主文 一被告は、原告ら各自に対し、それぞれ金五〇万円及びこれに対する平成一〇年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 二訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第一請求の趣旨主文同旨第二事案の概要本件は、喜久屋商事株式会社(以下「喜久屋商事」という。)及び東京都地下鉄建設株式会社(以下「地下鉄建設」といい、喜久屋商事と併せて「喜久屋商事ら」という。)が、喜久屋商事らの所有地を一つの敷地として、その土地上に一〇階建ての建物を一つの建築物として建築する計画をし、台東区建築主事(以下「建築主事」という。)に対し建築確認申請をしたところ、建築主事が平成一〇年九月一八日付けで右申請に対する建築確認処分をしたことから、右建物の北側に居住する原告らが、右建築確認処分は建築基準法(以下「法」という。)五六条一項一号(道路斜線制限)に反する違法があり、右の違法な建築確認処分によって精神的損害を被ったとして、国家賠償法一条に基づき、右の精神的損害賠償請求権の一部請求として、被告に対し、それぞれ五〇万円の支払及びこれに対する建築確認の日である平成一〇年九月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである(本件は、当初、建築確認処分の取消しを求める抗告訴訟として提起されたものであるが、平成一二年八月八日に建築物が完成したことから、行政事件訴訟法二一条に基づいて損害賠償請求へと訴えが変更されたものである。)。 一道路斜線制限についての法の定めについて 1 法五六条一項は、建築物の各部分の高さは、同項各号に規定するもの以下としなければならないとし、同項一号では、前面道路と建築物の高さとの関係について、法別表第三(い)欄及び(ろ)欄に掲げる地域、地区又は区域及び割合の限度 の各部分の高さは、同項各号に規定するもの以下としなければならないとし、同項一号では、前面道路と建築物の高さとの関係について、法別表第三(い)欄及び(ろ)欄に掲げる地域、地区又は区域及び割合の限度の区分に応じ、前面道路の反対側の境界線からの水平距離が同表(は)欄に掲げる距離以下の範囲内においては、当該部分から前面道路の反対側の境界線までの水平距離に、同表(に)欄に掲げる数値を乗じて得たもの以下にしなければならない旨規定している。 具体的には、本件で問題となる商業地域で建ぺい率八〇パーセントである地域内の建築物については、前面道路の反対側から建築物までの距離が三〇メートル以下の場合には、当該建築物の高さを前面道路の反対側の境界線までの水平距離に一・五を乗じて得た数値以下にしなければならないとされている。 2 建築物の前面道路が二以上ある場合においては、幅員の最大な前面道路の境界線からの水平距離がその前面道路の幅員の二倍以内でかつ三五メートル以内の区域については、すべての前面道路が幅員の最大な前面道路と同じ幅員を有するものとみなすものとされている(法五六条四項、法施行令一三一条、一三二条一項)。 二前提となる事実(証拠等を掲記したもの以外は当事者間に争いのない事実である。) 1 地下鉄建設は、東京都台東区α五九番五及び同番六の土地(以下「甲土地」という。)を所有している(甲六の1、2)。喜久屋商事は、同区α五七番九及び同番一二の土地を所有し、冨士不動産株式会社は、同番一〇及び同番一一の土地を所有している(以下、同番九ないし一二の土地を「乙土地」といい、甲土地と併せて「本件土地」という。)(甲八及び一〇の各1、2)。 喜久屋商事らは、甲土地及び乙土地を一つの敷地として、その土地上に一〇階建ての建物を一つの建築物として建築する計画をし(以下、 い、甲土地と併せて「本件土地」という。)(甲八及び一〇の各1、2)。 喜久屋商事らは、甲土地及び乙土地を一つの敷地として、その土地上に一〇階建ての建物を一つの建築物として建築する計画をし(以下、この建物を「本件建築物」という。)、建築主事に対して建築確認申請(以下「本件建築確認申請」という。)をした。 これに対し、建築主事は、平成一〇年九月一八日付け建築確認番号一八三号をもって、建築確認処分(以下「本件処分」という。)をした。 2 本件建築物は、地上一〇階、地下一階建てであり、地下鉄の換気塔部分(以下「換気塔部分」という。)とビル部分(店舗、事務室等があるビルの部分。以下「ビル部分」という。)からなり、換気塔部分が甲土地上に、ビル部分が乙土地上に配置され、五階、六階部分は換気塔の上にビル部分がせり出している(乙三の1ないし12、弁論の全趣旨)。なお、両部分の位置関係は、別紙南北方向断面図のとおりである。 本件土地には、二以上の前面道路があるが、甲土地が幅員二二メートルのβ通りに面しており、かつ、β通りの境界線からの水平距離が三五メートル以内におさまっているため、建築主事は、本件建築物が一の建築物であることを前提として、道路斜線制限の規定の適用については、法施行令一三二条一項に基づいて、すべての前面道路が二二メートルの幅員を有するものとして本件処分をした(乙一、三の1、弁論の全趣旨)。 本件建築物は、平成一二年八月八日に完成し、法七条五項の規定に基づく検査済証が交付された(弁論の全趣旨)。 3 原告らは、本件土地の北側に位置する東京都台東区α二番二号に建物を所有して居住する者である。原告Aの所有する建物は、法四二条二項に基づく道路を挟んで乙土地の北側に位置し、原告Bの所有する建物は、原告Aの所有する建物に隣接してその北側に位置して α二番二号に建物を所有して居住する者である。原告Aの所有する建物は、法四二条二項に基づく道路を挟んで乙土地の北側に位置し、原告Bの所有する建物は、原告Aの所有する建物に隣接してその北側に位置している(甲一、二、六の1、2、一二、二四、乙二、三の1、弁論の全趣旨)。なお、本件土地と原告ら居住地との位置関係は、別紙図面のとおりである。 三争点及び当事者の主張本件の争点は、本件処分が違法であるかどうか(争点1)、本件処分をした建築主事に故意又は過失が認められるかどうか(争点2)及び原告らに本件処分と因果関係のある損害が認められるかどうか(争点3)であり、争点に関する当事者の主張は以下のとおりである。 1 争点1(本件処分が違法であるかどうか)について(原告らの主張)本件処分は、本件建築物が法五六条一項一号(道路斜線制限)に反することを看過してされたものであり、違法である。すなわち、本件建築物は、以下の(一)及び(二)のとおり、換気塔部分とビル部分とが別個の建築物であり、ビル部分は乙土地のみを敷地とするものであるから、甲土地が幅員二二メートルのβ通りに面していたとしても、乙土地を敷地とするビル部分の道路斜線制限の規定の適用については、その前面道路の幅員が二二メートルとみなされることはなく、したがって、道路斜線制限の規定に違反する。また、換気塔部分とビル部分とは用途上不可分の関係にないので、甲土地と乙土地とが一の敷地として換気塔部分とビル部分の敷地となることもない(法施行令一条一号参照)。 (一) 換気塔部分とビル部分とは三三〇ミリメートルの間隔を置いて建築されるように設計されており、二つの壁により区分されているものであるから、両者は物理的にも構造的にも別個の建築物であり一の建築物ではない。 (二) 被告は、換気塔部分とビル部分とがエキ 隔を置いて建築されるように設計されており、二つの壁により区分されているものであるから、両者は物理的にも構造的にも別個の建築物であり一の建築物ではない。 (二) 被告は、換気塔部分とビル部分とがエキスパンションジョイントによって接合・固定されている旨主張するが、それは構造的に一体とはいえず、単に外形的、装飾的に一に接合しているにすぎない。このことは、法施行令八一条二項において、「二以上の部分がエキスパンションジョイントその他の相互に応力を伝えない構造方法のみで接している建築物の当該建築物の部分は、前項の規定の適用については、それぞれ別の建築物とみなす。」と規定していることからも明らかである。 しかも、建築主事は、本件審査請求において、本件建築物がエキスパンションジョイントでつながれていること、換気塔部分とビル部分が三三〇ミリメートル離されて建築されていること及び外壁も別構造であることを明らかにせず、また、原告らが本件建築確認申請に係る建築申請書類等の閲覧、謄写を求めても直ちにはこれを許可せず、その閲覧を認めた後もその謄写を許可しないなど、原告らが本訴において本件処分の違法性を主張立証することを妨げ、本訴を遅延させ、本件処分の取消しを求める請求の訴えの利益を喪失せしめたのである。 (被告の主張)(一) 以下のとおり、本件建築物は甲土地及び乙土地を敷地とするものであるから、本件処分には、法五六条一項一号(道路斜線制限)に反する違法はない。 (1) 法施行令一条一号に規定されている「一の建築物」に当たるか否かについては、法の各種規定の趣旨、目的を考慮しながら社会通念により判断すべきこととなるが、社会通念上、一の建築物とは、一棟の建物をいうと解するのが一般であることからすれば、一の建築物とは、外観上分離されておらず、また構造上も外壁、床、天井 しながら社会通念により判断すべきこととなるが、社会通念上、一の建築物とは、一棟の建物をいうと解するのが一般であることからすれば、一の建築物とは、外観上分離されておらず、また構造上も外壁、床、天井、屋根といった建築物の主要な構造部分が一体として連結し、あるいは密接な関連をもって接続しているものを指すと解すべきである。 本件建築物は、換気塔部分を含めて外壁全体が一体のものとなっており、また、地上一階ないし三階内部におけるビル部分と換気塔部分との間は、床、天井、内壁がエキスパンションジョイントにより接合・固定され、そのエキスパンションジョイントはそのままビル部分の床、天井、内壁の一部となっており、しかも、換気塔部分の上部には、エキスパンションジョイントで接合されたビル部分が存在し、地上一階ないし四階内部のビル部分と換気塔部分との間は、単一の壁で区分されているのであるから、ビル部分と換気塔部分とは、外観上分離されておらず、構造上、外壁、床、天井、屋根といった建築物の主要な構造部分が一体として連結し、あるいは密接な関連をもって接続している状態であるから、本件建築物は一体として一の建築物であると解すべきである。 したがって、本件建築物は一の建築物であり、道路斜線制限の規定に反する違法はない。 (2) 仮に、本件建築物について、換気塔部分がビル部分と一体となる一の建築物の一部でないとしても、換気塔部分は屋根を有するものに類する構造のものであるとは認め難く、その他法二条一号に規定されている建築物のいずれにも該当しないから、「建築物」ではなく、単なる工作物にすぎない。 そして、敷地とは「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地をいう」(法施行令一条一号)のであるから、一の建築物の敷地として計画された土地について、建築物 にすぎない。 そして、敷地とは「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地をいう」(法施行令一条一号)のであるから、一の建築物の敷地として計画された土地について、建築物には該当しない単なる工作物の類がその敷地上に存在したとしても、一の建築物の敷地であることは否定されない。 本件でも、換気塔部分が存在したとしてもそれは単なる工作物にすぎないから、甲土地及び乙土地を敷地としてビル部分(前記認定のとおり一の建築物と認められるもの)が建築されているということになるので、道路斜線制限に反する違法があるということはできない。 (二) また、いかなる敷地にいかなる建築物を建築するかという点については、法の規制の範囲内にある限り、建築主にゆだねられており、いったん作成した計画が建築基準関係規定に適合しない場合であっても、当該部分を修正することによって、建築物の敷地については同一のままで建築基準関係規定に適合しうる建築計画として再度建築確認を受けることは十分に考えられる。すなわち、本件についても、原告らの指摘するような点について建築計画を修正して一の建築物とすれば、形態、規模において同一の建築物を適法に建築することができるのである。 このように、仮に、本件処分が建築基準関係規定に適合しないものであったとしても、そもそも原告らは、本件建築物の敷地とされた土地について本件建築物のような高さの建築物が建築されないと保障されているわけではないし、建築基準法上、日照利益が保護されているということもできない(法五五条一項一号の道路斜線制限に関する規定は、沿道や周辺の建築物に対してその日照等の居住環境を具体的、個別的に保護しているものと解することはできない。)のであるから、建築主事が本件において本件処分をしたことは原告らの日照利益に対する る規定は、沿道や周辺の建築物に対してその日照等の居住環境を具体的、個別的に保護しているものと解することはできない。)のであるから、建築主事が本件において本件処分をしたことは原告らの日照利益に対する関係において違法な行為に当たるとはいえない。 2 争点2(本件処分をした建築主事に故意又は過失が認められるかどうか)について(原告らの主張)建築主事は、喜久屋商事らの本件建築確認申請が法に違反し、建築確認をすることができないことを十分認識しながら本件処分をしたものである。 (被告の主張)本件では、本件建築物がエキスパンションジョイントによって接続されている点で、一の建築物として扱えるか否かが最大の争点であるところ、建築主事は、本件建築物は、外観上、構造上一体と認められ、一の建築物であるというべきものであって、それは建築基準関係規定にすべて適合する構造等を有すると判断したものである。このような建築物を、建築物としての個数において、どのように取り扱うべきかについては、建築基準法をはじめとする関係法令に明確な規定はなく、また、先例となる判例、行政実例、文献も存在しなかったことから、建築主事においては、結局のところ、一の建築物であるか否かは、「外観上、構造上一体といえるか否か」という一般的基準をもとに判断せざるを得なかった。建築主事は、職務上要求される通常の法律知識、技術的知識、経験を駆使し、自らが正当と信じる解釈に従って建築確認をしたのであって、建築主事には故意、過失が認められない。 しかも、建築確認において、建築主事は、提出された図面等を前提として当該建築物の建築計画が建築基準関係規定に適合するかどうかを判断せざるを得ず、申請者が一の建築物として申請している建築計画を一の建築物ではないと判断するについては、これを否定し得るだけの積極的、 て当該建築物の建築計画が建築基準関係規定に適合するかどうかを判断せざるを得ず、申請者が一の建築物として申請している建築計画を一の建築物ではないと判断するについては、これを否定し得るだけの積極的、明確な根拠が必要とされるところ、そのような積極的、明確な根拠たるものが見当たらず、かえって、法施行令八一条をみる限り、エキスパンションジョイントにより接続した場合において、その建築物が一の建築物であることは当然の前提とされていると解さざるを得なかった。そして、建築主事は、建築確認の申請書を受理した日から二一日以内に、建築確認を行うか不適合通知をしなければならない義務を負っているのであるから、前述のような状況に照らすと、本件処分には十分な合理性がある。 3 争点3(原告らに本件処分と因果関係のある損害が認められるかどうか)について(原告らの主張)(一) 原告Aは、本件建築物と私道をはさんだ土地上に開業医を営み、サナトリウム的に診療所を営んでいるところ、本件建築物により日照、通風などの環境の激変により、従来の診療形態を変更せざるを得ず、今後は診療所としての経営が不能となるおそれが生じた。 (二) 原告Bの借地は、借地権割合が〇・八二であるところ、面積が八九・九二平方メートルであって、路線価の概算が一億三〇二〇万四一六〇円であり、実勢価格はその三倍の約四億円であるが、本件建築物により、少なくとも二割の価格下落が生じた。 (三) 原告らは、共通して、違法な本件建築物により、日照、通風、天空などを奪われ、日常生活に著しい支障を今後永年にわたって受け続けることになるところ、その結果、①右支障による生活、営業及び精神的な被害、②地価下落、営業不振及び生活支障による経済的被害、③建築主事の意図的ともいえる不当な建築指導、建築図面等の不当な開示拒否によるいた なるところ、その結果、①右支障による生活、営業及び精神的な被害、②地価下落、営業不振及び生活支障による経済的被害、③建築主事の意図的ともいえる不当な建築指導、建築図面等の不当な開示拒否によるいたずらな法的手続きに要した経済的、精神的被害を被った。 原告らの損害は、原告Aにあっては少なくとも八〇〇〇万円を超え、原告Bにあっては少なくとも五〇〇〇万円を超えるが、右の①、③の損害のうち、精神的損害としては、それぞれ、少なくとも五〇万円を超える損害を被っている。 (被告の主張)本件では、乙土地を敷地とした場合には、五階建ての建築物を適法に建築することができるところ、本件建築物の六階以上が建築されないとしても原告らの本件建築物による日照被害の程度は変わりがない。また、前記1(被告の主張)(二)のとおり、仮に本件処分が違法であったとしても、本件建築物と全く同じ形態、規模の建物が自由に建築できるのであるから、本件処分が直接原告らの権利利益を侵害するという関係にはない。 したがって、本件処分が原告らの権利利益を侵害し、何らかの損害を与えたということはできず、原告らには救済されるべき損害はないというべきである。 第三当裁判所の判断一争点1(本件処分が違法であるかどうか)について 1 本件建築物の個数法施行令一条一号は、敷地について「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地をいう」として、建築基準法にいう敷地の範囲は、建築物ごとに決すべきものとしているところ、「一の建築物」とは、外観上分離されておらず、また構造上も外壁、床、天井、屋根といった建築物の主要な構造部分が一体として連結し、あるいは密接な関連をもって接続しているものを指すと解すべきである。 そこで、証拠(乙一、三の1ないし12)によって、本件建築物の主要 、天井、屋根といった建築物の主要な構造部分が一体として連結し、あるいは密接な関連をもって接続しているものを指すと解すべきである。 そこで、証拠(乙一、三の1ないし12)によって、本件建築物の主要な構造部分をみると、外壁、床、天井及び屋根のいずれをとっても、本件建築物中の換気塔部分とビル部分とは、全く連結しておらず、また密接な関連をもって接続していることもないというほかない。被告は、本件建築物は、換気塔部分を含めて外壁全体がエキスパンションジョイントで接合されることによって一体のものとなっており、また、地上一階ないし三階内部におけるビル部分と換気塔部分との間は、床、天井、内壁がエキスパンションジョイントにより接合・固定され、そのエキスパンションジョイントはそのままビル部分の床、天井、内壁の一部となっており、しかも、換気塔部分の上部には、エキスパンションジョイントで接合されたビル部分が存在し、地上一階ないし四階内部のビル部分と換気塔部分との間は、単一の壁で区分されていると主張する。しかし、外壁全体が一体であることは単に外観上一体かのように見えるだけであって、右のように主要な構造部分に関連がない以上、一の建築物とは到底いえない。また、エキスパンションジョイントとは建築物・構造物の接続方法の一つで、構造体を物理的に分離しておくことによって、構造体が相互に力学上影響を及ぼし合わないようにする接続方法であって、これによって接続されている部分相互間に応力を伝えるものではないから(法施行令八一条二項)、これによって接続固定されていることは外観上一体化しているにすぎず、主要な構造部分の関連性をもたらすものではないし、これがそのまま内壁等に用いられているとしても、その性質からすると間仕切壁と同様主要な構造をなすものとはいい難い(法二条五号)。さらに、 るにすぎず、主要な構造部分の関連性をもたらすものではないし、これがそのまま内壁等に用いられているとしても、その性質からすると間仕切壁と同様主要な構造をなすものとはいい難い(法二条五号)。さらに、地上一階ないし四階につき、両部分が単一の壁で区分されている部分があることは、被告が指摘するとおりであるが、証拠(乙三の1ないし12、七(特に乙三の4、5、8、10ないし12))及び弁論の全趣旨によると、本件建築物の地上一階ないし四階は、換気塔部分の壁に、エキスパンションジョイントによって、ビル部分の床、壁及び天井が結合されているにすぎない。そして、右のとおり、エキスパンションジョイントは接続されている部分相互に応力を伝えるものではないのであるから、構造的には分離されているに等しく、被告が主張するように単一の壁で区分されているとしても、主要な構造部分に密接な関連があるということができないことは明らかである。 したがって、換気塔部分とビル部分とは、それぞれ別個独立の建物又は工作物というほかない。 2 ビル部分の敷地と本件処分の瑕疵(一) 本件建築物中のビル部分は、前記1のとおり、換気塔部分とは別個独立の建物であるから、双方が用途上不可分であると認められない限り、その敷地も換気塔部分とは別個に考えるべきところ、双方が用途上不可分であるとの主張立証はないから、本件建築物中のビル部分と換気塔部分が用途上不可分の関係にあるとは認め難い。 そして、証拠(乙二、三の1ないし12)に双方の部分の位置関係及び甲、乙両土地の所有関係を総合すると、ビル部分の敷地の範囲は乙土地のみ又はこれに甲土地のうちのビル部分五階及び六階部分の直下に当たる部分を加えたもの限られると認められ、その敷地の範囲が南側のβ通りに接するものとは認め難い。したがって、ビル部分の前面道路は西 土地のみ又はこれに甲土地のうちのビル部分五階及び六階部分の直下に当たる部分を加えたもの限られると認められ、その敷地の範囲が南側のβ通りに接するものとは認め難い。したがって、ビル部分の前面道路は西側の幅員六メートルの公道及び北側の幅員四メートルの私道のみであって、南側のβ通りは前面道路ではないというべきである。 (二) この点について、被告は、仮に、換気塔部分とビル部分が一の建築物と認められないとしても、換気塔部分は単なる工作物にすぎないから換気塔部分が存在することによって甲土地及び乙土地がビル部分の敷地であることは否定されないと主張する。 しかし、敷地について規定している法施行令一条一号の「一団の土地」とは、道路、河川、囲障等によって隔てられずに、連続した土地であること、及び当該建築物と用途上不可分の関係にあって、これと共通の用途に現実に供されていることが必要であるというべきであって、当該建物以外の避難、防火上支障となるような物理的な障害物件によって隔てられているような場合には、原則として一団の土地ということはできないと解すべきである。法四三条、五三条等の規定から明らかなように、法上の敷地は、建築物の利用や災害時の避難路といった観点から設けられた制度であるから、利用上の一体性がない場合や物理的な障害物件によって隔てられているような場合には、もはや法上の敷地と認めることはできず、法施行令一条一号の「一団の土地」という文言もこのことを明らかにしているものと解されるからである。 これを本件についてみるに、乙第三号証の1、4によると、甲土地上には、その東側及び南側にわずかな空地があるものの、乙土地との境界線間際の部分を含め、その大部分に換気塔部分が存在することが認められるのであるから、甲土地は、ビル部分の直下の部分を除き、換気塔部分のため その東側及び南側にわずかな空地があるものの、乙土地との境界線間際の部分を含め、その大部分に換気塔部分が存在することが認められるのであるから、甲土地は、ビル部分の直下の部分を除き、換気塔部分のために利用されているとみるのが常識的であって、しかもビル部分と換気塔部分とが用途上不可分の関係にあるとは認め難いのであるから、換気塔部分のために利用されていることをもってビル部分のためにも利用されているということはできないし、南側の公道から甲土地東側の空地を通って乙土地に至ることは可能であるが、ビル部分南側にはこの空地を利用するための出入口があるとは認められず、右空地部分がビル部分の通行の用に供されているとは認め難い。そうすると、甲土地は、ビル部分の直下の部分を除き、ビル部分のために利用されているとはいえず、甲土地と乙土地とは、利用上の一体性を欠き、両者をあわせて一団の土地ということはできないのであるから、甲土地のうち、少なくともβ通りに面する部分は、ビル部分の敷地と認めることはできない。 (三) ビル部分の敷地が右(一)のとおりであるとすると、ビル部分の道路斜線制限は西側の幅員六メートルの道路を基準として定めるべきであって、この点につき南側のβ通りを基準とした本件処分には瑕疵があることは明らかであり、本件処分は、法五六条一項一号に反する違法なものというべきである。 3(一) 被告は、本件処分に法五六条一項一号に反する違法があるとしても建築主が建築計画を修正するなどの手段をとることによって、本件建築物と形態、規模において同一の建築物を適法に建築することができるのであるから、原告らは本件建築物の敷地とされた土地について本件建築物のような規模の建築物が建築されないと保障されているものではなく、本件処分は原告らの日照利益に対する関係において違法な行為に きるのであるから、原告らは本件建築物の敷地とされた土地について本件建築物のような規模の建築物が建築されないと保障されているものではなく、本件処分は原告らの日照利益に対する関係において違法な行為に当たるとはいえないと主張する。 しかし、建築主が建築基準関係規定の許容する範囲内で建築物を建築することが認められることから、構造上の一体性を確保することにより本件建築物と形態、規模において同一の建築物を適法に建築することができるとしても、建築主が現に意図したものが、右のとおり、建築基準関係規定に適合しないものであった以上、そのようなものを同規定に適合するものとして、そのまま建築することを許した本件処分が違法であることに変わりはなく、国家賠償法一条一項における違法があると判断されるべきである。 (二) また、被告は、原告らの日照利益は法上保護されていないのであるから、建築主事がした本件処分は、原告らの日照利益に対する関係において違法な行為に当たらないと主張する。 (1) しかし、違法な処分によって、原告らの権利・利益を侵害した場合に、その権利・利益が当該処分の根拠となる法令上保護されていないからといって当該処分が正当化される理由はなく、国家賠償法上違法の評価を免れるものではない。 その点をおくとしても、(2)に説示するとおり、原告らは、道路斜線制限規定(法五六条一項一号)によって法的に保護された利益を有しているのであるから、被告の右主張は採用することができない。 (2) 道路斜線制限の規定の趣旨を検討するに、道路斜線制限は、建築物の各部分の高さについて、その前面道路の反対側の境界線からの距離に対する一定の割合(商業地域においては一・五倍とされている。)以下にこれを制限するもの、すなわち、当該建築物の敷地の前面道路の反対側の境界線から、敷地の上空 、その前面道路の反対側の境界線からの距離に対する一定の割合(商業地域においては一・五倍とされている。)以下にこれを制限するもの、すなわち、当該建築物の敷地の前面道路の反対側の境界線から、敷地の上空に向かって一定の勾配で引いた斜線によって、建築物の高さを規制するものである。しかも、法五六条二項において、前面道路の境界線から後退(セットバック)し、敷地の道路側に空地をもうけた建築物については、前面道路の反対側の境界線がセットバックの距離だけ外側に移動したものとして道路斜線制限が適用されるものとされ、建築物の高さの制限が緩和されることとなる。このような道路斜線制限に関する規定、特に、前面道路の境界線から後退した場合には、建築物の高さの制限が緩和されるとされていることからすれば、道路斜線制限は、道路の天空を確保し、日照、採光、通風等の道路環境という一般公益を保護することを主たる目的とするものと考えられないでもない。 しかし、道路は市街地における重要な開放空間であって、このことは、一般公益の見地から認められるばかりか、その沿道の建築物に法的権利を有する者にとって切実かつ具体的な意義を有するものというべきであり、このことに照らすと、道路の天空を確保する規定が一般公益の確保のみを目的とすると解することは不自然というほかない。しかも、道路斜線制限の規定が、法五六条一項に隣地斜線制限及び北側斜線制限の規定と並べて規定されており、後者の各規定が隣地の建築物に法的権利を有する者の個別具体的利益保護の趣旨を含むものであることは明らかであり、このことを考え合わせると、道路斜線制限の規定も、前記のような一般公益の保護のみにとどまらず、当該道路の天空の確保等に具体的な利害関係を有する、その沿道から一定範囲内に存する建築物につき法的権利を有する者の個別具体的利益 、道路斜線制限の規定も、前記のような一般公益の保護のみにとどまらず、当該道路の天空の確保等に具体的な利害関係を有する、その沿道から一定範囲内に存する建築物につき法的権利を有する者の個別具体的利益を保護する趣旨を含むものというべきである。そして、原告らが甲土地北側の道路と前記第二の二3記載の位置関係にある建築物を所有し居住していることに照らすと、本件処分をするに当たっての道路斜線制限規定の適用は、原告らの天空の確保、採光及び通風等の個別具体的利益を保護する趣旨を含むものということができる。 二争点2(本件処分をした建築主事に故意又は過失が認められるかどうか)について 1 右一のとおり、本件建築物は法五六条一項一号に適合しないのであるから、建築主事は、本件建築確認申請を却下すべきであった。しかし、建築主事は、本件建築確認申請の申請書類によって、本件建築物がエキスパンションジョイントによって接合されたものであることを認識しながら、本件処分をしたのであって、建築主事が、法五六条一項一号に反する違法な本件処分をするについては過失が認められるというべきである。 この点について、被告は、本件建築物のようにエキスパンションジョイントで接続されている建築物が一の建物であるか否かについては関係法令に明確な規定はなく、また、先例がなかったことから、「外観上、構造上一体といえるか否か」という一般的基準をもとに判断せざるを得なかったのであって、建築主事は、職務上要求される通常の法律的知識、技術的知識、経験を駆使し、自らが正当と信じる解釈に従って本件処分をしたのであるから建築主事に故意過失はないと主張する。 しかし、外観上、構造上一体といえるか否かという一般的基準をもとに判断すると、前記一のとおり、本件建築物の主要な構造部分は外壁、床、天井及び屋根のいずれ るから建築主事に故意過失はないと主張する。 しかし、外観上、構造上一体といえるか否かという一般的基準をもとに判断すると、前記一のとおり、本件建築物の主要な構造部分は外壁、床、天井及び屋根のいずれをとっても、本件建築物中の換気塔部分とビル部分とは、全く連結しておらず、また密接な関連をもって接続しているとは到底認められないのであって、このことは本件建築確認申請に添付された添付図書(乙三の1ないし12。なお、法施行規則一条の3参照。)によっても明らかであったのである。そうすると、エキスパンションジョイントで右のように二つの建築物を接合した場合には、法上「一の建築物」として取り扱うとの判例があるなど、確固たる先例がない以上、建築主事としては、右の外観上、構造上一体といえるか否かという基準に照らしても、本件建築確認申請を却下すべきであって、本件処分をしたことについて過失を問われてもやむを得ないというべきである。 なお、被告が指摘するとおり、法施行令八一条二項の文言はエキスパンションジョイントによって接合された建築物が本来は「一の建築物」であることを前提としているかのように読めないでもないが、もしそうであると、エキスパンションジョイントの性質及び「一の建築物」の意義に整合しない不適切な文言が用いられたものというほかなく、このことは被告が指摘する「外観上、構造上一体」という一般的基準に照らしても明らかであり、この基準に従っている限りは同項の文言にかかわらず適法な判断が可能であったというべきであるから、右文言の存在によって建築主事の過失が左右されるものではない。 2 したがって、本件建築物が法五六条一項一号に違反するにもかかわらず本件処分をしたことについて、建築主事には、過失が認められる。 三争点3(原告らに本件処分と因果関係のある損害が認められ はない。 2 したがって、本件建築物が法五六条一項一号に違反するにもかかわらず本件処分をしたことについて、建築主事には、過失が認められる。 三争点3(原告らに本件処分と因果関係のある損害が認められるかどうか)について 1 証拠(甲二四、四二の1ないし7、四三及び四四の各1、2)及び弁論の全趣旨によると、本件建築物が存在することによって、本来原告両名が乙土地北側の道路を通じて享受しうべき天空の確保、採光及び通風に相当の支障が生じていると認められる上、冬至ころに、原告Aは、午前八時ころから日照に影響を受け始め、午前一〇時ころから正午ころまでにはほぼ日照を遮られ、午後六時ころまで日照に影響を受けること、原告Bは、午前九時ころから日照に影響を受け始め、午前一一時ころから正午ころまでにはほぼ日照を遮られ、午後二時ないし午後三時ころまで日照に影響を受け、原告両名にはこれらによって日常生活に相当の支障が生じていることが認められる。 右の生活上の支障は、それが適法な建築物によってもたらされたものならば受忍の限度を超えるものといえるか否かが明らかではないが、本件のように違法な建築物によって支障が生じている場合には、これを受忍すべきいわれはなく、これによって原告らが受ける精神的損害は、その支障の程度等本件における一切の事情に照らすと、それぞれ、少なくとも五〇万円を下らないことは明らかである。 したがって、原告らは、本件処分によって、右の点のみをとらえても、それぞれ五〇万円を下らない損害を被っていると認められる。 2 この点について、被告は、本件建築物の六階以上が建築されないとしても原告らの本件建築物による日照被害の程度には変わりがないこと、本件建築物と全く同じ形態及び規模の建物を適法に建築することが可能であることから、原告らには救済されるべき損害はな 建築されないとしても原告らの本件建築物による日照被害の程度には変わりがないこと、本件建築物と全く同じ形態及び規模の建物を適法に建築することが可能であることから、原告らには救済されるべき損害はないと主張する。 被告の右主張は、乙土地上に適法な建築物が建築されても原告らの日照被害の程度には変化がないことから、本件処分と因果関係のある損害は生じていないとするものと解される。しかし、乙土地上の建物が本件建築物のように一〇階建てである場合と五階建てである場合とを比較すると、日照の点はともかく、天空の確保、採光及び通風の点で大きな差があることは明らかであり、被害の程度に差異がないとする被告の右主張は前提を欠くものというほかない。また、ビル部分と換気塔部分とを構造上一体化すれば、本件建築物と同じ形態及び規模の建物を適法に建築し得ることは被告指摘のとおりであるが、前記のとおり、両部分は全く用途を異にするものである上、前者は喜久屋商事が、後者は地下鉄建設がそれぞれ自己の用途に利用するために建築するものであるから、構造上一体化することに両者の合意が得られる可能性があったか否かは不明というほかなく、逆にいうと、この点についての合意を要求すると、本件建築物の建築計画自体が頓挫する可能性も否定できないのである。そうすると、適法な建築物の建築を前提とする限り、本件建築物のような形態及び規模の建物が建築されず、原告らの日常生活上の支障もより軽減される可能性もあったのであり、右可能性を奪ったのはまさに本件処分にほかならないのであるから、右1記載の損害は、本件処分と相当因果関係のある損害というべきである。 第四結論よって、原告らの本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟 果関係のある損害というべきである。 第四結論よって、原告らの本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六六条後段を適用して、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第三部裁判長裁判官藤山雅行裁判官谷口豊裁判官加藤聡
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