平成15(う)69 受託収賄被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年7月11日 仙台高等裁判所 棄却 山形地方裁判所 平成14(わ)39
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判決文本文4,146 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 理由 第1 本件控訴の趣意は,弁護人長岡壽一作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから,これを引用するが,論旨は事実誤認の主張であり,第1に,被告人は,Aの正職員としての新規採用を,B,C及びDからの依頼とは関係なく,それ以前から決めていたから,請託及びその承諾がなく,第2に,被告人は,本件100万円を,Cからの政治献金と認識して受領したものであるから,賄賂の認識がなく,被告人は無罪であるという。 第2 そこで,記録を調査して検討する。 1 関係証拠によれば,被告人及び贈賄者とされるB,C,Dとの関係,本件犯行に至る経緯,本件犯行状況などについては,大要以下のとおりである。 被告人は,平成9年4月以来a村長であった者であり,Cは,きのこ栽培等の会社を経営するa村の有力者で,先の村長選挙において被告人の有力な支持者であった者,Dは,その実父が村議会議員であり,被告人と親戚関係にあったことから,被告人と個人的にも親しい者であった。ところで,a村で農機具の修理等をする鉄工業を営むBは,かねがね,a村の臨時職員として村のバスの運転手をしていた息子のAが,地位の安定した村の正職員として採用されることを願い,働き掛けなどをしていたものの,願いがかなわないでいたため,被告人の有力な支援者であり,以前から知り合いのCを通じて,村長であった被告人にAの正職員への採用を願おうと思い立ち,平成10年12月初めころ,Cに被告人への依頼の口利きを頼んだ。口利きを引き受けたCは,被告人と親しいDを通じてBの願いを被告人に依頼しようと考え,DにBの願いを被告人に依頼してくれるよう頼み,その頼みを引き受けたDは,同月中旬ころ,D宅の前で,被告人に対し,Cからの頼み事であるとして,A と親しいDを通じてBの願いを被告人に依頼しようと考え,DにBの願いを被告人に依頼してくれるよう頼み,その頼みを引き受けたDは,同月中旬ころ,D宅の前で,被告人に対し,Cからの頼み事であるとして,Aの正職員への採用を依頼した。平成11年3月下旬,被告人は,助役や総務課長との平成11年度の人事の最終協議の席で,村長の権限でAの新規正職員への採用を決めると告げ,それを受けて新規採用人事案が作成し直され,同年4月1日付けでAは正職員として採用された。その後,BとCは,A採用に対する被告人への謝礼について具体的に相談し,金額は100万円,時期についてはほとぼりのさめた盆前ころに行うと決め,同年7月下旬ころ,Bは,100万円の現金を用意して,Cに預け,一方,Cは,同年8月初め,Dに,A採用の謝礼として被告人に100万円を渡したいので,被告人の都合を聞いてくれるよう頼み,それを受けてDは,被告人にA採用の謝礼をしたいとして,会合の約束を取り付けた。そして,同年8月3日ころ,新庄市内の寿司屋にC,D及び被告人が集まり,その席上,Cが取り出した現金100万円を,Dにおいて,Cから村長に渡すように言われた,Bからの謝礼で100万円であると告げて,被告人に差し出し,被告人はそれを受け取った。 上記事実は,B,C,D及び被告人の捜査官に対する各供述によって認定できるが,これらの供述は,相互に一致し,その内容において自然で,その他の関係者の供述やBの貯金の引き下ろし状況,現金授受の場所の状況などの客観的証拠とも符合しており,その信用性は高いということができる。 2 そこで,検討すると,上記事実関係に見られるように,被告人は,平成10年12月中旬ころ,Dの口から,B,C,Dの頼みとして,Aを村の正職員に採用してほしいと依頼されたこと,被告人は,その依頼をかな そこで,検討すると,上記事実関係に見られるように,被告人は,平成10年12月中旬ころ,Dの口から,B,C,Dの頼みとして,Aを村の正職員に採用してほしいと依頼されたこと,被告人は,その依頼をかなえるべく,村長の権限により異例のAの正職員への採用を決めたこと,平成11年8月3日ころ,会食の場で,BからのAの件の礼であることが明らかにされて,C,Dによって被告人に現金100万円が渡されたこと,が認められるのであるから,B,C及びDから,Aを正職員に採用してほしいと請託され,その請託を実現して,それに対する謝礼であることを認識しつつ,本件100万円を受け取ったもので,請託を受けて賄賂を収受したことは優に認定できるといえる。 3 所論は,Aの採用については,Dから依頼を受ける以前である平成10年9月ないし10月ころ,既に被告人は内心決定していたとして,請託とそれに対する承諾が存在しないと主張する。 しかしながら,被告人がもし所論がいうように内心既に採用を決めていたというのなら,村の人事担当幹部らに伝えるなりしてよいと考えられるのに,Aの採用は,Dから依頼があった平成10年12月中旬後の次年度である平成11年度の人事の最終決定段階である平成11年3月下旬になり,助役や総務課長との最終協議の席上,被告人からAの採用が急に打ち出されたものであり,それ以前には被告人から採用の意思を表明するようなことはなかったこと,a村での正職員の採用においては,自動車運転手のような単純労務職員についても,採用試験に基づいて採用するとの方針が決められており,実際,同年4月1日付け採用においても,A以外の者は全員採用試験に基づいて採用決定がなされており,被告人の決定を知らされた助役や総務課長らは奇異に感じたことなどの事実が認められるのである。 上記の事実に照 年4月1日付け採用においても,A以外の者は全員採用試験に基づいて採用決定がなされており,被告人の決定を知らされた助役や総務課長らは奇異に感じたことなどの事実が認められるのである。 上記の事実に照らせば,被告人がAの採用を決定したのは,まさにBらの依頼を受け入れたからというべきであり,請託及びそれに対する承諾があったことは明白であって,所論は理由がない。 なお,弁護人は,被告人は,Dの依頼を賄賂性との関連を認識せず「一般的お願い」であると受け止めたにすぎないと主張する。その主張の意味は不明確であるが,Aの採用を依頼された時点で,それを承諾し,かつ,謝礼が支払われることの認識まで必要という前提で,そうした承諾や認識はなかったという趣旨であるならば,法律的には上記依頼された時点でそこまで必要とされるものではなく,事実としても,被告人自身,捜査段階においては,Dから依頼された時点において,いずれ謝礼が支払われるであろうことを予想し,犯罪に手を染めてしまうと思い,複雑な思いがしたなどと当時の心情を具体的に述べていて,その供述には信用性がある上,前記認定したように,Aの採用を決定したところで依頼を引き受けたことになり,かつ,少なくとも本件100万円を受領した時点においては,A採用に対する謝礼であることを確定的に認識していたと認められるのであるから,弁護人のこの主張も理由がない。 4 所論は,被告人は,本件100万円が政治献金であると言われ,そう認識したからこそ受領したものであるから,被告人には本件100万円について賄賂の認識がなかった,という。 (1) しかしながら,上記のとおり,B,C及びDが,本件100万円をA採用に対する謝礼の意図で被告人に渡そうとしたことは明白であり,実際の授受の際にも,A採用の礼をしたいということで,C,Dが被 (1) しかしながら,上記のとおり,B,C及びDが,本件100万円をA採用に対する謝礼の意図で被告人に渡そうとしたことは明白であり,実際の授受の際にも,A採用の礼をしたいということで,C,Dが被告人に会う場が設定され,その席上,謝礼であると告げられて本件100万円が被告人に渡されていることが認められるのである。 これに対して,被告人は,Dは最初,Bからの礼だと言うので,いったんは受領を断ったところ,一転してDは,Cからの政治献金である旨言ったので,受け取ったというのであるが,本件100万円の授受の際の状況に関するDの供述に反している上,A採用の礼をしたいと言われて,村外の人目を避けるような場所での会席で,しかもわざわざCが中座している間に差し出され,その際Bからの礼だと言っていたのに,今度は一転してCからの政治献金であると言ったというのは,余りに唐突であり,Cから政治献金の話も出ておらず,その本人もいなかったとなれば,なおさら不自然というべきで,被告人の供述は到底信用できない。 (2) また,所論は,被告人の供述によれば,本件100万円はそのまま自宅金庫の中に入れており,平成13年3月と4月に自己の政治資金団体に入金したというのであるから,被告人が本件100万円を政治献金であると認識していたことを裏付ける,という。 しかしながら,被告人の妻の供述など関係証拠によれば,被告人は,平成11年の盆の前ころ,妻から自宅改修についての支払の一部に充てる金員を求められ,その翌朝には現金100万円を妻に手渡した事実が認められ,その時期や状況に照らせば,本件100万円がこれに充てられたと推認される。被告人の上記供述は,1年半以上の長い期間,100万円の現金を手付かずで自宅金庫内に保管していたなどとするもので,不自然であり,政治団体へ に照らせば,本件100万円がこれに充てられたと推認される。被告人の上記供述は,1年半以上の長い期間,100万円の現金を手付かずで自宅金庫内に保管していたなどとするもので,不自然であり,政治団体への入金に充てられた金員が本件100万円であるとの何らの裏付けもないから,信用しがたい。 5 弁護人のその他の主張も,上記結論に疑いを差し挟ませるものではない。以上によれば,原判決に事実の誤認はなく,論旨は理由がない。 第3 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所第1刑事部裁判長裁判官松浦繁裁判官根本渉裁判官髙木順子

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