平成30年7月13日判決言渡同日原本領収裁判所書記官井上昌一朗平成29年(行ウ)第290号手続却下処分取消等請求事件口頭弁論終結日平成30年6月8日判決原告レッドエックスファーマピーエルシー同特許管理人矢口太郎髙橋隼人被告国同代表者法務大臣上川陽子処分行政庁特許庁長官宗像直子同指定代理人前田佳行梅田麻里近野智香子小野和実安原文香長澤篤 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求特許庁長官が平成28年12月21日付けでした,特願2016-505739号についての平成27年10月2日付け提出の国内書面に係る手続の却下の処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,千九百七十年六月十九日にワシントンで作成され 50573 9号についての平成27年10月2日付け提出の国内書面に係る手続の却下の 処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約(以下,単に「特許協力条約」という。)に基づき外国語でされた国際特許出願が,特許法(以下,単に「法」という。)184条の4第3項により取り下げたもの とみなされたことに関し,上記国際特許出願に係る出願人名義変更届を提出した原告が,法184条の4第1項が定める優先日から2年6月の国内書面提出期間内に同条第3項所定の明細書及び請求の範囲の翻訳文(以下「明細書等翻訳文」という。)を出願人が提出することができなかったことについて,同条4項の正当な理由があるとして同出願人が国内書面に添付して明細書等翻訳文を特許庁 長官に提出したのに,特許庁長官がこの国内書面に係る手続を却下した処分は違法であると主張して,同却下処分の取消しを求める事案である。 2 本件に関連する条約及び法令の規定等(1) 特許協力条約22条(1)は,出願人が,優先日から30か月を経過する時までに各指定官庁(出願人によって指定された国の官庁)に対し,国際出願の写 し及び所定の翻訳文を提出する等の国内移行手続をすべき旨などを定め,同条(3)は,締約国の国内法令において,上記(1)等に規定する行為をすべき期間として,上記期間よりも遅い時に満了する期間を定めることができる旨を定めている。 このため,特許協力条約の締約国中には,国内移行手続の期限につき,優先 日から30か月と定める国のほか,優先日から31か月と定める国などが存在する(乙7。以下,上記の各期限に応じて「30か月期限」,「31か月期限」といい,その採用国をそれぞれ「30か月期限 先 日から30か月と定める国のほか,優先日から31か月と定める国などが存在する(乙7。以下,上記の各期限に応じて「30か月期限」,「31か月期限」といい,その採用国をそれぞれ「30か月期限国」,「31か月期限国」という。)。 また,同条約24条(1)(ⅲ)は,出願人が同条約22条に規定する行為を該 当する期間内にしなかった場合は,国際出願の効果が,当該指定国における国 内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅する旨を定め,同条(2)は,同条(1)の規定にかかわらず,指定官庁が国際出願の効果を維持することができる旨を定めている。 (2) 我が国においては,30か月期限が採用されており,国際特許出願の出願人は,優先日から2年6月の国内書面提出期間内に,出願人の氏名及び住所等, 法184条の5第1項各号所定の事項を記載した国内書面を提出すべきものとされている(法184条の4第1項本文,184条の5第1項)。また,外国語でされた国際特許出願(以下「外国語特許出願」という。)の出願人は,原則として,国内書面提出期間内に,国際出願日における特許協力条約3条(2)に規定する明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文を特許庁 長官に提出する必要があるが(法184条の4第1項本文),国内書面提出期間の満了前2月から満了の日までの間に国内書面を提出すれば,当該書面の提出の日から2月の翻訳文提出特例期間内に,当該翻訳文を提出することができるものとされている(同項ただし書)。 そして,国内書面提出期間(同項ただし書の外国語特許出願にあっては,翻 訳文提出特例期間)内に明細書等翻訳文の提出がなかったときは,その国際特許出願は取り下げられたものとみなすと定められている(同条3項)。 期間(同項ただし書の外国語特許出願にあっては,翻 訳文提出特例期間)内に明細書等翻訳文の提出がなかったときは,その国際特許出願は取り下げられたものとみなすと定められている(同条3項)。 (3) 平成23年改正法による改正後の法184条の4第4項(以下,「法184条の4第4項」という場合は,同改正法による改正後の同項をいう。)は,同条3項により取り下げられたものとみなされた国際特許出願の出願人は,国内 書面提出期間内に当該明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて正当な理由があるときは,その理由がなくなった日から2月以内で国内書面提出期間の経過後1年以内に限り,明細書等翻訳文等の翻訳文を特許庁長官に提出することができると規定する。同規定は,平成23年改正法の施行日である平成24年4月1日において明細書等翻訳文の提出期間が満了してい ない国際特許出願について適用される(なお,上記翻訳文の提出が可能な期間 については,平成27年法律第55号による改正(平成28年4月1日から施行)により「経済産業省令で定める期間内」とされ,特許法施行規則38条の2第2項により,正当な理由がなくなった日から2か月以内で国内書面提出期間の経過後1年以内であると改められた。)。 特許庁は,上記平成23年改正を受けて,平成24年3月,救済の対象とな る手続の期間徒過について,救済要件の内容,当該要件に係る判断の指針及び救済規定の適用を受けるために必要な手続を例示した「期間徒過後の手続に関する救済規定に係るガイドライン」を策定・公表した。その後,同ガイドラインには必要な記載を追加するなどの改訂が行われ,平成28年3月には「期間徒過後の救済規定に係るガイドライン(平成28年4月1日改訂版)」(以下 「 イン」を策定・公表した。その後,同ガイドラインには必要な記載を追加するなどの改訂が行われ,平成28年3月には「期間徒過後の救済規定に係るガイドライン(平成28年4月1日改訂版)」(以下 「ガイドライン」という。甲29)が公表された。 (4) 法184条の5第2項は,国内書面を国内書面提出期間内に提出しないとき(同項1号)など同項各号所定の場合において,特許庁長官が,相当の期間を指定して手続の補正をすべきことを命ずることができる旨を定め,同条3項は,特許庁長官は,手続の補正をすべきことを命じた者が上記期間内にその補正を しないときは,当該国際特許出願を却下することができる旨を定めている。 これは,特許協力条約26条が,指定官庁は,同一又は類似の場合における国内出願について国内法令に定める範囲内で及び手続に従い国際出願の補充をする機会をあらかじめ出願人に与えることなく,同条約及び規則に定める要件を満たしていないことを理由として国際出願を却下してはならない旨定め ていることに基づくものである。 3 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定することができる事実)(1) ベルギー王国の法人であるアマケムエヌブイ(以下「本件出願人」という。)は,「ソフトROCKインヒビターとしてのピリジン誘導体」という名称の発 明につき,欧州の特許事務所エルシーパテンツ(以下「本件事務所」という。) の所長兼欧州弁理士であるA(以下,単に「A」という。)を代理人として,平成26年1月27日,欧州特許庁を受理官庁とし,平成25年1月29日を優先日とする,特許協力条約に基づく国際出願(PCT/EP2014/051546)をした。同国際出願は,特許協力条約4条(1)(ⅱ) 26年1月27日,欧州特許庁を受理官庁とし,平成25年1月29日を優先日とする,特許協力条約に基づく国際出願(PCT/EP2014/051546)をした。同国際出願は,特許協力条約4条(1)(ⅱ)の指定国に日本国を含むものであることから,法184条の3第1項の規定に基づき,平成26 年1月27日に日本国にされた特許出願とみなされた(特願2016-505739号。以下「本件国際特許出願」という。)。(甲1~3)(2) 本件出願人は,国内書面提出期間の末日である平成27年7月29日までに,国内書面及び明細書等翻訳文を特許庁長官に提出しなかった。 本件出願人が明細書等翻訳文を特許庁長官に国内書面提出期間内に提出し なかったことから,本件国際特許出願は,法184条の4第3項により,取り下げられたものとみなされた。 (3) 本件出願人は,平成27年10月2日付けで,特許庁長官に対し,法184条の4第4項に基づくものとして,国内書面に添付して明細書等翻訳文や図面及び要約の翻訳文を提出するとともに,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文 を提出することができなかったことについて正当な理由がある旨を記載した回復理由書を提出した。(甲1,2)(4) 本件出願人は,平成27年10月21日,特許庁長官に対し,回復理由書(補充)を,証拠書類とともに提出した。(甲10)(5) 特許庁長官は,平成28年8月3日付け(同月9日発送)の却下理由通知書 (甲3。以下「本件却下理由通知書」という。)により,本件出願人に対し,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて正当な理由があるとはいえないことから,法184条の4第4項に規定する要件を満たさず,本件国際特許出願は法184条の4第3項の 内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて正当な理由があるとはいえないことから,法184条の4第4項に規定する要件を満たさず,本件国際特許出願は法184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされ,国内書面提出期間経過後にされた国内書面に 係る手続(以下「本件手続」という。)は,特許庁に係属していない出願に対 して行われた不適法な手続であることから,法18条の2第1項の規定により却下すべきものである旨の通知をした。 (6) 本件出願人は,平成28年10月11日付けで,弁明書(甲4)を提出した。 (7) 特許庁長官は,平成28年12月21日付け(同月27日発送)の「手続却下の処分」と題する文書(甲5)により,本件手続は,本件却下理由通知書に 記載した理由により,法18条の2第1項の規定に基づき却下する旨の手続却下の処分(以下「本件却下処分」という。)をした。 (8) 本件出願人は,平成29年1月26日付けで,特許庁長官に対し,出願審査請求書(甲6)を提出した。 (9) 特許庁長官は,平成29年2月22日付け(同月28日発送)の却下理由通 知書(甲7)により,本件出願人に対し,上記出願審査請求書の提出は,法184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされた客体のない出願について提出された不適法な手続であるから,法18条の2第1項の規定により却下すべきものである旨の通知をした。 (10) 原告は,平成29年3月13日付けで,本件出願人から,本件国際特許出 願に係る特許を受ける権利の譲渡を受けた。そこで,原告は,同年6月27日付けで,特許庁長官に対し,本件国際特許出願に係る出願人を本件出願人から原告に変更するための出願人名義変更届(甲9)を提 願に係る特許を受ける権利の譲渡を受けた。そこで,原告は,同年6月27日付けで,特許庁長官に対し,本件国際特許出願に係る出願人を本件出願人から原告に変更するための出願人名義変更届(甲9)を提出し,同年7月4日付けで,本件名義変更届を補正する手続補正書(乙1)を提出した。 (11) 原告は,平成29年6月27日,当裁判所に対し,本件却下処分の取消し を求める本件訴訟を提起した。 (12) 特許庁長官は,平成29年7月6日付けで,本件出願人に対し,本件出願審査請求書提出手続について,平成29年2月22日付け却下理由通知書に記載した理由により,法18条の2第1項の規定に基づき却下する旨の手続却下の処分をした。(乙2) (13) 特許庁長官は,平成29年7月24日付けで,原告に対し,上記(10)の名 義変更届及び手続補正書の提出は,法184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされた特許庁に係属していない出願に対して行われた不適法な手続であるから,法18条の2第1項の規定により却下すべきものである旨の各通知をした。(乙3の1・2) 4 争点 (1) 法184条の4第4項の「正当な理由」についての認定判断の誤りの有無(2) 法184条の5第2項1号による補正命令をせずに本件却下処分をしたことについての違法の有無第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(法184条の4第4項の「正当な理由」についての認定判断の誤りの 有無)について(原告の主張)(1) 本件国際特許出願の国内移行期限徒過(以下「本件期間徒過」という。)の原因となった事象(以下「本件事象」という。)は,本件事務所の事務員であるB(以下,単に「B」という。)が,本件事務所の作業予定リ 本件国際特許出願の国内移行期限徒過(以下「本件期間徒過」という。)の原因となった事象(以下「本件事象」という。)は,本件事務所の事務員であるB(以下,単に「B」という。)が,本件事務所の作業予定リスト(甲15) の国内移行に係る30か月期限及び31か月期限の各欄(以下,それぞれを「30か月期限欄」のようにいい,併せて「各期限欄」という。)につき,本件出願人から国内移行の指示があった国のコードを備考欄に手動で入力した際,31か月期限欄の備考欄(甲15の「Remark」欄の上から6行目)に30か月期限国である日本の国コード「JP」を誤って入力したこと(以下「本件誤入力」 という。)に起因するものであり,これは人為的ミスである。 (2) 前記のとおり,法184条の4第4項は,同条3項により取り下げられたものとみなされた国際特許出願の出願人は,国内書面提出期間内に当該明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて正当な理由があるときは,その理由がなくなった日から2月以内で国内書面提出期間の経過後1年以内 に限り,明細書等翻訳文等の翻訳文を特許庁長官に提出することができると規 定する。ガイドラインによれば,同項の「正当な理由」の判断基準は,期間徒過の原因となった事象そのものではなく,手続をするために国際特許出願の出願人が講じていた措置が,状況に応じて必要とされるしかるべき措置(相応の措置)であったといえるか否かにあるとされる。 (3) 本件出願人が採った以下の措置は,「相応の措置」と認められるべきである。 ア本件事務所は,ISO9001:2008規格(以下「本件ISO規格」という。)の認証を受けた業務体制を備えた事務所である。そして,本件事務所の採用している案件・期限管理システム(以下 ア本件事務所は,ISO9001:2008規格(以下「本件ISO規格」という。)の認証を受けた業務体制を備えた事務所である。そして,本件事務所の採用している案件・期限管理システム(以下「本件システム」という。)は,本件ISO規格に従い適切に運用されている。 本件ISO規格の要求する外部監査レポートでも高く評価されている本 件システムは,スキャン機能によりPDF化された書類(公報等)の情報が全て入力され,国際特許出願の最も早い優先日から計算される30か月及び31か月の各期限欄も自動で作成されるが,唯一,各期限欄の備考欄への国コードの入力のみが手動で行われる。 本件事務所では,30か月期限か31か月期限かに関わらず,全ての案件 について30か月期限以前に国内移行の指示レターを各国代理人に送付することになっていたから,本来,本件誤入力があったとしても期間徒過が発生しないような措置を講じていた。ただ,本件の場合,Bが,31か月期限の案件については休暇後に処理すると決めたことにより,期間徒過が生じたにすぎない。 また,本件事務所では,本件ISO規格の定める運用の要件に従い,本件システムが適切に機能していることを確認するため,週1度の定例ミーティングを毎週月曜日午前10時から行い,同ミーティングには基本的に所員が全員参加することが義務付けられていた。そして,本件事務所では,平成27年7月20日,同月27日及び同年8月3日の各月曜午前10時にも通常 どおり定例ミーティングが行われ,本件国際特許出願に係る国際出願の国内 移行に関する期限を含む「作業予定リスト」に記載された全ての作業に関する確認がされた。 この定例ミーティングは,本件ISO規格の運営計画及び管理 国際特許出願に係る国際出願の国内 移行に関する期限を含む「作業予定リスト」に記載された全ての作業に関する確認がされた。 この定例ミーティングは,本件ISO規格の運営計画及び管理を実行するためのものであるが,同規格の要求事項(甲42)の「8.5.1 製造及びサービス提供の管理」の項目には,「組織は,製造及びサービス提供を, 管理された状態で実行しなければならない。管理された状態には,次の事項のうち,該当するものについては,必ず,含めなければならない」と規定され,そのg項には,「ヒューマンエラーを防止するための処置を実施する」とも規定されているので,本件事務所においては,定例ミーティングを介して,ヒューマンエラーを防止するための処置をも実施していたことになる。 このように,本件ISO規格の品質マネジメントシステムの認証を受けていること自体が,人為的なミスである本件誤入力を回避するために講じられた相応な措置ということができる。 以上のような期限管理体制が整っていたにもかかわらず,本件誤入力が生じたこと,また,Bが31か月期限の案件については休暇後に処理すると決 めたことを予測するのは不可能であった。本件事務所としては,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,やむを得ない事情によって本件期間徒過が生じてしまったのであるから,本件期間徒過には「正当な理由」がある。 イ Bの業務は極めて標準的なものであり,入力ミスは専ら個人的な錯誤によるものであった。 Bは,国際特許出願の外国への国内移行関連事務業務を専門としており,平成26年に本件事務所に入所する以前に他の事務所で同様の事務内容を処理する事務員として26年間勤務していたベテランの事務員・補助者である。その具体的な主要業 国内移行関連事務業務を専門としており,平成26年に本件事務所に入所する以前に他の事務所で同様の事務内容を処理する事務員として26年間勤務していたベテランの事務員・補助者である。その具体的な主要業務は,顧客からの国内移行に関する指示の取得,国内移行の期限管理及び絶対期限のモニター,外国の特許事務所への指示送信 等であり,これらの業務は,ほぼ標準化されている。 本件ISO規格に従った業務管理を行っている本件事務所においては,30か月や31か月の期限の相違があっても期間徒過が生じないように細かい処理手順を記載したマニュアルを備えて,30か月期限を基準として全ての国内移行の指示を行うようにしていた。このように標準化された業務を実行し,年間何百にもわたる件数の国内移行期限を確認してきたが,本件事務 所において,同期限に関する管理ミスが生じたことは一度もなかった。 Bの本件誤入力は,本件事務所において同人に対する適切な管理・監督が行われている中での,単なる同人の錯誤によるものであり,これが平成27年7月27日の定例ミーティングでは発見されず,翌週の定例ミーティングが行われた8月3日に発見されたものである。 ウ 「相応の措置」であるかを検討するに当たっては,以下のとおり,出願人の居住する外国における状況を考慮すべきである。 (ア) 法184条の4第4項による救済を受けるべき出願人が専ら外国に居住する外国人であることを考えると,「相応の措置」であるかを検討するに当たって考慮されるべき「状況」とは,日本における状況ではなく,実 際に当該国際特許出願の出願人が実務を行う外国における状況であると解釈すべきである。 本件国際特許出願に係る国際出願の国内移行処理の手続におい とは,日本における状況ではなく,実 際に当該国際特許出願の出願人が実務を行う外国における状況であると解釈すべきである。 本件国際特許出願に係る国際出願の国内移行処理の手続において,本件出願人はベルギーに実在する企業であり,その代理人は,ベルギーの現地代理人と他国の代理人が存在する。現地代理人の役割は,現地において専 ら30か月期限を管理することであり,本件出願人から国内移行の指示が来たらできる限り早く各国の代理人に指示を与えるのがその責務である。 本件において,「相応の措置」を講じていたか否かの検討に当たっては,現地における実際の状況を考慮すべきである。 日本は,他の主要国と比較して,手続の期限について最も厳しいだけで なく,サービスを含む品質管理について非常に高い基準を要求する国であ るから,日本の基準や実務に基づく「状況」を把握したのでは,外国語特許出願の出願人にとって非現実的なものになってしまう可能性がある。 したがって,「相応の措置」が採られていたか否かは,実際に現地の基準に照らして判断すべきところ,本件事務所は,本件ISO規格を取得しているから,上記「状況」に関し,客観的に見て,国際的な基準を満たし ているといえる。 (イ) 国際特許出願の出願人が居住する欧州及び主要国では翻訳文提出の要件が日本よりも緩やかであることを考慮すべきである。 国際特許出願の出願人は,日本だけではなく,自国を含む多くの国に対する国内移行期限を同時に管理しているのであり,日本以外の主要国は, 特許法条約12条の救済措置によらずとも30か月の国内移行期限を緩和していて,これらの緩和措置につき,内国民と外国民とで差異を設けていない。外国語特許出願の出願人 あり,日本以外の主要国は, 特許法条約12条の救済措置によらずとも30か月の国内移行期限を緩和していて,これらの緩和措置につき,内国民と外国民とで差異を設けていない。外国語特許出願の出願人に対し,多くの指定国中,日本だけ特別に異なる基準で期限の管理をするよう求めることは,現実的でない。 (ウ) 日本語特許出願の出願人に与えられる国内書面提出期間徒過の救済規 定(法184条の5第2項1号)が外国語特許出願の出願人には実質的に与えられていないことを考慮すべきである。 我が国においても,日本語でされた国際特許出願(以下「日本語特許出願」という。)の出願人は,仮に国内書面提出期間を徒過して国内書面を提出したとしても,その徒過の理由を問わず救済される(法184条の5 第2項1号,第3項)。しかしながら,外国語特許出願の出願人が上記期間を徒過した場合,上記無条件の救済は与えられず,明細書等翻訳文についての救済措置の申請を要し(法184条の4第4項),同申請が認められなかった場合には,明細書等翻訳文を国内書面提出期間内に提出しなかったことを理由として,国内書面が却下される。少なくとも,国内書面提 出期限の到来前から国内移行の意思が明確であり,国内書面の提出期限の 管理を行っていることが明確な場合には,「相応の措置」を採っているものとして,外国語特許出願の出願人にも広く救済を認めるべきである。 (4) 以上のとおり,本件出願人は,状況に応じて必要とされるしかるべき措置(相応の措置)を採っていたにもかかわらず,特許庁長官は,結果的にミスが見逃されたこと自体を理由に相応の措置が採られていないと認定したものであり, 本件却下処分は違法であるので取り消されるべきである。 (被告の主張) かかわらず,特許庁長官は,結果的にミスが見逃されたこと自体を理由に相応の措置が採られていないと認定したものであり, 本件却下処分は違法であるので取り消されるべきである。 (被告の主張)(1) 原告の主張によると,補助者であるBが,本件出願人から受領した国内移行を希望する国のリストに基づき,当該国の国コードを本件システムに入力する際,誤って31か月期限の欄に,日本の国コードを示す「JP」を入力したこ とが,本件期間徒過の直接の原因(本件事象)である。 法184条の4第4項は,個別の事案における様々な事情に配慮しつつ,柔軟な救済を図ることができるよう新設されたものである。また,我が国においては,第三者の監視負担に配慮しつつ実効的な救済を確保できる要件として,特許法条約12条(1)の「故意」(Intentional)ではなく「相当な 注意」(DueCare)を採用したのである。そうすると,法184条の4第4項にいう「正当な理由」は,国際特許出願の出願人が講じていた措置が,状況に応じて必要とされるしかるべき措置,すなわち相応の措置であったといえる場合に,それにもかかわらず,何らかの理由により期間徒過に至ったときに認められるものと解すべきである。 (2) 具体的には,期間徒過の原因となった事象が予測可能であった場合は,出願人等は当該事象により期間徒過に至ることがないように事前に措置を講ずべきであるといえることから,出願人等の講じた措置の如何を問わず,原則として,「正当な理由」は認められない(ガイドライン18,19頁)。 また,期間徒過の原因となった事象が予測可能であるといえない場合,当該 事象が出願人による人為的なミスにより発生したときは,通常の注意力を有す る者であれば 18,19頁)。 また,期間徒過の原因となった事象が予測可能であるといえない場合,当該 事象が出願人による人為的なミスにより発生したときは,通常の注意力を有す る者であれば,当該ミスによる事象の発生を回避すべく措置を講ずべきであることから,その事象の発生を回避することができなかったことをもって,原則,当該出願人等は相当の措置を講じていなかったものとされるが,特殊な事情によりそれを回避できなかったといえるときは,その措置が相応の措置であったと判断されることもある(ガイドライン20頁)。 そして,期間徒過の原因となった事象が補助者の行為に起因する場合には,当該補助者を使用する出願人,代理人が,①補助者としての業務の遂行に適任な者を選任していること,②補助者に対し的確な指導及び指示を行っていること,③補助者に対し十分な管理・監督を行っていることの三要件を満たす場合には,期間徒過の原因となった事象の発生前に講じた措置は相応の措置であっ たと解される(ガイドライン26,27頁)。 (3) 本件事務所においては,出願人から国内移行手続の指示があった国の国コードを30か月期限又は31か月期限のいずれかの欄に入力する作業を補助者が手作業で行っていたが,このように手作業で入力する場合,当該補助者が入力欄を誤るという人為的ミスが生じ得ることは,通常の注意力を有する者であ れば当然に予測できるというべきである。 原告が「相応の措置」として主張するもののうち,定例ミーティングについては,作業の進捗状況を確認するものにすぎず,補助者の入力結果の確認が適切に行われていたと認めることはできない。また,本件事務所において,30か月期限の国に関する国内移行指示レターの送付が全件について行われてい た 認するものにすぎず,補助者の入力結果の確認が適切に行われていたと認めることはできない。また,本件事務所において,30か月期限の国に関する国内移行指示レターの送付が全件について行われてい たことは立証されていない。さらに,業務管理に係る国際規格の認証を得ていることは,ある一定の水準で業務が行われていることを示すものとはいえても,かかる認証をもって「相応の措置」を講じていたと一律に判断することはできない。 また,本件期限徒過は補助者の行為に起因するものであるところ,Aの補助 者であるBの本件事務所における業務経験が短いこと,同人に必ずしも標準化 された業務のみを担当させていたとはいえないこと,日本国への国内移行手続に関する業務には細心の注意を払うことが求められることなどを考慮すると,補助者の選任が適任であったとはいうことはできない。また,補助者への指示については,Aが,Bに対し,いつ,どのような状況で指示をしたかは明らかではない。さらに,Bが休暇を取るに当たり,別の者に引き継がせるなどの代 替措置を講じておらず,定例ミーティングを中心とした複数名によるバックアップ体制も,本件期間徒過の防止に何ら機能しなかったのであるから,本件事務所による補助者に対する管理・監督も十分であったということはできない。 (4) 原告は,「相応の措置」の判断において,出願人が外国に居住することに基づく事情を考慮すべきであると主張するが,出願人が「相応の措置」を講じて いたかどうかの判断において,外国に居住していることに基づく事情を特に考慮すべき理由はない。 (5) 以上のとおり,本件事務所が,本件の期間徒過の原因となった事象を回避するために相応の措置を講じていたとはいえないから,正当な理由があるとは認められない 事情を特に考慮すべき理由はない。 (5) 以上のとおり,本件事務所が,本件の期間徒過の原因となった事象を回避するために相応の措置を講じていたとはいえないから,正当な理由があるとは認められない。 2 争点(2)(法184条の5第2項1号による補正命令をせずに本件却下処分をしたことについての違法の有無)について(原告の主張)(1) 国内書面提出期間の満了前2月から満了の日までの間に国内書面を提出すれば,明細書等翻訳文の提出は,当該国内書面提出の日から更に翻訳文提出特 例期間の2か月間猶予されることになる(法184条の4第1項ただし書)。 本件において,国内書面提出期間内に提出しなければならなかったのは,明細書等翻訳文ではなく,国内書面である。 (2) 日本語国際特許出願の場合,国内書面提出期間内に国内書面を提出しなかった場合,補正命令が出され(法185条の5第2項1号),当該補正命令が出 されない限り,出願を却下することができない(同条3項)。また,日本語特 許出願の場合には,出願人が国内移行期限の管理を一切行わずに期限徒過した場合や,そもそも全く国内移行する意思がない場合であっても,30か月経過後に国内移行の意思を示せば,何ら理由を問わず国内書面が受理される。 これに対し,外国語特許出願の出願人の場合には,法184条の5の補正命令に関する規定が日本語国際特許出願であるか外国語特許出願であるか区別 していないにもかかわらず,上記補正命令が発せられることはなく,国内書面提出期間経過後に自発的に国内書面及び明細書等翻訳文を提出しても,既に出願が取下げ擬制されたとして国内書面が却下される。 このように,国内書面の提出期間の徒過に関して,日本語特許出願の出願人には理由を に自発的に国内書面及び明細書等翻訳文を提出しても,既に出願が取下げ擬制されたとして国内書面が却下される。 このように,国内書面の提出期間の徒過に関して,日本語特許出願の出願人には理由を問わず補正命令や自発的提出による救済を与えているのに対し,外 国語特許出願の出願人には翻訳文提出特例期間を付与することにより国内書面提出期間内に国内書面のみを提出することを認めているにもかかわらず,その国内書面が提出されない場合には,国内書面提出期間内に翻訳文が提出されていないことを理由に救済の機会を一切与えていない。 (3) 本件却下理由通知書は,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出するこ とができなかったことについて正当な理由があるとはいえないことを利用としているが,実務上は,国内書面の提出期限を管理し,その国内書面提出後に翻訳文の提出期限を管理するのが通常であり,特許庁においても,実際に翻訳文のみを国内書面提出期間内に受け取った例はない。このような実務上の取扱いは合理的であるところ,かかる取扱いを前提として翻訳文の準備に確実に2 か月間を確保するためには,その前提となる国内書面提出の期間徒過に対する救済が図られるべきであり,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文が提出されていないから,当該国際特許出願が取り下げられたものとみなされるとして期間徒過後の国内書面提出手続を却下するのは不合理である。 (4) 外国語特許出願の出願人に対して補正命令を発する場合,在外者を含む全て の国際特許出願の出願人に対して補正命令を発送する必要があるが,特許庁に は,国際出願があった段階で国際事務局から指定通知が送達されているから(特許協力条約20条),外国特許出願人の居所は既知であり,直接通知することが可能であ 発送する必要があるが,特許庁に は,国際出願があった段階で国際事務局から指定通知が送達されているから(特許協力条約20条),外国特許出願人の居所は既知であり,直接通知することが可能である。実際,欧州特許庁においては,在外者に対して直接に国内移行手続がされていない旨を通知している。 (5) 以上のとおり,外国語特許出願の場合も,国内書面の提出についての期間徒 過を補正命令によって救済し,その国内書面提出の日から2か月間内に明細書等翻訳文を提出することが認められるべきである。本件のように,国内書面を国内書面提出期間の満了日前に提出するように提出期限の管理を行っていたにもかかわらず,何らかの理由で国内書面提出期間を徒過した場合には,実際に準備及び提出が遅れたのは国内書面なのであるから,法184条の4第4項 の救済規定ではなく,法184条の5第2項及び3項により,国内書面そのものの救済が図られるべきである。 しかるに,国内書面の期限徒過について,外国語特許出願の出願人には法184条の5第2項1号の補正の機会を与えずに国内書面を却下する運用をし,国内書面自体の期間徒過に対して何らの救済を与えていない。このような日本 語特許出願の出願人との間での差別的な取扱いは,翻訳文提出特例期間を設けた趣旨及び特許法条約12条の趣旨に鑑みれば,内国民待遇を保障する千九百年十二月十四日にブラッセルで,千九百十一年六月二日にワシントンで,千九百二十五年十一月六日にヘーグで,千九百三十四年六月二日にロンドンで,千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にス トックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約(以下,単に「パリ条約」という。)2条の規定に違反するた 十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にス トックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約(以下,単に「パリ条約」という。)2条の規定に違反するため違法である。 (被告の主張)(1) 法184条の4及び184条の5の規定からすれば,外国語特許出願につき 明細書等翻訳文が国内書面提出期間内に提出されない場合,その国際特許出願 は,法184条の4第3項により取り下げられたものとみなされることになり,事件が特許庁に係属しないこととなるので,当該国際特許出願について,法184条の5第2項1号の規定による手続の補正命令の有無が問題となる余地はない。 本件では,国内書面提出期間内に国内書面のみならず明細書等翻訳文を含む 翻訳文が提出されていないから,法184条の4第3項の規定により,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなされるので,手続の補正を認める余地はない。 したがって,本件出願人に対し,法184条の5第2項1号の規定による手続の補正命令による補正の機会を与えずに特許庁長官がした本件却下処分は, 適法である。 (2) 原告は,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことを理由として本件手続を却下したことを問題視するが,本件では,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文が提出されていないのであるから,本件却下処分の理由に不合理な点は存しない。 (3) 原告は,国内書面の期限徒過について補正の機会を与えずに国内書面を却下するのは,パリ条約2条が定める内国民待遇に違反すると主張する。 しかし,同条は国籍による差別を禁止していると解すべきところ,原告が主張する取扱いの差は,少なくとも出願人の国籍によ 面を却下するのは,パリ条約2条が定める内国民待遇に違反すると主張する。 しかし,同条は国籍による差別を禁止していると解すべきところ,原告が主張する取扱いの差は,少なくとも出願人の国籍によるものではない。また,法184条の4第3項の規定による取下げ擬制についても,我が国の者が外国語 により国際特許出願を行えば当然に翻訳文の提出が必要となり,外国の者が日本語により国際特許出願を行えば,翻訳文の提出は不要であることに鑑みれば,内外国人を区別していないことが明らかである。さらに,外国語特許出願であっても,翻訳文が国内書面提出期間内に提出されていれば,国内書面の提出がないときには,法184条の5第2項1号の規定による手続の補正命令はされ るのであるから,日本語特許出願の出願人と外国語特許出願の出願人との間で, 上記補正命令の有無について差があるとはいえない。 したがって,上記補正命令の有無について,日本語特許出願の出願人と外国語特許出願の出願人との間に取扱いの差があるということはできない。 (4) 外国語特許出願の出願人に対し,法184条の5第2項1号の規定による手続の補正命令がされないのは,国内書面提出期間内での翻訳文提出がなされな い場合に,法184条の4第3項の規定により当該国際特許出願が取り下げられたものとみなされる結果にすぎない。そして,同項は,出願人が特許協力条約22条に規定する行為(指定官庁に対する翻訳文の提出を含む。)を該当する期間内にしなかった場合に,同11条(3)に定める国際出願の効果は,指定国において当該指定国における国内出願の取下げの効果と同一の効果をもっ て消滅するとした同24条(1)(ⅲ)に準拠したものである。そうすると,法184条の4第3項の規定による 願の効果は,指定国において当該指定国における国内出願の取下げの効果と同一の効果をもっ て消滅するとした同24条(1)(ⅲ)に準拠したものである。そうすると,法184条の4第3項の規定による取下げ擬制が言語による差をもたらすとしても,それは特許協力条約自体が許容する範囲内である。 第4 当裁判所の判断 1 前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実を認める ことができる。 (1) 本件事務所の事務処理体制等(甲2,3)ア本件事務所は,平成19年に欧州弁理士のAが設立した特許事務所であり,Aのほか,2名の欧州弁理士,1名の弁理士の研修生及び3名の事務員が所属している。 イ Bは,26年間ピーピージーコーティングスで事務員として勤務した後,平成26年に本件事務所で事務員として勤務するようになった。本件事務所におけるBの主要業務は,国際特許出願の外国への国内移行の期限管理及び指示を送信すること,国内移行及び国際特許出願を実際に行うこと並びにこれらに付随する方式業務を行うことである。 ウ本件事務所が用いている本件システムには,本件事務所が扱っている案件, 事務所のメンバー間で実行されたファイリング及び内部コミュニケーションなどがまとめられており,スキャン機能によりPDF化された公報等の書類の情報が自動で入力されるようになっているが,唯一,各案件の各期限欄の備考欄のみが手入力となっている。 エ本件事務所は,平成24年7月12日,知的財産権の評価及び国際登録に おけるサービスおよびコンサルタントについて,本件ISO規格の管理システム基準に従っている旨の認証を受け,平成27年の監査において認証が更新された。平成25年及び平成26年の監査レポ 際登録に おけるサービスおよびコンサルタントについて,本件ISO規格の管理システム基準に従っている旨の認証を受け,平成27年の監査において認証が更新された。平成25年及び平成26年の監査レポートにおいても,本件システムは高い評価を受けている。(甲11~14。枝番のあるものは枝番を含む。以下も同じ。) オ本件事務所においては,本件システムが適切に機能しているか,また,ビジネス目標が満たされているかを確認し,品質システム及びビジネス形態の継続的な改善のための機会を得る目的で,毎週月曜日の午前10時から定例ミーティングを開き,本件システムに基づいて作成された作業予定リストに記載の全ての作業に関し,所員間で検討を行っている。(甲27,28) (2) 本件の期間徒過に至る経緯等(甲2,3)ア Aは,本件国際特許出願に関し,平成26年1月27日,本件出願人の代理人として,欧州特許庁を受理官庁とし,平成25年1月29日を優先日とする国際出願をした。 イ Bは,平成26年頃,国際公開公報の初めのページをPDF化し,スキャ ン機能により公報記載の主要情報(国際出願番号,出願日等)を本件システムに自動入力した。本件国際特許出願に係る国際出願の国内移行期限である30か月期限(平成27年7月29日)及び31か月期限(平成27年8月29日)も各々の欄に自動計算のうえ自動入力され,作業予定システム上も各々の欄が自動作成された。 ウ本件システムに自動入力された国内移行の30か月期限及び31か月期 限は,平成27年4月27日,本件事務所の作業予定リストに反映された。 同日に行われた定例ミーティングにおいて,この作業リストに基づいて,本件の作業担当者をBとすることが決定された。 限は,平成27年4月27日,本件事務所の作業予定リストに反映された。 同日に行われた定例ミーティングにおいて,この作業リストに基づいて,本件の作業担当者をBとすることが決定された。 エ Bは,平成27年6月18日,国内移行の見積を作成し,これを本件出願人に電子メールで送信して,日本の国内移行期限は優先日から30か月であ る同年7月29日であることを伝えた。(甲20)オ Bは,平成27年7月20日,本件出願人から国内移行を希望する国のリストの最終版の提供を受け,作業予定リストの各期限欄の備考欄に本件出願人から国内移行の指示があった国の国コードを手入力したが,その際,31か月期限欄の備考欄に日本に国コード「JP」を誤って入力した。 本件事務所における通常の業務としては,30か月期限が到来する前に,30か月期限国及び31か月期限国の全てにつき,国内移行指示レターを各国の代理人に送信する処理をすることになっていた。しかし,Bは,翌21日から同年8月5日まで休暇を取得する予定であったため,同年7月20日には30か月期限の指示レターのみを30か月期限国の各国の代理人に送 信し,31か月期限の指示レターについては,休暇後に処理することとした。 そして,Bは,各国の規格書面に国際出願番号,国際出願日,国内移行日を反映させた後,PDF形式で保存し,30か月期限の各国の代理人にメールで送信した。Bは,同日付けで指示レターを受領したとする各国の代理人からのメール受信を確認し,作業予定リストの30か月期限欄に指示送信済 みの印を付け,その後,同日付けで国内移行が完了した国の代理人からの手続完了のメールを受信した。また,Aや他の事務員らは,同日,30か月期限の欄に入力された各国の代理人に指示 欄に指示送信済 みの印を付け,その後,同日付けで国内移行が完了した国の代理人からの手続完了のメールを受信した。また,Aや他の事務員らは,同日,30か月期限の欄に入力された各国の代理人に指示が送信されているかどうかをBに口頭で確認した。(甲15,20~24)カ本件事務所において平成27年7月27日に行われた定例ミーティング において,作業予定リストとメール送受信を参照して,30か月期限の各国 の代理人に指示レターを送信し,受領済みであることが確認されたが,本件誤入力は発見されなかった。 キ本件出願人が国内書面提出期間の末日である平成27年7月29日までに,国内書面及び明細書等翻訳文を特許庁長官に提出しなかったため,本件国際特許出願は,法184条の4第3項により,取り下げられたものとみな された。 ク平成27年8月3日に行われた本件事務所の定例ミーティングにおいて,Bが休暇前に処理することができなかった31か月期限の国内移行案件について,各国の代理人が十分な時間を確保できるようにするため,同日中に指示レターを送信することが決定された。これに基づいて,指示レターの準 備をしていた欧州弁理士のC(以下,単に「C」という。)は,本件システムに基づき自動入力された指示レターの正確な期限日を見て,31か月期限欄に日本の国コード「JP」が誤入力されていることに気付き,日本への国内移行手続を代理する日本の弁理士に緊急のアドバイスを求めた。しかし,同弁理士が十分な経験を有していないと感じたことから,Cは,同月10日 に原告特許管理人の所属する事務所に本件国際特許出願に係る国際出願の国内移行と救済申請をするように指示した。(甲25,26) 2 争点(1)(法184条の4第4項の「正当 Cは,同月10日 に原告特許管理人の所属する事務所に本件国際特許出願に係る国際出願の国内移行と救済申請をするように指示した。(甲25,26) 2 争点(1)(法184条の4第4項の「正当な理由」についての認定判断の誤りの有無)について(1) 法184条の4第3項により取り下げられたものとみなされた国際特許出 願の出願人は,国内書面提出期間内に当該明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて正当な理由があるときは,その理由がなくなった日から2月以内で国内書面提出期間の経過後1年以内に限り,明細書等翻訳文等の翻訳文を特許庁長官に提出することができる(同条の4第4項)。同項が定める「正当な理由」があるときとは,国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。 以下同じ。)として,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみ て国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいうものと解するのが相当である(知財高裁平成29年3月7日判決・判時2363号79頁)。 (2) 本件期間徒過の直接の原因は,補助者であるBが31か月期限欄の備考欄に30か月期限国である日本の国コード「JP」を入力したという本件誤入力に ある。本件事務所が使用する本件システムにおいては,30か月期限国と31か月期限国とを振り分ける作業予定リストの各期限欄の備考欄への国コードの入力作業が手入力でされることになっていたのであるから,本件のような誤入力が起きる可能性があることは,通常の注意力を有する者であれば当然に予測し得るものであったというべきである。 そうすると,補助者の監督者としては,こうした手入力部分について誤入力が起きる可能性があることを予め想定した上で,誤入力を回避するため 然に予測し得るものであったというべきである。 そうすると,補助者の監督者としては,こうした手入力部分について誤入力が起きる可能性があることを予め想定した上で,誤入力を回避するため,細心の注意を払って適切な過誤回避措置が講じることが必要となるが,本件においてそのような措置が採られていたと認めるに足りる証拠はない。 (3) 原告は,①本件事務所が本件ISO規格の認証を受け,同規格に従って,本 件システムを適切に管理運用していたこと,②本件事務所では国内移行指示レターの送付を国内移行期限にかかわらず30か月期限以前に完了させる措置を講じていたこと,③定例ミーティングにより人為的ミスを防止するための処置を講じるなどの期限管理体制を整えていたことなどを根拠に,相応の措置を講じていたと主張する。 アしかし,本件事務所が本件ISO規格の認証を受け,同規格に従って本件システムを適切に管理運用していたとしても,それは,業務の管理運営システムが一定の水準にあることを示すにとどまり,同規格の認証を受けたシステムを利用していたことから直ちに本件国際特許出願について相当な注意を尽くしていたということはできない。 イ原告は,国内移行指示レターの送付を国内移行期限にかかわらず30か月 期限以前に完了させる措置を講じていたと主張するが,前記認定のとおり,本件においては,30か月期限の満了日である平成年7月29日までに,31か月期限の指示レターの処理が行われていない。 この点について,原告は,Bが休暇を取得したという特別な事情によるものであるとするが,本件のように補助者が2週間程度の休暇を取る場合,休 暇に入る前に,その休暇期間,担当業務の進捗状況,休暇の間に他の者が代替して行う Bが休暇を取得したという特別な事情によるものであるとするが,本件のように補助者が2週間程度の休暇を取る場合,休 暇に入る前に,その休暇期間,担当業務の進捗状況,休暇の間に他の者が代替して行うべき業務等を把握した上で,当該補助者又は他の所員に必要な指示を与えることは,監督者の基本的な責務である。しかるに,Bの監督者は,Bの休暇中に30か月期限が到来するにもかかわらず,30か月期限欄に入力された各国の代理人に指示が送信されているかどうかを確認したのみで あり,31か月期限国の全てにつき国内移行指示レターを各国の代理人に送信するという事務を他の者に代替させるなどの措置を講じたことをうかがわせる証拠はない。 したがって,本件出願について,Bの監督者が本件誤入力の回避のため相当な注意を尽くしていたということはできない。 ウ原告は,定例ミーティングにより人為的ミスを防止するための処置を講じていたと主張する。 しかし,Bの休暇中の平成27年7月27日に行われた定例ミーティングにおいては,30か月期限国の代理人に国内移行指示レターが送信され受領済みであることが確認されたのみであり,補助者が手入力した記載について 他の資料と照合してクロスチェックするなどしてその正確性を確認する作業は行われていない。 したがって,定例ミーティングの開催をもって,本件誤入力を回避するための相当の注意が尽くされていたということはできない。 (4) 原告は,法184条の4第4項による救済を受けるべき出願人が専ら外国に 居住する外国人であることからすれば,「相応の措置」があるかを検討するに 当たっては,①日本における高い品質管理の水準で判断するのではなく,外国(本件ではベルギー)における国 国に 居住する外国人であることからすれば,「相応の措置」があるかを検討するに 当たっては,①日本における高い品質管理の水準で判断するのではなく,外国(本件ではベルギー)における国際的な水準を考慮すべきである,②欧州などにおける翻訳文提出の要件が日本よりも緩やかであることを考慮すべきである,③我が国において外国語特許出願の出願人には国内書面提出期間徒過の救済規定(法184条の5第2項)が実質的に与えられていないことを考慮すべ きであると主張する。 アしかし,上記①については,法184条の4第4項の「正当な理由」の有無の判断は,いずれかの国の状況や水準を基準にすべきものではなく,法の趣旨に照らして判断すべきであるところ,本件事務所の補助者及びその監督者が本件誤入力を回避するため相当の注意を尽くしたということができな いことは,前記判示のとおりである。 イ上記②に関し,特許協力条約22条及び24条は,出願人が,優先日から30か月を経過する時までに,指定官庁に対し,国際出願の写し及び所定の翻訳文を提出する等の国内移行手続をすべき旨や,出願人が上記行為を該当する期間内にしなかった場合は,国際出願の効果が当該指定国における国内 出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅する旨を原則として定め,各国において裁量的にこれらを緩和することを許容している。 このように,上記条約は,国内移行期限について締約国に一定の裁量を与えているのであるから,国によって期限が異なるのは同条約が許容するところであり,これに伴い,国際特許出願する出願人等が各締約国の定めた期限 を前提とする期限管理をすべきことは当然である。我が国の特許法は30か月を国内移行期間としているのであるから,本件事務所がそれを前提 これに伴い,国際特許出願する出願人等が各締約国の定めた期限 を前提とする期限管理をすべきことは当然である。我が国の特許法は30か月を国内移行期間としているのであるから,本件事務所がそれを前提とする期限管理を行うことは当然であり,本件手続の許否の判断に当たり,異なる国内移行期間を定めた他国の法令を考慮すべき理由はない。 ウ後記のとおり,国内書面提出期限を徒過した場合に取下げを擬制し,補正 命令を発することができないとする法184条の4第4項の規定がパリ条 約に違反するということはできないので,上記③の点を考慮すべきという原告の主張は理由がない。 (5) 以上によれば,本件出願人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて,法184条の4第の「正当な理由」があったと認めることはできない。 したがって,本件手続を却下した特許庁長官の処分に誤りはない。 3 争点(2)(法184条の5第2項1号による補正命令をせずに本件却下処分をしたことについての違法の有無)について(1) 本件では,国内書面提出期間内に国内書面のみならず明細書等翻訳文を含む翻訳文が提出されておらず,そのことについて正当な理由があるとは認められ ないので,法184条の4第3項の規定により,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなされることとなる。したがって,法184条の5第2項1号の規定による手続の補正命令を発出することなくされた本件却下処分は適法である。 (2) これに対し,原告は,日本語特許出願の出願人が国内書面提出期間内に国内 書面を提出しなかった場合には,法184条の5第2項1号に基づく補正命令が発せられるなどの救済が行われるのに対し,外国語特許出願の出願人が は,日本語特許出願の出願人が国内書面提出期間内に国内 書面を提出しなかった場合には,法184条の5第2項1号に基づく補正命令が発せられるなどの救済が行われるのに対し,外国語特許出願の出願人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなかった場合,同号による補正の機会を与えずに国内書面が却下されるのは,パリ条約2条の定める内国民待遇の原則(内外国人平等の原則)に反する取扱いであると主張する。 しかし,パリ条約2条の定める内国民待遇の原則とは,パリ条約の同盟国が,工業所有権の保護に関し,他の同盟国の国民に対し,内国民に課される条件及び手続に従う限り,内国民と同一の保護や法律上の救済を付与するというものである。国内書面提出期間内に明細書等翻訳文が提出されなかった場合に取下げが擬制される法184条の3第4項の規定及び国内書面提出期間が徒過し た場合の補正命令に関する法184条の5第2項の規定は,外国語特許出願の 出願人が内国民であるか外国民であるかを問わず適用されるのであるから,これらの規定はパリ条約2条の定める内国民待遇の原則に反するものではない。 (3) そもそも,法184条の4第3項が国内書面提出期間(同条第1項ただし書の外国語特許出願にあっては,翻訳文提出特例期間)内に明細書等翻訳文の提出がなかったときに当該国際特許出願が取り下げられたものとみなされる 旨を定めているのは,特許協力条約24条(1)(ⅲ)が,翻訳文の提出が所定の期間内になかった場合に国際出願の効果が当該指定国における国内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅する旨を定めていることに基づくものである。 他方,法184条の5第2項第1号が国内書面を国内書面提出期間内に提出 しない場合に特許庁長官が相当の期間 げの効果と同一の効果をもって消滅する旨を定めていることに基づくものである。 他方,法184条の5第2項第1号が国内書面を国内書面提出期間内に提出 しない場合に特許庁長官が相当の期間を指定して補正命令を発することができる旨を定めているのは,同条約26条において,指定官庁は,同一又は類似の場合における国内出願について国内法令に定める範囲内で及び手続に従い国際出願の補充をする機会をあらかじめ出願人に与えることなく,同条約及び規則に定める要件を満たしていないことを理由として国際出願を却下しては ならない旨を定めていることに基づくものである。 このように,我が国の特許法は,通常の国内出願にはない翻訳文の提出手続は特許協力条約24条(1)(ⅲ)を適用して取下げ擬制とし,それ以外の手続については特許協力条約26条を適用して補正命令の対象とすることにしたものと解されるのであり,補正命令について,翻訳文の提出手続と国内書面の提 出手続とで異なる取扱いをすることは特許協力条約により許容されているということができる。 (4) 原告は,実務上は,国内書面の提出期限を管理し,その国内書面提出後に翻訳文の提出期限を管理するのが通常であり,かかる取扱いを前提として翻訳文の準備に確実に2か月間を確保するためには,その前提となる国内書面提出の 期間徒過に対する救済が図られるべきであると主張する。 しかし,国際出願における期限管理が国内書面を基準とされているのであれば,むしろ,翻訳文提出特例期間の2か月を確保するために,国内書面の提出期限を徒過しないように細心の注意を払うべきである。上記のような期限管理が実務上行われていることや国内書面の提出が翻訳文提出特例期間の前提要件となっていることをもって,国内 るために,国内書面の提出期限を徒過しないように細心の注意を払うべきである。上記のような期限管理が実務上行われていることや国内書面の提出が翻訳文提出特例期間の前提要件となっていることをもって,国内書面提出期間を徒過した場合に当該国際特 許出願が取り下げられたものとみなされるとの規定が不合理であるということはできない。 また,本件では,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文が提出されていないのであるから,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことを理由として本件手続を却下したことが違法であるということは できない。 (5) したがって,法184条の5第2項1号による補正命令をせずにした本件却下処分に違法はない。 4 以上のとおり,本件却下処分に違法はないから,原告の請求は理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 三井大有 裁判官 遠山敦士
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