主文 1 第1審判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は、控訴人Aに対し、88万2000円及びこれに対する平成30年6月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は、控訴人Bに対し、111万円及びこれに対する平成30年1 0月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 4 控訴人らのその余の主位的請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は、全審級を通じてこれを2分し、その1を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。 6 この判決は、第2項及び第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 第1審判決を取り消す。 2 主位的請求⑴ 被控訴人は、控訴人Aに対し、168万6184円及びこれに対する平成 30年6月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 ⑵ 被控訴人は、控訴人Bに対し、211万4590円及びこれに対する平成30年10月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 予備的請求⑴ 被控訴人は、控訴人Aに対し、168万6184円及びこれに対する平成 30年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑵ 被控訴人は、控訴人Bに対し、211万4590円及びこれに対する平成30年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 ⑴ 給水契約、断水等 控訴人らは、それぞれ宿泊施設を経営している。 控訴人らは、被控訴人との間で、それぞれ給水契約を締結し、上記各宿泊施設で同契約により供給される水を ⑴ 給水契約、断水等 控訴人らは、それぞれ宿泊施設を経営している。 控訴人らは、被控訴人との間で、それぞれ給水契約を締結し、上記各宿泊施設で同契約により供給される水を使用している。 被控訴人は、水道施設を設置及び管理していたが、その施設である配水池内の装置が破損し(以下「本件破損」という。)、そのため上記各宿泊施設 が所在する伊良部島で断水が生じた。 ⑵ 請求の概要控訴人らは、上記断水は、被控訴人が設置・管理する水道施設の瑕疵によって生じ、給水契約上の債務不履行があり、これにより控訴人らが経営する宿泊施設やこれに併設する飲食店について、宿泊予約のキャンセルや営業停 止、断水に対応するための人件費の負担を余儀なくされたなどの損害を被った旨主張して、被控訴人に対し、次のとおりの支払を求めた。 ア主位的請求上記各給水契約の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、控訴人Aは損害金164万1168円、控訴人Bは損害金194万6710円、及 びそれぞれに対する断水が発生した日である平成30年4月27日から支払済みまで商事法定利率(平成29年法律第45号による改正前のもの)年6分の割合による遅延損害金の各支払イ予備的請求民法709条、717条1項又は国家賠償法2条1項による損害賠償請 求権に基づき、控訴人Aは損害金164万1168円、控訴人Bは損害金194万6710円、及びそれぞれに対する同日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払 2 審理の経過 ⑴ 第1審は、控訴人らの主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却した。 控訴人らは、これを不服 のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払 2 審理の経過 ⑴ 第1審は、控訴人らの主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却した。 控訴人らは、これを不服として各控訴をした。 ⑵ 差戻前控訴審は、第1審判決同様、水道法15条2項(平成30年法律第92号による改正前のもの。以下同じ。)本文の給水義務等を前提とした被控訴人の過失の主張は採用したものの、宮古島市水道事業給水条例(平成17年宮古島市条例第215号。以下「本件条例」という。)16条3項は、 給水の制限又は停止の原因となった水道施設の損傷が被控訴人の故意又は重過失によるものである場合を除き、被控訴人の給水義務の不履行に基づく損害賠償責任を免除した規定であり、本件破損について被控訴人に故意又は重過失があるとはいえないから、被控訴人の上記断水による給水義務の不履行に基づく損害賠償責任は、同項により免除される、などと判断して、控訴人 らの各控訴をいずれも棄却した。 控訴人らは、本件条例16条3項は被控訴人に過失がない場合に限り免責を認める旨の確認条項に過ぎないという趣旨の主張もしたが、排斥された。 控訴人らは、これを不服として各上告及び上告受理申立てをした。 ⑶ 上告審は、次のとおり説示して差戻前控訴審判決を破棄し、本件を福岡 高等裁判所に差し戻した。 本件条例16条3項は、被控訴人が水道法15条2項ただし書により水道の使用者に対し給水義務を負わない場合において、当該使用者との関係で給水義務の不履行に基づく損害賠償責任を負うものではないことを確認した規定にすぎず、被控訴人が給水義務を負う場合において、同義務の不 履行に基づく損害賠償責任を免除した規定ではない。 ⑷ 控訴人らは、当審に づく損害賠償責任を負うものではないことを確認した規定にすぎず、被控訴人が給水義務を負う場合において、同義務の不 履行に基づく損害賠償責任を免除した規定ではない。 ⑷ 控訴人らは、当審において、上記第1の2及び3のとおり控訴の趣旨を変更した。控訴人両名とも、主たる請求の請求額をいずれも増額し(請求の拡張)、主位的請求の附帯請求の起算日を遅くした(請求の減縮)。 3 前提事実 次のとおり第1審判決を補正するほかは、同判決の「第2 事案の概要」 の3の記載を引用する。 ⑴ 同判決4頁8行目の「伊良部島南部」を「伊良部南区(伊良部・仲地、国仲、佐和田・長浜)」に改める。 ⑵ 同判決4頁19行目の「伊良部島南部」を「上記伊良部南区」に改める。 ⑶ 同判決5頁4行目の「(以下、」から同5行目の「という。)」までを 削る。 4 争点及び当事者の主張⑴ 被控訴人の給水義務に関する債務不履行責任の成否(主位的請求関係)(被控訴人が控訴人らに対し給水義務を負うか否か、本件断水が、水道法15条2項ただし書に定める場合に当たるか否か) (控訴人らの主張)ア水道法15条2項ただし書の「災害その他正当な理由があってやむを得ない場合」とは、①災害等の回避困難な事象が発生し又は発生する可能性が相当程度認められ、かつ、②これを理由として給水停止することが、水道法の趣旨に却って合致すると認められることに加え、③水道事 業者による水道施設の管理義務の懈怠や水道施設の設置又は管理の瑕疵を原因とする給水停止ではない場合であることを要すると解される。 イ被控訴人は、給水契約上及び水道法上、控訴人らに対する給水義務を負っていたほか、水道施設を適切に点検し、必要な修繕を行うな 疵を原因とする給水停止ではない場合であることを要すると解される。 イ被控訴人は、給水契約上及び水道法上、控訴人らに対する給水義務を負っていたほか、水道施設を適切に点検し、必要な修繕を行うなどして、断水発生を防止する義務及び万が一断水が発生した際は、可及的速やか にこれを解消する義務を負う(水道法1条、2条、5条、15条等)。 また、被控訴人は、上記の義務を果たす前提として、水道施設の損耗の程度及び更新すべき時期等を的確に把握・検討し、耐用年数が近づいた場合は代替品をあらかじめ取り寄せておき、適切な時期にこれを交換するなどして、本件ボールタップの経年劣化に伴う突然の故障を予防し、 仮に故障が発生したとしても即応できるように事前に準備をすべき義務 があった。 しかし、被控訴人は、本件ボールタップの設置から約40年が経過し、耐用年数の経過が目前に迫ることが優に推察可能な状況下においてもなお、本件ボールタップを含む本件配水池及びこれを構成する装置、部品類の計画的更新の検討を怠った。被控訴人は、本件ボールタップについ て、その保守管理を平成26年以前はしておらず、支柱の錆や腐食を防止するメンテナンスをしていなかった。このように、被控訴人は、上記各義務に違反した。 ウ被控訴人は、株式会社C(以下「C」という。)に委託していたのは、本件配水池の計装設備の保守点検であり、本件ボールタップの保守点検 が被控訴人と同社間の業務委託契約の対象とはなっていなかった。 エ以上からすると、本件断水は、水道法15条2項ただし書の「災害その他正当な理由があってやむを得ない場合」には当たらず、被控訴人は給水義務を負っていたが、これに違反した。 (被控訴人の主張) ア本件条例 は、水道法15条2項ただし書の「災害その他正当な理由があってやむを得ない場合」には当たらず、被控訴人は給水義務を負っていたが、これに違反した。 (被控訴人の主張) ア本件条例16条1項の「水道施設の損傷」があり、被控訴人において水道施設の維持、管理について過失がない場合には、水道法15条2項ただし書の「災害その他正当な理由があってやむを得ない場合」に当たると解される。 イ被控訴人は、水道施設保全業務(集中監視設備・揚水施設及び計装設 備)を年2回、専門業者に調査委託しており、それには、本件配水池の計装設備の点検業務も含まれていた。これにより本件ボールタップの点検がされた。 また、本件配水池においては、平成27年9月、流入管を新たに連結した。その際、断水の上、本件ボールタップの点検をした可能性が高い。 平成28年9月、平成29年9月の各台風通過後にも、被控訴人の職 員が本件配水池を点検し、異常はなかった。 ウ本件断水は、本件ボールタップの支柱(直径3cm。ステンレス鋼〔クロム18%、ニッケル8%を加えた鋼〕。不動態被膜という保護膜があったもの。)が破損したこと及び支柱と連結しているピストンが支柱破損後斜めに固定されていたという複合的要因によるものであった。 このような複合的な要因により本件ボールタップが損傷して断水に至ることは、極めて稀であり、被控訴人にはこのような経験はなかった。 被控訴人には、本件断水の発生について予見可能性及び結果回避可能性はなく、過失はない。本件断水は、上記「災害その他正当な理由があってやむを得ない場合」に該当し、被控訴人に給水義務はなかった。 ⑵ 被控訴人の不法行為の成否(予備的請求関係)(控 性はなく、過失はない。本件断水は、上記「災害その他正当な理由があってやむを得ない場合」に該当し、被控訴人に給水義務はなかった。 ⑵ 被控訴人の不法行為の成否(予備的請求関係)(控訴人らの主張)前記⑴(控訴人らの主張)のとおり、被控訴人は、本件断水について、水道事業者としての義務に違反した。これにつき、被控訴人には過失による不法行為が成立する。 (被控訴人の主張)前記⑴(被控訴人の主張)のとおり、本件断水につき、被控訴人には過失はない。 ⑶ 水道施設に関する工作物責任又は営造物責任上の瑕疵の存否(予備的請求関係) (控訴人らの主張)前記⑴(控訴人らの主張)からすれば、本件配水池を含む水道施設は、水道施設として通常備えるべき安全性を欠いており、被控訴人における水道施設の設置、保存又は管理について重大な瑕疵があった。したがって、被控訴人は、本件断水について、控訴人らに対し、民法717条1項又は 国家賠償法2条1項に基づく損害賠償義務を負う。 (被控訴人の主張)争う。 ⑷ 損害の発生及びその額(主位的請求関係・予備的請求関係共通)(控訴人Aの主張)本件断水により、控訴人Aには、以下の損害が発生した。 ア本件ホテル1の宿泊キャンセル等による損害 55万2625円本件断水によって、本件ホテル1の宿泊予定客78名分の宿泊予約がキャンセル等となり、合計55万2625円の宿泊料の未収・返金が発生した。 イ本件ホテル1内レストランの営業損害 50万6955円 本件ホテル1併設の「D」は、本件断水期間中の営業停止を余儀なくされた。過去3年間(平成27年ないし平成29年)の売上 本件ホテル1内レストランの営業損害 50万6955円 本件ホテル1併設の「D」は、本件断水期間中の営業停止を余儀なくされた。過去3年間(平成27年ないし平成29年)の売上に鑑みれば、上記営業停止による損害は、50万6955円となる。 ウ本件ホテル1内カフェの営業損害 3万6300円本件ホテル1併設の「E」は、本件断水期間中の営業停止を余儀なく された。この店舗の平成28年及び平成29年の売上に鑑みれば、上記営業停止による損害は、3万6300円となる。 エ本件断水対応のための人件費 7万5082円本件断水により、平時には想定されない作業(宿泊者の宿泊先振替作業、クレーム対応等)が発生した。控訴人Aは、これに従業員を対応さ せざるを得なかったため、経常的な人件費に加え、更なる人件費として合計7万5082円の支出を余儀なくされた。 オイメージ毀損及び潜在的顧客の減少 23万4192円本件断水によるキャンセル対応等のため、宿泊予定客に迷惑をかけたことに伴い、本件ホテル1のイメージが毀損され、潜在的な顧客が減少 した。これにより生じた損害は、上記ア~エの損害の合計の20%に相 当する。 カ弁護士費用相当額 28万1030円キ合計 168万6184円(控訴人Bの主張)本件断水により、控訴人Bには、以下の損害が発生した。 ア本件ホテル2の宿泊キャンセル等による損害 83万8100円本件断水によって、本件ホテル2の宿泊予定客28名分の宿泊予約がキャンセル等となり、合計83万8100円の宿泊料 ア本件ホテル2の宿泊キャンセル等による損害 83万8100円本件断水によって、本件ホテル2の宿泊予定客28名分の宿泊予約がキャンセル等となり、合計83万8100円の宿泊料の未収・返金が発生した。 イ本件ホテル2内カフェの営業損害 48万6443円 本件ホテル2併設のカフェは、本件断水期間中の営業停止を余儀なくされた。この店舗の過去3年間(平成27年~平成29年)の売上に鑑みれば、上記営業停止による損害は、48万6443円となる。 ウ本件断水対応のための人件費 14万3923円本件断水により平時には想定されない作業(宿泊者の宿泊先振替作業、 クレーム対応等)が発生した。控訴人Bは、これに従業員及び同控訴人代表者を対応させざるを得なかったため、経常的な人件費に加え、更なる人件費として合計14万3923円の支出を余儀なくされた。 エイメージ毀損及び潜在的顧客の減少 29万3693円本件断水によるキャンセル対応等のため、宿泊予定客に迷惑をかけた ことに伴い、本件ホテル2のイメージが毀損され、潜在的な顧客が減少した。これにより生じた損害は、上記ア~ウの損害の合計の20%に相当する。 オ弁護士費用相当額 35万2431円カ合計 211万4590円 (被控訴人の主張) いずれも否認し争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実次のとおり第1審判決を補正するほかは、同判決の「第3 当裁判所の判断」の1の記載を引用する。 ⑴ 同判決14頁17行目の「ところ、」から21行目冒頭の「る。」までを 認定事実次のとおり第1審判決を補正するほかは、同判決の「第3 当裁判所の判断」の1の記載を引用する。 ⑴ 同判決14頁17行目の「ところ、」から21行目冒頭の「る。」までを次のとおり改める。 「。うち、伊良部島浄水系統では、水は、まず、本件配水池を含む配水池2か所に分けられ、うち本件配水池は、伊良部南区等に配水している。」⑵ 同判決14頁22行目の「設置された。」の後に次のとおり加える。 「本件ボールタップのしくみは、別紙のとおりである。球状の浮玉に棒が取り付けられ、浮玉が水位に応じて上下すると、棒が、てことなって、給水管の先端となる部分に取り付けた弁を動かし、水位が下がれば弁を開き、水位が上がれば弁を閉じるようになっている。そのため、弁の近くには、上記てこの役目を果たす棒を含め、ピンで止められた棒が複数 存在し、その棒の一つと弁とを結ぶ棒(支柱)がある。」⑶ 同判決15頁2行目の「見つからなかった。」の後に次のとおり加える。 「ただし、当時の点検報告書には、異常なしとの記載はあるが、どのような検査をしたのかの詳細を記載した資料はない。」⑷ 同判決15頁5行目の末尾に次のとおり加える。 「(なお、下記ア、ウ、エ、カの保守点検は、実際には、Cが水道施設保全業務(揚水施設・計装設備等)を包括的に委託した株式会社Fにより実施された。また、その保守点検の結果報告書の中の本件配水池(第3配水池)の点検項目には、本件ボールタップが独立して明記されていたわけではないが、上記委託により上記会社が行った他の水道施設での保 守点検業務の中には、ポンプのオーバーホール等も含まれていることに 照らせば、本件配水池の点検項目中の「その他制御装置」の中に が、上記委託により上記会社が行った他の水道施設での保 守点検業務の中には、ポンプのオーバーホール等も含まれていることに 照らせば、本件配水池の点検項目中の「その他制御装置」の中に本件ボールタップの点検も含まれていたと認められる。〔甲17の各枝番〕)」⑸ 同判決17頁4行目の末尾に次のとおり加える。 「具体的には、まず、世帯数の少ない国仲地区への配水管に水を供給して配水を開始した。そして、順次配水する地区を増やすこととした。」 ⑹ 同判決17頁11行目から12行目にかけての「断水が解消された。」を「本件断水が解除となった。」に改める。 ⑺ 同判決17頁21行目の「明らかとなった。」の後に次のとおり加える。 「別紙のとおり、本件ボールタップの支柱及び弁回りの管内部は、赤茶色に錆び、支柱とそれを上下させるための棒が、本来接続されていなけれ ばならないのに、離れていた。弁は、動かなくなっていた。」⑻ 同判決18頁7行目の末尾に次のとおり加える。 「本件断水前には、流入管から本件配水池への流入量を計測する機器は、設置されていなかった。上記サドル分水栓から本件配水池まで、管が設置されたが、流入量を制御するボールタップは、取り付けられなかった。 それは、大型連休のため緊急の手配ができなかったことによる。被控訴人は、流入量を、当面、目視で監視せざるを得なかった。」⑼ 同判決18頁8行目の「乙4の1~9、」の次に「乙5の1~5、」を加え、同行目の末尾に改行して、次のとおり加える。 「⑺ 控訴人Aは、平成30年6月28日到着の損害賠償請求通知書(書 留内容証明郵便)により、被控訴人に対し、本件断水について、給水契約上の債務不履行による損害賠償等の請求をした。 。 「⑺ 控訴人Aは、平成30年6月28日到着の損害賠償請求通知書(書 留内容証明郵便)により、被控訴人に対し、本件断水について、給水契約上の債務不履行による損害賠償等の請求をした。(甲A6の1~3)」 2 争点⑴(被控訴人の給水義務に関する債務不履行責任の成否)について(主位的請求関係) ⑴ 水道法15条2項ただし書による常時給水義務の免除の成否 ア本件破損の詳細本件断水の原因は、本件ボールタップの不具合により本件配水池への流入量が制限されたことにある(第1審判決第2の3⑹及び補正後の同判決第3の1⑸)。水道法15条2項ただし書にいう「災害その他正当な理由があってやむを得ない場合」に該当するかどうかの検討の前提と して、本件破損の原因の詳細につき検討する。 まず、これまで認めた本件ボールタップの仕組みからすると、本件ボールタップの支柱は、水の出入りを制御する弁と接続されているから、弁ともども、浮玉の上下の動きをてこの作用により相当の力で受け、かつ、おおむね水に濡れた状況であった、と推認できる。 次に、本件ボールタップの支柱、接続された棒及び弁などの材質についてみると、補正後の第1審判決第3の1⑸のとおり、本件ボールタップには錆が生じていたから、本件ボールタップが金属製であったことは認められる。しかし、本件全証拠によっても、その材質の詳細を認定することはできない。被控訴人は、本件ボールタップは、ステンレス鋼 (クロム、ニッケルを加えた鋼)であるなどと主張し、これに沿う証拠(乙2の1)を提出する。しかし、同証拠に表示されているボールタップと、証拠(甲10の3、乙2の2)により認められる本件配水池に設置されたボールタップとは、形状 )であるなどと主張し、これに沿う証拠(乙2の1)を提出する。しかし、同証拠に表示されているボールタップと、証拠(甲10の3、乙2の2)により認められる本件配水池に設置されたボールタップとは、形状、構造が異なるから、同一のものとは認められない。被控訴人の上記主張は採用することができない。なお、 証拠(乙2の2)及び調査嘱託の結果によれば、本件ボールタップのメーカーが昭和54年頃に販売したボールタップで本件ボールタップに相当する規模のものは、鋳鉄要部青銅製であったが、てこの役割をする部材の形状が本件ボールタップと異なると認められるから、本件ボールタップが鋳鉄要部青銅製であったとまでは認められない。 以上のような本件ボールタップの支柱等の材質、支柱や弁が力を受け る部材で水に濡れていたこと、それが後記イのとおり約40年の長期間使用されてきたこと、本件破損の原因となるべき具体的な事象の主張・立証が他にないことも併せ考慮すれば、本件破損の原因は、長年の使用による経年劣化であり台風等の災害によるものではないと推認できる。 イ本件ボールタップの管理等 本件ボールタップは、昭和53年頃に設置されて以降、本件断水の時点まで、交換されることなく約40年にわたって使用されていたと認められる(補正後の第1審判決第3の1⑴及び⑷)。 地方公営企業法上、有形固定資産である「機械及び装置」のうち「水道用又は工業用水道用設備」の「その他(主として金属造のもの)」の 耐用年数は、17年とされていること、平成17年5月付け社団法人日本水道協会の水道施設更新指針が水道用又は工業用水道用の機械及び装置につき20年以下の耐用年数を定めたと認められること(甲20)、本件ボールタップの劣化の状況( ること、平成17年5月付け社団法人日本水道協会の水道施設更新指針が水道用又は工業用水道用の機械及び装置につき20年以下の耐用年数を定めたと認められること(甲20)、本件ボールタップの劣化の状況(補正後の第1審判決第3の1⑸)からすれば、本件ボールタップは、本件断水当時、耐用年数を相当期間超過 して使用が継続されていたと認められる。これに対し、本件全証拠によっても、被控訴人が本件破損の前に、本件ボールタップに関する整備・交換の時期について具体的に検討したことがあったとは認められない。 なお、本件において、被控訴人は、補正した第1審判決第3の1⑶のとおり、業者を用いて水道施設の点検をし、その点検対象には本件ボー ルタップも含まれていたと解される。しかし、関係する書類に点検対象としてボールタップが明記されていないこと、これまで認めた本件破損の状況からみて、それがごく短期間の要因により発生したとは認められないことから、上記点検は本件ボールタップの支柱の劣化など本件破損の危険を的確にとらえるものではなかったと推認するのが相当である。 ウ小括 被控訴人は、本件断水当時に施行されていた水道法においても、同法15条2項本文により水道事業者として常時給水の義務を負い、同法1条の同法の目的、同法2条1項の地方公共団体の責務、同法4条の水質基準、同法5条の施設基準、同法14条の供給規程、同法16条以下の給水装置の構造及び材質、検査、水道技術管理者等に関する諸規定に照 らせば、水道施設を良好な状態に保つためその維持及び修繕を行わなければならない義務及び水道施設の状況を勘案して適切な時期に同施設を維持するために必要な措置を講ずる等の義務を負っていたと解される。 この義務を前提に 態に保つためその維持及び修繕を行わなければならない義務及び水道施設の状況を勘案して適切な時期に同施設を維持するために必要な措置を講ずる等の義務を負っていたと解される。 この義務を前提に上記ア及びイの事実関係を考慮すれば、本件断水は、水道法15条2項ただし書の「災害」によるものではないけれども、本 件ボールタップが、配水池、すなわち多くの地区に配水する基幹施設の貯水量を適正に保つ重要な役割を有すること、相当の力を受け、水に濡れる部材があるのに、約40年にわたり取り換えられなかったことなどから、上記ただし書の「その他正当な理由があってやむを得ない場合」に該当するとはいえない。 ⑵ 被控訴人の過失等及び債務不履行責任被控訴人は、水道施設であるボールタップの損傷による断水は稀で、被控訴人には過失がないから、水道法15条2項本文所定の給水義務を免れ債務不履行による損害賠償責任を負わないと主張する。 確かに、これまで認めた被控訴人の本件断水への対応等からすれば、ボ ールタップの破損は被控訴人が気づきにくいものであったと認められる。 しかし、金属製の本件ボールタップの支柱や弁が水に濡れた状態で力を受け約40年使用されたなどの事実関係からすると、本件断水の時点に立って考えても、被控訴人に本件破損の予見可能性や結果回避可能性があったと認めるのが相当であるし、本件ボールタップを含めた配水池の重要性、 その数が限られること(補正後の第1審判決第3の1⑴)をも併せ考える と、予見義務のほか、綿密な点検、配水池への流入量の正確な把握や相当期間経過後の取り換え等、本件破損及び断水を回避する義務を認めるのが相当である。それが水道事業者に過大な負担を課するともいえない。 以 のほか、綿密な点検、配水池への流入量の正確な把握や相当期間経過後の取り換え等、本件破損及び断水を回避する義務を認めるのが相当である。それが水道事業者に過大な負担を課するともいえない。 以上によれば、被控訴人は、自身に帰責性のある給水義務の不履行があったから、本件断水により控訴人らに与えた損害を賠償する責任を負う。 3 争点⑷(損害の発生及びその額)について(主位的請求関係)当裁判所は、被控訴人が賠償義務を負う損害を以下のとおりと認める。 ⑴ 宿泊キャンセル等による損害ア控訴人A 47万円証拠(甲A7の各枝番、甲A11)及び弁論の全趣旨によれば、控訴 人Aは、本件断水発生後、本件ホテル1につき、宿泊開始日が平成30年4月28日から同年5月4日までであった46組の顧客につき、キャンセル料、宿泊時に水道使用ができなかったための返金額、及び顧客が本件断水のため宿泊先を変更せざるを得なくなったために増額した宿泊料の負担額の合計が、55万2625円となったことが認められる。た だし、上記キャンセル料等のうち、主にキャンセルに関する分については、水道光熱費やリネン・アメニティに関する費用の負担を免れた部分があるものと推認される。そのため、上記証拠及び弁論の全趣旨を踏まえると、上記55万2625円の約85%に相当する47万円を本件断水による損害と認めるのが相当である。 イ控訴人B 72万円証拠(甲B3の各枝番、甲B7)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人Bは、本件断水発生後、本件ホテル2につき、宿泊開始日が平成30年4月27日から同月30日までであった12組の顧客につき、キャンセル料、及び 甲B3の各枝番、甲B7)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人Bは、本件断水発生後、本件ホテル2につき、宿泊開始日が平成30年4月27日から同月30日までであった12組の顧客につき、キャンセル料、及び本件断水のため宿泊料を減額した分の負担額の合計は、83 万8100円であったことが認められる。ただし、上記キャンセル料等 のうち、主にキャンセルに関する分については、水道光熱費やリネン・アメニティに関する費用の負担を免れた部分があるものと推認される。 そのため、上記証拠及び弁論の全趣旨を踏まえると、上記83万8100円の約85%に相当する72万円を本件断水による損害と認めるのが相当である。 ⑵ レストラン、カフェの営業損害引用した補正後の第1審判決第3の1⑷の説示のとおりの本件断水についての経過のほか、弁論の全趣旨によれば、平成30年4月28日(土曜日)頃から同年5月1日(火曜日)頃までの間、控訴人Aは、本件ホテル1に併設の「D」及び「E」の、控訴人Bは、本件ホテル2に併設のカフ ェの営業をすることができなくなったことが認められる。 ア控訴人Aの損害 33万2000円 本件ホテル1内レストランの営業損害 30万円a 証拠(甲A8の1~3)によれば、本件ホテル1に併設の「D」の平成27年から平成29年までの各4月の最終の土曜日から次の 火曜日までの間の売上(ただし、弁論の全趣旨によれば、平成30年4月28日(土曜日)は夕方頃から営業停止となったことが認められるため、4月の最終の土曜日の夜の売上から考慮する。)は、次のとおりであり、その4日分の平均は、50万6955円(円未満四捨五入)となることが認められる(このような4月下旬は大型 連休の時期で、曜日に 月の最終の土曜日の夜の売上から考慮する。)は、次のとおりであり、その4日分の平均は、50万6955円(円未満四捨五入)となることが認められる(このような4月下旬は大型 連休の時期で、曜日によって売上の変動があり得るから、次のとおり曜日に従って検討するのが相当である。以下の各カフェの検討についても同様に考える。)。 平成27年4月25日(土曜日)夜から同月28日(火曜日)までの売上 44万9815円 ⒝ 平成28年4月30日(土曜日)夜から同年5月3日(火曜日) までの売上 52万2884円⒞ 平成29年4月29日(土曜日)夜から同年5月2日(火曜日)までの売上 54万8165円b ただし、控訴人A(D)では、本件断水による営業停止のため、原材料の費消・購入を免れたことが推認されること、上記証拠によ れば、上記aで検討した期間の売上には相当程度の相違があること等の事情も考慮すると、上記50万6955円の約6割である30万円を本件断水による損害と認めるのが相当である。 本件ホテル1内カフェの営業損害 3万2000円a 証拠(甲A8の2・3)及び弁論の全趣旨によれば、本件ホテル 1に併設の「E」は、平成27年6月に開業したこと、平成28年及び平成29年の各4月の最終の土曜日から次の火曜日までの間の売上は、次のとおりであり、その4日分の平均は、5万4450円となることが認められる。 平成28年4月30日(土曜日)から同年5月3日(火曜日) までの売上 6万4800円⒝ 平成29年4月29日(土曜日)から同年5月2日(火曜日)までの売上 4万4100円b ただし、控訴人A から同年5月3日(火曜日) までの売上 6万4800円⒝ 平成29年4月29日(土曜日)から同年5月2日(火曜日)までの売上 4万4100円b ただし、控訴人A(E)では、本件断水による営業停止のため、原材料の費消・購入を免れたことが推認されること、上記証拠によ れば、上記aで検討した期間の売上には相当程度の相違があること等の事情も考慮すると、上記5万4450円の約6割である3万2000円を本件断水による損害と認めるのが相当である。 イ控訴人Bの損害 29万円 証拠(甲B4の1~5)によれば、本件ホテル2に併設のカフェの 平成27年から平成29年までの各4月の最終の土曜日から次の火曜 日までの間の売上は、次のとおりであり、その4日分の平均は、48万6443円(円未満四捨五入)となることが認められる。 a 平成27年4月25日(土曜日)から同月28日(火曜日)までの売上 42万5250円b 平成28年4月30日(土曜日)から同年5月3日(火曜日)ま での売上 58万0220円c 平成29年4月29日(土曜日)から同年5月2日(火曜日)までの売上 45万3860円 ただし、控訴人B(上記カフェ)では、本件断水による営業停止のため、原材料の費消・購入を免れたことが推認されること、上記証拠 によれば、上記で検討した期間の売上には相当程度の相違があること等の事情も考慮すると、上記48万6443円の約6割である29万円を本件断水による損害と認めるのが相当である。 ⑶ 人件費相当額の損害ア控訴人Aの損害 証拠(甲A9の1、甲A11)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人Aでは 万円を本件断水による損害と認めるのが相当である。 ⑶ 人件費相当額の損害ア控訴人Aの損害 証拠(甲A9の1、甲A11)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人Aでは、平成30年4月28日から同年5月1日までの間、複数の従業員が出勤し、本件断水のため宿泊先の振替作業、クレーム対応等の業務を行ったことが認められる。しかし、上記従業員らのうち、タイムカード(甲A9の1)で管理されていた者らについては、本件全証拠によって も、本件断水のために、予定されていた勤務時間を超えて勤務した部分を認定することができない。また、タイムカードで管理されていない従業員がいることが認められるが(甲A11)、この者については、本件断水に関する対応のために、従前の予定を超えて人件費の出捐が追加されたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、本件断水による人 件費相当額の損害の発生を認めることはできない。 イ控訴人Bの損害証拠(甲B5の1、甲B7)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人Bでは、平成30年4月28日から同年5月1日までの間、複数の従業員、代表者等が出勤し、本件断水のため宿泊先の振替作業、給水対応等の業務を行ったことが認められる。しかし、上記従業員等のうち、タイムカ ード(甲B5の1)で管理されている従業員らについて、本件全証拠によっても、本件断水のために、予定されていた勤務時間を超えて勤務した部分を認定することができない。また、タイムカードで管理されていない同控訴人の代表者等については、本件断水に関する対応のために、従前の予定を超えて人件費の出捐が追加されたことを認めるに足りる証 拠はない。したがって、本件断水による人件費相当額の損害の発生を認めることはできない。 いては、本件断水に関する対応のために、従前の予定を超えて人件費の出捐が追加されたことを認めるに足りる証 拠はない。したがって、本件断水による人件費相当額の損害の発生を認めることはできない。 ⑷ イメージ毀損及び潜在的顧客の減少による損害控訴人らは、本件断水によるキャンセル対応等のため、宿泊予定客に迷惑をかけたことに伴い、本件各ホテルのイメージが毀損され、潜在的な顧 客が減少した旨主張する。しかし、本件全証拠によっても、そのような事実やこれによる損害発生の事実を認めることはできない。 ⑸ 小計上記⑴及び⑵の損害額の小計は、次のとおりとなる。 ア控訴人A 80万2000円 イ控訴人B 101万円⑹ 弁護士費用相当額及び損害額合計控訴人らは、主位的請求(債務不履行責任)においても弁護士費用相当額の支払を求める。 その可否につき、控訴人らが予備的請求において本件断水に関する不法 行為による請求等をしているように、給水義務の債務不履行の有無に関し、 主張立証の責任の所在はともかく、被控訴人の給水義務の有無、本件断水が水道法15条2項ただし書に定める場合に当たるか否か等の主張立証の必要があり、実質的には不法行為による損害賠償請求をする場合とほとんど変わるところがない。そうすると、上記主位的請求における給水契約の債務不履行による損害賠償請求権は、同契約の当事者である給水を受ける 者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるといえる。 額に関し、弁論の全趣旨によれば、控訴人らが上記債務不履行による損害賠償請求をするために訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟 訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるといえる。 額に関し、弁論の全趣旨によれば、控訴人らが上記債務不履行による損害賠償請求をするために訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任したことが認められる。その弁護士費用相当額については、 事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌し、控訴人Aは8万円、控訴人Bは10万円と認める。 これらの弁護士費用相当額を上記⑸の小計の額に加算すると、控訴人Aは88万2000円、控訴人Bは111万円となる。 4 結論 以上によると、控訴人らの主位的請求は、被控訴人に対し、控訴人Aについては、88万2000円及びこれに対する請求の日(補正後の第1審判決第3の1⑺)の翌日である平成30年6月29日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、控訴人Bについては、111万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年10 月6日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその各限度で認容すべきであり、それ以外は理由がないから棄却すべきである。 また、控訴人らの予備的請求については、主たる請求の認容額は主位的請求の認容額を超えず、遅延損害金請求の起算日を考慮しても、その認容額が 主位的請求の認容額を上回るとは考えられないから、判断の必要がない。 よって、上記と異なる第1審判決を異なる限度で変更することとして、主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第3民事部 裁判長裁判官久留島群一 裁判官秋本昌彦 裁判官山下隼人 福岡高等裁判所第3民事部 裁判長裁判官 久留島群一 裁判官 秋本昌彦 裁判官 山下隼人
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