平成12(わ)71 恐喝被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年6月19日 神戸地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-6971.txt

判決文本文12,589 文字)

主文 被告人を懲役4年6月に処する。 未決勾留日数中750日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (犯罪事実)被告人は,指定暴力団五代目A組B組組長であるが,東証1部上場企業であるV株式会社の子会社で,東京都中央区Ca丁目b番c号(当時)に本店を置き機械製品等に関する輸出入及び売買等を目的とするV商事株式会社(以下「V商事」という。)の当時の取締役営業統括部部長であったDが,株式会社Eの代表取締役F及びG企画代表者ことGらと共同して産業廃棄物事業を計画し実行するに当たり,産業廃棄物処分場の買収資金等を捻出するため,V商事の了解を得ないまま,Fが入手した多数の約束手形に「V商事株式会社取締役営業統括部長D」と裏書するなどしていたところ,その割引が得られないまま,同約束手形がいわゆる金融ブローカー等に交付されるなどしたため,G,D及びFから,その返還交渉を依頼され,同約束手形の一部(額面金額合計3億8000万円)を入手したことなどを奇貨として,Dの上記手形行為にかこつけて,V商事から金員を喝取しようと企て,平成9年7月13日ころから同月19日ころまでの間,数回にわたり,神戸市中央区H通d丁目e番f号にあるIホテル等にGを呼び出し,同人に対し,「Jはどない言うとるのや。Jに1回会わせ。わしがJとこへ出向こうか。」,「この場でおまえが段取りができないんだったら,わしが行くぜ。」,「この手形は,わしが持っとる分でも非常に値打ちがあるのや。このままVが横向いてるのであれば,わしはわしなりの手ぇ打つぞ。」,「わしらの連れにも,悪の弁護士がおって,相談したらこれは金になる言うとるぞ。」,「新聞社待たしとる。新聞社に話聞かそう あるのや。このままVが横向いてるのであれば,わしはわしなりの手ぇ打つぞ。」,「わしらの連れにも,悪の弁護士がおって,相談したらこれは金になる言うとるぞ。」,「新聞社待たしとる。新聞社に話聞かそうか。」,「右翼を雇うて拡声器で,事務所の前でもの言うぞ。チラシをまくぞ。」,「若いもんがV商事の事務所へ直接行くぞ。若い衆が押し掛けたら仕事はできなくなる。」,「天井と床が逆になるぞ。」,「手形のサルベージは非常に高うつくぞ。金もかかる。わしも,いつまでもボランティアをやってるわけにはいかん。」,「おまえ,それぐらいのこともよう決めんのか,よう言わんのか。はっきりと言わんかい。その場でおまえがよう決めないんだったら,わしが言って話を決めようか。」,「土日にJさんは関西に出向くことが多い。宝塚に娘さんが住んどる。お孫さんがいる。」,「Jはどう思うとんや。どう考えとるんや。Jに出会わせ。Jが実際どう思うとんのか確認をする。」,「宝塚のうちに分からんように弾打ち込んで脅かす。」などと申し向け,Gをして,その都度,当時のV商事代表取締役社長であったJ(当時61歳)にその旨伝えさせて脅迫するとともに,金員を要求し,次いで,同月24日ころ,V商事本店にいたDに電話をかけ,同人に対し,「わしのところにあるこの回収した手形について,Jさんに会いたい。あんたも一緒に会ってくれ。そっちに行って説明する。」などと申し向け,そのころ,Dをして,Jにその旨伝えさせ,同人に被告人との面談を余儀なくさせ,同日,東京都中央区Kg丁目h番i号にある日本料理店「L」日本橋店内において,Jに対し,「G,Mはうそつきや。わしらの業界もなめられたもんやな。」,「子供さんはどこにおられるか。」,「ボランティアをやっとるんやない。」,「Jさん,誠意を見せなさい。」などと申し向けて暗に金員 Jに対し,「G,Mはうそつきや。わしらの業界もなめられたもんやな。」,「子供さんはどこにおられるか。」,「ボランティアをやっとるんやない。」,「Jさん,誠意を見せなさい。」などと申し向けて暗に金員を要求し,さらに,同年8月4日ころ,V商事本店にいたDに電話をかけ,同人に対し,「Dさん,明日の支払,大丈夫か。」,「今更何を言うとるのか。何度確認させるんか。今までおまえはおれの部屋に来てたわけだけれども,何のために来てたんだ。よく分かってるのか。自分の腹に替えても,この払いについては実行さすと言うたやないか。今更できませんじゃあ,ただじゃあすまんぞ。Jにもよく言っとけ。」などと申し向け,同日,Dをして,Jにその旨伝えさせ,その金員要求に応じないときには,V商事及び親会社であるV株式会社(Vグループ)の信用及び業務のみならず,J及びその家族の生命,身体等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して,Jを畏怖させ,よって,同月5日,東京都港区Nj丁目k番l号Oホテルにおいて,Jから,G及び株式会社P代表取締役であるMを介し,現金5000万円及びQ銀行R支店支店長Sが振り出した小切手(額面金額5000万円)1枚の各交付を受け,もって,人を恐喝して財物を交付させた。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明) 1 弁護人の主張弁護人は,被告人が,V商事代表取締役社長Jから1億円を受領したことは認めながら,要するに,①被告人は,Jとの直接のやりとりで害悪を告知したことがないことはもとより,G及びDを介しても,Jに対して脅迫文言を伝えたことはなく,脅迫行為は一切しておらず,②被告人は,Vグループの依頼により手形の回収をしたりその流通を阻止したことから,Vグループからの報酬ないし謝礼として1億円を受領したものであって,被告人は,無罪であると ,脅迫行為は一切しておらず,②被告人は,Vグループの依頼により手形の回収をしたりその流通を阻止したことから,Vグループからの報酬ないし謝礼として1億円を受領したものであって,被告人は,無罪であると主張し,被告人もこれに沿う供述をするので,以下検討する。 2 前提となる事実関係関係各証拠によれば,本件の経緯等として以下の事実が認められ,これらの事実については,被告人も,おおむね争わない。 すなわち,Gは,平成7年春ころ以降,阪神大震災に関連した産業廃棄物運搬等の事業に携わるようになり,大分県中津市にある管理型最終処分場株式会社T(以下「T」という。)の買収にも関与したものの,買収は失敗に終わった結果,多額の債務を負うこととなり,厳しい取立てを受けた際,知り合いの暴力団組長から被告人を紹介され,その助力を受けるなどして,被告人との関係を深めた。 一方,V商事では,平成7年7月ころから,Dが取締役営業統括部部長に就任し,産廃事業への参入準備をしていたところ,平成8年夏ころ,株式会社E代表取締役Fがその計画に参画することとなり,そのころ,産廃事業計画を通じて,G,D,Fらが知り合い,同年11月18日,3者の間で業務委託契約書が作成されるに至った。他方,被告人は,GとTの問題にかかわったことを契機として,Tへの関与を強め,Gの紹介を受けたD,Fと被告人との間で,Tの売買交渉が進んだ。 平成9年2月24日ころ,Fは,Tとの間で,代金5億円でTの営業権を譲り受ける旨の覚書を作成したものの,資金調達に困難を来し,手形を割り引いて資金を調達するため,Dが手形行為に関する権限を有していないことを知りながら,Dに対し,約束手形にV商事取締役であるDの裏書や手形の表面にDの肩書を付した券面保証といった無権限の手形行為をするよう依頼 を調達するため,Dが手形行為に関する権限を有していないことを知りながら,Dに対し,約束手形にV商事取締役であるDの裏書や手形の表面にDの肩書を付した券面保証といった無権限の手形行為をするよう依頼したところ,これに先立ってFの借金の保証をしていた関係で金に困っていたDはこれに応じ,同年4月ころ,自ら又はFらに依頼して,数回に分けて,Fが入手してきた約束手形に無権限で裏書や手形保証などの手形行為をした(以下,Dが無権限の手形行為をした約束手形を便宜上「D手形」という。)。これらのD手形のうち5億7000万円分は鳥取県のUに,2億9000万円分は京都市のWに渡り,3億8000万円分は,同年6月6日ころ,FがXからいわゆる手形の「パクリ」(他人に手形を預けたが,預かり証をもらうことができなかったという意味)にあい,その手に渡った。 ところで,被告人は,T売買の経過に関与していた関係で,G及びFらから上記D手形問題を聞き知っていたところ,このころ,G,D及びFは,Fが上記「パクリ」にあったことなどから,D手形の問題がV商事の手形スキャンダルとして顕在化することを何としても阻止したいと考えて,被告人にD手形の回収方を依頼した。 そこで,被告人は,この依頼を引き受け,自らあるいは配下のYに指示するなどして活動を開始し,Xに渡った3億8000万円分は,直ちに取り戻して被告人の手元に置き,U,Wに渡った合計8億6000万円分については,とりあえずその流通を止めることに成功した。 Jは,同年7月9日ころ,Uや銀行からの問い合わせをきっかけとしてD手形の問題を知り,Dを問いつめたところ,Dは,当初,その関与を否定していたが,その後の同月半ばころ,これを認めるに至った。他方,同月13日ころ,被告人は,JR神戸駅付近にあるIホテルのレス してD手形の問題を知り,Dを問いつめたところ,Dは,当初,その関与を否定していたが,その後の同月半ばころ,これを認めるに至った。他方,同月13日ころ,被告人は,JR神戸駅付近にあるIホテルのレストランでGと会い,Gは,翌日ころ,大阪市北区中之島にあるZホテル地下1階日本料理「α」でJと会い,さらに,被告人は,同月18日ころ,滞在していた東京都港区βにあるOホテルの自室でGと会い,数日後,Gは,東京都港区γにあるδホテルの喫茶店でJと会った。また,被告人は,Dとも面前で又は電話で連絡を取り,Dはその都度Jに報告をした。 同月24日,Jと被告人は,V商事本社裏にある日本料理店「L」で初めて顔を合わせ,D,G及びPのMとともに会食した。 Jは,同月25日ころ,被告人に1億円を渡すことを決め,内容虚偽の稟議書を作成させた上,役員会を経て1億円を捻出し,同年8月5日,G及びMを介して被告人に1億円を渡した。 3 関係各供述の信用性について(1) 証人Jの公判供述(以下「J証言」という。)ア脅迫行為の相手方であり,本件当時,V商事代表取締役社長であったJは,公判廷で,以下のとおり供述する。 平成9年7月14日ころ,Zホテルのロビー及び料理店「α」で,Gから,「手形の一部がよからぬところへ行っている。」と聞き,被告人の言葉として,「V商事の対応によっては,手形のスキャンダルをマスコミにばらす。若い衆を本社にやって取り立てて,業務を妨害する。街宣車を出して,マイクで通行人に叫ぶ。手形スキャンダルを暴く。一回Jと話したい。」と言っていると聞いた。次に,同月17日ころ,GがMとともにV商事本社に来て,J以外に,常務2名がいる場で,被告人の言葉として,「手形のスキャンダルをマスコミにばらす。会社に取り立てに来る たい。」と言っていると聞いた。次に,同月17日ころ,GがMとともにV商事本社に来て,J以外に,常務2名がいる場で,被告人の言葉として,「手形のスキャンダルをマスコミにばらす。会社に取り立てに来る。若い者をよこす。本社の前で街宣車でスキャンダルを叫び,ビラをまく。Jに会いたい。」などと聞かされた。更に,同月22日ころ,δホテルの喫茶店で,G及びMと会い,同様の内容を伝え聞かされた上,「とにかく即,金を出さんと,大変なことになります。社長自身の身辺にも危険が及びますよ。家族にも及びますよ。」などと言われた。そして,同月24日夕方,外出先から帰ったところ,G,M及びDから,被告人がすぐ近くまで来ていて,会わざるを得ないと言われ,やむを得ず,Jと上記3名が被告人と日本料理店「L」で会食することとなった。その際,被告人から,「G,Mはうそつきや。わしらの業界もなめられたもんやな。わしらボランティアをやっとるんやない。Jさん,誠意を見せなさい。」などという発言があり,娘や孫の住まいの話も出て,余りいい気持ちがしなかったが,最後は,よろしくお願いしますと言って別れた。この会談の後,会社の信用を守るためには,被告人に金を渡して解決するしかないと考えるようになり,同月25日,G,M及びDと話し合い,1億円を出すこととしたが,同年8月2日,更に,Dから,電話で,金を出さないと大変なことになると言ってきた。そこで,Dに,役員会で説明できる稟議を作るよう指示し,その結果,同月4日,Pに手付金として1億円を支払う旨の内容虚偽の稟議書を作成し,稟議を経て,同月5日,Pの銀行口座を経由して被告人に1億円を支払った。 要するに,Jは,平成9年7月14日ころ,同月17日ころ及び同月22日ころの3回にわたり,Gを介して被告人から脅迫され,同月24日,被告 の銀行口座を経由して被告人に1億円を支払った。 要するに,Jは,平成9年7月14日ころ,同月17日ころ及び同月22日ころの3回にわたり,Gを介して被告人から脅迫され,同月24日,被告人と直接面談し,暗に脅迫を受け,その結果として被告人に1億円を支払った旨,ほぼ公訴事実に沿う供述をしている。 イこのようなJ証言の信用性についてみると,その証言内容は具体的かつ詳細であり,GやDから被告人の言葉を伝え聞いたときの心情や,被告人の言葉を伝えるときのGやDの緊張した表情等をありのまま供述したかなり迫真性に富んだ自然なものである。そして,Jは,被害者の立場とはいえ,暴力団組長である被告人に,会社が1億円を渡さざるを得なくなった経緯について,社会に知られないまま2年間も経過し,自己も既に円満退職した時点において,あえて被告人に不利益な虚偽供述を作出する動機も乏しいことに加え,弁護人らの詳細な反対尋問に全く崩れていないことなどから,その証言は高い信用性を有するというべきである。 (2) 証人Gの公判供述(以下「G証言」という。)ア G企画代表者であるGは,公判廷で,Dの不正な手形行為に関与するに至った経緯等のほか,被告人から,V商事の手形スキャンダルをマスコミにばらすなどという脅迫文言を同社のJ社長に伝えたこと,被告人に渡す1億円を捻出するため,J,D及びMらと相談し,取引があったような架空の伝票作成等を手伝った旨,Jの供述を裏付ける証言をする。 イ Gの供述は,被告人の脅迫文言をJに伝えるものとして極めて重要な意味を有するところ,Gは,自分自身の負債処理の問題や,T売却に絡んで被告人に迷惑を掛けており,被告人から厳しく叱責される立場にあったことなどから,V商事から被告人に金を出させることによって,自らの窮地 を有するところ,Gは,自分自身の負債処理の問題や,T売却に絡んで被告人に迷惑を掛けており,被告人から厳しく叱責される立場にあったことなどから,V商事から被告人に金を出させることによって,自らの窮地を脱したいという動機のあったことは否定できず,その信用性を特に慎重に吟味すべきことは,弁護人が指摘するとおりである。 そこで検討すると,Gの供述は,日常業務に関して日々の行動内容等を子細に記入していた業務日誌(Gの平成9年の日記帳,平成12年押第203号の1)に忠実に裏付けられたものであって,日時,場所,関係者等の正確性は十分に担保されているとみることができ,その内容も,Dによる権限なき手形行為という一連の不正活動の経緯に深く関与したという自己に不利益な事情について認めた上で,本件に至る経緯,被告人との交渉状況,被告人の言動,関係者の対応等を述べたものであり,Gらが依頼したD手形の回収に尽力してくれたことなど,被告人に有利な事情をも含め,極めて詳細で具体的なものであって,主尋問,反対尋問を通じて一貫しており,格別不自然なところもない。そして,被告人が,D手形が市中に流れたり,マスコミに漏れたりすれば大変なことになるなどと言いつつJに面談を強く求めていた状況等については,証人M及び同Dも,公判廷において,これと符合する供述をしている。Mは,7月18日のOホテルでのGと被告人の会談に一部同席し,その後も,被告人と喫茶店で会談した状況について述べているものであり,Dは,同月19日,Oホテルに呼びつけられた際の状況について述べているものであるが,Mは,少なくとも,この時点における被告人の言動等につき,殊更虚偽の供述をするおそれがあるとまでは認められず,Dの供述も,おおむね信用できることは後記のとおりであり,Gも,M,Dも,それぞれある が,Mは,少なくとも,この時点における被告人の言動等につき,殊更虚偽の供述をするおそれがあるとまでは認められず,Dの供述も,おおむね信用できることは後記のとおりであり,Gも,M,Dも,それぞれある意味では,被告人に負い目を感ずる事情がないとはいえないものの,被告人との関係やV商事における立場等が全く異なる上記3名が,同時にあるいは近接した時点において,それぞれ直接体験したこととして上記のような供述をしていることに照らせば,これらの証言は,十分信用することができる。また,これら関係証拠によれば,本件当時,被告人は,経済的に相当ひっぱくした状況にあったことがうかがわれるところ,被告人は,前記のとおりGやDらが,被告人にD手形の回収を依頼し,被告人がそれなりの成果を収めた結果,VあるいはV商事に恩を売ったにもかかわらず,V商事等から何の見返りもないことに強いいら立ちを覚えていたことは明らかであって,上記各供述は,これらの事情とも十分整合性を持つものといえる。 したがって,弁護人が指摘するその他の諸事情を含めて検討しても,Gの公判供述は,その信用性に疑いを生じさせる事情があるということはできない。 (3) 証人Dの公判供述(以下「D証言」という。)ア当時のV商事取締役営業統括部部長であったDは,平成9年3月ころ,Fから手形保証の要請を受け,同年4月14日ころ,自己が支払保証をした債務の返済に汲々としていたこともあって,これを了承し,次々と自己の記名印等を用いて無権限の手形行為を行ったこと,同年6月6日ころ,Fが手形を「パクられた」ので,被告人に手形を回収してもらいたいと考えて,Gに連絡を取ったこと,前項に記載した事項を含め同年7月下旬ころ,幾度か被告人からJに会わせろと要求され,その要求をJに伝えたこと,同月24 られた」ので,被告人に手形を回収してもらいたいと考えて,Gに連絡を取ったこと,前項に記載した事項を含め同年7月下旬ころ,幾度か被告人からJに会わせろと要求され,その要求をJに伝えたこと,同月24日の会談後の同月26日ころにも,「J渋っとんか。まだ分かってないのかな。もう一回,自分が行って説明したろか。」などと言われ,更に,同年8月4日にも,電話で,「今更できませんじゃ,ただじゃすまんぞ。Jにもよく言っとけ。」などと大声で怒鳴られ,すぐにJに伝達したことなどを公判廷で証言する。 イ D証言の内容は,相当程度に具体的かつ詳細であり,被告人から厳達を受けたときの心情等について,実際に体験したものでなければ供述することができないような迫真性,体験性に富んだものである。加えて,自らがFの依頼により無権限の手形行為に及んだ事実及びその経緯等,犯罪行為とも評価されかねない自己に不利益な事実や,被告人がDらの依頼にこたえてD手形の一部を回収してくれた状況といった被告人にとって有利な事情を含め,整合性のある供述をしており,反対尋問にも揺らいでいないこと,被告人からの電話による脅迫文言をJに伝えた状況等について,前記のとおり信用できるJ及びGの各証言等の関係証拠とよく符合していることなどの事情を総合すると,少なくとも関係各証拠と符合する範囲において,D証言は十分信用することができる。 4 検討(1) 恐喝の実行行為及び被告人の故意について(弁護人の主張①)ア前記2で認定した事実関係に加え,前記3で検討したとおり信用することができる関係各供述を総合すると,被告人はG及びDを介して,判示のとおりの文言を告知しているところ,Jは,被告人が日本最大の暴力団組織である五代目A組の直参組長であることを知っていたのであり,そのような被告人から, 述を総合すると,被告人はG及びDを介して,判示のとおりの文言を告知しているところ,Jは,被告人が日本最大の暴力団組織である五代目A組の直参組長であることを知っていたのであり,そのような被告人から,判示のとおり会社のスキャンダルを暴露する,J自身のみならずその親族の生命,身体に危害を加えかねないなどという内容の文言を告知されたのであるから,Jが,自己又は親族の生命,身体の安全を憂慮することはもちろん,V商事代表取締役社長として,会社のスキャンダルが露見することにより同社の信用が低下することを危惧し,何としてでもそれを回避するための行動を起こそうとすることは当然であって,被告人の告知した文言は,社会通念上,相手方を畏怖させるに足りる程度の害悪の告知であることは明らかである。 そして,被告人が「Jさん,誠意を見せなさい。」などと申し向けて,暗に金員を要求し,その後被告人がV商事から1億円を受領したことに照らすと,上記の脅迫が金員の喝取に向けられたものであることもまた明らかであるから,その行為は恐喝罪に該当し,また,被告人は自己の行為を具体的に認識していたと認められる以上,被告人に恐喝罪の故意があったことも優に認めることができる。 イ弁護人は,被告人は一切脅迫文言を告知しておらず,恐喝の故意もないと主張し,被告人もこれに沿う供述をするのであるが,被告人の弁解供述は,先に検討したとおり信用することができるJ,G及びDの各証言と,被告人が判示のとおりの脅迫文言を告知したという本件罪体の核心部分において全く異なっており,J,G及びDの各証言と対比して信用することができず,この被告人の弁解供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 (2) 権利行使の主張について(弁護人の主張②)ア次に,弁護人は,被告 の各証言と対比して信用することができず,この被告人の弁解供述を前提とする弁護人の主張も採用することができない。 (2) 権利行使の主張について(弁護人の主張②)ア次に,弁護人は,被告人は,G及びDらから依頼されたD手形の回収等の活動を実際に行い,D手形問題を無難に処理したのであって,D自身,D手形のサルベージには当然高額の謝礼をする必要があると認識していたことからも,被告人にV商事に対する報酬ないし謝礼の請求権があることは当然であって,その額も1億円を下らないなどと主張し,被告人もこれに沿う趣旨の供述をする。 イそこで検討すると,なるほどDが平成9年6月20日ころ作成した「私のお願い事項」と題する手書きの書面(平成12年押第203号の符号13「透明ファイル1冊」に在中。)には,「締括り」として「B会長への感謝の表示→別途協議」の記載があり,また,D自身,公判廷において同趣旨の証言をしていることから,Dが被告人に対してなにがしかの金銭的謝礼を支払う意思があったことがうかがわれる。 しかしながら,①上記の「私のお願い事項」と題する書面には,V商事を退職するとか,Fの債務の支払保証をした金を被告人において立て替えて支払ってほしいなどといったDの個人的な意見ないし要望等が記載されているにすぎず,この記載をもって,被告人のV商事に対する報酬請求権が基礎づけられるものではないこと,②被告人にD手形の回収を依頼したのは,G及びDらであって,当時DはV商事取締役ではあったが,Dに代表権がなかった以上,被告人がDらからの依頼を引き受けたからといって,被告人とV商事との間には何らの委託関係やそれに基づく債権債務関係が発生するわけではないこと,③Dらが,D手形問題,すなわち一連の無権限の手形行為という不正行為を行ったこ を引き受けたからといって,被告人とV商事との間には何らの委託関係やそれに基づく債権債務関係が発生するわけではないこと,③Dらが,D手形問題,すなわち一連の無権限の手形行為という不正行為を行ったことに対する事後処理として本件手形回収等を被告人に依頼したという経緯及び金融ブローカー等に転々流通を始めたD手形を内密に,かつ,正当な法的手段によらずして回収してほしいという依頼の趣旨は,いずれも本来的に脱法的色彩が強いことに加え,④被告人は,本質的に反社会的犯罪集団である暴力団五代目A組直参組長という自己の地位,権勢を利用して,本件手形回収等の活動を行ったもので,被告人の手形回収等の活動自体,反社会的な要素が強く,社会通念上正当なものとは言い難いことなど,関係証拠により認められる事情を総合して考慮すると,被告人が依頼者であるG及びDらから,自発的に供与された道義的な意味での報酬ないし謝礼を受領することはともかく,被告人が民事法上の請求権として,本件手形回収等の委託関係においては第三者に当たるV商事に謝礼等の支払を求め得るものではなく,結局,被告人が,Jに対してはもとより,V商事ひいてはVグループに対して,社会通念上正当な権利を有しているとは到底認めることができない。 なお,Jは,平成9年7月半ばころ,DからD手形問題への関与を告白された際,Dに手形回収を指示しているが,この事実をもってしてもV商事から被告人に手形回収等を依頼したとは認められず,上記認定を何ら左右しない。 そして,仮に被告人がそのような正当な権利を有していると考えていたとしても,被告人が本件に関与するに至った経緯及び被告人の現実の活動内容等に照らして,被告人が,正当な権利を有すると確信するための前提となる事実関係に何らの錯誤も認められない上,被告人 と考えていたとしても,被告人が本件に関与するに至った経緯及び被告人の現実の活動内容等に照らして,被告人が,正当な権利を有すると確信するための前提となる事実関係に何らの錯誤も認められない上,被告人自身,前記のような言辞を用いたとすれば,恐喝に当たり違法であると当公判廷で供述していたのであって,正当な権利行使として違法性が阻却されるとは到底認めることができない。 ウ小括したがって,本件において弁護人が主張するような報酬ないし謝礼請求権は認められず,本件恐喝罪の違法性が阻却される余地はない。 5 結論以上のとおりであって,判示の恐喝の犯罪事実はこれを優に認定することができる。 (法令の適用)被告人の判示行為は刑法249条1項に該当するところ,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役4年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中750日をその刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文によりこれを被告人に負担させることとする。 (量刑の理由) 1 事案の概要本件は,暴力団五代目A組の直参組長である被告人が,被害者であるV商事株式会社の当時の一取締役が無権限で裏書,券面保証の手形行為をした約束手形の回収等の活動を行ったことを契機として,同社代表取締役社長を脅迫し,その結果,同社から現金5000万円及び小切手1枚(額面金額5000万円)の合計1億円を喝取したという巨額企業恐喝の事案である。 2 量刑上考慮した事情(1) 不利な事情被告人は,暴力団五代目A組の現役の直参組長であり,本件はその地位,権勢を最大限に利用して,金融ブローカー等の手に渡った手形の回収等の活動を行い,うち一部の手形を手にしたことなどを奇貨として,東証1部上場企業の子会社である被害企業から,合計1億 ,本件はその地位,権勢を最大限に利用して,金融ブローカー等の手に渡った手形の回収等の活動を行い,うち一部の手形を手にしたことなどを奇貨として,東証1部上場企業の子会社である被害企業から,合計1億円もの巨額の金員を喝取したもので,その犯行態様は悪質であって,結果も極めて重大である。 そして,被告人は,V商事から喝取した1億円を,ギャンブルによる借金の返済等に全額費消したというのであり,現時点においても,被害者に対して何ら被害弁償がなされていない。 また,被告人は,捜査段階から公判段階に至るまで,暴力団組長である自分が手形回収等の活動をした以上,当然高額の報酬ないし謝礼を請求する権利があるなどと,暴力団構成員特有の理屈に基づく身勝手な弁解に終始しており,反省の情はうかがうことができない。 加えて,被告人は,昭和35年から平成6年までの間に,窃盗,恐喝,犯人蔵匿,賭博開帳図利,賭博,貸金業法違反,出資法違反による前科合計8犯を有し,これまでに3回服役したにもかかわらず,本件犯行に及んだものであり,何よりも被告人が長年反社会的犯罪集団である暴力団の組長としての活動を続け,現在,暴力団五代目A組の直参幹部であることからすると,被告人の犯罪性向は極めて強固であると認められる。 このような事情に照らすと,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 (2) 有利な事情しかしながら,他方,被告人は,前判示のとおりの本件犯行に至る経緯において,G,D及びFらの依頼を受け,Dによる無権限の手形行為の事後処理として,D手形の回収等の活動を行った結果,現実に手形の流通を阻止して相応の成果を上げ,結局手形スキャンダルは露見しなくて済んだのであり,本件犯行に至る経緯における被告人の活動は,結果的に被害者 理として,D手形の回収等の活動を行った結果,現実に手形の流通を阻止して相応の成果を上げ,結局手形スキャンダルは露見しなくて済んだのであり,本件犯行に至る経緯における被告人の活動は,結果的に被害者であるV商事ひいてはVグループ全体に対して,手形スキャンダルによる信用低下を回避させ,相当の利益をもたらしたもので,被告人にD手形回収等を依頼したGらの期待にこたえるものであったことのほか,V商事社長のJをはじめとする被害者であるV商事側の思わくと必ずしも矛盾するものではなかったとうかがえることなど,被告人にとって有利な事情も認められる。 3 結論以上諸般の事情を総合して考慮し,被告人に対して,主文の刑を科することとした。 (求刑・懲役8年)平成15年6月19日神戸地方裁判所第4刑事部裁判長裁判官笹野明義裁判官浦島高広裁判官谷口吉伸

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る