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主文 原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。事実 控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠関係は、控訴代理人において、原判決一五枚目表三行目から六行目にわたり「前記差押がなされた後被告より足立税務署長に右のような事情を説明して差押処分の取消を求めた結果、同署長はその取消をすべきことを約定したのである。」とあるは、足立税務署長においてその差押にかかる定期預金及び定期積金の取立権を放棄したことを主張するものではなく、右記載部分は東京国税局の係官たるAの指示により、被控訴人が右取立権を放棄したことを主張する過程の事情として述べたものであると釈明し、別紙書面記載のとおり陳述し、被控訴代理人において、別紙書面記載のとおり陳述した外は、原判決の事実に摘示するところと同一であるから、ここにこれを引用する。理由 一、 控訴人主張のような定期預金、定期積金及び普通預金の払戻債権を、訴外大木光学工業株式会社が昭和三一年四月一七日当時控訴人に対し有していたこと、被控訴人の収税官吏たる足立税務署長が右同日大木光学工業株式会社の被控訴人に対するその主張のような滞納税金を徴収するため、右会社が控訴人に対し有していた前記定期預金及び普通預金の各払戻債権並びに前記定期積金についての既払込金の払戻債権を国税徴収法第二三条の一により差し押えたこと、控訴人が右差押にかかる債権のうち、普通預金の払戻債権につきこれを被控訴人に支払つたことは、いずれも当事者間に争がない。しかして、成立に争のない甲第一号証によれば、被控訴人は昭和三一年四月 たこと、控訴人が右差押にかかる債権のうち、普通預金の払戻債権につきこれを被控訴人に支払つたことは、いずれも当事者間に争がない。しかして、成立に争のない甲第一号証によれば、被控訴人は昭和三一年四月一七日当時大木光学工業株式会社に対しその主張のような租税債権を有していたことが認められ、又成立に争のない甲第二、第三号証によれば、足立税務署長は滞納処分として昭和三一年四月一七日大木光学工業株式会社の控訴人に対する前記債権を差し押えた旨を右同日債務者たる控訴人に通知したことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。 間に争がない。しかして、成立に争のない甲第一号証によれば、被控訴人は昭和三一年四月一七日当時大木光学工業株式会社に対しその主張のような租税債権を有していたことが認められ、又成立に争のない甲第二、第三号証によれば、足立税務署長は滞納処分として昭和三一年四月一七日大木光学工業株式会社の控訴人に対する前記債権を差し押えた旨を右同日債務者たる控訴人に通知したことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。そして、大木光字工業株式会社の控訴人に対する前記払戻債権につき、控訴人主張のように昭和三一年四月一七日当時控訴人の同会社に対する手形貸付金債権を担保するため質権が設定されていたことは当事者間に争ないが、右質権の被担保債権が国税徴収法第三条により租税債権に優先し得るものであるとの点については、その主張立証がない。従つて、被控訴人は国税徴収法第二三条の一第二項により、前記差し押えた債権中、控訴人において被控訴人に既に支払ずみの普通預金債権を除き、その債権者たる大木光学工業株式会社に代位することになつたものというべきである。二、 被控訴人が前記差押にかかる定期預金債権及び定期積金債権を大木光学工業株式会社に代位して取り立てる権利を放棄したとの控訴人の抗弁については、当裁判所は更に審究の結果、原判決の理由(二)の(一)、(イ)ないし(ハ)、に説示(但し、原判決二〇枚目表九行目に「乙第六号証の一から六」とあるは「乙第三号証の一から六」の誤記と認める。)するところと同一の理由により、右抗弁を排斥すべきものと判断したので、右説示をここに引用する。三、 控訴人の相殺の抗弁について以下判断する。1、 国税徴収法第二三条の一第二項は国税滞納処 る。)するところと同一の理由により、右抗弁を排斥すべきものと判断したので、右説示をここに引用する。三、 控訴人の相殺の抗弁について以下判断する。1、 国税徴収法第二三条の一第二項は国税滞納処分により納税人の有する債権が差し押えられ、右被差押債権の第三債務者がその通知を受けたときは、滞納処分費及び税額を限度として国が債権者に代位する旨定めており、右債権差押により国は当該債権の取立権を取得するのであるが、右取立権は単に納税人たる債権者に代つてその権利を行使し得るにとどまるから、第三債務者の有する適法な相殺の抗弁権の行使まで制限する趣旨のものではないというべきである。 の一第二項は国税滞納処分により納税人の有する債権が差し押えられ、右被差押債権の第三債務者がその通知を受けたときは、滞納処分費及び税額を限度として国が債権者に代位する旨定めており、右債権差押により国は当該債権の取立権を取得するのであるが、右取立権は単に納税人たる債権者に代つてその権利を行使し得るにとどまるから、第三債務者の有する適法な相殺の抗弁権の行使まで制限する趣旨のものではないというべきである。2、 そこでまず、本件事実関係についてみるに、足立税務署長が被控訴人の収税官吏として、被控訴人の大木光学工業株式会社に対する国税を徴収するために、昭和三一年四月一七日差し押えた被控訴人主張のような右会社の控訴人に対する預金債権を受働債権として、控訴人が右差押の後である昭和三一年六月二三日に右会社に対し、右差押前に存していた控訴人の同会社に対する被控訴人主張のような手形貸付金債権を自働債権とし対等額において相殺する旨の意思表示をなし、右相殺をなしたことを同月二五日東京国税局長に通知したことは当事者間に争がない。ところで、差押を受けた債権者は差押により当該債権の処分権を喪失するから債務者が受働債権の差押債権者に対し相殺をもつて対抗するには、その意思表示は差押債権者に対してなすを相当とし、このことは国税滞納処分による債権差押の場合にも異なるところはないと考えられるから、控訴人の大木光学工業株式会社に対する前記相殺の意思表示は相手方を誤つたものとみられるのであるが、しかし控訴人が被控訴人に対し右相殺をなしたことの通知には、同時に相殺の意思表示を包含していると解するのを相当とす 学工業株式会社に対する前記相殺の意思表示は相手方を誤つたものとみられるのであるが、しかし控訴人が被控訴人に対し右相殺をなしたことの通知には、同時に相殺の意思表示を包含していると解するのを相当とするから、控訴人の被控訴人に対する相殺の意思表示には欠くるところはない(被控訴人もこれについては何ら争つていない。)ものというべきである。しかして、前記認定事実に徴すると、受働債権が差し押えられた日時は昭和三一年四月一七日であるところ、控訴人が大木光学工業株式会社に対し有していた債権、即ち右相殺の自働債権たる四口の手形貸付金債権中、金一〇万円の一口は昭和三一年四月一一日を弁済期とするもので、右差押日時以前のものであるが、昭和三一年五月一日を弁済期とする金六万円、同年五月二九日を弁済期とする金一四万円、同年六月二日を弁済期とする金一五五、〇〇〇円の計三口はいずれもその弁済期が右差押日時以後のものに属すること、しかして右相殺の受働債権のうち金一〇万円の定期預金債権はその払戻期日が昭和三一年六月三〇日、回金六五、〇〇〇円の債権はその払戻期日が同年九月九日であり、又定期積金債権中既払込金九一、六〇〇円の満期日は昭和三一年八月二日、同既払込金一二五、七六〇円の満期日は昭和三二年一二月二九日、同既払込金四三、六〇〇円の満期日は昭和三二年八月一〇日、同既払込金七、八六〇円の満期日は昭和三四年三月一三日であつて、いずれもその弁済期は前記差押日時以後のものであるが、同時にいずれも前記自働債権のうち最も遅い弁済期以後に属することが明らかである。 日が同年九月九日であり、又定期積金債権中既払込金九一、六〇〇円の満期日は昭和三一年八月二日、同既払込金一二五、七六〇円の満期日は昭和三二年一二月二九日、同既払込金四三、六〇〇円の満期日は昭和三二年八月一〇日、同既払込金七、八六〇円の満期日は昭和三四年三月一三日であつて、いずれもその弁済期は前記差押日時以後のものであるが、同時にいずれも前記自働債権のうち最も遅い弁済期以後に属することが明らかである。又、原審証人Bの証言によつて真正に成立したものと認められる乙第四号証及び同証言によれば、大木光学工業株式会社はCを連帯保証人とし昭和二九年一二月二九日に控訴人と手形貸付、同割引等の金融取引契約を締結するに際し、控訴人主張のと 真正に成立したものと認められる乙第四号証及び同証言によれば、大木光学工業株式会社はCを連帯保証人とし昭和二九年一二月二九日に控訴人と手形貸付、同割引等の金融取引契約を締結するに際し、控訴人主張のとおり「右会社の振出、引受、保証した約束手形又は為替手形の支払人若しくは手形上の債務者が弁済を怠つた場合は勿論支払期日前であつてもその内一人でも支払を停止し、又は手形交換所において不渡処分を受け、その他支払停止の虞があると控訴人が認めた場合、仮差押、仮処分、強制執行、任意競売の開始、破産宣告、国税滞納処分又はその他による差押を受けた場合、裁判所による整理和議、又は更正手続の開始のあつた場合、及び背信行為があり、若しくは本特約に基く債務の履行が困難であると控訴人が認めた場合には、その事由の如何に拘らず期限の利益を喪い直ちに右会社が手形金額を弁済する。」旨及び「控訴人に対し右会社及び保証人の有する預金その他の債権は、同会社及び保証人が控訴人に対するすべての債務中いずれの債務でも、履行を怠つているものは勿論控訴人において必要と認められた場合は債権債務の期限到来の有無に関係なく、何等の通知催告なしに何時差引計算されても異議ない。」旨を約定していることが認められる。右契約の趣旨を事案に即して考えると、特段の事情の認められない本件においては、大木光学工業株式会社が国税滞納処分による差押を受けるという事態が発生した場合には、これを要件として、同会社の控訴人に対する預金払戻債権と控訴人の右会社に対する手形貸付金債権とにつき、右両者の弁済期如何を問わず直ちに相殺適状が発生し、しかして控訴人の相殺予約完結の意思表示により(なお、右特約中何等の通知を要しないで相殺することができる旨の約定は、法律関係の安定性を害するから、少くとも第三者に対する関係においては右部分は 国税滞納処分による差押を受けるという事態が発生した場合には、これを要件として、同会社の控訴人に対する預金払戻債権と控訴人の右会社に対する手形貸付金債権とにつき、右両者の弁済期如何を問わず直ちに相殺適状が発生し、しかして控訴人の相殺予約完結の意思表示により(なお、右特約中何等の通知を要しないで相殺することができる旨の約定は、法律関係の安定性を害するから、少くとも第三者に対する関係においては右部分は 生し、しかして控訴人の相殺予約完結の意思表示により(なお、右特約中何等の通知を要しないで相殺することができる旨の約定は、法律関係の安定性を害するから、少くとも第三者に対する関係においては右部分は効力がないものというべきである。)右を対等額において相殺し得る旨の相殺の予約がなされたものと解するのが相当である。3、 控訴人に対する大木光学工業株式会社の預金払戻債権が被控訴人の国税滞納処分により差し押えられたことは前記のとおりであるが、かかる場合、控訴人は被控訴人に対し右相殺予約に基く相殺をもつて対抗し得るか否かについて審按する。相殺は相互に債権債務を有する当事者間において、一方の債権者が債務者に対し債権と債務とを対等額で消滅させる意思表示であり、かかる制度は同一当事者間に相対立する債権が存在する場合、これを信頼し相殺の意思表示以前から将来相殺適状が生じた際には対等額で債権債務関係が決済されるべきものと考えている当事者の期待に添い、公平の理念に合致するものである。ところで、元来前記認定のように金融取引において、取引先につき他より差押を受けるという一定の明確な事態が発生した際に、金融機関において預金債権を受働債権とし手形貸付金債権を自働債権として相殺し得る<要旨第一>旨の相殺の予約は、これによ質的に貸付金債権の回収をはかることを意図しているものというべく、し</要旨第一>かも手形貸付金債権の弁済期が預金債権の弁済期より以前に到来すべき本件の場合には、控訴人は相殺適状が発生次第何時でも貸付金債権をもつて預金債権と相殺し得る地位にあり、かつ相殺し得べき利益を有するから、このような確実な控訴人の期待と利益とを、その予知しない差押によつて剥奪することは、前記相殺制度の趣旨に照らして妥当なものとはいい難い。他面差押の目的たる債権について見れば、差押 き利益を有するから、このような確実な控訴人の期待と利益とを、その予知しない差押によつて剥奪することは、前記相殺制度の趣旨に照らして妥当なものとはいい難い。 て預金債権と相殺し得る地位にあり、かつ相殺し得べき利益を有するから、このような確実な控訴人の期待と利益とを、その予知しない差押によつて剥奪することは、前記相殺制度の趣旨に照らして妥当なものとはいい難い。他面差押の目的たる債権について見れば、差押 き利益を有するから、このような確実な控訴人の期待と利益とを、その予知しない差押によつて剥奪することは、前記相殺制度の趣旨に照らして妥当なものとはいい難い。他面差押の目的たる債権について見れば、差押債権者の地位は、差押当時における当該債権者のそれと同一であるべく、それ以上に差押債権者が有利な地位を取得する筈はなく、債務者(第三債務者)が不利な効果を甘受すべきものでもないのであつて、換言すれば、差押債権者はもともと相殺の抗弁権をもつて対抗せられるべき債権を差し押えたものであるから、相殺をもつて対抗せられる不利益を受ける状態において債権を行使するの外ないものというべく、従つてこれを目して差押債権者の利益を不当に害し、又債務者の利益を不当に保護する結果になるとするは当らない。被控訴人は前記のような相殺の予約に基く相殺を有効とするときは、単なる私人間の契約によつて法律の認める以上に相殺の対抗力を拡張することとなり、相殺に対し一定の制限を設けようとした法律の精神に違背するばかりか、被差押債権に質権が設定され、その質権が国税に劣後する場合を考えると、その質権をもつてしても国税に優先して弁済を受け得られないのに相殺をもつてすれば国税に優先して弁済を受け得られることとなるのは不合理であり、従つて相殺予約に基く予約完結権の行使により差押債権者に対抗できるためには、その完結権の行使は差押時までになされることを要するものと解すべきところ、本件においては右行使は差押の後であるから、控訴人は相殺をもつて被控訴人に対抗できないと主張する。しかし、同一当事者間に相対立する債権債務が存在する場合、相殺契約によつてこれを如何に処理するかは、公序良俗に反しない限り、本来当事者間の自治に委ねてしかるべきものであり、手形交換所における清算契約や商人間の交互計算もかかる契約 る債権債務が存在する場合、相殺契約によつてこれを如何に処理するかは、公序良俗に反しない限り、本来当事者間の自治に委ねてしかるべきものであり、手形交換所における清算契約や商人間の交互計算もかかる契約の有効であることを前提とし、その効用を発揮しているのである。 処理するかは、公序良俗に反しない限り、本来当事者間の自治に委ねてしかるべきものであり、手形交換所における清算契約や商人間の交互計算もかかる契約 る債権債務が存在する場合、相殺契約によつてこれを如何に処理するかは、公序良俗に反しない限り、本来当事者間の自治に委ねてしかるべきものであり、手形交換所における清算契約や商人間の交互計算もかかる契約の有効であることを前提とし、その効用を発揮しているのである。それ故相殺の予約が受働債権の差押以後になされている場合は格別、本件のように差押以前に締結されている以上、右契約によつて民法上の相殺権発生の要件と異なる要件が定められ、これに差押債権者が拘束せられるからといつて、前記相殺制度の趣旨に照らし、法律の精神に違背するものとはなし難い。又国が国税滞納処分のために、納税人が第三債務者に対して有する債権を差し押えたからといつて、国は差押により債権の取立権を取得し、納税人に代つて従前通りその権利を行使し得るにとどまり、国税徴収法第三条も、納税人の財産上に一定の質権が設定されている場合は、その担保物の価額を限度として、その債権に対しては国税を先取しないと定めているにとどまるから、控訴人の相殺約款に基く相殺権の行使を妨げ得ないものというべく、相殺契約が相殺権行使の結果実質的に担保的な機能を営むことになるからといつて、これを国税徴収法第三条の規定と同一に論じ、被控訴人主張のように不合理なものであるとはいい難い。結局相殺予約に基く相殺権をもつて差押債権者に対抗し得るか否かは、差押債権者と第三債務者の利害関係を如何に公平に調節するかの観点から決するのを相当とすべきところ、前認定のように控訴人が将来当然に相殺し得べき確実な期待を有する本件においては、控訴人は差押後と雖も相殺予約に基く予約完結権を行使するに妨げないものというべきである。被控訴人は更に、控訴人主張の相殺の予約において、一定の事由が発生した場合に貸付金債権の期限の利益を剥奪する旨の約定は、控訴人の 相殺予約に基く予約完結権を行使するに妨げないものというべきである。被控訴人は更に、控訴人主張の相殺の予約において、一定の事由が発生した場合に貸付金債権の期限の利益を剥奪する旨の約定は、控訴人の期限の利益を奪う旨の意思表示なしに当然に期限の利益が失われる趣旨のものとは解せられないところ、控訴人は本件において前記一〇万円の手形貸付金債権を除くその余の三口の債権については差押前に期限の利益を剥奪する旨の意思表示をなしていないから、少くとも右三口の債権を自働債権とする部分については相殺をもつて被控訴人に対抗するによしないと主張する。 した場合に貸付金債権の期限の利益を剥奪する旨の約定は、控訴人の期限の利益を奪う旨の意思表示なしに当然に期限の利益が失われる趣旨のものとは解せられないところ、控訴人は本件において前記一〇万円の手形貸付金債権を除くその余の三口の債権については差押前に期限の利益を剥奪する旨の意思表示をなしていないから、少くとも右三口の債権を自働債権とする部分については相殺をもつて被控訴人に対抗するによしないと主張する。しかし、本件相殺予約には、滞納処分による差押という客観的に明確な事実が発生した場合に、控訴人は大木光学工業株式会社との債権債務につき、その弁済期の如何を問わず、相殺をなし得る旨が約定されており、従つて差押と同時に相殺適状が発生し、控訴人において相殺権を取得するものであること前記説示のとおりであるから、控訴人はその手形貸付金債権につき期限の利益を剥奪する旨の意思表示を必要とすることなく相殺をなし得るものと解するを相当とし、仮りに右約定が期限の利益を剥奪する旨の意思表示を要する趣旨のものであるとしても、右意思表示は相殺予約に基き後日行う相殺の意思表示に包含せしめるをもつて足るものというべく、よつて控訴人の本件相殺の意思表示には欠けるところはない。被控訴人はなお、控訴人が相殺予約に基き発生したという相殺適状は、論理的には差押の効果が発生した後のことに属するから、差押当時には未だ相殺適状は生じていないものというべく、従つてかかる場合は民法第五一一条の趣旨よりしても相殺をもつて差押債権者に対抗し得ないものと解すべく、もしこれを認めるとすれば、私人に有効な執行免脱約款を設け得ることを容認することになると主張する。しか かかる場合は民法第五一一条の趣旨よりしても相殺をもつて差押債権者に対抗し得ないものと解すべく、もしこれを認めるとすれば、私人に有効な執行免脱約款を設け得ることを容認することになると主張する。しかし、控訴人と大木光学工業株式会社との前記相殺の予約は、同会社の控訴人に対する預金債権が国税滞納処分により差押を受けた際には、控訴人をして相殺権を行使せしめ、それによつて控訴人の右会社に対する貸付金債権の満足をはからんとするにあり、右相殺権の行使が差押債権者に対抗し得るとの前提のもとに約定されたものであることは、右約款に徴し明らかであつて、かかる控訴人の利益を無視することは控訴人に酷に失するものというべく、従つて前記約定の趣旨は、被控訴人主張のようにしかく形式的に解すべきものではなく、右会社が差押を受けると同時に控訴人との間の相互の債権債務につき相殺適状が生ずるものと解するのが相当であること前説示のとおりである。 するにあり、右相殺権の行使が差押債権者に対抗し得るとの前提のもとに約定されたものであることは、右約款に徴し明らかであつて、かかる控訴人の利益を無視することは控訴人に酷に失するものというべく、従つて前記約定の趣旨は、被控訴人主張のようにしかく形式的に解すべきものではなく、右会社が差押を受けると同時に控訴人との間の相互の債権債務につき相殺適状が生ずるものと解するのが相当であること前説示のとおりである。又民法第五一一条は第三債務者が差押以後に取得した自働債権をもつて差押を受けた受働債権と相殺しても、これをもつて差押債権者に対抗し得ない旨を定めたものであつて、本件は前記認定のようにこれと異なるから、叙上説示のとおり、被控訴人の差押は本件相殺予約に基く予約完結権の行使に何らの消長を及ぼすものではなく、寧ろ被控訴人は受働債権が差押当時において有する状態においてこれを差し押えたもので、控訴人から相殺をもつて対抗せられるもやむを得ないものというべく、これを目して金銭執行における債権者平等主義の原則を破るものとも、私人に有利な執行免脱約款を設けることを容認したものともいうに当らないことは明らかである。4、 そうすると、控訴人が前記相殺予約の約款に基き昭和三一年六月二五日被控訴人に対してなした相殺権の行使は、被控訴人に対抗し得るこというまでもな したものともいうに当らないことは明らかである。4、 そうすると、控訴人が前記相殺予約の約款に基き昭和三一年六月二五日被控訴人に対してなした相殺権の行使は、被控訴人に対抗し得るこというまでもなく、従つて本件相殺は、被控訴人の前記差押当時既に弁済期の到来していた金一〇万円の手形貸付金債権を自働債権とする部分について有効であるのみでなく、差押直前未だ弁済期の到来していなかつた前記三口の手形貸付金債権を自働債権とする部分についても、その効力が生じたというに妨げない。5、 ところで、被控訴人は、控訴人のなした相殺は、その発生原因をそれぞれ異にする四口の自働債権と六口の受働債権とを各別に表示することなく、ただ単にその合計金額のみを示してなされたものであつて、かようにいずれの自働債権をもつてどの受働債権と相殺するかを確知し得ない方法による相殺は無効とみ<要旨第二>るほかはないと主張する。相殺の意思表示をなすに当り相殺する原因を示さなければならないのはいうま</要旨第二>でもないが、しかしそれは債権の同一性を認識し得る程度に示すをもつて足り、債権発生の日時及び発生原因等が詳細に明示されていなくても相殺の効力には影響はないものというべく、又自働債権及び受働債権がそれぞれ数個ある場合において、当事者が相殺の意思表示によりいずれの債権をもつていずれの債権に対し相殺がなされたか判明しない場合には、民法第五一二条により弁済の充当に関する同法第四八九条ないし第四九一条が準用されるから、これに従つて充当すれば足り、右の場合においても相殺の効力には何らの消長はない。 び発生原因等が詳細に明示されていなくても相殺の効力には影響はないものというべく、又自働債権及び受働債権がそれぞれ数個ある場合において、当事者が相殺の意思表示によりいずれの債権をもつていずれの債権に対し相殺がなされたか判明しない場合には、民法第五一二条により弁済の充当に関する同法第四八九条ないし第四九一条が準用されるから、これに従つて充当すれば足り、右の場合においても相殺の効力には何らの消長はない。しかして、成立に争ない乙第一号証の一、二、及び原審証人Bの証言によると、控訴人は本件相殺に当り、被控訴人に対し自働債権である四口の手形貸付金債権の表示については、各々の元金額、貸出の日時及び支払期 しかして、成立に争ない乙第一号証の一、二、及び原審証人Bの証言によると、控訴人は本件相殺に当り、被控訴人に対し自働債権である四口の手形貸付金債権の表示については、各々の元金額、貸出の日時及び支払期日を示し、受働債権の表示としては、大木光学工業株式会社の源泉所得税その他の滞納税金を徴収するため足立税務署長が昭和三一年四月一七日差し押えた二口合計金一六五、〇〇〇円の定期預金並びに四口合計金八〇〇、〇〇〇円を給付契約金とする定期積金中四口合計金二六八、八二〇円を示していることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はないから、この程度の表示がなされておれば、相殺せられるべき債権債務の同一性を認識するに足るものと解すべく、又本件において当事者双方のいずれかからでも相殺の充当に関し、その指定のあつたことを認め得る資料はないから、右説示の準用規定に従つて処理するをもつて足ることはいうまでもない。6、 されば、控訴人がその主張の両債権につき昭和三一年六月二五日になした前記相殺の意思表示は有効であつて、被控訴人に対しこれをもつて対抗し得べく、右両債権を前記相殺の充当に関する規定に従い処理すると次のとおりになる。即ち、相殺に供されるべき自働債権は、(1)、手形貸付元金一〇万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和三一年四月一二日から相殺の当日である同年六月二五日まで七五日間の遅延損害金五、二五〇円(前掲乙第四号証によれば遅延損害金は日歩金七銭であることが認められるから、右割合で算出した。なお、利息金の存在についてはその主張立証がない。以下回じ。)計金一〇五、二五〇円、(2)、同元金六万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和三一年五月二日から右同年六月二五日まで五五日間の遅延損害金二、三一〇円計金六二、三一〇円、(3)、同元金一四万円及びこれに対する 日まで七五日間の遅延損害金五、二五〇円(前掲乙第四号証によれば遅延損害金は日歩金七銭であることが認められるから、右割合で算出した。なお、利息金の存在についてはその主張立証がない。以下回じ。)計金一〇五、二五〇円、(2)、同元金六万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和三一年五月二日から右同年六月二五日まで五五日間の遅延損害金二、三一〇円計金六二、三一〇円、(3)、同元金一四万円及びこれに対する 五〇円、(2)、同元金六万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和三一年五月二日から右同年六月二五日まで五五日間の遅延損害金二、三一〇円計金六二、三一〇円、(3)、同元金一四万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和三一年五月二〇日から右同年六月二五日まで二七日間の遅延損害金二、六四六円計金一四二、六四六円、(4)、同元金一五五、〇〇〇円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和三一年六月一二日から右同年六月二五日まで一四日間の遅延損害金一、五一九円計金一五八、五一九円、以上合計金四六六、七二五円となり、これとの相殺によつて消滅されるべき受働債権は、(1)、定期預金元金一〇万円及びこれに対する預入日の昭和三〇年一二月三〇日から相殺の当日である同年六月二五日まで五箇月二七日間についての約定利率年五分一厘の割合による利息金二、四七六円(右利息の計算は、一箇月分については一箇年分の利息金五、一〇〇円を一二分した金四二五円を、一日分については右一箇年分の利息金を三六五分して円位未満を切り捨てた金一三円をそれぞれ単位として算出した。)計金一〇二、四七六円、(2)、同元金六五、〇〇〇円及びこれに対する預入日の昭和三一年三月九日から右同年六月二五日まで三箇月一七日間についての約定利率年五分一厘の割合による利息金九八一円(右利息の計算は、一箇月分については一箇年分の利息金三、三一五円を一二分して円位未満を切り捨てた金二七六円を、一日分については右一箇年分の利息金を三六五分して円位未満を切り捨てた金九円をそれぞれ単位として算出た。)計金六五、九八一円、(3)、定期積金既払込金九一、六〇〇円及びこれに対する本件差押の日である昭和三一年四月一七日から前記同年六月二五日まで七〇日間の日歩金七厘の割合による利息金四四八円(円位未満は切り捨てた。なお、右定期積金既 期積金既払込金九一、六〇〇円及びこれに対する本件差押の日である昭和三一年四月一七日から前記同年六月二五日まで七〇日間の日歩金七厘の割合による利息金四四八円(円位未満は切り捨てた。 五、九八一円、(3)、定期積金既払込金九一、六〇〇円及びこれに対する本件差押の日である昭和三一年四月一七日から前記同年六月二五日まで七〇日間の日歩金七厘の割合による利息金四四八円(円位未満は切り捨てた。なお、右定期積金既 期積金既払込金九一、六〇〇円及びこれに対する本件差押の日である昭和三一年四月一七日から前記同年六月二五日まで七〇日間の日歩金七厘の割合による利息金四四八円(円位未満は切り捨てた。なお、右定期積金既払込金については、各払込の日から日歩金七厘の利息金が加算せらるべきことは当事者間に争ないが、本件差押の昭和三一年四月一七日以前の各払込金の金額及び日時についての主張立証がないから、右部分の利息はこれを算定するによしがない。以下同じ。)計金九二、〇四八円、(4)、同既払込金一二五、七六〇円及びこれに対する右(3)と同様の方法による利息金六一六円計金一二六、三七六円、(5)、同既払込金四三、六〇〇円及びこれに対する右(3)と同様の方法による利息金二一三円計金四三、八一三円、(6)、同既払込金七、八六〇円及びこれに対する右(3)と同様の方法による利息金三八円計金七、八九八円、以上合計金四三八、五九二円となるから、これを前記充当に関する規定により、自働債権については、まず弁済期の到来したものからかつ遅延損害金及び元本の順序に従い、受働債権については、利率の高いものからかつ利息及び元本の順序(相同じものについては按分し)に従い、順次これを計算する(控訴人は本件相殺をなすに当り、自働債権及び受働債権の元本金額のみを表示したにとどまり、その遅延損害金又は利息を示すことのなかつたことは前認定のとおりであるが、控訴人が特に反対の意思を有していたことを認めるべき証拠のないことよりして、右のような表示はその特定のためになされたとみて、それらの中に遅延損害金文は利息債権も含まれていたものと解するに妨げはないものというべきである。)結局本訴預金債権たる受働債権全部が消滅し、なお自働債権たる昭和三一年六月一一日を弁済期とする手形貸付金債権元金中金二八、一三三円が残存す まれていたものと解するに妨げはないものというべきである。)結局本訴預金債権たる受働債権全部が消滅し、なお自働債権たる昭和三一年六月一一日を弁済期とする手形貸付金債権元金中金二八、一三三円が残存することになることは計数上明らかである。 はないものというべきである。)結局本訴預金債権たる受働債権全部が消滅し、なお自働債権たる昭和三一年六月一一日を弁済期とする手形貸付金債権元金中金二八、一三三円が残存す まれていたものと解するに妨げはないものというべきである。)結局本訴預金債権たる受働債権全部が消滅し、なお自働債権たる昭和三一年六月一一日を弁済期とする手形貸付金債権元金中金二八、一三三円が残存することになることは計数上明らかである。そうすると、控訴人の相殺の抗弁はこの点において総て理由があり、被控訴人の本訴請求は全部失当としてこれを棄却すべきところ、右と異なり控訴人に一部金員の支払を命じた原判決はその限度において取消を免れない。四、 しからば、控訴人の本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人の敗訴部分を取り消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官二宮節二郎裁判官奥野利一裁判官大沢博)(別紙)<記載内容は末尾1添付>
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