平成14(う)52 信用毀損,業務妨害,窃盗被告事件

裁判年月日・裁判所
平成14年6月13日 大阪高等裁判所 棄却
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判決文本文5,163 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書に記載されたとおりであり,これに対する答弁は,検察官篠崎和人作成の答弁書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。 論旨は,原判決は原判示第1の事実を認定した上,これが刑法233条の信用毀損罪及び業務妨害罪に該るとしているが,被告人が警察官であるBに対しコンビニエンスストア「C」で購入した紙パック入りオレンジジュースに異物が混入していた旨の虚偽の申告をすることは,虚偽の風説を「流布」したことにはならないし,被告人のこのような行為によって同店の「信用」が毀損されたわけでもなく,また,被告人には同店の信用を毀損する故意もなかったのであるから,被告人には信用毀損罪は成立せず,仮に,被告人の行為が同罪及び業務妨害罪に該当するとしても,上記事実については,軽犯罪法1条16号の虚構申告罪を適用すべきであるから,原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認ないしは法令適用の誤りがある,というものである。 しかしながら,記録を調査しても,原判決がその挙示する証拠を総合して原判示第1の事実を認定し,これが刑法233条の信用毀損罪及び業務妨害罪の構成要件に該当するとして同条の適用を認めたのは正当である。 以下,所論に即して検討する。 1 【要旨1】「流布」について所論は,刑法233条の「流布」とは,不特定または多数人に虚偽の事実を伝播させることをいうところ,本件では,Bという特定人かつ1人の者に告げたものであるから,「流布」には該当しない旨主張する。確かに,同条の「流布」の意義は所論指摘のとおりであるけれども,特定少数人に対して虚偽の事実を告知した場合であっても,その者から順次その事実が不特定多数人に伝播される可能性があり,そ ない旨主張する。確かに,同条の「流布」の意義は所論指摘のとおりであるけれども,特定少数人に対して虚偽の事実を告知した場合であっても,その者から順次その事実が不特定多数人に伝播される可能性があり,そのことを認識している限り,その者の人数の如何を問わず,同条の流布にあたると解すべきであるから,これと見解を異にする所論は採用できない。なお,所論は,このような場合にまで「流布」にあたると認めると,その意義が際限なく拡大され,罪刑法定主義に反すると主張するが,虚偽の事実の告知を受けた特定少数人からの伝播可能性については,単に伝播の抽象的な恐れがあるというのではなく,告知した者と告知を受けた者の関係,告知を受けた者の地位や立場,告知の状況等を総合して具体的にその可能性の有無を判断すべきものであるから,「流布」の意義は限定されているということができ,所論は失当である。 また,所論は,原判決は被告人が申告した虚偽の事実がBから他の警察職員に伝わり,それが報道機関に伝播する可能性が存在することを前提にしているが,Bや他の警察職員には法律上守秘義務があり,原則として捜査に関する情報が報道機関に公開されることはないのであるから,およそこのような経路で伝播する可能性は客観的に存在しない旨主張する。確かに,Bや他の警察職員には地方公務員法や刑事訴訟法等において守秘義務が課せられていることは所論が指摘するとおりである。しかしながら,警察は,個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防等に当たることをもってその責務としている(警察法2条1項)のであるから,被疑者の犯罪にかかる事実であっても,その犯罪の罪質,態様,結果,社会的影響,公表される事実の内容とその方法等に照らし,これを公表することが職責上許される場合があると解するのが相当である。これを本件についてみる かかる事実であっても,その犯罪の罪質,態様,結果,社会的影響,公表される事実の内容とその方法等に照らし,これを公表することが職責上許される場合があると解するのが相当である。これを本件についてみると,被告人が申告した事実は,上記のとおり,コンビニエンスストア「C」で購入した紙パック入りオレンジジュースに異物が混入していたというものであるところ,仮にこれが真実であったとするならば,公衆の生命,身体に危険を生じかねない重大事犯で,その犯行態様は不特定の者を無差別に狙ったものである上,被告人の検察官調書(検察官証拠請求番号乙10,11)及び警察官調書(同乙2),証人Bの原審公判廷における供述並びにDの警察官調書(同甲67,ただし,不同意部分を除く。)によれば,本件当時,飲食物に異物を混入するという被告人が告げた虚偽の内容と同様の事犯が現実に全国各地で多発していたことが認められるのであって,これらの事情に照らすと,Bから被告人の申告内容を伝えられた警察職員が,事件発生の日時,場所,被害者の氏名や被害状況,飲物の内容及びその鑑識結果はもとより,その飲物の購入場所等の情報をも報道機関に公表することは,類似の犯罪の再発を予防し,その被害を未然に防ぐため公衆に注意喚起する措置として許容されるものというべきであるから,所論は採用できない。 更に,所論は,本件において報道機関の情報入手ルート等に関する証拠がなく,被告人のBに対する虚偽の申告と報道機関からの報道との間の因果関係が明らかでない上,そもそも報道機関は警察の広報機関ではなく,独自の判断で報道しているのであるから,被告人の上記申告と報道機関の発表との因果関係をおよそ認めることはできない旨主張する。しかしながら,司法警察員作成の報告書(同甲57号)によって認められる新聞記事の内容と,司法警察員作成の るから,被告人の上記申告と報道機関の発表との因果関係をおよそ認めることはできない旨主張する。しかしながら,司法警察員作成の報告書(同甲57号)によって認められる新聞記事の内容と,司法警察員作成の報告書(同58号)によって認められる警察による報道機関への発表内容に照らすと,上記新聞記事の内容が警察による報道機関への発表内容に基づくものであることは明らかであって,その因果関係を認めることができる。そして,報道機関が警察の広報機関ではなく,独自の判断で報道していることは所論が指摘するとおりであるが,上記のような罪質,態様,本件当時の社会状況等に照らすと,報道機関が警察発表に基づき上記事件を報道することは当然考えられるから,所論が指摘する報道機関の立場をもって,上記因果関係を認めることの妨げにはならないというべきであり,所論は採用できない。 2 「信用」について所論は,被告人が虚偽の申告をすることによってコンビニエンスストア「C」の支払能力や支払意思に対する他人の信頼を害したわけではないから,「信用」を毀損したことにはならない旨主張する。 しかしながら,信用毀損罪は,人の経済的側面における価値を保護することを目的とするものであるから,刑法233条の「信用」とは,人の支払能力や支払意思に対する他人の信頼を含むことは当然であるが,それにとどまるものではなく,扱う製品の質,アフターサービスの良否,経営姿勢等を含んだ人の経済生活上の評価と解するのが相当である。そして,被告人が申告した内容に照らすと,被告人の上記行為は,コンビニエンスストア「C」で販売される飲食物の品質や同店の商品管理に関する社会的評価を低減せしめる可能性のあるものといわなければならず,同店の「信用」を毀損するものということができるから,所論は採用できない。 3 信用毀損の故意につ る飲食物の品質や同店の商品管理に関する社会的評価を低減せしめる可能性のあるものといわなければならず,同店の「信用」を毀損するものということができるから,所論は採用できない。 3 信用毀損の故意について所論は,被告人にはコンビニエンスストア「C」の信用を損なう意思はなかった旨主張する。 そこで,検討するに,関係証拠によれば,被告人は,三女の出産を間近に控え,夫から沖縄の実家に帰って出産するよう強く勧められていたが,実家に戻るとかねて嫌っていた祖母や叔父らに会うことになるため,当時居住していた大阪で出産したいと考えていたものの,夫に帰省したくない事情を詳しく話せなかったことから,何か帰省しないですむ方法はないかと考えていたところ,犯行当日に読んだ大阪市大正区内のコンビニエンスストアで購入されたジュースに異物が混入されていた旨の新聞記事にヒントを得て,購入したジュースに異物が混入されていたことにして長女らを病院で受診させ,これがマスコミに報道されれば大騒ぎになって夫から沖縄に帰省するよういわれなくなるだろうと考え,紙パック入りのジュースに漂白剤を混入させ,夫に異物の入ったジュースを子供が飲んだ旨連絡して帰宅を求め,帰宅した夫とともに2人の子供を連れて済生会泉尾病院に赴き,夫に告げたのと同様の申告をして子供たちを受診させたところ,医師が警察に通報する旨告げたのでこれを黙認し,通報により駆けつけた警察官のBに原判示第1のとおり虚偽の申告をしたことが認められる。そして,被告人は,捜査段階において,異物混入を偽装すれば警察沙汰になり,警察がジュースを販売した店の名前を発表してそれが新聞記事に載り,同店の信用を失墜させ,その売上げを減少させることは分かっていたが,それよりも沖縄に帰りたくない気持ちが強かったため,上記行為に及んだ旨,信用毀損の故意 した店の名前を発表してそれが新聞記事に載り,同店の信用を失墜させ,その売上げを減少させることは分かっていたが,それよりも沖縄に帰りたくない気持ちが強かったため,上記行為に及んだ旨,信用毀損の故意に基づき同犯行に及んだことを認める供述をするところ,その供述内容は,捜査段階を通じて一貫している上,上記認定事実に照らし無理なく首肯することができ,特に不自然不合理な点もないのであって,十分信用することができる。これに対し,被告人は,原審公判廷において,コンビニエンスストア「C」に迷惑をかけるつもりはなかった旨,信用毀損の故意を否認する供述をするが,捜査段階の供述と一貫性を欠く上,同店で販売する飲食物に異物が混入されたことが新聞記事に出れば,これを読んだ不特定多数人が同店での買い物を控えるようになることは容易に理解できるところであり,被告人自身も原審公判廷においてこのことを認めているのであって,これらに照らすと,信用毀損の故意に関する被告人の原審公判廷における供述は不自然であって信用できない。 以上のとおり,信用性の高い被告人の捜査段階における供述に他の証拠を総合すれば,被告人には原判示第1の犯行について信用毀損の故意があったことは優に認めることができ,所論は採用できない。 4 【要旨2】軽犯罪法1条16号との関係について所論は,虚構の犯罪を申告する場合,軽犯罪法1条16号の虚構申告罪は刑法233条の信用毀損罪及び業務妨害罪の特別法と解すべきであるから,被告人の原判示第1の所為については軽犯罪法を適用すべきである旨主張する。 しかしながら,軽犯罪法1条16号は,異常な事態に対処すべき公共の機関が無駄な活動を余儀なくされ,ひいては公共の利益を害することになるおそれのある行為を防止する趣旨で規定されたものであるのに対し,刑法233条の信用毀損罪 1条16号は,異常な事態に対処すべき公共の機関が無駄な活動を余儀なくされ,ひいては公共の利益を害することになるおそれのある行為を防止する趣旨で規定されたものであるのに対し,刑法233条の信用毀損罪等は,人の経済的面における社会活動に対する侵害を内容とする犯罪で,信用や業務の安全を保護するものであり,このような軽犯罪法の立法趣旨,両罪の罪質,保護法益の相違等を考え併せると,両罪が特別法と一般法の関係にあるとはいえない。したがって,捜査機関に虚偽の申告をし,これが公表されて人の信用等が害された場合は,軽犯罪法1条16号の虚構申告罪が成立するほか,刑法233条の信用毀損罪等も成立すると解するのが相当であり,これと見解を異にする所論は採用できない。 その他,所論がるる指摘する点も原判決の事実認定及び法令適用に影響を及ぼすものではなく,結局,原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認及び法令適用の誤りがあるとはいえない。 論旨は理由がない。 よって,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官瀧川義道裁判官平澤雄二裁判官奥田哲也)

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