- 1 -主文 1 法務大臣が令和3年11月2日付けで原告に対してした行政文書不開示決定(法務省刑総第979号)のうち、別紙2「開示請求文書目録」記載1ないし3の各文書を不開示とした部分を取り消す。 2 原告のその余の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求 (1) 法務大臣が令和3年11月2日付けで原告に対してした行政文書不開示決定(法務省刑総第979号)を取り消す。 (2) 法務大臣が令和3年11月2日付けで原告に対してした行政文書不開示決定(法務省人検第273号)を取り消す。 2 予備的請求 被告は、原告に対し、10万円及びこれに対する令和3年11月3日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要原告は、令和3年9月2日付けで、法務大臣に対し、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)に基づき、別紙2「開示 請求文書目録」記載1ないし6の各文書(以下、番号順に「請求対象文書1」などという。ただし、請求対象文書3については補正された後のもの。)について行政文書開示請求(以下「本件開示請求」という。)をしたところ、法務大臣から、同年11月2日付けで、請求対象文書1ないし5につき、いずれも作成又は取得しておらず、保有していないとの理由により、請求対象文書1ないし 4を不開示とする旨の決定及び請求対象文書5を不開示とする旨の決定(以下、 - 2 -併せて「本件各不開示決定」という。)を受けた。 本件は、原告が、①主位的に、法務省は本件各不開示決定時において請求対象文書1ないし5を作成し保有していたはず る旨の決定(以下、 - 2 -併せて「本件各不開示決定」という。)を受けた。 本件は、原告が、①主位的に、法務省は本件各不開示決定時において請求対象文書1ないし5を作成し保有していたはずであり、本件各不開示決定は違法であるなどと主張して、被告を相手に、本件各不開示決定の取消しを求め、②予備的に、仮に法務省が請求対象文書1ないし5を保有していなかったとして も、法務省の職員が情報公開請求を回避する目的で法令上作成義務のある上記各文書をあえて作成しなかった行為は国家賠償法上違法であるなどと主張して、被告に対し、慰謝料10万円及びこれに対する本件各不開示決定の日の翌日である令和3年11月3日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 関係法令等の定め(1) 検察庁法令和3年法律第61号による改正前の検察庁法(以下「改正前検察庁法」という。)22条は、検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は、年齢が63年に達した時に退官する旨規定していた。 なお、上記改正後の現在の検察庁法22条1項は、検察官は、年齢が65年に達したときに退官する旨規定し、同条2項は、検察官については、国家公務員法81条の7の規定(定年による退職の特例)は、適用しない旨規定している。 (2) 国家公務員法 令和3年法律第61号による改正前の国家公務員法(以下「改正前国公法」という。)81条の3第1項は、任命権者は、定年に達した職員が改正前国公法81条の2第1項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があ るときは、同項の規定に きこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があ るときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から - 3 -起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる旨規定していた。 なお、改正前国公法81条の3の勤務延長の規定は、令和3年法律第61号による改正により、国家公務員法81条の7に繰り下げられた。 (3) 公文書等の管理に関する法律(以下「公文書管理法」という。) 公文書管理法4条は、行政機関の職員は、公文書管理法1条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない旨規定する。 ア法令の制定又は改廃及びその経緯(1号)イ上記アに定めるもののほか、閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯(2号)ウ複数の行政機関による申合せ又は他の行政機関若しくは地方公共団体に 対して示す基準の設定及びその経緯(3号)エ個人又は法人の権利義務の得喪及びその経緯(4号)オ職員の人事に関する事項(5号)(4) 法務省行政文書管理規則(平成23年4月1日法務省秘文訓第308号大臣訓令。以下「文書管理規則」という。) 文書管理規則34条は、行政文書の接受、起案、決裁及び施行等については、法務省行政文書取扱規則(平成 規則(平成23年4月1日法務省秘文訓第308号大臣訓令。以下「文書管理規則」という。) 文書管理規則34条は、行政文書の接受、起案、決裁及び施行等については、法務省行政文書取扱規則(平成26年法務省秘法訓第1号大臣訓令)等の定めるところによる旨規定する。 (5) 法務省行政文書取扱規則(平成26年2月10日法務省秘法訓第1号大臣訓令。ただし、令和3年2月19日法務省秘法訓第1号による改正前のもの。 以下「文書取扱規則」という。乙11、12) - 4 -文書取扱規則13条本文は、部局長以上の決裁を要する決裁事項及び決裁者は、文書取扱規則別表第一に定めるところによる旨規定し、文書取扱規則別表第一は、(1 共通事項)番号20(以下「別表第一番号20」という。)において、「法令の解釈及び運用に関すること。」の決裁者を「部局長」と規定する。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、証拠番号は特記なき限り枝番号を含む。)(1) 閣議決定に至る経緯ア法務大臣は、令和2年1月29日、内閣総理大臣に対し、当時東京高等検察庁検事長であったA(以下「A検事長」という。)を、改正前国公法8 1条の3第1項に基づき、同年8月7日まで勤務延長することについて閣議を求めた(以下「本件閣議請議」という。)(甲1)。 改正前国公法81条の3第1項の勤務延長の規定は、従来、検察官には適用されないものと解釈されていたが(以下、この解釈を「従来の解釈」ということがある。)、本件閣議請議より前に、法務省において、同項の勤 務延長の規定は検察官にも適用されるとの解釈変更(以下「本件解釈変更」という。)が行われた(ただし、本件解釈変更の目的等については後述のとおり争 件閣議請議より前に、法務省において、同項の勤 務延長の規定は検察官にも適用されるとの解釈変更(以下「本件解釈変更」という。)が行われた(ただし、本件解釈変更の目的等については後述のとおり争いがある。)。その際、法務省内において、本件解釈変更に係る検討結果をまとめた文書として、①「検察官の勤務延長について(200116 メモ)」と題する文書(乙9。以下「本件検討メモ」という。)と、②「勤務 延長制度(国公法第81条の3)の検察官への適用について」と題する文書(甲2。以下「本件交付文書」といい、本件検討メモと併せて「本件各検討文書」という。)が作成された。(甲2、乙9、15)イ内閣は、令和2年1月31日、改正前国公法81条の3第1項に基づき、同年2月7日に定年(改正前検察庁法22条により63歳。なお、定年と なる日は63歳の誕生日の前日である。)となるA検事長を、同年8月7 - 5 -日まで勤務延長する旨の閣議決定(以下「本件閣議決定」という。)をした。 (2) 原告による別件開示請求ア法務大臣に対する別件開示請求法務大臣は、原告の行政文書開示請求(令和2年2月27日受付第57 号)を受け、原告に対し、本件交付文書及び「勤務延長に関する規定(国公法第81条の3)の検察官への適用について」と題する人事院作成の書面(甲3。以下「人事院メモ」という。)を開示した。 イ人事院事務総局給与局長に対する別件開示請求人事院事務総局給与局長は、原告の行政文書開示請求(令和2年2月2 7日受付第1222号)を受け、原告に対し、本件交付文書及び人事院メモを開示した。 (3) 本件開示請求原告は、令和3年9月2日付けで、法務大臣に対し、情報公開法4条1項に基づき、請求対象文書1ないし6の開示を求め を受け、原告に対し、本件交付文書及び人事院メモを開示した。 (3) 本件開示請求原告は、令和3年9月2日付けで、法務大臣に対し、情報公開法4条1項に基づき、請求対象文書1ないし6の開示を求める旨の本件開示請求をした (甲4の1、乙1)。 (4) 原告による請求対象文書3の補正法務省の担当者は、令和3年10月12日、原告に対し、本件開示請求について補正を求め、同月26日までに回答するよう通知した。これに対し、原告は、同月18日付けで、請求対象文書3について、本件開示請求時の「上 記1の閣議要請のため、またはそのためであることを問わず、法務省…」との記載のうち、「またはそのためであることを問わず」の部分を削除する旨(この補正後の請求対象文書3の内容は、別紙2「開示請求文書目録」記載3のとおり。)を書面で回答した。(乙4、5)(5) 本件各不開示決定等 法務大臣は、①令和3年11月2日付けで、原告に対し、請求対象文書1 - 6 -ないし4について、いずれも作成又は取得しておらず、保有していないとの理由により、これを開示しない旨の決定をするとともに、②同日付けで、原告に対し、請求対象文書5について、作成又は取得しておらず、保有していないとの理由により、これを開示しない旨の決定をした(本件各不開示決定)。 また、法務大臣は、同日付けで、請求対象文書6について、A検事長の勤務 延長に係る閣議請議案(A検事長を勤務延長させる理由を記載した別紙、A検事長の略歴及び東京高等検察庁検事長名義の同意書が添付されたもの。)を添付した法務省内部の決裁文書(甲1。以下「本件決裁文書」という。)を開示する旨の決定をした。 なお、本件各不開示決定当時、法務省は、本件解釈変更について法務省内 で検討した際の文書とし を添付した法務省内部の決裁文書(甲1。以下「本件決裁文書」という。)を開示する旨の決定をした。 なお、本件各不開示決定当時、法務省は、本件解釈変更について法務省内 で検討した際の文書として、本件各検討文書を保有していた。(以上につき、甲2、4の2、4の3、乙6~9、15)(6) 本件訴訟の提起原告は、令和4年1月13日、本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 争点 (1) 主位的請求の争点本件各不開示決定時に法務省が請求対象文書1ないし5を保有していたか否かア請求対象文書1ないし3の意味とその存否(争点1)イ請求対象文書4の意味とその存否(争点2) ウ請求対象文書5の存否(争点3)(2) 予備的請求の争点法務省の職員が請求対象文書1ないし5を作成しなかったことの国家賠償法上の違法性等(争点4) 4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(請求対象文書1ないし3の意味とその存否)について - 7 -(原告の主張)ア請求対象文書1ないし3の意味について行政文書開示請求の文言の意味内容については、開示請求書に記載された文言から読み取ることが可能な範囲であれば、開示請求者の意図(主観)を基準として解釈すべきであり、一般人の通常の読み方(客観)を基準と するのは、開示請求書の文言から開示請求者の意図(主観)を読み取ることが不可能な場合に限られる。 請求対象文書1ないし3に共通する「閣議要請のため」という文言は、「A検事長の勤務延長を目的として」という意味である。このような意味内容は、請求対象文書1ないし3の文言から読み取ることが可能であるし、 開示請求者である原告の意図(主観)に合致するものである。 また、仮に一般人の通常の読み方(客観)を基 る。このような意味内容は、請求対象文書1ないし3の文言から読み取ることが可能であるし、 開示請求者である原告の意図(主観)に合致するものである。 また、仮に一般人の通常の読み方(客観)を基準とするとしても、請求対象文書1ないし3の「閣議要請のため」という文言については、原告が主張する上記の意味(A検事長の勤務延長を目的として)が、一般人の通常の読み方に合致する。 したがって、本件解釈変更がA検事長の勤務延長を目的とするものである場合には、本件解釈変更に係る法務省作成の文書である本件各検討文書は、請求対象文書1ないし3のいずれにも該当することになる。 イ請求対象文書1ないし3の存否(本件各検討文書が請求対象文書1ないし3に該当すること)について 本件解釈変更は、A検事長を次の検事総長にしたいという内閣の意思実現に向けて、A検事長の勤務延長の閣議請議のために、検察官には改正前国公法81条の3第1項の勤務延長の規定が適用されないという従来の解釈を、通常の手続とは異なる方法で、当時のB法務事務次官(以下「B事務次官」という。)が中心となって解釈変更をしたものである。本件解釈 変更がA検事長の勤務延長のために行われたものであることは、当時提出 - 8 -予定であった検察庁法の改正案が成立すれば本件解釈変更の必要がなくなること、本件解釈変更により勤務延長が行われたのはA検事長のみであること、この勤務延長によりA検事長が検事総長となる可能性があったことなどからも自然かつ合理的に推認される。 本件解釈変更に係る法務省作成の文書(本件各検討文書)は、法務省が、 A検事長の勤務延長を目的とする本件解釈変更につき、その検討結果をまとめた文書であるから、請求対象文書1の「…閣議要請のために国家公務員法第81 務省作成の文書(本件各検討文書)は、法務省が、 A検事長の勤務延長を目的とする本件解釈変更につき、その検討結果をまとめた文書であるから、請求対象文書1の「…閣議要請のために国家公務員法第81条の3第1項に基づきA検察官を勤務延長することにつき検察庁法の解釈(解釈の変更を含む)について法務省内において協議、検討、決裁、供覧した文書」に該当し、同様に、請求対象文書2及び3にも該当 するものである。 (被告の主張)ア請求対象文書1ないし3の意味について請求対象文書1ないし3に共通する「閣議要請のため」という文言は、「本件閣議請議自体を目的として」という意味、すなわち、「A検事長の 勤務延長に係る閣議の請議という手続を行うことを目的として」という意味である。原告の主張するような意味であれば、「閣議要請のため」ではなく、「A氏の勤務延長のため」という文言を用いたはずであって、「閣議要請のため」という文言につき、原告の主張するような意味を読み取ることはできない。 イ請求対象文書1ないし3の存否について(ア) 法務省において、本件閣議請議自体を目的として、すなわち、A検事長の勤務延長に係る閣議の請議という手続を行うことを目的として、本件解釈変更につき協議、検討等を行った事実はない。したがって、その経過が記載された文書は存在せず、本件各検討文書についても、請求対 象文書1ないし3には該当しない。 - 9 -(イ) 仮に、原告が主張するとおり、請求対象文書1ないし3の「閣議要請のため」という文言を、「A検事長の勤務延長を目的として」という意味に理解したとしても、法務省がA検事長の勤務延長を目的として本件解釈変更につき協議、検討等を行った事実はないから、その経過が記載された文書は存在せず、本件 A検事長の勤務延長を目的として」という意味に理解したとしても、法務省がA検事長の勤務延長を目的として本件解釈変更につき協議、検討等を行った事実はないから、その経過が記載された文書は存在せず、本件各検討文書についても、請求対象文書1な いし3には該当しない。 すなわち、法務省においては、令和2年の通常国会(第201回通常国会)に検察官の定年引上げを含む国家公務員法等の一部を改正する法律案(以下、第200回国会〔臨時会〕に提出されなかったものも含め、「国公法改正案」という。)が提出されることを前提とし、令和元年1 2月頃から、改めて、一般職の国家公務員の定年の引上げに関する検討の一環として、検察官についても検討を進め、検察官にも改正前国公法81条の3の勤務延長の規定が適用されると解釈することができ、従来の解釈を変更することが至当との結論に至ったものである。そして、法務省において検察官にも改正前国公法81条の3第1項の規定が適用さ れる旨解釈(本件解釈変更)することとした後、最初に同項の規定に基づいて勤務延長された検察官が、A検事長であったのであり、原告が主張するように、A検事長の勤務延長を目的として本件解釈変更を行ったものではない。 (2) 争点2(請求対象文書4の意味とその存否)について (原告の主張)ア請求対象文書4の意味について請求対象文書4は、「…同規則別表第一番号20に該当する国家公務員法第81条の3の勤務延長の規定を検察官に適用されるか否かの『解釈(解釈の変更を含む)及び運用に関すること』についての法務省内での協議、 検討、起案、決裁、供覧した文書」であるところ、別表第一番号20に「該 - 10 -当する」という文言は、別表第一番号20に該当すると解すべき場合を含むもので ての法務省内での協議、 検討、起案、決裁、供覧した文書」であるところ、別表第一番号20に「該 - 10 -当する」という文言は、別表第一番号20に該当すると解すべき場合を含むものである。 したがって、別表第一番号20に該当すると解すべき文書であれば、法務省においてこれに該当しないものとして取り扱われ、決裁等の手続を経ていなくても、請求対象文書4に該当する。 イ請求対象文書4の存否(本件各検討文書が請求対象文書4に該当すること)について本件各検討文書は、改正前国公法81条の3の勤務延長の規定が検察官に適用されるか否か(本件解釈変更)について法務省内で検討等された文書であるから、別表第一番号20の「法令の解釈及び運用に関すること」 に該当すると解すべき文書であって、請求対象文書4に該当する。 (被告の主張)ア請求対象文書4の意味について請求対象文書4は、改正前国公法81条の3の勤務延長の規定が検察官に適用されるか否かについて法務省内で検討等された文書であって、検討 等された当時、それが別表第一番号20の「法令の解釈及び運用に関すること」に該当するものとして取り扱われ、文書取扱規則13条の決裁を経たものという趣旨であると解される。 法務省の担当者は、原告に対し、上記の理解で正しいかどうかを尋ねたものの、原告は特段の説明をしなかった。また、法務省の担当者は、原告 に対し、上記の理解を前提に請求対象文書4の開示の可否等につき判断する旨を伝えたが、これに対して原告が意見ないし異議を述べることはなかった。そこで、法務大臣は、上記の理解を前提として、請求対象文書4の開示の可否を検討の上、法務省において、請求対象文書4に該当する文書を保有していないと判断したものである。 イ請求対象 った。そこで、法務大臣は、上記の理解を前提として、請求対象文書4の開示の可否を検討の上、法務省において、請求対象文書4に該当する文書を保有していないと判断したものである。 イ請求対象文書4の存否について - 11 -改正前国公法81条の3第1項の勤務延長の規定が検察官に適用されるか否かの検討を法務省内で行っていた当時(第201回通常国会における法案提出前)は、法律案の立案過程において従前の法解釈を変更する場合に、法解釈の変更それ自体について、文書取扱規則に定められた方法による決裁を要するか否かについて、法務省としての統一的なルールは存在せ ず、部局ごとの判断に委ねられていた。そして、法務省刑事局においては、①法律案に関しては、その最終的な成果物たる成案を確定する際に、文書取扱規則に定められた方法による決裁を経ることとする一方で、②法律案策定の過程において検討のために作成された文書については、文書取扱規則に定められた方法による決裁を逐一経ることは要しないものと理解し、 そのような運用をしてきた。 本件各検討文書は、検察官の定年引上げに関する法律案策定の過程において、その検討の前提として現行の検察庁法の解釈について整理したものであることから、法務省刑事局としては、これらの文書を作成するに当たり、これらの文書は上記②の場合に当たるとして、文書取扱規則に定めら れた方法による決裁は要しない扱いとしていた。 したがって、本件各検討文書は、別表第一番号20に該当するものとして取り扱われたものに該当しないから、請求対象文書4に該当しない。 (3) 争点3(請求対象文書5の存否)について(原告の主張) 法務大臣は、A検事長の勤務延長が必要であると判断して本件閣議請議を行った。検事長の任命は内閣 求対象文書4に該当しない。 (3) 争点3(請求対象文書5の存否)について(原告の主張) 法務大臣は、A検事長の勤務延長が必要であると判断して本件閣議請議を行った。検事長の任命は内閣の権限に属する事項であるから(検察庁法15条1項)、内閣総理大臣(秘書官を含む。)又は内閣官房(内閣官房人事局を含む。)と法務省の担当者との間で事前に相談することなく、突然に本件閣議請議に至ることはあり得ない。 本件閣議請議は、法務省においてA氏を検事長として推薦する事務に該当 - 12 -することから、公文書管理法4条により、内閣とどのような協議、相談を行い、指示を受けたかの意思形成過程について、法務省の職員は文書を作成する義務がある。したがって、法務省は、当時、請求対象文書5を作成していたはずである。 (被告の主張) 法務省の職員の任免、給与、懲戒、服務その他の人事(厚生管理官の所掌に属するものを除く。)に関する事務は、法務省大臣官房人事課(以下「人事課」という。)が所掌するものであり(法務省組織令15条2号)、本件閣議請議に係る事務も人事課が取り扱った。その際、人事課の職員が、請求対象文書5を作成した事実はない。 人事課標準文書保存期間基準における「人事異動に関する閣議の求め」という業務に関して、人事課の職員によって作成することが予定されている文書、すなわち、公文書管理法4条に基づく作成義務の存在が前提とされている行政文書は、「閣議請議書」のみである。本件決裁文書は、本件閣議請議に関し、法務省における経緯を含めた意思決定に至る過程等を合理的に跡付け、 又は検証することができる「閣議請議書」として欠けるところはなく、法務省の職員が本件決裁文書とは別に請求対象文書5を作成していなかったとしても、公 めた意思決定に至る過程等を合理的に跡付け、 又は検証することができる「閣議請議書」として欠けるところはなく、法務省の職員が本件決裁文書とは別に請求対象文書5を作成していなかったとしても、公文書管理法及び文書管理規則に違反するとはいえない。 以上のとおり、公文書管理法及び文書管理規則上、本件閣議請議に関し、本件決裁文書とは別に請求対象文書5を作成することは想定されておらず、 実際にも請求対象文書5は作成されていない。 (4) 争点4(法務省の職員が請求対象文書1ないし5を作成しなかったことの国家賠償法上の違法性等)について(原告の主張)ア国家賠償法上の違法性 本件解釈変更は、文書取扱規則の別表第一番号20「法令の解釈及び運 - 13 -用に関すること」に該当するから、法務省の職員は、本件解釈変更に係る法務省内部における「経緯も含めた意思決定に至る過程」(公文書管理法4条)を明らかにするため、法務省内での協議、検討、起案、決裁、供覧に係る文書を作成する法的義務を負う。したがって、法務省の職員には、公文書管理法4条に基づき、請求対象文書1ないし5を作成する法的義務が あった。 本件解釈変更は、正式な法務省内部の決裁を経ることなく秘密裡に行われたものであり、情報公開請求を回避する目的をもって行われたものと評価することができ、悪質である。したがって、公文書管理法4条により作成が義務付けられている請求対象文書1ないし5を、情報公開請求を行う 国民に秘密にする目的であえて作成しなかったことは、本件開示請求をした原告との関係で、国家賠償法上違法である。 イ損害の発生及びその額原告は、法務省の職員が法令上の作成義務に違反して請求対象文書1ないし5を作成しなかったことにより、無駄な情報開示請求を をした原告との関係で、国家賠償法上違法である。 イ損害の発生及びその額原告は、法務省の職員が法令上の作成義務に違反して請求対象文書1ないし5を作成しなかったことにより、無駄な情報開示請求を行わされ、法 律上保護に値する期待権を侵害されたものである。その精神的損害を金銭に換算すると、10万円を下回るものではない。 (被告の主張)ア国家賠償法上の違法性国家賠償法1条1項にいう「違法」とは、権利ないし法益の侵害がある ことを前提として、公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することであると解される(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号12頁、最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁等)。したがって、公務員の行為が国家賠償法1条1項の適用上違法といえるためには、①公 務員の職務上の法的義務に対する違反であること及び②当該被害者個人に - 14 -対して負う義務の違反であることという二つの要件を満たす必要がある。 原告がその主張の根拠とする公文書管理法4条の文書作成義務は、公文書管理制度の究極目的である国民全体の一般的利益の実現という公益に資するためのものであって、行政機関の職員が個別の国民に対して公文書管理法上の文書作成義務を負担する旨を定めるものではなく、同条の規定を 根拠に、個別の国民の具体的な法律上の地位ないし利益が導き出されるものではない。 したがって、公文書管理法上の文書作成義務は、原告個人に対して負うものではないというべきであり、法務省の職員が請求対象文書1ないし5を作成しなかったことが、原告個人との関係で国家賠償法上違法と評価さ れる余地はない。 イ損害の発生及びその額否認ないし争う はないというべきであり、法務省の職員が請求対象文書1ないし5を作成しなかったことが、原告個人との関係で国家賠償法上違法と評価さ れる余地はない。 イ損害の発生及びその額否認ないし争う。上記アのとおり、公文書管理法4条の規定を根拠に個別の国民の具体的な法律上の地位ないし利益が導き出されるものではないことに照らすと、法務省の職員の請求対象文書1ないし5の作成如何によ って、原告に具体的損害が発生するという事態は想定し難く、本件において原告に損害が発生していないことは明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 請求対象文書1ないし4の意味について(争点1及び2関係)(1) 判断枠組み 情報公開法4条1項は、同法3条の規定による開示の請求(開示請求)は、同法4条1項各号に掲げる事項を記載した書面(開示請求書)を行政機関の長に提出してしなければならない旨規定し、同項2号は、「行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」を掲げている。 このように、情報公開法は、開示請求権の行使という重要な法律関係の内 容を明確にするため、開示請求は必ず書面を提出して行わなければならない - 15 -ものとし(総務省行政管理局編「詳解情報公開法」32頁参照)、その書面には、開示を求める行政文書を特定するに足りる事項(以下「特定事項」という。)を記載すべきものとしているのであるから、開示請求に係る行政文書の意味の確定は、開示請求者が開示請求書により表示した意思の解釈問題というべきであって、基本的に、開示請求書に記載されている特定事項の文言 に即し、特定事項の記載全体の趣旨からその文言の意味を合理的に解釈して確定すべきものと解される。 ただし、開示請求者の意思解釈という性質に照らすと、特定事項 求書に記載されている特定事項の文言 に即し、特定事項の記載全体の趣旨からその文言の意味を合理的に解釈して確定すべきものと解される。 ただし、開示請求者の意思解釈という性質に照らすと、特定事項について開示請求者に対する補正の求めや事実上の確認等が行われた場合には、それに対する開示請求者の回答や対応等を十分に斟酌して解釈すべきものと解さ れる。 なお、原告は、開示請求書に記載された文言から読み取ることが可能な範囲であれば、開示請求者の意図(主観)を基準として解釈すべきであるなどと主張するが、上記の判断枠組みと異なる趣旨をいうものであれば、その限度において採用することができない。 (2) 請求対象文書1ないし4の意味に係る認定事実ア原告は、令和3年9月2日付けで、法務大臣に対し、請求対象文書1ないし6の開示を求める旨の開示請求書(以下「本件開示請求書」という。)を提出し、本件開示請求をした。本件開示請求書の「文書の特定」欄には、開示を求める行政文書として、別紙2のとおり(ただし、誤字等は訂正し ている。また、請求対象文書3については、この時点では、「3 上記1の閣議要請のため、」の後に「またはそのためであることを問わず、」という文言がある。)記載されていた。(甲4、乙1)イ法務省の担当者は、請求対象文書1ないし4に係る特定事項の記載(別紙2)の趣旨が必ずしも一義的に明らかでなく、原告がいかなる行政文書 の開示を求めているのか判然としなかったため、令和3年9月22日、原 - 16 -告に電話をかけ、これらの記載の趣旨を確認した。その際の法務省の担当者と原告とのやり取りは、要旨、次のような内容であった。(乙2)(ア) 法務省の担当者は、原告に対し、請求対象文書1と2及び請求対象文書3と4 、これらの記載の趣旨を確認した。その際の法務省の担当者と原告とのやり取りは、要旨、次のような内容であった。(乙2)(ア) 法務省の担当者は、原告に対し、請求対象文書1と2及び請求対象文書3と4について、それぞれの記載ぶりが異なる理由や、念頭に置いている文書が同じかどうかについて説明を求めた。これに対し、原告は、 請求対象文書1と2は、特定の文書を念頭に置いたり、別々の文書を念頭に置いたりしているわけではなく、どのような書き方であれば開示対象となる文書の特定となるかを自分なりに考えながら書いたもので、特に意図があって書き分けているものではない旨回答し、請求対象文書3と4についても同様である旨回答した。 (イ) 法務省の担当者は、原告に対し、請求対象文書3がいかなる行政文書を指すのかを特定するため、原告に対し、「決裁者は部局長とあることから」という前段と、「についての法務省内での協議、検討、起案、決裁、供覧した文書」という後段がどのような関連性を有するのかについて補足説明を求めた。これに対し、原告は、本件開示請求書に書いてあ るとおりである旨述べ、特段の説明をしなかった。 (ウ) 法務省の担当者は、原告に対し、請求対象文書4については、「国家公務員法第81条の3の勤務延長の規定を検察官に適用されるか否かについての法務省内での協議、検討等を行った文書で、当時、別表第一番号20に該当するものとして取り扱われ、そのようなものとして協議、 検討等された文書」という趣旨のものと理解しているが、そのような理解で正しいかどうかを尋ねた。これに対し、原告は、本件開示請求書に書いてあるとおりである旨述べ、特段の説明をしなかった。 ウ法務省の担当者は、令和3年10月12日付けで、原告に対し、要旨、以下の内容(ただし、請求対 尋ねた。これに対し、原告は、本件開示請求書に書いてあるとおりである旨述べ、特段の説明をしなかった。 ウ法務省の担当者は、令和3年10月12日付けで、原告に対し、要旨、以下の内容(ただし、請求対象文書1ないし4に係る部分)を記載した「行 政文書開示請求について(求補正)」と題する書面(以下「求補正書」とい - 17 -う。)を送付した(乙4)。 (ア) 請求対象文書1及び2について、A検事長を勤務延長するために検察庁法の解釈変更を行ったという事実はないことから、この点を前提とする開示請求については、法務省本省には該当する文書が存在せず、このまま請求を維持した場合、行政文書不存在による不開示決定がされる見 込みであること(イ) 請求対象文書3について、記載の趣旨(特に、上記イ(イ)の前段と後段の関係)が一義的に明らかでない上、先日の電話連絡による問い合わせでも特段の回答がなかったため、請求対象文書3を特定することができず、このまま請求を維持した場合、本件開示請求書の形式不備により不 開示決定がされる見込みであること(ウ) 請求対象文書4について、必ずしも記載の趣旨が一義的に明らかでないが、可能な限り善解すると、「国家公務員法第81条の3の勤務延長の規定が検察官に適用されるか否かについて法務省内で検討等された際の文書であって、検討等された当時、それが法務省行政文書取扱規則別 表第一(1 共通事項)番号20『法律の解釈及び運用に関すること』に該当するものとして取り扱われて、同規則第13条の決裁を経たもの」という趣旨であると解されたことから、先日の電話連絡による問い合わせでその趣旨を確認したところ、上記(イ)と同様に特段の回答がなかった。そのため、このような理解を前提に開示の可否等につき検討すると、 いう趣旨であると解されたことから、先日の電話連絡による問い合わせでその趣旨を確認したところ、上記(イ)と同様に特段の回答がなかった。そのため、このような理解を前提に開示の可否等につき検討すると、 当時の運用の下では、上記検討等についての文書は別表第一番号20には該当しないという扱いをしていたことから、法務省本省には該当する文書が存在せず、このまま請求を維持した場合、行政文書不存在による不開示決定がされる見込みであることエ原告は、令和3年10月18日付けで、法務省の担当者に対し、「御庁 の文書『行政文書開示請求について(求補正)』(2021年10月12 - 18 -日)に対する回答」と題する書面を送付した。この書面には、次の内容等(ただし、請求対象文書1ないし4に係る部分)が記載されていた。(乙5)(ア) 請求対象文書1、2及び4については、開示請求を維持すること(なお、これらの請求対象文書については、特定事項の文言を加除訂正する 旨の記載はなく、また、法務省の担当者が示した上記ウ(ア)(ウ)の理解に対する意見や異議も特に記載されていない。)(イ) 請求対象文書3については、本件開示請求書の特定事項の記載のうち「またはそのためであることを問わず」の文言を削除すること(3) 請求対象文書1ないし3の意味について 被告は、請求対象文書1ないし3に共通する「閣議要請のため」の文言の意味について、「本件閣議請議自体を目的として」という意味(すなわち、本件閣議請議という手続を行うことを目的としてという意味)であると主張する。 しかし、これに続く文言は、「国家公務員法第81条の3第1項に基づき A検察官を勤務延長することにつき検察庁法の解釈(解釈の変更を含む)について法務省内において協議、検 であると主張する。 しかし、これに続く文言は、「国家公務員法第81条の3第1項に基づき A検察官を勤務延長することにつき検察庁法の解釈(解釈の変更を含む)について法務省内において協議、検討、決裁、供覧した文書」(請求対象文書1)、「国家公務員法第81条の3第1項が定年後の検察官にも適用されるとの解釈(解釈の変更を含む)について法務省内部で協議、検討、決裁、供覧した文書」(請求対象文書2)、「…国家公務員法第81条の3の勤務延長の 規定を検察官に適用することに関する解釈(解釈の変更を含む)についての法務省内での協議、検討、起案、決裁、供覧した文書」(請求対象文書3)であって、表現ぶりは異なるが、いずれも本件解釈変更に係る法務省内での協議、検討等の文書を念頭に置いていることが明らかである。そうすると、その前にある「閣議要請のため」という文言について、被告が主張するように 「本件閣議請議自体を目的として」(本件閣議請議という手続を行うことを - 19 -目的として)という意味に理解することは、閣議請議という手続それ自体と本件解釈変更との間には直接の関係がないため、記載全体の読み方として不自然で無理があるといわざるを得ない。むしろ、原告が主張するように、本件閣議請議の内容である「A検事長の勤務延長を目的として」という意味に理解する方が、記載全体の読み方として自然かつ合理的である。 また、法務省の担当者は、原告に対する求補正書において、請求対象文書1及び2につき、A検事長を勤務延長するために検察庁法の解釈変更を行ったという事実はないことから、この点を前提とする開示請求については、該当する行政文書が存在しない旨を記載している(上記(2)ウ(ア))。この求補正書の内容からは、当時、法務省の担当者も、被告が主張す たという事実はないことから、この点を前提とする開示請求については、該当する行政文書が存在しない旨を記載している(上記(2)ウ(ア))。この求補正書の内容からは、当時、法務省の担当者も、被告が主張する「本件閣議請 議自体を目的として」という読み方ではなく、原告が主張する「A検事長の勤務延長を目的として」という読み方をしていたことがうかがわれるし、原告も、求補正書が前提とする上記のような理解について、特段の意見や異議を述べていない(同エ)。 以上によれば、請求対象文書1ないし3の「閣議要請のため」という文言 については、特定事項の記載全体の趣旨や求補正書の記載等に照らし、「本件閣議請議自体を目的として」という意味ではなく、「A検事長の勤務延長を目的として」という意味に理解するのが相当であり、これに反する被告の上記主張は採用することができない。 そうすると、請求対象文書1ないし3の意味としては、その表現振りに違 いがあるものの、要するに、いずれについても、「A検事長の勤務延長を目的として行われた、本件解釈変更に係る法務省内での協議、検討等の文書」をいうものと解される。 (4) 請求対象文書4の意味について被告は、請求対象文書4は、本件解釈変更に係る法務省内での協議、検討 等の文書であって、その当時、別表第一番号20の「法令の解釈及び運用に - 20 -関すること」に該当するものとして取り扱われ、文書取扱規則13条の決裁を経たものという趣旨であると主張する。これに対し、原告は、請求対象文書4について、そのようなものに限られず、別表第一番号20に該当すると解すべき場合を含む趣旨であると主張する。 そこで検討するに、確かに、請求対象文書4の特定事項の文言のうち「該 当する」という文言だけをみれば、被告 ものに限られず、別表第一番号20に該当すると解すべき場合を含む趣旨であると主張する。 そこで検討するに、確かに、請求対象文書4の特定事項の文言のうち「該 当する」という文言だけをみれば、被告が主張する「該当するものとして取り扱われた」という読み方よりも、原告が主張する「該当すると解すべき」という読み方の方が、日本語として自然であるようにもみえる。しかし、記載全体の趣旨を考察すると、要するに、本件解釈変更は別表第一番号20の「法令の解釈及び運用に関すること」に該当するから、本件解釈変更に係る 文書については部局長以上の決裁がされているはずであるとして、その文書の開示を求める趣旨のものと理解する方が文脈上自然であるようにも思われ、少なくとも、上記特定事項の文言のみから、原告と被告のいずれの読み方が正しいかを決することは困難である。 そこで、法務省の担当者と原告とのやり取りについてみると、法務省の担 当者は、原告に対して電話をかけ、被告の主張のような理解で正しいかどうかを確認したところ、原告は特段の説明をしなかった(上記(2)イ(ウ))。また、法務省の担当者が送付した求補正書においても、被告の主張のように理解した旨が記載されていたが、原告はこのような理解について特段の意見や異議を述べず、請求対象文書4に係る開示請求を維持する旨を回答している (同エ)。その他、原告が、本件各不開示決定までに、法務省の担当者が示した上記の理解について、意見や異議を述べた形跡は見当たらない。 以上によれば、本件開示請求書の文言からはいずれの読み方が正しいかを一義的に決することは困難であるが、法務省の担当者と原告とのやり取りを踏まえると、請求対象文書4の意味については、被告が主張するとおり、本 件解釈変更に係る法務省内での協議、検 方が正しいかを一義的に決することは困難であるが、法務省の担当者と原告とのやり取りを踏まえると、請求対象文書4の意味については、被告が主張するとおり、本 件解釈変更に係る法務省内での協議、検討等の文書であって、当時、それが - 21 -別表第一番号20の「法令の解釈及び運用に関すること」に該当するものとして取り扱われ、文書取扱規則13条の決裁を経たものを意味すると解するのが相当である。これに反する原告の主張は採用することができない。 2 請求対象文書1ないし3の存否について(争点1関係)(1) 問題の所在 上記1(3)のとおり、請求対象文書1ないし3の意味については、要するに、いずれについても、「A検事長の勤務延長を目的として行われた、本件解釈変更に係る法務省内での協議、検討等の文書」をいうものと解される。 そして、本件各検討文書は、本件解釈変更に係る法務省内での協議、検討等の文書に該当するから、請求対象文書1ないし3が存在するか否か(すな わち、本件各検討文書が請求対象文書1ないし3に該当するか否か)については、法務省が「A検事長の勤務延長を目的として」本件解釈変更につき協議、検討等を行ったと認められるか否かにより決せられることになる。 そこで、以下、本件解釈変更に係る法務省内での協議、検討等が、A検事長の勤務延長を目的として行われたものであるか否かにつき、本件解釈変更 に係る事実経過等を踏まえて検討する。 (2) 本件解釈変更に係る事実経過等前記前提事実に加え、掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア法務省刑事局は、平成30年11月中旬頃から、一般職の国家公務員の 定年引上げ等を内容とする国家公務員法等の改正の検討に伴い、検察官の定年年齢を65歳まで段階的 次の事実が認められる。 ア法務省刑事局は、平成30年11月中旬頃から、一般職の国家公務員の 定年引上げ等を内容とする国家公務員法等の改正の検討に伴い、検察官の定年年齢を65歳まで段階的に引上げる内容の法律案(国公法改正案における検察庁法等の一部改正部分。以下「第一次改正案」という。)の検討を開始した(乙15、31)。 なお、B事務次官は、上記検討開始当時の法務省刑事局長であり、平成 31年1月18日付けで法務事務次官(~令和3年9月2日)となった(乙 - 22 -31)。 イ国家公務員の定年制度や勤務延長制度は昭和56年に導入されたが、その当時から、検察官については、改正前検察庁法22条が改正前国公法81条の2第1項の「法律に別段の定めのある場合」に当たり、同法の定年制度全体が適用除外されていると解されており、改正前国公法81条の3 第1項の勤務延長の規定についても、検察官には適用されないと解されていた(甲3、5)。 法務省刑事局は、検察官に勤務延長の規定は適用されないという従来の解釈を前提として、検事総長以外の検察官の定年年齢を段階的に65歳に引き上げること等を内容とする第一次改正案を作成し、令和元年10月3 1日頃、第一次改正案につき内閣法制局第二部長の審査を終えた。もっとも、第一次改正案を含む国公法改正案は、第200回国会(臨時会。会期は令和元年10月4日から同年12月9日まで)への提出が予定されていたが、提出が見送られた。(甲10、乙15、31、証人B〔以下「B証人」という。〕7頁) ウ法務省刑事局は、令和元年12月頃から、改正前国公法と改正前検察庁法との関係について改めて検討し(このような検討を行った目的については後に検討する。)、検察官には勤務延長の規定が適用され ウ法務省刑事局は、令和元年12月頃から、改正前国公法と改正前検察庁法との関係について改めて検討し(このような検討を行った目的については後に検討する。)、検察官には勤務延長の規定が適用されないという従来の解釈を変更し、検察官にも同規定を適用することができる旨解釈を変更するのが適当であるとの結論に至った。そこで、法務省刑事局の担当者 は、令和2年1月16日、本件検討メモを作成し、その内容についてB事務次官の了解を得た。 当時、法務省においては、法解釈の変更につき文書取扱規則に定められた方法による決裁を要するか否かについて、統一的なルールはなく、部局ごとの判断に委ねられていた。そして、法務省刑事局は、①法律案に関し ては、その最終的な成果物たる成案を確定する際に、文書取扱規則に定め - 23 -られた方法による決裁を経ることとする一方で、②法律案策定の過程において検討のために作成された文書については、文書取扱規則に定められた方法による決裁を逐一経ることは要しないとする運用をしていた。法務省刑事局は、このような当時の運用に基づき、本件検討メモについて、文書取扱規則に定められた方法による決裁を行わなかった。(以上につき、乙 9、10、15、31、B証人7~10頁)エ法務省刑事局の担当者は、本件解釈変更について内閣法制局等の関係機関に説明するため、令和2年1月17日、本件検討メモの内容を簡潔に整理した内容の本件交付文書を作成し、その内容についてB事務次官の了解を得た。 法務省刑事局は、本件交付文書についても、本件検討メモと同様、当時の運用に基づき、文書取扱規則に定められた方法による決裁を行わなかった。(以上につき、甲2、乙10、15、31、B証人10~11頁)オ法務省刑事局の担当者 書についても、本件検討メモと同様、当時の運用に基づき、文書取扱規則に定められた方法による決裁を行わなかった。(以上につき、甲2、乙10、15、31、B証人10~11頁)オ法務省刑事局の担当者は、令和2年1月17日、内閣法制局の担当参事官に対し、本件交付文書などの資料を交付して本件解釈変更について説明 し、内閣法制局としての検討を依頼したところ、内閣法制局は、同月21日頃、法務省に対し、本件解釈変更について異論がない旨を回答した(甲16、乙15、31、B証人12~13頁)。 カ B事務次官は、令和2年1月22日、一人で人事院に赴き、人事院事務総長と面会し、本件交付文書を交付した上で、本件解釈変更について検討 を依頼した(甲17、乙15、31、B証人13~14、46~51頁)。 キ法務省大臣官房長は、令和2年1月23日、内閣人事局に赴き、内閣人事局人事政策統括官と面会し、本件交付文書を交付した上で、本件解釈変更について検討を依頼した。内閣人事局は、同日、法務省に対し、本件解釈変更につき意見がない旨電話で回答した。(乙15、31、B証人15 ~16頁) - 24 -ク B事務次官は、令和2年1月24日、再度人事院に赴き、人事院事務総長と面会し、人事院メモを受領し、本件解釈変更につき人事院として特に異論を述べない旨の回答を受けた。これにより、本件解釈変更に係る法務省と関係機関との調整が終了し、検察官にも改正前国公法81条の3第1項の勤務延長の規定が適用されるという解釈が政府見解として確定した。 (甲3、乙15、31、B証人14~15、61頁)ケ A検事長は、令和2年1月29日付けで、改正前国公法81条の3第1項の規定に基づき、同年8月7日まで勤務延長されることに同意する旨の同意書を作成した(甲1 5、31、B証人14~15、61頁)ケ A検事長は、令和2年1月29日付けで、改正前国公法81条の3第1項の規定に基づき、同年8月7日まで勤務延長されることに同意する旨の同意書を作成した(甲1)。 コ C法務大臣(当時)は、令和2年1月29日、D内閣総理大臣(当時)に 対し、改正前国公法81条の3第1項に基づきA検事長を同年8月7日まで勤務延長させることが必要と認められるとして、本件閣議請議をした。 その理由については、「東京高等検察庁管内において遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査公判に対応するためには、同高等検察庁検事長Aの検察官としての豊富な経験・知識等に基づく管内部下職員に対する指揮監 督が必要不可欠であり、同人には、当分の間、引き続き同検事長の職務を遂行させる必要がある。」とされていた。(甲1)サ内閣は、令和2年1月31日、閣議を開催し、A検事長を同年8月7日まで勤務延長する旨の閣議決定(本件閣議決定)をした。なお、A検事長は、昭和32年2月8日生まれであり、勤務延長がなければ、改正前検察 庁法22条により、令和2年2月7日をもって定年退官する予定であった。 (甲1)本件閣議決定により、A検事長の勤務延長が行われたが、その後、他の検察官に対して勤務延長が行われることはなかった。また、本件解釈変更により、他の検察官にも勤務延長の規定が適用され得ることとなったが、 全国の検察庁や検察官に周知されることはなく、また、検察官に係る勤務 - 25 -延長制度の運用のあり方(具体的な手続や要件等)が示されることもなかった。(B証人41、61~64頁)シ法務省刑事局は、本件解釈変更を踏まえた検察庁法の改正案(勤務延長の規定に係る読替規定などが含まれる。以下「第二次改正案」という。)を作成 されることもなかった。(B証人41、61~64頁)シ法務省刑事局は、本件解釈変更を踏まえた検察庁法の改正案(勤務延長の規定に係る読替規定などが含まれる。以下「第二次改正案」という。)を作成し、令和2年2月17日、内閣法制局第二部長の審査を終えた。検察 官にも勤務延長の規定が適用されることを前提とする第二次改正案は、同年3月13日、国公法改正案の一部として第201回通常国会に提出されたが、同年6月17日、国公法改正案は廃案となった。(甲11、12、乙10、13、15、32)。 なお、A検事長は、令和2年5月、新型コロナウイルス感染症の緊急事 態宣言下において記者と賭け麻雀を行っていたことが報道されるなどし、東京高等検察庁検事長を辞職した(甲18、顕著な事実)。 ス令和3年6月11日、国家公務員法等の一部を改正する法律(令和3年法律第61号)が国会で可決成立した(令和5年4月1日施行)。同改正後の検察庁法22条2項は、検察官について、勤務延長の規定(国家公務 員法81条の7)は、適用しない旨を定めている。(顕著な事実)(3) 検討ア本件解釈変更に係る事実経過を踏まえた検討本件解釈変更に係る事実経過をみると、そもそも、法務省刑事局は、令和元年10月31日頃、検察官に勤務延長の規定は適用されないという従 来の解釈を前提とした第一次改正案につき、内閣法制局第二部長の審査を終え、第200回国会への提出を待っていた(認定事実イ)。それにもかかわらず、法務省刑事局は、同国会が閉会した令和元年12月頃から令和2年1月中旬までのわずか1か月程度の間に、第一次改正案で前提としていた従来の解釈を全く異なる解釈に変更することとし、法務省の事務方ト ップであるB事務次官が自ら人事院に赴くなどといった対応で、 年1月中旬までのわずか1か月程度の間に、第一次改正案で前提としていた従来の解釈を全く異なる解釈に変更することとし、法務省の事務方ト ップであるB事務次官が自ら人事院に赴くなどといった対応で、関係機関 - 26 -(内閣法制局、人事院及び内閣人事局)に短期間での検討を依頼し、わずか8日間で関係機関との調整を終えた(同オ~ク)。そして、法務大臣は、その5日後である同月29日、A検事長の勤務延長を求める本件閣議請議を行い(同コ)、内閣は、同月31日、A検事長を同年8月7日まで勤務延長する旨の本件閣議決定をした。この本件閣議決定は、A検事長が定年退 官する予定であった同年2月7日のわずか7日前のことである(同サ)。 また、本件解釈変更により、改正前国公法81条の3第1項の勤務延長の規定は、定年退官を控えた他の検察官にも直ちに適用され得るものとなったにもかかわらず、全国の検察庁や検察官に周知されることはなく、その運用のあり方(具体的な手続や要件等)が示されることもなかった(認 定事実サ)。しかも、A検事長以外に、本件解釈変更に基づいて勤務延長が行われた検察官はいない(同サ)。 これらの本件解釈変更に係る事実経過からすると、本件解釈変更は、A検事長の定年退官予定日に間に合うように、ごく短期間で急遽進められたものと考えるほかはなく、勤務延長について全国の検察庁や検察官に周知 されず、他に勤務延長が行われた検察官がいないことも考慮すると、本件解釈変更の目的は、A検事長の勤務延長を行うことにあったと考えざるを得ない。 イ本件解釈変更の必要性に関する検討検察官に勤務延長の規定は適用されないという従来の解釈は、国家公務 員の定年制度が設けられた昭和56年以降40年以上にわたり維持されてきたものであり、第一次改 件解釈変更の必要性に関する検討検察官に勤務延長の規定は適用されないという従来の解釈は、国家公務 員の定年制度が設けられた昭和56年以降40年以上にわたり維持されてきたものであり、第一次改正案も、このような従来の解釈を前提とするものであった(認定事実イ)。しかるに、法務省は、令和2年1月中旬に本件解釈変更の方針を固めたものであるが、第一次改正案の国会提出を待つ状況となった令和元年10月末日頃からわずか数か月の間に、従来の解釈を 直ちに変更すべき社会経済情勢等の大きな変化があったとは考え難い。ま - 27 -た、その当時、従来の解釈を変更すべき必要性が広く議論されていたとか、関係機関等から指摘されていたといったような事情はうかがわれないし、検察官に勤務延長が認められないことにより捜査に具体的な支障が生じていたとか、検察官に勤務延長を認めてほしい旨の現場からの要請等が続いていたというような事情もうかがわれない。 また、本件解釈変更のために作成された本件各検討文書を見ても、本件解釈変更が法令の解釈上可能であることが説明されているにとどまり、なぜ、この時期に、これまで認められてこなかった検察官の勤務延長を認める必要があるのか(本件解釈変更を行う必要があるのか)について、具体的な理由の記載は見当たらない(甲2、乙9)。また、従来の解釈が法律の 文言や趣旨に照らして明らかに間違っているため、直ちに是正する必要があるというような内容でもない(同上)。 以上のような本件解釈変更の必要性に関する事情を踏まえると、検察官に勤務延長の規定は適用されないという従来の解釈を、上記アのような短期間の検討等をもって変更した理由は、合理的に考えれば、定年退官を間 近に控えたA検事長の勤務延長を行うことしかあり得ないというべ 務延長の規定は適用されないという従来の解釈を、上記アのような短期間の検討等をもって変更した理由は、合理的に考えれば、定年退官を間 近に控えたA検事長の勤務延長を行うことしかあり得ないというべきであって、それ以外に納得し得る理由や目的を見いだすことは困難である。 ウ被告の主張について(ア) 本件解釈変更に係る事実経過(上記ア)について被告は、法務省が本件解釈変更に関する関係機関との協議を短期間の うちに実施したのは、国公法改正案が令和2年通常国会に提出されることが見込まれ、仮に本件解釈変更を行うこととなれば、これを国公法改正案に反映させる必要があったところ、国公法改正案の提出時期との関係で、当該反映に係る作業期間が十分に確保できないおそれがあったためであり、A検事長の勤務延長を目的としていたからではないと主張す る(B証人74~76頁も同旨)。 - 28 -しかし、検察官にも勤務延長の必要があるのであれば、国会の議決を得て検察庁法をそのように改正すればよいのであり、そもそも、検察庁法の改正に先行して本件解釈変更を行う必要はないはずである。検察官の勤務延長を認める内容の検察庁法の改正を待つことなく、それと同じ効果を有する本件解釈変更をごく短期間で行ったのは、検察庁法の改正 を待てない理由があったこと、すなわち、定年退官が迫っていたA検事長の勤務延長という目的があったことを強く裏付けているといえる。 また、本件解釈変更を反映した第二次改正案が令和2年通常国会に提出される見込みであったのであれば、第二次改正案が国会で成立してから、検察官の勤務延長の手続や要件等について十分に準備し、全国の検 察庁や検察官に周知した上で、検察官の勤務延長を行えばよいはずである。そのような手順が採られることなく、 案が国会で成立してから、検察官の勤務延長の手続や要件等について十分に準備し、全国の検 察庁や検察官に周知した上で、検察官の勤務延長を行えばよいはずである。そのような手順が採られることなく、本件解釈変更をもって直ちにA検事長の勤務延長が行われたのは、正にそれを目的としていたからであると考えざるを得ない。 被告の上記主張は採用することができない。 (イ) 本件解釈変更の必要性(上記イ)について被告は、本件解釈変更について検討を始めた理由について、第一次改正案につき第200回国会への提出が見送られ、第201回国会(令和2年通常国会)への提出まで時間ができたため、国家公務員法と検察庁法の関係を見直すこととなったなどと主張し、本件解釈変更に至った理 由について、「昭和56年当時と比べ、社会経済情勢は複雑多様化し、それに伴い、犯罪情勢も複雑困難化するなど、検察官を取り巻く情勢は大きく変化しており、検察官についても、特定の職員に定年後も引き続きその職務を担当させることが公務遂行上必要な場合がある」(被告第2準備書面4頁)などと主張し、B証人もこれに沿う証言等をする(乙 31、B証人7~10、31~33頁)。 - 29 -しかし、内閣法制局第二部長の審査を終え、国会への提出を待つ状態となっていた第一次改正案があるのに、第201回国会(令和2年1月開会)まで数か月の時間的余裕ができたからといって、その基礎とされた従来の解釈を根本から再検討するというのは、よほどの理由がなければ通常はあり得ないはずである。しかるに、被告がその実質的な理由と しているのは、上記のとおり、昭和56年当時よりも社会経済情勢や犯罪情勢が大きく変化しているという一般的な情勢の変化にとどまるのであって、ごく短期間で急遽進められた本件 告がその実質的な理由と しているのは、上記のとおり、昭和56年当時よりも社会経済情勢や犯罪情勢が大きく変化しているという一般的な情勢の変化にとどまるのであって、ごく短期間で急遽進められた本件解釈変更の理由としてはあまりに一般的抽象的なものである。そもそも、当時、このような社会経済情勢や犯罪情勢の変化により検察官に勤務延長を認める必要があったの であれば、法務省刑事局は、第一次改正案の段階で検察官への勤務延長制度の導入を試みていたはずであるし、そうでなくとも、解釈変更という方法ではなく、まずは第二次改正案に直接盛り込むことや、将来の検察庁法の改正を考えるはずである。政府内でのごく短期間での解釈変更(本件解釈変更)という方法は、被告が主張する実質的な理由からみて、 あまりに唐突で強引なものであり、不自然である。 被告の上記主張は採用することができない。 (4) 小括以上のとおり、本件解釈変更に係る事実経過(上記(2))やその必要性(上記(3))に関する事情を踏まえると、本件解釈変更は、A検事長の勤務延長を 目的として行われたものと推認することができ、本件解釈変更に係る法務省内での協議、検討等についても、同様であると認められる。 したがって、本件各検討文書は、「A検事長の勤務延長を目的として行われた、本件解釈変更に係る法務省内での協議、検討等の文書」に該当し、請求対象文書1ないし3に該当すると認められる。 そうすると、法務省は、本件各不開示決定時において、請求対象文書1な - 30 -いし3を保有していたと認められるから、法務大臣が、行政文書不存在を理由に、請求対象文書1ないし3を不開示としたことは、違法である。 3 請求対象文書4の存否について(争点2関係)(1) 情報公開法において、行 いたと認められるから、法務大臣が、行政文書不存在を理由に、請求対象文書1ないし3を不開示としたことは、違法である。 3 請求対象文書4の存否について(争点2関係)(1) 情報公開法において、行政文書とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該行政機関の職員が組織 的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいうところ(2条2項本文)、行政文書の開示を請求する権利の内容は同法によって具体的に定められたものであり、行政機関の長に対する開示請求は当該行政機関が保有する行政文書をその対象とするものとされ(3条)、当該行政機関が当該行政文書を保有していることがその開示請求権の成立要件とされているこ とからすれば、開示請求の対象とされた行政文書を行政機関が保有していないことを理由とする不開示決定の取消訴訟においては、その取消しを求める者が、当該不開示決定時に当該行政機関が当該行政文書を保有していたことについて主張立証責任を負うものと解するのが相当である(最高裁平成26年7月14日第二小法廷判決・集民247号63頁参照)。 (2) 前記1(4)のとおり、請求対象文書4の意味については、本件解釈変更に係る法務省内での協議、検討等の文書であって、当時、それが別表第一番号20の「法令の解釈及び運用に関すること」に該当するものとして取り扱われ、文書取扱規則13条の決裁を経たものを意味すると解するのが相当である。 しかるところ、「本件解釈変更に係る法務省内での協議、検討等の文書」 である本件各検討文書は、いずれも、当時の運用(法律案策定の過程において検討のために策定された文書については、逐一決裁を要しないとするもの)により、文書取扱規則に定められた方法による決裁が行われなかった る本件各検討文書は、いずれも、当時の運用(法律案策定の過程において検討のために策定された文書については、逐一決裁を要しないとするもの)により、文書取扱規則に定められた方法による決裁が行われなかったものと認められるから(認定事実ウ、エ)、「別表第一番号20の『法令の解釈及び運用に関すること』に該当するものとして取り扱われ、文書取扱規則13条 の決裁を経たもの」には該当しない。 - 31 -また、その他の文書も含め、法務省が請求対象文書4に該当する文書を保有していたと認めるに足りる証拠はない。 したがって、法務省が、本件各不開示決定時において、請求対象文書4を保有していたとは認められないから、法務大臣が、行政文書不存在を理由に、請求対象文書4を開示しなかったことは、適法である。 4 請求対象文書5の存否について(争点3)(1) 請求対象文書5は、「A検察官の勤務延長について、事前に内閣総理大臣(秘書官なども含む)又は内閣官房(内閣人事局を含む)との間で相談、折衝、伺い等をなした文書」である。この「相談、折衝、伺い等」とは、単なる事前の連絡や通知とは異なり、より実質的なもの、すなわち、内閣総理大臣 や内閣官房(以下「総理大臣等」という。)の意見や意向を踏まえた調整や協議を伴うものをいうと解される。 そこで、請求対象文書5の存否について検討するに、確かに、一般論として、東京高等検察庁検事長は、検察庁のいわばナンバー2であり、次の検事総長に就任する蓋然性が高く、任命権者である内閣においても、誰がその地 位に就くのかについて相応の関心を有しているものと思われる。しかも、本件においては、本件解釈変更による勤務延長というこれまでにない方法が用いられていることもあるから、法務省が、A検事長の勤務延長につ 位に就くのかについて相応の関心を有しているものと思われる。しかも、本件においては、本件解釈変更による勤務延長というこれまでにない方法が用いられていることもあるから、法務省が、A検事長の勤務延長について、事前に、総理大臣等との間で、何らかの相談や折衝等をしたことがあったとしても、何ら不自然ではない。 しかし、実際に、法務省と総理大臣等との間で、A検事長の勤務延長について、「相談、折衝、伺い等」が行われていたことを裏付ける的確な証拠は見当たらない(なお、原告から提出された書籍には、B事務次官が検事総長の人事の相談で官邸を訪問した旨の記載があるが〔甲9・171頁〕、その取材源等は不明であり、信用性の検証も困難であるから、上記の点を裏付ける ものとはいえない。)。また、仮にこのような「相談、折衝、伺い等」が行わ - 32 -れていたとしても、このような相談や折衝等は、事柄の性質上、秘匿性の高いものであって、関与する者も極めて少数であると考えられるから、このような「相談、折衝、伺い等」においては、文書が作成されない可能性も十分にあるし、何らかの文書が作成されていても、備忘のための個人的なメモ等にとどまり、法務省が組織として使用する文書(組織共用文書)とはならない 可能性も十分にある(なお、C法務大臣は、第201回国会衆議院内閣委員会において、A検事長の人事に関する本件閣議請議書以外の行政文書の有無について問われ、「個別の人事ということであれば、それが全てでございます。」と答弁している〔乙20〕。)。 そうすると、少なくとも本件の証拠関係の下では、法務省が、本件各不開 示決定時において、「A検察官の勤務延長について、事前に内閣総理大臣(秘書官なども含む)又は内閣官房(内閣人事局を含む)との間で相談、折衝、伺い 本件の証拠関係の下では、法務省が、本件各不開 示決定時において、「A検察官の勤務延長について、事前に内閣総理大臣(秘書官なども含む)又は内閣官房(内閣人事局を含む)との間で相談、折衝、伺い等をなした文書」(請求対象文書5)を保有していたとは認められない。 (2) これに対し、原告は、検事長の任命は内閣の権限に属する事項であるから、総理大臣等と法務省の担当者との間で事前に相談等をすることなく、突然に 本件閣議請議に至ることはあり得ないとか、公文書作成を要するようなやり取りがなければ、内閣はA検事長の勤務延長に係る本件閣議決定を行い得ないなどと主張する。 しかし、一般論として、検事長の人事につき、閣議の前に誰と誰との間でどのようなやり取りが行われるか(あるいは行われないか)は、証拠上明ら かではなく、原告が主張するような経験則が当てはまるのかどうかも定かではない。そして、上記(1)のとおり、本件の証拠関係の下では、法務省と総理大臣等との間で、A検事長の勤務延長について事前に「相談、折衝、伺い等」が行われていたかどうかは証拠上明らかでなく、仮に行われていたとしても、そのことに関し、法務省が何らかの行政文書を作成し又は取得していたとは 認められない。 - 33 -したがって、原告の上記主張は採用することができない。 (3) 以上のとおり、本件各不開示決定時において、法務省が請求対象文書5を保有していたとは認められないから、法務大臣が、行政文書不存在を理由に、請求対象文書5を開示しなかったことは、適法である。 5 法務省の職員が請求対象文書1ないし5を作成しなかったことの国家賠償法 上の違法性等について(争点4)(1) 前記のとおり、本件各不開示決定において、法務大臣が請求対象文書1ないし3を不開 法務省の職員が請求対象文書1ないし5を作成しなかったことの国家賠償法 上の違法性等について(争点4)(1) 前記のとおり、本件各不開示決定において、法務大臣が請求対象文書1ないし3を不開示としたことは違法であるが、法務大臣が請求対象文書4及び5を不開示としたことは適法である。 原告の国家賠償請求は、本件各不開示決定の取消請求との関係で予備的請 求として位置付けられており、請求対象文書1ないし3の関係では判断を要しないため、以下、法務省の職員が請求対象文書4及び5を作成しなかったことの国家賠償法上の違法性について検討する。 (2) 公務員による公権力の行使に国家賠償法1条1項にいう違法があるというためには、公務員が、当該行為によって損害を被ったと主張する者に対して 負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必要である(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁、最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁等参照)。 原告は、法務省の職員は、公文書管理法4条に基づき、請求対象文書4及び5を作成する職務上の法的義務を負っている旨主張する。 しかし、公文書管理法4条が定める行政機関の職員の文書作成義務は、公文書管理制度の目的である国民全体の一般的利益の実現という公益に資するためのものであって(同法1条参照)、行政機関の職員が個々の国民に対して職務上の法的義務を負担する旨を定めるものではないというべきである。 したがって、公文書管理法4条は、法務省の職員が原告個人に対して負う職 務上の法的義務の根拠となるものではないから、同条違反の事実があるか否 - 34 -かについて詳細に検討するまでもなく、原告の上記主張は採用することができない。 なお、原 て負う職 務上の法的義務の根拠となるものではないから、同条違反の事実があるか否 - 34 -かについて詳細に検討するまでもなく、原告の上記主張は採用することができない。 なお、原告は、法務省の職員は、請求対象文書4及び5を、情報公開請求を行う国民に秘密にする目的であえて作成しなかったと主張するが、そのような事実を認めるに足りる的確な証拠はない。 (3) したがって、法務省の職員が請求対象文書4及び5を作成しなかったことが、国家賠償法上違法であるとは認められない。 6 まとめ(1) 主位的請求(本件各不開示決定の取消請求)について上記1ないし4のとおり、本件各不開示決定のうち、請求対象文書1ない し3を不開示とした部分は違法であるが、請求対象文書4及び5を不開示とした部分は適法であるから、原告の本件各不開示決定の取消請求は、本件各不開示決定のうち請求対象文書1ないし3を不開示とした部分の取消しを求める限度で理由があり、その余はいずれも理由がない。 (2) 予備的請求(国家賠償請求)について 上記5のとおり、法務省の職員が請求対象文書4及び5を作成しなかったことが国家賠償法上違法であるとは認められないから、原告の国家賠償請求は理由がない。なお、原告の国家賠償請求のうち、法務省の職員が請求対象文書1ないし3を作成しなかったことを違法行為とする部分は、判断を要しない。 第4 結論よって、原告の請求は主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し、その余の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 - 35 -大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官徳地 淳 理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 - 35 -大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官徳地 淳 裁判官太田章子 裁判官新宮智之は、転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官徳地 淳 - 36 -(別紙1の掲載省略) - 37 -(別紙2)開示請求文書目録 1 2020年1月29日法務省人検第18号において法務大臣が内閣総理大臣に対して「別紙の理由により国家公務員法第81条の3第1項に基づき東京高等検 察庁検事長Aを令和2年8月7日まで勤務延長させることが必要と認められますので、閣議の上、然るべくお取り計らい願います」と閣議要請をしているところ、この閣議要請のために国家公務員法第81条の3第1項に基づきA検察官を勤務延長することにつき検察庁法の解釈(解釈の変更を含む)について法務省内において協議、検討、決裁、供覧した文書 2 上記1の閣議要請のために国家公務員法第81条の3第1項が定年後の検察官にも適用されるとの解釈(解釈の変更を含む)について法務省内部で協議、検討、決裁、供覧した文書 3 上記1の閣議要請のため、法務省公文書取扱規則13条には「部局長以上の決裁を要する決裁事項及び決裁者は別表第一に定めるところによる」と規定されて おり、別表第一(第13条関係)(1共通事項)番号20の(決裁事項)欄には「法令の解釈及び運用に関すること」として決裁者は部局長とあることから、国家公務員法第81条の3の勤務延長の規定を検 おり、別表第一(第13条関係)(1共通事項)番号20の(決裁事項)欄には「法令の解釈及び運用に関すること」として決裁者は部局長とあることから、国家公務員法第81条の3の勤務延長の規定を検察官に適用することに関する解釈(解釈の変更を含む)についての法務省内での協議、検討、起案、決裁、供覧した文書 4 法務省公文書取扱規則13条には「部局長以上の決裁を要する決裁事項及び決裁者は別表第一に定めるところによる」と規定されており、同規則別表第一(第13条関係)(1共通事項)番号20の(決裁事項)欄には「法令の解釈及び運用に関すること」として決裁者は部局長とあるところ、同規則別表第一番号20に該当する国家公務員法81条の3の勤務延長の規定を検察官に適用されるか否か の「解釈(解釈の変更を含む)及び運用に関すること」についての法務省内での - 38 -協議、検討、起案、決裁、供覧した文書 5 上記1のA検察官の勤務延長について、事前に内閣総理大臣(秘書官なども含む)又は内閣官房(内閣人事局を含む)との間で相談、折衝、伺い等をなした文書 6 上記1の法務大臣が閣議決定を求めることについて、法務省の担当部局の者が 法務大臣宛の上奏を協議、検討、決裁、供覧した文書
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