令和2(わ)1200 傷害致死

裁判年月日・裁判所
令和4年12月2日 大阪地方裁判所
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判決文本文9,730 文字)

令和4年12月2日宣告令和2年第1200号主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件公訴事実の要旨及び争点 1 本件公訴事実の要旨は、「被告人は、令和元年5月19日午後9時頃から午後9時53分頃までの間、堺市内の当時の自宅浴室において、実子である被害者(当時7か月、以下「乳児」という。)に対し、その頸部を手で圧迫するなどの何らかの暴行を加え、よって、その頃、同所において、同人を窒息により死亡させた」というものである。 2 本件の争点は、乳児の死因が、被告人の暴行による窒息死か否かである。検察官は、窒息死にみられる(矛盾しない)所見が存在した上、内因性疾患(心疾患、肺疾患、遺伝子変異等)による突然死は否定されることに加え、被告人の言動及び乳児の容態急変時の状況から、死因は被告人の暴行による窒息死であると主張している。これに対し、弁護人は、窒息を認定するための積極的根拠がないのに乳児の死因を窒息死と診断した検察官請求証人である医師の意見が不適切であり、心臓突然死の可能性が否定できず、検察官指摘の被告人の言動が暴行した人物の言動とはいえないことから、乳児の死因が被告人の暴行による窒息死とは認められないと主張している。 第2 当裁判所の判断 1 乳児が亡くなるまでの事実経過及び乳児に窒息死と矛盾しない急死所見が見られたことについて被告人の述べるところによっても、乳児は、平成30年10月13日に出生し、本件当時、両親である被告人、被告人の当時の妻と生活していたところ、本件当日の午後9時頃以降、被告人と入浴中に容態が急変し、午後10時頃到 着した救急隊員によって心肺停止状態であることが確認され、救急車で搬送されたものの、午後11時13分頃、搬送先の病院で死亡が確認された事 時頃以降、被告人と入浴中に容態が急変し、午後10時頃到 着した救急隊員によって心肺停止状態であることが確認され、救急車で搬送されたものの、午後11時13分頃、搬送先の病院で死亡が確認された事実が明らかである。 また、乳児には、暗赤色流動性血液、肺の溢血点等の一般的な急死所見が認められ、これらは窒息死とも心臓突然死とも矛盾しないことは、いずれも豊富な解剖経験を持つ検察官請求証人であるA医師と弁護人請求証人であるB医師の意見が一致しており、乳児が急死した点は、上記のような容態急変の状況からしても明らかである。 2 客観的な乳児の身体上の所見について次に、乳児の臓器の切出し作業を行ったC医師は、心臓(外表、弁膜等)・心臓につながる血管に異常はないが、右心室がやや拡大していたと供述している。 また、乳児の組織標本の検鏡、追加組織検査を行ったD医師は、乳児に高度の肺出血、心臓右心室の心筋の波状走行(正常な心臓では認められず、急性心不全等の心臓関連突然死で時々認められる)、心筋の軽度肥大、グレード1(6段階で最軽度)の肺高血圧所見(肺動脈の中膜の肥厚と血管周囲の線維化)が認められたものの、病理学的にそれのみで突然死を来すような病変はなかった旨供述している。 C医師及びD医師は、いずれも病理医として豊富な経験や専門的知見を有しており、各供述の信用性に疑いを差し挟まなければならないような不合理な点は存在しない。 3 乳児が窒息死したとするA医師の意見について⑴ 次に、A医師は、①死因は解剖、検査等による科学的(医学的)証拠及び警察等の捜査により得られた客観的状況証拠を総合して判断すべきであるとした上で、本件では解剖や検査から考えられる死因を否定することで、可能性のある死因を導き出すという除外診断の方法で死因を判断すべきであり、 査により得られた客観的状況証拠を総合して判断すべきであるとした上で、本件では解剖や検査から考えられる死因を否定することで、可能性のある死因を導き出すという除外診断の方法で死因を判断すべきであり、 ②乳児には急死所見が認められる一方で、心臓突然死等の内因性疾患による突然死は否定でき、その他外傷死、凍死、焼死、中毒死、溺死といった死因も容易に否定される結果、除外診断として窒息死が考慮され、手段として他為的な鼻口閉塞又は頸部圧迫が考えられるところ、死体に痕跡を残さない窒息死は少なくないため、死因は窒息死であると診断したと証言している。 ⑵ 窒息死の診断基準について、医学文献には①窒息の一般所見を認め、②窒息死を惹起し得る外力の痕跡を見出した上で、③他に死因となり得る疾病や外因がないことを確認しなければならないが、解剖所見のみでは窒息死の診断が困難な例も少なくなく、上記基準を満たさない場合であっても、死亡時や発見時の状況を詳細に聞き取り、窒息死を引き起こし得る状況がある場合には、剖検診断においてもその可能性を排除してはならない旨の記載があり、A医師もB医師もこの基準を前提としている。 本件では、①について窒息死と矛盾しない一般的な急死所見が見られるが、これらの所見が弁護人が主張する心臓突然死でも見られることは前記1のとおりであり、②について窒息の手段を示す所見はないことについてもA医師とB医師が一致して証言している。このように、心臓突然死ではなく窒息死であったことを示す積極的な所見がない以上、A医師の採用した除外診断による窒息死の認定はより厳格に行うべきである。これと同旨をいうB医師の指摘は正当である。 そこで、以下、A医師の見解のとおり、心臓突然死等の窒息死以外の死因が除外できるかどうかを検討する。 4 乳児が窒息死以外の死因 厳格に行うべきである。これと同旨をいうB医師の指摘は正当である。 そこで、以下、A医師の見解のとおり、心臓突然死等の窒息死以外の死因が除外できるかどうかを検討する。 4 乳児が窒息死以外の死因により死亡した可能性の検討⑴ 死に至る機序に関するB医師の意見についてB医師は、乳児が急死するに至った機序について、乳児には心肥大、肺胞出血、肺水腫、肺高血圧、肺血管病変(肺血管の中膜の肥厚、血管周囲の線維化)及び高度の貧血を示す血液検査結果(ヘモグロビン値が正常値の半分 程度の6.5g/dL)の所見が認められたことを前提に、これらそれぞれが低酸素の原因となり、肺胞出血によって高度の貧血がある程度持続しており、そこに何らかの低酸素を誘発する事情が起こった結果、急性心不全又は不整脈によって死亡した可能性が高く、肺高血圧等が生じた原因として慢性心不全、睡眠時無呼吸症候群、低酸素状態が推測されると見解を述べている。 しかし、貧血については、血液検査の結果に加えて、乳児には本件以前からの肺胞出血を示唆するシデロファージ(おおよそ3日から10日くらい前に肺胞に出血があったことを示唆する所見)が認められたことから、貧血の可能性自体は否定できないものの、血液検査は死体血の検査であり、その数値が生前のものと一致するのか定かではない上、A医師が指摘するとおり、そのような高度の貧血があれば一般的には咳をする、機嫌が悪い、咳をしたときに血を吐くなどの何らかの症状が生じるのが通常と考えられ、両親である被告人や当時の妻もその健康状態に何らの異常も感じていなかったことに照らすと、高度の貧血が持続していたというB医師の見立てには疑問がある。また、慢性心不全についても、定期健診や予防接種の際に心音等に異常が見られず、本件当日まで離乳食を完食していたことなどから とに照らすと、高度の貧血が持続していたというB医師の見立てには疑問がある。また、慢性心不全についても、定期健診や予防接種の際に心音等に異常が見られず、本件当日まで離乳食を完食していたことなどからすれば、そのような重篤な疾患があったとは考え難い。 以上によれば、B医師がいうような機序のみで乳児が亡くなったというにはかなり疑問がある。他方で、乳児に軽度の心肥大、肺高血圧所見、シデロファージが本件より前から生じていたことは明らかであり、乳児が全くの健康体であったともいえない。 ⑵ 乳児の死因が致死性不整脈による心臓突然死であった可能性を検討する必要があることについてまた、D医師は、病理形態学は病態の構造的な部分を見る検索法で、形態学的に一見正常に見えても機能的におかしくなっている場合もある ので、不整脈を起こすような機能的な部分が潜在している可能性は同定できない、致死性不整脈のうち除外できたのは心筋炎や不整脈原性右室心筋症等の形態学的変化がある病態による場合であり、そのような形態学的変化を伴わない遺伝子変異等に起因する致死性不整脈の有無を病理組織学的に判断するのは難しい旨証言し、この点についてはA医師も、刺激伝導異常や電解質異常を原因とする致死性不整脈等、死後の解剖や病理組織検査のみでは発生の有無を判断することが困難なものも存在する旨証言しており、B医師も、そのような致死性不整脈によって乳児が突然死した可能性は否定していない。特に、乳児には、後述のとおり、心臓突然死や致死性不整脈との関連が指摘されている2つの原因遺伝子の変異が認められており、それらの遺伝子変異による心臓突然死の可能性についても更に検討する必要がある。 ⑶ 乳児が遺伝子変異による心臓突然死により死亡した可能性の検討ア弁護人請求の証人E医師の供述によれば られており、それらの遺伝子変異による心臓突然死の可能性についても更に検討する必要がある。 ⑶ 乳児が遺伝子変異による心臓突然死により死亡した可能性の検討ア弁護人請求の証人E医師の供述によれば、乳児の遺伝子には、①SCN5A-F532C(SCN5A遺伝子の532番目のアミノ酸がフェニルアラニンからシステインに変化した変異)及び②AKAP9-E744Q(AKAP9遺伝子の744番目のアミノ酸がグルタミン酸からグルタミンに変化した変異)の2つの変異があることが判明している。 イそして、検察官請求証人であり、遺伝性不整脈の遺伝学・電気生理学研究に携わっているF博士は、「SCN5A遺伝子の変異遺伝子は、致死性不整脈を引き起こすことのあるブルガダ症候群の唯一の原因遺伝子であり、同じく致死性不整脈を引き起こすことのあるQT延長症候群の有力な原因遺伝子とされている7個の遺伝子のうちの1つである。また、AKAP9遺伝子の変異遺伝子は、かつてQT延長症候群の原因遺伝子の1つとされていたが、現在では原因遺伝子とならない ことが世界的なエキスパートによって承認されている。」との意見を述べている(E医師は、AKAP9遺伝子変異の評価についてはまだ議論が続いているとする。)。 また、F博士は、自らが関与した最近の研究成果等も踏まえ、変異①、②について、米国臨床遺伝・ゲノム協会が示していて、世界的に信頼されている分類手法である公式指針によって評価すればいずれも病原性があるとはいえず、2つの変異が重なったとしても突然死を引き起こすとは考えにくい旨証言している。 ウ F博士の指摘する公式指針が世界的に承認されているものであることについてはE医師も認めており、遺伝子変異の研究や臨床において重要な診断基準であることは間違いない。もっとも、F博士 言している。 ウ F博士の指摘する公式指針が世界的に承認されているものであることについてはE医師も認めており、遺伝子変異の研究や臨床において重要な診断基準であることは間違いない。もっとも、F博士は、新しい解析技術装置の普及によって遺伝子検査の解析能力が飛躍的に向上し、かつて病原性があるとされていた遺伝子変異の評価が誤りであることも多いと分かってきたことから、そのような誤診を回避するため、このような公式指針が設けられたともしている。すなわち、この公式指針は、かつて病原性があると評価されていた遺伝子変異について、病原性の有無を厳しく判断していく方向に作用する基準と評価できる。 このような姿勢は、F博士が指摘するように、遺伝子変異があることが本人や周囲に明らかにされることにより生じる社会生活上の様々な不利益を考えれば大切なことであり、研究や臨床において尊重されるべきことに全く異論はないが、本件のような刑事裁判においてその姿勢をそのまま徹底すると、本来は病原性の有無が肯定も否定もできないような遺伝子変異について、病原性の有無を厳しく判断してこれを否定することにより、かえって被告人を有罪と誤判する危険を高めることにもなりかねない。したがって、上記公式指針に当てはめて得た結論自体から直ちに変異①、②が乳児の死に影響を与えた可能性の有 無を判断するのはそもそも相当でない。 エ F博士は、変異①、②は、それぞれ日本人の中で変異遺伝子を有する者の割合が約1000人中3人、約800人中1人おり、日本人の乳幼児突然死症候群の発生頻度(6000人から7000人中1人)と比較すると、変異①、②ともに生命に大きな影響をもたらすとは考えにくいから、上記公式指針において良性であることを強く示唆する項目とされる「アレル頻度がその疾患における予想よりも高い 00人中1人)と比較すると、変異①、②ともに生命に大きな影響をもたらすとは考えにくいから、上記公式指針において良性であることを強く示唆する項目とされる「アレル頻度がその疾患における予想よりも高い」に当てはまると指摘する。しかし、F博士が当てはめで比較しているのは、変異①、②それぞれの日本人における保有率と日本人の乳幼児突然死症候群の確率であるが、病原性のある遺伝子変異を持っていたとしても疾患を発症するとは限らず、また発症したとしても必ず死亡するとは限らないのであるから、この2つの数値を比較して変異①、②の保有率が高くみえるからといって、直ちに変異①、②の病原性を否定するのが合理的とまではいえない。 オまた、F博士は、変異①は上記公式指針において良性であることを強く示唆する項目とされる「洗練されたinvitroorinvivo実験において機能異常を生じない」にも当てはまると指摘する。しかしながら、この点についてF博士が根拠として引用する論文は、「実験ではF532Cは(ナトリウム電流の)有意な変化はなかったが、成人の発作性心房細動や心房性頻拍でも報告されているので、SIDS(乳幼児突然死症候群)との関連が示唆される」(E医師の証人尋問調書添付の別紙1のスライド15)としており、F博士がそのような論文の前段部分のみを引用して正反対の結論を導く根拠としていることの妥当性には疑問がある。F博士は、この論文が作成された後に自らも参加して実施した研究によれば先行論文の結論は否定できるとするが、F博士らの研究は、SCN5A遺伝子に変異があったブルガダ症候群 患者60名の変異体についてナトリウム電流量を計測し、電流変化の有無と致死性イベントの発生確率に有意な相関関係が見られたことを明らかにしたものであり、変異①がブルガダ症候群 たブルガダ症候群 患者60名の変異体についてナトリウム電流量を計測し、電流変化の有無と致死性イベントの発生確率に有意な相関関係が見られたことを明らかにしたものであり、変異①がブルガダ症候群により致死性不整脈等を発症することを否定する根拠にはなり得るが、QT延長症候群のような他の原因による致死性不整脈等の発症を否定する根拠にはなり得ず(F博士自身、QT延長症候群についてはナトリウム電流の変化がわずかで判断が難しく、順番を付けるのは危険でできないので、序列を付けるべきではない旨述べている。)、そのような研究によってE医師の引用する論文のSIDSとの関連が示唆される旨の結論が否定されることにはならない。 カもっとも、E医師の証言によっても、QT延長症候群は、10歳から20歳の女性に多く、SCN5A遺伝子の変異に由来するQT延長症候群の発作は交感神経緊張が低下している睡眠時や安静時に多く、徐脈時に発生しやすいとされており、本件で乳児が死亡した状況とそぐわないようにも思えるが、E医師も発作の発生には様々なパターンがあり、また、乳児突然死の突然死事例で見つかった遺伝子変異はSCN5Aが多い旨も証言しており、乳児がQT延長症候群等により致死性不整脈を発症した可能性は否定しきれない。そもそも、変異①について機能異常がないという世界的なコンセンサスがあるものでないことはF博士も認めているし、遺伝子変異の影響による死亡の可能性のある症例等を登録する国際的なデータベースであるClinVarにも変異①の心臓突然死に関連する症例が複数登録されている。 さらに、本件では変異①と変異②の両方の変異が認められるところ、E医師は変異①、②が複合して相乗効果を示した可能性を指摘する。 F博士の証言によっても、上記公式指針は個々の変異の病原性を評価するも さらに、本件では変異①と変異②の両方の変異が認められるところ、E医師は変異①、②が複合して相乗効果を示した可能性を指摘する。 F博士の証言によっても、上記公式指針は個々の変異の病原性を評価するもので、2つの変異があった場合について評価することは困難で あると考えられるし、E医師の証言によると、複数の変異を登録するデータベースやたんぱく予測プログラム等も存在しないものと認められる。 F博士は、変異①は心臓が収縮する際に働くナトリウムチャネルに関するもの、変異②は心臓が拡張する際に働くカリウムチャネルに関するものであり、同じタイミングで働いて悪影響を増幅させることはないと証言するが、F博士の証言によっても異なるタイミングで作用する変異が複合して悪影響を及ぼす可能性が否定される根拠は明らかではないし、E医師によればナトリウムチャネルに関する変異①とカリウムチャネルに関する遺伝子変異が複合してQT延長症候群が増悪した可能性を指摘する論文(E証人の証人尋問調書添付の別紙4、5)が存在する。F博士は、同論文について、変異①と複合したとされるKCNH2-P114S変異は単独でQT時間を延長させる悪性を示すものであるから、E医師の見解は根拠を欠くとしか証言しておらず、変異①につき病原性が否定できない点を等閑視するなど、その根拠が合理的なものとまではいえないから、変異①とカリウムチャネルに関する変異が複合して悪影響が生じる可能性は否定できない。 また、F博士は、変異②について、AKAP9はQT延長症候群の原因遺伝子から除外されていることは世界的な承認を得ていると証言するものの、F博士の証言をもってしても、乳児に見られたAKAP9の変異が他の原因遺伝子と複合した場合の影響の有無についてまで世界的な権威の見解が一致しているとはいえないし、前 承認を得ていると証言するものの、F博士の証言をもってしても、乳児に見られたAKAP9の変異が他の原因遺伝子と複合した場合の影響の有無についてまで世界的な権威の見解が一致しているとはいえないし、前述のとおり変異が複数あった場合についての公式指針やデータベース、予測プログラム等は存在しないのであって、変異②が変異①に加わることによって、変異①のみでは致死性不整脈が生じにくい状況であっても突然死の危険を高める可能性は否定できない。 キ以上によれば、変異①が単独で作用し、又は変異①と変異②が複合した影響により、乳児にQT延長症候群による致死性不整脈等が生じて、乳児が死亡した可能性は否定できない。もとより、そのような機序により乳児が突然死する確率は一般的には低いと考えられるが、死因が心臓突然死ではなく、窒息死であったことを積極的に示す所見がない上、乳児には致死性不整脈等による突然死を誘発し得る遺伝子変異が存在したことなどからすれば、A医師がいうように乳児が窒息死以外の死因によって死亡した可能性が除外できているとはいえず、医学的事実から乳児の死因を窒息死とは即断できない。 5 その他の検察官の主張について検察官請求のG証人は、令和元年6月24日頃に被告人と電話で話した際、被告人から「子供と入浴中にじゃれ合っていたところ、子供が息をしていなかった」と聞いた、じゃれ合いの内容としては、頬っぺたをつまんだり、首元、首辺りをつまんだりしたというのを覚えている、そのことと子供が亡くなったことの関係については、「日頃からじゃれ合っていたというところで、それがもしかすると引き金になったのかもしれない」などと言っていた旨証言する。G証人が被告人の友人であり悪感情もなく、虚偽供述の動機がないこと、知人の子供が死亡したという滅多に聞くことが ところで、それがもしかすると引き金になったのかもしれない」などと言っていた旨証言する。G証人が被告人の友人であり悪感情もなく、虚偽供述の動機がないこと、知人の子供が死亡したという滅多に聞くことがなく記憶に残りやすい話の内容であったことから、G証人の上記証言は信用できる。 もっとも、被告人の発言状況に関するG証人の記憶は断片的なものであって、発言に至る具体的な経過も明らかでないところ、前後の文脈等によっては、その発言の趣旨が検察官の主張するように「入浴中に乳児の首をつまむなどしていたところ、息をしていなかった」と明確にはいえないものであったとみる余地も残る。また、被告人は、G証人との会話に先立って警察官や検察官から取調べを受け、乳児を死なせた嫌疑を掛けられてい ると認識しており、G証人に対しても事件性を問われていると話していたものと認められるところ、被告人がG証人に対してその疑いを払拭しようとして記憶と異なる事実をG証人に告げた可能性も否定できないから、G証言から検察官主張の上記事実は認定できない。なお、検察官はポリグラフ検査時の被告人の発言に関するH証人の証言から、被告人の「じゃれ合い」行為が通常の「じゃれ合い」程度の軽い力ではなく、窒息し得る程度の力であった旨も主張するが、すでに検討したように、「じゃれ合い」行為が認定できない以上、その主張は前提を欠く。 以上に加えて、被告人は、普段から、入浴だけでなく、離乳食を与えるなど、乳児を慈しんでいた事実が妻の証言等により認められ、そのような被告人が乳児に対して窒息する程度の暴行を加えなければならないような動機も全く窺われないのであって、被告人の言動や当時の状況等から死因が被告人の暴行による窒息死とは認定できないし、既に検討した医学上の事実と合わせてみてもその結論に変わりはな なければならないような動機も全く窺われないのであって、被告人の言動や当時の状況等から死因が被告人の暴行による窒息死とは認定できないし、既に検討した医学上の事実と合わせてみてもその結論に変わりはない。 第3 結論以上のとおりであって、本件に現れた全証拠を詳細に検討しても、被告人が公訴事実記載の暴行を加えて乳児を窒息死させた事実につき、常識に照らして間違いないといえるほどの立証がされているとはいえない。検察官は、被告人供述が全体として信用できない旨も主張し、たしかに被告人の供述中には不自然にみえる点も存在するが、被告人がそのような供述をした理由には様々なものが考えられるし、そもそも検察官において有罪を認定するに足りる立証がされていない以上、被告人供述が信用できないことをもって被告人を有罪とすることはできない。 したがって、本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により、被告人に対し無罪の言渡しをする。 (求刑懲役5年) 令和4年12月2日 大阪地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官西川篤志 裁判官久博一 裁判官伊藤佳子

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