主文 被告人を懲役2年8か月に処する。 未決勾留日数中120日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 平成13年9月4日午後5時10分ころ,神戸市a区b通c丁目d番e号所在のfビル2階麻雀店「A」において,同店経営者B所有の現金19万9000円を窃取し,第2 同年11月19日午後5時40分ころ,同市同区f通g丁目d番h号所在の麻雀店「C」において,同店経営者D管理の現金約10万2000円在中の財布1個(時価約5000円相当)を窃取し,第3 同月29日午後5時30分ころ,同市同区i通j丁目k番l号所在のmビル2階麻雀クラブ「E」において,同店経営者F所有の現金約60万円及びパスポート1通在中のポーチ1個(時価500円相当)を窃取し,第4 平成14年1月12日午後7時15分ころ,大阪市n区od丁目g番e号所在のpビル地下1階麻雀サロン「G」において,同店経営者H所有の現金約3万8000円を窃取し,第5 同年7月18日午後5時5分ころ,神戸市a区琴ノ緒町h丁目q番h号所在のrビル2階208号室麻雀店「I」において,J他1名所有の現金3万7000円を窃取したものである。 (証拠の標目)―括弧内の甲,乙で始まる数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略(判示第1の事実(以下「本件犯行」という。)についての事実認定の補足説明) 1 関係証拠によれば,被告人は,判示第1の麻雀店「A」において,被害者である同判示Bにたばこを買ってくるよう依頼し,同女が店外に出た隙に同店内カウンター中央部にある引き出し(以下「本件引き出し」という。)から現金を窃取したことが認められる。 Bは,本件引き出しにはAの客と行く親睦旅行の参加 くるよう依頼し,同女が店外に出た隙に同店内カウンター中央部にある引き出し(以下「本件引き出し」という。)から現金を窃取したことが認められる。 Bは,本件引き出しにはAの客と行く親睦旅行の参加費用14万円を封筒に入れたものと釣り銭用の現金6万円等を,タッパー(プラスチック製の入れもの)入りの小銭と共に入れており,このうち現金6万円から被告人に頼まれてたばこを買いに行く際1000円を持ち出した残金5万9000円及び前記現金14万円入りの封筒(以下「本件封筒」という。)を盗まれたとしている。 これに対し,弁護人は,被告人は本件封筒(14万円)を盗んではおらず,窃取金額は19万9000円ではなく5万9000円である旨主張し,被告人も同様の供述をしている。 そこで窃取金額について検討する(なお,括弧内の甲,乙で始まる数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号であり,甲17ないし20についてはいずれも同意部分である。)。 2 まず,Bは,本件封筒は,通常十数人となる旅行参加希望者から順次受け取る参加費用を入れるため,毎日出勤時本件引き出しに入れ,また用心のため閉店後毎日自宅に持って帰っていたとし,本件犯行(被害)当日も,Bが被告人にたばこを買いに行かされるまで,6万円の釣り銭とともに本件引き出しに入っており,Bがこの6万円から1000円を取り出してたばこを買いに行って約5分後にAに戻ったときには本件封筒も5万9000円の釣り銭とともになくなっていたとする。 そして,Bが被害直後被害申告をしてその当日被害届を提出し,被害の約10日後には被害についての供述をしていること,これらの供述は,被害直後から一貫したものであると認められ,本件封筒を引き出しに入れる経緯,保管の状況等を含め詳細かつ合理的に述べられていること,被害を認識した には被害についての供述をしていること,これらの供述は,被害直後から一貫したものであると認められ,本件封筒を引き出しに入れる経緯,保管の状況等を含め詳細かつ合理的に述べられていること,被害を認識した直後にBがとったという行動にも沿うものであることなどからすると,Bの供述の信用性は極めて高いものといえる。 なお,Bの供述によれば,Bは被害届作成時(甲20と公判供述の対比から)や実況見分時には本件封筒内の14万円の金種について(全部が1万円札であったと)間違って説明等した模様であるが,Bが当時金種について意味がある思っていたことが窺われない(しかもBの公判供述によれば,被害届は営業中に代筆でなされたと認められる。)本件では,Bの前記間違いからその供述の信用性が左右されるとは思われない。 3 次に,被告人の供述の信用性について検討する。 (1) 被告人の前記供述は少なくとも窃取金額については本件犯行についての取調べ当初から一貫しており,また,被告人は全部で50件という窃盗事件を素直に自白しているもので,その中には窃取金額が約60万円と多額である判示第3の犯行についての自白もあるのであるから,被告人が本件犯行についてのみ,しかも金額の一部についてのみ虚偽を述べてこれを否認する動機は考え難い。 次に,被告人は,多数行った窃取について,窃取金額はおおむね5万円前後で,20万円も盗んだことがあれば記憶に残るはずであるが,Aでそのような大金を盗んだ記憶はないとし,また,本件犯行後の行動を思い出しても封筒から現金を出したという記憶もない等と供述しているところ,被告人の供述それ自体には,捜査段階,公判段階を通じて虚偽を述べているような部分はなかった。 さらに,本件引き出し内の金銭の置き方についての被告人の供述はBの供述と異なってお ているところ,被告人の供述それ自体には,捜査段階,公判段階を通じて虚偽を述べているような部分はなかった。 さらに,本件引き出し内の金銭の置き方についての被告人の供述はBの供述と異なっており,被告人の記憶違いであると認められるが,金品窃盗犯人は窃取対象や金額に最も興味があるはずであり,現に被告人は判示5件の犯行中本件を除いた4件の犯行についてもその窃取金額についてはおおむね正確に記憶しているのであるから,この点の記憶違いのみから被告人の供述に信用性がないとすることはできない。 (2) しかしながら,被告人が本件犯行についての供述をしたのは同犯行から1年近く経過した時点であり,被告人は本件犯行(平成13年9月)の前後ころ(同年秋。乙12,第6回公判調書中の被告人供述調書133項)から逮捕されるまでの間,前記のとおり約50件もの窃盗を繰り返し,しかもその犯行の手口もほとんど同様であった。このような状況に照らすと,犯行をあえて記録したようなことがない限り,ある犯行を他の犯行から区別して記憶することは極めて困難であると考えられる。また,20万円も盗んだことがあれば金額が特に多いため記憶に残るはずであるという点についても,犯行を多数繰り返して5万円程度の窃取が日常的となった後のことであればそのように考えやすいが,本件犯行は被告人が麻雀店で窃取行為を始めたころの犯行であり,いまだ他との比較で記憶に残る時期のものではなかったことを考えると,金額の比較の点から被告人の記憶が正しいとすることもできない。そして,被告人は本件犯行の他にも封筒に入った現金を封筒ごと窃取したことがあったというのであり,一方これが何回あったかについて直ちには言えないというのであるから,Aでは封筒を盗んでいないという被告人の記憶もさほどあてにできない。 さら 金を封筒ごと窃取したことがあったというのであり,一方これが何回あったかについて直ちには言えないというのであるから,Aでは封筒を盗んでいないという被告人の記憶もさほどあてにできない。 さらに,弁護人は,本件封筒は中にあった14万円の金種しだいでかなりの厚みとなるはずであり,この点からも本件封筒を窃取していないという被告人の記憶が真実を反映している旨指摘するが,B(甲20)や被告人(特に乙12)の供述によれば,被告人が窃取したことに争いのない5万9000円にも1000円札が40枚以上含まれており,被告人が窃取したのはいずれにせよ相当の枚数の銀行券(札)となるから,弁護人の前記指摘も被告人の記憶を鮮明にするほどのこととはいえない。 加えて,被告人が本件犯行で窃取した金銭の金種まで記憶していないことは被告人の供述からも明らかであり(乙12),また本件引き出し内の金銭の置き方についての被告人の供述が被告人の記憶違いであると認められることは前述のとおりである。 (3) そして,何より,本件引き出しに本件封筒が入っていた以上,被告人がこれを窃取しないことそれ自体が考えられない。すなわち,まず,Bの供述によれば本件封筒は前記5万9000円の内の1000円札の上か下にあったと認められ,本件引き出しの中で特に隠されていたわけではない。そして,銀行券(札)と同じ場所に封筒があれば,現金を窃取しようという犯人ならずとも,封筒の中にも現金が入っている可能性が高いと考えるであろうし,金品を窃取しようとしている者がそのような封筒の有無を全く意識せず裸の現金のみを狙うとも考えられない。現に,被告人も,前述のとおり封筒入り現金を窃取した経験があり,また判示第2,第3のように現金が入っていそうなポーチ等を窃取するなどしている。さらに,銀行券(札) の現金のみを狙うとも考えられない。現に,被告人も,前述のとおり封筒入り現金を窃取した経験があり,また判示第2,第3のように現金が入っていそうなポーチ等を窃取するなどしている。さらに,銀行券(札)を窃取する際に封筒も窃取することは(窃取の際に音がしたり大量に窃取しても多額にはならない)小銭を窃取すること等と比べても極めて容易なことである。そうすると,本件引き出しの中に小銭があったことを認識していたという被告人が銀行券(札)を窃取する際に本件封筒に気づかないとは思えず,本件封筒に気づく以上これを窃取しないとも考えられない。 (4) そうすると,本件封筒を窃取していないという被告人の供述ないし記憶はBの供述の信用性を左右し得ないというべきである。 4 なお,弁護人は,被告人が本件犯行後Aを出てからBが同店に戻るまでの間に何者かが同店にやって来て本件封筒(14万円)を窃取した可能性があると主張するところ,確かに,自然科学的にみればその可能性を完全に否定することはできない。 しかし,まず,被告人が本件封筒を見ていながらこれを窃取しないとは考えられないことは3で述べたとおりである。 また,Aはビルの2階にあるのであるが,被告人はBが同店を出てから1分くらいはBが忘れ物などして戻ってくる危険を考え窃取行為に出なかったという上,その後本件犯行を行い同店を出る際にも誰にも会わなかったというのであり,一方Bは,たばこを買いに行くのにAをあけた時間は5分程度で,やはり同店に戻る際に前記ビルの階段で人とすれ違ったことはないというのである(なお,この点,弁護人はBがAを出てから同店に戻るまでには七,八分を要する可能性があるとするが,いくら被告人を信じていたとしても,Bが店に20万円近くの金銭を置いたままのんびりとたばこを買いに行くとは考えられず 弁護人はBがAを出てから同店に戻るまでには七,八分を要する可能性があるとするが,いくら被告人を信じていたとしても,Bが店に20万円近くの金銭を置いたままのんびりとたばこを買いに行くとは考えられず,現にBは初対面の被告人を一人にしてまずかったかなと思いながらたばこを買いに行き小走りで戻ったと供述しているのであるから(甲17),この間を5分程度であったとするBの供述を疑うべき事情はない。)。 そうすると,もし第三者が被告人の逃走後Aに入って本件封筒を窃取したとすると,その者はまさにごくわずかの間に本件封筒の窃取を決意し,これを実行してBが同店に戻る前に立ち去った(一方前記小銭は盗まなかった)ということになるが,このような事態を考えるのは合理的とはいえない。 5 そうすると,被告人が現在の記憶どおりに供述していると認められることを考慮してもなお,Bの供述をはじめとする関係証拠からは,被告人が本件封筒(14万円)を窃取したと認めるのが合理的である。被告人の供述は忘却と記憶違いに基づくものと認められ,弁護人の主張は採用できない。 (法令の適用)被告人の判示各所為はいずれも刑法235条に該当することろ,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年8か月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中120日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 不利な事情(1) 各犯行とも被害者らの親切心につけ込んだ巧妙なもので,相当程度計画された犯行であり,また極めて常習的,職業的犯行である。 (2) 被害額もかなり多額になっている。被害金品が還付されたものもあるが積極的な も被害者らの親切心につけ込んだ巧妙なもので,相当程度計画された犯行であり,また極めて常習的,職業的犯行である。 (2) 被害額もかなり多額になっている。被害金品が還付されたものもあるが積極的な被害弁償はなされておらず,近い将来これがなされる見込みもない。被害感情は皆厳しい。 (3) ほとんど同様の犯行を含む前件により執行猶予付き判決を受けてわずか3か月後から始まる,いずれも執行猶予期間内の犯行である。 2 有利にしん酌すべき事情(1) 一部の被害金品は還付されている。 (2) おおむね生活費目的の犯行であり,遊興費目的を主とした犯行というほどのものではない。 (3) 犯行の手口や余罪を含め自己に不利な点も供述したり,被害者らに謝罪文を送付するなど,反省していると認められる。 (4) 身につけた技術(調理師免許)を利用して勤労する意欲を有している。 (5) 兄が監督を誓っている。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年3月6日神戸地方裁判所第11刑事係乙裁判官橋本一【確定】
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