平成14(わ)929 強盗殺人未遂被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年2月26日 神戸地方裁判所
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判決文本文3,314 文字)

主文 被告人を懲役9年に処する。 未決勾留日数中120日をその刑に算入する。 押収してあるネクタイ1本(平成14年押第144号の1)を没収する。 理由 (犯罪事実)被告人は,平成14年6月ころ内妻との同棲を解消して以降,定職に就くことなく,同年7月中旬ころからは,ほぼ毎日のようにパチスロに通う生活を続けていたが,遊興費等の金銭に窮し,かねて内妻を通じて面識のあったV(当時58歳)を殺害して金員を強取しようと企て,同月26日午前11時3分ころ,神戸市西区伊川谷町Aa番地のbにあるパチンコB店立体駐車場2階で,普通乗用自動車(軽四)を運転中の同女に対し,内妻の借金を返済するなどと虚言を用いて停車させた上,同車の窓から手を差し込んでドアロックを外して後部座席に乗り込み,同女が同車を発進させて同駐車場2階西端駐車枠に停止させた途端,突然同女の背後から,殺意をもって,かねて用意していたネクタイ(平成14年押第144号の1)を同女の首に巻き付けて強く絞めつけるなどして,同女の反抗を抑圧した上,同女所有の現金約8万3610円及びポーチほか17点在中の手提げ袋(時価合計2250円相当)を強取したが,その際,同女を失神させたものの,同女に約1か月間の加療を必要とする両眼瞼血腫,両球結膜下出血,両結膜浮腫,頸部擦過創等の傷害を負わせたに止まり,殺害するに至らなかった。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,被告人にはVを気絶させる意図しかなく,同女に対する殺意はなかったから,本件は強盗致傷罪に問擬されるべきであると主張するので,この点について説明を補足する。 2 関係証拠によれば,被告人は絞頸に適する索状物であるネクタイをVの頸部に く,同女に対する殺意はなかったから,本件は強盗致傷罪に問擬されるべきであると主張するので,この点について説明を補足する。 2 関係証拠によれば,被告人は絞頸に適する索状物であるネクタイをVの頸部に巻き付けて,同女がやめてくれるように懇願するにもかかわらず,ネクタイが同女の首にめり込むような状態で執拗に絞頸行為を継続しているのであって,こうした行為態様自体,死に至る危険性が極めて高いものである上,Vは気絶するに至っており,その頸部には索状痕が残り(写真撮影報告書,甲17),同女が両眼瞼血腫,両球結膜下出血,両結膜浮腫等の傷害を負っていること(診断書,甲15,16)などからすると,被告人の絞頸行為が相当強い力でなされたことが認められる。そうすると,被告人がVに対し殺意を有していたことは十分に推認できる。Vに対し殺意を有していたことを認める被告人の捜査段階の供述は,この推認と合理的に符合していることから,その信用性を十分肯定することができ,これらの供述を含めた関係証拠を総合すると,被告人にVに対する殺意があったことは優に認められる。 3 これに対し,被告人は,当公判廷において,本件犯行前に本件犯行に使用したネクタイで数回絞頸による自殺を試みて気絶した経験があったから,どの程度首を絞めれば気絶するのかを知っていたのであって,Vを気絶させるつもりはあったが,殺すつもりはなかった旨弁解をする。 しかしながら,仮に被告人にこのような経験があったとしても,殺されまいと必死に抵抗するVに対し,ネクタイで頸部を絞めながら,死亡にまでは至らないが気絶させるにとどめる程度に,力の強弱や絞頸時間の長短を調節することは困難であると考えられ,このことは,本件において,被告人が,Vが実際には気絶したものであるのに,同女が死んだものと誤認したことからしても,明 にとどめる程度に,力の強弱や絞頸時間の長短を調節することは困難であると考えられ,このことは,本件において,被告人が,Vが実際には気絶したものであるのに,同女が死んだものと誤認したことからしても,明らかである。そうしたところ,被告人は,このように力を加減したり,時間を調節したりして,死の結果が発生しないように配慮をした様子は全くうかがわれず,判示の傷害を負わせるほど相当強い力で同女の頸部を絞めていることに照らすと,被告人の前記弁解は,不自然・不合理というほかなく,信用することができない。 4 そうすると,弁護人の主張は採用することができず,判示の強盗殺人未遂の事実は,被告人に殺意があったことを含めこれを優に認定することができる。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法243条,240条後段に該当するところ,所定刑中無期懲役刑を選択し,判示の罪は未遂であるから同法43条本文,68条2号を適用して法律上の減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役9年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中120日をその刑に算入し,押収してあるネクタイ1本(平成14年押第144号の1)は判示強盗殺人未遂の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 事案の概要本件は,金銭に窮した被告人が,知人の被害女性から金品を強取しようと企て,殺意をもって,同女の首をネクタイで絞めるなどして,その反抗を抑圧し,現金約8万3610円等の金品を強取したが,その際,絞頸行為によって,同女を気絶させ,約1か月間の加療を必要とする傷害を負わせたに止まり,殺害するに至らなかったという強盗殺人未遂の事案である。 2 量刑上考慮 3610円等の金品を強取したが,その際,絞頸行為によって,同女を気絶させ,約1か月間の加療を必要とする傷害を負わせたに止まり,殺害するに至らなかったという強盗殺人未遂の事案である。 2 量刑上考慮した事情本件犯行の態様は,前示のとおりであって,極めて危険かつ悪質なものといわざるを得ず,被告人は,本件犯行により,被害女性から現金約8万3610円等の金品を強取したばかりか,その際の暴行により,被害女性に対して,幸いにして気絶させただけで済んだものの,約1か月間の加療を必要とする相当重い傷害を負わせたもので,被害女性が受けた精神的な衝撃も相当大きかったと認められ,本件犯行の結果は重大である。 加えて,被告人は,金銭欲しさに,顔見知りの被害女性から金品を強取しようと考え,絞頸に用いるためのネクタイを準備した上,雑誌を切り抜いた見せ金を見せるなどして同女を油断させてその車両に乗り込み,突如背後から同女の頸部を絞めたもので,本件犯行の動機は安易,短絡的であるばかりか,本件犯行に至る経緯にはある程度の計画性がうかがわれること,また,被告人は,本件犯行後,その逃走中に,被害女性から強取した必ずしも少額とは言えない金員を,パチスロなどでわずか数日間で全額費消するなど,犯行後の情状も芳しいとはいえないことなどの事情に照らすと,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 しかしながら,他方,被告人の実兄が被害女性に対して10万円を支払い(なお,そのうちの2万円は被害女性から弁護人に返還されている。),財産的損害はすでに回復されていること,被告人は,自ら警察官に電話をかけて,自己の居場所を教えたことから逮捕されたもので,反省の気持ちがうかがえること,被告人は公判廷において被害者に対する謝罪の意思を示していること,被告人には前科がなく, 人は,自ら警察官に電話をかけて,自己の居場所を教えたことから逮捕されたもので,反省の気持ちがうかがえること,被告人は公判廷において被害者に対する謝罪の意思を示していること,被告人には前科がなく,数年前に失職するまでは相応の社会生活を送ってきたことなど被告人にとって有利な事情も認められる。 3 結論そこで,以上諸般の事情を総合して考慮し,被告人に対して,主文の刑を科すこととした。 (求刑・懲役12年及びネクタイ1本の没収)平成15年2月26日神戸地方裁判所第4刑事部裁判長裁判官笹野明義裁判官浦島高広裁判官谷口吉伸

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