- 1 -主文被告人を死刑に処する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,大阪市所在の鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根7階建て建物「Aビル(床面積合計1394.6㎡)1階所在のビデオ・DVD試写室「B」に客と」して入店し,同店18号試写室を使用していたものであるが,同試写室に放火して自殺しようと企て,平成20年10月1日午前2時55分ころ,Cが所有し,同店の客であるD1(当時33歳)ら多数人が現にいる上記Aビル内の上記店舗18号試写室において,同店内の他の試写室内にいる客が死亡するであろうことを認識しながら,あえて,上記18号試写室内に持ち込んでいたナイロン製キャリーバッグの上口を開け,その中に入っていた衣類及び新聞紙の上にティッシュペーパー数枚を置き,持っていたライターでこれに点火して火を放ち,その火をキャリーバッグから上記の18号試写室の側壁,出入口ドア,天井等に燃え移らせて,上記店舗(約239.1㎡)を全焼させ,現に人がいる上記Aビルの建物を焼損するとともに,別表記載のとおり(別表省略,同日又は同月14日,上記店舗等において,)火災により,出火当時同店内の各試写室内にいた客のうちD1ら16名を急性一酸化炭素中毒等により死亡させて殺害し,E(当時46歳)ら7名については,消防隊員により店外に救出されるなどしたため,そのうち4名に全治約1か月間を要する気道熱傷等の傷害を負わせたにとどまり,殺害するに至らなかった。 (証拠の標目)省略(事実認定の説明)第1 争点 被告人は,本件当日,ビデオ・DVD試写室「B」に客として入店しており,公訴事実記載の時刻の直前まで18号試写室の中にいたことは認めるが,同室内にお- 2 -いて放火したことはないと主張する。 本件において,被告人が18号試写室内で公訴事実記載の方法で火を放ったか ,公訴事実記載の時刻の直前まで18号試写室の中にいたことは認めるが,同室内にお- 2 -いて放火したことはないと主張する。 本件において,被告人が18号試写室内で公訴事実記載の方法で火を放ったかどうかが最大の争点である。 第2本件火災の概要等 「B」の店内の配置,システムなど関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1)「B」は,店舗,事務所,居宅等が入るC所有の7階建てビル「Aビル」(床面積合計約1394.6㎡)の中に入っている。Aビルは,大阪市の繁華街の一角にあり,付近は建物が密集しており夜間においても人と車の通行が相当ある。 本件店舗は,Aビル1階にある床面積約239.1㎡のいわゆる個室ビデオ店である。 (2)店内の配置は別紙見取図(司法警察員作成の検証調書(甲87)添付の見取図第8号)のとおりである(別紙見取図省略。同店には,北側及び東側に出入)口が設けられている。受付兼事務室及びDVD貸出コーナーの部分と,多数の個室試写室がある部分(以下「試写室スペース」という)とは,木製枠ガラス張りドアの出入口(以下「試写室出入口」という)によって区切られている。試写室スペース自体には外に通じる出入口はなく,上記の試写室出入口を通って受付前から北側出入口に出なければ店外へ出ることができない(DVD貸出コーナーを通り抜けて東側出入口に出ることもできる。 )(3)試写室スペースには32室の個室の試写室が配置されている(各試写室を特定する際には「○号室」と記載することとする。その広さは同一ではない。 ,)各試写室の出入口は,施錠できる木製片開き(外開き)ドアが設置されていた。各試写室内には,リクライニングソファー,部屋の奥に,テレビ,DVDビデオデッキ,空気清浄機等が置かれていた。試写室には換気扇が設置されていたが,外に通 きる木製片開き(外開き)ドアが設置されていた。各試写室内には,リクライニングソファー,部屋の奥に,テレビ,DVDビデオデッキ,空気清浄機等が置かれていた。試写室には換気扇が設置されていたが,外に通ずる窓などはなかった。 試写室スペースの中の通路については,1号室前から南に向かい12号室に突き- 3 -当たる通路を「東側通路(長さ16m,幅120㎝)と,11号室前から西に向」かい,18号室前を通り29号室に突き当たる通路を「18号室前通路(幅13」5㎝)と,24号室前から北に向かいシャワー室に突き当たる通路を「西側通路」(長さ14.85m,幅117㎝)と,28号室前から東に向かい,20号室前を通って突き当たりになる通路を「20号室前通路(幅120㎝)と,それぞれ呼」称することとする。 (4)「B」の利用の方法は次のとおりである。すなわち,入店した客は,通常はDVD貸出コーナーで陳列されているDVD等を選んだ後,受付に行き,入店手続を行う。客は,応対した店員から特定の試写室を指定され,DVD等を入れたかごに部屋の鍵を入れて渡され,そのかごを持って,その試写室に行く。試写室の利用時間は,30分コース,1時間コース等のほか,午後11時から翌日の午前10時までのナイトコースがある。 (5)「B」店長Fは平成20年9月30日午後6時に出勤した。その際稼働していたアルバイト店員3名は午後10時で勤務を終え,代わりにアルバイト店員G及びHが出勤したが,Fはそのまま勤務を続けた。 被告人の生活歴及び「B」に入店する経緯関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1)被告人は,31~32歳ころに離婚したが,その後,家庭を守れなかった責任を感じ,自宅の風呂場で包丁で手首を切って腹を刺して自殺を図ったものの,死にきれず救急車を呼んだという 実が認められる。 (1)被告人は,31~32歳ころに離婚したが,その後,家庭を守れなかった責任を感じ,自宅の風呂場で包丁で手首を切って腹を刺して自殺を図ったものの,死にきれず救急車を呼んだということがあった。 平成16年に被告人の母親が死亡したが,母親の保険金や平成13年11月に大手電器会社を退職した際の退職金等の財産が5000万円にもなった。しかし,被告人は,ギャンブルやいわゆるキャバクラに通うなど,遊興に明け暮れ,2年ほどで金が底をつき,自宅を売り払うなどして,平成19年9月ころには,賃貸の共同住宅に居住するようになった。 被告人は,平成18年11月ころから,タクシー運転手や運転代行業者での運転- 4 -手として稼働していたが,平成19年11月ころからは仕事をしておらず,平成20年5月か6月ころから生活保護を受けるようになった。 (2)被告人は,平成20年9月28日深夜,心斎橋の街頭で占いをしていたEと知り合った。以来,被告人はEと行動を共にしていた。Eには,離婚及び自殺未遂等の話を打ち明けている。Eから,指輪や数珠,時計をもらったりした。被告人は,Eを「先生」と呼び「自分がお持ちしますわ」などと言ってEのキャリーバ,ッグを引いて歩いていた。 (3)被告人は,同月30日の日中は,Eの知人の宗教施設についていき,深夜になって大阪市内に戻ってきた。ラーメン店に入って御飯を食べた。被告人は,その夜の宿泊場所につき,Eから「AV見れるとこにいこうか」などと誘われており,食事をした後,Eと連れ立って「B」に赴いた。 「B」に入店後の被告人の行動等(1)関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア被告人は,平成20年10月1日午前1時15分ころ,Eと共に同店内に入り,DVD貸出コーナーからアダルトDVD1本を選ぶと,同日午前1 行動等(1)関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア被告人は,平成20年10月1日午前1時15分ころ,Eと共に同店内に入り,DVD貸出コーナーからアダルトDVD1本を選ぶと,同日午前1時20分ころ,ナイトコースを選択して入店手続を行った。なお,被告人は,タバコを吸うために簡易式ライターを所持していた。 被告人の受付は,店員のGが担当し,Gは18号室を指定した。入店した際,被告人は,Eのキャリーバッグを運んでおり,受付時にGに対してキャリーバッグを預かってくれないかと頼んだが,断られたので,キャリーバッグを運んだまま,試写室出入口を通って,試写室スペースに入っていった。キャリーバッグの中には,雑誌や衣類,色紙等が入っていた。 イその後,被告人は,通路やトイレ掃除等を担当していたHに鍵を開けてもらって,18号室に入室した。その際,Hないし被告人が,キャリーバッグを18号室の中に入れた。 ウ18号室は,幅約125㎝,奥行き218㎝,床面から天井までの高さは- 5 -230㎝であり,奥には奥行き55㎝の木製の棚が設置されている。出入口から見て右側にリクライニングソファーが置かれており,上記棚に,テレビ,DVDビデオデッキ,箱入りのティッシュが,棚の下にオットマンが置かれていた。 エEは午前1時30分ころ,受付で入店手続を行った。その際,被告人が試写室出入口から出てきて,店外に出ようとした。Gが声をかけると,被告人はタバコを吸いたい旨答えたので,Gは部屋で吸ってもよいと言った。被告人は,試写室出入口から試写室スペースに戻っていった。 オその後,被告人は,ヘッドホンをつけて,借りたDVDを再生して見たが,部屋からインターホンで,GにDVDビデオデッキの使い方等を尋ねたことがあった。また,被告人は,トイレに行ったり,どのような部屋 その後,被告人は,ヘッドホンをつけて,借りたDVDを再生して見たが,部屋からインターホンで,GにDVDビデオデッキの使い方等を尋ねたことがあった。また,被告人は,トイレに行ったり,どのような部屋があるか試写室スペースを歩き回ったり,Eの部屋を訪れたりしており,通路などで,他の客の声を聞いたり,トイレで他の客に会ったりした。 Hは,12号室と18号室の前辺りにいる被告人からタバコを吸って大丈夫かと聞かれ,吸ってもよい旨答えた。しかし,被告人は「あぶないんちゃう」などと言って納得してくれなかったので,Hは,通路にいたEに頼んで説明してもらった。 Hは,西側通路の27号室前辺りにいた被告人がさらに南の奥に行ったり,20号室前通路の東の奥に行くなどしたため声をかけ,18号室まで連れ戻すなどしたこともあった。 (2)なお,被告人は,当公判廷等において「B」に入店後,キャリーバッグ,をEに返したなどと供述する。 しかしながら,Eは,その検察官調書において「B」に入店後,被告人からキ,ャリーバッグを返されたことはなく,被告人の部屋をのぞきにいった際,室内にキャリーバッグはあった旨供述している。 この点,Gは,当公判廷において,被告人は,入店手続をすませた後,Eが入店手続をする前に,一人でキャリーバッグを運んで,試写室スペースに入っていった旨述べているし,Hも,当公判廷において,被告人が18号室に入室する際,被告- 6 -人がキャリーバッグを運んでいた旨述べており,それぞれEの供述に符合している。 さらに,後記のとおり,本件火災後,18号室からキャリーバッグの残がいが発見されているが,火災が発生する前に被告人がキャリーバッグをEに返していたとすると,この点につき合理的な説明ができない。 したがって,上記のとおり,認定したものである。 I,J及び グの残がいが発見されているが,火災が発生する前に被告人がキャリーバッグをEに返していたとすると,この点につき合理的な説明ができない。 したがって,上記のとおり,認定したものである。 I,J及びKが「B」に入店した経緯及びその後の行動について(1)関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 アI,J及びKは,仕事関係の知り合いである。同人らは,平成20年10月1日午前2時以降に「B」に一緒に入店した。 ,イJは,DVDを選んだ後,午前2時40分ころ,入店手続をし,9号室を指定されたので,同室に入った。 ウIは,DVDを選んだ後,午前2時51分ころ,入店手続をし,30号室を指定されたので,試写室出入口から試写室スペースの中に入っていった。その時点では,Kは,まだ,DVD貸出コーナーでDVD等を選んでいた。 (2)なお,Iは,当初,捜査機関に対して,9号室に入室した旨供述していたものである。 この点について,Iは,当公判廷やその検察官調書(弁2)において「本件火,災が発生し,店外に逃れた後,Jから,店内にいたことがばれたら恥ずかしい,警察等に事情を聴かれるのが面倒くさいなどとの理由で「お前が9号室にいたこと,にして,9号室に置き忘れた家や車の鍵を取ってきてくれ」などと頼まれたので,了解した。その場にいた警察官に「9号室にいたんですけど,9号室に鍵を置いてきてしまったので,時間があったら取ってきてくれませんか」などと頼んだ。店員にも9号室に鍵を取りに行きたいと言ったと思う。その後,刑事に火事にあった状況について聞かれたが,私は,既に自分が9号室にいたと話していたことから,自分の部屋番号については嘘をついてしまった」と供述するに至った。この供述は,特に不自然であるとは思われず,当初,捜査機関に虚偽の事実を述べていた理由と- 分が9号室にいたと話していたことから,自分の部屋番号については嘘をついてしまった」と供述するに至った。この供述は,特に不自然であるとは思われず,当初,捜査機関に虚偽の事実を述べていた理由と- 7 -して十分納得できる。また,Jも,Iの供述と一致する供述をしている。Fも消防司令補に対する質問調書において,Iと認められる人物について「9号室内に荷物を取りに行きたいと言ってきたので9号室の方と判りました」と述べており,Iの供述と符合している。また,火災後,9号室から鍵が発見されており,IやJの供述を裏付けている。 以上によれば,Iが,捜査機関に対して,9号室に入室した旨供述していたことは,上記認定を左右する事情とはいえない。 平成20年10月1日午前2時55分ころ,被告人以外に店内にいた者(1)店員のG,F,Hは,いずれも受付にいた。 (2)別表記載(別表省略)の23名は各試写室内にいた。Iは,入店手続をしたが指定された30号室には入っていなかった。Kは,まだ入店手続をしていなかった。 火災の発生午前2時57分ころ,119番通報がなされ,午前3時3分にL消防署の警防担当救助隊員が現場に到着した。同隊員らが試写室スペースに突入し,救出活動を行ったが,黒煙と熱気で難渋を極めた。消防車,救急車合わせて40台,127名が出動し,消火,救助活動に当たり,午前5時すぎまで救助活動が続けられた。 本件火災による被害(1)本件火災により,各試写室内にいた客23名のうち,一酸化炭素中毒等により16名が死亡し,4名が気道熱傷等の傷害を負った。 死亡者が発見された場所,死因,搬出された受傷者が発見された場所,傷害の内容及び程度等は,別表のとおりである。 (2)本件火災により「B」が全焼し,同店を経営する有限会社Mには少なく,とも5000万円 が発見された場所,死因,搬出された受傷者が発見された場所,傷害の内容及び程度等は,別表のとおりである。 (2)本件火災により「B」が全焼し,同店を経営する有限会社Mには少なく,とも5000万円,Aビルの所有者には,電気配線等の修理費用として2246万4425円の損害が発生した。 (3)多数の死傷者が出た要因について,L消防署消防士長作成の火災実況見分- 8 -・原因判定書(甲88)では「本火災においては,出火から4ないし5分で急速,に燃焼拡大したため,火災に気付いた時には高濃度の一酸化炭素等の有毒ガスを含む濃煙が一気に廊下全体に充満しており,避難行動をとった者にあっても,開口部のない閉鎖的空間で停電による暗闇も重なり視界を奪われ,また一方向のみの避難経路のため出火室前の通路を火炎により遮られ,避難することが困難な状況下となり逃げ場を失い,急性一酸化炭素中毒で死傷したと考えられる。室内で発見された死傷者にあっては,就寝又はヘッドホン着用のため避難が遅れ,室内に高濃度の一酸化炭素を含む有毒ガスが充満し,急性一酸化炭素中毒で死傷したと考えられる」と考察している。 火災後の本件現場の状況本件火災の直後から,Aビル及びその周辺につき,警察官による検証が行われ(10月9日終了,消防署員らによる火災実況見分も行われた(10月20日終)了。その概略は,以下のとおりである。 )(1)「B」内のうち焼損したのは,試写室スペースのみであった。 天井が焼損したのは,東側通路全体,18号室前通路全体,西側通路の32号室前から28号室前の部分,7号室から11号室まで,18号室,リネン室,9号室前の自動販売機設置部分,並びに,12号室から14号室まで,19号室及び29号室の各一部であった。 床面については,東側通路と18号室前通路が交わる11号室と 11号室まで,18号室,リネン室,9号室前の自動販売機設置部分,並びに,12号室から14号室まで,19号室及び29号室の各一部であった。 床面については,東側通路と18号室前通路が交わる11号室と12号室前のコーナー部分から,東側通路については5号室前まで,18号室前通路については,29号室に突き当たるまでの全体が焼損した。試写室については,床面が焼損したのは,9号室,11号室及び18号室だけであった。 (2)9号室についてドアはすべて焼失している。室内は激しく焼損しており,天井材は落下しスチール枠が露出している。壁面クロスは,奥の東面下部を残し,ほとんど焼失している。 床面には落下した天井材及び焼残物が堆積し,東面木製棚上にある落下したエアコ- 9 -ン,テレビ,空気清浄機は焼損し原形をとどめていない。床に置かれたリクライニングソファーはウレタンが焼失し,内部のスプリング及び木枠が露出している。 (3)18号室についてドアは焼失しており,ドア枠は一様に炭化している。室内は激しく焼損しており,壁及び天井のクロスは一部を残し焼失している。南面の木製棚上にはエアコン,テレビ,空気清浄機の樹脂部が溶融し,ほとんど原形をとどめていない。西側床には表張りを焼失したリクライニングソファーがあり,内部のウレタン及びスプリングが露出するほど強く焼損している。 出入口から奥に85㎝で,東側壁に接する位置に,キャリーバッグの残がいが発見された。そのキャリーバッグが接着している部分の東側壁のクロスは激しく焼損している。キャリーバッグとリクライニングソファー座面との間隔は25㎝であり,その間隔をおいてキャリーバッグと接しているリクライニングソファーの座面東端は,座面の中で最も焼損が激しい。 キャリーバッグは,その南側にあったショルダーバッグと癒着し,それに の間隔は25㎝であり,その間隔をおいてキャリーバッグと接しているリクライニングソファーの座面東端は,座面の中で最も焼損が激しい。 キャリーバッグは,その南側にあったショルダーバッグと癒着し,それに寄りかかる形で斜めに傾いており,金属製スライド式アームは伸ばされた状態で,出入口方向へ倒れていた。キャリーバッグの南側は,ショルダーバッグと癒着している下部や金属フレームを残し,焼失していた。 キャリーバッグの上部には焼損した衣類,ポリ袋等が,下部には新聞紙,文庫本等が入っていた。 第3被告人が火を放ったのか否か 出火した箇所の特定(現場の痕跡からの推論)(1)試写室スペース内の焼損状況は,前項で詳述したとおりである。これを概観すると,9号室,11号室及び18号室,並びに,11号室,12号室及び18号室前の通路等が激しく焼損しているのに対し,それ以外の部分は,さほど焼損していないか,焼損は弱いといえる。 (2)大阪府警察職員Nは「B」の焼損状況を検討し,再現燃焼実験の結果を,- 10 -踏まえ,出火箇所及びその後の炎の燃え広がり方について,以下のとおり説明した。 ア店内の焼損状況を前提に,焼けた跡を基に炎の流れをたどっていくと,出火元と考えられる箇所として,18号室内の上記のキャリーバッグが発見された箇所に行き着く。 イその前提で,本件火災における炎の流れを想定すると次のようになる。 キャリーバッグが発見された箇所から燃焼が広がり,18号室東側壁面に炎が大きく立ち上がり,リクライニングソファーにも燃え広がった。既に酸素が消費されていた奥の方には炎は燃え広がらず,出入口ドアの方に燃え広がっていった。 フラッシュオーバー現象(室内の可燃物が熱分解し,引火性のガスが発生して室内に充満した場合や,内装に使われている可燃性素材が輻射熱などによ 方には炎は燃え広がらず,出入口ドアの方に燃え広がっていった。 フラッシュオーバー現象(室内の可燃物が熱分解し,引火性のガスが発生して室内に充満した場合や,内装に使われている可燃性素材が輻射熱などにより発火した場合に爆発を起こしたように一気に燃焼する現象)が発生し,ドアが開いていた出入口の上部から非常に強い勢いで炎が噴き出た。その炎が18号室の向かいの通路北側の壁にぶつかり,壁に沿って左右に燃え広がり,また,下方向にも燃え下がった。さらにその炎は18号室内に入り,痕跡を残した。 18号室向かいの通路北側の壁にぶつかり,壁に沿って燃え広がった炎は10号室前に向かい,置いてあった3段ラックの上部を燃焼させ,非常に強烈なものになり,出入口ドアが開いていた9号室に入り込み,9号室内を焼損させた。9号室の焼損が最も激しいのはこのためである。 (3)以上のNの見解は「B」店内の特徴的な焼損状況((a)18号室内でキ,ャリーバッグが発見された付近の東側壁及びリクライニングソファーが激しく焼損していること,(b)10号室前のマガジンラックが背面から焼損していること,(c)その北側に置かれた3段ラックの上部が焼失していること,(d)11号室及び12号室のドアの焼損が弱いこと,(e)9号室内は出入口から奥へ燃え広がっていること,(f)9号室の前にあるリネン室内の燃えやすいタオル等が燃え残っていること)について,無理なく説明していて,Nの見解によって説明ができなかったり不合理な説明になったりしている部分は見当たらない。十分納得できるものである。 - 11 -また,Nの見解は,火災実況見分・原因判定書における判定((a)焼損状況等から,9号室,9号室前の飲料用自動販売機,18号室前の物品等を含め,18号室以外から出火したとは考えにくい。(b)18号室内には出火 の見解は,火災実況見分・原因判定書における判定((a)焼損状況等から,9号室,9号室前の飲料用自動販売機,18号室前の物品等を含め,18号室以外から出火したとは考えにくい。(b)18号室内には出火箇所の決め手となる床の焼け込みや物件はないとしながらも,上記のキャリーバッグ,東面の壁,リクライニングソファー等の焼損状況等から,キャリーバッグから出火したものと推察し,出火箇所は18号室中央部東寄り付近であると判定する)とも一致している。 (4)弁護人は,N見解自体に疑義を呈し,信用できないと主張する。 ア弁護人は,Nは,平成20年10月12日付け司法警察員に対する供述調書においては,焼損の激しさを基準に出火箇所は18号室であると特定しており,公判供述と矛盾することを述べていたと主張する。 しかしながら,Nは,その供述調書においても,18号室内,18号室前通路,9号室内の焼損状況等を考察し,公判供述と同様の理由で出火箇所を特定したことを説明しており,焼損の激しさを基準に出火箇所を特定したわけではない。 Nは,供述調書では,最も焼損が激しかった場所は18号室としたが,9号室についても激しく焼損していると評価しており,その上で公判供述と同様の理由で9号室からの出火を否定しているのであって,Nの説明は,変動しているわけではない。 イ弁護人は,Nが,その見解の根拠の一つとしている燃焼実験(甲74)について,18号室のみを再現したものであって,他の部屋や通路が再現されていないと主張する。しかしながら,上記の実験は,室内に置かれたキャリーバッグの上口部にティッシュペーパーを差し込み,そのティッシュペーパーにライターで着火した場合の燃焼状況を鑑定するため,室内での燃焼状況,室内から炎が噴き出す状況について観察することを目的としたものである。他の部屋や通路 シュペーパーを差し込み,そのティッシュペーパーにライターで着火した場合の燃焼状況を鑑定するため,室内での燃焼状況,室内から炎が噴き出す状況について観察することを目的としたものである。他の部屋や通路を再現せずに実験したとしても,室内での燃焼状況,室内から炎が噴き出す状況の判断に影響を与えるとは思われない。 さらに,弁護人は,上記の燃焼実験において,キャリーバッグをリクライニング- 12 -ソファーに接して置いて実験したが,実際のキャリーバッグとリクライニングソファーの位置とは異なると指摘する。本件現場では,キャリーバッグはリクライニングソファーから25㎝離れた位置で発見されているが,本件火災時,キャリーバッグがリクライニングソファーと極めて近い位置にあったことは明らかである。燃焼実験において,キャリーバッグをリクライニングソファーに接して置いたことについても,燃焼実験の結果及びそれによる判断に影響を与えるとは思われない。 ウ弁護人は,店員らの供述によれば,18号室から炎が噴き出した際,ボーンなどという音がしたり,煙が噴き出したことや,その後間もなく店内が一斉に停電したことが認められるが,Nが説明する中で言及したフラッシュオーバー現象では,その爆発音,煙が噴き出したこと及び停電については説明することができないと主張する。 Nの説明によれば「フラッシュオーバー現象自体から必ずしもそのような音が,生じたり煙が噴き出すわけではないが,フラッシュオーバー現象により18号試写室から炎が噴き出た際,何らかの衝撃によってそのような音がしたり,フラッシュオーバー現象で燃え広がった炎によって壁紙等がさらに焼損し,大量の煙が発生したりすることも考えられる」というのである。消防学校で実施された18号室等の実寸大模擬家屋を用いた燃焼実験においても,燃焼が拡大 バー現象で燃え広がった炎によって壁紙等がさらに焼損し,大量の煙が発生したりすることも考えられる」というのである。消防学校で実施された18号室等の実寸大模擬家屋を用いた燃焼実験においても,燃焼が拡大した後,大きな音が発生し,その後,強烈に噴煙が発生している。 また,停電の経過については,火災実況見分・原因判定書において,18号室から噴出した火煙が11号室前の換気扇から天井裏に入り,付近の配線被覆を損傷させ,アングル等と接触したことから漏電電流が流れ,漏電ブレーカーが作動したためであるとの見解が述べられている。これは,十分合理的な説明であり,Nの供述とも符合している。 Nの見解がフラッシュオーバー現象を考慮しているとしても,本件現場で起きた状況と矛盾するわけではない。 エ弁護人は,火災実況見分・原因判定書が,関係者の供述等を加えて検討し- 13 -た上で,18号室を出火箇所としていることからすれば,客観的な焼損状況のみから18号室を出火箇所と判定することは適切ではないと主張する。 しかしながら,上記のとおり,火災実況見分・原因判定書は,焼損状況から18号室以外からの出火は考えにくいとした上で,キャリーバッグから火が出ていたとの目撃供述があることをキャリーバッグを出火元と考察するきっかけにしたものの,結局のところ,キャリーバッグやその中身,東側の壁,リクライニングソファー,棚,天井等の焼損状況から,出火箇所は18号室中央部東寄り付近と判定したのであって,Nの説明の信頼性を低下させる事情であるとはいえない。 (5)弁護人は,N見解を批判し,出火箇所を18号室と特定することはできず,出火箇所が9号室である可能性もあると主張する。 アまず,弁護人は,9号室が最も激しく焼損していることからすれば,9号室が出火元である,18号室に外から炎が流れ込ん 18号室と特定することはできず,出火箇所が9号室である可能性もあると主張する。 アまず,弁護人は,9号室が最も激しく焼損していることからすれば,9号室が出火元である,18号室に外から炎が流れ込んだ痕跡からすれば,18号室は火元ではないと主張する。 しかし,Nは,9号室が激しく焼損した理由や18号室から噴き出した炎が再度18号室内に燃え広がった経過について合理的に説明している。9号室内が最も激しく焼損しているからといって,出火箇所であると考えることはできないこと,18号室に外から炎が流れ込んだ痕跡があっても,18号室が出火箇所であることと矛盾するものではないことは,Nによって十分説明されている。 イ弁護人は「B」において用いられている天井材は10分以上の耐火性,「能を有していた。9号室の天井材は,崩落していた。これからすると,9号室は10分以上燃焼していたはずである。午前3時5分ころに,試写室スペースに入った救助隊員は通路前方に炎を見ていない。そうだとすると,午前2時55分より前に9号室は燃え始め,午前3時5分には燃え終わっていたと考えるべきである。公訴事実では,午前2時55分に18号室で出火したということだが,9号室はそれより前に燃えていた可能性がある」と主張する。 しかしながら,そもそも「天井材の耐火性能が10分以上であるから,10分,- 14 -以上燃焼しないと天井は崩落しない」ということはできないのであって,弁護人の主張は前提を欠き,失当である。 ウ弁護人は,9号室に炎の立ち上がり痕跡があるから,9号室内で炎が立ち上がったと主張する。 検証調書(甲87)には,9号室の北壁につき「上方へV字型に炎が立ち上,がっている状況」がある旨の記載があるが,この部分の焼損状況について,火災実況見分・原因判定書においては「北面の壁は, する。 検証調書(甲87)には,9号室の北壁につき「上方へV字型に炎が立ち上,がっている状況」がある旨の記載があるが,この部分の焼損状況について,火災実況見分・原因判定書においては「北面の壁は,廊下側から室内奥に広がる半扇形,の焼き」であるというだけで炎が立ち上がった痕跡とはとらえられていないし,Nも,北面壁の焼損状況については,出入口から奥へ燃焼が進んでいる状況を示すものであると説明している。 9号室につき,ドア枠について通路側の方が室内側よりも焼損が強く,室内も出入口側から奥に行くにしたがって焼損が弱くなっていることからすれば,上記の「上方へV字型に炎が立ち上がっている状況」とされている痕跡は,炎が立ち上がった痕跡ではなく,火災実況見分・原因判定書やNの見解のとおり,通路側から奥へ炎が広がっていった痕跡であると考えるべきである。 (6)以上のとおりであって,本件現場の痕跡からだけでも,本件火災は,18号室の室内(キャリーバッグの残がいがあった地点)から出火して,18号室内に燃え広がり,炎が出入口から噴き出してさらに試写室スペース内に燃え広がっていったことが推測できる。 18号室内で出火した後の状況(出火直後の状況についての客及び店員の供述)(1)I,G及びHの供述についてアIは,当公判廷において,以下のとおり供述する。 入店手続をし,試写室出入口から試写室スペースに入り,30号室に行く前に,9号室前の自動販売機でジュースを買おうとしていた。焦げ臭いにおいがしたので,見渡したところ,ガチャというドアの開く音がしたので,音がした方を見ると,1- 15 -8号室のドアが開いて,中から白いタンクトップのような下着とトランクス姿の被告人が出てきた。被告人は,試写室出入口の方に向かって歩いてきたので,すれ違った。 そのとき,被 を見ると,1- 15 -8号室のドアが開いて,中から白いタンクトップのような下着とトランクス姿の被告人が出てきた。被告人は,試写室出入口の方に向かって歩いてきたので,すれ違った。 そのとき,被告人は,テレビがどうのこうのとぶつぶつ言っていたので「店員,に聞けや」と言った。被告人は,試写室出入口の方へゆっくり歩いていった。被告人とすれ違った後,もっと焦げ臭くなった。18号室のドアは半開きになっており,ドアのちょうつがいがある付け根の方のすき間から,赤くちかちかしているのが見えたので,その場にかごを置いて18号室を見に行った。ドアは30~40度開いていた。18号室の中をのぞくと,リクライニングソファーの左に立てて置いてあったキャリーバッグの上の方が燃えていた。炎の高さは20~30㎝くらいだった。キャリーバッグ以外の物は燃えていなかった。他の物には燃え移ってないし,「水をかけたら消えるだろう」ぐらいに思い,火を消そうと思って,試写室出入口の方に戻り,ドアから出る寸前くらいで,受付カウンターにいた店員に「水ちょうだい」と言った。その時,被告人が店員と話していた。 店員が「水はない」みたいな感じで答えたので,燃えていることを告げると,,二人の店員が走ってきて,試写室出入口から試写室スペースに入り,18号室の方に向かった。自分もその後を付いていった。するとボーンという鈍い音がして,煙が18号室の方の上の方から出てきて,電気が消えて真っ暗になった。壁伝いに出入口の方に向かい,店外に出た。 イGは当公判廷において,以下のとおり供述する。 受付をしていたところ,午前3時前くらいに,ランニングシャツとトランクス姿の被告人がやってきた。被告人の顔を見ると,涙と鼻水が出ており,よだれを垂らしていた。 被告人は,リモコンかヘッドホンについてもごもご言って ところ,午前3時前くらいに,ランニングシャツとトランクス姿の被告人がやってきた。被告人の顔を見ると,涙と鼻水が出ており,よだれを垂らしていた。 被告人は,リモコンかヘッドホンについてもごもご言っていたが,何を言っているのか分からなかった。 すると,試写室出入口ドアのところから,少し前に入っていた若い客(I)が水- 16 -をくれるように言ってきた。Fが水は売っていないと答えたところ,その客が火が出ていると言うので,試写室ドアから試写室スペースに入り,10号室から11号室の前まで行った。Hが一緒に来ていたのは分かったが,その他の者が来ていたかは分からない。奥を見ると,18号室のドアが全開になっており,ソファーの横に立てて置いてあるキャリーバッグの上から火が出ているのが見えた。炎の高さは84㎝くらいだった。思わず「なんやこれ」と叫んだ。 12号室の前に置いてある消火器を取りにいこうとしたら,Hが先に取りにいったのが見えた。後ずさりして「みんな逃げてください」と言ったところ,ボーンという音がして,18号室の上の方から天井の方に火が噴き出した。すぐ後に照明が消えて真っ暗になった。息を吸うと煙とガスのようなものを吸い込んでしまった。 その後,意識が朦朧となりながら,外に出た。 ウHは当公判廷において,以下のとおり供述する。 受付のカウンターの扉の裏にいたところ,被告人が受付のところに来て,ぶつぶつ言っていた。被告人は下着の白いシャツに短パンだった。白いシャツは軽く煤けたような感じで,黒っぽかった。Gが応対していたところ,別の客が来て「火,や」などと言ったので,Gと一緒に試写室スペースに入った。その他,だれが一緒に入ってきたかは分からない。出入口ドアを開けた時,視界はよかった。何らかの異常があれば,受付近くの消火器を持っていったはずだが,異常を感 たので,Gと一緒に試写室スペースに入った。その他,だれが一緒に入ってきたかは分からない。出入口ドアを開けた時,視界はよかった。何らかの異常があれば,受付近くの消火器を持っていったはずだが,異常を感じなかったので,持っていかなかった。 通路を進み,煤けた感じがするので,もしやと思い,11号室と12号室の間の角のところの消火器を取りにいったところ,いきなりボンと音がして暗くなった。 空気が勢いよく当たるような感じがした。 14号室か15号室のところまで下がったが,目が慣れて消火器らしきものが見えたので,取りにいったところ,18号室の方から12号室の方に炎が来たので,取ることはできなかった。 「火事ですよ」と言いながら外に出た。 - 17 -エ以上の各供述は,いずれも具体的である上,特に不自然な点も認められない。証言については,各証人とも自分の体験した事実を思い出して供述したものといえる。(a)被告人が受付に来ている際に,Iが火が出ていることを知らせに来た状況,(b)試写室スペースにおいて,ボーンという鈍い音がして,電気が消えて真っ暗になったことなど,そのときの出来事について目撃又は体験した者の供述が一致している。また,(a)キャリーバッグの上の方が燃えており炎の高さが20~30㎝であったとのIの供述と,その後にキャリーバッグの上から高さ84㎝の炎が上がっていたとのGの供述,及び,(b)18号室の上の方から火が噴き出してきたとのGの供述と18号室の方から12号室の方に炎が来たとのHの供述は,それぞれ符合する内容である。さらに,これらの供述内容は,Nが説明した出火箇所及び炎の燃え広がり方と符合するものである。 オ弁護人の主張(ア)Iの供述についてa弁護人は,Iは,実は30号室を指定されたものであるにもかかわらず,捜査段階においては,9 説明した出火箇所及び炎の燃え広がり方と符合するものである。 オ弁護人の主張(ア)Iの供述についてa弁護人は,Iは,実は30号室を指定されたものであるにもかかわらず,捜査段階においては,9号室の客であると虚偽の供述をしていたのであって,その供述は信用できないと主張するが,そのような供述をしていたことについては,上記のとおり,十分納得できる理由があるのであって,その供述が信用できないことにはならない。 b弁護人は,焦げ臭いと感じた時期について,平成20年10月1日付けの司法警察員に対する供述調書では,被告人とすれ違った後に「18号室の方か,ら何か焦げ臭いにおいが漂ってきたのです」と供述しており,被告人が18号室から出てくる前から焦げ臭いにおいがしていたとの当公判廷における供述と矛盾すると主張する。 しかしながら,その供述の意味が,被告人とすれ違った後に初めてにおいに気付いたという趣旨なのか,その前ににおいに気付いていたが被告人とすれ違った後に18号室の方からにおいがするのに気付いたという趣旨なのかははっきりしない。 - 18 -においに気付くのと被告人とすれ違ったのは,ごく短時間のうちのことと考えられ,それを説明する際に前後関係が違ったとしても,供述の核心であるIが目撃したことの内容の信用性に影響を及ぼすものとはいえない。 c弁護人は,Iは,キャリーバッグから出火しているのを見たのであるから,叫んで火事を知らせたり,助けを呼ぶのが自然であるのにそのような行動に出ていないのは不自然と主張する。 しかしながら,Iが,20~30㎝程度の炎を見た時点で,水をかけたら消えるだろうと考え,すぐに火が燃え広がるとまでは考えず,その場で声を上げなかったとしても,不自然な行動ではない。 dなお,弁護人は,9号室が出火箇所であることを前提に,I 見た時点で,水をかけたら消えるだろうと考え,すぐに火が燃え広がるとまでは考えず,その場で声を上げなかったとしても,不自然な行動ではない。 dなお,弁護人は,9号室が出火箇所であることを前提に,IやJらが放火の犯人である可能性があると主張しているが,焼損状況から出火箇所は18号室と認められる上,その主張は何らの具体的根拠のない憶測を述べているにすぎず,全く理由がない。 (イ)Gの供述についてa弁護人は,Gは,キャリーバッグから炎が出ているのを見た時の自分の位置につき,火災実況見分・原因判定書添付の消防司令補に対する平成20年10月6日付け質問調書において,図面を書いて,7号室の前辺りであるとしていたのであり,供述が変遷していて信用できないと主張する。 Gは,当公判廷において「10月8日に現場で実際に火を見た位置について説,明したが,そのときの説明が一番正確だと思う」などと供述しているところ,炎が出ていて,火が噴き出すのを目撃した状況は突然の極めて短時間の出来事であるし,その後,必死で店内から脱出したというのであるから,現場で確認するまで,炎を目撃した位置について正確に特定することができなかったものと考えられる。 b弁護人は,焼損状況からは,18号試写室のドアが全開でなかったことは明らかであるところ,キャリーバッグから炎が上がっているのを見た時,ドアが全開であったとのGの供述は,これと矛盾すると主張する。 - 19 -しかしながら,Nは,当公判廷において,燃焼実験の結果を根拠に「18号室のドアは最初から痕跡から認められる位置にあったとは考えにくい。最初はもっと開いた状態にあったとしても,18号室からの吸い込む力と空気が噴き出す力が平衡状態になって,その位置で固定した可能性も考えられる」と説明しており,これによればGの供述は18号 えにくい。最初はもっと開いた状態にあったとしても,18号室からの吸い込む力と空気が噴き出す力が平衡状態になって,その位置で固定した可能性も考えられる」と説明しており,これによればGの供述は18号室のドアの痕跡と矛盾するものではない。 c弁護人は,Gはキャリーバッグのみが燃えている状態から,一気に火が噴き出したと供述しているところ,これはNが供述する18号室内での炎の立ち上がり方等と矛盾すると主張する。 しかしながら,Gの目撃位置からは18号室の東壁を見ることはできず,リクライニングソファーも見にくかったと認められる。したがって,Gがキャリーバッグから火が上がっているのを目撃していた時点で,既に東壁やリクライニングソファーも燃え上がっていたが,Gはそれに気付かなかったものと考えられる。 (ウ)Hの供述についてHは,火災実況見分・原因判定書添付の消防司令補に対する平成20年10月6日付け質問調書において,Iと思われる人物が火災を知らせにきた状況について「このおっさんの部屋ででっかいバッグが燃えとる」と言ったと供述し,また,被告人(18号室の客)とIと思われる人物とGと18号室を見に行ったなどと供述しており,当公判廷での供述と食い違うと主張する。 しかしながら,Hが,Iから火が出ているのを聞いて,試写室スペースに入り,火事に気付いて消火を試みるものの,18号室の方から火が出てきたので断念して外に出るまでの出来事は突然に短時間のうちに生じたものである。思い違い,記憶の混乱等によりその内容が一部変動したとしても,Hが体験した事実についての供述は,大筋で確固としたものであり,それが信用できなくなるとはいえない。 また,弁護人は,Hは18号室内のリクライニングソファーの位置(右か左か)について事実と異なる供述をしていると主張するが,単なる勘違いであ で確固としたものであり,それが信用できなくなるとはいえない。 また,弁護人は,Hは18号室内のリクライニングソファーの位置(右か左か)について事実と異なる供述をしていると主張するが,単なる勘違いであると考えられる。 - 20 -(エ)各供述間の食い違いについて弁護人は,(a)GとHの供述は,Iから火災の発生を聞いた後,どちらが先頭で試写室スペースに入っていったのかという点が食い違っている,(b)Gは18号室のドアが全開であったと供述しているが,Iは18号室内を見た際,ドアを全開にしたとは供述していないなどと主張する。しかしながら,(a)の点の食い違いは重大なことではない。(b)の点については,Iは,キャリーバッグの上の方が燃えているのを見て受付に水をもらいに行こうとした際,さらに18号室のドアを開けたかどうかは覚えていないと供述しているのであって,必ずしもGの供述と食い違った供述をしているわけではない。Iにおいて,そのような細かな点について記憶していなくともその供述の核心部分の信用性を左右するものではない。 (オ)その他,弁護人が主張する点を考慮しても,上記のI,G及びHの供述の内容に疑問を抱かせるような事情はないのであって,それぞれの供述を信用することができる。 (2)被告人の供述ア一方,被告人は,当公判廷(平成20年10月20日付け検察官調書(弁6)も同旨)において,上記の時間帯に当たる状況について,次のように供述している。 Eのキャリーバッグを18号室に持ち込んだことはない。18号室のリクライニングソファーに横になってたばこをふかしながら,うとうとし始めた。煙のにおいで目が覚めたが,それほどきついものではなかった。室内は,うっすらと霞がかかったような状態だった。部屋内で何か燃えているということはない。部屋内にキャリーバ かしながら,うとうとし始めた。煙のにおいで目が覚めたが,それほどきついものではなかった。室内は,うっすらと霞がかかったような状態だった。部屋内で何か燃えているということはない。部屋内にキャリーバッグはなかった。霞がかかったような状態を解消するため,部屋の換気をしようとしたが,エアコンのリモコンの調子が悪かったので,そのことを話しに受付に行くことにした。ドアの鍵を掛けるように言われていたが,ドアを開け放したままで部屋を出た。途中,だれかとすれ違った記憶はない。受付でリモコンの調子が悪いことを言った。その後,店員から店の外に出るように言われたが,その時は- 21 -火災が発生していることには気付いていなかった。 イ以上の被告人の供述を前提とすると,本件火災後,キャリーバッグの残がいが18号室内から発見されたことについて合理的な説明ができない。また,被告人が受付でリモコンの調子が悪いことを言ったころに,本件火災が発生し,Gらが異変を聞いて,試写室スペースに入っていくなどの対応をしたことはGらが一致して供述しているところであるのに,被告人は,その点についてほとんど触れておらず,その不自然さは否定できない。 したがって,18号室にいて,換気の件を話しに受付に行った状況についての被告人の供述は信用できない。 (3)以上によれば,18号室での出火後の状況については,I,G及びHの供述どおりであると認められる。 すなわち,(a)Iが自動販売機付近にいる時,焦げ臭いにおいがした。そのとき,18号室のドアが開いて被告人が出てきた。被告人は,通路で,Iとすれ違った。 その際,テレビがどうのこうのとぶつぶつ言っていただけで,Iには火のことは何も言っていない。その時点で,Iには,ドアの付け根のすき間から赤くちかちかしているのが見えた。(b)Iが18号室前に行 た。 その際,テレビがどうのこうのとぶつぶつ言っていただけで,Iには火のことは何も言っていない。その時点で,Iには,ドアの付け根のすき間から赤くちかちかしているのが見えた。(b)Iが18号室前に行って室内を見ると,キャリーバッグの上の方が燃え,20~30㎝の炎が上がっていた。Iは,水をかければ消えるだろうと考え,水をもらいに受付の方へ戻っていった。(c)被告人は,受付に来て,店員と話したが,ヘッドホンやリモコンなどの言葉をしゃべるだけで,要領を得なかった。涙を流し,鼻水を垂らし,よだれも出ていた。(d)Iが試写室出入口まで戻り,店員に火が出ていることを伝えた。Gは,試写室スペースでたばこによるぼやが出た程度に考え,試写室スペースに入っていった。Hも入っていく時点では異常を感じていなかった。(e)Gは東側通路奥まで行った時,18号室の中のキャリーバッグから火が出ているのを見た。炎は約80㎝であった。GやHは,消火器を手に取ろうとし,Gは,客に避難するよう声を上げた。(f)そのとき,音がして,18号室の出入口上部から炎が噴き出し,直後に試写室スペース内の照明が消えた。 - 22 -Hはなおも消火器を取りにいこうとしたが,炎のため取ることができなかった。 (g)Gらは,それぞれ通路を戻って店外に脱出した。 被告人が放火したことをうかがわせるその他の事情(1)被告人が店外に出た後の事実経過まず,関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 Gは,店の外に出た後,店の中(試写室スペース)で壁をたたく音が聞こえたので,試写室スペースに入ろうと思って試写室出入口ドアを開けたが,煙がひどくて中に入ることができず,出入口の横からホースを使って試写室出入口ドアに向かって放水を始めた。Gは,午前2時57分,持っていた携帯電話で,119番通報した。 被告 室出入口ドアを開けたが,煙がひどくて中に入ることができず,出入口の横からホースを使って試写室出入口ドアに向かって放水を始めた。Gは,午前2時57分,持っていた携帯電話で,119番通報した。 被告人は,店の外をゆっくり西に向かって歩いていた。Iは,Gに,被告人を指して「あれ犯人やと思うから捕まえときや」と言った。Gは,放水中であったの,,,で,Fに「あいつを捕まえてきてください」と頼み,Fが,被告人に追いついて出入口付近に連れて戻ってきた。 Gが「何してん」と言うと,被告人は「すみません」と答えた。Gが「すみ,,,,。 ませんちゃうねん。何したかわかっとんか」と言うと,被告人が「補償もします弁護士もつけます」と答えたので,Gは「お金の問題じゃないねん。人の命がか,かっとんねんぞ」と言った。 被告人が店内に入ろうとした。Gが「何しとんねん」と言うと,被告人は,,「中にも財布が・・・」と答えた。Gが「おまえの財布なんかどうでもええね,ん」と言うと,被告人は「すみません」と言って引き下がった。 ,(2)O警察官の供述についてア本件火災発生後の午前3時30分ころ,L警察署のO警察官は本件現場に臨場した。同人は,当公判廷において以下のとおり供述する。 先に臨場していた地域警察官が,店員から犯人らしき男がいると聞いた旨報告してきて,向かいのビルの出入口にいた被告人の方を指示した。 - 23 -被告人の方に行くと,顔や着ていたランニングシャツが黒く煤けていた。 警察官だと名乗って,どういう状況か聞いたところ,被告人は「すみません。すみません」と言った。目を合わせようとせず,小刻みにふるえていた「どうした。 んや」などと聞いたが,被告人は「すみません」と繰り返していた。 ,近くのビル内に場所を移して人定事項を聞いた後,服や荷物がど せん」と言った。目を合わせようとせず,小刻みにふるえていた「どうした。 んや」などと聞いたが,被告人は「すみません」と繰り返していた。 ,近くのビル内に場所を移して人定事項を聞いた後,服や荷物がどこにあるか聞いたところ,被告人はいずれに対しても「部屋にある」と答えたので,どこの部屋か聞こうとすると「燃えた部屋にあります」と答えた。 ,「自分の部屋が燃えたんか」と聞いたところ「そうです」と答えた「お前が,。 火付けたんか」と聞くと,明確な答えはなく,数十秒間黙り込んで下を向いていたが,突然「死にたかったんですわ」と言ってきた。理由を聞くと,ランニングシ,ャツの前をまくりあげて「前にも自殺未遂を図ったことがある」旨言ってきた。 ,包丁の刺し傷のような傷が腹にあった。 被告人が「人生いやになったんですわ」と言った「だれと一緒に来たのか」と。 聞くと「先生」と答えた。L警察署で話を聞くことにした「E先生は大丈夫で,。 すか」と言ってきたので「わからない」と答えた。移動する車の中で,被告人は,「Eに利用されていたのかもしれない」と言った「Eが火を付けたのか」と聞く。 と,黙っていた。 イOの供述は,具体的であり,不自然な点は認められない「すみません」。 と繰り返したり,ランニングシャツをまくりあげて自殺未遂をした際の傷跡を見せたなどという被告人の特徴的な言動を明確に供述しており,想像で作り上げたなどというものではない。 ウ被告人は,当公判廷において「出入口付近で,警察官にいきなり「犯人,お前か」と言われた「やったんお前か「お前見たやつがおる言うとるやない。 」か「詳しいことは署で聞くからパトカー乗れ」と言われたと思う。その警察官は」O警察官ではない。自殺のことは言っていないかもしれない。傷は見せていないと思う。その後,パトカー 言うとるやない。 」か「詳しいことは署で聞くからパトカー乗れ」と言われたと思う。その警察官は」O警察官ではない。自殺のことは言っていないかもしれない。傷は見せていないと思う。その後,パトカーに乗って警察署に連れていかれた」などと供述している。 - 24 -この点についての被告人の供述は,あいまいである。警察官がいきなり被告人を犯人扱いした上,被告人の人定事項も確認しないまま,パトカーに乗せて,L署まで任意同行したというのは不自然である。被告人の供述は,信用することができない。 エしたがって,O警察官が現場に到着し,被告人をL警察署に連行するまでの間に,被告人がO警察官が供述するような言動をしたと認めることができる。 たばこによる出火の可能性について(1)ここまでの検討により,本件火災は,18号室内に置かれていたキャリーバッグの上部が出火元であることが認めることができた。ところで,本件火災後,18号室内では,たばこの吸い殻が発見されており,被告人も当公判廷において,18号室内で喫煙した旨供述している。そこで,たばこによる出火の可能性についても検討する。 (2)一般に,たばこ火は,炎のない無炎火源である微少火源に分類され,それを原因とする火災の特徴は,無炎燃焼を継続したのち,新鮮な空気の供給・熱分解によって発生した可燃性ガスの量,高温雰囲気下に入る,さらには発熱量と放熱量の問題など種々の条件を満たしたのち有炎燃焼に移行するというものであって,発火しにくい性質であるとされている。このことは,平成20年10月19日及び20日に大阪府警察本部で行われた実況見分(甲75,76)において,点火状態のたばこをティッシュペーパー,新聞紙,ポリエステル製のズボン,塩化ビニール樹脂製の床材,キャリーバッグ,リクライニングソファー上に置いても, 本部で行われた実況見分(甲75,76)において,点火状態のたばこをティッシュペーパー,新聞紙,ポリエステル製のズボン,塩化ビニール樹脂製の床材,キャリーバッグ,リクライニングソファー上に置いても,発火しなかったことからも裏付けられる。また,関係各証拠によっても,キャリーバッグが置かれていた周辺の床には特異な焼け込みが認められず,キャリーバッグの内在品についても表面的に焼けているにとどまり,内部に顕著な焼き込みはなく,たばこ火による出火をうかがわせる痕跡は認められない。 そして,キャリーバッグの素材はナイロンであるが,このような熱可塑性樹脂を素材とする繊維や成型品の場合には,たばこ火の作用を受けた時に最初に軟化した- 25 -り溶融を始め,そのとき潜熱によって冷却作用を生じたりするため引火温度や発火温度にまで達しにくく,着火しない場合が多いと認められるところ,平成21年1月8日に大阪市L消防署内で行われたキャリーバッグと同型の製品を用いての燃焼実験においては,たばこの火種がバッグ上部に落下しても内部に火種が入らず,着火しないことが確認された。また,キャリーバッグ内にたばこの火種が入るということは想定しにくいが,上記燃焼実験においてキャリーバッグ内にたばこの火種が入っても,着火しないことが確認された。 以上によれば,本件火災がたばこの火によって出火したものとは考え難く,その他,たばこによる出火をうかがわせる事情は何ら認められない。 検討(1)以上を前提に検討する。 ア18号室内のキャリーバッグから出火した際,被告人は利用客として18号室に在室していた(出火直前に他の者が18号室に入った形跡はない。被告人)が18号室から出た直後は,炎はまだ小さいものであった。したがって,被告人は,出火時に18号室の中にいて,出火に関与したものと考 在室していた(出火直前に他の者が18号室に入った形跡はない。被告人)が18号室から出た直後は,炎はまだ小さいものであった。したがって,被告人は,出火時に18号室の中にいて,出火に関与したものと考えられる。 イ被告人は,キャリーバッグからの出火に気付いたはずなのに,通路ですれ違ったIや受付にいたGらに対し,出火のことを言わなかった。これは,被告人が出火に関与したからであると考えられる。 ウ被告人はGに「すみません「補償もします。弁護士もつけます」などと」言っているが,これは,自らが出火に関与したことをうかがわせるものである。 エ出火原因としてたばこによる失火ということが考えられないことは上記のとおりであり,その他,失火をうかがわせる事情は何ら認められない。 オ被告人は,現場に臨場したO警察官から「お前が火付けたんか」と聞かれた際「死にたかったんです」と答えるなどしているが,その際の被告人の言動は,自殺目的で放火したことを認めたと考えるしか合理的な説明ができない。 カ被告人は喫煙のために簡易式ライターを所持していた。 - 26 -キ以上を総合すると,被告人がそのライターを用いるなどして,何らかの方法でキャリーバッグに火を放った事実を推認することができる。 (2)弁護人の主張ア弁護人は,被告人が放火に及ぶ動機がないから放火するわけがないと主張する。 しかしながら,被告人がO警察官に発言した内容,被告人は以前自殺を図ったことがあることからすると,本件においても自殺目的で放火したとしても不合理ではない。ただし,なぜ自殺することを思い付いたのかは,以上の事実関係からは明らかにならない。 イ弁護人は,キャリーバッグに放火するというのは,自殺方法として不合理であると主張するが,18号室内で衝動的に自殺することを思い付いたとするならば のかは,以上の事実関係からは明らかにならない。 イ弁護人は,キャリーバッグに放火するというのは,自殺方法として不合理であると主張するが,18号室内で衝動的に自殺することを思い付いたとするならば,その場で自殺する方法として,キャリーバッグに放火するという手段をとったとしても,それ以上に適当な方法は見当たらないのであるから,不自然とは思われない。 ウ弁護人は,被告人は,店の外に出た後,再び店内に入り18号室に財布を取りに行こうとしたが,これは,被告人が18号室で火災が発生したことを認識していなかったことを示すものであると主張する。 確かに,被告人は,店内に戻ろうとして,Gに止められた後「中にも財布がど,うのこうの」と発言している。しかしながら,上記のとおり,この時点において,Gはホースを使って放水による消火を試みるなどしているのであって,被告人が火災の発生に気付いていないとは考えられない。被告人はGに,補償を申し出たのであるから,自分の部屋から出火したことについても認識していたことは明らかである。 上記のような「中にも財布がどうのこうの」という発言にかかわらず,被告人が18号室に戻ろうとしたとまでは認められず,被告人が店内に戻ろうとした理由は判然としないが,被告人が放火していないことを示す事情があるとはいえない。 - 27 -第4被告人の故意 現住建造物等放火罪の故意(1)被告人が,火を放つ時点で本件店舗内に従業員やEら他の客がいることを認識していたことは明らかである。 (2)18号室の扉は木製であり,室内には木製棚,リクライニングソファー,オットマン等の可燃性の高い物が備え付けられていたが,被告人は,これらの点については,当然認識していたはずである。 (3)被告人は,本件放火前に試写室スペース内を歩き回ったり,Eの部屋( ソファー,オットマン等の可燃性の高い物が備え付けられていたが,被告人は,これらの点については,当然認識していたはずである。 (3)被告人は,本件放火前に試写室スペース内を歩き回ったり,Eの部屋(17号室)を訪れたりしていたのであるから,通路の配置及び通路両側に試写室が並んでいることや,各試写室の扉が木製であり,各試写室内には上記のとおり可燃性の高い物が備え付けられていることを認識していたものと認められる。 (4)被告人において,上記のような事実を認識した上で,リクライニングソファーに近接して置いていたキャリーバッグ上部に火を放ったものである。そのような方法で火を放てば,炎が18号室内,さらには通路や他の試写室に燃え広がり,「Aビル」の一部である「B」の建物を焼損させるに至ることは容易に想像できることである。被告人においてもそのことを認識していたものと認められる。そして,そのような認識のもとで本件放火に及んだのであるから「B」の建物を焼損する,ことを認容していたと考えられる。 (5)上記のとおり,被告人は,出火したことを店員らに告げていないが,この事実は,上記認定に沿うものということができる。 (6)以上によれば,被告人に現住建造物等放火罪の故意があったというべきである。 殺人罪の故意(1)被告人が,本件放火行為により炎が18号室内から通路や他の試写室に燃え広がることを認識していたと認められることは上記のとおりである。 (2)また,被告人が,本件放火当時,他の試写室内にEら他の客がいることを- 28 -認識していたことも認められる。 (3)そして,被告人は,試写室スペース内を歩き回っていたのであるから,試写室スペースからは試写室出入口を通らなければ外へ出られないことや試写室スペースの通路が狭いこと,したがって,火災が発 る。 (3)そして,被告人は,試写室スペース内を歩き回っていたのであるから,試写室スペースからは試写室出入口を通らなければ外へ出られないことや試写室スペースの通路が狭いこと,したがって,火災が発生した場合に試写室スペースから脱出しにくい構造であることを認識していたことも認められる。 (4)宿泊するために本件店舗を訪れたものであること,火を放ったのが午前3時前という時間帯であることによれば,被告人は,他の客が就寝しているであろうことを認識したと考えられる。自分でもヘッドホンを使用したことなどから,ヘッドホンを利用している客がいるであろうことを認識していたことも十分推認できる。 (5)したがって,上記のような事実を認識した上で,本件放火行為に及べば,炎が18号室から試写室スペースの通路や他の試写室まで燃え広がって,逃げ遅れた他の客が死亡するに至る危険があることは容易に想像できるのであって,被告人はその危険は十分認識していたと考えられる。そして,そのような認識のもとで本件放火に及んだのであるから「B」の各試写室内にいた客が死亡することを認容,していたというべきである。 (6)被告人が,出火したことを,店員らに告げていない事実は,この認定にも沿うものであるということができる。 (7)以上によれば,被告人に入店手続をして各試写室内にいた「B」の客らに対する殺人罪の故意があったというべきである。 以上の次第であって,被告人に「B」の客などが現に存在するAビルの一部である「B」の建物についての現住建造物等放火罪の故意,及び,入店手続をして各試写室内にいた客らに対する殺人罪の故意があったことを認定する。 第5本件放火の態様及び動機の詳細上記のとおり,被告人が,本件当日午前2時55分ころ,18号室内で,キャリーバッグの上部に何らかの方法で火 内にいた客らに対する殺人罪の故意があったことを認定する。 第5本件放火の態様及び動機の詳細上記のとおり,被告人が,本件当日午前2時55分ころ,18号室内で,キャリーバッグの上部に何らかの方法で火を放ち,その火が燃え広がって本件火災となったこと,放火する際,被告人は,火が店内に燃え広がって店舗を焼損させ試写- 29 -室に入室していた者らが死亡することになってもかまわないと思っていたことを認定した。しかし,犯行の具体的態様や,犯行を決意した経緯の詳細を解明するためには,被告人の供述による必要がある。 被告人の捜査段階の自白が,捜査官に対して任意に供述されたものであれば,その内容を検討することとする。 取調べの状況等について(1)関係各証拠によれば,次のとおりである。 アL警察署に同行した直後の取調べ(ア)O警察官は,現場付近で被告人に質問をしていたが,被告人は重要参考人となるものと判断して,L警察署に任意同行して,さらに話を聞こうと考え,被告人にL警察署に同行することについて承諾を求め,その承諾を得て,午前4時ころ,被告人を自動車に乗せて,L警察署に向かった。 (イ)L警察署に到着後,午前4時21分から,O警察官が被告人を取り調べた。生活安全課取調室にはもう一人P警察官がいた。被告人は,人定事項や所持品やBに入った経緯等については,いくぶん話したものの,現場で「すいません」などと謝った理由については明確な話はせず,出火原因や出火元についても話すことはなかった。 (ウ)午前5時ころ,O警察官は,被告人の取調べを大阪府警察本部に所属するQ警察官に引き継いだ。Q警察官は,R警察官と共に取調室に入り,被告人を取り調べた。 (エ)Q警察官の取調べにおいて,被告人は「火付けました。死にたかった,んです」と放火したことを認め,店の るQ警察官に引き継いだ。Q警察官は,R警察官と共に取調室に入り,被告人を取り調べた。 (エ)Q警察官の取調べにおいて,被告人は「火付けました。死にたかった,んです」と放火したことを認め,店のティッシュペーパーを丸めて,キャリーバッグに置いて,持っていたライターで火を付けたと話した。午前5時20分ころ,被告人は「部屋の中のティッシュを一ぱいとって丸めて私のキャリーバッグの中に,火をつけたティッシュを入れました」などとの内容の自供書を作成した。これについて,Q警察官が「火が付いたティッシュをかばんに入れた」ということでよいの- 30 -か確認したところ,被告人は「ティッシュを丸めたやつを置いてから火を付けた」旨説明した。 イその後の逮捕及び勾留中の取調べ(ア)同日午後2時34分に,警察官は,被告人を,殺人,殺人未遂,現住建造物等放火の被疑事実により逮捕した。その際の弁解録取,10月2日のS検察官による弁解録取,10月3日の裁判官による勾留質問のいずれの機会にも,被告人は被疑事実を認めた。 (イ)その後,Q警察官及びS検察官が被告人を取り調べた。被告人は,10月17日までは,18号室にキャリーバッグを持ち込んだこと,自分がそのキャリーバッグに放火したことについて一貫して認めていた。 (ウ)一方,被告人は,10月1日午後6時58分から,T弁護士と接見した際にも,放火したことを認めていた。その後,弁護人に選任された同弁護士及びU弁護士は被告人との接見を重ねていたが,被告人は,10月16日までは,弁護人に対しても放火の事実を認めていた。 ウ10月17日以降の取調べ(ア)10月17日午後6時6分ころからT弁護人と接見した際,被告人は,同弁護人に対して「本当は,ティッシュを丸めて火を付けた覚えはない」と述べた。 (イ)10月18 ウ10月17日以降の取調べ(ア)10月17日午後6時6分ころからT弁護人と接見した際,被告人は,同弁護人に対して「本当は,ティッシュを丸めて火を付けた覚えはない」と述べた。 (イ)10月18日のS検察官の取調べにおいて,その冒頭に,被告人は,「弁護人に対して「火は付けていない」と話した」と供述したが,結局,放火し,た事実を認める旨の供述をし,その旨の供述調書が作成された。 10月19日のS検察官の取調べにおいても,被告人は,当初「火は付けてません。キャリーバッグも持ち込んでません」と話したが,結局,放火の事実を認める供述をし,これもその旨の供述調書が作成された。 (ウ)被告人は,10月20日のS検察官の取調べにおいて,それまでの供述を変更し「キャリーバッグを18号室に持ち込んでいない。キャリーバッグに火,を付けていない」と供述し,10月21日のQ警察官及びS検察官の取調べにおい- 31 -ても,放火した事実を否認した。 公判においてもその旨の供述をしていることは上記のとおりである。 (2)捜査官に対する供述の任意性についての弁護人の主張ア同行直後の自白について弁護人は,被告人は,L警察署での逮捕前の取調べにおいて,放火の事実を否認する被告人に対して,警察官が机をたたいて「お前の部屋が火元だ「お前が火を」付けたのだろう」と怒鳴りつけて威迫したので,被告人は怖くなって放火を認める供述をしたものである旨主張する。 被告人は,L警察署での取調べにおいて「最初,火は付けていないと答えてい,たが,二,三人の警察官に次々「お前しかおらんのや「お前の部屋から火出てる」の見たやつおるんや」などと言われ,机をたたかれた。その後,R警察官ににらまれ,ボスみたいなQ警察官が出てきて,お手上げという感じになって,放火したことを認め,自供書を 「お前の部屋から火出てる」の見たやつおるんや」などと言われ,机をたたかれた。その後,R警察官ににらまれ,ボスみたいなQ警察官が出てきて,お手上げという感じになって,放火したことを認め,自供書を書いた。R警察官及びQ警察官は机をたたくなどしたことはない。O警察官から取調べを受けた記憶もない」などと供述する。 しかしながら,この供述は,机をたたくなどした警察官に対して放火の事実を認めたのか,Q警察官に対して初めて放火の事実を認めたのかなどの点について,あいまいなものにとどまるし,しかも内容が変遷しているのであって,信用できない。 また,Q警察官及びO警察官は,被告人に対して,大声を出したり,机をたたくなど威嚇的な取調べはなされていないと供述している。 被告人が自供書を作成したのが午前5時20分であり,これは,火災発生から約2時間30分しか経過していない。この時点において,現場の実況見分等はもちろん,参考人からの事情聴取等も十分に行われていないことは明らかであるが,そのような段階で,被告人が供述するような,机をたたいたり,追及的な厳しい取調べの手段を用いるとは到底考え難い。威圧的な取調べはなかったとするO警察官及びQ警察官の供述を信用することができる。 したがって,被告人が自白する前に,警察官らから机をたたくなどの威圧的な取- 32 -調べはなかったと認められる。その他,被告人が自白した経緯や状況に任意性に影響を与えるような事情はない。 適切な方法による取調べを受けて,取調開始後約1時間で自白し,具体的な放火方法等につき自供書を作成したというのであるから,被告人は自らの記憶にしたがって供述したものと考えられる。 イQ警察官及びS検察官に対する自白供述弁護人は,その後のQ警察官及びS検察官の取調べにおいて,被告人と親密な関係を築いて信頼を得 から,被告人は自らの記憶にしたがって供述したものと考えられる。 イQ警察官及びS検察官に対する自白供述弁護人は,その後のQ警察官及びS検察官の取調べにおいて,被告人と親密な関係を築いて信頼を得る一方,弁護士は信用できないとして弁護人に対する信頼を失わせて,被告人の自白を維持させたと主張する。 しかしながら,Q警察官及びS検察官は,弁護人に対する信頼を失わせることを被告人に告げた事実を否定しており,被告人も,Q警察官及びS検察官がそのような発言をした旨供述していない。その他,Q警察官及びS検察官が被告人に対して弁護人に対する信頼を失わせるような発言をしたことをうかがわせる事情は認められない。 また,他に,Q警察官及びS検察官による取調べにおいて,被告人の自白の任意性に影響を与えるような事実は認められない。 (3)以上の次第で,被告人が捜査官に対してした自白供述には任意になされなかった疑いはないとして,それらの供述調書(乙1,2,4ないし12)を採用した。しかし,上記の取調べ経緯にも現れているように,捜査期間中において,被告人の心情が揺れ動いていたことがうかがわれるのであって,どこまで信用できるかは,改めて検討しなければならない。 (4)被告人の否認について上記のとおり,被告人は,S検察官の取調べにおいて,10月19日までは,放火した事実を認めていたものの,その一方で,10月17日の弁護人の接見において,放火の事実を否認し,また,10月19日のS検察官の取調べにおいても,当初,放火の事実を否認する供述をした。 - 33 -しかしながら,被告人は,10月18日のS検察官の取調べにおいて「死刑に,なりたくないから,弁護士に嘘の話をしてしまった,きちんと事件に向き合います「キャリーバッグの中に入れたティッシュに火を付けたことは間違いない 人は,10月18日のS検察官の取調べにおいて「死刑に,なりたくないから,弁護士に嘘の話をしてしまった,きちんと事件に向き合います「キャリーバッグの中に入れたティッシュに火を付けたことは間違いない」と」供述している。また,10月19日の取調中に「弱い心が出てしまいます。また,事件から逃げました「卑怯者になりたくはありません。事実と向き合い,本当の」ことを話します「キャリーバッグの中に入れたティッシュに火を付けた」旨供述」している。 この点についてみるに,16名の被害者の死亡という重大な結果を生じさせた犯行を犯した者の心境として,犯行をいったん認めながらも,厳しい刑罰が予想されることから,何とかしてその刑罰から逃れたいと思って心が揺れ動くことは,理解できないことではない。放火を否認する供述をするなどした後,すぐに放火を認める供述をするに至っていることにも照らすと,放火を否定する供述等をした理由として被告人が検察官の取調べにおいて述べたところは,被告人が自分の心境を素直に供述したものと考えられる。 そうすると,被告人が,弁護人の接見や検察官の取調べにおいて,放火の事実を否認して,供述が揺れ動いたとしても,自白調書の信用性に大きな影響があるとは考えられない。 自白の内容(1)次に自白の内容につき検討するが,被告人の捜査段階における自白の内容をまとめると以下のようになる。 「B」に入った時「なんや,ここ,しょーもなー」と感じた。DVDを選ん「,で,受付をした際,店員にキャリーバッグを預けようとしたが,断られた。キャリーバッグを持って,18号室に向かった。鍵を開けようとしたが開かなかったので,モップを持った店員に鍵を開けてもらった。このとき,店員から小馬鹿にされたように思えた。室内に入ったとき「せまっー」と感じた。いったん,受 ,18号室に向かった。鍵を開けようとしたが開かなかったので,モップを持った店員に鍵を開けてもらった。このとき,店員から小馬鹿にされたように思えた。室内に入ったとき「せまっー」と感じた。いったん,受付に行ったところ,EがまだDVDを選んでいたので声をかけ,18号室に戻った。服を脱- 34 -ぎ,ノースリーブの白いシャツと黄色のトランクスに靴下という格好になって,ヘッドホンをつけて,借りたDVDを見て自慰行為をした。トイレに行った際,大便をきばる者の声が聞こえ「なんでそんな奴と一緒のトイレを使わなあかんねん」,「なんでこんなとこ俺おんねん。情けなー」と思った。また,窮屈な部屋に戻るのがいやで,南側の通路に行ったことがあった。一番南側は,行き止まりになっていて,出入口も窓もなかった。南側一番奥か奥から2番目あたりの部屋から男の「あー」というもだえ声が聞こえてきて「こんなやつと同類か」と思い情けなく,なった。部屋に戻った後,Eが訪れてきたので,部屋から出て,Eの部屋である17号室に行った。部屋を見て「広いですね「すごいですね」などと言った。1,」8号室に戻り,トイレに行くなどした後,眠ろうとした。眠りたいのに眠れないというイライラした気分だった。窮屈な18号室の空気がいやだった。こんな場所にいるのもいやだった。俺は変態ちゃうぞなどと思った「Eみたいな人と,なんで。 こんなとこに来なあかんねん。なんでこんなおっさんの荷物持たされてんねん。なんやねん」と思った。こんな場所にいる自分が惨めになり,俺の人生はなんやったんやと考えているうちに死にたいと思った。生きていても何もいいことないし,ここで死のうと思った「おとうちゃん,お母ちゃんのところに行きたい。おとう。 ちゃん,お母ちゃん,俺を助けてくれた人ごめんな。俺といっしょに死ぬ人ごめんな と思った。生きていても何もいいことないし,ここで死のうと思った「おとうちゃん,お母ちゃんのところに行きたい。おとう。 ちゃん,お母ちゃん,俺を助けてくれた人ごめんな。俺といっしょに死ぬ人ごめんなさい」などと思った。 そして,Eのキャリーバッグのファスナーを開けた。中には,衣類や新聞紙,Eの商売道具が入っているのが見えた。部屋にあったティッシュを5枚くらいとって,キャリーバッグの上の部分のファスナーを開けたところに,そのティッシュを詰め込み,たばこを吸うために持っていたライターの火をそのティッシュに付けて,ライターの火をティッシュに燃え移らせた。Eや店員,他の客のことはけがをしようが死んでしまおうが関係ない,自分がここで死のうと決めたんだからどうなってもいいという思いで火を付けた。私が死んでしまうほど燃えるということは,建物も燃えることである。建物が燃えれば,逃げ遅れてけがをしたり,死人が出ることぐ- 35 -らい理解していた。また,店内にいた他のお客さんのことが頭をよぎり「俺に巻,き込まれて死ぬ人,ごめんなさい」と思ったが,15名もの人が巻き込まれる結果となることまでは予想していなかった。これで死ねると思い,リクライニングソファーに横たわり,目をつぶった。1分もたつかたたないかくらいで,焦げ臭いにおいと煤で目が痛くなって,息が苦しくなり,このままここでは死ねないと思った。 それで,私は部屋から出た」(2)ア被告人の自白は,放火した状況について,その方法,その際の心理状態等,詳細で具体的である。特に,当時の心理については,本件の前からの移り変わりも含めて詳しく描写されている。出火箇所等,全般にわたって,他の証拠から認められる事実と符合している。 イさらに,被告人は,自供書を書いた10月1日午前5時20分ころには既に,ティッシュを 変わりも含めて詳しく描写されている。出火箇所等,全般にわたって,他の証拠から認められる事実と符合している。 イさらに,被告人は,自供書を書いた10月1日午前5時20分ころには既に,ティッシュをキャリーバッグに入れて,そのティッシュに放火した旨,供述するに至っている。 Q警察官は,当公判廷において,その当時,O警察官らから,被告人の部屋が出火元と思われることや,被告人が現場で「すみません」と言っていたことを聞いたぐらいで,その他,本件が大きな火災事件になることは知っていたものの,それ以上,火災原因等についての情報は知らなかったと供述しているが,その時点ではまだ火災発生から約2時間30分しか経過していないことからすれば,同供述は十分信用できる。 なお,弁護人は,自供書中の「私のキャリーバッグ」との記載につき,Eのキャリーバッグについて警察官の指示や示唆もないのに「私の」と書くはずがないと主張するが,自分が持ち込んだという趣旨で「私の」と記載したと考えられるのであって,弁護人の主張は理由がない。 そうすると,被告人は,取調官がキャリーバッグが出火箇所であるとは知る前から,キャリーバッグに放火した旨供述していたことになる。このことは,被告人の捜査段階の自白が取調官の誘導によるものではないことを示すものである。 - 36 -(3)弁護人の主張ア供述の変遷について弁護人は,被告人は,平成20年10月1日,2日及び8日のQ警察官の取調べでは「他の客のことはけがをしようが死んでしまおうが関係ない」などと供述し,ていたのに,同月13日のS検察官の取調べでは「僕に巻き込まれて死ぬ人,ごめんなさい」と思ったと供述していると主張する。しかし,これは自白の信用性に影響するような変遷ではない。その他,弁護人が主張するところを検討しても,自白の信用性の べでは「僕に巻き込まれて死ぬ人,ごめんなさい」と思ったと供述していると主張する。しかし,これは自白の信用性に影響するような変遷ではない。その他,弁護人が主張するところを検討しても,自白の信用性の判断に影響するような供述の変遷は認められない。 イ証人の供述との食い違い弁護人は,被告人が10月9日の実況見分時に,火を付けた後,受付に行く際,18号室のドアをほぼ全開にした状態まで開けたと説明しているが,Iの供述と食い違う。被告人は,平成20年10月11日付け司法警察員に対する供述調書において,18号室に最初に入る際「キャリーバッグを離して,鍵を開け,キャリー,バッグを押して個室に入った」と供述しているが,Hの供述と食い違うと主張するが,細かな点にすぎない。 他にも,入店してからの行動について,G,H,Eの供述と噛み合わないところが,若干あるが,放火するに至った経緯や放火した状況などという核心部分の信用性に大きく影響するものではない。 ウその他,弁護人の主張を考慮しても,被告人の捜査段階の自白に虚偽が含まれているとは考えられない。 3(1)以上のとおりであるから,被告人の自白調書の記載はおおむね信用することができ,犯行態様,犯行を決意するに至った経緯については,これによって認定することができる。 すなわち,犯行態様は,リクライニングソファーの横に置いてあったキャリーバッグの上口を開け,室内にあったティッシュの箱からティッシュを5枚くらい取って,キャリーバッグの上口のところに詰め込み(衣類や新聞紙の上,ライターを)- 37 -着火して,その火を上記のティッシュに燃え移らせたものと認定する。 次に,犯行を決意するに至った経緯については,Eと知り合った時に,Eに対し,昔,自殺を図ったことがあることを打ち明けたりはしたものの,Eと行動を共にし を上記のティッシュに燃え移らせたものと認定する。 次に,犯行を決意するに至った経緯については,Eと知り合った時に,Eに対し,昔,自殺を図ったことがあることを打ち明けたりはしたものの,Eと行動を共にしている間には,自殺を考えたり企てたりした形跡はない。本件店舗に入店してからも,店の雰囲気,部屋の狭さなどに若干うっ屈した気分を持ったものの,すぐに自殺を企図したわけではない。Eが部屋を訪ねてきて,逆にEの部屋を訪ねた時点でも,Eに追従的な言葉を述べたりしていて,自殺を企てるようなそぶりはうかがえない。その後,18号室に戻って,自白内容にあるとおり,眠ろうとしても眠れないまま,自分が個室ビデオ店にいることがいやになり,自分の人生が何だったのかと考えるうち,その場ですぐ自殺しようと決意した。極めて衝動的な自殺の決意であるというべきである。被告人には刃物による自殺を企てたことはあるが,焼身自殺を企てたことはないから,どのような形で死ぬのかについての基本的な想定は乏しく,炎によって焼死する又は煙に巻かれて死亡することを考えていたと思われる。 (2)弁護人の主張ア弁護人は,被告人には放火して自殺する動機がないから,動機に関して述べている自白も信用することができない,と指摘するようである。 イその根拠として,次の点を指摘している。 (ア)被告人は,マイナス思考の人間ではあったが,自殺をする気持ちはなかった。まして,自宅などではなく,初めて入った本件店舗で自殺を決意する状況はない。Eと知り合って行動を共にし,翌日以降も仕事を手伝うつもりであった。 さらに10月2日には生活保護費が支給される予定であった。このような状況にあるのに,自殺することを考えることはあり得ないし,放火すれば別の部屋にいるEを巻き込んでしまうかもしれないのに,あえて放火しようとするこ 2日には生活保護費が支給される予定であった。このような状況にあるのに,自殺することを考えることはあり得ないし,放火すれば別の部屋にいるEを巻き込んでしまうかもしれないのに,あえて放火しようとすることは考えられない。 (イ)被告人には,社会や本件店舗に何の恨みもない。自分の境遇や社会に恨みをもち,それを無関係な人に向けて晴らすという状況にもなかった。Eを殺害す- 38 -る動機もない。本件店舗に入った後「情けない」という気持ちを持ったかもしれ,ないが,だからといって,他の客を巻き込んでまで自殺を図る動機と考えるには無理がある。 ウこれらについて検討する。 (ア)翌日以降,Eの仕事を手伝う予定があったり,生活保護費が支給される予定があったとしても,被告人は衝動的に自殺を決意したものと考えられる。放火する時点ではそれらのことは被告人の思考の中には入っていなかったと思われる。 (イ)被告人は,本件店舗内で突然,自殺を決意し,そのためにEや他の客が巻き込まれて死んでしまってもかまわないと考えたというのであり,Eや他の客の殺害を積極的に意図したわけではないのであって,そのような心理状態は,Eを殺害する動機がないことや社会や本件店舗等に恨みがないということと矛盾するものではない。 (ウ)被告人が入店後,部屋の狭さなどに情けないと思ったことなどは,自殺を思い立つ直接の動機となったわけではなく,そのような気分の中で自分の境遇を考えるうちに自殺を決意するに至ったものと考えられる。 (エ)したがって,弁護人の主張を考慮しても,被告人が供述していた内容,すなわち自殺をしようと考え,そのためにキャリーバッグに火を付けて18号室を燃え上がらせようとしたという動機は,十分理解できるものである。 第6 結論 以上のとおり,被告人の捜査段階での自白以外の すなわち自殺をしようと考え,そのためにキャリーバッグに火を付けて18号室を燃え上がらせようとしたという動機は,十分理解できるものである。 第6 結論 以上のとおり,被告人の捜査段階での自白以外の証拠から,被告人が,何らかの方法でキャリーバッグに火を放ったこと,その際,被告人に「B」の客などが現に存在するAビルの一部である「B」の建物についての現住建造物等放火の故意,及び「B」の各試写室内にいた客らに対する殺人の故意があったことを認めるこ,とができた。これに上記の被告人の自白を総合して,被告人が,公訴事実のとおり殺人,殺人未遂,現住建造物等放火の罪を犯した事実を認定することができる。 なお,弁護人は,被告人には完全責任能力はなかった旨主張するが,被告人- 39 -に生じていた具体的な精神障害については何らの主張をしていないし,本件放火当時,被告人に何らかの精神障害が生じていたことをうかがわせるような事情も認められない。弁護人の主張は失当である。 弁護人は,自殺するためにキャリーバッグに火を放つなどということは考えられず,そのような異常な行動に出たとするならば,被告人の責任能力には問題があるはずであるなどと主張するが,自殺の方法としてキャリーバッグに放火するということについては,被告人が供述したとおりで,そのように考えたことは了解可能である。 したがって,本件放火当時,被告人が完全責任能力を有していたと認める。 (法令の適用)被告人の判示所為のうち,現住建造物等放火の点は刑法108条に,各殺人の点は被害者ごとにいずれも同法199条に,各殺人未遂の点は被害者ごとにいずれも同法203条,199条にそれぞれ該当するが,これは1個の行為が24個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項,10条により1罪として犯情の最も重い殺人罪の刑で処 未遂の点は被害者ごとにいずれも同法203条,199条にそれぞれ該当するが,これは1個の行為が24個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項,10条により1罪として犯情の最も重い殺人罪の刑で処断し(なお,各殺人は,現住建造物等放火及び各殺人未遂と比べれば犯情は重い。しかしながら,各殺人は,そのいずれもが等しく犯情は悪く,その間に軽重の差があるとは認め難い。したがって,同法10条によって各殺人の刑のいずれが最も重いかを決することはできないから,判示所為は1罪として殺人罪(判示各殺人のうちいずれであるかを特定することなく)の法定刑によって処断するほかはない,所定刑中死刑を選択し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項た)だし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)第1本件事案の概要本件は,被告人が,いわゆる個室ビデオ店に入店し,個室試写室で,自殺をするために持ち運んでいたキャリーバッグに火を放ち,被害店舗を全焼させ,同店の客16名を急性一酸化炭素中毒等により死亡させ,他の7名については自力脱出した- 40 -ため,又は救急隊員によって救出されたため死亡させるに至らなかった(うち4名は気道熱傷等の傷害を負った)という現住建造物等放火,殺人及び殺人未遂の事案である。 第2本件犯行の動機及び態様 本件当日,被告人は,Eに連れられて本件店舗に入店した。個室に入って眠ろうとしたが眠れず,イライラした気分になり,自分を惨めに思って死にたいと考え,火を付けて自殺しようと企て,試写室内にいた他の利用客が火災に巻き込まれて死亡してもかまわないと考え,本件犯行に及んだ。 被告人は,衝動的に自殺することを決意して犯行に及んだものであり,他の利用客を積極的に殺害する意図があったとまでは認めることはできないが,犯行の動機は,短絡的で かまわないと考え,本件犯行に及んだ。 被告人は,衝動的に自殺することを決意して犯行に及んだものであり,他の利用客を積極的に殺害する意図があったとまでは認めることはできないが,犯行の動機は,短絡的で身勝手極まりないものであって,酌量の余地はない。 本件店舗の構造等は既に見たとおりである。すなわち,各個室のドアは木製であり,室内には可燃性の高い物があった。試写室スペースには出入口が一つしかなく,通路も狭いものであった。各個室には換気扇以外に窓がなかった。火災が起きたときに,利用客が避難しにくい構造であった。また,本件は午前3時近くで,既に就寝していた客も多かったと考えられる。 被告人が放った火が燃え広がり,店内には煙が充満した。直後に停電し,照明が消えて,店内は暗闇になり,店外に脱出するのは極めて困難であったと思われる。 多数の利用客が死亡するに至ったのは,上記のような店内の構造・設備などもその一因であることは否定できない。 しかし,被告人は,店内を歩き回って,店内の構造がそのようなものであることや他にも利用客が在室していることを認識しており,それを承知で本件犯行に及んだものであって,これは多くの人の生命を危険にさらす極めて悪質なものであるといわなければならない。 被告人は,キャリーバッグに火を付けた後,しばらくは部屋の中にいたものの,苦しくなって逃走したが,他の客や店員に火が出たことを知らせようともしなかっ- 41 -た。 第3犯行の結果 被告人の犯行により,16名もの尊い命が失われた。死亡した16名の被害者は,本件当夜,たまたま本件店舗を利用していたもので,被告人とは全くかかわりのない者であった。もとより,何の落ち度もない。被害者らは,各個室を割り当てられ,就寝などに利用している時に突然本件に巻き込まれたものである。遺体の姿が物 利用していたもので,被告人とは全くかかわりのない者であった。もとより,何の落ち度もない。被害者らは,各個室を割り当てられ,就寝などに利用している時に突然本件に巻き込まれたものである。遺体の姿が物語るように,就寝中に火災に気付くことなく絶命した者も,火災に気付いて脱出しようとしたものの,暗闇の中,力尽きて絶命した者もいる。被害者らの苦痛,恐怖は,計り知れないものであったであろう。このような形で16名もの人々の生命を断った犯行は,残虐なものといわなければならない。 死亡した被害者について,個別に事情を見る。 (1)D1は,両親と同居する自宅から会社に通勤し,収入をその家計に入れ,家族の生活を支えていた。仕事で遅くなった場合は自宅に帰らず,安価な宿泊施設を利用するようにしていて,本件当日も本件店舗を利用したため火災に遭遇した。 (2)D2は,専門学校を卒業後,空調機材関係の仕事をしていた。一時,両親と音信不通となったことはあったが,平成20年9月中旬には連絡がとれ,父親に,「休みをとって家に帰る」旨伝えていた。しかし,両親の元に戻る前に本件火災に遭遇した。 (3)D3は,大学中退後,各地で仕事をしていた。30年近く親族と連絡することはなかったようであるが,親族らと再会することなく,本件被害に遭った。 (4)D4は,内妻と結婚するため,懸命に働いていた。本件前日に新築マンションに引っ越したが,疲れをいやすためにサウナに出掛けた後,本件被害に遭い,新居で生活することはなかった。 (5)D5は,経営していた会社が倒産し,借金を背負ったが,資格をとって介護ヘルパーとして働いていた。訪問介護の仕事は朝が早かったことや,賃貸住宅を借りるよりも安いことから個室ビデオ店に泊まるようになっていたが,本件当日も- 42 -本件店舗に宿泊していて,本件 て介護ヘルパーとして働いていた。訪問介護の仕事は朝が早かったことや,賃貸住宅を借りるよりも安いことから個室ビデオ店に泊まるようになっていたが,本件当日も- 42 -本件店舗に宿泊していて,本件被害に遭った。 (6)D6は,運送関連の仕事等をしていた。当時,親族の家に身を寄せていたが,勤務時間が不定期だったようである。本件当日も本件店舗に宿泊し,本件火災に遭遇した。 (7)D7は,妹と一緒に住み込みで廃品回収の仕事をしていた。D7は,持ち込まれた空き缶の整理の音がうるさいので,十分な睡眠をとるために本件店舗に泊まっており,本件火災に遭遇した。 (8)D8は,長い間,実家で不遇な生活をしていたが,両親の死後,独り立ちして生活するようになった。本件当日,本件店舗を利用しており,本件火災に遭遇した。 (9)D9は,劇団に入って俳優を目指し,アルバイトをしながら,俳優のけいこに励んでいた。下積みが実り,最近はテレビ番組に出演し,本件当時は平成21年公開の大作映画に出演するための撮影の最中であった。本件当日,本件火災に遭遇し,映画の完成を見ることはできなかった。 (10)D10は,コンピューターソフトの製造会社に就職し,ソフト開発に従事していたが,会社が倒産した。その後,保証人となった相手が行方知れずとなり,その借金を背負うことになった。その問題は解決したが,D10は,家族の前から姿を消してしまい,行方不明となり,家族が身を案じ,帰りを待っていた。本件当日,本件火災に遭遇した。 (11)D11は,平成12年に,医療用ソフトの販売会社を立ち上げ,全国の医師を相手に手広く取引を行っていた。大阪に出張した際,いつも宿泊するホテルが満室だったため,本件店舗に宿泊し,本件被害に遭遇した。 (12)D12は,プロゴルファーとして活躍していたが,腰 全国の医師を相手に手広く取引を行っていた。大阪に出張した際,いつも宿泊するホテルが満室だったため,本件店舗に宿泊し,本件被害に遭遇した。 (12)D12は,プロゴルファーとして活躍していたが,腰痛に悩むようになり,レッスンプロとして稼働していた。娘の進学資金等を作るため,安い宿泊施設に泊まるようにして生活費を節約していた中,本件当日,本件被害に遭った。 (13)D13は,大学卒業後,アルバイトをしながら,給料から月3万円を家- 43 -計に入れていた。本件翌朝,仕事のため早朝に出発することになっており,出発の際に家族に迷惑をかけないように前夜から本件店舗に宿泊し,本件火災に遭遇した。 (14)D14は,平成16年ころ,母方を出て自立した生活を送っていた。本件の数日前,母名義の保険証を返すために母親方を訪れたのが最後であり,本件当日,本件被害に遭遇した。 (15)D15は,3~4年前に妹に元気な姿を見せたのが最後であった。本件当日,本件店舗を利用していて,本件被害に遭遇した。 (16)D16は,約5年前から大阪で飲食関係の仕事をしていた。約4年前,実家に顔を出したものの,それ以来,実家に連絡をせず,両親が心配していた。本件当日,本件被害に遭った。 たまたま利用していた本件店舗で突然人生の終わりを迎えることになった各被害者の無念を思うと暗澹たる気持ちにならざるを得ない。 各被害者の遺族の悲嘆も深く大きい。遺族らは,意見陳述や供述調書等によって,それぞれの悲しみや被告人に対する憎しみ等を述べる。多くの遺族は被告人に対する厳正な処罰を訴え,極刑を望んでいるが,至極当然のことである。 4(1)また,他の7名の被害者は,煙が発生した暗闇の中でやっとの思いで自力で脱出し,あるいは,避難できずに意識を失い救助されたものであって,その恐怖感や 刑を望んでいるが,至極当然のことである。 4(1)また,他の7名の被害者は,煙が発生した暗闇の中でやっとの思いで自力で脱出し,あるいは,避難できずに意識を失い救助されたものであって,その恐怖感や苦痛は極めて大きかったものと考えられる。うち4名は気道熱傷等の傷害を負った。同人らの処罰感情も厳しい。 (2)さらに,本件火災により,被害店舗が全焼し,同店舗の経営会社には少なくとも5000万円,同店舗が入っていたビルの所有者には修理費用として約2200万円という極めて多額の財産的損害が生じている。 (3)また,繁華街の一角にある本件店舗に火を放って火災を発生させたことは,周辺の住民,関係者らに生命,身体,財産の危険を及ぼすものである。 被告人の犯行によって16名もの貴重な人命が奪われたこと,7名が生命の危険にさらされたこと,また,火災の発生によって建物が焼損し公共の危険が生じ- 44 -たことは,社会にとって重大な脅威であるといわなければならない。 第4被告人の生活歴 被告人は,大阪府内の高校を卒業した後,トラック配達助手として就職したがほどなくして辞め,大手電器会社に就職した。25歳の時,社内で知り合った女性と結婚し,長男と長女をもうけたが,31~32歳ころに離婚した。 被告人は,長男の親権者となり,母親と3人で生活し始めた。この時期に妻と離婚したために,子どもたちが離ればなれになってしまったことなどに責任を感じ,生きることがいやになって,自宅のふろ場で包丁で手首を切り,腹を刺して自殺を図った,ということがあった(このときは自分で119番通報をし,救急隊によって病院に搬送された。 )その後職場に復帰したものの,早期退職者の募集に応じ,40歳の時に,22年間勤務した会社を退職した。その後,失業保険給付を受けたり,たこ焼き屋でアルバ 報をし,救急隊によって病院に搬送された。 )その後職場に復帰したものの,早期退職者の募集に応じ,40歳の時に,22年間勤務した会社を退職した。その後,失業保険給付を受けたり,たこ焼き屋でアルバイトをしたりしていた。 42歳の時に母親が死亡し,母親から相続した財産や,自分の退職金等合わせて5000万円の財産を手にしたことから,競馬やパチンコ等のギャンブルをしたり,いわゆるキャバクラに通ったりするなど遊興に明け暮れていたため,2年ほどで金が底をついてしまった。それで,門真市の自宅を売り払い,東大阪市にマンションを購入して差額を得たが,これもギャンブルで使ってしまい,そのマンションも売り払って,賃貸の共同住宅に住むことになった。そのころ,長男が家を出ていき,一人で暮らすようになった。 被告人は,平成18年11月ころから,タクシー運転手や運転代行業者での運転手として働いたこともあったが,本件の前年である平成19年11月ころからは仕事をしていない。 平成19年2月には,心臓の病気で1か月ほど入院した。このころ「他人の養,子になったら10万円やる」という話に乗って,養子縁組をしたこともある(この件では,元に戻そうとしたところ,逆に金を請求され,弁護士に相談したというこ- 45 -ともあった。 ) 被告人は,平成20年5月か6月ころに東大阪市の共同住宅(本件当時の自宅)に引っ越した。また,知人の勧めを受けて,そのころから生活保護(月12万円)を受けるようになったが,思うようにパチンコに行くこともできず,ストレスがたまっていた。仕事を見つけるために支援センターに行ったこともあるようだが,結局仕事には就いていない。 被告人には前科,前歴はない。特に犯罪傾向があるとは思われない。また,被告人は上記のとおり病気を抱えており,それが仕事に就け に支援センターに行ったこともあるようだが,結局仕事には就いていない。 被告人には前科,前歴はない。特に犯罪傾向があるとは思われない。また,被告人は上記のとおり病気を抱えており,それが仕事に就けない事情の一つになったとも考えられないではないが,本件当時における被告人の境遇は自らの生活態度の結果が招いたものであって,本件犯行について上記の点は被告人にとって酌むべき事情にはならないと考える。 第5捜査段階及び公判段階における被告人の態度被告人は,犯行直後から,警察官に対し,自分が放火したことを認め,取調べに対して,事実を詳しく供述していたが,捜査段階の終盤,自白を撤回して犯行を否認し,当公判廷においても,自己が放火したことを否定している。自分の行った犯罪やその結果に真摯に向き合う態度に欠けているといわざるを得ない。 第6 結論 以上のとおりであって,本件は,被告人が身勝手な動機から,本件店舗に火を放って焼損させ,16名の被害者を殺害し,7名の被害者を生命の危険にさらしたもので,その行為を行った被告人の人格態度は最大限の非難に値する。特に酌量すべき事情がない限り,死刑をもって臨むしかない事案であると考える。 死刑を選択するについては慎重の上にも慎重を重ねて検討すべきであるが,以上にみた本件犯行の罪質,経緯,動機,態様,結果,被害感情,社会的影響及び犯行後の情状などを総合考慮し,特に,被告人が他人の生命を全く省みずに試写室に火を放ったこと,これにより多数の者が生命を断たれたことを考えると,上記のように被告人が他の利用客らの殺害を積極的に意図したわけではないことや被害の拡大- 46 -に本件店舗の構造等が寄与していることなど,被告人にとって有利に斟酌すべき事情を最大限考慮しても,被告人はその生命をもってその罪を償うべき場合に該当するとの結論 はないことや被害の拡大- 46 -に本件店舗の構造等が寄与していることなど,被告人にとって有利に斟酌すべき事情を最大限考慮しても,被告人はその生命をもってその罪を償うべき場合に該当するとの結論に至った次第である。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑死刑)平成21年12月15日大阪地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官秋山敬裁判官栗原保裁判官荒井格
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