令和3刑(わ)3188 詐欺、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反

裁判年月日・裁判所
令和4年11月18日 東京地方裁判所
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判決文本文4,055 文字)

令和4年11月18日東京地方裁判所刑事第16部宣告令和3年刑第3188号、同年特第2989号詐欺、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件 主文 被告人を懲役9年に処する。 未決勾留日数中260日をその刑に算入する。 東京地方検察庁で保管中のハードウェアウォレット1個(令和4年東地領第321号符号2)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、第1 A株式会社の従業員として、同社の子会社であるB社の清算業務に従事していたものであるが、B社による正当な業務上の資金移動を装い、C銀行に開設されたB社名義口座に保管中の現金を不正に送金させて現金をだまし取ろうと考え、D社が営む暗号資産交換所EにB社名義の利用者アカウントを不正に開設した上、真実は、B社の代表者であるFが前記B社名義口座からG銀行に開設されたE利用者アカウントへの入金用指定口座であるD社名義口座への資金移動を承認した事実はないのに、同人が承認した正当な業務上の資金移動であるかのように装い、令和3年5月19日、東京都品川区(以下住所省略)被告人方において、インターネット回線に接続された電子機器を使用して、C銀行が運営する資金決済システムに、同システムの被告人用アカウントで接続して前記C銀行に開設されたB社名義口座から前記G銀行に開設されたD社名義口座への1億5493万2103.17アメリカ合衆国ドルの送金依頼書を送信するとともに、あらかじめ不正 に作成した同システムの前記F用アカウントで接続して同送金依頼を承認し、その頃、C銀行従業員Hらにこれらを閲覧させて、同送金依頼を前記Fが承認した正当な業務上の資金移動であると誤信させ、よって、同月20日、前記Hらに同送 記F用アカウントで接続して同送金依頼を承認し、その頃、C銀行従業員Hらにこれらを閲覧させて、同送金依頼を前記Fが承認した正当な業務上の資金移動であると誤信させ、よって、同月20日、前記Hらに同送金を実行させ、前記C銀行に開設されたB社名義口座から前記G銀行に開設されたD社名義口座に、被告人が管理する前記B社名義のE利用者アカウントでの暗号資産「ビットコイン」購入用資金として、手数料10アメリカ合衆国ドルを控除した現金1億5493万2093.17アメリカ合衆国ドル(約168億8759万8155円相当)を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させ、第2 前記1で詐取した現金1億5493万2093.17アメリカ合衆国ドルを隠匿しようと考え、令和3年5月20日、前記被告人方において、インターネット回線に接続された電子機器を使用して、前記詐取金1億5493万2093.17アメリカ合衆国ドルを用いて、前記B社名義のE利用者アカウントでビットコイン合計3879.16331587BTCを購入した上、これから手数料0.00062546BTCが控除された合計3879.16269041BTCを、オフラインでビットコインを管理することのできるハードウェアウォレットと紐づいた被告人が管理するビットコインアドレスに送信して移転し、もって犯罪収益等を隠匿した。 (弁護人の主張に対する判断)弁護人は、弁護人の公判前整理手続請求に対して、検察官が、公訴事実の大部分を引用した上で、「被告人は、捜査段階の録音録画下の取調べにおいて、全面的に事実関係を認め、犯行動機を含め詳細に供述していた」と記載した意見書を裁判所に提出したことは、第1回公判期日前に裁判官に 予断を生じさせるものであり、刑事訴訟法256条6項に違反するから、同法338条4号により公 を含め詳細に供述していた」と記載した意見書を裁判所に提出したことは、第1回公判期日前に裁判官に 予断を生じさせるものであり、刑事訴訟法256条6項に違反するから、同法338条4号により公訴棄却の判決がなされるべきであると主張する。 しかしながら、同記載は、公判前整理手続請求についての意見を出したに過ぎず、起訴状そのものに関するものではない。また、公判前整理手続は、充実した公判の審理を継続的かつ計画的かつ迅速に行うために必要があると認めるときに付すことができるところ、その必要性を検討するためには、事案の性質、取調が見込まれる証拠の内容・量、取調時間や開廷数、被告人の応訴態度等を含めた諸般の事情を考慮することになり、被告人の捜査段階における供述状況も公判前整理手続に付するかどうかの一資料となることから検察官はそれを指摘したに過ぎないし、その内容をみても、被告人の具体的な供述内容を詳細に引用するものでもない。また、そもそも公判前整理手続が事件の実体についての心証形成を目的としてなされるものでもないことからすれば、同記載をした意見書を裁判所に提出することをもって裁判官に第1回公判期日前に事件についての心証を形成させ、予断を生じさせるものともいえない。その余の弁護人の主張を検討しても、公訴棄却の主張には理由がない。 (量刑の理由)本件は、B社の清算業務に従事していた被告人が、B社の正当な業務上の資金移動であるかのように装って、不正に作成し、自らが管理するB社名義のアカウントと紐づいた暗号資産交換所運営会社名義の銀行口座に、1億5493万2093.17アメリカ合衆国ドル(当時の為替レートで約168億8759万8155円相当)を振り込ませて詐取し、更に同詐取金を用いてビットコインを購入した上、自己の管理するビットコインアドレ 93万2093.17アメリカ合衆国ドル(当時の為替レートで約168億8759万8155円相当)を振り込ませて詐取し、更に同詐取金を用いてビットコインを購入した上、自己の管理するビットコインアドレスに送信して移転し、もって犯罪収益を隠匿したという詐欺、犯罪収益等隠匿の事案である。 判示第1の被害は、約168億円に上る巨額なものである。被告人は、清算業務を担当していた立場を悪用し、代表者のID等があれば、取引銀行に対して正当な業務であると偽ってB社の資金を移動することが可能であることに目をつけた上、さらに仮想通貨であるビットコインに変換して自己の管理するアドレスで保管することを考えて犯行に及んだものである。 半年以上前から準備を行い、代表者名義のメールアドレスを作成し、それを用いて暗号資産交換所でアカウントを作成したり、ビットコインに変換した後に資金を移転する先のさらに別のアカウントを用意した上、移転先のアカウントをインターネットから切り離したオフライン下で管理・隠匿するためのハードウェアウォレットを準備するなど、計画的に犯行に及んだものである上、隠匿の方法も巧妙であり、総じて悪質というほかない。 被告人は、詐取金をビットコインに投資して会社に十分な利益が出た段階で全額を返還し、あわよくばその利益の一部を得ようと考えていた、事件の発覚も想定しており、自らの名を明らかにして交渉しようと想定していたなどと述べ、弁護人もこれを受けて被告人は会社の眠っている資産を有効活用したに過ぎないと主張する。しかしながら、被告人の供述によっても億単位の利益を得ようとして行ったというものであるし、事件発覚後、被告人は会社内では第三者が自分に成りすまして行った犯行であるなどと述べ、さらに匿名のメールで「刑事告訴することになれば、資金を回収するこ の利益を得ようとして行ったというものであるし、事件発覚後、被告人は会社内では第三者が自分に成りすまして行った犯行であるなどと述べ、さらに匿名のメールで「刑事告訴することになれば、資金を回収することは不可能」「和解に応じていただければ、資金を返還します。」などと第三者を装ったメールを送り付けている。被告人は、事件の発覚直後は数億円程度の損失が出たため自らの関与も明らかにできなかったというのであるし、ビットコインの値上がり後も被告人は自宅の捜索を受けた際にもハードウェアウォレットの在りかを明らかにせず、逮捕後も当初は犯人性を否定している。上記の経過をみると、被告人は全く返金をしないまま、 自己の関与を否定し続けたばかりか、第三者を装い、会社に対して刑事事件にしないことを条件として返還することを提案するなどしており、返金よりも自らの刑事責任の追及を回避することを重視していたことが明らかである。結局、仮に被告人に全額を返還する意思があったとしても、犯行後の一連の経過からすれば、量刑上これを大きく考慮できるものではない。 以上によれば、被告人の刑事責任は、同種の詐欺の事案において最も重いものというほかない。 他方で、幸いにも詐取金はアメリカでの司法手続を経て実質的な被害を受けたB社に返還されており、その金額は、ビットコインの相場や為替レートの変動の影響によって被害金額よりも約52億円を超過した約221億円に上っている。返還手続自体は、被告人自身の意思とは関係なく行われたものである上、上記で指摘したような犯行後の一連の経過はあったものの、事件発覚以降、被告人がビットコインをさらに移転することもなく、結果的にとはいえ全額以上の返還に至ったことは被告人の量刑判断において考慮すべき事情といえる。これらに加え、被告人に前科前歴がないこと、 事件発覚以降、被告人がビットコインをさらに移転することもなく、結果的にとはいえ全額以上の返還に至ったことは被告人の量刑判断において考慮すべき事情といえる。これらに加え、被告人に前科前歴がないこと、その母親が公判廷で出所後の被告人の監督を誓っていること等も考慮すると、主文のとおりの刑期とすることが相当である。 (求刑懲役10年及び主文同旨の没収)令和4年11月25日東京地方裁判所刑事第16部裁判長裁判官小林謙介 裁判官向井志穂 裁判官足立洋平

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