主文 被告人を懲役13年に処する。 未決勾留日数中180日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)第1 被告人は,平成29年10月20日午後1時53分頃,福岡県大野城市a町b丁目c番d号A株式会社「B」店舗内において,同店店長C管理に係る発泡酒2本等6点(販売価格合計965円)を窃取した。 第2 被告人は,警察官が装着するけん銃を強取してその職務を妨害しようと企て,同日午後2時48分頃,同店1階の保安室(以下「本件保安室」という。)において,同店保安員により現行犯逮捕された前記第1の窃盗の犯人として福岡県D警察署E交番勤務の司法警察員F(当時49歳)及び司法巡査G(当時26歳)に引き渡され,F及びGにより司法警察員への引致のためD警察署へ連行される際,Fに対し,背後から左肩越しに襟首付近を左手でつかむ暴行を加えるとともに,Fが右腰に装着していたF管理の弾丸5発が装填された回転弾倉式けん銃(以下「本件けん銃」という。)を右手でつかんでホルスターから抜き取り,「取ったぞ。撃つぞ」と叫んで,Fの腰部に本件けん銃の銃口を向けて近づけて脅迫し,その反抗を抑圧してFから本件けん銃を強取した上,被告人に襟首付近をつかまれたまま被告人もろとも床上に転倒したFに対し,殺意をもって,Fが倒れ込んでいる方向に本件けん銃で弾丸1発を発射したが,Fに命中せず,さらに,本件けん銃をつかむなどして被告人を制止しようとしていたF,G及びB店従業員H(当時62歳。以下,この3名を「被害者ら」という。)がいずれも至近距離にいることを認識していながら,殺意をもって,本件けん銃で弾丸1発を発射し,もって,上記一連の暴行,脅迫により,F及びGの職務の執行を妨害したが,上記弾丸は被害者らに命中せず,本件けん銃を左手でつかんでいたHに約1 ていながら,殺意をもって,本件けん銃で弾丸1発を発射し,もって,上記一連の暴行,脅迫により,F及びGの職務の執行を妨害したが,上記弾丸は被害者らに命中せず,本件けん銃を左手でつかんでいたHに約10日間の加療を要する顔面部切創及び左手熱傷 の傷害を負わせたにとどまり,被害者らを殺害するに至らなかった。 (争点に対する判断) 1 争点等本件の争点は,①暴行,脅迫の態様(被告人が,Fに対し,本件けん銃の銃口を突き付けながら,「取ったぞ。撃つぞ」と叫んだか),②Fから被告人への本件けん銃の占有移転の有無,③本件けん銃にかかる不法領得の意思の有無,④被害者らに対する殺意の有無である。 2 争点①について⑴ Gは,当公判廷において,「被告人がFに背後から襲い掛かった際に右手をホルスターに当てているのを見て,けん銃を奪おうとしていると確信した。その後,Fが倒れ込むのと同時に四つん這いの体勢となった被告人が,『取ったぞ。撃つぞ』と叫び,右手に握ったけん銃を腕ごとFの右腰付近に近づけた」旨を供述する。 ⑵ Gは,被告人がFに襲い掛かってから本件けん銃を被告人から取り返すまでの一連の出来事について,本件けん銃とFとの間隔や位置関係,現場にいた者の発言内容も含め,詳細かつ具体的に供述している。被告人がFから本件けん銃を奪おうとしていると確信したGが,Fから被告人を引き離そうとして,被告人と密着した状態で,背後から被告人の右腕をつかんでいたことからすれば,Gは,被告人の腕の動作や本件けん銃の向きを意識的に観察した上で,その状況を正確に記憶していたといえる。また,本件けん銃を右手に握った被告人が「取ったぞ。撃つぞ」と叫んだというのは,実際の被告人の行動と整合する自然なものである。さらに,Fも,当公判廷において,「1発目の発砲の前に 憶していたといえる。また,本件けん銃を右手に握った被告人が「取ったぞ。撃つぞ」と叫んだというのは,実際の被告人の行動と整合する自然なものである。さらに,Fも,当公判廷において,「1発目の発砲の前に,被告人が『撃つぞ』と叫んだ。その他にも何か叫んでいた」旨を供述しており,少なくとも,被告人が「撃つぞ」と叫んだ点についてはGの供述と合致する供述をしている。 以上によれば,被告人が,「取ったぞ。撃つぞ」と叫び,本件けん銃をFの 腰部に近づけた旨のGの上記供述は十分に信用できる。 ⑶ 弁護人は,①Hは,被告人が「取ったぞ。撃つぞ」と叫んだのを聞いた記憶はないと供述している,②被告人及び被害者らが密着してもみ合っている状況からすれば,被告人が意図せずに右手を動かし,偶然,銃口がFの方に向くこともあり得る,として,Gの前記供述には疑問が残る旨を主張する。 しかしながら,①については,Hは,「被告人やけん銃を押さえるのに一生懸命だった」旨を供述しており,現場の状況を詳細に把握し記憶する余裕がなかったと考えられ,また,Hは被告人が上記の発言をしたことを積極的に否定しているものでもないから,Hの上記供述によってGの前記供述の信用性は左右されない。②については,被告人が,本件けん銃がFの腰部に近づく直前に「取ったぞ。撃つぞ」と叫んだり,被害者らともみ合いになった後も本件けん銃から手を離すことなく把持し続けたりしたことからすれば,被告人が意識的に本件けん銃をFに向けて近づけたと認めるのが相当である。弁護人の上記主張はいずれも採用できない。 ⑷ 以上によれば,被告人が,「取ったぞ。撃つぞ」と叫び,本件けん銃をFの腰部に近づけた事実が認められる。 なお,検察官は,被告人がFの腰部に銃口を突き付けながら,「取ったぞ。 撃つぞ」と叫んだ ⑷ 以上によれば,被告人が,「取ったぞ。撃つぞ」と叫び,本件けん銃をFの腰部に近づけた事実が認められる。 なお,検察官は,被告人がFの腰部に銃口を突き付けながら,「取ったぞ。 撃つぞ」と叫んだ旨を主張するが,Gは,被告人が,「取ったぞ。撃つぞ」と叫んだ後に,Fの腰部から2ないし3センチメートルの距離まで銃口を近づけた旨を供述するにとどまり,他に,検察官主張の上記事実を認めるに足りる証拠もないから,判示の限度で事実を認定した。 ⑸ そして,防犯カメラ映像を始めとする関係各証拠によれば,被告人は,背後からFの襟首付近をつかんだ上,立ち上がれないようにした状態で上記の脅迫を加えていることが認められる。F自身は,腰部に本件けん銃を向けられていることまでは認識していないものの,被告人が本件けん銃を奪おうとしていたことは認識しており,そのような状況の下,身動きがとれないまま,背後から, 「取ったぞ。撃つぞ」と言われれば,本件けん銃で撃たれるのではないかとの恐怖心を抱き,抵抗できなくなるのが通常である。 したがって,被告人によるFに対する一連の暴行,脅迫は,Fの反抗を抑圧するに足りる程度のものと認められる。 3 争点②について⑴ 関係各証拠によれば,被告人は,Fのホルスターから本件けん銃を右手で抜き取った後,1発目の発砲に至るまで,本件けん銃の銃把を把持し続け,その間,引き金にも指をかけていたことが認められる反面,被告人以外に本件けん銃に触れていた者はいなかったことが認められる。この段階で,被告人は,本件けん銃を用いて発砲するなど,これを自由に取り扱うことが十分可能な状態に至っており,他方で,その位置関係等に照らしても,Fが本件けん銃を被告人から取り戻すことは著しく困難な状況にあったといえる。 ⑵ したがって,本件けん銃がラン を自由に取り扱うことが十分可能な状態に至っており,他方で,その位置関係等に照らしても,Fが本件けん銃を被告人から取り戻すことは著しく困難な状況にあったといえる。 ⑵ したがって,本件けん銃がランヤード及び帯革でFの身体と繋がっていたことを踏まえたとしても,被告人は,1発目の発砲前に,本件けん銃を事実上支配していたといえ,Fから被告人に本件けん銃の占有が移転したものと認められる。 4 争点③について⑴ 被害者らの公判供述を始めとする関係各証拠及び前記2の認定事実によれば,被告人は,本件けん銃を手に取って,「取ったぞ。撃つぞ」と叫び,さらに,その後,約2分間,本件けん銃を把持し続け,その間に本件けん銃を2発発砲したことが認められる。 ⑵ けん銃の経済的な用法には,発砲することのみならず,それを示して脅迫することも含まれると考えられるところ,被告人が,本件けん銃を手に取った後,短時間のうちに,実際に,本件けん銃を用いて脅迫行為や発砲行為に及んだことからすれば,被告人は,本件けん銃の占有を取得する以前から,権利者であるFを排除して,本件けん銃をその経済的な用法に従って利用する意思を有し ていたことが強く推認される。 ⑶ 被告人は,「一般人が警察官のけん銃を抜き取れば,問題になるだろうと考え,警察官を困らせる目的でけん銃を手に取った。けん銃を手に取った時点では発砲することは考えていなかった」旨を供述する。 しかしながら,被告人にその供述どおりの目的しかなかったのであれば,本件けん銃を手に取った時点でその目的は達成されたはずであるのに,その後も,被告人は,被害者らから取り押さえられながらも,右手で本件けん銃を把持し続けたのであるから,被告人の上記供述は,実際の行動と整合しない不自然なものであって,信用できない。 ⑷ 以上によ その後も,被告人は,被害者らから取り押さえられながらも,右手で本件けん銃を把持し続けたのであるから,被告人の上記供述は,実際の行動と整合しない不自然なものであって,信用できない。 ⑷ 以上によれば,被告人は,不法領得の意思をもって,Fから本件けん銃の占有を自らに移転させたと認められる。 5 争点④について⑴ 1発目の発砲についてア関係各証拠によれば,被告人は,倒れ込んだFに対し,背後から襟首付近を左手でつかみ,右手に握った本件けん銃でFが倒れ込んでいる方向に向かって弾丸を1発発射したことが認められる。 イ発射された弾丸は,Fがもたれかかっていたキャビネット(以下「本件キャビネット」という。)の側面に当たって貫通し,本件キャビネットの前面の引き戸の接合部に当たって跳弾するなどして本件キャビネット内にとどまり,結果的にはFに命中していない。しかしながら,本件けん銃を発射した位置や弾道の角度によっては,弾丸が本件キャビネットの引き戸をも貫通してFの腰部に命中していたものと認められ,Fの生命に対する危険性は高かった。 したがって,1発目の発砲行為は,人を死亡させる危険性が高い行為と評価できる。 ウそして,1発目の発砲時点で本件けん銃に触れていた者は被告人のみであり,被告人が発砲前に「取ったぞ。撃つぞ」と叫んでいることからすれば, 被告人は自らの意思で引き金を引いて発砲したものと推認される。撃鉄を起こしていない状態で本件けん銃の引き金を引いたり,撃鉄を起こしたりする動作には相当程度の力を要することからも,被告人の意思によらずに弾丸が発射されたとは考え難い。また,被告人が,Fの背後から襲い掛かった時点から1発目の発射に至るまで,被害者らから引き離されようとしてもなおFの襟首付近を左手でつかみ続けるとともに, 思によらずに弾丸が発射されたとは考え難い。また,被告人が,Fの背後から襲い掛かった時点から1発目の発射に至るまで,被害者らから引き離されようとしてもなおFの襟首付近を左手でつかみ続けるとともに,右手で本件けん銃を把持し続けていた経過や発砲時の被告人とFの位置関係に照らせば,被告人がFの位置を認識していなかったとは考え難い。 したがって,被告人は,Fがいる位置を認識しつつ,その方向に自らの意思で本件けん銃を発砲したと認められる。そして,このような行為がFを死亡させる危険性の高いものと被告人が認識できなかったと窺わせる事情はない。 エ以上によれば,被告人は,Fに対する殺意をもって,1発目の発砲に及んだものと認められる。 ⑵ 2発目の発砲についてア関係各証拠によれば,被告人は,1発目の発砲後,被害者らに取り押さえられている際に,2発目の発砲に及んだことが認められる。 イ 2発目の弾丸は,本件キャビネットの側面を貫通して床に当たって跳弾し,被害者らに命中しなかったものの,床に跳弾した後の弾丸は,Hの顔面から最短で約6センチメートルの位置を通過したものと認められ,Hの生命に対する危険性は高かった。また,狭い本件保安室内で,至近距離に被害者らがいる状態で本件けん銃を発砲すれば,被害者らに直接弾丸が命中しなかったとしても,壁などに当たった弾丸が跳弾するなどして被害者らに命中し,被害者らを死亡させる危険性も高かった。 したがって,2発目の発砲行為も,人を死亡させる危険性が高い行為と評価できる。 ウそして,2発目の発砲の際,Hが本件けん銃の銃身を下から左手で包み込むように押さえ,Fが本件けん銃全体を上から手で押さえていたものの,被害者らはいずれも本件けん銃の引き金や撃鉄には手を触れておらず,本件けん銃を発砲でき 際,Hが本件けん銃の銃身を下から左手で包み込むように押さえ,Fが本件けん銃全体を上から手で押さえていたものの,被害者らはいずれも本件けん銃の引き金や撃鉄には手を触れておらず,本件けん銃を発砲できるのは,1発目の発砲後も本件けん銃から右手を離さずに銃把を握って引き金に人差し指をかけていた被告人のみである。引き金を引いたり撃鉄を起こしたりする動作に相当程度の力を要することなどからも,被告人が被害者らともみ合っている最中に,何らかの力が加わって偶然発砲してしまったとは考え難い。また,1発目の発砲の直前に本件保安室内に入った警備員である証人Iの公判供述によれば,被告人は,1発目の発砲後,「ハンマー引いてるぞ。いつでも撃てるぞ」などと叫んでいたことが認められる。 以上の事実のほか,被告人が,1発目の発砲後も,被害者らからの制止にもかかわらず,なお本件けん銃から右手を離さず把持し続けていたことも併せて考えると,被告人は,2発目の発砲も,1発目の発砲と同じく,自らの意思に基づいて発砲したものと認められる。 加えて,被告人が2発目の発砲に及んだ状況は,狭い本件保安室内で,自らを取り押さえている被害者らが至近距離にいる状況であったことからすると,被告人は,このような状況を認識できていたはずであり,本件けん銃から発射された弾丸が人に命中し得ることを認識できなかったとも考え難い。 したがって,被告人は,被害者らが至近距離にいることを認識しつつ,自らの意思で本件けん銃を発砲したと認められる。そして,このような行為が被害者らを死亡させる危険性の高いものと被告人が認識できなかったと窺わせる事情はない。 エ以上によれば,被告人は,被害者らに対する殺意をもって,2発目の発砲に及んだものと認められる。 (法令の適用)罰条 第1の 告人が認識できなかったと窺わせる事情はない。 エ以上によれば,被告人は,被害者らに対する殺意をもって,2発目の発砲に及んだものと認められる。 (法令の適用)罰条 第1の行為刑法235条第2の行為公務執行妨害の点刑法95条1項Fに対する強盗殺人未遂の点包括して刑法243条,240条後段G及びHに対する各強盗殺人未遂の点いずれも刑法243条,240条後段科刑上一罪の処理(第2) 刑法54条1項前段,10条(公務執行妨害及び被害者らに対する各強盗殺人未遂は,結局1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから,以上を1罪として刑及び犯情の最も重いFに対する強盗殺人未遂罪の刑で処断)刑種の選択第1の罪懲役刑を選択第2の罪無期懲役刑を選択法律上の減軽(第2の罪) 刑法43条本文,68条2号,14条1項(障害未遂)併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(重い第2の罪の刑に同法14条2項,47条ただし書の制限内で法定の加重)未決勾留日数の本刑算入刑法21条訴訟費用(不負担) 刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)量刑の中心となる第2の犯行は,被告人が,自ら犯した第1の窃盗事件の処理のために臨場した警察官が装着するけん銃を奪い取り,その警察官がいる方向に至近距離から発砲し,さらに,被告人を取り押さえようとした警察官2名及び保安員1 名が至近距離にいる状況で再度発砲したものである。けん銃という殺傷能力の高い凶器を用いたことに加え,被害者らの位置関係や現場の状況に照らすと,生命に対する危険性が非常に高い犯行である。この点は,量刑上最も重視されるべきである。 第 したものである。けん銃という殺傷能力の高い凶器を用いたことに加え,被害者らの位置関係や現場の状況に照らすと,生命に対する危険性が非常に高い犯行である。この点は,量刑上最も重視されるべきである。 第2の犯行直前の警察官の言動にやや穏当を欠いた面があり,また,けん銃を奪われた際に慎重さに欠ける面がなかったとはいえないが,背後から不意に警察官に襲い掛かり,けん銃を奪って2回も発砲し,3名もの人命を危険にさらすといった常軌を逸した犯行がもとより正当化されるものではない。 他方で,偶然とはいえ,発射された弾丸は幸いにしていずれも被害者らに命中せず,うち1名が負った傷害も比較的軽微なものにとどまる。また,被告人は警察官の言動に感情的になって突発的に第2の犯行に及んだものであり,金品を得るために計画的に敢行される典型的な強盗事件とは異なる。被告人が積極的に被害者らの殺害を意図していたものともいえない。 以上によれば,本件は,単独で強盗殺人未遂1件を犯した事案の中では,中程度の部類に属するといえる。その上で,被告人が差し迫った事情がないのに第1の万引き窃盗に及び,それにより逮捕された後も反省するどころか第2の悪質な犯行に及んだことをみても,被告人の法を守る意識は低いといわざるを得ない一方で,被告人に同種の前科はないことなどの事情も併せて考慮し,被告人に対しては,主文の刑に処するのが相当と判断した。 (求刑懲役20年)平成30年11月2日福岡地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官平塚浩司 裁判官蜷川省吾 裁判官平岩彩夏 裁判官蜷川省吾 裁判官平岩彩夏
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