1 主 文原判決を破棄する。 被告人は無罪。 理 由本件控訴の趣意は,弁護人作成の控訴趣意書記載のとおりである。論旨は,事実誤認及び量刑不当の主張である。 第1 事案の概要原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は,「被告人は,A及び氏名不詳者と共謀し,営利の目的で,みだりに,令和2年6月1日(現地時間),カナダ内において覚醒剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する粉末約3526.9gを隠匿した航空小口急送貨物1個を,長野県塩尻市所在のB方宛てに発送し,同月3日,その貨物を千葉県成田市所在の成田国際空港に到着させた上,空港関係作業員にこれを航空機の外に搬出させて日本国内に持ち込み,もって覚醒剤を本邦に輸入するとともに,同日,東京都江東区所在のC株式会社a保税蔵置場に搬入させ,同日,同区所在の東京港湾合同庁舎1階東京税関税関検査場及び同庁舎1階東京税関共用会議室において,税関職員の検査を受けさせ,もって関税法上の輸入してはならない貨物である覚醒剤を輸入しようとしたが,税関職員に発見されたため,その目的を遂げなかった」というものである。 第2 事実誤認の主張について1 論旨は,被告人には覚醒剤輸入に関する故意がなく,共犯者との共謀や営利目的もなかったのに,これらを認定した原判決には事実誤認があるという。 2 原判決は,要旨次のとおり説示した。 ⑴ 関係各証拠によれば,被告人は,令和2年4月末頃Aから荷物の送付先を紹介してほしいと依頼され,同年5月14日頃知人であるBの承 2 諾を得てAにB方を紹介したこと,氏名不詳者がカナダ内で同年6月1日(現地時間)覚醒剤を隠匿したボードゲーム在中の航空小口急送貨物(以下「本件貨物」という。)をB方宛に発送したこと,本件貨物が 諾を得てAにB方を紹介したこと,氏名不詳者がカナダ内で同年6月1日(現地時間)覚醒剤を隠匿したボードゲーム在中の航空小口急送貨物(以下「本件貨物」という。)をB方宛に発送したこと,本件貨物が成田国際空港に到着した同月3日,税関検査で覚醒剤隠匿が発覚したため,捜査機関が覚醒剤を無害な物に取り換え,同月11日代替物が在中した本件貨物がB方に配達され,Bがこれを受領したことが認められる。 ⑵ア Aの依頼は,Aや被告人が自ら荷物を受け取ることが可能であるのに,あえて第三者方に荷物を送付し受け取らせるというもので,通常の荷物の受取方法としては相当不自然で怪しいこと,Aとは仕事上の付き合いしかない被告人は,Aの依頼に不自然な点や納得できない点があれば詳細を確認し断ることもできるのに,最終的にAの依頼を引き受けたことからすれば,被告人は,本件貨物に何らかの違法な物が入っている可能性を認識した上でその依頼を引き受けたと考えられる。そして,違法な物として覚醒剤を含む違法薬物も想起できたはずであり,被告人が本件貨物の中身を覚醒剤以外の特定の物だと思っていた事情もないから,被告人は,本件貨物に覚醒剤を含む違法薬物が入っている可能性を認識していたと推認される。 イ 被告人は,Aから催促され,少なくとも2回,電話がないB方に行って本件貨物の到着状況を確認し,未配達であることをAに報告し,さらに内妻であるDをB方に行かせて本件貨物の配達の有無を3回確認させており,このような積極的な行動から,被告人は本件貨物を一刻も早く回収する必要があると考えていたとみられ,被告人が本件貨物に覚醒剤を含む違法薬物が入っている可能性を認識していたことと整合する。 ウ また,国内配達では配達時期が分からなかったり10日以上も配 3 達に要するなど考えにくく,被 被告人が本件貨物に覚醒剤を含む違法薬物が入っている可能性を認識していたことと整合する。 ウ また,国内配達では配達時期が分からなかったり10日以上も配 3 達に要するなど考えにくく,被告人がそのような事情を認識しながらAに何も事情を確認していないことからすれば,被告人は本件貨物の発送元が海外である可能性を当初から認識していたと考えるのが自然である。 ⑶ AがB方を紹介された後,実際に本件貨物がB方に発送されたことからすると,AがB方の住所をカナダの密輸関係者に伝えたことは明らかであり,被告人はAを通じてそれらの者と順次共謀を遂げたと認められる。 また,被告人は,仕事の紹介を求めて仕事上の知人であるAに連絡したことを契機に,摘発される危険があるような内容のAの依頼を引き受け,本件貨物を回収するため積極的に行動していたことから,Aから何らかの報酬を約束されていたとみるのが自然であり,営利目的が認められる。 3 しかしながら,被告人について,覚醒剤輸入の故意,共犯者との共謀,営利目的を認め,覚醒剤輸入(関税法違反を含む。)の共同正犯であるとした原判決の判断は,論理則,経験則等に照らして不合理であり,是認することができない。以下,その理由を述べる。なお,日付の記載は,とくに断らない限り,いずれも令和2年のものである。 ⑴ 原判決において被告人の故意を推認することに用いられた間接事実について原判決は,覚醒剤輸入の故意の推認に関する間接事実として,①被告人が4月頃,Aから荷物の送付先を紹介してほしいとの依頼を受け,5月14日頃,知人であるBの承諾を得た上,Aに荷物の送付先としてB方を紹介したこと,②被告人が,6月上旬頃,Aから荷物の確認を催促され,少なくても2回,電話を持たないB方に行き,荷物の配達状況を確認し,未 頃,知人であるBの承諾を得た上,Aに荷物の送付先としてB方を紹介したこと,②被告人が,6月上旬頃,Aから荷物の確認を催促され,少なくても2回,電話を持たないB方に行き,荷物の配達状況を確認し,未到着であることをAに報告し,さらに自分が同月9日から持 4 病の治療のため入院することになっていたが,同居の内妻であるDに対し,B方に行って荷物が到着していないか確認するよう指示し,Dが,同月8日,10日,11日の3回,B方を訪ね,荷物の配達状況を確認した事実を認定している。原審で取り調べた証拠から上記の事実を認定した判断は合理的である。 ⑵ 原判決の推認力の判断とその問題点について① Aの依頼内容からの推認について原判決は,上記⑴①の事実から,「Aの依頼は,Aや被告人が自ら荷物を受け取ることが可能であるにもかかわらず,あえて第三者方に荷物を送付し受け取らせるというもので,通常の荷物の受取方法としては相当不自然で,怪しいものである」とするとともに,被告人とAとの関係からすると,「Aからの依頼に不自然な点や納得できない点があれば,詳細を確認したり,その依頼を断ったりすることが可能であったと考えられるが,Aの依頼を最終的に引き受けて」おり,このような事情からすると,被告人は,「本件貨物内に覚醒剤を含む違法薬物が入っている可能性を認識していたことが推認される」と判断している。 確かに,Aの依頼は,通常の荷物の受取方法とは異なっており,被告人もそのことを認識していたはずである。しかし,自分が直接荷物を受け取るという通常の方法とは異なって,第三者に受け取ってもらうことを選択する事情としては,本来の受取人の住居が固まっていないとか,住居に帰りにくい理由があるなど,受取人が自ら受け取ることが物理的に困難な事情がある場合も考えら なって,第三者に受け取ってもらうことを選択する事情としては,本来の受取人の住居が固まっていないとか,住居に帰りにくい理由があるなど,受取人が自ら受け取ることが物理的に困難な事情がある場合も考えられるし,送り主に自宅の住所を知られたくない場合も考えられる。荷物の中身に関しても,家族に黙って行っている副業に関する物とか,家族には秘密の交際相手に関する物など,違法な物でなくても,自宅を送付先とすることには 5 支障がある場合もある。違法なことに関わる物としても,コピー商品,わいせつ物,盗品等,様々な物があり得る。Aからの依頼内容の背景事情としては,様々な可能性があるのに,原判決は,それらの可能性を踏まえて検討した形跡がうかがえない。 なお,原判決は,国内からの通常の配達であれば,配達の時期が分からなかったり,10日以上も配達にかかったりすることは考えにくいことなどから,被告人は,荷物の発送元が海外である可能性を当初から認識していたと考えるのが自然であると判示し,その事実も被告人の故意を推認する根拠に挙げている。しかし,被告人が荷物の発送日を知っていたと認めるに足りる証拠はなく,荷物の配達状況を確認していた間,時間がかかっていたことを推察できたにすぎない。そうだとすると,生産者や製造業者等に発注して商品を送ってもらうような場合には,注文から配達まで時間がかかったり,配達時期が不確定であったりすることがあり得るし,配達物の中身によっては,入手や発送準備に時間がかかり,最終的な配達時期が確定しないという場合もあり得るのであって,原判決適示の事情からただちに,荷物の発送元が海外である可能性を認識していたと考えるのが自然であるということにはならない。とりわけ,Aの依頼を引き受けた時点では,被告人が荷物の発送元がどこか推測すること 適示の事情からただちに,荷物の発送元が海外である可能性を認識していたと考えるのが自然であるということにはならない。とりわけ,Aの依頼を引き受けた時点では,被告人が荷物の発送元がどこか推測することができる手がかりは見当たらず,この時点で荷物の発送元が海外である可能性を認識していたとは到底認められない。 そして,被告人が荷物の大きさ,形状,品名,発送元等を知っていたことをうかがわせる証拠はないことをも併せ考えると,被告人が,Aの依頼内容から,荷物の中身が違法な物ではないかと考えた可能性はあるものの,違法薬物を含む違法な物が入っている可能性を認識したはずであると推認できるほどの強い推認力は認められず,原判決の 6 論理には飛躍があるというべきである。 また,原判決は,前記のとおり,「Aからの依頼に不自然な点や納得できない点があれば,詳細を確認したり,その依頼を断ったりすることが可能であったと考えられるが,Aの依頼を最終的に引き受けている」ことを被告人の故意を推認する論理として用いているが,その論理には,被告人が,その詳細を確認したり,その依頼を断らなければ,被告人に相当の不利益が及ぶということを被告人自身が認識していたことが前提となっていると考えられる。被告人がその不利益を想定していなければ,依頼内容自体は単純なものであり,これまでの人間関係等から,詳細を確認しないまま,その依頼を引き受けることは十分にあり得るのであり,結局のところ,Aの依頼内容から荷物の中身が違法なものである可能性を認識していたはずであるということを前提にした論理に他ならない。その可能性はあるものの,ただちに違法薬物を含む違法な物が入っている可能性を認識したはずであるとまでは推認することができないことは前記したとおりであって,被告人がAの依頼に にした論理に他ならない。その可能性はあるものの,ただちに違法薬物を含む違法な物が入っている可能性を認識したはずであるとまでは推認することができないことは前記したとおりであって,被告人がAの依頼に応じたことが被告人の故意を推認する力を強めているとはいえない。 ② 荷物回収のための積極的行動からの推認についてまた,原判決は,前記⑴②の事実について,荷物の配達状況の確認に関する「被告人の積極的な行動は,被告人が本件貨物の回収を任されており,本件貨物内に覚醒剤を含む違法薬物が入っている可能性を認識していたことと整合する」と判示するとともに,「Aからの催促の電話がうっとうしかったため,B方に度々確認しに行ったにすぎない」旨の被告人の供述について,「通常,配送業者に問い合わせることで配達状況等を容易に確認できるし,Bの住所を知っているA自身に確認しに行かせることもできたはずである」として,これを排斥し 7 ている。 被告人の行動からは,被告人は,Aより,B宅に荷物が届いたら,これを回収することを依頼されていたと認められるが,そのことと被告人が本件貨物内に覚醒剤を含む違法薬物が入っている可能性を認識していたこととは繋がらない。被告人が荷物の中身をどのように認識していたにしても,AにB宅を荷物の送付先として紹介した者として,荷物の回収の依頼を受けるのは不自然であるとはいえないし,その依頼を受けたら,回収に向けた行動を取るのも当たり前であって,Aから催促の電話を受けて,複数回にわたり,電話がないB宅に配達の有無を確認するのも不自然な行動ではない。 加えて,配達業者や配達依頼内容等を知っているのは発送元であって,配達を受ける側で配達状況を確認するのは困難であるし,Aに確認しに行かせることもできたからといって,被告人が直接 行動ではない。 加えて,配達業者や配達依頼内容等を知っているのは発送元であって,配達を受ける側で配達状況を確認するのは困難であるし,Aに確認しに行かせることもできたからといって,被告人が直接確認するのが不自然であるという事情にはならないから,これらは,被告人の供述を排斥する根拠にはならない。 原判決が荷物の回収に向けた被告人の積極的な行動を被告人の故意を推認する根拠としているのは,論理則,経験則に反しているといわざるを得ない。 ③ その他なお,原判決は,営利目的の判断において,報酬約束があった旨の判断をしているが,その判断も,被告人には本件貨物に覚醒剤を含む違法薬物が入っている可能性があるとの認識があることを前提とするものであるところ,そのようにいえないことは前記のとおりである。 報酬約束があった旨の間接事実は認められない。 ⑶ 小括結局のところ,原判決は,Aの依頼内容の不自然性から,被告人が本 8 件貨物の中身が覚醒剤を含む違法薬物の可能性があることを認識したはずであると推認していることに留まるが,第三者方を荷物の受取先とする理由としては様々な事情があり得るのであるから,被告人において,Aに何らかの事情があるのであろうという程度にしか考えなかったり,別の可能性等が思い浮かび,違法薬物の可能性を想定しなかったりした合理的な疑いは残るというほかない。原審の推認過程は,大きな飛躍があり,論理則,経験則等に照らして不合理であるというべきである。 第3 結論以上によれば,被告人に覚醒剤輸入(関税法違反を含む。)の故意を認めるには合理的な疑いが残るのに,その故意を認めて被告人を有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。 事実誤認の論旨は理由があり,その余の論旨につ 含む。)の故意を認めるには合理的な疑いが残るのに,その故意を認めて被告人を有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。 事実誤認の論旨は理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。 第4 破棄自判よって,刑事訴訟法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して,さらに判決をする。 訴因変更後の本件公訴事実の要旨は,原判決が認定した罪となるべき事実と同旨であるところ,既に検討したとおり,被告人に覚醒剤輸入(関税法違反を含む。)の故意があったと認めるには合理的な疑いが残り,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し,無罪の言渡しをする。 令和4年1月19日名古屋高等裁判所刑事第1部 9 裁判長裁判官 𠮷 村 典 晃 裁判官 内 山 孝 一 裁判官 大 久 保 優 子
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