- 1 -平成22年5月13日判決言渡し平成20年(ワ)第1480号国家賠償請求事件主文 被告は,原告に対し,822万1246円及びこれに対する平成19年6月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,これを5分し,その2を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,2000万円及びこれに対する平成19年6月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,京都医療少年院(以下「本件少年院」という)に入院中,同少年,。 院から貸与されたベルトを用いて自殺したaの相続人(母)である原告が,同少年院の職員ら(以下「被告職員ら」という)には,aの自殺に関し,安全,。 配慮義務を怠った過失(aに対しベルトを貸与しない注意義務又は貸与する場合にはベルトを用いて縊頸することのないよう監視すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠った過失)があると主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として,次の内容の損害合計7413万1423円の内金2000万円及びこれに対する上記自殺の日である平成19年6月25日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 ( )葬儀費用155万9180円 ( )死亡逸失利益4057万2243円 ( )死亡慰謝料2400万円 - 2 -( )原告固有の慰謝料200万円 ( )弁護士費用600万円 争いのない事実等( )当事者 ア原告は,a(昭和63年*月**日生)の実母である。なお,aの実父(b)は,平成**年**月*日,死亡している(甲1。 )イ 護士費用600万円 争いのない事実等( )当事者 ア原告は,a(昭和63年*月**日生)の実母である。なお,aの実父(b)は,平成**年**月*日,死亡している(甲1。 )イ被告は,京都府宇治市木幡甲乙において,本件少年院を開設し運営している。 ⑵aの本件少年院への入院アaは,平成19年5月5日(以下,日付は特に断りのない限り,すべて平成19年である,原告の徳島県警察丙警察署に対する通報を契機とす。)る覚せい剤取締法違反(所持)の被疑事実により同署に逮捕され,同月25日徳島家庭裁判所の観護措置決定により徳島少年鑑別所以下本,,(,「件鑑別所」という)に入所した(甲2,3。 。 )イ徳島家庭裁判所は,6月19日の審判期日において,覚せい剤取締法違反保護事件(所持及び自己使用)により,aの医療少年院への送致を決定()。 ,,,した甲4aは同月20日本件鑑別所から本件少年院に送致され同少年院に収容された。 ( )aの死亡(以下「本件自殺」という) ,。 アaは,同月25日当時,本件少年院の単独室に収容されていたところ,同日午後1時46分ころ,居室内において,水道の蛇口にベルトを掛け,座り込むような姿勢で縊頸しているのを,職員によって発見され,aは,,,(,,同日午後8時53分医療法人c会d病院において死亡した甲1 7。 )イ同月28日,司法解剖が実施され,aの死因は縊死と判断された(甲17。 )- 3 -( )相続 原告は,aの唯一の相続人として,aが生前有していた権利義務関係を単独で相続した。 争点 ( )aが自殺したことにつき,被告職員らに過失があったか。 (原告の主張)被告職員らは,医療少年院の運営に関わる者として,被収容 ,aが生前有していた権利義務関係を単独で相続した。 争点 ( )aが自殺したことにつき,被告職員らに過失があったか。 (原告の主張)被告職員らは,医療少年院の運営に関わる者として,被収容者に対し,その身体の安全を適切に管理すべき安全配慮義務を負っているところ,被告職員らには,次のとおり,安全配慮義務(ベルトを貸与しない注意義務又はaを監視すべき注意義務)を怠った過失がある。 ア自殺防止に関する一般論一般に,自殺の危険因子として,①自殺未遂歴,②精神障害の既往,③サポートの不足,④性別,⑤年齢,⑥喪失体験,⑦性格傾向,⑧他者の死の影響,⑨事故傾性及び⑩児童虐待といったものがある。また,自殺直前のサインとして,①重要なつながりのあった人の直前の自殺,②自殺のほのめかし,③喪失体験,④日常生活における行動や性格の突然の変化,⑤身なりの突然の変化,⑥過度に危険な行為の実行,⑦別れの用意をすること及び⑧実際の自傷行為の実行などがある。 個々の事例においては,このような危険因子及び自殺直前のサインを含む具体的事情に基づいて判断することにより,自殺の予見可能性を相応の程度に判断することができるのであり,自殺を予見してこれを防止することがおよそ不可能であるということはない。 イaの自殺の予見可能性(ア)aは,本件鑑別所に入所中,複数回の自傷行為に及んだり,著しい心情不安定に陥ったりしていたため自殺自傷及び逃走についての要,,「注意者」に指定されていた。本件鑑別所は,本件少年院に対し,aの入- 4 -所中の動静を記録した少年簿などを送付していた。 ,,,(イ)本件少年院に入院したaを診断した医師はaを療養指示により自殺,自傷及び衝動行為についての「要注意者」に指定し,aへ投与する鎮静剤を増量した。 (ウ)さらに,aは 付していた。 ,,,(イ)本件少年院に入院したaを診断した医師はaを療養指示により自殺,自傷及び衝動行為についての「要注意者」に指定し,aへ投与する鎮静剤を増量した。 (ウ)さらに,aは,本件鑑別所において,抗精神病薬であるリスパダール及びセロクエルを服用していたが,本件少年院に入院中もこれらを服用していたところ,これらの薬は,自殺企図の既往及び自殺念慮を有する患者については,症状を悪化させるおそれがあるとされていた。 以上によれば,aには自殺の危険因子及び自殺直前のサインの存在が認められるから,自殺企図の危険性があったことは明らかであり,被告職員らは,aが,ベルトを用いて縊頸するなどの自殺行為を行うおそれがあることを,容易に予見することができた。 ウ注意義務違反の内容(ア)aに対しベルトを貸与しない義務被告職員らは,上記のとおり,aが自殺することを予見することができたところ,本件少年院は隔離された閉鎖施設であり,自殺手段の入手方法は,開かれた一般社会におけるそれと異なり,極めて限られていたのであるから,aが自己のベルトを用いて,縊頸の方法により自殺することは容易に予測可能であった。 そして,入院後のaには,症状の著しい改善による自殺のおそれの減退などはみられなかったのであるから,本件鑑別所においてなされていた物品制限の取扱いを変更することは許されなかったのであり,被告職員らは,本件鑑別所と同様に,aに対して,物品制限を行い,ベルトを貸与しない義務を負っていた。 aは,本件鑑別所においては,ベルトの使用制限に対して,特段の不満を示していなかったのであり,ベルトの使用制限がaの治療関係に悪- 5 -影響を及ぼした可能性は極めて乏しい。 (イ)aに対する監視を行う義務仮に,物品制限することなくaにベルトを貸与したことに を示していなかったのであり,ベルトの使用制限がaの治療関係に悪- 5 -影響を及ぼした可能性は極めて乏しい。 (イ)aに対する監視を行う義務仮に,物品制限することなくaにベルトを貸与したことに注意義務違反が認められないとしても,aがベルトを水道栓にかけて縊頸することは経験則上十分に予想されるところであったから,被告職員らは,aを監視カメラの設置された房か,ベルトを掛けて縊頸することのできない房に収容するとか,職員がaを対面監視するなど,aがベルトを用いて縊頸することのないよう監視するとともに,aが縊頸した場合にはこれを直ちに発見することができるよう監視すべき注意義務を負っていた。 しかし,aの居室として指定されたA棟5室は,ベルトを掛けて縊頸することが可能な水道蛇口が設置された居室であるにも関わらず,モニターによる監視を可能とする視察用カメラが設置されていなかった上,職員の定位置から近い場所でもなかった。したがって,本件少年院職員は,上記の監視を行う義務を怠ったことにより,aを死亡させたものである。 エ以上のとおりであるから,被告は,aに対し,ベルトを貸与しない注意義務を負っていたか,そうでないとしてもベルトを貸与した場合にはaに対する監視を行う義務を負っていたにもかかわらずこれを怠ったものであり,この過失によりaを死亡させたことにつき,国家賠償法1条1項に基づく責任を負う。 (被告の主張)争う。 ア自殺防止に関する一般論自殺を予測してこれを防止する適切な方法は現在のところは存在せず,医師ないしは臨床家は,適切な問診によって,患者に自殺リスクがあるかどうかを把握しておくこと及び自殺企図の徴候が見られたときには素早く- 6 -防止措置を執る準備をしておくことができるにすぎない。 イaの自殺の予見可能性(ア)自殺防止措 に自殺リスクがあるかどうかを把握しておくこと及び自殺企図の徴候が見られたときには素早く- 6 -防止措置を執る準備をしておくことができるにすぎない。 イaの自殺の予見可能性(ア)自殺防止措置の前提となる自殺企図の予見可能性が認められるためには,単に希死念慮を有していたとか,自殺行動を起こしたというだけでは足りず,過去の自殺企図の後にどのような状態の経過があったのかを子細に検討した上で自殺企図の差し迫った危険が認められる必要がある。 (イ)原告が挙げるaの各行為は,自殺企図と断定するに足りるものではなく,居室から出ることや,職員に話を聞いてもらったり,相手にしてもらったりすることを求めるためのアピール行為であると評価する方が,本件鑑別所におけるaの性格についての分析結果にも沿うものであり,自然かつ合理的である。 (ウ)aは,本件少年院に入院後は,自殺企図を伺わせる具体的行動を行っておらず,その言動に厭世観又は希死念慮をうかがわせるものは全くなく,精神疾患による異常行動も認められなかった。むしろ,aは,自己の少年審判に対する不満から抗告を申し立てるとともに,更生の意欲を示したり,自ら申し立てていたパニックに対する治療を申し出たりするなど,将来に対する前向きな姿勢をうかがわせる態度を示していた。 (エ)収容されている少年に特異な行動が見られた場合に物品制限を行うか否かの判断は,当該少年が収容されている施設の人的物的体制とも関係する事柄であり,しかも,少年の状況は刻一刻と変化するものであることも踏まえれば,本件鑑別所においてベルトの使用制限を行っていたことが,aの精神状態が不安定で自殺企図の差し迫った危険が存在したことを直ちに示すものではなく,被告職員らのaの自殺についての予見可能性を根拠づけることにはならない。 (オ)した 制限を行っていたことが,aの精神状態が不安定で自殺企図の差し迫った危険が存在したことを直ちに示すものではなく,被告職員らのaの自殺についての予見可能性を根拠づけることにはならない。 (オ)したがって,aには自殺及び自傷行為の可能性が抽象的に認められ- 7 -ただけであり,自殺企図の差し迫った危険はなかった。 ウ注意義務違反がないことについて(ア)aに対しベルトを貸与しない義務への違反がなかったこと医療上の危機介入により,物品貸与制限のように強制的な制限を加えることは,在院者と職員ないし医師との間の信頼関係の喪失,被害感情の発生や増大,ストレス上昇を引き起こし,精神疾患の発病要因となり得るものであるから,かかる制限を行うのは,対象者に自殺企図の差し迫った危険が認められる場合に限られる。 前記のとおり,aには自殺企図の差し迫った危険が認められなかったのであるから,被告職員らには,医療上の措置として,aに対するベルトの貸与を制限する義務はなかった。 ,,,,さらにaは本件少年院に入院後問題行動を起こしていないから矯正目的の見地から物品制限を課す必要性も認められないし,自殺や自傷の切迫した危険が認められない状況下において,物品制限等の特別な処遇を行うことは,少年院の収容目的に照らし不適切であった。 (イ)aに対する監視を行う義務への違反がなかったことaの居室を,視察用カメラの設置されていないA棟5室に指定したのは,aの入院当時,A棟の視察用カメラの設置された居室に,自殺の危険性が高く,常時観察の必要性が高い他の少年を収容中であったことに加え,他の棟の視察用カメラの設置された居室は職員定位置から離れていることから,職員定位置に近く,視察頻度の高いA棟の居室の方が適切であると判断したためである。 そして,被告職員らは,aが希死 とに加え,他の棟の視察用カメラの設置された居室は職員定位置から離れていることから,職員定位置に近く,視察頻度の高いA棟の居室の方が適切であると判断したためである。 そして,被告職員らは,aが希死念慮を口にしていたため,頻繁にaの動静観察を行っていたのであるから,原告の主張するような義務違反があったということはできない。 ,,エ本件においては被告職員らは在院者の自殺を防ぐために十分に配慮し- 8 -適切な措置を講じていたのであるから,被告は国家賠償法1条1項に基づく責任を負うものではない。 ⑵損害(原告の主張)ア葬儀費用155万9180円イ死亡逸失利益4057万2243円基礎収入額を年224万4400円(平成17年賃金センサス,男性,中卒,18~19歳,労働可能年数を死亡時19歳~67歳の48年間)(ライプニッツ係数18.0771)とすると,死亡逸失利益は,224万4400円×18.0771で上記金額となる。 ウ死亡慰謝料2400万円エ原告固有の慰謝料200万円オ弁護士費用600万円カ合計7413万1423円(被告の主張)争う。 第3争点に対する判断 前記争いのない事実等,証拠(甲4,8,11,12,乙1,2,4,7,11,14,15,検証の結果)及び弁論の全趣旨によれば,本件について次の事実が認められる。 ア本件少年院入院前のaの状況(ア)aは,5月5日,覚せい剤取締法違反(所持)の被疑事実により徳島県警察丙警察署に逮捕され,同月25日,徳島家庭裁判所の観護措置決定により,本件鑑別所に入所した。本件鑑別所の医師は,5月25日のaの入所時に,それまで精神科医師がaに処方していたとおり,毎食後にリスパタール(抗精神病剤,ランドセン(抗てんかん剤,アキネトン(抗パ))- 9 - 入所した。本件鑑別所の医師は,5月25日のaの入所時に,それまで精神科医師がaに処方していたとおり,毎食後にリスパタール(抗精神病剤,ランドセン(抗てんかん剤,アキネトン(抗パ))- 9 -ーキンソン剤)及びデパケンR(抗てんかん剤,就眠前にロヒプノール)(睡眠導入剤,セロクエル(抗精神病剤)及びベゲタミンB(抗精神病)剤)を投与するという処方を継続指示した。 (イ)aは,本件鑑別所に収容中,同月30日にはズボンのベルトを首に巻きつけ,両手で引っ張っているところを職員に発見され,職員から制止されると,自らベルトを首から外したものの,職員に対し「この部屋から出たいです「もうだめです」と涙ながらに申し立て,その後職員の話し。」,。 かけで落ち着きを取り戻したものの「まだ,死にたいと思う気持ちはあ,る」と職員に話した。このため,本件鑑別所は,aに対し,居室の物品。 を制限することを告知し,ベルトの使用を制限した。 (ウ)aは,6月5日,6日,15日及び16日に,居室壁に前頭部を2,3回打ち付けるという行為を数回繰り返した。また,aは,同月9日,10日,12日,13日,14日及び17日には「てんかんの発作がでま,した「パニックになりそうです「どうしたらいいんですか」等と述。」。」。 べて不安を訴えたので,職員はこれに応じて処方薬を投与した。 (エ)aは,同月19日,徳島家庭裁判所における審判期日において「鑑,別所に入っていたときに,ベルトで首を絞めたり,壁に頭を打ち付けたことは事実ですが,そういった行為をしたのは自分のやったことが馬鹿馬鹿しくて自分を責め立てるためです。どうして馬鹿なことをしたのだろうと考えると,パニック状態になったわけです」という趣旨の陳述をした。同,,,,,,裁判所は同日a やったことが馬鹿馬鹿しくて自分を責め立てるためです。どうして馬鹿なことをしたのだろうと考えると,パニック状態になったわけです」という趣旨の陳述をした。同,,,,,,裁判所は同日aに対し医療少年院送致を決定し同月20日aは本件少年院に送致された。 (オ)本件鑑別所は,同月19日,aの傷病名を「妄想性障害,情緒不安定性人格,アンフェタミン乱用及び精神科薬への依存」と記載した病状連絡票を作成し,また,aに対する処遇指針票を作成して本件少年院へ申し送った。 - 10 -なお,同処遇指針票の「その他の留意事項」の欄には「当所では,自,殺企図があったり著しい心情不安定に陥ったりしたので,自殺・自傷・逃走要注意者に指定していた。不安が強く,物事を悪い方へと考えるので,いったんつまずいたり不調や負担を感じたりすると,そればかりにこだわり,堂々巡りの状態に落ち込んで悲観的・自棄的気分に陥りやすく,同種行為に走る可能性が高い。綿密な行動観察と心情把握が必要である「精。」神科医より①妄想性障害,②情緒不安定性人格,③アンフェタミン乱用,精神科薬への依存と診断され,向精神薬を服用中である。身体的には著患はない」との記載があった。 。 イ本件少年院におけるaの状態,,,「」(ア)本件少年院は6月20日入院するaについて処遇上の留意点欄における「鑑別所では再三不安感を訴え,何度も職員を呼んでは質問を繰り返したり,ベルトを巻いて縊頸の素振りを見せたり,壁に自己の頭を打ちつけたりすることがあった」との記載を含む「新入生資料」を作成。 ,した。 (イ)法務技官のe医師は,同日,aを診察し,本件鑑別所の医療情報を参考にした上で,同月25日まで,毎食後内服薬として,リスパタール(抗),()()精神病剤ランド 作成。 ,した。 (イ)法務技官のe医師は,同日,aを診察し,本件鑑別所の医療情報を参考にした上で,同月25日まで,毎食後内服薬として,リスパタール(抗),()()精神病剤ランドセン抗てんかん剤及びデパケンR抗てんかん剤の,就寝前内服薬として,サイレース(睡眠導入剤)及びセロクエル(抗精神病剤)の,不穏時臨時薬として,ヒルナミン(抗精神病剤)及びピレチア(抗ヒスタミン剤,抗パーキンソン剤)の,また,不眠時臨時薬として,ベゲタミンB(抗精神病剤)の処方をそれぞれ指示した。 aは,e医師に対し,本件鑑別所では居室が狭いことに対する嫌悪感に,「,。」よりパニックになったと述べた上こういう施設にはいってせまいしなどと述べて,現在も希死念慮が強いことを伝えた。 (ウ)e医師は,aにつき,自殺,自傷及び衝動行為について要注意の療養- 11 -指示を出し,これに基づき,本件少年院は,aを,自殺,自傷及び衝動行為についての「要注意者(自殺,逃走等のおそれがありその身体保護等」のために処遇上十分な注意を払って動静観察を行う必要がある者又は自殺,逃走等のおそれがあるため一般の者よりその動静を厳重に観察する必要がある者)に指定したが,所持物品の制限は行わなかった。aには,本件少年院からベルトが貸与されたが,このベルトの全長は約122.5㎝であった。 (エ)aは,6月20日の考査生日記に「正直ちょっと罪が重たすぎるの,ではないかもと思っています」と記載し,抗告する意向をほのめかして。 。 ,「。」いたまた今書いている間もすごく不安定でパニックになっていますと記載していた。 (オ)同月21日,医務課長法務技官のf医師がaを診察した際,aは,本件鑑別所で初めてパニック症状があり,ひどくなると頭をガンガンぶつけ 間もすごく不安定でパニックになっていますと記載していた。 (オ)同月21日,医務課長法務技官のf医師がaを診察した際,aは,本件鑑別所で初めてパニック症状があり,ひどくなると頭をガンガンぶつけ,,,ていたが実はコンコンという程度であり大したことはしなかったこと自分としてはパニックの薬がほしいこと,一人の部屋でパニックになった時には誰かいて話してほしいこと,覚せい剤は,3年前からときどき使用し,合計300回程度使用したこと,最終の使用が平成19年5月4日であること,睡眠及び食欲は良好であること等を述べた。 f医師が,aに対し,自殺企図について確認したところ,aは「今は,大丈夫」と回答し,f医師はリスパダールの投与中止を指示したが,本件少年院は,aの自殺等についての「要注意者」への指定を解除することはなかった。 (カ)aは,6月21日,22日及び23日に,パニックで苦しいなどと訴え,臨時薬の投与を受けた。 (キ)同月25日午前,aは,e医師に対し,パニック症状が出そうなときもあるが,今のところ異常はなく,食欲及び睡眠については良好であり,- 12 -便通は普通であると述べ,希死念慮の存在についてはこれを否定した。e医師は,不穏時服用薬であるヒルナミン及びピレチアの1回あたりの服用量を,1錠から3錠に増加変更する指示をした。 同日午後0時25分ころ,aは,分類保護担当職員法教官gに対し,抗告申立書を提出した。 (ク)aは,同日午後1時46分ころ,居室内において,水道の蛇口にベルトを掛け,座り込むような姿勢で縊頸しているのを,職員によって発見され,同日午後8時53分,医療法人c会d病院において,死亡した。 1の認定事実を前提として,本件の各争点について判断する。 ( )争点1(被告職員らの過失の有無)について ア少年 って発見され,同日午後8時53分,医療法人c会d病院において,死亡した。 1の認定事実を前提として,本件の各争点について判断する。 ( )争点1(被告職員らの過失の有無)について ア少年院に収容中の少年の自殺を防止するために被告が負う責任について被告は,自殺を予測してこれを防止する適切な方法は現在のところは存在せず,医師ないしは臨床家は,適切な問診によって,患者に自殺リスクがあるかどうかを把握しておくこと及び自殺企図の徴候が見られたときには素早く防止措置を執る準備をしておくことができるにすぎないと主張し,証人hも,自殺を予防することはできないとして,被告の上記主張に沿う証言をし,同内容の意見書(乙16)を提出している。 確かに,自殺が自殺者本人の意思によって行われる以上,自殺の危険性が少しでも存在する者について,あらゆる方法による自殺の一般的可能性を予見し,これを完全に防止することは不可能であろう。したがって,あらゆる方法による自殺について予見し,これを防止すべき義務が被告職員らにあるものとはいえない。 しかし,具体的事情に基づき,収容中の少年が,ある方法で自殺することを具体的に予見することができる場合においては,これに対応してその方法による自殺を防止するために適切な措置を講じることは可能であるというべきであり,その場合には,被告職員らについてその防止義務の違反- 13 -が認められる余地があるというべきである。 そして,一般的に,被告は,保護処分として送致を受けた少年の矯正教育のため,少年の行動の自由を制限して少年院に収容しているのであるか,,,らその反面として少年の生命及び身体の安全を確保すべき義務を負いその一環として,収容中の少年が自殺を行うことを具体的に予見できた場合には,これを防止するために適切な措置を講じ のであるか,,,らその反面として少年の生命及び身体の安全を確保すべき義務を負いその一環として,収容中の少年が自殺を行うことを具体的に予見できた場合には,これを防止するために適切な措置を講じる義務を負っていると解される。 イ被告職員らの本件自殺に対する予見可能性の有無について(ア)aは,本件鑑別所に入所中,ズボンのベルトを首に巻き付けて両手で引っ張ったり,居室の壁に額を打ち付けたりといった,自らを傷つける行為を継続的に繰り返していたことが認められる。また,aは,ズボンのベルトを首に巻き付けるという行為に出た直後,同鑑別所の職員に対し,死にたいという気持ちがあると述べており,aのこれらの一連の行動は,希死念慮の現れであったと認めることができる。 さらに,a自身は,こうした自傷行為について,自分のやったことが馬鹿馬鹿しくて自分を責め立て,パニック状態になったことによるものだと述べていたところ,aは,前記のような自傷行為に及んだ時以外にも,度々パニック発作を訴えており,aの精神状態は極めて不安定であったことがうかがえる。そして,このことは,本件鑑別所の医師が,aを妄想性障害,情緒不安定性人格と診断したことによっても裏付けられている。 (イ)前記(ア)に記載した事実については,本件鑑別所が本件少年院に対して申し送りを行っており,これらの内容について記載した新入生資料を作成しているのであるから,被告職員らもこれらを認識していたと認められる。 また,本件少年院に入院後のaを診察したe医師も,aから希死念慮- 14 -の存在を直接聞かされ,aの精神状態が不安定であると判断して,aに対し,本件鑑別所への収容中と同様に,抗精神病剤や抗てんかん剤の投与を指示しており,このe医師の診察を前提に,本件少年院院長がaを自殺・自傷・衝動行為につ aの精神状態が不安定であると判断して,aに対し,本件鑑別所への収容中と同様に,抗精神病剤や抗てんかん剤の投与を指示しており,このe医師の診察を前提に,本件少年院院長がaを自殺・自傷・衝動行為につき「要注意者」に指定していたこと,本件少年院に入院後のaには,鑑別所におけるような具体的な自傷行為の存在は本件自殺以前には認められないものの,被告職員らに対してパニック,,,発作を訴えることが複数回あったこと本件自殺の当日にはe医師がaに対するヒルナミン及びピレチアの投与量を増加指示していることが認められる。 (ウ)そうすると,被告職員らは,aが本件少年院に入院する直前まで,不安定な状態の下で具体的な自傷行為に及んでいたことと,aは本件少年院への入院時にも不安定な精神状態にあり,それが本件自殺当時まで継続していたこととを認識していたのであるから,aがズボンのベルトを首に巻きつけ,両手で引っ張るという行動で自傷行為に及んだ5月30日から1か月も経過していなかった本件自殺の時点において,aが,死亡に至りかねない具体的な自傷行為に出ることを予見することが可能であったというべきである。 (エ)なお,被告は,aが本件鑑別所でズボンのベルトを首に巻き付けて両手で引っ張るという行為に及んだ際に,職員が声を掛けるとaがすぐにベルトを外したこと,aが額を壁に打ち付けた際には,消毒液と絆創膏で処置を行える程度の負傷しか負っていなかったこと,aの自傷行為に関し,aの母親である原告が薬が欲しいためのパフォーマンスであると受け止めていたこと,本件少年院入院直後にaがe医師などに見せた表情や言動が穏やかであったこと,aがf医師に対し,壁に額を打ち付けたことについて「実はコンコンという程度であり,大したことはしなかった」と述べていたこと,自己の少年審判に対す がe医師などに見せた表情や言動が穏やかであったこと,aがf医師に対し,壁に額を打ち付けたことについて「実はコンコンという程度であり,大したことはしなかった」と述べていたこと,自己の少年審判に対する不満から抗告を。 - 15 -,,申し立てていたことなどからするとaの希死念慮は強いものではなく本件鑑別所におけるaの自傷行為は,居室から出ることや,職員に話を聞いてもらったり,相手にしてもらったりすることを求めるためのアピール行為であると評価するのが合理的であり,したがって本件自殺についての予見可能性はなかったと主張している。 しかし,a本人からの聞き取りについては,当時のaの精神状況からすれば,これを鵜呑みにすべきではないことは当然である。また,原告は,aの母親であるとはいえ,精神医学の知見に基づいて客観的にaの精神状況を分析したわけではなく,aの本件鑑別所における自傷行為の態様を実際に目撃したわけでもないのであるから,原告の認識からaの行為がパフォーマンスであったと認めることができないのは当然であり,被告職員らがこれを重視すべきであるとはいえない。 一方において,本件鑑別所の医師は,aを妄想性障害,情緒不安定性人格であると診断していたところ,そのようなaが,現にパニック発作を訴え,額を壁に打ち付けるといった行動を繰り返していたのであるから,aが直ちにベルトを外したことや,その傷の程度が比較的軽微であったことをもって,aの行為を被告の主張するように評価することは相当ではない。 また,本件少年院入院後のaの表情や言動が穏やかであったということについても,aが入院初日にe医師に対し,希死念慮の強さを訴え,その後,6月21日,22日,23日と立て続けに,パニック発作を申,,,し出ていた状況に照らせば被告職員らは本件鑑別所の見解と とについても,aが入院初日にe医師に対し,希死念慮の強さを訴え,その後,6月21日,22日,23日と立て続けに,パニック発作を申,,,し出ていた状況に照らせば被告職員らは本件鑑別所の見解と同様にその当時,aは著しい心情不安定の状態にあり,死亡に至りかねない自傷行為に及ぶ可能性があると考えるべきであったと思われるし,抗告を申し立てていたことをもって,将来に向けて更生する意欲が旺盛であって,自傷行為に及ぶ可能性はないと考えることも相当ではない。 - 16 -(オ)よって,被告職員らには,本件自殺に対する予見可能性があったことが認められる。 ウ被告職員らの注意義務違反の有無について(ア)本件においては,前記イの通り,被告職員らに,本件自殺に対する予見可能性があったことが認められる。 (イ)これに加えて,被告職員らは,aが,本件鑑別所において,ベルトを用いて自傷行為に及んでいたこと及びaに貸与したベルトが,縊頸の方法による自殺に用いることのできる形状をしていることを認識していたものと考えられるから,aにベルトの使用を継続させておくことが,これを用いた自殺を惹起することを認識できたものと認められる。したがって,被告職員らには,ベルトを用いた縊頸である本件自殺に対する具体的な予見可能性があったものと認められる。 一方で,被告職員らは,容易にベルトの使用を制限することができたのであるから,結局,被告職員らは,本件自殺を防止するために,aのベルトの使用を制限する義務を負っていたものというべきである。 (ウ)この点に関し,被告は,物品貸与制限のように強制的な制限を行うことは,精神疾患の発病要因となり得ることなどから,このような制限を行うのは,対象者に差し迫った自殺の危険性が認められる場合に限ると主張している。 しかし,本件少年院職員 のように強制的な制限を行うことは,精神疾患の発病要因となり得ることなどから,このような制限を行うのは,対象者に差し迫った自殺の危険性が認められる場合に限ると主張している。 しかし,本件少年院職員らが行うべきであった処置は,aの身体を拘束するといった重大な権利侵害を伴うものではなく,aに対してベルトの使用を禁止するというものにすぎないのであって,これによりaが被る権利侵害の程度は比較的軽微であるというべきである。 また,本件鑑別所においては,aに対するベルトの使用制限がなされていたが,この物品制限がaに何らかの悪影響をもたらしたという事実は認められず,このことは同鑑別所から申し送りを受けていた被告職員- 17 -らも認識していたものとみることができる。 そうすると,被告職員らは,aに差し迫った自殺の危険性が認められなかったことを理由として,ベルトの使用を制限する義務を免れることはできないというべきである。 ,,,,(エ)なお被告はそもそも自殺の危険が認められる場合であっても特定の物品を使用した自殺方法に執着があったり,その自殺方法を実行に移す計画が立てられているなどの事情が認められない限り,当該物品の制限のみを実施することに意味はないと主張する。 しかし,aに対して,ベルトの使用制限を実施していた場合,およそ防止措置を講じることが困難な他の手段によってaが自殺を遂げたと認め得ることを示す証拠は存在しないし,aが一度は本件鑑別所において実際にベルトを用いた自傷行為に出ている以上,本件自殺は前記(ア)のとおり予見可能な範囲内の方法によるものであったということができるから,被告の主張は理由がない。 (オ)よって,被告職員らは,aに対しベルトを貸与しない義務を負っていたにもかかわらず,aに対し,ベルトの使用を制限することを怠った ものであったということができるから,被告の主張は理由がない。 (オ)よって,被告職員らは,aに対しベルトを貸与しない義務を負っていたにもかかわらず,aに対し,ベルトの使用を制限することを怠ったと認められる。 エ以上のとおりであるから,被告職員らは,aがベルトを利用して自殺す,,ることについて具体的に予見することができたにもかかわらずaに対し,,ベルトの使用を禁止することを怠り漫然とベルトを貸与したものでありこの過失によりaは死亡したものということができる。 ( )争点( )(損害)について ア葬儀費用150万円上記金額をもって相当と認める。 イ死亡逸失利益3564万1639円基礎収入額を年439万5400円(本件自殺の前年である平成18年- 18 -の賃金センサス,中卒・男性・全年齢,労働可能年数を21歳~67歳)の46年間(対応するライプニッツ係数は18.0771-1.8594=16.2177,生活費控除率を50%とすると,死亡逸失利益は,)439万5400円×16.2177×50%で上記金額となる。 ウ死亡慰謝料1000万円エ原告固有の慰謝料300万円原告は,医療少年院において行われる治療に不安を抱きながらも,aの更生を心から願い,本件少年院に送致されるaを見送ったところ,送致後わずか5日でaを失うこととなったのであり,その精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は,上記金額とするのが相当である。 ア~エを合計すると,5014万1639円となる。 オ過失相殺-4262万0393円aは,自らの決意によって自殺行為に出て,その結果死亡したものであるから,損害賠償額の算定にあたっては,8割5分の過失相殺を行うのが相当である。 カ弁護士費用70万円上記認定の損害額,本件訴訟の進行等,諸般の事情 って自殺行為に出て,その結果死亡したものであるから,損害賠償額の算定にあたっては,8割5分の過失相殺を行うのが相当である。 カ弁護士費用70万円上記認定の損害額,本件訴訟の進行等,諸般の事情を考慮し,本件と相当因果関係を有する損害としての弁護士費用は上記金額と認めるのが相当である。 キ合計822万1246円第4 結論 よって,原告の請求は,822万1246円及びこれに対する損害発生の日である平成19年6月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却し,仮執行の宣言については,相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。 - 19 -京都地方裁判所第2民事部裁判長裁判官吉川愼一裁判官嶋諒髙裁判官上田卓哉は,転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官吉川愼一
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