令和5年6月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和3年(ワ)第31644号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和5年3月27日判決主文 1 被告は、原告に対し、33万円及びこれに対する令和2年12月21日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを6分し、その5を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。 4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求被告は、原告に対し、195万円及びこれに対する令和2年12月21日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は、原告が、インターネット上の短文投稿サイトであるツイッター上に、被告により原告の人格権を侵害する投稿がされたとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として195万円及びこれに対する不法行為の日である令 和2年12月21日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者 原告は、フォトジャーナリストであり、東南アジア、中東、アフリカなど で貧困や難民問題などを取材している。原告の父は、いわゆる在日コリアン二世である。(甲2、15)原告は、被告がツイッター上で原告の人格権を侵害する投稿をしたと主張している。 ⑵ ツイッター上の投稿 ア原告は、令和2年12月13日、インターネット上に、原告の父に関する記事である「 原告は、被告がツイッター上で原告の人格権を侵害する投稿をしたと主張している。 ⑵ ツイッター上の投稿 ア原告は、令和2年12月13日、インターネット上に、原告の父に関する記事である「もうひとつの『遺書』、外国人登録原票」(以下「本件原告執筆記事」という。)を公表した(甲1、2)。 イ令和2年12月21日午前9時51分(協定世界時では同日午前0時51分)、上記アの本件原告執筆記事に対して、アカウント名「ツイッター が潰れることを心から願う」のアカウント(以下「本件アカウント」という。)から、以下のツイートが投稿された(以下、このツイートを「本件記事」といい、本件記事を投稿した行為を「本件投稿」という。)。 「在日特権とかチョン共が日本に何をしてきたとか学んだことあるか? 嫌韓流、今こそ韓国に謝ろう、反日韓国人撃退マニュアルとか読んでみろ チョン共が何をして、なぜ日本人から嫌われてるかがよく分かるわいお前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ」(甲1、弁論の全趣旨)⑶ 発信者情報開示仮処分及び発信者情報開示訴訟原告は、原告を債権者、ツイッターを運営しているツイッター、インク (Twitter,Inc)(以下「ツイッター社」という。)を債務者として、本件投稿の発信者情報を仮に開示することを求める仮処分の申立てをした。東京地方裁判所は、令和3年2月24日、ツイッター社に対し、本件アカウントにログインした際のIPアドレスのうち、本件投稿直前のログイン(以下「本件ログイン」という。)がなされた以降のものであって債務者が 保有するもの全て及びこれらについての各ログインの年月日及び時刻を仮に 開示することを命じる仮処分決定をした(以下「本件仮処分決定」という。)。 (甲8。なお、原告 あって債務者が25保有するもの全て及びこれらについての各ログインの年月日及び時刻を仮に 3 開示することを命じる仮処分決定をした(以下「本件仮処分決定」という。)。 (甲8。なお、原告は、本件仮処分決定に基づきツイッター社から送られた原告代理人に対するメール及び同メールに記載されたURL先のファイルであるとして甲第14号証を提出している。そこには、本件仮処分決定に対応するログイン情報が記載されており、本件投稿の直前のログインである本件5ログインに該当する情報として、令和2年12月20日23時17分52秒(協定世界時)に「124.45.21.185」のIPアドレスを割り当てられていたことなどが記載されている。ただし、被告は甲第14号証の成立の真正等を争っている。)その後、原告は、株式会社エヌ・ティ・ティエムイー(以下「本件プロバ10イダ」という。)に対し、本件仮処分決定に基づきツイッター社から開示を受け、それによれば、本件投稿直前のログイン(本件ログイン)は本件投稿の1時間34分前の令和2年12月20日23時17分52秒(協定世界時)であり、その際のIPアドレスは「124.45.21.185」であるところ、当該IPアドレスは、本件プロバイダを経由するものであったとして、15当該日時に当該IPアドレスを割り当てられていた契約者に関する氏名又は名称及び住所の開示を求める訴訟(以下「別件発信者情報開示訴訟」という。)を東京地方裁判所に提起し、同裁判所は、令和3年8月26日、原告の請求を認容する判決を言い渡した(甲9)。 上記判決を受けて、本件プロバイダは、原告に対し、被告の氏名及び住所20を開示した(甲10)。 ⑷ 関連法令等ア 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法 上記判決を受けて、本件プロバイダは、原告に対し、被告の氏名及び住所20を開示した(甲10)。 ⑷ 関連法令等ア 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(以下「差別的言動解消法」という。)前文25我が国においては、近年、本邦の域外にある国又は地域の出身である 4 ことを理由として、適法に居住するその出身者又はその子孫を、我が国の地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動が行われ、その出身者又はその子孫が多大な苦痛を強いられるとともに、当該地域社会に深刻な亀裂を生じさせている。 もとより、このような不当な差別的言動はあってはならず、こうした5事態をこのまま看過することは、国際社会において我が国の占める地位に照らしても、ふさわしいものではない。 ここに、このような不当な差別的言動は許されないことを宣言するとともに、更なる人権教育と人権啓発などを通じて、国民に周知を図り、その理解と協力を得つつ、不当な差別的言動の解消に向けた取組を推進10すべく、この法律を制定する。 第二条この法律において「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」とは、専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(以下この条において「本邦外出身者」とい15う。)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。 20イ あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(以下「人種差別撤廃条約」という。)第4条 ことを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。 20イ あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(以下「人種差別撤廃条約」という。)第4条締約国は、一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又25は人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若し 5 くは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。このため、締約国は、世界人権宣言に具現された原則及び次条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って、特に次のことを行う。 5⒜ 人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。 10⒝ 人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。 ⒞ 国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと。 153 争点及びこれに関する当事者の主張⑴ 本件投稿は被告が行ったものか(争点1)(原告の主張)ア 本件ログインをした者が被告と認められるか令和3年2月24日付けの本件仮処分決定を受けてツイッター社から20メール(甲14)により開 稿は被告が行ったものか(争点1)(原告の主張)ア本件ログインをした者が被告と認められるか令和3年2月24日付けの本件仮処分決定を受けてツイッター社から メール(甲14)により開示された本件ログインのIPアドレス及びログイン日時について、当該日時に当該IPアドレスを割り当てられていた契約者の情報開示を求める別件発信者情報開示訴訟を提起し、その認容判決を受けて本件プロバイダから開示された本件ログインに係る契約者が被告であったことからすると、本件ログインをした者は被告である。 被告は、ツイッター社から原告に送信されたメール(甲14)の成立 の真正を争っているが、同メールは本件仮処分に対応するものであることが明記されていること、同メールの形式及び内容はツイッター社から発信者情報が開示される場合に通常使用されるものであることから、上記のメール(甲14)は、真正に成立している。 イ本件投稿を行った者が被告と認められるか ツイッターに投稿するにはあらかじめ設定したパスワードを入力してアカウントにログインすることが必要であり、ログインをした状態を数日間保持したまま投稿を繰り返すことも可能であるところ、本件投稿は本件ログインから1時間34分後にされているのであるから、本件ログインをした者が本件投稿をしたと推定できる。そして、上記アのとおり、本件ログ インをしたのは被告であるから、被告が本件投稿をしたと認められる。 (被告の主張)ア本件ログインをした者が被告と認められるかツイッター社により開示された情報とされるメール(甲14)は、メール部分及び同メールのURL先のファイルと考えられる部分のいずれ についても、改変の可能性があり、成立の真正が認められない。したがって、本件ログイ 示された情報とされるメール(甲14)は、メール部分及び同メールのURL先のファイルと考えられる部分のいずれ についても、改変の可能性があり、成立の真正が認められない。したがって、本件ログインに係るIPアドレスを本件ログイン時に割り当てられた契約者が被告であるとは認められない。 被告は、インターネットを利用するに当たり、第三者が、パスワードを入力せずとも、数十メートル離れたところから接続できるルーターを 使用していたから、仮に本件ログインに係るIPアドレスを本件ログイン時に割り当てられていたのが被告であり、本件ログインが被告の契約するインターネット回線を経由してなされたものであったとしても、それは、被告の友人又は近隣住民が被告のルーターを経由してインターネットに接続してログインを行ったものである。 したがって、本件ログインをした者が被告であると認めることはでき ない。 イ本件投稿を行った者が被告と認められるか本件ログインと本件投稿の間には1時間34分の間があり、この時間差は、本件ログインをした者が本件投稿をした者であると認定するには長すぎる。 また、ツイッターのシステム上、複数の端末が同一アカウントにログイン行為を行い、そのログイン状態が競合することはあり得るから、本件投稿がその直前のログイン行為によるログイン状態を利用して行われたものであるとは直ちにいえない。 したがって、本件ログインをした者が被告と認められるとしても、本 件投稿をした者を被告と認めることはできない。 ⑵ 不法行為の成否(争点2)(原告の主張)原告は、原告が主張する被侵害利益は①憲法13条が保障する人格権、②本邦外出身者がそのことを理由に差別され地域社会から排除されない権利、 不法行為の成否(争点2)(原告の主張)原告は、原告が主張する被侵害利益は①憲法13条が保障する人格権、②本邦外出身者がそのことを理由に差別され地域社会から排除されない権利、15③本邦外出身者がその出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティであると主張し(原告第2準備書面)、同準備書面を陳述した令和4年11月7日の本件弁論準備手続期日において、①の具体的な内容が②及び③であると説明していることからすれば、原告の主張する権利ないし利益は以下のア及びイのとおりと整理される。 20ア 本邦外出身者がそのことを理由に差別され、地域社会から排除されない権利の侵害による不法行為差別により、等しく尊厳を有する人間であることや、社会の一員であることを否定されることは、憲法13条の保障する個人の尊厳の核心を直接侵害するものといえるから、本邦外出身者が専ら本邦の域外にある25国又は地域の出身であることを理由として差別され、排除されないこと 8 を人格権として直截に認めるべきである。したがって、原告は、本邦外出身者がそのことを理由に差別され、地域社会から排除されない権利を有する。 上記の権利の侵害の有無は、差別的言動解消法2条に該当するか、憲法14条1項及び人種差別撤廃条約の趣旨に反するかによって判断さ5れるべきである。 「チョン」は在日朝鮮人に対する差別的な言葉であるところ、本件記事の「チョン共」に原告の父親が含まれることは明らかである。そして、本件記事の「お前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ」との記載は、原告自身が卑しい出自であることを指摘するものであるから原告自10身に対する差別的表現である。そうすると、以下のa~cのとおり、本件投稿は、差別的言動解消法2条に該当するか、憲法14 の記載は、原告自身が卑しい出自であることを指摘するものであるから原告自10身に対する差別的表現である。そうすると、以下のa~cのとおり、本件投稿は、差別的言動解消法2条に該当するか、憲法14条1項及び人種差別撤廃条約の趣旨に反するものといえるから、本件投稿により、本邦外出身者がそのことを理由に差別され、地域社会から排除されない権利が侵害されたといえ、不法行為が成立する。 15a 差別的言動解消法2条に該当するか「チョン」とは、在日朝鮮人に対する典型的な差別語であるところ、在日コリアンに対して、「在日特権」を有していることから日本人に嫌われている「チョン共」であるとする本件記事は、「在日特権」という全く根拠のない虚偽の風説を根拠に、朝鮮人であるとの出自に着20目して、本邦外出身者に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で、本邦外出身者を著しく侮蔑するものであるから、差別的言動解消法2条の「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当する。 b 憲法14条1項の趣旨に反するか本件記事の表現は、朝鮮人であるとの出自に着目して、本邦外出身25者に対する差別的表現を助長し又は誘発する目的で、本邦外出身者を 9 著しく侮蔑し差別するものである。よって、本件投稿は、憲法14条1項の趣旨に反する。 c 人種差別撤廃条約の趣旨に反するか本件記事は「在日特権」という全く根拠のない虚偽の風説を根拠に、在日コリアンに対して、「在日特権」を有していることから日本人に5嫌われている「チョン共」であると述べるものであるから、「人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てる」宣伝(人種差別撤廃条約4条柱書。同条によれば、締結国はこれを「根絶することを目的とする迅速かつ積極的 、「人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てる」宣伝(人種差別撤廃条約4条柱書。同条によれば、締結国はこれを「根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をと」ることとされる。)に該当する。したがって、本件投稿は、10人種差別撤廃条約の趣旨に反する。 イ 本邦外出身者がその出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティの侵害による不法行為変更不能又は変更が著しく困難で、個人と切り離すことができない一定の属性が、個人のアイデンティティと不可分になっている場合、自己15がその属性を有することを認識し、かつ、当該属性を持っていることについて社会から尊重されているとの感覚を持つことは、個人の人格的生存にとって不可欠である。したがって、本邦外出身者は、自己が本邦の域外の国又は地域の出身であるとの属性を有することを認識し、かつ、当該属性を持っていることについて社会から尊重されているとの感覚を20持つことができなければならない。そして、上記の感覚は、「本邦外出身者がその出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティ」として保護されるべき法益である。上記法益は、本邦外出身者がそれぞれ有する自らの出身国等の属性に関して有する名誉感情を含む概念であるが、単なる名誉感情にとどまるものではない。 25上記の法益が侵害されているかどうかは、上記アで述べたことと 10 同様の判断方法により判断されるべきである。よって、上記アと同様の理由から、本件投稿により、本邦外出身者がその出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティが侵害されたといえ、不法行為が成立する。 (被告の主張)5ア 本邦外出身者がそのことを理由に差別され、地域社会から排除されない権利の の出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティが侵害されたといえ、不法行為が成立する。 (被告の主張) ア本邦外出身者がそのことを理由に差別され、地域社会から排除されない権利の侵害による不法行為「本邦外出身者がそのことを理由に差別され、地域社会から排除されない権利」なるものを人格権として認めることは、本邦外出身者について特別に人格権を認めることであって、憲法14条1項に反する。また、 原告の主張は、上記の権利を民法709条の法律上保護される利益として相当な理由なく認めるものである。 差別的言動解消法に罰則規定が設けられていないのは、表現行為の萎縮的効果に配慮する趣旨によるものであることを踏まえると、同法2条に該当することをもって不法行為は成立しないと解するべきであるから、 上記の権利侵害の有無を同法2条の該当性によって判断するのは適切でない。また、憲法14条1項に反するか及び人種差別撤廃条約の趣旨に反するかという基準は、何ら明確なものではないから、採用されるべきではない。 本件記事における「チョン共」は日本人から嫌われるようなことをし た韓国・朝鮮系の人々のみを指すものであり、原告及び原告の父親を含むものとは読めないこと、原告の父親に向けられた表現が原告に対する表現になるとはいえないことからすると、本件記事は、原告に向けられた差別的表現とはいえない。したがって、仮に原告の主張する基準によって権利侵害の有無を判断するとしても、本件投稿は、差別的言動解消 法2条に該当するとも、憲法14条1項及び人種差別撤廃条約の趣旨に 反するともいえないから、本件投稿により、原告の、本邦外出身者がそのことを理由に差別され、地域社会から排除されない権利が侵害されたとはいえず、不法行 1項及び人種差別撤廃条約の趣旨に 11 反するともいえないから、本件投稿により、原告の、本邦外出身者がそのことを理由に差別され、地域社会から排除されない権利が侵害されたとはいえず、不法行為は成立しない。 イ 本邦外出身者がその出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティの侵害による不法行為5「本邦外出身者がその出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティ」は、原告が勝手に構築した何らの正当性の認められない理論である。 「本邦外出身者がその出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティ」は、名誉感情を含む概念というより、名誉感情の一部分であ10ると理解すべきである。 上記の権利についても、上記アと同様の理由から、侵害されたとはいえず、よって、不法行為は成立しない。 ⑶ 損害額(争点3)(原告の主張)15ア 慰謝料原告は、日本で生まれ育ち日本社会の一員として生活してきたにもかかわらず、「チョン共」と非難され、「日本人から嫌われている」とされ、その「出自」が卑しいなどと決めつけられたことに強い衝撃を受けた。その慰謝料は、150万円を下らない。 20イ 発信者情報開示請求のための弁護士費用原告は、被告を特定するために、本件仮処分決定に係る発信者情報開示仮処分命令を申し立て、別件発信者情報開示訴訟を提起せざるを得なかった。発信者情報の開示のため原告が弁護士費用として負担すべき金員のうち、本件の不法行為と相当因果関係があるのは少なくとも30万円である。 25ウ 本件訴訟のための弁護士費用 12 本件訴訟を提起するため原告が弁護士費用として負担すべき金員のうち、本件の不法行為と相当因果関係があるのは、請求額の1割に当たる15万円である。 (被告の主張) めの弁護士費用 12 本件訴訟を提起するため原告が弁護士費用として負担すべき金員のうち、本件の不法行為と相当因果関係があるのは、請求額の1割に当たる15万円である。 (被告の主張)ア 慰謝料5慰謝料は100円を超えて認められない。 原告が本件記事により強い衝撃を受けたとはいえない。 また、原告が主張する権利侵害と、原告が受けたと主張する強い衝撃との間に相当因果関係は認められない。 さらに、本件投稿が本件記事1件であること及び本件記事の内容からす10ると、損害額が150万円であることが相当であるともいえない。 イ 発信者情報開示請求のための弁護士費用否認する。 発信者情報開示のためには、裁判外の任意開示もあり得るから、弁護士に依頼することは不可欠ではなく、相当因果関係も認められない。 15ウ 本件訴訟のための弁護士費用否認する。 本件訴訟で問題となっているのは本件記事1件のみであること、法律構成も複雑でないこと、訴状のひな形等がインターネットに公開されていることから、本件訴訟について弁護士に依頼することは不可欠ではなく、相20当因果関係も認められない。 第3 当裁判所の判断1 本件投稿は被告が行ったものか(争点1)⑴ 本件ログインをした者が被告と認められるかア 前提事実及び弁論の全趣旨によれば、原告は、ツイッター社に対して25本件記事の発信者情報を仮に開示することを求める仮処分の申立てについ 13 て東京地方裁判所から令和3年2月24日に本件仮処分決定を得、本件仮処分決定に対応してツイッター社から開示を受けた情報を基に本件プロバイダに対し、本件投稿の1時間34分前の令和2年12月20日23時17分52秒(協定世界時)に「124.45.21.185」のIPア 処分決定に対応してツイッター社から開示を受けた情報を基に本件プロバイダに対し、本件投稿の1時間34分前の令和2年12月20日23時17分52秒(協定世界時)に「124.45.21.185」のIPアドレスを割り当てられていた契約者に関する氏名等の開示を求めて別件発信5者情報開示訴訟を提起したことが認められる。この過程において、原告がツイッター社からログイン情報の開示を受けていないとか、開示されたログイン情報と異なるログイン情報に係る発信者情報の開示を求めて別件発信者情報開示訴訟を提起した状況はうかがわれず、そのような動機もない。 前提事実によれば、別件発信者情報開示訴訟の認容判決を受けて、本10件プロバイダから被告の氏名及び住所が開示されたというのであるから、ツイッター社から開示された本件投稿の直前の本件ログインの日時である令和2年12月20日23時17分52秒(協定世界時)に本件ログインがされた際のIPアドレスである「124.45.21.185」を割り当てられていた契約者は被告であったと認められる。 15そして、一般的に個人が契約したインターネット回線を利用するのは当該個人であるところ、本件全証拠によっても被告が契約したインターネット回線を事業目的や団体その他複数人で利用していたなどといった事情はうかがわれないから、本件ログインを行った者は被告であると合理的に推認できる。 20イ なお、被告は、ツイッター社からのログイン情報が記載されたメールであると原告が主張する甲第14号証は改変された可能性があり、成立の真正は認められないと主張するが、同号証の記載内容や体裁から特段改変されたことはうかがわれない上、上記のとおり、原告がツイッター社から開示されたログイン情報と異なるログイン情報に係る発信者情報の開示を求25 れないと主張するが、同号証の記載内容や体裁から特段改変されたことはうかがわれない上、上記のとおり、原告がツイッター社から開示されたログイン情報と異なるログイン情報に係る発信者情報の開示を求25めることはおよそ考え難いことからすると、原告が本件仮処分決定を受け 14 てツイッター社から送信されたメールであると主張する甲第14号証のメール部分や添付ファイルはツイッター社が作成したものと認められる。 また、被告は、パスワードを入力せずに数十メートル離れたところから接続できるルーターを使用してインターネットを利用していたから、被告の友人又は近隣住民が同ルーターを経由してインターネットを利用し、本5件ログインを行った可能性があると主張する。確かに、被告が平成30年8月23日にパスワード入力がなくても接続することも可能なルーターを注文したことが認められる(乙7の1・2、8)が、個人でルーターを利用する際にパスワードを設定しないで近隣住民が自由に利用できる設定とすることは通常考え難く、上記ルーターを使用してインターネットを利用10するのは同ルーターの所有者である被告自身である蓋然性が高いところ、本件全証拠によるも、被告以外の第三者が本件ログイン日時に同ルーターを使用していたことを具体的に窺わせる事情は何ら認められないから、被告の主張は採用することができない。 ⑵ 本件投稿を行った者が被告と認められるか15ア 弁論の全趣旨によれば、ツイッターに投稿するにはあらかじめ設定されたパスワードを入力してアカウントにログインすることが必要であり、ログインをした状態を数日間保持したまま投稿を繰り返すことも可能であると認められるところ、本件投稿は本件ログインから1時間34分後にされたものであること(前提事実⑵、⑶)、本件アカウン 必要であり、ログインをした状態を数日間保持したまま投稿を繰り返すことも可能であると認められるところ、本件投稿は本件ログインから1時間34分後にされたものであること(前提事実⑵、⑶)、本件アカウントが複数人によって 管理運営されていることがうかがわれないことからすれば、本件投稿は本件ログインをした被告によってされたものと推認するのが相当であり、これに反する証拠はない。 イ被告は、本件ログインと本件投稿の時間差が1時間34分であるのは長すぎる、本件ログイン以外のログインの競合があり得るから、本件投稿が 本件ログインを利用して行われたものであるとは直ちにいえないとして、 被告が本件ログインをした者であるとしても、被告が本件投稿をしたとはいえないと主張する。 しかし、ログイン状態を1時間34分継続した後に投稿を行うといったことも事実経過として十分に考え得るし、本件投稿時に本件アカウントについて本件ログイン以外のログインが競合していたことをうかがわせる事 情は認められず、仮にログインの競合があるとしても、団体によって共用されているなど、複数人によって管理運営されていることがうかがわれない本件アカウントについて被告以外の者がログインすることは通常考え難く、いずれにせよ被告の上記主張は、被告が本件投稿を行ったとの上記認定を左右するものではない。 2 不法行為の成否(争点2)⑴ 本邦外出身者がそのことを理由に差別され、地域社会から排除されない権利の侵害による不法行為前提事実及び証拠(甲2)によれば、本件投稿は、原告が自身の戸籍を手にしたことをきっかけに、亡くなった原告の父親が韓国籍を有していたこ とを知ったことや、原告の父親がそのことを隠さざるを得なかったのはなぜかなどといったことが記載 投稿は、原告が自身の戸籍を手にしたことをきっかけに、亡くなった原告の父親が韓国籍を有していたこ15とを知ったことや、原告の父親がそのことを隠さざるを得なかったのはなぜかなどといったことが記載された本件原告執筆記事に対して、著名人ではない被告がツイッター上に1件の記事を投稿したというものであり、本件記事のうち、「チョン共」といった差別的な表現を含む部分はそのこと自体相当性を欠くものではあるが、その要旨は「反日韓国人撃退マニュアル」等の書20籍を引用しながら、本件原告執筆記事に対して被告個人の見解を示すものであって、広く第三者に対して原告個人への批判や差別的言動を殊更に促すような表現は含まれておらず、本件記事を閲覧した者に対して原告を地域社会から排除することを扇動するような表現であるとまではいえないし、また、実際に原告が地域社会から排除されたと認めるに足りる証拠もない。そうす25ると、原告が主張するような本邦外出身者がそのことを理由に差別され、地 16 域社会から排除されない権利や法律上保護された利益を認める余地があるとしても、本件投稿によって原告のそのような権利ないし利益が侵害されたとはいえない。 したがって、原告が主張するような上記権利ないし利益が侵害されたことを前提として不法行為が成立する旨の原告の主張は採用することができない。 5⑵ 本邦外出身者がその出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティの侵害による不法行為原告は、「本邦外出身者がその出身国等の属性に関して有する民族的アイデンティティ」という保護されるべき法益があり、これは、本邦外出身者がそれぞれ有する自らの出身国等の属性に関して有する名誉感情を含む概念で10あるが単なる名誉感情にとどまるものではないと主張する。その主張は、人が 保護されるべき法益があり、これは、本邦外出身者がそれぞれ有する自らの出身国等の属性に関して有する名誉感情を含む概念で10あるが単なる名誉感情にとどまるものではないと主張する。その主張は、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情(最高裁昭和43年(オ)第1357号同45年12月18日第二小法廷判決・民集24巻13号2151頁参照)の内容を具体的に述べるものであり、要するに、自己の出自に関する人格権としての個人の名誉感情(憲法13条)15の侵害を主張するものであって、これと異なる権利侵害を主張しているものとは解されない。 そこで検討するに、本件記事は、亡くなった原告の父親が韓国籍を有していたことを隠さざるを得なかったのはなぜかなどといったことが記載された本件原告執筆記事に対する応答として投稿されたもので、「チョン共が日本20に何をしてきたとか学んだことあるか?」、「チョン共が何をして、なぜ日本人から嫌われてるかがよく分かるわい」、「お前の父親が出自を隠した理由は推測できるわ」などの記載を含むものであるから(前提事実⑵)、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件記事は、韓国・朝鮮系の人々に対して「チョン共」という差別的な表現を用いた上で、そうした人々25が日本人に対して嫌われることをしてきたことを前提として、同じ韓国籍を 17 有する原告の父親もそれを理由に自らの出自を隠したと推測される旨摘示するものといえ、在日コリアン二世である原告の父親のみならず、その子である原告をも韓国にルーツを有することを理由に侮辱する表現を含むものといえる。そして、このような侮辱的な表現行為が社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合には原告の名誉感情を侵害するものと5解 ーツを有することを理由に侮辱する表現を含むものといえる。そして、このような侮辱的な表現行為が社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合には原告の名誉感情を侵害するものと5解されるところ(最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)、差別的言動解消法の前文において「不当な差別的言動は許されない」とされ、また、人種差別撤廃条約4条において「締約国は、〔中略〕差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する」と定められ10ていることなどに照らせば、上記のような差別的な表現を用いて原告を侮辱する本件投稿は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる。 したがって、本件投稿は、原告の出自に関する名誉感情を侵害するものといえるから、不法行為が成立する。 153 損害額(争点3)⑴ 慰謝料本件投稿は、「チョン共」という差別的な表現を用いた上で在日コリアン二世である原告の父親のみならず、その子である原告をも韓国にルーツを有することを理由に「お前」などと指称して侮辱するものであり、本件投稿に20よって原告が受けた精神的苦痛を軽視することはできない。 他方で、本件投稿は、本件原告執筆記事に対する応答としてされた一件のツイートにとどまり、本件記事には第三者に対して原告個人への批判や差別的言動を促すような表現はなく、本件全証拠によるも、本件投稿後に本件記事へのリツイート等によって原告への更なる差別的表現を含む記事の投稿が25繰り返されるなどした事実は認められない。 18 以上に加え、本件に現れた一切の事情を総合すると、被告の上記不法行為により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は30万 記事の投稿が25繰り返されるなどした事実は認められない。 18 以上に加え、本件に現れた一切の事情を総合すると、被告の上記不法行為により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は30万円をもって相当と認める。 ⑵ 発信者情報開示請求のための弁護士費用原告は、発信者情報の開示の手続のため原告が弁護士費用として負担すべ5き金員のうち、30万円について相当因果関係の認められる損害であると主張する。 しかし、原告が、発信者情報の開示の手続のために弁護士費用を支出したことを裏付ける証拠はないから、同費用について損害が発生したと認めることはできない。 10⑶ 本件訴訟のための弁護士費用 慰謝料額の1割である3万円をもって相当と認める。 第4 結論以上によれば、原告の請求は、33万円及びこれに対する不法行為の日である令和2年12月21日から支払済みまで年3分の割合による遅延損害金の支15払を求める限度で理由があるから、これを認容すべきであり、仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第32部 裁判長裁判官 目 代 真 理20 裁判官 松 井 俊 洋 25裁判官 野 杁 葵
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