平成12(行ウ)29 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件(通称 福岡中央労基署長遺族補償年金給付等不支給処分取消)

裁判年月日・裁判所
平成15年9月10日 福岡地方裁判所
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判決文本文21,410 文字)

- 1 -主文 被告が平成9年2月7日付けで原告になした労働者災害補償保険法による遺族補償年金給付及び葬祭料を支給しない旨の処分をいずれも取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1請求主文と同旨第2事案の概要本件は,原告が,被告に対し,夫の死は夫が従事していた業務に起因するものであるとして,労働者災害補償保険法に基づき遺族補償年金給付及び葬祭料の支給を請求したところ,各請求について不支給処分を受けたため,同処分は違法であると主張して,その取消しを求めた事案である。 争いのない事実又は後掲証拠により容易に認められる事実(以下「争いのない事実等」という)。 ( )原告は,亡P1(昭和▲年▲月▲日生。以下「P1」という)の妻 。 である。 ( )P1は,平成7年10月当時,日本コムシス株式会社(以下「日本 コムシス」という)から,スウェーデンに本社があるエリクソンの子。 (「」。)会社である日本エリクソン株式会社以下日本エリクソンというの福岡事務所(以下日本エリクソンの福岡事務所を単に「福岡事務所」という)に出向し,エリクソンから納入を受けた移動無線基地局用復。 変調装置(以下「MDE」という)を点検すること,NTT九州移動。 通信網株式会社(以下「NTTドコモ」という)の携帯電話の中継所。 - 2 -及び基地局(以下「中継所等」という)にMDEを搬入するよう搬入。 業者に指示すること,中継所等に赴いてMDEのトラブルに対応することなどの業務に従事していた(甲1。 )( )P1は,同年10月12日午前4時ころ,出張先の大分市内におい て心臓疾患を発症させて死亡した。死体を検案した医師は,P1の直接死因は急性虚血性心疾患の疑いであり,その原因については詳細不明で )P1は,同年10月12日午前4時ころ,出張先の大分市内におい て心臓疾患を発症させて死亡した。死体を検案した医師は,P1の直接死因は急性虚血性心疾患の疑いであり,その原因については詳細不明であって発症から死亡までの時間については短時間である旨診断した甲,(1,5,乙7。 )( )原告は,被告に対し,労働者災害補償保険法に基づき,遺族補償年 金給付及び葬祭料の支給を請求したが,被告は,P1の業務が身体的,精神的に過重負荷であったとは認め難く,同人の傷病は労働基準法施行規則35条に定める疾病には該当しないとして,平成9年2月7日付けで遺族補償年金給付及び葬祭料を支給しない旨の各決定をした以下本(「件各処分」という。 。)( )原告は,平成9年4月2日,本件各処分を不服として,福岡労働者 災害補償保険審査官に対して審査請求をしたが,同審査官は,平成9年7月3日付けでこれを棄却する旨の決定をした。さらに,原告は,平成9年8月28日,労働保険審査会に対し,再審査請求をしたが,同審査会は,平成12年5月18日付けでこれを棄却する旨の裁決をした。 争点 P1の死が業務上の事由によるものであるか否か。 (原告の主張)( )脳・心臓疾患の業務起因性の判断基準について 職業性ストレスと脳・心臓疾患発症との関連性に関する現在の医学的- 3 -知見に照らせば,業務と脳・心臓疾患の発症との相当因果関係が認められるためには,一般経験則上被災者が発症前に従事した業務による精神的,肉体的負荷が血管病変等をその自然の経過を超えて増悪させ,脳・心臓疾患を発症させたと認められることが必要であると解される。 ( )P1の従事した業務の過重性について ア福岡事務所におけるP1の地位及び同事務所の人員体制福岡事務所においては,所長の 脳・心臓疾患を発症させたと認められることが必要であると解される。 ( )P1の従事した業務の過重性について ア福岡事務所におけるP1の地位及び同事務所の人員体制福岡事務所においては,所長のP2が他の事務所の所長を兼務しており常駐していなかったため,P1が責任者的立場にあり,P1の負担は大きかった。 また,平成7年2月ころにP3が入所するまでは,P1の他には,事務職員のP4が勤務していただけであり,P1死亡後に男性3名と女性2名が配置されていることからしても,当時の人員は不足していた。 イ搬入前のMDEの点検業務中継所等への搬入前のMDEの点検業務は,2人がかりでスチール机の上に50から60キログラムのMDEを1個ずつ載せて点検するというものであったが,その作業場には空調設備がなかったため,P1は,夏は暑く冬は寒いという環境の中で,1日に10台余りのMDEを点検していた。なお,P1は,P3が平成7年2月に福岡事務所に入所した後は,P3にも点検業務を行わせていたが,P3の経験が浅かったため,当初は二重に点検しなければならなかった。 ウ搬入後のMDEのトラブル対応業務中継所等への搬入後のMDEのトラブル対応業務については,平成7年当時,福岡事務所の担当地域である九州全域と沖縄には150か- 4 -ら200か所ほどの中継所等があり,その多くが辺鄙な場所にあったため,各中継所等に赴くこと自体が大変な負担を伴うものであった。 しかも,P3が自動車の運転ができなかったことから,P1がほとんど1人で担当していた。 また,P1は,各中継所等が辺鄙な場所にあったため,休日も自宅で中継所等までの道程を地図で調べるなどの事前準備をしなければならなかった。 エ発症直前期の業務の状況(ア)携帯電話の急激な普及及びトラブルの多発P1が虚血性 鄙な場所にあったため,休日も自宅で中継所等までの道程を地図で調べるなどの事前準備をしなければならなかった。 エ発症直前期の業務の状況(ア)携帯電話の急激な普及及びトラブルの多発P1が虚血性心疾患を発症して死亡した平成7年には,携帯電話の急激な普及による中継所等の増加に伴って,MDEの搬入台数は急増して前年度の数倍に相当する毎月30から40台になった。 また同年9月ころから搬入後のMDEに冷却ファン以下フ,,(「ァン」という)のトラブルが頻発するようになったところ,P1。 は,自ら自動車を運転して各地に頻繁に出張し,ほとんど1人でそのトラブルに対応した。そして,ファントラブルは最終的にはシステムダウンにつながるおそれがあったため,P1は,NTTドコモから迅速に対応するよう電話で厳しく催促された。しかも,NTTドコモからの催促の電話は,夜間や休日もP1の携帯電話に転送されるようにされていたため,P1は,夜もゆっくり眠れなくなり,休日も電話が気になって精神的に休まることがなかった。 (イ)著しい回数の出張業務P1は,前記ファントラブルに対応したり,その打合せ会議に出,。 席したりするため発症直前期に著しい回数の出張業務に従事した- 5 -具体的には,P1は,平成7年7月1日から同年8月31日までの62日間において,その3分の1以上に相当する22回も県外への出張業務に従事し,宿泊を伴う出張も多かった。また,P1は,平成7年9月1日から発症するまでの41日間においては,合計15回の出張業務に,発症前1か月間においては,合計12回の出張業務に従事した。 (ウ)所定外労働時間の急増発症直前期のP1の労働時間は,次のとおりであった。 a平成7年7月12日から同年8月11日までの期間総労働時間180時間30分,所定 計12回の出張業務に従事した。 (ウ)所定外労働時間の急増発症直前期のP1の労働時間は,次のとおりであった。 a平成7年7月12日から同年8月11日までの期間総労働時間180時間30分,所定外労働時間15時間30分b同年8月12日から同年9月11日までの期間総労働時間172時間30分,所定外労働時間39時間c同年9月12日から同年10月11日までの期間総労働時間216時間20分,所定外労働時間73時間50分これによると,急激に時間外労働が増加し,cの期間は,aの期間の約4.76倍もの所定外労働時間となっている。 これに加えて,P1が休日に自宅で中継所等までの道程を調べたり,回路図を見てトラブルの原因を究明しようとした時間を考慮すると,P1の労働時間はさらに長時間である。 ( )発症直前のP1の状態 ,,,,,P1は平成6年9月の健康診断において息切れ動悸脈の乱れ喉のつかえ,背中の痛みが時々あるという自覚症状を申告していたが,その当時,家族に対して胸部の症状を訴えることはなく,心電図上も異常は認められず,発症約1か月前までは周囲に疲労を訴えるということ- 6 -もなかった。 しかし,P1は,発症約1か月前ころの平成7年9月半ばころから,家族だけではなく,同僚のP4や,中継所等に出入りする際の電話連絡先であるNTTドコモのオペレーターセンターの担当者P5に対しても繰り返し疲労を訴えるようになり,不眠や頭痛も訴えるようになって自室で夜眠れずに考え事をすることもあった。 また,P1は,同年10月4日,腰痛で会社を休み,発症直前の同月6日,ファン交換のために大分に出張するに際し,P2に対して運転手だけでも雇いたい旨申告し,同月7日には,原告に対して胸痛を訴えるようになった。P1は,そのころ,入浴せずに就寝す み,発症直前の同月6日,ファン交換のために大分に出張するに際し,P2に対して運転手だけでも雇いたい旨申告し,同月7日には,原告に対して胸痛を訴えるようになった。P1は,そのころ,入浴せずに就寝するようになり,飲酒の量も極端に減少した。さらに,P1は,発症前日の同月11日,P5に対し,多忙による疲労と人員不足を訴えており,疲労困憊の状態に陥っていた。 ( )業務以外の危険因子の影響は大きくないこと P1には,飲酒や喫煙などの生活習慣があったが,発症直前期にP1の生活習慣には大きな変化はないから,業務以外の危険因子は,発症に大きく影響してはいない。 ( )まとめ 以上によれば,P1が軽微な心臓の基礎疾病を有していた可能性は否定できないものの,P1が発症直前に従事した業務による過重な負荷がP1の基礎疾病をその自然の経過を超えて増悪させ,虚血性心疾患を発症させるに至ったものであるから,その間には相当因果関係がある。 したがって,P1の死は「その他業務に起因することの明らかな疾,病(労働基準法施行規則35条,別表第1の2,9号)に基づくもの」- 7 -であるから,業務上の事由によるものである。 (被告の主張)( )脳・心臓疾患の業務起因性の判断基準について ア労働者災害補償制度の趣旨からすれば,脳・心臓疾患の発症と業務との相当因果関係が認められるためには,①当該業務による負荷が,当該労働者と同程度の年齢,経験等を有し,通常の業務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者にとって,血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得る程度の負荷であると認められること(危険性の要件,②当該業務による負荷が,その他の業務)外の要因(当該労働者の私的危険因子等)に比して相対的に有力な原因となって,当該脳・心臓疾患を発 増悪させ得る程度の負荷であると認められること(危険性の要件,②当該業務による負荷が,その他の業務)外の要因(当該労働者の私的危険因子等)に比して相対的に有力な原因となって,当該脳・心臓疾患を発症させたと認められること(現実化の要件)が必要と解すべきである。 イ危険性の要件について平成13年12月12日付け基発第1063号労働基準局長通達「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の。 認定基準について(以下「本件通達」という)は,最新の医学的」。 知見を踏まえた極めて信頼性の高い専門検討会報告書に基づくものであるから,脳・心臓疾患の業務起因性を判断するに当たっては,本件通達の基準によるべきである。そして,本件通達によれば,次の(ア)ないし(ウ)のいずれかに該当すれば,危険性の要件を充たすこととなる。 (ア)発症直前から前日までの間において,発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと(異常な出来事)異常な出来事とは,具体的には,①極度の緊張,興奮,恐怖,驚- 8 -がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態,②緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態,③急激で著しい作業環境の変化のことである。 (イ)発症に近接した時期において,特に過重な業務に就労したこと(短期間の過重業務)特に過重な業務とは,日常業務(通常の所定労働時間内の所定業務内容をいう)に比較して特に過重な身体的,精神的負荷を生じ。 させたと客観的に認められる業務のことをいい,発症直前から前日までの間(発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合には,発症前おおむね1週間以内)について,業務量,業務内容,作業環境等を考慮し,同僚等にとっても,特に過重な 前から前日までの間(発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合には,発症前おおむね1週間以内)について,業務量,業務内容,作業環境等を考慮し,同僚等にとっても,特に過重な身体的,精神的負荷と認められるか否かという観点から,客観的かつ総合的に判断する。 なお,ここでいう同僚等とは,当該労働者と同程度の年齢,経験等を有する健康な状態にある者のほか,基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者をいう。 具体的な負荷要因は,労働時間,不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,出張の多い業務,交替制勤務・深夜勤務,作業環境(温度環境,騒音,時差,精神的緊張を伴う業務である。 )(ウ)発症前の長期間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと(長期間の過重業務)恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には,疲労の蓄積が生じ,これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ,その結果,脳・心臓疾患を発症させることがある- 9 -ことから,発症前の一定期間の就労実態等を考慮し,発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から業務の過重性を判断する。 そして,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては,業務量,業務内容,作業環境等を考慮し,同僚等にとっても,特に過重な身体的,精神的負荷と認められるか否かという観点から,客観的かつ総合的に判断する。 具体的には,疲労の蓄積の観点から,上記(イ)で示した負荷要因につき検討し,その際,疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間については,その時間が長いほど業務の過重性は増すことになり,①発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働 積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間については,その時間が長いほど業務の過重性は増すことになり,①発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は,業務と発症との関連性は弱いが,おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど,業務と発症との関連性は徐々に強まると評価できること,②発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との関連性は強いと評価できることを踏まえて判断する。 なお,ここでいう時間外労働時間とは,1週間当たり40時間を超えて労働した時間である。また,休日のない連続勤務が長く続くほど業務と発症との関連性をより強めるものであり,逆に,休日が十分確保されている場合は,疲労は回復ないし回復傾向を示すものである。 ( )P1の従事した業務による負荷が過重ではなかったこと - 10 -ア異常な出来事についてP1は,業務に関する異常な出来事に遭遇しておらず,業務に関する異常な出来事により過重負荷を受けたものではない。 イ短期間の業務による負荷の過重性についてP1は,発症当日については,午前4時ころに死亡しているため勤務しておらず,発症前日については,労働時間は8時間であって,その業務内容も中継所等の機器のトラブル対応という業務であり,日常業務に比して過重ではない。 また,平成7年10月5日から同月11日までの発症前1週間については,P1の時間外労働時間は1時間であり,この間のP1の業務内容も中継所等の機器のトラブル対応,NTTドコモとの会議,福岡事務所での事務処理などであり,日常業務に比して過重ではない。 したがって,短期間の業務による負荷 時間は1時間であり,この間のP1の業務内容も中継所等の機器のトラブル対応,NTTドコモとの会議,福岡事務所での事務処理などであり,日常業務に比して過重ではない。 したがって,短期間の業務による負荷は過重ではない。 ウ長期間の業務による負荷の過重性についてP1の時間外労働時間は,発症前1か月目は51時間30分,発症前2か月目は36時間30分,発症前3か月目は12時間30分であり,発症前2か月間の1か月当たりの時間外労働時間は44時間,発症前3か月間の1か月当たりの時間外労働時間は33時間30分にとどまっており,発症前2か月間及び3か月間の1か月当たりの時間外労働時間はそれぞれ45時間を超えておらず,また,発症前1か月間の時間外労働時間は100時間を超えていないので,業務と発症の関連性が強いとは評価できない。 なお,発症前1か月間の時間外労働時間は51時間30分であり,45時間を超えているが,同期間中の労働時間以外の負荷要因による- 11 -負荷は過重ではない。 したがって,長期間の業務による負荷も過重ではない。 エ小括以上のように,P1の従事していた業務による負荷は,P1と同程度の年齢,経験等を有し,通常の業務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者にとって,血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得る程度のものではないから,当該業務と心臓疾患の発症との間に相当因果関係はない。 ( )P1の死亡原因について アP1の死亡時の状況P1は,夜間暖房の作動していない建物1階のタイル貼り床の上で仰向けに倒れて口から泡を吹いた状態で死亡していた。その際,P1,。 ,の頭部の下に鞄がありP1の靴は脱いだ状態で足元にあったまた血中アルコール濃度検査の結果,P1の心血1ミリリットル中に2. 69ミリグラムのアルコー 吹いた状態で死亡していた。その際,P1,。 ,の頭部の下に鞄がありP1の靴は脱いだ状態で足元にあったまた血中アルコール濃度検査の結果,P1の心血1ミリリットル中に2. 69ミリグラムのアルコールが検出された。P1の死亡推定時刻である平成7年10月12日午前4時ころの大分市の気温は摂氏13.7度であった。 イP1の健康状態P1は,原告に対し,死亡する1年ないし2年前に,胸痛を訴えていたこと,平成6年9月の健康診断時に息切れ,動悸,脈の乱れ,喉のつかえなどの狭心症の自覚症状を訴えていたことに照らすと,P1には心臓の基礎疾患が潜在していた可能性がある。 ウP6医師の判断P6医師は,P1はかなり以前より冠動脈疾患に罹患していた可能- 12 -性が高く,夜間から早朝の時間帯に,狭心症や心筋梗塞などの総称である急性冠症候群によって重篤な不整脈やショックを惹起され,心臓突然死した旨判断している。 エ小括以上からすれば,P1は,慢性的に冠動脈疾患を進行させていたところ,死亡前日からの飲酒及びその後夜間暖房の作動していない建物1階に横臥,就寝したことによる身体的負荷が引き金因子となって発症し,死亡するに至ったものである。 ( )まとめ したがって,P1の死は業務上の事由によるものではない。 第3当裁判所の判断 認定事実前記争いのない事実等に加えて,証拠(甲1,4,5,8ないし11,乙1,3ないし5,7,証人P3,同P5,原告本人,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 ( )P1の業務内容等 アP1は,昭和38年3月,日本コムシスの前身である日本通信建設株式会社に入社し,平成6年4月ころ,同年3月下旬に設立された日本エリクソンの福岡事務所に出向した。 ,,福岡事務所の従業員は当初は P1は,昭和38年3月,日本コムシスの前身である日本通信建設株式会社に入社し,平成6年4月ころ,同年3月下旬に設立された日本エリクソンの福岡事務所に出向した。 ,,福岡事務所の従業員は当初は所長のP2の他にはP1しかおらず,,間もなく事務職員のP4が平成7年2月に技術職員のP3が加わりP1が死亡するまでその3名であった。P2が他の事務所の所長を兼務しており,2,3週間に1回しか来所しなかったため,P1は,実質的には福岡事務所の責任者的立場にあり,NTTドコモなどからの- 13 -個別的な苦情を一身に受けていた。 なお,平成8年5月当時,福岡事務所には,男性3名,女性2名の従業員が勤務して,約290か所の中継所等を担当していた。 イP1の業務内容は,エリクソンから納入を受けたMDEを点検すること,NTTドコモの携帯電話の中継所等にMDEを搬入するよう搬入業者に指示すること,中継所等に赴いてMDEのトラブルに対応することなどであった。P1は,日本エリクソン本社から指示を受け,大きなトラブルが生じたときにP2の指示を受けることはあるものの,個別的な業務については,通常自らの判断で行っていた。P3の業務内容もP1と同じであり,P1から指示を受けて業務を行っていた。 各中継所等は,山中,ビルやマンション等の屋上,NTT局舎内などにあり,事前にNTTドコモから概略的な地図を受領していたが,中継所等までの道程が分かりにくいこともあり,中継所等を探し回ることもあった。また,中継所等に出入りする際には,NTTドコモのオペレーションセンターに電話で連絡する必要があった。 ( )発症直前期のP1の勤務及び生活状況等 ア平成7年夏ころ携帯電話の急速な普及に伴って,各中継基地へのMDEの搬入台数が急増したため搬入前の点検作業も増加し,ま で連絡する必要があった。 ( )発症直前期のP1の勤務及び生活状況等 ア平成7年夏ころ携帯電話の急速な普及に伴って,各中継基地へのMDEの搬入台数が急増したため搬入前の点検作業も増加し,また,MDEのROM能力を向上させるため,ROM及びファンを交換する必要が生じた。P1は,8月下旬から9月上旬にかけて,約10日間名古屋及び北海道に出張し,全国から技術者を集めて集中的に行われたROM等の交換作業に従事した。 - 14 -P1は,8月12日,トラブル対応のために長崎の中継所等に赴い,,,た際P5らを同人らの勉強のために一緒に連れて行ったがその際1人で運転して中継所等に赴くのは大変なので,県外に出張する際は息子にアルバイトとして運転を頼もうと思っている旨述べた。 イ平成7年9月ころドイツから輸入してMDEに組み込んだファンに不具合があったため,ファンが停止するというトラブルが生じることが判明し,福岡事務所において,当時九州にあった約200か所の中継所等のMDEほぼすべてについて,ファンの交換作業をすることが必要になった。福岡事務所としては,計画的に順次ファンの交換作業を行う予定であったが,NTTドコモからファンが停止している旨の連絡が入ると,計画外でも随時出張して対応しなければならなかった。そして,P3が自動車を運転することができなかったことから,P1は,P3が同行する場合でも自ら自動車を運転しなければならず,P1が1人で出張することもあった。なお,ファンの交換作業自体は約30分を要するものであった。 そして,実際にファントラブルが頻発し,P1は,週に2,3回NTTドコモからトラブルへの対応を催促する電話を受け,厳しい苦情を言われることもあった。NTTドコモからの催促の電話は,夜間や休日にもP1の電話に転送される取 ラブルが頻発し,P1は,週に2,3回NTTドコモからトラブルへの対応を催促する電話を受け,厳しい苦情を言われることもあった。NTTドコモからの催促の電話は,夜間や休日にもP1の電話に転送される取扱いになっていた。ファントラブルが発生した場合,すぐに携帯電話を利用できなくなるものではないが,放置しておくと携帯電話を利用できなくなるおそれがあるため,早急に対応する必要があり,P1らは,ファン停止の連絡を受けてから1週間以内には何らかの対応をしていた。 - 15 -P1は,9月中旬ころから,たびたび原告,P3,P4及びP5に対して疲労を訴えるようになり,同月下旬ころからは,原告に対して不眠も訴えるようになった。 P1は,9月下旬ころ,原告に対し,一生懸命業務に従事していたのにエリクソンの部品が不良品であったこと,日本コムシスのP7部長からその処理をP11人でやるように言われたことを伝えた。 ウ平成7年10月2日(月曜日,発症日の10日前)P1は,午前9時に出勤して福岡事務所で事務処理を行っていたところ,午後4時30分ころ,NTTドコモ大分支店から,大分市所在のα局のMDEにファントラブルが発生した旨の電話連絡を受け,大分への出張の準備のため一旦帰宅した。P1は,自宅で食事後,午後8時ころに出発して午後11時ころ大分市に到着し,βに宿泊した。 エ平成7年10月3日(火曜日,発症日の9日前)P1は,午前8時30分ころから午前9時30分ころまで,NTTドコモ大分支店の担当者と打合せを行い,その後,自動車で大分市所在のα局及びγ局,大分県大分郡所在のδ局に赴いてファンの交換作業を行い,午後10時ころ福岡事務所に戻って,翌午前0時30分ころ帰宅し,入浴もせずに就寝した。 オ平成7年10月4日(水曜日,発症日の8日前)P1は,起床時に原告に のδ局に赴いてファンの交換作業を行い,午後10時ころ福岡事務所に戻って,翌午前0時30分ころ帰宅し,入浴もせずに就寝した。 オ平成7年10月4日(水曜日,発症日の8日前)P1は,起床時に原告に対して腰痛を訴え,湿布薬を求めた。原告は,P1に対し,会社を休んで静養するよう促し,午後から出勤すると言うP1を無理に休ませた。P1が腰痛を理由に会社を休んだのは初めてであった。P1は,自宅で翌日の打合せの準備をしていたが,,。 夕方には頭痛を訴えて頭痛薬を求め食欲もあまりないようであった- 16 -カ平成7年10月5日(木曜日,発症日の1週間前)P1は,出勤時に原告に対して胃痛を訴え,食事をせずに胃薬を飲んで出勤した。P1は,午前9時から福岡事務所において事務処理を行い,午後1時30分から午後5時30分まで,NTTドコモの担当者との打合せ及び搬入業者の倉庫における調査を行った。その後,P,。 ,1は福岡事務所で事務処理を行い午後7時半ころ退社したそしてP1は,帰宅するなり書類をテーブルにたたきつけて,原告に対し,エリクソンの部品が不良品であったので,九州一円の150局すべての局のMDEについて,その部品を撤去しなければならなくなった旨怒ったように言った。その後,P1は,原告に対し,疲労,頭痛及び不眠を訴え,翌午前2時ころまで起きていたようであった。 キ平成7年10月6日(金曜日,発症日の6日前)P1は,午前9時に出勤し,午前中はタクシーを利用して福岡市所在のε局に機器を搬入し,午後は,午後5時30分まで,NTTドコモの技術部及び設備部並びに日本エリクソンのP2らとの,MDEのファンの不具合に関する会議に参加した。その後,P1は,午後6時から福岡事務所において,大分県の中継所等に設置されているMDE,。 ,のファン交換の 部並びに日本エリクソンのP2らとの,MDEのファンの不具合に関する会議に参加した。その後,P1は,午後6時から福岡事務所において,大分県の中継所等に設置されているMDE,。 ,のファン交換のための出張準備をし午後7時ころ退社したP1はこの日P2に対し,大分出張の際に運転手として息子を雇いたい旨申し出て,日本エリクソン本社の許可を得た。 P1は,午後9時ころ帰宅し,自宅に来ていた娘から顔色が悪いと指摘されたことに対し,腰痛を訴えるとともに,NTTドコモから苦情を言われるが,エリクソン側として対応しなければならず,自分はコムシス側の人間と言いたいが言えない立場であって神経的に参って- 17 -おり,夜眠れないこともある旨述べた。また,P1は,娘と一緒に来ていた孫を抱く際,左肩と腕の痛みを訴えた。 ク平成7年10月7日(土曜日,発症日の5日前)P1は,この日は休日であったが,タクシーを利用して久留米基地局(ζ局)に赴き,トラブル対応業務に従事した。P1は,午後5時ころ帰宅し,原告に対してひどい頭痛を訴えて頭痛薬を求めたが,頭痛薬の「○○」が切れていたので,自ら「○○」を買いに行って服用した。また,P1は,午後7時すぎころ,右手で胸の中心部を押さえて,原告に対し「胸がキューと痛いんだ。締め付けられる感じだ」,。 と訴え,その際に原告が言及した「○○」という薬及び「○○」という薬酒を求めた。原告は,P1に対し,胃痛とは異なり胸痛なら重大,,()な事である旨言い翌日は日曜日だったので翌々日の月曜日9日には必ず病院に行くように忠告した。 ケ平成7年10月8日(日曜日,発症日の4日前)P1は,午前7時ころ,これまでのいびきとは異なり,息が一瞬止まるような大きないびきをしていた。P1は,この日は休日であったが,大分出張に 告した。 ケ平成7年10月8日(日曜日,発症日の4日前)P1は,午前7時ころ,これまでのいびきとは異なり,息が一瞬止まるような大きないびきをしていた。P1は,この日は休日であったが,大分出張に備えて,午前9時ころから翌午前1時ころまで自宅で。 ,,九州地図を広げて中継所等の場所を調べたP1は原告の母に対し腰痛を訴えて湿布薬を求め,腰痛のため入浴もせずに就寝した。 コ平成7年10月9日(月曜日,発症日の3日前)P1は,午前9時に出勤し,午前中は福岡事務所において事務処理を行い,午後1時から電車を利用して久留米局に機器を持参し,午後4時に福岡事務所に帰着後,事務処理を行って午後7時に退社した。 P1は,帰宅するなり,原告に対して業務の多忙と疲労を訴えた上,- 18 -息子から4,5日前に頼んでいた運転のアルバイトを断られたことか,,,ら息子に対しても業務の多忙を訴え落胆して食事もあまりとらず自室で電灯も点けずに1人で考え込み,そのまま入浴もせずに寝込んだ。 サ平成7年10月10日(火曜日,発症日の2日前)P1は,同日は休日であったが,翌日からの単独での大分出張の準備のため,早朝から書類の再点検を行った。午後8時ころ,福岡市<以下略>所在のレンタカー店で自動車を借りて大分市に向けて出発し,午後11時ころ大分市に到着して,βに宿泊した。 シ平成7年10月11日(水曜日,発症日の前日)P1は,午前9時から,NTTドコモ大分支店において,MDEのファンの交換について同支店の担当者と打合せを行い,その後午後6時ころまで,自ら自動車を運転して,以下のとおり,大分県の6か所の中継所等を回り,MDEのファンの交換作業を行った。P1は,午前9時30分ころ,P5に対して入局の連絡をし,その際「今日は,5,6局回る予定です。もうすごく 転して,以下のとおり,大分県の6か所の中継所等を回り,MDEのファンの交換作業を行った。P1は,午前9時30分ころ,P5に対して入局の連絡をし,その際「今日は,5,6局回る予定です。もうすごく体がきついよ。仕事ができる人数がいないので,今上司の人とけんかするぐらい言ってるんだよ。こんなにたくさん回っているのに,またエリクソンがパネルの交換を言ってきて150局くらいを僕が行かなくてはいけないんだよ。もう疲れたよ」と疲れた声で話した。P5が「大丈夫ですか。あまり無理を。 しないで下さいね」と言ったところ,P1は「ありがとう。でも。 ,本当にきついんだよ」と言って電話を切った。 。 午前10時25分ころη無線中継所(速見郡<以下略>)午後0時34分ころ宇佐基地局(宇佐市)- 19 -午後1時30分ころ中津基地局(中津市)午後2時35分ころθ基地局(宇佐郡<以下略>)午後4時00分ころι無線中継所(速見郡<以下略>)午後5時20分ころκ無線中継所(杵築市)P1は,午後6時ころ業務を終え,午後7時ころ中継所等の鍵を返還するためにNTTドコモ大分支店に戻り,午後7時30分ころから午後10時30分ころまで,同支店の従業員であるP8及びP9とともに,大分市内の居酒屋で飲食した。P1は,同店において,生ビール大ジョッキ1杯と麦焼酎(アルコール度は25度)のお湯割り(お),。 ,湯と焼酎の割合は6:4 4杯を飲んだファンの不具合の原因携帯電話市場の未来,無人局の場所,P1の海外勤務時代のことなどが話題に上ったが,P1は,心から疲れている様子であった。 その後,P1,P8及びP9は,近くの飲食店に行き,午後10時,(,50分ころまで飲食し3名合計でビール中瓶2本を飲んだただしうち1本は飲み干していない。なお,上 ら疲れている様子であった。 その後,P1,P8及びP9は,近くの飲食店に行き,午後10時,(,50分ころまで飲食し3名合計でビール中瓶2本を飲んだただしうち1本は飲み干していない。なお,上記両飲食店の飲食費は,。)すべてP1が支払い,1店目では日本エリクソン名義で,2店目では日本コムシス名義の領収証を発行してもらった。 2店目の飲食店を出た後,P8らは,P1から「どこかお店を知らないか」と聞かれたが,P8は,夜も遅いし,P1には翌日も交換。 作業が予定されていたことから「もう休んだ方がよいですよ」と,。 答え,宿泊先を確保していなかったP1を目前にあったホテルに連れて行こうとしたが,P1はこれを断り,午後11時ころ,P8らと別れ,飲屋街の方に去って行った。 ス平成7年10月12日(木曜日,発症当日)- 20 -午前4時すぎころ,P1は,P8らと別れた場所から徒歩約5分の距離にあるλビル1階内のブティックの出入口付近の床の上において,靴を脱ぎ,自分の鞄を肩から頭部の下に敷いて仰向けの状態で横になり,口から泡を吹いて死亡しているのを同ホテルの従業員に発見された。死体を検案した医師は,P1の直接死因は急性虚血性心疾患の疑いであり,その原因については詳細不明であって,死亡推定時刻は午前4時ころであり,発症から死亡までの時間については短時間である旨診断した。検案時,遺体からはアルコール臭がしており,血中アルコール濃度検査の結果,P1の心血1ミリリットル中2.69ミリグラムのアルコールが検出された。P1の死亡推定時刻である平成7年10月12日午前4時ころの大分市の気温は,摂氏13.7度であった。 ,,,なおP1は当日は大分県南部所在の約6か所の中継所等を回りMDEのファンを交換する予定であった。 ( )発症直前期のP1 月12日午前4時ころの大分市の気温は,摂氏13.7度であった。 ,,,なおP1は当日は大分県南部所在の約6か所の中継所等を回りMDEのファンを交換する予定であった。 ( )発症直前期のP1の労働時間,出張日数等及び休日日数 ア労働時間発症直前期のP1の労働時間は,次のとおりである。 ()(ア)平成7年7月14日から同年8月12日まで発症前3か月目総労働時間178時間30分,時間外労働時間12時間30分(イ)同年8月13日から同年9月11日まで(発症前2か月目)総労働時間185時間,時間外労働時間36時間30分(ウ)同年9月12日から同年10月11日まで(発症前1か月目)総労働時間227時間30分,時間外労働時間51時間30分なお,労働基準法32条規定の1日当たり8時間,1週間当たり- 21 -40時間を超えた労働時間を時間外労働時間とした。また,1か月間を30日とし,発症前5週間目において,発症前31日目から始まる5日間に休日を取得していない場合は,発症前29日目及び30日目は休日労働とみなしてその労働時間をすべて時間外労働時間とし,休日を1日取得している場合は,発症前29日目及び30日,,目の労働時間の合計から8時間を休日を2日取得している場合はこれから合計16時間を控除した労働時間を時間外労働時間として算出した。 イ出張日数等()(ア)平成7年7月14日から同年8月12日まで発症前3か月目P1は,同期間中7日間,県外出張を行い,また,7月24日から28日までの大阪,8月2,3日の北九州の各出張は宿泊を伴うものであって,北九州への出張以外は,1人での出張であった。 (イ)同年8月13日から同年9月11日まで(発症前2か月目)P1は,同期間中14日間,県外出張を行っており,このうち8月22 泊を伴うものであって,北九州への出張以外は,1人での出張であった。 (イ)同年8月13日から同年9月11日まで(発症前2か月目)P1は,同期間中14日間,県外出張を行っており,このうち8月22日から26日までの名古屋,同月28日から9月2日までの北海道の各出張は宿泊を伴うものであり,9月5日の大分,同月11日の長崎の各出張以外は1人での出張であった。なお,8月27日の札幌での休日を含めると,同月22日から9月2日まで11泊12日間にわたって自宅を離れていた。 (ウ)同年9月12日から同年10月11日まで(発症前1か月目)P1は,同期間中12日間,県外出張を行っており,このうち9月14,15日の長崎,同月26,27日の宮崎,10月2,3日の大分,同月10日から11日までの大分の各出張は,宿泊を伴う- 22 -ものであった。 そして,県外出張のうち,10月2,3日の大分,同月10から11日までの大分の各出張は,1人での出張であった。 ウ休日日数P1は,平成7年7月14日から同年8月12日まで(発症前3か月目)の間に8日,同年8月13日から同年9月11日まで(発症前2か月目)の間に10日,同年9月12日から同年10月11日まで(発症前1か月目)の間に6日の休日を取得した。 ( )P1の健康状態等 アP1は,発症当時53歳の男子であり,発症約1週間前である平成7年9月19日の健康診断時,身長154.1センチメートル,体重58.9キログラムで,肥満度プラス21パーセントであった。 イP1には,1日10本から20本の煙草を吸い,1日1合から2合の焼酎を飲む習慣があった。 ウP1は,まじめな性格で,トラブルに対して機器を交換するだけではなく,回路図等を見てその原因を究明しようとするなど,仕事に真剣に取り組む頑張り屋であり,自分 から2合の焼酎を飲む習慣があった。 ウP1は,まじめな性格で,トラブルに対して機器を交換するだけではなく,回路図等を見てその原因を究明しようとするなど,仕事に真剣に取り組む頑張り屋であり,自分1人ですべて処理しようとし,自分を追いつめるようなところもあった。 ( )虚血性心疾患についての医学的知見 ア虚血性心疾患は,血液を供給する導管としての冠状動脈の血流障害によって,心筋の需要に応じた酸素の供給不足が生じ,その結果,心(),,筋が酸素不足虚血に陥り心筋機能が障害される心臓疾患であり心筋梗塞,狭心症などがある。血流障害は,冠状動脈の硬化や血栓等の形成による冠状動脈の狭窄又は完全閉塞などによって生じるもので- 23 -あり,冠状動脈硬化症は慢性的な経過で進行して疾患の終末期に虚血症状が出現し,過度の身体的負荷,精神的負荷等が引き金因子となることもあるとされている。 そして,虚血性心疾患に関しては,高血圧,喫煙習慣,高脂血症の3大危険因子のほか,肥満,精神的肉体的ストレスなどが危険因子とされている。職業性ストレスは,虚血性心疾患の危険因子の一つであって,発症に強い影響を及ぼすものであり,その相対的危険度は1. 3倍から4倍である旨の報告もある。職業性ストレスの評価に当たっては,仕事の負荷・責任などの仕事の要求度,仕事を行う上での裁量度,上司や同僚の支援度などの要因が視点となるとされている。 イ虚血性心疾患を含む脳・心臓疾患は,血管病変等の形成,進行及び増悪によって発症するものであり,このような血管病変等の形成等には,主に加齢,食生活,生活環境等の日常生活による諸要因や遺伝等()。 の個人に内在する要因基礎的要因が密接に関連するとされているすなわち,脳・心臓疾患は,このような基礎的要因によって生体が受ける通 に加齢,食生活,生活環境等の日常生活による諸要因や遺伝等()。 の個人に内在する要因基礎的要因が密接に関連するとされているすなわち,脳・心臓疾患は,このような基礎的要因によって生体が受ける通常の負荷により,長年の生活の営みの中で,徐々に血管病変等が形成,進行及び増悪するといった自然的経過をたどって発症するものとされているが,そのような自然経過の過程において,業務が血管病変等の形成に当たって直接の要因とはならないものの,業務による過重な負荷が加わることによって発症の基礎となる血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し,脳・心臓疾患が発症する場合があるとされている。そして,業務の過重性の判断に当たっては,発症に近接した時期における負荷のほか,発症前の長期間にわたる長時間労働による疲労の蓄積についても考慮すべきであり,長期間にわたる長時- 24 -間労働やそれによる睡眠不足に由来する疲労の蓄積が血圧の上昇などを生じさせ,その結果,血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させることがあるとされている。 P1の業務と死亡との相当因果関係( )労働者災害補償保険法による保険給付の一種類である遺族補償年金 給付及び葬祭料が支給されるには,労働者に生じた傷病等が「業務上」(,),,同法7条1項1号労働基準法75条のものであることすなわち当該傷病等と労働者が従事していた当該業務との間に相当因果関係が認められる必要があるところ,同相当因果関係が認められるためには,当該業務と疾病との間に業務に内在ないし通常随伴する危険の現実化と認められることが必要であると解され,脳・心臓疾患の場合は,被災者が発症前に従事した業務による精神的肉体的負荷が血管病変等をその自然経過を超えて増悪させ,脳・心臓疾患を発症させたと認められること と認められることが必要であると解され,脳・心臓疾患の場合は,被災者が発症前に従事した業務による精神的肉体的負荷が血管病変等をその自然経過を超えて増悪させ,脳・心臓疾患を発症させたと認められることが必要であると解するのが相当である。 ( )ア前記認定のとおり,平成7年9月当時,福岡事務所は九州全域及 び沖縄所在の約200か所の中継所等を担当していたところ,その従業員は,P1の他にはP3と事務職員のP4のみであり,P1とP3の2人で,搬入前のMDEの点検業務及びMDEのトラブル対応業務等に従事していたこと,しかも,所長のP2が他の事務所の所長を兼任していたため,P1が責任者的立場にあり,NTTドコモなどからの個別的な苦情を一身に受けていたこと,P1の時間外労働時間は,発症前3か月目は12時間30分,同2か月目は36時間30分,同1か月目は51時間30分と発症に近づくにつれて増加していること,P1の出張日数は発症前2か月目の途中から増加し,P1は,同- 25 -2か月目においては,その約2分の1に相当する合計14日間の出張業務に従事し,このうち休日1日を含めて11泊12日間にわたって自宅を離れていたこともあり,同1か月目においては,その3分の1,,余りに相当する合計12日間の出張業務に従事していたことしかも前記ファン交換のための出張については,P3が自動車の運転をできなかったことから,P1は,P3が同行する場合でも自ら自動車の運転をしなければならず,P1が1人で出張することもあったこと,ファン交換のために赴く各中継所等は,山中,ビルやマンション等の屋上,NTT局舎内などにあり,事前にNTTドコモから概略的な地図を受領していたが,中継所等までの道程が分かりにくいこともあり,中継所等を探し回ることもあったこと,そのため,P1は やマンション等の屋上,NTT局舎内などにあり,事前にNTTドコモから概略的な地図を受領していたが,中継所等までの道程が分かりにくいこともあり,中継所等を探し回ることもあったこと,そのため,P1は,平成7年10月8日,休日であったにもかかわらず,大分出張に備えて自宅で地図を広げて中継所等の場所を事前に調べていたこと,ファンの停止を放置しておくと,携帯電話の不通につながるおそれがあるため早急に対応する必要があり,P1らは,NTTドコモからファン停止の電話連絡が入ると,計画外でも随時出張して対応しなければならず,連絡を受けてから1週間以内には何らかの対応をしていたこと,NTTドコモからの催促の電話は夜間や休日でもP1の携帯電話に転送される取扱いになっており,厳しい苦情を言われることもあったこと,出張業務は,自動車や航空機などによる長時間の移動時間を要することからそれ自体苦痛を伴うものであり,特に自ら自動車を運転して行う出張業務は,長距離運転による疲労も生じさせるものである上,自宅を離れることなどから生活自体を不規則なものにし,疲労を蓄積させるものというべきであり,過度の出張などが循環器疾患の発症に関与- 26 -することを指摘する報告や出張頻度が動脈硬化性疾患の指標と関連することを指摘する報告もあること(甲5,8)からすれば,携帯電話の急速な普及に伴ってROM等を交換しなけらばならなくなった上,それに引き続いてファンに不具合があることが判明し,かつファントラブルが頻発したため,ファンの交換をしなければならなくなった発症前2か月目ころから同1か月目にかけての多数の出張業務を含んだ一連の業務が過重な精神的肉体的負荷をP1に及ぼし,P1に疲労を蓄積させたことを推認することができる。このことは,P1が発症日の6日前に,P2に対して,大分 1か月目にかけての多数の出張業務を含んだ一連の業務が過重な精神的肉体的負荷をP1に及ぼし,P1に疲労を蓄積させたことを推認することができる。このことは,P1が発症日の6日前に,P2に対して,大分出張の際に運転手として息子を雇いたい旨申し出ていたことからも窺うことができる。 そして,前記認定事実によれば,P1は,従前は家族や同僚に疲労を訴えることはなく,また,平成6年9月の健康診断時に息切れ,動悸,脈の乱れ,喉のつかえなど心臓の基礎疾患と自覚症状と思われる,,症状を訴えているものの周囲の者にかかる症状を訴えることはなく平成7年9月までの各心電図検査の結果でも異常は認められなかったが,前記一連の業務によってP1に疲労が蓄積されるのと軌を一にして,P1は,周囲の者に対して疲労等の症状を訴え始め,次第にその頻度及び種類が多くなって,その内容も重大になり,ついには締め付けられるような胸痛を訴えるに至り,そのわずか5日後に死亡したものであること,その胸痛は,P1が「○○」という薬などを求め,かつ原告から病院に行くことを忠告されるほどのものであったことが認められ,業務による過重な負荷や睡眠不足に由来する疲労の蓄積が血圧の上昇等を生じさせ,その結果,血管病変等が自然経過を超えて著しく増悪し,虚血性心疾患を発症させることがあるとされていること- 27 -に鑑みると,それまでにP1が従事した前記一連の業務により,血管,,病変等をその自然経過を超えて増悪させて虚血性心疾患を発症させ同人を死に至らしめたというべきである。 イそして,前記認定事実によれば,確かに,P1は,喫煙習慣及び肥満という虚血性心疾患の危険因子を有していたこと,P1は,発症前日である平成7年10月11日の夜,P8らと飲酒し,同人らと別れた後も1人で飲酒し,その後自らの意思 ば,確かに,P1は,喫煙習慣及び肥満という虚血性心疾患の危険因子を有していたこと,P1は,発症前日である平成7年10月11日の夜,P8らと飲酒し,同人らと別れた後も1人で飲酒し,その後自らの意思で大分市内の夜間暖房の作動していない建物1階に横臥,就寝し,翌日の午前4時ころに死亡し,血中アルコール濃度検査の結果,P1の心血1ミリリットル中2.69ミリグラムのアルコールが検出されたこと,そのころの大分市の気温は摂氏13.7度であったことが認められるが,P1は,労働時間の増加及びその内容の拡大に伴い,その症状を悪化させており,かかる状況に照らせば,発症前日からの飲酒及びその後夜間暖房の作動していない建物1階に横臥,就寝したことによる身体的負荷は,P1が心臓疾患を惹起する際の一つの契機にすぎず,発症前にP1の従事した業務とP1の死亡との間には相当因果関係があるということができる。 ,,( )ア被告はP1の業務が過重ではなかったことの論拠の一つとして P1がP2から応援を呼ぶことを提案されたにもかかわらず,これを断ったことを挙げている。しかしながら,P2の供述(甲1)を含めた本件全証拠によっても,P1が前記提案を断った時期は不明であること,いずれにしてもP1は,本件疾病の発症日の6日前には,P2に対して,大分出張の際に,運転手として息子を雇いたい旨申し出ていることからすれば,P1が前記提案を断ったことはP1の業務が過- 28 -重ではなかったことの論拠にはなり得ないというべきである。 イまた,被告は,P1には心臓の基礎疾患が潜在していた可能性がある旨主張する。 しかしながら,P1は,死亡1,2年前の平成5,6年ころ,原告に対し,胸痛を訴えていたことはあるが,その後同じような痛みを訴えたことはなく,病院にも行っていないこと(原 た可能性がある旨主張する。 しかしながら,P1は,死亡1,2年前の平成5,6年ころ,原告に対し,胸痛を訴えていたことはあるが,その後同じような痛みを訴えたことはなく,病院にも行っていないこと(原告本人,その後,原告は,P1が胸痛を訴えたのは死亡7,8年前のことである旨の陳述録取書[甲17]を提出するが,これは直ちには採用できない,。)P1は,平成6年9月の健康診断時に,自覚症状の記載欄のうち,頭の疲れや背中の痛みのほか,息切れ,動悸,脈の乱れ及び喉のつかえという自覚症状につき,時々ある旨の番号を丸で囲んで自覚症状を訴えてはいるが,特段医師から健康状態について注意ないし指示を受けたことはなく,また,心電図検査の結果,心室性期外収縮の所見が得られたが,これは機械の揺れのためにコンピューターが誤って判定し,(,たものであって心電図上は特に異常は認められなかったこと甲15,乙8,証人P10)に照らせば,P1に心臓の基礎疾患が潜在していたと認めることはできない。 ( )以上によれば,P1の死は「その他業務に起因することの明らか ,な疾病(労働基準法施行規則35条,別表第1の2,9号)に基づく」ものであるから,業務上の事由によるものというべきである。 結論 以上の次第であるから,本件各処分はいずれも取り消されるべきであって,原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。 - 29 -福岡地方裁判所第5民事部裁判長裁判官亀川清長裁判官板野俊哉裁判官向井敬二

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