1 判 決 主 文1 原告が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 2 被告は、原告に対し、201万0300円及びうち50万2575円に対する令和2年10月25日から、うち50万2575円に対する同年11月25日から、うち50万2575円に対する同年12月25日から、うち50万2575円に対する令和3年1月25日から、各支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告に対し、令和3年2月から本判決確定の日まで、毎月24日限り、50万2575円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 4 被告は、原告に対し、61万1827円及びこれに対する令和2年12月11日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 5 被告は、原告に対し、令和3年2月から本判決確定の日まで、毎年6月30日限り79万2427円及び毎年12月10日限り61万1827円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 6 原告のその余の請求を棄却する。 7 訴訟費用は被告の負担とする。 8 この判決は、第2項ないし第5項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由第1 請求1 第1項ないし第3項につき主文同旨2 被告は、原告に対し、79万2427円及びこれに対する令和2年12月11日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 3 被告は、原告に対し、令和3年2月から本判決確定の日まで、毎年6月30日限り79万2427円及び毎年12月10日限り79万2427円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等1 事案 で、毎年6月30日限り79万2427円及び毎年12月10日限り79万2427円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等1 事案の概要本件は、保険販売員として被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し、被告が訴外株式会社かんぽ生命保険(以下「かんぽ生命」という。)から委託を受けていた保険募集に関する業務を行っていた原告が、令和2年9月30日、被告から懲戒解雇処分(以下「本件懲戒解雇」という。)を受けたことに関して、本件懲戒解雇は無効であると主張して、被告に対し、①労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約上の賃金支払請求権に基づき、②令和2年10月分から令和3年1月分までの未払賃金合計201万0300円及び各月の賃金50万2575円に対する各支払日の翌日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払並びに③令和3年2月から本判決確定の日まで、同月分以降の賃金として毎月24日限り50万2575円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求め、労働契約上の賞与請求権に基づき、④令和2年12月分の賞与79万2427円及びこれに対する同月11日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払並びに⑤令和3年6月分以降の賞与として、毎年6月30日及び12月10日限り、各79万2427円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲括弧内に記載の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる。 ⑴ 原告と被告との労働契約3 原告は、平成 事案である。 2 前提事実以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲括弧内に記載の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる。 ⑴ 原告と被告との労働契約3 原告は、平成21年9月1日、被告との間で期間の定めのない労働契約(以下「本件労働契約」という。)を締結し、被告がかんぽ生命から委託を受けている保険募集に関する業務を行う渉外社員として、勤務してきた。原告の経歴は、以下のとおりである。なお、原告は、かんぽ生命を所属保険会社とする生命保険募集人の登録を受けていた。 ア 平成21年9月から平成24年3月まで a郵便局イ 平成24年4月から平成27年3月まで b郵便局ウ 平成27年4月から平成29年3月まで c郵便局エ 平成29年4月から平成30年3月まで d郵便局オ 平成30年4月から令和2年3月まで e郵便局カ 令和2年4月から令和2年9月まで f郵便局⑵ 原告は、平成27年4月3日から平成28年2月3日までの間、訴外A(以下「本契約者」という。)に対し、別紙1のとおり、番号1~17の17件の既契約(以下「本件既契約」という。)を解約させ、①本契約者の子及び孫らを被保険者とする契約17件(番号18~20、22~35)及び②本契約者を契約者兼被保険者とし、受取人については満期保険金の受取人を本契約者、死亡保険金の受取人を本契約者の子とする契約(番号17)及び本契約者を契約者兼被保険者とし、本契約者の子を死亡保険金の受取人とする契約(番号21)の合計19件を募集した。なお、本件既契約は、同年1月23日に解約され、同月21日から同年2月3日までの間に合計16件(番号20~35)の新規契約(以下「本件新規契約」という。)の申込みが受理された(以下、本件既契約の 。なお、本件既契約は、同年1月23日に解約され、同月21日から同年2月3日までの間に合計16件(番号20~35)の新規契約(以下「本件新規契約」という。)の申込みが受理された(以下、本件既契約の解約と本件新規契約の受理までの一連の流れを、以下「本件乗換」という)。 ⑶ 被告による懲戒解雇の意思表示被告は、令和2年9月30日、原告に対し、同日付け懲戒処分書(以下「本件懲戒処分書」という。)をもって、本件懲戒解雇をした(甲A1)。 ⑷ 本件懲戒処分書には、「懲戒処分内容及び理由」として、「社員就業規則第84 1条第1項第1号、2号、5号及び第15号により解雇する」「c郵便局お客さまサービス部課長代理として在任中の2015年4月3日から2016年2月3日までの間、契約者某の意向を十分に把握することなく、既契約と同種又は類似の各契約を提案し、経済合理性のない合計19件の新規保険契約を受理したものである。」と記載されている(甲A1)。 ⑸ 懲戒処分についての就業規則の定め被告の社員就業規則(以下「本件就業規則」という。)には、懲戒処分について、以下の定め(抜粋)がある。 (懲戒)第81条 会社は、社員が次の各号のいずれかに該当するときは、次条第1項に定める懲戒を行うことができる。 ⑴ 法令又は会社の規程に違反したとき⑵ 職務を尽くさず、職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき⑸ 業務取扱いに関し、不正があったとき⒂ 業務の内外を問わず、会社の信用を傷つけ、又は会社に勤務する者全体の不名誉となるような行為があったとき(懲戒の種類)第82条 懲戒の種類は、次の各号に掲げるとおりとし、その取扱いは、当該各号に定めるところによる。 ⑴ 懲戒解雇 即時に解雇する。退 名誉となるような行為があったとき(懲戒の種類)第82条 懲戒の種類は、次の各号に掲げるとおりとし、その取扱いは、当該各号に定めるところによる。 ⑴ 懲戒解雇 即時に解雇する。退職手当は支給しない。ただし、行為の内容及び情状により退職手当を減額して支給することがある。 ⑹ 被告の懲戒規程及び懲戒標準に関する定め(甲共6)ア 懲戒規程(懲戒標準)第4条 懲戒を行う場合には、権限者は、別記の懲戒標準により量定を決定する。 5 2 非違が第1項に規定する懲戒標準に規定されていない場合には、権限者は、懲戒標準の事例を参考にして量定を決定しなければならない。 (懲戒の加重)第5条 懲戒の決定に当たり、次の各号のいずれかに該当するときは、量定を加重することができる。 ⑴ 短期間内に複数の非違を犯したとき⑵ 懲戒を受けた後短期間内に再度非違を犯したとき⑶ その他非違の情状が特に重いとき(懲戒委員会)(抜粋)第8条 権限者は、次の各号に掲げる事案に係る懲戒を行う際には、懲戒委員会(以下「委員会」という。)の意見を聴くものとする。 ⑴ 懲戒解雇又は諭旨解雇となりうる非違行為事案(ただし、司法機関等の調査により、既に明らかになっている事実だけで当然に解雇となると懲戒権者が判断する事案を除く。)⑵ 権限者が会長及び社長である者による非違行為事案⑶ その他会社経営に重大な影響があると特に認められる事案イ 懲戒標準被告懲戒規程別記懲戒標準においては、「1 職務上の非違」の「⑴ 重大な不祥事関係」における「オ その他」の非違行為として、「その他の重大な不祥事、上記ア~エに準ずる不都合な行為を行った者」が定められており、この場合の適用量定として、「故意 務上の非違」の「⑴ 重大な不祥事関係」における「オ その他」の非違行為として、「その他の重大な不祥事、上記ア~エに準ずる不都合な行為を行った者」が定められており、この場合の適用量定として、「故意」の場合は、「懲戒解雇~停職」が基本として定められている。 ⑺ 本件労働契約における令和2年9月当時の原告の賃金条件は、以下のとおりであった(甲A2、甲共3)。 ア 給与基本給 34万0800円6 調整手当 1万0220円その他手当て 150円なお、これに加え、営業手当も支給されていた。 イ 賃金の支払期日毎月24日支払⑻ 被告においては、被告社員給与規程により、6月1日に在職する一般社員に対して夏期手当を、12月1日に在職する一般社員に対して年末手当を支給するものとされており、夏期手当については6月30日、年末手当については12月10日に、それぞれ支払われていた(甲共3、25〔枝番含む。〕)。 また、夏期手当の支給額は、基本給、扶養手当及び調整手当の合計に在職期間割合及び支給の都度定める割合を乗じた額となっている。年末手当については、基本給、扶養手当及び調整手当の合計に在職期間割合と支給の都度定める割合を乗じた額を基本分とし、これに加え、業績分及び基本給と調整手当の合計に在職期間割合と成績率を乗じた額が支給される(甲共3)。 ⑼ 「乗換契約」とは、保険契約者が契約していた既契約を解約により消滅させて新規契約の申込みをさせる行為、又は新規契約の申込をさせて既契約を解約させる行為をいう。 乗換契約については、金融庁作成の保険検査マニュアルにおいて、「不利益になる可能性があることの顧客への説明等、適切な勧誘を行うことが必要な類型」とされている。 また、保険業 行為をいう。 乗換契約については、金融庁作成の保険検査マニュアルにおいて、「不利益になる可能性があることの顧客への説明等、適切な勧誘を行うことが必要な類型」とされている。 また、保険業法300条1項4号は、保険募集人が、保険契約締結等の行為に関し、保険契約者又は被保険者に対して、不利益となるべき事実を告げずに、既に成立している保険契約を消滅させて新たな保険契約の申込みをさせ、又は新たな保険契約の申込みをさせて既に成立している保険契約を消滅させる行為をしてはならないと定めている。 ⑽ 保険業法の定め7 (顧客の意向の把握等)第294条の2 保険会社等若しくは外国保険会社等、これらの役員(保険募集人である者を除く。)、保険募集人又は保険仲立人若しくはその役員若しくは使用人は、保険契約の締結、保険募集又は自らが締結した若しくは保険募集を行った団体保険に係る保険契約に加入することを勧誘する行為その他の当該保険契約に加入させるための行為に関し、顧客の意向を把握し、これに沿った保険契約の締結等(保険契約の締結又は保険契約への加入をいう。以下この条において同じ。)の提案、当該保険契約の内容の説明及び保険契約の締結等に際しての顧客の意向と当該保険契約の内容が合致していることを顧客が確認する機会の提供を行わなければならない。ただし、保険契約者等の保護に欠けるおそれがないものとして内閣府令で定める場合は、この限りでない。 (保険契約の締結等に関する禁止行為)(抜粋)第300条 保険会社等若しくは外国保険会社等、これらの役員(保険募集人である者を除く。)、保険募集人又は保険仲立人若しくはその役員若しくは使用人は、保険契約の締結、保険募集又は自らが締結した若しくは保険募集を行った団体保険に係る保険契約に加入することを勧誘する行 人である者を除く。)、保険募集人又は保険仲立人若しくはその役員若しくは使用人は、保険契約の締結、保険募集又は自らが締結した若しくは保険募集を行った団体保険に係る保険契約に加入することを勧誘する行為その他の当該保険契約に加入させるための行為に関して、次に掲げる行為(自らが締結した又は保険募集を行った団体保険に係る保険契約に加入することを勧誘する行為その他の当該保険契約に加入させるための行為に関しては第一号に掲げる行為(被保険者に対するものに限る。)に限り、次条に規定する特定保険契約の締結又はその代理若しくは媒介に関しては同号に規定する保険契約の契約条項のうち保険契約者又は被保険者の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項を告げない行為及び第九号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。ただし、第294条第1項ただし書に規定する保険契約者等の保護に欠けるおそれがないものとして内閣府令で定める場合における第一号8 に規定する保険契約の契約条項のうち保険契約者又は被保険者の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項を告げない行為については、この限りでない。 四 保険契約者又は被保険者に対して、不利益となるべき事実を告げずに、既に成立している保険契約を消滅させて新たな保険契約の申込みをさせ、又は新たな保険契約の申込みをさせて既に成立している保険契約を消滅させる行為(登録の取消し等)(抜粋)第307条 内閣総理大臣は、特定保険募集人又は保険仲立人が次の各号のいずれかに該当するときは、第276条若しくは第286条の登録を取り消し、又は6月以内の期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。 三 この法律又はこの法律に基づく内閣総理大臣の処分に違反したとき、その他保険募集に関し著しく不適当な行為をしたと認められるとき 内の期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。 三 この法律又はこの法律に基づく内閣総理大臣の処分に違反したとき、その他保険募集に関し著しく不適当な行為をしたと認められるとき。 第3 争点及びこれに対する当事者の主張1 争点本件の争点は、①本件懲戒解雇の懲戒解雇事由の有無、②本件懲戒解雇の相当性、③本件懲戒解雇の手続上の違法性及び④原告の給与額である。 2 争点①(本件懲戒解雇の懲戒解雇事由の有無)について(被告の主張)⑴ 原告による乗換契約の募集原告は、上記第2の2⑵のとおり、平成27年4月3日から平成28年2月3日までの間、本契約者に対し、別紙1契約一覧表のとおり、番号1~17の17件の本件既契約を解約させ、①本件既契約と類似の契約17件(番号18~20、22~35)及び②本契約者を契約者兼被保険者とし、受取人については満期保険金の受取人を本契約者、死亡保険金の受取人を本契約者の子とす9 る契約(番号17)及び本契約者を契約者兼被保険者とし、本契約者の子を死亡保険金の受取人とする契約(番号21)の合計19件を募集した。 原告は、同年1月23日に本件既契約を解約させつつ、これと並行して、同月21日から同年2月3日までの間というわずか2週間の間に多数の新規契約の申込みを受理していた。 ⑵ 本件乗換の不合理性本件乗換は、以下のような点で不合理なものである。 ア 解約によって損失が生じていること養老保険及び終身保険を保険期間中に解約すると、通常、契約者は、低い返戻率(返戻率とは、払込済保険料に対する受取金の割合をいう。)に基づく解約返戻金しか受領することができなくなる。解約に伴う損失(以下「解約損」という。)の本質は、返戻率が低下することによっ 、低い返戻率(返戻率とは、払込済保険料に対する受取金の割合をいう。)に基づく解約返戻金しか受領することができなくなる。解約に伴う損失(以下「解約損」という。)の本質は、返戻率が低下することによって保障の対価が遡って上昇することにある。 解約損を金額的に評価することは容易ではないが、簡易な計算方法の一つとして、解約時払込保険料額と解約返戻金の差額をもって契約者に生ずる不利益と解することが考えられる。 この計算方法(以下「本件簡易計算方法1」という。)によると、本契約者に生じた解約損の合計額は、別紙1の「本契約者に生じた損失」欄のとおり、約350万円となる。 また、別の簡易な計算方法として、満期時の返戻率と解約時の返戻率の差を算出し、これに解約時の既払込保険料額を乗じた額をもって契約者に生ずる不利益と解することが考えられる。 この計算方法(以下「本件簡易計算方法2」という。)によると、本契約者に生じた解約損の合計額は、別紙2の「実損額」欄のとおり、約225万円となる。 イ 無保険期間の発生10 本件新規契約のうち、番号21~23、25、26、28~30、33、35については、本件既契約が解約された後、効力発生日までの間にそれぞれ一定の期間が生じている。被保険者である本契約者は、この期間中無保険状態になっており、同期間中に保険金を受け取ることができる事由が生じたとしても、保険金を受け取ることができない。したがって、乗換契約は基本的に避けるべきであると考えられている。 ウ 本件既契約と本件新規契約が同種又は類似であること本件既契約17件と本件新規契約16件は、いずれも生命保険という点で同じであり、5件を除き全て養老保険から養老保険への乗り換えであり、各1件を除き本契約者を契 が同種又は類似であること本件既契約17件と本件新規契約16件は、いずれも生命保険という点で同じであり、5件を除き全て養老保険から養老保険への乗り換えであり、各1件を除き本契約者を契約者兼受取人とし、4件を除き被保険者が共通しており、本質的に類似の契約である。上記のように、本件乗換に際して本契約者に大きな不利益が生ずることからすれば、このような本件乗換を行う必要性は全くない。 エ 本件新規契約を含め原告が募集した契約の保険料総額が著しく高額であること本契約者が平成28年3月時点で契約していた保険(番号18~35)の月額保険料の合計は、120万2760円であり、同月時点の契約について払込期間満了まで払い込みを続けるとすると、見込まれる払込保険料の総額は1 億5000万円になり、単身で暮らしている当時●●歳の女性である本契約者に対して、このような高額な保険の募集を行うこと自体、明らかに不合理である。 仮に本件新規契約の締結時、本契約者に一定の収入があったとしても、高額な払込みを長期間継続できるかは疑問であり、また、本契約者は「保険料の支払いが厳しくなり」本件新規契約のほとんどを解約するに至っており、これは原告による保険の提案が不合理であったことを裏付けるものである。 オ 本件乗換に係る契約以外の3件の契約の不合理性について11 平成27年4月3日、原告は、本契約者を契約者兼受取人、本契約者の子及び孫を被保険者とする生命保険を2件(番号18、19)、本契約者を契約者兼被保険者、満期保険金の受取人を本契約者、死亡保険金の受取人を本契約者の子とする生命保険1件(番号17)を募集した。 しかし、本契約者は番号18及び番号19の申込みが受理される1 年前にもこ 険者、満期保険金の受取人を本契約者、死亡保険金の受取人を本契約者の子とする生命保険1件(番号17)を募集した。 しかし、本契約者は番号18及び番号19の申込みが受理される1 年前にもこれらの契約と同内容の契約(番号16及び6)に加入しており、重ねて全く同じ内容の保険に加入することは不自然である。 本契約者は、返戻率が低いにもかかわらず、番号18及び19の契約を、それぞれ平成31年2月及び平成30年3月に解約している。このことからも、これらの契約が本契約者にとって不必要な契約であったことがうかがわれる。 また、番号17は、本件既契約の一つであり、解約損を負担した上で解約されていることや、かんぽ生命が不適正募集に係る調査を行った際、本契約者が解除することを希望したことからも、不必要な契約であったことがうかがわれる。 ⑶ 以上のとおり、乗換契約は、契約者に対し、満期時の返戻率よりも低い返戻率による解約返戻金しか受け取ることができないという損失(解約損)その他の不利益を与えるものであるから、基本的には避けるべきものである。被告及びかんぽ生命は、保険募集人に対し、契約者の明確な意思やニーズがない場合は保険契約の乗り換えを勧めてはいけないと告知していた。したがって、乗換契約は、基本的に契約者に不利益を与えるものとして契約者の意向に沿わないことが事実上推定される。 また、本件乗換は、乗換契約が一度に多数行われていること、本契約者が高齢であったことから、上記推定が強く働く。 したがって、契約者の意向に沿っていたことについて、意向に沿っていたと主張する保険募集人において契約者の特別な意向を主張立証すべきであるが、12 原告は、本契約者のニーズ及び本契約者の意向に沿っていたことについて、立証できていない。そ いて、意向に沿っていたと主張する保険募集人において契約者の特別な意向を主張立証すべきであるが、12 原告は、本契約者のニーズ及び本契約者の意向に沿っていたことについて、立証できていない。それどころか、原告自身も本件乗換が本契約者の意向に沿わないものであったことを認める始末書を作成している。 本契約者は、被告の行った調査において、被告担当者Dに対し、「社員を信頼しているので言われるがままに契約していた。」などと述べていることや、本件新規契約が締結後3年以内に解約されていることなどから、本件乗換が本契約者の意向に沿うものではないことが明らかである。 ⑷ 原告は、本契約者が高齢であったことに乗じて、専ら(営業実績及び営業手当を獲得する目的などの)自己の都合により、適切に本契約者の意向を把握することなくその意向に沿わない商品を提案するという「保険募集に関し著しく不適当な行為」(保険業法307条1項3号)を行っていた。また、原告は、本件乗換に際し、本件乗換に伴う不利益の内容に関する具体的な説明を行っておらず、仮に行っていれば本契約者が本件乗換を行うことはなかったはずである。 この点からも原告の行為は不適切な募集行為であり、また、原告が本契約者に対して「不利益な事実を告げ」なかったことも明らかである(保険業法307条1項3号、300条1項4号)。 原告は、本件乗換に際し、本契約者から「ご意向確認書」を取得しており、本契約者の意向に沿っていたと主張するが、ご意向確認書は、予め典型的な意向の内容が記載された各項目にチェックを付ける簡易な内容の書類であって、ご意向確認書の作成のみをもって契約者の意向を確認したと解することはできず、契約者の意向把握義務を履行したとはいえない。 ⑸ 小括ア 本件就業規則81条1項1号(法 容の書類であって、ご意向確認書の作成のみをもって契約者の意向を確認したと解することはできず、契約者の意向把握義務を履行したとはいえない。 ⑸ 小括ア 本件就業規則81条1項1号(法令又は会社の規程違反)について以上のとおり、原告は、本件の募集に際し、本契約者の意向を何ら把握することなく本契約者の意向に沿わない保険商品を提案しているといえ、このような募集行為は、「保険募集に関し著しく不適当な行為」(保険業法30713 条1項3号)に該当し、また、保険業法上の意向把握義務(同法294条の2)に違反する行為である。 また、原告は、本契約者に対して、本件既契約を解約して本件新規契約を締結する際、乗換に伴う不利益が生ずることを告げておらず、これは保険業法300条1項に違反する。 さらに、原告が募集した本件新規契約がいずれも不合理であることを踏まえると、原告は専ら自己の成績向上と報酬獲得のために生命保険募集人としての権限・地位を濫用したといえ、原告が行った募集行為は職権濫用(本件就業規則29条1項、2項)に該当するものである。これに加え、本契約者は被告を信用して原告に言われるがままに19件もの契約を締結し、これにより本契約者に損害が生じており、その結果、被告の信用が毀損されており、原告の行為は信用失墜行為(同33条)にも該当する。 したがって、原告には、法令又は会社の規定違反(本件就業規則81条1項1号)が認められる。 イ 本件就業規則81条1項2号(職務を尽くさず、職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき)、5号(業務取扱いに関し、不正があったとき)、15号(業務の内外を問わず、会社の信用を傷つけ、又は会社に勤務する者全体の不名誉となるような行為があったとき)について原告が意 ったとき)、5号(業務取扱いに関し、不正があったとき)、15号(業務の内外を問わず、会社の信用を傷つけ、又は会社に勤務する者全体の不名誉となるような行為があったとき)について原告が意向把握義務及び不利益事実の告知義務という保険業法上の義務及び職務を怠ったことは、本件就業規則81条1項2号にも該当する。また、原告が保険業法に違反し、専ら自己の成績向上と報酬獲得のため、顧客に不合理な契約を締結させたことは業務取扱に関し不正があったとして同5号に該当し、被告の信用を傷つけたことは同15号に該当する。 (原告の主張)⑴ 契約者の意向を把握していたことア 原告は、被告の定めた手続に沿って契約者の意向把握を実施していた。 14 すなわち、被告は、原告ら渉外職員に対し、保険契約締結時に、契約者の署名押印が必要とされる意向確認書類を作成させており、原告は、全ての保険契約の際に、契約者などから必要な意向確認書類の作成を受け、被告に提出している。そして、その意向確認書類等が郵便局における内務の責任者、局(部)長等責任者、そしてかんぽ生命による厳格な審査を経て問題ないと判断された結果、保険契約が成立しているのであるから、契約者の「意向を十分に把握することなく、既契約と同種又は類似の各契約を提案」した事実はない。 イ また、本契約者には、子供や孫に財産を残したい、つまり相続させたいという意向があった。そのため原告は、本契約者の子供又は孫を被保険者、本契約者を契約者兼受取人とする契約(以下「A-B-A契約」という。)を募集したのである。かんぽ生命では、「相続による任意承継」の制度を用意しており、契約者が死亡して相続が発生した場合、契約者の相続人が「相続による任意承継」を選択して、新契約者を定めた場合、当該保険 募集したのである。かんぽ生命では、「相続による任意承継」の制度を用意しており、契約者が死亡して相続が発生した場合、契約者の相続人が「相続による任意承継」を選択して、新契約者を定めた場合、当該保険契約を存続させることが可能である。A-B-A契約は、契約者の死亡後、被保険者を新契約者として存続することが可能であり、本契約者の意向に沿うものであった。 したがって、本契約者が多数の契約を締結していることに関し、子供や孫を被保険者とする大多数の保険契約を締結していることについては、乗換契約であることと保険料の支払いの可否の点を除き、何ら本契約者の意向に反するところはない。 そして、本契約者は資産家であり、多額の役員報酬や不動産賃料収入を得ることができる立場にあり、高額の保険料を支払うことは可能であった。原告が本契約者の担当になる以前から、毎月の保険料の支払額が89万円であったことは、本契約者は相当な支払能力がある者であったことを推認させる上、本契約者が後に保険契約を解約したことは、本契約者の収入状況に変化が生じた可能性もあり、本契約者に十分な支払能力がないことについて、被15 告の主張立証は不十分である。 ウ 被告は、本件乗換により本契約者に解約損その他の不利益が生じていることなどから、本件乗換が本契約者の意向に反していたことが推定されると主張する。しかし、被告が主張する本件簡易計算方法1の考え方に従った場合、本件既契約を満期まで維持した場合でも、別紙3別表1のとおり、満期に支払われる保険金額(①)と払込期間終了時における既払込金額(②)の差額は合計で580万5800円となり、同額の損失を被ることになる。 一方、本件既契約を満期前に解約させたことにより、別紙3別表2のとおり、保険金額と払込金 時における既払込金額(②)の差額は合計で580万5800円となり、同額の損失を被ることになる。 一方、本件既契約を満期前に解約させたことにより、別紙3別表2のとおり、保険金額と払込金額の差額は、301万8064円にとどまっており、原告は、本契約者の損失を278万7736円減少させたことになる。 また、原告は、本契約者に本件既契約を解約させただけではなく、被告の保険商品の変更により、新しい保険契約が本契約者にとって有利であると判断し、被保険者を同一とする保険を新たに締結させている。本件乗換後の契約は、満期まで維持した場合、別紙3別表3のとおり、本契約者に58万7600円の利益が生ずることとなる。 したがって、被告の主張は採用できない。 エ また、被告は、多数契約調査用紙の記載内容及び調査を担当したDの証言に基づき、原告が意向把握義務を怠ったと主張する。 しかし、本契約者が積極的に調査を望んでいたわけではないことからしても、多数契約調査用紙の記載は、Dの推測が多分に反映されたものであり、Dの誘導に従い、本契約者がDに迎合して回答した結果も多分に含まれている可能性が高く信用性がない。 オ 本契約者が、本件新規契約を合意解約することを希望したとしても、これは、被告ないしかんぽ生命からの積極的な提案によるものであり、また、Dの行った調査において間違った方向性で誘導されていた可能性もあり、本契約者が合意解約を希望した事実があるとしても、原告による本契約者に対す16 る保険募集が本契約者の意向に反していたことは推認できない。 ⑵ 不利益事実の不告知について被告は、乗換契約によって、本契約者は多額の損失が生ずるにも関わらず、原告はその損害の具体的な金額を示していないことを いたことは推認できない。 ⑵ 不利益事実の不告知について被告は、乗換契約によって、本契約者は多額の損失が生ずるにも関わらず、原告はその損害の具体的な金額を示していないことを問題とする。 しかし、ご意向確認書には、解約損が生ずることが明確に記載されており、原告はこれに従って本契約者に対して説明を行っている。そして、それ以上に解約損の具体的な金額を知らせなければならないかについて、被告においても、そのような対応をすべきことを明確に記載した書式等の資料はない。したがって、原告には、契約者に対して具体的な金額まで知らせる義務はないのであり、不利益事実の不告知に該当する事実はない。 ⑶ 以上のとおり、本件懲戒解雇には、懲戒解雇事由が認められない。 3 争点②(本件懲戒解雇の相当性)について(原告の主張)⑴ 懲戒規程に反すること本件懲戒規程においては、「保険料、保険金、年金、貸付金、貸付弁済金等を窃取し横領し又は詐取した者」については懲戒解雇又は諭旨解雇が、「不正に保険金、年金、貸付金等の支払い若しくは貸付けをなし又はこれを仲介した者」、「診断書、各種の証明書類等を偽造し又は変造した者」及び「保険契約者若しくは被保険者に無断でその者の名義を用いて、又は保険契約者若しくは被保険者の架空名義を用いて、契約を作成した者」等の明らかな不正行為の中でも、さらに「故意」かつ「重大なもの」に限って、懲戒解雇又は諭旨解雇が、それぞれ定められている。 一方で、「保険契約者又は被保険者に対して、不利益となるべき事実を告げずに、既に成立している保険契約を消滅若しくは変更させて新たな保険契約の申込みをさせ、又は新たな保険契約の申込みをさせて既に成立している保険契約を消滅させた者」については、「故 なるべき事実を告げずに、既に成立している保険契約を消滅若しくは変更させて新たな保険契約の申込みをさせ、又は新たな保険契約の申込みをさせて既に成立している保険契約を消滅させた者」については、「故意」かつ「重大なもの」であったとしても、17 停職処分しか定められていない。 したがって、本件懲戒解雇は、被告の懲戒規程に反しており相当性がない。 ⑵ 他の懲戒処分事例との公平性を欠くこと被告は、「100円ショップで購入した被保険者姓の印章を被保険者同意書及び告知書に押印」したことや、約2年8か月の間に「架空の親族を被保険者とする新規保険契約合計5件を不正に締結させ」た者に対し、停職3か月の懲戒処分をするにとどまっている。また、原告よりも乗換契約の件数が多いのに懲戒解雇とされず停職処分とされた者も存在している。 これらと比較すると、本件懲戒解雇は、平等原則に違反し、懲戒解雇としての相当性を欠く。 (被告の主張)⑴ 懲戒規程に基づくこと本契約者に対する原告の募集行為は、保険業法違反をはじめ複数の懲戒事由に該当する。しかも、原告は、本契約者に対する募集行為により約50万円もの営業手当を被告から取得しており、これは本契約者の犠牲のもとに自らの利益を得たものである。したがって、被告は、原告の募集行為は、懲戒規程別記懲戒標準(懲戒規程4条1項、2項)1⑴オの「その他の重大な不祥事、上記ア~エに準ずる不都合な行為を行った者」の「故意」に該当し、又は、同1⑵エ「保険契約者若しくは被保険者の最終的な加入承諾又は同意を得ずに契約を成立させた者」若しくは「保険契約者又は被保険者に対して、不利益となるべき事実を告げずに、既に成立している保険契約を消滅若しくは変更させて新たな保険契約の申込みをさせ、又は新たな保険 を得ずに契約を成立させた者」若しくは「保険契約者又は被保険者に対して、不利益となるべき事実を告げずに、既に成立している保険契約を消滅若しくは変更させて新たな保険契約の申込みをさせ、又は新たな保険契約の申込みをさせて既に成立している保険契約を消滅させた者」の「故意」「重大なもの」に該当し、かつ、「その他非違の情状が特に重いとき」(懲戒規程5条3号)に該当すると判断して、本件懲戒解雇をしたものである(懲戒手続5条4号)。 ⑵ 他の懲戒処分事例との公平性について18 原告は、原告に対する処分と被告の過去の処分例との均衡が合わないと主張するが、原告が挙げる処分例と本件は事案が異なっているものであり、被告は、諸般の事情を総合考慮した上で、懲戒解雇とすべき事案のみ懲戒解雇としているのであり、原告の主張は認められない。 4 争点③(本件懲戒解雇の手続上の違法性)について(原告の主張)原告は、平成28年2月から同年3月頃、c郵便局において、本件懲戒解雇の理由となっている保険契約に関し、保険契約の受理状況調査を受け、調査の結果、原告の行為は何ら問題視されなかった。しかしその後、テレビ番組や新聞等において、被告の渉外社員によるかんぽ生命保険商品の不適正募集の問題が報道されるようになった途端、原告は本件懲戒解雇を受けるに至ったのであり、このような経緯に照らせば、本件懲戒解雇は、被告が不適正募集問題に取り組んでいることを金融庁や社会に示すためのパフォーマンス及び他の従業員に対する見せしめとして行われた不当な目的による懲戒処分であると評価せざるを得ない。 また、原告には、本件懲戒解雇に当たり、弁明の機会が付与されておらず、本件懲戒解雇には手続違反が存在する。 (被告の主張)原告が平成28年2月から同 であると評価せざるを得ない。 また、原告には、本件懲戒解雇に当たり、弁明の機会が付与されておらず、本件懲戒解雇には手続違反が存在する。 (被告の主張)原告が平成28年2月から同年3月頃に本件懲戒解雇の理由となっている保険契約に関する受理状況調査を受けたものの問題視されなかったのは、原告が当該調査に係るヒアリングの際に、適正な募集を行っている旨の虚偽の回答を行ったため、詳細の調査を免れたに過ぎない。 また、被告懲戒規程においては、懲戒委員会に対する意見聴取(被告懲戒規定8条)及び始末書の徴取(被告懲戒手続4条)のみが懲戒の際の手続として定められており、弁明の機会を付与することは要件とされていない。そして、被告は上記両手続を踏まえて本件懲戒解雇を行っているのであるから、本件懲戒解雇の手続の相当性には何ら問題はない。 19 5 争点④(原告の給与額)について(原告の主張)本件労働契約における令和2年9月当時の原告の賃金条件は、基本給34万0800円、調整手当1万0220円、その他手当150円であり、これに加え保険外交員報酬として1ヶ月平均営業手当15万1405円の合計50万2575円を、毎月末日締め、同月24日支払として受け取っていた。 また、被告においては、毎年6月1日に在職している職員に夏季手当を、12月1日に在職している職員に年末手当を支給していた。そして、年末手当については、基本給、扶養手当、調整手当及び役割等級別等加算の合計に在職期間割合を乗じ、さらに支給月数を乗じた額とされており、支給月数は従業員一律の基本分として1か月分、前年度評価に対応する業績分が1.15か月分とされる。業績分については、「今年度4月1日に採用された社員については、前年度評価がないため、業績分について 支給月数は従業員一律の基本分として1か月分、前年度評価に対応する業績分が1.15か月分とされる。業績分については、「今年度4月1日に採用された社員については、前年度評価がないため、業績分についてはC評価(標準)を基本とします。」とされており、原告もC評価として取り扱われるべきである。そして、C評価の場合の業績分は1. 15か月となる。原告の基本給は34万0800円、扶養手当は0円、調整手当は1万0220円、役割等級別等加算額は1万7551円であり、これらの合計額である36万8571円に在職期間割合の1と支給月数の2.15を乗ずると、原告が受ける年末手当は、79万2427円となる。夏季手当については、前年度評価が反映されないものとされ、従業員一律で2.15か月分と取り扱われていたことから、原告が受ける夏季手当は、79万2427円となる。したがって、原告は、毎年6月30日限り夏季手当として79万2427円を、毎年12月10日限り年末手当として79万2427円を受け取る労働契約上の権利を有する。 (被告の主張)否認ないし争う。 基本給、調整手当及びその他手当については認めるが、その余は否認する。営20 業手当は営業成績に基づき支給されるものであるから、前年の1か月平均の営業手当を令和2年9月時点の賃金の基礎とする合理的理由はない。 年末手当について、C評価を標準とするのは新入社員を対象としたものであって、原告をC評価と扱うべき理由はない。 第4 当裁判所の判断1 認定事実前記前提事実、後掲括弧内に記載の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ⑴ 本件乗換の際の原告の本契約者に対する説明原告は、本件乗換の際、本契約者に対し、「ご契約に関する注意事項(注意喚起情報) 載の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ⑴ 本件乗換の際の原告の本契約者に対する説明原告は、本件乗換の際、本契約者に対し、「ご契約に関する注意事項(注意喚起情報)」という冊子(甲共26。以下、単に、「ご契約に関する注意事項」という。)及びご意向確認書(乙8)を示しながら説明を行い、本契約者は、自らご意向確認書に記入した。本契約者は、ご意向確認書の「ご提案させていただいた保険商品(基本契約・特約の保障内容)は、ご契約者さまのご要望・ご意向(ニーズ)を満たしている。また、満たせないご要望・ご意向(ニーズ)がある場合は、その旨を了解している。」との確認事項について、「はい」と回答するなど、本件乗換の際の契約の締結が本契約者の意向に沿ったものである旨を記入した(乙5、8〔枝番含む。〕、原告本人)。 また、乗換契約に関するご意向確認書(乙8の19~21、23~29、31及び33)には、「ク 乗換契約の不利益事項について、別紙により説明を受け、ご了解いただけましたか。」という確認事項があり、その別紙には、「多くの場合、返戻金は払込保険料合計額より少ない金額になります。」、「ご契約を解約等されると、多くの場合、返戻金は払込保険料合計額より少ない金額になります。」との記載や、申込日が新たな契約の責任開始日ではない場合があることの記載など、乗換契約の不利益事項が記載されていた。本契約者は、上記の確認事項について、いずれのご意向確認書でも「はい」のチェック欄にレ点21 を記入した(乙8の19~21、23~29、31及び33、乙9)。 本契約者は、当時、有限会社E及び有限会社Fの取締役であり、役員報酬等の収入があった。原告が本契約者を担当する以前から、本契約者は多数の保険契約を締結しており、本件乗換 及び33、乙9)。 本契約者は、当時、有限会社E及び有限会社Fの取締役であり、役員報酬等の収入があった。原告が本契約者を担当する以前から、本契約者は多数の保険契約を締結しており、本件乗換以前の毎月の保険料支払額は、月額89万円ほどであった(甲A5、6、12)。 ⑵ 被告における契約の審査(甲共8〔39~41頁〕)被告においては、郵便局員又は渉外社員が保険商品の申込みを受理した後、保険契約者から受け取ったご意向確認書等を含む申込関係書類を内務の責任者に引き継ぐこととなっている。引継ぎを受けた内務の責任者は、ご意向確認書における保険契約者の記載内容等を確認することとされており、その後、申込関係書類を、局(部)長等責任者に引き継ぐこととなっている。局(部)長等責任者においても、ご意向確認書について記載漏れがないか、保険契約者の意向と申込みを受けた保険商品の内容に疑義がないかなどを確認し、疑義がある場合には、保険募集人に状況を確認することとなっている。 かんぽ生命の保険商品について、郵便局における上記申込審査の手続が完了した後、申込関係書類は、当該郵便局からかんぽ生命へ送付され、保険の引き受け手続が行われる。 本件乗換は、被告における上記の一般的な審査の手続を経て行われたものであり、審査において問題が指摘されたことをうかがわせる事情は見当たらない。 ⑶ 原告に対する表彰原告は、平成26年、平成28年及び平成30年に、それぞれ被告及びかんぽ生命から営業成績の優績者として表彰を受けた(甲A13の1、2、4)。この表彰は、乗換契約の割合がある水準以上となった場合には受けられないものであり、原告がこの表彰を受けたということは、原告が担当した乗換契約の割合がその水準を下回っていたことを意味する(甲共29、D〔11 彰は、乗換契約の割合がある水準以上となった場合には受けられないものであり、原告がこの表彰を受けたということは、原告が担当した乗換契約の割合がその水準を下回っていたことを意味する(甲共29、D〔11、12頁〕)。 ⑷ 本契約者による契約の解約22 本契約者は、平成30年3月15日から平成31年3月26日までの間に、別紙1番号18~20、22ないし33及び35の本件新規契約を解約した(乙4の18~22、乙25)。 ⑸ 被告による本契約者に対する調査の実施ア 被告担当者であるDは、令和元年6月26日、事前にアポイントを取らずに本契約者宅を訪問して調査を行った。この調査は、本契約者からの苦情や調査依頼を契機として開始されたものではなかった。本契約者は、当初、調査を拒んでいた。Dは、本契約者に対し、玄関先で、解約に伴う損失が出ている可能性があると粘り強く話をして、ようやく本契約者の家に入ることができた。Dは、本契約者に対し、階段表(乙21)を示すなどしながら、ヒアリングを実施した。Dは、ヒアリングの際に、本契約者に対し、解約損の内容として、支払った保険料と返戻金の差額が損失になる旨の説明をした上で、解約損として、100万円以上の損失が出ているという説明を行った。 同月27日、Dは、ヒアリングの結果を踏まえ、多数契約調査用紙(乙5)を作成した(D〔2~4頁〕)。 また、同年8月28日、Dは、再度、本契約者を訪問し、作成した多数契約調査用紙を示して説明を行い、内容を確認した(D〔22頁〕)。 イ 前記アにおいて作成された多数契約調査用紙(乙5)には、以下のような内容が記載されている。 「契約一覧のとおり、多数のご契約をいただいておりますが、どのように認識されていましたか」という問いに対し、本契約者は、契約当時は 用紙(乙5)には、以下のような内容が記載されている。 「契約一覧のとおり、多数のご契約をいただいておりますが、どのように認識されていましたか」という問いに対し、本契約者は、契約当時は、保険であるのでリスクがあり、契約は自己責任であることは認識していることや社員の勧奨により、勧められるままに複数の契約をしていたこと、現在は、これほど契約をしては解約を繰り返していたとは思わなかったと回答している。 「新たな保険契約をお申込みいただく前に既契約を解約(減額、料済)23 されていますが、これは、新たな保険を契約するためでしょうか」という問いに対し、本契約者は、支払保険料を捻出するためにすべて社員の提案で行ったものであると回答している。 「既契約を解約した場合、解約返戻金は、払込保険料より少なくなります。また、新たな保険を契約する場合、加入年齢が上がるので、既契約より保険料が高くなります。このような保険の仕組みについて認識されていましたか」という問いに対し、本契約者は、「認識はあった」、「保険なので解約した場合、解約返戻金は払込保険料より少なくなるのは承知している。 社員を信頼しているので言われるがままに契約していた。」、と回答している。 ⑹ 原告による始末書の作成原告は、令和2年6月19日付けで始末書を作成した。同始末書には、「平成27年4月3日から平成29年4月10日までの間、お客様にご契約して頂いた契約についてお客様のご意向に沿ったものではなく無効契約となりました。 多数回に渡り訪問させて頂き沢山お話も伺ったにも関わらずお客様の変化や真の意向に気付かず、お客様に多大なご迷惑や不安を与えてしまった事をお詫び申し上げたいです。」と記載されている(乙7)。 なお、原告は、陳述書において 沢山お話も伺ったにも関わらずお客様の変化や真の意向に気付かず、お客様に多大なご迷惑や不安を与えてしまった事をお詫び申し上げたいです。」と記載されている(乙7)。 なお、原告は、陳述書において、上記の始末書の記載について、本契約者の意向で無効契約となったとも聞かされ、結果としてご意向に反したというのであれば多く言い訳をしても仕方ないという気持ちと、以前会社の処分で始末書を書かなかった人の方が処分が重たかったこともあり、物事を穏便に済ませるために自分の非を認めるような内容にした方がいいと判断したと述べている(甲A12)。 ⑺ 原告は、被告から生命保険募集人として外交員報酬(営業手当)を得ており、平成31年度における同報酬の額は、181万6864円であった(甲A3)。 ⑻ 被告においては、年末手当において業績分として支給される金額について、24 前年度の業績評価がない新入社員については、「C評価」として扱うこととされていた。なお、C評価とは、「標準」とされている。 2 判断⑴ 争点①(懲戒事由の有無について)についてア 被告は、上記第3の2(被告の主張)のとおり、原告は本契約者の意向に沿わない保険商品を提案し、乗換契約に伴う不利益を本契約者に告知せず、専ら自己の成績向上と報酬獲得のために生命保険募集人としての権限・地位を濫用したと主張する。 しかし、上記1⑴及び⑵の認定事実によれば、原告は、ご契約に関する注意事項及びご意向確認書を用いて、本契約者の意向を確認し、乗換契約に伴う不利益の説明を行い、本契約者は、ご意向確認書に、契約の締結が本契約者の意向に沿ったものである旨を記入し、乗換に伴う不利益の説明を受けた旨のチェックを入れているのであり、これらの契約締結時の説明及び書類の作成について被告にお は、ご意向確認書に、契約の締結が本契約者の意向に沿ったものである旨を記入し、乗換に伴う不利益の説明を受けた旨のチェックを入れているのであり、これらの契約締結時の説明及び書類の作成について被告における審査においても問題が指摘されたことはうかがわれないのであるから、原告としては、当時、被告において求められていた水準の顧客の意向確認及び乗換に伴う不利益の説明は履践していたというべきである。また、原告が生命保険募集人としての権限・地位を濫用したことを基礎付ける事情も見当たらない。 イ被告は、上記アとは異なり、ご意向確認書は、予め典型的な意向の内容が記載された各項目にチェックを付ける簡易な内容の書類であって、ご意向確認書の作成のみをもって契約者の意向を確認したと解することはできず、契約者の意向把握義務を履行したとはいえないと主張する。 しかし、被告における保険契約の審査の際に、ご意向確認書を含む申込関係書類を査閲し、契約者の意向と申込みを受けた保険商品の内容に疑義がある場合には、保険募集人に状況を確認することとされていたことなどに照らすと、ご意向確認書は、被告において、契約者の意向確認の手段と25 して意味のあるものとして用いられていたというべきである。 また、被告は、本件乗換は、本件簡易計算方法1によれば約350万円、本件簡易計算方法2によれば約225万円の損失が生ずる不合理なものであるから、本契約者の意向に反するものであったことが事実上推定されると主張する。 しかし、本契約者は、上記1⑴に認定のとおり、乗換契約に伴う不利益の説明を受けた上で契約を締結しているのであるから、乗換に伴う不利益の発生を根拠として本件乗換が本契約者の意向に反するものであったことを事実上推定することはできない。 、乗換契約に伴う不利益の説明を受けた上で契約を締結しているのであるから、乗換に伴う不利益の発生を根拠として本件乗換が本契約者の意向に反するものであったことを事実上推定することはできない。 また、被告は、本契約者が、調査の際に、Dに対して、「社員を信頼しているので言われるがままに契約していた。」などと述べていることから、本件乗換が本契約者の意向に沿うものではないことが明らかであると主張する。 しかし、上記1⑸に認定のとおり、被告による本契約者に対する調査は、本契約者からの苦情や調査依頼を契機として開始されたものではなく、当初、調査を拒んでいた本契約者に対して、Dが、解約に伴う損失が出ている可能性があると粘り強く話をして、ようやくヒアリングを開始するに至ったという経過をたどったものであることからすると、Dがヒアリングの際に本件乗換に問題があったとする方向に本契約者を誘導した可能性も存するところである。また、Dは、本契約者に対し、解約損の内容として、支払った保険料と返戻金の差額が損失になる旨の説明をした上で、解約損として、100万円以上の損失が出ているという説明を行っているところ、この説明内容は、被告が主張する解約損の本質(返戻率の低下による保障の対価の遡及的上昇)には触れず、解約損の金額的評価が容易ではないという留保も付けず、安易に本件簡易計算方法1を前提とした説明を行ったものであり、かつ、本件簡易計算方法1によれば約350万円の損失とな26 るのに、100万円以上の損失が出ているという不正確な説明を行ったものであって(損失額の上限が示されておらず、この説明を聞いた本契約者が、本件簡易計算方法1によった場合に、350万円を大幅に超える損失を被っているかもしれないと誤解した可能性もある。)、問題のあるも のであって(損失額の上限が示されておらず、この説明を聞いた本契約者が、本件簡易計算方法1によった場合に、350万円を大幅に超える損失を被っているかもしれないと誤解した可能性もある。)、問題のあるものといわざるを得ない。多数契約調査用紙(乙5)は、このように問題のある説明がされるなどの経過をたどった後に作成されたものであるから、その中に、「社員の勧奨により、勧められるままに複数の契約をした。」、「これほど契約をしては解約を繰り返していたとは思わなかった。」、「社員を信頼しているので言われるがままに契約していた。」といった記載があるからといって、本件乗換が本契約者の意向に沿うものではなかったと認めることはできない。 また、被告は、本件乗換は、乗換契約が一度に多数行われていること、本契約者が高齢であったこと、本件新規契約が締結後3年以内に解約されていることから、本契約者の意向に沿うものでなかったことは明らかであると主張する。 しかし、高齢の本契約者が多数の保険契約を締結していたのは、原告が本契約者を担当する以前からのことであり、この点に問題があるとして原告の責任を問うことはできないというべきである。また、上記1⑴に認定のとおり、本契約者は、本件乗換当時、役員報酬等の収入があったところ、その後、収入の状況等に変更があった可能性もあるから、本件新規契約が後に解約されたからといって、本件乗換が本契約者の意向に沿わないものであったと認めることはできない。 また、被告は、原告が始末書(乙7)を作成していることから、本件乗換が本契約者の意向に沿わないものであることは明らかであるなどと、縷々主張する。 しかし、原告が作成した始末書(乙7)の内容は、「お客様にご契約して27 頂いた契約についてお 乗換が本契約者の意向に沿わないものであることは明らかであるなどと、縷々主張する。 しかし、原告が作成した始末書(乙7)の内容は、「お客様にご契約して27 頂いた契約についてお客様の意向に沿ったものではなく無効契約となりました。・・・お客様に多大なご迷惑や不安を与えてしまった事をお詫び申し上げたいです。・・・二度とこのような不始末を起こす事のないよう、お誓いいたしますので、この度限りご寛大なご措置を賜りますようお願い申し上げます。」などというものであり、本契約者の意向と契約の内容がどの点で相違していたのを具体的に述べる内容のものではない。また、原告は、この始末書の作成について、物事を穏便に済ませるために自分の非を認めるような内容にした方がいいと判断したなどと述べているところ、原告が述べる始末書作成の動機は、この始末書の内容に照らすと、必ずしも不合理なものとはいえない。そうすると、この始末書(乙7)を根拠に、本件乗換が本契約者の意向に沿わないものであったと認めることはできない。 また、被告は、その他にも縷々主張するが、本件記録を精査しても、本件乗換が本契約者の意向に沿わないものであったことを認めることはできず(かえって、多数契約調査用紙(乙5の5枚目)においてすら、本契約者が記憶している契約については、「その商品は、お客さまのご意向と一致するものでしたか。」という問いについて、本契約者は「一致している」と回答している。)、被告の主張は採用することはできない。 ウ 以上のとおり、被告の主張する懲戒解雇事由が存在するとは認められないから、その余の点について検討するまでもなく、本件懲戒解雇は無効である。 ⑵ 争点④(原告の給与額)についてア 営業手当について本件懲戒解雇の前 が存在するとは認められないから、その余の点について検討するまでもなく、本件懲戒解雇は無効である。 ⑵ 争点④(原告の給与額)についてア 営業手当について本件懲戒解雇の前年である平成31年分の原告の営業手当は181万6864円(1か月当たり15万1405円)であったところ、原告が優績者として表彰されることもあったことなどを考慮すると、本件懲戒解雇がなければ、少なくとも月額15万1405円の営業手当は確実に支給されていた28 と認めるのが相当である。 イ 夏季手当及び年末手当について夏季手当については、前年度評価が反映されず、支給月数が2.15月とされていたから、原告主張のとおり、原告には79万2427円の支給を受ける権利があると認められる。 年末手当については、原告は、前年度評価に対応する業績分について、新入社員と同じくC評価を前提に1.15か月分を認めるべきであると主張するが、原告は新入社員ではなく、原告について成績査定が実施されていないことを考慮すると、地域基幹職(甲A2)についてのE評価のその他の成績率である0.66(甲共11の1ないし3)を支給月数とするのが相当である。そうすると、原告には、年末手当として、61万1827円の支給を受ける権利があると認められる(計算式 36万8571円×(1+0.66)=61万1827円(小数点以下切捨て))。 ウ そして、前記前提事実を踏まえれば、原告は、被告に対し、給与として、1か月あたり、基本給34万0800円、調整手当1万0220円、その他手当150円及び営業手当15万1405円の合計50万2575円の支払を受ける権利が、夏季手当として79万2427円、年末手当として61万1827円を受ける権利があると認められる。 20円、その他手当150円及び営業手当15万1405円の合計50万2575円の支払を受ける権利が、夏季手当として79万2427円、年末手当として61万1827円を受ける権利があると認められる。 第5 結論以上によれば、原告の請求は、主文第1ないし第5項の限度で理由があるからこれを認容することとし、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法61条、64条ただし書を、仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官 中 野郎29 裁判官 新 海 寿 加 子 裁判官 田 中 大 地 (別紙1ないし3 添付省略)
▼ クリックして全文を表示