しての交渉を経て,平成24年10月頃,相手方の保有する株式をそれぞれ買い取り解消した。 (甲26,46)エ前記ア~ウに関し,原告は,平成22年11月期及び平成23年11月期末,次のとおり資産及び負債を有していた。これらの資産及び負債は,前記各期末の資産及び負債総額の,それぞれ大半を占める。 平成22年11月期平成23年11月期買掛金 1億0084万4246円 1619万5626円支払手形 1億3502万3311円 1551万3437円借入金 1億3618万5000円 1億4856万9000円売掛金 5671万3384円 91万3018円受取手形 9305万6802円 196万8435円貸付金 3692万2428円 3692万2428円預金 7708万9425円 8154万9551円現金 02円 196万8435円貸付金 3692万2428円 3692万2428円預金 7708万9425円 8154万9551円現金 25万9597円 21万6799円投資有価証券 705万1675円 705万1675円差入保証金 5214万9216円 5274万9216円保険積立金 7018万9656円 1737万7232円(甲2,33)(10) C工場の建設等ア Aは,平成23年7月26日,B工場に代わる新工場の建設用地を購入し,同年8月10日,新工場となるC工場の建設を公表した。その計画では,C工場は,平成24年4月に稼働を開始し,稼働当初の生産能力は, B工場の8割程度となる予定であった。(甲12)イ Aは,平成24年4月23日,C工場の操業を開始し,リチウム電池電解液,コンデンサ用薬品等の生産を開始した。Aの平成21年から平成24年までの間のリチウム二次電池電解液の生産量及び売上高は,平成23年には,前年までの水準より大幅に減少し,平成24年には,平成23年に比べてかなり増加したものの,平成22年までの水準には大きく及ばなかった。(甲33,37~39)(11) Aの経営状況Aの平成20年~平成25年の各11月期の売上高,営業利益,経常利益及び純益は,それぞれ次表のとおりであった(百万円未満切捨て)。 平成20年11月期平成21年11月期平成22年11月期平成23年11月期平成24年11月期平成25年11月期売上高 81億1000万円55億3800万円77億0800万円48億8 年11月期平成23年11月期平成24年11月期平成25年11月期売上高 81億1000万円55億3800万円77億0800万円48億8600万円39億4300万円33億1700万円営業利益13億4100万円5億8600万円12億6500万円4億6800万円-6億7700万円-8億4600万円経常利益14億3400万円5億8900万円12億9300万円5億2900万円-6億9100万円-6億8100万円純益8億1600万円3億0800万円7億7100万円-4700万円2億4000万円不明平成23年11月期に売上高が大きく落ち込んだ理由は,本件原発事故によるB工場の操業停止の影響のほか,同年秋頃のタイの洪水被害,欧州にお ける債務危機の深刻化及び歴史的な円高による世界的な需要急減の影響もあった。(甲33,34)(12) 原告の経営状況ア原告の平成20年~平成24年の各11月期の売上高,仕入高,粗利益,販売費及び一般管理費(以下「販管費」という。)並びに営業利益は,それぞれ次表のとおりであった(平成22年11月期の売上高及び仕入高以外は,1万円未満切捨て。)。 平成20年11月期平成21年11月期平成22年11月期平成23年11月期平成24年11月期売上高 12億8193万円8億1979万円9億1314万4933円3億1924万円約650万円仕入高 12億0046万円7億6763万円8億5969万2224円2億9655万円不明粗利益 9億1314万4933円3億1924万円約650万円仕入高 12億0046万円7億6763万円8億5969万2224円2億9655万円不明粗利益 8146万円5216万円5345万円2268万円不明販管費 7193万円6854万円6578万円4986万円不明営業利益953万円 -1638万円-1233万円-2717万円不明原告の平成23年11月期の売上高のうち,平成22年12月~平成23年2月の売上高は,1億5966万円,同年3月の売上高は,3079万円,同年4月~同年11月の売上高は,1億2878万円であった(1万円未満切捨て。なお,同年3月の売上高を,本件原発事故日を境に,日数で按分すると,同年3月1日から同月10日までの売上高が993万円, 同月11日から同月31日までの売上高が2086万円となる。)。 また,原告の平成24年11月期の売上高について,原告は,平成23年12月から平成24年6月頃までの間に約650万円を売り上げ,同年7月頃以降は休眠状態にある。(甲2)イ原告の平成22年11月期及び平成23年11月期における販管費の内訳は,次表のとおりであった。(甲2) 平成22年11月期平成23年11月期給与手当3562万5000円2604万0000円退職共済掛金144万0000円42万0000円退職金 53万0000円福利厚生費353万2183円312万4087円旅費交通費463万3589円520万0081円通信費126万1989円107万9312円交際費235万0722円126万1578円減 83円312万4087円旅費交通費463万3589円520万0081円通信費126万1989円107万9312円交際費235万0722円126万1578円減価償却費7万6476円5万5388円地代家賃208万7282円218万2860円保険料428万3432円173万1185円水道光熱費33万9793円11万0198円消耗品費324万6390円133万7654円租税公課43万1836円29万9035円リース料335万2800円317万7000円支払手数料80万0000円129万9000円会費会議費219万2036円122万5042円雑費13万2194円79万3812円合計6578万5722円4986万6232円 ウ原告の平成22年11月期及び平成23年11月期におけるA製品及びそのうちB工場製品の売上高は,それぞれ次のとおりであった(1万円未満切捨て。なお,前者が上段の数字,後者が下段の数字であり,かっこ内の割合は,原告の総売上高に占める割合で小数第2位を四捨五入したものである。)。(甲2,26)平成22年11月期 8億7076万円(95.4%)7億4114万円(81.2%)平成23年11月期 2億8452万円(89.1%)1億4805万円(46.4%) 2 判断(1) 相当因果関係の有無ア原賠法3条1項本文は,原子力事業者が,その原子炉の運転等により生じた原子力損害を賠償すべき旨規定するが,原子炉の運転等と原子力損害との間の因果関係あるいは賠償の範囲について,原賠法には民法と異なる特段の定めが見当たらないから, 者が,その原子炉の運転等により生じた原子力損害を賠償すべき旨規定するが,原子炉の運転等と原子力損害との間の因果関係あるいは賠償の範囲について,原賠法には民法と異なる特段の定めが見当たらないから,民法上の不法行為と別異に解すべき理由はないといえる。民法416条を類推適用し,原子力事業者である被告は,原賠法3条1項本文に基づき,第一次被害か間接被害かを問わず,原子炉の運転等の際に生じた本件原発事故と相当因果関係のある原子力損害を賠償すべき責任を負うものと解すべきである。 イ原告は,実質的にはAの販売部門であり,本件原発事故により,直接,原子力損害を被った者に当たり,当然に本件原発事故と原告の被った損害との間には相当因果関係が認められると主張する。 しかし,認定事実(前提事実を含む。以下同じ。)によれば,原告とAは,形式的に別個の法人であることはもちろん,原告は,割合としては少ないものの,Aと関連のない取引も行っている。さらに,本件原発事故後のAの原告に対する対応,具体的には,Aが原告に新工場の建設予定を教 えず,売掛金債務の支払猶予も認めなかったなどの対応からは,Aが原告をAの販売部門として扱っているとか,Aと原告が企業体として一体であるとは評価できない。Aと原告とが実質的にも別個の法人であることは,明らかである。 したがって,原告が実質的にAの販売部門であるとは評価できず,原告は,本件原発事故により直接原子力損害を被った者に当たらない。本件原発事故と原告の被った損害との間には,第一次被害を理由とする相当因果関係は認められず,原告の上記主張は,採用できない。原告は,積極的債権侵害とも主張するが,この主張は,原告とAの独占販売契約による利益を長期にわたり侵害されたとの主張,すなわち間接被害の主張を積極的債権侵害と言い ,原告の上記主張は,採用できない。原告は,積極的債権侵害とも主張するが,この主張は,原告とAの独占販売契約による利益を長期にわたり侵害されたとの主張,すなわち間接被害の主張を積極的債権侵害と言い換えたにすぎず,前記判断を左右し得ない。 ウ原告は,原告が受けた損害が間接被害であるとしても,本件原発事故と原告の被った損害との間に相当因果関係があると主張する。 認定事実によれば,Aは世界でも有数の高純度化学薬品メーカーであり,技術力の面で競合他社は国内では限られていた上,その製品の多くは,「留め型製品」であり,Aからの供給が途絶えたからといって,原告において直ちに他の薬品メーカーから代替品を仕入れることのできないものであった。Uホウ酸については,原告が納入する電力会社の要求を満たす代替品は国内にはなく,海外にも最終的に1社(イタリア社製品)しかなく,しかも,他の商社がその製品を既に取り扱っていたというのである。これらからは,原告が,少なくとも本件原発事故後一定期間において,実際に受注した取引以外に,代替品を販売することはできなかったことが認められる。 また,原告は,長年にわたりAの製品の関西地区における独占販売会社として営業を続けてきており,原告の売上高に占めるA製品の割合は約9割以上に上っていたこと,Aが原告の業務体制及び財務状況等に強い関心 を有する等,両者間には業務上及び経済上の緊密な関係があり,役員及び株式に関する相互関係も存在したことが認められる。これらからは,原告とAは,企業体として一体とは認められず,後記のとおり独占販売契約が継続し得るかに疑問はあったものの,両者の関係は非常に緊密かつ特殊な関係にあったと評価できる。 このように,製品の特性上,原告がA以外の他社から直ちに代替品を入手して原告の取引先に販売する 契約が継続し得るかに疑問はあったものの,両者の関係は非常に緊密かつ特殊な関係にあったと評価できる。 このように,製品の特性上,原告がA以外の他社から直ちに代替品を入手して原告の取引先に販売することができず,原告がAと非常に緊密かつ特殊な関係にあったとの特殊な状況下においては,本件原発事故により,Aからの製品の供給が途絶えたことによる原告の一定期間における逸失利益相当額の損害は,本件原発事故と相当因果関係のある損害に当たるというべきである。 なお,後記のとおり,原告はAに対し本件覚書で約した財務状況の改善をなしえていないが,このことから直ちに本件原発事故と一定期間における独占販売契約の継続との条件関係が否定されるとはいえない。 これに対し,被告は,本件にも最高裁昭和43年判決等の法理があてはまり,経済的一体性や,取引信用保険の利用等のリスク分散措置を要件とする旨主張するが,本件と同判決等は事案を大きく異にするから,同判決等を根拠に本件の間接被害における相当因果関係を全面的に否定することはできない。 また,被告は,原告主張の損害は,原告がAと独占販売契約を締結するという経営判断の結果であり,原告は損害を甘受すべきであると主張する。 しかし,本件原発事故による損害は,その内容からみて,通常の経済活動において,独占販売契約を締結することによって生じ得る危険として予測可能性があるものとはいえない。被告は,一定の危険を有する原子炉を運転する事業者として,本件原発事故の発生を防止する義務を負っていたのであるから,その立場からは,原告に対し,本件原発事故による危険を予 め完全に回避する措置を執るべきであったとはいえず,損害の公平な分担の見地からみて,本件原発事故による損害を原告が全て負担すべきであるとはいえない。 さらに,被告は,原 事故による危険を予 め完全に回避する措置を執るべきであったとはいえず,損害の公平な分担の見地からみて,本件原発事故による損害を原告が全て負担すべきであるとはいえない。 さらに,被告は,原告は,AのD工場での代替生産や他社製品の転売の措置により本件原発事故による損害を回避できたため,相当因果関係は認められない旨主張する。しかし,認定事実によれば,D工場の設備状況ないし生産能力の問題から相当数のB工場の製品が生産中止を余儀なくされたのであり,D工場での代替生産や他社製品の転売は多くなく,他社製品の転売を決めた製品についても,本件原発事故後の一時的な取引にとどまったことが認められるから,被告の主張するような措置によって,原告の損害を全て回避することはできなかったと認めるのが相当である。 なお,被告は,相当因果関係がないという根拠として,本件合意解約が原告の経営判断であること,Aの債務不履行行為が介在すること,及び原告がそれに不服を述べていないことを挙げる。しかし,これらは,後記(2)のとおり本件合意解約に相当因果関係の範囲を限定する要素があるが,本件原発事故がなければB工場からの出荷停止による原告の収入喪失はなかったという条件関係を全面的に否定するものではなく,その他損害賠償請求につき全面的に相当因果関係がないとさせるような根拠は見出しがたい。 したがって,相当因果関係を全面的に否定する被告の主張は,いずれも採用できない。 (2) 相当因果関係の範囲原告は,本件原発事故がなければ,少なくとも平成28年11月30日まで約5年9か月間,本件原発事故以前と同様の収入が得られた蓋然性が高いと主張し,損害軽減等義務を争う。被告は,本件合意解約,原告がAの債務不履行行為に不服を述べていないこと及び原告の休眠を指 0日まで約5年9か月間,本件原発事故以前と同様の収入が得られた蓋然性が高いと主張し,損害軽減等義務を争う。被告は,本件合意解約,原告がAの債務不履行行為に不服を述べていないこと及び原告の休眠を指摘して,損害軽減 等義務による相当因果関係の制約を主張する。 ア本件合意解約について認定事実によれば,Aは,本件原発事故後も,D工場を活用し,自らのコンデンサ用薬品の納入先には操業停止が起きないようにしたほか,本件原発事故の約1年1か月後には,C工場の操業を開始した。本件全証拠によっても,Aの技術や仕様が,本件原発事故後,競合メーカーに完全に流出したとは認められない。Aにおける平成25年11月期の売上高は,回復していないけれども,Aの技術力や商品のバージョンアップの可能性をも考慮すれば,Aとの独占販売契約を継続することにより,本件原発事故後5年以内には相当の売上げを回復することが合理的に期待できたというべきであり,原告は,本件合意解約により損害を拡大させたものと評価すべきである。 原告は,独占販売契約は形骸化しており,原告は当時の状況から本件合意解約を余儀なくされたものであると主張する。 しかし,認定事実によれば,原告も,Aが他社から購入した製品を転売するのでは利益が得られず取引を継続する意義が乏しいと考えたのであり,Aからの売掛金支払要求に苦慮したとはいえ,預託した保証金のうち3600万円が返還されたこと,すなわち前記売掛金を相当程度減少させたことからすれば,本件合意解約が不可避であったとまでは断定できず,本件合意解約には原告の経営判断といえる部分がなかったとまではいえない。また,本件合意解約に至ったのは,後記のとおり,本件原発事故当時,原告がAと良好な関係を保てていなかったことにも一因 定できず,本件合意解約には原告の経営判断といえる部分がなかったとまではいえない。また,本件合意解約に至ったのは,後記のとおり,本件原発事故当時,原告がAと良好な関係を保てていなかったことにも一因があるといえる。 独占販売契約の継続に困難な面があったとしても,それは原告にも責任があり,本件合意解約が第三者からみれば合理的な行動であるとは考えられず,被告との関係において,損害軽減等義務が左右されるとはいえない。 すなわち,認定事実によれば,原告は,Aに対し,本件覚書において, 取得利益をもって社内留保の強化に努め,資金力の増加によってAに資金依存する体質から脱却するよう努力することを約していた。本件覚書においては,原告は,顧客に対する代価が回収できてからAに決済することとされており,このとおりであれば,基本的には,粗利益は,特に原告の顧客からの現金払であれば,確実に原告の手元に残り,そこから販管費を支払っていくことができると考えられる。ところが,原告は,平成21年11月期及び平成22年11月期に連続して最終損益の赤字を計上し,本件原発事故当時においても,既存の売掛金回収により支払えない多額の買掛金債務を負担しており,Aの製品の販売以外の業務も,開拓できていたとはいえなかった。そうすると,原告の資金力の増加は不十分であり,依然としてAに資金依存する体質から脱却することがなかったといえる。認定事実によれば,A自身,関東以東の顧客への販売を自ら行っていたのであるから,製品販売のノウハウがなかったとはいえず,Aからみれば,原告に粗利益を取得させる合理的理由が見出しがたいともいえる。 このような状況下において,本件原発事故後,Aが,原告に対し,新工場の建設計画の有無すら明確に回答しなかったことや,原告からの売掛金債務の支払猶 を取得させる合理的理由が見出しがたいともいえる。 このような状況下において,本件原発事故後,Aが,原告に対し,新工場の建設計画の有無すら明確に回答しなかったことや,原告からの売掛金債務の支払猶予の嘆願に一切応じなかったこと等からみると,原告が,Aと,本件原発事故当時,良好な関係を保てていたとは評価できない。 イ原告が不服を述べなかったことについて前記認定のとおり,原告が,本件原発事故後,取引先に対し,Aの製品供給ができなくなり,原告に代替品を供給する能力等はない以上,当時の状況下において,Aが他の薬品メーカーの製品を原告の取引先に販売することは,原告の取引先の維持,確保のために,必ずしもマイナスとはいえない面があり,原告がこれを黙認したことをもって,原告の独占販売権の侵害を放置したとは評価できない。不服を述べないとの原告の対応を相当因果関係の範囲を限定する根拠とすることはできない。 ウ原告の休眠について原告は,本件合意解約後も,従前からの薬品メーカーとの取引をわずかに続けたのみで,平成24年1月に相殺後の保証金約3600万円を受け取った後にも,原告として何ら新たな取引ないし事業(以下「事業等」という。)を開始していない。原告は,本件原発事故後,Aから,B工場で製造される商品の多くにつき供給を受けられなくなったのであるから,企業として新たな事業等を模索せざるを得ないと考えられる。そして,原告がAの子会社とならずに独占販売契約を締結するということは,Aに不測の事態が発生した場合に他の事業への転換を含めた相応の対応を執る可能性を選択することでもあったといえる。前記認定のとおり,本件原発事故時の原告は,本件覚書を履行できておらず,Aと良好な関係を保てていたとは評価できないから,独占販売 転換を含めた相応の対応を執る可能性を選択することでもあったといえる。前記認定のとおり,本件原発事故時の原告は,本件覚書を履行できておらず,Aと良好な関係を保てていたとは評価できないから,独占販売契約が継続しうるかについても疑問がある。また,認定事実からは,被告の原告に対する債務不履行があったとはいえず,被告が故意又は重過失により原告の利益を侵害したということもできない。このような原被告間の状況を考慮すると,原告がAの独占販売代理店以外の事業ができないことを当然の前提にするのは相当でなく,他の事業等の実施により損害を軽減する義務を認めるのが相当である。 ただし,原告が,本件原発事故後のさまざまな対応に追われる中,直ちに新たな事業等を開始し,収益を上げることは,本件解約後一定期間は実際には困難であったと認めるのが相当である。したがって,本件原発事故後,1年間程度については,原告の努力によって損害を軽減できた可能性は極めて乏しいと認めるのが相当であり,この間に原告が新たな事業等を模索しなかったことを,相当因果関係が認められる期間の算定に当たり考慮することは,妥当ではない。 エ原告の主張について原告は,経済的不法行為においては,被害者に損害軽減等義務はない旨 主張するが,不法行為の被害者であっても,社会通念上,損害の回避又は減少に向けた措置を執るべきことが合理的な行為として期待され得るから,本件の事案を前提として,原告は,条理上,損害軽減等義務を負うというべきである。原告の上記主張は,採用できない。 オ小括前記ア~ウの事情を総合考慮すれば,原告が被った逸失利益に関し,本件原発事故と相当因果関係を有する期間は,本件原発事故日である平成23年3月11日から,約1年間が経過した平成24年3月31日までの間に ア~ウの事情を総合考慮すれば,原告が被った逸失利益に関し,本件原発事故と相当因果関係を有する期間は,本件原発事故日である平成23年3月11日から,約1年間が経過した平成24年3月31日までの間に限られるというべきである。なお,本件の事案を前提にしても,間接被害者に長期間にわたる多大な損害が発生するということは,通常生じることとはいえず,損害賠償義務を負う者からみれば,その予見も困難といえる。この点からみても,相当因果関係を有する期間は前記のとおりと判断すべきである。 (3) 損害額の算定ア算定方法本件原発事故の被害を受けたのはB工場であるが,認定事実によれば,D工場製品に関しても原告との取引をやめた業者やA以外の製品に関して原告が取引できなくなったものもある。そして,それらについても本件原発事故と相当因果関係があると認められる。そうすると,原告が受けた損害の額は,原告が本件原発事故以後に得られたであろう売上高を基準に計算した逸失利益といえるが,他方,本件原発事故後現に得たと考えられる利益は,前記計算から控除するのが相当である。 イ原告の平成23年11月期及び平成24年11月期の推定売上高Aが,平成22年11月までにリチウム電池電解液の増産を目的としたB工場の設備工事を完了させていたこと,Aの高純度化学薬品には一定の継続的需要があり,Aの主力分野であったリチウム二次電池電解液業界が, 本件原発事故当時,大幅な拡大傾向にあったこと等からは,本件原発事故がなかった場合の原告の平成23年11月期及び平成24年11月期の売上高が,本件原発事故以前と比較して極端に減少していたとは想定し難い。 他方,高純度化学薬品業界では,本件原発事故当時,新規参入企業も含めた国内外のメーカーによる競争が激しさを増しており,継続 期の売上高が,本件原発事故以前と比較して極端に減少していたとは想定し難い。 他方,高純度化学薬品業界では,本件原発事故当時,新規参入企業も含めた国内外のメーカーによる競争が激しさを増しており,継続的な取引先といえども必ずしも固定的なものではなく,また,平成23年秋頃には,タイの洪水被害,欧州における債務危機の深刻化及び歴史的な円高による世界的な需要急減もあったから,これらの影響も考慮しなくてはならない。 したがって,本件原発事故がなかった場合の原告の平成23年11月期及び平成24年11月期の推定売上高は,原告の平成20年11月期から平成22年11月期までの売上高約8億2000万円~約12億8000万円から,上記消極的な要素を考慮して,やや控えめに算定し,いずれも8億円と認めるのが相当である。 ウ変動費の範囲原告の平成23年11月期及び平成24年11月期の売上高に占める仕入高の割合については,直近である平成22年11月期が94.15%(=8億5969万2224円÷9億1314万4933円。小数点第3位を四捨五入。)であることから,同様に94.15%と認める。 また,Aから仕入れた製品等を部品メーカー等に転売するという原告の業態からすると,販管費のうちの相当部分は,売上高に伴って変動し又は変動を要する変動費と認めるのが相当である。そして,販管費のうち保険料については,役員を被保険者とする生命保険の保険料として,固定費と扱い得るが,それ以外には,販管費の項目ごとの具体的な支出内容を認めるに足りる的確な証拠はないから,保険料を除いては被告主張のとおり,売上原価のほか,販管費のうち,役員及び従業員給与の差額分(958万5000円=3562万5000円-2604万0000円),退職共済 掛金,福利厚生費,旅費交通費,通信費 被告主張のとおり,売上原価のほか,販管費のうち,役員及び従業員給与の差額分(958万5000円=3562万5000円-2604万0000円),退職共済 掛金,福利厚生費,旅費交通費,通信費,交際費,水道光熱費,消耗品費,租税公課,支払手数料,会費会議費及び雑費を,変動費として,売上高から控除すべきである。それらの費用の合計額は,2994万5732円(=958万5000円+144万0000円+353万2183円+463万3589円+126万1989円+235万0722円+33万9793円+324万6390円+43万1836円+80万0000円+219万2036円+13万2194円)であり,総売上高に占める割合は,3.28%(=2994万5732円÷9億1314万4933円。小数第3位を四捨五入。)となる。 よって,原告の平成23年11月期及び平成24年11月期の総売上高に占める変動費の割合も,平成22年11月期と同様に,3.28%と認める。 これに対し,原告は,仕入費用のみが変動費であり,販管費は全て固定費であると主張するが,前記判示に照らし,採用できない。 エ原告の平成23年3月11日から平成24年3月31日までの逸失利益原告が,平成23年3月11日から平成24年3月31日までの間(1年と21日間)に得ることができた逸失利益は,次式のとおり,2173万9672円(1円未満切捨て)となる。 8億円×(1-0.9415-0.0328)×(1+21/366)=2173万9672円オ原告が現に得た利益原告の平成23年3月分及び平成23年12月から平成24年6月までの間の売上高につき,日又は月ごとの売上高を示す的確な証拠はなく,それぞれ按分額を売り上げたものと推認せざるを得ない。よって,原告の平成 の平成23年3月分及び平成23年12月から平成24年6月までの間の売上高につき,日又は月ごとの売上高を示す的確な証拠はなく,それぞれ按分額を売り上げたものと推認せざるを得ない。よって,原告の平成23年3月11日から同月31日までの売上高は2086万円,平成23年12月1日から平成24年3月31日までの売上高は,371万円(= 650万円×4/7。1万円未満切捨て。)と推認されるから,平成23年3月11日から平成24年3月31日までの間に原告が現に得た営業利益は,394万1095円(=(2086万円+1億2878万円+371万円)×(1-0.9415-0.0328))と推認される。 カ小括よって,原告の平成23年3月11日から平成24年3月31日までの間の逸失利益は,1779万8577円(=2173万9672円-394万1095円)となる。 原告の被った相当因果関係のある損害は,上記のとおりであり,これに反する原告の主位的及び予備的主張は,いずれも採用できない。 (4) 過失相殺の可否原子力損害の賠償責任を規定する原賠法第2章(同法3~5条)は,これと矛盾しない民法上の損害賠償責任の規定を排除する趣旨には解されず,原賠法3条1項本文に基づく責任についても,民法722条2項の適用があると解される。 しかし,本件において,原告に過失相殺事由として考慮すべき事情は認められないから,過失相殺をしないこととするのが相当である。 (5) 弁護士費用弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容額その他諸般の事情を斟酌し,180万円をもって相当と認める。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,逸失利益1779万8577円及び弁護士費用180万円の合計額1959万8577円及びこれに対する本件原発事故 し,180万円をもって相当と認める。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,逸失利益1779万8577円及び弁護士費用180万円の合計額1959万8577円及びこれに対する本件原発事故によるB工場の操業停止日である平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第8民事部 裁判長裁判官久留島群一 裁判官田辺麻里子 裁判官中山裕貴
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