主文 1 被告は原告に対し,金165万円及びこれに対する平成15年12月12日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを100分し,その3を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 4 この判決は1,3項につき仮に執行することができる。 事実及び理由 第一当事者の求めた裁判一請求の趣旨 1 被告は原告に対し,金5805万2793円及びこれに対する平成8年5月16日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言二請求の趣旨に対する答弁 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 第二事案の概要一前提事実(当事者間に争いがないか,挙示する証拠あるいは弁論の全趣旨により容易に認定できる事実) 1 当事者及び原告に対する入所保育措置(一) 原告は平成a年b月c日,dとe(以下「母e」という)夫妻の間に生まれた女児であり,平成f年g月h日生の兄がある。 (二) 被告は,i市j番地kにおいて,l保育園(以下「本件保育園」という)を開設して,運営している。 (三) 被告は,平成5年4月1日,原告が2歳1ヶ月時に,両親が共働きのためとの理由で,児童福祉法24条(平成9年法律74号による改正前のもの)に基づき,原告に対する本件保育園への入所保育措置をとり,原告は同日から平成9年3月31日(6歳1ヶ月時)卒園するまで,「本件保育園」に通園した。(乙1の1) 2 原告の発症事故(以下「本件事故」という)(一) 平成8年5月16日(原告5歳時),本件保育園において,保育時間で 歳1ヶ月時)卒園するまで,「本件保育園」に通園した。(乙1の1) 2 原告の発症事故(以下「本件事故」という)(一) 平成8年5月16日(原告5歳時),本件保育園において,保育時間である午後1時20分ころ,原告は体調不良となり,嘔吐を始め,トイレで嘔吐した後,午睡室の布団に寝かされ,その後,職員室の子供用ベッドに移動して寝かされた。担任の保母からの電話連絡を勤め先で受けた母eが,午後2時22分ころ,本件保育園に到着し,原告かかりつけのmクリニックに電話連絡したが,同医院では当日は診察できない旨回答があった。 (二) 担任の保母が同日午後2時46分に119番通報し,午後2時52分,救急車が到着し,原告は,午後2時57分に救急搬出され,午後3時9分,n病院(以下「n病院」という)小児科外来に搬入され,ICU室で管理された後,「痙攣重積症,呼吸停止,気管支喘息,肺炎,脳炎疑,脳出血疑,肺血症疑」との診断名で,入院治療を受け,同年6月5日退院した。(乙4,甲3) 3 その後の原告の状況原告は,o児童相談所での知能検査において,平成10年8月14日IQ83(精神年齢1歳の遅れ),平成11年5月27日IQ81(精神年齢1歳半の遅れ),同年6月14日ウィスクアールIQ60(言語66,動作61),平成14年5月2日IQ73(精神年齢3歳の遅れ)との診断を受け,同日,知的障害Bの判定を受け療育手帳の交付を受け,さらに平成16年7月28日,知的障害Bの再判定を受けた。(甲1,15)二本件請求原告は,①本件保育園の保母が,嘱託医等に連絡してその指示を求めることなく,あるいは救急搬送の手配等の措置を適時にとらず,原告に対する安全配慮義務を怠ったため,1時間以上も治療着手が遅れたことにより,呼吸停止等による脳の酸素不 ,嘱託医等に連絡してその指示を求めることなく,あるいは救急搬送の手配等の措置を適時にとらず,原告に対する安全配慮義務を怠ったため,1時間以上も治療着手が遅れたことにより,呼吸停止等による脳の酸素不足を招いて,21日間の入院治療を必要とさせ,原告に知能障害を生じさせあるいは知能障害を悪化させる後遺障害を生じさせたと主張し,②仮に,安全配慮義務違反と上記損害発生との間に相当因果関係がないとしても,原告は,左手の運動障害の後遺障害が生じ,また,知能障害あるいは知能障害の悪化をさせないための最善の医学的処置を受ける機会を喪失させられて精神的苦痛を受けたと主張して,被告の安全配慮義務違反による債務不履行責任に基づき,被告に対し,損害賠償として,付添費,入院雑費,入院慰謝料,後遺障害逸失利益,後遺障害慰謝料,弁護士費用合計5805万2793円(予備的に,左手の運動障害の後遺障害損害について240万円,機会喪失の損害について慰謝料500万円)及びこれに対する本件発症事故日である平成8年5月16日から支払済みまで,民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた。 三争点 1 被告の安全配慮義務違反の有無 2 被告の安全配慮義務違反によって,原告に入院治療の必要性が生じ,あるいは知能障害又は知能障害の悪化が生じたか 3 被告の安全配慮義務違反によって,原告に左手の運動障害の後遺障害が残り,また,原告が,知能障害あるいは知能障害の悪化をさせないための最善の医学的処置を受ける機会を喪失させられて,精神的苦痛を受けたか 4 損害額四争点についての当事者の主張 1 被告の安全配慮義務違反の有無(一) 原告の主張(1) 本件保育園は,幼児を預かって保育する専門施設であり,保育には専門的な知識技術を習得して国家資格を持った の当事者の主張 1 被告の安全配慮義務違反の有無(一) 原告の主張(1) 本件保育園は,幼児を預かって保育する専門施設であり,保育には専門的な知識技術を習得して国家資格を持った保育士が当たるのであるから,預かった幼児の生命身体の安全には,親権者以上の専門的な配慮をすべき義務がある(児童福祉法18条の4)。平成8年当時の厚生省の保育所保育指針には,「保育中は,子供の状態を観察し,何らかの異常が発見された場合には,保護者に連絡するとともに,嘱託医やかかりつけの医師と相談するなど,適切な処置を講ずる」とされている。 保育士養成のテキスト(新・保育士養成講座小児保健,甲9)には,「小児に痙攣が起こった時には,直ちに嘱託医や主治医に連絡して指示を受ける。10分以上痙攣が続いた時には救急車を呼び,医療機関での処置を受けるようにする」旨,また意識障害の場合,「園医(嘱託医)又は主治医に連絡し指示を仰ぐと同時に,養育者にも連絡する。救急車の手配も行う」と記載されている。 また,乳幼児期の子供が,「①ぐったりして元気がなく,意識がはっきりしていないとき②痙攣を起こしているとき③呼吸が弱く,止まりかかっているときには急いで病院に連れて行くべきであり」,「引きつけが長く続くと脳などの中枢神経系に低酸素状態による障害をおこすことがあるから,3分経っても引きつけが止まらない場合にはすぐに救急車を呼び,救急車到着まで子供の様子を観察しておくよう」,「痙攣が10分以上続く場合若しくは2回以上痙攣があった場合は,すぐに診察を受けるよう」,「チアノーゼはすべて,かかりつけの小児科か家庭医にすぐ診てもらい,原因を調べなければならない」旨,家庭向けの医学書(「新赤本改訂新版家庭の医学」,「最新家庭の医学百科」)にも記載されており,保育の専 チアノーゼはすべて,かかりつけの小児科か家庭医にすぐ診てもらい,原因を調べなければならない」旨,家庭向けの医学書(「新赤本改訂新版家庭の医学」,「最新家庭の医学百科」)にも記載されており,保育の専門家である保育園職員は当然,これらを知っておくべきものである。 ページ(1)したがって,保育中の幼児が痙攣を起こしたときには,保育園あるいは保育士としては,それが1回だけでも,嘱託医あるいは主治医に指示を仰ぐと同時に,当該幼児を注意深く観察し,軽微な痙攣も見逃すべきでなく,痙攣が治まったかどうかを着実に判断して,痙攣が3分ないし10分以上続く場合若しくは2回以上痙攣があった場合には,直ちに救急車を呼ぶべき義務がある。 (2) 原告は,本件事故当日,トイレで嘔吐した後,ホール入口付近で倒れ,失禁し,意識が朦朧とし(傾眠ないし昏迷),午後1時45分ころには意識がなくなり,反応がなくなって,嘔吐を繰り返した。顔色は白く,唇は赤く,咳き込んでおり,痙攣を起こし始め,午後2時4分ころには,痙攣をし,心拍数も30秒間で60ないし66回位に増し,顔色は土色になっていた。午後1時45分~50分ころ,原告において,左手の中指が硬直する,眼球が左右に震えるなどしたのは,痙攣である。痙攣は,脳の電気的異常が,不随意な骨格筋の収縮という形に表れたものであるが,骨格筋の収縮そのものの強弱が脳の電気的異常の強弱に対応しているとは限らず,骨格筋の収縮の程度,即ち痙攣の程度が小さくても,脳の電気的異常が小さいとは限らない。痙攣の程度が小さくても,それが3分ないし10分以上継続する場合,若しくは初めの痙攣の後,完全に意識が戻らないままに2度目の痙攣があった場合には,可及的速やかに,医師によって痙攣を止める処置を施す(気道確保,酸素投与,心電図モニター装着, 10分以上継続する場合,若しくは初めの痙攣の後,完全に意識が戻らないままに2度目の痙攣があった場合には,可及的速やかに,医師によって痙攣を止める処置を施す(気道確保,酸素投与,心電図モニター装着,静脈路確保などを行い,抗痙攣薬の投与をする)必要がある。本件で,脳の電気的異常が起こった原因は,てんかん発作か,喘息薬テオフィリンの影響によるものと考えられるが,原因が何であれ,痙攣が起こった場合になすべき処置については変わりはない。 本件においては,最初の痙攣発作は午後1時45分~50分ころであり,午後1時55分ころ2度目の痙攣発作が確認され,その後,意識が回復する前に次の発作が反復する状態が続き,発作が終息したのは,n病院で治療を受け,痙攣止め薬を処方され,気管挿管がされた午後3時26分ころであったから,痙攣重積状態は,午後1時45分~50分ころ始まり,断続的に1時間36分~41分続いたことになる。n病院では90分間の痙攣重積と診断されている。 したがって,本件保育園の担当保母は,午後1時45分~50分ころ,1度目の痙攣発作を確認した時点で,直ちに医師に連絡して指示を受けるべく,また,1時55分ころに2度目の痙攣発作を確認した時点で,119番通報をして,救急車を呼ぶ等の措置をすべき義務があった。 しかるに,担任保母のp保育士(以下「p保母」という)は,母eに連絡をとったのみで,午後2時35分ころになって始めてかかりつけの医師に連絡をとり,午後2時46分まで,救急車を呼ぶ措置をとらなかった。 (3) したがって,被告には,原告に対する安全配慮義務違反がある。 (二) 被告の反論(1) 本件保育園に,預かった幼児の生命身体の安全を保護すべき一定の注意義務があることは認める。そして,保母試験 って,被告には,原告に対する安全配慮義務違反がある。 (二) 被告の反論(1) 本件保育園に,預かった幼児の生命身体の安全を保護すべき一定の注意義務があることは認める。そして,保母試験の受験科目にも保険衛生学,生理学,看護学及び実習が含められており(児童福祉法施行規則41条),保育士は,一般人よりは,保険医療の知識が求められてはいるが,これらの知識も初歩的なレベルのものであり,専門医の診察を受けさせるべきか,救急車の手配をすべきかどうかも常識的なレベルで判断すべき事柄にとどまる。 (2) 原告は,倒れたり,失禁をしたり,意識が朦朧とした状態にはなく,午睡室で寝かされている際にも,保母の呼びかけに反応して首を少し動かしたり,瞼を少し開いたりし,意識がなくなったようなことはない。 そして,嘔吐しただけでなく,ふらつきもみられたことから,午後1時40分ころ,担任のp保母が母eに電話して原告の様子を告げ,迎えを促したところ,母eは,仕事を午後3時に終えてから迎えに来ると答えた。 この間,保母が「指を握ってごらん」と声かけすると,原告は,保母の指を握り返したり,名前を聞かれると小さな声で「q」と答えるなど明確に反応していた。 そして,検温をしたところ発熱はなかったが,瞼がわずかに開いた状態で眼球が左右に動くなどの軽い引きつけ発作が数秒間認められたため,p保母は,母eに,再び架電し,直ちに迎えに来るように告げた。 その後,原告の脈も平常になり,眠るなど落ち着いた様子であったことから,午後1時55分から午後2時までの間に,職員室の子供用ベッドに移動させた。職員室に移動する前に,原告は,数秒間ずつ2度に亘り,瞼がわずかに開いた状態で眼球がわずかに左右に動く,左手の指をやや中に折り込んで指先が 分から午後2時までの間に,職員室の子供用ベッドに移動させた。職員室に移動する前に,原告は,数秒間ずつ2度に亘り,瞼がわずかに開いた状態で眼球がわずかに左右に動く,左手の指をやや中に折り込んで指先が軽く震える,一,二度,口元が引きつくといった軽い引きつけが認められ,引きつけが治まると唇に赤みがさしてくる様子が認められ,また,心拍数が30秒間で60~66回位になったことがあった。原告は,職員室のベッドに移動後は,寝息を立てて眠っており,咳き込むことも嘔吐することもなかった。 原告の顔色が土色に変化したのは,119番通報した午後2時46分よりも後のことである。 午後2時22分ころ,母eが到着し,原告の名前を呼ぶと,原告は目を閉じたまま,涙を一筋流す反応をした。 mクリニックに連絡をしたが,受診できないとの回答があり,母eは自分の車で原告を病院に連れて行くと言ったが,保母の勧めで救急車を呼ぶことになった。 (3) 原告は事故に遭ったわけではなく,体調不良の様子を示し,上記のような症状で,痙攣とも認められない程度の一時的に意識が混濁しただけの軽度の状態であったことからすると,保母において,まず,原告の母親に連絡をとるのが順当であって,直ちに,救急病院への連絡や119番通報をすることが求められるものではない。 原告は,119番通報するまでは,呼吸に問題のある様子はなく,その後に呼吸停止になることを予測することは不可能であり,軽度の引きつけが,仮に痙攣重積に結びつく可能性があるものであったとしても,これは専門医でない限り判断できないレベルのものであり,軽い引きつけ症状から重篤な症状を予期して,直ちに医師の診断を受けさせるとか,救急車を呼ぶ義務があるとまではいえない。日本てんかん協会発行のテキストには 門医でない限り判断できないレベルのものであり,軽い引きつけ症状から重篤な症状を予期して,直ちに医師の診断を受けさせるとか,救急車を呼ぶ義務があるとまではいえない。日本てんかん協会発行のテキストには,発作があっても「すぐに救急車を呼ぶ必要はない」旨記載されている。 2 被告の安全配慮義務違反によって,原告に入院治療の必要性が生じ,あるいは知能障害又は知能障害の悪化が生じたか(一) 原告の主張(1) 原告は,出生前から分娩時,出生後本件事故時まで,特に生育に異常は見られず,定期健康診断でも問題を指摘されることなく,4歳ころから喘息が出始めた以外には,順調に成長していた。言葉が出るのが若干遅かったが,兄が3歳になるまで1言しかしゃべらなかったことなどと比べると,特に問題はなく,成長スピードの個体差の範囲内であった。 (2) 本件保育園において,速やかに救急病院に連絡をとり,原告への対処方法について医師の指示を受け,119番通報をして,病院に救急搬送しておれば,原告は入院治療を受けることを余儀なくされることはなかったし,全く知能障害を残さずにすんだところ,午後1時45分ころには救急車を呼ぶべきであったのに,午後2時46分になってようやく救急車を呼び,救急搬送が1時間以上も遅れたために,呼吸停止等による脳などの中枢神経系の酸素不足を招いて,その不可逆的損傷を来たして,原告に知能障害を生じさせ,21日間の入院治療を必要とさせ,さらには,知的障害Bと判定される後遺障害を生じさせたものである。原告は,中学2年生現在,障害児学級で学んでいるところ,九九が言えない,漢字を覚えられない,1000円と1万円の価値の違いがわからない等,小学校1,2年生時の知的レベルまでしか発達していない。 原告にもともと知能障害があったとし るところ,九九が言えない,漢字を覚えられない,1000円と1万円の価値の違いがわからない等,小学校1,2年生時の知的レベルまでしか発達していない。 原告にもともと知能障害があったとしても,その場合には,痙攣重積の後遺障害として,知能障害のさらページ(2)なる悪化の可能性がより高い。被告の安全配慮義務違反によって,原告の知能障害の悪化が生じたものであり,現在の知能障害の5割に相当する部分は,上記の悪化によって生じたものというべきである。 (3) 原告は,本件事故後,左手の握力が弱くなったり,左手をうまく動かせなくなって,それまでは両手で弾けていたエレクトーンが両手で弾けなくなり,また,左目の外斜視の症状が出現し,難しいことを聞かれた時に下を向いてじっと考え込む仕草をするようになった。また,本件事故から約10ヶ月後の平成9年4月小学校入学後,漢字や足し算引き算が覚えられず,2年生になってからも授業中に落ち着きがない状況となった。これらの事実は,本件事故の際の痙攣重積状態が,原告の脳に何らかの損傷を生ぜしめたことを示唆するものである。 仮に,知能障害あるいは知能障害の悪化について相当因果関係が認められないとしても,左手の運動障害が後遺障害として生じたものというべきである。 (二) 被告の反論(1) 原告は,平成5年4月の入園当初,言葉が「あ」以外には出ず,年度末までにやっと単語を発した。生活面でも常に手助けが必要であった。 3歳になってからも,衣服の着脱等に援助が必要で,足元がしっかりせずよく転び,友達の名前は覚えていたものの,「せんせい行った」といった2語文的しゃべり方しかできず,4歳になるまでほとんど成長は感じられなかった。 4歳になってからも,食事,排泄,着脱,清潔面での基本的生 名前は覚えていたものの,「せんせい行った」といった2語文的しゃべり方しかできず,4歳になるまでほとんど成長は感じられなかった。 4歳になってからも,食事,排泄,着脱,清潔面での基本的生活習慣の定着が進まず,個別の言葉かけを必要とした。咀嚼力が弱く,定量を決められた時間内に食べるのが困難で,こぼしも多く,食後,口の周りや衣服の汚れにも気づかず,失尿しても気にかけず,衣服の表裏前後がわからなかったり,ボタンの掛け違いをしていた。歩いたり,走ったりするのが,他児に比べてかなり遅く,集団遊びなどのルールの理解が難しく,参加には保育士の援助を要し,遊びが続かず,友達関係も広がらなかった。平成8年2月には,特に原告と自閉症の児童の2人をスーパーバイザーに見てもらい,保育の助言を受けている。 観察記録によると,次のとおりである。 ① 平成7年4,5月集団に溶け込めず,友達に関わって行こうとしない。 はさみ,のりなどの使い方が今ひとつわかっていない。トイレにパンツを下まで下ろしてから行ったり,ぎりぎりまで我慢するため,排尿までに失敗することが度々ある。 ② 6~8月保育者の質問に全く意に反する答えを言うことがある。 ③ 9~12月食べ物を奥歯でなく前歯で噛もうとするので食事に時間がかかる。体調不良を訴えられない。トイレットペーパーを切ることができず,排泄後,拭こうとしない。階段の昇降,鉄棒の前回りが怖くてできない。 ④ 平成8年1~3月数の認識がなく,物を指さして数えることができない「首の長い動物は?」「ニャーニャー鳴く動物は?」と尋ねられても「うさぎ」「ニャーニャー」と答え,イメージが全くない。ねこを見てたぬきと答える 識がなく,物を指さして数えることができない「首の長い動物は?」「ニャーニャー鳴く動物は?」と尋ねられても「うさぎ」「ニャーニャー」と答え,イメージが全くない。ねこを見てたぬきと答えることもある。発音が曖昧で,「かきくけこ」が「たちつてと」になる。のりの蓋がきちんと閉められない。 ⑤ 平成8年度に入っても,友達から世話を受けることが多く,階段の昇降を怖がり,ゆっくり,一段一段足を揃えて昇降する。衣類の着脱やボタンのかけはずしに時間がかかり,衣服の前後の区別ができない。はさみで線に沿って切ることに時間がかかり,雑である。食事に時間がかかり,弁当包みも確実にできず,排尿時パンツにかかることが多い。鉄棒の前回り,うんていを怖がり,震えたり固まったりする。 以上のように原告の発達は本件事故前から遅れており,現在の原告の知能障害は,本件事故前からあった発達の遅れが顕在化したものであって,本件事故に起因するものではない。 (2) n病院に到着した午後3時10分には片側痙攣,呼吸停止等の症状が認められているところ,上記痙攣が痙攣重積であったとしても,全身的なものでないから,これが原因で知能障害が生じたとは考えられない。 原告の痙攣は左優位の部分痙攣であったため,一過性で,左外斜視や左上肢の筋肉が落ち,左手が使いにくくなった等の症状は出ているが,知能障害との関連性はない。 原告はn病院入院後,極めて順調に回復しており,知能障害が生じた形跡はなく,従来の知的発達の遅れを悪化させた可能性も極めて乏しい。 3 被告の安全配慮義務違反によって,原告に左手の運動障害の後遺障害が生じ,また,原告が,知能障害あるいは知能障害の悪化をさせないための最善の医学的処置を受ける機会を喪失させられて,精神的苦痛を受けたか 告の安全配慮義務違反によって,原告に左手の運動障害の後遺障害が生じ,また,原告が,知能障害あるいは知能障害の悪化をさせないための最善の医学的処置を受ける機会を喪失させられて,精神的苦痛を受けたか(一) 原告の主張被告の安全配慮義務違反と知能障害あるいは知能障害の悪化との相当因果関係が認められない場合にも,(1) 左手の運動障害の後遺障害との間に相当因果関係はあるから,これを14級程度の後遺障害として評価すべきである。 (2) 原告は,知能障害あるいは知能障害の悪化をさせないための最善の医学的処置を受ける機会を喪失させられて精神的苦痛を受けた。 (二) 被告の反論(1) 左手の運動障害については,現在は回復している。 (2) 原告が知能障害あるいは知能障害の悪化をさせないための最善の医学的処置を受ける機会を喪失した事実はない。 4 損害額(原告の主張)(一) 付添費 19万5000円原告の両親は,原告入院中21日間,病室で原告に付き添った。 付添費は1日につき6500円が相当である。 (二) 入院雑費 4万5000円入院雑費は1日につき1500円が相当である。 (三) 入院慰謝料 53万円(四) 後遺障害損害(1) 逸失利益 3828万2793円原告は本件事故により,知的障害Bの判定を受ける後遺障害が残った。これは,自賠法施行令2条による後遺障害等級5級2号に該当し,労働能力喪失率は79パーセントとなる。 原告は症状固定した平成8年6月5日(退院日)当時5歳であり,賃金センサス平成13年度産業計全労働者の平均年収502万9500円を基礎収入とし,18歳から67歳までの就労可能期間の逸失利益の現価をライプニッツ係数に た平成8年6月5日(退院日)当時5歳であり,賃金センサス平成13年度産業計全労働者の平均年収502万9500円を基礎収入とし,18歳から67歳までの就労可能期間の逸失利益の現価をライプニッツ係数によって中間利息を控除して算定すると,502万9500円×0.79×(19.029-9.394)=38 28万2793円となる。 (2) 後遺障害慰謝料 1400万円(3) 予備的主張① 知的障害との間に相当因果関係がないとしても,知的障害の悪化との間に相当因果関係はあり,損害のページ(3)程度は,(1)の半額に相当する1900万円と考えるべきである。 ② 知的障害あるいは知的障害の悪化との間に相当因果関係が認められない場合には,上記後遺障害の中に包含されて評価されていた14級相当の左手の運動障害の後遺障害が顕現すべきこととなり,その損害額は240万円と考えるのが相当である。 (五) 予備的慰謝料請求知的障害あるいは知的障害の悪化との間に相当因果関係が認められないとしても,原告は,知能障害あるいは知能障害の悪化をさせないための最善の医学的処置を受ける機会を喪失させられて精神的苦痛を受けており,これを慰謝すべき慰謝料は500万円が相当である。 (六) 弁護士費用 500万円第三当裁判所の判断一被告の安全配慮義務違反の有無 1 被告の安全配慮義務の存否被告による本件保育園入所保育措置は,被告の給付行政における行政処分であって,被告との間で,原告の親権者両名との間に原告のためにする保育委託契約が成立したものではなく,あるいは親権者両名の法定代理によって原告と被告との間に保育契約が成立したものでもない。 しかしながら,本件入所保育措置により,被告は原告を本件保 ためにする保育委託契約が成立したものではなく,あるいは親権者両名の法定代理によって原告と被告との間に保育契約が成立したものでもない。 しかしながら,本件入所保育措置により,被告は原告を本件保育園で適切に保育し,原告はこれに従い,原告の保護者はこれに協力すべき法律関係が生じたのであるから,被告は上記法律関係に伴う信義則上の債務として,必然的に,原告に対し,本件保育園において,預かった幼児である原告の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負い,これを尽くすことが必要不可欠となる。当時も,園児らの保育に当たる保母になるための保母試験の試験科目に保健衛生学及び生理学,看護学及びその実習が含まれていた(児童福祉法施行規則41条)のは,安全配慮義務の観点から当然に求められるところであった。 そして,本件保育園は,幼児を預かって保育する専門施設であり,保育には,専門的な知識技術を習得して国家資格を持った保母(保育士)が当たるのであるから,預かった幼児の生命身体の安全には,医療専門家のレベルまでは要求されないものの,一般の親権者以上の専門的な配慮をすべき義務がある。 甲第34号証の2によると,平成8年当時の厚生省の保育所保育指針には,「保育中は,子供の状態を観察し,何らかの異常が発見された場合には,保護者に連絡するとともに,嘱託医やかかりつけの医師と相談するなど,適切な処置を講ずる」とされているが,本件保育園の保育士らにおいて,原告ら保育園児の健康状態を観察し,何らかの異常が発見された場合には,嘱託医等医療専門家に相談してその指示を求め,迅速に,医療機関の医療措置を求めるなどの適切な処置を講ずべきことは,上記保育指針を待つまでもなく,安全配慮義務の主要な内容となる。 したがって,被告において,その 家に相談してその指示を求め,迅速に,医療機関の医療措置を求めるなどの適切な処置を講ずべきことは,上記保育指針を待つまでもなく,安全配慮義務の主要な内容となる。 したがって,被告において,その履行補助者たる本件保育園の保育士等職員を通じて,園児である原告に対する上記の安全配慮義務を履行すべきところであって,上記義務違反によって,原告に損害を与えたときは,債務不履行に基づく損害賠償責任を負うべきこととなる。 2 被告の安全配慮義務違反の有無(一) 本件事故の経緯及び本件事故前後の原告の状況前提事実に甲第3ないし第7号証,第8号証の1ないし11,第16号証,第17,第18号証の各1ないし4,第19,第20号証,第21号証の1ないし6,第22号証の1ないし8,第23号証の1,2,第24ないし第33号証,第36号証の3,乙第1号証の5,第2ないし第4号証,第5号証の1ないし6,第6ないし第8号証,第10ないし第14号証,第17号証の1,2,証人r,証人p,証人sの各証言,原告法定代理人eの尋問結果並びに弁論の全趣旨を総合すると,次のとおり認定できる。 (1) 本件事故前の原告の生育歴,発達状態① 原告は,出生時,体重3220g,身長49.8cm,胸囲35c m,頭囲33cmで,出生後,軽い黄疸があったほかは,特に健康上問題があったことは窺えない。 ② 原告は,生後6ヶ月ころから喘息様気管支炎があり,内服薬テオロングを1週間から10日程服用すると治まっていた。 ③ 原告は,運動面,精神面における成長の程度は,普通よりは遅く, 言葉の習得度も遅かったが,両親は,原告の兄が3歳になるまで1言しかしゃべらなかったことなどと比べると,特に問題はなく,成長スピードの個体差 面における成長の程度は,普通よりは遅く, 言葉の習得度も遅かったが,両親は,原告の兄が3歳になるまで1言しかしゃべらなかったことなどと比べると,特に問題はなく,成長スピードの個体差の範囲内であると考えて,特に心配していなかった。 ④ 2歳1ヶ月時,本件保育園に入園したころには,言葉が「あ」以外には出なかった。その後,言葉が単語として出るようにはなったが, 正確な発音にはならず,2歳10ヶ月ころ,自分の名前や年齢が言えるようになったが,意思疎通ができるような言語表現には至らなかった。 ⑤ 3歳になってからも,衣服の着脱等に援助が必要で,足元がしっかりせずよく転び,友達の名前は覚えていたものの,「せんせい行った」といった2語文的しゃべり方しかできなかった。 ⑥ 4歳になってからも,食事,排泄,着脱,清潔面での基本的生活習慣が定着せず,個別の言葉かけを必要とした。咀嚼力が弱く,定量を決められた時間内に食べるのが困難で,こぼしも多く,食後,口の周りや衣服の汚れにも気づかず,失尿しても気にかけず,衣服の表裏前後がわからなかったり,ボタンの掛け違いをしていた。歩いたり,走ったりするのが,他児に比べてかなり遅く,集団遊びなどのルールの理解が難しく,参加には保育士の援助を要し,遊びが続かず,友達に関わって行こうとしなかった。はさみ,のりなどの使い方が今ひとつわかっていなかったが,保育士が,一緒に手を添えて使い方を教えて少しはわかるようになってきた。また,トイレにパンツを下まで下ろしてから行ったり,ぎりぎりまで我慢するため,排尿までに失敗することが度々 緒に手を添えて使い方を教えて少しはわかるようになってきた。また,トイレにパンツを下まで下ろしてから行ったり,ぎりぎりまで我慢するため,排尿までに失敗することが度々あった。 食べ物を奥歯でなく前歯で噛もうとするので食事に時間がかかり,また,体調不良を自分で訴えられず,トイレットペーパーを切ることができず,排泄後,拭こうとしなかった。階段の昇降,鉄棒の前回りが援助なしでは怖くてできなかった。 「首の長い動物は?」「ニャーニャー鳴く動物は?」と尋ねられても「うさぎ」「ニャーニャー」と答え,イメージが全くなく,ねこを見てたぬきと答えることもあった。発音が曖昧で,「かきくけこ」が「たちつてと」になり,のりの蓋がきちんと閉められなかった。 他方,原告は,ヤマハ音楽教室に通って,エレクトーンが両手で弾けるようになり,「おじいちゃんおばあちゃんいつまでもげんきでいてね」と母の指導によりひらがなではがきを書けるようにもなっていた。 ⑦ 5歳近くになっても,数の認識がなく,物を指さして数えることができず,衣類の着脱やボタンのかけはずしに時間がかかり,衣服の前後の区別ができず,食事に時間がかかり,弁当包みも確実にできず,排尿時パンツにかかることが多かった。また,はさみで線に沿って切ることに時間がかかり,雑であった。 他方,「お腹が痛い」などと自己の体調不良を訴えることはできるようになり,朝「おはよう」と誰にでも挨拶ができるようになっていた。 (2) 本件事故及びn病院入院の経緯① 原告には,痙攣発作の既往はなかった。 ページ(4)原告は,本件事故日(平成8年5月16日)の2日前から,喘息様気管支炎が発症し,内服薬をテオドール(テオフィ 院の経緯① 原告には,痙攣発作の既往はなかった。 ページ(4)原告は,本件事故日(平成8年5月16日)の2日前から,喘息様気管支炎が発症し,内服薬をテオドール(テオフィリンの内服用のもの)に変更し,内服していた。 ② 本件事故日当日の午前中,原告は機嫌が良く,いつもよりにぎやかに過ごし,昼の給食は好物のハヤシシチューで,おかわりもした。 午後1時20分ころ,午睡中,突然,口を押さえて布団の上に坐り,自分で立ち,担任のp保母に付き添われて,嘔吐しながら便所に行き,汚物槽でも吐いた。午睡室へ戻る途中,再び吐き気を催し,便所に行き汚物槽で吐き,排尿したが,p保母と午睡室に戻る途中,その入口で,ふらついて倒れた。p保母は,原告を支えて午睡室に入り,布団に寝かせ,その間に,言葉かけをしたが,反応が鈍かったため,上席保母のt(以下「t保母」という)に報告した(園長と主任は不在であった)。原告は,呼びかけに対する反応が鈍く,眠たそうにしており,いつもと様子が違うため,p保母は,午後1時40分ころ,母eに原告が,嘔吐し,ふらついていつもと様子が違うので迎えに来てくれるよう電話連絡した。 母eは,上記電話の内容から,切迫したものでないと判断し,仕事が一段落してから,午後3時ころ迎えに行くと答えた。 ③ その間,t保母,u保母(以下「u保母」という),v保母,s保母,r保母(以下「r保母」という)が,原告を側臥位にして背中をさすったり,名前を呼びかけたり,言葉かけをしていたが,原告は眠そうにし,小さな声で「q」と答え,入眠しかけたが,咳き込んで一口大の嘔吐をした。検温したところ,体温は35度8分であり,顔色は青白く,唇は赤く見えた。そのうち,原告の反応は段々鈍くなり,左手の中指がやや硬直し,折 声で「q」と答え,入眠しかけたが,咳き込んで一口大の嘔吐をした。検温したところ,体温は35度8分であり,顔色は青白く,唇は赤く見えた。そのうち,原告の反応は段々鈍くなり,左手の中指がやや硬直し,折り込んだ状態で指先に軽く震えが見られ,瞼がわずかに開いた状態で,両方の眼球がわずかに左右に動き,左方向に寄ったりし,口元が引きつった。ひきつけが治まると唇に赤みがさした。r保母は,軽い引きつけ発作であると判断し,t,u,p保母らにこれを告げた。p保母は,午後2時前ころ,再度,母eに,熱はないが反応がいつもと違うのですぐに迎えに来るよう電話連絡し,これに対し,母eは直ちに本件保育園に迎えに行く旨答えた。その間に,原告は眼球がわずかに左右に動き,手の中指を折っており,手のひらに保母が指を入れると握り返した。左手指先に軽く震えがあり,口元が引きつき,顔色がさらに蒼白になり,時々身体がピクッと動き,声かけしても返事がなく,咳き込み,唾を吐いた。心臓の鼓動が異常に速い状態となった。r保母は,2度目の軽い引きつけであると判断し,t保母,u保母らにこれを告げ,確認した。p保母は,「家庭の医学」で小児の脈拍数を調べた上,原告の脈拍をとると,30秒間で60~66回であった。原告は,午後2時ころ午睡室から事務室のベッドに移動されたが,寝入っているように見えた。 ④ 午後2時25分ころ,母eが本件保育園に自家用車で到着し,原告の名前を呼びかけたところ,原告は目を閉じたまま,涙を一筋流した。母eは保母らから経過説明を受け,かかりつけ医師であるmクリニックに電話連絡したが,医師は不在で,在院の看護婦から連絡をとってもらった結果,同医院では当日は診察できない旨回答があった。 母eは,自己の運転車両に原告を乗せて病院に搬入すると言ったところ,r保母らは,それで 師は不在で,在院の看護婦から連絡をとってもらった結果,同医院では当日は診察できない旨回答があった。 母eは,自己の運転車両に原告を乗せて病院に搬入すると言ったところ,r保母らは,それでは事故の危険があると言って,説得し,午後2時50分ころ,p保母が119番通報して救急車を呼んだ。救急車の到着を待っているころには,原告にはチアノーゼが生じており,顔色は土色になり,声をかけても反応がなくなっていた。母eが本件保育園に到着した時点で既に,原告にチアノーゼが生じており,顔色は土色であった旨の母eの供述部分は,前掲各証拠や,経緯に照らして,にわかに採用できず,乙第1号証の5の同旨部分は,証人pの証言によると,母eの言葉に従いそのまま記載したものと認められるからこれを採用することはできない。 ⑤ 午後3時に救急車が到着し,母e,p保母らが同乗して,原告をn病院に救急搬送した。その間,原告に対し酸素吸入が施行された。 午後3時8分,原告は,n病院の救急外来に搬入されたが,左上下肢に痙攣があり(片側痙攣),対光反応なく,呼吸停止し,呼びかけに反応しない意識混濁,昏睡状態にあり,直ちに気管内挿管を受けた。原告は,午後3時25分ころ,気管内挿管,ダイアップ座薬挿入後,午後3時26分ころ,痙攣は止まり,午後3時32分ころチアノーゼも改善したが,意識不明の状態は続き,午後4時30分,頭部CT撮影(異常はなかった)後,ICU室に搬入され,自発呼吸が始まり,午後6時30分に覚醒して啼泣し,時々話ができるようになった。 そして,原告は,「痙攣重積症,呼吸停止,気管支喘息,肺炎,脳炎疑,脳出血疑,肺血症疑」との診断名で,入院治療を続行し,抗てんかん剤内服等による治療を継続した。 ⑥ 原告は,当夜入眠し,翌17日朝,言葉が ,「痙攣重積症,呼吸停止,気管支喘息,肺炎,脳炎疑,脳出血疑,肺血症疑」との診断名で,入院治療を続行し,抗てんかん剤内服等による治療を継続した。 ⑥ 原告は,当夜入眠し,翌17日朝,言葉が出て,立て,食事ができた。原告の父が来て,絵は下手になっておらず,いつもと同じように話ができることを確認した。原告は,同日,脳波検査,細菌検査等の各種検査を受けた(CT画像,MRI画像,髄液,脳波の上で異常はなかった)。 その後,原告は,腰部痛,背部痛を訴えたが間もなく治まった。 5月20日朝,1回嘔吐し,咳があった。 頚部硬直が窺えたが,原告が頚部に触るのを嫌がったために,十分な診断はできなかった。また左目の外斜視が認められたため,眼科での診察を受けた。 同月21日,右急性中耳炎の疑いで耳鼻科の診察を受けたが,特に異常は認められなかった。 同月22日になって,一人でトイレに行けるようになり,左手で物を渡すとき少し震えがあった。 同月25日,31日に嘔吐が各1回あったが,経過は良好であったため,同年6月5日退院した。 最終診断名は,「痙攣重積症(90分間),呼吸停止,気管支喘息,肺炎(誤飲性)」であった。 (3) その後の状況① 原告は,退院後,n病院小児科外来に喘息用気管支炎治療のため通院した。 ② 小児科外来での診察では,原告には,興奮・緊張すると,手の震えが見られたが,明らかな退行は見られなかった。 ③ 退院後,本件保育園において,原告は,衣類の着脱,片づけ,食事等のペースは相変わらず遅かったが,服を丁寧にたたんで始末でき,進んで手伝いをし,ピアニカで「きらきら星」が正しい指使いで吹けた。また,自分の名前が書け,手本を見て ,原告は,衣類の着脱,片づけ,食事等のペースは相変わらず遅かったが,服を丁寧にたたんで始末でき,進んで手伝いをし,ピアニカで「きらきら星」が正しい指使いで吹けた。また,自分の名前が書け,手本を見て文字を書くことができた。 ④ 平成9年4月,小学校に入学したが,左手でドアのノブが回せず, 左手を使わないことが多く,小学3年生時に,左手の握力が弱いことが確認された。 ⑤ 学校の通知表自体は,担任教師が,良い面のみをとらえて記載することもあって,問題点はないような表現になってはいたが,小学1年生の終わり頃から,算数,漢字がなかなか覚えられず,宿題をするにも時間がかかることなど,学習能力の遅れが,周りから目立つようになってきた。 小学校2年生時には,カスタネットを皆と合わせて叩くことができず,授業中落ち着きがないことを指摘されるようになった。 また,平成11年6月(小学3年生時)ころ,学校で尿失禁が頻回あった。 しかし,学校を欠席することはほとんどなく,学習発表会ではせりふを覚えて演じることができ,きちんと授業の記録をノートにとったり,朗読や,グループ発表もできるようになっていた。 ⑥ 原告は,o児童相談所での知能検査において,平成10年8月14日(小学2年生時)IQ83(精神年齢1歳の遅れ),平成11年5月27日(小学3年生時)IQ81(精神年齢1歳半の遅れ),同年6月14日ウィスクアールIQ60(言語66,動作61),平成14年5月2日(小学6年生時)IQ73(精神年齢3歳の遅れ)ページ(5)との診断を受け,同日,知的障害B(軽度知的障害)の判定を受け療育手帳の交付を受け,さらに平成16年7月28日,知的障害Bの再判定を受けた。 ⑦ 原告は,現時点では,左手の運動障害 ジ(5)との診断を受け,同日,知的障害B(軽度知的障害)の判定を受け療育手帳の交付を受け,さらに平成16年7月28日,知的障害Bの再判定を受けた。 ⑦ 原告は,現時点では,左手の運動障害は窺えない。 (二) 被告の安全配慮義務違反の有無についての考察前記認定事実を,甲第9ないし第14号証,第34,第35号証の各2,乙第8,第15号証,第17号証の1,2並びに弁論の全趣旨に照らして考察すると,次のとおり認定できる。 (1) 痙攣は,脳の電気的異常が,発作的な全身あるいは一部の骨格筋の不随意な収縮という形に表れたものであるが,骨格筋の収縮そのものの強弱が脳の電気的異常の強弱に対応しているとは限らず,骨格筋の収縮の程度,即ち痙攣の程度が小さくても,脳の電気的異常が小さいとは限らない。 痙攣が30分以上続く場合,又は2回以上の連続する痙攣があり,その間欠期にも完全な意識回復を見ないものを痙攣重積発作といい,放置すると不可逆的脳損傷を引き起こす可能性がある。そのため,痙攣が持続している場合には,可及的速やかに痙攣を停止させるために,酸素投与,心電図モニター装着,静脈路確保を行い,抗痙攣薬の投与をするなどの措置をとることが必要である。 また,痙攣を呈さない痙攣重積もあり,痙攣がなく昏睡状態のみを呈するため,脳波をとらない限り診断は困難で,見逃される可能性がある。医師として,痙攣性疾患を鑑別する手順は,てんかん性か非てんかん性かを鑑別し,てんかん性なら突発性か症候性かを鑑別し,初発のてんかん性痙攣は原則として入院とする(「臨床医マニュアル」)。 (2) 本件で,脳の電気的異常が起こった原因は,てんかん発作か,喘息薬テオフィリンの影響によるものと考えられる(むしろ,後者の可能性が高 則として入院とする(「臨床医マニュアル」)。 (2) 本件で,脳の電気的異常が起こった原因は,てんかん発作か,喘息薬テオフィリンの影響によるものと考えられる(むしろ,後者の可能性が高い)が,痙攣が起こった場合になすべき処置については変わりはない。 (3) 新保育士養成講座「小児保健」には次の趣旨の記載がある。 ① 小児の意識障害は,緊急を要することが多い。意識障害には,意識混濁(傾眠,昏迷,昏睡)と意識変化(せん妄,もうろう状態)がある。意識障害の原因は,脳炎,痙攣性疾患,薬物中毒等,たくさん存在する。したがって,意識障害を認めたならば,園医(嘱託医)又は主治医に連絡し,指示を仰ぐと同時に,養育者にも連絡し,救急車の手配も行う。 ② 痙攣は突然起こる。冷静に観察し,対処しなければならない。 痙攣を起こしたとき行う観察の要点は,(ア)全身性か局所性か,片側痙攣か両側痙攣か,眼球は正面を向いていたか,片方を向いていたか,呼びかけに反応するかどうか,痙攣が治まるまでに何分かかったか,痙攣後に眠ってしまったか嘔吐したかという痙攣の状態の把握,(イ)発熱の有無,(ウ)消化器症状,かぜの症状等他の症状の有無であり,痙攣に対する対応は,側臥位にさせるなどして,窒息させないようにした上,直ちに嘱託医や主治医に連絡して,指示を受け,痙攣が10分以上続いたときには救急車を呼び,医療機関での処置を受けることである。 ③ 嘔吐があったときには,側臥位にさせるなどして,窒息事故を防ぎ,嘔吐の状態をよく観察して,医師に連絡し,診察を受けさせてから,指示をもらう。 (4) 家庭向けの医学書(「新赤本改訂新版家庭の医学」,「最新家庭の医学百科」) させるなどして,窒息事故を防ぎ,嘔吐の状態をよく観察して,医師に連絡し,診察を受けさせてから,指示をもらう。 (4) 家庭向けの医学書(「新赤本改訂新版家庭の医学」,「最新家庭の医学百科」)には次の趣旨の記載がある。 乳幼児期の子供が,「①ぐったりして元気がなく,意識がはっきりしていないとき②痙攣を起こしているとき③呼吸が弱く,止まりかかっているときには急いで病院に連れて行くべきであり」,「引きつけが長く続くと脳などの中枢神経系に低酸素状態による障害をおこすことがあるから,3分経っても引きつけが止まらない場合にはすぐに救急車を呼び,救急車到着まで子供の様子を観察しておくよう」,「痙攣が10分以上続く場合若しくは2回以上痙攣があった場合は,すぐに診察を受けるよう」,「チアノーゼはすべて,かかりつけの小児科か家庭医にすぐ診てもらい,原因を調べなければならない」。 (5) 本件において,これを,結果的に客観的に解析すると,原告は,午後1時55分ころから約90分間に亘って痙攣重積の状態にあったものであり,午後1時45分~50分ころ,1度目の痙攣発作が確認され,間欠期において傾眠状態にあり,さらに10分もたたない午後1時55分ころに2度目の痙攣発作があり,その後も昏睡状態が続いており,救急車を待機中の午後3時前には既にチアノーゼ状態にあり,救急搬出時には呼吸停止状態に至っていたものといえる。 しかしながら,上記2度の痙攣発作は,その徴候が必ずしも際立ったものではなく,医師においてすらこれをにわかに痙攣重積に結びつけて考えることは困難な類いのものであって,医学的専門家でない保母らに対し,痙攣重積を予見してこれに対する適切な対処をなすべきことを期待することはできない。また,午睡時間であったことや,原告の日頃の反応 考えることは困難な類いのものであって,医学的専門家でない保母らに対し,痙攣重積を予見してこれに対する適切な対処をなすべきことを期待することはできない。また,午睡時間であったことや,原告の日頃の反応が明確なものとはいえなかったことから,原告が傾睡状態にあるのを眠そうにしているものと誤認したこともやむを得ないものと言わざるを得ない。 他方,保母らにおいて,原告が嘔吐を反復し,少なくとも軽度の痙攣発作を2度に亘って起こし,呼びかけに対する反応も平素とは違う異常な状態にあることは確認できたのであるから,保護者である母eに連絡するにとどまるのではなく,嘱託医等の然るべき医療機関に連絡してその指示を仰ぐべき保母としての義務を怠ったことは否定できず,その結果,早期に,原告を救急治療する機会を喪失したものというべきである。 (三) そうすると,上記の点で,被告には安全配慮義務違反があるといわざるを得ない。 二被告の安全配慮義務違反によって,原告に入院治療の必要性が生じ,あるいは知能障害又は知能障害の悪化が生じたか 1 入院治療の必要性原告は,本件事故後21日間,入院治療を受けたが,これは,初発の痙攣発作であることから,経過を観察するとともに,その原因解明のために検査をする必要があることや,その最終診断名からも明らかなように,気管支喘息,肺炎(誤飲性)の治療の必要性,また,痙攣重積症の治療,予後観察のためであったものと認められる。そして,上記のための入院治療について,被告において早期に医師に相談し,救急車を呼んでおれば,必要でなかったものと認めうる事情は認められない。 そうすると,被告の安全配慮義務違反によって,原告が入院治療を余儀なくされたものとは認められない。 2 知能障害の発生又は知能障害の悪化(一 ったものと認めうる事情は認められない。 そうすると,被告の安全配慮義務違反によって,原告が入院治療を余儀なくされたものとは認められない。 2 知能障害の発生又は知能障害の悪化(一) 原告の左手の運動障害が生じたことについては,呼吸停止,痙攣重積症の治療が遅れたことによって,何らかの不可逆的脳損傷が引き起こされた結果であるものと推認され,したがって,何らかの脳損傷が起こされたことは窺いうるところである。 (二) その一方で,前示認定のとおり,原告は本件事故前から,知能,運動機能面の遅れがあったことが明らかであって,現在における原告の知能障害が,すべて,呼吸停止,痙攣重積症の治療が遅れたことによって生じたものということはできない。 (三) 呼吸停止,痙攣重積症の治療が遅れたことによって,何らかの不可逆的脳損傷が引き起こされる場合には,知能の発達が遅れている児童の方がよりその影響が出やすいものといわれている。 しかしながら,原告の退院後の経過は良好であって,退院後,退行した形跡は窺えないことや,学齢期になって,知的活動の範囲が拡大し,学習内容がより高度になってくると,知的な遅れによる格差がより顕在化してくるものと考えられることなどに照らすと,現在の原告の知能障害が,本件事故前からあった発達の遅れが顕在化したものでページ(6)なく,悪化した結果によるものであるとまではにわかに認定し難く,悪化したものと認めうる的確な資料もない。 そうすると,呼吸停止,痙攣重積症の治療が遅れたことによって,原告の知能障害が悪化したものとも認め難い。 三被告の安全配慮義務違反によって,原告に左手の運動障害の後遺障害が生じ,また,原告が,知能障害あるいは知能障害の悪化をさせないための最善の医学的処置を受ける機会を喪失さ したものとも認め難い。 三被告の安全配慮義務違反によって,原告に左手の運動障害の後遺障害が生じ,また,原告が,知能障害あるいは知能障害の悪化をさせないための最善の医学的処置を受ける機会を喪失させられて,精神的苦痛を受けたか 1 左手の運動障害の後遺障害について現在もなお,原告に左手の運動障害の後遺障害が残存していることを窺いうる資料はないから,上記後遺障害が残存していることを前提とする原告の損害賠償請求は理由がない。 しかしながら,原告に左手の運動障害の後遺障害が相当期間残存していたことは否定できないから,そのために,原告が受けた精神的苦痛は慰謝されるべきところである。安全配慮義務違反の程度,後遺障害の内容,程度等に鑑みると,これを慰謝すべき慰謝料は,30万円をもって相当と認める。 2 最善の医学的処置を受ける機会の喪失について原告の知能障害が,呼吸停止,痙攣重積症の治療が遅れたことによって生じたものということはできないことは前示説示のとおりである。 そして,原告の知能障害の悪化が,呼吸停止,痙攣重積症の治療が遅れたことによって生じたものと認定できないことも前示のとおりではあるが,逆にその可能性が全くないものと否定し切ることもまたできないところであって,原告には,被告において前示安全配慮義務を尽くし,早期に救急治療を受ける機会を得ておれば,現在のような状況には至っていなかったかも知れないと両親ともども残念な想いが残ることは否めず,被告の安全配慮義務違反によって,最善の医学的処置を受ける機会を喪失する結果となり,これによって精神的苦痛を被っているものと認定できる。 そして,上記精神的苦痛を慰謝するには,安全配慮義務違反の程度等に鑑み,慰謝料120万円をもって相当と認める。 四本件請求についての判 これによって精神的苦痛を被っているものと認定できる。 そして,上記精神的苦痛を慰謝するには,安全配慮義務違反の程度等に鑑み,慰謝料120万円をもって相当と認める。 四本件請求についての判断そうすると,原告は被告に対し,上記慰謝料合計150万円の損害賠償債権を有し,本件訴訟の遂行のために弁護士費用を要したものと認められるところ,被告の安全配慮義務違反と相当因果関係のある弁護士費用分は,15万円が相当である。 そして,本件請求債権は債務不履行による損害賠償請求権であるから,期限の定めのない債権であって,被告に対して請求をなした訴状送達の日の翌日である平成15年12月12日が遅延損害金の起算日となる。 五結論してみれば,原告の被告に対する本件請求は,安全配慮義務違反による債務不履行に基づく損害賠償金165万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年12月12日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから,上記限度で認容し,その余は失当として棄却すべく,訴訟費用の負担につき民訴法64条本文,61条を,仮執行宣言につき同法259条1項を各適用して,主文のとおり判決する。 岡山地方裁判所第1民事部 裁判官金馬健二ページ(7)
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