平成25年4月22日判決言渡平成25年(行コ)第27号追加的併合請求控訴事件 主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 北区福祉事務所長が平成18年7月4日付けで控訴人に対してした生活保護法63条に基づく費用返還金額決定処分(ただし,平成23年9月13日付け決定による一部取消し後のもの)を取り消す。 第2 事案の概要 1 事案の要旨(1) 控訴人は,昭和▲年▲月▲日に現在の中華人民共和国(以下「中国」という。)で生まれた中国残留邦人であり,平成9年6月12日に夫であるA及び2人の子と共に本邦に帰国し,平成10年1月30日に日本国籍を取得した者である。控訴人は,平成9年10月1日,A及び2人の子との世帯の世帯主として,北区福祉事務所長に対し,生活保護法(以下「法」という。)24条1項の規定に基づき,生活保護の開始申請をし,北区福祉事務所長による保護開始決定を受け,Aにかかる分を含めて保護金品の支給を受けていた。 Aは,平成17年4月14日に本邦を出国して中国に帰国し,平成18年2月23日に本邦に入国した。また,控訴人は,平成17年9月17日に本邦を出国して中国に渡航し,同年10月1日に本邦に帰国した。 北区福祉事務所長は,控訴人の中国への渡航及びAの中国への帰国により,中国滞在期間中,両名は国内で生活していないこととなり,法の適用除外の期間が発生したとして,平成18年7月4日,控訴人に対し,法63条の規定に基づいて,生活扶助費及び医療扶助費のうち67万8672円を平成21年7月31日までに返還することを命ずる旨の費用返還金額決定処分(以下「本件費用返還 18年7月4日,控訴人に対し,法63条の規定に基づいて,生活扶助費及び医療扶助費のうち67万8672円を平成21年7月31日までに返還することを命ずる旨の費用返還金額決定処分(以下「本件費用返還金額決定処分」という。)をした。その後,北区福祉事務所長は,控訴人の中国への渡航は短期間であり,親族訪問を目的とするものであると認められるとして,平成23年9月13日,控訴人に対し,本件費用返還金額決定処分のうち,控訴人の中国への渡航に係る3万4463円の部分を職権により取り消す旨の決定をした。 (2) 本件は,控訴人が,本件費用返還金額決定処分(ただし,平成23年9月13日付け決定による一部取消し後のもの)は,法19条又は63条の規定に違反する違法な処分であるとして上記決定処分の取消しを求めた事案である。 原判決は,本件費用返還金額決定処分が法19条又は63条に違反するということはできないとして,控訴人の請求を棄却した。そこで,控訴人が,これを不服として,控訴した。 2 関係法令等の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張関係法令等の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,以下のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「1 法令の定め」,「2 前提事実(顕著な事実,争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)」,「3 争点」及び「4 当事者の主張の要旨」に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決6頁22行目の「○」から25行目の「目的として」までを「当時,控訴人の養母が病に倒れ同人の身の回りの世話を必要とする状況が生じ,本来は,控訴人が中国へ行き養母の世話をすべきところ,Aに○に起因する足の浮腫が長期治療にもかかわらず回復し として」までを「当時,控訴人の養母が病に倒れ同人の身の回りの世話を必要とする状況が生じ,本来は,控訴人が中国へ行き養母の世話をすべきところ,Aに○に起因する足の浮腫が長期治療にもかかわらず回復しないという状況があったため,控訴人に代わってAが中国で養母の介護をすると同時に中国の療法による治療を受けることを目的として」に改める。 (2) 原判決6頁27行目の「養母の介護をしていた。」の次に「養母の病状がなかなか回復せず,良くなったかと思えば,また悪くなるといった状態が繰り返されていたため,Aとしても養母のもとを離れられず,介護を続けざるを得なかったのであり,Aが日本に戻る時期を決めず,長期滞在を予定したのではない。」を加える。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。 その理由は,以下のとおり補正し,後記2のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の1項ないし3項に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決21頁10行目の「適用されるものであるところ,」を「適用されるものである。」と改め,同行目の「例えば」から,15行目から16行目にかけての「ということとなる。」までを削り,16行目の「しかし」を「そして」に改める。 (2) 原判決21頁27行目の「上記1人世帯の世帯主とは異なり,」を削る。 (3) 原判決22頁6行目から23頁8行目までを削る。 (4) 原判決24頁13行目から25頁3行目までを削る。 2(1)ア控訴人は,原審及び当審において,Aは控訴人の養母を介護することと併せて自身の○の治療を受けるため,一時的に中国に帰国したものであり,帰国期間中,国内に居住地を有していたから,Aが国内に居住地を有していなかったこと 当審において,Aは控訴人の養母を介護することと併せて自身の○の治療を受けるため,一時的に中国に帰国したものであり,帰国期間中,国内に居住地を有していたから,Aが国内に居住地を有していなかったことを理由とする本件費用額返還金額決定処分は法19条に違反する違法な処分である旨主張する。 イそこで判断するに,法19条は,1項において,都道府県知事等は,「その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者」(1号)及び「居住地がないか,又は明らかでない要保護者であって,その管理に属する福祉事務所の所管区域内に現在地を有するもの」(2号)に対して,保護を決定し,かつ,実施しなければならないと規定した上,2項において,居住地が明らかである要保護者であっても,その者が急迫した状況にあるときは,その急迫した事由がやむまでは,その者の現在地を所管する福祉事務所を管理する都道府県知事等が保護を行うものとし,また保護の方法に関し,法30条が,生活扶助は原則として被保護者の居宅において行うものと規定し,居住地主義及び居宅保護の原則を採用している。 その趣旨は,要保護者がその居住地を有する限り,そこにおける継続的,安定的な生活に着目して生活状態,資産状況等の事項を把握し,それを基に必要な扶助を与えるとともに自立の助長のための措置を講ずることとしたものと解される。以上のことに法2条の規定をも考慮すると,国外に現在している被保護者であっても,法19条所定の「居住地」に当たると認められる居住の場所を国内に有している者は,同条に基づき当該居住地を所管する実施機関から保護の実施を受けられると解するのが相当である。 このように解しても,その居住地における被保護者の生活状態,資産状況等の事項を調査して把握し,その結果に基づいて所要の保護の変更,停止又 る実施機関から保護の実施を受けられると解するのが相当である。 このように解しても,その居住地における被保護者の生活状態,資産状況等の事項を調査して把握し,その結果に基づいて所要の保護の変更,停止又は廃止を決定し,また,自立の助長のための措置を講ずることは可能であるから,保護の決定及び実施に関する制度の趣旨を損なうことにはならない。もとより,被保護者が,当初の居住地を離れて国外に滞在し続けるなどした結果,国内に居住地も現在地も有しないこととなった場合には,もはや保護の実施を受けることはできず,保護の実施機関において,保護の停止,廃止又は減額変更等の決定をすべきである(最高裁平成20年2月28日第一小法廷判決・裁判集民事227号313頁参照)。 ウ本件において,Aは平成17年4月14日に本邦を出国して中国に帰国し,平成18年2月23日に本邦に入国したものであるところ,この間,国内に居住地を有していたといえるかについて検討する。 (ア) 第1に,Aの帰国の目的について,控訴人は,養母を介護することと併せてA自身の○の治療を受けるためである旨主張するが,これを裏付ける客観的証拠は存しない。他方,関係証拠によれば,①控訴人は,平成18年3月14日の保護機関の担当者との面接に際し,控訴人とAのパスポートを提示し,不在となった期間と理由について,残留孤児援護基金を利用して平成17年9月17日から同年10月1日まで中国に行っていた,Aについては,Aが自分の○の治療で北京に行ったが出国している間のことは知らない旨説明していること(乙ハ13),②控訴人が,平成18年8月2日付けで東京都知事に対し,処分の取消しを求めた審査請求書の審査請求の理由中には,(a)控訴人が88歳の重い病気持ちの養母を見舞うため中国に行き,今後も行く予定であること,( 人が,平成18年8月2日付けで東京都知事に対し,処分の取消しを求めた審査請求書の審査請求の理由中には,(a)控訴人が88歳の重い病気持ちの養母を見舞うため中国に行き,今後も行く予定であること,(b)Aには○による○(3級)があり,中国に行って漢方医による治療をした結果が良かったため,さらに中国で治療する必要があること,中国に行ったのは観光旅行ではない旨述べていること(乙ハ8)が認められる。 これらの事実からすると,Aが中国に帰国した目的は主に中国で○による○の治療を行うことであったと認められ,これは,控訴人の追加的併合の申立書における,Aは○による○(3級)を患っているところ,日本語のコミュニケーションができないことから,中国で治療を受ける必要があり,母親や子どもたちの家を転々としつつ治療を受けていたのであるから,観光旅行ではない(同申立書3頁,6項)旨の主張内容とも整合する。ところが,控訴人は,平成24年1月26日付け準備書面(2)において,控訴人は養母が病に倒れ身の回りの世話を必要としていると知り,自ら中国へ行き養母の世話をしなければならないところであったが,Aに○に起因する足の浮腫が長期療養にもかかわらず回復しないという状況があったので,今回は,控訴人に代わってAが中国で養母の介護をすると同時に中国の療法による治療を受けようと思ったこと,養母は88歳でその病状は一進一退で目が離せない状態で,その時点ではAはいつ日本に戻れるか決められなかったこと,Aは中国滞在中はずっと遼寧省鞍山市の養母の家に住んでいた旨主張するに至った(同準備書面(2),1頁)が,この主張は前記認定事実とは整合しておらず,明らかな主張の変遷と見られるのであり,Aが控訴人の養母の介護も目的の一つとして中国に帰国したことについては疑義が残る。 (イ) 備書面(2),1頁)が,この主張は前記認定事実とは整合しておらず,明らかな主張の変遷と見られるのであり,Aが控訴人の養母の介護も目的の一つとして中国に帰国したことについては疑義が残る。 (イ) 第2に,Aの中国での滞在予定期間について,控訴人はAの中国滞在は一時的なものであった旨主張する。しかし,上記(ア)のとおり,Aが自身の病気の治療の目的で中国に帰国したものとすると,本邦に入国後もさらに中国で治療する必要があるというのであるから,中国の治療によってもAの病気は完治しておらず,その治療内容や効果が不明であることからして,やはり滞在予定期間は不明であり,本邦への入国時期を確定することはできなかったものといえる。また,Aの中国への帰国の目的が,控訴人の主張するとおりであり,養母の介護をも目的とし,併せてAの○の治療をも目的としていたとすると,養母の病状が回復と悪化を繰り返しており,目が離せない状態であったというのであるから,養母の介護やAの○の治療にどれだけの期間が必要であるかは事前には想定することは出来ず,滞在予定期間は不明であったこととなる。 (ウ) 第3に,Aは法務大臣から「永住者」の在留資格により,平成17年7月22日までを有効期間とする数次再入国許可を受けており,A自身,その在留資格とパスポートに記載された有効期間を認識していたと解されるにもかかわらず(甲17),同年4月14日に本邦を出国後,上記有効期間内に本邦に入国することなく,そのまま中国に滞在し「永住者」在留資格を喪失し,翌平成18年2月23日に「日本人の配偶者」の在留資格をもって本邦に入国するまでの約10か月にわたり中国に滞在したものである。Aが,上記出国時から再入国許可の有効期間が約3か月あったにもかかわらず,この期間を超えて在留資格を喪失させるほ 資格をもって本邦に入国するまでの約10か月にわたり中国に滞在したものである。Aが,上記出国時から再入国許可の有効期間が約3か月あったにもかかわらず,この期間を超えて在留資格を喪失させるほどに中国に滞在し続けたことは,一定の期限の到来と共に本邦の居住地とされた場所に帰って生活を継続していく予定としていたこととは明らかに相反する事実である。 (エ) 以上の検討によれば,Aの中国への帰国の真の目的は必ずしも明らかでない上,控訴人の主張を前提としても,当初から相当長期にわたることが予定されたものと考えられ,実際に中国での滞在期間が10か月に及び,数次再入国許可の有効期間を超え,在留資格を喪失したことからすると,ある被保護者の居住地での不在が旅行等による一時的かつ短期によるものということは困難である。したがって,Aは,中国滞在期間中,本邦の居住地とされた場所における継続的,安定的な生活状態が失われており,もはや国内に居住地も有しないこととなったものと評価するのが相当である。 エそうすると,Aは中国滞在期間中,国内に居住地も現在地も有していなかったのであるから,保護の実施を受けることはできなくなったものというべきであり,控訴人が,上記期間中に支給を受けたAに係る保護費は本来支給されるべきではなかったこととなる。 オ以上によれば,控訴人に対し,Aの中国滞在期間中に支給を受けたAに係る保護費を返還することを命ずる本件費用返還金額決定処分は法19条の規定に違反するものということはできない。 したがって,本件費用返還金額決定処分が法19条に違反する違法な処分である旨の控訴人の主張は理由がない。 (2)ア控訴人は,原審及び当審において,控訴人もAも,Aの中国帰国の期間中も資力はなかったから,費用返還義務を定めた法63条の「資力が に違反する違法な処分である旨の控訴人の主張は理由がない。 (2)ア控訴人は,原審及び当審において,控訴人もAも,Aの中国帰国の期間中も資力はなかったから,費用返還義務を定めた法63条の「資力があるにもかかわらず保護を受けたとき」という要件に当たらず,本件費用額返還金額決定処分は法63条に違反する違法な処分である旨主張する。 イそこで判断するに,法4条1項は,保護の補足性の原則を定め,保護は,生活に困窮する者がその利用し得る資産,能力その他あらゆるものをその最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われると規定している。これを受けて,法8条1項は,保護の程度に関し,要保護者の需要のうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとすることを定めている。他方,法4条3項は,前2項の規定は急迫した事由がある場合に必要な保護を行うことを妨げるものではないとされ,補足性の原則からは本来的な受給資格を有するとはいえない場合であっても,特に「急迫した事由がある場合」には例外的に保護を受けることができる余地を残している。そして,法10条本文は,保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとし,昭和36年4月1日厚生省発社第123号厚生事務次官通知「生活保護法による保護の実施要項について」は,保護の要否及び程度について,原則として,当該世帯につき認定した最低生活費と,同通知によって認定した収入との対比によって決定するとしている。 また,法63条は,「被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければなら にもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。」と規定し,被保護者に対して最低限度の生活を保障するという保護の補足性の原則に反して生活保護費が支給された場合に,支給した生活保護費の返還を求め,もって生活保護制度の趣旨を全うすることとしている。 ウ本件においては,引用にかかる原判決の前提事実(2)のとおり,控訴人は,平成9年10月1日,A及び2人の子との世帯の世帯主として,北区福祉事務所長に対し,法24条1項の規定に基づき,生活保護の開始申請をし,北区福祉事務所長による保護開始決定を受け,Aにかかる分を含めて保護 金品の支給を受けていた。そして,被保護者は,収入,支出その他生計の状況について変動があったとき,又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは,すみやかに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない(法61条)とされているにもかかわらず,控訴人及びAは,事前に北区福祉事務所長に対する届け出義務を怠って,中国に渡航及び帰国した。そのため,北区事務所長は,平成18年3月14日に控訴人からパスポートの提示を受けるまでAが中国に帰国し,国内における居住地をも有しないこととなった事実を知らずに,控訴人に対し,中国滞在期間中のAに係る保護費を含めた支給を行ったものである。 そして,上記(1)に判断したとおり,控訴人は,Aが中国に長期滞在し,国内に居住地も現在地も有していなかったことにより,保護の実施を受けることはできなくなったにもかかわらず,Aに係る保護費の支給を受けていたものであるから,控訴人は,保護の補足性の原則に反し,Aに係る保護費の支給を受けた 有していなかったことにより,保護の実施を受けることはできなくなったにもかかわらず,Aに係る保護費の支給を受けていたものであるから,控訴人は,保護の補足性の原則に反し,Aに係る保護費の支給を受けたものというほかない。そうすると,控訴人は,上記期間中,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,Aに係る保護費の支給を受けていたものということになるから,北区福祉事務所長は,法63条に基づき,控訴人に対し,Aの中国滞在期間中に支給を受けたAに係る保護費について返還を命ずることができる。 したがって,北区福祉事務所長が,控訴人に対し,Aの中国滞在期間中に支給を受けたAに係る保護費について返還を命じた本件費用返還命令が法63条の要件に当たらない違法な処分である旨の控訴人の主張は理由がない。 (3) 小括そうすると,本件費用返還金額決定処分が違法な処分であるということはできず,控訴人が,北区福祉事務所長に対し,本件費用返還金額決定処分の取消しを求めるのは理由がない。 3 結論以上によれば,控訴人の本件請求は理由がないから棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当である。 よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第22民事部 裁判長裁判官加藤新太郎 裁判官柴田秀 裁判官河田泰常
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