平成15(わ)1487 窃盗,暴行被告事件

裁判年月日・裁判所
平成16年4月28日 神戸地方裁判所
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判決文本文5,141 文字)

主文 被告人を懲役1年3か月に処する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 平成15年12月8日午前7時30分ころ,神戸市a区b町c丁目d番d号JR神戸駅構内e神戸内f株式会社JR西日本D「E神戸店」において,同店店長A管理に係る弁当1個等3点(販売価格合計650円)を窃取した。 第2 同日午前7時45分ころ,同店において,同店店員B(当時22歳)に対し,その顔面を手拳で1回殴打する暴行を加えた。 (証拠の標目)―括弧内の甲,乙で始まる数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略(事実認定の補足説明)被告人及び弁護人は,判示第2の事実について,被告人は被害者とされる判示Bを殴ってはいないとして無罪を主張するところ,前掲関係各証拠によれば,同判示事実を認めるに十分であるので,その理由につき,補足して説明を加える。 第1 前提事実前掲関係各証拠によれば,被告人が本件当時仮出獄中であったこと,被告人が判示第1の犯行に及び,その後同判示「E神戸店」(以下「被害店」という。)前の同判示JR神戸駅構内でBに捕まり,同人とともに被害店に戻ったこと,その後被告人は同判示窃取品を同店舗棚に戻したが,Bは被告人を同店舗奥の事務所(以下単に「事務所」という。)に連れて行こうとしたこと,被告人がその際抵抗したため,Bが被告人を引っ張り,抵抗する被告人がその身体を店舗内のジュースの棚と事務所の間の壁にぶつけ,その後Bが被告人を事務所に引き込んだ事実が認められ,これらの点については被告人も特に争っていない。 第2 ところで,Bや被害店店員であるC(以下,BとCを「Bら」という。)は,当公判廷において,被告人が事務所に入った直後ころ同所でBを判示第2のとおり殴打し 点については被告人も特に争っていない。 第2 ところで,Bや被害店店員であるC(以下,BとCを「Bら」という。)は,当公判廷において,被告人が事務所に入った直後ころ同所でBを判示第2のとおり殴打したことを供述しているところ,その供述内容は,いずれも具体的で詳細であり,また捜査段階から一貫していると認められ,虚偽を述べる動機も,虚偽や被告人の暴行を誇張していると窺われる点もなく,Bにおいて自らも被告人を殴打した旨述べていることをはじめ,供述態度も両名とも真摯であり,さらに,前記前提事実に照らしても合理的である(また,Bは,被告人に殴られた直後に被告人を殴打したと供述しているところ,Bがこのような殴打行為に出た理由も被告人の殴打があったためと考えることが自然である。)上,Bらの供述はほとんど一致していて相互にその信用性を補完し合っているというべきであり,それらの信用性を疑うべき点は全くない。 なお,弁護人は,直接にはBらの供述の信用性を争わないものの,被告人の暴行時の態勢がBらの立ち会った各実況見分調書添付写真と異なるとするが,Bは,当公判廷において,被告人が,すこしのけぞった形で,あるいは正面のちょっと下から殴ってきたと供述し,これをボクシングのストレートと表現しているのであるし,Cも,被告人は何かにつまずいて倒れ込んだ姿勢だったので下から上へ手が出た旨供述し,その上で被告人の手が勢いよく伸びていたとしているのであって,前記各写真から認められる被告人とB及び実況見分を補助した警察官の身長等も考えれば,前記各実況見分調書添付写真における被害状況は,これをもってBらの捜査段階の供述と公判廷での供述が不合理に変化したことを示すものともいえず,両名の供述の信用性に影響しない。 そして,Bらが供述する被告人の暴行態様やその強度等 害状況は,これをもってBらの捜査段階の供述と公判廷での供述が不合理に変化したことを示すものともいえず,両名の供述の信用性に影響しない。 そして,Bらが供述する被告人の暴行態様やその強度等によれば,被告人の暴行が故意によるものであることも明らかである。弁護人はBらの供述する暴行の姿勢等からみて故意が認められないとするが採用できない。 したがって,このBらの公判供述はじめ前掲関係各証拠によれば,被告人が判示暴行に及んだことは優に認められる。 第3 これに対し,被告人は,捜査段階から一貫して暴行の点を否認している。 1 しかし,まず,その内容をみると,捜査段階では,Bに押さえつけられたため抵抗して腕を振り回していたとし,それが棚にあたったことは分かったがBの顔面に当たったかは分からない(乙5)とか,Bにあたった(乙6)としていたのが,当公判廷に至るや自分の右手がどこかにあたったという感じは全くなかったとするに至ったもので,その内容には看過できない変遷がある上,公判廷では,棚にはあたったかもしれないとも供述しており,この公判供述の間には明らかな矛盾もある。また,被告人のような状況におかれた場合,通常,逃げられるものなら逃げたいと考えることはごく自然であるといえるし,被告人自身捜査段階では被害店に連れ戻された時逃げようと考えた(乙5)とか逃げたい一心であった(乙6)と供述していたところ,被告人は,当公判廷においては逃げるつもりはなかったと供述しているが,この公判供述も不自然であり,また捜査段階から不合理に変遷しているというほかない。 なお,被告人は,前記捜査段階の供述記載は警察官が自分の言い分を全く聞かず,勝手にしたものであると弁解するが,その録取内容は,Bの供述とは異なるなど,基本的に被告人の言い分を録取したこと なお,被告人は,前記捜査段階の供述記載は警察官が自分の言い分を全く聞かず,勝手にしたものであると弁解するが,その録取内容は,Bの供述とは異なるなど,基本的に被告人の言い分を録取したことが明らかである。そうすると,被告人のこの弁解も虚偽であると認められる。 2 この点,弁護人は,当初Bに捕まった際抵抗せず被害店店舗までBに同行した被告人には暴行の動機がないと主張するが,前記前提事実のとおり,被告人は,被害品を店舗内棚に戻した後なおBに事務所に連れ込まれそうになってから抵抗を始めているのであって,被告人が捜査段階(乙5)で供述したように,被害店に戻った段階で初めて考えたかはともかく,被害品を返せば逮捕を免れることができるとの期待もなくなった段階で被告人が逃走を企て抵抗を開始することにはなんら不自然な点はない。なお,被告人は,この点でも,公判廷では,抵抗した理由として,Bに強くつかまれたのでけがをすると思って抵抗したのであって,逃げようとしたからではない旨弁解するが,つかまれただけでけがをするということ自体不自然である上,被告人自身当初Bにつかまってから被害店舗に戻る際にはそのように(強く)つかまれたとは供述していないのであって,被告人の供述を前提としても,Bが被告人を強くつかんだとすれば,それは被告人が逮捕をいやがり,あるいは逃走するような抵抗を始めたからと考えるほかなく,逃走の意思を否定する被告人の弁解はやはり到底信用できない。 また,弁護人は,暴行のみが無罪とされても被告人に利益はないことを暴行の事実がなかったことの根拠として主張するが,被告人は捜査段階では事後強盗事件の被疑者として取調べを受けていたのであるから,暴行ないしその意思を否認する大きな利益がある。また,公判段階の否認についてみても,店舗での窃盗後店 拠として主張するが,被告人は捜査段階では事後強盗事件の被疑者として取調べを受けていたのであるから,暴行ないしその意思を否認する大きな利益がある。また,公判段階の否認についてみても,店舗での窃盗後店員に暴行まで働いたとすれば,明らかに犯行態様ないし情状面で厳しい評価がされるのであるし,捜査段階で一度否認した者にとっては,公判段階でも,簡単にこれを覆すことは心理的に困難であるといえ,犯情(量刑)への評価を計算して否認を維持することも不合理では全くない。 したがってこれら弁護人の主張も採用できない。 3 このほか,被告人の供述は,捜査段階において,被害店につれてこられた段階で逃げる気持ちになり,窃取品を店舗棚に戻して逃げようとしたと供述していた点等に一応の合理性があるほかには,信用性が乏しく,特に判示暴行を否認する供述は全体として不自然,不合理な点が多く,全く信用できない。 第4 以上のとおりであって,被告人が判示第2の犯行を行ったことにつき証明は十分である。被告人及び弁護人の主張には理由がない。 (累犯前科)被告人は,平成12年9月26日東京簡易裁判所において窃盗罪により懲役1年に処せられ,平成13年9月20日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は刑法235条に,判示第2の所為は同法208条にそれぞれ該当するところ,判示第2の罪について所定刑中懲役刑を選択し,前記の前科があるので同法56条1項,57条により判示各罪の刑についてそれぞれ再犯の加重をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年3か月に処し,訴訟費用は, の加重をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年3か月に処し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,コンビニエンスストアにおける弁当等の万引き窃盗及びその後の被害店舗店員に対する暴行の事案である。 被告人は,所持金が盗まれたため本件窃盗を犯したというのであるが,所持金を失ったのは犯行当日のことであり,本件窃盗は空腹に耐えかねた犯行というほどのものではないというべきであって,その犯行動機は結局短絡的で自己中心的というほかなく,酌むべき点に乏しい。また,被告人は,本件窃盗により被害店員に捕まったものの,仮出獄が取り消されて刑務所に行くのがいやだというこれまたまことに身勝手な考えから,逃走しようと抵抗し,逃走目的あるいは前述のように棚に体をぶつけ立腹したといった動機で判示暴行に及んだものと認められ,暴行の動機には全くしん酌できる点がない。そして,窃盗犯が被害者に抵抗して暴行する行為は,その暴行の程度,内容が事後強盗罪に該当しないものであるとしても,単なる暴行と比べ,危険で悪質なものといわねばならない。 さらに,被告人は,平成12年7月に窃盗及び詐欺の罪により懲役2年6月,4年間保護観察付き執行猶予という判決を受け,その後その余罪である窃盗罪により同年9月に懲役1年に処せられ,前者の執行猶予の取消決定を受けて順次服役し,平成15年5月に仮出獄となった後わずか約半年で本件に至った。加えて,被告人は,前記仮出獄後,更正保護施設に入所し,パチンコ店でアルバイト店員として稼働していたが長続きせず4か月程度で行かなくなり,その後仕事も探さず,更生保護施設から 約半年で本件に至った。加えて,被告人は,前記仮出獄後,更正保護施設に入所し,パチンコ店でアルバイト店員として稼働していたが長続きせず4か月程度で行かなくなり,その後仕事も探さず,更生保護施設からも無断外出をして本件に至ったものであり,更生保護施設での待遇をめぐる被告人の弁解も無断外出を正当化しないというべきであるから,犯行に至る経緯にも同情すべき点が乏しい。 そして,被告人は,暴行について不合理で公判段階では開き直った弁解に終始して恥じるところがなく,前述した点や窃盗について前記累犯前科等の同種前科前歴があること等を考慮すれば,被告人には規範意識が欠如しているといわざるを得ず,その刑事責任は重いというべきである。 一方,本件窃盗の被害額が比較的少額であり,被害品が一応被害店に戻ったこと,本件暴行が1回にとどまり,その程度も軽微なものであったこと,被告人も本件暴行後被害店員から暴行を受けていること,仮出獄が取り消されたこと,窃盗の事実についてはこれを認め,悪いと思っていると述べていること等,被告人のために酌むべき事情もあるので,これらを最大限考慮して,主文のとおり量刑した。 よって,主文のとおり判決する。 平成16年4月28日神戸地方裁判所第1刑事部裁判官橋本一

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