主文 1 被告は,原告に対し,金1億2140万8652円及びこれに対する平成14年1月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを5分し,その2を原告の,その余を被告の各負担とする。 4 この判決は,1項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1) 被告は,原告に対し,3億5252万8684円及びこれに対する平成14年1月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は,被告の負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁(1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は,原告の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,原告が,被告の従業員の株式の無断取引等により生じた損害等につき,同従業員の使用者である被告に対し,債務不履行責任又は使用者責任に基づいてその賠償を求めている事案である。 2 前提となる事実(争いのない事実)(1) 原告は,主としてゴルフ練習場,レストラン等を経営する株式会社Aの代表取締役に就任している者である。 (2) 被告は,有価証券の売買等の媒介,取次及び代理等の証券業を営む証券会社である。 (3) Bは,被告C支店に勤務していた被告従業員であった。 (4) 原告は,平成10年12月ころ被告に対し,株式の総合取引を申込み,C支店に口座(以下「本件口座」という。)を設けて,Bを通じて,同月から株式の現物取引,信用取引及び公募株の取引を行っていた。 (5) 被告は,原告との継続的証券取引の基本契約に基づいて,原告の指示により取次業務の受託者として委託者たる原告の指示に忠実に従う義務を から株式の現物取引,信用取引及び公募株の取引を行っていた。 (5) 被告は,原告との継続的証券取引の基本契約に基づいて,原告の指示により取次業務の受託者として委託者たる原告の指示に忠実に従う義務を負っていた(以下「本件義務」という。)。 3 争点及び争点に関する当事者の主張(1) 株式等の無断取引及び指示違反の有無ア原告(ア) Bは,原告から指示がないにも拘わらず,原告に無断で,原告の名義及び計算で,別紙無断売買一覧表(表1)(以下「表1」という。)記載のとおり,株式の売り及び買いを行い,その結果生じた手数料,利息及び売買差益等に相当する金員を本件口座から引き落とし(以下「本件無断取引」という。),よって,表1記載のとおり,合計1億1957万1398円の損害を与えた。 (イ) Bは,原告から原告保有の株式を売却代金を定めて,売却するよう指示されていたにも拘わらず,別紙売却指示違反の売却一覧表(表2)(以下「表2」という。)記載のとおり,原告の指示に違反した売却を行い,その結果生じた手数料,利息及び売買差益等に相当する金員を本件口座から引き落とし,さらに,原告の指示とおり売却していれば得られたであろう利益を得られなくし,もって,原告に表2記載のとおり,合計5748万2586円の損害を与え,さらに,別紙売却指示違反の不売却一覧表(表3)(以下「表3」という。)記載のとおり,原告の指示を無視して株式の売却を行わず,その結果原告の指示通り売却していれば得られたであろう利益を得られなくし,もって,表3記載のとおり合計1644万9400円の損害を与えた(以下,表2記載の売却行為及び表3記載の不売却行為を併せて「本件指示違反取引1」という。)。 (ウ) Bは,原告から,買付代金及び売却代金を定めて,株式の買付・売却をするよう指示されたに 害を与えた(以下,表2記載の売却行為及び表3記載の不売却行為を併せて「本件指示違反取引1」という。)。 (ウ) Bは,原告から,買付代金及び売却代金を定めて,株式の買付・売却をするよう指示されたにも拘わらず,別紙買付・売却指示違反の不買付・不売却一覧表(表4)(以下「表4」という。)記載のとおり,原告の指示を無視して公募株の新規買付・売却,信用取引を行わず(以下「本件指示違反取引2」という。),その結果,原告の指示とおりの買付,売却をしていれば得られたであろ売買益を得られなくし,もって,表4記載のとおり合計1億7181万0300円の損害を与えた。 (エ) 被告は,本件義務を負っているところ,被告の履行補助者であるBは,原告からの注文を受けずに本件無断取引を,また,原告から具体的な指示があったにも拘わらず,本件指示違反取引1及び2を行ったものであって,Bが上記(ア)ないし(ウ)の原告の損害を賠償すべき義務があり,債務不履行に基づいて損害の賠償を,又は,Bの上記(ア)ないし(ウ)の各行為が被告の事業の執行としてなされた違法なものであるから,Bの雇用者として民法715条によって,その損害を賠償すべき義務がある。 (オ) 被告から確認書が原告に送られてきたものの,原告は日頃から被告担当者に対し口頭で指示,確認を行っていたことから,確認書による確認の必要性を認めず,さらに,天下の被告の担当者が不正を行っているなど思いもよらなかったことから,確認書の内容の確認を行わなかった。しかし,原告は,Bの執拗な要請に基づいて確認書を被告に送り返すことになったものである。また,原告は,Bの要請に基づいて,Bに確認書を直接交付したこともある。このように,原告からの確認書の返送をもって原告が本件無断取引及び本件指示違反取引1を承諾したとはいえない。 (カ) 本件 る。また,原告は,Bの要請に基づいて,Bに確認書を直接交付したこともある。このように,原告からの確認書の返送をもって原告が本件無断取引及び本件指示違反取引1を承諾したとはいえない。 (カ) 本件指示違反取引2のうち,公募株については,Bの勧めによるものであって,Bを通じて原告主張の公募株の買付及び売却を行い,その確認をしている。また,公募株の取引の限度の口数は,被告内部の問題に過ぎず,公募株は大量に発行され,被告も大量に公募株の取引を行っている。 イ被告(ア) 被告の認否は,表1ないし4の被告の認否欄記載のとおりである。 信用による現引きとは,信用取引{なお,信用取引とは,資金や株券を借りて株式の売買を行う取引であり,投資家は証拠金あるいは証券を担保に資金を借り入れて株式を購入する(信用買いまたは空買い)かあるいは株券を借りて株式を売却するものであり,返済期限が決められており,それまでに必ず決済しなければならない。信用買いの場合には購入代金を払って株券を引き取るものを現引きという。}の場合には,決済日が到来すれば,原告の指示がなくとも当然その日に決済されることを意味するものである。 なお,原告は,表1の1(6)の株について,本件指示違反取引2においても主張をしており,二重に損害を評価している。 (イ) 原告は,本件無断取引及び本件指示違反取引1について,下記のとおり,追認ないし事後承諾をしていた。 すなわち,被告は,原告に対し,被告の総務部門から,本件無断取引及び本件指示違反取引1の都度,取引報告書を送付し,毎月月末日現在の残高照会を行っていた。原告は,これら取引報告書の内容を確認すれば,自ら注文した取引が正確に執行されているか否か,自ら注文していない取引が行われていないかを 度,取引報告書を送付し,毎月月末日現在の残高照会を行っていた。原告は,これら取引報告書の内容を確認すれば,自ら注文した取引が正確に執行されているか否か,自ら注文していない取引が行われていないかを知ることができた。しかし,原告は,これら取引報告書が送付されているにも拘わらず,一切クレームをつけてきたこともない。 そもそも証券会社が営業担当者とは別ルートから取引報告書を送付し,残高照会を行っている意味は,営業担当者が介在しない形で本人の意思を確認し,営業担当者の不正行為をチェックするためのものであるから,これら取引報告書に異議の申出をしなかったことは事前であれ,事後であれ,当該取引が本人の意思に基づいて行われた正常な取引であったと認められるべきである。 (ウ) 公募株の場合に,原告主張のような大量の応募受付はおよそ成立し得ない。 一末端営業社員が担当する一顧客のために,数量限定された人気商品の割当てがどの程度可能となるか,当該支店への割当量を全部傾注するとか,あまつさえ他の部店への割当を引き剥がしてまで割当を行うことがあり得ないことは社会通念上自明であり,株取引のベテランである原告も容易に予測していたことである。 (2) 損害ア原告(ア) 本件無断売買,本件指示違反取引1及び2により,原告は,合計3億6531万3684円の損害を被った。 (イ) その後,原告は,平成14年6月20日,被告から,表1の1(17)のD電機5000株(1株513円で256万5000円),表2の1(4)のE電話20株(1株50万6000円で1012万円)及び表3の1のF通信100株(1株1000円で10万円)の返還を受け,その結果上記株式売却代金1278万5000円の返済を受けているので,前記損害額から上記売却代金を控除す 0円で1012万円)及び表3の1のF通信100株(1株1000円で10万円)の返還を受け,その結果上記株式売却代金1278万5000円の返済を受けているので,前記損害額から上記売却代金を控除する。 (ウ) よって,原告の損害は,3億5252万8684円となった。 イ被告(ア) 原告主張のうち,Bが原告の指示に従わずに売却したものものについては,株券の現物返還を求めるか,当該株券の現在価格での代償を求めるべきである。 そして,Bが,原告の指示に従わずに売却した株式については,原告が保有しているはずのものとすれば,それらの銘柄のほとんどが値下がりしているため,売却価格が現在価格を上回るものが少なくなく,現時点ではむしろBの売却によって,原告の損害を回避できた面は否定できない。 (イ) 表1について,1(1)及び(2)は無断取引ではないこと,(11)は,平成13年11月29日及び平成14年7月15日の売却により1473万4250円を取得していること,(17)について配当調整金1万6000円を取得していること,2(1)ないし(3)について配当調整金1万2000円を取得していること,(4)及び(5)について配当調整金5万7600円を取得していること,(25)及び(26)について配当調整金8000円を取得していること,(27)の正確な買付代金は3021万9780円で,売却代金は2563万4615円であり,配当調整金6万4000円を取得していること,(28)の正確な買付代金は710万9913円,売却代金は390万3672円であり,配当調整金2万8000円を取得している。 以上により,表1については,1(1)の損害額2098万5774円,(2)の損害額433万9057円,(11)の売却代金1473万4250 あり,配当調整金2万8000円を取得している。 以上により,表1については,1(1)の損害額2098万5774円,(2)の損害額433万9057円,(11)の売却代金1473万4250円,配当調整金として(17)につき1万6000円,2(1)ないし(3)につき1万2000円,(4)及び(5)につき5万7600円,(25)及び(26)につき8000円,(27)につき6万4000円,(28)につき2万8000円の合計4024万4681円を損害額から控除すべきである。 (ウ) 表2について,手数料等の経費として,1(1)につき15万7292円を,(2)及び(3)につき73万5756円,2(1)につき21万0185円(なお,原告はこの取引に関して配当調整金1万2000円を受領している。)を控除すべきである。 なお,2(2)ないし(5)の売却指示は,存在しないし,仮に存在したとしても,売却できなかった。 したがって,原告の表2の損害額から,1523万0881円を控除すべきである。 (経費として1(1)の15万7292円,(2)及び(3)の73万5756円,2(1)の21万0185円,(2)ないし(5)の損害合計1411万5648円と2(1)の配当調整金1万2000円の合計)(エ) 表3について,2の各株取引は,既に表1の1(2)で主張しているものと同一である。したがって,表3の損害額から2の取引による損害合計217万円を控除すべきである。 (オ) 表4について,手数料等の経費として,2(1)につき20万0571円,(2)につき12万2671円,(3)ないし(18)につき43万7031円を要している。また,(19)ないし(24)の取引は原告の指示内容が不明であることから,売却指示がなされたと 20万0571円,(2)につき12万2671円,(3)ないし(18)につき43万7031円を要している。また,(19)ないし(24)の取引は原告の指示内容が不明であることから,売却指示がなされたとはいえない。 したがって,原告の表4の損害額から合計7359万0273円(上記手数料等の経費合計76万0273円及び(19)ないし(24)の損害合計7283万円の合計を控除すべきである。また,公募株の損害額合計9268万3300円を控除すべきである。 (3) 過失相殺ア原告本件無断取引は,Bの巧妙な手法により,原告を信用させ,その信頼を利用してなされたものであって,加害者がB,被害者が原告であることは明白である。また,原告は,Bから口頭で報告を受けていたのであって,このような原告の取引の確認方法には何ら問題がない。さらに,Bは,原告に無断売買の報告をしていないのであるから,原告には確認の問題が発生せず,原告の過失は問題とならない。そもそも,Bがなした無断売買は,原告の委託がないのであるから,報告書とか回答書は意味がない。また,被告から一方的に原告に送付される報告書,回答書は,本来,被告のためではなく,顧客すなわち原告の保護のために存するものであり,それを盾にして被告担当者の不正行為によって被った原告の損害を軽減するようなことはクリーンハンドの原則に反する。 イ被告被告は,前記(1)のイ(イ)記載のとおり,原告に対し,被告の総務部門から,本件無断取引及び本件指示違反取引1の行為の都度取引報告書を送付し,毎月月末現在の残高照会を行っていた。原告は,これら書類の内容を確認すれば,自ら注文した取引が正確に執行されているか否か,自ら注文していない取引が行われていたか否かを知ることができ,Bの多数回に及ぶ不正行 末現在の残高照会を行っていた。原告は,これら書類の内容を確認すれば,自ら注文した取引が正確に執行されているか否か,自ら注文していない取引が行われていたか否かを知ることができ,Bの多数回に及ぶ不正行為を防止することができた。また,顧客にも証券会社の反面調査に協力する義務のあることは当然であり,原告は,取引報告書や残高照会の明細書に十分目を通すという僅かな努力を怠り,その結果,被告の調査を不十分なものに終わらせたのであって,原告の過失は極めて大きく,相当程度の過失相殺が行われるべきである。 第3 裁判所の判断 1 争点1(無断取引及び指示違反の有無)(1) 甲1ないし3号証(枝番を含む,以下同じ),乙1ないし3号証,証人Bの証言,原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア原告は,25年ないし30年前ころから,株式の取引を行っていた。当時,原告は,地場の証券会社と取引を行っていた。その際,原告は,株式の銘柄,売買の時期,値段を決めて証券会社に対し株の売買を指示し,取引の後には必ず,電話で報告を受け,株式の取引のために開設していた預金口座の残高を確認していた。 イ原告は,平成10年夏ころ,被告からのダイレクトメールを受け取り,Bから勧誘を受けて,同年12月に初めてC支店を通じて株取引を行うことになり,同月3日には株取引の資金のための本件口座を被告において開設し,証拠金などを納めた。原告とC支店との取引は,同月7日に行われたGシステムの新規発行転換社債の購入が始めてであった。その後,原告は,平成11年3月3日に信用取引口座を開設し,信用取引を始めるようになった。原告は,従前どおり,株の銘柄,売買の時期及び値段を決めてBに株の売買を指示していた。また,原告は,取引を指示した直後には,必ずBから取引の内 に信用取引口座を開設し,信用取引を始めるようになった。原告は,従前どおり,株の銘柄,売買の時期及び値段を決めてBに株の売買を指示していた。また,原告は,取引を指示した直後には,必ずBから取引の内容の報告を受けていた。さらに,原告は,株の値動きを細かく観察し,株の取引を細かく管理し,損をできるだけ出さないように気を配っていた。なお,原告は,短期売買で利ざやを稼ぐというタイプで,概ね値下がりした銘柄を買って,値上がりするのを待って売りに出るということをしていた。 ウその後,原告は,Bが勧めた株式の価格が上昇したことや,Bが勧めた取引が原告の判断と一致することも多くなったこと,Bの応対から,次第にBを信用するようになり,一時期は,自分の子のようにかわいがり,原告が経営する会社に勤務するよう勧めたり,自身の娘の結婚相手とも考えていたことがあった。しかし,原告は,銘柄を決めたうえで,取引価格について多少の幅を持たせた形でBに株取引を任せることがあったものの,大半が自身で指示し,買った株の値段,残高も確認していた。 エ Bは,平成12年4月21日,原告が注目していたH株が1万6100円の高値を付けたことから,平成11年11月25日に信用取引で買い建てしていた1000株の売却を勧めようと電話連絡したが,原告が,ゴルフの公式戦への出席のためか連絡できず,売却する機会を逸し,その後,連絡の付いた原告から,売却してくれればよかったのにと言われた。Bは,その後も,原告がゴルフ中などで連絡できず,迅速に処理することができないことあったが,たまたま連絡がつくような機会に,原告から,自分の判断による取引も許しているような発言がなされるようになった。そのころから,Bは,原告が,自分の言っていることを信用してもらっているのだと感じるようになり,原告も株取引につい 機会に,原告から,自分の判断による取引も許しているような発言がなされるようになった。そのころから,Bは,原告が,自分の言っていることを信用してもらっているのだと感じるようになり,原告も株取引について細かく確認することが少なくなり,Bの説明をそのまま信じるようになっていた。 オ Bは,平成11年11月25日に信用取引で買い付けたH株1000株とIの株3000株について,原告から売却注文を受けたものの,直ちに市場に流すのを失念し,売却時期を逸してしまい,その後,執行することができずにいたが,同銘柄が,平成12年5月25日,信用取引における返済期日となっていたので,原告にその旨を言わずに決済した。そのため,Bは,原告に737万9031円の損害を被らせることになり,その穴埋めのために,利益を上げようとして原告に無断で利益が上がりそうだと思った銘柄について株取引を行うようになった。なお,Bは,そのような無断取引においても利益が上がった取引については,原告に報告していたが,損が発生した取引ついては,一切報告することはなかった。また,Bは,原告の指示があった株についても指示どおりの取引を行わなかったが,指示どおり取引を行ったと原告に報告していた。 カまた,Bは,原告の損害を解消させるための取引のための資金の捻出を考え,公募・売出株式について一顧客に購入できない限度額以上の株式数を原告に購入するよう勧めて,原告から表4記載のとおりの注文を受けたが,それらの公募株等を購入することはなかった。なお,Bは,本件口座から私的に資金を流用することはなく,全て原告名義の株取引に流用していた。 キ被告は,担当者が指示した取引注文に従って,取引内容を記載した取引報告書を作成し,取引の都度,その時点での本件口座の残高証明とともに,総務課から原告宛にBを通じて又は郵 株取引に流用していた。 キ被告は,担当者が指示した取引注文に従って,取引内容を記載した取引報告書を作成し,取引の都度,その時点での本件口座の残高証明とともに,総務課から原告宛にBを通じて又は郵送で送付していた。 しかしながら,原告は,取引報告書の内容がBが日頃説明している内容と同一であるとの説明を信じて,特に内容を確認することなく,取引報告書に署名し,押捺をして,Bに交付するか,被告に送り返していた。取引報告書の内容は,回答書部分に残高と保証金・証拠金の残高,保護預り口の残高が記載され,保護預り口の残高には,取引の種類,銘柄,数量,保証金等が記載され,信用取引については,約定日及び約定単価,さらには最終決済期日又は決済約定日の記載がなされており,一読すれば,内容が分かる明確なものであった。 ク Bは,平成13年6月19日にシンガポールへの転勤を命じられ,そのころ原告に転勤の挨拶と,残高確認書に署名を受けた。同月14日時点での本件口座の残高は,267万2654円となっていた。なお,Bは,同年7月以降は,原告との取引に関与していなかった。 ケその後,原告は,同年5月か6月ころに,BからJ電機の公募株の取引を勧められ,そのために韓国に事前に送金するよう言われ,約2億ないし2億5000万円を送金した旨報告を受け,本件口座の当時の残高が約4億円であると聞かされていたが,Bの後任者から,知らない株式の銘柄の取引の話を受けたことや,本件口座の残高を確認したところ,4億円もないとの説明を受けたことで,Bに対し不審を抱き,被告に確認したところ,平成13年7月3日本件無断取引が発覚した。以後,原告は,被告とBの本件無断取引及び本件指示違反取引1,2を巡って交渉をした。 (2) なお,原告は,表3の2の取引については,原告の指示違反でないことを認 3日本件無断取引が発覚した。以後,原告は,被告とBの本件無断取引及び本件指示違反取引1,2を巡って交渉をした。 (2) なお,原告は,表3の2の取引については,原告の指示違反でないことを認めた。 (3) 以上の事実,甲1ないし5号証,乙1,3号証及び前掲証人Bの証言によれば,ア表1の1(1)の買付は,もともと原告の指示により平成12年1月19日,同年2月9日,同月10日に各1000株つづ購入したものを表1の1(1)の各買付の日に信用取引の返済期日が到来したことから,現引きしたものであって,さらに,その後返済期日が到来して売却したものであること,表1の1(2)の買付は,指示を受けていないことから無断取引であったが,返済期日が到来したので,現引きしたものであること,表1の1(6)及び2(1)ないし(3)の各買付分は,原告の指示によるものであるが,売却は,原告の指示があったものの,売却する時期を失し,原告の指示を受けることなく返済期日に売却したものであること,表1の2(6)及び(7)の買付は無断で行い,原告の指示により売却し,表1の2(27)の取引は,Bが平成13年5月18日1株5970円で信用買いした後,返済期日が到来し,被告が原告に通知して同年11月16日1株5970円で現引きし本件口座から3021万9780円を引き出し,同月22日1株5160円で売却して,2563万4615円を,同月26日配当調整金として6万4000円をそれぞれ本件口座に入金し,その結果売却損として452万1165円を計上していたこと,表1の2(28)の取引は,Bが同年5月22日1株1400円で信用買いした後,返済期日が到来し,同年11月22日1株1400円で現引きし,710万9913円を本件口座から引き出し,同月29日1株788円で売却して390万 ,Bが同年5月22日1株1400円で信用買いした後,返済期日が到来し,同年11月22日1株1400円で現引きし,710万9913円を本件口座から引き出し,同月29日1株788円で売却して390万3672円を,同年12月19日配当調整金として2万8000円をそれぞれ本件口座に入金し,その結果売却損として317万8241円を計上していたこと,イ表3の2(1)ないし(3)は,表1の1(2)の取引と同じものであることから,原告の指示違反による取引とはならず,表1の無断売買として取り扱うべきものであること,ウ表2(1(4)を除く),表3の1及び表4の取引は,原告の指示に違反したものであることが認められる。 (4) 以上の(1)ないし(3)認定事実からは,Bは,本件義務に違反して,表1の1の各取引のうち(1)の買付,(3)の売却,(6)の買付,(12),(24),(25)の各売却,2の(1)ないし(3)の各買付,(6)及び(7)の各売却,(27)及び(28)の各売却以外の取引を無断で行い,表2の1(4)を除く取引及び表3の1の取引をいずれも原告の指示に反して行い,表4の取引については指示通りの買付及び売却を行わなかったものと判断すべきである。その結果,Bは,原告が被った損害について賠償すべき義務があるところ,被告は,Bの雇用者としてBが業務の執行につきなした上記行為について民法715条に基づいて原告の損害を賠償すべき義務がある。 (5) なお,原告は,表2の1(4)の取引について,買い付けた67株の株式をその内47株を103万円になった時に売却するよう指示し,さらに67株を103万円となったら売却し,94万円になったら買い戻すよう指示したというが,原告の指示内容が不明であって,原告の指示があったとはいえない。 (6) 被 になった時に売却するよう指示し,さらに67株を103万円となったら売却し,94万円になったら買い戻すよう指示したというが,原告の指示内容が不明であって,原告の指示があったとはいえない。 (6) 被告は,Bが事後に原告から承諾を受けていたと主張する取引があり,乙3号証にはその主張に沿う旨の記述がなされているが,他方で,証人Bは,証人尋問において,原告に激怒されることから,損を出した取引については,原告に一切報告していないと証言していることからして,本件無断取引により原告に損を生じさせており,Bが,原告から事後に承諾を得ていたと認めることはできない。 (7) 被告は,信用取引においては,期限が到来したら決済される制度であり,そのような決済がなされた取引については,無断とはいえない旨の主張をするが,信用取引による買付が原告の指示によるものであれば,約定に従った決済方法がなされたとしても,そのような決済方法は,原告の指示によるものと判断することは適切であるが,原告の指示によらずに買付された株については,原告は,約定の存在を知らないのであるから,原告の意思による決済と判断することはできない。 (8) なお補足するに,表1の1のうち(3),(12),(24),(25)の各売却分,2の(27),(28)の各売却分は,本件取引が発覚した後に被告において,処理されたものであるが,それら取引の当初の買付がいずれも,原告に無断でなされたものであるであることから,それら処理が自己の意思に基づくものであることを承認したうえでなされたものではないので,原告の意思に基づくものであると判断するのは相当ではない。従って,これら取引は,無断取引と判断する。 (9) さらに,被告は,原告に対し,取引報告書を交付して取引内容等の確認をしてもらっており,その確認行為をもって原告 のであると判断するのは相当ではない。従って,これら取引は,無断取引と判断する。 (9) さらに,被告は,原告に対し,取引報告書を交付して取引内容等の確認をしてもらっており,その確認行為をもって原告から,無断でなされた取引についても承諾がなされたと主張する。しかしながら,無断売買においては,原告は被告との間で委託関係にないことから,取引報告書の内容を確認すべき義務を負っていない以上取引報告書に署名押印したとしてもそのことだけをもって,当該無断売買に対し追認がなされたと判断するのは相当ではない。よって,被告の上記主張は当裁判所の採用するところではない。 2 損害(1) 甲1,2,当事者間に争いのない事実及び乙1号証によれば,原告の損害は,表1ないし4の裁判所認定額合計2億0234万7754円となる。 (2) なお,個々の取引について補足して説明する。 ア表1の1(1)の取引については,同記載の買付は原告の指示によるものであり,返済期日が到来したことから,現引きした上売却したものであること,1(6),2(1)ないし(3)の各取引は,各買付が原告の指示に基づくものであるが,売却を無断で行ったことから,原告ら指示したであろう時期に売却しなかったものであるから,これら取引は,結局原告の指示違反であると解すべきところ,この取引の損害とは,原告が指示したときに売却した場合と実際に売却した時との株式の価格の差額すべきであるが,これを認めるに足りる証拠がないことから,原告主張の売却損が原告の損害であると判断することは相当ではない。また,表1の2(6)及び(7)の取引の内,買付については無断で行ったものであるが,原告の指示により売却していることから,原告が,その買付取引を追認したものと判断するのが相当であるから,上記各取引について損害はない )及び(7)の取引の内,買付については無断で行ったものであるが,原告の指示により売却していることから,原告が,その買付取引を追認したものと判断するのが相当であるから,上記各取引について損害はない。 イ配当調整金として,表1の1(17)につき,平成13年6月28日1万6000円を,2(4)及び(5)について,平成12年7月7日7200円及び4800円の合計1万2000円,2(25),(26)について,平成13年7月11日に800円及び7200円の合計8000円,表2の2(1)について,平成12年7月11日1万2000円が支払われていた(乙1号証)。よって,これら配当調整金を損害から控除する。 ウ表1の1(11)について,原告は,平成13年11月29日及び平成14年7月15日売却により1473万4250円を取得している。したがって,同売却代金を損害から控除する(争いのない事実)。 エ指示違反については,売買においては,当然手数料等の経費を支払うべきであることから,原告の損害額から,手数料等の経費を控除すべきところ,表2の1(1)につき,15万7292円を,(2)及び(3)につき73万5756円,2(1)につき21万0185円を,表4の2(1)につき20万0571円,(2)につき12万2671円,(3)ないし(18)につき43万7031円を損害から控除する(弁論の全趣旨)。 オ原告は,平成14年6月20日,被告から,表1の1(17)のD電機の5000株(1株513円で256万5000円),表1の1(23)のE電話20株(1株50万6000円で1012万円)及び表3の1のF通信100株(1株1000円で10万円)の返還を受け,その結果上記株式売却価格1278万5000円の返済を受けているので(争いのない事実),前記損 50万6000円で1012万円)及び表3の1のF通信100株(1株1000円で10万円)の返還を受け,その結果上記株式売却価格1278万5000円の返済を受けているので(争いのない事実),前記損害額から上記売却価格を控除する。 カ指示違反に係る取引は指示に従っていた場合の売却価格と買付の際の価格との差額をもって損害とする。 キなお,原告は,表1の2(27)の買付代金を2985万円,売却代金を2580万円とするが,前記1(3)の認定事実によれば,買付代金として3021万9780円が本件口座から引き出され,売却代金として2563万4615円が,配当調整金として6万4000円がそれぞれ本件口座に振り込まれており,売却損は452万1165円であるが,原告が損害額として405万円を請求していることから,同金額を損害とする。 同様に,原告は,表1の2(28)の買付代金を700万円,売却代金を394万円とするが,買付代金として,本件口座から710万9913円を本件口座から引き出され,売却代金として390万3672円が,配当調整金として2万8000円がそれぞれ本件口座に振り込まれており,その売却損は317万8241円であるが,原告が損害額として306万円を請求していることから,同金額を損害とする。 ク以上から,表1の1(11)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から売却益1473万4250円を控除し,(17)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から売却益256万5000円及び配当調整金1万6000円を控除し,(23)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から売却益1012万円を控除し,2(4)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から配当調整金7200円を控除し,(5)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から配当調整金4800円を控 ,原告主張の損害額から売却益1012万円を控除し,2(4)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から配当調整金7200円を控除し,(5)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から配当調整金4800円を控除し,(25)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から配当調整金800円を控除し,(26)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から配当調整金7200円を控除し,表2の1(1)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から手数料15万7292円を控除し,(2)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から(2)及び(3)の手数料等73万5756円を控除し,2(1)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から配当調整金1万2000円及び手数料等21万0185円を控除し,表3の1の裁判所認定損害額は,原告主張の損害額から売却益10万円を控除し,表4の2(1)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から手数料等20万0571円を控除し,(2)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から手数料等12万2671円を控除し,(3)の裁判所認定額は,原告主張の損害額から(3)ないし(18)の手数料等43万7031円を控除したものである。 (3) 原告は,配当調整金の支払いが被告によってなされていないことから,これを控除すべきではないと主張するが,原告の損害を判断する際には,配当調整金も損害を補填するものとして考慮するのが相当である。 (4) 原告は,公募株について得べかりし利益を請求するが,公募株は人気が高く,各株の株数にそれぞれ割り当てがあり,同一証券会社内部でも各支店ごとに割り当て株数が決められており,表4の1の公募株の買付指示株数が通常一営業所が一顧客に取り扱う範囲を遙かに超えており(証人Bの証言),原告が,確実に公募株について主張する利益を確保できたと認められないことから,原告の公募 ており,表4の1の公募株の買付指示株数が通常一営業所が一顧客に取り扱う範囲を遙かに超えており(証人Bの証言),原告が,確実に公募株について主張する利益を確保できたと認められないことから,原告の公募株の指示違反による得べかりし利益に関する主張は理由がない。 (5) 被告は,原告主張のうち,Bが原告の指示に従わずに売却したものものについては,株券の現物返還を求めるか,当該株券の現在価格での代償を求めるべきであり,Bが,原告の指示に従わずに売却した株式について,原告が現在も保有しているはずのものとすれば,それらの銘柄のほとんどが値下がりしているため,売却価格が現在価格を上回るものが少なくなく,現時点ではむしろBの売却によって,原告の損害を回避できたと主張するが,前記1(1)の認定事実によれば,原告は,通常買い付けた株を比較的短期間で売却して利ざやを稼ぐというタイプであって,そのような原告の通常の取引形態からは,原告は,適当な時期が来たならば,買い付けた株を売却する可能性が極めて高いと判断されることから,被告の上記主張は採用することができない。 3 過失相殺(1) 前記1(1)の認定事実によれば,原告は会社を経営し,長年にわたって株取引を行っていたものであることから株取引の実状を十分把握していること,他方で,被告は,毎月取引報告書を原告に交付して取引内容の確認を求めていること,取引報告書の内容は簡明で,株取引を行っているものにとっては理解が容易なものであること,原告が取引報告書の内容を確認していたならば,これほどの損害を被ることがなかったこと,以上の諸般の事情を鑑みるならば,原告がBを信頼しきっていたことを考慮しても,原告に過失としてその損害の4割を相殺するのが公平の見地から妥当である。以上の結果,原告の損害額は,1億2140万86 と,以上の諸般の事情を鑑みるならば,原告がBを信頼しきっていたことを考慮しても,原告に過失としてその損害の4割を相殺するのが公平の見地から妥当である。以上の結果,原告の損害額は,1億2140万8652円となる。 (2) なお,原告の主張するところは,当裁判所の採用するところではない。 4 よって,原告の請求は,主文1項及び3項の限度で理由があるからこれを認容し,その余を棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条,64条1項,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。 大津地方裁判所民事部裁判官山口芳子
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