平成9(行ツ)78 当選無効

裁判年月日・裁判所
平成9年8月25日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 平成7(行ケ)242
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判決文本文4,142 文字)

主文 原判決を破棄する。 平成七年四月二三日執行の東村山市議会議員選挙の当選の効力に関する審査の申立てに対し被上告人が同年九月四日にした裁決を取り消す。 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。 理由 上告代理人佐竹俊之、同東澤靖の上告理由第二について一本件は、平成七年四月二三日執行の東村山市議会議員選挙(以下「本件選挙」という。)の当選人D(以下「D」という。)が住所移転により被選挙権を喪失したとしてされたEを当選人とする繰上補充(繰上当選)につき、選挙人である上告人らがその効力を争って公職選挙法(以下「公選法」という。)二〇六条一頃に基づく異議の申出をしたが、東村山市選挙管理委員会(以下「市選挙管理委員会」という。)はこれを棄却する決定をし、上告人らからされた同条二項に基づく審査の申立てについても同年九月四日に被上告人が棄却の裁決をしたため、上告人らが、公選法二〇七条に基づき、被上告人のした右裁決の取消しを求めるものである。 二原審の適法に確定した事実関係の概要は、以下のとおりである。 1 D、その母である亡F、Eらは政治グループ「G」に属し、本件選挙では同グループから右の三名が立候補していた。本件選挙において選挙すべき議員の数は二七名、立候補者は三四名であったが、Fが一位、Dが四位で当選し、Eは次点となった。平成七年四月二四日、選挙会は当選人二七名を確定して市選挙管理委員会に報告し、同委員会は、同日、当選人の告示を行った。 2 本件選挙に係る東村山市議会議員の任期は、同年五月一日から平成一一年四月三〇日までである。 3 Dは、次点者であるEを当選させるため、平成七年四月二六日午前、市選挙- 1 -管理委員会を訪れ、当選の辞退を申し出た後、東村山市長に対し松戸市aへの 日から平成一一年四月三〇日までである。 3 Dは、次点者であるEを当選させるため、平成七年四月二六日午前、市選挙- 1 -管理委員会を訪れ、当選の辞退を申し出た後、東村山市長に対し松戸市aへの転出届を提出し、松戸市への転入手続を執った上、同日午後、再度市選挙管理委員会を訪れ、右転出に関する転出証明書を添えて、同日松戸市に転出したため被選挙権を失った旨を届け出た。 4 市選挙管理委員会は、Dが被選挙権の喪失により当選人の資格を失ったと判断し、同月二七日、繰上当選決定のための選挙会を翌二八日午後六時に開催することを決定、告示したが、同日開催の選挙会及び同年五月一一日開催の継続選挙会では、当選人の決定がされず、結局、同月二一日開催の継続選挙会において、ようやく次点者Eを当選人とすることが決定された。そして、市選挙管理委員会は、その旨の選挙長からの報告に基づき、同日これを告示した。 5 Dの転出先とされた松戸市aの住所は、Dの父の部下一家が住む社宅であった。Dは、同月九日には松戸市bのDの父が役員をしている会社の代表者所有のワンルームマンション所在地への転居の届出をし、同月二九日には松戸市cの第三者所有の賃貸マンション所在地への転居の届出をした。Dは、現在、右マンションを生活の本拠としている。 三原審は、右事実関係の下において、Dが東村山市から松戸市への転出届をしたのは、次点者であるEを当選させるためのものであることは明らかであるが、住所を移転させる強固な目的で、平成七年四月二六日に松戸市への転出の届出をし、わずかの期間に松戸市内で二度転居した旨の届出をしたが、同年五月二九日に転居手続を執った住所がそのまま現在の生活の本拠となっていることからすると、Dは、同年四月二六日に東村山市から松戸市に生活の本拠を移転したといわざるを得ないと説 た旨の届出をしたが、同年五月二九日に転居手続を執った住所がそのまま現在の生活の本拠となっていることからすると、Dは、同年四月二六日に東村山市から松戸市に生活の本拠を移転したといわざるを得ないと説示し、上告人らの請求を棄却した。 四しかしながら、原審の右認定判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 - 2 - 1 公選法一〇条一項五号、九条二項によれば、「引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有すること」が市町村議会議員の被選挙権の要件の一つとされているが、ここにいう住所とは、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である(最高裁昭和二九(オ)第四一二号同年一〇月二〇日大法廷判決・民集八巻一〇号一九〇七頁、最高裁昭和三二年(オ)第五五二号同年九月一三日第二小法廷判決・裁判集民事二七号八〇一頁、最高裁昭和三五年(オ)第四号同年三月二二日第三小法廷判決・民集一四巻四号五五一頁参照)。 また、公選法九九条は、当選人は、その選挙の期日後に被選挙権を有しなくなったときは、当選を失うものとし、公選法九七条一項は、当選人が九九条等の規定により当選を失ったときは、直ちに選挙会を開き、法定得票数以上の得票者で当選人とならなかったものの中から当選人を定めなければならないとしている。しかし、当選人としての地位は、議員としての身分を取得した時をもって終了するから、その者がいったん議員としての身分を取得した後においては、被選挙権を有しなくなったことを理由として公選法九七条一項の規定による繰上補充を行うことはできず、右の者の被選挙権の有無については、議員の失職について定 ったん議員としての身分を取得した後においては、被選挙権を有しなくなったことを理由として公選法九七条一項の規定による繰上補充を行うことはできず、右の者の被選挙権の有無については、議員の失職について定める地方自治法一二七条により、議会がこれを決定すべきことになる。 2 これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、Dが従前東村山市に生活の本拠としての住所を有していたことは明らかである(記録によれば、同市を本籍地とし、昭和四二年出生以来同市に居住し、本件選挙当時は、母、弟らと同居していたこともうかがわれる。)ところ、Dは、本件選挙の当選人の告示の後、当選を辞退し、次点者のEを当選人とすることを目的として、急きょ、松戸市への転出の届出をしたものであり、同女が単身転出したとする先は、父の部下一家が居住す- 3 -る社宅であった上、その後、わずかの間に、いずれも松戸市内とはいえ、二度にわたり転居の届出をしているというのである。そうすると、仮に、Dが、現実に平成七年四月二六日以降松戸市aで起居し、同年五月二九日以降は松戸市cのマンションを生活の本拠としているとしても、松戸市aの前記社宅は生活の本拠を定めるまでの一時的な滞在場所にすぎず、せいぜい居所にとどまるものといわざるを得ない。 これによって、従前の全生活の中心であった東村山市から直ちに松戸市に生活の本拠が移転したものとみることはできない。原審は、住所を移転させる強固な目的で転出届をしていることを、住所移転を肯定する理由の一つとして説示するが、前示のとおり、一定の場所が住所に当たるか否かは、客観的な生活の本拠たる実体を具備しているか否かによって決すべきものであるから、主観的に住所を移転させる意思があることのみをもって直ちに住所の設定、喪失を生ずるものではなく、また、住所を移転させる目的で転出 活の本拠たる実体を具備しているか否かによって決すべきものであるから、主観的に住所を移転させる意思があることのみをもって直ちに住所の設定、喪失を生ずるものではなく、また、住所を移転させる目的で転出届がされ、住民基本台帳上転出の記録がされたとしても、実際に生活の本拠を移転していなかったときは、住所を移転したものと扱うことはできないのである。結局、原審の認定する事実によれば、記録に現れたその他の事情を勘案しても、平成七年四月三〇日までに、Dの生活の本拠が松戸市内に移転し、Dが東村山市内に有していた住所を失ったとみることは到底できないものというほかはない。 本件選挙による当選人Dは、右に説示したとおり、平成七年四月三〇日までに東村山市の住所を失ったということができない以上、当選人としての地位を有したまま同年五月一日に至り、同日から東村山市議会議員としての身分を取得したこととなり、その後住所を有しなくなったために被選挙権を失ったとしても、もはや市選挙管理委員会又は選挙会において被選挙権の喪失を理由とする繰上補充の手続を執ることはできず、被選挙権を失ったことを理由として議員の職を失うかどうかは、東村山市議会の決定にゆだねられるものと解さざるを得ない。 - 4 -したがって、本件繰上補充は、当選人であるDが被選挙権を失っていなかったにもかかわらず、これを失ったものと誤認してされた点において違法であり、Eの当選には無効事由があるというべきである。そうすると、この趣旨をいう上告人らからの審査の申立てを棄却した被上告人の本件裁決には違法があることになる。 3 以上によれば、原判決には法令の解釈適用を誤った違法があるものといわざるを得ず、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、その余の上告理由に 3 以上によれば、原判決には法令の解釈適用を誤った違法があるものといわざるを得ず、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、さきに説示したところによれば、上告人らの請求は理由があるから、これを認容することとする。 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官大西勝也裁判官根岸重治裁判官河合伸一裁判官福田博- 5 -

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