- 1 -平成17年(ワ)第323号損害賠償請求事件主文 被告は,原告Aに対し,2450万5954円及びこれに対する平成16年6月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告B,同C及び同Dに対し,それぞれ766万8651円及びこれに対する平成16年6月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,これを10分し,その9を被告の,その余を原告らの負担とする。 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告は,原告Aに対し,2763万円,原告B,同C及び同Dの各自に対し,865万円及びこれらに対する平成16年6月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 本件は,平成16年4月に胃癌であると診断されたEが,被告の設置するF病院(以下「被告病院」という)で胃全摘手術等の手術を受けた後,容態が。 悪化し,G医科大学医学部附属病院(当時。以下「医大」ないし「医大病,院」という)に転送後死亡したことについて,担当医師の説明義務違反や上。 記手術時の手技の誤り,術後管理上の過失等が原因であると主張して,Eの相続人である原告らが,被告に対し,不法行為(使用者責任)に基づき,損害賠償及びこれに対する不法行為日(Eの死亡日)である平成16年6月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている- 2 -事案である。 前提事実(証拠等を示さない事実は当事者間に争いがない。また,以下,断りのない限り,月日の記載は平成16年を指し,時刻は24時間制で表記する)。 (1)当事者ア原告Aは,E(昭和15年11月28日生)の 拠等を示さない事実は当事者間に争いがない。また,以下,断りのない限り,月日の記載は平成16年を指し,時刻は24時間制で表記する)。 (1)当事者ア原告Aは,E(昭和15年11月28日生)の妻であり,原告B,同C及び同Dは,いずれもEの子である。 イ被告は,被告病院の設置者であり,同病院でEの治療に当たった医師の使用者である。 (2)被告病院の受診及びその後の経緯の概要アEは,2月ころ,胃癌集団検診で異常を指摘され,4月19日に被告病院で胃癌と診断された。被告病院外科のH医師は,同月22日,家族に対し,早期癌と考えられると伝えたが,Eには胃の病気であるとのみ伝えた(一部につき乙A1〔5,7頁。 〕)イEは,5月4日,被告病院外科に入院した。外科のI医師は,同月6日午前,E及び家族に対し,手術内容等の説明をし,この際,Eに対し,癌告知をした(一部につき乙A2〔19~24頁。Eは,同日午後に,I〕)医師らにより,胃全摘術,胆嚢摘出術(以下「本件胃全摘術」という)。 を受けたが,その際,5程度,肝左葉が損傷された。 mmウ本件胃全摘術後,Eに肝左葉損傷部から胆汁の漏出があると考えられたことから,同月7日,開腹ドレナージ術と肝左葉部分切除術(以下「本件m再手術」という)が施行されたが,同月8日21時にEの血圧は60。 台となり,23時ころに呼吸不全となった。同月10日には気管内mHg挿管され,(急性呼吸窮迫症候群)と診断された。 ARDSエ同月13日には,Eは,医大病院の(集中治療室)に転送されたが,ICU6月12日11時11分に死亡した(甲C2。 )- 3 - 争点 (1)説明義務違反の有無(2)本件胃全摘術時における手技の誤りの有無(3)本件胃全摘術後管理に関する過失の有無(4)本件 12日11時11分に死亡した(甲C2。 )- 3 - 争点 (1)説明義務違反の有無(2)本件胃全摘術時における手技の誤りの有無(3)本件胃全摘術後管理に関する過失の有無(4)本件胃全摘術後に禁忌とされる投薬を行った過失の有無(5)本件胃全摘術の翌日に本件再手術を実施した過失の有無(6)5月10日における転送義務違反の有無(7)各過失行為とEの死亡との間の因果関係の有無(8)損害額 争点についての当事者の主張(1)争点(1)(説明義務違反の有無)について(原告ら)アH医師は,Eやその家族に対し,医大の助教授によって手術がされるとの虚偽の説明をし,Eをして,被告病院において手術を受けることを決意させた。 イまた,H医師は,Eに対して,病名を告知すべきであるのに,本件手術直前まで胃癌であることを告知せず,治療方法についてEの選択権を侵害した。 (被告)アH医師は,Eらに対して,患者が75歳以上の高齢者であったり重篤な状態にある場合など特別に困難が予想される手術では医大から助教授を招いて手術してもらうこともあることを述べたにすぎず,本件手術について助教授に執刀を依頼すると説明したことはないし,本件手術は困難が予想されるものではなかった。 イ癌の告知方法は,患者の肉体的・精神的状態,家族の受入態勢,予後等を総合考慮してされるもので,医師の裁量に委ねられている。本件では,- 4 -これらの事情を考慮して,まず家族に正式な病名を告知し,家族に受け入れてもらってから,Eに対しても告知した。このことは,原告Aも了解している。 また,Eに対して癌の告知をした際にも,何も治療をしないことを含めて十分な選択肢を示し,各選択肢について問題点や予後について説明を行っており,最終的な決断はEに委ねているから,Eの選 解している。 また,Eに対して癌の告知をした際にも,何も治療をしないことを含めて十分な選択肢を示し,各選択肢について問題点や予後について説明を行っており,最終的な決断はEに委ねているから,Eの選択権を奪っていない。 (2)争点(2)(本件胃全摘術時における手技の誤りの有無)について(原告ら)アI医師は,本件手術における開腹後,左肝三角靱帯(間膜)を切離する前に,Eの肝臓自体が極めて薄く,肝臓と靱帯の見分けがつきにくいことを把握していた。したがって,電気メスで肝臓実質を損傷しないように,細心の注意を払って肝臓の実質と靱帯との境界を確認したうえで上記切離を行う注意義務を負っていた。 しかるに,I医師は,上記切離に先立ち,肉眼により,靱帯と肝臓との境界を慎重に確認することを怠った過失により,肝臓の実質を損傷した。 イまた,肝実質を損傷した場合には,その縫合を十分にしなければならないのに,執刀医らは,これを怠り,損傷後の縫合を十分に行わなかった過失がある。 (被告)ア本件では,肉眼的には,当該部位は,薄い靱帯様の形状及び靱帯と同じ黄白色という色調から,外観上靱帯と考えられたのであり,また,切離開始前に当該部位を手で触った感触からも靱帯と考えられたものである。切離開始前には,慎重に見ても,当該部位が肝実質であることは判明し得ない。しかも,左肝三角靱帯の切離に当たっては,肝実質及び横隔膜の双方を損傷しないよう,横隔膜から一定の距離を置いて行うところ,本件でも,- 5 -横隔膜から2程度離れた部位を切離しようとした。この部位は,通常,cm左肝三角靱帯の部位である。 このように,I医師は,肝実質を損傷しないよう,当該部位が左肝三角靱帯であることを確認するために必要な注意義務を尽くしていた。 なお,本件の胆汁漏出は,肝実質からのもので 左肝三角靱帯の部位である。 このように,I医師は,肝実質を損傷しないよう,当該部位が左肝三角靱帯であることを確認するために必要な注意義務を尽くしていた。 なお,本件の胆汁漏出は,肝実質からのものであり胆管が開いていた左肝三角靱帯の切離部からのものではない。 イまた,肝左葉に生じた5程度の損傷部位に対しては,コアグレーmmターにて断端を凝固させた後,出血や胆汁漏出のないことを確認し,アビテンを貼付して補強した。その後,手術終了まで約3時間にわたって上記部位近傍にガーゼを留置し,出血及び胆汁漏出の有無を確認したが,異常は認められなかった。そのうえ,念のため,手術終了前にアビテンを追加貼付した。手術終了後にガーゼ交換を3回実施しているが,その際にも出血及び胆汁漏出は認められていない。 損傷部位が5程度で,止血処置後に出血も胆汁漏出も見られないmm場合は,肝臓実質が極めて脆い組織であって,血管や胆管が明らかでない場合に無理に結紮,縫合を行うと損傷部位を拡大させる危険性が高いから,コアグレーターで損傷部位を凝固した後にアビテンを貼付するのは一般的な外科措置で,適切なものであるから,過失はない。 (3)争点(3)(本件胃全摘術後管理に関する過失の有無)について(原告ら),ア院内感染としての(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染症はMRSA高齢者たる患者について術後に発症しやすく,術前より口腔や鼻腔に常在していたが手術時の胃管挿入や気管内挿管により消化管や気管内MRSAに入り,術後腸炎や肺炎を引き起こし,高齢者では,重症腸炎にMRSAより死に至ることもある。 したがって,胃癌の術後管理に携わる医師は,患者の感染を予MRSA- 6 -防するとともに,術後の感染兆候の把握のために細心の注意を払い,血圧Mが低下したり血 SAより死に至ることもある。 したがって,胃癌の術後管理に携わる医師は,患者の感染を予MRSA- 6 -防するとともに,術後の感染兆候の把握のために細心の注意を払い,血圧Mが低下したり血液データ上において腎不全の兆候が出現した場合には,,RSA 腸炎等の発症を疑い,便やドレーン等から採取されたあらゆる排液血液などについて細菌検査を実施したうえ,後記のとおり,想定される細菌であるに有効とされるバンコマイシンの経口投与を開始する義MRSA務があった。 そして,Eについては,本件胃全摘術後,5月7日19時ころに体温が38.6度,同日21時ころに39.4度,同月8日15時30分ころに39.0度まで上昇したことに加え,本件胃全摘術の翌日である同日に急激に血圧が低下し,血液データ上において腎不全の兆候が出てきたのである。したがって,この時点までに生じた体温の上昇や他の臨床症状からみて,Eについて感染症を疑い,あらゆる排液や血液などの細菌検MRSA査を行うべきであったのみならず,同月9日には多量の水様便が認められたから,速やかに便の培養検査を実施すべきであったし,これらの症状等から,Eが腸炎を発症していると強く疑い,速やかにバンコマイMRSAシンの経口投与を開始すべきであった。 しかるに,担当医師は,これらの検査を実施せず,バンコマイシンの投与も速やかに開始せず,同月11日から点滴投与したにすぎず,上記の義務を怠った。 イそのほかにも,栄養の低下は易感染性を助長するので,Eの体重や血清蛋白量,貧血に注意して,高カロリー輸液等により栄養状態を是正することが大切であるところ,Eは,高齢のうえ,5月5日の夕方から欠食状態にあり,2度にわたる手術を受けた後は,手術侵襲や感染に対する抵抗力が著しく低下していることが予見できた。また 栄養状態を是正することが大切であるところ,Eは,高齢のうえ,5月5日の夕方から欠食状態にあり,2度にわたる手術を受けた後は,手術侵襲や感染に対する抵抗力が著しく低下していることが予見できた。また,5月8日にはEについて(全身性炎症反応症候群)や敗血症性ショックが疑われていた。しSIRSたがって,Eに対しては,本件再手術直後から,高カロリー輸液を投与し,- 7 -十分な栄養補給をすべきであった。 しかるに,担当医師は,Eに高カロリー輸液を投与せず,同月10日になって初めて投与したのであり,術後の栄養管理を怠った過失がある。 (被告)ア本件再手術後に生じたEの状態悪化は,5月8日ころからみられている。 原告らは,この状態悪化の原因が感染であることを前提に,感染MRSAMRSAM症対策について過失があったと主張しているが,Eに感染たる腸炎が認められたのは,5月13日であるし,重症感染症の発症にRSAは一定の時間が必要であるから,本件胃全摘術の2日後,かつ,本件再手術の翌日に術後感染による重症感染症が発症したと考えるのは合理的でない。Eは,自体によって,ないしこれに起因した事態によって,状ARDS態が悪化したものである。したがって,原告らの主張は失当である。 イまた,5月8日の時点では,Eに生じた急性呼吸不全の原因として感染性(細菌性,ウイルス性)肺炎,を主徴とする(全身性炎症ARDSSIRS反応症候群)が疑われたため,これらの疾患に対する治療として,細菌性肺炎に対して,抗生剤メロペン,チエナム,パズクロス及びダラシン,Sウイルス性肺炎に対しては献血ヴェノグロブリン,に対してはIHARDSエラスポール及びがそれぞれ投与されており,十分な治療がされてFOYMRSAいる。また,5月10日及び12日 ,Sウイルス性肺炎に対しては献血ヴェノグロブリン,に対してはIHARDSエラスポール及びがそれぞれ投与されており,十分な治療がされてFOYMRSAいる。また,5月10日及び12日にされた血液培養によっても,につき陰性であったのであるから,結果的にも術後1日目に血液培養検査を行う意味がなかったのであって,担当医師らが行った上記治療に問題となる点はない。 Eは,状態悪化に際しての初発症状が呼吸苦であり,しかも,発症当初の胸部線写真及び胸部検査の結果において,を含む細菌性XCTMRSA(壊死性)肺炎所見はなく,その検査所見は,すりガラス状の浸潤影CTでを呈しており,客観的には細菌性肺炎や肺炎といえないARDSMRSA- 8 -ことは明らかであるから,原告らの主張は失当である。 (4)争点(4)(本件胃全摘術後に禁忌とされる投薬を行った過失の有無)について(原告ら)ア術後感染症の発症を未然に防止し,感染症の増悪を防ぐには,Eの全身状態を良好に保ち,感染に対する抵抗力を維持することが不可欠となる。 イEに対して,5月9日及び11日に大腸刺激性下剤テレミンソフトが,同月9日24時に統合失調症や躁病に適応のあるセレネースが,同月10日から13日までは抗生剤パズクロスがそれぞれ投与された。 しかし,テレミンソフトは腹膜炎やイレウスといった急性腹症の疑いがあるEに対しては禁忌とされているところ,同月10日には,麻痺性イレウスになったことなどを担当医師が認識していたことを窺わせるし,医大病院のJ医師は,Eが被告病院で腹膜炎を発症したとしているから,Eに対してはテレミンソフトを投与してはならなかったのに,これを投与した過失がある。 また,セレネースには麻痺性イレウス,腸管麻痺,嚥下困難,頻脈等に引き続き発 院で腹膜炎を発症したとしているから,Eに対してはテレミンソフトを投与してはならなかったのに,これを投与した過失がある。 また,セレネースには麻痺性イレウス,腸管麻痺,嚥下困難,頻脈等に引き続き発熱するといった重大な副作用があり,腎機能低下や筋強剛を伴う嚥下困難から嚥下性肺炎となり,高熱の持続,意識障害,呼吸困難,循環離脱,脱水症状,急性腎不全に移行して死亡した例の報告があるから,本件再手術後まもなく重症感染症を発症したと疑われるEに対してセレネースを投与すべきではなかったのに,これを投与した過失がある。 さらに,パズクロスは,使用上の注意上,細菌学的検査実施後に投与する,腎障害のある患者,高齢者には慎重投与などとされているし,その副作用として急性腎不全やショックや大腸炎等が挙げられており,異常が認められた場合には投与を中止すべきとされている。そうすると,Eの場合にも,投与に先立ち,同月8日中に細菌検査を実施すべきであったし,E- 9 -について敗血症性ショックや腸閉塞が疑われ,水様便も認められていたから,細菌検査の結果を待たずにパズクロスを投与すべきではなかった。また,パズクロスの投与後にEの腎機能が低下するなどしていたから,投与を速やかに中止すべきであったのに,担当医師には,これをしなかった過失がある。 ウそればかりか,Eに対しては,心機能悪化や呼吸抑制等の副作用があるとされているソセゴン,ボルタレン,アタラックス,ドルミカム及びマPスキュラックス,並びにインスリン療法に適応であって,重症感染症等には禁忌とされるヒューマリンや,腎機能低下等のある重症感染症に禁忌とされている副腎皮質ホルモン製剤ソル・メドロールが投与されており,これらはいずれもEに対して投与すべきではなかったのに,投与した過失もある。これによって,Eはショ 機能低下等のある重症感染症に禁忌とされている副腎皮質ホルモン製剤ソル・メドロールが投与されており,これらはいずれもEに対して投与すべきではなかったのに,投与した過失もある。これによって,Eはショック状態となり,また,心機能,腎機能及び重症感染症を増悪させた。 (被告)アイレウスには腸に物理的閉塞のある機械的イレウスと,これがない麻痺性イレウスがあり,前者の場合にテレミンソフトを投与して腸蠕動を亢進させると症状が悪化するが,後者の場合には排便が促進されて病態の改善がみられる。Eについて疑われたのは後者の麻痺性イレウスであるから,テレミンソフトの投与は適切であった。 また,セレネースについては,原告らは,報告されている副作用を羅列するにすぎず,Eの病態においてこれを投与すべきでない医学的根拠が何ら示されていない。 さらに,パズクロスについては,その添付文書においても,原則として感受性を確認するとされているにとどまるし,Eについては,感受性の結果を待つよりも重症感染症を制御するという重要な目的で投与されているから,この点については何ら非難されるいわれがない。本件では,5月1- 10 -0日当時,及び血清クレアチニン値が上昇しており,パズクロスのBUNようなニューキノロン系抗生物質の腎機能へ与える悪影響も懸念されたものの,Eは発熱が続いており,重篤な感染症の可能性のある状態では,腎機能障害よりも生命に危機を及ぼす重篤な細菌感染症の制御を優先したものであって,この判断は正当である。 イソセゴン,アタラックスは,術後の鎮痛,鎮静目的で,5月6日,P7日及び9日に用いている。ショック前のソセゴンの最終投与は同月7日17時であるところ,ソセゴンの体内半減期からすれば,同月8日21時にEがショック状態になった時点にはほとんど体外に排泄 6日,P7日及び9日に用いている。ショック前のソセゴンの最終投与は同月7日17時であるところ,ソセゴンの体内半減期からすれば,同月8日21時にEがショック状態になった時点にはほとんど体外に排泄されているし,同月9日にはショック状態から離脱したから,ソセゴン及びアタラックスを同日に投与したことはショック状態とは無関係である。また,ソセゴPンやアタラックスによって循環血液量が減少することもないし,EにPARついて呼吸抑制状態は全期間を通じて認められていない。呼吸不全はによるものであって,これらの薬剤とは無関係である。 DSボルタレンは,5月7日及び8日に解熱,鎮痛目的で使用しているが,同月7日に安全に使用できた薬剤について,翌日に使用すればショック状態になるか否かを予測することは困難であったし,そもそもボルタレンの使用によって循環血液量が減少するとか,使用時においてEに重篤な心機能不全があった事実はない。 ドルミカムは,による呼吸不全回復のためにした人工呼吸器管理ARDS下の鎮静目的,マスキュラックスは同じ人工呼吸器管理下の筋弛緩目的(自発呼吸停止)で使用したが,ドルミカムを投与した5月10日の時点でEはショック状態ではなかったし,人工呼吸器管理下においては,自発呼吸停止のため,呼吸抑制状態をもたらす薬剤を投与する必要があるのであるから,治療目的に合致する薬剤を投与したものというべきである。 ヒューマリンの投与をしたのは,Eについて高血糖を認めたからであり,- 11 -Eに対する適応はあったし,これを投与した5月11日の時点ではEについて重篤な心・肝・腎障害,重症感染症等は認められておらず,Eに対する投与が禁忌となることもない。ソル・メドロールは,やにSIRSARDSよって引き起こされた過剰な炎症を抑えて呼吸不 Eについて重篤な心・肝・腎障害,重症感染症等は認められておらず,Eに対する投与が禁忌となることもない。ソル・メドロールは,やにSIRSARDSよって引き起こされた過剰な炎症を抑えて呼吸不全からの早期離脱を図るために投与したもので,投与時においてEに重篤な腎機能低下等は認めていないから,その投与は禁忌でない。 (5)争点(5)(本件胃全摘術の翌日に本件再手術を実施した過失の有無)について(原告ら)縫合不全が疑われた場合の治療としては,適切なドレナージ,高カロリー輸液,抗生剤の投与を行うものとされており,ドレナージ以外の再手術は極力避けるものとされている。また,肝臓実質は,通常,極めて脆い組織であり,血管や胆管が明らかでない場合は,無理に結紮及び縫合を行うと,かえって損傷部位を拡大する危険性が高いし,5月7日の本件再手術前には,腹膜炎を裏付ける臨床所見はなかった。さらに,Eのような高齢者に対し,1回目の手術から間もない時期に再手術を実施すれば,感染症に至る危険性は極めて高かった。 したがって,ドレナージによる経過観察をする時間的余裕が十分にあり,Eに腹膜炎症状が出現していないから,上記のような危険性のある再手術を実施すべきではなかったのに,本件手術を実施した過失がある。 (被告)胆汁漏については,肝臓や胆道系から消化管を介さずに直接胆汁が出る場合と,消化管吻合,縫合不全から消化液や粘液とともに胆汁が出る場合があるところ,本件胃全摘術の再建方法の場合,胆汁漏が生じると考え得る部位Yには,①肝左葉の損傷部位,②食道空腸吻合部,③空腸断端縫合部,④脚吻合部,⑤十二指腸断端縫合部,⑥胆嚢管切離断端又は⑦胆嚢切除部の肝- 12 -床があることから,胆汁漏の部位を明らかにするため,5月7日,ドレーンCの位置と胆汁の性状の把握, 断端縫合部,④脚吻合部,⑤十二指腸断端縫合部,⑥胆嚢管切離断端又は⑦胆嚢切除部の肝- 12 -床があることから,胆汁漏の部位を明らかにするため,5月7日,ドレーンCの位置と胆汁の性状の把握,消化管造影検査,経静脈性胆道造影及び腹部検査を行ったところ,①肝左葉の損傷部位からの可能性が極めて高いと診T断された。 この場合は,保存的に,肉芽が盛り上がって瘻管が形成されることを待つことも治療の選択肢となるが,瘻管形成がうまくされない場合には,腹腔内膿瘍が形成されたり,重篤な汎発性腹膜炎になり,その時点で再手術を行っても死亡する可能性が高率となる。他方,早期の再手術には,2度の手術侵襲を短期間にEに与えるという欠点もあるが,肝臓断端からの胆汁漏であれば再手術は短時間で可能で侵襲も少ないうえ,その成功率は極めて高く,再手術以降,胆汁の暴露がなくなり,重篤な腹膜炎を回避できる。 担当医師は,以上の考えから,再手術を選択したものである。Eについて縫合不全があったとの原告らの仮定は,何ら根拠があるものではなく誤りである。 (6)争点(6)(5月10日における転送義務違反の有無)について(原告ら)Eは,5月10日に気管内挿管され,と診断されており,厳重な全ARDS身管理が必要な容態に至っていたうえ,原告らがEを高次医療機関に搬送するよう求めていたのであるから,担当医師は,Eを速やかに高度医療を施すことができる医療機関へ転送する義務があった。 しかるに,担当医師は,これを怠り,転送時期を遅らせた過失がある。 (被告)原告らから初めて転送の希望が述べられた5月10日当時は,Eに生じた呼吸不全に対処すべく,気管内挿管後,人工呼吸器をつないだ直後であり,脈拍や血圧,呼吸などのバイタルサインが不安定な状態で,また,とARDS確定診断した直後であ れた5月10日当時は,Eに生じた呼吸不全に対処すべく,気管内挿管後,人工呼吸器をつないだ直後であり,脈拍や血圧,呼吸などのバイタルサインが不安定な状態で,また,とARDS確定診断した直後であった。そのため,Eを約1時間救急車に乗せて医大病- 13 -院まで搬送すると,その病態を悪化させる危険性があった。この点は原告らに説明して了承を得ている。 したがって,同日の時点における転院義務はないし,この時点で,医大第二内科の医師の指導を受けて治療に当たっており,この観点からも,被告病院の対応に問題はない。 (7)争点(7)(各過失行為とEの死亡との間の因果関係の有無)について(原告ら)アEの死因Eは,感染症による多臓器不全により死亡したものである。 MRSAイ過失行為と死因との関係そして,被告病院の担当医師がEの治療に関する選択権を奪っていなければ(争点(1) ,Eが本件の死亡時に死亡することはなかった。また,本)件胃全摘術後の胆汁漏出が術中に生じた肝損傷部からであることについての明確な反証はないから,1回目の術中に誤って肝損傷部を傷つけた過失(争点(2))により,Eがに感染した。 MRSA仮にそうでないとしても,被告病院の担当医師が,危険防止のために必要とされる最善の注意義務を尽くし,Eについて感染症の発症をMRSA疑い,適切かつ十分な治療を行ったとはいえず(争点(3)~(6) ,そのよ)うな治療が行われていれば,Eが本件の死亡時に生存していた高度の蓋然性がある。 すなわち,腸炎関連の死亡例では,が便以外からも検出MRSAMRSAされた重症例と便に限局して検出された比較的早期とみられる例とでEの死亡率を比較した結果,前者の死亡率が有意に高く,しかも腸炎MRSAを発症すると全身感染症に発展する可能性 MRSAMRSAされた重症例と便に限局して検出された比較的早期とみられる例とでEの死亡率を比較した結果,前者の死亡率が有意に高く,しかも腸炎MRSAを発症すると全身感染症に発展する可能性が極めて高いため,直ちにバンコマイシンの経口投与等をした方がよいとされており,平成4年6月の当時においても,腸炎を発症した患者に対してバンコマイシンを経MRSA- 14 -口投与すると,死亡率を半分以下に下げることができたとされている。上記の死亡例の中には,バンコマイシンの投与がされずに死亡するに至った症例も含まれているから,バンコマイシンの経口投与がされた症例の死亡率はきわめて低い。そして,Eについては,5月9日から多量の水様便が認められながら同月10日の血液培養検査ではが検出されていなMRSAいから,同日の時点ではが便以外から検出されていない比較的早MRSA期の段階にあったといえ,この段階で直ちにバンコマイシンの経口投与が開始されれば,全身感染症に発展する前に容態が改善した可能性が極めて高かったのであり,逆に,バンコマイシンを点滴投与しても容態の改善は期待できなかった。 仮にEの死亡時に腸炎が治癒していたとしても,それは,被告MRSA病院においてバンコマイシンが経口投与されなかったためにEが全身感染症に発展し,多臓器不全により死亡するに至った一方で,転院先の医大病院で腸炎との診断に基づいてこれに対する治療がされた結果としMRSAて,これが治癒されたにすぎない。 このように,同月9日か,遅くとも同月10日からEに対してバンコマイシンの経口投与を継続するか,同月11日に,バンコマイシンの点滴投与ではなく経口投与をしていれば(争点(3) ,Eの死亡を回避できた高度)の蓋然性がある。 その他にも,本件胃全摘術後に禁忌とさ イシンの経口投与を継続するか,同月11日に,バンコマイシンの点滴投与ではなく経口投与をしていれば(争点(3) ,Eの死亡を回避できた高度)の蓋然性がある。 その他にも,本件胃全摘術後に禁忌とされる投薬を行った過失(争点(4))により,Eの心・腎機能及び重症感染症の増悪を招く等,Eの容態を悪化させたうえ,本件胃全摘術の翌日に本件再手術を実施したことにより(争点(5) ,短期間になされた2度の手術によってEが感染症)MRSAを発症するに至ったといえるし,同月10日における転送義務違反をしていなければ(争点(6) ,Eの死亡は回避できた。 )(被告)- 15 -アEの死因本件再手術直後には,Eの全身状態に急激な悪化が認められているものの,その時点では明らかな感染兆候は見られていないが,その後に,Eは,黄色ブドウ球菌由来のトキシックショック症候群(黄色ブドウ球菌が増殖して-1が産生されたことにより発症する急性の全身性中毒性疾患)TSSTを合併したことで,になり,の一症状としてが生じたうSIRSSIRSARDSえ,リンパ球の活性化により臓器が障害され,最終的に多臓器不全となTって,死亡したものである。原告らは,腸炎をEが発症した旨主MRSA張するが,それは,後記のように-1の活動によって生じた症状のこTSSTMRSAMRSとを指すにすぎず,によるものではないし,まして,劇症型なる症状は存在しない。また,感染は,日和見感染によって,AMRSA菌交代現象の結果として発症しているが,死因には関わっていない。 イ過失行為と死因との関係本件胃全摘術中に肝損傷が生じたことにより,再手術をすることとなっているが(争点(2) ,仮にEの死因をに関連づけて捉えるとして)MRSAも,の発症は不可 ない。 イ過失行為と死因との関係本件胃全摘術中に肝損傷が生じたことにより,再手術をすることとなっているが(争点(2) ,仮にEの死因をに関連づけて捉えるとして)MRSAも,の発症は不可抗力であり,適切な感染対策がとられていてもMRSA院内感染をなくすことは難しいとされており,結果的に再手術となったこととEの死亡との間に因果関係はない。 また,術後管理についてみても(争点(3) ,トキシックショック症候群)によるでは死亡率が高率であり,これに対する確立された治療法はSIRSなく,Eを救命することは国内でも高水準の医療機関であっても難しく,その可能性はかなり低いといわざるを得ない。また,トキシックショック症候群においては,前記のとおり,黄色ブドウ球菌が増殖して-1がTSST産生され,これがサイトカインストームという,全身の免疫が異常に活性SIRSTSS化された状態を引き起こしたことによってとなるところ,この-1が由来であれば,バンコマイシンの投与によってその産生量をTMRSA- 16 -減少させることができるものの,一度発症したに対してバンコマイSIRSシンは効果がない。バンコマイシンにはサイトカインストームを沈静化する効能がないからであり,これについて十分な効果を有する薬剤は現在のところ存在しない。 そのほかにも,本件胃全摘術後に,原告が禁忌であると主張する投薬をしたことについては(争点(4) ,テレミンソフトの投与の結果,大量の排)便が認められてEの状態は改善しているし,パズクロスの継続投与によっても,腎機能のみならずすべての異常値が改善を示し,一度は(播種DIC性血管内凝固症候群)からも脱しているのであって,このことからすれば,パズクロスが腎機能異常の原因とはなっていない。そのうえ,ソ も,腎機能のみならずすべての異常値が改善を示し,一度は(播種DIC性血管内凝固症候群)からも脱しているのであって,このことからすれば,パズクロスが腎機能異常の原因とはなっていない。そのうえ,ソセゴンやアタラックスの投与によるショックは生じていないし,ボルタレンのP投与による血圧低下等も生じていないほか,ドルミカムやマスキュラックスを使用した人工呼吸器管理によってEの呼吸不全は著しく改善されている。 このように,原告らの主張する上記過失行為については,Eの死亡との因果関係は否定される。その余の原告らの主張する過失行為についても同様である。 (8)争点(8)(損害額)について(原告ら)アEに生じた損害(相続)Eには,上記各過失による死亡により,次の各損害が発生し,これを,原告らが法定相続分に応じて(原告Aが2363万円,原告B,同C及び同Dがそれぞれ787万円〔1万円未満切捨て)相続した。 〕(ア)逸失利益2326万円Eは事故発生当時63歳であり,294万7698円の年金収入を得ており(①,死亡していなければ,平均余命17年間にわたって同額)- 17 -の年収を得ることが確実であったから,生活費控除率を30%としたうえ(②,中間利息をライプニッツ式計算式により控除すると(③,次))の計算式のとおり,上記損害が生じた(1万円未満切捨て。 )〔計算式〕①2,947,698×②(1-0.3)×③11.274≒23,260,000(イ)慰謝料2400万円イ原告A固有の損害葬儀費用150万円ウ弁護士費用(ア)原告Aについて250万円(イ)原告B,同C及び同Dについて各78万円エ合計(ア)原告A2763万円(イ)原告B,同C及び同D各865万円(被告)不知ないし争う。 第3当 原告Aについて250万円(イ)原告B,同C及び同Dについて各78万円エ合計(ア)原告A2763万円(イ)原告B,同C及び同D各865万円(被告)不知ないし争う。 第3当裁判所の判断 認定事実前提事実,証拠(乙A1~4,証人I及び後掲証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1)被告病院の受診と検査アEは(平成16年)2月ころ,胃癌集団検診にて異常を指摘されたた,め,4月13日に被告病院内科を外来受診し,同月15日に上部消化管内視鏡検査を受けたところ,その際行われた生検により採取された組織の病理組織検査の結果,同月19日,胃に中等度分化型の腺癌が見られるとの病理診断がされたことから,胃癌と診断された(乙A1〔7,57頁。 〕)そこで,Eは,手術適応があると判断した被告病院内科の医師の紹介に- 18 -より,同月22日に同病院外科を受診した。Eを担当したH医師は,E及びその家族に対し,胃内視鏡検査の結果,Eは手術適応がある病気であるが,精査をしたうえで今後の方針などを決定することを説明する一方,家族に対してのみ,Eの生検の結果,悪性腫瘍が見られ,早期癌であると考えられる旨説明した(乙A1〔5頁。この点に関し,原告らは,同日,。 〕Eに対する手術を医大の助教授が行うとH医師が説明したと主張するが,これに副う証拠は何もないし,診療録上も記載がないことに照らせば,採用できない)。 イH医師は,Eに対して,同月23日に血液検査,腹部検査(造影あCTり)及び心電図検査を,同月26日に肺機能検査,胸部検査及び胸部CT線検査を,同月28日に大腸内視鏡検査()をそれぞれ実施した。 XCFその結果,Eは,5月4日から入院し,同月6日に手術を受けることとなった(乙A1〔5,9~2 能検査,胸部検査及び胸部CT線検査を,同月28日に大腸内視鏡検査()をそれぞれ実施した。 XCFその結果,Eは,5月4日から入院し,同月6日に手術を受けることとなった(乙A1〔5,9~21頁。 〕)(2)入院及び本件胃全摘術の施行アEは,5月4日に被告病院外科に入院し,腹部検査等を受けた。 CTI医師は,E及びその家族に対し,同月6日午前,次のことを説明し,E及びその家族の同意を得た(以上につき,乙A2〔17~24,99。 頁,A4〔3,4頁)〕〕①Eに早期の潰瘍型の胃癌があること②良性の腫瘍であれば手術をしないこと,早期の胃癌であり,手術で98%程度根治が見込めること③治療の選択肢として内視鏡,手術,抗癌剤治療及び何もしないことがあるが,内視鏡はEに適応がなく,抗癌剤治療は手術で直せない場合や再発防止に使うものであり,何もしない場合は2年ほど生きられること④手術の場合は,Eの腫瘍が直径2程度なので,開腹手術により胃cm全摘の手術を行うこと,及びその手技の概略- 19 -⑤手術による合併症として吻合不全や出血などがあること,術後にも心筋梗塞,脳血管障害,出血,肺炎等があることイEは,同日12時55分ころ,手術室に搬入され,全身麻酔をされたうえ,13時35分ころから,I医師及びH医師らにより,胃全摘術・胆嚢摘出術(本件胃全摘術)が施行されたが,その際,医大の助教授は立ち会わなかった。 本件胃全摘術中,I医師らは,腹部食道(食道胃接合部)に肝左葉が被さっていたことから,これを右側に脱転させるため,左肝三角靱帯を横隔膜から切離しようとした。Eの肝臓自体が極めて薄くなっており,靱帯のように薄い部分があって,肝臓と靱帯の境界が明瞭でなかったことから,I医師は,横隔膜からの距離を確認し,肉眼的にも 肝三角靱帯を横隔膜から切離しようとした。Eの肝臓自体が極めて薄くなっており,靱帯のように薄い部分があって,肝臓と靱帯の境界が明瞭でなかったことから,I医師は,横隔膜からの距離を確認し,肉眼的にも靱帯であると思われ,かつ,左手で触った感触としても靱帯と思われる箇所に対して,右手で持った電気メスを入れたところ,靱帯に対して電気メスを入れたときの感触と異なると感じた。そのため,I医師が当該部位を肉眼で確認したところ,当該部位が肝臓であったことが判明し,この操作によって,同部分を5程度損傷した。そこで,I医師らは,コアグレーターで損傷部の断端mmを凝固させた後,出血や胆汁漏出がないことを確認のうえ,止血効果のあるアビテンを貼付した。その後に,胃の全摘及び胆嚢の全摘を行い,肝臓の損傷部に再度アビテンを貼付し,ドレーンを挿入してから,閉腹した。 本件胃全摘術は18時48分ころ終了し,Eは,19時過ぎころ,病室に帰室した。 (以上につき乙A2〔61,63,109,157頁,A4〔5~8〕頁,証人I〔5,6,49~51頁)〕〕(3)本件再手術の施行本件胃全摘術終了後から5月7日8時にかけて,Eの体温は36度台であったが,同日9時には38度になり,正午ころまで持続した。また,Eには- 20 -黄色漿液性のガーゼ汚染がみられ,Eに縫合不全の可能性があることが疑われたものの,検査結果によっても挙上空腸断端付近に貯留がみられたが,CT造影検査結果上は漏洩がみられなかったことから,吻合部縫合不全は考えにくく,肝左葉損傷部からの胆汁漏出が原因として最も疑われると判断した。 そこで,I医師は,Eに腹膜刺激症状を含め腹痛が認められなかったものの,今後胆汁性腹膜炎に移行することを防止する目的で,開腹して胆汁汚染を確認するため,E及び原告Aに説明をし も疑われると判断した。 そこで,I医師は,Eに腹膜刺激症状を含め腹痛が認められなかったものの,今後胆汁性腹膜炎に移行することを防止する目的で,開腹して胆汁汚染を確認するため,E及び原告Aに説明をしたうえ,同日15時ころから17時ころにかけて,開腹ドレナージ術及び肝左葉部分切除術(本件再手術)を施行した(乙A1〔55頁,A2〔29,30,105,157,159。 〕頁)〕/なお,同日の本件再手術前に行われた血液検査では白血球数が7300μ (基準値4000~9000μ,炎症度の指標となる値が2.8l/lCRP) (基準値0.3以下,いずれも腎機能の指標となるはmg/dlmg/dlBUN)mg/dlmg/dlm13.9(基準値8~20,血清クレアチニン値は0.75)(基準値0.8~1.2)であった(乙A2〔30,123,1g/dlmg/dl 。 〕)(4)本件再手術後の経過ア本件再手術後もEの体温は上昇し,5月7日21時ころには39.4度となったが,そのころにボルタレン坐薬を投与した後は低下し,翌8日0時ころには36.8度となった(乙A2〔159頁。 〕)イ5月8日午前におけるEの状態は,吻合部ドレーンから漿液性,淡血性の排液が,その他のドレーンから漿液性の排液があって,0時から5時ころまでの尿量は60で尿比重は1.030,心拍数は120,血圧ml(収縮期,以下も同じ)は120台,(酸素飽和度)は98。 mmHgSpO2%であり,浮腫はないというものであった。担当医師は,Eの体内における水分量が減少していると考え,生理食塩水を投与して負荷をかけたとこ- 21 -ろ,尿量は3時間で60の状態にまで増加した。午前中から,前日にml引き続き,抗生剤メロペンが投 ,Eの体内における水分量が減少していると考え,生理食塩水を投与して負荷をかけたとこ- 21 -ろ,尿量は3時間で60の状態にまで増加した。午前中から,前日にml引き続き,抗生剤メロペンが投与された。 また,Eに対して同日昼に行われた胸部レントゲン検査の所見は,無気肺があるが著明な心拡大はないというものであった。 Eの体温は,10時ころで36.7度であったが,15時30分ころに39.0度まで上昇したため,ボルタレン坐薬が投与され,16時30分ころには36.8度まで下降した。 なお,同日に行われた血液検査では,前日の結果に比べて,白血球数が2800μに減少し,値は18.13に,は21.9/lCRPmg/dlBUNに,血清クレアチニン値は1.37にそれぞれ上昇して基準mg/dlmg/dl値の範囲外となった。 (以上につき,乙A2〔31,123,127,159,161頁)〕ウところが,同日21時ころ,Eの血圧は60まで下降し,担当mmHg医師に対して,Eの尿量が減少したとの報告があったことから,アクチット500を1時間当たり100投与することで負荷をかけたが,mlml尿量は増加しなかった。 同日22時50分には,Eは,気分が悪く嘔吐感があると訴え,血圧は依然として60であり,呼吸不全の状態であった。そのため,2mmHg3時ころ,Eに対する酸素投与量を2分からマスク下3分に増やし,l/l/生理食塩水500及び昇圧剤エホチールを投与するなどしたところ,ml翌9日0時30分ころには,Eは気分不良が大分よくなってきたと話すよ。 うになり,4時30分ころには,血圧が100台にまで上昇したmmHg担当医師は,Eの上記状態につき,脱水による血圧低下,循環血液量減少性ショックないし敗血症性ショ 大分よくなってきたと話すよ。 うになり,4時30分ころには,血圧が100台にまで上昇したmmHg担当医師は,Eの上記状態につき,脱水による血圧低下,循環血液量減少性ショックないし敗血症性ショックを考えた。 (以上につき,乙A2〔32,161,162頁)〕エ5月9日には,Eに対して中心静脈カテーテルが挿入された。 - 22 -/lC同日午前に行った血液検査結果によれば,白血球数は4300μ ,値は27.51であり,同日午後には,白血球数は3300μRPmg/dl/,値は32.87であった。また,Eの体温は,同日10時lCRPmg/dlには37.4度であったが,12時過ぎには39度以上に上昇した。担当医師は,白血球数は正常範囲であるが,血小板数が減少し,値が急CRP上昇したこと及び高熱があるといったEの状態から,Eが重症感染症を発症している可能性があると考え,ヴェノグロビンの投与を始めたほか,IHやの発症の可能性があるとも考え,各種ショックに対して用いSIRSDIC。 られる薬剤であるを1日当たり1500の割合で投与し始めたFOYmgその他にも,同日10時にテレミンソフト,18時ころにソセゴン,21時ころにアタラックスがそれぞれ投与された。 P他方,同日に撮影された胸部レントゲン写真から,Eが無気肺になっている疑いが生じていたうえ,Eのは89ないし90%台で不安定とSpO2なっていた。もっとも二酸化炭素の貯留がみられなかったため,酸素投与量を8分,10分に順次増量した。 l/l/なお,Eには11時ころに,腹帯やシーツまで汚染するような多量の茶褐色の不消化水様便が見られ,その後も,いずれも中量ではあるが,14時及び翌4時に水様便が見られた。 (以上につき,乙A2〔33,3 なお,Eには11時ころに,腹帯やシーツまで汚染するような多量の茶褐色の不消化水様便が見られ,その後も,いずれも中量ではあるが,14時及び翌4時に水様便が見られた。 (以上につき,乙A2〔33,34,123,126,163,164頁)〕オ5月10日8時過ぎには,10分の割合で酸素を投与しているにもかl/かわらず,動脈血ガス分析結果上,(動脈血の酸素分圧)が53.8PaO2(通常は約95)であって,改善がみられないため,Eに対mmHgmmHgし,気管内挿管がされ,人工呼吸器が付けられた。 同日10時10分ころ,は86.6に上昇する一方,白血PaOmmHg 球数は8500μ ,値は39.26に上昇したほか,当時の/lCRPmg/dl- 23 -,PTAPTTD活性値,活性値,フィブリノーゲン値及び・ダイマー値からの前段階の状態になっている疑いがあった。また,胸部レントゲン写DIC真上,陰影がやや増強しているように思われたため,呼吸促進薬エラスポールが投与されたほか,同日10時30分ころには,胸部検査が行わCTれた。 同日午後,H医師の依頼に基づき,放射線科医がEの胸部レントゲン写真及び胸部画像を読影したところ,又は肺実質に浮腫があり,CTARDSEの肺の両下葉に無気肺があって,患者が肺炎を罹患していて,心拡大もみられるとの診断をした。また,H医師は,医大第二内科のK医師に画像及び検査データを電子メールで送信したうえで相談したところ,K医師は,Eはであり,同月7日から投与されていた抗生剤メロペン及び同ARDS月10日に試験的に投与されたチエナムはあまり効果がないようなので,ニューキノロン系の抗生物質に変更すべきであり,抗生剤で改善しなければ,や薬剤耐性緑膿菌,真菌が た抗生剤メロペン及び同ARDS月10日に試験的に投与されたチエナムはあまり効果がないようなので,ニューキノロン系の抗生物質に変更すべきであり,抗生剤で改善しなければ,や薬剤耐性緑膿菌,真菌が原因菌となっている可能性が考えMRSAFOられるから,血液培養及び痰培養検査が必要である,エラスポールやなどの投与はそのまま継続してよいとの回答をした。そこで,H医師は,Y同日夕方からEに投与する抗生剤をチエナムからパズクロスに変更し,Eの心房細動に対しては,ジギラノゲンを投与したところ,夜間には心C房細動が消失し,尿量も上昇したほか,血圧も100以上となっmmHgた。また,この日に,Eに対し,ソル・メドロール,鎮静剤ドルミカム及びマスキュラックスが,それぞれ投与された。 その一方で,検査が行われた後,I医師は,原告A及び同Cに対し,CTEがという肺炎に罹患しており,専門医と連携をとって対応するARDS旨説明をした。その際,原告Cは,Eを他院へ搬送してほしい旨の希望を述べたが,同医師は,現時点では,搬送の危険性が多少あるので,搬送可能になった時点で知らせると説明をしたところ,上記原告らは特に異議を- 24 -述べなかった。 (以上につき,乙A2〔35,36,39,125,159,163,165頁)〕カ5月11日,H医師は,医大のK医師にEの現状を報告したところ,K医師からは,感染の疑いを指摘され,血液培養及び痰培養検査をMRSA頻回に行うこと,に対して抗生剤バンコマイシンを,予防的にもMRSA早い段階で投与すること,便培養も行うようにすることを指導されたほか,抜管は血液検査の結果等によって肺炎が改善してからするのがよいこと,その他の治療はすべて問題なくできていることを指摘された。そこで,Eに対しては,同 と,便培養も行うようにすることを指導されたほか,抜管は血液検査の結果等によって肺炎が改善してからするのがよいこと,その他の治療はすべて問題なくできていることを指摘された。そこで,Eに対しては,同日18時過ぎころから,バンコマイシンが点滴静注された。 他にも,Eに対し,テレミンソフト等が投与されたほか,血糖値が300を超えた状態が持続したため,ヒューマリンが投与された。同日の白血球数は10200μ ,値は42.45であった(乙A2〔4/lCRPmg/dl。 3~45,125,167,168頁)〕キ5月12日にも,H医師は,医大第二内科のL医師に相談したところ,同医師は,画像上,磨りガラス上の陰影が改善しており,は改CTARDS善傾向にあるが,両下肺野の肺炎像が増強していること,呼吸状態も改善傾向にあるが,酸素濃度に関しては,が70以上であれば,全く問題PaO2ないので,むしろ高酸素状態による肺障害を警戒して,これを50%以下に落とした方がよいこと,抗生剤は腎機能障害に注意して投与すべきこと,Eに関するデータが改善傾向にあり,よい方向に向かっていることを指摘された。H医師は,同日における検査結果によれば血清クレアチニン値が上昇(午前2.43,午後2.50)していたことや,同月10日mg/dlに採取していたEの創のガーゼを培養していたところ,菌が検出MRSAされたものの,Eは表層から感染したと判断されたことから,バンコマイシンの投与を中止した。また,輸液の内容を,腎機能保護作用があるハイ- 25 -カリックに変更することとした。同日の白血球数は15400~15RF600μ ,値は13.95~17.06であった(乙A2/lCRPmg/dl。 〔45~47,123,125,145,169頁 に変更することとした。同日の白血球数は15400~15RF600μ ,値は13.95~17.06であった(乙A2/lCRPmg/dl。 〔45~47,123,125,145,169頁)〕(5)Eの転送とその後の経過ア5月13日,I医師は,原告A及び同Cに対し,Eが,本件再手術後にという重い肺炎になったが,前日のでは改善傾向が見られ,心ARDSCT臓の機能も落ち着いており,等のマーカーも改善傾向が見られる一方,DIC腎機能が落ちてきている状態にあること,今後は感染症等について更に治療が必要であるところ,この時点における肺及び心臓の状態からすれば,医大病院へ搬送が可能であるので,の医師に依頼をしたことを説明をICUし,原告Bに対しても同様の説明をした後,同日13時ころ,Eを,医大病院に転送した(乙A2〔57,58,171,172頁。 〕)イEは,同日14時ころ,医大病院のに搬入され,担当医師は,EICUの状態(値7.35,白血球数13500μ ,102. CRPmg/dl/lBUN ,血清クレアチニン値3.77等)に照らし,多臓器不mg/dlmg/dl全の状態にあると診断した(乙A3〔2,8,9,37,138頁,証〕人J〔2,3頁等。被告は,この時点でEの状態はかなり改善されてい〕た旨主張するが,これらの証拠に照らし,にわかに採用できない。 。)5月14日,未明からEに多量の水様便が認められ,また,同月12日に被告病院で採取していたEの糞便及び気管内喀痰からが検出さMRSAれたことが判明するとともに(乙A2〔141,143頁,前日の血液〕)培養検査及び痰培養検査の中間報告において,グラム陽性球菌の検出があるとの報告があった。そこで,担当医師は,Eが腸炎を SAれたことが判明するとともに(乙A2〔141,143頁,前日の血液〕)培養検査及び痰培養検査の中間報告において,グラム陽性球菌の検出があるとの報告があった。そこで,担当医師は,Eが腸炎を発症してMRSAいるとの診断に基づき,同月14日から,バンコマイシン0.5の経口gないし経腸及び点滴投与を開始し,その後も1日に4回の割合でこれを継続した(乙A3〔11,39,41,328~358,360~390。 - 26 -頁)〕その後,同月26日には,も検出されなくなっていたところ,MRSAEの横行結腸に穿孔が発見されたため,同月27日に緊急手術を行い,ピンホール大の上記穿孔を縫合した(乙A3〔4,72頁。 〕)(以上につき,乙A3,証人J)ウEは,その後も状態が回復せず,6月12日11時11分に死亡した。 Eの剖検記録には「腸炎,肺炎を契機に起こった多臓器,MRSAMRSA不全(特に肺,肝,腎)が直接死因になったと考えられる」との記載があり(甲A2,死亡診断書には,直接死因たる多臓器不全の原因として,)「急性呼吸不全,腸炎,腹腔内膿瘍,腹膜炎」との記載があるMRSA(甲C2。 ) 争点(3)(本件胃全摘術後管理に関する過失の有無)及び争点(7)(各過失行為とEの死亡との間の因果関係の有無)について(1)まず,争点(3)について判断する。 ア後掲証拠によれば,次の医学的知見が認められる。 (ア)高齢者(65歳以上)は,手術後,従前より口腔,鼻腔に常在していたが手術後の胃管挿管や気管内挿管により消化管内や気管内MRSAに入り,術後腸炎や肺炎を起こすなど感染症を発症しやすいMRSA(甲B3〔706頁,証人I〔57頁。 〕〕)(イ)術後感染症の場合は,手術直後から高熱が持続するか,手術 や気管内MRSAに入り,術後腸炎や肺炎を起こすなど感染症を発症しやすいMRSA(甲B3〔706頁,証人I〔57頁。 〕〕)(イ)術後感染症の場合は,手術直後から高熱が持続するか,手術直後に上昇した熱が一旦解熱後再び上昇し,頻脈を呈し,多くは状態とSIRSなるところ,血液・血清学的検査所見が感染症の所見を示す(甲B3〔114頁。 のほかに感染においても,当然ながら値が上〕)SIRSCRP昇する(証人I〔27頁。 〕)(ウ)腸炎の臨床症状は,初発症状として下痢,発熱があり,腹部MRSA症状(腹部膨満,イレウス等,全身炎症反応(発熱,頻脈,白血球の)- 27 -増加又は減少,ショック症状(尿量の減少,脱水症状,血圧低下)な)どが見られる。男性に多く,平均年齢も60歳前後,術後2ないし5日目までに多くが発症し,胃全摘手術後には,胃酸がなくなる関係で他の手術後に比べて発生しやすい(甲B8〔174~176頁,証人J〕〔1,2頁。 〕)また,劇症型とは,急激な循環不全,呼吸不全,全身状態のMRSA悪化を伴い,や多臓器不全を併発して短期間で死に瀕する病態で,ARDS臨床的定義であるところ,重度の血圧低下,尿量減少,血清クレアチニン値やの急激な上昇は,劇症型を疑うべき所見である(鑑BUNMRSA定の結果。 )(エ)感染症を疑う場合は細菌を同定するため,排液,血液などのMRSA細菌検査を行うべきである。上記劇症型感染症を疑う場合は細MRSA菌を同定する前にバンコマイシンの治療を行うことが多いが,議論の余地がある(鑑定の結果。 )イそして,前記認定(1(2),(3),(4)ア~ウ)のとおり,E(当時63歳)は,高齢者に近い年齢であり,5月6日午後に本件胃全摘術を,同月7日15時こ が,議論の余地がある(鑑定の結果。 )イそして,前記認定(1(2),(3),(4)ア~ウ)のとおり,E(当時63歳)は,高齢者に近い年齢であり,5月6日午後に本件胃全摘術を,同月7日15時ころから17時ころにかけて本件再手術を受けており,本件再手術の約4時間後に39.4度の高熱があり,翌8日午前中から21時ころまでの間に,Eについて値が前日の2.87から18.1CRPmg/dl に急上昇し,白血球数が2800μと減少していたほか,39mg/dl/l度台の発熱が前日に引き続いてみられ,及び血清クレアチニン値のBUN上昇,血圧の急激な低下(120→60)及び尿量の減少がみらmmHgれ,さらに同日22時50分ころには,依然として血圧が低下したままであり,Eは気分不良,嘔吐感を訴え,呼吸不全の状態であり,いわゆるショック状態を呈していたものである。そうすると,上記医学的知見に照らせば,Eについては,感染症を発症しやすいと一般的にいえる状MRSA- 28 -態にあり,同症状の発症の可能性を念頭に置くべき患者であったところ,本件胃全摘術の2日後までに,感染症を含む術後感染症を疑うべMRSAMRSAき所見が見られたということができるから(現に,後記のとおり,感染症を発症していたものである,担当医師には,Eについて上記時点。)においてを含む感染症の発症を疑い,直ちに排液や血液等につきMRSA細菌検査を行う注意義務があったというべきである(鑑定の結果もこれと同旨である。 。)この点に関し,I医師は,Eについての状態にあると述べるがSIRS(証人I〔23頁,上記の医学的知見に照らせば,これは術後感染症の〕)症状であるともいえるほか,その原因が感染を含めて外傷,熱傷等複数あり得るし(乙B4〔 いての状態にあると述べるがSIRS(証人I〔23頁,上記の医学的知見に照らせば,これは術後感染症の〕)症状であるともいえるほか,その原因が感染を含めて外傷,熱傷等複数あり得るし(乙B4〔22頁,原因が感染であった場合には重度のもので〕)あると診断されるのであるから(証人I〔52頁,仮にそのように診断〕)していたとしても,同様に上記の注意義務があったというべきである。 しかるに,担当医師らは,感染症の発症の可能性を念頭に置いていたとしながら(証人I〔33頁,抗生剤の投与をするのみで,細菌検査を上〕)記時点において行わず,5月10日まで行わなかった(1(4)キ)のであるから,上記の注意義務を怠った過失がある。 ウこれに対し,被告は,肺の画像所見からであることが明らかでARDSあることなどを根拠に,5月8日当時は感染症は見られなかったMRSAと主張し,I医師も,①ドレーンが汚染されるといった感染の兆候がみられなかったことや②同月10日には血液培養検査結果によっても菌血症が見られなかったことを根拠に,同月8日や翌9日当時は,感染症の発症は否定的であったと供述する(証人I〔26,27頁。しかし,は〕)ARDS重篤な呼吸不全状態をいうにすぎず,その原因は手術のみならず敗血症やショック等様々であるから(甲B3〔116頁,その所見が見られたか〕)らと言って直ちに感染症を否定してよいことにはならない。そのうえ,担- 29 -MR当医師は,同月7日から継続して抗生剤メロペン他を処方しており,を含め感染症の疑いを否定していたとは認め難く,上記①は根拠たりSA得ないし,感染症だからといって菌血症になるとは限らないとさMRSAれていること(鑑定の結果)からすれば,上記②の根拠から直ちに同月8日や翌9日当時に ていたとは認め難く,上記①は根拠たりSA得ないし,感染症だからといって菌血症になるとは限らないとさMRSAれていること(鑑定の結果)からすれば,上記②の根拠から直ちに同月8日や翌9日当時に感染症の罹患を否定できるとまでは認め難く,MRSA被告の主張は採用できない。 また,被告が提出した鑑定意見書(乙B7)には,同月8日の時点における上記注意義務を否定する趣旨の記載があるが,この記載の根拠とするところは,鑑定の結果に表れた「劇症型」との前提を否定する点MRSAであるにすぎず,上記認定を左右するものではないし,Eについて術後に明らかな感染兆候が見られていないとする点は,上記において認定した医学的知見に照らし,たやすく信用できないといわざるを得ない。 エなお,原告らは,上記のほか,本件再手術直後から,高カロリー輸液をSIR投与する義務があったと主張する。しかし,手術直後から,あるいはや敗血症性ショックがある場合に高カロリー輸液を投与すべきとの知見Sは認められないし,縫合不全の場合には高カロリー輸液を行うものとする知見があるものの(甲B3〔117頁,Eについて縫合不全があったと〕)認めるに足りる証拠はないから,原告らの主張は採用できない。 MRS(2)以上によれば,Eの担当医師らには,本件胃全摘術後管理に関し,感染症を疑って検査を行わなかった過失(以下「本件過失」という)がA。 あるから,進んで,本件過失とEの死亡との間の因果関係について判断する。 アまず,因果関係を判断する前提として,Eの死因について検討するに,前記認定のとおり,Eは,5月8日に感染症の罹患を疑わせる症MRSA状が現れ,同月9日には一般的に腸炎の症状とされる多量の水様MRSA便(1(4)エ。証人I〔36,37頁,鑑定の結果)がみられたう 定のとおり,Eは,5月8日に感染症の罹患を疑わせる症MRSA状が現れ,同月9日には一般的に腸炎の症状とされる多量の水様MRSA便(1(4)エ。証人I〔36,37頁,鑑定の結果)がみられたうえ,同〕月10日には創部から(判明は同月12日。1(4)キ,同月12日には気)- 30 -管内喀痰及び便から(判明は同月14日。1(5)イ)それぞれが検MRSA出される状態となっていたのであるから,これらの事情を総合すれば,同月8日の時点で,Eは感染症に罹患し,翌9日には腸炎をMRSAMRSA罹患したと推認される。また,医大病院に転送された時点では,Eは多臓器不全の状態にあったと診断されており,これに反する証拠はないことからすれば,多臓器不全であったと認めるのが相当であるし,喀痰や便からが検出されただけでなく,血液からもが属するグラム陽性MRSAMRSA球菌が検出されており(1(5)イ,の存在が疑われていたことか)MRSAらすれば,Eはの全身感染症の状態にあったと認められる。そうMRSAすると,Eは,5月13日の時点で,同月8日に罹患した感染症MRSAの悪化が見られたものと認められる。 そして,Eについては,5月26日までにはが検出されなくなMRSAっていたものの,全身症状が改善することなく,6月12日に死亡したものである。 そうすると,5月13日の時点において罹患していたの全身感MRSA染症それ自体は,その後死亡するまでに治癒するに至っているものの,後記のとおり感染症は患者の死亡原因となると理解されていることMRSAからすれば,Eの死亡原因となり得ると考えられるうえ,感染症MRSAの治癒にもかかわらずEの身体状態は改善が見られていないのであるから,他に死亡原因があると認められない限りは, ることMRSAからすれば,Eの死亡原因となり得ると考えられるうえ,感染症MRSAの治癒にもかかわらずEの身体状態は改善が見られていないのであるから,他に死亡原因があると認められない限りは,感染症により全身状MRSA態が悪化したことがEの死因であると認めるのが相当である。そして,他にEの死亡原因となると判断される事情は存在しない。 したがって,Eが発症した感染症は,Eの死亡原因であると認MRSAめるのが相当である(鑑定の結果には,5月下旬にEの横行結腸に穿孔が生じたことが感染症を制御できなくなった一因であるとの見解がMRSA示されているが,この見解も基本的には上記死因を否定するものではな- 31 -い。 。)MRSイこれに対して,被告は,当初,Eについて,全身状態の悪化後に感染症を罹患したとの機序を主張しており,意見書(乙B6)においてA,も,Eが5月8日の時点で感染症に罹患していたことが否定されMRSAその根拠として,感染症発症には一定の時間が必要であることや,その前日に無菌性の胆汁がドレナージされていることが挙げられている。しかし,5月8日21時ころには本件胃全摘術日から起算して2日が経過しており,統計的にも術後2日目に発症した事例も10%程度存在すること(甲B8〔174頁)からすれば,前者の点は根拠たり得ないし,後者について〕は,上記認定判断を覆すには足りないというべきであるから,この意見書の見解はにわかに採用できない。 また,被告は,その後,本件について鑑定を実施した後に主張を改め,Eがを含む黄色ブドウ球菌由来のトキシックショック症候群であMRSAり,その場合は治療方法が確立しておらず,高率で死亡に至ると主張し,これに沿う意見書(乙B7)を提出する。しかし,提出時期が時機に後れたもの 色ブドウ球菌由来のトキシックショック症候群であMRSAり,その場合は治療方法が確立しておらず,高率で死亡に至ると主張し,これに沿う意見書(乙B7)を提出する。しかし,提出時期が時機に後れたものかどうかはともかく,この意見書の上記見解は,腸炎なるMRSA概念が我が国の医師においてのみ認識されているものであって,国際的にはから腸炎等の症状が生ずると理解されていないことを根拠としMRSAているものと解されるが,本件の証拠関係に照らせば,このような見解があるというにとどまり,上記認定判断を覆すには足りないというべきであるから,これを直ちに採用することはできない。 ウこのように,Eの死因は感染症であったと認められるので,そMRSAの治療の効果及び予後について検討する。 まず,感染症を治療するにはバンコマイシンの投与が有効であMRSAるが(甲B8,鑑定の結果,腸炎には,経口投与のみが有効であ)MRSAり,点滴投与は有効でないともされているところ(甲B9,Eについて)- 32 -は,バンコマイシンの点滴及び経口ないし経腸投与が5月14日から継続的にされた結果,5月26日までにはが検出されなくなり(1(5)MRSAイ,結果として腸炎が治癒したのであるから,Eについてはバン)MRSAコマイシンの投与が有効であったものと認められる。 また,Eのように便以外からもが検出された場合,バンコマイMRSAシンの投与による死亡率が6.8%であるが,他方において,腸MRSA炎が関連したと推測される患者の死亡例は,60ないし69歳の患者について8.3%である(甲B3〔706頁,B8〔176頁。 〕〕)他方,本件の細菌検査の経緯及び鑑定の結果によれば,細菌検査に要する期間は2日あれば足りると認められるから,Eについて,仮 患者について8.3%である(甲B3〔706頁,B8〔176頁。 〕〕)他方,本件の細菌検査の経緯及び鑑定の結果によれば,細菌検査に要する期間は2日あれば足りると認められるから,Eについて,仮に5月8日に細菌検査が行われれば,同月10日にはバンコマイシンが投与され得たし,仮にそうでないとしても,同月9日には腸炎を発症しているMRSAから,便について細菌検査が実施されれば,同月11日にはバンコマイシンが投与され得たと認められる。したがって,本件過失に係る注意義務が果たされていれば,バンコマイシンの経口投与は3日ないし4日早まったと認められ,このことが予後を好転させる事情であることは明らかである。 以上の事情を総合考慮すれば,本件過失とEの死亡との間の因果関係は,これを肯定することができるというべきである。 (3)以上によれば,本件過失があり,これとEの死亡との間に因果関係があると認められることになるから,担当医師らには不法行為責任が生じ,その使用者であった被告には使用者責任として,その損害を賠償する義務がある。 過失に関するその余の争点についてなお,念のため,原告らの他の過失の主張についても検討する。 (1)争点(1)(説明義務違反の有無)についてア医大の助教授が手術を行うとの主張が採用できないことは前記1(1)アのとおりである。 - 33 -イまた,原告らは,Eに対して手術直前まで癌告知をせず,治療方法についての患者の選択権を侵害したと主張するが,前記認定1(1),(2)アのとおり,Eは,当初自分が罹患している疾病について知らされないまま手術に同意していたものの,手術当日,癌告知を受けたうえ,選択肢につき説明を受け,改めて手術に同意したことに鑑みれば,Eの選択権が侵害されたとはいえず,原告らの主張は採用できない。 らされないまま手術に同意していたものの,手術当日,癌告知を受けたうえ,選択肢につき説明を受け,改めて手術に同意したことに鑑みれば,Eの選択権が侵害されたとはいえず,原告らの主張は採用できない。 (2)争点(2)(本件胃全摘術時における手技の誤りの有無)について原告らは,電気メスで肝実質を損傷し,その縫合が不十分であったことが過失であると主張する。 しかし,電気メスで組織を離断する前に組織の損傷なく肝実質であるか否かを確認するには,外観によるほかないところ,前記認定(1(2)イ)のとおり,I医師は,本件胃全摘術において,明らかに靱帯に見える箇所を肉眼で確認し,かつ,左手で確認をして,肝実質でないと判断したものであり,外観から判明する事情から肝実質でないと判断される場所を選んで電気メスを入れたものといえるから,他に特段の事情が窺われない本件にあっては,肝実質を損傷した点に直ちに過失があるとするのは疑問であり,また,縫合が不十分であったと認めるに足りる証拠はない。 なお,仮に,鑑定人が指摘するような,肝左葉に左肝三角靱帯に貫通しうる胆管組織が存在し,同靱帯を切離する際にこれを損傷し,胆汁漏出が生じたものであるとしても,このような合併症が生じる例はまれであり,一般外科医に知られていない可能性が高いというのであるから(鑑定の結果,こ)の意味でもI医師に過失はないというべきであるし,また,この合併症を回避するために左肝三角靱帯先端を結紮する方法を採らなかったことが直ちに過失を構成するともいえない。 (3)争点(4)(本件胃全摘術後に禁忌とされる投薬を行った過失の有無)について- 34 -原告らは,テレミンソフト等10種の薬剤を投与したことが過失であると種々主張する。 しかし,テレミンソフトについては,これを投与した当時Eについて疑われ を行った過失の有無)について- 34 -原告らは,テレミンソフト等10種の薬剤を投与したことが過失であると種々主張する。 しかし,テレミンソフトについては,これを投与した当時Eについて疑われた麻痺性イレウスは排便を促進すると病態が改善されるから(甲B3〔117頁,その投与は適切であり,また,パズクロスについては,説明書〕)(甲B7)上は細菌学的検査の後に投与すべきとされているものの,Eについてすでに2つの抗生剤の効果がなかったこと(1(4)オ)や,細菌学検査には一定の時間を要することからすれば,Eについてこの検査をしなければ投与してはならないとまではいえず,その投与後,Eの腎機能が低下したと認められるものの(1(4)キ,急性腎不全にまでは至っていないから,投与)を中止する義務があったとはいい難い。 その余の薬剤については,薬剤を投与すれば,副作用が生ずることは避けられないから,重篤な副作用が起こり得るからといって直ちにその薬剤を投与すべきでないとはいえないうえ,薬剤の投与時点において,原告らが主張するような重篤な呼吸抑制や重篤な心機能不全等の状態にあったことを窺わせる知見を含め,これを認めるに足りる的確な証拠はないし,いずれもその投与時における患者の状態を改善する効能を有していると認められるから,その投与を以て何らかの注意義務に反するということはできない(鑑定の結果も,術後数日間にわたってソセゴンを使用することは推奨される疼痛管理でないと述べるものの,いずれの薬剤の投与も許容範囲であるとしているところである。 。)(4)争点(5)(本件胃全摘術の翌日に本件再手術を実施した過失の有無)について原告らは,本件胃全摘術後にEに縫合不全が疑われたことを前提に,ドレナージ,高カロリー輸液や抗生剤の投与をすべきであって,再手術 (5)(本件胃全摘術の翌日に本件再手術を実施した過失の有無)について原告らは,本件胃全摘術後にEに縫合不全が疑われたことを前提に,ドレナージ,高カロリー輸液や抗生剤の投与をすべきであって,再手術は極力避けるべきであったと主張する。 - 35 -しかし,前記認定(1(3))のとおり,Eに縫合不全の可能性があると疑われてはいるものの,その後の検査でその疑いが否定されており,その判断が誤っていることを窺わせる証拠はないから,縫合不全の疑いを前提とする治療を行う義務はなく,この点において原告らの主張は前提を欠く。そのうえ,経過観察と再手術とはいずれも選択肢になるものの,Eのように,本件胃全摘術の1日後に異常が疑われた場合においては,再手術の成功率が高く,再手術を選択するのが一般的であると認められ(鑑定の結果,これに反す)る証拠はない。したがって,再手術よりも経過観察を選択する義務があったといえないから,原告らの主張は採用できない。 (5)争点(6)(5月10日における転送義務違反の有無)について原告らの主張は,①5月10日にEについて気管内挿管がされ,とARDS診断されたから,厳重な全身管理が必要であること,及び②同日に原告らが転送を希望したことの2点を根拠としている。 しかしながら,上記①の点が大学病院等の高次医療機関に対する転送義務を具体的に基礎づけるとは直ちにいい難く,上記②の点については,同日におけるI医師の説明によって原告Aらが同日における転送をしないことに納得したものと認められるから,この点も同日における転送義務を基礎づけるとはいえず,他に同日における転送義務や,Eの転送が遅れたことを窺わせる事情は認められない。 したがって,Eについて,5月10日に転送する義務に反したり,これが遅れた過失はない。 争点(8)(損害 はいえず,他に同日における転送義務や,Eの転送が遅れたことを窺わせる事情は認められない。 したがって,Eについて,5月10日に転送する義務に反したり,これが遅れた過失はない。 争点(8)(損害額)について(1)Eに生じた損害ア逸失利益(請求額2326万円)1781万1907円前記2(2)において説示したとおり,本件過失がなければ,Eは6月12日においてなお生存していたと認められるほか,その死亡率に照らせば,- 36 -その後も生存する程度には回復したものと推認される。 ところで,Eは死亡当時63歳であり,弁論の全趣旨によれば,294万7698円の年金収入を得ており(①,死亡していなければ,平均余)命19年間(平成16年簡易生命表)にわたって同額の年収を得られたと認められる一方,生活費として相当の額を支出したと認められるから,控除率を50%としたうえ(②,中間利息をライプニッツ式計算式により)控除すると(③,次の計算式のとおり,上記損害が生じた(1円未満切)捨て。以下も同じ。 。)〔計算式〕①2,947,698×②(1-0.5)×③12.0853=17,811,907円イ慰謝料(請求額2400万円)2400万円弁論の全趣旨によれば,Eが死亡したことにより精神的苦痛が生じたと認められるところ,その苦痛を慰謝するための損害額は,本件に顕れた全事情を斟酌すれば,2400万円をもってするのが相当である。 ウ相続そして,原告らは,これらを,法定相続分に応じて,すなわち,原告Aが2090万5954円(端数処理,その余の原告らがそれぞれ696)万8651円を相続した。 (2)葬儀費用(請求額150万円)150万円弁論の全趣旨によれば,Eの死亡によって,相当額の葬儀費用を原告Aが支出したものと認められるところ,葬儀 それぞれ696)万8651円を相続した。 (2)葬儀費用(請求額150万円)150万円弁論の全趣旨によれば,Eの死亡によって,相当額の葬儀費用を原告Aが支出したものと認められるところ,葬儀費用として150万円を損害と認める。 (3)弁護士費用弁論の全趣旨によれば,原告らは,本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人弁護士らに依頼し,相当額の費用を支払う旨約したと認められるところ,本件の事案の性質・内容,審理の経過,認容額等に鑑みれば,弁護士費用として,原告Aについて210万円,原告B,同C及び同Dについて各70万円を損- 37 -害と認める。 (4)合計以上を合計すると,各原告の損害額は原告Aについて2450万5954円,原告B,同C及び同Dについて各766万8651円となる。 結論 以上によれば,原告らの請求は,上記の損害額及びこれに対する不法行為日である平成16年6月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の部分は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する(なお,仮執行免脱宣言はこれを付さない。 。)大分地方裁判所民事第1部裁判長裁判官金光健二裁判官野村武範裁判官萩原孝基
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