平成24(行ケ)10350 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年8月9日 知的財産高等裁判所 3部 判決 請求棄却
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平成25年8月9日判決言渡平成24年(行ケ)第10350号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成25年8月7日判決 原告デュポンニュートリションバイオサイエンシズエイピーエス(審決上の名称:ダニスコエイ/エス) 訴訟代理人弁理士志賀正武同渡邊隆同実広信哉同渡部崇同堀江健太郎同浜井英礼 被告特許庁長官 指定代理人岩下直人同横尾俊一同瀬良聡機同大橋信彦同村上騎見高 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 事実 及び理由第1 請求特許庁が不服2010-18740号事件について平成24年5月29日にした審決を取り消す。 第2 前提事実 1 特許庁における手続の経緯 事実 及び理由第1 請求特許庁が不服2010-18740号事件について平成24年5月29日にした審決を取り消す。 第2 前提事実 1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「満腹化剤としてのバルク剤」とする発明について,平成14年4月5日を国際出願日(パリ条約による優先権主張日:2001年(平成13年)4月9日・米国)とする特許出願(特願2002-578889号。以下「本願」という。)をしたが,平成22年4月13日付けで拒絶の査定を受けたので,同年8月19日に拒絶査定不服審判(不服2010-18740号)を請求するとともに,同日付けで手続補正をした(以下「本件補正」という。)。 特許庁は,平成24年5月29日,本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年6月12日にその謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲の記載本件補正前後の特許請求の範囲(請求項の数は16である。)の請求項1の記載は次のとおりである(以下,本件補正前の請求項1の発明を「本願発明」といい,本件補正後の請求項1の発明を「本願補正発明」という。下線は,本件補正による補正箇所を示す。)。 (1) 本件補正前の請求項1の記載- 3 -「【請求項1】哺乳動物の食欲抑制のための組成物であって,食物摂取抑制有効量のポリデキストロースを含む組成物。」(2) 本件補正後の請求項1の記載「【請求項1】哺乳動物の食欲抑制のための組成物であって,哺乳動物の食欲抑制に有効な量のポリデキストロースを含む組成物。」 3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写し記載のとおりであり,その要点は次のとおりである。 (1) 本件補正について本件補正は,特許法159条1 な量のポリデキストロースを含む組成物。」 3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写し記載のとおりであり,その要点は次のとおりである。 (1) 本件補正について本件補正は,特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 ア補正の目的について本願明細書(甲3)には,食欲を抑制する場合と抑制しない場合とで食物摂取抑制有効量がどのように異なるのかについて何ら記載されていない。また,本願明細書の【0015】,【0016】,【0034】の記載によれば,「食欲抑制に有効な量」は,「食物摂取抑制有効量」と何ら異なるものではない。したがって,請求項1の特許請求の範囲は本件補正により減縮されていないから,本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当しない。 また,本件補正は,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。 イ独立特許要件(本願補正発明の新規性)について1993年(平成5年)出版の「筑波大学体育科学系紀要」第16巻83~87頁掲載の論文「ポリデキストロースがラットの体脂肪蓄積に及ぼ- 4 -す影響」(吉岡真由美ほか,甲1。以下「引用例」という。)には,「ラットの摂取量を低下させる作用を有する,ポリデキストロースを10%添加した食餌。」(以下「引用例発明」という。)が記載されている。 本願補正発明は,「哺乳動物の食欲抑制に有効な量のポリデキストロースを含む組成物」である点において引用例発明と一致する。引用例には,「哺乳動物の食欲抑制のための組成物」であることについて明記されていないが,かかる限定事項の有無によって「哺乳動物の食欲抑制に有効な量のポリデキストロースを含む組成物」の組成や用途は何ら変わるところはない。 したがって,本願補正発明は, ことについて明記されていないが,かかる限定事項の有無によって「哺乳動物の食欲抑制に有効な量のポリデキストロースを含む組成物」の組成や用途は何ら変わるところはない。 したがって,本願補正発明は,その優先権主張日(平成13年4月9日)の前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明であるから,特許法29条1項3号の規定に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (2) 本願発明の新規性について本願発明も引用例発明と同一であるから,特許法29条1項3号の規定に該当し,特許を受けることができない。 第3 原告主張の取消事由審決には,補正の目的に係る判断の誤り(取消事由1),独立特許要件(本願補正発明の新規性)に係る判断の誤り(取消事由2),本願発明の新規性に係る判断の誤り(取消事由3)があり,これらの誤りは審決の結論に影響を与えるものであるから,審決は違法であり,取り消されるべきである。 1 取消事由1(補正の目的に係る判断の誤り)審決は,本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当しないと判断しているが,以下のとおり,この判断は誤りである。 (1) 「食欲抑制」と「食物摂取抑制」が異なる概念であることは,本願の優先日(平成13年4月9日)において,食物繊維分野における当業者の技術- 5 -常識であった(甲15,16)。したがって,食欲を抑制する場合と抑制しない場合とで食物摂取抑制有効量がどのように異なるのかについて本願明細書に記載がなくても,優先日当時の当業者にとって,本願補正発明の「哺乳動物の食欲抑制に有効な量」と本願発明の「食物摂取抑制有効量」が技術的な意味の異なる量を意味することは明確であった。 (2) 食物摂取量を抑制する原因は,例えば食物が食べにくいものであることや,食 動物の食欲抑制に有効な量」と本願発明の「食物摂取抑制有効量」が技術的な意味の異なる量を意味することは明確であった。 (2) 食物摂取量を抑制する原因は,例えば食物が食べにくいものであることや,食物が対象者の嗜好性に合わないことといった,食欲の抑制以外の因子があり得ること,すなわち,「食欲抑制」が「食物摂取抑制」より狭い範囲を示すことは当業者の技術常識であった。 (3) 現実にダイエットを行っている者において,食物摂取量は意図的に抑制されているが,食欲は必ずしも抑制されていない。このように,「食物摂取抑制」には,食欲も抑制されている場合と,食欲が抑制されていない場合の両方が含まれる。 2 取消事由2(独立特許要件(本願補正発明の新規性)に係る判断の誤り)審決は,本願補正発明は引用例発明と同一であると判断しているが,以下のとおり,引用例に本願補正発明が開示されているとはいえない。 (1) 食欲を抑制するという本願補正発明の用途は,食物摂取を抑制する引用例の組成物の用途とは明確に異なるものであるから,引用例には,食欲抑制量のポリデキストロースを含む,食欲抑制のための組成物という,本願補正発明の技術的概念は開示されていない。 (2) 満腹感を増大する物質が同時に空腹感も抑制することが自明でないことは,本願の優先日当時の当業者にとって技術常識であったから(「満腹感増大と空腹感抑制,ならびに食物摂取における繊維の作用」(Satisfaction,SatietyandtheactionofFibreonFoodIntake ),InternationalJournalofObesity, 1987年,11号,甲17。以下「甲17文献」という。),引用例には,ポリデキストロースを使用して,- 6 -満腹感を増大する InternationalJournalofObesity, 1987年,11号,甲17。以下「甲17文献」という。),引用例には,ポリデキストロースを使用して,- 6 -満腹感を増大すると同時に空腹感を抑制することによって食欲を抑制することを特徴とする本願補正発明は開示されていない。 (3) 引用例には,ポリデキストロースを10%に増大させると重篤な下痢を引き起こすことが記載されており,引用例は,ポリデキストロースを当業者が使用することを妨げることを開示している。また,引用例における摂食量の低下は,この重篤な下痢に起因する可能性があり,食物摂取量の低下がラットの食欲低下によるものであると明確に判断することはできない。 (4) 引用例は,ポリデキストロースを投与しない場合と比較した,ポリデキストロースを投与した場合の摂食量を示しておらず,ポリデキストロースの投与により摂食量が低下したことを明確に示すものではない。 (5) 本願補正発明の食欲抑制剤は,食事又は間食と同時に投与ないし摂食する際に食物摂取量を低下させるだけではなく,食事又は間食の前に投与ないし摂食することにより,その後の本願補正発明の食欲抑制剤を含まない食事又は間食を摂取する際に食物摂取量を低下させるという効果を奏している(【0036】,【0057】)。そして,このような食欲抑制剤を含まない食事又は間食を摂取する際に食物摂取量を低下させるという本願補正発明の食欲抑制剤の効果は,引用例には記載されていない。かかる効果は,本願補正発明における有利な効果として参酌されるべきものである。 3 取消事由3(本願発明の新規性に係る判断の誤り)審決は,本願発明は引用例発明と同一であると判断しているが,以下のとおり,本願発明は引用例に開示されているとはいえない。 す である。 3 取消事由3(本願発明の新規性に係る判断の誤り)審決は,本願発明は引用例発明と同一であると判断しているが,以下のとおり,本願発明は引用例に開示されているとはいえない。 すなわち,前記1(1)のとおり,「食欲抑制」と「食物摂取抑制」とが異なる概念であったことは,食物繊維分野における当業者の技術常識であった。そして,前記2(4)のとおり,引用例は,食物繊維を含まない対照群の結果は開示しておらず,引用例に開示されたデータからポリデキストロースの投与により摂食量が低下したと結論付けることはできない。なお,前記2(3)のとお- 7 -り,引用例では,10%ポリデキストロース投与群のラットでは重篤な下痢が確認されているので,ポリデキストロースの投与量を5%から10%に増大させたことにより,食欲が抑制されてラットの摂食量が低下したと結論付けることもできない。 第4 被告の反論 1 取消事由1(補正の目的に係る判断の誤り)に対し本願明細書には,「食欲抑制有効量」という用語について,「…上記の食欲抑制有効量で投与される。好ましい量はポリデキストロースについて既述した量である。」(【0068】)と記載されているが,具体的な食欲抑制有効量の数値については何ら記載されていない。一方,本願明細書の記載によれば,本願補正発明における「食欲抑制に有効な量」とは,食物摂取を抑制するために投与されるポリデキストロース等から選択される満腹化剤の量であって,食物摂取抑制有効量と異なるものではない(【0015】,【0016】,【0034】,【0035】)。 また,本願明細書には,ポリデキストロースを含む組成物について,摂食量と食欲以外に,食べやすさや嗜好など,食欲抑制以外の因子による食物摂取抑制作用については記載されていない。 【0035】)。 また,本願明細書には,ポリデキストロースを含む組成物について,摂食量と食欲以外に,食べやすさや嗜好など,食欲抑制以外の因子による食物摂取抑制作用については記載されていない。 したがって,「食欲抑制」が「食物摂取抑制」より狭い意味の用語であるとしても,本件補正によって,本願発明が実質的に減縮されたことにはならず,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正には該当しない。 2 取消事由2(独立特許要件(本願補正発明の新規性)に係る判断の誤り)に対し(1) 原告は,食欲を抑制するという本願補正発明の用途は,食物摂取を抑制する引用例の組成物の用途とは明確に異なるものであるから,引用例には,食欲抑制量のポリデキストロースを含む,食欲抑制のための組成物という,本願補正発明の技術的概念は開示されていないと主張する。 - 8 -しかし,本願明細書の記載(【0015】,【0016】,【0034】,【0036】)によれば,本願補正発明におけるポリデキストロースによる「食欲抑制」とは,ポリデキストロースを満腹化剤として満腹感を与える有効量で動物に投与されるものであり,食欲抑制を可能とする食物摂取抑制有効量で対象者に投与されるものである。すなわち,本願補正発明では,「哺乳動物の食欲抑制に有効な量」とは,「食物摂取抑制有効量」である。一方,引用例の記載によれば,引用例におけるポリデキストロースによる食物摂取量の低下作用は,そのかさ効果に基づく満腹化効果によるもので,本願補正発明におけるポリデキストロースによる食物摂取量の抑制(低下)と異なるものではない。そうすると,本願補正発明も引用例に記載された組成物も,食物摂取を抑制するために用いられるものであり,両者の用途は一致している。 (2) 原告は,満腹感を増大する物質が同 下)と異なるものではない。そうすると,本願補正発明も引用例に記載された組成物も,食物摂取を抑制するために用いられるものであり,両者の用途は一致している。 (2) 原告は,満腹感を増大する物質が同時に空腹感も抑制することが自明でないことは,本願の優先日当時の当業者にとって技術常識であったから(甲17文献),引用例には,ポリデキストロースを使用して,満腹感を増大すると同時に空腹感を抑制することによって食欲を抑制することを特徴とする本願補正発明は開示されていないと主張する。 しかし,本願明細書では,ポリデキストロースによる満腹化効果について,空腹感の抑制による食欲抑制効果と満腹感の増大による食欲抑制効果とを区別していない(【0052】)。一方,上記(1)のとおり,引用例には,本願補正発明と同じポリデキストロースのかさ効果によって食物摂取抑制効果があることが記載されている。したがって,本願補正発明におけるポリデキストロースによる食欲抑制効果が,空腹感抑制効果によって生ずるものであれば,引用例においても空腹感抑制効果によって食物摂取抑制効果が生じているものということができる。そうすると,引用例に,ポリデキストロースを使用して満腹感を増大すると同時に空腹感を抑制することが明記さ- 9 -れていないことをもって,引用例に本願補正発明が記載されていないとすることはできない。 原告は,甲17文献における「satiation」,「satiety」を,それぞれ,「満腹感増大」,「空腹感抑制」と訳しているが,「satiation」の一般的意味は「飽満」であり,また,「satiety」の一般的意味は「満腹」であって(乙1~3),特に,「satiety」には「空腹」の側面に着目するような意味はない。一方,甲17文献には,(食物)繊維には,飽満と満腹の あり,また,「satiety」の一般的意味は「満腹」であって(乙1~3),特に,「satiety」には「空腹」の側面に着目するような意味はない。一方,甲17文献には,(食物)繊維には,飽満と満腹の両方に対して効果があることが記載されている(23頁下から17~13行)。 したがって,「満腹感を増大する物質が同時に空腹感を抑制すること」が自明でないことは当業者にとって技術常識であったとの原告の主張は失当である。 (3) 原告は,引用例には,ポリデキストロースを10%に増大させると重篤な下痢を引き起こすことが記載されており,引用例は,ポリデキストロースを当業者が使用することを妨げることを開示していると主張する。 しかし,ポリデキストロースが下痢を生じることは周知の事項であり(例えば,乙4の【0018】),引用例の著者は,「食物繊維(様)物質」が下痢を生じる傾向があることをあらかじめ認識し,その前提で実験を行っている。引用例には,ポリデキストロースが下痢の原因であるとしても,ポリデキストロースが「かさ効果」を示し,摂食量の低下をもたらしたことが記載されていると解すべきである(甲1の86頁左欄10~14行,24~26行)。 (4) 原告は,引用例は,ポリデキストロースを投与しない場合と比較した,ポリデキストロースを投与した場合の摂食量を示しておらず,ポリデキストロースの投与により摂食量が低下したことを明確に示すものではないと主張する。 しかし,引用例1では,食物繊維が摂食量の低下等のかさ効果を有するこ- 10 -とを前提として,ポリデキストロースのかさ効果が体脂肪蓄積に及ぼす影響を調べたものであり,表2には,ポリデキストロースを投与した場合に,少なくとも他の食物繊維と同程度に摂食量を低下させたことが明確に示されている。また,表2におけ スのかさ効果が体脂肪蓄積に及ぼす影響を調べたものであり,表2には,ポリデキストロースを投与した場合に,少なくとも他の食物繊維と同程度に摂食量を低下させたことが明確に示されている。また,表2におけるポリデキストロース5%添加食群と10%添加食群の摂食量を比較すると,10%添加食群の方が摂食量の低下効果が強いことが読み取れるので,引用例でポリデキストロースや他の食物繊維を含まない対照群の結果が記載されなくても,ポリデキストロースの摂食量低下効果が示されていることは明らかである。 (5) 原告は,本願補正発明の食欲抑制剤は,食事又は間食と同時に投与ないし摂食する際に食物摂取量を低下させるだけではなく,食事又は間食の前に投与ないし摂食することにより,その後の本願補正発明の食欲抑制剤を含まない食事又は間食を摂取する際に食物摂取量を低下させるという効果を奏しているが,引用例にはこのような効果は記載されていないと主張する。 原告の主張する効果は,食事又は間食の前に投与ないし摂食した場合に奏されるものであるが,本願補正発明では,「食事又は間食の前に投与ないし摂食する」との限定はない。原告の主張は,請求項の記載に基づかないものであり失当である。 3 取消事由3(本願発明の新規性に係る判断の誤り)に対し原告は,「食欲抑制」と「食物摂取抑制」とが異なる概念であったことは,食物繊維分野における当業者の技術常識であり,また,引用例は,食物繊維を含まない対照群の結果は開示しておらず,引用例に開示されたデータからポリデキストロースの投与により摂食量が低下したと結論付けることはできないし,さらに,引用例では,10%ポリデキストロース投与群のラットでは重篤な下痢が確認されているので,ポリデキストロースの投与量を5%から10%に増大させたことにより,食欲が 結論付けることはできないし,さらに,引用例では,10%ポリデキストロース投与群のラットでは重篤な下痢が確認されているので,ポリデキストロースの投与量を5%から10%に増大させたことにより,食欲が抑制されてラットの摂食量が低下したと結論付けることもできないとして,引用例に本願発明が開示されているとはいえな- 11 -いと主張する。 しかし,前記のとおり,食欲抑制が食物摂取抑制と異なるということはできないし,引用例には,ポリデキストロースや他の食物繊維を含まない対照群の結果が開示されていなくても,ポリデキストロース5%添加食群と10%添加食群との比較から,ポリデキストロースが摂食量低下効果を有することは明示されているといえるし,また,引用例にポリデキストロースが下痢を生じることが記載されるとしても,ポリデキストロースによる摂食量低下効果がないということはできない。原告の主張は理由がない。 第5 当裁判所の判断当裁判所は,原告主張の取消事由はいずれも理由がないものと判断する。その理由は以下のとおりである。 1 取消事由1(補正の目的に係る判断の誤り)について(1) 「食物摂取抑制有効量」と「食欲抑制に有効な量」の関係について本件補正は,食欲抑制のための組成物中の有効成分であるポリデキストロースの量について,本願発明では「食物摂取抑制有効量」とされていたものを,本願補正発明では「哺乳動物の食欲抑制に有効な量」とするものである。 本願補正発明の「食欲抑制に有効な量」と本願発明の「食物摂取抑制有効量」の意義は,一義的に明確に理解することはできないため,本願明細書の記載を検討する。 本願明細書(甲3)には,「食欲抑制有効量」という用語について,「…上記の食欲抑制有効量で投与される。好ましい量はポリデキストロースについ 解することはできないため,本願明細書の記載を検討する。 本願明細書(甲3)には,「食欲抑制有効量」という用語について,「…上記の食欲抑制有効量で投与される。好ましい量はポリデキストロースについて既述した量である。」(【0068】)との記載はあるが,食欲抑制有効量の具体的な数値については何ら記載されていない。 一方,本願明細書(甲3)には,「食物摂取抑制有効量」に関して,以下の記載がある(下線は裁判所が付した。以下同じ。)。 - 12 -「【0015】したがって,本発明は,水素化ポリデキストロースを含むポリデキストロース,又は,その組み合わせからなる群から選択される満腹化剤の食物摂取抑制有効量を,動物,例えば哺乳動物の食事又は間食時における食物摂取を抑制するために,動物,例えば哺乳動物に投与することを含む,動物の空腹抑制方法を指向するものである。・・・【0016】また,本発明は,動物に満腹感を与える有効量で上記に定義される満腹化剤を投与することを含む,動物の満腹化方法をも指向するものである。」「【0034】・・・満腹化剤は食欲抑制を可能とする食物摂取抑制有効量で対象者に投与される。・・・【0035】ここで使用される「食物摂取抑制有効量」又はこの同義語は単独で又はポリオールの相乗有効量と組み合わされたポリデキストロース等の食物摂取を抑制するために投与されるべき満腹化剤の量を称するものであり,体重1kg当たりの乾燥重量ベースである。投与方向を考慮してそのような量を計算するには当業者の設計事項である。満腹化剤は約15から約700mg/kg/日,好ましくは約200から約450mg/kg/日の範囲の量で投与されることが好ましい。かくして,満腹化剤は約1から約50g/日,好ましくは約15から約30g/日の範囲の量で動物(例えばヒト /kg/日,好ましくは約200から約450mg/kg/日の範囲の量で投与されることが好ましい。かくして,満腹化剤は約1から約50g/日,好ましくは約15から約30g/日の範囲の量で動物(例えばヒト)に投与されることが好ましい。」上記によれば,本願補正発明における「食欲抑制に有効な量」とは,食物摂取を抑制するために投与されるポリデキストロース等から選択される満腹化剤の量であって,「食物摂取抑制有効量」と何ら異なるものではないと認められる。 したがって,「食物摂取抑制有効量」を「哺乳動物の食欲抑制に有効な量」と補正する本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当しない。 - 13 -(2) 原告の主張についてア原告は,「食欲抑制」と「食物摂取抑制」が異なる概念であることは,本願の優先日(平成13年4月9日)において,食物繊維分野における当業者の技術常識であった(甲15,16)として,食欲を抑制する場合と抑制しない場合とで食物摂取抑制有効量がどのように異なるのかについて本願明細書に記載がなくても,優先日当時の当業者にとって,本願補正発明の「哺乳動物の食欲抑制に有効な量」と本願発明の「食物摂取抑制有効量」が技術的な意味の異なる量を意味することは明確であったと主張する。 しかし,「食欲抑制」と「食物摂取抑制」が異なる概念であることが当業者の技術常識であったとしても,当業者が上記(1)で認定した本願明細書の記載に接した場合,本願補正発明における「食欲抑制に有効な量」とは,食物摂取を抑制するために投与されるポリデキストロース等から選択される満腹化剤の量であって,「食物摂取抑制有効量」と異なるものではないと理解するものと認められる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 イ原告は,食物摂取量を抑制する原因は, 等から選択される満腹化剤の量であって,「食物摂取抑制有効量」と異なるものではないと理解するものと認められる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 イ原告は,食物摂取量を抑制する原因は,例えば食物が食べにくいものであることや,食物が対象者の嗜好性に合わないことといった,食欲の抑制以外の因子があり得ること,すなわち,「食欲抑制」が「食物摂取抑制」より狭い範囲を示すことは当業者の技術常識であったと主張する。 しかし,「食欲抑制」が「食物摂取抑制」より狭い範囲を示すことが当業者の技術常識であったとしても,当業者が上記(1)で認定した本願明細書の記載に接した場合,本願補正発明における「食欲抑制に有効な量」とは,食物摂取を抑制するために投与されるポリデキストロース等から選択される満腹化剤の量であって,「食物摂取抑制有効量」と異なるものではないと理解するものと認められる。 - 14 -したがって,原告の上記主張は理由がない。 ウ原告は,現実にダイエットを行っている者において,食物摂取量は意図的に抑制されているが,食欲は必ずしも抑制されていないように,「食物摂取抑制」には,食欲も抑制されている場合と,食欲が抑制されていない場合の両方が含まれると主張する。 しかし,「食物摂取抑制」に食欲も抑制されている場合と,食欲が抑制されていない場合の両方が含まれるとしても,上記(1)で判示したとおり,本願明細書の記載によれば,本願補正発明における「食欲抑制に有効な量」とは,食物摂取を抑制するために投与されるポリデキストロース等から選択される満腹化剤の量であって,「食物摂取抑制有効量」と異なるものではないと認められる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (3) 小括よって,原告主張の取消事由1は理由がない。 腹化剤の量であって,「食物摂取抑制有効量」と異なるものではないと認められる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (3) 小括よって,原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(独立特許要件(本願補正発明の新規性)に係る判断の誤り)について(1) 本願補正発明についてア本願明細書の記載本願明細書(甲3)には,以下の記載がある。 (ア) 【技術分野】「本発明は,ヒトの食欲抑制のためのポリデキストロースと他の糖ポリマーの使用に関する。」(【0001】)(イ) 【発明が解決しようとする課題】「本発明者らは,特に,ポリデキストロース又は水素化ポリデキストロースが単独で又は組み合わされて,動物,特に哺乳動物の食欲抑制に使用可能であり,これまでに使用されてきた満腹化剤に伴う副作用及び- 15 -不利な点を回避することを見出した。」(【0014】)(ウ) 【課題を解決するための手段】「したがって,本発明は,水素化ポリデキストロースを含むポリデキストロース,又は,その組み合わせからなる群から選択される満腹化剤の食物摂取抑制有効量を,動物,例えば哺乳動物の食事又は間食時における食物摂取を抑制するために,動物,例えば哺乳動物に投与することを含む,動物の空腹抑制方法を指向するものである。…別の態様では,本発明は,水素化糖ポリマーを含む糖ポリマー又はこれらの混合物の食欲抑制剤としての使用を指向する。…また,本発明は,動物に満腹感を与える有効量で上記に定義される満腹化剤を投与することを含む,動物の満腹化方法をも指向するものである。」(【0015】~【0016】)(エ) 【発明を実施するための最良の形態】「ここで使用される『食物満腹化剤』又は『満腹化剤』とは,水素化糖 含む,動物の満腹化方法をも指向するものである。」(【0015】~【0016】)(エ) 【発明を実施するための最良の形態】「ここで使用される『食物満腹化剤』又は『満腹化剤』とは,水素化糖ポリマーを含む糖ポリマー又はこれらの組み合わせを称するものであり,例えば,ポリデキストロース,水素化ポリデキストロース又はこれらの混合物である。 更に,ここで使用される『ポリデキストロース』とは,胃中の酵素による消化に耐性であるグルコースの低カロリーポリマーである。それは,グルコース,マルトース,グルコースのオリゴマー又は澱粉の加水分解物から調製されるグルコースのポリマー製品を含み,……更に,『ポリデキストロース』の用語は,水素化ポリデキストロースを含み,ここで使用されるように,当業者に知られた技術によって調製された水素化すなわち還元されたポリデキストロース製品を含む。 …『糖ポリマー』の用語はポリデキストロースを含むが,上記の重縮合反応においてグルコースの代わりに糖が使用された,食物として許容- 16 -可能な他の製品をも含む。…それはまた,ここに定義される糖ポリマーを…当該技術分野で知られた技術で還元すなわち水素化された水素化糖ポリマーをも含む。」(【0018】~【0023】)「ここで使用される『食物摂取抑制有効量』又はこの同義語は単独で又はポリオールの相乗有効量と組み合わされたポリデキストロース等の食物摂取を抑制するために投与されるべき満腹化剤の量を称するものであり,体重1kg当たりの乾燥重量ベースである。投与方向を考慮してそのような量を計算するには当業者の設計事項である。」(【0035】)「…本発明の満腹化剤を投与するタイミングは重要ではなく,個人の必要に応じて設定することができる。例えば,…満腹化剤はあるス そのような量を計算するには当業者の設計事項である。」(【0035】)「…本発明の満腹化剤を投与するタイミングは重要ではなく,個人の必要に応じて設定することができる。例えば,…満腹化剤はあるスケジュールにおいて空腹感を感じるときに,例えば,1日に少なくとも1回又は少なくとも2回,摂取することができる。しかし,…満腹化剤は食事時に基づいて投与されることが有益である。例えば,…満腹化剤は,1日の1,2又は3回の食事の前,あるいは,4回以上の食事又は間食が1日に食される場合は各食事又は間食の前に投与されうる。食事又は間食の前に満腹化剤が空腹を抑制し及び/又は満腹を誘起しうる十分な時間をかけて…満腹化剤を摂取すると,ヒト等の哺乳動物は食事の間及び/又は食事中により少ない食物を摂取するようになる。本発明の満腹化剤は食事又は間食の約15分から約12時間前…までに動物,例えば哺乳動物に投与されることが好ましい。…典型的には,…本発明の満腹化剤は,ときには食事前の期間に,または日常の食事の時間に摂取され,食事中の食物摂取を低減し,あるいは,食事自体を省略しうる。これは,…前記満腹化剤(例えばポリデキストロース)が通常摂取されている食事又は間食の一部を排除する十分な満腹感を提供するからである。」(【0036】)- 17 -イ本願補正発明の概要本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載及び上記アの本願明細書の記載(特に,【0036】の「食事又は間食の前に満腹化剤が空腹を抑制し及び/又は満腹を誘起しうる十分な時間をかけて…満腹化剤を摂取すると,ヒト等の哺乳動物は食事の間及び/又は食事中により少ない食物を摂取するようになる。」との記載)によれば,本願補正発明は,哺乳動物の食欲抑制に有効な量のポリデキストロースを含む,哺乳動物の食欲抑制の ヒト等の哺乳動物は食事の間及び/又は食事中により少ない食物を摂取するようになる。」との記載)によれば,本願補正発明は,哺乳動物の食欲抑制に有効な量のポリデキストロースを含む,哺乳動物の食欲抑制のための組成物であり,ポリデキストロースの服用により食欲が抑制され,その結果,食物摂取が抑制されるというものであることが認められる。 (2) 引用例発明についてア引用例の記載引用例(甲1)は,「ポリデキストロースがラットの体脂肪蓄積に及ぼす影響」という表題の学術論文である。引用例には以下の記載がある。 (ア) 「要旨訳」の項「ポリデキストロースが体脂肪蓄積に及ぼす影響について,ポリデキストロースのかさ効果が体脂肪蓄積を抑制するか否かを,Sprague-Dawley 系雄ラットを用いて検討した。ラットに,ポリデキストロース,セルロース,難消化性デキストリンおよびガラクトマンナン分解物を,それぞれ5および10%添加した食を52日間自由摂取させた。ラットの体重増加は,ポリデキストロース10%食群で他の食物繊維10%食群に比べ有意に小さかった。体脂肪量と摂食量は,セルロース10%食群に比べてポリデキストロース10%,難消化性デキストリン10%およびガラクトマンナン分解物10%群で小さかった。また食効率は,5%および10%食群とも,難消化性デキストリンおよびガラクトマンナン分解物食群に比べて,ポリデキストロース食群で小さかった。 - 18 -以上のことから,食物繊維と比較してポリデキストロースは,摂食量を低下させることと食効果が小さいことにより,体脂肪蓄積を小さくすることがわかった。」(83頁左欄2行~右欄2行)(イ) 「Ⅰ.緒言」の項「食物繊維は消化管に対して,消化吸収機能の亢進作用,食物繊維の発酵作用,腸内最近叢 いことにより,体脂肪蓄積を小さくすることがわかった。」(83頁左欄2行~右欄2行)(イ) 「Ⅰ.緒言」の項「食物繊維は消化管に対して,消化吸収機能の亢進作用,食物繊維の発酵作用,腸内最近叢(判決注・「細菌叢」の誤記と認められる。)の変化,かさ効果,イオン交換作用,水分吸着作用および栄養素の吸収阻害作用などをもたらすとされている(15)。一般に食物繊維含量の多い食事を摂取すると,そしゃく回数が自然に増加し,唾液や胃液の分泌が促進され,消化管中の食物繊維のかさが増大する。これによって食後の飽満感が得られることと併せて(7),食物繊維はそれ自体のエネルギー価が小さいことにより(3),体脂肪蓄積を抑制すると考えられている。 一方,ポリデキストロースは,人工の難消化性多糖類なので(12),腸内で発酵を受けるが(4,13),大部分は吸収されずに糞中へと排泄されるため(5,6),エネルギー価が小さく(1,16),食物繊維と同様に,体脂肪蓄積を抑える可能性が考えられる。しかし,ポリデキストロースが体脂肪蓄積に及ぼす影響について検討した研究は見当たらない。 さらに食物繊維には,摂食量の低下や糞量の増大など,その食物繊維特有のかさ効果が存在し,それらがエネルギーの過剰摂取を防止することによって,体脂肪蓄積を抑制すると考えられているが(2,14,17),ポリデキストロースのかさ効果についての研究は,栄養素の消化管通過時間の短縮作用の報告(16)のみである。 そこで本実験では,ポリデキストロースのかさ効果と体脂肪蓄積との関係について,ポリデキストロースと不溶性食物繊維であるセルロースおよび水溶性食物繊維である難消化性デキストリンとガラクトマンナン分解物をそれぞれ比較検討した。」(83頁右欄4行~84頁左欄18- 19 -行) ースと不溶性食物繊維であるセルロースおよび水溶性食物繊維である難消化性デキストリンとガラクトマンナン分解物をそれぞれ比較検討した。」(83頁右欄4行~84頁左欄18- 19 -行)(ウ) 「Ⅱ.方法」の項「1.ラットの飼育および食実験動物として,5週齢の体重128-144gの…Sprague-Dawley系雄ラット82匹…を用い,52日間飼育した。…水は24時間自由に摂取させた。ラットを個別ケージに入れ,市販飼料CE-2を与えて3日間予備飼育した後,各食物繊維(様)物質5および10%添加食群に分た。投与した食物繊維(様)物質は,水溶性の食物繊維様物質のポリデキストロース(PD食群),不溶性食物繊維のセルロース(C食群)および水溶性食物繊維である難消化性デキストリン(D食群)とガラクトマンナン分解物(G食群)である。 実験食の組成をTablelに示した。食は24時間自由摂取(adlibitum)させたが,実験最終1週間前には,食を1日2食制(8-9時と20-21時)のmeal-feeding 下に等量給した。食物繊維(様)物質の食への添加は,便の状態を観察しながら下痢を起こさないように,添加目標に達するまで摂食量の5%ずつ漸増する方法で行ったが,PD10食群の全てのラットで下痢が確認された。 2.測定項目および測定方法体重を週に2回,摂食量を毎日測定し,実験期間中の体重増加量を総摂食量で除して食効率を算出した。また,糞をmeal-feeding 期間の4日間採集し,80℃で24時間乾燥して乾燥重量を求めた。 実験最終日に,ラットを断頭屠殺した後,消化管を取り出しその残りを屠体とし,腹腔内脂肪組織を摘出して秤量した。屠体は,蛋白質含量をケルダール法(9)で,脂肪含量をソックスレー抽出法( を求めた。 実験最終日に,ラットを断頭屠殺した後,消化管を取り出しその残りを屠体とし,腹腔内脂肪組織を摘出して秤量した。屠体は,蛋白質含量をケルダール法(9)で,脂肪含量をソックスレー抽出法(9)でそれぞれ分析した。 3.統計処理法- 20 -測定数値は,平均値±標準誤差で表した。…」(84頁左欄20行~85頁左欄6行)(エ) 「Ⅲ.結果および考察」の項「2.食物繊維(様)物質10%添加食における比較検討ラットの体重増加量および腹腔内脂肪組織含量は,食物繊維食群に比べてPD食群で有意に小さかったが,屠体蛋白質含量と重量は,各食群間に差が認められなかった(Table2)。また屠体脂肪含量と重量,腹腔内脂肪組織含量および摂食量は,C食群に比べてPD,DおよびG食群で有意に小さく,食効率は,G食群に比べてPD食群で有意に小さかった(Table2)。乾燥糞重量は,C食群に比べてDおよびG食群で有意に小さかった(Table2)。 これらの結果から,食中の食物繊維添加量を10%レベルに高めると,ポリデキストロースは,不溶性の食物繊維であるセルロースに比べて,水溶性食物繊維である難消化性デキストリンやガラクトマンナン分解物と同程度に体脂肪蓄積を抑制し,特に体重増加の抑制作用においては,これらの水溶性食物繊維よりも強いことが認められた。このことは,ポリデキストロースが,難消化性デキストリンやガラクトマンナン分解物と同程度に摂食量の低下作用,つまりかさ効果を示したことが関係していると思われる。またポリデキストロースの食効率は,他の食物繊維より小さいことから,ポリデキストロースのエネルギー価は,他の食物繊維より小さいと推察され,このこともポリデキストロースが食物繊維と比べて,体重増加を抑制した要因の一つであると思われ ,他の食物繊維より小さいことから,ポリデキストロースのエネルギー価は,他の食物繊維より小さいと推察され,このこともポリデキストロースが食物繊維と比べて,体重増加を抑制した要因の一つであると思われる。」(86頁左欄5~32行)(オ) 「Ⅳ.要約」の項「ポリデキストロースがラットの体脂肪蓄積に及ぼす影響について,ポリデキストロースのかさ効果に着目して検討した。 - 21 -その結果,ポリデキストロースは,本研究に用いた3つの食物繊維に比べてエネルギー価が小さいと考えられるうえに,水溶性の食物繊維と同等に摂食量を低下させるなどの理由で,食物繊維よりも体脂肪蓄積を小さくしたものと推察された。」(86頁左欄34~41行)(カ) 表2(85頁)は以下のとおりである。 - 22 - - 23 -イ引用例に記載された発明の概要上記アの引用例の記載によれば,ポリデキストロースは人工の難消化性多糖類であることから,大部分は吸収されずに糞中へと排泄され,食物繊維と同様に体脂肪蓄積が抑制されると考えられるが,ポリデキストロースの体脂肪蓄積に及ぼす影響について研究は見当たらないこと,また,ポリデキストロースのかさ効果についての研究も,栄養素の消化管通過時間の短縮作用の報告のみであったこと,引用例は,ポリデキストロースのかさ効果と体脂肪蓄積との関係について,ポリデキストロースと不溶性食物繊維であるセルロース並びに水溶性食物繊維である難消化性デキストリン及びガラクトマンナン分解物をそれぞれ比較検討し,その結果を報告したものであることが認められる(上記ア(イ)の緒言の項)。 そして,上記ア(カ)の表2には,ラットに,ポリデキストロース,セルロース,難消化性デキストリン及びガラクトマンナン分解物を,それぞれ5%及び10%添加した 認められる(上記ア(イ)の緒言の項)。 そして,上記ア(カ)の表2には,ラットに,ポリデキストロース,セルロース,難消化性デキストリン及びガラクトマンナン分解物を,それぞれ5%及び10%添加した食餌を52日間自由摂取させた際の摂食量が示されており,10%のポリデキストロースが添加された食餌で飼育されたラットの摂食量は,10%のセルロースが添加された食餌で飼育されたラットと比較して,有意に少ないことが理解できる(ポリデキストロース食群が905±16gであるのに対し,セルロース食群が1008±16gである。)。この点については,引用例の著者らも,「摂食量は,C食群に比べてPD…食群で有意に小さ…かった(Table2)。」(86頁左欄11~14行),「ポリデキストロースが…摂食量の低下作用,つまりかさ効果を示した」(86頁左欄24~26行)と述べている。 したがって,引用例には,ポリデキストロースが10%添加された食餌が,かさ効果を示し,ラットの摂食量を低下させる作用を有すること,すなわち,審決が認定した引用例発明(ラットの摂食量を低下させる作用を- 24 -有する,ポリデキストロースを10%添加した食餌)が記載されていると認められる。 (3) 本願補正発明の新規性について上記(1)のとおり,本願補正発明は,哺乳動物の食欲抑制に有効な量のポリデキストロースを含む,哺乳動物の食欲抑制のための組成物であって,ポリデキストロースの服用により食欲が抑制され,その結果,摂食量が抑制されるというものである。一方,上記(2)のとおり,引用例発明は,ラットの摂食量を低下させる作用を有する,ポリデキストロースを10%添加した食餌であり,これは,ポリデキストロースを含む組成物の効果が食欲抑制に有効な量であるため,ラットの摂食量を抑制すること は,ラットの摂食量を低下させる作用を有する,ポリデキストロースを10%添加した食餌であり,これは,ポリデキストロースを含む組成物の効果が食欲抑制に有効な量であるため,ラットの摂食量を抑制することを意味するものである。 したがって,本願補正発明の「哺乳動物の食欲抑制のための組成物であって,食物摂取抑制有効量のポリデキストロースを含む組成物」と,引用例発明の,ポリデキストロースを10%添加した食餌が,そのかさ効果によりラットの食欲を抑制し,その摂食量を抑制するという点において一致しているから,本願補正発明は引用例に記載された発明であるといえる。 (4) 原告の主張についてア原告は,食欲を抑制する本願補正発明の用途は,食物摂取を抑制する引用例の組成物の用途とは明確に異なるものであるから,引用例には,食欲抑制量のポリデキストロースを含む,食欲抑制のための組成物という,本願補正発明の技術的概念は開示されていないと主張する。 しかし,食物摂取は,食欲という欲求を満たす行為であるから,食欲を抑制するということは,食物摂取を抑制することにほかならない。本願補正発明は,ポリデキストロースを有効成分とする食欲抑制のための組成物であり,具体的には,ポリデキストロースが食欲を抑制し,食物摂取を抑制するものである。これは,引用例に開示されたポリデキストロースを10%添加した食餌が,そのかさ効果により,ラットの食欲を抑制し,食物- 25 -摂取を抑制することと実質的に同一である。すなわち,本願補正発明と引用例発明におけるポリデキストロースの用途は,表現は相違するものの,実質的には相違しない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 イ原告は,満腹感を増大する物質が同時に空腹感も抑制することが自明でないことは,本願の優先日当時の当業者にとって技 するものの,実質的には相違しない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 イ原告は,満腹感を増大する物質が同時に空腹感も抑制することが自明でないことは,本願の優先日当時の当業者にとって技術常識であったから(甲17文献),引用例には,ポリデキストロースを使用して,満腹感を増大すると同時に空腹感を抑制することによって食欲を抑制することを特徴とする本願補正発明は開示されていないと主張する。 しかし,本願補正発明におけるポリデキストロースの食欲抑制効果については,本願明細書に,「1日目及び10日目の試験日に,ヨーグルトの消費直前及び直後に,各被験者はその主観的状態を評価したところ,4つのヨーグルトの満腹化効果(空腹抑制即ち満腹感の増大)を決定することができた。図3に示すように,XylPDXh 及びPDXh ヨーグルトは最も強い空腹抑制を示した。」(甲3の【0052】)との記載があるように,本願補正発明は,ポリデキストロースによる満腹化効果について,空腹感の抑制による食欲抑制効果と満腹感の増大による食欲抑制効果とを区別していない。本願補正発明は,ポリデキストロースにより食欲を抑制して食物摂取を抑制しようとする発明であるから,引用例にポリデキストロースがそのかさ効果により食物摂取を抑制することが開示されている以上,本願補正発明は引用例に記載された発明と相違しないものであり,このことは,満腹感を増大する物質が同時に空腹感も抑制することが自明でないことが本願優先日当時の当業者にとって技術常識であったとしても,変わりはない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 ウ原告は,引用例には,ポリデキストロースを10%に増大させると重篤- 26 -な下痢を引き起こすことが記載されており,ポリデキストロースを当業者が使用することを妨げる 上記主張は理由がない。 ウ原告は,引用例には,ポリデキストロースを10%に増大させると重篤- 26 -な下痢を引き起こすことが記載されており,ポリデキストロースを当業者が使用することを妨げることを引用例は開示しているし,引用例における摂食量の低下は,この重篤な下痢に起因する可能性があり,食物摂取量の低下がラットの食欲低下によるものであると明確に判断することはできないと主張する。 しかし,引用例では,10%のポリデキストロースが添加された食餌を与えられたラットで下痢が確認されたことを根拠に実験が中止されているものではないし,引用例には,ポリデキストロースが哺乳動物の摂食量の低下に利用できないことを示す記載はない。 かえって,引用例では,10%のポリデキストロースが添加された食餌を与えられたラットで下痢が確認されたにもかかわらず,「このことは,ポリデキストロースが,難消化性デキストリンやガラクトマンナン分解物と同程度に摂食量の低下作用,つまりかさ効果を示したことが関係していると思われる。またポリデキストロースの食餌効率は,他の食物繊維より小さいことから,ポリデキストロースのエネルギー価は,他の食物繊維より小さいと推察され,このこともポリデキストロースが食物繊維と比べて,体重増加を抑制した要因の一つであると思われる。」(甲1の86頁左欄24~32行)との考察がされており,当業者である引用例の著者は,下痢の影響を考慮しても,ポリデキストロースを他の食物繊維と比較することが可能であり,また,ポリデキストロースによる摂食量の低下が,ポリデキストロースのかさ効果によると推測することが可能であると判断していることが認められる。 そうすると,引用例に記載されたポリデキストロース10%添加食における摂食量のデータをもって,当業者がポリデキ ストロースのかさ効果によると推測することが可能であると判断していることが認められる。 そうすると,引用例に記載されたポリデキストロース10%添加食における摂食量のデータをもって,当業者がポリデキストロースの使用を妨げるものとはいうことはできず,同データは,ラットにおけるポリデキストロースによる食物摂取量の低下を示すものと認められる。 - 27 -したがって,原告の上記主張は理由がない。 エ原告は,引用例は,ポリデキストロースを投与しない場合と比較した,ポリデキストロースを投与した場合の摂食量を示しておらず,ポリデキストロースの投与により摂食量が低下したことを明確に示すものではないとも主張する。 しかし,引用例には,その緒言の項に,「食物繊維には,摂食量の低下や…など,その食物繊維特有のかさ効果が存在し」と記載されているように,そもそも,食物繊維が摂食量を低下させることを前提として,ポリデキストロースと不溶性食物繊維であるセルロース等と比較検討しているものである。そして,前記(2)イで判示したとおり,引用例の表2の記載から,10%のポリデキストロースが添加された食餌で飼育されたラットと10%のセルロースが添加された食餌で飼育されたラットについて比較した場合に,ポリデキストロース添加食群において摂取量が有意に少ないことが理解できる。すなわち,引用例には,摂食量低下作用を有する食物繊維に属するセルロースと比較して,ポリデキストロースが摂食量を低下させる作用を示すことが記載されている以上,たとえ,引用例に食物繊維を含まない対照群についての摂食量の結果が示されていないとしても,引用例は,ポリデキストロース10%添加食が食物摂取を抑制することを示すものと認められる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 オ原告は,本願補正 の摂食量の結果が示されていないとしても,引用例は,ポリデキストロース10%添加食が食物摂取を抑制することを示すものと認められる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 オ原告は,本願補正発明の食欲抑制剤は,食事又は間食と同時に投与ないし摂食する際に食物摂取量を低下させるだけではなく,食事又は間食の前に投与ないし摂食することにより,その後の本願補正発明の食欲抑制剤を含まない食事又は間食を摂取する際に食物摂取量を低下させるという効果を有していると主張する。 しかし,本願補正発明は,その特許請求の範囲において,組成物を服用- 28 -する時期を特定するものではない。本願補正発明と引用例発明は,組成物を構成する物質とその用途において相違しない以上,たとえ,本願補正発明の組成物が,食事又は間食の前に投与ないし摂食することにより,その後の食事又は間食を摂取する際に食物摂取量を低下させるという効果を奏するものであるとしても,本願補正発明と引用例発明が相違するということはできない。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 (5) 小括よって,原告主張の取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(本願発明の新規性に係る判断の誤り)について(1) 本願発明は,食物摂取抑制有効量のポリデキストロースを含む,哺乳動物の食欲抑制のための組成物である。一方,前記2(2)イのとおり,引用例発明は,ラットの摂食量を低下させる作用を有する,ポリデキストロースを10%添加した食餌であり,これは,ポリデキストロースを含む組成物が,そのかさ効果によりラットの摂食量を抑制することを意味するものである。 したがって,本願発明と引用例発明は,ポリデキストロースがラットの食欲抑制効果ないしかさ効果により摂食量を抑制するという点において一致 かさ効果によりラットの摂食量を抑制することを意味するものである。 したがって,本願発明と引用例発明は,ポリデキストロースがラットの食欲抑制効果ないしかさ効果により摂食量を抑制するという点において一致しているから,本願発明は引用例に記載された発明であるといえる。 (2) 原告は,「食欲抑制」と「食物摂取抑制」とが異なる概念であったことは,食物繊維分野における当業者の技術常識であったこと,引用例は,食物繊維を含まない対照群の結果は開示しておらず,引用例に開示されたデータからポリデキストロースの投与により摂食量が低下したと結論付けることはできないこと,引用例では,10%ポリデキストロース投与群のラットでは重篤な下痢が確認されているので,ポリデキストロースの投与量を5%から10%に増大させたことにより,食欲が抑制されてラットの摂食量が低下したと結論付けることもできないことを指摘し,本願発明は引用例に開示され- 29 -ているとはいえないと主張する。 しかし,前記2において判示したとおり,原告の指摘する点はいずれも理由がないか採用することができない。 (3) 小括よって,原告主張の取消事由3は理由がない。 4 まとめ以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消すべき違法はない。 第6 結論よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官設樂  一 裁判官西理香 裁判官田中正哉 裁判官 西理香 裁判官 田中正哉

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