主文 1 被告は、原告Aに対し、1億9478万4243円及びこれに対する令和元年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、200万円及びこれに対する令和元年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Cに対し、200万円及びこれに対する令和元年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告Aのその余の請求を棄却する。 5 原告B及び同Cのその余の請求をそれぞれ棄却する。 6 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告らの負担とし、その余は被告の負担 とする。 7 この判決は、第1項から第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 第1事件 被告は、原告Aに対し、2億4112万2374円及びこれに対する令和元年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 第2事件⑴ 被告は、原告Bに対し、500万円及びこれに対する令和元年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告は、原告Cに対し、500万円及びこれに対する令和元年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、浜松市が開設し、被告が指定管理者として管理を行っているD(以下「被告病院」という。)において重症新生児仮死の状態で出生した第1事件原告 A(以下「原告子」という。)及びその父である第2事件原告B(以下「原告父」 という。)並びに母である第2事件原告C(以下、「原告母」といい、原告子及び原告父と合わせて「原告ら」という。)が、被告に対し、被告病院の医師及び助産師には、①陣痛促進剤(オ 下「原告父」 という。)並びに母である第2事件原告C(以下、「原告母」といい、原告子及び原告父と合わせて「原告ら」という。)が、被告に対し、被告病院の医師及び助産師には、①陣痛促進剤(オキシトシン)の投与、投与量及び投与中止の判断に係る過失、②適切な分娩監視に基づく報告及び緊急帝王切開を怠った過失、③血液検査等や抗生剤の投与を怠った過失があると主張して、診療契約上の債務不履行 又は不法行為(民法709条、715条)に基づく損害賠償請求権に基づき、原告子については、2億4112万2374円(文書料、後遺障害慰謝料、逸失利益、将来介護費、将来治療費、将来付添交通費、将来雑費及び弁護士費用)及びこれに対する令和元年6月14日(不法行為日又は不法行為後の日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。) 所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を(第1事件)、原告父及び原告母については、各500万円(固有の慰謝料)及びこれに対する令和元年6月14日(上記と同じ)から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を(第2事件)、それぞれ求める事案である。 2 前提事実(争いがない事実又は各項に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により容易 に認められる事実) 当事者等ア原告子は、令和▲年▲月▲日に被告病院において出生した。 原告父は、原告子の父であり、原告母(昭和■年■月■日生)は、原告子の母である。なお、原告母にとって原告子の出産は初産であり、出産時の年 齢は41歳であった。 イ被告は、浜松市が開設する被告病院を指定管理者として管理する公益財団法人である。 被告病院は、病床数606の総合病院であり、産科・小児科を備え、地域 齢は41歳であった。 イ被告は、浜松市が開設する被告病院を指定管理者として管理する公益財団法人である。 被告病院は、病床数606の総合病院であり、産科・小児科を備え、地域周産期母子医療センターの指定を受けている。 E医師(以下、「E医師」という。なお、別紙診療経過一覧(事実)では「E」 と表記している。)は、平成12年4月から被告病院の産婦人科の医師として勤務している者である。E医師は、原告母の主治医であった。(乙A16)F医師(以下、「F医師」という。なお、別紙診療経過一覧(事実)では「F」と表記している。)は、原告母が被告病院において原告子を出産した当時、被告病院の産婦人科の医師として勤務していた者であり、原告母の診療にも関 わっていた。 G助産師(以下、「G助産師」という。なお、別紙診療経過一覧(事実)では「G」と表記している。)は、被告病院において助産師として勤務している者である。G助産師は、令和元年6月14日の深夜帯における助産師のリーダー(受け持ち助産師のフォローや、受け持ち助産師が受け持っている症例 について報告を受ける役割を担っている者。)であった。(乙A20、22)H助産師(以下、「H助産師」という。なお、別紙診療経過一覧(事実)では「H」と表記している。)は、被告病院において助産師として勤務している者である。H助産師は、令和元年6月14日の日勤帯における助産師のリーダーであった。(乙A22) I助産師(以下、「I助産師」という。なお、別紙診療経過一覧(事実)では「I」と表記している。)は、被告病院において助産師として勤務している者である。I助産師は、令和元年6月14日9時00分頃(時間表記は24時制。以下、同様。)から原告子 別紙診療経過一覧(事実)では「I」と表記している。)は、被告病院において助産師として勤務している者である。I助産師は、令和元年6月14日9時00分頃(時間表記は24時制。以下、同様。)から原告子の分娩まで、原告母の受け持ち助産師として分娩介助等を行っていた。(乙A21) ⑵ 分娩までの経過等ア原告母は、平成30年10月頃、Jクリニックを受診し、妊娠していると診断された。同クリニックは、分娩を取り扱っていなかったことなどから、原告母に対し、分娩医療機関として被告病院を紹介した。 イ原告母は、平成30年12月3日、Jクリニックの紹介状を持参して被告 病院を受診し、分娩予約などをした。 なお、原告母が持参した平成30年12月3日付け紹介状には、妊娠12週0日、出産予定日令和元年6月17日と記載されていた。(乙A2、12)ウ原告母は、令和元年6月12日23時30分頃、自宅で破水した(前期破水)。原告母は、被告病院に電話を架け、破水の確認のために来院するよう指示されたことから、原告父の運転する車で病院に向かい、翌13日0時01 分頃、被告病院に到着して診察を受けた。診察の結果、破水(前期破水)が確認されたことから、被告母は、そのまま被告病院に入院することになった。 なお、原告母は、入院時、妊娠39週3日であった。 (甲B46、乙A4)エ原告母が被告病院に入院してから原告子を出産するまでの間の診療経過 は、別紙診療経過一覧(事実)記載のとおりである。 オ原告子の出生後の経過等(ア) 原告子は、令和▲年▲月▲日16時16分、重症新生児仮死の状態で出生した。 原告子は、同日18時20分、K病院(以下「K病院」という。)に救急 搬送さ オ原告子の出生後の経過等(ア) 原告子は、令和▲年▲月▲日16時16分、重症新生児仮死の状態で出生した。 原告子は、同日18時20分、K病院(以下「K病院」という。)に救急 搬送され、NICU(新生児集中治療室)において低体温療法が開始されたが、両側頭蓋内出血が確認されたため、同療法の継続が不可能になり、6時間ほどで終了となった。 K病院の担当医は、同年10月14日、原告子について呼吸器機能障害があると診断し、その原因として重症新生児仮死、脳出血、GBS敗血症 を挙げた。また、原告子の総合所見として、自発呼吸なく呼吸はすべて人工呼吸器に依存しており、また、脳性麻痺のため寝たきりの状態で生活のすべてを介護者に依存している、脳障害は強く自発呼吸が回復することは見込めない旨の意見を付した。 原告子は、現在もK病院に入院し続けており、24時間の人工呼吸器に よる管理を必要としている。原告父と原告母は、交替で、あるいは両親そ ろって、入院している原告子の下に通って面会等をしている。原告父及び原告母は、K病院から、原告子について、将来、在宅で人工呼吸器管理と栄養注入を行う在宅医療に切り替えることを目指す方針を伝えられているが、現時点でも、原告子の退院時期や、在宅療養が可能となる見込みなどについては具体的に明らかとなっていない。 (甲A1から5の5まで、甲B45、46、原告母本人、原告父本人)(イ) なお、K病院においては、原告子に髄膜炎が合併している可能性もあると考え、原告子に対し、同年6月25日には、「GBS菌血症に対してABPC(抗菌薬であるアンピシリンのこと)髄膜炎治療量に増量して投与継続」する等の治療行為を行っている。もっとも、原告子の脳浮腫が強く、 腰椎穿刺ができない状態で は、「GBS菌血症に対してABPC(抗菌薬であるアンピシリンのこと)髄膜炎治療量に増量して投与継続」する等の治療行為を行っている。もっとも、原告子の脳浮腫が強く、 腰椎穿刺ができない状態であるため、原告子について髄液検査は行われていない。(甲A2[94頁]、甲A4の1[13、41頁])⑶ 医学的知見等ア胎児心拍数モニタリング図(以下「CTG」という。甲B3、4、7、42) 胎児心拍数モニタリングは、胎児の心拍数等を検出して胎児の状態を評価することを目的に、母体の腹壁上に分娩監視装置を装着して行うことが多い。 CTGは、胎児心拍数モニタリングにおいて、分娩監視装置で計測した胎児心拍数(単位はbpm(1分間の胎児心拍数値))の推移(CTGの上段に記録される。)と子宮収縮圧(単位はmmHg)の推移(CTGの下段に記録さ れる。)を記録したものである。 CTGにおいて、正常な波形のパターンがみられた場合、その特異性は高く、偽陽性率は低い(正常所見が見られた場合、胎児を健康(well-being)であるとほぼ間違いなく診断することができる。)。 その一方で、正常でない波形のパターンが見られた場合の特異性はかなり 低く、偽陽性率が高い(30~90%)。CTG上で正常でない所見が見られ ても、それだけで胎児が病的な状態にあると診断することは難しく、実際、正常に分娩されることも多い。ただし、ある一定のレベルを超えた異常所見(基線細変動減少・消失など)が認められる場合は、胎児が危険な状態にある可能性が高く、迅速な対応が必要である。 イ胎児心拍数基線(甲B23、39) (ア) 胎児心拍数基線とは、CTG上の10分の区画におけるおおよその平均胎児心拍数であり、5 危険な状態にある可能性が高く、迅速な対応が必要である。 イ胎児心拍数基線(甲B23、39) (ア) 胎児心拍数基線とは、CTG上の10分の区画におけるおおよその平均胎児心拍数であり、5の倍数として表す(例えば、152bpmとか139bpmという表現は用いず、150bpmとか140bpmのように5bpmごとの増減で表す。)。 CTGの所見では、胎児心拍数基線が160bpmを超える場合を頻脈、 110bpm未満を徐脈といい、この間の110bpm以上160bpm以下の場合を正常脈という。 判定に当たっては、①一過性変動の部分と、②26bpm以上の胎児心拍数基線細変動の部分を除外する。また、③10分間に複数の基線があり、その基線が26bpm以上の差をもつ場合は、この部分での基線は判定し ない。 10分の区画内で、基線と読む場所は少なくとも2分以上続かなければならない。そうでなければ、その区画の基線は不確定とする。この場合は、直前の10分間の心拍数図から判定する。 (イ) 胎児心拍数基線において頻脈がみられる原因としては、①胎児の細菌感 染や、②胎児の低酸素症(胎児ジストレスのごく初期)等がある。 (甲B3)ウ胎児心拍数基線細変動(甲B1、3、36、39)胎児が健常な場合、連続する心拍と心拍との間隔は不均一である。CTG上においてこの不均一性を表わすものが、胎児心拍数基線細変動(以下「基線細変動」という。)である。 CTG上の基線細変動とは、1分間に2サイクル以上の胎児心拍数の変動 であって、振幅、周波数とも規則性がないものをいう。なお、基線細変動は、記録用紙の紙送り速度と縦幅に記録される心拍数の範囲に大きく影響を受けるために、1分間に3㎝の記録速 胎児心拍数の変動 であって、振幅、周波数とも規則性がないものをいう。なお、基線細変動は、記録用紙の紙送り速度と縦幅に記録される心拍数の範囲に大きく影響を受けるために、1分間に3㎝の記録速度、縦幅は記録紙1㎝当たり心拍数30bpmを標準とすることとされている(甲B36)。もっとも、被告病院におけるCTGでは、基線細変動は、1分間に3㎝の記録速度、縦幅は記録紙1 ㎝当たり心拍数20bpmで記録されるようになっている。 基線細変動は、振幅の大きさによって次の4段階に分類される。なお、分類は肉眼的に判断される。 ① 細変動消失肉眼的に認められない。 ② 細変動減少 5bpm以下 ③ 細変動中等度 6~25bpm④ 細変動増加 26bpm以上基線細変動は、胎児の中枢神経系と密接に関連している。そのため、胎児の低酸素状態が続くと、中枢神経系が抑制されることから、それが基線細変動の減少又は消失として表れることになる。この点に関し、基線細変動の減 少又は消失が認められる場合、その23%にアシドーシス(血液が正常よりも酸性に傾いた状態)が認められるという報告もある。 エ一過性徐脈(甲B3、4、39)CTG上の徐脈とは、胎児心拍数基線が110bpm未満の場合をいう。 一過性徐脈の波形は、心拍数の減少が急速であるか、緩やかであるかにより、 肉眼的に区別することを基本とする。その判断が困難な場合は心拍数減少の開始から最下点に至るまでに要する時間を参考とし、両者の境界を30秒とする。 また、一過性徐脈の開始は心拍数の下降が肉眼で明瞭に認識できる点とし、終了は基線と判定できる安定した心拍数の持続が始まる点とする。心拍数の 最下点は 参考とし、両者の境界を30秒とする。 また、一過性徐脈の開始は心拍数の下降が肉眼で明瞭に認識できる点とし、終了は基線と判定できる安定した心拍数の持続が始まる点とする。心拍数の 最下点は一連の繋がりを持つ一過性徐脈の中の最も低い心拍数とするが、心 拍数の下降の緩急を解読するときは最初のボトムを最下点として時間を計測する。 一過性徐脈について、対応する子宮収縮がある場合には以下の(ア)から(エ)の4つに分類する。対応する子宮収縮がない場合でも変動一過性徐脈と遷延一過性徐脈は判読する。 (ア) 早発一過性徐脈CTG上の早発一過性徐脈とは、子宮収縮に伴って、心拍数が緩やかに減少し、緩やかに回復する波形で、一過性徐脈の最下点が子宮収縮の最強点と一致するものをいう(なお、上記定義のうち、「心拍数が緩やかに減少し、緩やかに回復する波形」をいうという点は、産婦人科診療ガイドライ ン産科編2011(甲B20)において、「子宮収縮に伴って、心拍数減少の開始から最下点まで30秒以上の経過で緩やかに下降し、その後子宮収縮の消退に伴い元に戻る心拍数低下」であるとされていたが、30秒以上の経過という点に科学的根拠がないため、同ガイドライン産科編2014(甲B38)以降、上記定義に変更されている。)。 (イ) 遅発一過性徐脈CTG上の遅発一過性徐脈とは、子宮収縮に伴って、心拍数が緩やかに減少し、緩やかに回復する波形で、一過性徐脈の最下点が子宮収縮の最強点より遅れているものをいう(なお、上記定義のうち、「心拍数が緩やかに減少し、緩やかに回復する波形」をいうという点は、産婦人科診療ガイド ライン産科編2011(甲B20)において、上記(ア)と同様の定義となっていたが、30秒以上の経過という点に科学的根 やかに減少し、緩やかに回復する波形」をいうという点は、産婦人科診療ガイド ライン産科編2011(甲B20)において、上記(ア)と同様の定義となっていたが、30秒以上の経過という点に科学的根拠がないため、同ガイドライン産科編2014(甲B38)以降、上記定義に変更されている。)。 多くの場合、一過性徐脈の下降開始・最下点・回復が、おのおの子宮収縮の開始・最強点・終了より遅れる。 また、基線から最下点までの心拍数低下が15bpm以上のものを「高 度」遅発一過性徐脈といい、それ以外のものを「軽度」遅発一過性徐脈という。 (ウ) 変動一過性徐脈(甲B4、20、39)CTG上の変動一過性徐脈とは、15bpm以上の心拍数減少が急速に起こり、その開始から回復まで15秒以上2分未満の波形をいう。その心 拍数減少は直前の心拍数より算出される(なお、上記定義のうち、「15bpm以上の心拍数減少が急速に起こり、その開始から回復まで15秒以上2分未満の波形」をいうという点は、産婦人科診療ガイドライン産科編2011(甲B20)において、「15bpm以上の心拍数減少が30秒未満の経過で急速に起こり、その開始から元に戻るまで15秒以上2分未満を 要するもの」をいうとされていたが、30秒未満という点に科学的根拠がないため、同ガイドライン産科編2014(甲B38)以降、上記定義に変更されている。)。子宮収縮に伴って出現する場合は、その発現は一定の形をとらず、下降度、持続時間は子宮収縮ごとに変動することが多い。 「最下点が70bpm未満で持続時間が30秒以上」か「最下点が70 bpm以上80bpm未満で持続時間が60秒以上」のものを「高度」変動一過性徐脈といい、それ以外のものを「軽度」変動一過性徐脈という。 bpm未満で持続時間が30秒以上」か「最下点が70 bpm以上80bpm未満で持続時間が60秒以上」のものを「高度」変動一過性徐脈といい、それ以外のものを「軽度」変動一過性徐脈という。 (エ) 遷延一過性徐脈CTG上の遷延一過性徐脈とは、心拍数減少が15bpm以上で、開始から回復まで2分以上10分未満の波形をいう。その心拍数減少は直前の 心拍数により算出される。10分以上の心拍数減少の持続は基線の変化とみなす。 「最下点が80pm未満」のものを「高度」遷延一過性徐脈といい、それ以外のものを「軽度」遷延一過性徐脈という。 オ胎児機能不全(甲B4、29、44) 胎児機能不全とは、妊娠中あるいは分娩中に胎児の状態を評価する臨床検 査において「正常でない所見」が存在し、胎児の健康に問題がある、あるいは将来問題があるかもしれないと判断された場合を指す言葉である。non-reassuringfetalstatusの訳語であり、胎児が正常であると確信できない状態にあることを指す言葉として用いられる。 なお、CTG上で、基線細変動の消失、遷延一過性徐脈、徐脈(110b pm未満)の継続又は反復する高度遅発一過性徐脈などの波形が認められた場合、臍帯動脈血のphの低下(動脈血のphの正常値は7.35~7.45であり、これを下回っている状態をアシドーシスという。分娩の場合、出生児は正常な場合であっても呼吸性アシドーシスの状態にあり、下記コのとおり、臍帯動脈血のphの平均値は7.27とされ、正常範囲は7.15~ 7.38とされている。臍帯動脈血のphが上記正常範囲を下回っている場合には、胎児血が酸性側に傾いていることになり、呼吸性アシドーシスの場合、その原 値は7.27とされ、正常範囲は7.15~ 7.38とされている。臍帯動脈血のphが上記正常範囲を下回っている場合には、胎児血が酸性側に傾いていることになり、呼吸性アシドーシスの場合、その原因は二酸化炭素の濃度が高くなっていることにある。これは、酸素と二酸化炭素の交換がうまくいっておらず、胎児血が低酸素化していることを示している。)と有意の相関が認められるとの報告があり、CTG上で 上記のような正常ではないパターンの波形が認められた場合には、胎児機能不全の可能性がある(ただし、前記アのとおり、CTG上で正常でないと評価される波形が認められた場合の偽陽性率は高い。)。 カオキシトシン(アトニン)(甲B2、5、6、35、乙B1)オキシトシンは、子宮収縮の誘発、促進等の効能・効果を有する子宮収縮 薬である。 オキシトシンの添付文書には、以下のような記載がある。 なお、添付文書の警告欄には、致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合、又は副作用が発現する結果、極めて重大な事故につながる可能性があって、特に注意を喚起する必要がある場合に記載することとさ れている。 (ア) 警告欄本剤を分娩誘発、微弱陣痛の治療の目的で使用するにあたって、過強陣痛や強直性子宮収縮により、胎児機能不全、子宮破裂、頸管裂傷、羊水塞栓等が起こることがあり、母体あるいは児が重篤な転機に至った症例が報告されているので、本剤の投与にあたっては以下の事項を遵守し慎重に行 うこと。 a 分娩監視装置を用いて、胎児の心音、子宮収縮の状態を十分に監視すること。 b 本剤の感受性は個人差が大きく、少量でも過強陣痛になる症例も報告されているので、ごく少量からの点 こと。 a 分娩監視装置を用いて、胎児の心音、子宮収縮の状態を十分に監視すること。 b 本剤の感受性は個人差が大きく、少量でも過強陣痛になる症例も報告されているので、ごく少量からの点滴より開始し、陣痛の状況により 徐々に増減すること。 (イ) 禁忌欄a 重度胎児機能不全のある患者子宮収縮により胎児の症状を悪化させるおそれがある。 b 過強陣痛の患者 子宮破裂、胎児機能不全、胎児死亡のおそれがある。 (ウ) 使用上の注意欄重要な基本的注意オキシトシンに対する子宮筋の感受性が高い場合、過強陣痛、胎児機能不全があらわれることがあるので、このような場合には投与を中止するか、 又は減量すること。 (エ) 副作用欄a 過強陣痛、子宮破裂、頸管裂傷、羊水塞栓症、微弱陣痛、弛緩出血等があらわれることがある。 b 胎児機能不全を起こすことがあるので、観察を十分に行うこと。 キ子宮頻収縮、過強陣痛(甲B8、9) 子宮頻収縮とは、子宮収縮回数が10分間に5回よりも多い場合をいう。 また、過強陣痛は、産婦人科用語集において「臨床症状名としても用いられ、収縮が異常に強く、その持続が異常に長いものをいう。45秒以上持続するものを長い陣痛とする。」と定義されている。過強陣痛は、収縮が「異常に強い」とか、その持続が「異常に長い」ものというように、判別の尺度が 定性的に表現されており、客観的に評価することが難しいことから、胎児機能不全やそのおそれの有無・程度を検討する目安などに用いる際には、子宮頻収縮の概念が採用されることが多くなっている。 なお、 に表現されており、客観的に評価することが難しいことから、胎児機能不全やそのおそれの有無・程度を検討する目安などに用いる際には、子宮頻収縮の概念が採用されることが多くなっている。 なお、子宮頻収縮は、上記のように子宮収縮の頻度を定量的に表したものであり、収縮の強さや持続時間の長さを含んだ概念ではない。そのため、子 宮頻収縮であるからといって、過強陣痛に当たるとは必ずしもいえない。 ク B群溶血性レンサ球菌(以下「GBS」という。)感染症(甲B10)GBSは、膣の常在菌であり、全妊婦の10~30%から検出される。 GBSを保有した妊婦から生まれた児の50%前後からGBSが分離されるが、その大半は不顕性感染にとどまり、GBS感染症を発症するのは約 1%である。このようにGBS感染症の発症率は低いものの、発症すると肺炎、敗血症、髄膜炎を起こすことがあり、発症した児の約18%が死亡するか、神経学的後遺症が残る。 GBSを保菌している妊婦には、分娩中のペニシリン点滴静注を行い、保菌状態が不明の場合も同様に予防的ペニシリン投与が行われる。 ケ臨床的絨毛膜羊膜炎(乙B3)臨床的絨毛膜羊膜炎とは、子宮内への細菌やウイルスの感染が母体の症状として顕性に現れるものをいい、子宮内感染とほぼ同義で用いられる。原因菌の一つに、GBSがある。 コ臍帯動脈血ガス分析(甲B44) 分娩直後の臍帯動脈血ガス分析結果は、分娩前・分娩中の胎児の血液酸素 化状況を反映している。 下記は、臍帯動脈血ガス検査の正常値を示したものである。 記平均範囲 を反映している。 下記は、臍帯動脈血ガス検査の正常値を示したものである。 記平均範囲pH 7.27 7.15~7.38 PCO₂(mmHg) 50.3 32~68HCO₃-(mmol/L) 22.0 15.4~26.8BE(mEg/L) -2.7 -8.1~-0.9⑷ 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会が編集・監修している産婦人科診療ガイドライン産科編2017(以下「本件ガイドライン」という。)の記載(甲 B1)本件ガイドラインは、日常産科診療上、重要度の高い医療行為について計112項目のClinicalQuestionsを設け、それに対応するAnswerを数個示している。推奨する医療行為を示した各Answerの末尾には、その推奨レベルを三段階(A,B,C)で表している。各推奨レベル の意味は以下のとおりである。(甲B1の2)A:(実施すること等が)強く勧められるB:(実施すること等が)勧められるC:(実施すること等が)考慮される(考慮の対象となるが、必ずしも実施が勧められているわけではない) ア前期破水の管理方法等(甲B1)(ア) 前期破水とは、陣痛が発生する前に卵膜が破綻して羊水が流出した状態をいう。 前期破水の症例では、羊水過少によって臍帯が圧迫されやすく、未破水例に比べて異常胎児心拍数パターンが出現しやすい。 (イ) 前期破水と診断した場合、以下のことを適宜行う(推奨度C)。 水過少によって臍帯が圧迫されやすく、未破水例に比べて異常胎児心拍数パターンが出現しやすい。 (イ) 前期破水と診断した場合、以下のことを適宜行う(推奨度C)。 a 身体所見と血液検査所見から、臨床的絨毛膜羊膜炎の有無を確認する。 日本では、臨床的絨毛膜羊膜炎の診断基準として下記のものが用いられることが多い。 記(a) 母体に38.0度以上の発熱が認められ、かつ以下の4項目中、1 項目以上認める場合①母体頻脈≧100/分②子宮の圧痛③膣分泌物/羊水の悪臭④母体白血球数≧1万5000/μL (b) 母体体温が38.0度未満であっても、上記4項目すべて認める場合ただし、臨床的絨毛膜羊膜炎は必ずしも、病理学的絨毛膜羊膜炎や子宮内感染と一致しないこと、臨床的絨毛膜羊膜炎の症状は比較的遅い時期に出現することなどから、この診断基準を満たしていない場合でも、 絨毛膜羊膜炎の可能性を認識し慎重に管理する。 bNST(ノンストレステスト)(妊娠≧26週)等で胎児well-beingを評価する。 (ウ) 妊娠37週以降では、分娩誘発を行うか、陣痛発来を待機する(推奨度B)。 妊娠37週以降の前期破水において分娩誘発は、自然陣痛発来待機に比べ、新生児感染率や帝王切開率に差を認めないが、絨毛膜羊膜炎や分娩後母体発熱を減少させる。 (エ) 妊娠37週未満では、抗菌薬を投与する(推奨度B)。 イ子宮収縮薬(オキシトシン)の投与等の関係(甲B35) (ア) 投与開始前から分娩監視装 少させる。 (エ) 妊娠37週未満では、抗菌薬を投与する(推奨度B)。 イ子宮収縮薬(オキシトシン)の投与等の関係(甲B35) (ア) 投与開始前から分娩監視装置を装着してCTGとして記録する(推奨度 A)。 子宮収縮薬による有害事象は、多くの場合、過強陣痛により引き起こされるところ、分娩監視装置でCTGを記録することにより、有害事象を未然に防止できる可能性があるため、投与開始前からCTGを記録し、投与中は分娩監視装置による連続モニタリングを行う。 (イ)子宮頻収縮又は胎児機能不全(レベル3~5の波形の出現)のいずれかがあれば過強陣痛等の異常を疑い、産婦の状態を確認して必要に応じた対応(別紙1の表3に応じた対応など)を行い、更に静脈投与中に子宮頻収縮又は胎児機能不全が出現した場合には、減量(1/2以下量への)あるいは中止を検討する(推奨度B)。 ウ CTGの評価法とその対応(甲B1、39)(ア) 以下のいずれかが認められる場合、胎児well-being(胎児の状態が良好であること)は障害されているおそれがあると判断する(推奨度B)a 基線細変動の消失を伴った繰り返す遅発一過性徐脈 b 基線細変動の消失を伴った繰り返す変動一過性徐脈c 基線細変動の消失を伴った遷延一過性徐脈d 基線細変動の減少または消失を伴った高度徐脈(イ) 基線細変動、心拍数基線、一過性徐脈の組み合わせに基づいた分娩時の胎児心拍数波形のレベル分類(別紙1の表1。以下、単に「レベル分類」 という。)の3~5(異常波形軽度、中等度、高度)の場合、「胎児機能不全」と診断する(推奨度B)a レベル の胎児心拍数波形のレベル分類(別紙1の表1。以下、単に「レベル分類」 という。)の3~5(異常波形軽度、中等度、高度)の場合、「胎児機能不全」と診断する(推奨度B)a レベル分類別紙1の表1のレベル分類は、日本産科婦人科学会周産期委員会が、胎児心拍数波形(CTG上の波形)の分類に基づく分娩時胎児管理の指 針を示すために提案している分類である。レベル分類は、胎児心拍数波 形を、CTGの諸要素(基線、一過性徐脈、基線細変動)の組み合わせから、胎児の低酸素・酸血症などへのリスクの程度を推量するために、別紙1の表1のとおり、5段階に分類している。 b 分類のための判定方法胎児心拍数波形のレベルは、10分区画ごとにCTGを判読し、これ を別紙1の表2-1から表2-5まで及び付記に当てはめる方法で判定する。 複数レベルが出現している場合は、最も重いレベルとする。 c レベル3~5の場合、「胎児機能不全」と診断することを推奨(推奨度B)している趣旨 「まだ軽症」と考えることができる時点(レベル3)より、「胎児機能不全」の診断を可能にし、「監視強化」以上の対応を求めている。これは、重症化予測の困難な分娩中胎児状態に即応することができるようにとの配慮からである。 エレベル1~5の場合、別紙1の表3を参考に対応(経過観察、監視の強化、 保存的処置、急速遂娩準備、急速遂娩)する(推奨度C)波形レベル3及び4の場合は、10分ごとに波形分類を見直し対応する。 対応と処置の実行に際しては、妊娠週数、母体合併症、胎児の異常、臍帯・胎盤・羊水の異常、分娩進行状況などの背景因子、経時的変化及び施設の事情( 及び4の場合は、10分ごとに波形分類を見直し対応する。 対応と処置の実行に際しては、妊娠週数、母体合併症、胎児の異常、臍帯・胎盤・羊水の異常、分娩進行状況などの背景因子、経時的変化及び施設の事情(緊急帝王切開の準備時間等)を考慮する。 別紙1の表3記載の対応(経過観察、監視の強化、保存的処置、急速遂娩準備、急速遂娩の5種類)に関しては、エビデンスが乏しい中での推奨であることを考慮して幅をもたせてあるのが特徴である。例えば、レベル3(異常波形軽度)時の対応は監視強化、保存的処置、あるいは急速遂娩準備のいずれかを行うよう推奨している。しかし、この対応は絶対的なものではなく、 対応の決定に際しては、妊婦の背景並びに施設の諸事情を考慮することを求 めている。また、「刺激による一過性頻脈の誘発」や、児頭採血はCTGのもつ高い偽陽性率(異常パターンが出現しても、実際に、胎児は正常に酸素化されている率)を補う際に有用である。対応と処置の実施内容については、別紙1の表3を参考に、各施設において具体的なルールを定めることが望ましく、医療機関の裁量に委ねられる。ただし、レベル5では急速遂娩の実行 と新生児蘇生の準備が求められていることに留意する。 オ分娩中にレベル3ないしレベル4が持続する場合(別紙1の表3を参考に対応する場合)、分娩進行速度と分娩進行度(子宮口開大ならびに児頭下降度で判断)も加味し、定期的に「経腟分娩進行の可否」について判断する(推奨度B) 分娩中の波形レベルが3ないし4であっても、その持続時間によっては胎児血酸素化不全状態が重篤化する可能性がある。したがって、分娩中にレベル3~4が持続する場合には分娩進行速度や分娩進行度も考慮し、「経腟分娩続行」の可否について定期的に も、その持続時間によっては胎児血酸素化不全状態が重篤化する可能性がある。したがって、分娩中にレベル3~4が持続する場合には分娩進行速度や分娩進行度も考慮し、「経腟分娩続行」の可否について定期的に判断する。定期判断の間隔については、波形レベル、持続時間、分娩進行度によっても異なるが、10~60分ごとが 目安となる(内診による分娩進行度の評価は妊婦の苦痛を考慮し、必ずしもこの間隔では要求されない)。 カ上記オにおいて、「経腟分娩困難」と判断した場合には、早期に緊急帝王切開を行う(推奨度B)「分娩中の胎児機能不全持続時間長と胎児血pHとの間に負の相関」が示 唆されている。「レベル3~4が持続」、かつ、「経腟分娩困難と判断」した場合には、早期に緊急帝王切開を行う。 ⑸ 産科医療補償制度に基づく補償金の支払ア公益財団法人日本医療機能評価機構は、令和5年6月29日までに、原告子に対し、産科医療補償制度に基づき、補償金(子に重度脳性麻痺が発症し たことに関する子及びその家族の経済的負担を補償する趣旨のもの。)とし て合計1200万円を支払った。 なお、上記1200万円については、産科医療補償制度保障約款8条1項において、被告が本件医療事故に関して原告らに対して損害賠償責任を負う場合には、優先して損害賠償金に充当される旨が規定されている。 (甲C1、乙C1から3まで) イまた、産科医療保障制度の補償金請求に際して、K病院の小児神経科の医師は、令和2年2月7日付けの脳性麻痺診断書を作成しているところ、同診断書においては、原告子について、先天性要因(脳奇形、染色体異常、遺伝子異常、先天性代謝異常及び先天異常)は存在せず、新生児期の要因の項目では、髄膜炎の欄の「無」にチェックがされて いるところ、同診断書においては、原告子について、先天性要因(脳奇形、染色体異常、遺伝子異常、先天性代謝異常及び先天異常)は存在せず、新生児期の要因の項目では、髄膜炎の欄の「無」にチェックがされており、低緊張型脳性麻痺が脳 性であると考えられる所見・理由の欄には、「重度新生児仮死、低酸素性虚血性脳症による脳、脊髄の障害と判断したため」と記載されている。(甲A6) 3 争点及びこれに関する当事者の主張⑴ CTG上の波形レベルの評価(争点1)(原告らの主張) ア基線細変動の評価方法胎児心拍数基線は、10分間の平均心拍数であり、かつ、一過性変動部分や基線細変動増加の部分は除外し、2分間以上持続している部分で判断する。 したがって、基線細変動の評価に当たっても、10分間の全体評価として行うべきであり、例えば、ごく一部で5bpmを超えるものがあったとして も、全体的に見れば5bpm以下の基線細変動であれば、基線細変動減少とみなされるものである。 イ変動一過性徐脈と遅発一過性徐脈の判別ルール変動一過性徐脈と遅発一過性徐脈の判別は、心拍数の減少が急速であるか、緩やかであるかにより肉眼的に行うとされている。 また、心拍数の減少が急速であるか、緩やかであるかの判断が悩ましい場 合には、CTG上の心拍数の減少開始時から最下点到達時までの時間が30秒を超えている場合には、遅発一過性徐脈と判別する(以下、この判別ルールを「30秒ルール」という。)。 ウ本件で記録された別紙2のCTG上の波形のレベル分類は、別紙3「CTGの波形評価に関する主張と裁判所の認定」の「原告らの主張」欄に記載の とおりにするのが相当である。なお、別紙3のうち、基線波形レベル 記録された別紙2のCTG上の波形のレベル分類は、別紙3「CTGの波形評価に関する主張と裁判所の認定」の「原告らの主張」欄に記載の とおりにするのが相当である。なお、別紙3のうち、基線波形レベルは、心拍数基線・基線細変動を波形レベル評価したもの意味している(一過性徐脈が加わっていない)。 エレベル5の波形別紙2及び別紙3の「原告らの主張」欄に記載のとおり、下記の時点で、 CTG上、レベル5の異常波形が出現している。 記令和元年6月14日 9時46分9時52分9時56分 9時59分10時06分10時13分11時42分15時47分 オレベル3~4の波形の出現状況等(ア) 14日6時57分から9時05分までの約2時間にわたって、継続してレベル3~4の波形が出現している。 上記時間帯の波形は、基線細変動減少と頻脈が認められるため基本的にレベル3と評価されるところ、これに度々変動一過性徐脈が加わるものに ついては、レベル4の波形と評価される。 (イ) 14日9時42分から10時05分までの24分間は、継続してレベル3~5の波形が出現している。 基線細変動減少と頻脈(一過性徐脈が認められない箇所の波形はレベル3)に遅発一過性徐脈、遷延一過性徐脈が6回加わっており、これらはレベル5と評価される。 (被告の主張)ア基線細変動の評価方法基線細変動の評価は、1分間に2サイクル以上の胎児心拍数の変動で、振幅 加わっており、これらはレベル5と評価される。 (被告の主張)ア基線細変動の評価方法基線細変動の評価は、1分間に2サイクル以上の胎児心拍数の変動で、振幅、周波数とも規則性がないものに着目して肉眼的に判読する方法で行う。 原告ら主張のように、10分間の全体評価で判読するものではない。 原告らは、基線細変動の評価方法と胎児心拍数基線の評価方法とを混同している。 イ変動一過性徐脈と遅発一過性徐脈の判別ルール変動一過性徐脈か遅発一過性徐脈かを判別するに当たっては、①子宮収縮に伴って胎児心拍数が緩やかに低下し、緩やかに回復していること、②子宮 収縮の最強点に遅れて胎児心拍数の最下点を認めること、③一過性徐脈が同様の形状で繰り返し出現していること等が判別のポイントとなり、上記①から③までの要素等が認められる場合には、遅発一過性徐脈と評価される。 原告らは、別紙2のCTGのうち、14日9時46分や9時59分の波形を遅発一過性徐脈と評価するべきであると主張するが、上記判別ポイントに 照らすと、上記各波形は、いずれも心拍数の低下が急激であるから、変動一過性徐脈であると評価するのが相当である。 なお、原告らの主張する30秒ルールには科学的根拠がないことから、現在ではこれによって変動一過性徐脈か遅発一過性徐脈かを判別する方法は採用されていない。 ウ本件で記録された別紙2のCTG上の波形のレベル分類は、別紙3「CT Gの波形評価に関する主張と裁判所の認定」の「被告の主張」欄に記載のとおりにするのが相当である。 エレベル5の波形別紙2のCTG上の波形の中に、レベル5と評価されるものはない。 原告らがレベル5に当た 所の認定」の「被告の主張」欄に記載のとおりにするのが相当である。 エレベル5の波形別紙2のCTG上の波形の中に、レベル5と評価されるものはない。 原告らがレベル5に当たると主張する波形は、別紙3の「被告の主張」欄 に記載のとおり、レベル2から4までのいずれかのレベルと評価されるべきものであって、レベル5には当たらない。 オレベル3~4の波形の出現状況等(ア) 14日9時45分頃にレベル4の波形が認められるが、単発であり、その後は概ね基線細変動中等度を維持し、10時25分頃には波形レベル1 まで改善している。 (イ) 10時06分から15時30分までの間に、レベル4と評価し得る波形は出現していない。時折、レベル3の波形や、レベル3と評価し得る波形(母体音やエラーの可能性がある。)の出現が認められるが、そのおおよそが単発の波形であり、また、当該波形の出現後、波形レベル1ないし2 まで改善している。 ⑵ E医師が令和元年6月14日午前7時15分頃までに血液検査や抗生剤投与を行わなかったことについての注意義務違反の有無(争点2)(原告らの主張)前期破水と診断した場合、身体所見と血液検査から臨床的絨毛膜羊膜炎の有 無を確認する必要がある。 特に、本件では、令和元年6月14日7時15分には、原告母の体温が37. 7度(原告母によれば一度目の測定の際は38.4度あった。)で、頻脈が見られ、前夜から激しい痛みを訴えていたという身体所見があったのであるから、この時点において、血液検査を行うとともに、臨床的絨毛膜羊膜炎を疑って抗 生剤を投与し、体温や脈拍などの測定を1~3時間おき程度で行うべき注意義 務があった。 しかし、E医師は、これらの処置を怠っており 検査を行うとともに、臨床的絨毛膜羊膜炎を疑って抗 生剤を投与し、体温や脈拍などの測定を1~3時間おき程度で行うべき注意義 務があった。 しかし、E医師は、これらの処置を怠っており、前記諸検査や抗生剤の投薬、バイタルの監視を怠った注意義務違反がある。 (被告の主張)本件ガイドラインでは、前期破水と診断した場合、身体所見と血液検査所見 から臨床的絨毛膜羊膜炎の有無を確認するなどの措置を適宜とることとされているが、その推奨度はCに過ぎず、本件ガイドラインは、原告ら主張の措置をとるべき注意義務を負っていることの根拠とはならない。なお、被告病院では、原則として、母体発熱時に採血を実施することにしている。 ⑶ 陣痛促進剤(オキシトシン)の投与、投与量及び投与中止の判断に係る注意 義務違反の有無(争点3)(原告らの主張)ア E医師又は助産師が令和元年6月14日10時05分頃にオキシトシンを投与したことの注意義務違反CTG上、同日4時34分から10時05分までの間に、下記のとおり、 継続して異常波形が認められる。このような異常波形の継続は、胎児機能不全を示すものであり、かつ、本件が前期破水症例(羊水減少による臍帯圧迫があり得る症例)であることからすると、本来、子宮圧迫の緩和が求められ、そのための子宮収縮抑制剤の投与や母体への酸素投与を行いつつ、当時の分娩進行度に照らせば、後述のとおり、緊急帝王切開を行うべき状況にあった。 それにもかかわらず、E医師は、これと真逆な決断である陣痛促進剤(オキシトシン)の投与を決断したものであり、これは著しく重大な注意義務違反である。 なお、上記注意義務違反の背景には、E医師が当然確認すべきであったCTG上の波形の 断である陣痛促進剤(オキシトシン)の投与を決断したものであり、これは著しく重大な注意義務違反である。 なお、上記注意義務違反の背景には、E医師が当然確認すべきであったCTG上の波形の確認と評価を怠ったという注意義務違反や、助産師がCTG 上の波形の評価を誤り、医師に対して適切な報告をすることを怠ったという 注意義務違反がある。 また、仮に、上記オキシトシンの投与が、助産師がE医師に報告すらせずに独自の判断で行ったのであったとすれば、それ自体が明白かつ重大な注意義務違反である。 記 【4時34分から5時26分まで基線細変動減少】・4時43分変動一過性徐脈:波形レベル3【7時01分以降、継続して頻脈+7時10分以降、基線細変動減少】・7時13分変動一過性徐脈:波形レベル4・7時31分変動一過性徐脈:波形レベル4 ・7時38分変動一過性徐脈:波形レベル4・8時07分変動一過性徐脈:波形レベル4・9時00分変動一過性徐脈:波形レベル4・9時46分高度遅発性一過性徐脈:波形レベル5イ E医師らが令和元年6月14日10時05分以降、オキシトシンの投与量 を減量したり、投与を中止したりせず、むしろ、10時36分及び11時09分には投与量を増量したことに関する注意義務違反(ア) 異常波形が認められた時点でオキシトシンの投与量を減量したり、投与を中止したりしなかったことに関する注意義務違反オキシトシンの添付文書には、使用上の注意欄に「重要な基本的注意」 として、「過強陣痛、胎児機能不全があらわれることがあるので 減量したり、投与を中止したりしなかったことに関する注意義務違反オキシトシンの添付文書には、使用上の注意欄に「重要な基本的注意」 として、「過強陣痛、胎児機能不全があらわれることがあるので、このような場合には投与を中止するか、又は減量すること」とある上、本件では、上記アのとおり、オキシトシン投与前から波形レベル4又は5の異常波形が続いていたのであるから、開始後に波形レベル4の異常波形が認められた時点で、直ちにオキシトシンの投与を中止すべきであった。 しかしながら、オキシトシン投与開始直後の令和元年6月14日10時 05分から06分にかけて高度変動一過性徐脈が出現し、その後も下記のとおり異常波形が多発していたにもかかわらず、E医師らは、オキシトシンの投与を中止しなかった。 記10時06分波形レベル5 10時13分波形レベル510時24分波形レベル410時37分波形レベル411時07分波形レベル4(イ) 過強陣痛が認められた時点でオキシトシンの投与量を減量したり、投与 を中止したりしなかったことに関する注意義務違反上記(ア) のとおり、オキシトシンの添付文書には過強陣痛の場合には投与を中止するか、減量することとされている上、本件では、過強陣痛が現われる前からレベル4又は5の異常波形が頻発していたのであるから、11時20分頃から過強陣痛が現れ始めた時点で、オキシトシンの投与を中 止すべきであったし、これに伴い変動一過性徐脈等が頻発するようになっていたことからも、投与を中止すべきであったが、E医師らはこれを怠り、オキシトシンの投与を た時点で、オキシトシンの投与を中 止すべきであったし、これに伴い変動一過性徐脈等が頻発するようになっていたことからも、投与を中止すべきであったが、E医師らはこれを怠り、オキシトシンの投与を継続した。 (ウ) 助産師がオキシトシンの投与量を増量したことに関する注意義務違反助産師は、上記(ア) のとおりCTG上で異常波形が見られ、胎児機能不 全状態にあったことがあきらかであったにもかかわらず、下記のとおり、2回にわたって、投与するオキシトシンを増量(投与速度上昇)しており、これは明白な注意義務違反である。また、助産師は、上記投与量の増量について、医師への報告も立会い要請もしておらず、助産師の判断で行っており、この点でも明白かつ重大な注意義務違反がある。 記 10時36分 24ml/h11時09分 36ml/h(被告の主張)ア令和元年6月14日10時5分頃のオキシトシン投与について本件で、オキシトシンの投与前にCTG上で基線細変動の消失はなく、基 線細変動の減少を伴った高度徐脈の所見もない。オキシトシンの投与時に、添付文書の禁忌に当たる所見はなかった。 E医師が同日9時00分頃に内診を行った時点で、分娩経過に問題は生じていなかった。また、微弱陣痛の症例であり、CTG上、胎児機能不全に該当するとみられる波形も存在するものの重度のものではないことに加え、経 時的に波形レベルの良化傾向も認められることからすると、オキシトシンに関しては慎重投与のケースに該当する。そして、内診所見にて、ビショップスコア9点以上、頸管熟化良好と認められたことなどに照らすと、オキシトシンの投与 化傾向も認められることからすると、オキシトシンに関しては慎重投与のケースに該当する。そして、内診所見にて、ビショップスコア9点以上、頸管熟化良好と認められたことなどに照らすと、オキシトシンの投与の適応があると判断したことが不適切であったとはいえない。 イ投与量の減量や投与中止について 投与後に子宮頻収縮やCTG上でレベル4の波形が認められたとしても、そのことから直ちにオキシトシンの減量や投与の中止の義務が生じるものではない。 本件では、CTG上、低酸素血症の増悪を認める所見はなく、14日10時55分頃からのCTG上の波形は、分娩監視装置装着時と比較して良化し ている。その後の子宮頻収縮に際しても、胎児機能不全の増悪は認められず、オキシトシンの投与を直ちに中止すべき法的義務はなかった。 ⑷ 緊急帝王切開の不実施に関する注意義務違反(争点4)(原告らの主張)ア緊急帝王切開をすべき診療契約上の義務について 医療行為における注意義務違反の有無は、ガイドラインの推奨度やエビデ ンスレベルで図るのではなく、当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関において同知見を有することを期待することが相当と認められる医療行為であったか否かで判断される。 なお、本件ガイドラインは、「現時点でコンセンサスが得られた適正な標準的産科診断・治療法を示すこと」(甲B16)のために作成されたものであ り、そこに記載されたAnswerは、ガイドライン作成の前々年度までの内外の論文を検討して得られたもので、「現時点で患者に及ぼす利益を相当程度上回り、80%以上の地域で実施可能であると判断された検査法・治療法をAnswerとして推 、ガイドライン作成の前々年度までの内外の論文を検討して得られたもので、「現時点で患者に及ぼす利益を相当程度上回り、80%以上の地域で実施可能であると判断された検査法・治療法をAnswerとして推奨した」ものである。したがって、本件ガイドラインに記載された検査法・治療法は、当該医療機関と類似の特性を備えた医 療機関に相当程度普及しており、当該医療機関において同知見を有することを期待することが相当と認められる場合には、特段の事情が存しない限り、同知見は当該医療機関にとっての医療水準として期待されるものに当たり、これからの逸脱は、注意義務違反を構成する。 イ CTG上、レベル5の波形が出現し、緊急帝王切開を決定し、これを実施 しなければならなかったにもかかわらず、E医師においてこれを怠ったことに関する注意義務違反(ア) 本件ガイドラインでは、CTG上、レベル5の波形が認められた場合には、医師らは、急速遂娩を実行し、新生児蘇生の準備をしなければならないとされている。 (イ) 本件では、別紙3の「原告らの主張」欄に記載のとおり、14日9時46分以降、たびたびレベル5の波形が認められたのであるから、速やかに急速遂娩を実施しなければならなかったところ、分娩進行速度と分娩進行度に照らすと、経腟分娩での急速遂娩(吸引分娩や鉗子分娩)ができない状態にあったことは明らかであるから、直ちに緊急帝王切開の方法で急速 遂娩を実行しなければならなかった。それにもかかわらず、医師において も助産師においても、CTGの確認やその適切な評価・報告を怠ったために、緊急帝王切開が必要であるとの判断に至らず、これを実施しなかったものであり、医師らには明らかな注意義務違反が認められる。 ウ E医師が令和元年6月14日 の確認やその適切な評価・報告を怠ったために、緊急帝王切開が必要であるとの判断に至らず、これを実施しなかったものであり、医師らには明らかな注意義務違反が認められる。 ウ E医師が令和元年6月14日10時05分頃に緊急帝王切開を決定し、これを実施することを怠ったことに関する注意義務違反 前記⑶の(原告らの主張)アで指摘したとおり、令和元年6月14日4時34分頃から10時05分頃までの間(被告主張によっても同日7時12分頃から10時05分頃までの間)、CTG上、レベル3~4の異常波形が継続して認められ、本件ガイドラインによれば胎児機能不全と診断される(推奨度B)状態にあり、かつ、分娩進行速度と分娩進行度に照らし、経腟分娩 続行が到底無理な状態であったのであるから、遅くとも同日10時05分頃の時点で緊急帝王切開を行わなければならなかった(推奨度B)のにもかかわらず、E医師は、これを怠った。 エ E医師が令和元年6月14日11時07分頃に緊急帝王切開を決定し、これを実施することを怠ったことに関する注意義務違反 前記ウで指摘したCTG上の所見や身体所見に照らすと、本件ガイドラインの見直し時間目安の最大値(前記前提事実⑷オ記載の定期判断の間隔の最大値である約60分)を考慮に入れたとしても、遅くとも令和元年6月14日11時07分頃の時点で緊急帝王切開を行わなければならなかったのにもかかわらず、E医師は、これを怠った。 オ上記エの時点以降も、E医師が緊急帝王切開を決定し、これを実施することを怠ったことに関する注意義務違反上記エの時点以降も、CTGの所見から胎児機能不全と診断される状態が長時間にわたって続いており、かつ、11時45分における内診所見でも、子宮口開大度5㎝、児 ったことに関する注意義務違反上記エの時点以降も、CTGの所見から胎児機能不全と診断される状態が長時間にわたって続いており、かつ、11時45分における内診所見でも、子宮口開大度5㎝、児頭下降度-2、展退度70%と9時ころの所見とほと んど変わりなく、分娩進行速度は遅く、分娩進行度も進んでいない状態で、 この後数時間は経腟分娩が望めない状況であったのであるから、早急に緊急帝王切開を行わなければならなかったのにもかかわらず、E医師は、これを怠った。 (被告の主張)ア緊急帝王切開をすべき診療契約上の義務について (ア) 本件ガイドラインでは、CTGの波形レベルに応じて別紙1の表3を参考に対応すること、例えば、波形レベル4や5の場合に、医師において「急速遂娩の実行、新生児蘇生の準備」の対応や処置をすることについては、推奨度Cとしている。 本件ガイドラインにおいて推奨度Cとされているものは、臨床医学の実 践における医療水準としての実施義務を基礎づけるものではなく、その対応や実施内容については医療機関の裁量に委ねられているものである。 (イ) そもそも、帝王切開術は侵襲を伴う外科的医療行為であり、分娩に関する全てのリスクを回避できる万能の医療行為ではない。 緊急帝王切開術の決定は、同時に帝王切開による母体ないしは母児双方 の死亡といった最悪のリスクをも負担することを意味する。具体的には、麻酔のリスクや術中の出血(止血困難な場合には子宮摘出もあり得る。)に加え、術後合併症として、再出血、縫合不全、術後感染、腸閉塞、肺水腫、肺血栓塞栓症などが挙げられる。 イレベル5の波形が出現していたことを前提とする、緊急帝王切開を行わな かったことに関す 加え、術後合併症として、再出血、縫合不全、術後感染、腸閉塞、肺水腫、肺血栓塞栓症などが挙げられる。 イレベル5の波形が出現していたことを前提とする、緊急帝王切開を行わな かったことに関する注意義務違反の主張について本件では、CTG上、レベル5の波形は認められないから、本件ガイドラインの急速遂娩の絶対的適応は認められない(なお、上記アのとおり、本件ガイドラインのこの点についての推奨度はCに過ぎない。)。 ウ令和元年6月14日10時05分頃までに緊急帝王切開を行わなかった ことについて (ア) 一般に、本件ガイドラインに反する医療行為を行ったことをもって、直ちに診療契約上の注意義務違反があるとはいえない。 また、本件ガイドラインにおいて、CTG上、レベル3~4の波形が持続した場合、経腟分娩継続の可否を判断することが求められているものの、直ちに緊急帝王切開の実施の決定をすることは求められていない。 (イ) 本件では、令和元年6月14日9時45分頃に頻脈・基線細変動減少・軽度変動一過性徐脈(レベル4)の波形が認められるが、単発であり、その後は概ね基線細変動中等度を維持し、10時25分頃には波形レベル1まで改善している。 CTGの所見上も、同日10時05分頃までに緊急帝王切開を行うべき 注意義務があったとはいえない。 エ令和元年6月14日11時07分頃までに緊急帝王切開を行わなかったことについてCTGの所見上、10時37分頃にレベル3の波形が認められるものの、単発であり、その後は正常脈・基線細変動減少ないし中等度を維持し、10 時44分頃には波形レベル1~2まで改善している。 11時04分頃、11時12分頃 3の波形が認められるものの、単発であり、その後は正常脈・基線細変動減少ないし中等度を維持し、10 時44分頃には波形レベル1~2まで改善している。 11時04分頃、11時12分頃及び11時20分頃に、軽度変動一過性徐脈と評価し得る単発の波形(最も重く評価したとしても波形レベル3)が出現しているが、いずれも速やかに波形レベル1~2まで改善している。 以上のように、CTGの所見上も、11時07分頃までに緊急帝王切開を 行うべき注意義務があったとはいえない。 オ上記エの時点以降も緊急帝王切開を行わなかったことについて本件におけるCTGの所見は、別紙2の「被告の主張」欄に記載したとおりのものであり、15時30分頃までの間にレベル5と評価されるような波形は認められない。また、10時06分から15時30分までの間に、レベ ル4と評価することができる波形も出現していない。時折、レベル3の波形 や、レベル3と評価し得る波形(ただし、母体音やエラーの可能性あり)の出現が認められるが、そのおおよそが単発の波形であり、また、当該波形の出現後、波形レベルが1~2に改善していることからすると、レベル3~4の波形が持続していたとも評価できない。さらに、本件では、経時的に分娩の進行を認めており、経腟分娩が困難と判断される事情はない。 以上の診療経過に照らすと、15時30分頃までに緊急帝王切開の実施を決定すべき注意義務があったとはいえない。 ⑸ 各注意義務違反と後遺障害との間の相当因果関係(争点5)(原告らの主張)ア ①原告母がGBSに感染していたにもかかわらず、血液検査を怠るなどし たために感染に気付かず、抗生剤の投与を怠るなどした結果、絨毛膜羊膜炎 果関係(争点5)(原告らの主張)ア ①原告母がGBSに感染していたにもかかわらず、血液検査を怠るなどし たために感染に気付かず、抗生剤の投与を怠るなどした結果、絨毛膜羊膜炎及び臍帯炎による臍帯の機能低下や、これによる子宮胎盤循環の予備能が低下した状態が続き、かつ、②前期破水による羊水過少の状態にあったため、ただでさえ子宮収縮による臍帯圧迫による血流不全の影響を受けやすい状態にあったにもかかわらず、子宮収縮薬であるオキシトシンの投与を続けた ことによって、子宮頻収縮という強いストレス(子宮収縮は、臍帯を圧迫し直接的に子宮胎盤循環を悪化させる)が6時間にわたって続き、その結果、③臍帯の機能不全(上記①)や過度の子宮収縮等の影響(上記②)で胎児への酸素供給が十分にされず、そのために胎児血の酸素化が十分になされず、それが胎児機能不全を示すCTGの所見等に顕れていたにもかかわらず、分 娩により肺呼吸による低酸素状態からの脱却を可能とする急速遂娩(緊急帝王切開)も怠り、上記のような胎児血の低酸素状態を長時間にわたって放置した結果、胎児に低酸素性虚血性脳症が起こり、原告子が重症新生児仮死の状態で出生し、重篤な後遺障害が残る結果となったものである。 イ被告主張について 原告子に髄膜炎が発症していたことを示す証拠は存在しない。髄膜炎の診 断は髄液検査によってするが、本件では髄液検査自体が行われていない。したがって、原告子に髄膜炎が発症していたことを前提とする被告の主張には理由がない。 (被告の主張)ア緊急帝王切開の不実施と後遺障害との間の相当因果関係 GBSの血液培養結果での検出時期や胎盤・臍帯病理組織検査によって絨毛膜羊膜炎stageⅢ、臍 (被告の主張)ア緊急帝王切開の不実施と後遺障害との間の相当因果関係 GBSの血液培養結果での検出時期や胎盤・臍帯病理組織検査によって絨毛膜羊膜炎stageⅢ、臍帯炎stage3と診断されたことなどに照らすと、原告子の早発型GBS感染症は、子宮内感染によるものと判断される。 産科補償医療制度では、子宮内感染の事例では、低酸素・酸血症を認めない場合であっても、重症新生児仮死となる事例が多く見られたと報告されてい る。GBS感染症は、中枢神経系の後遺症が残るリスクの高い疾患であり、本件でも、GBS感染による直接的な脳障害が起こっていた可能性がある。 また、早発型GBS感染症の症状として肺炎、敗血症、髄膜炎が挙げられるところ、本件においても、髄膜炎を合併していた蓋然性が高い。また、後医であるK病院において、原告子に抗菌薬治療が実施されていることや、先 天的な免疫不全が疑われていることからも、髄膜炎発症の蓋然性が高いと判断される。 そして、14日7時05分の時点で、CTG上、基線細変動の頻脈傾向が見られるため、遅くともこの頃には早発型GBS感染症により胎児の生理的な機能に影響が生じていた。 そうすると、原告ら主張の時点(14日8時6分のCTG確認後、直ちに緊急帝王切開を実施すべきと主張している。)で緊急帝王切開術の実施を決定していたとしても、良好な神経学的予後を確保できていたとはいえず、原告ら主張の注意義務違反と原告子に後遺障害が残ったこととの間には、相当因果関係があるとは認められない。 イ抗生剤の不投与と後遺障害との間の相当因果関係 病理検査の結果、絨毛膜羊膜炎stageⅢ、臍帯炎stage3と診断されたことに照らす あるとは認められない。 イ抗生剤の不投与と後遺障害との間の相当因果関係 病理検査の結果、絨毛膜羊膜炎stageⅢ、臍帯炎stage3と診断されたことに照らすと、原告子の子宮内感染は、分娩完了時点である14日16時16分の時点で相当進行していたと推測されるから、原告らの主張する6時56分頃の時点で抗菌薬を投与したとしても、原告子の娩出までに子宮内感染が解消されたとはいえず、GBS感染による低酸素や虚血に対する 防御反応の低下を防ぐことはできなかった。 したがって、6時56分頃に抗菌薬を投与したとしても、原告子に後遺障害が残るという本件の結果を回避できた高度の蓋然性があるとはいえない。 ウオキシトシンの投与中止の不実施等と後遺障害との間の相当因果関係本件で、14日10時05分の時点においてオキシトシンを投与しなかっ たとしても、①破水後24時間以上が経過しても有効な陣痛が発来していなかったことから、胎児感染の危険性等を考慮して、陣痛誘発・促進を実施する必要があったこと、②10時05分以降、CTGの波形レベルの良化が認められており、10時36分の時点ではレベル1又は2の波形となっていたことに照らすと、同時点以降にやはりオキシトシンを投与することになって いたと考えられる。また、それ以降のCTGの波形は、レベル1から3までの間で推移していることからすると、経過観察をしながらオキシトシン投与を継続することになったと考えられる。さらに、12時14分頃及び12時47分頃にCTG上、子宮頻収縮が出現した時点で、オキシトシンの投与の中止又は減量を検討することになったであろうが、オキシトシンの投与中止 又は1/2以下量への減量を行った場合に、発来した陣痛が消失し にCTG上、子宮頻収縮が出現した時点で、オキシトシンの投与の中止又は減量を検討することになったであろうが、オキシトシンの投与中止 又は1/2以下量への減量を行った場合に、発来した陣痛が消失して分娩の進行が停滞するリスクや胎児感染の危険性があることからすると、本件と同様に、6ml/hずつの減量を行う経過となった可能性が高い。 本件では、前記のとおり、帝王切開の実施が求められる経過ではなかったため、経腟分娩を実施することになったことに変わりはない。そして、経腟 分娩の場合には、分娩進行に伴い低酸素状態が生じることは避け難いことか ら、本件と同様の経過を辿った可能性が高い。 したがって、原告ら主張のオキシトシンの投与等に関する注意義務違反と原告子に後遺障害が残ったこととの間には相当因果関係があるとはいえない。 なお、12時14分頃又は12時47分頃の時点で、オキシトシンの投与 を中止したり、1/2以下量へ減量したりしていたとしても、14時56分以降の子宮頻収縮が生じなかったとはいえない。14時56分時点のオキシトシンの投与量は24ml/hと少量であり、子宮収縮への効果は限定的であったと考えられることに加え、オキシトシンの半減期は3~5分であり、中止すれば速やかに血中濃度が低下するため、オキシトシンの影響による子 宮収縮の頻度も速やかに減少するからである。 エ本件では、前期破水により羊水減少が生じており、臍帯圧迫による臍帯血流障害を生じやすい状態であった上、GBS感染による炎症性サイトカインの増加により低酸素状態に対する防御機構が減弱させられていたと推測されるところ、このような状態下で、分娩の進行に伴う子宮収縮や児頭の降下 により不可避的に生じる低酸素状態(通常の分娩 トカインの増加により低酸素状態に対する防御機構が減弱させられていたと推測されるところ、このような状態下で、分娩の進行に伴う子宮収縮や児頭の降下 により不可避的に生じる低酸素状態(通常の分娩進行に不可避的に伴う臍帯血流障害によるもの)の影響を受けた結果、胎児低酸素・酸血症を生じたと考えられる。すなわち、本件子に生じた胎児低酸素・酸血症の原因は、上記のような機序による臍帯血流障害であった可能性がある。 ⑹ 損害(争点6) 当事者の主張は、別紙損害額一覧表に記載のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。 ⑴ 診療経過等 ア原告母は、Jクリニックにおいて、平成31年1月24日と令和元年5月16日に溶連菌を目的菌とした一般細菌培養・同定検査を受けたが、いずれの検査でもGBSは陰性という結果であった(乙A11)。 イ原告母が被告病院に入院してから原告子を出産するまでの間の診療経過は、別紙診療経過一覧(事実)記載のとおりである。 また、原告母には、令和元年6月13日0時18分頃から同月14日16時16分頃までの間、断続的に分娩監視装置が装着され、医師や助産師によって原告母や胎児(原告子)の状態の経過観察がされた。14日4時31分頃から同日16時15分頃までの間に記録されたCTGは、別紙2のとおりである。 (乙A14)ウ原告子は、令和元年6月14日16時16分、出生した。原告子は、啼泣なく、全身チアノーゼで筋緊張がなく、ただちに人工呼吸が開始された。16時18分、E医師が心拍を確認するが、確認できず、心臓マッサージが実施された。16時21分の時点でも心拍を確認でき 告子は、啼泣なく、全身チアノーゼで筋緊張がなく、ただちに人工呼吸が開始された。16時18分、E医師が心拍を確認するが、確認できず、心臓マッサージが実施された。16時21分の時点でも心拍を確認できず、アプガースコアは、 出生後1分0点、出生後5分0点であった。 また、16時37分、16時53分及び17時9分に臍帯血が採取され、血液ガス分析等がされた。このうち、16時37分に採取された臍帯血の血液ガス分析結果は下記のとおりであり、著名な代謝性アシドーシスを示すものであった。 (乙A4から6まで)記pH 6.819PCO₂ 56.1mmHgPO₂ 25.2mmHg BE -26.0mmol/L HCO₃⁻ 8.9mmol/Lエ原告子は、令和元年6月14日午後6時20分頃、低体温療法を受けるなどの目的でK病院に救急搬送され、NICUにおいて低体温療法が開始されたものの、両側頭蓋内出血が確認されたことから、同療法は開始から6時間ほどで終了せざるを得なかった。また、K病院において、入院時の血液培養 検査を行った結果、8時間でGBSが検出された。さらに、胎盤組織の病理検査をした結果、絨毛膜羊膜炎stageⅢ、臍帯炎stage3との病理診断結果が出た。(甲A2・190頁)⑵ 医師の意見等ア院内有害事例調査報告書(以下「本件調査報告書」という。甲B24) 被告病院の院内有害事例調査委員会(被告病院の院長の指示により臨時に設置された委員会。発生した有害事象に至る臨床経過について、事実確認と医学的検証(評価)により原因分析し、医療安全の向上に役立てることを目的とした調査・報告等を行う。)は、本件 長の指示により臨時に設置された委員会。発生した有害事象に至る臨床経過について、事実確認と医学的検証(評価)により原因分析し、医療安全の向上に役立てることを目的とした調査・報告等を行う。)は、本件の診療録、周産期カルテ、関係した医師や助産師からの聴き取りによって臨床経過を把握した上で、これに基づ き、原告子の重症新生児仮死等の原因や、診療経過等に関する医学的評価、医療事故の防止策の提言などをまとめた、令和2年1月9日付け本件調査報告書を作成した。 なお、院内有害事例調査委員会による調査の目的は、医療安全の確保にあり、個々の責任追及を目的としてはいない。また、本件調査報告書は、症例 の結果を知った上で、原告子の重症新生児仮死、頭蓋内出血、重度脳性麻痺の原因、医学的評価について、後方視的に分析検討し、その上で今後の対策・防止策について提言したものである。 本件調査報告書には、下記の記載がある。 記 (ア) 原告子の重症新生児仮死、頭蓋内出血、重度脳性麻痺の原因 a 低酸素性虚血性脳症入院後から令和2年6月14日(39週4日)の15時35分までの間、胎児の健常性は保たれており、この間について原告子が酸血症に陥っていた所見は認めない。 15時35分以降、16時16分の原告子娩出までの間は、CTG上、 110~120bpm前後の心拍数が持続している。しかしながら、出生後の原告子のアプガースコア1分後0点、5分後0点と心肺停止していることから、上記CTGは、母体心拍数を記録していた可能性が高い。 したがって、原告子は、15時35分から16時16分の娩出までの間に、徐脈となり健常性が損なわれ胎児機能不全 分後0点と心肺停止していることから、上記CTGは、母体心拍数を記録していた可能性が高い。 したがって、原告子は、15時35分から16時16分の娩出までの間に、徐脈となり健常性が損なわれ胎児機能不全に陥り、出生時に心停止 になり、脳性麻痺発症に至った可能性がある。しかし、分娩監視装置の心拍数モニタリング所見においていつからどのくらいの間、胎児徐脈が続いていたかは断定できない。 b 前期破水、子宮内感染胎盤病理診断にて絨毛膜羊膜炎Ⅲ度、臍帯炎Ⅲ度と報告されており、 前期破水後、絨毛膜羊膜炎から子宮内胎児感染を引き起こしたと考えられる。 絨毛膜羊膜炎などの子宮内感染は、炎症性サイトカインを増加させ、胎児の低酸素、虚血に対する耐性、防御機構を減弱させると考えられている。実際、脳性麻痺の発症頻度は、絨毛膜羊膜炎があるときには上昇 することが報告されている。本症例では、炎症性サイトカインの増加が胎児の低酸素状態に対する防御機構を減弱させ、胎児機能不全から心肺停止をきたしたことが、脳性麻痺発症の原因の一つとなった可能性がある。 c 新生児GBS敗血症 原告が出生後に搬送されたK病院において、血液培養検査及び新生児 臍部皮膚、咽頭の検査がされた結果、GBSが検出され、新生児GBS敗血症と診断された。 早発型GBS感染症は、急速に重篤化し、出生直後から呼吸障害、敗血症を発症し、死亡や後遺症を残したり、予後不良となったりすることが知られている。 本件では、胎内で既にGBSに感染し、敗血症を併発していたことから、GBS感染症による新生児期の全身状態不良や敗血症、炎症の病態が、低酸素性虚血性脳症の病像悪化に影響した可能性がある。 る。 本件では、胎内で既にGBSに感染し、敗血症を併発していたことから、GBS感染症による新生児期の全身状態不良や敗血症、炎症の病態が、低酸素性虚血性脳症の病像悪化に影響した可能性がある。 d 子宮頻収縮6月14日にオキシトシンの投与を開始した後、10分間に6回以上 の子宮頻収縮がところどころで起きている。同日12時25分からの10分間、14時35分からの10分間、15時01分から16時16分までの間に頻収縮がみられ、オキシトシン促進中に過強陣痛になっていた可能性があり、低酸素性虚血性脳症を憎悪させた可能性は否定できない。 e まとめ本事例における脳性麻痺発症の原因は、令和2年6月14日15時35分以降16時16分の本件子の娩出までの間に、胎児は徐脈となり低酸素状態に陥り、低酸素性虚血性脳症を発症したと考えられる。 また、組織学的絨毛膜羊膜炎、子宮内胎児感染が脳性麻痺発症の原因 の一つとなった可能性がある。さらに、子宮内から引き続いたGBS感染症による新生児期の全身状態不良や敗血症、炎症の病態が、低酸素性虚血性脳症の病像悪化に影響した可能性がある。同日15時01分から16時16分までの間に頻収縮がみられ、オキシトシン促進により過強陣痛になっていた可能性があり、低酸素性虚血性脳症を憎悪させた可能 性は否定できない。 しかし、CTG所見からは、いつからどのくらいの間、胎児徐脈が続いていたかは断定できない。 (イ) 医学的評価aCTG所見とその対応の評価令和2年6月14日9時40分から10時30分までの間は、胎児頻 脈は継続しておりレベル2ないし3となっているが、胎児の酸血症を示す所見は認 aCTG所見とその対応の評価令和2年6月14日9時40分から10時30分までの間は、胎児頻 脈は継続しておりレベル2ないし3となっているが、胎児の酸血症を示す所見は認められない。その後、10時30分から11時20分の間は、レベル2の波形であり、CTGによる所見の増悪は認められない。 11時20分から12時20分にかけて再び胎児頻脈を認めるが、レベル2の状態が継続している。 12時20分頃より、160bpm前後と110bpm前後の基線の心拍数波形が断続的に入れ替わるように記録され、110bpm前後の波形は母体心拍数を現している可能性が高い。このような場合、母体の脈をとりながら胎児心拍数波形を観察し、母体音かどうかを確認するのが一般的である。また同時に、胎児音をより正確に測定できるように分 娩監視装置を正しく計測できるよう装着しなおすことが望ましい。 14時25分から15時00分までの間はレベル3(軽度変動一過性徐脈や軽度遷延一過性徐脈)が持続しており、持続的な分娩監視を継続したことは一般的である。また、同時期に子宮収縮は頻収縮(6回/10分)であり、オキシトシン投与を継続したことは選択肢の一つである。 15時00分から15時35分の間は、胎児心拍数波形と母体心拍数波形と思われる波形が断続的に記録されているが、胎児心拍数波形において原告子の健常性が維持された状態が継続している。 15時35分以後のCTGは、母体心拍数を記録していた可能性が高い。このため、15時35分以降分娩までの期間のどこかで、胎児の健 常性が損なわれ胎児機能不全に陥り、出生時には心停止になり、脳性麻 痺発症に至った可能性がある。し ていた可能性が高い。このため、15時35分以降分娩までの期間のどこかで、胎児の健 常性が損なわれ胎児機能不全に陥り、出生時には心停止になり、脳性麻 痺発症に至った可能性がある。しかし、CTG所見において、どのくらいの間、胎児徐脈が続いていたかは判断できない。 b 前期破水後の管理本症例では、前期破水があり、6月13日23時02分体温37.1℃、翌14日7時41分体温37.7℃であったが、CTGでは同日7時こ ろより胎児心拍数は160bpm以上の頻脈を認め、絨毛膜羊膜炎を疑う必要がある。同日9時38分では母体の頻脈(109bpm)も認めている。この時点で、子宮内感染や絨毛膜羊膜炎を疑い、母体の感染マーカーなどの血液検査が必要である。本症例では前期破水であるにもかかわらず、血液検査が分娩中一度も行われておらず、基準から逸脱して いる。 母体の頻脈は脱水などでも認められるため鑑別が必要である。母体の頻脈を認めた場合、脱水なのか子宮内感染によるものかは血液検査や尿ケトン体検査を施行し、輸液を十分負荷し、頻脈がどのように推移するか厳重に経過を見、鑑別することが重要である。本事例では輸液を増量 し経過観察していることは医学的妥当性がある。しかしそれにもかかわらず頻脈が改善されていないことから、絨毛膜羊膜炎、子宮内感染を強く疑い検査する必要がある。15時00分体温37.8℃、頻脈115bpmと母体頻脈は続いており、15時20分羊水混濁2+となり、38.0℃にはなっていないものの子宮内感染が強く疑われる。感染が疑 われる症例においては、血液検査の施行より、頻回のvitalsignの聴取が望ましい。 cGBS感染症について妊娠初期及び 子宮内感染が強く疑われる。感染が疑 われる症例においては、血液検査の施行より、頻回のvitalsignの聴取が望ましい。 cGBS感染症について妊娠初期及び妊娠後期(妊娠35週3日)に膣と肛門からGBS培養検査が行われており、いずれも陰性であるため、前期破水時、予防的抗 菌薬の投与を行わなかったことは医学的妥当性がある。 しかし、6月14日の午前中に臨床的絨毛膜羊膜炎疑いで抗菌薬を投与したとしても、新生児早発型GBS感染症を防げたかは不明である。 d 子宮頻収縮(子宮収縮回数>5回/10分)オキシトシン点滴の投与法については、基準内に使用、増量されている。 6月14日12時25分の10分間と14時35分の10分間頻収縮になっているが、その後頻収縮は見られない。15時01分から頻収縮が見られ、15時49分にほぼ子宮口全開であるが、過強陣痛疑いにてオキシトシンを中止していることは選択肢の一つである。 15時58分に児頭排臨で頻収縮があったが、陣痛発作が弱いため児 娩出に至らず、オキシトシン投与を開始しているが、児の健常性が保たれていると判断した場合、やむを得ない対処であるとする考えと、急速遂娩(吸引分娩若しくは鉗子分娩)すべきとする考えがある。 結果的には、15時01分から16時16分の児娩出までの間、頻収縮が持続していた。 (ウ) 防止策a 分娩監視装置による管理① 母体心拍数記録の可能性がある場合、母体の脈拍を直接触知しながら胎児心拍数波形を確認するなどの方法で、その可能性の有無を判断するのが望ましい。胎児心拍数記録の確証が得られないと 理① 母体心拍数記録の可能性がある場合、母体の脈拍を直接触知しながら胎児心拍数波形を確認するなどの方法で、その可能性の有無を判断するのが望ましい。胎児心拍数記録の確証が得られないときは、超音 波断層装置を用いた胎児心臓の位置や心拍数の確認を行うことが推奨される。また、母体心拍数計測機能を備えた分娩監視装置を用いた胎児及び母体心拍数の同時監視の体制を推奨する。 ② CTG判読とその対応についての記載が診療録にあまり見られない。 産科ガイドラインに則った判読を適宜行い、その対応についても診 療録に遅滞なく記載することが推奨される。 ③ 医師、助産師、看護師等、分娩に関わる医療者のCTGに関する症例検討会の開催ないし研修会への参加による研鑽が推奨される。 b 前期破水後の管理前期破水症例においては、常に絨毛膜羊膜炎の発症を念頭に臨床経過 を厳重に監視し、血液検査を適宜行い管理する必要がある。本事例においては、血液検査の施行やより頻回のvitalsignの聴取が望まれる。 c 陣痛促進薬使用時の子宮頻収縮陣痛促進薬使用時の子宮頻収縮出現には絶えず注意し、頻収縮発生時 の対応についてもスタッフ全員で共通認識を持ち、その対応策について検討しておく。 イ原因分析報告書(甲B25)公益財団法人日本医療機能評価機構の産科医療補償制度原因分析委員会は、被告病院からの情報と原告らからの情報を基に、下記記載の目的から、 本件医療事故に関し、下記の内容を含む令和4年2月2日付け原因分析報告書(以下「本件原因分析報告書」という。)を作成した。 記 に、下記記載の目的から、 本件医療事故に関し、下記の内容を含む令和4年2月2日付け原因分析報告書(以下「本件原因分析報告書」という。)を作成した。 記(ア) 目的産科医療補償制度は、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺の出生児と その家族の経済的負担を速やかに補償するとともに、脳性麻痺発症の原因分析を行い、同様の事例の発生の防止に資する情報を提供することなどにより、紛争の防止・早期解決及び産科医療の質の向上を図ることを目的として創設された制度である。 原因分析委員会は、上記目的から、分娩機関からの情報と出生児の家族 からの情報を基に医療事故の原因分析を行い、また、CTGや出生児の出 生後の頭部画像の所見については、専門家によってなされた判断を基に分析する。 原因分析委員会による原因分析の目的は、責任追及にはなく、将来、脳性麻痺の発症頻度を低下させることを目標に、「何が原因か」を明らかにすることを目的として行われ、その結果を記した原因分析報告書も同様の 目的で作成される。 (イ) 用語等「臨床経過に関する医学的評価」に用いる表現と解説表現解説適確である正確で迅速な対応である。 一般的である「ガイドライン」で推奨される診療行為等である、または「ガイドライン」に記載されてはいないが、実地臨床の視点から広く行われている診療行為等である。 選択肢のひとつである。 他の選択肢も考えられるが、実地臨床の視点から選択肢としてありうると考えられる場合、専門家によって意見が分かれる場合、または「産科ガイドライン」の推奨レベルC(「CTGの評価法とそ である。 他の選択肢も考えられるが、実地臨床の視点から選択肢としてありうると考えられる場合、専門家によって意見が分かれる場合、または「産科ガイドライン」の推奨レベルC(「CTGの評価法とその対応」に関する評価を除く)で示された診療行為等に沿っていない場合に用いる表現一般的ではない/基準を満たしていない「産科ガイドライン」の推奨レベルA・Bもしくは「助産ガイドライン」で示された診療行為等が行われていない。または「ガイドライン」に記載されていない診療行為等であるが、実地 評価できない:診療録等に必要な情報がなく評価ができな い場合等に用いる。 (ウ) 脳性麻痺発症の原因a 脳性麻痺発症の原因は、分娩経過中に生じた胎児低酸素・酸血症により低酸素性虚血性脳症を発症したことであると考える。 (根拠) (a) 妊娠39週4日6時56分頃から胎児低酸素を示唆する所見(頻脈、基線細変動の減少)を認め、14時12分頃以降に遷延一過性徐脈、基線細変動の増加または減少などの所見を認めることから、分娩経過中に酸血症が進行したと判断する。 (b) 臍帯動脈血ガス分析値(pH 6.819、PCO₂ 56.1mm Hg、PO₂ 25.2mmHg、HCO₃⁻ 8.9mmol/L、B臨床の視点から多くの産科医等によって広く行われている診療行為等ではない。ただし、前述のいずれにおいても、不適切、または誤った診療行為等であるという意味ではない。 ※評価の対象となる診療行為等について、「ガイドライン」で基準が示されている場合は「基準を満たしていない」を用い、それ以外の場合は「一般的ではない」を用いる。 医 であるという意味ではない。 ※評価の対象となる診療行為等について、「ガイドライン」で基準が示されている場合は「基準を満たしていない」を用い、それ以外の場合は「一般的ではない」を用いる。 医学的妥当性がない「ガイドライン」で示された診療行為等から著しく乖離している、または「ガイドライン」に記載されていない診療行為等であるが、実地臨床の視点から選択されることのない診療行為等であり、いずれも不適切と考えられる診療行為等である。 E -26.0mmol/L)が、出生時の児が酸血症であったことを示している。 (c) アプガースコアが生後1分0分、生後5分0点の重症新生児仮死であった。 (d) 頸部超音波断層法で、生後1日(生後9時間)に両側脳実質の出血 および生後3日に基底核、視床、脳幹に高輝度の所見が確認された。 (e) 出生当日、生後3日の振幅統合脳波、および生後6日の簡易脳波検査で高度の活動性低下の所見が認められた。 (f) 出生当日の頭部CTで大脳基底核・視床・脳実質・側脳室周囲白質の腫脹を認め、生後49日の頭部MRIで脳全体・大脳基底核・視床・ 脳幹・延髄の萎縮を認め、低酸素性虚血性脳症と診断する。 b 胎児低酸素・酸血症の原因を解明することは困難であるが、臍帯血流障害または子宮頻収縮による子宮胎盤循環不全が原因である可能性を否定できない。 (根拠) 分娩経過中の臍帯脱出の有無について記載はない。超音波断層法による羊水量の測定が行われていないため、羊水過少などの臍帯圧迫が起こりやすい状況であったかどうかの判断は困難であるが、CTGで変動一過性徐脈が頻発していることから、前期破水による羊水減少によっ 法による羊水量の測定が行われていないため、羊水過少などの臍帯圧迫が起こりやすい状況であったかどうかの判断は困難であるが、CTGで変動一過性徐脈が頻発していることから、前期破水による羊水減少によって臍帯の物理的な圧迫が生じ臍帯血流障害が起こった可能性は否定できな い。 また、CTG上で、妊娠39週4日14時56分以降、6回/10分の子宮頻収縮が認められ、このために子宮胎盤循環不全が起こった可能性を否定できない。 c 絨毛膜羊膜炎が脳性麻痺発症の増悪因子となった可能性がある。 (根拠) 妊娠39週3日入院時に前期破水と診断されており、妊娠39週4日6時56分頃以降、胎児頻脈(CTGで基線の上昇)を認め、胎盤病理組織検査で絨毛膜羊膜炎stageⅢ(Blanc分類)、臍帯炎stage3(中山分類)が認められ、絨毛膜羊膜炎が脳性麻痺発症の増悪因子となった可能性がある。 d 胎児は、妊娠39週4日分娩第Ⅰ期の中頃から低酸素の状態となり、その状態が出生するまでの間に進行し、低酸素・酸血症に至ったと考える。 (根拠)(a) 妊娠39週4日5時31分頃までのCTGは正常波形であり、胎児 の健常性は保たれていると判断する。 (b) 妊娠39週4日6時56分以降のCTGの所見については、上記a(a)記載とおり。 (エ) 臨床経過に関する医学的評価a 前期破水及び胎児頻脈、母体発熱に対して、分娩監視装置装着、バイ タルサイン測定のみで経過観察したことは、選択肢のひとつである。 b 陣痛促進についての説明と同意について、入院時に文書による同意を取得し、実際に施行する際は口頭で同意を得ていた タルサイン測定のみで経過観察したことは、選択肢のひとつである。 b 陣痛促進についての説明と同意について、入院時に文書による同意を取得し、実際に施行する際は口頭で同意を得ていたのであれば、選択肢のひとつである。 ただし、医師の説明内容や妊産婦からの質問などが診療録に記載され ていないことは一般的ではない。 c 妊娠39週4日、前期破水・微弱陣痛の適応で陣痛促進の方針としたことは一般的であるが、CTG上の波形異常の状態でオキシトシン注射液の投与を開始したこと、及び15時49分に投与を中止するまでの投与量の管理(増量及び減量)は一般的ではない。 (解説) 本事例では、オキシトシンの注射液投与開始時のCTG上で頻脈、基線細変動の減少、軽度変動一過性徐脈を認め、胎児心拍数波形のレベル分類でレベル4が出現しており、このような場合にはオキシトシンの注射液による分娩促進は行わず、さらにその波形が持続する場合には増量もせずに中止することが一般的である。また、12時14分にオキシト シンの注射液を36ml/時間から30ml/時間に減量しているが、本件ガイドラインでは、静脈内投与中に胎児機能不全あるいは子宮頻収縮が出現した場合には、減量(1/2以下量への)あるいは中止を検討することが記載されており、1/2以下量への減量あるいは中止することが一般的である。 ウ L医師(以下「L医師」という。)の意見(甲B30)日本産科婦人科学会・産科婦人科専門医であり、M病院の産婦人科医長(意見書作成当時)のL医師が作成した令和4年11月10日付け「医師意見書」(以下「L意見書」という。)で述べられた意見は、要旨、以下のとおりである。 科婦人科専門医であり、M病院の産婦人科医長(意見書作成当時)のL医師が作成した令和4年11月10日付け「医師意見書」(以下「L意見書」という。)で述べられた意見は、要旨、以下のとおりである。 (ア) 原告子が重症新生児仮死の状態で出生した原因は、胎児低酸素・酸血症にあるという後医及び原因分析委員会の分析は妥当である。 (理由)a 令和元年6月14日7 時12分頃のレベル4の波形の出現令和元年6月14日6時56分に胎児心拍数モニタリングを再開し て間もなく、サイナソイダル様波形(サイナソイダルとは、胎児心拍数基線が規則的でなめらかなサイン曲線を示すものを指す。振幅が平均5~15bpmの波形が1分間に2~6サイクル繰り返し、一過性頻脈を伴わずに10分以上持続する。この波形が出現したときは、胎児貧血や重症低酸素状態が疑われる。)が7分続き(通常、10分以上の継続でサ イナソイダルと判断し、レベル4以上と判断する。)、7時01分からは 基線が160bpmを超え頻脈になり、7時10分からは基線細変動が減少し、この頻脈+基線細変動減少という状態が11時30分まで継続している。最初に7時12分に変動一過性徐脈が生じ、波形レベル4と考える。 b 14日7時30分から8時59分にかけてレベル4の波形が繰り返 し出現CTG上、変動一過性徐脈が、14日7時30分、7時37分、8時06分、8時27分、8時38分、8時49分、8時59分と頻発し、それぞれレベル4の波形に当たると考える。一貫して頻脈や基線細変動の減少も見られることから、胎児胎盤循環不全が重篤化していったと考 えられる。 c 14日9時40分頃のレベル5の波形の出現 レベル4の波形に当たると考える。一貫して頻脈や基線細変動の減少も見られることから、胎児胎盤循環不全が重篤化していったと考 えられる。 c 14日9時40分頃のレベル5の波形の出現オキシトシン投与が決定し、14日9時40分頃に胎児心拍数モニタリングが再開された後すぐに、高度遅発一過性徐脈が見られ、これはレベル5の波形に当たると考えられる。 前期破水後羊水腔が少なくなっている状態で、分娩がなかなか進行しないなかで子宮収縮によるストレスが生じたので、分娩進行中に胎児胎盤循環不全が起き、胎児の低酸素血症が起こったと考えられる。レベル5の波形が見られた時点で急速遂娩を考えなければならず、この時点の内診所見では明らかに緊急帝王切開を選択すべきであったと考える。 本件では、これらの処置を怠り、陣痛促進剤(オキシトシン)を投与しはじめて母体に更なる子宮収縮を惹起し、レベル4・5の波形が繰り返される異常事態であったにもかかわらず、分娩進行をさせた。長時間分娩が遷延し、低酸素状態が持続したと考えられ、臍帯血の血液ガスでもpHが6.819 BE-26と大きなストレスにさらされていたこ とが示唆される。 (イ) 前期破水の妊婦であり、13日23時2分に熱発があり、子宮付近の激しい痛みを訴えており、14日7時15分には体温が37.7度に上昇し、頻脈も見られた時点で、原告母に対してとるべきであった標準的な医療行為医師に報告し、医師は採血指示し、炎症反応の有無や程度の確認、経腹 エコーでの羊水量や羊水輝度の確認、胎盤早期剥離など別の重篤疾患はないかの確認を要すると考える。また、内診も施行し、分娩進行を確認し、どれくらい分娩を急ぐ必要があ 反応の有無や程度の確認、経腹 エコーでの羊水量や羊水輝度の確認、胎盤早期剥離など別の重篤疾患はないかの確認を要すると考える。また、内診も施行し、分娩進行を確認し、どれくらい分娩を急ぐ必要があるのか、急がなければならないのか、経過観察できるのかを判断すべきであると考える。 本件では、破水後に発熱と子宮付近の疼痛を訴えており、絨毛膜羊膜炎 の可能性が高いと考えるが、きちんと診断するには採血を要する。 同時刻あたりからCTG上レベル4の波形が見られるため、40歳以上の高齢初産妊婦の分娩でもあることから、より貴重児と考え、オーバートリアージであっても早めの急速遂娩も考慮すべきであったと考える。 (ウ) 14日10時5分に助産師の判断でオキシトシン投与が開始されたこ との妥当性等14日9時45分に胎児心拍数モニタリングが再開された直後に変動一過性徐脈がみられ、この頃の波形はレベル4または5である。 オキシトシン投与を決める前からレベル4,5の波形が出ており、オキシトシン投与の前後ともに胎児機能不全を疑うCTG所見であった。 助産師は、医師へ立ち合いを要請し、体位変換や酸素投与、輸液の全開大投与の保存的処置をすべきであったと考える。医師はその場に立ち合い、急速遂娩(子宮口が4㎝程度、Stも-2と高いので、帝王切開を指す。)を考慮してしかるべきと考える。 (エ) 適切な急速遂娩がなされていた場合の結果回避可能性 6月14日朝の時点で帝王切開をしていれば、その後のオキシトシン投 与による陣痛を避けることができた。早めの帝王切開分娩を選択していれば、少なくとも夕刻までの低酸素状態を回避することができ、本件のような胎 で帝王切開をしていれば、その後のオキシトシン投 与による陣痛を避けることができた。早めの帝王切開分娩を選択していれば、少なくとも夕刻までの低酸素状態を回避することができ、本件のような胎児低酸素脳症による重度四肢麻痺は回避できた可能性が高いと考える。 (オ) 14日9時頃以降の原告子の状態等 CTG上、14時頃からみられ始めた高度遅発一過性徐脈は、16時頃からは子宮収縮のたびに毎回みられている。臍帯動脈血ガス分析結果からも、この間、原告子に代謝性アシドーシスが起こっていたことは確実であり、原告子は慢性的な低酸素状態にさらされていたことが示唆される。 CTG上、14日11時20分から子宮頻収縮が継続し、これに伴い変 動一過性徐脈が頻発している。その後、CTGの波形は大きく乱れて、変動一過性徐脈に加え、遷延一過性徐脈や遅発性一過性徐脈も加わって、途絶えることなく繰り返されている。これらの所見は、胎児の低酸素状態が長く続いたことを示していると考える。これが放置されたために、代謝性アシドーシスが進行し、酸血症(アシデミア)に陥ったと考える。 また、本件では、原告子の娩出1分前に多量の泥状混濁羊水を認めており、羊水には胎便が含まれていた。このことも、原告子が胎児低酸素状態、アシドーシスであったことを裏付けると考える。 エ N医師(以下「N医師」という。)の意見(乙B4)産科婦人科専門医であり、Oセンター所長(意見書作成当時)のN医師が 作成した令和5年5月16日付け「鑑定意見書」(以下「N意見書」という。)で述べられた意見は、要旨、以下のとおりである。 (ア) 原告子の脳性麻痺発症の原因可能性として分娩経過中の胎児低酸 5月16日付け「鑑定意見書」(以下「N意見書」という。)で述べられた意見は、要旨、以下のとおりである。 (ア) 原告子の脳性麻痺発症の原因可能性として分娩経過中の胎児低酸素・酸血症が考えられるが、これらに加え、子宮内感染の関与の可能性も否定できない。 (理由) 臍帯動脈血ガス分析の結果から、出生時点で低酸素・酸血症であったことが明らかにされており、脳性麻痺発症の原因として分娩経過中の胎児低酸素・酸血症を可能性として考えることは妥当である。 また、産科医療補償制度の「第12回再発防止に関する報告書」では、低酸素・酸血症を認めない場合にも、相当数の重症新生児仮死が発生して いることが報告されている。 本件でも、絨毛膜羊膜炎(Ⅲ度)と臍帯炎(Ⅲ度)が診断されているため、胎児低酸素・酸血症に感染による脳障害が重なっていた可能性も否定できない。 (イ) 帝王切開術に関する決定の適切性 本件の分娩経過に対し、被告病院が、遅くとも令和元年6月14日午前9時45分頃までに帝王切開術を決定しなかったことは、不適切であったとはいえない。 (理由)本件の分娩経過において、CTG上、レベル5に相当する波形は指摘で きない。 本件で、経腟分娩での娩出が困難と予測される事情は見当たらず、遅くとも令和元年6月14日午前9時45分頃までに帝王切開術の決定を行わなかったことが不適切であったとはいえない。 2 CTG上の波形レベルの評価(争点1) ⑴ CTGの評価方法についてア胎児心拍数基線前記前提事実⑶イのとおり、胎児心拍数基線は、CTG上の10分の区画における胎児のおおよその平均心拍数であり、5の倍 1) ⑴ CTGの評価方法についてア胎児心拍数基線前記前提事実⑶イのとおり、胎児心拍数基線は、CTG上の10分の区画における胎児のおおよその平均心拍数であり、5の倍数として表す。また、上記平均心拍数を読み取る際には、①一過性変動部分や②26bpm以上の 胎児心拍数変動の部分を除外し、③2分以上続く部分を基線として評価する。 イ基線細変動前記前提事実⑶ウ記載の基準によって、基線細変動は、1分間に2サイクル以上の胎児心拍数の変動であって、振幅、周波数とも規則性がないものをいい、振幅の大きさを肉眼的に判断して、細変動消失・減少・中等度・増加に分類する。 なお、原告らは、胎児心拍数基線が、上記アのとおりCTG上の10分の区画における胎児のおおよその平均心拍数で判断されるものであるから、基線細変動の評価においても10分間の全体評価として行うべきであり、例えば、ごく一部で5bpmを超えるものがあったとしても、全体的に見れば5bpm以下の基線細変動であれば、基線細変動減少とみなされる旨を主張す るが、基線細変動の判断方法は上記のとおりであって、10分間の全体評価として行うものではないから、原告らの主張は採用できない。 ウ一過性徐脈前記前提事実⑶エ(イ)及び(ウ)のとおり、一過性の徐脈のうち、遅発一過性徐脈は、子宮収縮に伴い、子宮収縮の最強点(CTGの下段の子宮収縮圧が 最高点に達した点)に遅れて徐脈の最下点が認められるものをいう(子宮収縮に遅れて、頻脈が出現する)。 これに対し、変動一過性徐脈は、子宮収縮に伴って出現するとは限らず、また、子宮収縮に伴って出現する場合であっても、遅発一過性徐脈の場合とは異なり、一定の形をとって発現す 頻脈が出現する)。 これに対し、変動一過性徐脈は、子宮収縮に伴って出現するとは限らず、また、子宮収縮に伴って出現する場合であっても、遅発一過性徐脈の場合とは異なり、一定の形をとって発現するとは限らず(形は変動する)、下降度や 持続時間は子宮収縮ごとに変動するものをいう。 遅発一過性徐脈と変動一過性徐脈の判別は必ずしも容易ではないが、上記定義に照らすと、①子宮収縮の最強点に遅れて徐脈の最下点が認められることは、遅発一過性徐脈と判別する根拠となる。また、②徐脈が同様の形状で繰り返し出現しているかどうかも、判別のポイントとなる(上記のとおり、 変動一過性徐脈の場合は、波形が一定しているとは限らない。)。さらに、③ 子宮収縮に伴って胎児心拍数が緩やかに低下し、緩やかに回復しているか、それとも、急速に低下しているかも判別のポイントとなる(前者が遅発一過性徐脈の場合であり、後者が変動一過性徐脈の場合である。甲B20)。 ⑵ 上記⑴に基づき、別紙2のCTGを評価した結果は、別紙3の「裁判所の認定」欄に記載したとおりである。 なお、別紙2の「裁判所の認定」「基線細変動」欄に「中等度~減少」と記載している箇所は、評価対象領域の基線の高さが5bpm以下なのかそれより大きいのかを肉眼で判別することが困難な境界領域であることを意味している。 ⑶ 原告らがレベル5の波形と主張するものについてア 14日9時46分 原告らは、14日9時46分頃のCTG上の一過性徐脈の波形が高度遅発一過性徐脈に当たると主張し、これを前提に同波形はレベル5と評価されるべきであると主張する。 しかしながら、別紙2のとおり、上記波形は、子宮収縮の最強点に遅れて一過性徐脈の最下点が表れているものの(この点 ると主張し、これを前提に同波形はレベル5と評価されるべきであると主張する。 しかしながら、別紙2のとおり、上記波形は、子宮収縮の最強点に遅れて一過性徐脈の最下点が表れているものの(この点では、遅発一過性徐脈の性 質を備えている。)、波形は不定形に乱れており、心拍数の低下が緩やかに生じているとも言い難く、その前後に同様の形状の波形も認められない。そうすると、上記波形は、遅発一過性徐脈とは評価し難く、軽度変動一過性徐脈(最下点は100bpm程度である)に当たると評価するのが相当である。 したがって、上記波形のレベルは、別紙3の「裁判所の認定」欄に記載し たとおり、レベル4と評価するのが相当である。 イ 14日9時52分原告らは、14日9時52分頃のCTG上の心拍数基線は頻脈であり、また、一過性徐脈の波形は高度遅発一過性徐脈に当たると主張し、これを前提に同波形はレベル5と評価されるべきであると主張する。 しかしながら、別紙2のとおり、14日9時52分頃のCTG上の心拍数 基線は肉眼的に平均して160bpm程度であると判断でき、正常脈と認められる。また、同時刻頃に現れた一過性徐脈は、9時50分頃の子宮収縮に伴って現れたものとは認め難いから(これに伴う一過性徐脈と見られるものは9時50分頃に現れている)、遅発一過性徐脈とは評価し難く、軽度変動一過性徐脈(最下点は125bpm程度である)に当たると評価するのが相 当である。 したがって、上記波形のレベルは、別紙3の「裁判所の認定」欄に記載したとおり、レベル3と評価するのが相当である。 ウ 14日9時56分原告らは、14日9時56分頃のCTG上の心拍数基線は頻脈であると主 張する。 所の認定」欄に記載したとおり、レベル3と評価するのが相当である。 ウ 14日9時56分原告らは、14日9時56分頃のCTG上の心拍数基線は頻脈であると主 張する。 しかしながら、別紙2のとおり、14日9時52分頃のCTG上の心拍数基線は肉眼的に平均して160bpm程度であると判断でき、正常脈と認められる。 また、被告は、同時刻頃の基線細変動を「中等度」であると主張するが、 肉眼的に見ると振幅の大きさは5bpm以下と認められ、基線細変動は「減少」と評価するのが相当である。 したがって、上記波形のレベルは、別紙3の「裁判所の認定」欄に記載したとおり、高度遅発一過性徐脈(基線から最下点までの心拍数低下が15bpm以上である)があることにより、レベル4と評価するのが相当である。 エ 14日9時59分原告らは、14日9時59分頃のCTG上の心拍数基線は頻脈であり、また、一過性徐脈の波形は高度遅発一過性徐脈に当たると主張し、これを前提に同波形はレベル5と評価されるべきであると主張する。 しかしながら、別紙2のとおり、14日9時59分頃のCTG上の心拍数 基線は肉眼的に平均して160bpm程度であると判断でき、正常脈と認め られる。また、同時刻頃に現れた一過性徐脈は、子宮収縮の最強点に遅れて徐脈の最下点が表れているものの(この点では、遅発一過性徐脈の性質を備えている。)、心拍数の低下が緩やかに生じているとは言い難く、その前後に同様の形状の波形も認められない。そうすると、上記波形は、遅発一過性徐脈とは評価し難く、軽度変動一過性徐脈(最下点は95bpm程度である) に当たると評価するのが相当である。 したがって、上記波形のレベルは、別紙3の「 うすると、上記波形は、遅発一過性徐脈とは評価し難く、軽度変動一過性徐脈(最下点は95bpm程度である) に当たると評価するのが相当である。 したがって、上記波形のレベルは、別紙3の「裁判所の認定」欄に記載したとおり、レベル3と評価するのが相当である。 オ 14日10時06分原告らは、14日10時06分頃のCTG上の一過性徐脈の波形が高度遅 発一過性徐脈に当たると主張し、これを前提に同波形はレベル5と評価されるべきであると主張する。 しかしながら、別紙2のとおり、上記波形は、子宮収縮の最強点に遅れて一過性徐脈の最下点が表れているものの(この点では、遅発一過性徐脈の性質を備えている。)、波形は不定形に乱れており、心拍数の低下が緩やかに生 じているとも言い難く、その前後に同様の形状の波形も認められない。そうすると、上記波形は、遅発一過性徐脈とは評価し難く、高度変動一過性徐脈(最下点が70bpm以上80bpm未満で持続時間が60秒以上である)に当たると評価するのが相当である。 したがって、上記波形のレベルは、別紙3の「裁判所の認定」欄に記載し たとおり、レベル4と評価するのが相当である。 カ 14日10時13分原告らは、14日10時13分頃のCTG上の心拍数基線は頻脈であり、基線細変動は「減少」であると主張し、これを前提に同時刻頃の波形はレベル5と評価されるべきであると主張する。 しかしながら、別紙2のとおり、同時刻頃の心拍数基線の高さを10分の 区画で肉眼的に評価すると、平均して155~160bpm程度であると判断でき、正常脈と認められる。また、基線細変動については、基線の高さが5bpm以下なのかそれより大きいのかを肉眼で判別するこ 区画で肉眼的に評価すると、平均して155~160bpm程度であると判断でき、正常脈と認められる。また、基線細変動については、基線の高さが5bpm以下なのかそれより大きいのかを肉眼で判別することは必ずしも容易ではないから、「中等度~減少」と評価するのが相当である。 したがって、上記波形のレベルは、別紙3の「裁判所の認定」欄に記載し たとおり、軽度又は高度遅発一過性徐脈(基線から最下点までの心拍数低下が15bpm以上か、15bpm未満かの区別をすることが必ずしも容易ではないため、軽度又は高度遅発一過性徐脈と判断する。)により、レベル3~4と評価するのが相当である。 キ 14日11時42分 原告らは、14日11時42分頃のCTG上の一過性徐脈の波形が高度遅発一過性徐脈に当たると主張し、これを前提に同波形はレベル5と評価されるべきであると主張する。 しかしながら、別紙2のとおり、同時刻頃に現れた一過性徐脈は、子宮収縮の最強点に遅れて徐脈の最下点が表れているものの(この点では、遅発一 過性徐脈の性質を備えている。)、心拍数の低下が緩やかに生じているとは言い難く、その前後に同様の形状の波形も認められない。そうすると、上記波形は、遅発一過性徐脈とは評価し難く、軽度変動一過性徐脈に当たると評価するのが相当である。 したがって、上記波形のレベルは、別紙3の「裁判所の認定」欄に記載し たとおり、レベル4と評価するのが相当である。 ク 14日15時47分原告らは、14日15時47分頃のCTG上の波形は、頻脈、基線細変動「減少」で高度変動一過性徐脈が表れていると主張し、これを前提に同波形はレベル5と評価されるべきであると主張する。 しかしながら、別紙2 7分頃のCTG上の波形は、頻脈、基線細変動「減少」で高度変動一過性徐脈が表れていると主張し、これを前提に同波形はレベル5と評価されるべきであると主張する。 しかしながら、別紙2のとおり、同時刻頃のCTG上の波形は非常に乱れ ており、それ以前の波形の記録状況に照らし、母体の心音を拾っている部分が含まれている疑いがあると言わざるを得ない。したがって、同時刻頃の波形レベルを評価するのはそもそも困難である。 ⑷ 被告が波形レベル1~2と主張する点についてア被告は、14日9時45分頃にレベル4の波形が見られるが、単発であり、 その後は概ね基線細変動中等度を維持し、10時25分頃には波形レベル1まで回復していること、10時06分頃から15時30分までの間にレベル4と評価される波形は出現しておらず、時折、レベル3の波形が出現するが、単発であり、その後に波形レベル1から2まで改善していると主張する。 しかしながら、別紙2のCTGを上記⑴に基づいて評価すると、別紙3の とおり認定できるのであって、これと異なる被告の主張は採用しない。また、10時08分頃から10時31分頃までの間は、正常脈・基線細変動中等度~減少で、基線波形レベルは1~2と評価でき、11時55分頃から12時22分頃までの間も、正常脈・基線細変動中等度~減少で基線波形レベルは1~2と評価できる波形が認められる。しかしながら、このような正常波形 又は亜正常波形が認められるのはいずれも短時間に限っており、その前後にはいずれも一過性徐脈によりレベル3ないし4と評価される又は評価し得る異常波形が頻出していることに照らすと、上記のように一時的に正常又は亜正常波形が認められたからといって、後述するとおり、胎児の健常性に対する懸念 徐脈によりレベル3ないし4と評価される又は評価し得る異常波形が頻出していることに照らすと、上記のように一時的に正常又は亜正常波形が認められたからといって、後述するとおり、胎児の健常性に対する懸念が解消されたとは言い難い。 イ被告は、14日13時20分から13時32分までの間は正常脈・基線細変動中等度で波形レベル1の正常波形が、13時43分から15時39分までの間も、波形レベル1~2の正常・亜正常波形が認められる上に、一過性頻脈もみられるから、胎児の健常性は保たれていた旨を主張する。 しかしながら、CTG上の波形は、12時頃から、胎児の徐脈の最下点付 近を記録したものなのか、母体の心音を拾ったものなのかの判別がつきにく い波形の出現頻度が次第に高くなり、13時以降は、それまでの波形に比べて、母体心拍数の可能性のある記録が頻回に入り混じり、波形自体も大きく乱れている(被告においても評価困難な部分が多数存在する)。本件における13時以降のCTGの波形記録には、胎児の健常性を判断するための大前提としての計測と記録の正確性に関して疑問があると言わざるを得ず、この ような不十分で断片的な波形記録を根拠に、胎児の健常性を適切に評価することは困難である。本件の13時以降のCTG上の波形レベルについては、判定困難と言わざるを得ず、これと前提を異にする被告の上記主張は採用しない。なお、本件原因分析報告書が14時12分頃以降に遷延一過性徐脈、基線細変動の増価又は減少などの所見が認められると指摘していること(前 記1⑵イ(ウ))、別紙2及び3のとおり、13時以前には、CTG上、レベル3(軽度異常波形)からレベル4(中等度異常波形)の異常波形がほぼ間断なく出現していること、原告子が16時16分に重度新生児 記1⑵イ(ウ))、別紙2及び3のとおり、13時以前には、CTG上、レベル3(軽度異常波形)からレベル4(中等度異常波形)の異常波形がほぼ間断なく出現していること、原告子が16時16分に重度新生児仮死の状態で出生していること(前記1⑴)に照らすと、原告子が13時以降に健常な状態であったとは考え難い。 3 E医師が令和元年6月14日7時15分頃までに血液検査や抗生剤投与を行わなかったことについての注意義務違反の有無(争点2)原告らは、前記前提事実⑵及び前記1⑴の認定事実のとおり、原告母が令和元年6月13日に破水し(前期破水)、卵膜の破綻によって子宮内が外界と交通するようになったために子宮内感染の可能性が高まる状態となっていた上、同月1 4日7時15分頃の時点で、原告母の体温が少なくとも37.7度あり、頻脈で前夜から激しい痛みを訴えているという身体所見も見られたことからすると、原告母の主治医であったE医師は、臨床的絨毛膜羊膜炎の有無を確認するために血液検査を行い、また、既に発症していることを疑って、抗生剤を投与したり、体温・脈拍等のバイタルを注意深く監視したりすべき注意義務を負っていたと主張 する。 そこで検討するに、本件ガイドラインは、前期破水と診断した場合には、身体所見と血液検査所見から臨床的絨毛膜羊膜炎の有無を確認するなどの措置を適宜行うと定めているが、このような措置を行うことの推奨度はC(「考慮の対象となるが、必ずしも実施が勧められているわけではない」という推奨レベル)にとどまっている。また、前期破水の場合、子宮内が外界と交通するようになるた め子宮内感染の可能性が高まることは原告ら指摘のとおりであるが、本件では、平成31年1月24日(入院の5か月ほど前)及び令和元年5月16日(入 前期破水の場合、子宮内が外界と交通するようになるた め子宮内感染の可能性が高まることは原告ら指摘のとおりであるが、本件では、平成31年1月24日(入院の5か月ほど前)及び令和元年5月16日(入院の1か月ほど前)の時点では、一般細菌培養・同定検査においてGBSが検出されていないこと、前期破水により入院した時点(令和元年6月13日0時過ぎ頃)でも、原告母の体温は36度台であり、感染症を発症しているような明白な身体 所見がなかったこと(別紙診療経過一覧(事実))、同日23時頃に体温が37. 1度を記録しているものの、翌14日4時42分の時点では体温36.5度と平熱に戻っていること、同日7時41分頃に体温37.7度を記録しているものの、臨床的絨毛膜羊膜炎の診断基準である体温38.0度(前記前提事実⑷ア(イ))には達していないこと、その後の検温でも体温が38.0度に達することはなかっ たことに照らすと、原告らの主張する同日7時15分頃までの間に、主治医であるE医師に、原告母について血液検査や抗生剤の投与等を行うべき診療契約上の注意義務があったとまでは認め難い。 なお、原告母の供述(甲B46、原告母本人)によると、体温37.7度を記録した14日7時41分の少し前の時点で、原告母が腋下で体温を測定した際に 38.4度を記録したことはうかがわれるものの、正確な測定値であるかを確認するために、速やかに再測定がされており、その結果、体温は37.7度であることが確認されたことが認められる。そうすると、原告母が腋下体温を自ら測定した際にいったんは38.0度を超える体温を計測したことは、上記のようなE医師の注意義務についての判断を左右するほどの事情にはならないというべき である。 原告らのその余の主張や提出証拠 たんは38.0度を超える体温を計測したことは、上記のようなE医師の注意義務についての判断を左右するほどの事情にはならないというべき である。 原告らのその余の主張や提出証拠を検討しても、E医師が令和2年6月14日7時15分頃までに血液検査や抗生剤投与等を行わなかったことについて、診療契約上の注意義務違反があったとまでは認め難い。 なお、別紙診療経過一覧(事実)のとおり、14日7時41分以降、原告母の体温は測定の度に37度を超えていたことや、前記1⑴の認定事実のとおり、原 告子がK病院に搬送されて入院した際に採取された血液検査の結果、GBSが検出されたこと、胎盤組織の病理検査の結果、絨毛膜羊膜炎stageⅢ、臍帯炎stage3と診断されたことに照らすと、原告母は14日7時41分頃には既にGBSに感染しており、上記発熱もその影響によるものであったことは推認される。このことは、下記のとおり、緊急帝王切開をすべき診療契約上の注意義務 の有無や、同注意義務違反と結果との間の相当因果関係を検討する際に、考慮することにする。 4 陣痛促進剤(オキシトシン)の投与、投与量及び投与中止の判断に係る注意義務違反の有無(争点3)⑴ E医師又は助産師が令和元年6月14日10時05分頃にオキシトシンを 投与したことについて原告らは、14日4時43分以降、CTGにおいて継続して異常波形が認められたことや、本件が前期破水の事例であり、羊水の減少に伴い臍帯が圧迫されやすい症例であることに照らすと、本来、子宮圧迫を緩和する措置をとるべきであって、これと真逆な子宮収縮剤であるオキシトシンの投与は行ってはな らなかった旨を主張する。 そこで検討するに、前記前提事実⑶カ(イ)(ウ)のとおり、オキシトシ 和する措置をとるべきであって、これと真逆な子宮収縮剤であるオキシトシンの投与は行ってはな らなかった旨を主張する。 そこで検討するに、前記前提事実⑶カ(イ)(ウ)のとおり、オキシトシン(アトニン)の添付文書の禁忌欄に記載されているのは、a.重度胎児機能不全と、b.過強陣痛であるところ、別紙2及び3のとおり、14日10時05分頃までのCTGの所見では、異常波形が継続的に認められていたものの、そのレベ ルは3(軽度)から4(中等度)にとどまり、CTGで異常波形が観察された 場合の偽陽性率の高さ(前記前提事実⑶ア)に照らしても、本件が前期破水の症例であることを考慮に入れたとしても、上記のような所見から、胎児が重度の胎児機能不全にあると判断することは困難であったというべきである。また、別紙2のとおり、当時のCTG所見から、原告母に過強陣痛が認められなかったことも明らかである。 そして、別紙診療経過一覧(事実)に記載のとおり、原告母は、前期破水を起こして6月13日0時過ぎに被告病院に入院した後、なかなか分娩が進まず、同月14日10時05分頃の時点で、分娩進行度も分娩進行速度も遅く、経腟分娩が可能な状態となるまでに相当な時間を要することが予測される状態にあったこと、原告母が入院後、陣痛等に伴う痛みの強さを度々訴え、13日2 1時00分頃の時点で相当に疲労した様子を見せていたこと、それでも、陣痛促進剤の投与は日中の人員を確保できる時間帯に行うことを基本としていたため、被告病院側は原告母に対し、その旨を説明し、陣痛促進剤の投与は翌朝14日9時前後の診察後に開始されるであろうとの見込みを告げ、原告母の理解を得ていたこと、妊娠37週以降(本件は13日の時点で妊娠39週3日で あった。前記前提事実⑵ 、陣痛促進剤の投与は翌朝14日9時前後の診察後に開始されるであろうとの見込みを告げ、原告母の理解を得ていたこと、妊娠37週以降(本件は13日の時点で妊娠39週3日で あった。前記前提事実⑵ウ)の前期破水の場合、分娩誘発は、自然陣痛発来待機に比べて、絨毛膜羊膜炎等を減少させるとの知見があること(前記前提事実⑷ア(ウ))に照らすと、E医師らが14日10時05分頃にオキシトシンの投与を決断してこれを実行したことには、相応の医学的根拠があるというべきであり、少なくとも、上記時点においてオキシトシンを投与したことについて診 療契約上の注意義務違反があったとは認め難い。 ⑵ E医師らが令和元年6月14日10時05分以降、オキシトシンの投与量を減量したり、投与を中止したりせず、むしろ、10時36分及び11時09分には投与量を増量したことについて原告らは、オキシトシンの投与後、CTG上においてレベル4や5の異常波 形や過強陣痛が認められた以上、これらの時点で、直ちにオキシトシンの投与 を中止すべきであったものであり、ましてや、投与量を増量することなど許されなかった旨を主張する。 しかしながら、前記2で説示したとおり、本件でレベル5の異常波形は認められない。また、別紙2及び3のとおり、14日11時16分頃から子宮頻収縮が出現するようになっているものの、CTGの波形上、子宮収縮の強さも長 さも異常に強いものであったことはうかがわれず、過強陣痛であったとまでは認められない。したがって、これらの所見が認められることを前提とする原告らの主張には理由がない。 なお、後記5で説示するとおり、14日11時45分頃の時点に至ると、低酸素状態に長期間さらされたことによる胎児機能不全が重度と評価できるレ を前提とする原告らの主張には理由がない。 なお、後記5で説示するとおり、14日11時45分頃の時点に至ると、低酸素状態に長期間さらされたことによる胎児機能不全が重度と評価できるレ ベルに達している相当程度の可能性が認められ、被告病院らの医師らにおいて急速遂娩の措置をとるべき注意義務を負うほどの状態になっていたことが認められるから、この頃までには、子宮収縮によって胎児の状態を悪化させるおそれがあるオキシトシンの投与を中止すべき注意義務を負っていたことは認められる。もっとも、この時点では、オキシトシンの投与中止だけでは十分で はなく、急速遂娩の措置までとるべき注意義務を負っていたものであるから、この点に関する判断の詳細は、後記5において示すことにする。 5 緊急帝王切開の不実施に関する注意義務違反(争点4)について⑴ 前記前提事実のとおり、原告母は、分娩医療機関として被告病院の紹介を受けて同病院を受診し、被告病院において出産をするために被告との間で診療契 約を締結したものであり、被告は、原告母に対し、母子共に健康な出産を目指し、その実現のために必要で相当な医療上の措置をとるべき診療契約上の注意義務を負っている。 また、一般に、臨床医療には不確実性が伴うことを避けられず、ことに本件のような産科医療においては、正常な過程を経た分娩であっても、子宮収縮や 胎児の姿勢等の変化に伴う臍帯の圧迫等によって多かれ少なかれ胎児が低酸 素状態にさらされることは避けられず(呼吸性アシドーシスの状態。前記前提事実⑶オ)、これに母子側の要因のほか様々な不確定要素が加わった場合には、胎児の健常性が損なわれ、結果的に死産となったり、児に重篤な後遺症が残ってしまったりすることがある。そうすると、特に産科医療に携わる医療 、これに母子側の要因のほか様々な不確定要素が加わった場合には、胎児の健常性が損なわれ、結果的に死産となったり、児に重篤な後遺症が残ってしまったりすることがある。そうすると、特に産科医療に携わる医療機関としては、胎児の低酸素状態の程度には常に注意を払い、胎児の低酸素状態が進 み、その健常性が損なわれかねないほどの所見が認められた場合には、当該医療機関の性格や体制等に照らして相当な方法で、速やかに胎児の低酸素状態を改善する相当な措置をとるべき診療契約上の注意義務を負っているというべきである。そして、証拠(甲B4)によれば、胎児の低酸素状態を改善するのに有用な医療措置としては、保存的処置として、子宮収縮抑制薬の投与や、母 体の体位変換、母体への酸素投与、乳酸リンゲル液の急速輸液、人工羊水注入などの措置があるほか、肺呼吸に切り替えることによって根本的に胎児の低酸素状態の問題を解決する急速遂娩(吸引・鉗子分娩や、帝王切開の方法による。)の方法があると認められるところ、これらのうちどの方法をどの段階でとるのかについては、胎児の低酸素状態の原因や当該胎児がその状態にどの程度の耐 性を持っているのかなどの要因が事案によって異なることや、診療経過や医療機関の人的・物的体制によっては直ちには取り難い手段もある(例えば、分娩進行度によっては吸引・鉗子分娩は行い得ないし、緊急帝王切開術は母体への侵襲度の高い医療措置であり、あらゆる医療機関において実施可能なものではないし、大量出血などの危険性も内在している。)ことからすると、原則とし て、医療機関の適切な裁量に委ねられるべきものと解される。 以下では、以上を前提に、本件において被告において緊急帝王切開をすべき注意義務を負っていたと認められるか否かについて検討していく。 ⑵ 被告病 機関の適切な裁量に委ねられるべきものと解される。 以下では、以上を前提に、本件において被告において緊急帝王切開をすべき注意義務を負っていたと認められるか否かについて検討していく。 ⑵ 被告病院の体制等被告病院は、病床数606で、産科・小児科を備え、地域周産期母子医療セ ンターの指定を受けている総合病院であり、術前検査として血液検査及び心電 図検査を行えば、緊急帝王切開をすることができるだけの人的・物的医療設備を備えている(弁論の全趣旨・被告準備書面⑶4頁)。 ⑶ CTG所見以外の臨床所見等ア前期破水、発熱等原告母は、前期破水がきっかけとなり、被告病院に入院している。破水に よって羊水が流出した分、羊水量が減少するから、破水をした場合には、羊水過少となって臍帯が圧迫されやすくなる可能性がある(前記前提事実⑷ア)。 また、前記3で説示したとおり、原告母は14日7時41分頃には既にGBSに感染しており、絨毛膜羊膜炎及び臍帯炎を発症していたことが推認さ れるが、このように臍帯等が炎症を起こしたことにより母体と胎児との間の酸素や二酸化炭素の交換機能が低下したり、炎症に伴う炎症性サイトカインの増加によって、胎児の低酸素、虚血に対する耐性、防御機構が減弱したりする可能性がある(本件調査報告書。甲B24)。そして、上記のとおり原告母は破水をしており子宮内感染を起こしやすい状態にあったことや、別紙診 療経過一覧(事実)に記載のとおり、14日7時41分以降、37度台の発熱が続いていたことに照らすと、被告病院の医師や助産師らは、これらの臨床所見から、原告母が臨床的絨毛膜羊膜炎を発症していると診断することまではできなかったとしても、その可能性を否定できない状態にあることまでは認 ことに照らすと、被告病院の医師や助産師らは、これらの臨床所見から、原告母が臨床的絨毛膜羊膜炎を発症していると診断することまではできなかったとしても、その可能性を否定できない状態にあることまでは認識し得たと認められる。 イ分娩進行速度・分娩進行度別紙診療経過一覧(事実)に記載のとおり、原告母の分娩進行度は、下記のとおり、14日11時45分の時点で未だ子宮口開大5㎝、Station-2、展退70%であり、吸引や鉗子分娩を行うことができるほどの分娩進行度に達しておらず、また、同日4時20分頃の時点からあまり進行して おらず、分娩進行速度も遅かったことから、オキシトシンの投与を続けてい ても早期の経腟分娩は望めない状況にあった。 記子宮口開大 Station 展退14日4時20分 3㎝ -2 70%9時00分 4~5㎝ -2 70% 11時45分 5㎝ -2 70%14時14分 7㎝ 0 80%15時52分 10㎝ 1 100%⑷ CTG所見等別紙2及び3のとおり、14日4時43分頃から、CTG上、レベル3(軽 度異常波形)からレベル4(中等度異常波形)の異常波形がほぼ間断なく出現している(なお、7時台や、9時03分頃、12時台にレベル2(亜正常波形)と評価し得る波形が出現しているものの、一時的なものであり、また、9時03分の波形と12時33分の波形を除くと、いずれもレベル3の異常波形と評価される可能性のあるもので 時台にレベル2(亜正常波形)と評価し得る波形が出現しているものの、一時的なものであり、また、9時03分の波形と12時33分の波形を除くと、いずれもレベル3の異常波形と評価される可能性のあるものである。さらに、10時08分頃から10時31分 頃までの基線波形レベルは1~2と評価でき、11時55分頃から12時22分頃までの基線波形レベルは1~2と評価できるものであるが、前述のとおり、いずれも短時間である上に、上記の時間内においても一過性徐脈によりレベル3ないし4と評価される又は評価し得る波形が頻出している。)。 また、別紙診療経過一覧(事実)に記載のとおり、入院からしばらくの間は、 原告母の陣痛は弱いものであったが(微弱陣痛)、14日10時05分頃にオキシトシンを投与した後は、別紙2のとおり、次第に陣痛の頻度や強度は強まり、11時16分頃からは子宮頻収縮と評価できるほどの頻度での陣痛が発来するようになった。もっとも、この時点でも、CTG上は、過強陣痛と評価できるほどの子宮収縮の強度や持続時間は観察されない。 なお、別紙2のとおり、11時25分頃から、CTGの胎児心拍基線がたび たび途切れるようになり、12時台になると、胎児の徐脈の最下点付近を記録したものなのか、母体の心音を拾ったものなのかの判別がつきにくい波形記録が現れる頻度が次第に高くなっているが、被告病院において、分娩監視装置を装着し直すなどの相当な措置をとることを怠っていたために、これ以降、分娩時までの間、ますますCTGの波形記録は乱れていき、15時台の波形は判定 することがほとんど困難な状態となっている。 ⑸ 本件ガイドラインについて本件ガイドラインは、CTGの波形レベルが3から5の場合に「胎児機能不全」と診断することを推奨しており、そ は判定 することがほとんど困難な状態となっている。 ⑸ 本件ガイドラインについて本件ガイドラインは、CTGの波形レベルが3から5の場合に「胎児機能不全」と診断することを推奨しており、その推奨度はB(「実施すること等が勧められる」レベル)である。軽度の異常波形であるレベル3の段階から「胎児機 能不全」と診断することを推奨しているのは、不確定要素が多く、重症化予測が困難な分娩中胎児の状態に即応することができるようにとの配慮からである(前記前提事実⑷ウ)。このような本件ガイドラインの方針は、CTGが胎児の状態を推し量るに当たって重要な情報(胎児心拍数、子宮収縮圧及びこれらの経時的変化や相互の関係等)をもたらすものであり、これらの情報を基に異 常波形が出現していると評価される場合、その偽陽性率は高いとはいえ、実際に胎児に機能不全が生じている場合も相当数認められ、かつ、その場合にこれを長時間放置した場合には、胎児に重篤な後遺障害が残るという重大な結果が生じかねないことに照らし、そのような結果を可能な限り防ぐべく、レベル3以上の異常波形が認められた場合には、監視を強化し、胎児の健常性が損なわ れていたり、損なわれかねない徴候を認めたりした場合には、これを防ぐためにとり得る措置を速やかにとることができるようにすべきであるとの考えを反映したものであると解される。このような方針は、母子共に健康な出産を実現することを目指して締結される診療契約の趣旨に沿うものである。 また、本件ガイドラインは、CTGの波形レベルに応じて、別紙1の表3を 参考に対応(経過観察、監視の強化、保存的処置、急速遂娩準備、急速遂娩) を決定し、これを実施することを推奨しているが、この推奨度はC(「実施すること等が考慮される(考慮の対象 を 参考に対応(経過観察、監視の強化、保存的処置、急速遂娩準備、急速遂娩) を決定し、これを実施することを推奨しているが、この推奨度はC(「実施すること等が考慮される(考慮の対象となるが、必ずしも実施が勧められているわけではない。)」というレベル)である。そのため、本件ガイドラインが、レベル4や5の異常波形が認められた場合に、緊急帝王切開も含めた急速遂娩を実施すべき注意義務があることの直接の根拠となるとは認め難い。もっとも、本 件ガイドラインが、CTGの波形レベルに応じてどのような対応と処置をとるのかについて、別紙1の表3を参考にした医療機関の裁量に委ねているのは、エビデンスが乏しいことや(上記のとおり、CTGの異常波形が認められた場合の偽陽性率は高い。)、妊婦の背景や施設の諸事情によってとり得る措置が異なることなどを考慮したからにすぎず(前記前提事実⑷ウ)、CTGの異常波 形(レベル3から5までの波形)が認められた場合に、別紙1の表3に記載された対応をとる必要性や緊急性がそれほど高くないことを意味しているわけではない。本件ガイドラインが、レベル5の異常波形が認められる場合には急速遂娩の実行と新生児蘇生の準備が求められていることに留意すべきであると注意を促していることに照らしても、CTGのレベル分類と胎児機能不全の 有無・程度には有意の相関関係があると認められ、波形の異常さを示すレベル分類が上がるにつれて、診療契約に基づき母子共に健康な出産を目指すべき注意義務を負っている医療機関としては、母体や胎児の状態により注意を払い、胎児機能不全を改善するのに必要で、当該症例や施設の諸事情に照らしてとることが相当な措置をとるべき注意義務を負っていると解するのが相当である。 さらに、本件ガイドラインは、C り注意を払い、胎児機能不全を改善するのに必要で、当該症例や施設の諸事情に照らしてとることが相当な措置をとるべき注意義務を負っていると解するのが相当である。 さらに、本件ガイドラインは、CTGの波形レベルが3ないし4の場合であっても、これが持続する場合には、分娩進行速度と分娩進行度も加味し、定期的に「経腟分娩進行の可否について判断する」ことを推奨しているが(推奨度B)、これは、レベル3(軽度)から4(中等度)の異常波形であっても、その持続時間が長くなると胎児血酸素化不全状態が重篤化する可能性があるから である(前期前提事実⑷ウ)。したがって、異常波形が認められた場合にとるこ とを検討すべき対応や処置については、別紙1の表3のとおり、相当の幅がある上、上記のとおり、これらの対応や処置を実際にとるかどうかについても、原則として医療機関の裁量に委ねられているものの、異常波形の持続時間が長くなるにつれて、医療機関が診療契約に基づいてとるべき対応や処置の必要性や緊急性は上がり、また、その対応や措置の内容も予想される胎児血酸素化不 全状態の重篤化の程度に即したものになるというべきである。 ⑹ 緊急帝王切開をすべき注意義務について以上を前提に本件において緊急帝王切開をすべき注意義務が認められるか否かについて検討するに、CTGの所見上、14日4時43分頃にレベル3(軽度)の異常波形が現われ、その後、CTGの中断時や分娩監視装置の装着不良 等により正確に波形を記録することができなかった時間帯を除き、分娩時までほぼ間断なくレベル3から4(中等度)の異常波形が出現している。特に、7時30分頃からは、レベル4の出現頻度が高まっており、子宮頻収縮が認められるようになった11時16分頃までの3時間45分ほどの長時間にわたっ ベル3から4(中等度)の異常波形が出現している。特に、7時30分頃からは、レベル4の出現頻度が高まっており、子宮頻収縮が認められるようになった11時16分頃までの3時間45分ほどの長時間にわたって、このような状態が続いている。CTGの異常波形が認められた場合の偽陽 性率の高さや、9時03分頃に一時的にレベル2まで波形が改善していること、10時08分頃から10時31分頃まで及び11時55分頃から12時22分頃までの基線波形レベルが1~2と認められること、レベル3の比較的軽度の異常波形も相当数認められることを考慮に入れても、心拍数基線が常に頻脈ないし頻脈傾向にあり(正常脈と認められる時間帯であっても、胎児心拍数は 頻脈と正常脈の境界である160bpm付近にあった。別紙2)、基線細変動も減少と評価される時間帯が長く続いていることからすれば、このようなCTGの所見からは、遅くとも14日11時16分頃の時点で、胎児血酸素化の不全やその重篤化のおそれを疑うべき状況にあったと認められる。 そして、このようなCTG所見に加え、前期破水の症例で羊水減少により子 宮収縮に伴う臍帯圧迫の程度が強く出る可能性があったこと、発熱があり、子 宮内感染の可能性を否定できず、その場合には臍帯の酸素・二酸化炭素の交換機能が低下したり、胎児の低酸素に対する耐性や防御機構が減弱したりしている可能性があったことも考慮に入れると、上記のとおり、異常波形の出現が相当長時間にわたって続いていた11時16分頃の時点では、子宮収縮による臍帯圧迫によってもたらされる一時的な低酸素状態が胎児の健常性を損なう相 当程度の可能性があることも十分に考慮に入れるべきであったというべきである。 本件では、このような状態で、11時16分頃からは子宮頻収縮と評価され る一時的な低酸素状態が胎児の健常性を損なう相 当程度の可能性があることも十分に考慮に入れるべきであったというべきである。 本件では、このような状態で、11時16分頃からは子宮頻収縮と評価されるほどに子宮収縮の頻度が高まっていたのであり、このような陣痛の増加は、早期の経腟分娩につながる場合には、胎児の低酸素状態の解消につながること から好ましい側面もある一方で、分娩進行度や進行速度に照らして早期の分娩が期待できない状態にある場合には、胎児の低酸素状態を悪化させる状態が更に続くことを意味し、上記のとおり、異常波形の出現が長時間にわたって続いており、前期破水や発熱といった身体所見も認められる本件においては、これ以上経過観察を続けて、胎児低酸素状態の継続と悪化の可能性を高めることは、 母子共に健康な出産を目指して締結された診療契約の目的に照らし、もはや許されない状況にあったというべきである。そして、本件では、別紙診療経過一覧(事実)に記載のとおり、11時45分頃の内診の時点でも、子宮口開大が5㎝、Station-2、展退70%に過ぎず、前記⑶イのとおり、分娩進行度も遅く、オキシトシンの投与を続けても早期の経腟分娩を実現することは 望めない状況にあったのであるから、遅くともこの時点で、被告病院の医師らは、臍帯の圧迫を強めて胎児の低酸素状態を悪化させかねないオキシトシンの投与を速やかに中止した上で、緊急帝王切開により急速遂娩する方針に転換し、速やかにその準備と実施をすべき診療契約上の注意義務を負っていたものと認められる。 しかしながら、被告病院の医師らは、別紙診療経過一覧(事実)に記載のと おり、これ以降も緊急帝王切開による急速遂娩を実施することを怠ったものであるから、被告病院の医師らには、上記 しかしながら、被告病院の医師らは、別紙診療経過一覧(事実)に記載のと おり、これ以降も緊急帝王切開による急速遂娩を実施することを怠ったものであるから、被告病院の医師らには、上記緊急帝王切開による急速遂娩をすべき診療契約上の注意義務を怠った過失が認められる。 6 注意義務違反と後遺障害との間の相当因果関係(争点5)について前記1の認定事実のとおり、原告子は、心拍が確認できず、アプガースコア0 点という重度の新生児仮死の状態で出生したことや、臍帯血の血液ガス分析の結果は、pH6.819、BE-26.0mmol/Lなど、著名な代謝性アシドーシスを示すものであったことに照らすと、原告子が重度の仮死状態で出生した原因は、原告子が分娩までの間に長時間にわたって低酸素状態にさらされていたことにあることは明らかであり、また、原告子が出生した後の経過に照らすと、 原告子に残った重度脳性麻痺等の原因が、重度の新生児仮死にあったことも明らかである。そして、前記5のとおり、被告病院の医師らは、14日11時45分頃の時点で、原告子の胎児低酸素状態を根本的に解消する緊急帝王切開による急速遂娩の準備と実施を怠っており、かつ、これを行っていれば、実際に出産した16時16分の時点よりも4時間以上早く低酸素状態から脱却することができ たことや、CTGの所見上、11時45分以降に、一時的ではあるもののレベル2~3と評価することができる波形が認められることに照らすと、上記時点で緊急帝王切開により原告子を娩出していれば、本件のような後遺障害が残らなかった蓋然性が高かったというべきであるから、被告病院の医師らの上記注意義務違反と原告子に重篤な後遺障害が残ったという結果との間には、相当因果関係があ ると認めるのが相当である。 残らなかった蓋然性が高かったというべきであるから、被告病院の医師らの上記注意義務違反と原告子に重篤な後遺障害が残ったという結果との間には、相当因果関係があ ると認めるのが相当である。 この点、被告は、原告子は胎児の時点で早発型GBS感染による髄膜炎を発症していた蓋然性が高く、その影響で脳障害を起こしていた可能性が高いから、被告病院の医師らが緊急帝王切開を実施していたとしても良好な神経学的予後を確保できていたとは限らず、被告病院の医師らの上記義務違反と原告子に後遺障 害が残ったこととの間には、相当因果関係が認められないと主張する。 しかしながら、前記1⑴の認定事実のとおり、原告子からは出生後にGBSが検出され、胎児の時点でGBSに感染していたことはうかがわれるものの、髄膜炎を発症するなどの重篤な状態にあったことを認めるに足りる証拠は存在しない。後医のK病院は、前記前提事実⑵オのとおり、原告子について重症新生児仮死、脳出血の他に、GBS敗血症にも罹患していたと診断しているが、後医の医 療記録を検討しても、原告子が出生時に髄膜炎を起こしていたことをうかがわせる所見も、検査結果も認め難い(なお、K病院において、髄膜炎を合併している可能性を考慮して、抗菌薬を髄膜炎治療量に増量していたとしても(前記前提事実⑵オ(イ))、このことをもって原告子が髄膜炎を合併していた可能性が高いということはできない。)。そうすると、原告子が、胎児のときのGBS感染の影響に より既に脳障害を起こしていた蓋然性が高いとは認め難く、原告子がGBSに感染した状態で出生していたからといって、そのことだけで、被告病院の医師らが緊急帝王切開を実施せずに、長時間にわたって原告子を低酸素状態下に置いたことと原告子に本件後遺障害が残ったこと 子がGBSに感染した状態で出生していたからといって、そのことだけで、被告病院の医師らが緊急帝王切開を実施せずに、長時間にわたって原告子を低酸素状態下に置いたことと原告子に本件後遺障害が残ったこととの間の相当因果関係が否定されるとはいえない。 また、被告は、原告子の後遺障害が低酸素の影響によるものであったとしても、それは分娩の進行に不可避的に伴う臍帯血流障害によるものであるから、被告病院の医師らの過失と結果発生との間には相当因果関係がないとも主張する。しかしながら、前記で説示したとおり、経腟分娩に不可避的に伴う臍帯血流障害から速やかに解放するために急速遂娩を実施すべき注意義務があったものであり、か かる注意義務を果たしていれば、被告が主張するような低酸素状態に長時間にわたってさらされることはなかったのであるから、被告の上記主張は失当と言わざるを得ない。 被告のその余の主張や提出証拠を検討しても、上記認定判断を左右するに足りるものはない。 7 損害(争点6)について 注意義務違反と相当因果関係があると認められる損害及びその額についての当裁判所の判断は、別紙損害額一覧表に記載のとおりである。 第4 結論よって、原告子の請求は、主文第1項記載の限度で、原告父の請求は、主文第2項の限度で、原告母の請求は、主文第3項記載の限度で理由があるからそれぞ れその限度でこれらを認容し、その余の請求には理由がないから、これらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 静岡地方裁判所浜松支部民事部 裁判長裁判官佐藤卓 裁判官竹本真梨子 裁判官山形一成 部 裁判長裁判官佐藤卓 裁判官竹本真梨子 裁判官山形一成 (別紙診療経過一覧(事実)、別紙2及び別紙3は省略) 別紙1
▼ クリックして全文を表示