判決平成13年10月24日神戸地方裁判所平成13年(行ウ)第4号違法財務会計確認請求事件 主文 1 本件訴えを却下する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 第1 請求の趣旨 1 被告が,神戸市新都市整備事業会計において,決算書その他の会計に関する書類に表示を怠り,又は虚偽の表示をなすことにより,臨海土地造成分譲事業において発生した損失を隠蔽して架空の利益を計上して,同事業会計が管理するポートアイランド1期,六甲アイランド,ポートアイランド2期,六甲アイランド南及び神戸空港島の各事業における市有造成地の管理を怠る事実が違法であることを確認する。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 当事者の主張 1 請求原因(1) 原告ら原告らは,いずれも普通地方公共団体である神戸市の住民である。 (2) 神戸市の新都市整備事業会計ア神戸市は,土地造成事業として,神戸市新都市整備事業会計(但し,平成7年度までの呼称は「神戸市開発事業会計」であった。以下,神戸市開発事業会計も含めて「新都市整備事業会計」という。)に含まれる,①ポートアイランド1期事業,②六甲アイランド事業,③ポートアイランド2期事業,④六甲アイランド南事業,⑤神戸空港島事業の合計5事業(以下「本件各事業」という。)を実施している。 なお,前3者は既に建設済みであり,後2者は現在建設中である。 イ地方公営企業法の財務規定等を適用する事業の設置等に関する条例(神戸市昭和41年条例第36号)2条1項(3)号,2項は,新都市整備事業に地方公営企業法が定める財務規定が適用される旨定めている。 (3) 財務 法の財務規定等を適用する事業の設置等に関する条例(神戸市昭和41年条例第36号)2条1項(3)号,2項は,新都市整備事業に地方公営企業法が定める財務規定が適用される旨定めている。 (3) 財務会計関連法規ア地方公営企業法(昭和27年法律第292号)20条は,下記のとおり規定している。 記地方公営企業においては,その経営成績を明らかにするため,すべての費用及び収益を,その発生した年度に正しく割り当てなければならない。 2 地方公営企業においては,その財政状態を明らかにするため,すべての資産,資本及び負債の増減及び異動を,その発生の事実に基き,かつ,適当な区分及び配列の基準並びに一定の評価基準に従って,整理しなければならない。 3 前項の資産,資本及び負債については,政令で定めるところにより,その内容を明らかにしなければならない。 イ地方公営企業法施行令(昭和27年政令第403号)9条は,下記のとおり規定している。 記地方公営企業は,その事業の財政状態及び経営成績に関して,真実な報告を提供しなければならない。 2 地方公営企業は,その事業に関する取引について正規の簿記の原則に従って正確な会計帳簿を作成しなければならない。 3 地方公営企業は,資本取引と損益取引とを明確に区分しなければならない。 4 その事業の財政状態及び経営成績に関する会計事実を決算書その他の会計に関する書類に明りょうに表示しなければならない。 5 地方公営企業は,その採用する会計処理の基準及び手続を毎事業年度継続して用い,みだりに変 及び経営成績に関する会計事実を決算書その他の会計に関する書類に明りょうに表示しなければならない。 5 地方公営企業は,その採用する会計処理の基準及び手続を毎事業年度継続して用い,みだりに変更してはならない。 6 地方公営企業は,その事業の財政に不利な影響を及ぼすおそれがある事態にそなえて健全な会計処理をしなければならない。 (4) 財産の管理を怠る事実の違法性ア新都市整備事業会計が管理する①ポートアイランド1期事業,②六甲アイランド事業,③ポートアイランド2期事業,④六甲アイランド南事業,⑤神戸空港島事業における市有造成地(以下「本件造成地」という。)は,地方自治法(以下,単に「法」という。)242条1項にいう財産の管理を怠る事実の「財産」に該当する。 神戸市は,新都市整備事業会計において,決算書その他の会計に関する書類の表示を怠り,又は虚偽の表示をなすことにより,本件各事業において発生した損失を隠蔽して架空の利益を計上していることは明らかである。 イ例えば,六甲アイランド事業についていえば,昭和53年度から平成10年度の事業会計決算書(甲1ないし21)を基に作成した末尾添付の別表「六甲アイランドの売買損益計算一覧表」を分析すると,次のような違法性がある。 (ア) バブル崩壊以後,一般的に土地の売上は激減しているのが実情であるにもかかわらず,常に利益を計上している。1㎡当たりの売上単価と1㎡当たりの造成原価が常に連動して利益が確保されるという絶対に起こりえない損益計算となっている。 (イ) 対売上原価は,昭和53年度から平成4年度までの15年間が96%,平成5年度から平成10年度までの5年間(但し,平成9年度を除く。)は93.4549%と 計算となっている。 (イ) 対売上原価は,昭和53年度から平成4年度までの15年間が96%,平成5年度から平成10年度までの5年間(但し,平成9年度を除く。)は93.4549%と一定であるが,絶対にあり得ない。この原因は,神戸市が,架空の利益を計上する目的で,右肩上がりに上昇する造成原価の実態と全くかけ離れた,予め決定した対売上原価比率を使用している点にある。 (ウ) 被告の指示により,20年以上の長期間にわたって,上記のような巨額の違法な経理が行われてきたのである。 ウ損失の発生原告らが大阪府「りんくうタウン」の土地分譲事業についてのデータに基づいて試算したところ,本件各事業(但し,ポートアイランド1期事業を除く。)における含み損は次のとおりとなる。 (ア) 六甲アイランド事業 1817億円(但し,現時点)(イ) ポートアイランド2期事業 3272億円(但し,現時点)(ウ) 六甲アイランド南事業 2470億円(但し,将来の完工時点)(エ) 神戸空港島事業 3004億円(但し,将来の完工時点)合計 1兆0563億円エ地方公営企業法20条違反上記イのとおり,神戸市は,大がかりな決算の粉飾による赤字隠し及び架空利益の計上を行っているのであるから,前記(3)アの地方公営企業法20条に違反することは明らかである。 オ地方公営企業法施行令9条違反前記(3)イの地方公営企業法施行令9条は,公 のであるから,前記(3)アの地方公営企業法20条に違反することは明らかである。 オ地方公営企業法施行令9条違反前記(3)イの地方公営企業法施行令9条は,公営企業会計の原則について,企業会計原則の一般原則に準じて,真実性の原則(1項),正規の簿記の原則(2項),資本取引と損益取引との区分の原則(3項),明瞭性の原則(4項),継続性の原則(5項),健全性の原則(6項)を定めている。 しかるところ,神戸市は,前記イのとおり,六甲アイランド事業で,架空の利益率を使って架空の利益を計上し,巨額の損失を隠蔽して事業会計が健全であるかのように装っているのであるから,同条に違反することは明らかである。 (5) 住民監査請求ア原告らは,神戸市監査委員に対し,平成12年12月27日,新都市整備事業会計の違法な経理操作により隠蔽された含み損及び売れ残り土地の潜在評価損の全容を精査し,被告が六甲アイランド事業の違法な経理処理の抜本的な是正措置をとること,本件事業についての財務会計処理を地方公営企業法20条及び同法施行令9条を遵守するよう勧告することを求める住民監査請求を行った。 イ同監査委員は,原告らに対し,平成13年1月22日,原告らが指摘しているのは経理の事務処理方法の当否であるとして,財務会計上の行為又は怠る事実のいずれにも該当しないから,法242条に定める住民監査請求の要件を欠いており受理することができない旨の監査結果を通知した。 (6) よって,原告らは,被告に対し,法242条の2第1項3号の規定に基づく住民訴訟として,請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。 2 被告の本案前の主張(1) 原告らは,同人らの請求について,法242条の2第1項3 に対し,法242条の2第1項3号の規定に基づく住民訴訟として,請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。 2 被告の本案前の主張(1) 原告らは,同人らの請求について,法242条の2第1項3号に基づく財産管理を怠る事実の違法確認請求であって,そこでいう管理を怠った「財産」を,本件造成地(本件各事業における市有造成地)であるとする。 (2) ところで,財産の管理を怠る事実にいう「管理」とは,当該財産の財産的価値の低下を防ぎ良好な状態に維持・保存する財務的処理を直接の目的とする財産管理に限るものであり,当該地方公共団体の有する財産の価値が何らかの影響を受ける場合にのみ,住民訴訟の対象となるものである。なぜなら,住民訴訟の目的は,地方自治行政全般の適正運営を確保することではなく,地方財務行政上の非違を是正・防止することにあるからである。 (3) 原告らの主張では,本件造成地という「財産」の「管理」について,被告にはどのような不作為があるから,財産的価値の低下を防ぎ,良好な状態に維持・保全する直接的な財務的処理をしなかったというのか,その主張自体が定かでない。原告らが主張しているのは,新都市整備事業会計の会計方式の違法にすぎないのである。 新都市整備事業の会計方式が,本件造成地の財産的価値に何らかの影響を与えるような財産的価値の低下を防ぎ,良好な状態に維持・保全する直接的な財務的処理でないことは明らかであり,また,それによって本件造成地の財産的価値が減少したこともなく,そのおそれもないのであるから,本件訴えは不適法である。 3 本案前の主張に対する原告らの反論(1) 被告は,原告らが主張しているのは,新都市整備事業会計の会計方式の違法にすぎない旨主張するが,誤っている。 被告は,前記1(4)の違法行 。 3 本案前の主張に対する原告らの反論(1) 被告は,原告らが主張しているのは,新都市整備事業会計の会計方式の違法にすぎない旨主張するが,誤っている。 被告は,前記1(4)の違法行為により,新都市整備事業会計が巨額の含み損を抱えていることを市議会に対して秘匿し,かえって別表記載のように六甲アイランド南事業が利益を生み出す優良事業であるとの真実と相違する認識を与えている。すなわち,被告は,新都市整備事業会計管理下の六甲アイランド南事業と神戸空港島事業の財政面に対する市議会の適正な審議の妨害をしているのである。これによって,神戸市は,巨額の隠蔽された損失を抱えている上に,さらに追加的な損失に向けて暴走を続けることになる。 (2) また,被告は,原告らが主張する違法行為によって本件造成地の財産的価値が減少したこともなく,そのおそれもない旨主張するが,誤っている。 本件造成地の分譲を開始すれば,財産的価値は帳簿上の価格とは別の市場価格で評価され,取引されることになる。したがって,市場価格が造成原価に基づく帳簿上の価格より高い水準で上昇するのであれば,本件造成地の財産的価値も上昇し,利益が増えるが,逆に市場価格が帳簿上の価格より低い水準で下降するのであれば本件造成地の財産的価値も低下し,損失が増えることになる。 そして,造成終了後の分譲開始時点で,前記1(4)ウのとおり,造成原価(帳簿上の価格)から市場価格に変わることによって,六甲アイランド南事業及び神戸空港島事業で合計5474億円の赤字ないし含み損が発生することが確実である。 したがって,被告の前記違法行為は,損失発生の可能性を有するのである。 理由 第1 被告は,本件訴えは財産の管理を怠る事実を対象とす ある。 したがって,被告の前記違法行為は,損失発生の可能性を有するのである。 理由 第1 被告は,本件訴えは財産の管理を怠る事実を対象とするものでなく不適法である旨主張するので,本件訴えの適否について判断する。 1 住民訴訟は,当該普通地方公共団体の事務一般をその対象とする事務監査請求(法75条)と異なり,当該普通地方公共団体の住民が納税者の立場から,当該普通地方公共団体がその執行機関や職員の違法な財務会計行為によって損害を被ることを防止し,あるいは被った損害を回復する手段を設け,これによって当該普通地方公共団体が適正な財務会計処理を行なうことを保障することにその目的がある。 そこで,住民訴訟のうち,本件で請求しているような財産の管理を怠る事実の違法確認請求(法242条の2第1項3号)であるが,そこでいう対象となる「財産」は,法237条ないし241条で定める財産をいい,そして,法242条1項でいう財産の「管理」は,上記住民訴訟の目的からして,当該財産の財産的価値に着目し,その価値の維持,保全又は実現を直接の目的とする財務会計上の財産管理行為をいうものと解するのが相当である。 2 ところで,本件造成地は,神戸市が実施する本件各事業における市有造成地であるが,これは「不動産」(法238条1項1号)であって前記「財産」に該当することは明らかである。 3 そこで,次に,原告らが主張する本件各事業に係る赤字隠し,架空の利益計上といった粉飾決算が,財務会計上の行為たる財産の「管理」として住民訴訟の対象となるか否かが問題となる。 原告らの主張するところは,新都市整備事業会計が管理する本件各事業の会計方式が地方公営企業法20条ないしは地方公営企業法施行令9条に則っていないと 民訴訟の対象となるか否かが問題となる。 原告らの主張するところは,新都市整備事業会計が管理する本件各事業の会計方式が地方公営企業法20条ないしは地方公営企業法施行令9条に則っていないという点であり,結局は,同事業会計の会計方式が違法であると主張していることに帰するといわざるを得ない。 そこで,上記のような原告ら主張の会計方式の違法であるが,仮にそれがあったとしても,そのことによって本件造成地の財産的価値それ自体に直接影響・変動を生じさせるものではない。換言すると,会計方式それ自体は,財産の適切な管理のための手続ないし手段ともいうべきものであって,財産の財産的価値の維持・保全又は実現という点に着目すると,直接的なものでなく間接的なものに過ぎず,専ら経理上の事務処理方法の当否の問題である。 したがって,原告らが主張する本件各事業に係る赤字隠し,架空の利益計上といった粉飾決算は,当該財産(本件各造成地)の財産的価値に着目し,その価値の維持,保全又は実現を直接の目的とする財務会計上の財産管理行為に該当しないことは明らかである。 そうすると,上記原告らが主張する被告の行為は,法242条1項にいう財産の「管理」には該当せず,住民訴訟の対象たり得ないというほかない。 4(1) なお,原告らは,被告の前記違法行為によって,市議会が新都市整備事業会計管理下の六甲アイランド南事業と神戸空港島事業の財政面に対する適正な審議をできず,その結果,神戸市がさらに追加的な損失に向けて暴走を続けることになるとか,市場価格が帳簿上の価格より低い水準で下降するのであれば本件造成地の財産的価値も低下し,損失が増えるなどと主張する。 (2) しかし,原告らの主張する会計方式の違法によって本件各造成地の財産的価値に影響がないことは前示 り低い水準で下降するのであれば本件造成地の財産的価値も低下し,損失が増えるなどと主張する。 (2) しかし,原告らの主張する会計方式の違法によって本件各造成地の財産的価値に影響がないことは前示3のとおりである。仮に,原告ら主張の上記(1)のような事実があったとしても,それ故に本来財務会計上の行為でない経理上の事務処理方法が財務会計上の行為となるわけではなく,また,六甲アイランド南事業又は神戸空港島事業における公金の支出が違法であるとするならばそのこと自体を住民訴訟の対象として争えばよいのであるから,原告らの上記主張を採用することはできない。 5 したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件訴えは不適法であるといわなければならない。 第2 以上の次第であって,本件訴えは不適法なものであるから却下することとして,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部裁判長裁判官紙浦健二 裁判官中村哲裁判官今井輝幸 ・
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