令和6(わ)156 死体遺棄幇助、死体損壊幇助被告事件

裁判年月日・裁判所
令和7年5月7日 札幌地方裁判所
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判決文本文14,341 文字)

令和7年5月7日宣告令和6年(わ)第156号判決被告人に対する死体遺棄幇助、死体損壊幇助被告事件について、当裁判所は、検察官沼前輝英、同園麻美、私選弁護人吉田康紀(主任)、同小林加弥及び同東浩作 各出席の上審理し、次のとおり判決する。 主文 被告人を懲役1年2月に処する。 この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、札幌市a区bc丁目d番e号に所在する夫である分離前の相被告人A方(当時)において、娘である分離前の相被告人Bと同居して生活していたものであるが、 1 Bが、令和5年7月3日から同月24日午前8時45分頃までの間、前記A方 において、かねて殺害したCの死体の胴体から切断し同所に持ち込んでいた同人の頭部を継続して隠匿し、もって死体を遺棄した際、その情を知りながら、上記の間、自己が居住する同所において、Bの前記隠匿を容認し、もって同人の死体遺棄の犯行を容易にさせて幇助し、 2 Bが、同月7日午後8時18分頃から同日午後8時24分頃までの間、同所 において、多機能ナイフ等を使用するなどして、前記Cの頭部から右眼球を摘出し、もって死体を損壊した際、これに先立つ同日、A方浴室においてビデオ撮影しながら前記死体損壊をすることを計画していたBから、同ビデオ撮影をするよう求められ、その情を認識しながら、同日午後7時32分頃から同日午後7時43分頃までの間に、Aに対し、LINEメッセージを送信するなどして Bの前記求めを伝えて同ビデオ撮影を依頼し、これを承諾したAに、同日午後 8時18分頃から同日午後8時24分頃までの間、同所において、Bの前記死体損壊の場面をビデオ撮影させ、もって同人の死体損壊 Bの前記求めを伝えて同ビデオ撮影を依頼し、これを承諾したAに、同日午後 8時18分頃から同日午後8時24分頃までの間、同所において、Bの前記死体損壊の場面をビデオ撮影させ、もって同人の死体損壊の犯行を容易にさせて幇助した。 (争点に対する判断)※以下、月日については特記しない限り令和5年のそれを指す。 第1 本件の争点等 1 判示1について、検察官は、判示のとおりBによる死体遺棄は継続的に成立すると主張するとともに、被告人は、BがCを殺害しその死体遺棄等の犯行に及ぶ計画であることを事前にAと共有して知っており、その上でBが死体をA方に隠匿することを容認して幇助したと主張するのに対し、弁護人は、Bによる死体遺棄は Cの頭部をA方に持ち帰った7月2日午前3時頃をもって終了したというべきであるから、同月3日以降に死体遺棄幇助罪が成立することはあり得ず、そうでないとしても被告人がBによる死体遺棄を容認して幇助したとは評価できないと主張する。 また、判示2についても、弁護人は、被告人は、Aにビデオ撮影を依頼した時点で、Cの頭部を損壊するというBの意図を認識しておらず(被告人には死体損壊幇 助の故意がないとの趣旨と解される。)、また、そもそもAによるビデオ撮影行為がBの死体損壊を幇助したとはいえない上、被告人がAにビデオ撮影を依頼した行為がBによる死体損壊を容易にしたともいえず、幇助行為とは評価できないなどと主張し、以上から被告人は無罪であると主張する。 2 当裁判所は、判示1につき、Bによる死体遺棄は、BがCの頭部を家に持ち 帰った時点をもって終了するものでなく、警察官がA方に臨場した頃まで継続して成立するものと認め、また、被告人は、7月3日になって初めてBがCの頭部をA方に持ち帰っていたことを認識したとの合理的疑いは残る た時点をもって終了するものでなく、警察官がA方に臨場した頃まで継続して成立するものと認め、また、被告人は、7月3日になって初めてBがCの頭部をA方に持ち帰っていたことを認識したとの合理的疑いは残るものの、同日以降、Bの死体遺棄を容認して幇助したといえると認定評価し、判示2につき、被告人は、Bからビデオ撮影を依頼された時点で、Bが死体損壊に及ぶとの情を認識し、その後 判示の行為により同死体損壊を幇助したと認定評価した。以下、論告の順に沿って その理由の詳細を述べる。 第2 被告人がBの犯行を認識した時期について 1 前提として、Bの犯行状況及び犯意等を検討する。 ⑴ 関係証拠によれば、以下の事実を動かし難いものとして認定できる。すなわち、ア)Bは、5月28日未明、札幌市内のクラブのイベントにAと共に参加し、 そこで知り合ったCに半ば騙されてホテルに連れ込まれ、さらに、同人に避妊具を着けること等を条件に性交を承諾したのに、避妊具なしに性交された。Bは、Cと別れた後、Aに同事実を告げ、A及びBは被告人にも同事実を伝えた。イ)Bは、遅くとも6月8日頃までに、被告人及びAにCを捜し出して再会したい旨告げ、Aと共にクラブに出入りするなどした結果、同月18日にクラブでCを発見し、同人 と7月1日午後10時30分に再会することを約束した。ウ)なお、この間の6月17日、Bは、被告人をして、AにCを探したい旨のLINEメッセージを送信させた。その際、当初Cを「獲物」と呼んで被告人に入力させたが、これを撤回して「鹿」と表現させた。エ)また、Bは、Aにインターネットで注文してもらったり量販店に同道して買ってもらったりして、6月2日から7月1日にかけて、Cを殺 害する際に持参した折りたたみのこぎり等の複数の刃物や大型のキャリーケース等を順次入手 ンターネットで注文してもらったり量販店に同道して買ってもらったりして、6月2日から7月1日にかけて、Cを殺 害する際に持参した折りたたみのこぎり等の複数の刃物や大型のキャリーケース等を順次入手したほか、被告人及びAにエタノールの購入を求め、両名は6月30日までに合計15本のエタノール(いずれも500ml入り)を購入した。オ)Bは、7月1日夜、A運転車両による送迎の下、前記キャリーケース等入手した物の多くを持参してCと合流した上、ホテルに入館し、客室の浴室において、自らはAに買 ってもらったレインコート等を装着し、Cにはアイマスクで目を隠し、手錠等で両手首を後ろ手に拘束して座らせた。そして、Cに対し、「一番人生でちょっと反省したことは、私の約束破ったことでしょ。」と告げ、Cが「あーそうね、だってあんなに怒られたことないもん、だってゴム付けなかっただけで。」などと答えると、その直後、Cの右頸部を折りたたみナイフで突き刺して即死させた。カ)さらに、 Bは、Cの死体の頸部を切断した後、その胴体をキャリーケースに入れようとし、 胴体が入らないと分かるや頭部を収めて、同月2日午前3時頃、A方に持ち帰った。 キ)そして、Bは、その頃から警察官が同所に臨場した同月24日午前8時45分頃までの間に、同所において、さらにその頭部の皮膚を剥ぎ取り、左右の眼球、舌及び食道気管を摘出し、眼球や舌をエタノールを入れた瓶に収めて保管するなどした。 ⑵ 以上からすると、Bは、前記ホテルにおいて、5月28日のトラブルの内容に合致する会話をした直後にCを殺害しており、病的な精神状態や趣味嗜好も影響していると思われるとはいえ、BがCを殺そうと考えた原因は同トラブルであったと認められ、遅くともCと再会を約束した6月18日の時点では、同人を殺すことを現実的な おり、病的な精神状態や趣味嗜好も影響していると思われるとはいえ、BがCを殺そうと考えた原因は同トラブルであったと認められ、遅くともCと再会を約束した6月18日の時点では、同人を殺すことを現実的なものとして計画したと認められる。 さらに、Bが被告人らに購入させたエタノールの合計本数は、Aが使用する分等を考慮しても大量に過ぎ、現にBはエタノールを用いてCの頭部から摘出した眼球等を保存していたことや、大型のキャリーケースを入手して殺害現場に持参し、Cの死体の一部を収めて持ち帰っており、Aが供述するようなドールを自宅内で保存する目的でBがキャリーケースを購入したとは考え難いこと等からすると、Bは、 Cの死体を切断するなどして自宅に持ち帰り、場合によっては解体するなどして弄ぶことも事前に計画していたと認められる。 2 被告人の認識時期について、検察官は、要旨、⑴Bが、犯行に用いた物のすべてをAに購入させるなど、Aの協力を得ながら犯行準備を着々と進め、その際、Aがキャリーケース購入時に100kgの耐荷重があるかをインターネットで検索 し、Bがホテル客室での犯行後に清掃に用いた強力カビハイターに関しても、Aが購入前に種々のインターネット検索をしていたこと、BがAにA方とホテルの間の送迎をさせ、持ち帰ったCの頭部もA方浴室に保管していたこと等から、BはAに対し、Cを殺害して死体を自宅に持ち帰ることを事前に伝えて協力を取り付けていたはずであると主張し、これを前提に、⑵ア)被告人はBの殺害の動機となった原 因事実やBがCに対して怒りの感情を継続したままCを捜していることを認識して いたこと、イ)被告人はBがCを「鹿」、「獲物」と呼んでいることも認識していたこと、ウ)被告人もBに頼まれて死体の保管に用いたエタノールを購入していること、エ ままCを捜していることを認識して いたこと、イ)被告人はBがCを「鹿」、「獲物」と呼んでいることも認識していたこと、ウ)被告人もBに頼まれて死体の保管に用いたエタノールを購入していること、エ)被告人が、6月27日から同月29日までの間に、暴力団を装ってCがBと会わないよう仕向けようと考えていたこと、オ)被告人が、AがBをCとの待ち合わせ場所に送る際、車の位置情報が残ることを気にしていたことから、被告人 も、BがCを殺害してその死体を自宅に持ち帰る計画をAと共有し認識していたと主張する。 3 そこで、前記2⑴の主張について検討すると、まず、本件殺人等は前記のとおり計画的犯行である上、Bは一人では外出もままならない生活状況であったから、前記殺人等を実行するにはAらに必要な物を購入してもらったり、犯行現場まで送 迎してもらったりなどすることが必要不可欠であったが、前記1⑴の準備行為は、Bが殺人等の計画をAと共有した上でその協力を取り付けていなければ実現不可能なものであったとは必ずしもいえず、かえって、Aに前記のような重大犯罪の計画を事前に打ち明けて阻止されたくないと考えて内緒で計画を進め、死体の持ち帰りを断行したとしても不自然ではない。Aがしたインターネット検索等についても、 キャリーケースに関しては、BはCの死体全体を持ち帰る算段だったと認められるのに、一般成人男性の体重に満たない「スーツケース耐荷重 50kg」との検索もされているし、ハイターに関しても、血痕の除去方法を探索したことをうかがわせる検索がない上、キッチンの汚れの除去に着目したアクセス履歴等もあり、いずれもBがAに犯行計画を打ち明けていたことを強く推認させるものではない。し たがって、これらの点についてAの公判廷における供述に信用し難い部分があることを踏ま に着目したアクセス履歴等もあり、いずれもBがAに犯行計画を打ち明けていたことを強く推認させるものではない。し たがって、これらの点についてAの公判廷における供述に信用し難い部分があることを踏まえても、BがAに対し、前記犯行の計画を事前に伝えず、あるいは適当な目的を言いながら種々行動させた合理的疑いは残る。 4 また、前記2⑵の主張を、被告人に認められる事実関係をみながら検討すると、確かに、ア)被告人は、少なくとも5月28日の直後頃、聞き及んだ前記トラ ブルの内容とBの様子から、BがCに対し怒りの感情を抱いていることを認識して いたと認められる上、イ)6月17日にAにLINEメッセージを送信した際、BがCを「鹿」と呼ぶ前に「獲物」とも呼んだことを認識していたと認められるところ、「獲物」というのはCに対する攻撃的な意思をうかがわせる呼び方であって、被告人は、少なくとも5月28日から6月17日までの間、BがCに対する怒りの感情や攻撃的な意思を有していると認識していたと認められる。ウ)さらに、その 後、被告人は、前記1⑴エのエタノールのうち8本を買い、そのほとんどをBに提供したものと認められ、Bが不自然に大量のエタノールを必要としていることを認識していなかったとは考えられない。エ)そして、このようなBの心境や不自然な行動を知る中で、被告人は、6月27日頃、CがBと会わないよう、暴力団を装ってCに電話をかけて脅すことを思いつき、同月30日頃までにこれをAに持ち掛け たほか、オ)BがA運転車両でホテルに向かう直前の7月1日午後9時30分頃、Aに対し、LINEで「そういえば車のGPS記録残りますか」とのメッセージを送信したことも認められるところ、上記メッセージはB及びAの位置情報を残さないようにする趣旨であったと認められ、被告人はB及 Aに対し、LINEで「そういえば車のGPS記録残りますか」とのメッセージを送信したことも認められるところ、上記メッセージはB及びAの位置情報を残さないようにする趣旨であったと認められ、被告人はB及びAの行動を捜査機関に知られてはまずいと認識していたとみるのが自然であって、これらからすると、被告人 が、Bが6月18日にCを発見した際に同人と仲直りしたと聞かされていたことは否定できないことや、Bが刃物類を購入していることまで知っていたとは認められないことを踏まえても、エないしオの頃には、BがCと再会すると同人に何らかの危害を加えるなどする可能性があると認識していたことが相当程度うかがわれる。 しかし、被告人が、Bが殺人や死体遺棄・損壊にまで及ぶと分かっていたかにつ いてみると、アないしウ及びオの点は、エタノールの用途が一般に消毒であること等も踏まえると、それらだけからBが上記のような重大事犯にまで及ぶと被告人が分かっていたと認めることは困難である(なお、逮捕前の取調べにおいて作成された被告人の警察官調書(乙1)には、BがCとの前記トラブルの後、同人について「絶対に見つけて仕返しする、殺してやりたい。」と徐々に言うようになった旨の 供述が録取されているが、同調書は、警察官が約7頁分の被告人の供述を記述した のに対し、被告人から同じ分量を費やすほど多数の訂正・削除が申し立てられており、全体として警察官が被告人の言い分を趣旨を歪曲することなく正確に記述したものか疑問がある上、上記供述部分に係るBの発言がいつまであったのかも不明確であるから、上記供述を根拠に、被告人が、7月1日の時点で、BがCを殺してやりたいほどの怒りを有していると認識していたとは認定できない。)。また、エの 点につき、検察官は、被告人が暴力団を装ってCを脅すしかない 記供述を根拠に、被告人が、7月1日の時点で、BがCを殺してやりたいほどの怒りを有していると認識していたとは認定できない。)。また、エの 点につき、検察官は、被告人が暴力団を装ってCを脅すしかないと思うほど切羽詰まった状況にあったことに照らせば、被告人が認識していたBによる危害の内容は殺人まで含むものであったと推認できると主張するが、Cへの電話を一任されたAは、7月1日午後2時頃、Cに対し、被告人が考えた前記ストーリーは用いずに、Bの関係者であると告げて、再度のトラブルが心配なのでできればBに会わないで ほしい旨を求めるにとどめ、その要求をCに拒まれたものと認められ、結局被告人もAもCとBが会うのを許しているのであって、Bが殺人等に及ぶと分かってこれを食い止めようとしたにしては必死さに欠けており、そこまで分かっていたとはいえない(なお、検察官は、Aが同日午後8時15分頃にスマートフォンで「殺人時効」と検索しており、これはA、ひいては被告人が上記電話の時点でBが殺人に 及ぶと知っていたことの証左であるとも主張するが、上記検索はAがBと行動を共にしていた時間帯になされたものである上、6月19日のBとAが共に買物をしていた時間帯におけるAのグーグルマイアクティビティにBがAのスマートフォンを使って検索した可能性が否定できないメイク道具の検索履歴があること(弁5)や、同月30日に、Bが自己のパソコンからではあるが殺人・死体遺棄事件のインター ネットニュース記事を閲覧していたこと(弁11)等を踏まえると、上記「殺人時効」の検索についてもBがAのスマートフォンを借りてした可能性を排斥することは困難である。)。 5 被告人は、公判廷において、⑴BがCを「獲物」や「鹿」と呼んでいた記憶はない、Bはエタノールで何かを消毒すると思ったが不審に のスマートフォンを借りてした可能性を排斥することは困難である。)。 5 被告人は、公判廷において、⑴BがCを「獲物」や「鹿」と呼んでいた記憶はない、Bはエタノールで何かを消毒すると思ったが不審には思わなかった、7月 1日時点では、BはCとSMプレイをするものと思っており、BがCから再度ひど いことをされるのを心配して、Cを来させないようにしようとした、GPSに関するLINEメッセージを送信した際の記憶もないなどと述べた上で、⑵Bがホテルから戻った後の7月2日の朝、浴室内に見たことのないプラスチックケースが見え、その中に黒いごみ袋と液体が入っており、同日午後にはBから「おじさんの首を拾ってきた。」などと言われたが、このときはまだ何のことかはっきりとは分からず、 同月3日に、fのホテルで殺人事件があった旨の新聞記事を発見し、その記事をBに見せると、Bから「それとっておいて。」などと言われたことから、BがCを殺したのであり、浴室にある黒いビニール袋の中身はCの頭部であると確信したなどと述べる。そして、既に検討したところに照らすと、⑴の供述の信用性には疑問なしとしないが、少なくともBが殺人等を犯しCの頭部を持ち帰ったのを知った経緯 が⑵のとおりであるとの点については、その信用性を否定できる事情はない。 検察官は、被告人供述のうち、Bが7月2日午前3時頃にホテルから帰宅した際にBやAからほとんど何の話も聞かなかったという点は、BがCに会うのをひどく心配していたことと整合せず不自然であるし、その後Bが殺人等に及んだと分かってもAと具体的な相談をしなかったという点も、Bの犯行が家族の重大事であるこ とから極めて不自然であると主張する。しかし、Bの外出に関しては同行しているAを信頼していた旨の被告人の供述は特に不自然ではなく、その上で、 をしなかったという点も、Bの犯行が家族の重大事であるこ とから極めて不自然であると主張する。しかし、Bの外出に関しては同行しているAを信頼していた旨の被告人の供述は特に不自然ではなく、その上で、同日午前3時34分頃、AからこれからBをクラブに連れて行く旨のメッセージを受信し、Bが無事だったと思い声を掛けなかったと考えることもできないとはいえない。また、被告人は、BがCの頭部を持ち帰ってきたという余りに異常かつ重大な事態に感情 を失ってAと深く話し合えなかった旨説明しているところ、そのようなこともおよそあり得ないとまではいえない。 6 以上によれば、被告人が、BがCを殺害してその死体をA方に持ち帰る計画であるとの情を事前にAと共有して認識していたとは認められず、7月3日に至って初めて、BがCの頭部をA方に持ち帰り隠匿していることを認識したとの合理的 疑いは残るというほかない。 第3 死体遺棄幇助の成否について 1 Bによる死体遺棄の終了時期について⑴ まず、犯罪が終了する時点は、当該犯罪の保護法益の性質やその侵害の程度から、状態犯か継続犯かを類型的に区分して決せられるものではなく、個別具体的に、実行行為や保護法益の侵害が継続しているかという観点からも判断すべきもの と解される(最高裁平成18年12月13日第3小法廷決定等参照)。そして、刑法190条の保護法益は、死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情であるところ、これらは、社会が習俗に従って死体の埋葬等を行うことで保護されることを前提としており、そのような前提から、死体遺棄罪における「遺棄」は、習俗上の埋葬等とは認められない態様で、死体等を「放棄」する行為に加え、他者が死体を 発見することを困難にして死体を「隠匿」する行為も含むものであり(最高裁令和5年3月2 棄罪における「遺棄」は、習俗上の埋葬等とは認められない態様で、死体等を「放棄」する行為に加え、他者が死体を 発見することを困難にして死体を「隠匿」する行為も含むものであり(最高裁令和5年3月24日第2小法廷判決参照)、死体の隠匿については、葬祭義務者でなくとも継続的に法益を侵害するような態様も想定することができる。これらを考え併せれば、死体の隠匿行為が故意に継続されている場合には、習俗上の埋葬が困難にされ続け、保護法益の侵害が継続しているといえるから、その間死体遺棄罪は継続 して成立すると解するのが相当である。 ⑵ これを本件についてみると、Bは、前記のとおり、7月2日午前3時頃、Cの頭部を損壊する目的をもってA方に運び入れた上、同月24日午前8時45分頃までの間に、頭部の皮膚を剥ぎ取り、眼球や舌、食道気管を摘出するなどの損壊行為に及んだ後、摘出したものをエタノールで満たした瓶に詰め、剥いだ皮膚を球状 にしたザルにかぶせて自ら入浴に使う浴室に吊るし、残りの頭部も同浴室に置いておくなどしており、死体を相応の期間保持・保管する意図で、このような状態を続けていたものと認められる。以上の隠匿状況からすれば、Bは、捜査機関がA方に臨場するまで、Cの頭部を自己の物として自らの支配下に置き続け、故意に隠匿行為を継続させたと認定できる。 ⑶ 弁護人は、ア)大審院大正6年11月24日判決によれば、不作為による死 体遺棄が処罰されるのは、葬祭義務者が死体を埋葬せずに放置した場合に限られ、葬祭義務者でないBがCの頭部を浴室に置いた行為が遺棄に当たるとするのは同判例に反する、イ)前記⑴の解釈をとると、殺人犯が自宅内に死体を放置した場合には死体遺棄が継続して成立するが、山林に放置した場合には成立しないこととなり、極めて不合理である、ウ)前記 るとするのは同判例に反する、イ)前記⑴の解釈をとると、殺人犯が自宅内に死体を放置した場合には死体遺棄が継続して成立するが、山林に放置した場合には成立しないこととなり、極めて不合理である、ウ)前記⑴の解釈によれば、犯人が死体を自宅に持ち込んで 何もしなければ死体遺棄はその時点で終了するが、その後死体に手を加えると遺棄の終了時期が変化することになり不合理である、などと主張する。 しかし、アの点は、そもそも前記⑵のとおりBがA方浴室にCの頭部を隠匿し続けた行為は不作為ではないというべきであるから、前記判断は、死体遺棄罪は葬祭義務者が葬祭の意思なくして死体を放置しその場を離れる不作為についても成立す ることを示した前記大審院判例に何ら反するものではない。イの点は、当裁判所は死体遺棄の実行行為等が継続しているかを個別具体的な諸事情から認定することによりその終了時期を判断すべきである(かつ、それは可能である)と解するものであって、弁護人指摘のような硬直的な判断をするものではない。ウの点は、いったん死体遺棄行為を終了した者が、その後再度死体遺棄に該当する行為をした場合に、 後者について更に死体遺棄罪が成立し、処罰され得るのは当然であって、事案の具体的な内容により死体遺棄の終期が異なるのは何ら不合理でない。弁護人の主張はいずれも採用できない。 ⑷ したがって、Bによる死体遺棄は、7月24日午前8時45分頃にその隠匿が終了するまでの間成立する。 2 被告人の行為の幇助該当性について⑴ 論告等によれば、公訴事実にいう被告人による死体遺棄の「容認」とは、被告人が、A方にCの頭部があることを認識しつつ①従来どおりのBとの同居を続けて同人の生活を支えた上、頭部の隠匿場所としてA方を提供したこと、②Bから眼球が入った瓶等を見せられて「すごいね。 とは、被告人が、A方にCの頭部があることを認識しつつ①従来どおりのBとの同居を続けて同人の生活を支えた上、頭部の隠匿場所としてA方を提供したこと、②Bから眼球が入った瓶等を見せられて「すごいね。」などと発言したり、Aに対して浴室に 吊るされた頭皮を見るよう勧めたこと、③Bが頭部を隠匿するに当たり、それを阻 止するような行動に出なかったこと、といった一連の行為や態度を総合評価したものと解される。 ⑵ そして、前記第1で認定したように、被告人に前もってBの犯行に積極的に協力しようとの意欲があったとまでは認められないとしても、①Bが死体を隠匿するためにはそのための場所が必要不可欠であり、A方の所有者であるAの妻として、 本件当時はBと共にA方に居住し、かつ、独力で生活する能力のないBが現実世界での生活上種々協力を求めざるを得なかった被告人が、家族の共用部分であって被告人も日常的に使用していた浴室を死体の隠匿場所として専有することを黙認したことは、Bの死体遺棄行為を物理的、心理的に容易にしたといえる。②加えて、Bにとって実の母親であり、上記のとおり生活上依存する関係にあった被告人が、眼 球が入った瓶等の死体をBから見せられて「すごいね。」などと言うなどしたことも、仮にBに調子を合わせたものであるとしても、Bに対して死体遺棄行為を積極的に肯定したと伝わる発言というほかなく、③の頭部を保管することをとがめたり警察に通報したりするなどの態度に出なかったことと併せて、死体遺棄を継続しようというBの心理を強めたものといえる。 ⑶ したがって、被告人の以上のような行為や態度は、Bが成人であることや、BがCの頭部を自宅に置くことにつき被告人が明示的に許可したものでないこと等の弁護人指摘の事情を踏まえても、Bの前記死体遺棄の犯行を容易にし 、被告人の以上のような行為や態度は、Bが成人であることや、BがCの頭部を自宅に置くことにつき被告人が明示的に許可したものでないこと等の弁護人指摘の事情を踏まえても、Bの前記死体遺棄の犯行を容易にしたものと認定評価でき、被告人の幇助の故意に欠けるところもないから、被告人には死体遺棄幇助罪が成立する。 第4 死体損壊幇助の成否について 1 Bの死体損壊の意図に係る被告人の認識について⑴ 被告人は、捜査段階において、Bからビデオ撮影を求められた際に「作業する」と言われたので、同人がCの頭部に対し一定時間何らかの作業をするものと思った旨述べており(乙8、16)、同供述は、Bの発言とこれに基づく被告人の認 識を具体的に関連付けて供述するものであって、信用性が高い。これに加え、被告 人が同依頼以前に、Bから皮が剥がされるなどした状態のCの頭部を見せられており、Bが以前からCの頭部を損壊していることを認識していたこと、Bから撮影を依頼されたのが動画であり、動作の撮影を想起させるものであったこと、さらに被告人が自分にはその動画撮影は辛くてできないと考えたとも述べていることからすると、特段の事情がない限り、被告人は、Bから同撮影を依頼された際、Bのいう 「作業」が、浴室においてCの頭部に更に手を加えて損壊することを含むものである可能性を認識したと推認できる。 ⑵ これに対し、被告人は、公判廷において、Bが「作業」と言ったかは記憶があいまいである上、既に皮膚を剥がされた状態の頭部を更に損壊するとは思わなかった旨述べている。しかし、被告人が捜査段階から供述を変遷させた理由につき説 得的な説明をしているとはいえない上、被告人は、Cの頭部を嫌々見せられていたというのであるから、その損壊状況を具体的に把握できていなかったはずであり、更なる 段階から供述を変遷させた理由につき説 得的な説明をしているとはいえない上、被告人は、Cの頭部を嫌々見せられていたというのであるから、その損壊状況を具体的に把握できていなかったはずであり、更なる損壊は不可能であると判断できたというのはいささか不合理であって、殺害した相手の頭部を持ち帰って損壊するという異常な行動に既に出ているBが更なる死体損壊に及ばないと考えた理由を合理的に説明できているとはいい難い。これら に照らすと、被告人の上記公判供述は信用できない。 ⑶ したがって、被告人は、Bからビデオ撮影を依頼された際、同人が死体損壊に及ぶ可能性を認識していたと認められる。なお、被告人に「作業する」と言ってビデオ撮影を求めたこと等からすれば、B自身も、同依頼の時点で、Cの頭部を更に損壊することを計画していたものと認められる。 2 被告人の行為の幇助該当性について⑴ まず、Bが、ホテルでの殺人等の場面をビデオ撮影し、右眼球摘出後にその映像をAに見せたこと、また、A方において、解体した頭部をインスタントカメラ(チェキ)で撮影した写真や摘出した眼球等の入った瓶を被告人から見える位置に置いていたこと等からすると、Bは、Cの頭部を損壊する行為やその成果物を保存 して、ときにそれらを被告人らに示すことに一定の充足感を抱いていたと推認でき る。その上で、Bが、右眼球摘出に際しても自ら被告人らに撮影を依頼し、撮影後もAに対して「ちゃんと撮れた?」と確認していることからすれば、ビデオで撮影されながら右眼球を摘出することを積極的に望んでいたといえ、Aが現に撮影してくれたことで、より損壊の意思が高まったといえる。なお、Bは、自分でビデオ撮影をしながら損壊するよりも、Aに撮影してもらうことで、よりよい映像が残せる であろうことも当然考えていた が現に撮影してくれたことで、より損壊の意思が高まったといえる。なお、Bは、自分でビデオ撮影をしながら損壊するよりも、Aに撮影してもらうことで、よりよい映像が残せる であろうことも当然考えていたと推認できる。 したがって、Aがしたビデオ撮影行為は、Bの死体損壊の犯意を増強させこれを心理的に幇助したと認定評価できる(なお、検察官は、Aによるビデオ撮影行為は上記死体損壊を物理的にも幇助したと主張するが、仮にAが撮影しなかった場合にBがどのような損壊態様を想定していたかは明らかでなく、ホテル内での殺害等の 際はハンディカメラを置いて撮影していたことのほか、A方における右眼球摘出以外の死体損壊行為は撮影しておらず、Bがあらゆる損壊行為を撮影しなければならないと考えていたとまでは認められないことからすると、ハンディカメラを置いて両手で摘出したり、ビデオ撮影をせずに両手で摘出したなどの可能性も十分考えられるから、Aが撮影したことで死体損壊それ自体を物理的に幇助したとはいえな い。)。 ⑵ そうすると、被告人が、Bが意図した死体損壊行為に何ら消極的な態度を示さないまま撮影を容認した上、Aにビデオ撮影を依頼して撮影をさせたこと(なお、被告人らの供述によれば、判示のLINEメッセージを送信するまでに被告人とAのいずれがビデオ撮影をするか確定していなかったと認められること等からすれば、 Bのほうも、少なくともAがビデオ撮影をしてくれると分かった時点で、被告人がAに撮影を依頼してくれたと認識したものと推認される。)もまた、前記⑴のような心理にあったBが死体を損壊する意思をより高めるものであったといえる。 ⑶ よって、被告人の判示の行為は、Bの前記死体損壊の犯意を増強させこれを心理的に幇助したと認定評価でき、被告人の幇助の故意に欠けるところもないか 体を損壊する意思をより高めるものであったといえる。 ⑶ よって、被告人の判示の行為は、Bの前記死体損壊の犯意を増強させこれを心理的に幇助したと認定評価でき、被告人の幇助の故意に欠けるところもないから、 被告人には死体損壊幇助罪が成立する。弁護人の主張を種々検討しても、以上の判 断は動かない。 (量刑の理由) 1 まず、被告人が幇助したBの犯行は、自らが殺害・切断して自宅に持ち帰ったCの頭部を隠し持ち続けたのみならず、眼球まで摘出したという、常軌を逸する犯行であり、死者に対する一般の宗教的感情等を害した程度は著しい。動機のうち には約束を破るなどしたCへの怒りや仕返しもあったと考えられるが、一連の行動に照らすと、自身の興味や嗜好を満足させる目的もうかがわれ、前記感情に大きく反している。しかも、計画的犯行である。そうすると、Cが約束を破るなどしたことが犯行のきっかけとなったことや、病的な生命観・倫理観の歪みを踏まえても、刑法190条に係る犯行の中で犯情は非常に悪い。 また、被告人の幇助行為をみると、Bの行動を止めて精神状態を悪化させたくなかったとしても、格別斟酌することはできず、死体遺棄幇助について、浴室を隠匿場所として提供したことは、Bが望む死体遺棄に本質的な場所を与えた重要な幇助行為であったほか、BにとってAと共に実の親であり、少なくとも現実世界の生活上依存する存在であった上、Bの犯行を阻止できる唯一の立場にあった被告人がB の行動に賛辞とも取れる発言をしたこと等がBの犯意を促進した程度も小さくなかったとみるべきである。もっとも、被告人は、前もってBの犯行に協力する意思を有していたものではなく、既に持ち込まれた死体の隠匿を事後的に容認したにとどまり、また、死体損壊幇助の点は、物理的に幇助したとはいえないし、実際に損 っとも、被告人は、前もってBの犯行に協力する意思を有していたものではなく、既に持ち込まれた死体の隠匿を事後的に容認したにとどまり、また、死体損壊幇助の点は、物理的に幇助したとはいえないし、実際に損壊状況のビデオ撮影をしたAに比べれば、Bの死体損壊を促進した程度は小さい。 2 加えて、被告人に前科はなく、Bが死体を損壊するとは思わなかったと述べたり、経緯について少なからず曖昧な供述をしたりしており、自己保身的な態度もうかがわれるが、Bの犯行を止めなかったことは正しいことではなかったなどと後悔を述べている。前記1の犯情にこうした更生可能性に関する事情も加味すると、刑の執行を猶予するのが相当である。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑懲役1年6月)令和7年5月13日札幌地方裁判所刑事第3部 裁判長裁判官渡邉史朗 裁判官加島一十 裁判官畑中胡春

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