令和7(わ)281 殺人被告事件

裁判年月日・裁判所
令和7年7月18日 福岡地方裁判所
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判決文本文2,544 文字)

令和7年7月18日宣告令和7年(わ)第281号殺人被告事件判決 主文 被告人を懲役3年に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は、平成29年1月30日、第1子となるAを出産した。 Aは、出産当初から難病である脊髄性筋萎縮症の中でも最重症の0型を発症しており、将来にわたり、運動機能は全くなく自発呼吸もできず、生命維持のためには人工呼吸器の装着が不可欠であった。 被告人は、Aが退院した令和元年11月頃以降、複数の訪問看護サービスや福祉サービス、通所サービス等を活用しつつ、また、自身は以前からのうつ病等により定期的な通院医療を受けつつ、福岡市(住所省略)の自宅において、昼夜を問わずきめ細やかな介護養育を積み重ねていた。その間、夫も協力的ではあったが、会社員として日中勤務して夜間は休息をとるという生活サイクルの中、その介護参加には限度があった。 他方、親族の一部からは、Aの成長を共に喜ぶどころか、かえって介護養育に尽力する被告人に無力感を抱かせる種々の言動が示されることもあった。 そのような生活が5年以上続いた令和7年1月3日、被告人は、自宅において、Aの体位交換のため夫に手伝いを頼んだ際、夫から初めて、介護が負担で安らぎを奪われているかのような発言をされた。これを引き金として、被告人は、夫への怒り等を募らせるだけでなく、親族の一部から受けることのあった種々の言動が次々 に思い起こされる中、急速に疎外感と孤立感を深め、Aと自分はいらない存在であるとまで思い詰め、Aとの心中を考えるようになった。 同月5日、被告人は、寝室にこもったきりの夫を尻目に訪問サービスを受けた後、心中の実行を決意し に疎外感と孤立感を深め、Aと自分はいらない存在であるとまで思い詰め、Aとの心中を考えるようになった。 同月5日、被告人は、寝室にこもったきりの夫を尻目に訪問サービスを受けた後、心中の実行を決意し、翌日のサービス利用をキャンセルする、自己の衣服をごみとして処分する、Aと共にいるリビングのドアノブが簡単には開かないようにする、人工呼吸器との接続が切れてもアラーム音が鳴らないようにするなど、心中に向けた準備を進めた。 (罪となるべき事実)被告人は、令和7年1月5日午後2時44分頃、福岡市(住所省略)の被告人方リビングにおいて、脊髄性筋萎縮症0型のため自発呼吸ができず、生命維持のために人工呼吸器の装着が不可欠なA(当時7歳)に対し、殺意をもって、その首に挿入された気管カニューレと人工呼吸器を接続する器具を取り外し、よって、その頃、同所において、Aを窒息により死亡させて殺害した。 (量刑の理由) 1 被告人は、確実に心中を遂げるための準備をした上で、自発呼吸ができない被害者から、生命維持に必要不可欠な器具を取り外して窒息死させており、その行為の生命を奪う必然性と殺意の揺るぎなさは顕著である。2日前の夫の発言が引き金になったとはいえ、夫は本来介護に協力的であったのに、被告人は急速に疎外感や孤立感を深め、振り返って立ち止まるといったこともなく、被害者を躊躇なく心中に巻き込んでいる。令和7年1月3日以降、2日間の被告人の行為を振り返る限り、殺害方法、結果共に重大というほかなく、より重い刑が妥当する。 2 しかしながら、介護疲れによることを否定する被告人の供述を十分に踏まえても、客観的にみれば、かねてよりうつ病等と診断されて通院治療を継続していた被告人が、被害者の生命維持が自己の介護養育に委ねられるという張りつめた緊張感の中で、昼夜を問わない 人の供述を十分に踏まえても、客観的にみれば、かねてよりうつ病等と診断されて通院治療を継続していた被告人が、被害者の生命維持が自己の介護養育に委ねられるという張りつめた緊張感の中で、昼夜を問わないきめ細やかな介護養育を5年以上続けていたのであるから、その肉体的、精神的な疲労の蓄積自体は察するに余りある。のみならず、被告 人は、被害者の成長を夫以外の近しい家族と分かち合うことすら、ままならなかったのである。 そのような、被告人の受け止め方はともかく、客観的には負担の大きい環境にあって、被告人は介護を含め、被害者の成長を喜びとして共有できているはずの夫から、介護が負担で夫から安らぎを奪うものであるかのような発言を初めてされた。 夫に悪気があったわけでもなく、傍目にも夫婦間の些細な行き違いに見えるものではあれ、被告人にとってはどれだけの深い痛みを伴う発言であったか、第三者には軽々しく推し量ることができないものであったと思われる。 以上のような経緯をも踏まえて、心中を決意するに至った被告人の立場ないし心情を慮ると、いかに夫の発言から本件犯行までの間に2日程度しか経っていなかったとはいえ、本件を短絡的な犯行などと割り切って評価することは躊躇されるのであり、本件犯情の重さ、被告人に対する責任非難の程度は、大きく減じられるというべきである。 3 以上に加え、被告人が自己の行為が殺人に他ならないことを全面的に受け入れて、反省悔悟の言葉を述べていること、夫が寛大な判決を望んでいること等の諸事情も踏まえつつ、同種事案の量刑傾向(単独犯、子との心中目的、殺人1件、前科なし)を参照して検討した結果、被告人に対しては酌量減軽をした上で、更に刑の執行を猶予して社会内で贖罪の日々を送らせることが相当であり、かつ、その日々が自傷他害のおそれとは無縁の 的、殺人1件、前科なし)を参照して検討した結果、被告人に対しては酌量減軽をした上で、更に刑の執行を猶予して社会内で贖罪の日々を送らせることが相当であり、かつ、その日々が自傷他害のおそれとは無縁の、心身の安定を伴う、円満で永続的な社会復帰につながるものとなるよう、保護観察を付すのが相当であるとの結論に達した。 (検察官の求刑懲役5年、弁護人の科刑意見執行猶予付き判決)令和7年7月18日福岡地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官井野憲司 裁判官富張真紀 裁判官荒木克仁

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