主文 被告人を懲役1年10月に処する。 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)第1 被告人は、障害児通所支援事業を営む合同会社Aが運営する事業所「B」において、児童発達支援管理責任者として、同事業所を利用する児童の支援計画を立案するなどの業務に従事していたものであるが、令和4年12月9日午後3時45分頃、大阪府吹田市(住所省略)所在の同事業所駐車場において、同社従業員として児童の送迎等の業務に従事していたCが、同事業所に通所するD(当時13歳)をC運転の送迎用自動車後部座席に乗車させて同所まで送り届けた後、同車から降車させて同事業所建物内に引率するに当たり、Dは、重度の自閉症及び知的障害を有する者で、自己の生命・身体に対する危険性を十分認識することができず、衝動的に行動する特性を有するとともに、水に対する強い執着があり、過去に、送迎車乗車時、隙を見て車外に逃走し、同事業所付近の水路に飛び込むなどしたことがあったなど、送迎車乗降時、同人が自由に行動できる状態となれば、車外に飛び出し、同事業所南側に位置するE川に飛び込んで溺水する可能性があったのであるから、同人の送迎車乗降時には、従業員2人で引率するなどの送迎時の体制を整備すべきはもとより、従業員2人の引率が困難な場合は、引率者に対し、同駐車場門を閉門しておくなどDの送迎車乗降時の逃走を確実に防止し得る対策を講じるよう指導すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、同人の送迎車乗降時の引率体制を整備せず、Cに対し、Dを送迎車から降車させる際、同駐車場門を閉門させておくなど同人の逃走を確実に防止し得る対策を講じるよう指導しなかった過失と、Cが、Dの送迎車乗降時には、同人の逃走を確実に防止し得る対策を講じた上、同人 降車させる際、同駐車場門を閉門させておくなど同人の逃走を確実に防止し得る対策を講じるよう指導しなかった過失と、Cが、Dの送迎車乗降時には、同人の逃走を確実に防止し得る対策を講じた上、同人 の動静を注視する業務上の注意義務があるのにこれを怠り、同駐車場門を開放した状態で、送迎車後部座席のドアを開け、Dのシートベルトを外した後、同人の動静を注視せず、同車助手席に置いた荷物に気を取られて同人から目を離した過失の競合により、前記日時頃、同駐車場において、Dを同車後部座席から降車させて同事業所の敷地外に飛び出させた上、同事業所南側に位置する同市(住所省略)F方南側図測約25メートルの前記E川右岸から同川内に飛び込ませ、よって、同日午後4時頃、同川内水中において、同人を溺死させた。 第2 被告人は、令和5年2月23日午前10時43分頃、大阪府吹田市(住所省略)所在の指定障害児通所支援事業所である前記「B」において、同所に通所していたG(当時15歳)に対し、両手に持ったバランスボールをその顔面に投げ付けて当てる暴行を加えた。 第3 被告人は、同日午後1時46分頃から同日午後1時47分頃までの間、同所において、Gに対し、両手の平手でその顔面を殴るなどの暴行を加えた。 第4 被告人は、同日午後4時55分頃、同所において、Gに対し、右手に持ったバインダーでその顔面を殴る暴行を加えた。 第5 被告人は、同年3月1日午後4時48分頃、同所において、Gに対し、両手でその髪をつかみ、その頭部に数回頭突きをした上、右足でその左足を数回蹴るなどの暴行を加えた。 第6 1 被告人及びHは、共同して、同日午後4時51分頃から同日午後4時52分頃までの間、同所において、Gに対し、Hが右手でその髪をつかんで引き倒し、その頭部を床に数回たたき付けるなどし、被 第6 1 被告人及びHは、共同して、同日午後4時51分頃から同日午後4時52分頃までの間、同所において、Gに対し、Hが右手でその髪をつかんで引き倒し、その頭部を床に数回たたき付けるなどし、被告人が右手の拳骨でその頭部を数回殴り、 2 被告人、I及びHは、共同して、同日午後4時52分頃から同日午後4時56分頃までの間、同所において、Gに対し、被告人が両手の拳骨でその頭部等を数回殴り、右足でその顔面を蹴るなどし、Hが右足でその胸部等を数回蹴る などし、Iが右手の拳骨でその頭部等を数回殴るなどし、もって数人共同して暴行を加えた。 (証拠の標目)(省略)(法令の適用)(省略)(量刑の理由)業務上過失致死(判示第1)については、被告人は、被害者が衝動的に行動する特性を有し水に対する強い執着があることを把握し、実際にも水路に飛び込んだり、本件で被害者が飛び込んだ川の近くにまで逃走したりしたことがあったにもかかわらず、被害者の送迎時の体制を整備したり、引率者に対して確実に逃走を防止し得る対策を講じるよう指導しなかったものである。被告人は、逃走防止のために一定の指導をすること自体はあったが、その内容自体被害者の特性や過去のヒヤリハットの内容等を踏まえれば十分なものではなかったし、送迎車乗降時に従業員2人で引率するといった体制を整備することや駐車場門の閉門といった逃走防止策を講じることはその内容からして十分に実施可能なものであったといえることからすれば、被告人は児童発達支援管理責任者という立場で障害を有する児童を預かる者として危機意識に欠けた対応をしたといわざるを得ず、その過失は重大である。 本件においては、被害者の送迎をしたCが特段の逃走防止策を講じていない状況で被害者の動静を注視しなかったというCの過失が 者として危機意識に欠けた対応をしたといわざるを得ず、その過失は重大である。 本件においては、被害者の送迎をしたCが特段の逃走防止策を講じていない状況で被害者の動静を注視しなかったというCの過失が競合しているが、その過失は、逃走の危険性がある利用者を送迎する上で基本的な注意義務に違反したもので、相応に重大なものであるし、本件事故の直接の原因となっており結果発生に与えた影響も大きいものである。もっとも、Cが注意義務を怠ったことには、送迎時の体制整備やCへの指導を怠ったという被告人の過失が背景にあったといえ、本件における被告人の過失はCの過失よりも重大なものであったと評価すべきである。 また、本件事故により被害者が死亡するという重大な結果が生じているが、突然 被害者を失った被害者の遺族の悲しみや怒りは察するに余りある。被害者の両親が被告人の厳罰を求めることは当然であり、当公判廷における意見陳述においてもその悲しみや怒りの心情を述べている。 そして、暴行、暴力行為等処罰に関する法律違反(判示第2ないし第6)については、被告人は、約1週間のうちに多数回にわたり被害者に暴行を加えており、その態様も被害者の頭部を拳骨で殴ったり、顔面を蹴るなどの強度なもので、悪質な犯行である。被害を訴えることが困難で暴行を受けるしかなかった被害者の肉体的苦痛や精神的苦痛も軽視することはできない。 被告人は、被害者が他害行為等に及ぶことに立腹し犯行に及んでいるが、被害者の言動は被害者が有する障害の影響によるものであり、障害児通所支援事業所を実質的に運営する者で被害者の特性を把握している被告人としては、他害行為が激しいとしても被害者の特性に応じた適切な対応をすべきであったのであるから、犯行の経緯や動機には酌むべき点はないというべきである。 以上によれば 被害者の特性を把握している被告人としては、他害行為が激しいとしても被害者の特性に応じた適切な対応をすべきであったのであるから、犯行の経緯や動機には酌むべき点はないというべきである。 以上によれば、被告人の刑事責任を軽視することはできない。 被告人は、事実を認めて反省の弁を述べてはいるが、判示第1の犯行についてCに責任転嫁するような供述をするなど自己の責任の重大性と真摯に向き合い反省を深めているような様子は見受けられない。 他方で、被告人に前科がないことや、合同会社Aの加入していた損害保険によって判示第1の犯行に関し一定の賠償が見込まれること、被告人が判示第2ないし第6の被害者に示談の申入れをしたこと、前記事業所が閉鎖となり失職するなどの社会的制裁を受けたことなどの酌むべき事情がある。 そこで、以上の事情を考慮して、本件においては、被告人を主文の刑に処した上、その刑の執行を猶予することとした。 (求刑懲役1年10月)令和6年12月23日大阪地方裁判所第12刑事部 裁判官中井太朗
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