平成17年(行ウ)第58号遺族補償年金等不支給処分取消請求事件口頭弁論終結日平成19年12月27日判決主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求豊橋労働基準監督署長が原告に対し平成14年9月13日付けでした労働者災害補償保険法による遺族補償年金及び葬祭料を支給しない旨の各処分を取り消す。 第2事案の概要 本件は,株式会社マツヤデンキ(以下「本件事業主」という。)に勤務していた被災者の妻である原告が,慢性心不全を基礎疾患とする致死性不整脈発症による被災者の死亡が業務に起因するものであると主張し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償年金及び葬祭料を不支給とした平成14年9月13日付けの豊橋労働基準監督署長の各処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求める事案である。 争いのない事実等(掲記の証拠等により容易に認定できる事実を含む。)(1) 被災者の経歴・病歴等ア被災者は,昭和38年▲月▲日に出生し,昭和56年4月以降,A株式会社等で就労していたものであるが,平成9年4月末ころ,体調不良を訴え,同年5月14日,悪心,おう吐,全身浮腫を主訴として,豊橋市民病院を受診したところ,甲状腺クリーゼ,心不全(バセドウ病の放置に伴う慢性心不全の急性増悪,乙39・3頁),バセドウ病及び播種性血管内凝固症候群との臨床診断を受け,同日から入院することとなった(乙39・4頁)。被災者は,同年11月11日,心房細動により家庭内での日常生活活動が著しく制限される心臓機能障害(身体障害者等級3級)を有するとして,愛知県から身体障害者手帳(甲1)の交付を受け,同月15日,同市民病院を退院した。 イ被災者は,平成10年4月,障害者職業能力開発校に入校し, れる心臓機能障害(身体障害者等級3級)を有するとして,愛知県から身体障害者手帳(甲1)の交付を受け,同月15日,同市民病院を退院した。 イ被災者は,平成10年4月,障害者職業能力開発校に入校し,平成11年3月,同校を卒業し,同年4月,原告と結婚した。 被災者は,平成11年5月,株式会社タマディックに入社して機械設計などの業務に従事したが,平成12年1月,同社を退職し,その後は,アルバイトをしながら求職活動をしていた。 被災者は,平成12年10月17日に開催された障害者の就職のための集団面接会において,家庭電化製品の小売等を業とする本件事業主の一次面接を受け,同月28日の二次面接を経て,同年11月10日,本件事業主に身体障害者枠で採用され,愛知県豊川市所在のT店で勤務することとなった。なお,このころのT店店長は,Hであった。 (2) T店T店では,1階で冷蔵庫や洗濯機などが販売され,2階でテレビやビデオなどが販売されていたが,平成12年11月末ころ,店舗改装が行われ,2階にあったパソコン売場をそれまでは倉庫として使用していた3階に移した。 店舗内には,エスカレーターがあり,従業員もエスカレーターを使用して,各階への移動を行っていた。 T店は,毎年11月から年末にかけては,家庭電化製品の販売が増え,特に12月に入った後は,クリスマス・年末商戦に向けて繁忙となり,平成12年当時も同様であった。 (3) 主な担当業務本件事業主に採用された後の被災者の主な業務内容は,平成12年12月中旬までがT店2階のゲーム機売場における接客販売業務,その後,同月24日までが同店3階のパソコン売場における接客販売業務であった。T店従業員の一般的業務内容には,接客販売業務以外にも,商品の荷受け,搬入,配達のための出荷・配送,出張修理などがあったが,被災者は,こ 4日までが同店3階のパソコン売場における接客販売業務であった。T店従業員の一般的業務内容には,接客販売業務以外にも,商品の荷受け,搬入,配達のための出荷・配送,出張修理などがあったが,被災者は,こうした業務には就かないこととされていた。 (4) 勤務時間に関連する事実関係ア通勤時間被災者は,自宅からT店まで,約30分かけて,自動車で通勤していた(被災者は,平成12年12月13日に引っ越しをしているが,通勤時間はおおむね同じであった。)。 イ所定労働時間,所定休日及び休日出勤等(乙14)被災者の所定労働時間は,午前10時始業,午後7時終業,休憩時間が60分の1日8時間であった。 所定休日は,毎週1日以上,年間105日であり,勤務割表により割り振られていた。被災者は,死亡する前の1か月間(平成12年11月25日~同年12月24日まで)において,別紙1労働時間集計表(原告主張)の労働時間欄記載のとおり,8日間の休日を取得した。 ウ勤務時間管理T店における勤務時間の管理は,タイムカードではなく,1階フロアー長であるYが勤務表に時間等を記入することによって行われていた(乙17・4項)。 エT店の営業時間被災者が配属された当時,T店の開店時刻は午前10時であり,閉店時間は午後8時であったが,平成12年12月半ば以降,閉店時間は午後9時に変更となった。 (5) 本件訴訟に至る経緯についてア被災者は,平成12年12月24日午後11時30分ころ,自宅において,慢性心不全を基礎疾患として,致死性不整脈及びこれによる「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準(乙10)」が定める対象疾病である心停止(心臓性突然死を含む。)を発症し,そのころ死亡した(以下,上記心停止に続く被災者の死亡を「本件災害」という。)。 イ 負傷に起因するものを除く。)の認定基準(乙10)」が定める対象疾病である心停止(心臓性突然死を含む。)を発症し,そのころ死亡した(以下,上記心停止に続く被災者の死亡を「本件災害」という。)。 イ原告は,豊橋労働基準監督署長に対し,本件災害が業務に起因するものであるとして,平成13年11月8日に遺族補償年金支給請求及び葬祭料請求をした。 豊橋労働基準監督署長は,平成14年9月13日,原告の上記各請求について,不支給とする旨の本件処分を行い,本件処分は,同月17日,原告に通知された。 原告は,本件処分を受けて,平成14年11月13日,愛知県労働者災害補償保険審査官に対し,審査請求をしたところ,同審査官は,平成15年7月31日,これを棄却する決定をし,同決定は,同年8月2日,原告に通知された。 原告は,上記決定を不服として,平成15年9月26日,労働保険審査会に対し,再審査請求をしたところ,同審査会は,平成17年4月21日,これを棄却する旨の裁決をし,同裁決は,同月30日ころ,原告に通知された。 そこで,原告は,平成17年10月26日,本件訴訟を提起した。 (6) 被災者の疾患に関する知見等アバセドウ病,甲状腺クリーゼ(乙64の2~4,顕著な事実)バセドウ病とは,自己免疫性異常により甲状腺ホルモンの過剰産生及び分泌が起こり(甲状腺機能亢進症),これによる諸症状(動悸,発汗過多等の身体症状,昏睡等の精神症状)を中心とする病態をいう。バセドウ病の経過中にみられる甲状腺クリーゼは,上記の甲状腺機能亢進症の諸症状が重篤化した状態をいい,早期に治療しないと死亡する確率が高い。 イ心房細動(乙63の2)心房細動とは,心房全体としての統一ある収縮がなくなった状態のうち,心房の各部が無秩序,不規則に興奮して,心電図上,f波と呼ばれる毎分400~6 いと死亡する確率が高い。 イ心房細動(乙63の2)心房細動とは,心房全体としての統一ある収縮がなくなった状態のうち,心房の各部が無秩序,不規則に興奮して,心電図上,f波と呼ばれる毎分400~600回の不規則な波(拍数)が出現するものをいい,心房細動を起こしやすい疾患には,甲状腺機能亢進症も含まれる。心房細動は,心不全を誘発,悪化させる要因となり,また塞栓症の原因となる。 ウ慢性心不全(甲24)慢性心不全とは,慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し,安静時及び運動時の各臓器の酸素需要に見合う血液量が肺静脈圧の上昇なしには供給できない病態をいい,その結果として,肺うっ血,静脈うっ血を来して,労作時の呼吸困難及び息切れを初期症状とする種々の症状が出現し,運動耐容能が低下する。 エ心機能分類等(甲23,乙41添付参考文献3・1041頁・表7)(ア) 心不全の重症度の指標として,ニューヨーク心臓協会(NYHA)が日常生活上の運動耐容能からみた息切れ,動悸といった患者の自覚症状の出現に基づく4段階の心機能分類(以下「NYHAⅠ~Ⅳ」という。)を定めており,かかる心機能分類は,臨床的に広く用いられている。 (イ) 被災者は,平成9年5月の豊橋市民病院への緊急入院時に,NYHAⅣ(心疾患を有し,無症状では身体活動が行えない,安静時にも心不全や狭心症の症状が起き,どのような労作でも症状が増悪する状態)であり,同年11月の同病院の退院時は,NYHAⅡ(心疾患を有し,わずかに身体活動に制限があり,安静時には症状がないが,通常の身体活動で疲労,動悸,息切れ,狭心症を生じる状態)に回復し,その後,本件事業主に就職した当時も,NYHAⅡであった。 (ウ) 心不全患者の運動許容条件として,安静座位の酸素摂取量を1とする代謝当量による運動強度が広く用 息切れ,狭心症を生じる状態)に回復し,その後,本件事業主に就職した当時も,NYHAⅡであった。 (ウ) 心不全患者の運動許容条件として,安静座位の酸素摂取量を1とする代謝当量による運動強度が広く用いられている(以下「1.0~8. 0METS」などという。)。METS値は,各種身体運動の心臓への負担の指標となるものである。 可能な運動強度と心機能分類との関係について,ゴールドマンの基準では,5.0~7.0METSの運動が可能な者をNYHAⅡに,7. 0METS以上の運動が可能な者をNYHAⅠに分類する。しかし,かかる分類によると,NYHAⅠとⅡの境界が不明確となることから,日本循環器学会では,可能な運動強度と心機能分類との関係について,NYHAⅡの患者につき5.0~6.0METS,NYHAⅠの患者につき7.0METS以上と定めている。 争点 本件災害が業務に起因するものであるか否かが本件の争点であり,その中で,①業務と災害との間の相当因果関係が必要であることを前提とした上で,その判断方法,②本件災害と業務との相当因果関係の存否が主として争われている。 (1) 原告の主張ア相当因果関係の判断方法本件のように労働者が脳・心疾患を発症して死亡するに至った事案においては,他に確たる発症因子がなく,当該労働者の従事していた業務が同人の有していた基礎疾患を自然的経過を超えて増悪させる要因となりうる負荷(過重負荷)のある業務であったと認められるときは,その基礎疾患が確たる発症因子がなくてもその自然的経過により脳・心疾患を発症させる寸前まで進行していたと認められないかぎり,その増悪による死亡と業務との間の相当因果関係を肯定するのが相当である。 また,被告が主張する危険性の要件や現実化の要件についていえば,前者は,業務が当該労働者にとって過重であった められないかぎり,その増悪による死亡と業務との間の相当因果関係を肯定するのが相当である。 また,被告が主張する危険性の要件や現実化の要件についていえば,前者は,業務が当該労働者にとって過重であったか否かによるべきであり,後者は,業務が他の原因と共働原因となって災害を招いたと認められる場合には,業務と災害との間に相当因果関係があると認められるべきであり(共働原因説),被災者が日常生活において通常受ける心身の負担は業務起因性の判断に際して考慮すべきではない。そして,そのように解すべき理由は,前者については,労働安全衛生法,同施行規則において,事業者が労働者に対し健康診断を実施してそれに応じた適切な労務管理を行うことを義務づけられ,さらに,障害者の権利宣言等の国際条約,これを受けた身体障害者雇用促進法,厚生労働省が定めた障害者雇用対策基本方針において,障害者の働く権利につき,事業主が,障害の特性に配慮した労働時間の管理等をすること,職場の理解を深めること,心臓機能障害者等に職務が身体的に過重とならないよう配慮することなどを求められていることにあり,また,使用者に雇い入れ時の健康診断を怠るという重大な安全配慮義務違反があり,当該業務が被災者にとって被災者の健康状態に照らして,過重なものであるか否か判断できないとすれば,そのことによる不利益は使用者が負担すべきであるから,業務起因性の判断に当たっては,使用者に同義務違反がない場合に比較して,相当因果関係を緩やかに解すべきである。後者については,労災補償制度は,労働者が人たるに値する生活を営むため必要を充たすべき最低労働条件を定立するという観点から業務の過重性を判断すべきだからである。なかんずく,事業主に前記のような安全配慮義務違反がある場合には一層である。 さらにいえば,前記の法令,条約に鑑 を充たすべき最低労働条件を定立するという観点から業務の過重性を判断すべきだからである。なかんずく,事業主に前記のような安全配慮義務違反がある場合には一層である。 さらにいえば,前記の法令,条約に鑑み,障害者に対する合理的配慮,すなわち,障害に即した過重性判断がなされるべきであることからすると,心臓機能に障害を有する障害者にはそもそも時間外労働をさせること自体が過重な業務であるというべきであり,また,立ち仕事自体も過重な業務であった可能性があるところ,仮にそうであると断定できないとしても,それによる不利益は前記のとおり使用者に帰すべきである。 イ本件災害と業務との相当因果関係(ア) 労働時間被災者は,別紙1労働時間集計表(原告主張)のとおり,本件災害前の1か月間に44時間30分の時間外労働を行った。かかる時間外労働時間の量は,認定基準(乙10)に照らしても,業務と発症との関連性が認められる程度に達するものである上,被災者は,平成12年11月下旬から本件災害当日に向けて,徐々に時間外労働時間が増えていき,とりわけ本件災害前の1週間には,4日間も午後9時まで勤務するなど,その業務は,被災者が慢性心不全の基礎疾患を有し,疲労しやすく,また疲労の回復に時間がかかるものであったことをも考慮すると,量的に過重であった。 被災者の時間外労働時間数の算出根拠は次のとおりである。 a勤務開始時刻着替えに要する時間は,労働時間に入ると解すべきであるところ,被災者は,毎朝,遅くとも午前9時には出社して着替えを行い,商品に関する勉強会に出席した後,午前9時30分の朝礼に出席するなどし,本件事業主の指揮命令の下,午前9時からT店が開店する午前10時までの1時間,前残業を行っていた。 b休憩時間被災者は,昼休みには,接客業務の忙しさのため,食後すぐに職 分の朝礼に出席するなどし,本件事業主の指揮命令の下,午前9時からT店が開店する午前10時までの1時間,前残業を行っていた。 b休憩時間被災者は,昼休みには,接客業務の忙しさのため,食後すぐに職場に戻らなければならず,60分の休憩時間を確保することができず,とりわけ,繁忙期であった12月には,休憩時間が更に短くなった可能性がある。他方で,被災者は,疲れたときなどに,適宜休息をとっていたことを考慮すると,被災者の労働時間を算出するに当たっては,休憩時間として1時間を控除するにとどめるべきである。 c勤務終了時刻被災者の勤務終了時刻は,基本的に,その手帳(甲34)に記載された勤務終了時刻の予定に基づいて算出すべきであり,原告が把握している帰宅時間,所定終業時刻,T店の閉店時刻等から手帳に記載された予定よりも遅い時間まで勤務をしていたことが判明する場合には,これによるべきである。 (イ) 勤務状況aT店の繁忙さT店は,被災者が本件事業主に就職した平成12年11月から12月にかけて,家庭電化製品の販売においてピークを迎える時期であり,とりわけ12月は,クリスマス,年末に向けて,繁忙を極めた。T店の繁忙さは,本件事業主が,平成12年12月半ば以降の営業時間を1時間延長するほどであった。 被災者は,かかる繁忙さのため,労働時間は所定労働時間を上回るようになり,昼の休憩時間を十分にとることができず,また,休息する時間もほとんどなかったほか,休日も少なかった。心臓機能に障害がある被災者の疲労回復は,休憩・休息時間や休日が少なかったことにより,より一層困難なものとなった。 被災者は,このようなT店の繁忙さにより,強い身体的負荷を受け,特に,12月中旬以降,被災者は,身体に大きな疲労を蓄積させていった。 b立ち仕事立ち仕事を続けることは り一層困難なものとなった。 被災者は,このようなT店の繁忙さにより,強い身体的負荷を受け,特に,12月中旬以降,被災者は,身体に大きな疲労を蓄積させていった。 b立ち仕事立ち仕事を続けることは,発汗が減って体内に水分がたまりやすくなるため,身体の下方に浮腫を生じさせて循環する血液量を減少させるほか,座位の事務的な仕事に比べて,心拍数が増加して心筋の酸素消費量も増加するため,心臓への負担が大きくなるなど,心臓機能障害を有する者にとって身体に極めて大きな負荷を及ぼす。また,立ち仕事の運動強度は,接客による負荷を除いても3.0~3.75METSに達するところ,心臓機能障害を有する者は,最大酸素摂取量の40%程度の運動にとどめるべきであるから,このような立ち仕事に8時間にわたって従事するためには,7.5~9.25METSの運動耐容能が必要となる。 以上によれば,心臓機能障害を有し,運動耐容能が5.0~6.0METSであった被災者は,休憩もほとんどとれない状況の下,8時間を超えて立ち仕事に従事したことにより,極めて強い身体的負荷を受けたことが明らかである。 c商品運搬本件事業主は,被災者が心臓機能障害を有し,重い物を持ったり,走ったり,配達したりすることができないことを認識していたにもかかわらず,被災者の業務内容に対する配慮をしなかったため,被災者は,客が購入した商品を駐車場に運ぶ作業をし,繁忙期であった12月には,そのような機会も多かった。 また,心臓機能障害を有する被災者は,大きな温度差にさらされることを避ける必要があったにもかかわらず,本件事業主は,被災者が客の購入商品を駐車場に運ぶ仕事をする際に上着を着させるなどの配慮をしなかったため,被災者は,客の購入商品を駐車場に運ぶ際,上着を着て外に出ることができず,大きな寒暖の差にさ 本件事業主は,被災者が客の購入商品を駐車場に運ぶ仕事をする際に上着を着させるなどの配慮をしなかったため,被災者は,客の購入商品を駐車場に運ぶ際,上着を着て外に出ることができず,大きな寒暖の差にさらされた。 被災者は,こうした商品運搬業務により,強い身体的負荷を受けた。 dノルマT店では,本件事業主の指示を受けた店長のHにより,個人別予算と呼ばれる売上ノルマが決められており,被災者については,平成12年12月度の売上ノルマが300万円と定められた。中途採用で研修もなく業務に就いた被災者は,こうしたノルマがあることを気に掛け,ノルマが定められること自体で精神的負荷を受けた。 e心臓機能障害に対する偏見及び配慮不足平成12年11月末ころから12月3日までの間に,本件事業主の部長クラスと思われる従業員が,他の従業員に対し,被災者に聞こえる場所で殊更に,「何もできない奴をよく雇ったな。」と言い,この発言をきっかけとして,T店従業員の被災者に対する態度が急に厳しいものに変わるという出来事があった。被災者は,かかる出来事があった日,苛立った様子で帰宅し,原告に対し,「長くは働けない。辞めたい。」と漏らすなどしたことから明らかなように,上記のような出来事により,被災者は大きな精神的負荷を受けた。 また,本件事業主は,被災者を心臓機能障害3級を有するものとして身体障害者枠で採用しておきながら,被災者に自らの障害について店長のHと話合いをする機会を与えなかった。これにより,被災者は,自らの障害について他の従業員がどこまで理解しているか分からない状態で勤務することを余儀なくされた。その他,前記のとおり本件事業主は,被災者にその心臓機能障害に対する配慮を欠いた勤務をさせた。被災者は,心臓機能障害に対するこうした本件事業主の配慮不足により,身体的にも することを余儀なくされた。その他,前記のとおり本件事業主は,被災者にその心臓機能障害に対する配慮を欠いた勤務をさせた。被災者は,心臓機能障害に対するこうした本件事業主の配慮不足により,身体的にも精神的にも疲労を蓄積させた。 (ウ) 過重な業務による疲労蓄積及び心不全増悪の現れ被災者は,T店の営業時間も延長され,より繁忙となった平成12年12月半ば以降,足が浮腫み,これを原告に訴えるようになった上,被災者の死体検案でも,担当医師により足の大きな浮腫が確認されているが,被災者の足が浮腫んでいたことは,立ち仕事による疲労蓄積及び心不全の増悪の現れである。 被災者は,仕事から帰宅した後,度々,風呂に入らずに寝てしまうようになり,寝ているときに,いびきをかくようになった上,鼻血を出したこともあった。そして,休日には,起床時間も遅くなっていった。また,被災者は,T店に勤務するようになってから,自宅において,1日の休日では疲れが取れない旨を原告に述べたことがあるほか,苛立ちを見せたり,些細なことで言い争いをするようにもなった。これらの家庭での被災者の様子は,心臓機能障害により,疲れやすく,疲労回復に時間を要する被災者が,T店における業務により疲労を蓄積させていたことの現れである。 (エ) 業務外の負荷前記主張のとおり,被災者が日常生活において通常受ける心身の負担は業務上の判断に際して考慮すべきではないが,この点を措くとしても,平成12年12月12日及び同月13日の引っ越し作業を業務外の負荷とする被告の主張は,以下のとおり誤っている。 被災者が引っ越し作業を行った時間は,平成12年12月12日は午前10時ころから夕方まで,同月13日は午後から夕方までと短時間にすぎず,また適宜休憩をとりながらの作業であった。引っ越し作業に際しては,原告及びその父 業を行った時間は,平成12年12月12日は午前10時ころから夕方まで,同月13日は午後から夕方までと短時間にすぎず,また適宜休憩をとりながらの作業であった。引っ越し作業に際しては,原告及びその父と手分けして行っており,引っ越し先では,原告の母も手伝い,被災者が一人で引っ越し作業をしたわけではない。 また,引っ越し荷物は,大きなものでも,三段の引き出しがある70cm×80~90cm×45cmの箪笥が2竿,綿よりも軽い素材を用いた敷き布団及び羽毛布団が大人用2組と子供用1組に過ぎず,引っ越し先の新住居が1階に位置していた上,被災者らは,これらの荷物を2日間に分けて運んだほか,箪笥は,引き出しをすべて抜き出して,1段につき5~6kgある引き出しも2人で運んだことから,引っ越し作業は過重なものとはならなかった。 被災者は,引っ越し作業に当たり,防寒着を着用していたため,大きな寒暖の差にさらされたということはなく,引っ越しに伴う市役所等での手続や買物などは,全く身体的負荷を伴うものではない。 (オ) 小括以上のように,本件事業主において,被災者が従事していた業務は,心臓機能障害を有していた被災者にとって量的・質的に過重であり,特に,平成12年12月に入ってからの時間外労働の増加は,被災者にとって著しく過重であった一方で,問題となるような業務外の負荷はなかった。 疲労の蓄積は,慢性心不全の急性増悪,又は突然死を招くものであるところ,被災者は,上記のような過重な業務によって疲労を蓄積させ,その心不全が急激に増悪して,死亡するに至ったものであるから,本件災害と業務との間に相当因果関係があることは明らかである。本件災害と業務との間に相当因果関係があることは,被災者が,豊橋市民病院退院後に良好な経過をたどり,障害者職業能力開発校就学時期及び株式会社 災害と業務との間に相当因果関係があることは明らかである。本件災害と業務との間に相当因果関係があることは,被災者が,豊橋市民病院退院後に良好な経過をたどり,障害者職業能力開発校就学時期及び株式会社タマディック勤務時期に何ら体調不良を訴えることがなかったにもかかわらず,本件事業主に就職した後である平成12年12月中旬以降,数々の体調不良を訴え,就職から1か月半ほどで死亡していることからも明らかである。 (2) 被告の主張ア相当因果関係の判断方法業務と脳・心疾患の発症との間に相当因果関係があると認められるためには,同発症が当該業務に内在する危険の現実化であることを要し,具体的には,第1に,当該業務に危険が内在していると認められること(危険性の要件),すなわち,当該業務による負荷が,当該労働者と同程度の年齢・経験等を有し,通常の業務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者又は基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる労働者(平均的労働者)にとって,血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得る程度の負荷であると認められること(平均的労働者基準説),第2に,同発症が当該業務に内在する危険の現実化によるものと認められること(現実化の要件),すなわち,当該労働者の喫煙・高血圧などの私的なリスクファクターや先天的な素因等の業務外の要因の寄与が考えられる場合は,業務の危険性が,これらの要因に比して,当該発症にとって相対的に有力な原因となったことが認められること(相対的有力原因説)を要すると解すべきである。 そして,危険性の要件における平均的労働者基準説は重篤な基礎疾患を有する者の発症を当然に業務起因性ありとすることはできないとする点で妥当であり,また,現実化の要件における相対的有力原因説も,脳・心疾患の発症の基礎 要件における平均的労働者基準説は重篤な基礎疾患を有する者の発症を当然に業務起因性ありとすることはできないとする点で妥当であり,また,現実化の要件における相対的有力原因説も,脳・心疾患の発症の基礎疾患を有している当該労働者に対して,業務に内在する危険がどのように作用し,その基礎疾患をどのように増悪させて脳・心疾患の発症に寄与したのかを当該労働者本人の事情に基づいて個別具体的に判断するものであるから,身体障害者に対しても適切な配慮をするものである。 イ本件災害と業務との相当因果関係(ア) 労働時間被災者は,本件災害直前の1か月間に,総労働時間196時間20分,そのうち時間外労働時間24時間20分の労働をしたに過ぎず,この間,2日連続の休日2回を含め,計8日の休日があった。また,被災者は,本件災害前の1週間も,総労働時間46時間10分,そのうち時間外労働時間6時間10分の労働をしたに過ぎず,本件災害の3日前と7日前に休日を取得した。このように,被災者の業務は,量的にみて過重なものではなかった。 被災者の労働時間の算出根拠は次のとおりである。 a勤務開始時刻T店においては,開店前の午前9時30分から10分ないし15分間の勉強会が行われ,その後,5分ないし10分間の朝礼が行われていた。被災者も他のT店従業員同様,上記勉強会及び朝礼に出席しており,同人の勤務開始時刻は,午前9時30分であった。 b休憩時間被災者は,昼に1時間の休憩をすることが認められていた。 被災者は,繁忙時期や土曜日,日曜日及び祝日における勤務では,昼の休憩時間を十分にとることができない日があったかもしれないが,客が少ない時間帯に随時休憩をとることができた。 c勤務終了時刻T店では,従業員の勤務終了時刻について,1か月単位で勤務シフトが組まれていたが,被災者は, ことができない日があったかもしれないが,客が少ない時間帯に随時休憩をとることができた。 c勤務終了時刻T店では,従業員の勤務終了時刻について,1か月単位で勤務シフトが組まれていたが,被災者は,T店の他の従業員とは異なってこうした勤務シフト体制に組み入れられておらず,午後7時を終業時刻とされており,原則として,残業はなかった。なお,T店は,平成12年12月半ばから繁忙期に入り,営業時間を1時間延長したが,被災者は,シフト体制に組み入れられていなかったこともあり,その終業時刻に変更はなかった。そして,本件事業主が従業員の勤怠管理に使用していた勤務表(乙25,28)は,フロアー長が,自らが最後まで店舗に残っているときには,従業員の終業時刻を直接把握し,自らが最後まで店舗に残らなかった場合には,その翌日に最後まで残っていた従業員に確認してこれを把握して記入したものであり,これに基づいて勤務終了時刻を認定すべきである。 (イ) 勤務状況以下のとおり,被災者が従事した業務は,被災者の運動耐容能評価に照らして過重なものでなく,その業務内容や職場環境,種々の配慮がなされていたことからも,被災者に過度の負担をかけるものではなかった。 a被災者の業務内容とT店の繁忙さT店は,平成12年12月,繁忙期にあったが,被災者が同月中旬まで勤務していたゲームソフト売場での業務は,ゲームソフトのレジ打ちと袋詰めのほか,客の質問等に対応すること,商品の陳列・清掃・掃除等であり,過重なものではなかったほか,同月中旬以降の勤務場所であるパソコン売場では,繁忙期といえど,パソコンが1日に2~3台売れる程度であり,客の数も少なく,多忙ではなかった。 したがって,T店が繁忙期にあっても,被災者にとって,特に負担となることはなかった。 b立ち仕事被災者は,本件事業主 パソコンが1日に2~3台売れる程度であり,客の数も少なく,多忙ではなかった。 したがって,T店が繁忙期にあっても,被災者にとって,特に負担となることはなかった。 b立ち仕事被災者は,本件事業主に就職するに当たり,接客販売業務において立ち仕事に従事する旨を採用面接時に説明がされた上で,被災者自身が販売業務を希望したことにより立ち仕事に従事することになったものである上,主治医に対し,接客販売業務に従事することを相談していなかったなど,立ち仕事に十分耐えられると考えていた。また,被災者は,その心臓機能障害のため,持続的な業務として行う場合には3.0~4.0METS,短時間であれば6.0METSの運動耐容能を有していたにとどまるが,被災者が従事していた立ち仕事は,おおむね2.3METSの運動強度にとどまる。これに対し,被災者が引っ越し前の住居で日常的に行っていたはずの階段の上り下りは,後記のとおり自重しても5.0~6.0METSの運動強度に達し,また,後記のとおり被災者には心不全の悪化を示す症状や検査所見はなかった。 以上から明らかなように,立ち仕事は,被災者の心臓機能障害を前提としても過重な業務ではなかった。 c商品運搬被災者は,主に接客販売業務に従事し,レジ打ち,商品説明,商品整理商品清掃やプライスカードの作成等の業務を行っていたが,商品運搬作業等の力仕事や客が購入した品物を1階出入口や駐車場まで運ぶ仕事は行っておらず,被災者が寒暖の差にさらされたということもない。 dノルマ本件災害当時のT店では売上値引管理表が作成され,同表には販売予算(販売目標)が記載されていたが,これは,各従業員に対し,売上金額の目安を示したに過ぎず,同表に記載された販売予算を達成できなかったとしても,特に責任等を問われることもなく,いわゆるノルマ 売予算(販売目標)が記載されていたが,これは,各従業員に対し,売上金額の目安を示したに過ぎず,同表に記載された販売予算を達成できなかったとしても,特に責任等を問われることもなく,いわゆるノルマとは性質の異なるものであった。 また,平成12年12月の被災者の販売予算は300万円と定められていたが,12月はゲームソフトにつき多額の売上が見込まれ,その中から被災者の販売予算分につき被災者の販売実績とされることになっており,現に,被災者は,販売予算を達成した。 以上から明らかなように,販売予算の設定は,被災者に対する精神的負荷を与えるものではなかった。 eなお,被災者は,入社して約1か月が経過した平成12年12月半ばに,同人の希望もあってゲーム売場の担当からパソコン売場の担当に異動しているが,扱う商品の種類が変わっただけで,前記の業務内容に変化はなく,前記の業務内容は,特に習熟度を要するものではなく,担当売場の変更は,被災者に対して,身体的・精神的負荷を課すものではなかった。 f被災者に対する配慮被災者の面接を担当した本件事業主の総務部長は,被災者がT店において勤務するに当たり,店長のHに対し,被災者に心臓機能障害があることを伝え,その業務内容について十分配慮するように伝え,Hは,被災者が勤務を開始する3,4日前の朝礼などの機会に,被災者が勤務する売場やフロアーの責任者も含めた従業員全員に対し,被災者の障害を周知し,特別な配慮を求めた。また,Hは,1日1,2回の店内見回りで被災者と顔を合わせた際,客が少なければ,被災者に対し,体の調子を尋ねるように配慮していた。 原告は,被災者が職場での偏見を受け,精神的負荷を受けた旨を主張する。しかし,T店従業員は,被災者に対し同情的で,同人をできる限り手助けしようという雰囲気にあり,被災者は,他 るように配慮していた。 原告は,被災者が職場での偏見を受け,精神的負荷を受けた旨を主張する。しかし,T店従業員は,被災者に対し同情的で,同人をできる限り手助けしようという雰囲気にあり,被災者は,他の従業員に溶け込み,仲良くしていた。したがって,原告の上記主張に係る事実はない。 (ウ) 業務外の身体的負荷a被災者は,平成12年12月12日の引っ越し前,父母とともに2階建ての住居に住み,2階にある部屋を居間としており,1日の階段の上り下りは8回程度であったと推察されるところ,階段の上り下りは,自重しても5.0~6.0METSの運動強度に達する。 b被災者は,平成12年12月12日及び同月13日の両休日にわたって,休養に努めず,原告及び原告の父親とともに,引っ越し業者を利用せずに,自宅の引っ越し作業を行った。引っ越し作業は,軽い荷物運びが3.5METS,家具,家財道具の移動・運搬が6.0METS,重い荷物の運搬となると8.0METSの運動強度に達する上,ふだん肉体労働を行っておらず,まして心臓機能障害があった被災者は,同月12日が同月1日から24日までの間で最も気温が低かったこともあり,強い身体的負荷を受け,また,生活環境が変わることなどによって,精神的負荷も受けた。 被災者は,本件災害前の2週間において,合計4日間の休日を取得していたが,これらの休日を上記引っ越し作業のほか,引っ越しに伴う市役所等での手続や買物などに費やしたため,業務外の事由により疲労を蓄積させた。 c被災者は,本件災害当日である平成12年12月24日,定時の午後7時に退社したが,その後,友人宅での忘年会に出席し,同日午後10時ころに実家に立ち寄った後,帰宅した。そのため,被災者は,自動車で移動していたとはいえ,退社後,帰宅するまでの間に,通常よりも多くの時間 退社したが,その後,友人宅での忘年会に出席し,同日午後10時ころに実家に立ち寄った後,帰宅した。そのため,被災者は,自動車で移動していたとはいえ,退社後,帰宅するまでの間に,通常よりも多くの時間を外で過ごし,外気と内気の温度差にさらされたことによる身体的負荷を受けた。 (エ) 以上のとおり,被災者の業務は本人にとっても量的及び質的に過重なものではなく,かえって,業務外の身体的負荷が被災者の死亡に影響を及ぼしたと見ることができる。 (オ) 被災者の基礎疾患と本件災害との関係なかんずく,被災者は,本件業務に従事しつつ,その死亡までの間,慢性心不全のため心機能が低下した状態にありながらも,比較的安定した状態を維持し,心不全が悪化したものとは認められず,基礎疾患の自然的経過により本件災害に至ったものである。 すなわち,被災者には,長期にわたるバセドウ病,慢性心不全及び心房細動の基礎疾患があり,かかる基礎疾患は,被災者が平成9年5月14日に入院した際に,生命の危険があり,入院が長期にわたる重篤なものであった。そして,被災者は,このような基礎疾患により,心筋変性や繊維化など,心筋に致死性不整脈を起こしうる基質を有していた。 他方,被災者には,豊橋市民病院の最終受診日である平成12年12月13日の心電図に心不全の増悪を示す兆候がなく,同日以降に呼吸困難や動悸等の症状も現れていなかった上,本件災害当日,被災者は,心停止発症の直前に原告と電話で話をしていた際に上記症状を訴えることもなかったことにも照らすと,本件災害は,被災者の慢性心不全が増悪したことにより発生したものではなく,上記基質によるものと考えるべきである。 これに対し,原告は,被災者の足が浮腫んでいたことをもって同人の心不全が増悪していたことを指摘するが,そもそも足の浮腫を裏付ける証拠はな 生したものではなく,上記基質によるものと考えるべきである。 これに対し,原告は,被災者の足が浮腫んでいたことをもって同人の心不全が増悪していたことを指摘するが,そもそも足の浮腫を裏付ける証拠はなく,仮に被災者の足が浮腫んでいたとしても,上記のような心不全の悪化の現れといえる他の症状を呈しておらず,不慣れな立ち仕事それ自体によっても足の浮腫は生じうるから,足の浮腫をもって,被災者の心不全が増悪していたということはできない。 (カ) 小括したがって,本件災害と業務との間には,相当因果関係はなく,本件災害に業務起因性はない。 第3当裁判所の判断 相当因果関係の判断方法業務と死亡等の災害との間に相当因果関係があるというためには,当該災害の発生が業務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができることを要すると解すべきであるところ(最高裁平成6年(行ツ)第24号同8年1月23日第三小法廷判決・裁判所時報1163号5頁,最高裁平成4年(行ツ)第70号同8年3月5日第三小法廷判決・集民178号621頁各参照),労働者が脳・心疾患を発症して死亡するに至った事案においては,他に確たる発症因子のあったことがうかがわれず,当該労働者の有していた脳・心疾患発症の基礎となり得る素因又は疾患が,業務によってその自然の経過を超えて増悪したと認めることができる場合には,その増悪による死亡は,当該業務に内在する危険が現実化したものとして,業務との相当因果関係を肯定するのが相当である(最高裁平成6年(行ツ)第200号同9年4月25日第三小法廷判決・裁判所時報1194号2頁,最高裁平成7年(行ツ)第156号同12年7月17日・裁判所時報1272号1頁,最高裁平成12年(行ヒ)第320号同16年9月7日第三小法廷判決・裁判所時報1371号2頁,最高裁平 1194号2頁,最高裁平成7年(行ツ)第156号同12年7月17日・裁判所時報1272号1頁,最高裁平成12年(行ヒ)第320号同16年9月7日第三小法廷判決・裁判所時報1371号2頁,最高裁平成14年(行ヒ)第96号同18年3月3日第二小法廷判決・裁判所時報1407号1頁各参照)。 原告及び被告は,業務による負荷が過重なものであるかの判断基準及び業務外の要因の考慮方法につき,それぞれ主張するが,当裁判所としては一般的にいずれを採用すべきかについて見解を示すものではないものの,本件の事案に鑑み,前者につき被災者本人を基準として検討することとする。 本件災害の業務起因性について(1) 被災者の家庭での生活状況に関する認定事実前記争いのない事実等,証拠(甲28,33,乙26,27,35,原告本人)及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠は採用できない。 ア被災者は,本件事業主に採用後,通常,仕事がある日には,午前7時20分ころに起床し,午前7時40分ころに食事をし,午前8時20分に自宅を出発していた。被災者は,帰宅後,夕食をとった後,風呂に入り,午前0時ころには就寝していた。なお,被災者は,原告と結婚する前,入浴は,主にシャワーだけで済ませていたが,平成11年4月に結婚し,同年7月に子供が生まれてから後記イの引っ越し前までは,家族3人で風呂に入ることが多かった。 被災者は,休日には,午前9時か10時ころに起床し,テレビを見たり,1歳になる子供と遊んだり,自ら車を運転して買物に出かけるなど,家族とともに時間を過ごし,午後11時ころ就寝した(乙35・6項)。なお,被災者と原告は,互いの身体障害のために,買物を3,40分程度で済ませるように心掛けており,被災者は,買物の際,1歳になる子供を抱くか, に時間を過ごし,午後11時ころ就寝した(乙35・6項)。なお,被災者と原告は,互いの身体障害のために,買物を3,40分程度で済ませるように心掛けており,被災者は,買物の際,1歳になる子供を抱くか,ベビーカー等に乗せていたものの,買物中に疲れるなどして,店内に座り込むということはなかった。 イ被災者は,本件事業主に就職した当時,妻である原告,息子,被災者の両親とともに,T店から自家用車で30分ほどかかる愛知県宝飯郡B町にある被災者の実家に住んでおり,被災者,妻及び息子は,同住宅の2階部分を主に使用しており,1日平均で6回ないし8回の階段の上り下りをしていた。 被災者と原告は,被災者の仕事の休みを利用して,平成12年12月12日及び13日の2日間にわたる引っ越し作業を行って,T店から自家用車で30分ほどかかる愛知県豊橋市C町のアパートへの引っ越しをした。 引っ越し先のアパートは,1階に部屋があった。 引っ越し荷物は,原告が荷造りをし,12日は,被災者と原告の父とでワゴン車及び軽トラックに積み込み,被災者はワゴン車を原告の父は軽トラックを運転して,荷物を引っ越し先に運んだ。13日は,被災者,原告及び原告の父が,それぞれワゴン車,小型RV車及び軽トラックを運転して,荷物を引っ越し先に運んだ。引っ越し業者は,被災者が頼むほどではないと言ったため利用しなかった。引っ越し先では,原告の母も手伝い,4人で手分けして荷物を各部屋に運んだ。 引っ越しで運んだ荷物のうちで大きいものとしては,上下に分割できる箪笥一竿(箪笥上下は,それぞれ,大きさが高さ70cm,横幅80cm,奥行き60cm程度で3段の引き出しがあり,運搬は,1段5kg程度の引き出しを抜いて行った。),布団(大人用2組,子供用一組。比較的軽い素材のものであった。),デスクトップ型パソコン,プ 80cm,奥行き60cm程度で3段の引き出しがあり,運搬は,1段5kg程度の引き出しを抜いて行った。),布団(大人用2組,子供用一組。比較的軽い素材のものであった。),デスクトップ型パソコン,プラスチック製衣装ケース(大きさが高さ65cm,横幅70cm,奥行き60cm程度で,左右3段ずつの6個の引き出しがあった。),重さ約17kgの食器洗浄機があった。 同月12日の引っ越し作業は,午前10時ころから夕方ころまで,適宜休憩を入れながら行われ,同日は,引っ越し作業後,実家への帰路で,ファンヒーターを購入した。同月13日の引っ越し作業は,被災者が午前中に豊橋市民病院を定期受診したこともあって,昼過ぎころから夕方ころまで行われた。なお,被災者は,上記両日とも,防寒着を着て作業に当たった。 被災者は,引っ越し作業中に辛そうな様子を見せたり,同月13日及び14日の朝,疲れてなかなか起きられないということはなく,引っ越しによる疲れが残っている様子はなかった。 ウ被災者は,平成12年12月18日,午前9時ないし10時ころに起床し,午後から原告及び息子とともに,転居手続のために,豊橋市役所の出張所に行き,その後,B町役場に行った。その後,買物をして,午後6時ころに帰宅した。この日,被災者は自宅で実家の年賀状を作成した。 被災者は,同月22日,午前11時ころに起床し,午後2時ころから,豊橋市内や豊川市の家具屋に行き,その後,食料品の買物をして,午後9時ころに帰宅した。 (2) 被災者の本件災害前1か月間の労働時間に関する認定事実ア前記争いのない事実等及び証拠(甲34,乙16,25(休日の取得状況に関する部分),60(一部),証人H,証人S)によれば,被災者は,別紙2労働時間集計表(認定)のとおり,本件災害前の1か月において,合計203時間の労働を 拠(甲34,乙16,25(休日の取得状況に関する部分),60(一部),証人H,証人S)によれば,被災者は,別紙2労働時間集計表(認定)のとおり,本件災害前の1か月において,合計203時間の労働をし,そのうち,時間外労働時間数は,33時間であったと認められる。 イ被災者の労働時間を認定した理由は,以下のとおりである。 a勤務開始時刻について前記証拠によれば,被災者は,午前9時30分までに出社することとされ,その後,勉強会がある日には10~15分間の勉強会に出席し,5~10分間程度の朝礼に出席していたものであるから,被災者の勤務開始時刻は,午前9時30分であったと認められる。 原告は,被災者が午前9時から勤務を開始していた旨の主張をし,これに沿う被災者の出社時刻に関する証拠(甲33・4頁,乙27・19項,乙35・7項,原告本人)がある。しかし,証人Sによれば,午前9時30分よりも前に被災者が出社することが義務づけられていたとは認められず,被災者が早めに出社して店内で着替えをしていたとしても,それは,労務提供のための準備行為に過ぎず,これが使用者の指揮命令による拘束の下で行われたと評価できる特段の事情も認められないから,着替えに要する時間を労働時間に含めることはできないと解すべきである。その他,原告が店内清掃等のために午前9時30分よりも前に出社することが恒常化していたなど,その労働時間性を裏付ける事情も認められない。したがって,原告の上記主張は採用できない。 b休憩時間について被災者は,所定休憩時間の1時間の昼休みが取れないときもその前後に休息を取っていたことから,合計1時間の休憩時間を拘束時間から控除すべきことは当事者間に争いがない。 c勤務終了時刻について(a) 平成12年11月25日,同月26日,同月28日,同月29日, に休息を取っていたことから,合計1時間の休憩時間を拘束時間から控除すべきことは当事者間に争いがない。 c勤務終了時刻について(a) 平成12年11月25日,同月26日,同月28日,同月29日,同年12月2日,同月3日,同月4日及び同月7日の勤務終了時刻が午後7時であったことについては,当事者間に争いがない。 (b) 本件災害前の1か月間におけるその余の勤務日における勤務終了時刻に関する主な証拠として,勤務表(乙25)及び手帳(甲34)があるところ,次の(c),(d)で説示するとおりであるから,被災者の勤務終了時刻は,まず,手帳の各日欄の右端に記載された時間により,次いで,勤務表に超過勤務に係る時間の記載があるときは,手帳の時間を超えて勤務をしたと認定するのが相当である。そして,勤務表の超過勤務に係る時間の記載は,平成12年12月6日,同月17日,同月19日及び同月20日にあるが,いずれも,午後8時50分が終業時刻と記載されているが,これらのうち,同月6日以外の日は,T店の営業終了時刻が午後9時であること,勤務表には,同月6日も含め他の従業員も同様に午後8時50分との記載がされていること,勤務表には時間外として別途計上する時間につき,これを30分単位で記載するものとされていたことに照らし,上記各日における被災者の勤務終了時刻は,いずれも午後9時であったと推認するのが相当である。 他方,12月24日の勤務終了時刻について,原告は,午後9時30分であった旨を主張するが,被災者は,同日の勤務終了後,午後10時に実家を訪れるまでに,友人宅の忘年会に招かれ,食事をしていることが認められ(乙26・15項),この間に相応の時間を費やしたと解されるから,原告の上記主張は採用できない。 以上によれば,本件災害前1か月間における被災者の勤務終了時刻 会に招かれ,食事をしていることが認められ(乙26・15項),この間に相応の時間を費やしたと解されるから,原告の上記主張は採用できない。 以上によれば,本件災害前1か月間における被災者の勤務終了時刻は,別紙2労働時間集計表(認定)の各労働時間欄の右端の時刻であったと認められる。 (c) 手帳(甲34)の信用性について上記手帳は,その記載内容に照らし,被災者のものと認められ,また,平成12年12月2日以降の各欄の右端に記載の時間は,本件災害日以降のものについても記載があることに照らすと,被災者が,事前に勤務終了時刻を記載したものであると認めるのが相当である。そして,前記(a)の説示に係る各日について,上記手帳の右端には「6:30」と記載されているが,これは,飽くまで事前に定められた勤務終了予定時刻であるから,上記(a)の争いのない勤務終了時刻とそごがあるからといって,上記手帳の信用性が減殺されるものではない。 むしろ,上記手帳に記載の勤務終了予定時刻が平成12年上旬を過ぎたころから遅くなっており,また,あらかじめ予想し得るクリスマス商戦に向けたT店の繁忙さに合致する上,他の日に比して遅い時間が記載された日についても,他の従業員の出勤予定や週末の来客数の多さといったあらかじめ予想し得る事情等に基づくものとして,その時刻を説明できることからすれば,上記手帳は,被災者が上司から指示された勤務終了予定時刻を記載したものとして,信用性があるというべきである。 そして,通常,予定された勤務終了時刻が業務の繁忙さにより延長されることがあっても,閑暇のために短縮される事態が想定し難いことからすれば,被災者の実際の勤務終了時刻が上記手帳の各日欄の右端に記載の時間よりも早くなることはなかったと推認するのが相当である。なお,上記手帳の「ラスト」との記載は 短縮される事態が想定し難いことからすれば,被災者の実際の勤務終了時刻が上記手帳の各日欄の右端に記載の時間よりも早くなることはなかったと推認するのが相当である。なお,上記手帳の「ラスト」との記載は,これを合理的に解釈すれば,T店の閉店時間を意味するものと解するのが相当である。 (d) 勤務表(乙25)の信用性について上記勤務表の超過勤務に係る時間の記載には,少なくとも当該記載に係る時間の勤務をしたことを認める限度で,信用性を認めるのが相当であるが,これを超える勤務をしていないという意味では採用することができないことは,前記(b)のように,証拠として提出された勤務表(乙25,28)には,T店の閉店時間が午後9時となった平成12年12月半ば以降についても,午後9時以降に勤務を終了した旨の記載が一つもなく,また,勤務終了時間に関する記載が定時を意味する空欄,「8・00」「8・50」などと画一に過ぎ,実際の勤務終了時刻を認定するための証拠としての信用性に欠けるというべきであることから明らかであり,これに反するYの聴取書(乙17)等の証拠は採用できない。 (3) 被災者の勤務状況に関する認定事実前記争いのない事実等,証拠(甲37,乙13,15,16,21,60,証人H,証人S)及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠は採用できない。 ア被災者のT店への配属被災者の採用面接を担当した本件事業主の総務部長は,その部下を通じて,被災者をT店に配属するに当たり,事前に,店長であるHに対し,採用面接で聴取された情報に基づき,被災者が心臓機能障害を有しており,荷受け等の重い商品を持つ仕事及び配達等の外回りの仕事ができないことを説明するとともに,被災者を店内の仕事に就かせるように指示した。Hは,これを受けて,被 基づき,被災者が心臓機能障害を有しており,荷受け等の重い商品を持つ仕事及び配達等の外回りの仕事ができないことを説明するとともに,被災者を店内の仕事に就かせるように指示した。Hは,これを受けて,被災者がT店に配属される数日前の朝礼時に,T店従業員に対し,上記同様の説明及び指示をするとともに,被災者には,基本的に残業をさせないことを伝えた。 被災者は,平成12年11月10日,店舗2階にあるゲームコーナーの従業員として,T店に配属された。 イゲームコーナーにおける勤務状況被災者は,平成12年11月10日から同年12月中ころまで,T店のゲームコーナーにおいて,立位で,ゲームソフトの販売を担当し,客が購入を決めたゲームソフトのレジ打ちと袋詰めを主に行い,重い物を運ぶ仕事はしなかった。 休憩については,ゲームコーナーのレジ付近に被災者が座るための椅子はなかったが,ゲームコーナーがある2階には,テーブルや椅子のある従業員用の休憩室があり,被災者は,売場責任者に断り,昼休み以外にも,接客業務の合間を縫って,1日数回,服薬や休息のために,休憩室において,10分ないし20分程度の時間を過ごすことがあった。他方,昼休みについては,土曜日・日曜日・祝日には,接客のために忙しく,30分程度の昼休憩しかとることができないこともあった。 ウパソコンコーナーにおける勤務状況被災者は,平成12年12月半ばころ,自らの希望もあって店舗3階のパソコン売場に異動となり,Hは,被災者の異動に際し,パソコン売場の責任者に対し,被災者に重い物を持たせないようにし,重い物は,他の従業員に持たせるようにすることを指示した。なお,パソコン売場には,当初3人の従業員が配置されていたが,平成12年11月末ころの店舗改装によるパソコン売場面積の拡張に伴い,配置される従業員の数が,8人 業員に持たせるようにすることを指示した。なお,パソコン売場には,当初3人の従業員が配置されていたが,平成12年11月末ころの店舗改装によるパソコン売場面積の拡張に伴い,配置される従業員の数が,8人に増やされていた。 被災者は,パソコン売場において,立位で,商品の説明,レジ打ち,ほこり払い,プライスカードの張り付けを主に行った。客は,パソコン売場で商品を購入すると,通常,パソコン周辺機器などの軽い商品は自ら持ち帰り,デスクトップ型パソコンのような大きな商品は,配達を希望した。 客がデスクトップ型パソコンのように大きな商品の持ち帰りを希望した際には,従業員が商品を台車に載せて客の車までエレベーターで運ぶことになるが,被災者がこうした大きな商品の持ち帰りを客に希望された際には,他の従業員が被災者に代わって商品を運ぶこととされていた。パソコン売場では,一人一人の接客時間が長かったものの,客数は,ゲームコーナーに比して少なく,全体としてみると,パソコンコーナーとゲームコーナーとの間に,忙しさの違いは余りなかった。 被災者は,パソコン売場においても,ゲームコーナーにおけるのと同様に,昼休み以外に休息をとることがあった。 被災者は,平成12年12月23日,知り合いのKがT店の3階売場まで被災者を捜しに来て依頼したことから,1階売場で商品選択の相談に乗るなどし,同人が購入した加湿器とコーヒーメーカーを同人の車まで運んだ(甲37)。 被災者は,本件災害当日,通常の業務に従事し,仕事上のトラブルは特になかった。 エ個人別売上予算被災者は,平成12年11月末時点において,Hが定めた平成12年11月の個人別売上予算である5万円を上回る46万8000円の売上げを達成した(乙31)。 被災者は,平成12年11月末ころ,平成12年12月の個人別売上予算を300 において,Hが定めた平成12年11月の個人別売上予算である5万円を上回る46万8000円の売上げを達成した(乙31)。 被災者は,平成12年11月末ころ,平成12年12月の個人別売上予算を300万円と定められたが,その際,新作ゲームソフトの販売等による売上げ増加が見込まれるゲームソフトの売上げを被災者の売上げとして計上することが前提とされていた。被災者は,本件災害までに,個人別売上予算を1000円上回る300万1000円の売上げを達成した(乙31)。 なお,個人別売上予算の達成状況は,POSシステム上で従業員各自が確認することができた。 オT店の営業時間の延長及び繁忙さ本件事業主は,T店近隣に,Y電機が開店したことを受けて,これに対抗するために,平成12年12月半ばころ,T店の営業時間を1時間延長し,閉店時間を午後9時とした。 このころ,T店は,繁忙期を迎えていたものの,3階のパソコン売場は,特に客数が増えるということもなく,格別忙しくなるということはなかった。 カ勤務状況に関する原告の主張事実について(ア) 原告は,被災者が客の購入した商品を駐車場に運ぶ作業をしており,12月はそのような機会も多かった旨を主張し,平成12年12月23日には,被災者がKの購入商品の運搬をした事実が存する。しかし,同事実については前記認定のような同人と被災者が知り合いであった等の事情があり,また,前記認定によれば,ゲームコーナーでは,客の商品を運搬する必要性が生じる事態を想定し難く,パソコンコーナーでも,他の従業員が被災者の障害及び重い商品を持つ仕事ができないことを認識していたことからすれば,上記事実をもって,K以外の客に対して,被災者が客が購入した商品を駐車場に運ぶ作業をしていたと推認することはできない。また,原告の陳述書(甲33・3(7)) きないことを認識していたことからすれば,上記事実をもって,K以外の客に対して,被災者が客が購入した商品を駐車場に運ぶ作業をしていたと推認することはできない。また,原告の陳述書(甲33・3(7))には,被災者が,平成12年12月14日以降の日に,原告に対し,上着を着ずに客が購入した商品を駐車場に運んだと話した旨の記載があるが,その具体的状況も明らかではなく,被災者が継続的に又は複数回にわたって,上着を着ずに客の購入商品を駐車場に運んだ事実を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。 なお,原告は,被災者が顧客の目に付く店内で座り込んでいたことがあったかのように指摘するが,そのように認めるに足りる証拠はなく採用できない。 (イ) 原告は,被災者が平成12年11月末ころから12月3日までの間に,本件事業主の部長クラスの従業員が,他の従業員に対し,被災者に聞こえる場所で殊更に「何もできない奴をよく雇ったな。」と言い,この発言をきっかけとして,T店従業員の被災者に対する態度が急に厳しいものに変わるという出来事があり,これにより被災者が大きな精神的負荷を受けたと主張し,これに沿う証拠(甲32・7項,33・3(5)項,乙20・12項,原告本人11頁)がある。 しかし,これらを裏付ける的確な証拠はなく,また,当該出来事の具体的状況も不明である一方,T店に配属された者の中では,被災者が身体障害者枠で採用された初めての従業員であったとしても,本件事業主が,一定数の身体障害者を採用する方針の下,被災者の採用に先だって,身体障害者を採用した実績があること(乙21),本件事業主において被災者の障害に対し一定の配慮をしていること,被災者の同僚であったSが被災者に対する中傷や不満を聞いたことがないこと(乙16)からすると,原告の上記主張に類する出来事があっ 1),本件事業主において被災者の障害に対し一定の配慮をしていること,被災者の同僚であったSが被災者に対する中傷や不満を聞いたことがないこと(乙16)からすると,原告の上記主張に類する出来事があったとしても,上記主張に係る本件事業主の部長クラスの従業員による発言及びこれによる他の従業員の態度の変化のような深刻な事態であったとはたやすく認めることができない。 (ウ) 原告は,被災者が,自らの障害について他の従業員がどこまで理解しているか分からない状態で勤務することを余儀なくされたと主張する。 しかし,前記認定事実によれば,被災者は,勤務時間や勤務内容について,T店の他の従業員とは異なる待遇を受けていたものであるところ,店長のHをはじめとする他の従業員の被災者の障害に対する認識と理解を前提として,上記のように待遇を異なったものとすることができるものというべきであるから,被災者としても,かかる前提を認識していたと推認できる。 (4) 通院及び症状の経過に関する認定事実前記争いのない事実等,証拠(甲22,29,乙19,36,39,42,43の1・2,44の1・2,45~53,証人T医師,証人N医師,原告本人)及び後掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠は採用できない。 ア豊橋市民病院に入院していた当時の状況被災者は,平成9年5月14日に豊橋市民病院に入院した当時,心胸郭比が69%(正常値は50%未満),左室駆出率が40%前後(正常値は60%以上)であり,心不全重症度の指標とされる肺高血圧症も認められ,また,同月21日に主治医が被災者の家族に対し,助かるかどうか半々の確率であると説明するほど,重篤な両心不全状態であった。 被災者の心機能は入院して間もないころは,NYHAⅣと極めて低下していたものの,その後の 1日に主治医が被災者の家族に対し,助かるかどうか半々の確率であると説明するほど,重篤な両心不全状態であった。 被災者の心機能は入院して間もないころは,NYHAⅣと極めて低下していたものの,その後の入院治療により,被災者の心機能がNYHAⅡに回復したため,被災者は,外来受診により治療及び経過観察をすることとなり,平成9年11月15日に退院した。 イ退院後の状況被災者は,退院後,本件災害当時まで,前記病院を受診し,医師の指示に従い,服薬を着実に行い,喫煙をやめ,飲酒量を減らすなど,身体管理に留意していた。 被災者は,平成10年4月から平成11年3月まで障害者職業能力開発校に就学し,同年5月から平成12年1月まで,機械設計等の座位による事務に従事していたところ,就学前には正常値に近い値であった心胸郭比が,この間の平成10年6月ころ以降,正常値を上回る56~58%程度となっていたが,そのような値で安定しており,その他心不全増悪を示す格別の症状はなく,経過はおおむね良好であり,本件事業主に就職した平成12年11月10日当時も症状は安定していた。ただし,平成11年5月1日には,朝から吸気時に胸部痛があると訴えて,前記病院を時間外(19時25分~22時15分)に受診したことがあったが,検査の結果,特段の問題は認められず,経過観察とされたことがあった。 被災者は,本件事業主に就職してから本件災害までに,平成12年11月13日及び同年12月13日に上記病院を受診したが,その際,浮腫の所見はないなど,いずれも心不全増悪を示す兆候は認められず,特に,12月13日の受診時の心電図や心胸郭比には心不全の悪化を窺わせる変化はなく,同日の外来診療録には,経過が良好である旨が記載されていた(甲31,乙39・215頁,216頁,証人T医師12頁~14頁・25頁, 日の受診時の心電図や心胸郭比には心不全の悪化を窺わせる変化はなく,同日の外来診療録には,経過が良好である旨が記載されていた(甲31,乙39・215頁,216頁,証人T医師12頁~14頁・25頁,証人N医師10頁)。なお,慢性心不全が悪化した場合,被災者のような心房細動の患者は,心電図に変化が出やすい(証人T医師25頁)。 また,11月13日には喉の痛みを訴えて風邪と診断された。 被災者は,本件事業主に就職後,上記両日ころまで,家庭生活上も,特に心不全の悪化を示す様子を見せることはなかった(原告本人19頁,26頁)。 (5) 本件災害当日の状況に関する認定事実前記争いのない事実等,証拠(乙15,26,27・4項,32・9項,原告本人)及び後掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠は採用できない。 ア被災者は,平成12年12月24日,朝,特に変わった様子はなく,体調不良を訴えることもなく出勤し,当日の勤務を終え,友人宅の忘年会に参加した後,午後10時ころ,作成した年賀状を届けに実家に立ち寄った。 また,被災者は,帰宅後の午後11時20分ころ,原告と電話で話をし,10分ほどで風呂に入る旨を述べて電話を切ったが,その際,特段変わった様子はなかった。 被災者は,翌25日午後2時ころ,上半身に半そでの下着,下半身に仕事用のスラックスを着用し,シャワーを浴びようとしていたことがうかがえる状態で,死亡しているところを発見された。 その後,被災者の遺体について,豊橋市民病院のO医師による死体検案が行われ,直接死因を不詳,直接の死因には関係しないが,死亡に影響を及ぼした傷病名をバセドウ病とし,何らかの内因死と思われる旨の意見が付された(乙2,39・219頁)。 イ本件災害当時の被災者の状況について,原告は,死体検案において には関係しないが,死亡に影響を及ぼした傷病名をバセドウ病とし,何らかの内因死と思われる旨の意見が付された(乙2,39・219頁)。 イ本件災害当時の被災者の状況について,原告は,死体検案において担当医師により下肢の大きな浮腫が確認されている旨を主張し,これに沿う証拠(乙20,原告本人)がある。 しかし,死体検案に当たる医師は,遺体に浮腫が認められた場合には,その旨を死体検案書に記載するのが通常である上(証人T医師14頁),O医師はバセドウ病に起因する内因死を疑っていたのであるから,心不全の悪化を示す浮腫があれば当然記載するはずであるにもかかわらず,被災者の死体検案書(乙2)及びその基となったと思われる診療録部分(乙39・219頁)のいずれにも被災者の遺体に浮腫が認められた旨の記載がないことに,原告自身は浮腫を確認していないことを考え併せると,原告の主張に沿う上記証拠はにわかに信用し難く,原告の上記主張は採用できない。 (6) 医学的知見ア過労による心停止に関する医学的知見(乙9)(ア) 心室細動等の致死性不整脈発生の機序は,その回路となる電気的基質,引き金となる心室期外収縮,これらを修飾する因子の3つの要因からなる。このうちの最も重要な修飾因子は心機能の低下であり,また,大きな修飾因子として自律神経があり,その機能低下は,致死性不整脈の発生と密接に関連する。また,ストレスも修飾因子であり,ストレスを引き起こすストレッサー(仕事による過度の身体的,精神的負荷等)は,中枢神経,自律神経,内分泌系の変調を起こし,その総合効果が循環器系に影響を及ぼす。 (イ) 一般的な日常の業務等により生じるストレス反応は一時的なもので,休憩・休息・睡眠,その他の適切な対処により,生体は元に復し得るものである。しかし,恒常的な長時間労働等の負荷が長 響を及ぼす。 (イ) 一般的な日常の業務等により生じるストレス反応は一時的なもので,休憩・休息・睡眠,その他の適切な対処により,生体は元に復し得るものである。しかし,恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には,ストレス反応は持続し,かつ,過大となり,ついには回復し難いものとなる。これを一般に疲労の蓄積といい,これによって,生体機能は低下し,血管病変等が増悪することがあると考えられている。 このように疲労の蓄積にとって最も重要な要因である労働時間に着目すると,日常業務を支障なく遂行できるような労働者の場合には,発症前1か月間から6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働時間が認められない場合には,その日の疲労がその日の睡眠等で回復し,疲労の蓄積が生じないような労働に従事したものとして,業務と心停止発症との関連性は弱いと判断される。なお,休日労働は,その頻度が高ければ高いほど業務との関連をより強めるものであり,逆に休日が十分に確保されている場合は,疲労は回復ないし回復傾向を示すものである。 イ心不全に関する医学的知見(ア) 心不全と浮腫(乙41添付参考文献2・554頁右,乙63の6,証人T医師15・16頁,証人N医師8頁)心不全の最も特徴的な症状として,肺循環,体循環の浮腫があり,肺循環の浮腫は,呼吸困難として現れ,体循環の浮腫は,全身浮腫,肝腫大として現れる。心不全の症状としての浮腫は,体位によって,これが消失するかどうかの影響を受けることはない。ただし,心不全による浮腫は,心不全の症状が日常生活を営むことが可能な程度であれば,翌朝に解消することも多い。 他方,立位又は座位姿勢を長時間維持することでも浮腫が生じるところ,この場合は,夕方ころ,膝下,特にくるぶし付近に浮腫が生じることが多く を営むことが可能な程度であれば,翌朝に解消することも多い。 他方,立位又は座位姿勢を長時間維持することでも浮腫が生じるところ,この場合は,夕方ころ,膝下,特にくるぶし付近に浮腫が生じることが多く,一晩横になれば,翌朝には,軽減又は消失する。 下腿に現れた浮腫それ自体について,心不全による浮腫であるか長時間の立位又は座位姿勢による浮腫であるかを見分けることはできない。 (イ) 運動耐容能(甲30,乙41,62,証人T医師)a心臓機能障害を有する者は,8時間程度,継続的に,労働として一定の作業に従事する場合,その運動耐容能の60%未満で行うのが望ましいとされており,これを超えた運動強度の作業を短時間行うことは可能であるが,長時間行うことは,心臓機能障害の基礎疾患を悪化させるおそれがある。これをNYHAⅡの患者についてみると,労働として継続的に行う作業の運動強度は,3.0METS未満にとどめるのが望ましく,時に運動強度が5.0METS程度に達することは許容される。 b本件に関して参考となる各種作業等の運動強度は,おおむね,次のとおりと考えられている。 ①店内における立位での販売業務…2.3~3.0METS程度(会話による負荷が加わると,3. 5~4.25METSに達することもありうる。)②階段を1階から2階に上ること…5.0~8.0METS③階段を下りること…3.0METS④平地歩行…2.4~2.9METS⑤家具・家財道具の移動・運搬…4.0~6.0METS⑥シャワー…3.0~4.0METS⑦一人での入浴…4.0~5.0METS⑧車の荷物の積み下ろし…3.0METS⑨軽い荷物運び…3.5METS(ウ) 予後(乙9・77頁)心疾患患者において心不全症状発現以降の予後は極めて不良であり,心不全発現 5.0METS⑧車の荷物の積み下ろし…3.0METS⑨軽い荷物運び…3.5METS(ウ) 予後(乙9・77頁)心疾患患者において心不全症状発現以降の予後は極めて不良であり,心不全発現後,4年目の死亡確率が男性で52%という研究結果(甲23・3頁右)や5年生存率が5割という報告(甲24・14頁)がある。 心不全患者の死因に占める突然死の割合は高く,NYHAの機能分類が高度になるほど死亡率は増加するが,NYHAⅡの患者の死因のうち突然死の割合が64%という報告や,心不全が軽いNYHAⅠ又はⅡの患者群の方が,より重症であるNYHAⅢ又はⅣの患者群よりも突然死の割合が高いという統計データもある(甲24・19頁)。 また,慢性心不全の患者は,心筋が伸び切ることで,心筋に変性を来した部分が複数生じ,このような変性部分が発生源となって,単発的な不整脈が生じて,それが致死性不整脈となることがあり,このような変性部分がいくつもあると負荷のかからない状態でも致死的な不整脈が起きる確率は高くなる(証人N医師)。 ウ心房細動に関する医学的知見(甲14・170頁,証人N医師31頁)心房細動は,不整脈の中でも,致死性不整脈等による突然死を生じさせやすい病態ではないものの,その死亡率は,心房細動がない場合に比して,1.7倍から1.8倍になるという知見がある。 (7) 判断ア業務の量的過重性について被災者の本件災害前1か月間の時間外労働時間数が33時間であり,前記医学的知見に照らせば,日常業務を支障なく遂行できるような労働者であれば業務と心停止発症との関連性が弱いと判断される時間外労働時間数である45時間を大きく下回っている。また,平成12年12月半ば以降も,勤務日の時間外労働時間数は1時間から長くとも2時間半に過ぎない。 また,前記認定事実によれ 性が弱いと判断される時間外労働時間数である45時間を大きく下回っている。また,平成12年12月半ば以降も,勤務日の時間外労働時間数は1時間から長くとも2時間半に過ぎない。 また,前記認定事実によれば,被災者は,前日に仕事がある日でも約7時間の睡眠をしており,本件災害前1か月間に8日間の休日もあったものであるから,通常,疲労の回復に十分な時間を確保できていたというべきである。 そうすると,被災者が慢性心不全の基礎疾患を有し,健常人に比して,疲労しやすく,疲労の回復に時間がかかるとしても,被災者の業務が,量的に見て,疲労を蓄積させ,疲労の回復を困難とする程度の過重なものであったとするのは疑問である。 イ業務の質的過重性について(ア) T店の繁忙さ前記争いのない事実等及び前記認定事実によれば,T店は,平成12年12月半ばころ,全体としてはクリスマス商戦に向けた繁忙期にあったものであるが,このころ被災者が勤務していた同店3階のパソコン売場は,特に客数が増えることもなく,格別忙しくなるということもなかったものであるから,T店の繁忙さにより,平成12年12月半ば以前に比して被災者の労働密度が,その慢性心不全を悪化させるほど増したということはできない。 Kの陳述書(甲37)等は,この判断を左右するものではない。 (イ) 立ち仕事の過重性について前記争いのない事実等及び前記認定事実によれば,被災者は,T店において立位による接客販売等の業務に従事していたものであるが,かかる業務の運動強度は,2.3~3.0METSであり,NYHAⅡの心機能であった被災者が8時間継続して従事することに無理があったとはいえず,接客時の会話等により4.25METSに達することがあったとしても,NYHAⅡの患者の可能な運動耐容能は5.0~6.0METSである上,労働とし 8時間継続して従事することに無理があったとはいえず,接客時の会話等により4.25METSに達することがあったとしても,NYHAⅡの患者の可能な運動耐容能は5.0~6.0METSである上,労働として継続的に行う場合にも運動強度がときに5. 0METSに達することも許容されるという前記医学的知見に照らして,接客時の会話が,被災者の慢性心不全を増悪させるほどの強い負担になったということもできない。なお,被災者は,平成12年12月中旬以降,一日に9時間ないし10時間30分の労働に従事したが,他方,疲労を感じたときには適宜休息を取ることもあったのであるから,このことが上記判断を左右するものではない。したがって,原告の被災者に時間外労働をさせること自体が過重な業務であるとの指摘は採用できない。 また,前記認定事実によれば,被災者は,平成12年12月13日までの間,階段の昇降,入浴等,私生活において3.0METS以上の各種身体運動をしていたほか,とりわけ,平成12年12月12日及び13日の引っ越しでは,適宜の休憩を入れながらの作業であったとしても,比較的長時間にわたり,家具・家財の運搬という強い運動強度のものを含む作業を行ったことからすれば,上記引っ越し作業の運動強度は,T店における被災者の業務よりも高いものであったと認められる。そして,引っ越し前の勤務状況を見るに,被災者は,約10か月間という比較的長い失業期間の後に本件事業主に就職し,新しい環境において不慣れな仕事に従事したことに,被災者が不慣れな立ち仕事のためつらそうにしていたのは入社直後であるとの証人Sの証言を併せると,本件事業主に就職した直後は疲労しやすく,疲労の程度も比較的強かったものと推認される上,被災者は,引っ越しに先立つ直前一週間に14時間あまりの時間外労働をしたものである。そ 証人Sの証言を併せると,本件事業主に就職した直後は疲労しやすく,疲労の程度も比較的強かったものと推認される上,被災者は,引っ越しに先立つ直前一週間に14時間あまりの時間外労働をしたものである。それにもかかわらず,前記認定・説示のとおり,被災者は,引っ越し作業中つらそうな様子はなく,また,翌朝に疲れた様子を見せず,そして,12月13日午前の受診時の状況からは慢性心不全増悪の兆候はなく,経過は良好であったのである。 以上を総合すると,立位による接客販売等の業務は,被災者の慢性心不全を前提とするとしても,これを増悪させる原因となるほどに過重なものであったということはできない。原告は,被災者が身体障害者等級3級であったことや,被災者が主治医から事務的な仕事しかできない旨を言われていたこと(乙36の2)から,立ち仕事自体が過重な業務であると主張するが,これらは,上記判断を左右するものではない。なお,上記判断は,業務が被災者にとって過重なものであったかの判断であり,日常生活における負荷が本件災害の原因になったとするものではない。 ウ原告の主張について(ア) 原告は,平成12年12月半ば以降,被災者が種々の体調不良を訴えていたとして,その状況が過重な業務が原因で本件災害が発生したことを裏付ける旨を主張し,これに沿う証拠を提出する。例えば,原告(原告本人及び陳述書)は,平成12年12月半ばころ以降,「被災者が,仕事がある日には,風呂に入らずに就寝してしまうことが多くなった。」「また,被災者は,このころから,原告に足のむくみを訴えるようになり,就寝の際,足元を高くして寝ていたほか,自宅で苛立ちをみせたり,原告と口論になることが増え,睡眠中に,それまではなかったいびきをかくようになった。」「それまではなかった寒い時期の就寝中の鼻血があった。」など 足元を高くして寝ていたほか,自宅で苛立ちをみせたり,原告と口論になることが増え,睡眠中に,それまではなかったいびきをかくようになった。」「それまではなかった寒い時期の就寝中の鼻血があった。」などと供述する。 しかしながら,原告の上記供述を裏付ける的確な証拠はない一方で,前記イのとおり平成12年12月13日までの業務によっては被災者の慢性心不全を悪化させることがなかったところ,14日以降の業務がそれ以前の業務に比べてその負荷に大きな差があるとは認めがたく,また,被災者の慢性心不全が,平成12年12月半ば以降,急激に悪化したのであれば,そのような症状が現れ,前記病院を受診してしかるべきであると解されるのに,被災者に呼吸困難や全身の浮腫といった心不全増悪の兆候があったとは認められず,被災者は前記病院を受診したことがなかったものである(乙40によれば,被災者は時間外や深夜の時間に前記病院を受診したことがある。)。さらに,前記認定事実によれば,この間の休日の過ごし方や本件災害当日の様子及び直前の行動等においても,被災者に心不全増悪の兆候があったとは認め難い。以上の点に,鼻血については,本件事業主に就職する以前にもたびたびあったと認められること(乙40の平成10年11月20日欄,平成11年5月17日欄),入浴方法については,もともと被災者はシャワーだけで済ませていたこと,その他,転居により居住環境が変化したことの影響もありうることも考え併せると,被災者の平成12年12月半ば以降の家庭での様子に関する前記主張事実は,少なくとも過重な業務に従事したことにより被災者の心不全が増悪したことを推認するに足りる事情とはいえず,したがって,原告の上記主張及びこれに沿う上記証拠は採用できない。 (イ) その他の勤務状況に関する原告主張について原告は,被災者 より被災者の心不全が増悪したことを推認するに足りる事情とはいえず,したがって,原告の上記主張及びこれに沿う上記証拠は採用できない。 (イ) その他の勤務状況に関する原告主張について原告は,被災者が寒暖の差もある商品運搬業務に従事し,また,本件事業主が被災者の心臓機能障害に対する配慮不足,部長クラスの人の発言,被災者が売上ノルマを課されたことにより,強い身体的・精神的負荷を受けた旨を主張する。 しかし,これらについては,いずれも前記認定のような状況であったことに加え,12月13日の時点で被災者の慢性心不全に悪化が認められないことからすると,特段の負荷要因となったとは認められない。 (ウ) T医師の意見書及び証言についてT医師の意見書(甲22,29)及び証言は,その結論を導く根拠が前記(ア)の判断と異なるものであることから採用できない。 エ小括以上のとおり,被災者が本件事業主のT店において従事した業務は,その慢性心不全を増悪させるなどして,致死性不整脈による心停止(心臓性突然死)を発症させる原因となり得るほどに過重であったということはできない。 他方で,前記争いのない事実等及び前記認定事実に証拠(乙36の2,39・2頁)を併せると,慢性心不全は,その予後が極めて悪く,致死性不整脈発症の確率が高くなる上,とりわけNYHAⅡの患者群は,より重症であるNYHAⅢ又はⅣの患者群よりも突然死の割合が高いという統計データもあることからすると,本件災害は,被災者の慢性心不全が本件事業主に就職する以前より格別増悪していない状態でも,その有する致死的不整脈の発症の危険が自然の経過において現実化することにより十分起こりうるものというべきである。 したがって,本件災害の基礎疾患である被災者の慢性心不全は,本件事業主における業務によって自然の経過を超えて増 発症の危険が自然の経過において現実化することにより十分起こりうるものというべきである。 したがって,本件災害の基礎疾患である被災者の慢性心不全は,本件事業主における業務によって自然の経過を超えて増悪したと認めることはできない一方で,本件災害は,被災者の慢性心不全が有する致死的不整脈の発症の危険が,その自然の経過において現実化したものと解しうるから,被災者の業務と本件災害との間に相当因果関係があると認めることはできない。 結論 以上の次第で,本件災害は,被災者が従事した業務に起因するものということはできないから,これを業務上の災害と認めなかった本件処分は違法ではない。 よって,原告の請求には理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判長裁判官多見谷寿郎裁判官志賀勝裁判官川勝庸史
▼ クリックして全文を表示