【DRY-RUN】主 文 原判決を破棄する。 本件を浦和地方裁判所に差し戻す。 理 由 弁護人古島義英の控訴趣意は別紙記載のとおりで、これに対し次のように判断す る。
主文 原判決を破棄する。 本件を浦和地方裁判所に差し戻す。 理由 弁護人古島義英の控訴趣意は別紙記載のとおりで、これに対し次のように判断する。 論旨第一点について。 一件記録によつて原審における訴訟の経過を見るに、本件においては最初、昭和二十六年九月二十三日附をもつて「被告人は、北葛飾郡a村大字b、c番地A(当五十四年)が同家女中B(当十七年)と不義の情交を遂げ同女を懐胎せしめ同人等が共謀の上墮胎した事実を聞知し、之れが示談の名を藉りて金員を喝取しようと企て、昭和二十六年八月七日頃、同人に対し「墮胎の示談について五万円出せ、裁判所へ告訴すれば拾万や拾五万円はとれる」等の旨を申向け、若し要求に応じなければ裁判所に告訴するが如き態度を以て同人を畏怖せしめ、同年八月八日頃自宅に於て同人等より現金五万円を交付させ、以つて喝取したものである。」(その後、右の事実の後半につき「八月七日頃、A方に於て同人妻Cに対し「墮胎の示談について五万円を出させ、暴行(強姦)事件として裁判所に告訴すれば拾万や拾五万円はとれる」等の旨を申向け、若し要求に応じなければ裁判所に告訴するが如き態度を示して脅迫し、その旨な夫Aに告げさせ因つて同人を畏怖せしめ、同月八日頃自宅に於て同人より、現金四万円の交付を受けて之を喝取したものである」と訴因を変更)との事実につき恐喝罪として公訴が提起されたものであるが、右の事件の審理の進行中である同年十一月十日に至つて、検察官は次のような書面を裁判所に提出した。すなわち右の書画は、「追起訴状」と題し、通常の起訴状作成に用いられる不動文字を印刷した用紙を用いたもので、「公訴事実」として「被告人は、法定の除外事由がないに拘らず、昭和二十六年七月三十一日頃、自宅に於てDから、其 追起訴状」と題し、通常の起訴状作成に用いられる不動文字を印刷した用紙を用いたもので、「公訴事実」として「被告人は、法定の除外事由がないに拘らず、昭和二十六年七月三十一日頃、自宅に於てDから、其の娘BとAが不義の情交をなし同女を懐胎せしめこれを墮胎した事件に関し、Aに対し慰藉料請求の依頼を受け、同年八月四日頃、同月七日頃、同月八日頃の三回に亘りA方を訪れ、慰藉料の件に関して交渉をなし、同月九日その自宅に於てAから慰藉料として金四万円をDに交付させ、その場でDから二万円の報酬を得て業を営んだものである。」と記載され、「罪名」として「弁護士法違反」「同法第七十二条、第七十七条」との記載があるほか、一般の起訴状と全く同様の記載がなされているのであるが、たゞ前記の公訴事実の項の前に、括弧して『訴因は、昭和二十六年九月二十三日附Eに対する恐喝被告事件として貴庁宛公訴を提起した(昭和二十六年十月二十九日訴因の変更)公訴事実の中から択一する。』との文言の記載されていることが注意に価する点である。そして、これを受理した原裁判所は、右の書面の謄本を被告人に送達し、被告人は右弁護士法違反被告事件につき改めて弁護人選任の手続をとり、同年十一月十二日の被告人に対する前記恐喝被告事件の第五回公判期日において原裁判所は右弁護士法違反被告事件の審理をこれに併合する旨を宣し、検察官をして右追起訴状と題する書面を朗読させた上、被告人及び弁護人に対して右被告事件につき陳述する機会を与えている。次いで同月十五日の第六回公判期日には、弁護人から「本件の追起訴は法律上許されないから公訴を棄却せられたい」との陳述があつたが、裁判所は別にこれに対する判断は示さず、引き続き審理を進め、同年十二月三日の第八回公判期日をもつて一旦結審したところ、同月十四日の第九回公判期日に検察官 ら公訴を棄却せられたい」との陳述があつたが、裁判所は別にこれに対する判断は示さず、引き続き審理を進め、同年十二月三日の第八回公判期日をもつて一旦結審したところ、同月十四日の第九回公判期日に検察官は弁論の再開を求め、昭和二十六年十一月十日附追起訴状の記載の一部を「訴因は昭和二十六年九月二十三日附Eに対する恐喝被告事件として貴庁宛公訴を提起した(昭和二十六年十二月二十九日訴因の変更)公訴事実と本件追訴の公訴事実の中から択一する。 二公訴事実被告人は農業を営む傍ら弁護士でなく且つ法定の除外事由がないに拘らず報酬を得る目的で昭和二十六年七月三十一日頃自宅に於てDからその娘のBがAとの間に不義の児を懐胎次いでこれを墮胎した事件に関しAに対し慰藉料請求の依頼を受け、同件に関し数回A側と交渉し遂に同年八月九日頃被告人の自宅に於てA方から慰藉料として金四万円をDに交付させ、以て法律事務を取扱い、因つてDから金二万円の報酬を得る等により法律事務の業を営んだものである。」と補充し、かくて原裁判所は再び弁論を終結して即日被告人に対し弁護士法違反の事実につき有罪の言渡をしたものである。 そこで問題は、前記の追起訴状と題する書面が法律上いかなる性質のものなのかということである。思うに右の書面はその全体の体裁からいえば、これを追起訴の意思表示と解するのが最も素直な見方であろう。そしてそのように解すれば、訴因をすでに公訴を提起した恐喝の事実と択一的ならしめるという趣旨の括弧中の記載(この趣旨は原審の第九回公判期日における検察官の補充申立によれば一層明瞭である。)は結局すでに提起された公訴と右の追起訴とを択一的な関係に置くという意味を現わしているものと考えなければならない。しかし、いま少しく考えてみると、そこに「訴因」ということばが使われているような る。)は結局すでに提起された公訴と右の追起訴とを択一的な関係に置くという意味を現わしているものと考えなければならない。しかし、いま少しく考えてみると、そこに「訴因」ということばが使われているようなところから見れば、あるいはそれは追起訴ではなく、単に択一的な訴因の追加を請求する趣旨の書面であると解する余地もありそうである。その意味では、右の書面の法的性質は必ずしも明瞭なものであるとはいえない。そこで、これに対してはおよそ形式的確実性の強く要求される刑事訴訟手続において、法律にうとい被告人その他の関係人ならともかく、いやしくも専門の法律家であるべき検察官の提出する書面にかくのごとく内容の明確性を欠くことは許されないのであつて、従つてかかる書面は起訴状としても訴因追加の請求書としても無効である。とする見解もたしかに一理なしとしないであろう。しかしながら、飜つて考えるのに、たとえかかる不明瞭な訴訟行為であつても、行為者の結局において実現せんとする意図が明らかであり、かつこれをその意思に従つた合法的な行為と解釈する余地があつて、しかもかように解することにより訴訟手続の確実性を害し、又は訴訟関係人に不利益を与えるようなことがないならば、これを有効なものとして取扱つてもなんら弊害はなく、むしろかく扱うことが訴訟経済の上からいえば望ましいところであるといわなければならない。本来ならば、本件においては原裁判所が右の書面を受理した後直ちに検察官にその趣旨につき釈明を求めておけば問題はなかつた筈である。しかし、それはなされていないのであるから、当裁判所としては右の書面自体その他の記録全般に照してこの問題を解決するほかはない。 思うに右の書面が前記弁護士法違反の点につき裁判所の審判を求める趣旨のものであることは疑がない。たゞそれが追起訴すなわち最初に公訴を 書面自体その他の記録全般に照してこの問題を解決するほかはない。 思うに右の書面が前記弁護士法違反の点につき裁判所の審判を求める趣旨のものであることは疑がない。たゞそれが追起訴すなわち最初に公訴を提起した公訴事実と別個の公訴事実をなすものとして審判を求めたものか、それともこれと公訴事実の同一性を害しない範囲で、たゞ訴因を追加する趣旨のものであるのかゞ問題なのである。よつてまずこの恐喝の事実と弁護士法違反の事実とが公訴事実として同一性を有しているかどうかを考えてみるのに、甲事実と乙事実とが公訴事実として同一であるというためには、この二種の事実がその具体的事案においては両立することのできないものであるか、そうでなければ両立しうるとしても法律上一罪として処断される関係になければならないと解する。けだし、それが併立して犯罪を構成することが可能なものでありしかも併合罪の関係に立つような場合においてはそれは当然それぞれ別個に公訴提起の対象となるべきものであつて、かゝる事実の間にまで公訴事実の同一の関係を認めるというようなことはそれ自体矛盾するとどだからである。ところで、本件における右の恐喝の事実と弁護士法違反の事実とは、第一に両立しえないものではない。被告人がAを恐喝して金員を交付せしめたという事実と法律事務の取扱を業としたという事実とは同時に存在することの可能なものであり、しかもその雙方の事実が認められたとすればこの両者は同時にそれぞれ犯罪を構成する性質のものである。のみならず、その二つの罪は刑法第五十四条にいわゆる牽連犯又は想像的競合の関係に立つものではない。この場合特に疑を生ずるのはその後者ではないかということであるが、なるほどこの二個の事実はかなり密接な関連性をもつものではあるけれども、一は他人を恐喝して金員を交付せしめるという行為より ではない。この場合特に疑を生ずるのはその後者ではないかということであるが、なるほどこの二個の事実はかなり密接な関連性をもつものではあるけれども、一は他人を恐喝して金員を交付せしめるという行為より成るものであり、一は法律事務を取り扱うことを業とするという行為から成るもので、この両個の行為は決して同一の行為であるということはできないのである。もつとも、この二つの行為を仔細に見てゆくとき、事実行為としてはその一部に相重なり合う部分があるかもしれない。しかし、もともと刑法第五十四条第一項前段の規定は、自然的観察において一個の行為にすぎないものがたまたま数個の刑法上の評価を受けた場合に、その本来一個の行為に止まる点に着眼してその法的評価の重複に一種の制限を加える趣旨の規定なのであるから、その適用があるのは行為が完全に一つのものといえる場合に限るのであつて、単に数個の行為がその一部においてだけ重なり合うにすぎないような場合にまで拡張して適用すべきものではないと解しなければならないのである。してみれば、この本件における二個の事実は、それがともに証明された場合においては併合罪の関係に立つものであつて、従つてその間に公訴事実の同一という関係は存しないといわなければならない。そして、かくのごとき関係にある以上、すでにその一つである恐喝の点につき公訴を提起してある本件においては、検察官がさらに弁護士法違反の点につき審判を求めようとすれば当然に新たな公訴の提起(追起訴)の方法によるべきであつて、訴因の追加又は変更の方法によることは許されないのである。従つて、本件で問題となつている前記追起訴状と題する書面を検察官の本来の意図に従つて有効に解釈しようとすれば、これを追起訴の書面と見るべきものであり、またかく解することが右書面の大体の形式にも一致するのである。た 問題となつている前記追起訴状と題する書面を検察官の本来の意図に従つて有効に解釈しようとすれば、これを追起訴の書面と見るべきものであり、またかく解することが右書面の大体の形式にも一致するのである。たゞかように解した場合、さらに今一つ問題となるのは、そこに記載された訴因を択一する云々という括弧の中の文言である。この書面を追起訴状と見る限りは、その文言は前述したとおり択一的起訴の趣旨を現わしているものと解するほかわないであろう。しかしながら公訴の提起を択一に行うということは現行刑事訴訟法の許さゞるものであること多言を要しないところである。それゆえ追起訴にこのような条件を附することは無効であるといわなければならない。それならばかかる無効な条件を附した本件の追起訴はその全体が無効になるというべきであろうか、それともその条件の部分だけ効力を生じないに止まるのであろうか。この点も結局は訴訟行為をした当事者の意思を推測して決定さるべき問題である。そこで、この点を本件訴訟の経過全体に照して考えてみると、検察官がそこに「択一」という文言を記載したのは、すでに起訴した恐喝の点が無罪となることを虞れて、もしそれが無罪となつても弁護士法違反の点をさらに審判されたいという趣旨に出た<要旨>ものと推測されるのであつて、恐喝か弁護士法違反かそのいずれかでなければ審判を欲しないというほどその</要旨>「択一」という点を重要視しているものと解すべき理由はどこにも発見することができない。しからば本件においては起訴の択一ということが法律上許されないものである以上、検察官としては無条件に右事実の審判を求めるというのが合理的に推測されたその真意であるというべきであるから、前記追起訴状と題する書面はこれを単純な追起訴状として有効なものと解すべく、またかように解しても別段訴訟関係 件に右事実の審判を求めるというのが合理的に推測されたその真意であるというべきであるから、前記追起訴状と題する書面はこれを単純な追起訴状として有効なものと解すべく、またかように解しても別段訴訟関係人に対して訴訟遂行上不利益を生ずるものとはいえない。従つて、原判決がそこに記載された弁護士法違反の事実につき実体の裁判をしたことは結局において違法の点はないわけであつて、論旨はこの点においては理由がないといわなければならない。ただ、しかしながら、右に述べたごとく、本件弁護士法違反の点の起訴は、択一的起訴ではなく、単純な追起訴と見るべきものであるから、原裁判所としては当然恐喝の点の当初の起訴に対しでも裁判をしなければならなかつた筋合である。 しかるに原判決はたゞその理由中において「なお恐喝の点は犯罪の証明が充分でないから採らなかつた」と説示するに止まり、主文においてはその点に関しなんらの裁判もしていないのであつて、その部分に関し原判決には審判の請求を受けた事件について判決をしなかつた違法が明らかに存する。従つて、それはこの点において到底破棄を免れないものである。 よつてその他の論旨に対する判断を省略して、刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十八条第三号に従い原判決を破棄し、本件は当裁判所において自判するのに適しないから同法第四百条本文によりこれを原裁判所である浦和地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。 (裁判長判事大塚今比古判事山田要治判事中野次雄)
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